(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カルボン酸のアルカリ土類金属塩、ヒドロキシカルボン酸のアルカリ土類金属塩、アルカリ土類金属の酸化物及びアルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種(B)と、硫酸(C)とが、液体分散媒(A)中で反応してなるアルコキシル化触媒の存在下で、下記一般式(I)で表される脂肪酸アルキルエステルにアルキレンオキシドを付加して、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを含む粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを得る付加反応工程と、
前記付加反応工程で得られた粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートと、水と、金属硫酸塩、金属硝酸塩及び金属塩化物からなる群から選ばれる少なくとも1種の凝集剤とを混合して、凝集物を生成させる凝集工程と、
次いで、前記脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートと前記凝集物とを分離し、前記凝集物を除去する分離工程と、
を有する、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造方法。
R11COOR12 ・・・(I)
[式(I)中、R11は、炭素数1〜40の炭化水素基であり、R12は、炭素数1〜3の直鎖アルキル基である。]
前記凝集剤は、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウム、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム及び塩化カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造方法。
前記(A)成分は、下記一般式(1)で表されるアルコール、下記一般式(2)で表される脂肪酸アルキルエステル、及び下記一般式(3)で表される脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造方法。
ROH ・・・(1)
[式(1)中、Rは、炭素数2〜18の炭化水素基である。]
R1COOR2 ・・・(2)
[式(2)中、R1は、炭素数3〜17の炭化水素基であり、R2は、炭素数1〜3の
直鎖アルキル基である。]
R3COOH ・・・(3)
[式(3)中、R3は、炭素数1〜17の炭化水素基である。]
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造方法は、特定のアルコキシル化触媒の存在下で、後述の一般式(I)で表される脂肪酸アルキルエステルにアルキレンオキシドを付加して、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを含む粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを得る付加反応工程と、前記付加反応工程で得られた粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートと、水と、凝集剤とを混合して、凝集物を生成させる凝集工程と、次いで、前記脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートと前記凝集物とを分離し、前記凝集物を除去する分離工程と、を有する。
尚、本発明において、「アルカリ土類金属」は、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ラジウムに加えて、ベリリウムとマグネシウムとを包含するもの(即ち、第2族元素)とする。
【0011】
[付加反応工程]
付加反応工程では、カルボン酸のアルカリ土類金属塩、ヒドロキシカルボン酸のアルカリ土類金属塩、アルカリ土類金属の酸化物及びアルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種(B)と、硫酸(C)とが、液体分散媒(A)中で反応してなるアルコキシル化触媒の存在下で、一般式(I)で表される脂肪酸アルキルエステルにアルキレンオキシドを付加して、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを含む粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを得る。
【0012】
<アルコキシル化触媒>
本発明におけるアルコキシル化触媒は、脂肪酸アルキルエステルのアルコキシル化反応に用いられる触媒であり、カルボン酸のアルカリ土類金属塩、ヒドロキシカルボン酸のアルカリ土類金属塩、アルカリ土類金属の酸化物及びアルカリ土類金属の水酸化物からなる群から選ばれる少なくとも1種(B)(以下「(B)成分」ということがある)と、硫酸(C)(以下「(C)成分」ということがある)とが、液体分散媒(A)(以下「(A)成分」ということがある)中で反応したものである。即ち、かかるアルコキシル化触媒は、(B)成分と(C)成分との反応物(主たる触媒活性成分であるアルカリ土類金属の硫酸塩)を含有するものである。
