特許第6403246号(P6403246)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403246
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】架橋ゴム成形体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/24 20060101AFI20181001BHJP
   C08L 21/00 20060101ALI20181001BHJP
   C08L 23/16 20060101ALI20181001BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20181001BHJP
   C09K 3/10 20060101ALI20181001BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   C08J3/24 ZCEQ
   C08L21/00
   C08L23/16
   C08L27/12
   C09K3/10 M
   C09K3/10 Z
   F16J15/10 Y
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-272611(P2013-272611)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-127358(P2015-127358A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2016年11月2日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229564
【氏名又は名称】日本バルカー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大住 直樹
(72)【発明者】
【氏名】戸田 清華
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−268245(JP,A)
【文献】 特開平02−283432(JP,A)
【文献】 特開平09−031285(JP,A)
【文献】 特開平07−205285(JP,A)
【文献】 特開2009−138158(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/047375(WO,A1)
【文献】 特開2008−007671(JP,A)
【文献】 特開2003−129037(JP,A)
【文献】 特開2008−063359(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/066553(WO,A1)
【文献】 特開2013−056979(JP,A)
【文献】 特開2013−159661(JP,A)
【文献】 特開2003−206379(JP,A)
【文献】 特開2013−189655(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/029899(WO,A1)
【文献】 国際公開第02/098985(WO,A1)
【文献】 特開2009−224048(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/098338(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00−3/28
5/00−5/02
5/12−5/22
7/00
99/00
C08K 3/00−13/08
C08L 1/00−101/16
C09K 3/10−3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
架橋性ゴム成分を連続相とする架橋ゴム成形体(ただし、架橋性ゴム成分と熱可塑性樹脂とが共連続相を形成している架橋ゴム成形体を除く。)の製造方法であって、
架橋性ゴム成分を含むゴム組成物を部分的に架橋させて、成形可能な第1架橋体を得る第1架橋工程と、
前記第1架橋体を電離性放射線により架橋させて、第2架橋体を得る第2架橋工程と、を含み、前記架橋ゴム成形体はシール材である、製造方法。
【請求項2】
前記第1架橋工程と前記第2架橋工程との間に、前記第1架橋体を成形する成形工程をさらに含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記第1架橋体を押出成形又は射出成形により成形する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記第1架橋工程において前記ゴム組成物を熱によって架橋させる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記架橋性ゴム成分がフッ素ゴム及びエチレンプロピレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記ゴム組成物が熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シール材に代表される架橋ゴム成形体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、各種用途に用いられているガスケット、パッキン等のシール材には、エラストマーの中でも架橋構造を有するエラストマー(以下、「架橋ゴム」ともいう。)が用いられている。これは、シール材に通常求められる耐熱性に優れるためである。とりわけフッ素ゴム等は耐熱性に優れており、例えば特許文献1には、半導体製造装置用のフッ素ゴムシール材が開示されている。架橋ゴムは、架橋剤等を用いてゴム成分(エラストマー形成成分)の分子鎖間に架橋反応を起こさせ、架橋構造を持たせることによってゴム弾性を発現させたものである。
