【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「固体高分子形燃料電池実用化推進技術開発/基盤技術開発/低白金化技術」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
池畑雄太他,化学的酸化還元処理によるPt/Pd/C触媒の高活性化,第54回電池討論会 講演要旨集,2013年,p.531
【文献】
大川貴志他,新規UPD法で調製したPdコア/Ptシェル触媒の電気化学特性,第53回電池討論会 講演要旨集,2012年,p.390
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プロトンを含む酸性水溶液が硫酸水溶液であり、前記Pd/Cコアのパラジウムの酸化物生成開始電位よりも低い前記酸化還元電位を有する金属が銅である、請求項1に記載の製造方法。
前記工程(A)が、カーボン担体上に、含浸法によってパラジウムからなるコア粒子を生成及び担持させる工程である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の白金コアシェル触媒の製造方法。
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(PEFC)は、アノード側で水素の酸化反応を、カソード側で酸素の還元反応を起こすことにより、水のみを生成するクリーンエネルギーデバイスであって、カソード側の触媒として、白金(Pt)を使用するものが知られている。
【0003】
白金は触媒活性や電気伝導性が高いという利点がある一方で、資源量の少なさや価格が問題である。そのため、白金の利用効率や耐久性を向上させて、白金の使用量を低減するための検討が進められている。このような検討の一つとして、異種金属コア粒子の表面に白金を被覆してなる、白金コアシェル触媒が知られている。
【0004】
白金コアシェル触媒は一般的に、カーボン等の担体上にコア粒子を生成ないし担持させ、次いでコア粒子の表面に白金シェルを生成させることによって作製される。カーボン担体上にコア粒子を生成ないし担持させるための方法の一つとして、いわゆる逆ミセル法、すなわち、コア金属の金属塩と界面活性剤と有機溶媒とを含む逆ミセル溶液と、カーボン担体とを混合し、その混合物を焼成等で熱処理することによって、コア粒子を担持するカーボン担体を得る方法が知られている(例えば特許文献1)。
【0005】
逆ミセル法によれば、粒径制御が容易で粒度分布の狭いコア粒子が得られる反面、コア粒子表面から有機保護基を除去する工程が必須であり、また、有機溶媒の廃液処理工程やそのための設備も必要となるため、実用的観点からは必ずしも十分とはいえなかった。
【0006】
コア粒子の形成方法として、いわゆる含浸法も一般的である。含浸法では、コア金属の金属塩を含む水溶液に担体物質を分散あるいは浸漬し、水分を除去して金属塩の結晶を担体物質上に分散担持させる。次いで金属塩結晶を担持した担体を加熱還元することによって金属コア粒子を得るものである。含浸法は反応系が水系であり、汎用的な工程や設備によって製造できるために製造コスト面では有利である一方、粒子径を制御すること、粒子径を揃えることは困難とされてきた。
【0007】
また特許文献2は、コアシェル触媒のコアの製造工程に特徴のある発明を開示している。特許文献2の発明は、コアシェル触媒のコアの製造において、標準電極電位の高い第1のコア金属材料と(例えばパラジウム)、それよりも標準電極電位の低い第2のコア金属材料(例えばコバルト)との合金でコア粒子を作製し、次いでpHと電位とを制御することによって、第1のコア金属材料を溶出させることなく第2のコア金属材料のみを溶出させることを特徴としている。
【0008】
特許文献2の発明によれば、コア粒子作製後の後処理を経て製造されるコアシェル型触媒の粒径分布が広がらず、コアシェル型触媒微粒子の耐久性を維持できることが開示されている。しかしながら、まず第1及び第2のコア金属材料の合金でコア粒子を製造し、次いで第2のコア金属材料のみを溶出除去させるためには、pHと電位とを精密に制御することが必要となる。また、コアから溶出除去された第2の金属材料を回収、処理するためにはさらなる工程が必要となる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記のとおり、白金コアシェル触媒の製造において、粒子径が制御され、粒度分布が狭いコアシェル触媒を、大量生産に対応できる実用的な工程によって得るための方法は未だに見出されていない。本発明はこの実情に鑑み、粒子径及び粒度分布を制御可能かつ実用的な工程によって、酸素還元活性に優れた白金コアシェル触媒を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、コアとしてパラジウム、シェルとして白金を用いた触媒微粒子をカーボン担体に担持してなる触媒(以下、Pt/Pd/Cコアシェル触媒と記載することがある)について検討を重ねてきた中で、パラジウムからなるコア粒子を担持したカーボン担体(以下、Pd/Cコアと記載することがある)を電位サイクル処理(0.1-1.2 V vs. RHE、N
