(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記インナージャケットは、前記アウタージャケットよりも前記操舵部材側に位置し、前記コラムジャケットの伸縮のために前記軸方向に移動可能であることを特徴とする、請求項1記載のステアリング装置。
前記先端部は、前記インナージャケットにおける前記挿通穴の周縁部に係合可能な係合部を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のステアリング装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のステアリング装置では、二次衝突時に、車両前方へ向けて作用する衝撃荷重が支持ピンに作用し、支持ピンが剪断して支持溝から外れる。この際、ストッパー部材が回転し、当接部は、アッパーコラムの開口部から外れる。そのため、二次衝突後にアッパーコラムを引き抜こうとすると、アッパーコラムにおける開口部の端縁が当接部に当接しないので、アッパーコラムがロアーコラムから外れてしまう。
【0006】
この発明は、かかる背景のもとでなされたものであり、相対移動可能なインナージャケットおよびアウタージャケットを含む構成において、車両衝突後にインナージャケットおよびアウタージャケットの一方が他方から外れてしまうことを防止できるステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、一端(3A)に操舵部材(8)が連結され、軸方向(X)に伸縮可能なステアリングシャフト(3)と、前記軸方向に延びる挿通穴(42)が外表面(17C)に形成され、前記ステアリングシャフトを支持するインナージャケット(17)と、前記インナージャケットを収容し、前記ステアリングシャフトを支持するアウタージャケット(18)とを有し、前記インナージャケットと前記アウタージャケットとの前記軸方向への相対移動によって前記ステアリングシャフトとともに前記軸方向に伸縮可能なコラムジャケット(4)と、前記アウタージャケットに固定され、前記挿通穴に挿通される規制部材(40)であって、前記インナージャケットと前記アウタージャケットとの相対移動量を、前記規制部材が前記挿通穴内で前記軸方向に移動できる範囲(Q)内に規制し、剪断可能な規制部材と、前記インナージャケットの前記外表面において前記挿通穴に対して前記軸方向に外れた位置に配置される先端部(41A)を有し、前記アウタージャケットに固定された弾性部材(41)とを含み、車両衝突時に、前記インナージャケットと前記アウタージャケットとの相対移動に伴って前記インナージャケットにおける前記挿通穴の周縁部(17D)によって前記規制部材が剪断されると、前記弾性部材の弾性変形によって前記先端部が前記挿通穴に嵌まることを特徴とする、ステアリング装置(1)である。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記インナージャケットは、前記アウタージャケットよりも前記操舵部材側(X1)に位置し、前記コラムジャケットの伸縮のために前記軸方向に移動可能であることを特徴とする、請求項1記載のステアリング装置である。
請求項3記載の発明は、前記弾性部材は、前記アウタージャケットの外側から前記規制部材に対向する対向部(41B)を有することを特徴とする、請求項1または2記載のステアリング装置である。
【0009】
請求項4記載の発明は、前記先端部は、前記インナージャケットにおける前記挿通穴の周縁部に係合可能な係合部(41E)を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のステアリング装置である。
なお、上記において、括弧内の数字等は、後述する実施形態における対応構成要素の参照符号を表すものであるが、これらの参照符号により特許請求の範囲を限定する趣旨ではない。
【発明の効果】
【0010】
請求項1記載の発明によれば、ステアリング装置では、ステアリングシャフトとともに軸方向に伸縮可能なコラムジャケットが、ステアリングシャフトを支持するインナージャケットおよびアウタージャケットを有する。インナージャケットの外表面には、軸方向に延びる挿通穴が形成されている。アウタージャケットは、インナージャケットを収容している。インナージャケットとアウタージャケットとの軸方向への相対移動によって、コラムジャケットが伸縮する。
