特許第6403212号(P6403212)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6403212ポリアミドイミド塗料組成物及びその塗布方法、並びにポリアミドイミド被膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403212
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】ポリアミドイミド塗料組成物及びその塗布方法、並びにポリアミドイミド被膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/08 20060101AFI20181001BHJP
   C09D 161/06 20060101ALI20181001BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20181001BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20181001BHJP
   B05D 1/02 20060101ALI20181001BHJP
   B05D 3/00 20060101ALI20181001BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20181001BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20181001BHJP
   B32B 15/098 20060101ALI20181001BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   C09D179/08 B
   C09D161/06
   C09D7/20
   B05D7/24 302X
   B05D7/24 302S
   B05D1/02 Z
   B05D3/00 C
   B05D7/14 Z
   B32B15/088
   B32B15/098
   H01B3/30 F
   H01B3/30 M
   H01B3/30 P
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-88372(P2015-88372)
(22)【出願日】2015年4月23日
(65)【公開番号】特開2016-204532(P2016-204532A)
(43)【公開日】2016年12月8日
【審査請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100096677
【弁理士】
【氏名又は名称】伊賀 誠司
(72)【発明者】
【氏名】日紫喜 治彦
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−213371(JP,A)
【文献】 特開平11−246823(JP,A)
【文献】 特開平07−292319(JP,A)
【文献】 特開2004−315699(JP,A)
【文献】 特開2005−042086(JP,A)
【文献】 特開2001−210505(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−10/00
C09D 101/00−201/10
B05D 1/00−7/26
B32B 15/08
H01B 3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固形分と揮発分とを含むポリアミドイミド塗料組成物であって、
前記固形分としてポリアミドイミド樹脂及びフェノール樹脂、
前記揮発分としてN−メチル−2−ピロリドン及び酢酸エチル
からなり
前記固形分の合計100質量部に対して、前記ポリアミドイミド樹脂を50質量部〜90質量部、前記フェノール樹脂を10質量部〜50質量部、
前記揮発分の合計125質量部〜900質量部に対して、前記N−メチル−2−ピロリドンを62質量部〜675質量部、前記酢酸エチルを31質量部〜450質量部
の割合で含有することを特徴とするポリアミドイミド塗料組成物。
【請求項2】
固形分と揮発分とを含むポリアミドイミド塗料組成物を用いたポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法であって、
前記固形分としてポリアミドイミド樹脂及びフェノール樹脂、
前記揮発分としてN−メチル−2−ピロリドン及び酢酸エチル
からなり
