特許第6403087号(P6403087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6403087酸化ニオブスパッタリングターゲット及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403087
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】酸化ニオブスパッタリングターゲット及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20181001BHJP
   C04B 35/495 20060101ALI20181001BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   C23C14/34 A
   C04B35/495
   B22F1/00 R
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-23246(P2014-23246)
(22)【出願日】2014年2月10日
(65)【公開番号】特開2014-194072(P2014-194072A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2016年9月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-35575(P2013-35575)
(32)【優先日】2013年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100139240
【弁理士】
【氏名又は名称】影山 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100119921
【弁理士】
【氏名又は名称】三宅 正之
(74)【代理人】
【識別番号】100113826
【弁理士】
【氏名又は名称】倉地 保幸
(74)【代理人】
【識別番号】100076679
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 和夫
(72)【発明者】
【氏名】梅本 啓太
(72)【発明者】
【氏名】張 守斌
【審査官】 末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−059965(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101851740(CN,A)
【文献】 特開2002−338354(JP,A)
【文献】 特開2000−113913(JP,A)
【文献】 特開2003−123853(JP,A)
【文献】 特開2010−271720(JP,A)
【文献】 特開2005−256175(JP,A)
【文献】 特開2003−098340(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第102659405(CN,A)
【文献】 特開平05−005177(JP,A)
【文献】 特開2012−211382(JP,A)
【文献】 特開2010−156053(JP,A)
【文献】 特開2012−017258(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/136120(WO,A1)
【文献】 特開2012−126619(JP,A)
【文献】 特開2011−238968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
C04B 35/00−35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ニオブ焼結体であって、
前記酸化ニオブ焼結体の厚さ方向の全域で、比抵抗が、0.001〜0.05Ω・cmであり、
前記酸化ニオブ焼結体は、ターゲット厚み方向での比抵抗の最大差が0.02Ω・cm以下、かつ、スパッタ面内での比抵抗の最大差が0.02Ω・cm以下であることを特徴とする酸化ニオブスパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記酸化ニオブ焼結体における酸化ニオブ結晶粒の平均結晶粒径が、100μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の酸化ニオブスパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記酸化ニオブ焼結体は、化学式:Nb5−x(ただし、x=0.005〜0.1)を満たす酸化ニオブからなることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸化ニオブスパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記酸化ニオブ焼結体は、化学式:Nb5−x(ただし、x=0.005〜0.1)を満たす酸化ニオブ粉末を用いて焼結されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の酸化ニオブスパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記酸化ニオブ焼結体の素地中に、Nb1229相が均一に分布していることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の酸化ニオブスパッタリングターゲット。
