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特許6403150廃棄物埋設処分場及び廃棄物処理システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403150
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】廃棄物埋設処分場及び廃棄物処理システム
(51)【国際特許分類】
   B09B 1/00 20060101AFI20181001BHJP
   C02F 1/28 20060101ALN20181001BHJP
   B01J 20/18 20060101ALN20181001BHJP
【FI】
   B09B1/00 FZAB
   !C02F1/28 E
   !B01J20/18 E
【請求項の数】7
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2014-122682(P2014-122682)
(22)【出願日】2014年6月13日
(65)【公開番号】特開2016-2498(P2016-2498A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年3月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】504209655
【氏名又は名称】国立大学法人佐賀大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000231198
【氏名又は名称】日本国土開発株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099508
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 久
(74)【代理人】
【識別番号】100093285
【弁理士】
【氏名又は名称】久保山 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100182567
【弁理士】
【氏名又は名称】遠坂 啓太
(74)【代理人】
【識別番号】100195327
【弁理士】
【氏名又は名称】森 博
(72)【発明者】
【氏名】荒木 宏之
(72)【発明者】
【氏名】三島 悠一郎
(72)【発明者】
【氏名】栖原 秀郎
(72)【発明者】
【氏名】大野 睦浩
【審査官】 中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−355632(JP,A)
【文献】 特開2005−263596(JP,A)
【文献】 特開平11−216441(JP,A)
【文献】 特開平07−303870(JP,A)
【文献】 特開2000−140786(JP,A)
【文献】 特開2002−126680(JP,A)
【文献】 特開2003−299948(JP,A)
【文献】 特開2015−013283(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B09B1/00−5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害イオンを含有する廃棄物を投棄し、埋め立て処分するための廃棄物埋設処分場であって、
地盤上に設けられた吸着材を含有する粘土質の土質遮蔽層と、前記土質遮蔽層上に設けられ、吸着材を含有する地内中間覆土層と、埋め立てられた廃棄物の底部に溜まる浸出水を排出するための集水管と、を有し、
前記吸着材が、ゼオライトをハイドロタルサイト様化合物で複合化した構造を有し、陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材であり、
前記地内中間覆土層は透水性を有することを特徴とする廃棄物埋設処分場。
【請求項2】
前記廃棄物が、有害イオンとして陽イオン及び陰イオンの両方を含有する請求項1に記載の廃棄物埋設処分場。
【請求項3】
前記陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材に含まれるゼオライトの割合が、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物の合計を100重量%として、10〜90重量%である請求項1または2に記載の廃棄物埋設処分場。
【請求項4】
前記地内中間覆土層が、投棄される廃棄物をサンドイッチ状に挟み込むように複数層設けられている請求項1から3のいずれかに記載の廃棄物埋設処分場。
【請求項5】
前記集水管が、有孔集水配管と、当該有孔集水配管の周囲に前記陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材を含有するイオン吸着層を有する集水管である請求項1から4のいずれかに記載の廃棄物埋設処分場。
【請求項6】
請求項1からのいずれかに記載の廃棄物埋設処分場と、前記集水管で集水され、当該廃棄物埋設処分場から排出される浸出水を一時貯留する浸出水調整池と、浸出水調整池から排出される排水にふくまれる残存有害イオンを吸着材で吸着処理する浸出水処理施設と、を備えることを特徴とする廃棄物処理システム。
【請求項7】
前記浸出水調整池及び浸出水処理施設のいずれか又は両方において、前記陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材によって残存有害イオンの吸着除去を行う請求項に記載の廃棄物処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業廃棄物等の廃棄物埋設処分場及び該廃棄物埋設処分場を備えた廃棄物処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
産業廃棄物等の埋立処分場では、通常、谷部を利用したり、地盤を掘削し、そこに廃棄物を投入した後、土砂を被せることにより埋め立て処理が行なわれる。廃棄物埋立処分場では、雨水の浸透により、埋めたてられた廃棄物から有害物質が溶出した浸出水が発生するが、底部に遮水用ゴムシートを敷設することにより浸出水の漏洩を防止し、地下水等の汚染を未然に防ぐと共に、浸出水を集水し水処理施設で処理後に放流基準以下の水質として放流している。
ところがゴムシートの破損により有害汚染物質を含む浸出水が地下に浸透し、地下水汚染、土壌汚染、下流公共用水域の汚染を引き起こす事例が跡を絶たない。一方、浸出水処理においては、想定される水質項目に応じて処理プロセスを設計し適切な処理が行われるように運転管理がなされているものの、廃棄物の種類、降雨の状況、埋め立て地の経年変化により浸出水中の汚染物質の種類や濃度が変化し、適正な処理が困難となるケースもある。
【0003】
このような埋め立てによる最終処分場として、例えば特許文献1には、地盤に処分場を掘削して処分場に廃棄物を投棄し土砂で埋設する埋設処分場であって、掘削した地盤の上に、重金属や有害化学物質を吸着できる粘土質の外部土質遮蔽層と、水封機能を備えた保水層と、透水性を有し保水層から廃棄物側に水圧をかけて水を浸透させる粘土と砂の混合土や珪藻土などの多孔質の堆積物により構成される内部土質遮蔽層とを下から順に積層した土質遮蔽水封型埋設処分場が開示されている。
【0004】
このような埋設処分場に投棄される廃棄物は、有害物質として重金属やハロゲン化物を含むことが多い。重金属やハロゲン化物は浸出水と接触した際にそれぞれ陽イオン、陰イオンとして溶出する。
廃棄物処分場において、陽イオン及び陰イオンを吸着固定化する場合には、2種類のイオン吸着材(陽イオン吸着材、陰イオン吸着材)を同時に使用して、それらを土質遮蔽層等の廃棄物処分場の吸着層に対して混合する必要がある。
陽イオンの吸着材として、例えば特許文献2にはゼオライト系吸着材が開示されており、陰イオンの吸着材として、例えば特許文献3にはハイドロタルサイト様化合物からなる吸着材が開示されている。