【0013】
かかるアルコキシル化触媒は、アルカリ土類金属の硫酸塩が(A)成分中に分散した分散液であってもよいし、アルカリ土類金属の硫酸塩を含む固体であってもよい。
アルコキシル化触媒が分散液である場合、分散液中のアルカリ土類金属の硫酸塩の含有量は、特に限定されず、例えば10〜50質量%とされる。
かかるアルコキシル化触媒は、触媒活性及び反応時の着色抑制の観点から、カルシウムを含む触媒が好ましい。
【0014】
≪(A)成分≫
(A)成分は、液体分散媒である。(A)成分は、アルコキシル化触媒を製造する際に、ゲル化することなく流動性を維持でき、(B)成分と(C)成分とが反応できるものであれば特に限定されない。(A)成分における「液体」とは、後述する分散操作及び混合操作において、液体であることを意味する。
(A)成分としては、後述するアルコキシル化触媒の製造方法における生産性を高める観点から、20℃で液体のものが好ましい。
【0015】
(A)成分としては、例えば、下記一般式(1)で表されるアルコール、前記アルコールのアルキレンオキシド付加物、下記一般式(2)で表される脂肪酸アルキルエステル、前記脂肪酸アルキルエステルのアルキレンオキシド付加物、下記一般式(3)で表される脂肪酸、前記脂肪酸のアルキレンオキシド付加物などが挙げられる。
ROH ・・・(1)
[式(1)中、Rは、炭素数2〜18の炭化水素基である。]
R
1COOR
2 ・・・(2)
[式(2)中、R
1は、炭素数3〜17の炭化水素基であり、R
2は、炭素数1〜3の直鎖アルキル基である。]
R
3COOH ・・・(3)
[式(3)中、R
3は、炭素数1〜17の炭化水素基である。]
【0016】
上記式(1)中、Rの炭素数は、2〜18であり、2〜12が好ましく、2〜8がより好ましい。上記下限値未満では、アルコキシル化触媒を製造する際に(A)成分がゲル状に増粘して流動性を失い、(B)成分と(C)成分とが反応しにくい。上記上限値超では、融点が高くなり、分散媒として適さない。
Rは、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。
Rは、飽和炭化水素基(アルキル基)であってもよいし、アルケニル基等の不飽和炭化水素基であってもよい。
式(1)で表されるアルコールとしては、エタノール、1−ヘキサノール、n−オクタノール、n−デカノール、n−ドデカノール、n−テトラデカノール、n−ヘキサデカノール、n−オクタデカノール、オレイルアルコール、ノナノール、ウンデカノール、トリデカノール等の第一級アルコール;2−エチルヘキサノール、2−プロパノール、2−オクタノール、2−デカノール、2−ドデカノール等の第二級アルコール等が挙げられる。
【0017】
前記アルコールのアルキレンオキシド付加物(即ち、アルコールアルコキシレート)において、付加するアルキレンオキシドとしては、炭素数2〜3のアルキレンオキシドが挙げられる。
アルキレンオキシドの平均付加モル数は、例えば、1〜7が好ましい。
【0018】
上記式(2)中、R
1の炭素数は、3〜17であり、アルコキシル化触媒を製造する際の温度条件において、流動性のよいものであれば任意に選択できる。
R
1は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。
R
1は、飽和炭化水素基(アルキル基)であってもよいし、アルケニル基等の不飽和炭化水素基であってもよい。
【0019】
式(2)中、R
2は、炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、炭素数1のメチル基がより好ましい。上記範囲内であれば、融点が低く、アルコキシル化触媒の製造時の温度条件において、流動性がよい。
【0020】
式(2)で表される脂肪酸アルキルエステルとしては、デカン酸メチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル等の脂肪酸メチルエステル又はこれらの混合物等が挙げられる。
【0021】
前記脂肪酸アルキルエステルのアルキレンオキシド付加物(即ち、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレート)において、付加するアルキレンオキシドとしては、炭素数2〜3のアルキレンオキシドが挙げられる。
アルキレンオキシドの平均付加モル数は、例えば、1〜7が好ましい。
【0022】
上記式(3)中、R
3の炭素数は、1〜17であり、アルコキシル化触媒を製造する際の温度条件において、流動性のよいものであれば任意に選択できる。
R
3は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。
R
3は、飽和炭化水素基(アルキル基)であってもよいし、アルケニル基等の不飽和炭化水素基であってもよい。
式(3)で表される脂肪酸としては、酢酸、オクタン酸、デカン酸、ラウリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸等が挙げられ、中でも、オレイン酸が好ましい。
