特許第6403124号(P6403124)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403124
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】野菜の加工方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 19/00 20160101AFI20181001BHJP
   A23L 5/30 20160101ALI20181001BHJP
   A23L 33/20 20160101ALI20181001BHJP
【FI】
   A23L19/00 A
   A23L5/30
   A23L33/20
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-76104(P2016-76104)
(22)【出願日】2016年4月5日
(65)【公開番号】特開2017-184662(P2017-184662A)
(43)【公開日】2017年10月12日
【審査請求日】2017年7月14日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514306168
【氏名又は名称】株式会社ブロード
(74)【代理人】
【識別番号】100165423
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 雅久
(72)【発明者】
【氏名】相良 信治
(72)【発明者】
【氏名】栗原 和子
(72)【発明者】
【氏名】小平 礼
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−149054(JP,A)
【文献】 特開2002−051698(JP,A)
【文献】 特開2007−105000(JP,A)
【文献】 特表2010−525790(JP,A)
【文献】 特開2006−043640(JP,A)
【文献】 特開平10−262574(JP,A)
【文献】 透析会誌 (1989) Vol.22, No.9, pp.995-998
【文献】 清水拓生、外3名、「鳥取市里仁古民家の改修計画−医食同源の空間をめざして−」、鳥取環境大学紀要 (2012) Vol.9-10, pp.71-90、[検索日 2018年4月16日]、インターネット <URL: http://www.kankyo-u.ac.jp/f/845/bulletin/009-010/071-090.pdf>
【文献】 佐藤幸徳、外1名、「腎臓病透析患者にやさしい低カリウム野菜の栽培研究と商品化戦略」、秋田県立大学ウェブジャーナルA (2015) Vol.3、pp.15-24、[検索日 2018年4月16日]、インターネット <URL: https://akita-pu.repo.nii.ac.jp/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=604&item_no=1&page_id=13&block_id=21>
【文献】 栄養学雑誌 (1972) Vol.30, No.5, pp.191-197
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 19/00
A23L 5/00
A23L 33/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS/WPIX(STN)
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
野菜に針を突き刺して針穴を形成する穿孔工程と、
前記針穴が形成された前記野菜を水に浸す浸漬工程と、を具備し、
前記穿孔工程において、前記針の延在方向に超音波振動が加えられることを特徴とする野菜の加工方法。
【請求項2】
前記浸漬工程において、前記水に超音波振動が加えられることを特徴とする請求項1に記載の野菜の加工方法。
【請求項3】
前記浸漬工程において、前記水を貯留する容器または前記水が循環する循環経路には、カリウムを吸着する吸着材が設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の野菜の加工方法。
【請求項4】