しかしながら、土質遮蔽層等の吸着層と、2種類のイオン吸着材を均一に混合することは極めて困難であり、陽イオンと陰イオンの吸着効果に偏りが生じ、期待された効果が得られないことが多い。
【0005】
そのため、陽イオン及び陰イオンを同時に吸着できる吸着材が開発されている。例えば、特許文献2には、Ca(OH)2等の特定のカルシウム化合物と、Al(OH)3等の特定のアルミニウム化合物との混合物の焼成物からなるイオン吸着材が開示されており、当該イオン吸着材によって、規制対象イオンである陽イオンやホウ素やクロムが形成する陰イオンを除去できるとされている。
しかしながら、当該イオン吸着材は、陽イオン吸着のためのカルシウム化合物と陰イオン吸着のためのアルミニウム化合物を混合し、焼成して合成されている。そのため、混合段階での成分の不均質化が起こりやすく、均質な性能のイオン吸着材を得ることが困難である。
また、吸着した物質を資源として有効利用する場合、特定の条件下において吸着物質を容易に脱離させる必要がある。特許文献4のイオン吸着材は、強酸性とすること吸着物質の脱離すること自体は可能であるが、同時に吸着材の吸着作用も損なわれるため、イオン吸着材を再利用することができないという問題がある。
【0006】
また、特許文献2等で開示されたゼオライト系の陽イオン吸着材や、特許文献3等で開示されたハイドロタルサイト様化合物系の陰イオン吸着材は容易に再生可能であるため、これらを混合して用いることもできるが、ゼオライトは、通常、微粉末状で合成されるのに対し、ハイドロタルサイト様化合物は粘土状であるため、両者を均一に混合することは非常に難しく、両者を混合しても不均一な性能のイオン吸着材となるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4067279号公報
【特許文献2】特開平9−75921号公報
【特許文献3】特開2011−92822号公報
【特許文献4】特開2012−200688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、有害イオンを含有する廃棄物を投棄し、埋め立て処分するための廃棄物埋設処分場には改善の余地があるのが実状である。
かかる状況下、本発明の目的は、廃棄物に含まれる有害イオンとして、陽イオン、陰イオンのいずれが含まれている場合であっても、好適に有害イオンを吸着・固定化し、地盤内に拡散させないことが可能な廃棄物埋設処分場を提供することである。また、本発明の他の目的は、前記廃棄物埋設処分場から排出される浸出水に含まれる残存有害イオンを放流基準以下の水質にする廃棄物処理システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の廃棄物埋設処分場は、有害イオンを含有する廃棄物を投棄し、埋め立て処分するための廃棄物埋設処分場であって、地盤上に設けられた吸着材を含有する粘土質の土質遮蔽層と、前記土質遮蔽層上に設けられ、吸着材を含有する地内中間覆土層と、埋め立てられた廃棄物の底部に溜まる浸出水を排出するための集水管と、を有し、前記吸着材がゼオライトをハイドロタルサイト様化合物で複合化した構造を有し、陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材であることを特徴とする。
【0010】
このような構成であれば、雨水等によって廃棄物から溶出した浸出水が、吸着材を含有する地内中間覆土層と確実に接触する。そのため、予め廃棄物へイオン吸着材を混合してから処分場へ投棄した場合と比較してより少ないイオン吸着材でも効率良く有害イオンを吸着することができる。そして、地内中間覆土層に含有される吸着材が、陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有する、ゼオライトをハイドロタルサイト様化合物で複合化した構造を有するイオン吸着材であるため、廃棄物に含まれる有害イオンが、重金属等の陽イオン、ハロゲン等の陰イオンのいずれであっても吸着されて固定化される。地内中間覆土層の厚みは、廃棄物の種類や量を考慮して適宜決定される。
地内中間覆土層により吸着されずに浸出した有害イオンは、処分場底部に移動したのち、集水管によって集水されて排水され、後段の処理施設で処理される。
【0011】
粘土質の土質遮蔽層は、浸出水が地盤内に浸透することを防ぐために設けられる遮水層であり、通常、粘土質の土質遮蔽層の上にゴムシート等の遮水シートが設けられる。そのため、浸出水が粘土質の土質遮蔽層には通常到達することないが、遮水シートが破れるなどして浸出水が粘土質の土質遮蔽層に到達したとしても、粘土質の土質遮蔽層に混合された、地内中間覆土層と同様の陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材により吸着されるため、有害イオンが地盤内に浸透し、拡散することを防止することができる。
【0012】
本発明の廃棄物埋設処分場では、吸着材として、ゼオライトをハイドロタルサイト様化合物で複合化した構造を有し、陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材が使用されているため、廃棄物に含まれる有害イオンが陽イオンであっても、陰イオンであっても吸着し、固定化することができる。
そのため、前記廃棄物に含まれる有害イオンが、(1)実質的に陽イオンのみである場合、(2)実質的に陰イオンのみである場合、(3)陽イオンと陰イオンの両方を含有する場合のいずれであっても、本発明の廃棄物埋設処分場にて埋設処分が可能である。この中でも、陽イオンと陰イオンの両方を含有する廃棄物が好適な処理対象である。
また、本発明の廃棄物埋設処分場では、廃棄物に含まれる有害イオンが、陽イオン、陰イオンのいずれか(あるいは両方)であるかの事前検査を必ずしも必要としないという利点もある。
【0013】
陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材に含まれるゼオライトの割合が、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物の合計を100重量%として、10〜90重量%であることが好適であり、より好適には30〜70重量%である。このような範囲であれば、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物との複合化効果により、陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性が向上する。
【0014】
また、本発明の廃棄物埋設処分場では、前記地内中間覆土層が、投棄される廃棄物をサンドイッチ状に挟み込むように複数層設けられていることが好ましい。このような構成であると、投棄される廃棄物から溶出する有害イオンで汚染された浸出水に含まれる有害イオンを有効に吸着し、固定化することができる。この場合の地内中間覆土層の層数や厚みは、廃棄物の種類や量から予測される溶出される有害イオン量を考慮して、適宜決定すればよい。
【0015】
また、本発明の廃棄物埋設処分場において、前記集水管が、有孔集水配管と、当該有孔集水配管の周囲に前記陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材を含有するイオン吸着層を有する集水管であることが好ましい。
本発明の廃棄物埋設処分場が、このような集水管を有することにより、廃棄物埋設処分場の底部まで浸透した汚染水(浸出水)を集水管に集水する際に確実にイオン吸着材に接触するため、地内中間覆土層に含まれるイオン吸着材で捕集できなかった有害イオンが、イオン吸着層に含有されるイオン吸着材で捕集される。
