(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
金属製の薄板に折り曲げ加工を施して幅方向に沿い山部と谷部を交互に連続的に形成した波形形状を有する屋根材本体を備え、該屋根材本体の該各山部を、既設のスレート屋根材の各山部の上にそれぞれ位置せしめ、かつ、該谷部を該既設のスレート屋根材の各谷部の上にそれぞれ位置せしめる載置姿勢に保持するとともに、該屋根材本体の一方の幅端に位置する山部を下ハゼとしてこれを隣接配置する他の補修用金属製屋根材の上ハゼに嵌合させる一方、もう一方の幅端に位置する山部を上ハゼとしてこれを隣接配置するさらに他の補修用金属製屋根材の下ハゼに嵌合させて該既設のスレート屋根材を覆うスレート葺屋根の補修用金属製屋根材であって、
前記屋根材本体の山部の少なくとも1つは、該既設のスレート屋根材の山部の上方に間隔を隔てて位置し、幅方向の中央部を上方へ向けて最も膨出させた凸状断面をなす天板と、該天板に向けて倒れ込み、該天板の幅端および該屋根材本体の谷部の縁部を相互に連結する傾斜辺とを備え、
該傾斜辺に、該傾斜辺を該屋根材本体の谷部の縁部につながる緩傾斜辺と該天板の幅端につながる急傾斜辺の少なくとも2つに区分する屈曲部を設け、該屈曲部は、該天板が上面より押圧されたときその部位を起点に該傾斜辺そのものを弾性変形させるものであり、
該天板は、幅端相互間の水平幅寸法をAとし、高さ寸法をBとした場合、
0<B/A≦0.15の関係を満足し、
該緩傾斜辺は、該屋根材本体の谷部の縁部から該屈曲部に至るまでの水平幅寸法をCと
し、高さ寸法をDとした場合、
0.7≦D/C≦1.4の関係を満足し、かつ、
B/Aと、D/Cの関係が、
−15≦(D/C−1)/(B/A)≦15を満足するものであることを特徴とするスレート葺屋根の補修用金属製屋根材。
前記屋根材本体の幅端に位置する山部のうち、下ハゼとなる山部の急傾斜辺は、外方、かつ斜め上方にて開放された深さ2mm以上の凹部を有することを特徴とする請求項1に記載のスレート葺屋根の補修用金属製屋根材。
前記凹部は、前記急傾斜辺と前記天板が接続する該天板の幅端よりも前記緩傾斜辺寄りに設けられたものであることを特徴とする請求項2に記載したスレート葺屋根の補修用金属製屋根材。
【背景技術】
【0002】
スレート葺屋根は、幅方向(働き幅方向)に沿い山部と谷部を交互に連続的に形成した波形形状を有するスレート板を用いて葺きあげられる屋根であり、屋根の効率的な構築が可能であることから、とくに大型工場や倉庫、体育館等に広く適用されている。
【0003】
従来、この種の屋根は、経年劣化等により改修する必要が生じた場合、既設のスレート葺屋根の上に、同等の断面形状をなす金属製屋根材を施設して覆い隠すことによって補修するのが普通であり、この点に関する先行技術としては、例えば、特許文献1に開示されたスレート屋根の葺替え構造が知られている。
【0004】
上記文献に開示された葺替え構造は、
図9に示すように、波形形成されたスレート屋根板13と金属屋根材14との波形ピッチが略等しくなされ、金属屋根材14の山部14aはスレート屋根板13の山部分13aの高さよりは充分に高くなされ、金属屋根材14における山部14aと谷部14bとを連ねる傾斜連結部分14cにスレート屋根板13に対して谷部14bと山部14aとを連ねる方向において間隔を隔てた複数個所において各々線状に接触して金属屋根材14をスレート屋根板13に載設支持する載設支持部14dが谷折れ状に複数本形成され、これら載設支持部14dにおいて金属屋根材14がスレート屋根板13に載設支持されたものであって、これによれば、古くなっているスレート屋根の弱い部分に荷重を掛けるのを回避し、かつ集中荷重になるのを回避し、しかも太陽熱で加熱された後の金属屋根材14の熱収縮に異音の発生が効果的に抑制されるとされていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、スレート葺屋根の上に載置した補修用金属製屋根材をドリルねじにより屋根支持材に固定する場合において生じていた上記の如き従来の不具合を解消することができる防水性の高いスレート葺屋根の補修用金属製屋根材を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、金属製の薄板に折り曲げ加工を施して幅方向に沿い山部と谷部を交互に連続的に形成した波形形状を有する屋根材本体を備え、該屋根材本体の該各山部を、既設のスレート屋根材の各山部の上にそれぞれ位置せしめるとともに該谷部を該既設のスレート屋根材の谷部の上にそれぞれ位置せしめる載置姿勢に保持するとともに、該屋根材本体の一方の幅端に位置する山部を下ハゼとして隣接配置する他の補修用金属製屋根材の上ハゼに嵌合させる一方、もう一方の幅端に位置する山部を上ハゼとして隣接配置するさらに他の補修用金属製屋根材の下ハゼに嵌合させて該既設のスレート屋根材を覆うスレート葺屋根の補修用金属製屋根材であって、前記屋根材本体の山部の少なくとも1つは、該既設のス
レート屋根材の山部の上方に間隔を隔てて位置し、幅方向の中央部を上方へ向けて最も膨出させた凸状断面をなす天板と、該天板に向けて倒れ込み、該天板の幅端および該屋根材本体の谷部の縁部を相互に連結する傾斜辺とを備え、該傾斜辺に、該傾斜辺を該屋根材本体の谷部の縁部につながる緩傾斜辺と該天板の幅端につながる急傾斜辺の少なくとも2つに区分
する屈曲部を設け、該屈曲部は、該天板が上面より押圧されたときその部位を起点に該傾斜辺そのものを弾性変形させるものであり、
該天板は、幅端相互間の水平幅寸法をAとし、該天板の幅端から幅方向中央部に至るまでの高さ寸法をBとした場合、
0<B/A≦0.15の関係を満足し、
該緩傾斜辺は、該屋根材本体の谷部の縁部から該屈曲部に至るまでの水平幅寸法をCとし、該屋根材本体の谷部から該屈曲部に至るまでの高さ寸法をDとした場合、
0.7≦D/C≦1.4の関係を満足し、かつ、
B/Aと、D/Cの関係が、
−15≦(D/C−1)/(B/A)≦15を満足するものであることを特徴とするスレート葺屋根の補修用金属製屋根材である。
【0009】
上記の構成からなる補修用金属製屋根材において、屋根材本体の幅端に位置する山部のうち、下ハゼとなる山部の急傾斜辺には、外方、かつ斜め上方に向けて開放された2mm以上の深さを有する凹部を設けておくのが好ましく、また、該凹部は、前記急傾斜辺と前記天板が接続する該天板の幅端よりも前記緩傾斜辺寄りに設けられたものであることが具体的な課題解決手段として望ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、山部の頂面からドリルねじをねじ込んでいくと、傾斜辺は、屈曲部を起点にして徐々に弾性変形していき、これと同時に天板も弾性変形する。そして、ドリルねじのねじ込みが完了した状態では、傾斜辺の緩傾斜部は、スレート屋根材の山部の壁面に沿って面接触する一方、該天板は、急傾斜部を介して安定的に支持されることとなり、この状態では、該天板に高い復元力が生じることになる(ドリルねじの締め込み力に対する反力が大きく、天板に対してスプリング作用を付与することができる)。天板に生じた高い復元力により、ドリルねじに組み付けられたパッキンは、ドリルねじの頭部と天板との間で強く挟持され、その結果として補修用金属製屋根材の防水性は、長期間にわたって高い状態に保持されることになる(パッキンの隙間を塞ぐ効果が高い)。
【0011】
本発明によれば、屋根材本体の幅端に位置する山部のうち、下ハゼとなる山部の急傾斜辺に、外方、かつ斜め上方にて開放された2mm以上の深さを有する凹部を設けたため、隣接配置する補修用金属製屋根体の上ハゼとの重ね合わせ部分において雨水等が浸透圧によって侵入してきても、その雨水等の侵入を該凹部において遮断することができる。
【0012】
また、本発明によれば、該凹部は、急傾斜辺と天板が接続する該天板の幅端よりも緩傾斜辺寄りに設けるようにしたため、上ハゼと下ハゼの嵌合性(重なり性)を良好に維持することができるとともに、通り芯(幅方向の中心を通る直線)を一致させることが容易となり、上ハゼと下ハゼの密着性が改善され、防水性の改善を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に従うスレート葺屋根の補修用金属製屋根材の全体を幅方向に沿って模式的に示した図(正面図)である。