前記吸着材として、大谷石が用いられることを特徴とする請求項3に記載の野菜の加工方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜の加工方法に関し、特に、野菜等に含まれるカリウム量を低減することができる野菜の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な野菜や果物には植物の必須栄養素であるカリウムが含有されている。腎臓病患者の中には、摂取したカリウムを尿として十分に排出できないため、野菜や果物の摂取量を制限されている人がいる。このような人たちのために、カリウム含有量の少ない野菜の栽培方法や野菜や果物に含まれるカリウムの除去方法等が研究されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、カリウム含有量の少ない野菜の栽培方法として、低カリウム野菜の水耕栽培方法が開示されている。同文献の水耕栽培方法では、種まき時からの初期栽培期には、通常肥料を用い、収穫前の所定の期間である最終栽培期には、カリウム及びナトリウムを含まず、マグネシウムを多く含み、水溶液のpH値が5〜9である肥料を用いている。
【0004】
また、例えば、非特許文献1には、野菜や果物に含まれるカリウムの除去方法として、野菜等を切断し、酢等の有機酸に浸漬することにより、野菜等からカリウムを除去する方法が開示されている。同文献には、有機酸の種類及び野菜等の切断方法の違いによるカリウムの溶出量の変化について記載されている。例えば、野菜等の切断方法の違いによる影響として、りんごは、4等分の切り方よりもいちょう切りの方がカリウムの溶出量が多く、胡瓜は、輪切りよりも千切りの方がカリウムの溶出量が多いことが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−183062号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】中野典子、宇野良子共著 「透析患者におけるカリウム除去の検討」椙山女学園大学研究論集 第32号(自然科学篇) 2001年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示された従来技術の栽培方法は、リーフレタス、フリルレタス、サンチュ及びサラダ菜等の根ごと収穫可能な特定の葉野菜を栽培する方法であって、その他の一般的な野菜についてカリウムを低減できるものではなかった。そのため、様々な種類の野菜や果物を食したいという、カリウム摂取量を制限されている人達の要望に応えることができない。
【0008】
また、例えば、非特許文献1に開示された従来技術のカリウムの除去方法によれば、野菜を細かく裁断すれば、より多くのカリウムを除去できる可能性が示唆される。しかしながら、カリウムを除去するために野菜を細かく切断すると、野菜本来の食感が損なわれてしまう。また、同文献に開示されているように野菜を酢等の有機酸に浸漬させる方法では、野菜本来の風味が損なわれてしまうという問題点もある。
【0009】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、野菜等の風味や食感を保持しつつ、野菜等に含まれるカリウム量を低減することができる野菜の加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の野菜の加工方法は、野菜に針を突き刺して針穴を形成する穿孔工程と、前記針穴が形成された前記野菜を水に浸す浸漬工程と、を具備し、前記穿孔工程において、前記針の延在方向に超音波振動が加えられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明の野菜の加工方法によれば、野菜等に針を突き刺して針穴を形成する穿孔工程と、穿孔工程によって針穴が形成された野菜等を水に浸す浸漬工程と、を具備する。これにより、野菜等に含まれるカリウムを水の中に溶出させて、野菜等のカリウム含有量を減らすことができる。
【0012】
特に、浸漬工程の前に実行される穿孔工程で野菜等に針穴を形成することにより、野菜等からカリウムが溶出し易くなる。その理由は、針穴が形成されることによって野菜等の切断面が多くなることによると考えられる。このように、本発明によれば、野菜等に含まれるカリウムを効率的に除去することができる。
【0013】
また、野菜等に針穴を形成してカリウムを除去することができるので、野菜等を細かく切る必要がない。そのため、野菜本来の食感等を保持することができる。また、有機酸等を用いることなく、水によってカリウムを溶出させるので、野菜等の風味が損なわれることもない。
【0014】
また、本発明によれば、前記浸漬工程において、前記水に超音波振動が加えられても良い。これにより、水を介して野菜等に超音波振動が加えられ、野菜等からのカリウムの溶出を促進することができる。
【0015】
また、本発明によれば、前記穿孔工程において、前記針の延在方向に超音波振動が加えられても良い。これにより、針穴近傍における野菜等の損傷を抑えて切断面をきれいに形成することができる。その結果、針穴近傍から野菜等の変色や腐食等が発生することを抑えることができ、野菜等を長持ちさせることができる。