【請求項6】
酸化ニオブ粉末を還元処理して酸素欠損酸化ニオブ粉末を得る還元工程と、
得られた酸素欠損酸化ニオブ粉末を、酸素欠損酸化ニオブ粉末の酸素含有量ばらつきを低減させるための混合工程と、非酸化雰囲気にて焼結して焼結体を得る焼結工程と、
を有することを特徴とする酸化ニオブスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項7】
前記還元工程では、酸化ニオブ粉末を、還元雰囲気で、500℃以上で熱処理して、化学式:Nb5−x(ただし、x=0.005〜0.1)を満たす酸素欠損状態の酸化ニオブ粉末を生成することを特徴とする請求項6に記載の酸化ニオブスパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項8】
前記酸素欠損酸化ニオブ粉末の結晶粒径が、100μm以下であることを特徴とする請求項6又は7に記載の酸化ニオブスパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高屈折率を有する酸化ニオブ膜を直流(DC)スパッタリングで成膜する際に用いられるのに好適な酸化ニオブスパッタリングターゲットと、その製造方法と、酸化ニオブスパッタリングターゲットを用いて成膜された酸化ニオブ膜とに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、省エネルギー、資源の有効利用や環境汚染の防止等の面から、太陽光を直接電気エネルギーに変換する太陽電池が注目され、開発が進められている。ここで、光電変換材料として、シリコンを用いず、有機色素で増感された酸化物半導体を用いた太陽電池が知られている。光電変換材料用酸化物半導体には、分光増感色素を吸着させた金属酸化物半導体が用いられており、この金属酸化物として、例えば、酸化ニオブを用いることが知られている(例えば、特許文献1乃至3を参照)。
【0003】
一方、酸化ニオブ膜の光学的な応用としては、薄膜太陽電池以外にも、単層の熱線反射ガラスや反射防止膜から始まり、さらに特定の波長の光が選択的に反射あるいは透過するような分光特性が優れるように設計した多層膜系の反射防止コート、反射増加コート、干渉フィルター、偏光膜など多分野にわたっている。また、多層膜の一部に透明導電膜や金属、導電性セラミックス等の導電性や熱線反射などの各種機能をもった膜をはさむことにより、帯電防止や熱線反射、電磁波カットなどの機能をもたせた多層膜にすることも検討されている。
【0004】
この酸化ニオブ膜の形成にあっては、薄膜太陽電池、フラットディスプレイ等の製造では、大面積基板が必要な場合が多く、スパッタリングによる成膜法が用いられている。さらに、スパッタリング成膜法の中でも、大面積の成膜には、特に、直流放電を利用したDCスパッタリング法が最適である。ところが、高屈折率の酸化ニオブ膜をDCスパッタリング法で成膜する場合には、導電性を有する金属ニオブスパッタリングターゲットを、酸素を含む雰囲気でスパッタする反応性スパッタリングを用いている。しかし、この方法で得られる薄膜の成膜速度は極めて遅く、このため生産性が悪く、コストが高くつくという、製造上の大きな問題がある。
【0005】
そこで、市販されている高純度のNb粉末を、カーボン製のホットプレス用型に充填し、アルゴン雰囲気中で、1100℃〜1400℃の範囲の温度にて、1時間保持し、ホットプレスを行って得た焼結体により酸化ニオブスパッタリングターゲットを製造することが提案されている(例えば、特許文献4を参照)。この酸化ニオブスパッタリングターゲットは、酸化ニオブで構成されているが、この酸化ニオブは、化学量論的組成より少しだけ酸素不足になっているため、その比抵抗が、0.45Ωcm以下となり、DCスパッタリング法で成膜することを可能にしている。
【0006】
また、酸化ニオブ焼結体から成るスパッタリングターゲットは、ホットプレスによって作製される場合には、該ホットプレスは、加圧方向が一軸方向のみであり、不活性ガス雰囲気中で行われるため、大面積の成形体を得とすると、充填する不活性ガス量が増加し製造コストが高くなるという欠点を有し、さらには、酸化ニオブ焼結体の相対密度が90%程度と低いことから、スパッタリングターゲットとして用いた際、安定した放電が得られにくく、亀裂や破損が生じやすく長期間の使用に供することができず、生産性が低下するという問題があった。
【0007】
これを解決するものとして、一例として、99.9重量%以上、相対密度が90%以上及び平均結晶粒径が5〜20μmである酸化ニオブをホットプレスした酸化ニオブ焼結体からなるスパッタリングターゲットが提案されている(例えば、特許文献5を参照)。また、他の例として、還元型酸化物をプラズマ溶射で形成した酸化物スパッタリングターゲットが提案されている(例えば、特許文献6を参照)。これらのスパッタリングターゲットは、いずれも、導電性を有し、表面抵抗値が低いものとなるため、通常の反応性DCスパッタリングに比べ、成膜速度が高められ、DCスパッタリングに適したものとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−113913号公報
