(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ペットボトルリサイクル原料を含有し、全ポリエステル樹脂成分中において、エチレンテレフタレートを95モル%以上含有し、非晶質成分となりうるモノマー成分として、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,2−ジエチル1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、及びヘキサンジオールからなる群より選択されてなる1種以上を0モル%以上5モル%以下含有しているとともに、主収縮方向が幅方向である熱収縮性ポリエステル系フィルムであって、下記要件(1)〜(3)を満たすことを特徴とする熱収縮性ポリエステル系フィルム。
(1)90℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合における幅方向の温湯熱収縮率が15%以上45%以下であること
(2)90℃の温水中で10秒間に亘って処理した場合における幅方向と直交する長手方向の温湯熱収縮率が0%以上12%以下であること
(3)主収縮方向である幅方向の屈折率が1.575以上1.61以下であり、かつ主収縮方向と直交する方向である長手方向の屈折率が、1.62以上1.66以下である幅方向の屈折率よりも高いこと
主収縮方向と直交する方向である長手方向の引張破壊強さが100MPa以上240MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
90℃の温水中でフィルム幅方向に10%収縮させた後のフィルム長手方向の単位厚み当たりの直角引裂強度が100N/mm以上300N/mm以下である請求項1又は2に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルム。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス瓶やPETボトル等の保護と商品の表示を兼ねたラベル包装、キャップシール、集積包装等の用途に、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等からなる延伸フィルム(所謂、熱収縮性フィルム)が広範に使用されるようになってきている。そのような熱収縮性フィルムの内、ポリ塩化ビニル系フィルムは、耐熱性が低い上に、焼却時に塩化水素ガスを発生したり、ダイオキシンの原因となる等の問題がある。また、ポリスチレン系フィルムは、耐溶剤性に劣り、印刷の際に特殊な組成のインキを使用しなければならない上、高温で焼却する必要があり、焼却時に異臭を伴って多量の黒煙が発生するという問題がある。それゆえ、耐熱性が高く、焼却が容易であり、耐溶剤性に優れたポリエステル系の熱収縮性フィルムが、収縮ラベルとして広汎に利用されるようになってきており、PET容器の流通量の増大に伴って、使用量が増加している傾向にある。
【0003】
それゆえ、耐熱性が高く、焼却が容易であり、耐溶剤性に優れたポリエステル系フィルムが、収縮ラベルとして広汎に利用されるようになってきており、PET容器の流通量の増大に伴って、使用量が増加している傾向にある。
【0004】
また、通常の熱収縮性ポリエステル系フィルムとしては、幅方向に大きく収縮させるものが広く利用されている。そのように幅方向が主収縮方向である熱収縮性ポリエステル系フィルムは、幅方向への収縮特性を発現させるために幅方向に高倍率の延伸が施されているが、主収縮方向と直交する長手方向に関しては、低倍率の延伸が施されているだけであることが多く、延伸されていないものもある。そのように、長手方向に低倍率の延伸を施したのみのフィルムや、幅方向のみしか延伸されていないフィルムは、長手方向の機械的強度が劣るという欠点がある。
【0005】
また、環境面からペットボトルのリサイクル原料を使用するフィルムへの要望が高い。しかし、通常の熱収縮性ポリエステルフィルムは、熱収縮特性を付与するため、非晶質成分を多く含む原料を用いるので、リサイクル原料を混合する比率には限界があり、リサイクル原料を多く含む熱収縮性ポリエステル系フィルムを提供することができていなかった。
【0006】