【0016】
また、本発明によれば、前記浸漬工程において、前記水を貯留する容器または前記水が循環する循環経路には、カリウムを吸着する吸着材が設けられても良い。このような構成により、吸着材で水中のカリウムを吸着することができ、水中のカリウム濃度を下げることができる。これにより、水中のカリウムが飽和状態になることを抑制して、野菜等からのカリウムの効率的な溶出を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る野菜の加工方法を示すフローチャートである。
図2】本発明の実施形態に係る野菜の加工方法で用いられる穿孔具の(A)斜視図、(B)側面図、である。
図3】本発明の実施形態に係る野菜の加工方法で用いられる針の(A)変形例を示す側面図、(B)横断面図、(C)他の変形例を示す側面図、(D)横断面図、である。
図4】本発明の実施形態に係る野菜の加工方法で用いられるカリウム除去装置の概略図である。
図5】本発明の実施例による試料の加工条件を示す表である。
図6】本発明の実施例による試験結果を示すグラフである。
図7】本発明の実施例による試験結果を示すグラフである。
図8】本発明の実施例による試験結果を示すグラフである。
図9】本発明の実施例による試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る野菜の加工方法を図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る野菜の加工方法を示すフローチャートである。本発明の野菜の加工方法は、喫食や調理に適した所定の大きさにカットされて出荷されるいわゆるカット野菜の加工方法であり、特に、野菜や果物等から効率良くカリウムを除去して、低カリウム含有量のカット野菜や果物等を製造する方法である。
【0019】
図1に示すように、本発明の野菜の加工方法は、素材である野菜等を準備する準備工程S10と、野菜等に針穴を形成する穿孔工程S20と、野菜等をカットするカット工程S30と、野菜等からカリウムを除去する浸漬工程S40と、を具備する。
【0020】
先ず、準備工程S10では、加工される野菜等の下準備が行われる。具体的には、素材である収穫後の生野菜等について、水洗い、不要部分の切除、加工に適した大きさへのカット、異物等の除去、殺菌等が行われる。
【0021】
次に、穿孔工程S20において、下準備後の野菜等に複数の針穴が形成される。詳細については後述するが、針穴は、針41(図2参照)を突き刺すことによって形成され、針41を突き刺す際には、針41に延在方向の超音波振動が加えられる。なお、針穴は、野菜等を貫通しても良いし、貫通しなくても良い。即ち、本願において針穴とは、野菜等を貫通する孔及び貫通しない穴の何れをも含む。
【0022】
次に、カット工程S30において、針穴が形成された野菜等は、出荷サイズ、即ち喫食や調理に適した所定の大きさ、に切断される。
【0023】
そして次に、浸漬工程S40において、複数の針穴が形成された野菜等は、水に浸漬される。これにより、野菜等に含まれるカリウムが水中に溶出し、野菜等に含まれるカリウムを減らすことができる。なお、浸漬工程S40では、後述するカリウム除去装置1(図4参照)が用いられる。
【0024】
前述のとおり、浸漬工程S40の前に実行される穿孔工程S20で野菜等に針穴が形成されることにより、浸漬工程S40において野菜等からカリウムが溶出し易くなる。また、浸漬工程S40では、水中に超音波振動が加えられる。これにより、野菜等からのカリウムの溶出が促進される。
【0025】
なお、前述の穿孔工程S20とカット工程S30の順番を入れ替えて、カット工程S30で野菜等を所定の大きさに切断した後に、穿孔工程S20を実行し、所定の大きさにカットされた後の野菜等に針穴を形成することとしても良い。
【0026】
次に、所定の大きさにカットされてカリウムが低減された野菜等は、殺菌工程S50において、例えば、微酸性電解水の溶液に浸され殺菌される。
そして、殺菌された野菜等は、所定の容器等に収められて包装され、図示しない検査工程等を経て、出荷される(工程S60)。
【0027】
図2(A)は、図1に示す穿孔工程S20において野菜等に針穴を形成するために用いられる穿孔具40の斜視図であり、図2(B)は、穿孔具40の側面図である。
図2(A)に示すように、穿孔具40は、略板状の基部42と、基部42の一主面に立設される複数の針41と、を有する。複数の針41は、夫々略平行に、且つ基部42の前記一主面に対して略垂直に設けられる。
【0028】
図2(B)に示すように、複数の針41は、夫々所定の配置間隔L1で基部42に配列される。これにより、野菜等に対して略均一的に分布するように針穴を形成することができ、浸漬工程S40(図1参照)において、野菜等から効率的にカリウムを溶出させることができる。なお、針41の配置間隔L1は、1mmから10mmであり、好ましくは、2mmから5mmである。