【0003】
一方、エラストマーには、架橋ゴムのほかに「熱可塑性エラストマー」と呼ばれるものがある。例えば特許文献2及び3には、フッ素系熱可塑性エラストマーからなる成形体の製造方法が開示されている。一般に熱可塑性エラストマーには、樹脂とゴムとをブレンドしたもの、樹脂とゴムとを動的架橋したもの、樹脂成分とゴム成分とのブロック共重合体等があり、樹脂の融点未満では樹脂成分が疑似架橋部位的に働いて、形状が固定されるとともにゴム弾性を発現する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−113035号公報
【特許文献2】特開2009−138158号公報
【特許文献3】特開2002−173543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
架橋ゴムからなる成形体の製造には、
a)所定の形状に成形するためには架橋反応が必須であるため、押出成形や射出成形に適しておらず、連続的に成形を行って成形体を連続生産することが困難である、
b)一度架橋構造を形成して形状を固定すると、架橋反応は不可逆的であり、加熱しても溶融せず形状も不可逆的であるため、成形後の形状に何らかの不具合があった場合でも、成形後の材料を再利用して再度成形工程を実施することができない、
といった課題があり、生産効率の向上は困難であると認識されてきた。
【0006】
これに対して熱可塑性エラストマーは、これを構成する樹脂の融点以上では樹脂部分が溶融し、融点未満では形状が固定されるため、押出成形や射出成形に適しており、また、可逆的に形状を変えることができるので、成形後の材料を再利用して再成形することもできる。
【0007】
しかし、熱溶融する樹脂成分を含む熱可塑性エラストマーは、類似する構造の架橋ゴムと比較して耐熱性に劣り、とりわけ熱劣化による歪を示す圧縮永久歪特性は大きく劣る。特許文献2及び3には、フッ素系熱可塑性エラストマーに対し、成形後に放射線架橋を施すことが記載されているが、このような放射線架橋の利用によっても、高温環境下で用いるシール材として使用できる程度に圧縮永久歪特性を改善することはできない。特に、特許文献2に記載されるフッ素樹脂を連続相とし、架橋フッ素ゴム粒子を分散相とする熱可塑性エラストマーは、成形後に放射線架橋を施すと、架橋ゴムに比べて硬度が大きくなり、柔軟性に劣る。
【0008】
特許文献1には、フッ素ゴム組成物を加熱加圧成形(1種の熱架橋である。)した後に、熱架橋処理と放射線架橋処理とを施すことが記載されているが、連続成形や、成形後の材料の再利用を可能とする架橋ゴム成形体の製造方法を提供するものではない。
【0009】
本発明の目的は、熱可塑性エラストマーを用いる場合と同様に溶融成形による連続成形と成形工程における材料の再利用が可能であって、優れた圧縮永久歪特性を示す架橋ゴム成形体を製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示す架橋ゴム成形体の製造方法を提供する。
[1] 架橋性ゴム成分を含むゴム組成物を部分的に架橋させて、成形可能な第1架橋体を得る第1架橋工程と、
前記第1架橋体を電離性放射線により架橋させて、第2架橋体を得る第2架橋工程と、
を含む、架橋ゴム成形体の製造方法。
【0011】
[2] 前記第1架橋工程と前記第2架橋工程との間に、前記第1架橋体を成形する成形工程をさらに含む、[1]に記載の製造方法。
【0012】
[3] 前記第1架橋体を押出成形又は射出成形により成形する、[2]に記載の製造方法。
【0013】
[4] 前記第1架橋工程において前記ゴム組成物を熱によって架橋させる、[1]〜[3]のいずれかに記載の製造方法。
【0014】
[5] 前記架橋性ゴム成分がフッ素ゴム及びエチレンプロピレンゴムからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]〜[4]のいずれかに記載の製造方法。
【0015】
[6] 前記架橋ゴム成形体がシール材である、[1]〜[5]のいずれかに記載の製造方法。
【0016】
[7] 前記ゴム組成物が熱可塑性樹脂及び熱可塑性エラストマーからなる群から選択される少なくとも1種をさらに含む[1]〜[6]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の方法によれば、溶融成形による連続成形と成形工程における材料の再利用が可能であって、優れた圧縮永久歪特性を示す架橋ゴム成形体を製造することができる。得られる架橋ゴム成形体は、パッキンやガスケットのようなシール材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る架橋ゴム成形体の製造方法は、
(1)架橋性ゴム成分を含むゴム組成物を部分的に架橋させて、成形可能な第1架橋体を得る第1架橋工程、及び
(2)第1架橋体を電離性放射線により架橋させて、第2架橋体を得る第2架橋工程
を含み、好ましくは、第1架橋工程と第2架橋工程との間に、