2雰囲気、25 ℃、0.5 M H
2SO
4、電位走査速度100 mV/s)すると、電位サイクルに従ってパラジウムコアの形態が変化すること、また、この電位サイクルに供した後のコアに白金シェルを形成したPt/Pd/Cコアシェル触媒では、電位サイクルの回数が増加するに従って酸化還元活性(ORR活性)が向上することを見出した。発明者らはさらにパラジウムコアの分析を行い、電位サイクル処理に従って、微細なパラジウムコアが消失してパラジウムコアの平均粒子径が増大するとともに、粒度分布が狭くなることを見出した。
【0012】
Pd/Cコアのサイクリックボルタモグラム(
図1)によれば、パラジウムの酸化物生成開始電位は約0.75 V、酸化物還元電位は約0.5 Vであるため、電位サイクル処理によって0.1-1.2 Vの電位が与えられると、パラジウムは酸化と還元とを繰り返す。この酸化と還元が繰り返されることによって表面エネルギーが大きい微細な粒子径の金属パラジウムが選択的に酸化溶出し、その一部は大きな粒子径の金属パラジウム表面に析出する。これを繰り返すことによって、微細なパラジウム粒子が消失し、粒度の分布の狭いパラジウムコアが得られると考えられた。
【0013】
Pt/Pd/Cコアシェル触媒ではPdの還元電位がPtよりも低いため、電位サイクル耐久性試験(矩形波、0.6 V-1.0 V vs. RHE、80 ℃、0.1 M HClO
4、Ar雰囲気、10,000サイクル)により、Ptシェルの欠陥部位を通してPdコアが選択的に酸化溶出することがわかっている。Pd/Cコア材料中に微細なPd粒子が存在し、この微細Pdコア粒子上にPtシェルを形成したPt/Pd/Cコアシェル触媒では、電位サイクル耐久性試験によってPtシェルの欠陥部位を通してPdコアが酸化溶出し、その結果、微細なPt粒子が生成すると考えられる。粒子径の小さい微細Pt粒子では、その表面にエッジやコーナーといった低配位数のPt原子割合が増加し、酸素還元活性が低下することが報告されている(M. Shao et al., Nano Lett., 11, 3714-3719 (2011))。これらの知見を元に、発明者らは、Pd/Cコア材料中に存在する微細なPdコア粒子を可能な限り除去することが、Pt/Pd/Cコアシェル触媒の酸素還元活性を高める上で極めて重要であることに想到した。
【0014】
さらに発明者らは検討を進め、電位サイクル処理を経たパラジウムコアの表面に白金シェルを形成したPt/Pd/Cコアシェル触媒は、驚くべきことに、電位サイクル耐久性試験(矩形波、0.6 V-1.0 V vs. RHE、80 ℃、0.1 M HClO
4、Ar雰囲気、10,000サイクル)後に、ORR活性が飛躍的に向上するという効果を確認し、本発明を完成した。
【0015】
すなわち本発明は、パラジウムからなるコア粒子と、当該コア粒子の表面に形成された白金シェルとを有する燃料電池用の白金コアシェル触媒の製造方法であって、
(A)パラジウムからなるコア粒子を担持したカーボン担体(Pd/Cコア)を準備する工程と、
(B)前記Pd/Cコアに対して、パラジウムの酸化物生成開始電位以上の電位と、パラジウムの酸化物還元電位以下の電位を繰り返し付与する工程と、
(C)(B)の工程後に、前記コア粒子の表面に白金シェルを形成する工程と、
を含む、製造方法に関する。
【0016】
前記工程(B)は、プロトンを含む酸性水溶液中に前記Pd/Cコアを分散し、当該Pd/Cコアのパラジウムの酸化物還元電位よりも低い酸化還元電位を有する金属を前記溶液中に共存させながら、酸素供給下に撹拌する工程であることが好ましい。
また、前記プロトンを含む酸性水溶液は硫酸水溶液であることが好ましく、Pd/Cコアのパラジウムの酸化物還元電位よりも低い酸化還元電位を有する金属は、銅であることが好ましい。
【0017】
また本発明では、前記工程(C)が、
(C1)前記工程(B)で得られたパラジウムからなるコア粒子の表面に、銅のアンダーポテンシャル析出現象を用いて銅シェルを設ける工程と、
(C2)前記工程(C1)で得られた、銅シェルを有するコア粒子が分散した水溶液と、白金前駆体水溶液を含む水溶液とを混合し、コア粒子表面の銅を白金に置換する工程と、を含むことが好ましい。
【0018】
本発明はさらに、前記工程(A)乃至(C)の後に、
