特許第6403243号(P6403243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大塚化学株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6403243
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】摩擦材組成物、摩擦材及び摩擦部材
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20181001BHJP
   C01G 23/00 20060101ALI20181001BHJP
   F16D 69/02 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   C09K3/14 520C
   C01G23/00
   F16D69/02
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2018-540493(P2018-540493)
(86)(22)【出願日】2018年3月5日
(86)【国際出願番号】JP2018008222
【審査請求日】2018年8月21日
(31)【優先権主張番号】特願2017-43800(P2017-43800)
(32)【優先日】2017年3月8日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000206901
【氏名又は名称】大塚化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】多田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】大門 恵美子
(72)【発明者】
【氏名】八木 敏晃
【審査官】 齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−153440(JP,A)
【文献】 特開2016−222817(JP,A)
【文献】 特開平10−195420(JP,A)
【文献】 特開2017−2186(JP,A)
【文献】 特開平11−61105(JP,A)
【文献】 国際公開第03/037797(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K3/14
C01G23/00
F16D69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非繊維状のチタン酸塩化合物粒子から構成されるチタン酸塩化合物粉末と、硫酸バリウム粉末と、熱硬化性樹脂とを含有する摩擦材組成物において、前記チタン酸塩化合物粉末のアルカリ金属イオン溶出率が15.0質量%以下であり、前記硫酸バリウム粉末の体積基準累積50%粒子径(D50)が0.1μm〜20.0μmであり、前記摩擦材組成物の合計量100質量%において銅成分の含有量が銅元素として0.5質量%以下であり、
前記硫酸バリウム粉末の体積基準累積90%粒子径(D90)が0.1μm〜20.0μmであることを特徴とする、摩擦材組成物。
【請求項2】
前記チタン酸塩化合物粉末の体積基準累積50%粒子径(D50)が1.0μm〜150.0μmであることを特徴とする、請求項1に記載の摩擦材組成物。
【請求項3】
前記チタン酸塩化合物粉末が、ATi(2n+1)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、nは4〜11の数〕、A(2+y)Ti(6−x)(13+y/2−(4−z)x/2)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、zは元素Mの価数で1〜3の整数、0.05≦x≦0.5、0≦y≦(4−z)x〕、ATi(2−y)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、xは0.5〜1.0、yは0.25〜1.0の数〕、A0.5〜0.7Li0.27Ti1.733.85〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.2〜0.7Mg0.40Ti1.63.7〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.5〜0.7Li(0.27−x)Ti(1.73−z)3.85〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはMg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上(但し、2種以上の場合は異なる価数のイオンの組み合わせを除く)、xとzは、Mが2価金属のとき、x=2y/3、z=y/3、Mが3価金属のとき、x=y/3、z=2y/3、yは0.004≦y≦0.4〕からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物の粉末であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の摩擦材組成物。
【請求項4】
前記チタン酸塩化合物粉末の硫酸イオン溶出率が0.2質量%以下であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の摩擦材組成物。
【請求項5】
前記硫酸バリウム粉末の含有量が、前記摩擦材組成物の合計量100質量%に対して、1質量%〜50質量%であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の摩擦材組成物。
【請求項6】
前記チタン酸塩化合物粉末の含有量が、前記摩擦材組成物の合計量100質量%に対して、1質量%〜40質量%であることを特徴とする、請求項1〜のいずれか一項に記載の摩擦材組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか一項に記載の摩擦材組成物の成形体であることを特徴とする、摩擦材。
【請求項8】
