特許第6403330号(P6403330)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6403330活性金属酸化皮膜中の合金化元素を不均一化触媒として用いた有機合成法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403330
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】活性金属酸化皮膜中の合金化元素を不均一化触媒として用いた有機合成法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/44 20060101AFI20181001BHJP
   B01J 37/12 20060101ALI20181001BHJP
   C07C 15/14 20060101ALI20181001BHJP
   C07C 1/32 20060101ALI20181001BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20181001BHJP
【FI】
   B01J23/44 Z
   B01J37/12
   C07C15/14
   C07C1/32
   !C07B61/00 300
【請求項の数】9
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-9546(P2015-9546)
(22)【出願日】2015年1月21日
(65)【公開番号】特開2016-131949(P2016-131949A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年10月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】399030060
【氏名又は名称】学校法人 関西大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100126778
【弁理士】
【氏名又は名称】品川 永敏
(74)【代理人】
【識別番号】100150500
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 靖
(72)【発明者】
【氏名】近藤 亮太
(72)【発明者】
【氏名】大洞 康嗣
(72)【発明者】
【氏名】竹下 博之
(72)【発明者】
【氏名】中道 星也
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−198196(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/009612(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/045570(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 −38/74
C07C 1/32
C07C 15/14
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合体の中心部に、酸素に対して活性な金属および触媒活性を有する遷移金属からなる合金、
該合金の周囲に、該酸素に対して活性な金属から形成される酸化皮膜、および
該酸化皮膜中に、該触媒活性を有する遷移金属のゼロ(0)価の金属原子、
を含む、複合体であって、
該酸素に対して活性な金属は、チタン(Ti)であり、そして、
該触媒活性を有する遷移金属は、パラジウム(Pd)であり、
該合金中、該触媒活性を有する遷移金属は該酸素に対して活性な金属に対して0.01〜1モル%の比率で含む、
該複合体。
【請求項2】
該酸化皮膜の厚さがnm以上を有する、請求項に記載の複合体。
【請求項3】
自己修復性を有する、請求項1または2に記載の複合体。
【請求項4】
触媒活性を有する遷移金属単体を酸素に対して活性な金属単体に対して.01〜15モル%の比率で配合し、その混合物を、溶解して合金を製造する;および、
該製造した合金を酸化処理することにより酸化皮膜を形成させて、複合体を得る、
ことを含む、請求項1乃至のいずれか1項に記載の複合体の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の複合体を含む、クロスカップリング反応用触媒。
【請求項6】
触媒として請求項1乃至のいずれか1項に記載の複合体を用いた、クロスカップリング反応を行う方法
【請求項7】
式:A−X
(式中、
Aは、無置換もしくは置換のアリール基であり;そして、
Xは、ハロゲン、メシレート基、トシレート基、またはトリフラート基である)
で示される化合物と、
式:B−Y
(式中、
Bは、無置換もしくは置換のアリール基であり;
Yは、B(OR)であり、そしてRは水素である)
で示される化合物とを反応させることにより、
式:A−B
(式中、AおよびBは前掲する通りである)
で示される生成物を得ることを含む、請求項に記載のクロスカップリング反応を行う方法
【請求項8】
触媒の水素還元処理を要しない、請求項に記載のクロスカップリング反応用触媒。
【請求項9】
ガス貯蔵、ガス分離、ガスセンサーデバイス、または不均一触媒としての、請求項1乃至のいずれか1項に記載の複合体の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機能性金属材料、特に新規な合金含有複合体、並びにその製造方法、およびその不均一化触媒としての有機合成における使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、機能性金属材料としての合金が注目されている。例えば、機能性金属材料としての合金は、有機合成用不均一触媒、光触媒、ガス貯蔵、ガス分離、ガスセンサーデバイス、磁気ヘッド、形状記憶合金、電極、および水素貯蔵合金などに利用することができることが知られる。特に、有機合成用の触媒としては、反応系の溶媒に可溶な均一触媒と不溶な不均一触媒が知られる。ここで、不均一触媒とは、多孔質無機酸化物(例えば、ゼオライト)などに触媒活性を示す遷移金属を物理的に吸着させ担持させたものである。均一触媒は、反応の選択性が高いという利点を有するものの、有機合成した生成物中への混入が問題となる。かかる不均一触媒は均一触媒と異なり、反応の選択率が低いという欠点があるものの、一方で反応系からの分離が容易であり、また触媒の組成が構造上変化することが少ないことにより、触媒としての安定性が高いといった利点を有する。
【0003】
従来の合金を用いる不均一触媒は、合金表面の欠陥を起点に反応が進行するといった欠点があり、反応の選択性を制御することが困難である。また、合金中の遷移金属の含有量が多いと、その製造時に多量の遷移金属を配合することで遷移金属自体が凝集し、クラスターを形成する。かかるクラスター構造の場合には、原子の配位位置によりエッジ原子、テラス原子およびコーナー原子が存在し、その各々の位置毎に反応性が異なるため、同様に選択率が低下するといった欠点を有する(非特許文献1および2)。
【0004】
また、合金触媒の従来の製造法としては、遷移金属を含んだ塩を、多孔質無機酸化物(例えば、ゼオライト)などの担持体に担持して合金を作製するのが一般的であるが、遷移金属を担持体に強固に保持させる工夫が成されている(特許文献1)。また、その担持には複雑な工程を要する。更に、最近の研究では、触媒の反応点を増やすために触媒分子をナノ化することで、表面積を増大する試みが行われている(非特許文献3および4)。しかし、バルク状の合金はそれ自体が硬い性質を有するため、微粒子化することが困難である。
【0005】
更に、近年の合金触媒の製造法は、2種類以上の遷移金属元素からなる固溶体を形成させ、これを担持体に加えることにより、触媒活性を示す元素を合金中に均一に分散させるプロセスがとられている。しかし、かかるプロセスは複雑な反応工程を経ること、また触媒自体が大気中に曝されると速やかに失活してしまい、水素雰囲気下で還元しなければならない(非特許文献5)、活性化処理(100−500℃での熱処理)を要する(特許文献2)という問題があった。そこで、合金の製造プロセスが簡便であり、また遷移金属原子の含有量が少なく安価に製造することができ、且つ触媒の還元処理を要せず、反応の活性が高い、合金不均一触媒の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−012419号
【特許文献2】特開平10−137587号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】干鯛眞信, 市川 勝著, 均一触媒と不均一触媒入門-これからの触媒化学-, 丸善株式会社 (1989) 4.1.2.