【特許文献2】特開2003−123853号公報
【特許文献3】特開2010−271720号公報
【特許文献4】特開2005−256175号公報
【特許文献5】特開2002−338354号公報
【特許文献6】特開2003−98340号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献4で提案された酸化ニオブスパッタリングターゲットでは、酸素欠損のない酸化ニオブ(Nb)の原料粉を用いて、そのままホットプレスしているので、焼結体の表面部分は、還元されて、酸素欠損状態の酸化ニオブ(Nb5―x)となるが、ターゲット内部まで還元反応が進まず、ターゲット内部では還元されていない酸化ニオブ(Nb)が残留する可能性がある。
【0010】
例えば、直径100mm、厚さ5mmのサイズを超えるようなスパッタリングターゲットを製造しようとした場合、ターゲット表面部分は還元されるが、ターゲット内部にいくにつれて、未還元の導電性のない酸化ニオブ(Nb)が残留してしまう。このスパッタリングターゲットでスパッタリングを行うと、表面部分の還元部では、DCスパッタリングが可能である。しかし、スパッタリングの進行に伴って、ターゲット内部が掘れていくと、導電性のない未還元部が表面に露出するため、DCスパッタリングが停止してしまうという問題がある。
【0011】
また、上記特許文献5で提案されたスパッタリングターゲットでは、原料粉の仮焼き工程、本焼成、還元雰囲気での熱間静水圧プレス(HIP)工程の3段階を経て製造されるので、量産性に乏しい。さらに、既に焼結されて密度が高くなった焼結体を得た後に還元処理を行うため、上記の特許文献4の場合と同様に、ターゲット内部に、未還元部が残留してしまう可能性がある。
【0012】
また、上記特許文献6で提案された還元型酸化物スパッタリングターゲットの製造方法は、還元型酸化物を溶射法で形成することから、予め還元処理が施されているため、ターゲット内部の比抵抗が低いが、溶射法によるスパッタリングターゲットでは、一般的に、高密度で高品質のものが得られない。さらに、5mmを超えるような厚さのスパッタリングターゲットを製造した場合、厚み方向に応力等によるムラが生じるため、安定したDCスパッタリングを行うことができないという問題がある。
【0013】
そこで、本発明は、スパッタリングターゲットの厚さ方向(エロージョン深さ方向)に亘って、酸素欠損状態の酸化ニオブ(Nb5―x)で構成し、厚さ方向の全域でターゲット比抵抗が低く、常に安定したDCスパッタリングが可能であり、成膜レートを向上できる酸化ニオブスパッタリングターゲット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記各特許文献で提案された酸化ニオブスパッタリングターゲットでは、そのターゲットの比抵抗が、ターゲット表面部においては、低く、ターゲット内部に進むほど高くなっていることに着目し、この比抵抗をターゲット内部でも低くするとともに、その変化が一様にするものとして、予め、酸化ニオブ粉末に還元処理を施して、酸素欠損状態の酸化ニオブ(Nb5―x)を生成し、これを原料粉末として焼結することにより、厚さ方向の全域でターゲット比抵抗が低く、常に安定したDCスパッタリングが可能な酸化ニオブスパッタリングターゲットが得られることが判明した。
【0015】
そこで、市販の酸化ニオブ粉末(Nb粉末)を還元性雰囲気で還元処理を施して、(例えば、カーボン製のるつぼで高温焼成処理、或いは、水素、一酸化炭素等を含む還元性ガス中での熱処理)、酸素欠損状態となった酸化ニオブ粉末(Nb5−x粉末)を作製し、得られたNb5−x粉末を原料粉とし、この原料粉を、所定の焼結条件に従って、酸化ニオブ(Nb5−x)による焼結体を得た。その焼結体を所定形状に機械加工して、酸化ニオブスパッタリングターゲットを作製したところ、ターゲット厚さ方向の全域で、ターゲット比抵抗を低くでき、この酸化ニオブスパッタリングターゲットを用いた酸化ニオブ膜の成膜では、常に安定したDCスパッタリングが可能であることが確認された。さらに、酸化ニオブ粉末(Nb粉末)を還元処理した際に、より導電性の高い酸化ニオブ(Nb1229)が生成されることも判明した。この酸化ニオブ(Nb1229)を含む酸化ニオブ粉末を焼結して得た焼結体中にも、このNb1229相が分散分布し、この相の存在が、ターゲット比抵抗のより一層の低下に寄与しているという知見が得られた。
【0016】
したがって、本発明は、上記知見から得られたものであり、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。
(1)本発明による酸化ニオブスパッタリングターゲットは、酸化ニオブ焼結体であって、該酸化ニオブ焼結体の厚さ方向の全域で、比抵抗が、0.001〜0.05Ω・cmであり、
前記酸化ニオブ焼結体は、ターゲット厚み方向での比抵抗の最大差が0.02Ω・cm以下、かつ、スパッタ面内での比抵抗の最大差が0.02Ω・cm以下であることを特徴とする。