【0011】
アウタージャケットに固定された剪断可能な規制部材が、挿通穴に挿通されている。この状態の規制部材は、インナージャケットとアウタージャケットとの相対移動量を、規制部材が挿通穴内で軸方向に移動できる範囲内に規制する。このため、この範囲内でコラムジャケットを伸縮させることができる。
アウタージャケットに固定された弾性部材の先端部が、インナージャケットの外表面において挿通穴に対して軸方向に外れた位置に配置される。この状態の弾性部材は、先端部が挿通穴に嵌まり込んでいないので、インナージャケットとアウタージャケットとの相対移動、つまり、コラムジャケットの伸縮を阻害しない。
【0012】
一方、車両衝突時に、インナージャケットとアウタージャケットとの相対移動に伴ってインナージャケットにおける挿通穴の周縁部によって規制部材が剪断されると、弾性部材の弾性変形によって先端部が挿通穴に嵌まる。これにより、インナージャケットとアウタージャケットとは、弾性部材を介して互いに連結された状態になる。そのため、車両衝突後にインナージャケットおよびアウタージャケットの一方が他方から外れてしまうことを防止できる。
【0013】
請求項2記載の発明によれば、インナージャケットがアウタージャケットよりも操舵部材側に位置して軸方向に移動可能な構成のステアリング装置では、車両衝突後にインナージャケットがアウタージャケットから外れてしまうことを防止できる。
請求項3記載の発明によれば、弾性部材の対向部がアウタージャケットの外側から規制部材に対向するので、規制部材がアウタージャケットの外側に脱落することを防止できる。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、弾性部材の先端部が挿通穴に嵌まった状態では、先端部の係合部が、インナージャケットにおける挿通穴の周縁部に係合するので、先端部が挿通穴から外れることを防止できる。これにより、インナージャケットとアウタージャケットとは、弾性部材を介して確実に連結された状態になる。そのため、車両衝突後にインナージャケットおよびアウタージャケットの一方が他方から外れてしまうことを確実に防止できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下では、本発明の実施形態を、添付図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るステアリング装置1の概略図である。
図1において、紙面左側が、ステアリング装置1が取り付けられる車体2の前側であり、紙面右側が車体2の後側であり、紙面上側が車体2の上側であり、紙面下側が車体2の下側である。
図1を参照して、ステアリング装置1は、ステアリングシャフト3と、コラムジャケット4と、ロアーブラケット5と、アッパーブラケット6と、ロック・解除機構7とを含んでいる。
【0017】
ステアリングシャフト3では、後端である一端3Aに操舵部材8が連結されている。ステアリングシャフト3において前端である他端3Bが、自在継手9、インターミディエイトシャフト10および自在継手11を順に介して、転舵機構12のピニオン軸13に連結されている。転舵機構12は、ラックアンドピニオン機構などで構成されている。転舵機構12は、ステアリングシャフト3の回転が伝達されたことに応じて、図示しないタイヤなどの転舵輪を転舵させる。
【0018】
ステアリングシャフト3は、車体2の前後方向に延びている。以下では、ステアリングシャフト3が延びる方向を軸方向Xとする。軸方向Xは、他端3Bが一端3Aよりも低くなるように水平方向に対して傾斜している。軸方向Xにおいて操舵部材8側である後側には、符号「X1」を付し、軸方向Xにおいて操舵部材8とは反対側である前側には、符号「X2」を付す。
【0019】
軸方向Xに対して直交する方向のうち、
図1において紙面と垂直な方向を左右方向Yといい、
図1において略上下に延びる方向を上下方向Zという。左右方向Yにおいて、
