【課題を解決するための手段】
【0006】
主部、客部、述部のコンセプトは、言語表現される対象についてのものであり、言語によらず存在する。1の文には、主部すなわち主体を表す語句と、述部すなわち動作、状態、存在あるいは「何が(主部)何だ(述部)」の「何だ」に当たる部分を表す語句が、独立語と主部が省略される場合を除き、必ず含まれる。なお、客部すなわち客体を表す語は含まれない場合もある。述部を動詞とすると、その動詞が他動詞であれば客体が存在するが、その動詞が自動詞の場合には客体がなくとも動作を行うことができるためである。また、述部が形容詞である場合や、「何だ」に当たる部分を表す場合にも客体が存在しない。
【0007】
また、文の中には、主体と述部の組を複数有するものもある。例えば、日本語において
連用中止によって2つの動作を表す場合、英語において関係代名詞によって1の主体と動
作が他の語を修飾する場合、が例示される。
【0008】
文に含まれている1又は2以上の「主部、述部、(存在する場合には)客部の組」を視
覚的に示すことで、その「組」を容易に理解できるようにし、文の構造の理解を助け、ひ
いては文の意味の理解を助ける。
【0009】
合わせて、主部、述部、客部以外を表す語についても、文の中の他の語との関係を視覚
的に示すことで、文の構造の理解をより容易にする。
【0010】
以上の説明において「部」と表現したものについて詳述する。文において、例えば主体
を、品詞の組合せによって、いかなる表し方をするかは、厳密には言語に依存する。例え
ば英語であれば、主語となる名詞として表される。一方、例えば日本語では、主語となる
名詞が主体を表すと把握することも、その名詞に主語であることを示す格助詞の付された
文節が主体を表すと把握することも可能である。かかる把握方法の相違は、教育方針や生
徒の得手不得手によって最適なものを選択することができる。そこで、本明細書において
は、主体、動作、客体等として把握される文の一部を、それぞれ主部、述部、客部と呼ぶ
。また、主部を修飾する文の一部を連体修飾部、述部を修飾する文の一部を連用修飾部と
呼ぶ。連体修飾部、連用修飾部の概念についても、従来の文法による品詞の分類に関わら
ず、機能としての分類に依り、教育目的に依る調整を行う。
【0011】
2つの部の間の相対的な関係は、以下に分類される。
(1) 主部と、述部の関係。(日本語では主語と述語)
(2) 客部と、述部の関係。(日本語では目的語と述語である動詞)
(3) 主部と、述部を介した客部を表す関係。
(4) 連体修飾部と、被修飾語である主部の関係。(日本語では主として形容詞(連体
詞)と名詞)
(5) 連用修飾部と、被修飾語である述部の関係。(日本語では主として連用修飾語と
用言)
(6) 対等に並列された2つ以上の述部の関係。(日本語ではいわゆる重文における2
つ以上の述語)。
(7) 修飾語である述部と、被修飾語である主部または客部の関係。(日本語では複文
の従属節の述部と主節の主部又は客部)。
【0012】
ここで、(3)について注記する。多くの言語に見られるいわゆる「係り受け」の関係
を考えると、他は係り受けの関係にあるが、(3)は係り受けの関係にない。それにもか
かわらず(3)の関係を視覚的に示すところが本発明の特徴のうちで重要なものである。
例えば日本語において形態素解析の結果を表示する多くの従来技術と本発明を峻別する。
【0013】
上記(5)については、修飾語となる語句の意味により、以下に細分される。
(5A)移動先の場所を表すもの
(5B)移動のない場所を表すもの
(5C)時を表すもの
(5D)手段を表すもの
(5E)その他
【0014】
上記(6)については、文全体のうち、前出のものを「第1文」、後出のものを「第2
文」とし、第1文と第2文の関係により、以下に細分される。なお、第3文以降がある場
合も同様である。
(6A)単純並列
(6B)順接
(6C)時間経過
(6D)逆接
(6E)第2文が第1文の理由
(6F)その他
なお、第1文及び第2文を合わせた全体で1つの文であり、「第1文」及び「第2文」
は厳密には「文」として表現されていない。しかし、述部を表す語句によって受けられ「
文」と同様の意味を持つので、「第1文」、「第2文」と呼ぶ。
【0015】
構造が視覚的に示されることで、多くの文を学ぶ生徒は、視覚情報に基づいて構造を把