【0029】
また、穿孔具40に設けられる針41の直径φD1は、φ0.5mmからφ2mmであり、好ましくは、φ1mmからφ1.5mmが良い。また、針41の針先の角度θ1は、20度から40度が好ましく、更に好ましくは、28度から30度である。このように針41の形状が好適に設定されることにより、野菜等からのカリウムの溶出を促進しつつ、野菜等の損傷を抑制し、野菜等の変色等を抑えることができる。
【0030】
基部42の他の主面、即ち針41が形成される前記一主面の反対側となる主面には、超音波振動子43が取り付けられる。超音波振動子43は、図示しない超音波発振機に接続されて超音波振動を発する。野菜等に針穴を形成する穿孔工程S20において、超音波振動子43が振動することにより、基部42を介して針41に、針41の延在方向に振れる超音波振動が加えられる。
【0031】
このように、穿孔工程S20において針41に超音波振動が加えられることにより、針穴近傍における野菜等の損傷を抑えて切断面をきれいに形成することができる。その結果、針穴近傍から野菜等の変色や腐食等が発生することを抑えることができ、野菜等を長持ちさせることができる。
【0032】
なお、穿孔具40は、例えば、リニアアクチュエータ等の図示しない駆動装置によって駆動されるよう構成されても良い。また、超音波振動子43が取り付けられる位置は上記の例に限定されるものではなく、例えば、穿孔具40に接続されて穿孔具40を移動させるための支持軸等に設けられても良い。
【0033】
以上説明のように、穿孔工程S20で野菜等に針穴が形成されることにより、浸漬工程S40において野菜等からカリウムが溶出し易くなる。その理由は、針穴が形成されることによって野菜等の切断面が多くなることによると考えられる。このように、本発明によれば、野菜等に含まれるカリウムを効率的に除去することができる。また、野菜等に針穴を形成してカリウムを除去することができるので、野菜等を細かく切る必要がない。そのため、野菜本来の食感等を保持することができる。
【0034】
なお、穿孔具40の形態は、上記の例に限定されるものではなく、針41に相当する針状体が略均等に配置され、且つ野菜等に対して突き刺し易い構成であれば良い。例えば、穿孔具の基部の形態を略円柱状とし、基部の円周部に該円周部から径方向に突設される複数の針状体を形成しても良い。そして、略円柱状に形成される穿孔具をその円柱軸を中心に回転させることにより、野菜等に針状体を順次突き刺して、野菜等に針穴を形成しても良い。
【0035】
図3(A)は、針41(図2参照)の変形例である針141の先端部近傍の側面図であり、図3(B)は、図3(A)に示す針141の横断面図ある。また、図3(C)は、針41の他の変形例である針241の先端部近傍の側面図であり、図3(D)は、図3(C)に示す針241の横断面図である。
【0036】
穿孔具40(図2参照)の針の先端部形状は、針41のような略円錐形状に限定されるものではなく、図3(A)及び(B)に示す針141のように、針141の軸に対して傾斜する平面で斜めに切断された形状でも良い。なお、針141の針先の角度θ2は、図2に示す針41の針先の角度θ1と同様に、20度から40度が好ましく、更に好ましくは、28度から30度である。
【0037】
また、図3(B)に示すように、針141の直径φD2は、図2に示す針41の直径φD1と同様に、φ0.5mmからφ2mmであり、好ましくは、φ1mmからφ1.5mmが良い。
【0038】
上記のように、穿孔具40の針として、針先に傾斜平面を有する針141を用いた場合であっても、野菜等からのカリウムの溶出を促進しつつ、野菜等の損傷を抑制し、野菜等の変色等を抑えることができる。
【0039】
また、図3(C)及び(D)に示す針241のように、穿孔具40の針は、横断面略矩形状に形成されても良い。換言すれば、針241は、略板状の針であっても良い。このように、略板状の針241を用いて針穴を形成することにより、野菜等に略スリット状の針穴が形成される。
【0040】
なお、図3(C)に示す針241の針先の角度θ3は、図2に示す針41の針先の角度θ1と同様に、20度から40度が好ましく、更に好ましくは、28度から30度である。また、図3(D)に示す針241の横断面において、長辺の長さL2は、1mmから5mmであり、より好ましくは2mmから4mmである。また、針241の横断面において、短辺の長さL3は、0.1mmから0.5mmであり、好ましくは0.2mmから0.4mmが良い。
【0041】
上記のように、穿孔具40の針として、横断面が略矩形状に形成される針241を用いた場合であっても、野菜等からのカリウムの溶出を促進しつつ、野菜等の損傷を抑制し、野菜等の変色等を抑えることができる。