図1の紙面の奥側は、右側Y1であり、紙面の手前側は、左側Y2である。上下方向Zにおいて、上側には、符号「Z1」を付し、下側には、符号「Z2」を付す。
なお、
図1以降の各図において
図1の軸方向X、後側X1、前側X2、左右方向Y、右側Y1、左側Y2、上下方向Z、上側Z1および下側Z2に対応する方向には、
図1と同じ符号を付している。
【0020】
ステアリングシャフト3は、軸方向Xに細長い円柱状のアッパーシャフト15と、少なくとも後端部が円筒状になったロアーシャフト16とを有している。アッパーシャフト15は、ロアーシャフト16よりも後側X1においてロアーシャフト16と同軸状に配置されている。アッパーシャフト15の後端15Aが、ステアリングシャフト3の一端3Aである。ロアーシャフト16の前端16Aが、ステアリングシャフト3の他端3Bである。アッパーシャフト15の前端部15Bが、ロアーシャフト16において円筒状になった後端16Bに対して後側X1から挿入されている。アッパーシャフト15とロアーシャフト16とは、スプライン嵌合やセレーション嵌合によって嵌合されている。そのため、アッパーシャフト15とロアーシャフト16とは、一体回転可能であるとともに、軸方向Xに沿って相対移動可能である。ロアーシャフト16に対するアッパーシャフト15の軸方向Xへの移動によって、ステアリングシャフト3は、軸方向Xに伸縮可能である。
【0021】
コラムジャケット4は、全体として、軸方向Xへ延びる中空体である。コラムジャケット4は、ステアリングシャフト3を収容している。コラムジャケット4は、軸方向Xに延びる円筒状のインナージャケット17およびアウタージャケット18を有している。
インナージャケット17は、アウタージャケット18よりも後側X1に位置し、アウタージャケット18と同軸状に配置されている。アウタージャケット18は、インナージャケット17の一部を収容している。詳しくは、インナージャケット17の前端部17Aがアウタージャケット18の後端部18Aに対して後側X1から挿入されている。この状態で、インナージャケット17は、アウタージャケット18に対して軸方向Xへ相対移動できる。この相対移動によって、コラムジャケット4の全体は、軸方向Xに伸縮可能である。
【0022】
コラムジャケット4は、軸受19および軸受20によってステアリングシャフト3を回転自在に支持している。詳しくは、インナージャケット17の後端部17Bは、軸受19によってアッパーシャフト15に連結されている。インナージャケット17は、軸受19を介してアッパーシャフト15を回転自在に支持している。アウタージャケット18の前端部18Bは、軸受20によってロアーシャフト16に連結されている。アウタージャケット18は、軸受20を介してロアーシャフト16を回転自在に支持している。
【0023】
軸受19によって互いに連結されたアッパーシャフト15およびインナージャケット17は、軸受20によって互いに連結されたロアーシャフト16およびアウタージャケット18に対して、軸方向Xに移動可能である。これにより、コラムジャケット4は、ステアリングシャフト3とともに軸方向Xに伸縮可能である。
ここでのステアリングシャフト3およびコラムジャケット4の伸縮を「テレスコ」と呼び、この伸縮調整、つまり、テレスコによる操舵部材8の軸方向Xでの位置調整をテレスコ調整と呼ぶ。
【0024】
ロアーブラケット5は、アウタージャケット18の前端部18Bを支持し、ステアリング装置1を車体2に連結している。ロアーブラケット5は、アウタージャケット18に固定された左右一対の可動ブラケット5Aと、車体2に固定された固定ブラケット5Bと、左右方向Yに延びる中心軸5Cとを含んでいる。可動ブラケット5Aは、固定ブラケット5Bによって、中心軸5Cを介して回動可能に支持されている。そのため、コラムジャケット4全体は、ステアリングシャフト3を伴って、中心軸5Cを中心に上下に回動することができる。ここでの回動を「チルト」と呼び、中心軸5Cを中心とした略上下方向をチルト方向と呼ぶ。また、チルトによる操舵部材8の向き調整をチルト調整と呼ぶ。
【0025】
アッパーブラケット6は、アウタージャケット18の後側X1の部分を支持し、ステアリング装置1を車体2に連結している。
