特許第6403277号(P6403277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6403277-リチウムイオン二次電池の製造方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403277
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/058 20100101AFI20181001BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20181001BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20181001BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20181001BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20181001BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20181001BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20181001BHJP
【FI】
   H01M10/058
   H01M2/16 M
   H01M2/16 L
   H01M10/0566
   H01M10/0567
   H01M10/052
   H01M2/16 P
   H01M4/505
   H01M4/525
【請求項の数】1
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-131990(P2015-131990)
(22)【出願日】2015年6月30日
(65)【公開番号】特開2017-16877(P2017-16877A)
(43)【公開日】2017年1月19日
【審査請求日】2017年8月29日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507357232
【氏名又は名称】オートモーティブエナジーサプライ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】藤井 敬之
【審査官】 神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−054298(JP,A)
【文献】 特開2015−018802(JP,A)
【文献】 特開2011−131470(JP,A)
【文献】 特開2008−016312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/052−10/058、2/16
4/505、4/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiNiCoMn(1−y−z)(ここで、式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以下である。)で表される層状結晶構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む正極活物質層が正極集電体に配置された正極と、負極活物質層が負極集電体に配置された負極と、オレフィン系樹脂層と、少なくともアルミナおよびベーマイトからなる群より選択される耐熱性微粒子層とを有するセパレータと、含硫黄添加剤を含む電解液と、を含む発電要素を、外装体内部に含むリチウムイオン二次電池を、
0.1C電流で充電し;次いで
0.1C電流で放電することにより、該セパレータの重量に対して0.02〜0.11重量%の硫黄を該セパレータに吸着させることを特徴とする、リチウムイオン二次電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質電池、特にリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
非水電解質電池は、ハイブリッド自動車や電気自動車等を含む自動車用電池として実用化されている。このような車載電源用電池としてリチウムイオン二次電池が使用されている。リチウムイオン二次電池は、開発が進むにしたがい高容量化が図られ、それに伴い安全性の確保が必須となっている。
【0003】
リチウムイオン二次電池の発電要素に使用されるセパレータとして、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン類の多孔性膜や微孔性膜を用いている。特に高温下で空孔が閉塞することにより抵抗が増加する、いわゆるシャットダウン効果を有する多孔性のポリエチレン膜は広く用いられている。