例えば、横方向が主収縮方向となり、縦・横方向に機械的強度が高い熱収縮性ポリエステル系フィルムが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、全ポリエステル樹脂成分中において非晶質成分となりうる1種以上のモノマー成分を15モル%以上含有するものであり、リサイクル原料の添加率には自ずと上限ができてしまう。
【0007】
また、特許文献2の実施例1には 結晶性のPETの未延伸フィルムをチューブ延伸機で縦方向に2倍、横方向に0.95倍延伸して得られた熱収縮性フィルムが開示されている。この熱収縮性フィルムは、縦方向を主収縮方向とするフィルムであるが、横方向には延伸されておらず、横方向(非収縮方向)の機械的強度が低い事が推定される。また特許文献2の比較例2に記されているが、横方向に1.3倍延伸すると横方向の収縮率が高くなり、ボトルのラベル用途に使用される縦方向を主収縮方向とする熱収縮性フィルムとしては望ましくない。即ち、特許文献2に記載された発明から、縦方向を主収縮方向とし、横方向には小さな熱収縮率しか示さず、かつ横方向の機械的強度を高い熱収縮性フィルムを得ることは困難である。
【0008】
一方、実質的にポリエチレンテレフタレートのホモポリマーからなり、二軸延伸されてなる熱収縮性ポリエステル系フィルムの知られている(例えば、特許文献3参照)。同文献によれば、一軸延伸でもニ軸延伸でもよいと記載されており、一軸収縮性でも、双方向ニ軸収縮性でもよいことが記載されている。しかしながら、実際に開示されている技術は、ニ軸延伸されてなるニ軸収縮性を示すフィルムだけであり、二軸延伸されていながら一軸収縮性を示すフィルムは記載されていない。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを連続的に製造するための好ましい製造方法としては、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とし、全ポリエステル樹脂成分中において非晶質成分となりうるモノマー成分が0モル%以上5モル%以下含有されたポリエステル系未延伸フィルムを、速度差がある加熱されたロールを用いてTg+5℃以上Tg+40℃以下の温度で長手方向に4倍以上6倍以下の倍率で延伸し、その後にテンター内で幅方向の両端際をクリップによって把持した状態でTg+15℃以上Tg+50℃以下の温度で幅方向に1.5倍以上2.5倍以下の倍率で延伸した後、フィルム両端をクリップで把持した状態で、幅方向への延伸温度+5℃以下の温度で熱処理をすることを挙げることができる。
【0015】
本発明のフィルムは、エチレンテレフタレートを主たる構成成分とするものである。ここで主たる構成成分とは、フィルムを構成する全ポリマー構成成分のうち95モル%以上がエチレンテレフタレートであることを意味している。エチレンテレフタレートを主たる構成成分として用いることにより、優れた機械的強度と透明性を奏することができる。
【0016】
エチレンテレフタレートがフィルムを構成するポリマーの全構成成分であってもよく、このようなポリエチレンテレフタレート(以下、単にPETということがある)の重合法としては、テレフタル酸とエチレングリコール、および必要に応じて若干量の他のジカルボン酸成分およびジオール成分を直接反応させる直接重合法、およびテレフタル酸のジメチルエステル(必要に応じて他のジカルボン酸のメチルエステルを含む)とエチレングリコール(必要に応じて他のジオール成分を含む)とをエステル交換反応させるエステル交換法等の任意の製造方法が利用され得る。
【0017】
ポリエチレンテレフタレートの固有粘度は、0.45から0.70の範囲が好ましい。固有粘度が0.45よりも低いと、耐引き裂き性向上効果が低下し、0.70より大きいと濾圧上昇が大きくなり高精度濾過が困難となり、あまり好ましくない。
【0018】
また本発明は PETの中でもペットボトルリサイクル原料を用いることができる。(以下 単にリサイクル原料と記すことがある)。リサイクル原料は ペットボトルにする際の成形性を良くするために概ねPETを構成成分とするが、イソフタル酸がモノマー成分として少し含まれていることが一般的である。本発明においては、非晶質成分となりうるモノマー成分を多く含有するポリマー原料を多量に使用するものではないが、リサイクル原料にイソフタル酸が含まれていることがあるため、非晶性モノマーの含有量が0mol%以上5mol%以下の範囲で含まれていると表現している。
【0019】
非晶質成分となり得るモノマーとしては、代表例はイソフタル酸であるが、例えば、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、イソフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,2−ジエチル1,3−プロパンジオール、2−n−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,2−イソプロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジ−n−ブチル−1,3−プロパンジオール、ヘキサンジオールを挙げることもでき、前記含有量の範囲で含まれていても特に差し支えない。
【0020】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、90℃の温水中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、下式1により算出したフィルムの幅方向の熱収縮率(すなわち、90℃の温湯熱収縮率)が、15%以上45%以下であることが好ましい。
熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%)・・式1
【0021】
90℃におけるフィルム幅方向の温湯熱収縮率が15%未満であると、ラベルとして使用する場合に、収縮量が小さいために、熱収縮した後のラベルにシワやタルミが生じてしまうので好ましくない。一方、90℃における幅方向の温湯熱収縮率は高いことが様々な形状の容器に対応できて好ましいが、現在のところ45%程度が熱収縮率の上限である。なお、90℃における幅方向の温湯熱収縮率の下限値は20%であると好ましく、25%であるとより好ましく、30%であると特に好ましい。
【0022】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、90℃の温水中で無荷重状態で10秒間に亘って処理したときに、収縮前後の長さから、上式1により算出したフィルムの長手方向の温湯熱収縮率が、0%以上12%以下であることが好ましい。
【0023】
90℃における長手方向の温湯熱収縮率が12%を上回ると、ラベルとして用いた場合に熱収縮時に収縮に歪みが生じ易くなるので好ましくない。なお、90℃における長手方向の温湯熱収縮率の上限値は、11%以下であると好ましく、10%以下であるとより好ましく、9%以下であるとさらに好ましく、8%以下であると特に好ましく、最も好ましくは7%以下である。なお、原料であるポリエステル系樹脂の本質的な特性を考慮すると、90℃における長手方向の温湯熱収縮率の下限値は0%程度であると考えている。
【0024】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、主収縮方向である幅方向の屈折率は1.575以上であることが好ましい。また幅方向の屈折率は1.61以下であることが好ましい。また主収縮方向と直交する長手方向の屈折率は1.61以上であることが好ましく、更に好ましくは1.62以上1.66以下であり、かつ、長手方向の屈折率が幅方向の屈折率より高いことが好ましい。
【0025】
従来、熱収縮フィルムは主収縮方向の分子鎖の配向性が高いと収縮率も高くなるというのが一般的であった。しかし本発明の結晶性PETで製膜された熱収縮フィルムは、分子鎖を配向させると収縮率も高くなるが、更に分子鎖の配向性を高くすると熱収縮率が低下することが分かった。従って本発明においては、これまでの非晶性原料を用いた熱収縮フィルムとは異なり、収縮方向の分子鎖の配向性は低いことが望ましく、主収縮方向と直交する長手方向の分子鎖の配向性は高い方が望ましい。
【0026】