(3)第1架橋体を成形する成形工程をさらに含む。以下、実施の形態を示しながら各工程について詳細に説明する。
【0019】
(1)第1架橋工程
本工程に供されるゴム組成物は、架橋性ゴム成分を含む。架橋性ゴム成分は、架橋反応によって上述の架橋構造を有するエラストマー(架橋ゴム)を形成可能なものである限り特に制限されない。架橋性ゴム成分の具体例は、例えばエチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)、ニトリルゴム(NBR;アクリロニトリルブタジエンゴム)、水素添加ニトリルゴム(HNBR;水素添加アクリロニトリルブタジエンゴム)、ブチルゴム(IIR)、フッ素ゴム(FKM)、パーフルオロエラストマー(FFKM)、アクリルゴム、シリコーンゴムを含む。中でも、シール材用のゴムとして良好な特性を兼ね備えていることから、フッ素ゴム(FKM)、パーフルオロエラストマー(FFKM)、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)が好適に用いられる。架橋性ゴム成分は1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
フッ素ゴム(FKM)の具体例を挙げれば、例えば、ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)系重合体;ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)−テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体;テトラフルオロエチレン(TFE)−プロピレン(Pr)系重合体;ビニリデンフルオライド(VDF)−プロピレン(Pr)−テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体;エチレン(E)−テトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体;ビニリデンフルオライド(VDF)−テトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体、ビニリデンフルオライド(VDF)−パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体を挙げることができる。
【0021】
パーフルオロエラストマー(FFKM)としては、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)−パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)系重合体を挙げることができる。
【0022】
架橋性ゴム成分の架橋系は特に制限されず、例えばフッ素ゴム(FKM)であればパーオキサイド架橋系、ポリアミン架橋系、ポリオール架橋系が、エチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)であればパーオキサイド架橋系、硫黄架橋系、キノイド架橋系、樹脂架橋系が、パーフルオロエラストマー(FFKM)であればパーオキサイド架橋系、ビスフェノール架橋系、トリアジン架橋系、オキサゾール架橋系、イミダゾール架橋系、チアゾール架橋系が挙げられる。架橋性ゴム成分は、いずれか1種の架橋系で架橋されてもよいし、2種以上の架橋系で架橋されてもよい。
【0023】
パーオキサイド架橋系で用いるパーオキサイド架橋剤(ラジカル重合開始剤)は、例えば、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン(市販品の例:日油製「パーヘキサ25B」);ジクミルペルオキシド(市販品の例:日油製「パークミルD」);2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド;ジ−t−ブチルパーオキサイド;t−ブチルジクミルパーオキサイド;ベンゾイルペルオキシド(市販品の例:日油製「ナイパーB」);2,5−ジメチル−2,5−(t−ブチルペルオキシ)ヘキシン−3(市販品の例:日油製「パーヘキシン25B」);2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン;α,α’−ビス(t−ブチルペルオキシ−m−イソプロピル)ベンゼン(市販品の例:日油製「パーブチルP」);t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート;パラクロロベンゾイルパーオキサイド等であることができる。パーオキサイド架橋剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
パーオキサイド架橋系で用いる共架橋剤としては、トリアリルイソシアヌレート(市販品の例:日本化成社製「TAIC」);トリアリルシアヌレート;トリアリルホルマール;トリアリルトリメリテート;N,N’−m−フェニレンビスマレイミド;ジプロパギルテレフタレート;ジアリルフタレート;テトラアリルテレフタルアミド等のラジカルによる共架橋が可能な化合物(多官能性モノマー)を挙げることができる。共架橋剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。上記の中でも、反応性や得られる架橋ゴム成形体の耐熱性の観点から、共架橋剤は、トリアリルイソシアヌレートを含むことが好ましい。