【0004】
セパレータがシャットダウンを起こすとイオンの流れが止まる(すなわちセパレータ抵抗が増加する)。しかしイオンの流れを止めても、電極と電解質との間での反応が活発化して温度が上昇するような電池であると、内部短絡状態となって再度イオンが流れ始め、異常発熱状態となりうる。このような電池の温度上昇により二次的に発生する内部短絡を防ぐために、シャットダウン効果のみならず、高い耐熱性を有するセパレータに対する要求が常に存在する。
【0005】
特許文献1に、シャットダウン機能を確保する樹脂を主体とした樹脂多孔質膜と、耐熱性の高い耐熱性微粒子を主体とした耐熱多孔質層とを有する多層多孔質膜からなる電池用セパレータが提案されている。特許文献1の提案するセパレータは、電池特性の低下を抑制しつつ安全性を向上させた電池を構成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−283273号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一方、電極の表面に安定な被膜を形成させることを目的とした添加剤を非水電解液に混合する場合、添加剤が電極被膜の形成に最適に利用されず、結果、電極被膜の形成が十分に行われず電池の容量維持率が低下する恐れがある。
本発明は、電池の安全性を向上させつつ、容量維持率を維持することができるリチウムイオン電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施形態におけるリチウムイオン二次電池は、正極活物質層が正極集電体に配置された正極と、負極活物質層が負極集電体に配置された負極と、セパレータと、電解液と、を含む発電要素を、外装体内部に含むリチウムイオン二次電池である。ここでセパレータは、セパレータの重量に対して0.02〜0.11重量%の硫黄を含有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明のリチウムイオン二次電池は、添加剤の一部(分解物等)がセパレータ表面に吸着されにくく、添加剤による電極表面上の被膜の形成を効率的に行うことができる。従って、電池の安全性を向上させつつ、容量維持率を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の一の実施形態のリチウムイオン二次電池を表す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態を以下に説明する。本実施形態において正極とは、正極活物質と、バインダーと、必要な場合導電助剤との混合物を金属箔等の正極集電体に塗布または圧延および乾燥して正極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。負極とは、負極活物質と、バインダーと、必要な場合導電助剤との混合物を負極集電体に塗布して負極活物質層を形成した薄板状あるいはシート状の電池部材である。セパレータとは、正極と負極とを隔離して負極・正極間のリチウムイオンの伝導性を確保するための膜状の電池部材である。電解液とは、イオン性物質を溶媒に溶解させた電気伝導性のある溶液のことであり、本実施形態においては特に非水電解液を用いることができる。正極と負極とセパレータと電解液とを含む発電要素とは、電池の主構成部材の一単位であり、通常、正極と負極とがセパレータを介して重ねられて(積層されて)、この積層物が電解液に浸漬されている。
【0012】
実施形態のリチウムイオン二次電池は、外装体の内部に該発電要素が含まれて成り、好ましくは、発電要素は該外装体内部に封止されている。封止されているとは、発電要素が外気に触れないように、外装体材料により包まれていることを意味する。すなわち外装体は、発電要素をその内部に封止することが可能な袋形状をしている。
【0013】
ここでセパレータは、セパレータの重量に対して0.02〜0.11重量%の硫黄を含有する。ここでセパレータに含有される硫黄成分は、後述する電解液に含まれている添加剤に由来する。セパレータに含有される硫黄成分がセパレータの重量に対して0.02〜0.11重量%であると、電池のサイクル特性が向上することがわかった。
【0014】
すべての実施形態において用いることができる負極は、負極活物質を含む負極活物質層が負極集電体に配置された負極を含む。好ましくは、負極は、負極活物質、バインダーおよび場合により導電助剤の混合物を銅箔などの金属箔からなる負極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た負極活物質層を有している。各実施形態において、負極活物質が、黒鉛粒子および/または非晶質炭素粒子を含むことが好ましい。黒鉛粒子と非晶質炭素粒子とをともに含む混合炭素材を用いると、電池の回生性能が向上する。