主収縮方向である幅方向の屈折率が1.575以上1.61以下であることが好ましい。幅方向の屈折率が1.575未満であると幅方向の収縮率が不足しやすく、また幅方向の機械的強度が低くなりやすいのであまり好ましくない。また幅方向の屈折率が1.61より高いと、幅方向の機械的強度は高いが、熱収縮率が低くなりやすいのであまり好ましくない。幅方向の屈折率は 1.58以上1.605以下が好ましく 更に好ましくは 1.585以上1.60以下である。
【0027】
主収縮方向と直交する長手方向の屈折率は1.62以上1.66以下であることが好ましい。屈折率が1.62未満であると収縮率が高くなりやすく、また長手方向の機械的強度が低くなりやすいのであまり好ましくない。また長手方向の屈折率が1.66より高いと 幅方向の機械的強度は高くなり、熱収縮率も低くなる点では好ましいものの、製膜時に破断等の操業性の点であまり好ましくない。長手方向の屈折率は 1.625以上1.655以下が好ましく 更に好ましくは 1.63以上1.65以下である。
【0028】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、長手方向の引張破壊強さが100MPa以上240MPa以下であることが好ましい。なお、引張破壊強さの測定方法は実施例で説明する。上記引張破壊強さが100MPaを下回ると、ラベルとしてボトル等に装着する際の“腰”(スティフネス)が弱くなるので好ましくなく、反対に、引張破壊強さが240MPaを上回ると、ラベルを引き裂く際の初期段階におけるカット性(引き裂き易さ)が不良となるので好ましくない。なお、引張破壊強さは、110MPa以上がより好ましく、120MPa以上がさらに好ましく、130MPa以上が特に好ましく、230MPa以下がより好ましく、220MPa以下がさらに好ましく、210MPa以下が特に好ましい。
【0029】
また本発明の熱収縮性ポリエステルフィルムは 90℃の温湯で10%収縮させた後に、以下の方法で単位厚み当りの幅方向の直角引裂強度を求めたときに、その幅方向の直角引裂き強度が100N/mm以上300N/mm以下であると好ましい。
【0030】
[直角引裂強度の測定方法]
90℃に調整された温湯中でフィルムを長手方向に10%収縮させた後に、JIS−K−7128に準じて所定の大きさの試験片としてサンプリングする。しかる後に、万能引張試験機で試験片の両端を掴み、引張速度200mm/分の条件にて引張試験を行い、フィルムが長手方向に完全に引き裂かれたときの最大荷重を測定した。この最大荷重をフィルムの厚みで除して、単位厚み当たりの直角引裂強度を算出した。
【0031】
90℃の温水中で長手方向に10%収縮させた後の直角引裂強度が100N/mm未満であると、ラベルとして使用した場合に運搬中の落下等の衝撃によって破れてしまう事態を生ずる恐れがあるので好ましくなく、反対に、直角引裂強度が300N/mmを上回ると、ラベルを引き裂く際の初期段階におけるカット性(引き裂き易さ)がよくないためあまり好ましくない。なお、直角引裂強度の下限値は、125N/mmであると好ましく、150N/mm以上であるとより好ましく、175N/mmであると特に好ましい。また、直角引裂強度の上限値は、275N/mmであると好ましく、250N/mmであるとより好ましく、225N/mmであると特に好ましい。
【0032】
加えて、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、式2より求めた長手方向と幅方向の厚み斑が、400mmの測定長さで1%以上15%以下であることが好ましい。厚み斑が15%を超える値であると、ラベル作成の際の印刷時に印刷斑が発生し易くなったり、熱収縮後の収縮斑が発生し易くなったりするのであまり好ましくない。なお、厚み斑は10%以下であるとより好ましく、8%以下であると更に好ましく、6%以下であれば特に好ましい。厚み斑は0%に近づくほど良いが、下限は1%であっても実用上構わない。
厚み斑=(最大厚み−最小厚み)÷ 平均厚み × 100 ・・式2
【0033】
本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムの厚みは、特に限定されるものではないが、ラベル用熱収縮性フィルムとして5〜100μmが好ましく、10〜95μmがより好ましい。
【0034】