請求項に記載の摩擦材を備えることを特徴とする、摩擦部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チタン酸塩化合物粉末を含む摩擦材組成物、並びに該摩擦材組成物を用いた摩擦材及び摩擦部材に関する。
【背景技術】
【0002】
各種車両、産業機械等の制動装置を構成するブレーキライニング、ディスクパッド、クラッチフェーシング等の摩擦部材においては、摩擦係数が高く安定し、耐フェード性が優れていること、耐摩耗性が優れていること、ローター(相手材)攻撃性が低いことが求められている。
【0003】
これらの特性を満足させるために、繊維状のチタン酸カリウム粒子、無機充填材、有機充填材等と、これらを結合するフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂(結合材)とを含有する樹脂組成物から形成された摩擦材を備える摩擦部材が使用されてきた。繊維状のチタン酸カリウム粒子は、ローター(相手材)を傷付けず、摩擦特性も優れているが、平均繊維径が0.1μm〜0.5μmであり、平均繊維長が10μm〜20μmであるものが多く、世界保健機関(WHO)で定められたWHOファイバー(長径が5μm以上、短径が3μm以下、及びアスペクト比が3以上の繊維状粒子)を含有している。そのため、代替品として、安全衛生上の懸念を回避しつつ、摩擦材としての要求特性を達成することができる、非繊維状(板状、複数の凸部を有する形状等)のチタン酸塩化合物粒子が提案され、使用されている。また、チタン酸塩化合物粒子から構成される粉末における硫酸イオンの含有量が多くなると摩擦材に錆が発生しやすくなることから、硫酸イオンの含有量が少ないチタン酸塩化合物粉末が求められ、使用されている(特許文献1)。
【0004】
摩擦材に用いる樹脂組成物には、耐摩耗性の向上のために、さらに銅繊維や銅粉末も配合されている。これは、摩擦材とローター(相手材)との摩擦時に、銅の展延性によってローター表面に凝着被膜が形成され、この凝着被膜が保護膜として作用することで、高温での高い摩擦係数を維持できるものと考えられている。しかし、銅を含有する摩擦材は、制動時に生成する摩耗粉に銅を含み、河川、湖、海洋汚染等の原因になる可能性が示唆されていることから、北米において銅の使用量が規制されることになった。そこで、銅成分を含有しない又は銅の含有量を少なくするために、チタン酸リチウムカリウムと黒鉛とを含有する摩擦材組成物(特許文献2)、2種以上のチタン酸塩化合物とセラミック繊維とを含有する摩擦材組成物(特許文献3)、トンネル状結晶構造のチタン酸塩化合物と層状結晶構造のチタン酸塩化合物とを含有する摩擦材組成物(特許文献4)、複数の凸部を有するチタン酸塩化合物と生体溶解性無機繊維とを含有する摩擦材組成物(特許文献5)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−145274号公報
【特許文献2】国際公開第2012/066968号パンフレット
【特許文献3】特開2015−59143号公報
【特許文献4】特開2015−147913号公報
【特許文献5】特開2013−76058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2〜5の摩擦材組成物のように、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量が少ないと、圧縮変形率が大きく、加熱成形時の歩留まりが悪くなるという問題がある。
【0007】
本発明の目的は、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合においても、摩擦係数や耐摩耗性を向上させ、圧縮変形率を小さくすることができ、加熱成形時の歩留まりを改善することができる、摩擦材組成物及び該摩擦材組成物を用いた摩擦部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合において、チタン酸塩化合物粉末のアルカリ金属イオン溶出率を一定以下とし、特定形状のチタン酸塩化合物粒子及び特定粒子径の硫酸バリウム粒子(粉末)を含有する摩擦材組成物を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の摩擦材組成物、摩擦材及び摩擦部材を提供する。
【0010】
項1 非繊維状のチタン酸塩化合物粒子から構成されるチタン酸塩化合物粉末と、硫酸バリウム粉末と、熱硬化性樹脂とを含有する摩擦材組成物において、前記チタン酸塩化合物粉末のアルカリ金属イオン溶出率が15.0質量%以下であり、前記硫酸バリウム粉末の体積基準累積50%粒子径(D50)が0.1μm〜20.0μmであり、前記摩擦材組成物の合計量100質量%において銅成分の含有量が銅元素として0.5質量%以下であることを特徴とする、摩擦材組成物。
【0011】
項2 前記硫酸バリウム粉末の体積基準累積90%粒子径(D90)が0.1μm〜20.0μmであることを特徴とする、項1に記載の摩擦材組成物。
【0012】
項3 前記チタン酸塩化合物粉末の体積基準累積50%粒子径(D50)が1.0μm〜150.0μmであることを特徴とする、項1又は2に記載の摩擦材組成物。
【0013】
項4 前記チタン酸塩化合物粉末が、ATi(2n+1)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、nは4〜11の数〕、A(2+y)Ti(6−x)(13+y/2−(4−z)x/2)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、zは元素Mの価数で1〜3の整数、0.05≦x≦0.5、0≦y≦(4−z)x〕、ATi(2−y)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、xは0.5〜1.0、yは0.25〜1.0の数〕、A0.5〜0.7Li0.27Ti1.733.85〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.2〜0.7Mg0.40Ti1.63.7〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.5〜0.7Li(0.27−x)Ti(1.73−z)3.85〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはMg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上(但し、2種以上の場合は異なる価数のイオンの組み合わせを除く)、xとzは、Mが2価金属のとき、x=2y/3、z=y/3、Mが3価金属のとき、x=y/3、z=2y/3、yは0.004≦y≦0.4〕からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物の粉末であることを特徴とする、項1〜3のいずれか一項に記載の摩擦材組成物。