【0015】
黒鉛は、六方晶系六角板状結晶の炭素材料であり、石墨、グラファイト等と称されることがある。黒鉛は粒子の形状をしていることが好ましい。また非晶質炭素は、部分的に黒鉛に類似するような構造を有していてもよい、微結晶がランダムにネットワークした構造をとった、全体として非晶質である炭素材料のことを意味する。非晶質炭素として、カーボンブラック、コークス、活性炭、カーボンファイバー、ハードカーボン、ソフトカーボン、メソポーラスカーボン等が挙げられる。非晶質炭素は粒子の形状をしていることが好ましい。
【0016】
負極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、負極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる添加剤を適宜使用することができる。
【0017】
負極活物質層に用いられるバインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
【0018】
すべての実施形態において用いることができる正極は、正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体に配置された正極を含む。好ましくは、正極は、正極活物質、バインダーおよび場合により導電助剤の混合物をアルミニウム箔などの金属箔からなる正極集電体に塗布または圧延し、乾燥して得た正極活物質層を有している。正極活物質として、リチウム遷移金属酸化物を用いることができ、たとえば、リチウム・ニッケル系酸化物(たとえばLiNiO)、リチウムコバルト系酸化物(たとえばLiCoO)、リチウムマンガン系酸化物(たとえばLiMn)およびこれらの混合物を使用することが好ましい。また正極活物質として、一般式LiNiCoMn(1−y−z)で表されるリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を用いることができる。ここで、一般式中のxは1≦x≦1.2であり、yおよびzはy+z<1を満たす正の数であり、yの値が0.5以下である。なお、マンガンの割合が大きくなると単一相の複合酸化物が合成されにくくなるため、1−y−z≦0.4とすることが望ましい。また、コバルトの割合が大きくなると高コストとなり容量も減少するため、z<y、z<1−y−zとすることが望ましい。高容量の電池を得るためには、y>1−y−z、y>zとすることが特に好ましい。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、層状結晶構造を有することが好ましい。
【0019】
正極活物質層に場合により用いられる導電助剤として、カーボンナノファイバー等のカーボン繊維、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、活性炭、黒鉛、メゾポーラスカーボン、フラーレン類、カーボンナノチューブ等の炭素材料が挙げられる。その他、正極活物質層には増粘剤、分散剤、安定剤等の、電極形成のために一般的に用いられる添加剤を適宜使用することができる。
【0020】
正極活物質層に用いられるバインダーとして、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニル(PVF)等のフッ素樹脂、ポリアニリン類、ポリチオフェン類、ポリアセチレン類、ポリピロール類等の導電性ポリマー、スチレンブタジエンラバー(SBR)、ブタジエンラバー(BR)、クロロプレンラバー(CR)、イソプレンラバー(IR)、アクリロニトリルブタジエンラバー(NBR)等の合成ゴム、あるいはカルボキシメチルセルロース(CMC)、キサンタンガム、グアーガム、ペクチン等の多糖類を用いることができる。
【0021】
すべての実施形態において用いることができる電解液は、非水電解液であって、ジメチルカーボネート(以下「DMC」と称する。)、ジエチルカーボネート(以下「DEC」と称する。)、ジ−n−プロピルカーボネート、ジ−t−プロピルカーボネート、ジ−n−ブチルカーボネート、ジ−イソブチルカーボネート、またはジ−t−ブチルカーボネート等の鎖状カーボネートと、プロピレンカーボネート(以下「PC」と称する。)、エチレンカーボネート(以下「EC」と称する。)等の環状カーボネートとを含む混合物であることが好ましい。電解液は、このようなカーボネート混合物に、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)、ホウフッ化リチウム(LiBF)、過塩素酸リチウム(LiClO)等のリチウム塩を溶解させたものである。
【0022】