【0023】
前記脂肪酸のアルキレンオキシド付加物において、付加するアルキレンオキシドとしては、炭素数2〜3のアルキレンオキシドが挙げられる。
アルキレンオキシドの平均付加モル数は、例えば、1〜7が好ましい。
【0024】
上述の(A)成分は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
かかる(A)成分は、上記の中でも、生成物の安定性、副生成物の生成抑制の観点から、一般式(1)で表されるアルコール、一般式(2)で表される脂肪酸アルキルエステル、及び一般式(3)で表される脂肪酸からなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、これらの中でも、一般式(1)で表されるアルコール、及び一般式(2)で表される脂肪酸アルキルエステルからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0025】
≪(B)成分≫
(B)成分は、カルボン酸のアルカリ土類金属塩(以下「(b1)成分」ということがある)、ヒドロキシカルボン酸のアルカリ土類金属塩(以下「(b2)成分」ということがある)、アルカリ土類金属の酸化物(以下「(b3)成分」ということがある)及びアルカリ土類金属の水酸化物(以下「(b4)成分」ということがある)からなる群から選ばれる少なくとも1種である。
【0026】
(b1)成分としては、例えば、酢酸カルシウム無水和物、酢酸カルシウム一水和物等の酢酸カルシウム、ギ酸カルシウム等のカルボン酸のカルシウム塩;酢酸マグネシウム、ギ酸マグネシウム等のカルボン酸のマグネシウム塩等が挙げられ、中でも、触媒活性を高める観点から、カルボン酸のカルシウム塩が好ましく、酢酸カルシウムがより好ましい。
【0027】
(b2)成分としては、乳酸カルシウム、酒石酸カルシウム、クエン酸カルシウム、リンゴ酸カルシウム等のヒドロキシカルボン酸のカルシウム塩;乳酸マグネシウム、酒石酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、リンゴ酸マグネシウム等のヒドロキシカルボン酸のマグネシウム塩等が挙げられ、中でも、触媒活性を高める観点から、ヒドロキシカルボン酸のカルシウム塩が好ましい。
【0028】
(b3)成分としては、酸化カルシウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、中でも酸化カルシウムが好ましい。
【0029】
(b4)成分としては、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられ、中でも、水酸化カルシウムが好ましい。
【0030】
上述の(B)成分は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
かかる(B)成分としては、カルシウムを含む化合物(塩、酸化物、水酸化物)が好ましい。その中でも、触媒活性を高め、かつ、副生成物の生成量をより低減する観点から、(b1)成分が好ましく、カルボン酸のカルシウム塩がより好ましく、酢酸カルシウムがさらに好ましい。
【0031】
≪(C)成分≫
(C)成分は、硫酸である。(C)成分としては、濃硫酸でも希硫酸でもよい。触媒活性を安定して発現させる観点から、(C)成分としては、濃硫酸(96質量%以上)が好ましい。
【0032】
アルコキシル化触媒は、(A)成分中で、(B)成分と(C)成分とを反応させることにより製造される。
アルコキシル化触媒の製造方法としては、例えば、(A)成分中に(B)成分を分散して分散物を得る分散操作と、分散物に(C)成分を添加して(B)成分と混合する混合操作と、を有するものが挙げられる。
【0033】
分散操作:
分散操作では、例えば、ジャケットを備えた混合槽と、混合槽内に設けられたパドル撹拌翼とを備えた反応器を用い、混合槽内に(A)成分と(B)成分とを投入し、これらを撹拌する。
本工程における温度条件は、特に限定されないが、例えば、常温(5〜35℃)とされる。混合槽内の温度調整は、例えば、ジャケット内に任意の温度の熱媒体(例えば、水)を通流させて行われる。
本工程における撹拌時間は、特に限定されず、(A)成分中に(B)成分が略均一に分散される時間とされる。略均一とは、目視において(B)成分の塊等がなく、均一に分散していると判断できる状態である。
【0034】
混合操作:
混合操作では、分散操作で得られた分散物に(C)成分を添加し、(B)成分と(C)成分とを混合して、(B)成分と(C)成分との反応物(即ち、主たる触媒活性成分であるアルカリ土類金属の硫酸塩)を生成させ、(A)成分中に触媒活性成分が分散したアルコキシル化触媒を得る。
本工程における混合方法は、特に限定されないが、例えば、混合槽内の分散物を撹拌しながら、分散物中に(C)成分を滴下する方法が好ましい。
【0035】
混合操作における、(C)成分/(B)成分で表されるモル比(以下「C/B比」ということがある)は、0.5〜1が好ましく、0.8以上1未満がより好ましく、0.9以上1未満がさらに好ましく、0.9〜0.98が特に好ましく、0.93〜0.98が最も好ましい。