【0025】
本工程に供されるゴム組成物は、必要に応じて、充填剤(補強剤)、加工助剤、老化防止剤、酸化防止剤、加硫促進剤、安定剤、シランカップリング剤、難燃剤、滑剤等の添加剤を含むことができる。充填剤の具体例は、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、酸化亜鉛、二酸化チタン、クレー、タルク、珪藻土、硫酸バリウム、ケイ酸化合物(ケイ酸塩等)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化カルシウム、マイカ、グラファイト、水酸化アルミニウム、樹脂微粒子を含む。加工助剤の具体例は、熱可塑性樹脂、液状ゴム、オイル、可塑剤、軟化剤、粘着付与剤を含む。例えば架橋性ゴム成分がFKMやFFKMである場合、充填剤としてフッ素樹脂又はその粒子を含有してもよく、加工助剤として液状フッ素ゴムを含有してもよい。架橋性ゴム成分がEPMやEPDMである場合、加工助剤として、例えばパラフィン系オイルを含有することができる。上記の添加剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
液状フッ素ゴムの市販品の例を挙げれば、例えば、ダイキン工業社製「ダイエルG−101」、信越化学工業社製「SIFEL シリーズ」(SIFEL 8000シリーズ等)である。
【0027】
また、後述する成形工程における成形性を向上させるために、ゴム組成物は、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを含有することもできる。例えば架橋性ゴム成分がFKMやFFKMである場合、フッ素樹脂やフッ素系熱可塑性エラストマーを配合すると、成形性に有利なことがある。また、架橋性ゴム成分がEPMやEPDMである場合、ポリエチレンやポリプロピレンを配合すると、成形性に有利なことがある。熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーは、1種のみを用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。ただし、得られる架橋ゴム成形体の耐熱性(圧縮永久歪特性)の観点から、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーを配合する場合、その合計量は、架橋性ゴム成分100重量部に対して300重量部以下とすることが好ましく、200重量部以下とすることがより好ましい。
【0028】
フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(ETFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエチレン−エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルフルオライド(PVF)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(VDF−HFP共重合体)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体(VDF−HFP−TFE共重合体)等を用いることができる。フッ素樹脂は、1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本工程では、上記ゴム組成物を上記いずれか1以上の架橋系によって部分的に架橋させて、成形可能な第1架橋体を得る。「部分的に架橋させる」とは、未架橋の状態より架橋度は高いが、架橋剤(共架橋剤のような架橋助剤を含む。)の不足、架橋剤(共架橋剤のような架橋助剤を含む。)の失活、架橋阻害、電離性放射線の線量不足等により、最終製品として必要とされる架橋度には至っていない状態、又は架橋剤(共架橋剤のような架橋助剤を含む。)がゴム組成物中に残存しているにもかかわらず、それ以上熱を加えたり、電離性放射線を照射しても最終製品として必要とされる架橋度には至らない状態をいう。
【0030】
より具体的には、本工程では、キュラストメーター(レオメーター、加硫/硬化特性試験機)により、横軸を時間、縦軸をトルク値とするゴム組成物の加硫曲線を取得したとき、その最大トルク値MHが、参照系における最大トルク値MH0の2〜70%となるようにゴム組成物を部分的に架橋させることが好ましい。最大トルク値MHは、より好ましくはMH0の3〜40%である。
【0031】
参照系とは、架橋剤(共架橋剤のような架橋助剤を含む。)が十分な量で配合されており、十分な熱が加えられることにより、それが発現し得る最大の架橋度に至っている架橋体を形成できるゴム組成物を指す。当該架橋体とは、より具体的には、空気雰囲気下、架橋体をその架橋部の分解温度まで加熱しても溶融しない状態まで架橋度が進行した架橋体を指す。参照系に関し、各種架橋系における架橋剤の十分量や、発現し得る最大の架橋度を達成するための架橋温度及び架橋時間は、当該分野における技術常識に基づいて選択することができる。上記架橋部の分解温度は、例えばパーオキサイド架橋系により架橋されたフッ素ゴムの場合、約200℃であり、ポリオール架橋系により架橋されたフッ素ゴムの場合、約230℃となる。
【0032】
また本工程では、未架橋のゴム組成物は、成形可能な状態まで架橋される。「成形可能」とは、成形処理自体が可能であり、かつ成形後の形状を維持することが可能であることをいう。ゴム組成物が未架橋のままであると、流動性が高すぎて成形できない。一方、架橋度が高すぎると、架橋による形状固定が過度に進行していることにより成形が困難となり、熱による溶融も不可能となる。