電解液は、上記の成分の他、添加剤を含有することができる。電解液に加えることができる添加剤は、電池の充放電の過程で、電気化学的に分解し、電極その他に被膜を形成することができる物質であることが好ましい。とりわけ、負極表面上に負極構造を安定化させることができる添加剤を用いることが特に望ましい。このような添加剤として、環状ジスルホン酸エステル(たとえば、メチレンメタンジスルホン酸エステル、エチレンメタンジスルホン酸エステル、プロピレンメタンジスルホン酸エステル)、環状スルホン酸エステル(たとえば、スルトン)、鎖状スルホン酸エステル(たとえば、メチレンビスベンゼンスルホン酸エステル、メチレンビスフェニルメタンスルホン酸エステル、メチレンビスエタンスルホン酸エステル)等の、分子内に硫黄を含有する化合物を含む添加剤(以下、「含硫黄添加剤」と称する。)を挙げることができる。この他、電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成することができる添加剤として、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、メタクリル酸プロピレンカーボネート、アクリル酸プロピレンカーボネート等を加えることもできる。さらに電池の充放電過程において正極ならびに負極の保護被膜を形成する他の添加剤として、フルオロエチレンカーボネート、ジフルオロエチレンカーボネート、トリフルオロエチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネート、ジクロロエチレンカーボネート、トリクロロエチレンカーボネート等を挙げることができる。これらの添加剤は、含硫黄添加剤の、リチウム・ニッケル系複合酸化物を含有する正極活物質への攻撃を防ぐことができる添加剤である。添加剤は、電解液全体の重量に対して、20重量%以下、好ましくは15重量%以下、さらに好ましくは10重量%以下の割合で含まれている。
【0023】
実施形態において、セパレータはオレフィン系樹脂層から構成される。ここでオレフィン系樹脂層は、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、へキセンなどのα−オレフィンを重合または共重合させたポリオレフィンから構成される層である。実施形態では、電池温度上昇時に閉塞される空孔を有する構造、すなわち多孔質あるいは微多孔質のポリオレフィンから構成される層であることが好ましい。オレフィン系樹脂層がこのような構造を有していることにより、万一電池温度が上昇しても、セパレータが閉塞して(シャットダウンして)、イオン流を寸断することができる。シャットダウン効果を発揮するためには、多孔質のポリエチレン膜を用いることが非常に好ましい。
【0024】
一方、別の実施形態において、セパレータはオレフィン系樹脂層と耐熱性微粒子層とを有することが好ましい。耐熱性微粒子層は、電池の異常発熱を防止するために設けられるものである。耐熱性微粒子として、耐熱温度が150℃以上の耐熱性を有し、電気化学反応に安定な無機微粒子を用いることができる。このような無機微粒子として、シリカ、アルミナ(α−アルミナ、β−アルミナ、θ−アルミナ)、酸化鉄、酸化チタン、チタン酸バリウム、酸化ジルコニウムなどの無機酸化物;ベーマイト、ゼオライト、アパタイト、カオリン、スピネル、マイカ、ムライトなどの鉱物を挙げることができる。このように、オレフィン系樹脂層と耐熱性樹脂層とを有するセパレータを、本明細書では「セラミックセパレータ」と称することがある。
【0025】
オレフィン系樹脂層と、場合により耐熱性微粒子層とを有するセパレータと、所定量の各電解液成分を混合して非水電解液、正極、負極、セパレータおよび外装体と共に電池を組み上げた後、充放電等の所定の操作を行うことにより電池を出荷することができる状態(出荷前状態)に仕上げる。電池を充放電する過程で、上記の添加剤は電気化学的反応あるいは化学反応により、それぞれ分解して電極表面上の被膜を形成するのに消費される。これにより電解液中の添加剤の量はそれぞれ減少する。電池を出荷前状態にする際に添加剤の一部(分解物など)がセパレータ表面に吸着される場合がある。こういった添加剤の一部がセパレータ表面に吸着されること自体が直ちに電池性能に悪影響を及ぼすわけではない。しかしながら、本来電極表面上に被膜を形成させることを目的に加えている含硫黄添加剤が、セパレータ表面に吸着されてしまうことは、所望の役割を果たす添加剤が減るという点で問題がある。含硫黄添加剤は、先に説明したとおり、特に負極(特にグラファイト負極)表面に被膜を形成して負極を安定化させるために添加されているが、添加剤の一部がセパレータ表面に吸着されてしまう分、負極上に形成される被膜が減少することを意味する。これにより電池のサイクル寿命が短縮し、容量維持率が低下しうる。
【0026】