C/B比が上記下限値以上であれば、得られるアルコキシル化触媒は、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造工程において副生成物の生成量を良好に低減できる。C/B比が0.9以上であれば、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造方法において、得られる脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートのアルキレンオキシドの付加モル数の分布を広くしやすい。アルキレンオキシドの付加モル数分布を広くするには、C/B比を0.93以上とすることがより好ましい。
C/B比が上記上限値以下であれば、得られるアルコキシル化触媒の触媒活性が高まり、効率的に脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを製造できる。C/B比が1未満であれば、得られるアルコキシル化触媒の触媒活性を顕著に高められる。
【0036】
また、混合操作において、[(B)成分+(C)成分]/(A)成分で表される質量比(以下「(B+C)/A比」ということがある)は、1/3以上、1以下が好ましく、1/2.5以上、1以下がより好ましい。(B+C)/A比が上記上限値以下であれば、容易に撹拌でき、効率的に(B)成分と(C)成分とを混合できる。上記下限値未満では、(A)成分中の触媒活性成分の含有量が少なくなり、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを製造する際、アルコキシル化触媒の添加量が多くなりすぎて非効率的である。
【0037】
混合操作における温度条件(即ち、反応温度)は、10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。上記下限値未満では、(B)成分と(C)成分との反応が遅くなりすぎて、アルコキシル化触媒の生産効率が低くなるおそれがある。上記上限値超では、得られるアルコキシル化触媒の触媒活性が低くなるおそれがある。
反応温度の調整は、例えば、ジャケット内に任意の温度の熱媒体(例えば、水)を通流させて行われる。
【0038】
混合操作の撹拌時間(即ち、反応時間)は、(B)成分と(C)成分とが充分に反応できる時間で、かつ、(C)成分の添加に伴う発熱を制御できる時間とされ、例えば、1〜2時間とされる。
【0039】
混合操作の後、アルコキシル化触媒を任意の温度で撹拌する触媒熟成工程を設けてもよい。触媒熟成工程の温度条件は、例えば、10〜60℃が好ましく、20〜50℃がより好ましい。本工程を設けることで、未反応の(B)成分の量を低減できる。
本工程の撹拌時間は、例えば、0.5〜3時間とされる。
【0040】
さらに、アルコキシル化触媒を濾過、静置分離等して、アルコキシル化触媒中の触媒活性成分の濃度を高めてもよい。
【0041】
<脂肪酸アルキルエステル>
本発明では、下記一般式(I)で表される脂肪酸アルキルエステル(以下「(α)成分」ということがある)が用いられる。
【0042】
R
11COOR
12 ・・・(I)
[式(I)中、R
11は、炭素数1〜40の炭化水素基であり、R
12は、炭素数1〜3の直鎖アルキル基である。]
【0043】
式(I)中、R
11の炭素数は、1〜40であり、3〜30が好ましく、5〜21がより好ましい。
R
11は、直鎖であってもよく、分岐鎖であってもよい。
R
11は、飽和炭化水素基(アルキル基)であってもよいし、アルケニル基等の不飽和炭化水素基であってもよい。
【0044】
式(I)中、R
12は、炭素数1〜3の直鎖アルキル基であり、炭素数1のメチル基がより好ましい。
【0045】
(α)成分は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
(α)成分としては、デカン酸メチル、ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、オレイン酸メチル等の脂肪酸メチルエステル又はこれらの混合物等が挙げられる。
(α)成分は、上述の(A)成分として用いられる脂肪酸アルキルエステルと同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0046】
<アルキレンオキシド>
アルキレンオキシドは、目的とする製造物に応じて決定され、例えば、非イオン界面活性剤を得るためには、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等が好ましく、エチレンオキシド、プロピレンオキシドがより好ましい。
アルキレンオキシドは、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0047】
以下、付加反応工程の一例について説明する。
本実施形態の付加反応工程は、上述のアルコキシル化触媒の存在下で、(α)成分にアルキレンオキシドを付加して、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを含む粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを得るものであり、触媒分散操作と、付加反応操作と、熟成操作と、を備える。