【0014】
項5 前記チタン酸塩化合物粉末の硫酸イオン溶出率が0.2質量%以下であることを特徴とする、項1〜4のいずれか一項に記載の摩擦材組成物。
【0015】
項6 前記硫酸バリウム粉末の含有量が、前記摩擦材組成物の合計量100質量%に対して、1質量%〜50質量%であることを特徴とする、項1〜5のいずれか一項に記載の摩擦材組成物。
【0016】
項7 前記チタン酸塩化合物粉末の含有量が、前記摩擦材組成物の合計量100質量%に対して、1質量%〜40質量%であることを特徴とする、項1〜6のいずれか一項に記載の摩擦材組成物。
【0017】
項8 項1〜7のいずれか一項に記載の摩擦材組成物の成形体であることを特徴とする、摩擦材。
【0018】
項9 項8に記載の摩擦材を備えることを特徴とする、摩擦部材。
【発明の効果】
【0019】
本発明の摩擦材組成物は、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合においても、摩擦係数や耐摩耗性を向上させ、圧縮変形率を小さくすることができ、加熱成形時の歩留まりを改善することができる。
【0020】
本発明の摩擦材及び摩擦部材は、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合においても、摩擦係数が高く、耐摩耗性に優れ、しかも圧縮変形率が小さく、加熱成形時の歩留まりが優れている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0022】
<摩擦材組成物>
本発明の摩擦材組成物は、非繊維状のチタン酸塩化合物粒子から構成されるチタン酸塩化合物粉末と、硫酸バリウム粉末と、熱硬化性樹脂とを含有する摩擦材組成物において、チタン酸塩化合物粉末のアルカリ金属イオン溶出率が15.0質量%以下であり、硫酸バリウム粉末の体積基準累積50%粒子径(D50)が0.1μm〜20.0μmであり、摩擦材組成物の合計量100質量%において銅成分の含有量が銅元素として0.5質量%以下であることを特徴とし、必要に応じて、その他材料を更に含有することができる。
【0023】
摩擦材組成物の合計量100質量%において銅成分の含有量を銅元素として0.5質量%以下、好ましくは銅成分を含有しないことで、従来の摩擦材と比較して環境負荷の少ないものとすることができる。なお、本発明において、「銅成分を含有しない」とは、銅繊維、銅粉、並びに銅を含んだ合金(真鍮又は青銅等)及び化合物のいずれをも、摩擦材組成物の原材料として配合していないことをいう。
【0024】
(チタン酸塩化合物粉末)
本発明に用いるチタン酸塩化合物粉末は、アルカリ金属イオン溶出率が15.0質量%以下であればよく、好ましくは0.01質量%〜15.0質量%であり、より好ましくは0.05質量%〜10.0質量%であり、さらに好ましくは0.1質量%〜5.0質量%、特に好ましくは0.1質量%〜2.5質量%である。本発明において、アルカリ金属イオン溶出率とは、80℃の水中においてチタン酸塩化合物粉末から水中に溶出したアルカリ金属イオンの質量割合のことをいう。
【0025】
摩擦材組成物に用いる熱硬化性樹脂の一例としてのノボラック型フェノール樹脂の硬化反応では、硬化促進剤としての例えばヘキサメチレンテトラミンが開環することで、ノボラック型フェノール樹脂中の水酸基と結合し硬化反応が開始される。しかしながら、この際、アルカリ金属イオンが存在すると、ノボラック型フェノール樹脂における水酸基中の水素イオンとイオン交換反応を起こし、ヘキサメチレンテトラミン(硬化促進剤)とノボラック型フェノール樹脂(熱硬化性樹脂)との結合を阻害(硬化阻害)すると考えられる。
【0026】
また、従来の摩擦材組成物に用いられている銅は、熱伝導性が高く、摩擦材組成物の加熱成形時において、熱硬化性樹脂の熱硬化に必要な熱量を、摩擦材組成物の中心部まで速やかに伝える機能を有している。しかしながら、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合、摩擦材組成物の加熱成形時において、摩擦材組成物の中心部までの熱量の伝達が遅れることにより、得られた成形体の中心部の熱硬化性樹脂が未硬化となりやすい。
【0027】
これに対して、本発明においては、チタン酸塩化合物粉末のアルカリ金属イオン溶出率が15.0質量%以下であるため、上記のような熱硬化性樹脂と硬化促進剤との硬化阻害が生じ難く、熱硬化性樹脂の硬化を促進することができる。そのため、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合においても、成形体の中心部における熱硬化性樹脂まで熱硬化を促進させることができる。
【0028】
以上の理由から、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合、アルカリ金属イオン溶出率が上記範囲であるチタン酸塩化合物粉末を用いる。
【0029】
本発明で使用するチタン酸塩化合物粉末は、例えば、Liを除くアルカリ金属の群から選ばれる1種又は2種以上の元素(以下、これらを総称して「A元素」と略記する)のチタン酸塩化合物(粒子)の粉末が挙げられる。このようなチタン酸アルカリ金属塩化合物には、TiO八面体やTiO三角両錐体が綾線を共有しながら連鎖した層状構造や、トンネル構造等の結晶構造が存在する。A元素のイオンは、層状構造の層間や、トンネル構造のトンネル内に配位している。層状構造の層間や、トンネル構造のトンネル内には、A元素のイオン以外に、アルカリ土類金属のイオンが配位されていてもよい。