【非特許文献2】Yoshio Ono, Hideshi Hattori; Solid Base Catalysis, Springer Science & Business Media (2012) 84.
【非特許文献3】Tuan T. Dang, Yinghuai Zhu, Joyce S. Y. Ngiam, Subhash C. Ghosh, Anqi Chen, and Abdul M. Seayad; Palladium Nanoparticles Supported on ZIF-8 As an Efficient Heterogeneous Catalyst for Aminocarbonylation, ACS Catalysis 3 (2013) 1406-1410.
【非特許文献4】Megumi Hyotanishi, Yuto Isomura, Hiroko Yamamoto, Hideya Kawasakia, Yasushi Obora; Surfactant-free synthesis of palladium nanoclusters for their use in catalytic cross-coupling reactions, Chemical Communications, 47 (2011) 5750-5752.
【非特許文献5】B. C. Gates; Supported Metal Clusters: Synthesis, Structure, and Catalysis, Chemical Reviews (1995) 511-522.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、遷移金属原子の含有量が少なく安価に製造することができ、安定であり、且つ触媒反応の活性および選択性が高い合金含有複合体を、極めて簡便な製造法により得ることを目的とする。本発明はまた、該合金含有複合体を含むクロスカップリング反応用触媒、および該クロスカップリング反応用触媒を用いるクロスカップリング反応を水素ガスなどの還元処理無しに提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは上記目的を達成すべく、触媒活性を有する遷移金属単体を酸素に対して活性な金属単体と不活性気体の雰囲気下で溶解し、合金化させ、次いで該溶解した合金を酸化処理することで酸素に活性な金属由来の酸化皮膜を形成させることにより、触媒活性を有する遷移金属元素が該酸化皮膜中に一様に分散しており、また自己修復性を有することにより、安定で且つ形状変化が容易に可能な合金含有複合体を得られることを見出した。また、得られた合金含有複合体を含む不均一触媒がクロスカップリング反応用触媒として優れていることも見出した。すなわち、本発明は以下の通りである。
【0010】
項[1] 複合体の中心部に、酸素に対して活性な金属および触媒活性を有する遷移金属からなる合金、
該合金の周囲に、該酸素に対して活性な金属から形成される酸化皮膜、および
該酸化皮膜中に、該触媒活性を有する遷移金属のゼロ(0)価の金属原子、
を含む、複合体。
項[2] 該酸素に対して活性な金属が、第4A乃至6A、3Bおよび4B族遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの遷移金属である、項[1]記載の複合体。
項[3] 該酸素に対して活性な金属が、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、および珪素(Si)からなる群から選ばれる少なくとも1つの遷移金属である、項[1]または[2]のいずれかに記載の複合体。
項[4] 該触媒活性を有する遷移金属が、第7族から第11族遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの遷移金属である、項[1]乃至[3]のいずれか1項に記載の複合体。
項[5] 該酸素に対して活性な金属がチタン(Ti)であって、且つ該触媒活性を有する遷移金属がパラジウム(Pd)、白金(Pt)、ロジウム(Rh)またはレニウム(Re)である、項[1]乃至[4]のいずれか1項に記載の複合体。
項[6] 該合金中、該触媒活性を有する遷移金属が該酸素に対して活性な金属に対して約0.01〜約15モル%の比率で含む、項[1]乃至[5]のいずれか1項に記載の複合体。
項[7] 該酸化皮膜の厚さが約5nm以上を有する、項[1]乃至[6]のいずれか1項に記載の複合体。
項[8] 自己修復性を有する、項[1]乃至[7]のいずれか1項に記載の複合体。
【0011】
項[9] 触媒活性を有する遷移金属単体を酸素に対して活性な金属単体に対して約0.01〜約15モル%の比率で配合し、その混合物を、溶解して合金を製造する;および、
該製造した合金を酸化処理することにより酸化皮膜を形成させて、複合体を得る、
ことを含む、項[1]乃至[8]のいずれか1項記載の複合体の製造方法。
【0012】
項[10] 項[1]乃至[8]のいずれか1項に記載の複合体を含む、クロスカップリング反応用触媒。
項[11] 触媒として項[1]乃至[8]のいずれか1項に記載の複合体を用いた、クロスカップリング反応。
項[12] 式:A−X
(式中、
Aは、無置換もしくは置換のアリール基であり;そして、
Xは、ハロゲン、メシレート基、トシレート基、またはトリフラート基である)
で示される化合物と、
式:B−Y
(式中、
Bは、無置換もしくは置換のアリール基であり;
Yは、B(OR)であり、そしてRは水素である)
で示される化合物とを反応させることにより、
式:A−B
(式中、AおよびBは前掲する通りである)
で示される生成物を得ることを含む、項[11]記載のクロスカップリング反応。
項[13] 触媒の水素還元処理を要しない、項[11]または[12]のいずれかに記載のクロスカップリング反応。