上記有孔集水配管の周囲に設けられるイオン吸着層は、前記陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材のみから形成されていてもよいが、イオン吸着材以外に、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、補強剤としてセメントが挙げられる。なお、上記有孔集水配管に周囲に設けられるイオン吸着層は、必ずしも有孔集水配管の全面に設けられり必要はなく、例えば、有孔集水配管の上部周囲のみ、または有孔集水配管の下部周囲のみに設けてもよい。
【0016】
また、本発明の廃棄物処理システムは、上述した本発明の廃棄物埋設処分場と、前記集水管で集水され、当該廃棄物埋設処分場から排出される浸出水を一時貯留する浸出水調整池と、浸出水調整池から排出される排水にふくまれる残存有害イオンを吸着材で吸着処理する浸出水処理施設と、を備えることを特徴とする。
浸出水調整池と浸出水処理施設における残存有害イオンの吸着処理により、前記廃棄物埋設処分場から排出される浸出水に含まれる残存有害イオンを、確実に放流基準以下の水質にすることができる。
【0017】
また、前記廃棄物埋設処分場から排出される浸出水に含まれる残存有害イオンは、陽イオン、陰イオンのいずれをも含む可能性がある。そのため、前記浸出水調整池及び浸出水処理施設のいずれか又は両方において、前記陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材によって残存有害イオンの吸着除去を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の廃棄物埋設処分場によれば、廃棄物に有害イオンが含まれている場合であっても、ゼオライトをハイドロタルサイト様化合物で複合化した構造を有し、陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材により十分に吸着して、地盤ヘ浸透・拡散させることない。
また、本発明の廃棄物処理システムによれば、最終的に処分場の浸出水中に残った有害イオンを確実に放流基準以下の水質にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施の形態における廃棄物処理システムの構成を示す概略斜視図である。
図2】本発明の実施の形態における廃棄物埋設処分場の構成を示す概略断面図である。
図3】本発明の実施の形態における集水管の概略断面図である。
図4】本発明の実施の形態における廃棄物埋設処分場の他の構成を示す概略断面図である。
図5】本発明の実施の形態における浸出水調整池の概略断面図である。
図6】本発明の実施の形態における浸出水処理施設におけるフロー図である。
図7】参考用試料1(ゼオライト)のXRDパターンである。
図8】参考用試料2(ハイドロタルサイト様化合物)のXRDパターンである。
図9】試験例1のイオン吸着材のXRDパターンである。
図10】試験例2のイオン吸着材のXRDパターンである。
図11】試験例3のイオン吸着材のXRDパターンである。
図12】参考用試料1(ゼオライト)のSEM像である。
図13】参考用試料2(ハイドロタルサイト様化合物)のSEM像である。
図14】試験例4のイオン吸着材のSEM像である。
図15】試験例4のイオン吸着材と参考用試料2(ハイドロタルサイト様化合物)のミクロキスチンの吸着性能の比較である。
図16】試験例4のイオン吸着材及び参考用試料1(ゼオライト)のセシウムに対する等温吸着線である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。尚、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0021】
図1は本発明の実施の形態における本発明の実施の形態における廃棄物処理システムの構成を示す概略斜視図である。図1に示す廃棄物処理システム100は、廃棄物埋設処分場10と、浸出水調整池20と、浸出水処理施設30とを有する。
以下、廃棄物処理システム100を構成する設備について詳細に説明する。
【0022】
(廃棄物埋設処分場)
図2は本実施形態の廃棄物埋設処分場10の構成を示す概略断面図である。
図2に示す廃棄物埋設処分場は、自然の谷部や地面を掘削して形成した地盤1の上に、土質遮蔽層2を設け、その上に遮水シート4a、保護シート4b、上部保護層4cを積層した凹部分を有し、この凹部分に廃棄物5が投棄される。地内中間覆土層3は、所定量の廃棄物5を凹部分に廃棄したのちその上に積層させて形成される。地内中間覆土層3の上に、さらに廃棄物5が投棄され、最終的に土砂6により埋設される。
【0023】
また、廃棄物埋設処分場10の底部には集水管7が設けられている。廃棄物埋設処分場10の底部に到達した浸出水は、集水管7を介して後段の浸出水調整池20に排出される。
【0024】
廃棄物5は特に限定はなく、例えば、焼却灰や産業廃棄物等が挙げられる。これらの廃棄物に含まれる有害陽イオンは、特に限定されないが、例えばCd2+、Pb2+、Cs+、NH4+等の陽イオン、CrO42-、B(OH)4-、F-、PO43-等の陰イオンが挙げられる。
【0025】
地内中間覆土層3は、ゼオライトをハイドロタルサイト様化合物で複合化した構造を有し、陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材(以下、「本発明のイオン吸着材」と称す場合がある。)を含有する。なお、本発明のイオン吸着材の詳細については後述する。
地内中間覆土層3には、本発明のイオン吸着材が10重量%以上混合されることが好ましく、より好ましくは50重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上(100重量%含む)である。
地内中間覆土層3を構成するイオン吸着材以外の成分については、イオン吸着材のイオン吸着性を阻害することがなく、かつ、適度な透水性を有する限り限定はなく、例えば、土砂、シラス、軽石等が挙げられる。
【0026】
土質遮蔽層2は、廃棄物5および廃棄物から溶出する有害イオンを含む浸出水の地盤1への浸透・拡散を防ぐものである。粘土質の土に上述の本発明の吸着材を混合したものである。土質遮蔽層2として、本発明のイオン吸着材を含有する粘土質の土を用いることにより、浸出水が地盤1へ浸透することを防止すると共に、浸出水に含まれる有害イオンを、陽イオン、陰イオンに関わらず吸着して固定化する。
【0027】
ここで、土質遮蔽層2には本発明のイオン吸着材が10〜70重量%混合されることが好ましい。土質遮蔽層2に含まれる本発明のイオン吸着材が10%未満の場合には、土質遮蔽層2に到達した浸出水に含まれる有害イオンを充分に吸着し、固定化することが難しくなる。また、70%を超える場合には、土質遮蔽層2の遮水機能が不十分となるおそれがある。
【0028】
遮水シート4a、保護シート4b、上部保護層4cからなる底部遮水構造は、浸出水が土質遮蔽層2へ浸透することを防ぐと共に、土質遮蔽層2を補強するものである。すなわち、本実施形態の廃棄物埋設処分場10では、上記底部遮水構造及び土質遮蔽層2の2重構造によって、地盤1への浸出水の浸透を防止するものである。
なお、浸出水が地盤1へ浸透するリスクをより小さくするために、土質遮蔽層2の下にさらに遮水シートを設けてもよい。
底部遮水構造を構成する遮水シート4aとして、例えば、ゴムシートが用いられる。また、保護シート4bとして、例えば、不職布や粘土の複合シートなどが用いられる。また、上部保護層4cとして、例えば、不職布などが用いられる。
【0029】
埋め立てられた廃棄物の底部には集水管7が配設されている。図3に本実施形態に係る集水管7の概略断面図を示す。図3に示すように集水管7は、有孔集水配管7a、割栗石層7b、底部集水管根巻き材7cから構成される。
図3に示すように割栗石層7bによって粗大物が除去された浸出水Wは、有孔集水配管7aの細孔から内部に入り、後段の浸出水調整池20に供される。有孔集水配管7aは配管底部においても細孔を有するため、浸出水Wは、配管の外側下半分に接触して設けられた底部集水管根巻き材7cにも接触する。なお、「底部集水管根巻き材」とは、集水管の底部に設けられたイオン吸着層を意味する。