【0030】
A元素としては、例えば、Na、K、Rb、Cs、Frが挙げられ、好ましくはNa、Kである。なお、Liは、他のアルカリ金属と比べ、イオン半径が小さく異なる性質を有するため、A元素には含まれない。アルカリ土類金属としては、例えば、Ca、Sr、Ba、Raが挙げられる。
【0031】
本発明で使用する上記チタン酸塩化合物では、Ti席の一部がLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnから選ばれる1種又は2種以上(以下、これらを総称して「M元素」と略記する)で置換されていてもよい。M元素としては、環境への観点から、好ましくはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Fe、Al、Mnである。また、摩擦特性をより一層高める観点から、より好ましくはLi、Mgである。M元素は、そのイオンがTi4+と同程度のイオン半径を有していることから、TiをM元素に置換することが可能となる。
【0032】
上記チタン酸塩化合物としては、例えば、一般式がATi(2n+1)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、nは4〜11の数〕、A(2+y)Ti(6−x)(13+y/2−(4−z)x/2)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、zは元素Mの価数で1〜3の整数、0.05≦x≦0.5、0≦y≦(4−z)x〕等で表されるトンネル結晶構造のチタン酸塩化合物が挙げられる。
【0033】
また、一般式がATi(2−y)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、xは0.5〜1.0、yは0.25〜1.0の数〕、A0.5〜0.7Li0.27Ti1.733.85〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.2〜0.7Mg0.40Ti1.63.7〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.5〜0.7Li(0.27−x)Ti(1.73−z)3.85〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはMg、Zn、Ga、Ni、Cu、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上(但し、2種以上の場合は異なる価数のイオンの組み合わせは除く)、xとzは、Mが2価金属のとき、x=2y/3、z=y/3、Mが3価金属のとき、x=y/3、z=2y/3、yは0.004≦y≦0.4〕等で表される層状結晶構造のチタン酸塩化合物等が挙げられる。
【0034】
上記チタン酸塩化合物は、環境への観点から銅元素を含まない組成であることが好ましい。このようなチタン酸塩化合物としては、例えば、ATi(2n+1)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、nは4〜11の数〕、A(2+y)Ti(6−x)(13+y/2−(4−z)x/2)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、zは元素Mの価数で1〜3の整数、0.05≦x≦0.5、0≦y≦(4−z)x〕、ATi(2−y)〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはLi、Mg、Zn、Ga、Ni、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上、xは0.5〜1.0、yは0.25〜1.0の数〕、A0.5〜0.7Li0.27Ti1.733.85〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.2〜0.7Mg0.40Ti1.63.7〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上〕、A0.5〜0.7Li(0.27−x)Ti(1.73−z)3.85〜3.95〔式中、AはLiを除くアルカリ金属の1種又は2種以上、MはMg、Zn、Ga、Ni、Fe、Al、Mnより選ばれる1種又は2種以上(但し、2種以上の場合は異なる価数のイオンの組み合わせは除く)、xとzは、Mが2価金属のとき、x=2y/3、z=y/3、Mが3価金属のとき、x=y/3、z=2y/3、yは0.004≦y≦0.4〕から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0035】
本発明で用いる上記チタン酸塩化合物の具体例としては、KTi4.810.6(4.8チタン酸カリウム)、KTi13(6チタン酸カリウム)、KTi6.113.2(6.1チタン酸カリウム)、KTi7.916.8(7.9チタン酸カリウム)、KTi17(8チタン酸カリウム)、KTi10.922.8(10.9チタン酸カリウム)、NaTi13(6チタン酸ナトリウム)、NaTi17(8チタン酸ナトリウム)、K0.8Li0.27Ti1.73(チタン酸リチウムカリウム)、K2.15Ti5.85Al0.1513.0(チタン酸アルミニウムカリウム)、K2.20Ti5.60Al0.4012.9(チタン酸アルミニウムカリウム)、K2.21Ti5.90Li0.1012.9(チタン酸リチウムカリウム)、K0.8Li0.27Ti1.73(チタン酸リチウムカリウム)、K0.7Li0.27Ti1.733.95(チタン酸リチウムカリウム)、K0.8Mg0.4Ti1.6(チタン酸マグネシウムカリウム)、K0.7Mg0.4Ti1.63.95(チタン酸マグネシウムカリウム)、K0.7Li0.13Mg0.2Ti1.673.95(チタン酸リチウムマグネシウムカリウム)、K0.7Li0.24Mg0.04Ti1.723.95(チタン酸リチウムマグネシウムカリウム)、K0.7Li0.13Fe0.4Ti1.473.95(チタン酸リチウム鉄カリウム)等が挙げられる。