前記固形分の合計100質量部に対して、前記ポリアミドイミド樹脂を50質量部〜90質量部、前記フェノール樹脂を10質量部〜50質量部、
前記揮発分の合計125質量部〜900質量部に対して、前記N−メチル−2−ピロリドンを62質量部〜675質量部、前記酢酸エチルを31質量部〜450質量部
の割合で含有した前記ポリアミドイミド塗料組成物を用い、
金属被塗物を回転させながら、前記ポリアミドイミド塗料組成物を該金属被塗物にスプレーコートすることを特徴とするポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法。
【請求項3】
固形分と揮発分とを含むポリアミドイミド塗料組成物を金属被塗物に塗布して得られたポリアミドイミド被膜であって、
前記ポリアミドイミド塗料組成物は、
前記固形分としてポリアミドイミド樹脂及びフェノール樹脂、
前記揮発分としてN−メチル−2−ピロリドン及び酢酸エチル
からなり
前記固形分の合計100質量部に対して、前記ポリアミドイミド樹脂を50質量部〜90質量部、前記フェノール樹脂を10質量部〜50質量部、
前記揮発分の合計125質量部〜900質量部に対して、前記N−メチル−2−ピロリドンを62質量部〜675質量部、前記酢酸エチルを31質量部〜450質量部
の割合で含有され、
前記金属被塗物を回転させながら、前記ポリアミドイミド塗料組成物を該金属被塗物にスプレーコートして得られた乾燥膜厚が0.5μm〜20μmであることを特徴とするポリアミドイミド被膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属被塗物との付着性や、塗布時の乾燥性に優れたポリアミドイミド塗料組成物及びその塗布方法、並びにポリアミドイミド塗料組成物を塗布して得られるポリアミドイミド被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド樹脂を含有した塗料組成物は、例えば、特許文献1〜特許文献3に記載されているように、従来から摺動材及び絶縁被膜用塗料として使用されており、ポリアミドイミド塗料組成物を塗布する場合には、エアースプレー塗装、スクリーン印刷等の塗布方法を用いることが一般的である。
【0003】
しかしながら、上述したポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法は、大量生産には不向きであり、大量生産及び高効率化にはスプレータンブラー塗装が採用されることが多い。ポリアミドイミド塗料組成物には、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等の高沸点有機溶剤が含有され、これらは揮発分の蒸発が遅いため、スプレータンブラー塗装には不向きな塗料組成物である。
【0004】
スプレータンブラー塗装では、金属被塗物を回転させながら塗布するため、金属被塗物同士が接触し合い、金属被塗物の接触の際に、ポリアミドイミド被膜の付着性が適切でないと剥がれが生じる。また、塗料組成物の乾燥性が適切でないと、ポリアミドイミド被膜に剥がれが生じたり、金属被塗物同士が接着したりする。よって、スプレータンブラー塗装を実施するためには、金属被塗物との付着性や、塗料塗布時の乾燥性に優れた塗料組成物でなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014−062237号公報
【特許文献2】特開2014−062223号公報
【特許文献3】特開2013−209960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みて提案されたものであり、金属被塗物との付着性や、塗布時の乾燥性に優れたポリアミドイミド塗料組成物及びその塗布方法、並びにポリアミドイミド塗料組成物を塗布して得られるポリアミドイミド被膜を提供することを目的とする。
【0007】
本発明者は、ポリアミドイミド塗料組成物をスプレータンブラー塗装に適用した場合における問題点に鑑み鋭意検討した結果、ポリアミドイミド塗料組成物に酢酸エチルを配合すること及びその最適な添加量、並びに各種溶剤の最適な組み合わせを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した目的を達成するための本発明に係るポリアミドイミド塗料組成物は、固形分と揮発分とを含むポリアミドイミド塗料組成物であって、固形分としてポリアミドイミド樹脂及びフェノール樹脂、揮発分としてN−メチル−2−ピロリドン及び酢酸エチルからなり、固形分の合計100質量部に対して、ポリアミドイミド樹脂を50質量部〜90質量部、フェノール樹脂を10質量部〜50質量部、揮発分の合計125質量部〜900質量部に対して、N−メチル−2−ピロリドンを62質量部〜675質量部、酢酸エチルを31質量部〜450質量部の割合で含有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係るポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法は、固形分と揮発分とを含むポリアミドイミド塗料組成物を用いたポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法であって、固形分としてポリアミドイミド樹脂及びフェノール樹脂、揮発分としてN−メチル−2−ピロリドン及び酢酸エチルからなり、固形分の合計100質量部に対して、ポリアミドイミド樹脂を50質量部〜90質量部、フェノール樹脂を10質量部〜50質量部、揮発分の合計125質量部〜900質量部に対して、N−メチル−2−ピロリドンを62質量部〜675質量部、酢酸エチルを31質量部〜450質量部の割合で含有したポリアミドイミド塗料組成物を用い、金属被塗物を回転させながら、ポリアミドイミド塗料組成物を金属被塗物にスプレーコートすることを特徴とする。
【0010】
更に、本発明に係るポリアミドイミド被膜は、固形分と揮発分とを含むポリアミドイミド塗料組成物を金属被塗物に塗布して得られたポリアミドイミド被膜であって、ポリアミドイミド塗料組成物は、固形分としてポリアミドイミド樹脂及びフェノール樹脂、揮発分としてN−メチル−2−ピロリドン及び酢酸エチルからなり、固形分の合計100質量部に対して、ポリアミドイミド樹脂を50質量部〜90質量部、フェノール樹脂を10質量部〜50質量部、揮発分の合計125質量部〜900質量部に対して、N−メチル−2−ピロリドンを62質量部〜675質量部、酢酸エチルを31質量部〜450質量部の割合で含有され、金属被塗物を回転させながら、ポリアミドイミド塗料組成物を金属被塗物にスプレーコートして得られた乾燥膜厚が0.5μm〜20μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、金属被塗物との付着性や、塗布時の乾燥性に優れたポリアミドイミド塗料組成物及びその塗布方法、並びにポリアミドイミド塗料組成物を塗布して得られるポリアミドイミド被膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を適用した具体的な実施の形態(以下、「本実施の形態」という。)について、以下の順序で詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えることが可能である。
【0013】
1.ポリアミドイミド塗料組成物
1−1.ポリアミドイミド樹脂
1−2.フェノール樹脂
1−3.有機溶剤
2.ポリアミドイミド塗料組成物の調整方法
3.ポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法
3−1.塗装方法
3−2.硬化温度
4.ポリアミドイミド被膜
【0014】
[1.ポリアミドイミド塗料組成物]
本実施の形態に係るポリアミドイミド塗料組成物は、固形分と揮発分とを含むポリアミドイミド塗料組成物であって、固形分として所定量のポリアミドイミド樹脂及びフェノール樹脂を、また、揮発分として所定量のN−メチル−2−ピロリドン及び酢酸エチルを含むものである。
【0015】
<1−1.ポリアミドイミド樹脂>
ポリアミドイミド塗料組成物に用いられるポリアミドイミド樹脂は、特に制限がなく、ポリアミドイミド塗料組成物中の有機溶剤に可溶であるポリアミドイミド樹脂を使用することができる。
【0016】
例えば、市販されているポリアミドイミド樹脂としては、バイロマックスHR11NN、バイロマックス13NX、バイロマックス26NX(以上、東洋紡績社製)、HI−405、HI−406、HPC−5020、HPC−6000、HPC−7200、HPC−9000(以上、日立化成工業社製)等が挙げられる。
【0017】
<1−2.フェノール樹脂>
ポリアミドイミド塗料組成物に用いられるフェノール樹脂は、特に制限がなく、塗料用フェノール樹脂であるノボラック型フェノール樹脂及びレゾール型フェノール樹脂の何れも用いることができる。
【0018】
例えば、市販されているフェノール樹脂としては、レヂトップPS−4900、レヂトップPL−4329、レヂトップPL−2243(以上、群栄化学社製)、フェノライト5592、フェノライト5010、フェノライトTD447(以上、DIC社製)等が挙げられる。