【0042】
なお、穿孔具40に用いられる針は、上記の各例に限定されるものではなく、適度な太さで野菜等に対して突き刺し易い形状であれば良い。例えば、針の横断面形状としては、略多角形状や略楕円形状等であっても良い。
【0043】
図4は、本発明の野菜の加工方法の浸漬工程S40(図1参照)で用いられるカリウム除去装置1の概略図である。なお、図4に示す矢印は、循環経路32内の水30が流れる方向を示している。
【0044】
前述のとおり、野菜等からカリウムを溶出させる浸漬工程S40は、カリウム除去装置1を用いて行われる。図1に示すように、カリウム除去装置1は、加工される野菜や果物等である野菜3からカリウムを除去する装置であり、水30が貯留され且つ処理される野菜3が投入される水槽20と、超音波振動を発生させる超音波加振装置21と、水30を攪拌するための攪拌装置25と、水30からカリウムを吸着するカリウム吸着装置10と、を有する。
【0045】
水槽20内には、カリウムを溶出させる溶媒として、例えば、水30が貯留される。水槽20内の水30に針穴5が形成された野菜3を投入することにより、野菜3に含まれるカリウムは、水30に溶出され、野菜3に含まれるカリウムの量が減少する。このように溶媒として水30を用いることにより、人体に有害な化学物質等が混入する恐れがなく、食品としての安全性を確保しつつ野菜3のカリウムを低減することができる。また、酢等の有機酸に浸漬する方法と異なり、野菜3の風味が損なわれることもない。
【0046】
超音波加振装置21は、超音波信号を発生させる超音波発振機22と、超音波発振機22に接続されて超音波振動を発生させる超音波振動板23と、有する。超音波振動板23は水槽20の内部若しくは下方に、水槽20に対して振動伝達可能に設けられる。浸漬工程S40において、超音波振動板23が振動することにより、水槽20を介して、水30に超音波振動が伝えられる。そして、水30を介して、水槽20内の野菜3に、超音波振動が加えられることになる。
【0047】
なお、カリウム除去装置1は、タイマ手段を有する図示しない制御装置を備え、該制御装置によって、超音波振動板23は、間欠的に超音波振動を発するよう稼働されても良い。浸漬工程S40において間欠的に超音波振動が加えられることにより、超音波振動に起因する水30及び野菜3の温度上昇が抑えられる。これにより、浸漬工程S40における温度上昇によって野菜3が暖められてその風味が低下してしまうことが抑制される。
【0048】
攪拌装置25は、水槽20内に配置される攪拌翼27と、攪拌翼27に接続されるモータ26と、を有する。浸漬工程S40において、攪拌装置25のモータ26を駆動することにより攪拌翼27が回転し、水槽20内の水30が攪拌される。
【0049】
浸漬工程S40において、水30が攪拌されることにより、野菜3から溶出されたカリウムによって野菜3近傍のカリウムの濃度が高くなることが抑制され、水槽20内の水30のカリウムの濃度を均一化することができる。その結果、野菜3からカリウムが溶出し易い状態を保つことができる。
【0050】
なお、攪拌装置25による攪拌は、図示しない制御装置によって、間欠的に実行されても良い。これにより、水30及び野菜3の温度上昇を抑え、温度上昇による野菜3の劣化を抑制することができる。
【0051】
また、水槽20には、水30を循環させるための循環経路32が接続される。循環経路32には、カリウム吸着装置10及びポンプ31が設けられる。ポンプ31が稼働することにより、水槽20からカリウム吸着装置10に水30を送ることができる。
【0052】
カリウム吸着装置10は、循環経路32に接続されて水30が流れる流路を有し、その流路の内部には、水30に含まれるカリウムを吸着する吸着材11が設けられる。吸着材11は、カリウムイオンを選択的に吸着する機能を有する物質であれば良く、例えば、ゼオライトを含む火山岩やカリウム吸着フィルタ等を用いることができる。本発明では、吸着材11として、二酸化ケイ素を含有して多孔質状に形成されている流紋岩質軽石凝灰岩が用いられる。吸着材11に用いられる流紋岩質軽石凝灰岩として、具体的には、大谷石が挙げられる。
【0053】
浸漬工程S40において、ポンプ31が稼働されて水槽20からの水30がカリウム吸着装置10に送られる。これにより、水30に含まれるカリウムが吸着材11に吸着されて、水30からカリウムが取り除かれる。
【0054】
そして、カリウムが除去されてカリウムの濃度が低下した水30は、カリウム吸着装置10から循環経路32を経由して水槽20に戻される。これにより、水槽20内の水30のカリウム濃度を下げることができる。よって、水槽20内の水30のカリウム濃度を低い状態に保つことができ、カリウムが飽和状態になることが避けられ、野菜3からのカリウムの効率的な溶出が維持される。