【0048】
触媒分散操作:
触媒分散操作は、出発原料である(α)成分にアルコキシル化触媒を分散する操作である。本操作は、例えば、ジャケットを備えた混合槽と、混合槽内に設けられたパドル撹拌翼とを備えた反応器を用い、混合槽で(α)成分とアルコキシル化触媒とを撹拌するものが挙げられる。
(α)成分/アルコキシル化触媒で表される質量比(以下「原料/触媒比」ということがある)は、例えば、20〜1000が好ましく、30〜200がより好ましい。原料/触媒比は、目的とする反応時間に応じて任意に設定できるが、原料/触媒比が小さいと、反応後に触媒を分離するのが煩雑になる。
【0049】
本操作における温度条件は、特に限定されないが、例えば、常温(5〜35℃)とされる。混合槽内の温度調整は、例えば、ジャケット内に任意の温度の熱媒体(例えば、水)を通流させて行われる。
本操作における撹拌時間は、特に限定されず、(α)成分とアルコキシル化触媒とが略均一になる時間とされる。
【0050】
付加反応操作:
付加反応操作は、(α)成分にアルキレンオキシドを付加させて、粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを得る操作である。
かかる付加反応操作で得られる粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートには、粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの総量(100質量%)に対して、好ましくは90質量%以上の脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートが含まれる。
粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートには、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレート以外に、アルコキシル化触媒、高分子ポリエチレングリコール(高分子PEG)、未反応分の(α)成分又はアルキレンオキシド等の不純物が含まれる。
【0051】
本操作は、反応槽内で、任意の温度条件下、(α)成分とアルコキシル化触媒との混合物にアルキレンオキシドを接触させて行われる。
本操作において、(α)成分に対するアルキレンオキシドの導入量は、目的物におけるアルキレンオキシドの付加モル数を勘案して適宜決定され、例えば、1〜100倍モルが好ましく、5〜80倍モルがより好ましく、5〜50倍モルがさらに好ましい。付加モル数が多いほど、即ち、アルキレンオキシドの導入量を多くするほど、高分子PEGの生成量が多くなる。このため、本発明は、付加モル数が多い脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを製造する際に、顕著な効果を発揮する。
【0052】
本操作の温度条件(付加反応温度)は、例えば、160〜180℃が好ましい。
本操作の圧力条件は、付加反応温度を勘案して適宜決定され、例えば、0.1〜1MPaが好ましく、0.1〜0.6MPaがより好ましい。
【0053】
熟成操作:
熟成操作は、付加反応操作の後、反応槽内を任意の温度で撹拌する工程である。本操作を設けることで、未反応の(α)成分の量を低減できる。
本操作の温度条件は、例えば、前記の付加反応温度と同様である。
【0054】
本実施形態においては、付加反応操作を、アルコキシル化触媒と多価アルコール(以下「(β)成分」ということがある)との存在下で行ってもよい。(β)成分の存在下で、付加反応操作を行うことで、副生成物の生成量をさらに低減できる。
【0055】
(β)成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール;グリセリン等が挙げられる。(β)成分としては、分子量200以下の多価アルコールが好ましく、アルキレングリコール、分子量200以下のポリアルキレングリコール、グリセリンがより好ましく、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリンがさらに好ましい。
【0056】
(β)成分は、付加反応操作でアルコキシル化触媒と共存すればよい。従って、(β)成分は、触媒分散操作において(α)成分に加えられてもよいし、付加反応操作中に(α)成分とアルコキシル化触媒との混合物に加えられてもよい。あるいは、(β)成分は、予めアルコキシル化触媒に混合されていてもよい。
【0057】
付加反応操作において、(β)成分/(α)成分で表される質量比は、0.0005〜0.02が好ましく、0.001〜0.01がより好ましい。上記下限値未満では、(β)成分を添加した効果が得られにくく、上記上限値超では、アルキレンオキシドの付加モル数分布が狭くなりすぎる場合がある。
【0058】
[凝集工程]
上記付加反応工程後の反応液(粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレート)は白濁している。