【0033】
本工程における架橋方法は、熱による架橋であってもよいし、電離性放射線による架橋であってもよいし、それらの併用であってもよい。熱による架橋の場合、架橋剤及び/又は架橋助剤の量を上記参照系よりも少なくしたり、架橋を阻害する添加剤をゴム組成物に配合したりすることによって部分的な架橋を施すことができる。架橋剤及び/又は架橋助剤の配合量や、架橋阻害剤の配合量の調整によって架橋の程度を制御することができる。電離性放射線の照射により架橋を行う場合は、その照射量が十分に大きくても部分的な架橋となる傾向があるが、照射量の調整によって架橋の程度を制御することができる。
【0034】
架橋を阻害する添加剤としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン;o−フェニルフェノール;ハイドロキノン;2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン;2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン;アミン-ケトン系老化防止剤(例えば、ポリ2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン);芳香族第二級アミン系老化防止剤(例えば、4,4’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)ジフェニルアミン);モノフェノール系老化防止剤(例えば、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール);ビスフェノール系老化防止剤(例えば、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール);ベンズイミダゾール系老化防止剤(例えば、2−メルカプトベンズイミダゾール)を挙げることができる。
【0035】
本工程における架橋方法には、製造コストの増大を防ぐ観点から、好ましくは熱による架橋が用いられる。
【0036】
電離性放射線によって第1架橋体を得る場合において、電離性放射線としては後述する第2架橋工程と同様に、電子線やγ線を用いることができる。
【0037】
(2)成形工程
本発明の製造方法は、第1架橋体を成形する成形工程を含むことが好ましい。第1架橋体は、成形可能な程度に部分的に架橋されたものであるので、熱溶融させることが可能であり、例えば押出成形や射出成形のような溶融成形を用いた連続成形が可能である。これにより、架橋ゴム成形体の連続生産、ひいては製造コストの削減が可能となる。
【0038】
また本発明の製造方法においては、架橋剤や架橋助剤の不足等の要因により第1架橋体が熱によってもそれ以上架橋しない状態にある場合には、従来の一般的な架橋ゴム成形体の製造方法と異なり、熱による架橋が進行するスコーチが起こりにくいため、この点でも押出成形や射出成形のような溶融成形を用いた連続成形に有利である。
【0039】
第1架橋体は、熱溶融させることが可能であるため、とりわけ架橋剤や架橋助剤の不足等の要因により熱によってもそれ以上架橋しない状態にある場合、成形後の形状に何らかの不具合があったときに当該成形体を熱溶融し、再度成形工程を実施するなど、成形後の材料を再利用することもできる。このような材料の再利用も製造コストの削減に有利である。
【0040】
第1架橋体の溶融成形(押出成形や射出成形)は、一般的な熱可塑性樹脂や熱可塑性エラストマーと同様にして行うことができる。成形温度は、例えば150〜320℃であることができる。
【0041】
(3)第2架橋工程
本工程にて第1架橋体又はその成形体は、電離性放射線により架橋され、最終製品として必要とされる架橋度が付与され、第2架橋体が得られる。電離性放射線は特に制限されないが、電子線やγ線を好ましく用いることができる。電離性放射線の照射量は、好ましくは10〜500kGyであり、より好ましくは30〜200kGyである。照射量が10kGy未満であると、十分な架橋度が得られず、所望する機械的強度が得られない傾向にある。また、照射量が500kGyを超えると、第2架橋体に電離性放射線による劣化が生じるおそれがある。
【0042】
第2架橋工程後、必要に応じて、オーブン(電気炉、真空電気炉)等を用いて第2架橋体に対して熱処理を加えてもよい。熱処理条件は、通常100〜320℃(例えば170〜230℃程度、又は170〜200℃程度)とすることができる。
【0043】
本発明の製造方法によって得られる架橋ゴム成形体(第2架橋体)は、優れた耐熱性(圧縮永久歪特性)を示すとともに、ゴム成分が連続相となっており、(ゴム組成物に熱可塑性樹脂が配合される場合は共連続相を採り得る。)、適度な硬度を有し柔軟性に優れる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0045】
<実施例1>
表1に示される配合組成に従って(表1における配合量の単位は重量部である。)、オープンロールにより架橋性ゴム成分、架橋剤及び共架橋剤の所定量を混練した後、得られた混練物に対し、200℃、15分の条件で熱架橋を施して第1架橋体を得た(第1架橋工程)。次いで、第1架橋体を、230℃で押出成形して、シール材(Oリング)形状の成形体を得た(成形工程)。シール材形状への押出成形(溶融成形)は容易であった。その後、80kGyの照射量で放射線(γ線。以下同様。)を照射して第2架橋体(架橋ゴム成形体)であるシール材(Oリング)を得た(第2架橋工程)。第1架橋体は、熱溶融性を示し、その成形体を熱溶融させ、再度成形を行うことも容易であった。得られたシール材は、優れた圧縮永久歪特性を示した。