項[14] ガス貯蔵、ガス分離、ガスセンサーデバイス、または不均一触媒としての、項[1]乃至[8]のいずれか1項に記載する複合体の使用。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、極めて簡便な製造法により、遷移金属原子の含有量が少なく安価に製造することができ、自己修復性を有し、また触媒反応の活性および選択性が高い、優れた合金含有複合体を得ることができる。また、得られる合金含有複合体はクロスカップリング反応用触媒として優れた活性を奏す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の合金含有複合体の構造の模式図を示す図面である。
図2】本発明の合金含有複合体(Ti0.99Pd0.01)のX線回析プロファイルを示す図面である。
図3】遷移金属がパラジウムである、本発明の合金含有複合体のX線光電子分光分析結果を示す図面である。複合体の表面からのチタンとの合金化に伴うパラジウムの原子価状態(化学シフトの変化)を示す。
図4】遷移金属がパラジウムである、本発明の合金含有複合体のX線光電子分光分析結果を示す図面である。複合体の表面からのスパッタリングに伴うパラジウムの原子価状態(ピーク強度の変化)を示す。
図5】遷移金属が白金である、本発明の合金含有複合体のX線光電子分光分析結果を示す図面である。複合体の表面からのスパッタリングに伴う白金の原子価状態(化学シフトの変化)を示す。
図6】本発明の合金含有複合体の水素分子に対する反応を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
(定義)
以下に、本明細書および特許請求の範囲中で使用する用語の定義を示す。特に断らなければ、本明細書中の基または用語について示す最初の定義を、個別にまたは別の基の一部として本明細書中の基または用語に適用する。
【0016】
(複合体の製造)
用語「複合体」とは、酸素に対して活性な金属と触媒活性を有する遷移金属とからなる合金、該酸素に対して活性な金属から形成される酸化皮膜、および該触媒活性を有する遷移金属のゼロ(0)価の金属原子を含む構造体を意味する。該複合体の構造としては、複合体の中心部に酸素に対して活性な金属および触媒活性を有する遷移金属からなる合金;該合金の周囲に、該酸素に対して活性な金属から形成される酸化皮膜;および、該酸化皮膜中に、該触媒活性を有する遷移金属のゼロ(0)価の金属原子を含む(図1を参照)。ここで、該触媒活性を有する遷移金属のゼロ(0)価の金属原子は、物理的吸着ではなく、単に混在する様式で該酸化皮膜中に一様に存在する。また、該ゼロ(0)価の遷移金属原子は酸化皮膜中に存在することで、被毒しない利点をも有する。
【0017】
用語「酸素に対して活性な金属」とは、酸素と反応して酸化されて酸化物を形成する金属を意味する。例えば、第4A乃至6A、3Bおよび4B族金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属を挙げられる。具体例としては、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、アルミニウム(Al)、および珪素(Si)からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属が含まれるが、これらに限定されない。ここで、酸素供与体としては、酸素供与試薬(例えば、過酸化水素、硝酸)または空気中の酸素分子のいずれであってもよい。
【0018】
用語「触媒活性を有する遷移金属」とは、有機合成反応において触媒活性を有する遷移金属を意味する。有機合成反応としては、例えばカップリング反応、典型的にはクロスカップリング反応を意図する。例えば、第7族から第11族遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの遷移金属が含まれるが、これらに限定されない。具体例としては、第7族遷移金属(例えば、マンガン(Mn)、レニウム(Re)、第8族遷移金属(例えば、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os))、第9族遷移金属(例えば、コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir))、第10族遷移金属(例えば、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt))、および第11族遷移金属(例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au))からなる群から選ばれる少なくとも1つの遷移金属を意味する。典型的には、第10族遷移金属が挙げられ、例えば白金、パラジウムが好ましい。
【0019】
用語「合金」とは、酸素に対して活性な金属と触媒活性を有する遷移金属とから構成される合金を意味する。
【0020】
典型的な合金の1実施態様としては、酸素に対して活性な金属が、第4A乃至6A、3Bおよび4B族金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの金属であり、そして触媒活性を有する遷移金属が、第8族から第11族遷移金属からなる群から選ばれる少なくとも1つの遷移金属である、それらの2種類の金属の組み合わせを含む。
また、典型的な合金の1実施態様としては、酸素に対して活性な金属として第4A乃至6A族金属、および触媒活性を有する遷移金属として第7族乃至第10族からなる遷移金属との組み合わせ、または酸素に対して活性な金属として第4A乃至5A族金属、および触媒活性を有する遷移金属として第8族乃至第10族からなる遷移金属との組み合わせ、または酸素に対して活性な金属が第4A乃至5A族金属から選ばれ、そして触媒活性を有する遷移金属が第10族である遷移金属との組み合わせを含む合金を挙げられる。
具体的な合金の1実施態様としては、酸素に対して活性な金属がチタン(Ti)であり、そして触媒活性を有する遷移金属がパラジウム(Pd)または白金(Pt)である、金属の組み合わせを含む合金を挙げられる。
【0021】