(D)前記工程(C)で得られた白金コアシェル触媒を、プロトンを含む酸性水溶液中に分散し、当該白金コアシェル触媒の白金の酸化物生成開始電位よりも低い酸化還元電位を有する金属を前記水溶液中に共存させながら酸素供給下に撹拌する工程を含むことがより好ましい。
【0019】
また本発明では、前記工程(A)が、カーボン担体上に、含浸法によってパラジウムからなるコア粒子を生成及び担持させる工程であることがより好ましい。
【0020】
本発明は、前記のいずれかの方法によって製造された白金コアシェル触媒、及び、前記のいずれかの方法によって製造された白金コアシェル触媒を酸化還元反応の触媒として利用する燃料電池に関する。
【0021】
また本発明は、カーボン担体に担持された、パラジウムからなるコア粒子の形態を制御する方法であって、パラジウムからなるコア粒子を担持したカーボン担体(Pd/Cコア)に対して、パラジウムの酸化物生成開始電位以上の電位と、パラジウムの酸化物還元電位以下の電位を繰り返し付与する工程を含む方法に関する。
【0022】
前記工程は、プロトンを含む酸性水溶液中に前記Pd/Cコアを分散し、当該Pd/Cコアのパラジウムの酸化物還元電位よりも低い酸化還元電位を有する金属を前記溶液中に共存させながら、酸素供給下に撹拌する工程であることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の製造方法によれば、コア粒子に電位を繰り返し与えるという簡易な方法によって、パラジウムからなるコア粒子の形態を制御することが可能で、優れた酸素還元活性を有する白金コアシェル触媒を得られる。特に、酸性水溶液中で、Pd/Cコアのパラジウムの酸化物還元電位よりも低い酸化還元電位を有する金属を共存させながら酸素供給下に撹拌することによって電位を付与する方法は、特別な装置や精密な電位制御が必要無く、大量生産にも対応可能で実用上の利用価値が極めて高い。また本発明の製造方法によれば、従来、粒径の制御や粒径分布に問題があると考えられてきた含浸法によって作られたコア粒子であっても、白金コアシェル触媒として適切な粒径、粒度分布に制御することが可能で、優れた酸素還元活性を有する白金コアシェル触媒が得られる。さらに、本製造方法によって得られた白金コアシェル触媒は、触媒の実使用を想定した条件の耐久性試験を経ると、酸素還元活性がさらに向上するという予想外の効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明によって製造される白金コアシェル触媒はカーボン担体に担持されている。カーボン担体としては公知の材料を用いることができ、カーボンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、アセチレンブラック、カーボンナノチューブ等が挙げられる。また、カーボン担体の酸化劣化の観点から、不活性雰囲気中で熱処理したカーボン担体、或いは、耐酸化性の高い酸化錫(SnO
x)や酸化チタン(TiO
x)などの金属酸化物担体を使用してもよく、カーボン担体と金属酸化物担体とを混合して使用してもよい。カーボン担体は、比表面積が10〜1000 m
2/g程度であることが好ましい。触媒微粒子は、主に静電的相互作用によって担体の表面に担持されていると考えられるが、触媒微粒子をより強固に担持させて担体表面からの触媒の脱落を低減するためには、触媒微粒子と担体との間に化学的結合を形成して担持することもできる。
【0026】
本発明で製造される白金コアシェル触媒は、パラジウムからなるコア粒子を含む。ここで、「パラジウムからなる」とは、パラジウム以外の物質を主たる成分として含有させていないことを意味する。一方、意図的にパラジウム以外の他種元素、例えば白金、銀、銅、ニッケル等の金属を含んでもよい。また、本発明の効果に影響を与えない範囲で他の物質を含むことも妨げず、例えば、製造の過程で使用される添加剤(還元剤、微粒子化剤等)の残渣或いは一部を含んでいてもよい。具体的には、「パラジウムからなる」とは、95原子%以上、好ましくは97原子%以上、より好ましくは99原子%がパラジウムからなるコアを意味する。
【0027】
パラジウムからなるコア粒子の粒子径は、2 nm〜10 nmであることが好ましい。本発明の製造方法によれば、コア粒子の形成後に電位付与処理をすることで粒子径が変化するが、ここでいうコア粒子の粒子径は、電位付与処理後の粒子径を意味する。粒径2 nm未満のコア粒子の存在は前述したように微細Pt粒子の生成を引き起こして酸素還元活性を低下させ、粒径が10 nmを超えると白金シェルを形成するための白金原子数が増加し、また、単位面積を得るための白金使用量も増加するため、触媒コストが上昇する問題がある。粒径を10 nm以下とすると特に、触媒単位重量当たりで大きな表面積を得ることができ、触媒単位面積当たりに必要なパラジウムおよび白金の使用量を削減することができ、コスト面で有利になる。