凝集工程では、該反応液に水と凝集剤とを加え、粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートと、水と、凝集剤とを混合して、凝集物を生成させる。
【0059】
<凝集剤>
凝集工程で用いられる凝集剤は、前記反応液中に分散している不純物の粒子を凝集させるために用いられる。
凝集剤は、粉末をそのまま用いてもよいし、水溶液として用いてもよい。
この凝集剤としては、例えば、金属硫酸塩、金属硝酸塩、金属塩化物などが挙げられる。
金属硫酸塩としては、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、硫酸カリウム等が挙げられ、これらの中でも、不純物の低減効果が特に優れることから、硫酸アルミニウムが好ましい。
金属硝酸塩としては、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウム等が挙げられ、不純物の低減効果が特に優れることから、硝酸アルミニウムが好ましい。
金属塩化物としては、塩化アルミニウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム、塩化カリウム等が挙げられる。これらの中でも、不純物の低減効果が特に優れることから、塩化カリウムが好ましい。
凝集剤は、1種単独で用いられてもよいし、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
凝集剤としては、凝集効果が高いことから、硫酸アルミニウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸アルミニウム、硝酸ナトリウム、硝酸マグネシウム、硝酸カリウム及び塩化ナトリウムからなる群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、これらの中でも、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウムがより好ましい。
【0060】
以下、凝集工程の一例について説明する。
本実施形態の凝集工程は、反応液(粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレート)に、水と、凝集剤とを加えて混合し、凝集物を生成する。かかる混合の操作は、上記付加反応工程における反応後の反応槽内で行ってもよいし、反応液を抜き出して別の撹拌槽で行ってもよい。
【0061】
凝集剤の添加量は、目的に応じて適宜設定可能であるが、粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレート100質量部に対して、0.01〜1質量部が好ましく、0.1〜1質量部がより好ましい。凝集剤の添加量が上記範囲内であれば、凝集剤による充分な凝集効果が得られる。上記上限値を超えると、白濁が強まり、高分子PEG等を充分に除去できないことがある。
【0062】
水の添加量は、粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレート100質量部に対して、2〜20質量部が好ましく、5〜20質量部がより好ましい。水の添加量が上記範囲内であれば、凝集剤による充分な凝集効果が得られる。上記上限値を超えると、高分子PEG等を充分に除去できないことがある。
【0063】
凝集工程の温度条件は、例えば、液温を30〜80℃とすることが好ましく、50〜80℃とすることがより好ましい。
粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートと水と凝集剤とを混合する時間は、10分間程度から1時間程度の範囲とすることが好ましい。
【0064】
粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートに水と凝集剤とを添加して撹拌すると、凝集物が生じてくることが目視で確認できる。該凝集物は、撹拌を停止すると沈降する。
【0065】
[分離工程]
分離工程では、前記凝集工程で生成した凝集物と脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートとを分離し、凝集物を除去する。
前記凝集物は、公知の簡易な固液分離方法で除去可能である。凝集物を除去する方法としては、例えば濾過又は遠心分離などが挙げられる。
分離工程の温度条件は、例えば、液温を30〜80℃とすることが好ましく、50〜80℃とすることがより好ましい。
凝集物が除去された後の濾液又は残液には、目的物の脂肪酸アルキルエステルアルコキシレート、水が含まれる。
【0066】
本発明の脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造方法によれば、特定のアルコキシル化触媒の存在下で、脂肪酸アルキルエステルにアルキレンオキシドを付加して得られた粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートと、水と、凝集剤とを混合し、凝集物を生成させてこれを除去するものであるため、触媒のCa分、副生成物の高分子量PEGを容易に除去でき、不純物のさらなる低減化が図れる。