合金のそれら酸素に対して活性な金属と触媒活性を有する遷移金属との2種類の金属の組成比率は任意の比率であってもよく、合金の製造時の原料金属単体の配合量を調整することによって、得られる合金中の含有量の比率を適宜変えることができる。例えば、該触媒活性を有する遷移金属は、該酸素に対して活性な金属に対して約15モル%の比率以下が好ましく、約10モル%の比率以下がより好ましい。例えば約0.01〜15モル%の比率、約0.1〜10モル%の比率が挙げられ、典型的には約1モル%の比率で含む。また、例えば、パラジウム(Pd)の配合量が15モル%を超えると、Pdクラスターが形成し易く、生成物の収率が低下するとの報告もある(Liang-Shu Zhong, Jin-Song Hu, Zhi-Min Cui, Li-Jun Wan, Wei-Guo Song; In-Situ Loading of Noble Metal Nanoparticles on Hydroxyl-Group-Rich Titania Precursor and Their Catalytic Applications, Chemistry of Materials 19 (2007) 4557-4562)。よって、触媒活性を有する遷移金属は配合比率が多いとクラスターが形成し、また該触媒活性を有する遷移金属は比較的高価なため、その含有量は少ない方が好ましい。また、酸素に対して活性な金属(「M」と略す)を99モル%、および触媒活性を有する遷移金属(「N」と略す)を1モル%(x = 0.01)とからなる合金は、M0.990.01とも記す。本発明の合金含有複合体(Ti0.99Pd0.01)のX線回析プロファイルを図2に示す。
【0022】
用語「触媒活性を有する遷移金属のゼロ(0)価の金属原子」とは、該触媒活性を有する遷移金属の原子価が0価であることを意味する。原子価がゼロ(0)価であることは、X線光電子分光分析により確認した。ゼロ価の遷移金属原子は複合体内部へと移るにつれて、チタンと合金化する。該触媒活性を有する遷移金属のゼロ(0)価の金属原子は、酸化皮膜中に物理的に吸着しているのではなく、一様に混在している状態にある。
【0023】
用語「酸素に対して活性な金属から形成される酸化皮膜」とは、上記酸素に対して活性な金属由来の酸化物の皮膜を意味する。第4A乃至6A、3Bおよび4B族金属について酸化物の皮膜を形成することが知られる(Alexander Michaelis; Valve Metal, Si and Ceramic Oxides as Dielectric Films for Passive and Active Electronic Devices, Advances in Electrochemical Science and Engineering, Vol.10 (2008) Chapter 1)。
該該酸化皮膜の厚さは、合金を製造するときの酸化処理の条件(例えば、反応時間、反応圧力、反応温度など)によって変わり得る。本発明の複合体の酸化皮膜の厚さは通常は例えば約0.1nm〜約100nmであり、また約5nm〜約20nm、典型的には約1nm〜約20nmが挙げられる。例えば、自然酸化処理を行った場合には、約1〜約5nmの厚さの皮膜を形成した。よって、人為的に物理学的なもしくは化学的な酸化処理を行った場合には、酸化皮膜の成長は自然酸化処理を行った場合と比較して速く、よって人為的な酸化処理または自然酸化処理を行って得られる本発明の複合体における酸化皮膜の厚さは、約5nm以上であることが好ましい。該酸化皮膜中に混在する該触媒活性を有する遷移金属のゼロ(0)価の金属原子が被毒するのを防止する目的で、該酸化皮膜はある程度の厚さを有することが好ましい。また、酸化皮膜の成長は周囲環境にも依存し、例えば不活性雰囲気、減圧雰囲気、乾燥空気下、湿潤環境の順番で、不活性雰囲気下が一番皮膜成長遅く、湿潤環境下が速いことが一般的に知られている。
【0024】
本発明の複合体は、物理的に損傷を被っても、その中に存在する合金を構成する酸素に対して活性な金属が周囲(例えば、大気)の酸素により酸化されることで、合金が酸化皮膜とゼロ価の遷移金属元素とに分配され、自己修復する。チタンの酸化皮膜が速やかに自己修復機能を示していることが分かった。
【0025】
次に、本発明の複合体の製造法を記載する。
本発明の複合体は、下記の製造法により製造することができるが、これに限定されない。該製造法は、
1)酸素に対して活性な金属単体と、触媒活性を有する遷移金属単体との混合物を溶解して合金を調製する;
2)該調製した合金を酸化処理することにより酸化皮膜を形成させて、複合体を得る;および、
3)必要に応じて、得られた複合体の形状を所望する形状に成型する、
ことを含む。
【0026】
上記製造法の工程1)における合金の調製法としては、通常知られる合金の製造法を含み、例えば抵抗加熱溶解法、高周波誘導加熱溶解法、アーク溶解法等を含むが、これらに限定されない。合金の調製時において、周囲雰囲気は、不活性雰囲気(例えば、アルゴン、ヘリウム)、減圧雰囲気、乾燥空気下、湿潤環境であってよく、不活性雰囲気下が一番皮膜成長が遅く、湿潤環境下が速い。
また、合金の調製は、該合金構成元素単体の融点以上で、常圧または減圧雰囲気で、合金製造時に通常用いられる機器を用いて製造する。該機器としては、電炉、高周波炉等を挙げられ、具体的には非消耗タングステンアルゴンアーク溶解炉(例えば、大亜真空社製)等を挙げられるが、これらに限定されない。
【0027】
工程2)において、酸化処理は酸素供与体を用いて行い、酸素供与体としては該酸素供与試薬(例えば、過酸化水素、硝酸)または空気中の酸素分子のいずれであってもよい。簡便な方法としては、複合体を空気中に放置することにより、酸化処理を行う(自然酸化処理)ことが挙げられる。
【0028】
工程3)において、必要に応じて、研磨機による得られた複合体の表面を研磨する。研磨方法として、例えばダイヤモンドペースト、コロイドシリカを用いて鏡面に仕上げることができる。これにより、複合体の表面積をより効率良く使用することができ、また合金表面の欠陥を起点に反応が進行するのを防止することができる。高温で処理され、調製された複合体は、一定の期間デシケータ中に保持することにより、複合体の酸化状態を安定化させ、また複合体が被毒することを防止する目的で、デシケータ中に数時間〜数日間(典型的には、1日〜3日、例えば1日)保持する。