また、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、その製造方法について何ら制限されるものではないが、例えば、上記したポリエステル原料を押出機により溶融押し出しして未延伸フィルムを形成し、その未延伸フィルムを以下に示す方法により、二軸延伸することによって得ることができる。
【0035】
原料樹脂を溶融押し出しする際には、ポリエステル原料をホッパードライヤー、パドルドライヤー等の乾燥機、または真空乾燥機を用いて乾燥するのが好ましい。そのようにポリエステル原料を乾燥させた後に、押出機を利用して、200〜300℃の温度で溶融しフィルム状に押し出す。かかる押し出しに際しては、Tダイ法、チューブラー法等、既存の任意の方法を採用することができる。
【0036】
そして、押し出し後のシート状の溶融樹脂を急冷することによって未延伸フィルムを得ることができる。なお、溶融樹脂を急冷する方法としては、溶融樹脂を口金より回転ドラム上にキャストして急冷固化することにより実質的に未配向の樹脂シートを得る方法を好適に採用することができる。
【0037】
さらに、得られた未延伸フィルムを、後述するように、所定の条件で長手方向に延伸した後に、所定の条件で幅方向に延伸し、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得ることが可能となる。以下、本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムを得るための好ましい二軸延伸について、従来の熱収縮性ポリエステル系フィルムの延伸方法との差異を考慮しつつ詳細に説明する。
【0038】
[熱収縮性ポリエステル系フィルムの好ましい延伸方法]
通常の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、収縮させたい方向に未延伸フィルムを延伸することによって製造される。従って非収縮方向に延伸することは実施されていなかった。
【0039】
また上述したように特許文献1には、長手方向と幅方向に機械的特性を向上させるために未延伸フィルムを所定の条件下で縦延伸−熱処理―横延伸の順に延伸する方法が示されている。しかし、この方法では非晶性モノマーが15mol%以上含まれており、リサイクル原料の添加に制限がある。また、特許文献1で示されているような幅方向への高い延伸倍率を施すと、本発明における非晶質成分を多く含まないPET原料を使用するフィルムでは幅方向の収縮率が減少し、長手方向の収縮率が増加するので好ましくない。
【0040】
また、上述したように、特許文献2には、非晶性モノマーを使用せずに長手方向に収縮するフィルムが開示されているが、幅方向に未延伸状態なので幅方向(非収縮方向)の引張り破壊強さが低く、かつ幅方向の直角引裂き強度が高く、現在のラベルとしての要求品質を満たさないと考えられる。
【0041】
[長手方向への延伸倍率]
本発明者らは、研究の結果 意図的に非晶PET原料を使用しないフィルムは 延伸倍率2倍前後が延伸方向の収縮率が高くなることが分かった。また延伸倍率を3倍より高くすると 延伸方向の収縮率は低下し、非延伸方向の収縮率が高くなることが分かった。この研究結果より、二軸に延伸して幅方向に収縮させるには 最初の縦延伸倍率をTg+5℃以上Tg+40℃以下の温度で、4倍以上6倍以下で延伸することが好ましい。4倍より低いと 幅方向の収縮率を低下させるには十分で無い。また縦延伸倍率の上限は 特に規定は無いが6倍より高いと、長手方向に延伸し難くなる(所謂 破断が生じやすくなる)ので好ましくない。より好ましくは4.2倍以上5.8倍以下であり、更に好ましくは 4.4倍以上5.6倍以下である。
【0042】
このように多量には非晶質成分を含有しないPET原料を使用するフィルムの延伸倍率と収縮率の関係は上記のようになるので 特許文献1で示されている長手方向延伸後幅方向延伸前の熱処理は実施してもしなくても、どちらでも構わない。
【0043】
[幅方向への延伸倍率]
幅方向へTg+15℃以上Tg+50℃以下の温度で、延伸倍率は1.5倍以上2.5倍以下が好ましい。1.5倍以下では収縮率が不足し、2.5倍を超えると長手方向の収縮率が高くなってくるので、幅方向への一軸収縮フィルムとして好ましくない。より好ましくは1.6倍以上2.4倍以下であり、更に好ましくは 1.7倍以上2.3倍以下である。