図2は、
図1のA−A矢視断面図である。
図2を参照して、アッパーブラケット6は、下向きに開放する溝形であり、軸方向Xから見て上下が逆になった略U字状をなすように、コラムジャケット4を挟んで左右対称に形成されている。詳しくは、アッパーブラケット6は、左右方向Yに薄くコラムジャケット4を挟んで左右に対向する一対の側板21と、一対の側板21のそれぞれの上端部に連結されて上下方向Zに薄い連結板22とを一体的に備えている。
【0026】
一対の側板21において、左右方向Yから見て同じ位置には、チルト溝23が形成されている。チルト溝23は、上下方向Z、厳密には、前述したチルト方向に延びている。連結板22は、一対の側板21よりも左右方向Yにおいて両外側へ延びた部分22Aを有しており、当該部分22Aに挿通されるボルト(図示せず)などによって、アッパーブラケット6全体が車体2(
図1参照)に固定される。
【0027】
アウタージャケット18の後端部18Aには、軸方向Xに延びてアウタージャケット18の下端部を上下方向Zに貫通するスリット24が形成されている。また、アウタージャケット18の後端部18Aには、左右方向Yからスリット24を区画しつつ下側Z2に延びるブロック状に形成された一対の支持部25が一体的に設けられている。
一対の支持部25のそれぞれには、左右方向Yに支持部25を貫通する円形状の貫通穴26が形成されている。一対の支持部25の貫通穴26は、左右方向Yから見て、同じ位置にあり、アッパーブラケット6の一対の側板21のチルト溝23の一部と重なっている。
【0028】
ロック・解除機構7は、操舵部材8(
図1参照)のチルト調整およびテレスコ調整を可能にしたり、チルト調整やテレスコ調整が完了した操舵部材8の位置をロックしたりするための機構である。
ロック・解除機構7は、回転軸27と、操作部材28と、リング状のカム29およびカムフォロワ30と、ナット31と、リング状の介在部材32、針状ころ軸受33およびスラストワッシャ34とを含む。
【0029】
回転軸27は、左右方向Yに延びる棒状であって、貫通穴26とチルト溝23とに挿通され、インナージャケット17よりも下側Z2において、アッパーブラケット6の一対の側板21によって支持されている。
操作部材28は、把持可能なレバーであって、回転軸27において左側Y2の側板21よりも左側Y2に位置した左端部に取り付けられている。
【0030】
回転軸27の左端部において操作部材28と左側Y2の側板21との間の部分は、カム29およびカムフォロワ30に対して左側Y2からこの順に挿通されている。カム29は、回転軸27に対して一体回転可能であるのに対して、カムフォロワ30は、回転軸27に対して相対回転可能かつ左右方向Yに移動可能である。
回転軸27において右側Y1の側板21よりも右側Y1に位置した右端部には、ナット31が取り付けられている。回転軸27においてナット31と右側Y1の側板21との間の部分は、介在部材32、針状ころ軸受33およびスラストワッシャ34に対して左側Y2からこの順に挿通されている。
【0031】
回転軸27は、アッパーブラケット6の各チルト溝23内で、前述したチルト方向に移動可能である。運転者等がチルト調整のために操舵部材8を上下方向Zに移動させると、回転軸27がチルト溝23内で移動可能な範囲内で、コラムジャケット4がチルトする。
運転者がテレスコ調整やチルト調整をした後に、操作部材28を回転軸27まわりに回動させると、カム29が回転し、カム29およびカムフォロワ30に形成されたカム突起35が互いに乗り上げる。これにより、カムフォロワ30は、回転軸27に沿って右側Y1に移動し、左側Y2の側板21に押し付けられる。これよって、一対の側板21は、カムフォロワ30と介在部材32との間で左右方向Yの両側から締め付けられ、各側板21と支持部25との間に摩擦力が生じる。この摩擦力によって、チルト方向におけるコラムジャケット4の位置がロックされ、操舵部材8は、チルト調整後の位置でロックされる。
【0032】