本実施形態の底部集水管根巻き材7cは、上記本発明のイオン吸着材を含むため、廃棄物埋設処分場の底部まで浸透し、集水管7に集水された浸出水は確実にイオン吸着材に接触する。その結果、地内中間覆土層3に含まれるイオン吸着材で捕集できなかった有害イオンが、底部集水管根巻き材7cに含有されるイオン吸着材で捕集され、後段の浸出水調整池20に供される浸出水W中の有害イオン濃度がより低減する。
【0030】
以上、本発明の実施形態の廃棄物埋設処分場10について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
例えば、遮水シート4a、保護シート4b、上部保護層4cからなる底部遮水構造を省略してもよい。また、地内中間覆土層3を処理場底部に設置してもよい。
また、上記実施の形態では地内中間覆土層3は1層のみであるが、地内中間覆土層が、投棄される廃棄物をサンドイッチ状に挟み込むように複数層設けられている構造であると、より確実に投棄される廃棄物から溶出する有害イオンで汚染された浸出水に含まれる有害イオンを有効に吸着し、固定化することができる。その具体例として、図4に2層の地内中間覆土層3を有する廃棄物埋設処分場を示す。
なお、地内中間覆土層3を複数層設ける場合の地内中間覆土層3の層数や厚みは、廃棄物の種類や量から予測される溶出される有害イオン量を考慮して、適宜決定すればよい。
【0031】
(浸出水調整池および浸出水処理施設)
浸出水調整池20は、集水管7により集められた浸出水Wを一定時間貯留することで、後段の浸出水処理施設30により処理する浸出水Wの流量を調整するものである。
本実施形態の浸出水調整池20は、図5に示すように浸出水Wを濾過するための砂ろ過層21と、砂ろ過層21の下部に設けられたイオン吸着材層22を有する。この構成により、集水管7により集められた浸出水Wは砂ろ過層21で粗大物が除去されたのちに、イオン吸着材層22により残存有害イオンが吸着される。
【0032】
浸出水処理施設30は、図6にフロー図を示すように、凝集沈殿槽、曝気槽、化学的処理槽及びイオン吸着処理槽により構成される。この凝集沈殿槽、曝気槽、化学的処理槽及びイオン吸着処理槽としては、排水処理施設で使用される従来公知のものを使用することができる。簡単に説明すると、凝集沈殿槽は、浸出水調整池20から供される浸出水Wの浮遊物質を除去するとともに、カルシウムなどを不溶化させて沈殿分離を行うものである。また、曝気槽は、活性汚泥による生物学的な反応によって浸出水中の有機物の浄化を行うものである。化学的処理槽は、例えばオゾンなどを浸出水へ与えることで、生物処理で分解できなかった難分解性の有機物を分解処理するものである。キレート吸着槽は、公知のキレート剤により有害物質である水銀などの重金属類を吸着除去する物質である。
【0033】
本実施形態では、イオン吸着槽は、造粒化した本発明のイオン吸着材が充填されており、当該造粒化した本発明のイオン吸着材に進出水を接触させることで、浸出水中に残った有害イオンを確実に放流基準以下の水質にすることができる。処理された浸出水は、必要に応じて殺菌処理など行ったのちに放流される。
【0034】
なお、本実施形態では、浸出水調整池20においてもイオン吸着材層22を設け、残存有害イオンの吸着固定化を行っているが、後段の浸出水処理施設30にて、確実に有害イオン濃度が放流基準以下の水質になればよく、必ずしもイオン吸着材層22を必要としない。また、一時貯留する浸出水調整池20において本発明のイオン吸着材を使用する場合でもイオン吸着材層22を設ける代わりに、他の方法で本発明のイオン吸着材を使用してもよい。例えば、本発明のイオン吸着材を調整池に直接散布する使用方法や、ネットに入れて浮かべておくという使用方法が挙げられる。
【0035】
また、本実施形態では浸出水調整池20や浸出水処理施設30で使用するイオン吸着材として、本発明のイオン吸着材、すなわち、ゼオライトをハイドロタルサイト様化合物で複合化した構造を有し、陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材を好適なイオン吸着材として使用している。一方で、本発明の実施形態の廃棄物処理システム100では、廃棄物埋設処分場10における有害イオンの捕集性に優れ、後段の浸出水調整池20や浸出水処理施設30に供される浸出水中の有害イオン濃度は低濃度であるため、必ずしも高性能の本発明のイオン吸着材を必要とせず、他の公知のイオン吸着材やイオン吸着方法を使用してもよい。
【0036】
例えば、浸出水処理施設30において、造粒化した本発明のイオン吸着材を使用しているイオン吸着槽に代えてイオン吸着材を充填したカラムを使用したり、イオン吸着槽に造粒化したイオン吸着材を使用するのではなく、イオン吸着材をそのまま散布するなどの方法で残存イオン吸着処理を行ってもよい。
【0037】
(イオン吸着材)
以下、本発明に係るゼオライトをハイドロタルサイト様化合物で複合化した構造を有し、陽イオン吸着性及び陰イオン吸着性の両方を有するイオン吸着材について詳細に説明する。上述のように当該イオン吸着材を「本発明のイオン吸着材」と称す。
【0038】
本発明のイオン吸着材において、「ゼオライトをハイドロタルサイト様化合物で複合化した構造」とは、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物とが互いに接触し、単純な篩分けなどでは分離しないように複合化した構造を意味する。例えば、ゼオライトをハイドロタルサイト様化合物が被覆した構造や、ゼオライトをハイドロタルサイト様化合物で結合した構造などの複合構造が挙げられる。イオン吸着材の構造は、電子顕微鏡で観察することで確認することができる。
【0039】
本発明のイオン吸着材は、ゼオライトに由来する陽イオン交換作用と、ハイドロタルサイト様化合物に由来する陰イオン交換作用により、液相中のイオンと置換することで陽イオン及び陰イオンの両方を吸着除去することができる。
また、このイオン交換反応は可逆性があるため、酸性もしくはアルカリ条件下で吸着物質の脱離が容易であり、吸着材の繰り返し利用が可能となる。更に、脱離された吸着物質のうち有害な物質は廃棄されるものの、有価資源は適正な処理をした後、再利用をすることが可能である。そのため、本発明のイオン吸着材を用いることにより、処理対象の浄化だけでなく資源回収も行うことができる。
以下、本発明のイオン吸着材の構成成分について詳細に説明する。
【0040】
(ゼオライト)
ゼオライトは、結晶中に0.4nm〜2nm程度の微細孔を持つ結晶性アルミノケイ酸塩の総称であり、Si−O四面体とAl−O四面体とが頂点のO原子を共有した三次元ネットワーク構造をもつ複合酸化物であり、その内部に含まれる交換性の陽イオン(Na+やK+)とイオン交換することで、除去対象の陽イオンが吸着除去される。
【0041】
ゼオライトとしては、ZSM−5型ゼオライト、フォージャサイト型ゼオライト、モルデナイト型ゼオライト、L型ゼオライト、A型ゼオライト、X型ゼオライト、Y型ゼオライトなどが挙げられ、いずれも使用できる。また、クリノブチライト、モルデナイトや合成ゼオライト等のゼオライト様化合物も、ゼオライトと同等の機能を有するものとして、本発明におけるゼオライトして使用できるものとする。
なお、後述する本発明の製造方法にて説明する合成ゼオライトは、本発明のイオン吸着材におけるゼオライトとして好適である。
【0042】
ゼオライトの種類は、本発明のイオン吸着材の目的とする処理対象(排水、河川等の汚染水、汚染土壌等)を考慮して適宜選択すればよい。
【0043】
(ハイドロタルサイト様化合物)
本発明において、ハイドロタルサイト様化合物は、下記一般式(I)で表される化合物を意味する。
[M2+1-x3+x(OH)2][An-x/n・mH2O]・・・・・・・(I)
【0044】