【0019】
<1−3.有機溶剤>
ポリアミドイミド塗料組成物では、有機溶剤としてN−メチル−2−ピロリドン及び酢酸エチルを用いる必要がある。N−メチル−2−ピロリドンを用いなかった場合には、固形分である各種樹脂を溶解させることができず、塗料を作製することができない。また、酢酸エチルを用いなかった場合には、塗料の乾燥が遅く実用的ではない。
【0020】
従って、ポリアミドイミド塗料組成物は、有機溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを用いることで、上述した固形分である各種樹脂を溶解させ、更に、酢酸エチルを用いることで、塗布時の乾燥性を向上させることができる。また、ポリアミドイミド塗料組成物を用いた塗料の乾燥性を向上させることで、塗布時のポリアミドイミド被膜の剥がれや、金属被塗物同士の接着を抑制することができる。
【0021】
ポリアミドイミド塗料組成物では、上述のN−メチル−2−ピロリドン及び酢酸エチルの他、ポリアミドイミド樹脂の真溶剤となり得る有機溶剤を用いることができる。
【0022】
ポリアミドイミド樹脂の真溶剤となり得る有機溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、シクロペンタノン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で又は併用して利用することができる。
【0023】
ポリアミドイミド塗料組成物では、上述のN−メチル−2−ピロリドン及び酢酸エチルの他、ポリアミドイミド塗料組成物を用いた塗料の乾燥性を向上させるために、ポリアミドイミド樹脂の助溶剤となり得る有機溶剤を用いることができる。
【0024】
ポリアミドイミド樹脂の助溶剤となり得る有機溶剤としては、例えば、γ−ブチロラクトン、キシレン、エチルベンゼン、シクロヘキサノン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。これらの有機溶剤は、単独で又は併用して利用することができる。
【0025】
ポリアミドイミド塗料組成物は、必要に応じて、顔料成分を配合することができ、特に制限なく使用することができる。ポリアミドイミド塗料組成物では、例えば、二硫化モリブデン、グラファイト、ポリテトラフルオロエチレン、窒化ホウ素、メラミンシアヌレート等の固体潤滑剤;アルミナ、炭化ケイ素、シリカ、炭酸カルシウム等の体質顔料;酸化鉄、カーボンブラック、酸化チタン、フタロシアニン系顔料、キナクドリン系顔料等の着色顔料等を添加することができる。
【0026】
ポリアミドイミド塗料組成物は、必要に応じて、塗料添加剤成分を配合することができ、特に制限なく使用することができる。ポリアミドイミド塗料組成物では、例えば、沈降防止剤、湿潤分散剤、消泡剤、表面調整剤等の塗料添加剤を添加することができる。
【0027】
従って、本実施の形態に係るポリアミドイミド塗料組成物では、上述した通り、材料の有機溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを用いることで、固形分であるポリアミドイミド樹脂及びフェノール樹脂を確実に溶解させることができ、ポリアミドイミド塗料組成物を用いた塗料を作製することができる。更に、ポリアミドイミド塗料組成物では、有機溶剤に酢酸エチルを用いることで、塗料を金属被塗物に塗布した際の乾燥性を向上させることができる。
【0028】
[2.ポリアミドイミド塗料組成物の調整方法]
ポリアミドイミド塗料組成物の調整方法では、固形分である各種樹脂と、揮発分である有機溶剤とを、所定の割合となるように配合した後、有機溶剤中に各種樹脂が均一に溶解するまで撹拌し、ポリアミドイミド塗料組成物を得る。なお、上述した通り、ここでいうポリアミドイミド塗料組成物中の固形分とは、ポリアミドイミド樹脂及びフェノール樹脂であり、揮発分とは、N−メチル−2−ピロリドン及び酢酸エチルである。
【0029】
まず、ポリアミドイミド塗料組成物の調整方法では、固形分の合計100質量部に対して、ポリアミドイミド樹脂を50質量部〜90質量部、フェノール樹脂を10質量部〜50質量部、揮発分の合計125質量部〜900質量部に対して、N−メチル−2−ピロリドンを62質量部〜675質量部、酢酸エチルを31質量部〜450質量部の割合で配合する。
【0030】