本発明の脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造方法によれば、不純物の少ない高純度の脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートを製造できる。
【0067】
[他の実施形態]
上述した脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造方法においては、前記凝集工程で凝集物を生成させた後に中和剤を添加することが好ましい。
凝集工程で粗脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートと水と凝集剤とを混合して得られる混合液は、凝集剤の添加によってそのpHは低くなり(例えばpH4.5程度)、酸性を示している。このため、次の分離工程で分離された脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートのpHを7程度に調整することが行われる。しかしながら、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートのpHを7程度に調整した際、白濁する場合があった。これに対し、凝集工程で凝集物を生成させた後、混合液から分離する前に、例えば60〜80℃の温度条件で、該混合液に中和剤を添加して、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートのpHを7程度(加水分解を防止する観点から好ましくはpH6〜8)に調整しておくことが好ましい。
中和剤としては、金属水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩、有機アルカリ等が挙げられ、金属水酸化物、有機アルカリが好ましい。中和剤には、例えば、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、モノエタノールアミンが好適に使用できる。中和剤は、水溶液として添加されてもよい。
【0068】
尚、前記のpHは下記手順によって測定される。
手順1)脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートをイオン交換水で希釈し、脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの濃度5質量%水溶液を調製する。
手順2)pHメーター(例えば、横河電機株式会社製のPH82)を用い、25℃に調整した濃度5質量%水溶液のpHを測定する。
【実施例】
【0069】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。尚、本実施例において、特に断りがない限り、「%」は「質量%」、「部」は「質量部」をそれぞれ示す。
本実施例において使用した原料又は試薬は下記の通りである。
【0070】
・液体分散媒(A)
IPA:2−プロパノール、特級試薬、関東化学株式会社製。
【0071】
・アルカリ土類金属化合物(B)
酢酸Ca・1水和物:特級試薬、関東化学株式会社製。
【0072】
・硫酸(C)
硫酸:特級試薬、関東化学株式会社製。
【0073】
・脂肪酸アルキルエステル
ラウリン酸メチル:商品名「パステルM12」、ライオンケミカル株式会社製。
ミリスチン酸メチル:商品名「パステルM14」、ライオンケミカル株式会社製。
【0074】
・アルキレンオキシド
エチレンオキシド:エア・ウォーター株式会社製。
【0075】
・凝集剤
硫酸Al:硫酸アルミニウム14〜18水和物、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
硝酸Al:硝酸アルミニウム9水和物、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
【0076】
硫酸Na:硫酸ナトリウム、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
硫酸Mg:硫酸マグネシウム、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
硫酸K:硫酸カリウム、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
硝酸Na:硝酸ナトリウム、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
硝酸Mg:硝酸マグネシウム6水和物、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
硝酸K:硝酸カリウム、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
塩化Na:塩化ナトリウム、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
塩化Mg:塩化マグネシウム6水和物、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
塩化Al:塩化アルミニウム、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