(2)前記(1)の酸化ニオブスパッタリングターゲットの前記酸化ニオブ焼結体における酸化ニオブ結晶粒の平均結晶粒径が、100μm以下であることを特徴とする。
(3)前記(1)又は(2)の酸化ニオブスパッタリングターゲットの前記酸化ニオブ焼結体は、化学式:Nb5−x(ただし、x=0.005〜0.1)を満たす酸化ニオブからなることを特徴とする。
(4)前記(1)乃至(3)のいずれかの酸化ニオブスパッタリングターゲットの前記酸化ニオブ焼結体は、化学式:Nb5−x(ただし、x=0.005〜0.1)を満たす酸化ニオブ粉末を用いて焼結されることを特徴とする。
(5)前記(1)乃至(4)のいずれかの酸化ニオブスパッタリングターゲットの前記酸化ニオブ焼結体の素地中に、Nb1229相が均一に分布していることを特徴とする。
(6)本発明による酸化ニオブスパッタリングターゲットの製造方法は、酸化ニオブ粉末を還元処理して酸素欠損酸化ニオブ粉末を得る還元工程と、得られた酸素欠損酸化ニオブ粉末を、酸素欠損酸化ニオブ粉末の酸素含有量ばらつきを低減させるための混合工程と、非酸化雰囲気にて焼結して焼結体を得る焼結工程と、を有することを特徴とする。
(7)前記(6)の酸化ニオブスパッタリングターゲットの製造方法における前記還元工程では、酸化ニオブ粉末を、還元雰囲気で、500℃以上で熱処理して、化学式:Nb5−x(ただし、x=0.005〜0.1)を満たす酸素欠損状態の酸化ニオブ粉末を生成することを特徴とする。
(8)前記(6)又は(7)のいずれかの酸化ニオブスパッタリングターゲットの製造方法では、前記酸素欠損酸化ニオブ粉末の結晶粒径が、100μm以下であることを特徴とする

【0017】
本発明において、酸化ニオブスパッタリングターゲットは、酸素欠損状態の酸化ニオブを焼結した焼結体から構成される。通常の酸化ニオブ(Nb)は、導電性を示さないが、この酸化ニオブ粉末に還元処理を施すと、酸素欠損状態の酸化ニオブ(Nb5―x)粉末が生成され、これが導電性を示すようになる。この酸素欠損量xを調整することにより、酸化ニオブ粉末の比抵抗が変化する。そこで、この酸素欠損状態の酸化ニオブ(Nb5―x)粉末を原料として焼結すると、得られた焼結体は、該焼結体の厚さ方向の全域で、低い比抵抗を示すことになる。この焼結体による酸化ニオブスパッタリングターゲットを用いて酸化ニオブ膜を成膜するとき、直流(DC)スパッタリングを可能にするには、その比抵抗が、0.05〜0.001Ω・cmであることが好ましい。
【0018】
本発明の酸化ニオブスパッタリングターゲットにおける酸化ニオブ焼結体中の酸化ニオブ結晶粒の平均結晶粒径が、100μm以下であることを特徴とする。この平均結晶粒径が大きいと、スパッタリング時の異常放電が多発し、安定したDCスパッタリングが行えなくなるため、その平均結晶粒径を、100μm以下とした。
【0019】
なお、酸化ニオブスパッタリングターゲットを用いたスパッタリングで形成された酸化ニオブ膜の特性を改善するため、本発明の酸化ニオブスパッタリングターゲットに、ターゲット組成として、Cr、Ce、Zr、Hf、Y、Mo、W、Si、Al、B等を添加することができる。
【0020】
本発明による酸化ニオブスパッタリングターゲットの製造方法では、酸化ニオブ粉末を還元処理して酸素欠損状態の酸化ニオブ粉末を得る還元工程と、得られた酸素欠損状態の酸化ニオブ粉末を非酸化雰囲気にて焼結して焼結体を得る焼結工程と、を有することとした。
この還元処理工程では、例えば、市販の酸化ニオブ粉末(Nb粉末)をカーボン製のるつぼに入れ、所定の還元条件、即ち、真空中又は不活性ガス中にて、温度500〜1100℃で、3〜5時間加熱して還元処理を行い、酸素欠損状態の酸化ニオブ(Nb5―x)粉末を作成した。この還元処理において、化学式:Nb5−x(ただし、x=0.005〜0.1)までの還元処理を行うためには、酸化ニオブ粉末(Nb粉末)の粒径は2〜25μmが好ましい。得られた還元粉末については、必要に応じて、酸素欠損酸化ニオブ粉末の酸素含有量ばらつきを低減させるため、乾式ボールミル装置にて、1〜3時間、80〜120rpmの回転数で混合した。この後、得られたNb5−x粉末を、平均粒径が100μm以下となるように、32〜600μmの目開きの篩にかけて分級した。
【0021】
また、次の焼結工程では、還元工程で得られたNb5−x粉末を原料粉とし、この原料粉を、モールドに充填し、所定の焼結条件、即ち、真空槽内を10−2Torr(1.3Pa)の到達真空圧力まで排気した後、保持温度800〜1300℃で2〜3時間、圧力20〜60MPaで焼結することにより、酸素欠損状態の酸化ニオブ(Nb5−x)による焼結体を作製した。そして、その焼結体を所定形状に機械加工して、酸化ニオブスパッタリングターゲットを作製した。
なお、焼結には、ホットプレス(HP)、熱間静水圧プレス法(HIP法)、或いは、還元雰囲気での常圧焼結のいずれも用いることができる。
【0022】