【
図2】
図1に示した補修用金属製屋根材の一つの山部(下ハゼ)を拡大して示した図である。
【
図3】
図1に示した補修用金属製屋根材の固定状況を示した図である。
【
図5】本発明に従う補修用金属製屋根材の固定状況の説明図である。
【
図6】本発明に従う補修用金属製屋根材の固定状況の説明図である。
【
図9】従来の金属製屋根材の固定構造を模式的に示した図である。
【
図10】本発明に従うスレート葺屋根の補修用金属製屋根材の他の例を要部について模式的に示した図である。
【
図11】比較例1で用いたスレート葺屋根の補修用金属製屋根材の一つの山部(下ハゼ)を幅方向に沿って模式的に示した図(正面図)である。
【
図12】比較例2で用いたスレート葺屋根の補修用金属製屋根材の一つの山部(下ハゼ)を幅方向に沿って模式的に示した図(正面図)である。
【
図13】比較例3で用いたスレート葺屋根の補修用金属製屋根材の一つの山部(下ハゼ)を幅方向に沿って模式的に示した図(正面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。
図1は、本発明に従うスレート葺屋根の補修用金属製屋根材の全体を幅方向(働き幅の方向)に沿って模式的に示した正面図であり、
図2は、
図1に示した補修用金属製屋根材の一つの山部、とくに、屋根材本体の幅端の一方に設けられ、隣接配置する他の補修用金属製屋根材の上ハゼに嵌合させて屋根材同士をつなぎあわせる下ハゼを拡大して示した図である。ここに、隣接配置する他の補修用金属製屋根材とは、本発明に従う補修用金属製屋根材と同じ構成からなるものをいう。
【0015】
図における符号1は、補修用金属製屋根材を構成する屋根材本体である。この屋根材本体1は、金属製の薄板に折り曲げ加工を施して幅方向に沿い山部2と谷部3を交互に連続的に形成した波形形状を有している。また、4は、本発明に従う補修用金属製屋根材を配置することによって補修を行う既設のスレート屋根材である。屋根材本体1は、既設のスレート屋根材4の山部4a、谷部4bと同等のピッチ(波形ピッチ)に設定されている。
【0016】
屋根材本体1の山部2の少なくとも1つは、その要部を拡大して
図2に示す如く、既設のスレート屋根材の山部4aの上方に間隔を隔てて位置し、幅方向の中央部を上方へ向けて最も膨出させた凸状断面(円弧形状)をなす天板5と、該天板5に向けて倒れ込み、該天板5の幅端5aおよび屋根材本体1の谷部3の縁部3aを相互に連結する傾斜辺6とから構成されている。
【0017】
上記天板5は、ドリルねじを締め込む際にその上面より押圧されたとき、弾性変形可能になっており、幅端相互間の水平幅寸法をAとし、高さ寸法をBとした場合、0<B/A≦0.15の関係を満している。
【0018】
また、傾斜辺6は、該傾斜辺6を屋根材本体1の谷部3の縁部3aにつながる緩傾斜辺6aと天板5の幅端5aにつながる急傾斜辺6bの少なくとも2つに区分する屈曲部7を有しており、ドリルねじを締め込む際にその上面より押圧されたとき、屈曲部7を起点に傾斜辺6そのものが変形(弾性変形)することができるようになっており、屋根材本体1の谷部3の縁部3aから該屈曲部7に至るまでの水平幅寸法をCとし、高さ寸法、すなわち該屋根材本体1の谷部3から該屈曲部7に至るまでの距離をDとした場合、0.7≦D/C≦1.4の関係を満足している。そして、上記天板5のB/Aと、傾斜辺6のD/C係は、−15≦(D/C−1)/(B/A)≦15の関係を満足するように設定されている。
【0019】
かかる構成からなる補修用金属製屋根材は、屋根材本体1の各山部2を、既設のスレート屋根材4の各山部4aの上にそれぞれ位置せしめ、かつ、各谷部3を、既設のスレート屋根材4の各谷部4bの上にそれぞれ位置せしめる載置姿勢に保持し、かつ、