また、一対の支持部25が側板21によって挟持されることによって、一対の支持部25の間隔が狭まる。これにより、アウタージャケット18の内周部が狭くなって、アウタージャケット18は、アウタージャケット18内のインナージャケット17を外側から圧接する。その結果、インナージャケット17とアウタージャケット18との間に摩擦力が生じるので、軸方向Xにおけるインナージャケット17の位置がロックされ、操舵部材8がテレスコ調整後の位置でロックされる。
【0033】
このように、チルト方向および軸方向Xにおいて操舵部材8の位置が固定されているときのステアリング装置1の状態を「ロック状態」と呼ぶ。
ロック状態のステアリング装置1において、操作部材28を先ほどとは逆向きに回動させると、カム29がカムフォロワ30に対して回転して互いのカム突起35が外れるので、カムフォロワ30は、回転軸27に沿って左側Y2に移動する。すると、カムフォロワ30と介在部材32との間における一対の側板21に対する締め付けが解除される。そのため、前述した摩擦力が無くなるので、操舵部材8が軸方向Xおよびチルト方向に移動できるようになる。これにより、操舵部材8のテレスコ調整やチルト調整が再び可能となる。
【0034】
このように、チルト方向および軸方向Xにおいて操舵部材8の位置の固定が解除されているときのステアリング装置1の状態を「解除状態」と呼ぶ。
次に、ステアリング装置1に含まれる規制部材40および弾性部材41について説明する。
図2のB−B矢視断面図である
図3を参照して、規制部材40および弾性部材41に関連して、インナージャケット17における上側の外表面17Cの軸方向Xにおける途中の領域には、軸方向Xに延びる挿通穴42が形成されている。挿通穴42は、インナージャケット17の周上1箇所を貫通し、軸方向Xに長手の長穴である。インナージャケット17は、挿通穴42を長手方向両側および短手方向両側から縁取る周縁部17Dを有している。そのため、挿通穴42は、周縁部17Dによって長手方向両側から塞がれている。
【0035】
また、アウタージャケット18の後端部18A側の領域において、ステアリングシャフト3を中心とする周方向Sにおいて挿通穴42と同じ位置には、アウタージャケット18の周上1箇所を貫通する第1貫通穴43、ねじ穴44および第2貫通穴45が、後側X1からこの順番で形成されている。テレスコ調整の際、第1貫通穴43は、挿通穴42のいずれかの部分と、軸方向Xにおいて常に同じ位置にあり、上側Z1から挿通穴42を臨んでいる。一方、第2貫通穴45は、テレスコ調整の際、常に軸方向Xにおいて挿通穴42から前側X2へずれている。
【0036】
規制部材40は、樹脂等の剪断可能な材料で形成されたピンであり、円板形状のベース部40Aと、ベース部40Aよりも小径であってベース部40Aから同軸状で下側Z2に突出する円柱状の軸部40Bとを一体的に有する。ベース部40Aは、アウタージャケット18における第1貫通穴43の周縁部に上側Z1から引っ掛かり、軸部40Bは、第1貫通穴43に挿通されている。これにより、規制部材40は、アウタージャケット18に固定されている。軸部40Bの下端部は、第1貫通穴43から下側Z2にはみ出して、インナージャケット17の挿通穴42に挿通されている。
【0037】
そのため、テレスコ調整におけるインナージャケット17とアウタージャケット18との軸方向Xの相対移動量(いわゆるテレスコストローク)は、軸部40Bが挿通穴42内で軸方向Xに移動できる範囲Q内に規制される。このため、範囲Q内でコラムジャケット4を伸縮させることができる。
このようにテレスコストロークを規制するための長穴である挿通穴42をアウタージャケット18でなくインナージャケット17に形成しているので、アウタージャケット18の高剛性化を図ることができる。なお、挿通穴42が形成されたインナージャケット17は、アウタージャケット18に取り囲まれることで補強されているので、挿通穴42に起因するインナージャケット17の剛性低下は抑制されている。
【0038】
弾性部材41は、軸方向Xに長い帯状に形成されていて、その厚さ方向に弾性変形可能である。弾性部材41として、たとえば板ばねを用いることができる。弾性部材41において、前端部を先端部41Aと呼び、後端部を対向部41Bと呼ぶことにする。弾性部材41では、先端部41Aと対向部41Bとの間の領域に、貫通穴41Cが形成されている。
【0039】