本発明の酸化ニオブ膜は、上記本発明の酸化ニオブスパッタリングターゲットを用いてスパッタリング成膜されたこと特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上の様に、本発明によれば、酸化ニオブスパッタリングターゲットの焼結体は、酸素欠損状態の酸化ニオブ(Nb5―x)の焼結で得られるので、ターゲットの厚さ方向(エロージョン深さ方向)の全域で、酸素欠損状態の酸化ニオブ(Nb5―x)で構成され、さらには、導電性の高いNb1229相も分散されているので、厚さ方向の全域でターゲット比抵抗を低くでき、しかも、ターゲット内で一様となるため、常に安定したDCスパッタリングが可能となるだけでなく、ターゲット比抵抗を低くすることにより、スパッタリングの成膜レートを向上できるので、生産性向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】スパッタリングターゲットのスパッタ面内方向の比抵抗測定を説明する図である。
図2】本発明に係る酸化ニオブスパッタリングターゲットの一具体例について、スパッタリングターゲットの組織をEPMAにより測定した各元素の元素分布像である。
図3】本発明に係る酸化ニオブスパッタリングターゲットの一具体例について、X線回折(XRD)による分析結果を示すグラフである。
図4】従来技術による酸化ニオブスパッタリングターゲットの一具体例について、X線回折(XRD)による分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
つぎに、この発明の酸化ニオブスパッタリングターゲット及びその製造方法について、以下に、実施例により具体的に説明する。
【0026】
〔第1実施例〕
<還元処理>
市販の酸化ニオブ粉末(Nb粉末)を焼結する前に、還元処理を施して、酸素欠損状態となった酸化ニオブ粉末(Nb5−x粉末)を作成した。
先ず、市販の酸化ニオブ粉末(Nb粉末)をカーボン製のるつぼに入れ、表1に示される還元条件に従って、真空中にて、温度500〜1100℃で、3〜5時間加熱して還元処理を行った。次いで、この還元処理で酸素欠損状態となった酸化ニオブ粉末(Nb5−x粉末)とジルコニアボールとをポリ容器(ポリエチレン製ポット)に入れ、乾式ボールミル装置にて、1〜3時間、80〜120rpmの回転数で混合した。この後、得られたNb5−x粉末を、平均粒径が100μm以下となるように、32〜600μmの目開きの篩にかけて分級した。
【0027】
<ターゲット製造>
この様にして得られたNb5−x粉末を原料粉とし、この原料粉を、モールドに充填し、表2に示される焼結方法及び焼結条件に従って、真空槽内を10−2Torr(1.3Pa)の到達真空圧力まで排気した後、保持温度900〜1200℃で2〜3時間、圧力15〜50MPaでホットプレス(HP)することにより、酸化ニオブ(Nb5−x)による焼結体を作製した。そして、その焼結体を機械加工して、直径152.4mmを有する実施例1、4、7、9の酸化ニオブスパッタリングターゲットを作製した。
【0028】
また、得られたNb5−x粉末を原料粉とし、保持温度800〜1200℃で2〜3時間、圧力35〜60MPaで熱間静水圧プレス(HIP)することにより、酸化ニオブ(Nb5−x)による焼結体を得て、実施例2、3、5、8の酸化ニオブスパッタリングターゲットを作製した。さらに、得られたNb5−x粉末を原料粉とし、保持温度1200℃で5時間、還元雰囲気で、常圧焼結することにより、酸化ニオブ(Nb5−x)による焼結体を得て、実施例6の酸化ニオブスパッタリングターゲットを作製した。
【0029】
〔比較例〕
実施例の酸化ニオブスパッタリングターゲットと比較するため、比較例1〜3の酸化ニオブスパッタリングターゲットを用意した。比較例1及び2の場合では、市販のニオブ酸化物粉末(Nb粉末)を焼結して酸化ニオブスパッタリングターゲットを製造したものであって、比較例1では、ホットプレスで焼結し、比較例2では、熱間静水圧プレス法で焼結した。また、比較例3の場合では、市販の酸化ニオブ粉末(Nb粉末)をカーボン製のるつぼ内で、温度300℃で、5時間加熱して還元処理を行い、得られた酸化ニオブ粉末(Nb5−x粉末)をホットプレスして、焼結体を作製した。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
<酸素欠損量の測定>
実施例1〜9及び比較例1〜3について、還元処理後の酸化ニオブ粉末(還元粉)における酸素欠損量を次の手順で測定した。
(手順1)得られた還元粉を、100℃で、1時間加熱し、乾燥させる。
(手順2)乾燥後の粉を1g秤量し、予め熱処理し恒量されたるつぼに入れる。乾燥後の粉の重量をa、るつぼの重量をbとする。
(手順3)電気炉にて、800℃、2時間の加熱を行い、デシケーター内で、30〜60分間放冷し精秤する。これを恒量に達するまで繰り返す。熱処理後のるつぼと粉の重量をcとする。
(手順4)次の計算式に従い、酸素欠損量xを算出する。
5−x=〔/(c−b)×(Nb原子量×2+O原子量×5)−Nb原子量×2〕/O原子量
以上の手順1〜4を3回繰り返して行い、得られた酸素欠損量xの平均値を酸素欠損量とした。なお、この酸素欠損量xは、還元処理された酸化ニオブ粉末における欠損した酸素の総量を表しており、酸素欠損酸化ニオブを、化学式:Nb5−xで表した。
以上の結果が、表1の「還元粉酸素欠損」欄に示されている。

【0033】
さらに、実施例1〜9及び比較例1〜3の酸化ニオブスパッタリングターゲットについて、酸素欠損量を測定した。次の手順で測定した。