なお、式(I)で表される化合物において、M2+とM3+は2価及び3価の金属イオンであり、An-x/nは層間陰イオンを表す。また。xは、0.20〜0.33の範囲の数値である。
また、[An-x/n・mH2O]におけるmは0以上の数値であり、脱水状態によって大きく変化する。
【0045】
ハイドロタルサイト様化合物は、[M2+1-x3+x(OH)2]で表されるシート状の水酸化物が幾層も重なった層状構造を有し、その層間には、交換性の陰イオン(An-x/n)と水(H2O)が保持された構造を有する。なお、静電的なバランスは、層間に陰イオンが取り込まれることによって保たれていて、層間の陰イオン同士の隙間には水分子(層間水)が存在する。
ハイドロタルサイト様化合物はシートの積み重なり方によって、菱面体晶系と六方晶系のポリタイプがあり、本発明のイオン吸着材ではいずれでもよい。
【0046】
ハイドロタルサイト様化合物は、その層間に含まれる陰イオンと、イオン交換することで、除去対象の陰イオンが吸着除去される。
【0047】
シート状の水酸化物を構成する2価の金属イオン(M2+)としては、Mg2+、Ca2+、Mn2+又はCu2+等が挙げられる。また、3価の金属イオン(M3+)としては、Al3+、Fe3+又はTi3+等が挙げられる。また、層間陰イオン(An-x/n)としては、Cl-、CO3-、SO42-などが挙げられる。
【0048】
本発明のイオン吸着材におけるハイドロタルサイト様化合物の合成方法については、後述する本発明の製造方法にて説明する。
【0049】
(イオン吸着材の組成)
本発明のイオン吸着材において、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物の割合は、それぞれが均質な組成物を形成できる範囲であればよく、使用目的に応じて選択すればよい。例えば、処理対象における、陽イオン含有量が多い場合はゼオライトの割合を大きくし、陰イオン含有量が多い場合はハイドロタルサイト様化合物の割合を多くすればよい。
本発明のイオン吸着材に含まれるゼオライトの重量割合は、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物の合計を100重量%として、通常、0.01〜99.9重量%であり、好適には10〜90重量%であり、より好適には30〜70重量%である。
【0050】
(イオン吸着材の用途)
本発明のイオン吸着材の除去対象イオンは、特に限定されないが、例えばCd2+、Pb2+、Cs+、NH4+等の陽イオン、CrO42-、B(OH)4-、F-、PO43-等の陰イオンが挙げられる。
【0051】
また、本発明のイオン吸着材は、上記除去対象イオンを吸着した後に、例えば、酸またはアルカリ性水溶液、NaCl水溶液、これらを複合した水溶液に浸漬することで、吸着したイオンを脱離することができるので、資源回収技術として使用することもできる。
【0052】
本発明のイオン吸着材は、完全に乾燥させる前には、粘土のような粘り気を有するため、容易に任意の大きさとすることができる。そのため、使用用途に応じて適宜粒径を制御できる。例えば、粒径50〜500μm程度に調整することが可能である。
【0053】
<イオン吸着材の製造方法>
本発明のイオン吸着材は、再現性よく製造できる点で、以下に説明する製造方法(以下、「本発明のイオン吸着材の製造方法」又は単に「本発明の製造方法」と称す。)で製造されることが好適である。
【0054】
以下、本発明のイオン吸着材の製造方法について説明する。
本発明のイオン吸着材の製造方法は、下記工程を有することを特徴とする。
工程(1):
ゼオライト及びアルカリ溶液を含有する原料(A)を調製する工程
工程(2):
2価金属(M2+)を含む可溶性塩及び3価金属(M3+)を含む可溶性塩を、水を主体とする溶媒に溶解し、ハイドロタルサイト様化合物の前駆体を含有する原料(B)を調製する工程
工程(3):
前記原料(A)と前記原料(B)とを接触させて、ゼオライト及びハイドロタルサイト様化合物を含むスラリーを得る工程
【0055】
本発明の製造方法の特徴のひとつは、工程(3)において、前駆体を含む原料(B)からハイドロタルサイト様化合物を合成する際に必要となるアルカリ成分を、ゼオライトを含むアルカリ原料(A)として添加することにある。このようにすることで、ゼオライトと、合成されるハイドロタルサイト様化合物とが均等に分散した微細粒子を含むスラリー状が得られる。このスラリーから通常、溶媒を留去して、イオン交換剤として用いられる。
【0056】
このような本発明のイオン吸着材の製造方法では、イオン吸着材を合成する段階において陽イオン交換性を有するゼオライトと陰イオン交換性を有するハイドロタルサイト様化合物が混合され、両者が複合化しているため、合成後のハイドロタルサイト様化合物にゼオライト粉末を混合する場合と比較して、均質なイオン吸着能を有するイオン吸着材を再現性良く安定的に製造することができる。
【0057】
以下、本発明のイオン吸着材の製造方法における各工程をより詳細に説明する。
【0058】
<工程(1)>
工程(1)は、ゼオライトとアルカリ溶液を含有する原料(A)を調製する工程である。
ゼオライトの物性等は、本発明の上述のイオン吸着材にて説明した通りであるため、説明を省略する。
【0059】
原料(A)としては、ゼオライト及びアルカリ溶液を含有していればよく、ゼオライトがアルカリ溶液に分散した溶液あるいはスラリー、顆粒状のゼオライトにアルカリ溶液を含有させたもの等いかなる形態でもよい。
原料(A)におけるゼオライトとアルカリ溶液の割合は、本発明のイオン吸着材におけるゼオライトとハイドロタルサイト様化合物の比率を考慮し、かつ、工程(3)において原料(A)と原料(B)とが、短時間に均等にできる範囲で決定される。
【0060】
また、原料(A)は、アルカリ性、すなわちpH7超を必須とし、pH11以上が好ましい。原料(A)のpHが7未満であると、工程(3)において、原料(B)と混合した際に混合溶液が所定のpHとならず、ハイドロタルサイト様化合物が形成されない。
【0061】
原料(A)におけるアルカリ溶液の溶媒は、水又は水を主体とする溶媒である。当該溶媒の水の割合は、50重量%以上、好ましくは80重量%以上(100重量%含む)である。水以外の溶媒としては、揮発性を高めるために、エタノールなどが挙げられる。
【0062】
原料(A)に含まれるゼオライトは、天然のゼオライトでもよく、合成したゼオライトでもよく、水又は水を主体とする溶媒に塩基性塩と共に添加して、アルカリ性の原料(A)を調製する。
ここで、原料(A)の調整方法として、シリカ源、アルミナ源、塩基性塩を含む溶液を加熱処理してゼオライトを合成することによって原料(A)を調製すると、ゼオライトの分散性の高くなることに加え、合成時に使用した塩基性塩によりアルカリ性となるため、別途塩基性塩を添加する必要がないという利点がある。
【0063】
ゼオライト合成に用いられるシリカ源、アルミナ源、及び塩基性塩は、本発明のイオン吸着材として機能する陽イオン吸着性を有するゼオライトが合成できるものであればよく、特に制限はない。
具体的には、ゼオライト合成に好ましく用いられるシリカ源として、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム等のケイ酸塩等が挙げられる。また、シリカガラスをシリカ源として使用してもよい。アルミナ源として、例えば、アルミン酸ナトリウム等が挙げられる。塩基性塩として、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属の水酸化物が挙げられる。
【0064】
シリカ源、アルミナ源及び塩基性塩を、目的とする種類のゼオライトが形成される割合で混合し、加熱処理を行うことで、目的とする種類のゼオライトを形成する。加熱方法は特に限定はないが、例えば、水熱処理またはマイクロ波による加熱処理を挙げることができる。
【0065】
特に単一骨格を有するゼオライトを再現性良く形成できる点で、特開2012−41251号公報で開示された製造方法により、合成されたゼオライトが好ましい。当該方法では、100℃以下の低温で目的とするゼオライトが合成でき、かつ、合成後の溶液はアルカリ性であるため、合成後の溶液を原料(A)として用いることができる。
【0066】
なお、原料(A)には、本発明の効果を損なわない範囲で、ゼオライト以外の成分を任意の割合で含有していてもよい。例えば、pH調整剤、粘度調製剤などが挙げられる。
【0067】
原料(A)の各成分を混合するときの温度は、通常は室温でよいが、性能を損なわない範囲で、40〜100℃程度に加温してもよい。
混合順序も反応や沈殿物が発生するなど特段の問題がない限り任意であり、原料(A)の構成成分のうち、何れか2成分又は3成分以上を予め配合し、その後に残りの成分を混合してもよいし、一度に全部を混合してもよい。
【0068】
<工程(2)>
工程(2)は、ハイドロタルサイト様化合物の前駆体として、2価金属(M2+)を含む可溶性塩及び3価金属(M3+)を含む可溶性塩を、水を主体とする溶媒に溶解した原料(B)を調製する工程である。
【0069】
3価金属(M3+)を含む可溶性塩としては、ハイドロタルサイト様化合物の前駆体となりうる化合物であればよい。好ましくは、Al、Fe及びTiのいずれか1種を含む可溶性塩であり、それぞれの元素の塩化物(MCl3)、硫酸塩(M2(SO43)、硝酸塩(M(NO33)等が挙げられる。この中でも、Al塩化物であるAlCl3は好適な前駆体の一つである。
【0070】
2価金属(M2+)を含む可溶性塩としては、ハイドロタルサイト様化合物の前駆体となりうる化合物であればよい。好ましくは、Mg、Ca、Mn及びCuのいずれか1種を含む可溶性塩であり、それぞれの元素の塩化物(MCl3)、硫酸塩(M2(SO43)、硝酸塩(M(NO33)等が挙げられる。この中でも、Mg塩化物であるMgCl2は好適な前駆体の一つである。
【0071】
溶媒としては、水を主体とする溶媒が用いられる。当該溶媒の水の割合は、50重量%以上、好ましくは80重量%(100重量%含む)である。水以外の溶媒としては、上記可溶性の溶解性を損なわない溶媒が選択され、例えば、エタノールなどが挙げられる。
【0072】
2価金属(M2+)を含む可溶性塩及び3価金属(M3+)を含む可溶性塩の割合は、合成目的のハイドロタルサイト様化合物の組成及びゼオライトに対する重量割合を考慮して適宜決定される。
【0073】
なお、原料(B)には、本発明の効果を損なわない範囲で、2価金属(M2+)を含む可溶性塩及び3価金属(M3+)を含む可溶性塩以外の成分を任意の割合で含有していてもよい。例えば、pH調整剤、粘度調製剤などが挙げられる。
【0074】
原料(B)は、構成成分(2価金属(M2+)を含む可溶性塩及び3価金属(M3+)を含む可溶性塩、必要に応じて他の成分)を混合することで調整することができる。通常、水を主体とする溶媒に、前記構成成分を添加することにより調整される。
原料(B)を調整するときの温度は、通常は室温であるが、性能を損なわない範囲で、室温以下に冷却したり、30〜70℃程度に加温してもよい。
混合順序も反応や沈殿物が発生するなど特段の問題がない限り任意であり、原料(B)の構成成分のうち、何れか2成分又は3成分以上を予め配合し、その後に残りの成分を混合してもよいし、一度に全部を混合してもよい。
【0075】
<工程(3)>
工程(3)は、工程(1)及び工程(2)で調製した、原料(A)と原料(B)とを接触させて、ゼオライト及びハイドロタルサイト様化合物が複合化したイオン吸着材を含むスラリーを得る工程である。
工程(3)では、原料(B)に含まれるハイドロタルサイト様化合物の前駆体は、pH6.0以上となることによって、ハイドロタルサイト様化合物を形成する。
本発明の製造方法の特徴は、そのアルカリ源として原料(A)を用いることにあり、ゼオライトを含む原料(A)と原料(B)との接触により、ゼオライト存在下でハイドロタルサイト様化合物が合成されるので、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物とが均一に結合し、複合化したイオン吸着材を得ることができる。
【0076】
より均質なハイドロタルサイト様化合物が形成される点で、pH6.0〜8.0の範囲であることが好ましい。この範囲になるように、原料(A)の塩基性塩濃度、添加量を調整する。
【0077】
原料(A)と原料(B)とを接触させるときの温度は、通常は室温であるが、性能を損なわない範囲で、室温以下に冷却したり、30〜70℃程度に加温してもよい。
【0078】
原料(A)と原料(B)とを接触させる方法としては、ハイドロタルサイト様化合物が形成され、特段の問題がない限り任意である。すなわち、原料(A)と原料(B)とを一度に全部を混合してもよいし、原料(A)の一部を原料(B)に添加、混合を繰り返して混合してもよい。
【0079】
ハイドロタルサイト様化合物とゼオライトがより均一に結合するように原料(B)に原料(A)を滴下することによって、原料(A)と原料(B)とを接触させて行うことが好ましい。この際、原料(B)を撹拌しながら原料(A)を滴下することがより好ましい。
【0080】
なお、混合後のスラリーには、本発明の効果を損なわない範囲で、原料(A)及び原料(B)以外の成分を任意の割合で含有させてもよい。例えば、pH調整剤、粘度調製剤などが挙げられる。
【0081】
また、工程(3)において、原料(B)に含まれるハイドロタルサイト様化合物の前駆体に対する、原料(A)由来のアルカリが不足する場合に、さらにアルカリ溶液を添加することが好ましい。追加添加されるアルカリ溶液における塩基性塩、溶媒は、本発明の効果を損なわない限り、任意である。
【0082】
また、原料(A)及び原料(B)の混合後のスラリーには、必要に応じて水や水を主体とする溶媒を添加して希釈してもよい。
【0083】
<工程(4)>
工程(3)で得られるスラリーには、本発明のイオン吸着材が含まれる。スラリーをこのまま用いることもできるが、
本発明の製造方法では、さらに、工程(4)として、工程(3)で得られたイオン吸着材を含むスラリーへ炭酸塩、硝酸塩及び硫酸塩から選ばれる1種の化合物を溶解させた溶液(C)を添加する、又は当該スラリーを固液分離して得られたイオン吸着材を溶液(C)に添加することにより、イオン吸着材に含まれる交換性陰イオンを置換させる工程を有していてもよい。
例えば、原料に塩化物を使用した場合、層間陰イオンとしてCl-が入った、Cl型ハイドロタルサイト様化合物が合成されるが、用途に応じて、炭酸イオン(CO32-)、硫酸イオン(SO42-)、硝酸イオン(NO3-)等に置換してもよい。
【0084】
<その他の工程>
工程(3)で得られるスラリーには、本発明のイオン吸着材が含まれる。スラリーをこのまま用いることもできるが、通常、脱水工程により、溶媒を除去して用いられる。脱水方法は公知の方法を用いて行えばよく、例えば、濾過、遠心分離、加圧脱水、減圧脱水等による固液分離方法が挙げられる。
また、脱水工程の前段に、洗浄工程により不純物を除去してもよい。また、より不純物を除去するために、洗浄と脱水を2回以上繰り返し行ってもよい。洗浄に用いる溶媒は水であることが好ましく、より好ましくは純水および/またはイオン交換水である。
【0085】
スラリーを脱水した後には、粘土状のイオン吸着材が得られる。粘土状のイオン吸着材は所定の大きさに粒径調整したのちに乾燥させることで、所定粒径の乾燥したイオン吸着材を得ることができる。また、粘土状の塊のまま乾燥させて、その後粉砕して粒径を整えてもよい。
乾燥方法については、特に限定されず、公知の熱風乾燥、真空乾燥等を使用することができる。また、乾燥時の雰囲気は特に限定されるものではないが、通常、大気雰囲気である。減圧雰囲気中で行うこともできる。
乾燥温度は、イオン吸着材の物性が変化して、イオン吸着性が低下しない範囲で選択され、通常、100℃以下である。
【実施例】