【0028】
なお本明細書中で、パラジウムからなるコア粒子の粒径は、TEM像から求めた平均粒径、或いはPdの(220)面のX線回折ピークにシェラー式を適用して算出した値を意味している。
【0029】
カーボン担体に担持されたパラジウムからなるコア粒子は、逆ミセル法や含浸法等、公知の合成法によって合成することが可能である。コア粒子合成の一例として、塩化パラジウム(PdCl
2)、硝酸パラジウム(Pd(NO
3)
2)、酢酸パラジウム(Pd(CH
3COO)
2)、塩化パラジウム(II)ナトリウム・三水和物(Na
2[PdCl
4]・3H
2O)、ジニトロジアンミンパラジウム(II)([Pd(NH
3)
2(NO
2)
2])等の水溶液、有機溶液、又はそれらの混合溶液中にカーボン担体を共存させ、パラジウムイオンを還元して、Pd/Cコアを得る方法がある。
【0030】
本発明の製造方法によれば、カーボン担体にコア粒子を担持させた後に電位サイクル処理を行うことで適切な粒子径と粒度分布に調整することができ、その結果、優れた触媒活性を有する白金コアシェル触媒を得ることができる。本発明は特に、従来、粒度制御が困難であった含浸法によって作製されたコア粒子から、極めて優れた触媒活性を有する白金コアシェル触媒を製造できる。
含浸法によるパラジウムコア粒子の製造は例えば次のように行う。Pd前駆体(例えばPd(NO
3)
2)水溶液中にカーボン担体(例えばケッチェンブラック)を分散して攪拌後、加熱によって水分を除去し、Pd前駆体をケッチェンブラックに担持する。その後、不活性雰囲気中で加熱還元し、カーボン担持Pdコア(Pd/Cコア)が得られる。
【0031】
本発明は、上述のPd/Cコアに対し、Pdの酸化物生成電位以上の電位と、酸化物還元電位以下の電位を繰り返し付与する工程を含む。電位を与える方法は特に制限されない。例えば、グラッシーカーボン(GC)ディスク上にPd/Cコアを含む分散液を塗布及び乾燥させて、Pd/Cコアが載置されたGC電極を作製し、当該電極を回転リングディスク電極として使用するするハーフセルにおいて、所望の電位を繰り返し付与する(電位サイクルする)ことができる(
図1と
図2参照、
図1での電位窓は0.1 V-1.2 V)。
【0032】
また好ましい方法として、プロトンを含む酸性水溶液中に前記Pd/Cコアを分散し、当該Pd/Cコアのパラジウムの酸化物還元電位よりも低い酸化還元電位を有する金属を前記溶液中に共存させながら、酸素供給下に撹拌することによって、電位を与える方法がある。
【0033】
具体的に、プロトンを含む酸性水溶液としては例えば、硫酸、硝酸、塩酸、過塩素酸、酢酸等が挙げられ、カーボン担体の酸化と取り扱いの容易さの観点から硫酸が好ましい。濃度は0.05 M〜5 Mとすることができ、0.1 M〜2 Mがより好ましい。濃度が0.05 Mより低いとプロトンの濃度が不十分となって酸素による高電位発生が生じなくなり、濃度が5 Mより高いと高電位発生の効果が飽和して不経済である。水溶液のpHは0〜2とすることができ、0.5〜1.5がより好ましい。pHが0以下の環境は上述した範囲の酸で生じることはなく、pHが2より高いとPdより還元電位の低い金属である銅が酸化溶出した際、水酸化銅(Cu(OH)
2)の溶解度積が小さいため、その沈殿が系内に生成しやすくなる問題がある。
【0034】
酸化還元電位がPd/Cコアのパラジウムの酸化物還元電位よりも低い金属としては、例えば、銅(酸化還元電位:0.34 V)、錫、鉛が挙げられ、中でも銅を用いることが好ましい。用いる銅の形態は特に制限されないが、例えば、メッシュ、ワイヤ、粒、板、塊等の固体金属銅を用いることができる。中でも、メッシュやワイヤ、板状の固体金属銅は表面積が大きく、かつ、反応系への添加及び回収が簡単であるため、好ましい。
【0035】
酸素の供給は、空気を系内に導入することによって空気中の酸素を供給することができ、また、酸素ガスと不活性ガス(例えば窒素ガス、アルゴンガス)との混合ガスを供給してもよい。酸素ガスと不活性ガスの混合ガスを用いる場合、酸素の分圧を精密に制御できる。
【0036】
上記の酸性水溶液中にPd/Cコアを分散し、固体銅の共存下に酸素を供給しながら撹拌すると、系内では次の反応及び平衡が成立する。
【0037】
[化学式1:高電位側]
1/2O
2 + 2H
+ + 2e
- = H
2O E:〜1.0 V
[化学式2:低電位側]
Cu = Cu
2+ + 2e
- E:〜0.3 V
【0038】
すなわち、この系内では外部電源を使用することなく、パラジウムコア粒子がCuに接触した時にCu/Cu