図3に示すように、屋根材本体1の一方の幅端に位置する山部2を下ハゼ2aとしてこれを隣接する他の補修用金属製屋根材の上ハゼ5に嵌合させる一方、屋根材本体1のもう一方の幅端に位置する山部2を上ハゼ2bとしてこれを隣接配置するさらに他の補修用金属製屋根材の下ハゼに嵌合させて既設のスレート屋根材4を覆い隠したのち、さらに、ワッシャー8、パッキン9を組み付けたドリルねじ10を、上ハゼ2bと下ハゼ2aとの嵌合部(重ね合わせ部分)の頂面から締め込んで既設のスレート屋根材4の山部4aを貫通させて屋根支持部材11に固定するが、このときドリルねじ10が締め込まれる山部(下ハゼ2a、上ハゼ2b)は、屈曲部7を起点とする傾斜辺6の変形により緩傾斜辺6aが既設のスレート屋根材4の山部4aの壁面に沿って面接触し、天板5は、弾性変形した状態で急傾斜辺6bを介して支持される。この状態では、ドリルねじ10の締め込み力に対する反力が大きくなることから、天板5に対して効果的なスプリング作用(復元力)が付与されることになり、パッキン9はドリルねじ10の頭部と天板5との間で強く挟持される(防水性が高まる)。
【0020】
本発明においては、天板5について、該天板5の幅端相互間の水平幅寸法をAとし、高さ寸法をBとした場合、0<B/A≦0.15としたがその理由は以下の通りである。
【0021】
すなわち、B/Aが
0≧B/Aである場合、
図4に示すように、ドリルねじ10を金属製屋根材を固定する際、山部2の頂面に凹み変形が生じ、雨水等が溜まりやすくなり防水性の面で不利になるからであり、一方、B/AがB/A>0.15である場合、山部2の頂面が上方へ向けて大きく張り出すためドリルねじ10を締め込む際の施工性が劣化するからである。
【0022】
また、本発明では、傾斜辺6については、屋根材本体1の谷部3の縁部3aから該屈曲部7に至るまでの水平幅寸法をCとし、高さ寸法、すなわち該屋根材本体1の谷部3から該屈曲部7に至るまでの距離をDとした場合、0.7≦D/C≦1.4の関係を満足するものとしたが、その理由は以下の通りである。
【0023】
すなわち、D/Cが、
0.7>D/CあるいはD/C>1.4の場合、金属製屋根材を既設のスレート屋根材4に固定する際に、緩傾斜辺6aを既設のスレート屋根材4の山部4aの壁面に面接触させることが困難となり、既存のスレート屋根材4からの安定した支持力(ドリルねじ10の締め込み力に対する反力)が得にくくなるため、天板5におけるスプリング作用が期待できず、パッキン9の挟持力を高めることができないことが懸念されるからである。
【0024】
図5、
図6は、本発明に従う金属製屋根材について、ドリルねじ10を締め込む前と締め込みを完了したのちの状態を模式的に示した図である。
【0025】
既設のスレート屋根材4の山部4aの壁面における傾斜角は、一般的には45°程度であり、傾斜辺6の緩傾斜辺6aの傾斜角が45°(D/C=1.0)程度であれば金属製屋根材を既設のスレート屋根材4に載置した時点で該緩傾斜辺6aは、山部4aの壁面に面接触することになりとくに問題はない。しかし、それ以外の傾斜角度では、金属製屋根材を既設のスレート屋根材4に載置しただけでは、線接触はするものの面接触することはない。
【0026】
本発明の金属製屋根材においても緩傾斜辺6aの傾斜角が例えば10°の角度差をもつ35°(D/C=0.7)あるいは55°(D/C=1.4)であった場合には、金属製屋根材をスレート屋根材4に載置した時点では、線接触するにすぎないものの、D/Cが、0.7≦D/C≦1.4の関係を満足する場合には、金属製屋根材を既存のスレート屋根材4に載置したのちに行うドリルねじ10の締め込みにより、緩傾斜辺6aは、既設のスレート屋根材4の山部4aの壁面に向けて徐々に変形していき、面接触することになる。
【0027】
とくに、
図5に示すものにあっては、金属製屋根材をスレート屋根材に載置した時点では、屈曲部7(図中ア)が既設のスレート屋根材4の山部4aに線接触するにすぎないが、ドリルねじ10の締め込みに従って該屈曲部7が該山部4aの壁面に沿って滑動し緩傾斜辺6aの下端(谷部3幅端、図中イ)が山部4aの壁面に接触して面接触に至る。
【0028】
また、