【0086】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を変更しない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0087】
使用した原料は次の通りである。
「原料」
・塩化マグネシウム六水和物(WAKO)
・塩化アルミニウム六水和物(WAKO)
・水酸化ナトリウム(WAKO)
・炭酸ナトリウム(WAKO)
・蒸留水(WAKO)
・発泡ガラス(粒径30〜100μm)
・アルミン酸ナトリウム(朝日化学工業株式会社)
【0088】
<試験例1のイオン吸着材の合成>
工程(1):原料(A)の調整
原料(A)としてのゼオライト含有アルカリ溶液は、以下の手順で調整した。
まず、シリカ源として粒径30〜100μmの発泡ガラス1000gを使用し、該発泡ガラスに対し、アルカリ源の水酸化ナトリウム2300gを混合し、常圧85〜95℃で、8時間加熱して発泡ガラスの溶解液(ガラス溶解液)を得た。次いで、ガラス溶解液に対してアルミナ源のアルミン酸ナトリウム3100gを混合し、攪拌しながら常圧85〜95℃で、8時間加熱してゼオライトを合成し、ゼオライトとアルカリ溶液を含有する溶液である原料(A)を得た。
原料(A)中のゼオライト濃度は、10〜12重量%、pHは14であった。
【0089】
工程(2):原料(B)の調整
2価金属(M2+)を含む可溶性塩である塩化マグネシウム六水和物17.31g、3価金属(M3+)を含む可溶性塩である塩化アルミニウム六水和物10.30gを蒸留水27.61gに添加して溶解させることで、ハイドロタルサイト様化合物の前駆体を含有する原料(B)を得た。
【0090】
工程(3):原料(A)と原料(B)との混合
原料(B)55.22gに対し、原料(A)55.22gを添加し、撹拌して十分に混合した後、3倍希釈用に蒸留水331.32gを添加し、混合してスラリーを得た。得られたスラリーをろ過により固液分離して得た固形分を100℃、10時間乾燥することで、試験例1のイオン吸着材を得た。表1に使用した原料及び溶媒(水)の重量をまとめて示す。
なお、原料(A)55.22gにはゼオライト成分6.64mg、原料(B)55.22gにはハイドロタルサイト様化合物成分が10mg含まれる。そのため、得られたイオン吸着材中のゼオライトの割合は、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物の合計を100重量%として、40重量%である。
【0091】
<試験例2のイオン吸着材の合成>
試験例1と同様の原料(A)と原料(B)を使用した。
原料(B)55.22gに対し、原料(A)110.44gを添加し、撹拌して十分に混合した後、3倍希釈用に蒸留水496.98gを添加し、混合してスラリーを得た。得られたスラリーをろ過により固液分離して得た固形分を100℃、10時間乾燥することで、試験例2のイオン吸着材を得た。表1に使用した原料及び溶媒(水)の重量をまとめて示す。
なお、原料(A)110.44gにはゼオライト成分13.3mg、原料(B)55.22gにはハイドロタルサイト様化合物成分が10mg含まれる。そのため、得られたイオン吸着材中のゼオライトの割合は、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物の合計を100重量%として、57重量%である。
【0092】
<試験例3のイオン吸着材の合成>
試験例1と同様の原料(A)と原料(B)を使用した。
原料(B)55.22gに対し、原料(A)165.66gを添加し、撹拌して十分に混合した後、3倍希釈用に蒸留水662.64gを添加し、混合してスラリーを得た。得られたスラリーをろ過により固液分離して得た固形分を100℃、10時間乾燥することで、試験例3のイオン吸着材を得た。表1に使用した原料及び溶媒(水)の重量をまとめて示す。
なお、原料(A)165.66gにはゼオライト成分19.9mg、原料(B)55.22gにはハイドロタルサイト様化合物成分が10mg含まれる。そのため、得られたイオン吸着材中のゼオライトの割合は、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物の合計を100重量%として、67重量%である。
【0093】
<試験例4のイオン吸着材の合成>
試験例1と同様の原料(A)と原料(B)を使用した。
原料(B)55.22gに対し、原料(A)94.76gを添加し、撹拌して十分に混合した後、3倍希釈用に蒸留水449.89gを添加し、混合してスラリーを得た。得られたスラリーをろ過により固液分離して得た固形分を100℃、10時間乾燥することで、試験例4のイオン吸着材を得た。表1に使用した原料及び溶媒(水)の重量をまとめて示す。
なお、原料(A)94.76gにはゼオライト成分11.4mg、原料(B)55.22gにはハイドロタルサイト様化合物成分が10mg含まれる。そのため、得られたイオン吸着材中のゼオライトの割合は、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物の合計を100重量%として、53重量%である。
【0094】
<参考用試料1(ゼオライト)の製造>
まず、試験例1と同様の原料(A)55.22gを、遠心分離機(4000rpm、8分)で固液分離し、固形分(ゼオライト)を分離した。分離した固形分に対し、蒸留水200gを加え、遠心分離機で固液分離を行った。この操作を3回繰り返した後に、固形分を00℃、10時間乾燥することで、参考用試料1のゼオライトを得た。
【0095】
<参考用試料2(ハイドロタルサイト様化合物)の製造>
まず、試験例1と同様の原料(B)を使用し、原料(B)55.22gに対し、18.5重量%水酸化ナトリウム溶液55.22gを添加し、撹拌して十分に混合した後、3倍希釈用に蒸留水331.32gを添加し、混合してスラリーを得た。得られたスラリーをろ過により固液分離して得た固形分を100℃、10時間乾燥することで、参考用試料2のハイドロタルサイト様化合物を得た。
【0096】
【表1】
【0097】
「pH測定」
試験例1〜4のスラリー及び参考用試料のハイドロタルサイト様化合物を含むスラリーのpHをpHメーター(東亜DKK株式会社、型番:HM−30P)で測定した。結果を表2にまとめて示す。なお、これらの結果は、試験例1はアルカリ分不足、試験例2及び試験例4は参考用試料2とほぼ同程度のアルカリ量、試験例3はアルカリ分過剰ということを示している。
【0098】
【表2】
【0099】
「XRD分析」
試験例1〜3のイオン吸着材、参考用試料1(ゼオライト)及び参考用試料2(ハイドロタルサイト様化合物)について、X線回折法による評価を行った。X線回折装置には、株式会社リガク製、型番:MiniFlexを使用した。
図7に参考用試料1(ゼオライト)、図2に参考用試料2(ハイドロタルサイト様化合物)、図9〜11に試験例1〜3のイオン吸着材のXRD分析の結果を示す。
図9に示すように試験例1では、ゼオライト由来のシグナルは明確に観察されたが、ハイドロタルサイト様化合物由来のシグナルが観察されなかった。
図10図11に示すように、試験例2,3では、ゼオライト由来のシグナルとハイドロタルサイト様化合物由来のシグナルが混在していた。この結果は、ゼオライト合成時に発生するアルカリ溶液である原料(A)を適量、原料(B)に添加することにより、ハイドロタルサイト様化合物とゼオライトが複合化したイオン吸着材が合成可能であることを示している。
【0100】
「イオン吸着除去試験」
吸着材として、試験例2,3のイオン吸着材、参考用試料1(ゼオライト)及び参考用試料2(ハイドロタルサイト様化合物)を用いて、イオン吸着除去試験を行った。
【0101】
除去対象のイオンを含む試料として、以下の2種類の試験溶液A,Bを使用した。
試験溶液A:
フッ化ナトリウムを用いて、フッ素イオン濃度を100mg/L調整した溶液
試験溶液B:
臭化カリウムを用いて、カリウムイオン濃度を100mg/L、臭化物イオン濃度を200mg/Lで調整した溶液
【0102】