2+の平衡電位である約0.3 V、Cuから離れている時に酸素還元電位である約1.0 V(熱力学的電位は1.23 Vであるが、パラジウム表面では過電圧のため、約1.0 Vに低下する)を繰り返し印加することができる(Cu-air処理)。このCu-air処理の電位窓とPd/Cコアのサイクリックボルタモグラムを
図3に示す。Cu-air処理の電位窓である0.3 V-1.0 Vは、Pd/Cコアの酸化物生成開始電位と酸化物還元電位を含んだ電位窓になっている。したがって、GC電極上での電位サイクル処理(
図1)と同様、Cu-air処理によってPdの酸化と還元が繰り返され、表面エネルギーが大きい微細な粒子径のパラジウムが選択的に酸化溶出し、その一部は大きな粒子径の金属パラジウム表面に析出し、この繰り返しによって微細なパラジウム粒子が消失し、粒度の分布の狭いパラジウムコアが得られると考えられる。
また化学式1に示した酸素の還元反応から、この反応はプロトンを消費する反応である。このため、使用する酸の濃度を適宜制御することが好ましい。水溶液中のプロトンが消費されて溶液のpHが上昇すると、化学式2の反応によって生成したCu
2+イオンが水酸化銅(Cu(OH)
2)を生成して沈殿を生じる。具体的な工程管理としては、溶液のpHをモニターし、pHの上昇に応じて酸を添加することができる。
【0039】
反応温度は適宜選択すればよいが、常温〜100 ℃とすることができ、30〜80 ℃であることが好ましい。反応時間は0.5〜24時間、好ましくは1〜10時間とすることができる。反応温度及び反応時間を適宜設定することによって、パラジウムコアの酸化溶出を制御し、所望の粒径や粒度分布を有するパラジウムコア粒子を得ることができる。
【0040】
本発明の白金コアシェル触媒は、上記の工程の後、パラジウムからなるコアの表面に白金シェルが形成される。白金シェルの平均的厚みは、単原子層〜三原子層(0.3 nm〜0.9 nm程度)であることが好ましく、単原子層〜二原子層(0.3 nm〜0.6 nm程度)がより好ましい。酸素還元触媒として活性を発揮する白金原子は、シェルの最外層(最表面)に位置する白金原子のみであるので、シェルの厚みを増すことには特段の利点がない。
【0041】
白金シェルは公知の方法によって形成することができ、特に制限されないが、例えば、外部電源を使用した精密な電位制御と対極や参照極を必要としない、改良型Cu-UPD法を用いることが好ましい。改良型Cu-UPD法とは、Pd/Cコアを、金属銅からなる固体が浸漬されたCu
2+イオンを含有する酸性水溶液中に投入し、アルゴンや窒素等の不活性ガス雰囲気中で撹拌することで、パラジウムコア表面に銅からなる単原子膜を形成させる方法である。銅単原子膜は必ずしも膜の全面が単原子膜からなる均一膜でなく、部分的に二原子或いはそれ以上の重複が生じているものも含む。
【0042】
改良型Cu-UPD法に用いられる銅からなる固体としては、少なくとも表面が銅で構成されており、パラジウムコア粒子と接触した際にイオン化してCu
2+イオンを生じる物体であれば制限されないが、例えば、銅メッシュ、銅ワイヤ、銅粒、銅板、銅塊等が挙げられる。
【0043】
Cu
2+イオンを含有する酸性水溶液に用いられるCu
2+イオンを与える物質としては、硫酸銅(CuSO
4)、塩化銅(CuCl
2)、酢酸銅(Cu(CH
3COO)
2)、硝酸銅(Cu(NO
3)
2)等が挙げられ、これらのCu塩を水溶液とすることによってCu
2+イオンが解離する。Cu
2+イオン濃度は特に制限されるものではないが、例えば0.01 M〜1 Mとすることができ、反応速度と反応溶液の安定性等の観点からは0.1 M〜0.5 M程度とすることが好ましい。
【0044】
酸性溶液を与える酸としては、銅を溶解可能であれば特に制限されないが、例えば、硝酸、硫酸、塩酸、過塩素酸等が挙げられ、濃度は0.05 M〜5 Mとすることができ、反応速度と金属銅固体の電位制御の観点からは0.1 M〜2 M程度とすることができる。
【0045】
上記金属銅固体を浸漬した上記のCu
2+イオンを含む酸性溶液に、Pd/Cコアを投入し、例えば、0 ℃〜50 ℃において1〜50時間、不活性ガス通気下で撹拌を行うことによって、パラジウムコア粒子の表面に銅の単原子膜が形成される。
【0046】
続いて、得られたパラジウムコア粒子表面の銅を白金と置換する。このステップは公知のUPD法等で用いられている置換めっき法で行うことができる。白金イオンを与える物質としては、白金酸塩(K
2PtCl
4、K
2PtBr
4)、硝酸テトラアンミン白金(II)(Pt(NH
3)
4(NO
3)
2)、水酸化テトラアンミン白金(II)(Pt(NH
3)
4(OH)
2)、テトラアンミン白金(II)クロリド(Pt(NH
3)
4Cl
2)、ビス(エチレンジアミン)白金(II)クロリド([Pt(NH
2CH
2CH
2NH
2)
2]Cl