握することができるようになる。同一構造は同一の視覚的効果で示されるためである。文
の構造を論理的・記号的な関係でなく視覚的に示されることにより、脳への負担が小さい
形で学習が可能となる。
【0016】
さらに学習が進むと、初めて学ぶ文についても各々の語句の意味に基づいて、構造を推
測することができるようになる。
【0017】
以上の学習の長期的な効果としては、文を読む場合に限らず、作文をする場合にも、文
の構造を論理的に組上げることができ、正確で読みやすい文を作文することが容易になる
ことが挙げられる。
【0018】
以上の特徴によれば、単語分かち書きがなくて文構造の理解が困難である言語、例えば
日本語の文構造の学習を効率化することができる。
【0019】
以上の学習効果を実現するため、本発明の文構造学習用ノートは、以下の特徴を有する
。
【0020】
本発明の文構造学習用ノートは、
課題文の表示と、
前記課題文中の語句を記入する語句記入枠と、
2の語句記入枠を結ぶコネクタとを有する文構造学習用ノートであって、
前記文構造学習用ノートの表面において、上から下へ向かう方向、左から右へ向かう方
向、又は右から左へ向かう方向を進行方向とするとき、前記語句記入枠は2の語句の関係
に基づき以下のルールにより配置される、
(1) 主部を記入する主部の語句記入枠と、その主部の述部語句を記入する述部の語句
記入枠とは、この順に前記進行方向に並べて配置する
(2) 前記述部の語句記入枠と、その述部の客部語句を記入する客部の語句記入枠とは
、前記客部の語句記入枠を前記述部の語句記入枠に対して進行方向とは逆に変位させ、進
行方向と交差する方向のうちいずれか一方の一方向に変位させて配置する
(3) 連体修飾部または連用修飾部の語句を記入する一の部の語句記入枠と、修飾され
る語句を記入する他の部の語句記入枠とであって、前記(1)(2)のいずれにも該当し
ないものは、他の部の語句記入枠を一の部の語句記入枠に対して進行方向に変位させ、進
行方向と交差する方向のうち前記一方向とは逆の他方向に変位させて配置する
ことを特徴とする。
【0021】
この特徴によれば、主部と述部とが進行方法に配置され、これらの部を修飾する部は側
方に配置される。文における意味の主たる流れである主部・述部の流れを視覚的に明示し
、その主たる流れに向けて修飾がなされる状況が側方から流れ込む形になり視覚的、直感
的な理解が容易となる。
ここで「進行方向」は、上から下へ向かう方向、左から右へ向かう方向、又は右から左
へ向かう方向のいずれでもよいが、課題文の言語を表記する場合における文頭から文末に
むけた方向であることが好ましい。日本語、中国語等を縦書きする場合には上から下へ向
かう方向、ヨーロッパ言語等の多くの横書きされる言語では左から右へ向かう方向、アラ
ビア語等の一部の言語では右から左へ向かう方向とする。
また、客部が進行方向と交差する方向のうちいずれか一方(例えば進行方向が上から下
へ向かう場合には左)に、他の修飾部が他方に配されるので、客部が理解しやすい。なお
、「いずれか一方」は、予め決定されているものである。各々の部毎に適宜に決定するも
のではない。
【0022】
本発明の文構造学習用ノートは、
前記主部の語句記入枠及び前記述部の語句記入枠のうち、文全体の主部及びその主部の
述部の語句記入枠は、他の部の語句記入枠と異なる枠線を有することを特徴とする。
【0023】
この特徴によれば、文全体の主部及び述部が峻別され、文における意味の流れがより容
易に理解できるようになる。
【0024】
本発明の文構造学習用ノートは、
前記他の語句記入枠と異なる枠線が、他の部の語句記入枠の枠線よりも太幅であること
を特徴とする。
【0025】
この特徴によれば、主部及び述部が強調され、理解がさらに容易になる。
【0026】
本発明の文構造学習用ノートは、
前記コネクタは実線、破線又は矢印として表されることを特徴とする。
【0027】
この特徴によれば、コネクタを使い分けて各部の文における意味を視覚的に示すことが
できる。
【0028】
本発明の文構造学習用ノートは、
前記主部の語句記入枠と前記客部の語句記入枠とが、前記主部の語句記入枠から前記客
部の語句記入枠に向けた実線の矢印として表される前記コネクタで結ばれ、
前記客部の語句記入枠と前記述部の語句記入枠とが、前記客部の語句記入枠から前記述