弾性部材41は、アウタージャケット18に対して上側Z1から取り付けられている。ボルト等の締結部材46が、貫通穴41Cに挿通されて、アウタージャケット18のねじ穴44に対して組み付けられている。これにより、弾性部材41における貫通穴41Cの周縁部が、締結部材46の頭部46Aとアウタージャケット18との間に挟まれている。そのため、弾性部材41は、アウタージャケット18に固定されている。なお、締結部材46は、ボルトに限らず、リベットであってもよい。その場合、ねじ穴44には、ねじ溝が形成されておらず、締結部材46は、ねじ穴44に対して圧入される。
【0040】
弾性部材41において貫通穴41Cから先端部41Aまでの湾曲部41Dは、前側X2へ向かうにつれて一旦上側Z1へ湾曲し、その後、先端部41Aへ向けて下側Z2へ湾曲し、その途中でアウタージャケット18の第2貫通穴45に後側X1かつ上側Z1から挿通されている。先端部41Aは、インナージャケット17の外表面17Cにおいてインナージャケット17の挿通穴42に対して軸方向Xにおける前側X2に外れた位置に配置されていている。この状態の弾性部材41は、先端部41Aが挿通穴42に嵌まり込んでいないので、インナージャケット17とアウタージャケット18との相対移動、つまり、コラムジャケット4の伸縮を阻害しない。そして、この状態の弾性部材41の先端部41Aは、湾曲した湾曲部41Dに付勢されることによって、インナージャケット17に対して外側から弾性的に接触していて、詳しくは、インナージャケット17の外表面17Cを押圧している。
【0041】
弾性部材41の対向部41Bは、ステアリングシャフト3を中心とする径方向Rにおけるアウタージャケット18の外側から規制部材40のベース部40Aに対向していて、詳しくは、ベース部40Aに上側Z1から被さるように接触している。そのため、通常時だけでなく、車両衝突時においても、規制部材40がアウタージャケット18の外側に脱落することを防止できる。特に、締結部材46が弾性部材41において対向部41Bの近くの部分をアウタージャケット18に固定しているので、対向部41Bが安定した姿勢でベース部40Aに接触している。そのため、対向部41Bは、規制部材40を脱落しないように確実に位置決めできる。
【0042】
以上のように弾性部材41がアウタージャケット18に取り付けられた状態は、
図4に示す斜視図にも図示されている。弾性部材41の対向部41Bは、
図4に示すように、ベース部40Aを上側Z1から完全に覆うように湾曲部41Dよりも幅広に形成されてもよい。
次に、車両衝突時におけるステアリング装置1内での動きについて説明する。
図1を参照して、車両衝突時には、運転者が操舵部材8に後側X1から衝突するという、いわゆる二次衝突が発生する。
【0043】
ステアリング装置1の状態がロック状態であるとき、二次衝突による衝撃は、操舵部材8およびアッパーシャフト15を介してインナージャケット17に伝達される。これにより、インナージャケット17が、アウタージャケット18の内周面に摺擦しながら、操舵部材8およびアッパーシャフト15を伴って前側X2へ移動する。つまり、車両衝突時に、インナージャケット17とアウタージャケット18とが相対移動する。これによりコラムジャケット4が軸方向Xに収縮していく。
【0044】
コラムジャケット4の収縮に伴って、インナージャケット17の挿通穴42内における規制部材40の位置が後側X1にずれていく。これに応じて、インナージャケット17において挿通穴42の後端部を縁取る周縁部17Dが、規制部材40の軸部40Bに対して後側X1から接近する。
そして、インナージャケット17とアウタージャケット18との相対移動に伴って、先程の周縁部17Dが規制部材40の軸部40Bに対して後側X1から衝突すると、規制部材40は、たとえば軸部40Bにおいて周縁部17Dに衝突された1箇所を起点として、剪断される。
【0045】
規制部材40が剪断された後の状態が、
図5に示されている。なお、コラムジャケット4が最も短くなるようにテレスコ調整された状態では、周縁部17Dが既に規制部材40の軸部40Bに後側X1から接触しているので、この状態で車両衝突が発生すると、規制部材40が周縁部17Dによって直ちに剪断される。