2)、ジニトロジアンミン白金(II)(Pt(NH
3)
2(NO
2)
2)等が挙げられる。
【0047】
銅からなる単原子膜を、白金に置換するステップは、前述の金属銅固体を浸漬した上記のCu
2+イオンを含む酸性溶液から、金属銅固体を除いた後、前記の白金を含む化合物(白金前駆体)を水溶液に添加し、撹拌することで行うことができる。白金前駆体の添加は、金属銅固体を取り除いた後、可能な限り時間をあけずに行うことが好ましい。操作の過程で大気中の酸素が溶液中に侵入すると、パラジウムコア上に生成した金属銅単原子膜が酸化溶解するため、金属銅固体を取り除いた後、直ちに白金前駆体を添加することが好ましい。反応時間、温度は適宜選択することができるが、例えば、0 ℃〜50 ℃において1分〜50時間、より好ましくは1分〜1時間であり、不活性ガス通気下、撹拌しながら行うことが好ましい。
【0048】
シェルは、コア粒子の表面を白金が均一に被覆していることが好ましいが、白金以外の異種金属との合金であってもよい。異種金属としては、白金よりも酸化還元電位が低い金属が好ましく、例えばイリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)が挙げられる。
【0049】
上記によって作製されたPt/Pd/Cコアシェル触媒に対して、酸素還元活性向上処理を行うことも好ましい。酸素還元活性向上処理はプロトンを含む酸性水溶液中にPt/Pd/Cコアシェル触媒を分散し、酸化還元電位がPt/Pd/Cコアシェル触媒の白金の酸化物生成開始電位よりも低い金属を前記水溶液中に共存させながら酸素供給下に撹拌することによって行う。
【0050】
具体的に、プロトンを含む酸性水溶液としては硫酸が好ましい。酸の濃度は0.05 M〜5 Mとすることができ、0.1 M〜2 Mがより好ましい。水溶液のpHは0〜2とすることができ、0.5〜1.5がより好ましい。
【0051】
酸化還元電位がPt/Pd/Cコアシェル触媒の白金の酸化物生成開始電位よりも低い金属としては、例えば、銅(酸化還元電位:0.34 V)を用いることが好ましい。用いる銅の形態は特に制限されないが、例えば、メッシュ、ワイヤ、粒、板、塊等の固体銅を用いることができる。中でも、メッシュやワイヤ、板状の固体銅は表面積が大きく、反応系への添加及び回収が簡単であるため、好ましい。この処理では、前記化学式(1)、(2)と同様の反応及び平衡系が成立する処理となっている(Cu-air処理)。
【0052】
図4に、Pt/Pd/Cコアシェル触媒のサイクリックボルタモグラムとCu-air処理の電位窓を示す。Cu-air処理の電位窓である0.3 V-1.0 Vは、Pt/Pd/Cコアシェル触媒の白金の酸化物生成開始電位である約0.7 Vと、その酸化物還元電位である約0.6 Vを含んだ電位窓になっている。したがって、Cu-air処理ではパラジウムコアが酸化溶出するとともに、白金シェル原子が酸化還元を繰り返して再配列すると考えられる。したがって、本発明の処理工程に供する前のPt/Pd/Cコアシェル触媒は、必ずしも均一な白金シェルでなくてもよい。例えば、触媒粒子表面にパラジウムと白金が混在していてもよいし、Pt-Pd合金粒子でもよく、それら以外の異種金属との合金であってもよい。異種金属としては、白金よりも酸化還元電位が低い金属が好ましく、例えば銀(Ag)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)が挙げられ、これらの異種金属とPdの合金コア白金シェル触媒、或いは、これらの異種金属とPdおよびPtの合金粒子であってもよい。
【0053】
前記の方法によって得られたPt/Pd/Cコアシェル触媒は、必要に応じて、公知の方法によって洗浄、乾燥等を行う。前述のステップの他、必要に応じて分離、精製、洗浄工程等を含むこともできる。
【0054】
本発明は上述の製造方法で得られる白金コアシェル触媒に関し、また、当該白金コアシェル触媒は、燃料電池のカソードにおける酸素還元触媒として特に好適に用いられる。
【0055】
以下、実施例を用いて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
[実施例1]
(i)Pd/Cコアの作製
Pd(NO
3)
2水溶液にカーボン担体(Ketjen Black EC 300J, 比表面積800 m
2/g)0.35 gを超音波分散させた後、ホットスタラーで水分を蒸発させ、カーボン担体にPd(NO
3)
2を担持させた試料を得た。次に、水素ガスを用いてこの試料を350 ℃で1時間還元した。水素還元処理後、Pd粒子内に吸蔵した水素を除去するため、窒素雰囲気中、300 ℃で1時間処理し、常温に冷却してカーボン担持Pdコア(Pd/Cコア)を得た。