スパッタリングターゲットの酸素欠損測定にあたっては、得られた焼結体をメノウ乳鉢にて粉砕し、得られた粉を、上述の手順と同様にして処理し、上述の計算式で、酸素欠損量xを求めた。
以上の結果が、表2の「焼結体酸素欠損」欄に示されている。
【0034】
次いで、実施例1〜9及び比較例1〜3の酸化ニオブ還元粉末、及び、スパッタリングターゲットについて、Nb1229相の有無を評価した。
<EPMA画像によるNb1229相の観察>
本発明に係る酸化ニオブスパッタリングターゲットの一例について、EPMA(フィールドエミッション型電子線プローブ)にて得られた元素分布像を、図2に示した。図中の3枚の写真から、組成像(COMP像)、Nb、Oの分布の様子を観察することができる。
なお、EPMAによる元素分布像は、本来カラー像であるが、図2の写真では、白黒像に変換して示しているため、その写真中において、白いほど、当該元素の濃度が高いことを表している。具体的には、Nb及びOに関する分布像では、白い部分が一様に分布しており、酸化ニオブが存在していることが観察されるが、COMP像による分布像では、灰色を示す酸化ニオブの素地中に、Nb1229相が分散分布している様子を観察することができる。
【0035】
<XRDによるNb1229相の有無の評価>
XRD測定条件
・試料の準備:得られた焼結体をメノウ乳鉢にて粉砕したものを測定試料とした。
・装置:理学電気社製(RINT−Ultima/PC)
・管球:Cu
・管電圧:40kV
・管電流:40mA
・走査範囲(2θ):5°〜80°
・スリットサイズ:発散(DS)2/3度、散乱(SS)2/3度、受光(RS)0.05mm
・測定ステップ幅:2θで0.04度
・スキャンスピード:毎分4度
・試料台回転スピード:30rpm
上記測定により得られたXRDパターンのピークのうち、Nb1229相の(4 0 0)面、(14 0 0)に由来するピークに帰属されるピークが検出された場合を「有」、検出されなかった場合を「無」とした。
本発明に係る酸化ニオブスパッタリングターゲットの一例について、XRD分析結果のグラフを図3に示した。このグラフによれば、Nb1229相の(4 0 0)面、(14 0 0)に由来するピークに帰属されるピークが検出されていることが分かる。一方、従来技術(比較例)による酸化ニオブスパッタリングターゲットの一例について、XRD分析結果のグラフを図4に示したが、Nb1229相に由来するピークが検出されていない。
なお、Nb1229相の帰属にあたっては、次の論文に記載のNb1229を参照した。〔Norin, R. Acta Chem. Scand., Vol. 17, P1391 (1963)〕
実施例1〜9及び比較例1〜3の酸化ニオブ還元粉末に関する評価結果が、表1の「Nb1229相の有無」欄に、そして、スパッタリングターゲットに関する評価結果が、表2の「Nb1229相の有無(XRD)」欄にそれぞれ示されている。
【0036】
<比抵抗の測定>
得られた実施例1〜9及び比較例1〜3の酸化ニオブスパッタリングターゲットについて、その加工面(表面)から焼結体の厚さ方向(エロージョン深さに対応)の全域を、抵抗測定装置により、比抵抗を測定した。ここで、直径152.4mm×厚さ10mmの酸化ニオブスパッタリングターゲットを前述の製造方法で作製し、エロージョン深さ方向に、表面(0mm)から、2mm、4mm、5mm、6mm、8mmまで削り、そこでの比抵抗を測定した。以上の結果が、表3に示されている。なお、比較例1〜3では、オーバーレンジとなったため、「測定範囲外」とし、それ以降については、測定しなかったので、「−」で示した。
また、表面(0mm)においては、図1に示したようなターゲットスパッタ面内の5箇所についての比抵抗を測定した。スパッタ面内方向について、各測定点での最大差(最高値と最低値との差)を算出した。以上の結果が、表4に示されている。なお、比較例1〜3では、オーバーレンジとなったため、「測定範囲外」とし、それ以降については、測定しなかったので、「−」で示した。
この抵抗測定装置として、三菱化学株式会社製の低抵抗率計(Loresta-GP)を用い、四探針法で、比抵抗(Ω・cm)測定した。測定時の温度は23±5℃、湿度は50±20%にて測定された。
【0037】
【表3】

【0038】
【表4】

【0039】
<成膜レートの測定>
得られた実施例1〜9及び比較例1〜3の酸化ニオブスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリングによる酸化ニオブ膜の成膜を実施し、成膜レートを測定した。
スパッタリングに際しては、DC電源、ターゲット−基板間距離TS=70mm、使用ガスAr、ガス圧0.67Pa、ガス流量は、50sccmに固定して、ニオブ酸化物膜を基板上に成膜した。この成膜された酸化ニオブ膜の厚さを計測し、成膜レート(nm/sec)を算出した。
以上の結果が、表5の「スパッタ特性」欄に示されている。
【0040】
<DCスパッタリングの可否評価>
得られた実施例1〜9及び比較例1〜3の酸化ニオブスパッタリングターゲットについて、DCスパッタリングの可否を評価するため、直径152.4mm×厚さ10mmの酸化ニオブスパッタリングターゲットを前述の製造方法で作製した。
ここで得られた酸化ニオブスパッタリングターゲットを用いて、ターゲット−基板間の距離TS=70mm、使用ガスAr、ガス圧0.67Pa、ガス流量は、50sccmにて、DC電源により連続放電を行った。そこで、酸化ニオブスパッタリングターゲットの表面部(0mm)からエロージョン部(厚さ方向に、スパッタリングで削れた部分)までの、エロージョン深さが、2mm、4mm、5mm、6mm、8mmになるまでDCスパッタリングを行った。
各エロージョン深さにおいて、DCスパッタリングを継続して可能な場合を、「○」とし、放電が起こらず、または異常放電が多発し、DCスパッタリングが適用できなくなった場合を、「×」とした。なお、DCスパッタリングができなくなった以降については、「−」を付した。その結果が、表5の「DCスパッタ可否評価(エロージョン深さ)」欄に示されている。
【0041】
【表5】

【0042】
以上の各表に示された結果によれば、実施例1〜9の酸化ニオブスパッタリングターゲットのいずれについても、酸素欠損状態の酸化ニオブ(Nb5―x)で構成され、さらには、導電性の高いNb1229相が分散していることが確認され、しかも、ターゲット厚み方向の全域で、比抵抗が、0.001〜0.05Ω・cmの範囲内であり、さらに、該厚み方向における比抵抗の最大差が0.02Ω・cm以下を達成でき、また、ターゲットスパッタ面内の全域で、比抵抗が、0.001〜0.05Ω・cmの範囲内であり、さらに、該ターゲットスパッタ面での面内比抵抗の最大差が0.02Ω・cm以下を達成できることが分かった。そのため、実施例1〜9の酸化ニオブスパッタリングターゲットでは、ターゲット厚さ方向の全域、及び、スパッタ面内で、ターゲット比抵抗を一様に低くできたので、常に安定したDCスパッタリングが可能となるだけでなく、ターゲット比抵抗を低くすることにより、スパッタリングの成膜レートを向上できることが分かった。
【0043】
一方、比較例1及び2の酸化ニオブスパッタリングターゲットは、原料粉として、市販のニオブ酸化物粉末(Nb粉末)を用いて、そのまま焼結したものであって、還元処理されていないため、その焼結体では、焼結時に生成された酸素欠損量の少ない酸素欠損酸化ニオブ(Nb5―x)が厚さ方向の途中まで生成されるだけであり、特に、Nb1229相が存在していないので、ターゲット厚さ方向の全域、及び、スパッタ面内で、ターゲット比抵抗を一様に低くすることはできなかった。また、比較例3の酸化ニオブスパッタリングターゲットでは、酸化ニオブ粉末(Nb粉末)を還元処理した酸素欠損酸化ニオブ粉末(Nb5−x粉末)を原料粉として、焼結体を得ているが、還元処理の還元条件である温度が300℃であったため、酸素欠損量の少ない酸素欠損酸化ニオブ(Nb5―x)が生成されるに留まり、特に、Nb1229相が存在していないので、ターゲット厚さ方向の全域、及び、スパッタ面内で、ターゲット比抵抗を一様に低くすることはできなかった。比較例1〜3の酸化ニオブスパッタリングターゲットのいずれも、DCスパッタリングが途中で行えなくなり、DCスパッタリングが行えても、成膜レートも向上されなかった。
【0044】
〔第2実施例〕
本発明の第2実施例では、酸化ニオブ焼結体における酸化ニオブ結晶粒の平均結晶粒径が、100μm以下である酸化ニオブスパッタリングターゲットを製作した。
【0045】
この酸化ニオブスパッタリングターゲットの製作にあたっては、例として、上記第1実施例における実施例1の還元粉を用いた。この還元粉は、上述したように、酸化ニオブ粉末(Nb粉末)に還元処理を施して、酸素欠損状態となった酸化ニオブ粉末(Nb5―x粉末)であり、表6には、実施例10〜14の還元粉が示されている。実施例10〜14について、還元粉における酸素欠損量を、第1実施例の場合と同様の手順で測定した。上述の計算式で、酸素欠損量xを求めた。その結果が、表6の「還元粉酸素欠損Nb5−x」欄に示されており、いずれの還元粉も、実施例1のものを使用しているので、x=0.05である。また、Nb1229相の有無についても確認されている。
【0046】
次いで、この還元粉とジルコニアボールとをポリ容器(ポリエチレン製ポット)に入れ、乾式ボールミル装置にて、1〜3時間、80〜120rpmの回転数で混合した。この後、得られたNb5−x粉末を、平均粒径が2〜100μmとなるように、32〜600μmの目開きの篩にかけて分級した。表6の「還元粉平均粒径(μm)」欄に、実施例10〜14の還元粉の平均粒径が示されている。
【0047】
この様にして得られた還元粉(Nb5−x粉末)を原料粉とし、第1実施例の場合と同様にして、この原料粉を、モールドに充填し、表7に示される焼結方法及び焼結条件に従って、真空雰囲気で、保持温度900〜1200℃で2〜3時間、圧力15〜50MPaでホットプレス(HP)することにより、酸化ニオブ(Nb5−x)による実施例10〜14の焼結体を作製した。そして、その焼結体を機械加工して、直径152.4mmを有する実施例10〜14の酸化ニオブスパッタリングターゲットを作製した。
【0048】
さらに、実施例10〜14の酸化ニオブスパッタリングターゲットについて、第1実施例の場合と同様の手順で、酸素欠損量を測定した。上述の計算式で、酸素欠損量xを求めた。その結果が、表7の「焼結体酸素欠損Nb5−x」欄に示されている。また、第1実施例の場合と同様にして、XRDによるNb1229相の有無の評価を行い、表7の「焼結体Nb1229相の有無」欄に示した。