【0044】
また幅方向の延伸温度がTg+15℃未満であると、延伸時に破断が生じやすくなり、好ましくない。またTg+50℃より高いと、フィルムの熱結晶化が進んで収縮率が低下するので好ましくない。より好ましくはTg+17℃以上Tg+48℃以下であり、更に好ましくはTg+19℃以上Tg+46℃以下である。
【0045】
[熱処理]
フィルム両端をクリップで把持した状態で、幅方向への延伸温度以上、延伸温度+5℃以下の温度で熱処理をし、幅方向へ弛緩しないことが好ましい。熱処理温度が延伸温度未満であると、熱処理の意味が薄くなり、製品後に保管時の経時収縮(所謂自然収縮率)が高くなり好ましくない。またTg+5℃より高いと、分子鎖の熱結晶化が進んで、幅方向の収縮率が低下するのであまり好ましくない。より好ましくは幅方向への延伸+4℃以下であり、更に好ましくは幅方向への延伸+3℃以下である。
【0046】
また幅方向の弛緩を実施すると、幅方向の収縮率が減少するので好ましくない。
【0047】
上記のように、本発明における好ましい延伸方法としては、幅方向の延伸倍率の方が長手方向の延伸倍率より小さくすることが例示される。そして、延伸後のフィルムの分子鎖の配向性については、幅方向の方が長手方向より低いと考えられる。それを延伸後のフィルムの屈折率で表現すると、長手方向の屈折率の方が幅方向の屈折率より高い値になるものである。
【0048】
従来の多くの非晶質成分を多く含む熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいては、長手方向、幅方向で、高い延伸倍率を採用して屈折率が高くなっている方向が主収縮方向になる場合が多かったが、本発明は前記とは逆の挙動を示していることになる。これは、本発明においては非晶質成分となり得るモノマー成分を多くは含まない結晶性のPETの性質が関係しているものと考えられる。即ち、結晶性のPETについては、例えば幅方向に4倍以上といった高い延伸倍率で延伸されると、分子鎖が配向すると共に分子鎖の結晶化が進み、これが長手方向の熱収縮率を低くする要因として働いているものと推察される。この点、幅方向の2.5倍程度以下の延伸倍率は、幅方向にある程度分子鎖が配向しても、結晶化があまり進まない領域であるので、相対的に高い熱収縮率が得られるものと推定している。本発明においては、分子鎖の配向性と結晶化度の関係を簡単に表すことが困難であるので、それを長手方向及び幅方向の熱収縮率、屈折率とその大小関係により分子鎖の構造の代用メジャーとして表現しているものである。
【実施例】
【0049】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例の態様に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変更することが可能である。実施例、比較例で使用した原料の性状、組成、実施例、比較例におけるフィルムの製造条件(延伸・熱処理条件等)を、それぞれ表1、表2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
また、フィルムの評価方法は下記の通りである。
【0053】
[Tg(ガラス転移点)]
セイコー電子工業株式会社製の示差走査熱量計(型式:DSC220)を用いて、未延伸フィルム5mgを、−40℃から120℃まで、昇温速度10℃/分で昇温し、得られた吸熱曲線より求めた。吸熱曲線の変曲点の前後に接線を引き、その交点をTg(ガラス転移点)とした。
【0054】
[固有粘度 (IV)]
ポリエステル0.2gをフェノール/1,1,2,2−テトラクロルエタン(60/40(重量比))の混合溶媒50ml中に溶解し、30℃でオストワルド粘度計を用いて測定した。単位はdl/g。
【0055】
[熱収縮率(温湯熱収縮率)]
フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、90℃±0.5℃の温水中において、無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、上式1にしたがって、それぞれ熱収縮率を求めた。
【0056】
[長手方向、幅方向の屈折率]