図6に示すものにあっては、金属製屋材を既設のスレート屋根材4に載置した時点では、緩傾斜辺6aの下端(図中イ)が線接触するにすぎないが、ドリルねじ10の締め込みに従って屈曲部7が山部4aの壁面に向けて移動し、該屈曲部7(図中ア)が該壁面に接触することによって面接触に至ることになる。このとき、谷部3は、その幅方向において縮むことはなく、天板5の弾性変形(スプリング作用を起こす変形)は、傾斜辺6の変形と同時に進行する。
【0029】
傾斜辺6を既設のスレート屋根材4の山部4aの壁面に面接触させて天板5を安定的に支持し該天板5の弾性変形に伴うスプリング作用を有効に発揮させるには、上記の2条件に加え、条件3として、天板5のB/Aと、傾斜辺6のD/Cとの関係を−15≦(D/C−1)/(B/A)≦15とすることが肝要となる。
【0030】
ここに、条件3として、天板5のB/Aと、傾斜辺6のD/Cとの関係を−15≦(D/C−1)/(B/A)≦15とする理由は以下の通りである。
【0031】
ドリルねじ10の締め込みを開始し始めると天板5は徐々にフラット化する方向へ変形していく一方、緩傾斜辺6aは、線接触の状態から面接触する方向へと変形していくことになる。かかる変形は、あたかも直列ばねを縮めたときのように同時に進行していくものであるが、天板5、緩傾斜辺6aの同時変形において天板5の膨出度合いがもともと小さい(フラットに近い)と、緩傾斜辺6aがスレート屋根材4の山部4aの壁面に面接触する以前に天板5がフラットになってしまうおそれがあり(この傾向は、緩傾斜辺6aの角度が、スレート屋根材4の山部4aの壁面における傾斜角度(通常は45°程度)から大きく外れるほど大きくなる)、この場合、緩傾斜辺6aは、線接触した状態にならざるを得ず、面接触した場合と異なり安定したスプリング作用を発揮させることができなくなる。
【0032】
天板5において安定したスプリング作用を発揮させるには、緩傾斜辺6aが面接触の状態で、かつ天板5が上方へ向けて膨出した状態を保っていること(フラット化していないこと)がとりわけ重要であり、そのための条件として、本発明では、天板5のB/Aと、傾斜辺6のD/Cとの関係を、−15≦(D/C−1)/(B/A)≦15とした(緩傾斜辺6aの角度がスレート屋根材4の山部4aの壁面の傾斜角度から外れるほどD/C−1の値は大となり、天板5の膨出度合いが小さいほどB/Aの値は小となる)。
【0033】
上記のような3条件を満足する山部2は、ドリルねじ10を締め込んで金属製屋根材を既設のスレート屋根材4に固定する山部2に適用するものであって、下ハゼ2aや上ハゼ2bとなる山部2のみならず、下ハゼ2a〜上ハゼ2bの間に位置する他の山部2に適用することもできる。
【0034】
とくに、山部2を下ハゼ2aとして適用する場合にあっては、上ハゼ2bの幅端側の傾斜辺6に対応する傾斜辺6(反幅端側の傾斜辺6)の急傾斜辺6bに、外方、かつ斜め上方に向けて開放された深さ(t)2mm以上の凹部12を設けておくのがよい(
図2、
図3参照)。これにより隣接配置される金属製屋根材の上ハゼ2bとの重ね合わせ部分から浸透圧により雨水等が侵入しても凹部12において雨水等の侵入を阻止することができる。ここに、上記の深さ(t)とは、
図2に示すように、急傾斜辺6bの外表面と平行な直線(仮想線)を基準とした場合に、この基準となる直線に直交する直線の、該基準から凹部12の底壁に至るまでの寸法(最大寸法)をいうものとする。なお、凹部12は、その断面形状を略台形状としたものを例として示したが、その断面形状は種々の形状に変更可能であり、図示のものに限定されることはない。凹部12の、緩傾斜辺6a側の側壁については、水平面に対して外方側が内方側よりも低くなるように傾斜を付与しておくのが好ましく、これにより、凹部12に雨水等が侵入しても速やかに排出することができる。
【0035】
また、該凹部12を設けるに当たっては、急傾斜辺6bと天板5が接続する天板5の幅端5aよりも緩傾斜辺6a寄りに設けるのがよい。というのは、凹部12と天板5とが連続している
図7に示す如き構造のものでは、施工状況によっては、
図8に示すように上ハゼ2bの通り芯Lと下ハゼ2aの通り芯L