剪断された規制部材40では、軸部40Bにおいて剪断箇所よりも下側Z2の部分は、挿通穴42を通ってインナージャケット17内に落下するが、ベース部40A側の残りの部分は、アウタージャケット18に固定された状態にある。
【0046】
規制部材40の剪断によって、インナージャケット17が前側X2へ離脱して、さらに前進する。このようにアウタージャケット18側の規制部材40をインナージャケット17側の挿通穴42に挿通するだけの簡素な構造によって、インナージャケット17を離脱させるのに必要な荷重(離脱荷重)を発生させることができる。
そして、挿通穴42は、前述したテレスコストロークぶんの長さしかない。そのため、離脱荷重発生後も規制部材40をガイドできるように挿通穴42をテレスコストローク以上に長くする構成に比べて、挿通穴42に起因するインナージャケット17の剛性低下を抑制できる。
【0047】
また、車両衝突の際、弾性部材41の対向部41Bが規制部材40をがたつかないように常に位置決めしているので、規制部材40を周縁部17Dによって確実に剪断できる。そして、規制部材40における剪断箇所は、前述したように1箇所だけであって、複数箇所ではない。これらの結果、規制部材40を1箇所で集中して剪断させることによって、安定した離脱荷重を発生させることができる。
【0048】
そして、インナージャケット17が前側X2へ移動すると、
図5に示すように挿通穴42の前端部がアウタージャケット18の第2貫通穴45と軸方向Xで一致する。すると、それまでインナージャケット17を押圧していた弾性部材41の先端部41Aがインナージャケット17の挿通穴42に接近するように、弾性部材41が弾性変形する。これにより、先端部41Aが挿通穴42に嵌まる。このとき、弾性部材41では、先端部41A側の湾曲部41Dが、後側X1かつ上側Z1から挿通穴42およびアウタージャケット18の第2貫通穴45に対して跨って挿通されている。これにより、インナージャケット17とアウタージャケット18とは、弾性部材41を介して互いに連結された状態になる。そのため、車両衝突後に操舵部材8を後側X1へ引っ張っても、先端部41Aがインナージャケット17に後側X1から引っ掛かるので、インナージャケット17がアウタージャケット18から外れて操舵部材8が引き抜けることを防止できる。
【0049】
弾性部材41の先端部41Aは、その先端に、鉤状の係合部41Eを有すると好ましい。係合部41Eは、インナージャケット17において挿通穴42よりも内側(ステアリングシャフト3側)にはみ出て、内側からインナージャケット17における挿通穴42の周縁部17Dに係合する。よって、先端部41Aが挿通穴42から外れることを防止できる。これにより、インナージャケット17とアウタージャケット18とは、弾性部材41を介して確実に連結された状態になる。そのため、車両衝突後にインナージャケット17がアウタージャケット18から外れてしまうことを確実に防止できる。
【0050】
なお、二次衝突後にインナージャケット17の移動が停止するまでにおけるアウタージャケット18に対するインナージャケット17の摺動と、規制部材40の剪断とによって、二次衝突による衝撃が吸収される。
この発明は、以上に説明した実施形態に限定されるものではなく、請求項記載の範囲内において種々の変更が可能である。
【0051】
たとえば、規制部材40および弾性部材41のそれぞれでは、前述した機能が発揮できる範囲内で寸法や材料の変更が可能である。特に、規制部材40の太さや材質等を変更することによって離脱荷重を調整できる。
また、弾性部材41をアウタージャケット18に固定する締結部材46は、前述した実施例では、規制部材40よりも前側X2に位置し、弾性部材41において先端部41Aと対向部41Bとの間の部分をアウタージャケット18に固定している。このような構成に限らず、締結部材46は、規制部材40よりも後側X1に位置していて、対向部41Bにおいて先端部41Aとは反対側の部分をアウタージャケット18に固定してもよい。
【0052】
また、インナージャケット17とアウタージャケット18との軸方向Xにおける位置は逆であってもよい。