【0046】
<実施例2〜8>
表1に示される配合組成に従って、ニーダーにより架橋性ゴム成分、熱可塑性エラストマー及びフッ素樹脂の所定量を230℃で混練した後、これに架橋剤及び共架橋剤の所定量を混練して混練物を得た。得られた混練物を用いて、実施例1と同様に第1架橋工程、成形工程、第2架橋工程を行い、シール材を得た。成形工程におけるシール材形状への押出成形(溶融成形)は容易であった。また、第1架橋体は、熱溶融性を示し、その成形体を熱溶融させ、再度成形を行うことも容易であった。得られたシール材は、優れた圧縮永久歪特性を示した。
【0047】
<比較例1>
表1に示される配合組成に従って、熱可塑性エラストマー、架橋剤及び共架橋剤の所定量を混練した。得られた混練物に対し、230℃、15分の条件でプレス成形を施してシール材(Oリング)形状の成形体を得た後、80kGyの照射量で放射線を照射して、シール材を得た。熱可塑性エラストマーを用いているため、上記混練物は溶融成形可能であり、また、プレス成形後に成形体を熱溶融させ、再度成形を行うことも可能であったが、得られたシール材は圧縮永久歪特性に劣るものであった。
【0048】
<比較例2>
表1に示される配合組成に従って、熱可塑性エラストマーを230℃で押出成形して、シール材(Oリング)形状の成形体を得た後、80kGyの照射量で放射線を照射してシール材を得た。上記熱可塑性エラストマーは溶融成形可能であり、また、押出成形後に成形体を熱溶融させ、再度成形を行うことも可能であったが、得られたシール材は圧縮永久歪特性に劣るものであった。
【0049】
<比較例3>
表1に示される配合組成に従って、オープンロールにより架橋性ゴム成分、架橋剤及び共架橋剤の所定量を混練した。得られた混練物に対し、170℃、15分の条件でプレス成形を施した後、200℃、4時間の条件で熱処理を施してシール材(Oリング)を得た。上記混練物は、押出成形のような溶融成形自体は可能であるものの、スコーチ(熱により架橋が進む現象)発生のため、溶融成形条件が極めて限定される。成形中にスコーチが生じると、1)押出時に表面荒れなどの成形不良が生じる、2)金型や押出機内で架橋が進行した場合には成形品の取出しが困難となり、生産停止を余儀なくされる、3)前記2)の場合において、設備の復旧に多大な労力を要し、場合によっては設備(金型や押出機のスクリュー、シリンダー)に損傷が生じる、などの不具合を生じる。
【0050】
本比較例におけるプレス成形後の架橋ゴム成形体(シール材)は、再加熱しても熱溶融せず、これを再利用して再度成形を行うことは不可能なものであった。
【0051】
【表1】
【0052】
実施例及び比較例で用いた各配合剤の詳細は次のとおりである。
〔1〕FKM 1:ビニリデンフルオライド(VDF)−ヘキサフルオロプロピレン(HFP)−テトラフルオロエチレン(TFE)系重合体〔ダイキン工業(株)製「ダイエルG912」〕。
〔2〕FKM 2:テトラフルオロエチレン(TFE)−プロピレン(P)系重合体〔旭硝子社製「アフラス150P」。
〔3〕熱可塑性エラストマー:フッ素ゴム部分とフッ素樹脂部分が結合したブロック重合体であるフッ素系熱可塑性エラストマー〔ダイキン工業(株)製「ダイエルサーモプラスチックT−530」〕。
〔4〕PVDF:ポリフッ化ビニリデン〔株式会社クレハ製「クレハKFポリマー #850」〕。
〔5〕ETFE:テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体〔ダイキン工業(株)製「ネオフロンEP610」〕。
〔6〕架橋剤:パーヘキサ25B(2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン)〔日油製「パーヘキサ25B」〕。
〔7〕共架橋剤:トリアリルイソシアヌレート〔日本化成社製「TAIC」〕。
【0053】
比較例3のシール材は、空気雰囲気下で200℃まで加熱しても溶融しないものであり、また、混練物(プレス成形前の材料)には架橋剤及び共架橋剤が十分な量で配合されており、架橋のために十分な熱が加えられていることから、当該混練物は、前述の参照系とみなすことができる。この参照系の加硫曲線(200℃、15分)、及び実施例1〜8の第1架橋工程における加硫曲線(200℃、15分)をキュラストメーター(オリエンテック社製)を用いて測定し、参照系における最大トルク値MH0及び各実施例の最大トルク値MHを求めた。表1に、最大トルク値MH0を100%としたときの、最大トルク値MH(%)を示す。
【0054】
また、各実施例、比較例で得られたシール材の圧縮永久歪の測定値を表1に示した。圧縮永久歪は、ゴムシール材の寿命(耐熱性)を評価する最も重要な評価項目である。圧縮永久歪は、次のようにして測定した。
【0055】
JIS K 6262に準拠して、試料(AS214 Oリング)を圧縮率25%で鉄板に挟み込み、200℃×72時間の条件で電気炉で加温後、圧縮解放し、30分間放冷後の試料の圧縮永久歪を下記式:
圧縮永久歪(%)={(T0−T1)/(T0−T2)}×100%
に基づいて算出した。T0は試験前の試料の高さ、T1は30分間放冷後の試料の高さ、T2はスペーサ−の厚み(高さ)である。