【0036】
本発明で用いる上記チタン酸塩化合物は、アルカリ金属イオン溶出率をより一層低める観点からは結晶構造がトンネル構造であることが好ましく、高温域における耐摩耗性をより一層高める観点からは結晶構造が層状構造であることが好ましい。
【0037】
本発明においては、アルカリ金属イオン溶出率が上記範囲内において、目的とする摩擦材の特性に応じて、適宜、上記チタン酸塩化合物のうち1種又は2種以上を選択することができる。また、トンネル構造の上記チタン酸塩化合物と層状構造の上記チタン酸塩化合物とを、組み合わせて用いることができる。
【0038】
本発明で用いるチタン酸塩化合物粉末を構成するチタン酸塩化合物粒子は、球状、粒状、板状、柱状(棒状、円柱状、角柱状、短冊状、略円柱形状、略短冊形状等の全体として形状が略柱状のものも含む)、ブロック状、多孔質状、複数の凸部を有する形状(アメーバ状、ブーメラン状、十字架状、金平糖状等)等の非繊維状粒子である。これらのなかでも高温域での摩擦材強度をより一層高める観点から、柱状または複数の凸部を有する粒子形状の粒子であることが好ましい。これらの各種粒子形状は、製造条件、特に原料組成、焼成条件等により任意に制御することができる。ここで、複数の凸部を有するとは、平面への投影形状が少なくとも通常の多角形、円、楕円等とは異なり2方向以上に凸部を有する形状を取り得るもの、いわゆる不定形状であることを意味する。具体的にはこの凸部とは、走査型電子顕微鏡(SEM)による写真(投影図)に多角形、円、楕円等(基本図形)を当てはめ、それに対して突き出した部分に対応する部分をいう。
【0039】
上記チタン酸塩化合物粒子の形状は、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察から解析することができる。
【0040】
本発明において、繊維状粒子とは、粒子に外接する直方体のうち最小の体積をもつ直方体(外接直方体)の最も長い長径L、次に長い辺を短径B、最も短い辺を厚さT(B>Tとする)として、L/B及びL/Tがいずれも5以上の粒子のことをいう。また、非繊維状粒子とは繊維状粒子を除く粒子のことをいい、L/Bが5未満の粒子のことをいう。
【0041】
チタン酸塩化合物粉末の平均粒子径は、例えば、1.0μm〜150.0μmであり、好ましくは2.0μm〜120.0μmであり、より好ましくは3.0μm〜100.0μm、さらに好ましくは3.0μm〜40.0μmである。平均粒子径が上記範囲内にある場合、摩擦材の摩擦特性をより一層高めることができる。チタン酸塩化合物粒子には、1次粒子が単分散することが困難なために二次粒子を形成しているものや、それを造粒した造粒物も含まれる。
【0042】
上記平均粒子径は、レーザー回折法により測定することができる。上記平均粒子径とは、レーザー回折法により計測される粒度分布における体積基準累積50%時の粒子径(体積基準累積50%粒子径)、すなわちD50(メジアン径)をいう。この体積基準累積50%粒子径(D50)は、体積基準で粒度分布を求め、全体積を100%とした累積曲線において、粒子サイズの小さいものから粒子数をカウントしていき、累積値が50%となる点の粒子径である。
【0043】
同様に体積基準累積10%粒子径(D10)及び体積基準累積90%粒子径(D90)は、求められた粒度分布の全体積を100%とした累積曲線において、粒子サイズの小さいものから粒子数をカウントしていき、累積値がそれぞれ10%及び90%となる点の粒子径を示す。従って、D90とD10との比(D90/D10)は、粒度分布の広さを示す指標ということができる。D90/D10の値が大きいほど、広い粒度分布を有する。また、D90/D10の値が1に近いほど、単分散に近い粒度分布を有する。
【0044】
本発明で使用するチタン酸塩化合物粉末は、D90/D10の値が、例えば、30.0以下であり、好ましくは1.0〜15.0の範囲である。D90/D10の値が上記範囲内にある場合、摩擦材の摩擦特性をより一層高めることができる。
【0045】
本発明で用いるチタン酸塩化合物粉末の比表面積は、0.3m/g〜7.0m/gであることが好ましく、0.3m/g〜3.0m/gであることがより好ましい。比表面積は、JIS Z8830に準拠して測定することができる。比表面積が大きくなりすぎると、熱硬化性樹脂との濡れ面積が大きくなりすぎて、摩擦材全体の強度に関与する熱硬化性樹脂の量が少なくなる場合がある。また、摩擦材をブレーキパッドに用いる場合、熱硬化性樹脂の配合量が少ないため、チタン酸塩化合物粉末の比表面積が大きくなりすぎると、摩擦材の機械強度が低下する場合がある。チタン酸塩化合物粉末の比表面積を上記範囲とすることで、機械強度と摩擦特性とのバランスにより一層優れる摩擦材とすることができる。
【0046】
ところで、摩擦材の硫酸イオン濃度が高くなると、摩擦材に錆が発生しやすくなる。チタン酸塩化合物粉末の原料の製造工程、チタン酸塩化合物粉末の製造工程等では、硫酸イオンが残量することがあることから、チタン酸塩化合物粉末の硫酸イオン溶出率を0.2質量%以下とすることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましい。
【0047】
このように、摩擦材組成物においては、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくするだけでなく、硫酸イオンが少ないことも求められており、このような場合においてチタン酸塩化合物粉末のアルカリ金属イオン溶出率が、熱硬化性樹脂の硬化反応に顕著に影響するものと考えられる。本発明において、硫酸イオン溶出率とは、室温(20℃)においてチタン酸塩化合物粉末から水中に溶出した硫酸イオンの質量割合のことをいう。
【0048】
本発明で用いるチタン酸塩化合物粉末は、分散性のより一層の向上、熱硬化性樹脂との密着性のより一層の向上を目的として、シランカップリング剤(アミノシランカップリング剤等)、チタネート系カップリング剤等により表面処理が常法によって施されていてもよい。
【0049】