(ii-1)Pd/Cコアへの電位付与 (GC電極を用いた電位付与)
得られたPd/Cコア40 mgを25 mlのメスフラスコを用いてエタノールに分散し、マイクロシリンジを用いて直径6 mmのグラシーカーボン(GC)電極上に10 μl塗布し、エタノールを大気乾燥させて作用極とした。0.5 MのH
2SO
4が入ったガラスセルに作用極を浸漬し、25 ℃で対極にPt線、参照極にRHE(Reversible Hydrogen Electrode)を用い、窒素雰囲気中、100 mV/sの電位掃引速度で0.1 V-1.2 V vs. RHEの電位幅を所定回数繰り返して走査した。
(iii)Pd/Cコア上への白金シェルの形成
GC電極上のPd/Cコアを所定回数電位走査した後、硫酸銅を10 mMの濃度になるようガラスセルに添加し、GC作用電極の電位を0.34 V vs. RHEで10分間保持し、Pdコア粒子表面にCuをアンダーポテンシャル析出させた。その後、Pt前駆体として2×10
-3モルのK
2PtCl
4を純水10 mlに溶解し、窒素ガスで30分間バブリングして溶存酸素を除去した後、ガラスセルに滴下してCuシェルをPtシェルで置換し、Pt/Pd/Cコアシェル触媒を得た。
【0057】
[Pd/Cコアの分析]
工程(ii-1)前後のPd/Cコアを、TEM(日本電子株式会社製、JEM2100F)で観察した結果、カーボン担体に担持されたパラジウム粒子が確認された。それぞれのTEM像から200個のパラジウム粒子の直径を測定し、工程(ii-1)の前および所定回数電位走査したパラジウム粒子の平均粒径(
図5)と標準偏差(
図6)を求めた。
【0058】
パラジウム粒子の平均粒径(
図5)から、電位走査回数の増加に伴ってパラジウム粒子の平均粒径が増加し、55回の電位サイクルを付与した実施例1では、パラジウムの平均粒径が4.3 nmから5.1 nmに増加した(
図7参照)。また、その標準偏差(
図6)から、電位走査回数の増加に伴ってパラジウム粒子の粒径分布が狭くなった(標準偏差が小さくなった)ことがわかる。これは0.1 V-1.2 V vs. RHEの電位幅で電位走査を行うことにより、表面エネルギーが大きい微細パラジウム粒子が選択的に酸化溶解し、粒子径の大きなパラジウム粒子表面に再析出した結果と考えられる。
【0059】
[Pt/Pd/Cコアシェル触媒の電気化学的表面積及びORR活性評価]
実施例1において、Pd/Cコアに対する電位サイクル処理の回数を変更した各サンプルについて、(iii)の工程によりGC電極上でPt/Pd/Cコアシェル触媒を作製した。各Pt/Pd/Cコアシェル触媒について、Ar飽和した0.1 M の過塩素酸中、25 ℃でサイクリックボルタンメトリーを行い、その水素脱離波からPt/Pd/Cコアシェル触媒の電気化学的表面積を算出した。その後、0.1 M の過塩素酸を酸素ガスで飽和し、回転ディスク電極法により25 ℃でPt/Pd/Cコアシェル触媒のORR活性を評価した。0.9 V vs. RHEでの活性支配電流値を求め、この活性支配電流値を先述した電気化学的表面積で除することにより、各Pt/Pd/Cコアシェル触媒のORR面積比活性を算出した。
Pd/Cコアの電位走査回数(電位サイクル数)と、Pt/Pd/Cコアシェル触媒の電気化学的表面積およびORR面積比活性の関係を
図8に示す。Pdコアの電位走査回数の増加に伴い、Pt/Pd/Cコアシェル触媒の電気化学的表面積が低下し、同時に、ORR面積比活性が向上することが確認された。これは、
図5と
図6に示したように、Pd/Cコアの電位走査回数の増加によって微細なPdコア粒子が選択的に酸化溶解し、大きなPdコア粒子上に再析出して平均粒径が増加した結果と考えられる。
【0060】
[実施例2] (Cu-air処理による電位付与)
(i)Pd/Cコアの作製
窒素ガスを用いて400 ℃で4時間加熱還元したこと以外は、実施例1と同様にしてPd/Cコアを作製した。
(ii-2)Pd/Cコアへの電位付与
作製したPd/Cコア0.1 gを濃度0.1 Mの硫酸水溶液300 mlが入ったセパラブルフラスコ中で超音波分散し、その後、厚さ500 μmのCu板(純度99.9 %, 8 cm×21 cm)を円柱状に丸めて触媒分散液に配置し、硫酸銅を0.1 Mになるよう添加した。その後、セパラブルフラスコを恒温槽に移し、空気を市販のエアーポンプ(β-120, 株式会社マルカン製)を用いて触媒の硫酸分散液中に500 ml/min.の流量でバブリングさせた。触媒分散液の温度が30 ℃になるよう、恒温槽の温度を調整し、マグネティックスターラーを使用して分散液を5時間撹拌した(Cu-air処理)。
攪拌終了後、Pd/Cコアを濾別し、超純水300 mlに再分散して30分攪拌してPd/Cコアを洗浄した。この洗浄操作を3回行った後、大気中60 ℃のオーブンで乾燥し、Cu-air処理したPd/Cコアを得た。