アタゴ社製の「アッベ屈折計4T型」を用いて、各試料フィルムを23℃、65%RHの雰囲気中で2時間以上放置した後に測定した。
【0057】
[引張破壊強さ]
測定方向(フィルム長手方向)が140mm、測定方向と直交する方向(フィルム幅方向)が20mmの短冊状の試験片を作製した。万能引張試験機「DSS−100」(島津製作所製)を用いて、試験片の両端をチャックで各々20mmずつ把持(チャック間距離100mm)して、雰囲気温度23℃、引張速度200mm/minの条件にて引張試験を行い、引張破壊時の強度(応力)を引張破壊強さとした。
【0058】
[直角引裂強度]
90℃に調整された温湯中にてフィルムを主収縮方向に10%収縮させた後に、JIS−K−7128に準じて、
図1に示す形状にサンプリングすることによって試験片を作製した(なお、サンプリングにおいては、試験片の長手方向をフィルムの主収縮方向とした)。しかる後に、万能引張試験機((株)島津製作所製 オートグラフ)で試験片の両端を掴み、引張速度200mm/分の条件にて引張試験を行い、フィルムが長手方向に完全に引き裂かれたときの最大荷重を測定した。この最大荷重をフィルムの厚みで除して、単位厚み当たりの直角引裂強度を算出した。
【0059】
[厚み斑]
測定方向を450mm、測定方向と直交する方向を40mmにサンプリングし、ミクロン測定器株式会社製の連続接触式厚み計を用いて、5(m/分)の速度で測定し、400mmの長さの厚み斑を上式2から算出した。
【0060】
[収縮仕上り性(筒状体嵌め込み)]
熱収縮性フィルムに、予め東洋インキ製造(株)の草・金・白色のインキで3色印刷を施した。そして、印刷したフィルムの両端部を溶断シールで接着することにより、円筒状のラベル(熱収縮性フィルムの主収縮方向を周方向としており、外周長が装着するボトルの外周長の1.02倍である円筒状のラベル)を作成した。しかる後、その円筒状のラベルを、500mlのPETボトル(胴直径62mm、ネック部の最小直径25mm)に被せて、Fuji Astec Inc製スチームトンネル(型式;SH−1500−L)を用い、通過時間5秒、ゾーン温度90℃で熱収縮させることにより、ラベルを装着した。なお、装着の際には、ネック部においては、直径55mmの部分がラベルの一方の端になるように調整した。収縮後の仕上がり性の評価は目視で行い、基準は下記の通りとした。
◎:シワ,飛び上り、収縮不足の何れも未発生で、かつ色の斑も見られない
○:シワ,飛び上り、または収縮不足が確認できないが、色の斑が見られる
△:ネック部の収縮不足や収縮斑が見られる
×:全体的にシワ、飛び上り、収縮不足が発生
【0061】
[ミシン目開封性]
予めフィルムの主収縮方向とは直向する幅方向にミシン目を入れておいたラベルを、上記した収縮仕上り性の測定条件(筒状体嵌め込み)と同一の条件でPETボトルに装着した。ただし、ミシン目は、長さ1mmの孔を1mm間隔で入れることによって形成し、ラベルの縦方向(高さ方向)に幅22mm、長さ120mmに亘って2本設けた。その後、このボトルに水を500ml充填し、5℃に冷蔵し、冷蔵庫から取り出した直後のボトルのラベルのミシン目を指先で引裂き、縦方向にミシン目に沿って綺麗に裂け、ラベルをボトルから外すことができた本数を数え、全サンプル50本に対する割合(%)を算出した。不良率20%以下を合格とした。
【0062】
また、実施例および比較例に用いたポリエステルは以下の通りである。
【0063】
・ポリエステル1:ポリエチレンテレフタレート(IV 0.75dl/g)
・ポリエステル2:上記ポリエステル2の製造の際に、滑剤としてSiO
2(富士シリシア社製サイリシア266)をポリエステルに対して8,000ppmの割合で添加したポリエチレンテレフタレート(IV 0.75dl/g)、
・ポリエステル3:リサイクル原料 {よのペットボトルリサイクル(株)製 「クリアペレット」(IV 0.63dl/g、なお、このポリエステル3は、表1に記載のとおり、ポリエステルを構成する全ジカルボン酸成分に対してイソフタル酸を2mol%含んでいる)。
【0064】
[参考例1]