【0029】
工程4)において、必要に応じて、複合体を所望する形状に成型してもよい。例えば、合金の成型において通常知られる機器を用いて所望する形状に成型する。例えば、成型用の機器として縦型フライス盤、旋盤などを用いて、フレーク形状、リボン状、インゴット形状に成型することができるが、これらに限定されない。
【0030】
(複合体の触媒的使用)
また、本発明の複合体の使用法を説明する。例えば、有機合成における使用法が挙げられる。有機合成としては、触媒活性を有する遷移金属自体が奏すると知られる有機合成反応であれば、特に限定されない。典型的にはクロスカップリング反応を挙げられる。
【0031】
用語「クロスカップリング反応」とは、異なる2種の化合物の間で選択的に結合する反応を意味する。特に、本発明で意図するクロスカップリング反応とは、遷移金属化合物が触媒的に作用する、下式:
【化1】

で示される反応を意味する。具体的には、有機ハロゲン化物等と末端アルケン等との反応(溝呂木・ヘック反応)、有機ハロゲン化物等と有機亜鉛化合物との反応(根岸カップリング反応)、有機ハロゲン化物等と有機スズ化合物との反応(右田・小杉・スティルカップリング)、有機ハロゲン化物等と末端アルキン等との反応(薗頭カップリング)、有機ハロゲン化物等と有機ホウ素化合物との反応(鈴木・宮浦カップリング)、有機ハロゲン化物と有機アミン化合物との反応(ブッフバルト・ハートウィッグ反応)、有機ハロゲン化物等と有機マグネシウム化合物との反応(熊田・玉尾・コリューカップリング)、有機ハロゲン化物と有機ケイ素化合物との反応(檜山カップリング)等を意図する。特に、鈴木・宮浦カップリングを意図する。
【0032】
1実施態様において、クロスカップリング反応は、
式:A−X
(式中、
Aは、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換のヘテロアリール基、または無置換もしくは置換のアルケニル基であり;そして、
Xは、ハロゲン、メシレート基、トシレート基、トリフラート基、またはカルボン酸ハロゲン化物基である)
で示される化合物と、
式:B−Y
(式中、
Bは、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換のヘテロアリール基、無置換もしくは置換のアルケニル基、または無置換もしくは置換のアルキニル基であり;
Yは、水素、アリール基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、ホルミル基、オキソ基、シアノ基、アミノ基、B(OR)、ZnX、AlR、SnR、MgX、またはSiRであり、ここで、XおよびXはハロゲンであり、そしてR、R、RおよびRは各々独立して水素またはアルキルである)
で示される化合物とを、本発明の複合体を含むクロスカップリング反応用触媒の存在下で反応させることにより、
式:A−B
(式中、AおよびBは前掲する通りである)
で示される生成物を得ることを含む。
【0033】
好ましい1実施態様において、クロスカップリング反応は、
式:A−X
(式中、
Aは、無置換もしくは置換のアリール基であり;そして、
Xは、ハロゲン、メシレート基、トシレート基、またはトリフラート基である)
で示される化合物と、
式:B−Y
(式中、
Bは、無置換もしくは置換のアリール基であり;
Yは、B(OR)であり、そしてRは水素である)
で示される化合物とを、本発明の複合体を含むクロスカップリング反応用触媒の存在下で反応させることにより、
式:A−B
(式中、AおよびBは前掲する通りである)
で示される生成物を得ることを含む。
【0034】
用語「式:A−Xで示される化合物」とは、上記クロスカップリング反応において求電子剤として作用する反応基質の一方を意味する。ここで、基Aは、少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合を有する基であり、具体的には、無置換もしくは置換のアリール基、無置換もしくは置換のヘテロアリール基、および無置換もしくは置換のアルケニル基を含む。無置換もしくは置換のアリール基が好ましい。また、X基は有機化学分野において脱離基として知られる基を意味する。具体的には、ハロゲン(例えば、クロロ、ブロモ、ヨード)、メシレート基(OMs)、トシレート基(OTs)、またはカルボン酸ハロゲン化物基(例えば、カルボン酸臭化物(C(=O)Br、カルボン酸ヨウ化物(C(=O)I))を挙げられる。ハロゲン、メシレート基、トシレート基、またはトリフラート基が好ましく、ハロゲンがより好ましく、ブロモまたはヨードがより好ましく、ヨードが特に好ましい。
【0035】
用語「式:B−Yで示される化合物」とは、上記クロスカップリング反応において求核剤として作用する反応基質の一方を意味する。ここで、基Bは、少なくとも1つの炭素−炭素不飽和結合を有する基であり、具体的には、無置換もしくは置換のアリール、無置換もしくは置換のヘテロアリール基、無置換もしくは置換のアルケニル基、および無置換もしくは置換のアルキニル基を含む。無置換もしくは置換のアリール基が好ましい。また、Y基は、水素、アリール基、アルコキシカルボニル基、ニトロ基、ホルミル基、オキソ基、シアノ基、アミノ基、B(OR)、ZnX、AlR、SnR、MgX、またはSiRであり、B(OR)(Rは水素である)が好ましい。ここで、XおよびXはハロゲン(クロロ、ブロモ、ヨードが好ましく、ブロモ、ヨードがより好ましい)であり、そしてR、R、RおよびRは各々独立して水素またはアルキル(炭素数が1〜6のアルキルが好ましく、メチル、エチル、t−ブチルがより好ましい)である。
【0036】