(iii)Pd/Cコア上への白金シェルの形成
(ii-2)でCu-air処理したPd/Cコア0.1 gを、濃度50 mMのH
2SO
4と濃度10 mMのCuSO
4を含む300 mlの水溶液中に超音波分散させた。Arを500 ml/min.の流量で流し、Cuメッシュを水溶液中に共存させた後、5 ℃で5時間撹拌してPdコア粒子表面にCuシェルを形成した。その後、Cuメッシュを水溶液から除去し、予めArバブリングして溶存酸素を除去したK
2PtCl
4水溶液を2 mMの濃度となるよう加え、CuシェルをPtシェル層に置換してPt/Pd/C コアシェル触媒を得た。
生成したPt/Pd/C コアシェル触媒を濾別し、純水300 ml中に再分散して30分間撹拌した。この操作を3回繰り返してPt/Pd/C コアシェル触媒を洗浄し、その後、大気中60 ℃のオーブンで6時間乾燥した。
【0061】
[Pd/Cコアの分析]
実施例2の工程(ii-2)前後のPd/Cコアをそれぞれ、TEM(日本電子株式会社製、JEM2100F)で観察した結果、カーボン担体に担持されたパラジウム粒子が確認された。工程(ii-2)前後におけるTEM像中の100個のパラジウム粒子の直径を測定し、それぞれの粒径分布を求めた(
図9)。その結果、工程(ii-2)前の平均粒径は3.8 nm、工程(ii-2)後の平均粒径は4.9 nmであった(
図10参照)。また、
図9からそれぞれの標準偏差を求めた結果、工程(ii-2)前で1.72 nm、工程(ii-2)後では1.38 nmに減少した。したがって、Cu-air処理によってPdコアの平均粒径が増加し、粒度分布が狭くなっていることが確認された。
【0062】
[Pt/Pd/Cコアシェル触媒のORR活性評価]
実施例2のPt/Pd/Cコアシェル触媒を前述の回転リングディスク上に塗布し、ORR活性を測定した。ORR活性は、初期ORR活性と、耐久性試験(矩形波、0.6 V-1.0 V vs. RHE、80 ℃、0.1 M HClO
4、Ar雰囲気、10,000サイクル)後に測定した。比較例として、標準的なカーボン担持白金触媒(比較例1、Pt/C)、及び、工程(ii-2)を行わないこと以外は同様に作製したPt/Pd/Cコアシェル触媒(比較例2、Pd/C:未処理)についても測定を行った。結果を
図11に示す。
【0063】
図11に示されるとおり、実施例2のPt/Pd/Cコアシェル触媒は、比較例1のPt/Cと同等ないし高い初期活性を示した。さらに、耐久性試験後のORR面積比活性は比較例1と比較して3.3倍、ORR質量活性は2.5倍という極めて高いORR活性を示した。また実施例2のPt/Pd/Cコアシェル触媒は、未処理のPt/Pd/Cコアシェル触媒(比較例2)と比較して、初期ORR活性が高く、さらに、耐久性試験後のORR活性が大きく向上した。
【0064】
[比較例3](Air処理)
(i)Pd/Cコアの作製
実施例2と同様に行った。
(ii-3)Pd/Cコアの処理
(ii-2)において、濃度0.1 Mの硫酸水溶液にCu板と硫酸銅を入れなかった以外は(ii-2)と同様にPd/Cコアを処理した(Air処理)。
(iii)Pd/Cコア上への白金シェルの形成
実施例2と同様に行った。
【0065】
[Pd/Cコアの分析]
比較例3の工程(ii-3)前後のPd/Cコアをそれぞれ、TEM(日本電子株式会社製、JEM2100F)で観察した結果、カーボン担体に担持されたパラジウム粒子が確認された。TEM像中の100個のパラジウム粒子の直径を測定した結果、工程(ii-3)前後とも平均粒径は3.8nmで変化が見られなかった(
図12参照)。また、
図12からそれぞれの標準偏差を求めた結果、工程(ii-3)前で1.72 nm、工程(ii-3)後では1.71 nmであり、Air処理によってPdコアの平均粒径と粒度分布は殆んど変化しないことが確認された。
【0066】
[Pt/Pd/Cコアシェル触媒のORR活性評価]
比較例3のPt/Pd/Cコアシェル触媒を前述の回転GC電極に塗布し、ORR活性を測定した。ORR活性は、初期ORR活性と、耐久性試験(矩形波、0.6 V-1.0 V vs. RHE、80 ℃、0.1 M HClO
4、Ar雰囲気、10,000サイクル)後に測定した。比較として、比較例1、2も同時に測定した。結果を
図13に示す。
【0067】
図13に示されるとおり、比較例3のPt/Pd/Cコアシェル触媒は、初期、耐久性試験後のいずれも比較例1,2と同等もしくは低いORR活性を示した。すなわち、Pd/Cコアの処理として、金属銅の共存無しに酸性水溶液と酸素の存在下で撹拌する工程では、所望の形態変化が生じず、高いORR活性を有するPt/Pd/Cコアシェル触媒が得られないことが確認された。