摩擦材組成物におけるチタン酸塩化合物粉末の含有量は、摩擦材組成物の合計量100質量%に対して、1質量%〜40質量%であることが好ましく、5質量%〜35質量%であることがより好ましく、10質量%〜30質量%であることがさらに好ましい。チタン酸塩化合物粉末の含有量を上記範囲内にすることで、より一層優れた摩擦特性を得ることができる。
【0050】
(硫酸バリウム粉末)
本発明で用いる硫酸バリウム粒子から構成される硫酸バリウム粉末は、体積基準累積50%粒子径(D50)が0.1μm〜20.0μmであり、0.1μm〜10.0μmであることが好ましく、0.3μm〜5.0μmであることがより好ましく、0.5μm〜3.0μmであることがさらに好ましい。硫酸バリウム粒子には、1次粒子が単分散することが困難なために二次粒子を形成しているものや、それを造粒した造粒物も含まれる。
【0051】
体積基準累積50%粒子径(D50)が小さい硫酸バリウム粉末を使用することにより、加熱成形時において摩擦材組成物を構成する各粒子の隙間に充填されやすくなり、摩擦材組成物が密となる。そのため、摩擦材組成物を構成する粒子間の空隙が減少し、摩擦材組成物の成形金型からの熱伝導性が向上する。さらに、アルカリ金属イオン溶出率が上記範囲のチタン酸塩化合物粉末と組み合わせることで、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂における熱硬化反応の阻害の抑制との相乗効果により、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合においても、摩擦材組成物の成形時における歩留まり率が改善する。また、得られた摩擦材の圧縮変形率を低減し、摩擦材の摩擦係数を高くし、摩擦材の摩耗量を低減することができる。
【0052】
また、得られた摩擦材では、圧縮変形率を小さくできるので、ブレーキシステムに用いたときに、ブレーキをかけた際のピストン加圧方向の摩擦材における変形量を小さくすることができる。摩擦材における変形量を小さくすることができるので、ブレーキシステムの応答性の低下やそれに伴う効きフィーリングの低下が発生し難い。また、燃費低下や摩耗の増大を招き難い。
【0053】
そのため、本発明の摩擦材組成物は、ブレーキシステムに好適に用いることができる。
【0054】
本発明で用いる硫酸バリウム粉末の体積基準累積90%粒子径(D90)は、0.1μm〜20.0μmであることが好ましく、0.1μm〜10.0μmであることがより好ましく、1.0μm〜5.0μmであることがさらに好ましい。D90を上記範囲にすることで硫酸バリウム粉末中の粗大粒子の量が少なくなり、圧縮変形率をさらに一層小さくすることができる。
【0055】
本発明で用いる硫酸バリウム粉末は、D90/D10の値が、例えば、20.0以下であり、好ましくは1.0〜10.0の範囲である。D90/D10の値が上記範囲内である場合、摩擦材の摩擦特性をより一層高めることができる。
【0056】
硫酸バリウム粉末には、重晶石と呼ばれる鉱物を粉砕して脱鉄洗浄、水簸して得られる簸性硫酸バリウム粉末(バライト粉)と、人工的に合成する沈降性硫酸バリウム粉末がある。沈降性硫酸バリウム粉末は合成時の条件により粒子の大きさを制御することができ、目的とする粗大粒子の含有量が少ない、微細な硫酸バリウム粉末を製造することができる。不純物をより一層少なくし、硫酸バリウム粒子の粒度分布をより一層均一にする観点から、沈降性硫酸バリウム粉末を用いることが好ましい。
【0057】
硫酸バリウム粉末の含有量は、摩擦材組成物の合計量100質量%に対して、1質量%〜50質量%であることが好ましく、5質量%〜40質量%であることがより好ましく、10質量%〜30質量%であることがさらに好ましい。硫酸バリウム粉末の含有量を上記範囲内にすることで、より一層優れた摩擦特性を得ることができる。
【0058】
(熱硬化性樹脂)
熱硬化性樹脂は、チタン酸塩化合物粒子等と一体化し、強度を与える結合材として用いられるものである。従って、結合材として用いられる公知の熱硬化性樹脂のなかから任意のものを適宜選択して用いることができる。
【0059】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂、シリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等のエラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂等の変性フェノール樹脂;ホルムアルデヒド樹脂;メラミン樹脂;エポキシ樹脂;アクリル樹脂;芳香族ポリエステル樹脂;ユリア樹脂等を挙げることができる。これらのうち1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。このなかでも、耐熱性、成形性、摩擦特性をより一層向上できる点から、フェノール樹脂(ストレートフェノール樹脂)や、変性フェノール樹脂が好ましい。
【0060】
摩擦材組成物における熱硬化性樹脂の含有量は、摩擦材組成物の合計量100質量%に対して、5質量%〜20質量%であることが好ましい。熱硬化性樹脂の含有量を上記範囲内とすることで配合材料の隙間に適切な量の結合材が充填され、より一層優れた摩擦特性を得ることができる。
【0061】
(その他材料)
本発明の摩擦材組成物には、チタン酸塩化合物粉末、硫酸バリウム粉末、熱硬化性樹脂以外に、必要に応じてその他材料を配合することができる。その他材料としては、例えば、以下の繊維基材や、摩擦調整材等を挙げることができる。
【0062】
繊維基材としては、芳香族ポリアミド(アラミド)繊維、フィブリル化アラミド繊維、アクリル繊維(アクリルニトリルを主原料とした単重合体または共重合体の繊維)、フィブリル化アクリル繊維、セルロース繊維、フィブリル化セルロース繊維、フェノール樹脂繊維等の有機繊維;アルミ、鉄、亜鉛、錫、チタン、ニッケル、マグネシウム、シリコン等の銅及び銅合金以外の金属単体又は合金形態の繊維、鋳鉄繊維などの金属を主成分とするストレート形状又はカール形状の金属繊維;ガラス繊維、ロックウール、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、生分解性鉱物繊維、生体溶解性繊維、ワラストナイト繊維、シリケート繊維、鉱物繊維等のチタン酸塩繊維以外の無機繊維;耐炎化繊維、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、活性炭繊維等の炭素系繊維等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