用語「無置換もしくは置換のアリール基」とは、適宜1〜5個の置換基を有する芳香族性炭素環式を意味する。縮合環様式で結合した多環式基(例えば、二環式基)をも本定義に含む。具体例としては、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等の単環式アリール基;フェナントリジニル基、6−クロマニル基、5−イソインドリル基等の二環式アリール基等が挙げられる。フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基が好ましい。
【0037】
ここで、置換基としては、かかるクロスカップリング反応の進行を妨げない基であればよく、有機化学分野において知られる電子供与性基(例えば、アミノ基、アルキル基、アルコキシ基)または電子吸引性基(例えば、ニトロ基、ホルミル基、オキソ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基)のいずれであってもよいが、電子供与性基が好ましい。例えば、アルキル基(例えば、炭素数が1〜6個のアルキル基(例えば、メチル基、エチル基))、ハロゲン化アルキル基(例えば、トリフルオロメチル基)、ニトロ基、ホルミル基、オキソ基、アシル基(例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基)、アミノ基(例えば、N-メチルアミノ基、N-エチルアミノ基、N,N-ジメチルアミノ基、N,N-ジフェニルアミノ基)、ヒドロキシ基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基)、カルボキシ基、シアノ基を含む。アルキル基、アルコキシ基が好ましい。
【0038】
用語「無置換もしくは置換のヘテロアリール基」とは、適宜1〜5個の置換基を有する、少なくとも1つの環内に、窒素原子、酸素原子、または硫黄原子から選ばれる少なくとも1つのヘテロ原子を有する、芳香族性の環式基を意味する。縮合環様式で結合した多環式基(例えば、二環式基)をも本定義に含む。具体例としては、ピロリル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、オキサゾリル基、イソキサゾリル基、チアゾリル基、チアジアゾリル基、イソチアゾリル基、ピリジル基、フリル基、チエニル基、オキサジアゾリル基、2−オキサアゼピニル基、アゼピニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、トリアゾリル基などの単環式へテロアリール基;および、ベンゾチアゾリル基、ベンゾキサゾリル基、ベンゾチエニル基、ベンゾフリル基、キノリニル基、キノリニル−N−オキシド基、イソキノリニル基、ベンゾイミダゾリル基、ベンゾピラニル基、インドリジニル基、シンノリニル基、キノキサリニル基、インダゾリル基、ピロロピリジル基、フロピリジニル基(例えば、フロ[2,3−c]ピリジニル基、フロ[3,1−b]ピリジニル基、またはフロ[2,3−b]ピリジニル基)、ベンジイソチアゾリル基、ベンゾイソキサゾリル基、ベンゾジアジニル基、ベンゾチオピラニル基、ベンゾトリアゾリル基、ベンゾピラゾリル基、ナフチリジニル基、フタラジニル基、プリニル基、ピリドピリジル基、キナゾリニル基、チエノフリル基、チエノピリジル基、チエノチエニル基などの二環式ヘテロアリール基等の二環式アリール基等が挙げられる。ピリジル基が好ましい。置換基としては、上記の「無置換もしくは置換のアリール基」において定義するのと同様に、かかるクロスカップリング反応の進行を妨げない基であればよく、具体例は上述の通りである。
【0039】
用語「無置換もしくは置換のアルケニル基」とは、適宜1〜5個の置換基を有する、2〜12個の炭素原子および少なくとも1個の二重結合を有する、直鎖、分枝または環状の炭化水素基を意味する。具体例としては、エテニル基(ビニル基)、1−プロペニル基、1−ブテニル基、1−ペンテニル基、1,3−ジペンテニル基、シクロヘキセニル基等を挙げられる。エテニル基が好ましい。置換基としては、上記の「無置換もしくは置換のアリール基」において定義するのと同様に、かかるクロスカップリング反応の進行を妨げない基であればよく、具体例は上述の通りである。
【0040】
用語「無置換もしくは置換のアルキニル基」とは、適宜1〜3個の置換基を有する、2〜6個の炭素原子および1個の三重結合を有する、直鎖または分枝の炭化水素基を意味する。アセチレンの一端の炭素上の水素が水素以外の基で置換された末端アルキニル基が好ましい。具体例としては、1−プロピニル、1−ブチニル、3,3−ジメチル−1−ブチニル等を挙げられる。1−プロピニルが好ましい。置換基としては、上記の「無置換もしくは置換のアリール基」において定義するのと同様に、かかるクロスカップリング反応の進行を妨げない基であればよく、具体例は上述の通りである。
【0041】
用語「アルコキシカルボニル基」とは、炭素数が1〜12個、好ましくは炭素数が1〜8個、より好ましくは炭素数が1〜6個のアルキル基を含むアルコキシカルボニル基を意味する。具体例としては、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、n−プロポキシカルボニル、ブトキシカルボニル(n−ブトキシカルボニル、イソ−ブトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニル)、ペンチルオキシカルボニル、ヘキシルオキシカルボニル等を挙げられる。メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、t−ブトキシカルボニルが好ましい。
【0042】
クロスカップリング反応は、上記式1に示す通り一般に触媒的クロスカップリング反応として知られる手順に準じて行う。具体的には、式:A−Xで示される化合物(1)と、式:B−Yで示される化合物(2)とを、上記で得られた合金含有複合体を含む触媒の存在下で反応させる。ここで、クロスカップリング反応のタイプによっては、塩基の存在下で行う。塩基としては、有機塩基(例えば、トリエチルアミン、ピリジン)または無機塩基(例えば、水酸化物(例えば、水酸化ナトリウム))、炭酸塩(例えば、炭酸カリウム)、炭酸水素塩(例えば、炭酸水素ナトリウム))を挙げられる。
【0043】