部の語句記入枠に向けた実線の矢印として表される前記コネクタで結ばれることを特徴と
する。
【0029】
この特徴によれば、主部→客部→述部の流れが視覚化される。主部と客部とは係り受け
の関係にないが、そこを客部と主部の間と同一のコネクタで結ぶことで、主部→客部→述
部の流れが明示される。
【0030】
本発明の文構造学習用ノートは、
前記主部の語句記入枠と前記述部の語句記入枠とが、点線の線分として表される前記コ
ネクタで結ばれることを特徴とする。
【0031】
この特徴によれば、(点線は視覚的にインパクトが小さく)主部→述部の流れ以外の修
飾被修飾関係に生徒の注意が惹かれ、学習が容易になる。なお、主部→客部→述部の流れ
を実線のコネクタで結んでいるので、主部→述部の流れを強調しなくとも生徒の学習は問
題なく行われる。
【0032】
本発明の文構造学習用ノートは、
前記主部と前記述部との組を2つ以上有する重文において、
第2文以降の文の前記主部の語句記入枠(後続主部記入枠)が、その文より前の文の前
記述部の語句記入枠からその後続主部記入枠に向かう矢印形状の前記コネクタ(因果関係
矢印)で結ばれ、
前記因果関係矢印は、前記その文より前の文とその文との因果関係に基づいて定まる形
状のものであることを特徴とする。
【0033】
この特徴によれば、重文における先行の文と後続の文との因果関係を視覚的に表すこと
ができる。
【0034】
本発明の文構造学習用ノートは、
1の主部に対応する述部を表す語句が2つ以上存在する重文において、前記主部の語句
記入枠を第1文と第2文以降の文のそれぞれに設け、
2つまたはそれ以上の文のそれぞれの前記主部の語句記入枠と前記述部の語句記入枠と
が進行方向に並べて配置され、
第2文以降の文の前記主部の語句記入枠に繰返しを示す表記を有することを特徴とする
。
【0035】
この特徴によれば、主部が省略された後続の文については、主述関係を視覚的に表すこ
とができる。
【0036】
本発明の文構造学習用ノートは、
1の主部に対応する述部が2以上存在する文において、前記2以上の述部を表す前記述
部の語句記入枠が前記主部の語句記入枠の前記進行方向に変位した左右または上下に隣接
して配置されることを特徴とする。
【0037】
この特徴によれば、1の主体に対して2以上の述部がある場合にも、主部と述部とがお
およそ左右または上下に配置される。主述関係の視覚的理解が容易となる。
【0038】
本発明の文構造学習用ノートは、
1又は連続する2以上の部を表示する連続部表示部を有し、
前記連続部表示部は、前記1又は連続する2以上の部が表示され、前記語句記入枠と異
なる形状の枠線で囲まれることを特徴とする
【0039】
この特徴によれば、予め表示され生徒に記入をさせない部の枠を設けることができる。
生徒の学習の進捗に対応して難易度を調整することが可能となる。
【0040】
本発明の文構造学習用ノートは、
前記課題文が日本語文であることを特徴とする。
【0041】
この特徴によれば、単語分かち書きがなくて文構造の理解が困難である日本語について
も文構造の学習を効率化することができる。本発明は全ての言語に適用できるが、日本語
において有効である。
【0042】
本発明の文構造学習用ノートは、
前記課題文が同意味の2言語の文を含むものであり、
前記2言語のうちの1について前記語句記入枠及び前記コネクタを1パターンで配置し
、
前記2言語のうちの他の1について前記語句記入枠及び前記コネクタを前記1パターン
と同一のパターンで配置したことを特徴とする。
【0043】
この特徴によれば、言語によらずに同一の構造を持つことを、語句記入枠及びコネクタ
の配置パターンから理解することができる。言語に依存しない意味的な構造を意識した学
習が容易になる。
【0044】
本発明の文構造学習用ノートは、
前記2言語のうち一方が日本語であることを特徴とする。
【0045】
この特徴によれば、日本語を学ぶ外国人、外国語を学ぶ日本人に適した文構造学習用ノ
ートが提供される。
【0046】
本発明の文構造学習用ノートは、
上述の文構造学習用ノートに、前記語句記入枠に記入される語句の全部又は一部を予め
記入したことを特徴とする。
【0047】
この特徴によれば、語句記入枠やコネクタの表示を持つ文構造学習用ノートが、文構造
学習用教材として提供される。