試験溶液A,Bそれぞれ100gに対し、吸着材を1g添加して1時間攪拌した後、ろ過した溶液の濃度をイオンクロマトグラフ(東亜DKK株式会社、型番:IA−200)およびICP発光分析装置(株式会社アメティック、型番:Ciros120EOP)で測定した。表3に各吸着材添加前後の溶液のイオン濃度をまとめて示す。また、表4に、吸着材添加前後の溶液のイオン濃度から算出した、各吸着材のイオン吸着量をまとめて示す。
【0103】
【表3】
【0104】
【表4】
【0105】
表3及び表4から試験例2,3のイオン吸着材は、陰イオンおよび陽イオンを吸着可能であり、特に臭化カリウムを用いた吸着試験の結果から、試験例2,3のイオン吸着材は、陰イオンおよび陽イオンの両方を吸着可能であることがわかった。
【0106】
<リン酸およびアンモニアの飽和吸着量の評価>
試験例4のイオン吸着材を用いてリン酸およびアンモニアの飽和吸着量の評価を行った。まず、リン酸およびアンモニアに対する試験例4のイオン吸着材の吸着等温線を作成し、この吸着等温線に基づいて、リン酸とアンモニアの理論的な飽和吸着量を求めた。また、比較として、参考用試料1(ゼオライト)及び参考用試料2(ハイドロタルサイト様化合物)についてもリン酸およびアンモニアに対する吸着等温線を作成し、リン酸とアンモニアの理論的な飽和吸着量を求めた。結果を表5に示す。なお、表5において、試験例4のイオン吸着材の飽和吸着量は、イオン吸着材に含まれるゼオライト成分1gあたりのアンモニア吸着量、ハイドロタルサイト様化合物成分1gあたりのリン酸吸着量に換算した値を示している。
【0107】
【表5】
【0108】
表5より、試験例4のイオン吸着材におけるゼオライト単位重量あたりのリン酸の吸着量は、ゼオライト単体(参考用試料1)よりも多くなっていることがわかる。また、試験例4のイオン吸着材におけるハイドロタルサイト様化合物単位重量あたりのリン酸の吸着量は、ハイドロタルサイト様化合物単体(参考用試料2)よりも多くなっていることがわかる。
すなわち、試験例4のイオン吸着材では、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物とが複合化して、陽イオン及び陰イオンの両方の吸着量が増加するシナジー効果が得られたことが示されたといえる。
【0109】
<電子顕微鏡(SEM)観察>
図12にゼオライト(参考用試料1)、図13にハイドロタルサイト様化合物(参考用試料2)、図14に及び試験例4のイオン吸着材のSEM像をそれぞれ示す。
図12に示されるように、参考用試料1のゼオライトは、〜数μm程度の大きさの結晶であることがわかる。また、図13に示されるように参考用試料2のハイドロタルサイト様化合物は、ゼオライトと比較してより微粒の粒子が集合した構造であった。
図14に示すように試験例4のイオン吸着材は、ゼオライトの結晶をハイドロタルサイト様化合物が被覆して、ゼオライトをハイドロタルサイト様化合物で複合化した構造を有していることがわかる。また、試験例4のイオン吸着材におけるゼオライトやハイドロタルサイト様化合物は、図12及び図13に示す単体の状態よりも分散された状態になっている。そのため、吸着対象の陽イオン、陰イオンを含む液相との接触面積が増加し、ゼオライト単体やハイドロタルサイト様化合物単体の場合と比較して吸着効率が向上したものと考えられる。
【0110】
<ミクロキスチンの除去>
ミクロキスチンは湖沼などに発生するアオコの一部である藍藻類から放出される有毒性の化合物である。
本試験ではミクロキスチン-LR標準品を用いて、ミクロキスチン-LR濃度を0.1mg/Lに調製した100mLの水溶液へ1.0gの試験例4のイオン吸着材およびハイドロタルサイト様化合物(参考用試料2)を添加して吸着試験を行った。結果を図15に示す。
【0111】
図15から、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物が複合化した試験例4のイオン吸着材は、ハイドロタルサイト様化合物単体の約7倍のミクロキスチンを吸着していることがわかる。このことから、ゼオライトとハイドロタルサイト様化合物が複合化することによって吸着性能が向上するシナジー効果が得られていることが確認された。
【0112】
<人工廃水を用いた吸着試験>
雑多に陽・陰イオンを含む最終処分場の浸出水を模した人工廃水を調製し、そこへ試験例4のイオン吸着材を浸して各種イオンの除去率を求めた。
また、試験例4のイオン吸着材の他に、ゼオライト(参考用試料1)、ハイドロタルサイト様化合物(参考用試料2)も添加して、除去率を比較した。表6に人工廃水の組成を示す。
【0113】
【表6】
【0114】
(陽イオンの吸着性の評価)
試験例4のイオン吸着材及び単体のゼオライト(参考用試料1)のCdイオン、Pbイオンの吸着量を評価した結果を表7に示す。
【0115】
【表7】
【0116】
表7から、試験例4のイオン吸着材中のゼオライト成分のCdイオン吸着量とPbイオン吸着量は単体のゼオライトよりも多くなっていることが分かった。
このことから、試験例4のイオン吸着材中のゼオライト成分は、ハイドロタルサイト様化合物成分と複合化したことにより、陽イオンの吸着量が増加する効果が得られているといえる。
【0117】
(陰イオンの吸着性の評価)
試験例4のイオン吸着材及び単体のハイドロタルサイト様化合物(参考用試料2)のCrイオン、Asイオンの吸着量、Fイオン、Pイオン、Bイオンの吸着量、硝酸イオン吸着量、を評価した結果を、それぞれ表8、表9および表10に示す。
【0118】
【表8】
【0119】
【表9】
【0120】
【表10】
【0121】
表8〜10から、試験例4のイオン吸着材の硝酸イオンの吸着量は、単体のハイドロタルサイト様化合物の硝酸イオンの吸着量よりも少ないものの、Crイオン、Asイオン、Fイオン、Pイオン、Bイオンの吸着量は単体のハイドロタルサイト様化合物よりも多いことが分かった。
ここで、1gの試験例4のイオン吸着材には0.47gのハイドロタルサイト様化合物成分が含まれていることを考慮すると、1gの試験例4のイオン吸着材を吸着試験に用いたならば、試験例4のイオン吸着材のイオン吸着量はハイドロタルサイト様化合物1gを用いた場合の半分程度になるはずである。
しかし、前述した様に試験例4のイオン吸着材の方が単体のハイドロタルサイト様化合物よりも吸着量が多くなった。
このことから、試験例4のイオン吸着材中のハイドロタルサイト様化合物成分は、ゼオライト成分と複合化したことにより、陰イオンの吸着量が増加する効果が得られているといえる。
【0122】
<セシウムの除去>
塩化セシウムを溶解させて1〜50mg/Lの濃度に調整した5種類の水溶液(1L)へ、試験例4のイオン吸着材(10g)を添加して吸着試験を行った。
吸着平衡後、平衡濃度Ceを測定し、初期濃度との差から試験例4のイオン吸着材中のゼオライト成分あたりのCs吸着量qe_Zeを求め、Ceとqe_Zeから等温吸着線を作成した。図16に試験例4のイオン吸着材と単体のゼオライトの等温吸着線を示す。
また、得られた等温吸着線から、フロイントリッヒの吸着式に基づき、求められた傾きを図16中に併せて示す。この傾き分配係数といい、値が大きいほど低濃度条件下でも高い吸着能を有していることを意味する。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明の廃棄物埋設処分場および廃棄物処理システムは、焼却灰や産業廃棄物等の廃棄物の最終処分場として有用である。
【符号の説明】
【0124】
1 地盤
2 土質遮蔽層
3 地内中間覆土層
4a 遮水シート
4b 保護シート
4c 上部保護層
5 廃棄物
6 土砂
7 集水管
7a 有孔集水配管
7b 割栗石層
7c 底部集水管根巻き材(イオン吸着層)
10 廃棄物埋設処分場
20 浸出水調整池
21 砂ろ過層
22 イオン吸着材層
30 浸出水処理施設
100 廃棄物処理システム
W 浸出水
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16