1がずれた状態で固定される場合があり、凹部12の深さtを2mm以上とすることができなかったり、上ハゼ2bの端部がめくれあがったり、あるいは下ハゼ2a、上ハゼ2bの密着性が劣化し、結果的に重ね合わせ部分の防水性を損なうおそれがあるからである。凹部12を急傾斜辺6bと天板5が接続する天板5の幅端5aよりも緩傾斜辺6a寄りに設けることにより、上ハゼ2bと下ハゼ2aの嵌合性(重なり性)を良好に維持することができるとともに、通り芯L、L
1を一致させるのが容易となり、その結果として上ハゼ2bと下ハゼ2aの密着性が改善され、重ね合わせ部分の防水性の改善に寄与する。
【0036】
山部2、谷部3の数は、働き幅、長さに応じて任意に設定されるものであって、図示のものに限定されることはない。
【0037】
本発明に適用される補修用金属製屋根材としては、厚さ0.4〜1.0mmの、例えば溶融亜鉛めっき鋼板やカラー鋼板等の防錆処理鋼板あるいはステンレス鋼板、銅板、アルミニウム合金板、亜鉛板等を、ロール成形によって成形される定尺部材からなるものを適用することができる。
【0038】
図10は、凹部12を設けるにあたって急傾斜辺6bを、部分的に略V字状(あるいは略逆L字状)に変更した他の例を示したものである(深さtは緩傾斜辺6a側で最も深くなるようにしたもの)。かかる形状からなる凹部12にあっても、隣接配置される金属製屋根材の上ハゼ2bとの重ね合わせにおいて、その重ね合わせ部分から浸透圧により雨水等が侵入しても凹部12において雨水等の侵入を阻止することができる。とくに、このような断面形状を有するものでは、形状の簡素化が可能であるため屋根材の加工が行い易く、屋根材を効率的に製造することができる利点を有している。
【実施例】
【0039】
本発明で規定する3条件をすべて満足する補修用金属製屋根材を用いて既設のスレート屋根材(山部の傾斜角度45°)の補修を行った場合(実施例1:
図2の形状もの(t=2mm)、実施例2:
図10の形状のもの(t=2mm))と、本発明で規定する条件の何れか1つを満たしていない補修用金属製屋根材を用いて既設のスレート屋根材の補修を行った場合(比較例1:
図11の形状のもの(t=2mm)、比較例2:
図12の形状もの(t=2mm)、比較例3:
図13の形状のもの(t=2mm))につき、ドリルねじ周辺部の防水性、施工性、天板の支持性、天板のスプリング性についての調査を行った。なお、防水性に関しては、本発明に従う金属製屋根材の防水性を100とした場合の指数表示で比較した。その結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
比較例1は、天板の上方への膨出度合いが大きい補修用金属製屋根材を用いて既設のスレート屋根材の補修を行った場合である。比較例1では、補修用金属製屋根材を既設のスレート屋根材にドリルねじで固定する際に、ねじ先端が横滑りしやすいため、施工性が悪く、また、横滑りに伴ってねじ孔が拡がるのが避けられないことから、防水性の低下が生じやすいことが確認された。
【0042】
また、比較例2は、緩傾斜辺の水平面に対する角度が65°になる山部を備えた補修用金属製屋根材を使用して既設のスレート屋根材の補修を行った場合である。比較例2では、所定の締め込み量でドリルねじを締め込んで補修用金属製屋根材を既設のスレート屋根材に固定しても
図12中の破線で示すように、緩傾斜辺が面接触に至らず、天板におけるスプリング作用に必要な安定した支持が行えず、パッキンの経年劣化、金属製屋根材のクリープ変形現象等が発生した場合にパッキンが装着された部分において隙間が形成されやすく、安定した防水性が確保できないことが確認された。
【0043】
さらに、比較例3は、緩傾斜辺の水平面に対する角度が35°の補修用金属製屋根材を使用して既設のスレート屋根材の補修を行った場合である。比較例3は、ドリルねじの締め込みに際しては緩傾斜辺が既設のスレート屋根材の山部の壁面に面接触するものの、(D/C−1)/(B/A)の値が15よりも大きいため天板における弾性変形が小さく、スプリング作用によるパッキンの挟持が十分でなく、長期にわたって安定した防水性が確保できないことが確認された。