実施形態のリチウムイオン二次電池におけるセパレータは、セパレータの重量に対して0.02〜0.11重量%の硫黄を含有している。これは、セパレータ表面での含硫黄添加剤の一部(硫黄成分)の吸着が起こりにくく、含硫黄添加剤は電極表面上への被膜の形成という本来の目的にもれなく使用されていることを意味する。このようなセパレータとして、多孔質または微多孔質のオレフィン系樹脂層から構成されるセパレータを挙げることができる。その他、オレフィン系樹脂層と耐熱性微粒子層とを有する、セラミックセパレータが挙げられる。このとき、耐熱性微粒子がアルミナ(α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、θ−アルミナ等)またはベーマイトであると、熱安定性が良好で、かつ含硫黄添加剤のセパレータ上での分解を効果的に防ぐことができることがわかった。
【0027】
実施形態において、オレフィン系樹脂層と耐熱性微粒子層とを有するセラミックセパレータを用いた場合、比較的少量の含硫黄添加剤が分解し、分解して生成した硫黄成分が主に耐熱性微粒子層に吸着される。特に耐熱性微粒子としてアルミナまたはベーマイトを用いると、セパレータに含有された0.02〜0.11重量%の硫黄のほぼ全量が耐熱性微粒子層中に吸着される。
【0028】
オレフィン系樹脂層と耐熱性微粒子層とを有するセラミックセパレータは、オレフィン系樹脂膜の表面上に耐熱性微粒子層を積層した形態を有する。耐熱性微粒子層は、オレフィン系樹脂膜の片面上にのみ設けることができ、両面上に設けることもできる。耐熱性微粒子層全体の厚さの割合は、オレフィン系樹脂層の厚さの1/10から1/2、好ましくは1/8から1/3程度であることが好適である。耐熱性微粒子層の厚さを厚くしすぎると、電解液中に含まれる含硫黄添加剤の分解物が増加する可能性があり、薄くしすぎるとセパレータの耐熱性の向上効果が期待できない。
【0029】
ここで、本実施形態にかかるリチウムイオン二次電池の構成例を、図面を用いて説明する。図1はリチウムイオン二次電池の断面図の一例を表す。リチウムイオン二次電池10は、主な構成要素として、負極集電体11、負極活物質層13、セパレータ17、正極集電体12、正極活物質層15を含む。図1では、負極集電体11の両面に負極活物質層13が設けられ、正極集電体12の両面に正極活物質層15が設けられているが、各々の集電体の片面上のみに活物質層を形成することもできる。負極集電体11、正極集電体12、負極活物質層13、正極活物質層15、及びセパレータ17が一つの電池の構成単位、すなわち発電要素である(図中、単電池19)。セパレータ17は、耐熱性微粒子層と、オレフィン系樹脂膜とから構成されていてよい(いずれも図示せず)。このような単電池19を、セパレータ17を介して複数積層する。各負極集電体11から延びる延出部を負極リード25上に一括して接合し、各正極集電体12から延びる延出部を正極リード27上に一括して接合してある。なお正極リードとしてアルミニウム板、負極リードとして銅板が好ましく用いられ、場合により他の金属(たとえばニッケル、スズ、はんだ)または高分子材料による部分コーティングを有していてもよい。正極リードおよび負極リードはそれぞれ正極および負極に溶接される。このように複数の単電池を積層してできた電池は、溶接された負極リード25および正極リード27を外側に引き出す形で、外装体29により包装される。外装体29の内部には電解液31が注入されている。外装体29は、2枚の積層体を重ね合わせ、周縁部を熱融着した形状をしている。
【実施例】
【0030】
<負極の作製>
負極活物質として、表面被覆天然黒鉛粉末、導電助剤としてカーボンブラック粉末、バインダー樹脂としてスチレンブタジエンラバー(SBR)とカルボキシメチルセルロース(CMC)とを、固形分質量比で93:3:2:2の割合でイオン交換水中に添加して撹拌し、これらの材料を水中に均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、負極集電体となる厚み10μmの銅箔上に塗布した。次いで、125℃にて10分間、電極を加熱し、水を蒸発させることにより負極活物質層を形成した。更に、負極活物質層をプレスすることによって、負極集電体の片面上に負極活物質層を塗布した負極を作製した。
【0031】
<正極の作製>
正極活物質として、ニッケル・コバルト・マンガン酸リチウム(NCM811、すなわちニッケル:コバルト:マンガン=8:1:1)とリチウムマンガン酸化物(LiMn)とを25:75(重量比)とを混合した混合酸化物と、導電助剤としてカーボンブラック粉末と、バインダー樹脂としてポリフッ化ビニリデンとを、固形分質量比で90:5:5の割合で、溶媒であるNMPに添加した。さらに、この混合物に有機系水分捕捉剤として無水シュウ酸(分子量90)を、上記混合物からNMPを除いた固形分100質量部に対して0.03質量部添加した上で撹拌することで、これらの材料を均一に分散させてスラリーを作製した。得られたスラリーを、正極集電体となる厚み20μmのアルミニウム箔上に塗布した。次いで、125℃にて10分間、電極を加熱し、NMPを蒸発させることにより正極活物質層を形成した。さらに、正極活物質層をプレスすることによって、正極集電体の片面上に目付20mg/cm、密度3.0g/cmの正極活物質層を塗布した正極を作製した。