ポリアミドイミド塗料組成物中の固形分及び揮発分の配合割合が上記範囲から外れた場合には、ポリアミドイミド塗料組成物を用いた塗料の粘度が適切な範囲から外れてしまう。その結果、金属被塗物に塗料を塗布した際のポリアミドイミド被膜の付着性が低下し、例えば、金属被塗物を回転させながら塗布するスプレータンブラー塗装では、金属被塗物同士の接触の際に、ポリアミドイミド被膜の剥がれが生じる。従って、ポリアミドイミド塗料組成物の調整方法では、ポリアミドイミド塗料組成物中の固形分及び揮発分の配合割合を上記範囲内に収めることで、金属被塗物に対するポリアミドイミド被膜の付着性を向上させることができる。
【0031】
次に、ポリアミドイミド塗料組成物の調整方法では、ディゾルバー型撹拌機等の回転型撹拌機を使用する。より詳細には、撹拌容器内に有機溶剤を投入し、その後、樹脂成分を投入し、これらの材料が均一に溶解するまで撹拌する。ポリアミドイミド塗料組成物に顔料成分を配合する場合には、サンドミル型、三本ロール型等の分散機を使用し顔料を分散させる必要がある。
【0032】
[3.ポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法]
ポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法では、上述した通りに調整したポリアミドイミド塗料組成物を用いた塗料を金属被塗物上に、所定の乾燥膜厚となるように塗布し、ポリアミドイミド被膜を形成する。
【0033】
<3−1.塗装方法>
ポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法では、スプレータンブラー塗装により、金属被塗物上にポリアミドイミド塗料組成物を含む塗料を、ポリアミドイミド被膜の乾燥膜厚が所定の範囲内となるように均一に塗装する。
【0034】
金属被塗物は、後述する表面処理を施すことが可能であれば特に限定されず、材質は鉄系、非鉄系問わず可能であり、タンブラー中で容易に回転することが可能であれば形状は問わない。金属被塗物としては、例えば、ボルト、ナット、摺動材等が挙げられる。
【0035】
ポリアミドイミド被膜の乾燥膜厚としては、0.5μm〜20μmとすることが必要である。従って、ポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法では、例えば、塗布回数、塗布量、被塗物温度等を適宜設定することにより、ポリアミドイミド被膜の乾燥膜厚を0.5μm〜20μmとすることができる。
【0036】
ここで、スプレータンブラー塗装とは、金属被塗物を回転させながら、ポリアミドイミド塗料組成物を含む塗料をスプレーコートする塗布方法である。スプレータンブラー塗装は、金属被塗物を回転させながら塗料を塗布するため、金属被塗物同士が接触してしまう。即ち、スプレータンブラー塗装では、金属被塗物が接触した際に、ポリアミドイミド被膜の付着性が適切でないと剥がれが生じる。また、ポリアミドイミド塗料組成物の乾燥性が適切でないとポリアミドイミド被膜に剥がれが生じたり、金属被塗物同士が接着する虞がある。従って、スプレータンブラー塗装を適切に実施するためには、金属被塗物との付着性や、塗料塗布時の乾燥性に優れたポリアミドイミド塗料組成物を用いる必要がある。
【0037】
<3−2.硬化温度>
ポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法では、スプレータンブラー塗装にて塗装された後に未処理のポリアミドイミド塗膜を硬化させて、ポリアミドイミド被膜を形成する。未処理のポリアミドイミド塗膜の硬化は、通常の塗膜の焼付手段、例えば、熱風加熱、赤外線加熱、高周波加熱等により行うことができる。
【0038】
未処理のポリアミドイミド塗膜の硬化温度は、特に限定されないが、例えば、100℃〜300℃、好ましくは150℃〜280℃の範囲で適宜設定することができる。また、未処理のポリアミドイミド塗膜の焼付け乾燥の時間は特に限定されないが、例えば、10分間〜60分間、好ましくは30分間〜60分間の範囲で適宜設定することができる。
【0039】
従って、本実施の形態に係るポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法では、上述した通り、乾燥性に優れたポリアミドイミド塗料組成物を含む塗料を用いて、スプレータンブラー塗装にて塗装しているので、金属被塗物上のポリアミドイミド被膜の剥がれや、金属被塗物同士の接着を抑制することができる。
【0040】
[4.ポリアミドイミド被膜]