上記したポリエステル1とポリエステル2とを重量比93:7で混合して押出機に投入した。しかる後、その混合樹脂を280℃で溶融させてTダイから押出し、表面温度30℃に冷却された回転する金属ロールに巻き付けて急冷することにより、厚さが200μmの未延伸フィルムを得た。このときの未延伸フィルムの引取速度(金属ロールの回転速度)は、約10m/min.であった。また、未延伸フィルムのTgは75℃であった。しかる後、その未延伸フィルムを、複数のロール群を連続的に配置した縦延伸機へ導き、予熱ロール上でフィルム温度が85℃(Tg+10℃)になるまで予備加熱した後に、ロールの速度差を用いて5倍に延伸した。しかる後、縦延伸したフィルムを、表面温度25℃に設定された冷却ロールによって強制的に冷却した。
【0065】
そして縦延伸されたフィルムを横延伸機(以下テンターと記す)に導いた。そして、テンターに導かれた縦延伸フィルムを、フィルム温度が110℃(Tg+35℃)になるまで予備加熱した後、横方向に105℃(Tg+30℃)で2倍に延伸し、106℃で熱処理した(前記106℃の熱処理はしてもしなくても、最終製品の物性に極小さな影響しか及ぼさないしない)。
【0066】
テンター後に両縁部を裁断除去することによって、約20μmの二軸延伸フィルムを所定の長さに亘って連続的に製膜して熱収縮性ポリエステル系フィルムからなるフィルムロールを得た。そして、得られたフィルムの特性を上記した方法によって評価した。評価結果を表3に示す。長手方向の屈折率が幅方向より高く、ミシン目開封性等が良好なフィルムであった。
【0067】
[実施例2]
ポリエステル3とポリエステル2を重量比93:7で混合して押出機に投入した以外は、実施例1と同様の方法によって熱収縮性フィルムを連続的に製造した。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。実施例1と同等のフィルムであり、ミシン目開封性等が良好なフィルムであった。
【0068】
[実施例3]
ポリエステル3とポリエステル2を重量比93:7で混合して厚み150μmの未延伸フィルムを得た。横延伸倍率を1.5倍に変更した以外は 実施例1と同様の方法によって熱収縮性フィルムを連続的に製造した。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。幅方向の収縮率は少し減少したが、実施例1と同等のフィルムであり、ミシン目開封性等が良好なフィルムであった。
【0069】
[実施例4]
ポリエステル3とポリエステル2を重量比93:7で混合して厚み240μmの未延伸フィルムを得た。縦延伸での延伸倍率を6倍に変更した以外は 実施例1と同様の方法によって熱収縮性フィルムを連続的に製造した。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。長手方向の収縮率は少し減少し、直角引裂強度も低下しており、ミシン目開封性等が良好なフィルムであった。
【0070】
[参考例5]
厚み180μmの未延伸フィルムを得た。縦方向の延伸倍率を4.5倍へ変更した以外は実施例1と同様の方法によって熱収縮性フィルムを連続的に製造した。評価結果を表3に示す。実施例1と比較して長手方向の収縮率は少し高くなり、長手方向の直角引裂強度も増加してミシン目開封不良率も増加したが、使用上は問題無い良好なフィルムであった。
【0071】
[比較例1]
ポリエステル1とポリエステル2を重量比93:7で混合して厚み40μmの未延伸フィルムを得た。縦延伸しないで幅方向に実施例1と同様の方法で90℃で2倍延伸した。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。幅方向のみ熱収縮するフィルムであったが、長手方向の屈折率が低く、長手方向の破断強度が低く、ミシン目開封性が実施例1よる劣るフィルムであった。また幅方向の厚み斑も悪かった。
【0072】
[比較例2]
ポリエステル1とポリエステル2を重量比93:7で混合して厚み400μmの未延伸フィルムを得た。横延伸倍率を4倍に変更した以外は 実施例1と同様の方法によって熱収縮性フィルムを連続的に製造した。そして、得られたフィルムの特性を実施例1と同様の方法によって評価した。評価結果を表3に示す。長手方向の収縮率が高く、幅方向の収縮率は低下した。また屈折率は幅方向の方が高いフィルムとなった。また収縮仕上り性で劣るフィルムとなった。
【0073】
【表3】