【0055】
なお、ポンプ31は、図示しない制御装置によって、間欠的に稼働されても良い。これにより、水30及び野菜3の温度上昇が抑えられ、野菜3の品質劣化が抑制される。
【0056】
また、前述のように循環経路32を設けて循環経路32にカリウム吸着装置10を接続する構成に代えて、吸着材11を水槽20の内部に配置して水30に浸漬させる構成を採用することも可能である。このように吸着材11を水槽20の水30に浸漬させることによっても、水30のカリウムの濃度が過度に上昇することを抑えることができる。
【0057】
[実施例]
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。なお、本発明は以下に挙げる実施例によって何ら限定されるものではない。
【0058】
図5は、本発明の実施例による各試料の加工条件を示す表である。以下、図5に示す試料P1〜P9について、夫々の加工方法及びカリウム除去に関する試験結果の例を説明する。
【0059】
試料P1〜P9は、素材となる野菜としてキャベツを用いた。図5に示すように、野菜の大きさによる影響を調べるために、2種類の大きさにカットされた素材を準備した。試料P1〜P6、P8の素材として、キャベツをおよそ1cm×1cmの略正方形にカットしたものを準備し、試料P7、P9の素材として、およそ2cm×2cmの略正方形にカットしたものを準備した。
【0060】
また、野菜に針穴が形成されることによる効果を比較するため、針穴が形成されていない試料P1、P3、P8、P9と、針穴が形成されている試料P2、P4〜P7と、の2種類の素材を準備した。なお、針穴は、図2に示す穿孔具40を用いて、約3mmから4mmの間隔(針41の配置間隔L1に相当)で形成した。穿孔の際には、穿孔具40に超音波振動を加えている。
【0061】
次に、図4に示すカリウム除去装置1を用いて、準備した試料P1〜P9の素材からカリウムを溶出させる浸漬工程S40(図1参照)を実行した。具体的には、準備した試料P1〜P9の素材12gを夫々約500ccの水に浸漬し、攪拌装置25(図4参照)によって約500rpmで水を攪拌しながら、カリウムを溶出させた。
【0062】
超音波振動の有無によるカリウム溶出の変化を確認するため、試料P1、P2、P5については、超音波振動板23(図4参照)の振動を停止し、試料P3、P4、P6〜P9については、超音波振動板23を振動させて超音波振動を加えた。なお、超音波振動板23による加振は、断続的に行い、1時間毎に約10分間、超音波振動板23を振動させた。
【0063】
また、吸着材11(図4参照)による影響を確認するため、試料P1〜P4については、吸着材11なしでポンプ31(図4参照)を停止して、試料P5〜P9については、吸着材11として大谷石を用いてポンプ31を稼働して、カリウムを溶出させた。
【0064】
そして、上記のように加工された各試料P1〜P9について、含有されるカリウムの量を測定した。なお、カリウム含有量の測定は、浸漬工程S40の開始から約1時間毎に行った。
【0065】
なお、カリウムの測定には、株式会社堀場製作所製コンパクトカリウムイオンメータP−731を用いた。測定方法は、各試料P1〜P9を2g取り出し、乳鉢に入れてすり潰し、1ccの純水を加えて溶液を作成し、その溶液のカリウムイオン濃度を測定することによる。浸漬工程S40開始前の各試料P1〜P9の素材についても同様にカリウムイオン濃度を測定し、その測定値を基準として比較することにより、カリウム残率(%)を算出して評価した。即ち、カリウム残率は、水に浸す前の素材としての野菜に含まれるカリウムの量を基準とした場合の、加工後の各試料P1〜P9に含まれるカリウムの量の割合である。
【0066】
図6ないし図9は、本発明の実施例による試験結果を示すグラフであり、各試料P1〜P9のカリウム残率を示す。なお、図6及び図8に示す実線及び破線の曲線は、各測定値に基づく近似曲線である。
【0067】
図6は、針穴が形成されていない試料P1のカリウム残率と、針穴が形成された試料P2のカリウム残率の推移を示すグラフである。図6に示すように、針穴が形成されていない試料P1では、浸漬工程S40(図1参照)を開始してから約1時間後にカリウム残率が約75%に低下するが、その後カリウム残率は大きく変化せず、カリウムの更なる溶出は認められない。
【0068】
これに対して、針穴が形成された試料P2では、カリウム残率は、約1時間後に約75%に減少し、その後も継続的に減少を続け、約4時間後には、約50%まで低下する。この結果から、野菜に針穴が形成されることにより、カリウムの溶出が促進されることが認められる。
【0069】