反応基質である、式:A−Xで示される化合物(1)と、式:B−Yで示される化合物(2)はいずれも市販されているか、または当該有機化学の分野において知られる方法、或いはこれらに準じた方法により製造することができる。
【0044】
クロスカップリング反応の反応溶媒は、通常の有機溶媒を用いることができ、あるいは反応基質または塩基を溶媒として用いることができる。例えば、典型的な反応溶媒としては、アルコール性有機溶媒(例えば、メタノール、エタノール)を挙げられる。
【0045】
反応基質である化合物(1)と化合物(2)の配合量比率は、化合物(2)の量が化合物(1)の配合量基準で等量または過剰量で使用する。例えば、化合物(2)を、1.0〜3.0当量、1.0〜2.0当量、好ましくは1.2〜1.5当量で使用する。
【0046】
本発明の合金含有複合体を含む触媒の使用量は、反応基質である化合物(1)の配合量基準で約10−1〜10−5モル%、約10−1〜10−3モル%、好ましくは約10−1〜10−2モル%で使用することができる。特に鈴木・宮浦カップリングの場合には約10−1〜10−2モル%、具体的には約0.1〜1.0モル%で使用することができる。
【0047】
本発明の触媒としての評価は、例えば触媒化学分野においてよく用いられる最終生成物への転換率を用いて表すことができる。本発明の触媒は、転換率を約90%以上、約92%以上、約94%以上、または約95%以上、典型的には約99%以上を示す。よって、このことは副生成物がほとんど生成しないことを示唆する。また、本発明の生成物の収率は、約90%以上、または約95%以上、典型的には約99%以上を示す。よって、転換率および収率から、本発明のカップリング反応は極めて効率よく進行することを示唆する。
【0048】
通常のクロスカップリング反応の場合には一般には、使用する触媒は大気中に曝露され、失活するため、水素ガスなどの還元処理を要する。一方で、本発明の合金複合体を含む触媒は、ゼロ(0)価の遷移金属原子が酸化皮膜中で保護されているので、それら還元処理を要しない。
【0049】
本発明のカップリング反応は、低温(例えば、−70℃以下)から高温(例えば、100℃以上)で行なうことができ、通常室温〜使用する反応溶媒の沸点であり、80以上の温度が好ましく、100℃以上の温度がより好ましい。
【0050】
本発明の反応は、常圧から加圧容器(例えば、プレッシャーチューブなどの市販の容器)中での加圧条件下で行なうことができ、通常常圧で行なう。
【0051】
本発明の反応時間は、使用する溶媒、反応温度などの反応条件に依存して変わり得るが、数時間〜数日間で完結し、通常約5時間〜約3日間で完結し、約24時間が好ましい。
【0052】
(複合体の機能的材料)
また、本発明の合金含有複合体は、触媒活性を有する遷移金属元素が酸化皮膜中に混在していることにより被毒しにくく、遷移金属の触媒活性を保持することができる。また、自己修復性を示すことから、安定でありまた形状変化が可能な合金含有複合体を形成する。よって、本発明の複合体は、上記の機能に基づいて様々な用途の機能性材料として利用することができる。例えば、ガス(例えば、窒素、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、ヘリウム、アルゴン)などに対するガス貯蔵、ガス分離;触媒(例えば、不均一触媒として(水素添加反応触媒、光触媒、クネーフェナーゲル縮合反応用触媒));およびデバイス(例えば、ガスセンサーデバイス、燃料電池用固体電解質)を挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。合金含有複合体およびクロスカップリング反応の生成物の確認は、各種分光学的分析の解析により行なった。
【0054】
(実施例1)
合金触媒の作製
純度99.5%以上のスポンジチタン(東邦チタニウム製)を非消耗電極型タングステンアーク溶解炉を用いて、99.99%以上のアルゴン雰囲気下、電流200mA以上で溶解し、ボタン状のチタンインゴットを得た。得られたボタン状インゴットに対して目標組成(1.0mol%Pd)になるようPdを秤量し、先に得られたボタン状のチタンインゴットに加え、該混合物を再び非消耗電極型タングステンアーク溶解炉を用いて溶解し、ボタン状の合金を得た。また、本合金を縦型フライス盤および超硬バイトを用いて表面から切削し、フレーク状の合金触媒を得た。
【0055】
(実施例2)
複合体の製造
複合体はチタンの自然酸化皮膜を利用することで得た。つまり、フライス盤を用いて切削したフレーク状試料は不活性雰囲気下で調製したものではなく、大気開放下で調製した。その後、乾燥空気下、温度20℃、湿度25%に調整されたデシケータ内に1日以上放置し、自然酸化皮膜を成長させた。
プレート状の本合金の表面を耐水研磨紙(粒度#150−#800)まで用いて粗研磨を施し、ダイヤモンドペースト(粒度1−9μm)およびコロイダルシリカ(粒度0.04μm)を用いて鏡面に仕上げた。鏡面に仕上げる際、研磨剤の残留および伸展液の汚染を防ぐことを目的に、コロイダルシリカに超純水(メルクミリポア、比抵抗値18.2Mωcm−1)を徐々に足し、最後に超純水のみで合金表面を洗浄した。鏡面に仕上げた後、デシケータ内で少なくとも1日以上放置し、自然酸化皮膜の成長を促した。該複合体の構造はX線光電子分光分析装置(ULVAC Phi、PHI 5000 VersaProbe)を用いて分析した。その結果、得られた本発明の複合体の構造を図1に示す。
【0056】
(実施例3)
複合体の構造
該複合体(Ti0.99Pd0.01)の構造をX線回折プロファイルにより分析した。その結果を図2に示す。チタン酸化物中のパラジウムの原子価状態により、該複合体は表面からある程度の範囲までだけの最表面が酸化皮膜で覆われており、それより中心内部は固体合金金属であることがわかった。また、中心内部が合金金属であるため、皮膜を一時的に破壊されたとしても、直ちに(例えば、数msで)皮膜が修復される構造となっている。
【0057】