摩擦調整材としては、タイヤゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、NBR(ニトリルブタジエンゴム)、SBR(スチレンブタジエンゴム)、塩素化ブチルゴム、ブチルゴム、シリコーンゴム等の未加硫又は加硫ゴム粉末;カシューダスト、メラミンダスト等の有機充填材;炭酸カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸リチウム、水酸化カルシウム(消石灰)、バーミキュライト、クレー、マイカ、タルク、ドロマイト、クロマイト、ムライト等の無機粉末;アルミニウム、亜鉛、鉄、錫などの銅及び銅合金以外の金属単体又は合金形態の金属粉末等の無機充填材;シリコンカーバイト(炭化ケイ素)、酸化チタン、アルミナ(酸化アルミニウム)、シリカ(二酸化ケイ素)、マグネシア(酸化マグネシウム)、ジルコニア(酸化ジルコニウム)、ケイ酸ジルコニウム、酸化クロム、酸化鉄、クロマイト、石英等の研削材;合成又は天然黒鉛(グラファイト)、リン酸塩被覆黒鉛、カーボンブラック、コークス、三硫化アンチモン、二硫化モリブデン、硫化スズ、硫化鉄、硫化亜鉛、硫化ビスマス、二硫化タングステン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の固体潤滑材等が挙げられる。これらのうち1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
摩擦材組成物におけるその他材料の含有量は、摩擦材組成物の合計量100質量%に対して、44質量%〜93質量%であることが好ましい。
【0065】
(摩擦材組成物の製造方法)
本発明の摩擦材組成物は、(1)レーディゲミキサー(「レーディゲ」は登録商標)、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー(「アイリッヒ」は登録商標)等の混合機で各成分を混合する方法;(2)所望する成分の造粒物を調製し、必要により他の成分をレーディゲミキサー、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー等の混合機を用いて混合する方法等により製造することができる。
【0066】
本発明の摩擦材組成物の各成分の含有量は、所望する摩擦特性により適宜選択することができ、上記の製造方法により製造することができる。
【0067】
また、本発明の摩擦材組成物は、特定の構成成分を高い濃度で含むマスターバッチを作製し、このマスターバッチに熱硬化性樹脂等を添加し混合することにより調製してもよい。
【0068】
<摩擦材及び摩擦部材>
本発明においては、上記摩擦材組成物を、常温(20℃)にて仮成形し、得られた仮成形体を加熱加圧成形(成形圧力10MPa〜40MPa、成形温度150℃〜200℃)し、必要に応じて、得られた成形体に加熱炉内で熱処理(150℃〜220℃、1時間〜12時間保持)を施し、しかる後その成形体に機械加工、研磨加工を加えて所定の形状を有する摩擦材を製造することができる。
【0069】
本発明の摩擦材は、該摩擦材を摩擦面となるように形成した摩擦部材として用いられる。摩擦材を用いて形成することができる摩擦部材としては、例えば、(1)摩擦材のみの構成、(2)裏金等の基材と、該基材の上に設けられ、摩擦面を与える本発明の摩擦材とを有する構成等が挙げられる。
【0070】
上記基材は、摩擦部材の機械的強度をより一層向上させるために用いるものであり、材質としては、金属又は繊維強化樹脂等を用いることができる。例えば、鉄、ステンレス、ガラス繊維強化樹脂、炭素繊維強化樹脂等が挙げられる。
【0071】
摩擦材には、通常、内部に微細な気孔が多数形成されており、高温時の分解生成物(ガスや液状物)の逃げ道となり摩擦特性の低下防止を図るとともに、摩擦材の剛性を下げ減衰性を向上させることで鳴きの発生を防止している。通常の摩擦材においては、気孔率が5%〜30%になるように、材料の配合、成形条件を管理している。
【0072】
本発明の摩擦部材は、上記本発明の摩擦材組成物により構成されているので、銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合においても、摩擦係数が高く、圧縮変形率が小さく、耐摩耗性が優れている。そのため、本発明の摩擦部材は、各種車両や、産業機械等の制動装置を構成するブレーキライニング、ディスクパッド、クラッチフェ―シング等のブレーキシステム全般に好適に用いることができる。特に、回生ブレーキシステム等の電動化されたブレーキシステムにおいてより好適に用いることができる。
【実施例】
【0073】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。
【0074】
本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものでなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することができる。
【0075】
なお、実施例及び比較例で使用したチタン酸塩化合物粉末であるチタン酸塩化合物1〜11は表1に示し、硫酸バリウム粉末である硫酸バリウム1〜2は表2に示した。また、実施例及び比較例で使用した熱硬化性樹脂及びその他添加材は次の通りである。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
・フェノール樹脂:ヘキサメチレンテトラミン配合ノボラック型フェノール樹脂粉末
・カシューダスト
・人造黒鉛
・マイカ
・酸化鉄
・酸化ジルコニウム
・硫化アンチモン
・水酸化カルシウム
・フィブリル化アラミド繊維
・銅繊維
【0079】
(実施例1〜10、比較例1〜6)