図7は、浸漬工程S40(図1参照)を開始してから約4時間後における各試料P1〜P6のカリウム残率を示すグラフである。図7に示すように、攪拌のみが行われる条件において、針穴が形成された試料P2のカリウム残率は、針穴が形成されていない試料P1のカリウム残率よりも低くなる。図6を参照して既に説明したとおり、針穴によるカリウム低減の効果が認められる。
【0070】
また、針穴が形成されていない素材について超音波振動がない試料P1と、超音波振動が加えられた試料P3と、を比較すると、超音波振動が加えられた試料P3の方が、カリウム残率が低い。同様に、針穴が形成された素材について超音波振動が加えられない試料P2と、超音波振動が加えられた試料P4と、を比較すると、超音波振動が加えられた試料P4の方が、カリウム残率が低い。よって、超音波振動によって、カリウムの溶出が促進されることが示される。
【0071】
また、針穴が形成された素材について、吸着材11(図4参照)を使用せずに加工された試料P2と、吸着材11として大谷石を使用して浸漬工程S40が行われた試料P5と、を比較すると、大谷石を使用して加工された試料P5の方が、カリウム残率が低い。このことより、吸着材11によって、水中のカリウムが吸着され、野菜からカリウムを溶出させる効果が高められることが分かる。
【0072】
なお、大谷石のカリウム吸着機能については、別途評価試験を実施して確認している。詳しくは、ロートにろ紙をセットし、10gの大谷石の粉末を入れ、カリウム濃度約600ppmのカリウム溶液200ccを注ぎ、ろ過後の溶液のカリウム濃度を測定した。その結果、ろ過後の溶液のカリウム濃度は、3ppmであった。これにより、大谷石によるカリウムの吸収効果が認められた。
【0073】
また、針穴が形成され、超音波による振動が加えられ、且つ吸着材11としての大谷石が使用されて加工された試料P6は、カリウム残率が約30%と最も低く、カリウム低減に適した好適な条件であることが示された。
【0074】
図8は、素材の野菜に針穴が形成され、超音波振動が加えられ、且つ大谷石が使用された条件において、大きさの異なる2種類の試料P6、P7についてカリウム残率の推移を示すグラフである。図5に示したように、試料P6の大きさは、約1cm×1cmであり、試料P7の大きさは、約2cm×2cmである。
【0075】
図8から明らかなように、大きさの異なる2種類の試料P6、P7について、カリウム残率に有意差は認められない。何れの試料P6、P7についても、浸漬工程S40(図1参照)を開始してから約1時間後にカリウム残率は、約65%に減少し、約2時間後に約40%、約3時間後には、約30%まで低下する。
【0076】
図9は、夫々大きさの異なる素材による効果を比較するものであり、針穴が形成された試料P6、P7及び針穴が形成されない試料P8、P9について、浸漬工程S40(図1参照)を開始してから約4時間後におけるカリウム残率を示すグラフである。
【0077】
試料P6及び試料P8の大きさは、約1cm×1cmであり、試料P7及び試料P9の大きさは、約2cm×2cmである。図5に示したように、試料P6〜P9の何れについても、浸漬工程S40において超音波振動が加えられ、且つ大谷石が使用された。
【0078】
図9に示すように、針穴が形成された試料P6、P7については、大きさに依らずカリウム残率が低い。図8を参照して既に説明したとおりである。他方、針穴が形成されていない試料P8、P9については、カリウム残率の差が大きく、サイズの小さい試料P8の方が、サイズの大きい試料P9よりもカリウム残率が低い。
【0079】
よって、野菜に針穴が形成されないと、野菜の切断サイズの影響を大きく受け、大きくカットされる野菜では、カリウムの溶出が少なくなることが分かる。これに対して、野菜に針穴を形成する本願発明の加工方法では、大きな野菜でも効率良くカリウムを除去できることが示された。
【0080】
以上の結果より、野菜に針穴を形成して、水に浸漬し、その水に超音波振動を加え、且つ吸着材11を使用するという本発明の加工方法は、野菜からカリウムを除去する方法として優れていることが示された。
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の変更実施が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1 カリウム除去装置
3 野菜
5 針穴
10 カリウム吸着装置
11 吸着材
20 水槽
21 超音波加振装置
22 超音波発振機
23 超音波振動板
25 攪拌装置
26 モータ
27 攪拌翼
31 ポンプ
30 水
32 循環経路
40 穿孔具
41、141、241 針
42 基部
43 超音波振動子
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9