塩化K:塩化カリウム、一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
【0077】
1mol/L水酸化カリウム溶液:一級試薬、和光純薬工業株式会社製。
【0078】
<アルコキシル化触媒の製造>
分散操作:
容量1Lセパラブルフラスコに、酢酸Ca・1水和物150gとIPA(2−プロパノール)525gとを入れ、パドル撹拌翼により室温(25℃)で混合して分散物を得た。
混合操作:
次いで、前記分散物を撹拌しながら、滴下ロートによって、硫酸78gを10分間かけて添加し、1時間撹拌して、分散物と硫酸とを混合した。混合操作では、硫酸の添加で発熱するため、該セパラブルフラスコを水浴して冷却し、反応温度を30〜50℃に制御した。該セパラブルフラスコ中、硫酸/酢酸Caで表されるモル比(C/B比)は0.94であった。
触媒熟成工程:
次いで、硫酸を添加した後、30℃に保ちながら、さらに2時間撹拌してアルコキシル化触媒を得た。
【0079】
<脂肪酸アルキルエステルアルコキシレートの製造>
(実施例1)
付加反応工程:
容量4Lオートクレーブに、上記アルコキシル化触媒12.5gと、ラウリン酸メチル462gと、ミリスチン酸メチル166gとを入れ、撹拌した(触媒分散操作)。
【0080】
撹拌しながら、オートクレーブ内を窒素置換し、100℃に昇温し、1.3kPa以下の減圧条件で脱水を30分間行った。
次いで、付加反応温度160℃まで昇温し、0.1〜0.5MPaの条件で、エチレンオキシド(EO)1876g(ラウリン酸メチルとミリスチン酸メチルとの合計の15倍モル)を導入し、7時間撹拌した(以上、付加反応操作)。
【0081】
さらに、前記付加反応温度160℃で0.5時間撹拌した(熟成操作)。
この後、80℃に冷却し、脂肪酸メチルエステルエトキシレート(MEE、エチレンオキシドの平均付加モル数15)を含む粗脂肪酸メチルエステルエトキシレート(MEE粗製物)2516gを得た。
【0082】
凝集工程:
容量1Lセパラブルフラスコに、MEE粗製物550gを入れ、ここに、凝集剤として硫酸Alを0.01質量部(対MEE粗製物100質量部)と、水10質量部(対MEE粗製物100質量部)とを添加し、温度80℃で1時間、パドル撹拌翼を用いて420rpmで混合することにより凝集物を生成させ、該凝集物を含む混合液を得た。
【0083】
中和工程:
次いで、前記混合液に、1mol/Lの水酸化カリウム水溶液を添加して中和した。この際、混合液のpHを7.0に調整した。
【0084】
分離工程:
次いで、pH7.0に調整された混合液を、50℃に冷却した。この後、該混合液200gを、フィルター123B(スリーエムジャパン株式会社製、濾過精度1μm)を装着した加圧濾過器に入れ、0.1MPaに窒素加圧して濾過した。これにより、MEEと凝集物とを分離し、凝集物を除去してMEE精製物を得た。
【0085】
(実施例2〜7)
凝集工程において、表1に示すように、硫酸Alの添加量、水の添加量、撹拌の温度をそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にしてMEE精製物を得た。
【0086】
(実施例8〜9)
凝集工程において、表1に示すように、凝集剤の種類を硝酸Alに変更し、硝酸Alの添加量、水の添加量、撹拌の温度をそれぞれ設定した以外は、実施例1と同様にしてMEE精製物を得た。
【0087】
(比較例1)
実施例1の凝集工程において、凝集剤及び水を添加せず、撹拌の温度を50℃とした以外は、実施例1と同様にしてMEE精製物を得た。
【0088】
(実施例10〜19)
凝集工程において、表2に示すように、凝集剤の種類を変更し、凝集剤の添加量、水の添加量、撹拌の温度をそれぞれ設定した以外は、実施例1と同様にしてMEE精製物を得た。
【0089】
<評価>
各例で得られたMEE精製物について、Ca量、高分子PEG量をそれぞれ測定した。
表中、ppmは質量基準である。
表中、「trace」は、検出下限値を下回っていたことを意味する。
【0090】
[Ca量の測定]
MEE精製物中のCaの含有量を、下記の装置を用いて誘導結合高周波プラズマ分光分析(ICP分光分析)により測定し、その結果を表中に示す。
誘導結合プラズマ発光分光分析装置:Optima 5300DV、Perkin Elmer製。
【0091】
[高分子PEG量の測定]
MEE精製物中の高分子PEGの含有量を、下記のカラム及び検出器を用いてゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定し、その結果を表中に示す。
カラム:Shodex Asahipak GF−310HQ、昭和電工株式会社製。
検出器:示差屈折率検出器RID−10A、株式会社島津製作所製。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
表1〜2に示す結果から、本発明を適用した実施例1〜19の製造方法によれば、比較例1の製造方法に比べて、不純物の低減化が図れ、触媒由来のCa分、副生成物である高分子PEGがより多く除去され、不純物の低減化が図れていること、が確認できる。