表3に記載の配合比率に従って各材料を配合し、アイリッヒミキサーを用いて3分間混合を行った。得られた混合物を、常温(20℃)にて15MPaの圧力で5秒間加圧し、仮成形体を作製した。150℃に温めた加熱成形用金型のキャビティー部に、上記の仮成形体をはめ込み、その上に接着剤が塗布されたバックプレート(材質:鋼)を載せたまま、20MPaの圧力で300秒間加圧した。加圧開始から計測し60〜90秒の間に、5回のガス抜き処理を行った。得られた摩擦材部材を220℃に熱した恒温乾燥機に入れて2時間保持し、完全硬化を行うことにより、摩擦部材を得た。
【0080】
<チタン酸塩化合物粉末及び硫酸バリウム粉末の評価>
(アルカリ金属イオン溶出率)
試験サンプルの質量(X)を測定し、次いで試験サンプルを蒸留水に加えて1質量%のスラリーを調製し、80℃で4時間攪拌後、ポアサイズ0.2μmのメンブレンフィルターで固形分を除去し、抽出液を得た。得られた抽出液のアルカリ金属(Y)をイオンクロマトグラフ(ダイオネックス社製、品番「ICS−1100」)にて測定した。次いで、上記(X)及び(Y)の値を用い、式〔(Y)/(X)〕×100に基づいてアルカリ金属イオン溶出率(質量%)を算出した。
【0081】
(水分散pH)
試験サンプル1gを蒸留水100mLに加えて1質量%のスラリーを調製し、得られたスラリーのpH(温度20℃)をpHメーター(堀場製作所社製、品番「F21」)にて測定し、水分散pHを得た。
【0082】
(硫酸イオン溶出率)
試験サンプルの質量(X)を測定し、次いで試験サンプルを蒸留水に加えて1質量%のスラリーを調製し、20℃で24時間攪拌後、ポアサイズ0.2μmのメンブレンフィルターで固形分を除去し、抽出液を得た。得られた抽出液の硫酸イオン(Y)をイオンクロマトグラフ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、品番「INTEGRIPN HPIC」)にて測定した。次いで、上記(X)及び(Y)の値を用い、式〔(Y)/(X)〕×100に基づいて硫酸イオン溶出率(質量%)を算出した。
【0083】
(粒子形状)
粒子形状は、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製、品番「S−4800」により観察した。
【0084】
(粒子径)
粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置(島津社製、品番「SALD−2100」)により測定した。
【0085】
具体的に、レーザー回折式粒度分布測定装置により計測される粒度分布における体積基準累積50%時の粒子径、すなわちD50(メジアン径)を求めた。
【0086】
レーザー回折式粒度分布測定装置により計測される粒度分布における体積基準累積10%時の粒子径、すなわちD10を求めた。
【0087】
レーザー回折式粒度分布測定装置により計測される粒度分布における体積基準累積90%時の粒子径、すなわちD90を求めた。
【0088】
また、D90とD10との比から、D90/D10を求めた。
【0089】
(比表面積)
比表面積は、自動比表面積測定装置(micromeritics社製、品番「TriStarII3020」)により測定した。
【0090】
<摩擦部材の評価>
(成形歩留まり率)
150℃での加熱成形時において、熱成形後の摩擦部材の膨れ、割れによる成形異常を目視で確認し、熱成形した枚数に対する成形異常が起こらなかった枚数の比率を、成形歩留まり率とした。
【0091】
(気孔率)
気孔率は、JIS D4421の方法に従い測定した。
【0092】
(圧縮変形率)
ISO6310(自動車部品−ブレーキライニング及びディスクブレーキパッド圧縮歪み試験方法)に基づき、試験を行った。摩擦部材の摩擦材組成物からなる部分の厚み(t)、4MPa圧縮時点での摩擦部材の変形量(h)を測定し、4MPa圧縮時点でのバックプレートの変形量(h’)を別途測定し、式〔(h−h’)/(t)〕×100を圧縮変形率とした。
【0093】
(ロックウェル硬度)
ロックウェル硬度は、JIS D4421の方法に従い測定した。硬さのスケールはSスケールを用いた。
【0094】
(摩擦特性)
実施例1〜10、比較例1〜6で作製した摩擦部材の表面(摩擦面)を1.0mm研磨し、SAE J2522に基づいてブレーキ効力試験を行い、平均摩擦係数を求めた。
【0095】
SAE J2707(ブロックウェアー試験)に基づいて摩耗試験を行い、試験前後の摩擦部材の摩擦材組成物からなる部分の厚み減少より摩擦材摩耗量を、ローターの重量減少よりローター摩耗量を求めた。なお、ローターはASTM規格におけるA型に属する鋳鉄ローターを用いた。
【0096】
結果を下記の表3に示す。
【0097】
【表3】
【0098】
実施例1〜10と比較例1〜2の比較から、銅成分を含有しない配合において、特定のアルカリ金属イオン溶出率のチタン酸塩化合物粉末と特定粒子径の硫酸バリウム粉末とを組み合わせることで、成形歩留まり率が大きく、圧縮変形率が小さくなることがわかる。実施例1〜10と比較例3〜5の比較から、銅成分を含有しない配合においても、特定のアルカリ金属イオン溶出率のチタン酸塩化合物粉末と特定粒子径の硫酸バリウム粒子とを組み合わせることで、摩擦摩耗特性、成形歩留まり率、圧縮変形率が、銅を含有する配合と同等以上の性能が得られることがわかる。
【0099】
比較例1と比較例6との比較から、銅成分を含まない配合は、チタン酸塩化合物粉末のアルカリ金属イオン溶出の影響を顕著に受けることがわかる。また、単にチタン酸塩化合物粉末と硫酸バリウム粉末とを組み合わせるだけでは本発明の効果が得られないことがわかる。
【要約】
銅成分を含有しない又は銅成分の含有量を少なくした場合においても、摩擦係数や耐摩耗性を向上させ、圧縮変形率を小さくすることができ、加熱成形時の歩留まりを改善することができる、摩擦材組成物を提供する。
非繊維状のチタン酸塩化合物粒子から構成されるチタン酸塩化合物粉末と、硫酸バリウム粉末と、熱硬化性樹脂とを含有する摩擦材組成物において、前記チタン酸塩化合物粉末のアルカリ金属イオン溶出率が15.0質量%以下であり、前記硫酸バリウム粉末の体積基準累積50%粒子径(D50)が0.1μm〜20.0μmであり、前記摩擦材組成物の合計量100質量%において銅成分の含有量が銅元素として0.5質量%以下であることを特徴とする、摩擦材組成物。