また、本発明の合金含有複合体のX線光電子分光分析結果を行った。具体的には、本発明の合金含有複合体の表面からスパッタリングを行って削っていき、内部の遷移金属原子の原子価状態を調べた。遷移金属原子がパラジウム(図3)および白金(図5)について分析を行った。パラジウムの場合、結合エネルギーが約336、341evのピークはPd(0)の存在を示唆する。パラジウムの原子価は表面から内部に渡って全てゼロ価であり、合金内部ではチタンと金属結合することで僅かなケミカルシフトが認められた(図3)。これらピークはスパッタリング時間の増加と共に、つまり複合体の内部へと移るに伴い、高エネルギー側へシフトした。これは、パラジウムがチタンと合金化していることを示唆された(図3)。また、当該ピークの強度のスパッタリング時間の増加と共に、ピークの強度の増加がみられた。これは、内部へと移るに伴い、パラジウムの濃度が高いことを示唆する(図4)。
同様に作製した白金を添加した合金含有複合体においても、結合エネルギーが約71、75evのピークはPt(0)の存在を示唆する。パラジウムの場合と同様に、これらピークは高エネルギー側へシフトし、白金はゼロ価で合金含有複合体表面に存在し、中心内部はチタンと合金化していることが示された(図5)。
パラジウム、白金がゼロ価であるため、クロスカップリング反応が進行したといえる。
【0058】
(実施例4)
複合体の特性
パラジウムや白金は水素分子の解離に対する触媒として作用することが知られている。図6は水素雰囲気下で室温から400℃に昇温および保持したときの水素ガスの圧力の変化を示した。チタンは熱力学的に常温、常圧水素雰囲気下で水素と化学反応を起こすことが知られるが、本発明においては実際は表面の酸化皮膜が障壁となり、水素と反応しない。従って、パラジウムをチタンに添加する事によって、合金表面におけるパラジウム原子により、水素分子の解離が促進され、速やかに水素ガスの圧力が減少したことが認められた。
【0059】
(実施例5)
クロスカップリング反応
本発明のクロスカップリング反応の代表例として、鈴木−宮浦反応を選び、本願発明の合金含有複合体の触媒能を調べた。また、以下の実施例中に用いた略号を説明する。
Meはメチル基を、Etはエチル基を、iPrはイソプロピル基を、DMAはジメチルアセトアミドを、DMFはジメチルホルムアミドを、THFはテトラヒドロフランを意味する。
以下の実施例で用いた試薬及び全ての出発物質は市販品であり、これらをさらに精製することなく使用した。
15mLプレッシャーチューブに撹拌子を入れ、実施例1で得られたチタン−1.0mol%パラジウム合金0.024g(0.5mmol、Pd換算0.005mmol)、4−メチルフェニルボロン酸またはフェニルボロン酸0.75mmol(0.1020g)及び炭酸ナトリウム0.1382g(1.0mmol)を入れ、容器内をアルゴンで置換した。次いで、ヨードベンゼン0.1020g(0.5mmol)、溶媒としてメタノール2mLを入れ、攪拌した。その後、120℃で24時間加熱し、反応を行った。
定量は、ガスクロマトグラフィーを用い、内部標準法(基準物質はトリデカンである)で分析を行ったところ、カップリング生成物である、ビフェニルまたは4−メチルビフェニルが定量的に得られていることが確認できた。以下に示す検討を、Ti−0.2mol%Pd0.024g(0.5mmol、Pd換算0.001mmol)で行った。
【0060】
以下に、本願反応の種々の反応条件を変えた場合の結果を示す。反応条件の検討結果を示す。
(実施例5−1)
本願発明の合金含有複合体触媒について、水素化還元処理を施した場合と施さない場合とを比較検討した。
【化2】
【表1】

生成物の質量スペクトル(MS):154.21
【0061】
表中、P(Hy)とは、水素化処理を施した触媒を意味する。この結果、水素化還元処理を要しない本願発明の複合体触媒は、触媒活性が高いことを示した。
【0062】
(実施例5−2)
本願発明の合金種について検討を行った。基質をp−トリルボロン酸に変更し、様々な合金および金属バルクを用いて検討を行った。
【化3】

【表2】

生成物の質量スペクトル(MS):168.23
【0063】
結果、チタン単独の場合と比較して、本願発明の合金複合体触媒は高い触媒活性を示すことを示した。
【0064】
(実施例5−3)
基質について検討を行った。具体的には、ヨウ化ベンゼンに代えて、臭化ベンゼン、塩化ベンゼンについて反応を行った。
【化4】

【表3】
【0065】
結果、ヨウ化ベンゼンと比較して反応は遅いが、反応は進行することが分かった。
【0066】
(実施例5−4)
反応雰囲気下の検討を行った。具体的には、大気雰囲気での反応の進行を調べた。
【化5】
【0067】
結果、大気雰囲気下で反応を行った場合でも、触媒反応が円滑に進行し、生成物を高収率で与えることがわかった。
【0068】
(実施例5−5)
溶媒の検討を行った。
【化6】

【表4】

【化7】

【表5】
【0069】
結果、MeOH、ジエチレングリコール、水の場合に反応が円滑に進行することが示された。
【0070】
(実施例5−6)
塩基種の検討を行った。
【化8】

【表6】
【0071】
NaHCO3、Na2CO3、K2CO3、CsCO3、KPO4、NaOHで反応が円滑に進行した。
【0072】
(実施例5−7)
反応温度の検討を行った。
【化9】

【表7】
【0073】
結果、本反応を進行させるためには、100℃以上の高温が適していることが示唆される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明で得られる合金含有複合体は、極めて簡便な製造法により、遷移金属原子の含有量が少なく安価に製造することができ、自己修復性を有し、また触媒反応の活性および選択性が高い、優れた合金含有複合体を提供する。また、得られる合金含有複合体はクロスカップリング反応用触媒として優れた活性を奏し、また水素ガスなどの還元処理を要しない。更に、ガス貯蔵、ガス分離、ガスセンサーデバイス、または不均一触媒などの機能性材料としても有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6