【0032】
<セパレータ>
耐熱微粒子としてアルミナを用いた厚さ5μmの耐熱微粒子層とポリプロピレンからなる厚さ20μmのオレフィン系樹脂層とから構成されるセラミックセパレータを使用した。耐熱微粒子層中に含有されるθ−アルミナの量の異なる複数のセラミックセパレータを用いた。用いたセパレータの種類は、表1に示す。なお実施例3では、厚さ25μmのポリプロピレン単層セパレータを使用した。
【0033】
<電解液>
エチレンカーボネート(以下、「EC」と称する。)とDECとを、EC:DEC=30:70(体積比)の割合で混合した非水溶媒に、電解質塩としての六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を濃度が1.0mol/Lとなるように溶解させたものに対して、添加剤として環状ジスルホン酸エステル(メチレンメタンジスルホンネート(MMDS)とビニレンカーボネート(VC)とをそれぞれ濃度が1重量%となるように溶解させたものを用いた。
【0034】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記のように作製した各負極板と正極板を、各々所定サイズの矩形に切り出した。このうち、端子を接続するための未塗布部にアルミニウム製の正極リード端子を超音波溶接した。同様に、正極リード端子と同サイズのニッケル製の負極リード端子を負極板における未塗布部に超音波溶接した。セパレータの両面に上記負極板と正極板とを両活物質層がセパレータを隔てて重なるように配置して電極板積層体を得た。2枚のアルミニウムラミネートフィルムの長辺の一方を除いて三辺を熱融着により接着して袋状のラミネート外装体を作製した。ラミネート外装体に上記電極積層体を挿入した。電解液を注液して真空含浸させた後、減圧下にて開口部を熱融着により封止することによって、積層型リチウムイオン電池を得た。この積層型リチウムイオン電池について初期充放電を行った後、高温エージングを行い、電池容量5Ahの積層型リチウムイオン電池を得た。
【0035】
<初期充放電>
電池の残容量(以下、「SOC」と称する。)0%から100%まで、雰囲気温度55℃で、初期充放電を行った。充放電の条件は、以下の通りである:0.1C電流で4.1Vまで定電流充電(CC充電)、その後4.1Vで定電圧充電(CV充電)し、次いで0.1C電流での定電流放電(CC放電)を、2.5Vまで行う。
【0036】
<セパレータの硫黄含有量>
リチウムイオン二次電池の初期充放電を行った後、電池を解体し、高周波誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP発光分光分析法)により、セパレータの硫黄含有量を測定した。
【0037】
<サイクル特性試験>
作成した電池に対して次の条件でサイクル試験を行った。作製した電池のSOC0%と100%までの間で、1C電流、4.15Vでの定電流定電圧充電(CCCV充電)と、1C電流での定電流放電(CC放電)を、55℃環境下で300回繰り返した。これによる容量維持率を、(300回サイクル後の電池容量)/(初期電池容量)なる計算式で計算した。
【0038】
【表1】
【0039】
初期充放電後に、セパレータの硫黄含有量が少ない電池(実施例1、実施例2および実施例3)は、サイクル特性試験を経た後の電池容量維持率が高い。これは初期充放電の過程で含硫黄添加剤の硫黄成分がセパレータ表面に吸着されることなく、電極の表面上に効果的に被膜を形成したからであると考えられる。耐熱性微粒子としてアルミナを用いた場合、θ−アルミナの含有率により硫黄成分の含有量が変わることがわかった。θ−アルミナの含有率が高くなるほどセパレータ上に吸着される硫黄成分の量が多くなるので、耐熱性微粒子としてアルミナを用いる場合は、θ−アルミナではなく、α−、β−あるいはγ−アルミナ等を使用すると良いと考えられる。
【0040】
以上、本発明の実施例について説明したが、上記実施例は本発明の実施形態の一例を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を特定の実施形態あるいは具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0041】
10 リチウムイオン二次電池
11 負極集電体
12 正極集電体
13 負極活物質層
15 正極活物質層
17 セパレータ
25 負極リード
27 正極リード
29 外装体
31 電解液
図1