本実施の形態に係るポリアミドイミド被膜は、上述したポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法で、ポリアミドイミド被膜の乾燥膜厚が0.5μm〜20μmとなるように塗布することにより得られるものである。なお、ポリアミドイミド塗料組成物については、上述した通りであるので、ここでの説明は省略する。
【0041】
ポリアミドイミド被膜の乾燥膜厚としては、0.5μm〜20μmとすることが必要である。乾燥膜厚が0.5μm未満の場合には、外部からの衝撃等により、ポリアミドイミド被膜が破壊されて金属被塗物が露出したり、被膜が剥がれたりする虞がある。一方、乾燥膜厚が20μmを超過した場合には、均一な膜厚を得られることが困難になり、例えば、ポリアミドイミド塗料組成物を含む塗料を摺動部材に適用した場合には、ポリアミドイミド被膜が部材の動作を阻害する虞がある。従って、ポリアミドイミド塗料組成物の塗布方法では、ポリアミドイミド被膜の乾燥膜厚を0.5μm〜20μmとすることにより、金属被塗物上の被膜の欠陥を抑制し、例えば、金属被塗物の円滑な作動を助長することができる。
【0042】
従って、本実施の形態に係るポリアミドイミド被膜では、乾燥性に優れたポリアミドイミド塗料組成物を含む塗料を用いて、金属被塗物同士の接着を抑制しながらスプレータンブラー塗装にて塗装することにより、金属被塗物上のポリアミドイミド被膜が剥がれ難くなるという優れた効果を奏する。
【実施例】
【0043】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0044】
[実施例1]
実施例1では、ポリアミドイミド塗料組成物の成分である有機溶剤及び樹脂を表1に示した所定量を配合し、ディゾルバー型撹拌機により、600rpmで30分間撹拌し、有機溶剤中に樹脂を溶解させ評価用試料(試料1)としてポリアミドイミド塗料組成物を得た。
【0045】
次に、実施例1では、得られた試料1について、自動スプレータンブラー装置にて金属被塗物に、表2に示した膜厚になるように塗装し、ポリアミドイミド被膜を得た。実施例1では、得られたポリアミドイミド被膜の外観について確認し、その結果を表2に示した。
【0046】
実施例1では、得られた試料1を、自動スプレータンブラー装置を用いて塗布した際の金属被塗物同士の接着の有無、並びに金属被塗物に対する試料1の接着性及び乾燥性について、良好(○)又は不良(×)として評価した結果を表2に示した。
【0047】
[実施例2〜実施例5及び比較例1〜比較例4]
実施例1以外の各実施例及び各比較例では、ポリアミドイミド塗料組成物の成分である有機溶剤及び樹脂について、表1に示した通りの量で配合した以外は実施例1と同様にして、評価用試料(試料2〜試料9)としてポリアミドイミド塗料組成物をそれぞれ得た。各実施例及び各比較例では、得られたポリアミドイミド被膜の外観について確認し、その結果をそれぞれ表2に示した。
【0048】
また、各実施例及び各比較例では、得られた試料2〜試料9を、自動スプレータンブラー装置を用いて塗布した際の金属被塗物同士の接着の有無、並びに金属被塗物に対する試料2〜試料9の接着性及び乾燥性について、それぞれ評価した結果を表2に示した。











【0049】
【表1】

【0050】
【表2】



【0051】
実施例1〜実施例3、比較例1及び比較例2で得られた試料1〜試料3、試料6及び試料7について検討すると、表1及び表2の結果からわかるように、固形分の合計100質量部に対して、ポリアミドイミド樹脂50質量部〜90質量部、フェノール樹脂10質量部〜50質量部の配合範囲であれば、スプレータンブラー塗装を実施してもポリアミドイミド被膜の剥がれ及び金属被塗物同士の接着は確認されなかった。逆に上記配合比以外の組成では剥がれ及び金属被塗物同士の接着が確認された。
【0052】
また、実施例4、実施例5、比較例3及び比較例4で得られた試料4、試料5、試料8及び試料9について検討すると、表1及び表2の結果からわかるように、揮発分の合計125質量部〜900質量部に対して、N−メチル−2−ピロリドン62質量部〜675質量部、酢酸エチル31質量部〜450質量部の配合範囲であれば、スプレータンブラー塗装を実施してもポリアミドイミド被膜の剥がれ及び金属被塗物同士の接着は確認されなかった。逆に上記配合比以外の組成では剥がれ及び金属被塗物同士の接着が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、金属被塗物上のポリアミドイミド被膜の剥がれや、金属被塗物同士の接着を抑制することができるので、例えば、電気絶縁用塗料や各種コーティング材、摺動部材用塗料等に好適に利用することができ、商業的に非常に有用である。