【0049】
また、実施例10〜14の酸化ニオブスパッタリングターゲットについて、酸化ニオブ結晶粒径を測定した。この測定では、各酸化ニオブスパッタリングターゲットにおいて、5箇所のサンプリングを行い、EBSD(Electron Back Scatter Diffraction Patterns)を用い、解析装置(TSL社製OIM data collection)によって得られた解析データから、各箇所での結晶粒径を測定した。得られた各値を平均し、平均結晶粒径とした。その結果が、表7の「焼結体平均結晶粒径(μm)」欄に示されている。
【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
次に、得られた実施例10〜14の酸化ニオブスパッタリングターゲットについて、第1実施例の場合と同様にして、その加工面(表面)から焼結体の厚さ方向(エロージョン深さに対応)の全域を、抵抗測定装置により、比抵抗を測定した。前述の製造方法で作製された酸化ニオブスパッタリングターゲットを、エロージョン深さ方向に、表面(0mm)から、2mm、4mm、5mm、6mm、8mmまで削り、そこでの比抵抗を測定した。以上の結果が、表8に示されている。さらに、表面(0mm)については、図1に示したようなターゲットスパッタ面内の5箇所についての比抵抗を測定した。スパッタ面内方向について、各測定点での最大差(最高値と最低値との差)を算出した。以上の結果が、表9に示されている。
【0053】
【表8】

【0054】
【表9】

【0055】
得られた実施例10〜14の酸化ニオブスパッタリングターゲットを用いて、スパッタリングによる酸化ニオブ膜の成膜を実施し、成膜レートを測定した。第1実施例の場合と同様にして、この成膜された酸化ニオブ膜の厚さを計測し、成膜レート(nm/sec)を算出した。その結果が、表10の「スパッタ特性成膜レート(nm/sec)」欄に示されている。
【0056】
さらに、得られた実施例10〜14の酸化ニオブスパッタリングターゲットについて、DCスパッタリングの可否を評価した。第1実施例の場合と同様に、これらの酸化ニオブスパッタリングターゲットを用いて、ターゲット表面部(0mm)からエロージョン部(厚さ方向に、スパッタリングで削れた部分)までの、エロージョン深さが、2mm、4mm、5mm、6mm、8mmになるまでDCスパッタリングを行った。ここで、各エロージョン深さにおいて、DCスパッタリングを継続して可能な場合を、「○」とした。その結果が、表10の「DCスパッタ可否評価(エロージョン深さ)」欄に示されている。
【0057】
上記のDCスパッタリングが行われた際に、スパッタリング時の異常放電発生回数を測定した。1時間のスパッタリングを行い、マイクロ・アーク異常放電の発生回数をスパッタ電源装置に付属したアーキングカウンターにて自動的にその回数を計測した。また、ターゲットをスパッタしていき、エロージョン部分の深さが表面から2mm・4mm・6mm・8mmになった時点からもそれぞれ同様に1時間ずつのスパッタリングを行い、異常放電の発生回数を計測した。この測定結果を表11に示した。
【0058】
【表10】

【0059】
【表11】

【0060】
以上の各表に示された結果によれば、実施例10〜14の酸化ニオブスパッタリングターゲットのいずれについても、実施例1〜9の酸化ニオブスパッタリングターゲットと同様に、酸素欠損状態の酸化ニオブ(Nb5―x)で構成され、さらには、導電性の高いNb1229相が分散していることが確認され、しかも、ターゲット厚み方向の全域で、比抵抗が、0.001〜0.05Ω・cmの範囲内であり、さらに、該厚み方向における比抵抗の最大差が0.02Ω・cm以下を達成でき、また、ターゲットスパッタ面内の全域で、比抵抗が、0.001〜0.05Ω・cmの範囲内であり、さらに、該ターゲットスパッタ面での面内比抵抗の最大差が0.02Ω・cm以下を達成できるともに、特に、酸化ニオブ結晶粒の平均結晶粒径が、100μm以下であることが確認でき、スパッタリング時の異常放電回数も抑制できることが分かった。そのため、実施例10〜14の酸化ニオブスパッタリングターゲットでは、ターゲット厚さ方向の全域、及び、スパッタ面内で、ターゲット比抵抗を一様に低くでき、しかも、異常放電回数を低減できたので、常に安定したDCスパッタリングが可能となるだけでなく、ターゲット比抵抗を低くすることにより、スパッタリングの成膜レートを向上できることが分かった。
なお、これまでに述べた第2実施例では、第1実施例の実施例1における還元粉を用いた場合についてであったが、第2実施例は、この実施例1の場合に限られず、用いる還元粉が、化学式:Nb5−x(ただし、x=0.005〜0.1)を有する場合であっても、上述の効果を奏することが確認されている。
【0061】
以上では、焼結体の形状については、特に限定して説明しなかったが、この焼結体が、本発明に係る酸素欠損酸化ニオブ(Nb5−x)で作製されていれば、その厚さ方向の全域で、低い比抵抗を実現できるので、その形状は、平板であっても、また、円筒であってもよい。
図1
図2
図3
図4