図6に示す変形例に係るステアリング装置1では、インナージャケット17は、軸受20によってロアーシャフト16を支持している。一方、アウタージャケット18は、インナージャケット17よりも後側X1に位置していて、軸受19によってアッパーシャフト15を支持している。コラムジャケット4の伸縮のため、アウタージャケット18は、インナージャケット17に対して軸方向Xに移動可能である。アウタージャケット18を軸方向Xに移動させるために、アウタージャケット18の支持部25において回転軸27が挿通される貫通穴26(
図2参照)は、軸方向Xに長手である。
【0053】
前述した第1貫通穴43、ねじ穴44および第2貫通穴45は、アウタージャケット18の前端部18B側の領域において、前側X2からこの順番で形成されている。
弾性部材41は、前述した実施形態(
図1参照)とは前後が逆になった姿勢でアウタージャケット18に固定されている。そのため、変形例の場合、弾性部材41において、後端部が先端部41Aとなり、前端部が対向部41Bとなる。弾性部材41において貫通穴41Cから先端部41Aまでの湾曲部41Dは、後側X1へ向かうにつれて一旦上側Z1へ湾曲し、その後、先端部41Aへ向けて下側Z2へ湾曲し、その途中でアウタージャケット18の第2貫通穴45に前側X2かつ上側Z1から挿通されている。先端部41Aは、インナージャケット17の外表面17Cにおいてインナージャケット17の挿通穴42に対して軸方向Xにおける後側X1に外れた位置に配置されている。
【0054】
変形例のステアリング装置1では、以上に説明した以外の構成は、前述した実施形態(
図1参照)と同じである。
変形例のステアリング装置1の状態がロック状態であるとき、前述した二次衝突による衝撃は、操舵部材8およびアッパーシャフト15を介してアウタージャケット18に伝達される。これにより、アウタージャケット18が、インナージャケット17の外周面(外表面17C)に摺擦しながら、操舵部材8およびアッパーシャフト15を伴って前側X2へ移動する。これによりコラムジャケット4が軸方向Xに収縮していく。
【0055】
コラムジャケット4の収縮に伴って、インナージャケット17の挿通穴42内における規制部材40の位置が前側X2にずれていく。これに応じて、インナージャケット17において挿通穴42の前端部を縁取る周縁部17Dが、規制部材40の軸部40Bに対して相対的に前側X2から接近する。
そして、インナージャケット17とアウタージャケット18との相対移動に伴って、先程の周縁部17Dが規制部材40の軸部40Bに対して前側X2から衝突すると、規制部材40は、たとえば軸部40Bにおいて周縁部17Dに衝突された1箇所を起点として、剪断される。
【0056】
このとき、挿通穴42の後端部がアウタージャケット18の第2貫通穴45と軸方向Xで一致する。すると、それまでインナージャケット17を押圧していた弾性部材41の先端部41Aがインナージャケット17の挿通穴42に接近するように、弾性部材41が弾性変形する。これにより、先端部41Aが、
図6において破線で示すように挿通穴42に嵌まる。このとき、弾性部材41では、先端部41A側の湾曲部41Dが、前側X2かつ上側Z1から挿通穴42およびアウタージャケット18の第2貫通穴45に対して跨って挿通されている。これにより、インナージャケット17とアウタージャケット18とは、弾性部材41を介して互いに連結された状態になる。そのため、車両衝突後に操舵部材8を後側X1へ引っ張っても、先端部41Aがインナージャケット17に前側X2から引っ掛かるので、アウタージャケット18がインナージャケット17から外れて操舵部材8が引き抜けることを防止できる。弾性部材41の先端部41Aが挿通穴42の周縁部17Dに引っ掛かった状態を維持するために、先端部41Aの先端には、前述した鉤状の係合部41Eが設けられてもよい。
【0057】
また、前述した実施形態および変形例において、インナージャケット17に形成された挿通穴42は、貫通穴であったが、軸方向Xに延びる溝であって底面を有してもよい。
また、ステアリング装置1は、操舵部材8の操舵が補助されないマニュアルタイプのステアリング装置に限らず、電動モータによって操舵部材8の操舵が補助されるコラムアシストタイプの電動パワーステアリング装置でもよい。