特許第6403358号(P6403358)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6403358安定な軟質磁性ナノ粒子およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403358
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】安定な軟質磁性ナノ粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/00 20060101AFI20181001BHJP
   B22F 9/12 20060101ALI20181001BHJP
   B22F 1/02 20060101ALI20181001BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   B22F1/00 W
   B22F9/12 Z
   B22F1/02 G
   B22F1/02 C
   H01F1/147
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-504117(P2017-504117)
(86)(22)【出願日】2015年8月6日
(65)【公表番号】特表2017-530253(P2017-530253A)
(43)【公表日】2017年10月12日
(86)【国際出願番号】JP2015003973
(87)【国際公開番号】WO2016021205
(87)【国際公開日】20160211
【審査請求日】2017年7月10日
(31)【優先権主張番号】62/034,498
(32)【優先日】2014年8月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512155478
【氏名又は名称】学校法人沖縄科学技術大学院大学学園
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム ヴァルニア
(72)【発明者】
【氏名】マリア ベネルメッキ エッレトビー
(72)【発明者】
【氏名】ジョンファン キム
(72)【発明者】
【氏名】ロザ エステラ ディアス リヴァス
(72)【発明者】
【氏名】ムックレス イブラヒム ソーワン
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−088453(JP,A)
【文献】 特開平09−012948(JP,A)
【文献】 特開2014−012794(JP,A)
【文献】 国際公開第2002/022918(WO,A1)
【文献】 LIU,Tong et al.,Preparation and characteristics of Fe3Al nanoparticles by hydrogen plasma-metal reaction,Solid State Communication,2003年 2月,vol.125,No.7,p.391-394
【文献】 GONZALEZ,G. et al.,SYNTHESIS AND CHARACTERIZATION OF NANOPHASE PARTICLES OBTAINED BY D.C. SPUTTERING,Scripta MATERIALIA,2001年,vol.44,No.8/9,p.1883-1887
【文献】 BENELMEKKI,Maria et al.,A facile single-step synthesis of ternary multicore magneto-plasmonic nanoparticles,Nanoscale,2014年,vol.6,No.7,p.3532-3535,ISSN:2040-3364,DOI:10.1039/C3NR06114K
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00−9/30
B22F 1/00−1/02
C23C 14/00−14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナからなる不活性シェルの中に収納されたコアとしてDO相の鉄アルミナイドナノ合金を有し、
前記不活性シェルはAlおよびFeAlを含む軟質磁性ナノ粒子。
【請求項2】
前記不活性シェルの上を覆うポリマーをさらに有する請求項1に記載の軟質磁性ナノ粒子。
【請求項3】
前記ポリマーはアラビアゴム(GA)である請求項2に記載の軟質磁性ナノ粒子。
【請求項4】
ナノ粒子は300Kにおいて170emu/g以上の飽和磁化、および300Kにおいて20Oe以下の保磁力を有する請求項1に記載の軟質磁性ナノ粒子。
【請求項5】
鉄アルミナイドからなる前記コアは結晶相であり、前記不活性シェルはアモルファス相である請求項1に記載の軟質磁性ナノ粒子。
【請求項6】
アルミナからなる不活性シェルの中に収納されたコアとしてDO相の鉄アルミナイド合金をそれぞれ有する複数の軟質磁性ナノ粒子の製造方法であって、
凝集ゾーンにFeターゲットおよびAlターゲットが配置され、前記凝集ゾーンよりも低圧のメインチャンバに基板が配置され、前記凝集ゾーンと前記メインチャンバとは開口部を通じて連通し、
Ar雰囲気中で前記Feターゲットおよび前記Alターゲットにマグネトロンパワーを印加し、Fe原子およびAl原子を同時スパッタリングすることにより、前記凝集ゾーンにおいてAlおよびFeの金属原子の過飽和蒸気を生成する工程と、
前記過飽和蒸気からより大きなナノ粒子を生成する工程と、
前記凝集ゾーンと前記メインチャンバとの圧力差により前記より大きなナノ粒子を、前記開口部から放出される前記ナノ粒子のナノクラスタービームを生成するように、前記開口部から通過させる工程と、
前記ナノクラスタービームを基板に向けて、前記基板の上に前記ナノ粒子を堆積させる工程と、を有し、
前記Alターゲットに印加するマグネトロンパワーは、前記Feターゲットに印加するマグネトロンパワーよりも高い製造方法。
【請求項7】
前記基板の上に堆積した前記ナノ粒子を酸素に暴露して前記ナノ粒子の表面を酸化させる工程を含む請求項6に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、安定な軟質磁性合金ナノ粒子の気相合成に関する。2014年8月7日付けの米国仮出願第62/034,498号の内容はそっくりそのまま本願に含まれる。
【背景技術】
【0002】
過去一世紀、軟質磁性合金は、パワー変換、導電デバイス、磁気センサのような広範囲の応用のために精力的に研究されてきた(非特許文献1および2を参照)。ナノテクノロジーの時代において、ナノスケールの寸法を有する軟質磁性材料が強く要求されている。こうした技術的要求に応えるには、ソフトな磁気的挙動を有する、二種の金属からなる均一なナノ合金が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】A. Makino, T. Hatanai, Y. Naitoh, T. Bitoh, A. Inoue and T. Masumoto, IEEE T. Mag., 1997, 33, 3793-3798.
【非特許文献2】T. Osaka, M. Takai, K. Hayashi, K. Ohashi, M. Saito and K. Yamada, Nature, 1998, 392, 796-798
【非特許文献3】O. Margeat, D. Ciuculescu, P. Lecante, M. Respaud, C. Amiens and B. Chaudret, small, 2007, 3, 451-458
【非特許文献4】M. Benelmekki, M. Bohra, J.-H. Kim, R. E. Diaz, J. Vernieres, P. Grammatikopoulos and M. Sowwan, Nanoscale, 2014, 6, 3532-3535
【非特許文献5】V. Singh, C. Cassidy, P. Grammatikopoulos, F. Djurabekova, K. Nordlund and M. Sowwan, J. Phys. Chem. C., 2014, ASAP
【非特許文献6】H. Graupner, L. Hammer, K. Heinz and D. M. Zehner, Surf. Sci., 1997, 380, 335-351
【非特許文献7】E. Quesnel, E. Pauliac-Vaujour and V. Muffato, J. Appl. Phys., 2010, 107, 054309
【非特許文献8】J. F. Moulder, W. F. Stickle, P. E. Sobol, K. D. Bomben, Handbook of X-ray photoelectron spectroscopy, ISBN 0-9627026-2-5 ED Jill Chastain. Pub. Perkin Elmer Corporation, 1992
【非特許文献9】T. Yamashita and P. Hayes, Appl. Surf. Sci., 2008, 254, 2441-2449
【非特許文献10】G. A. Castillo Rodriguez, G. G. Guillen, M. I. Mendivil Palma, T. K. Das Roy, A. M. Guzman Hernandez, B. Krishnan and S. Shaji, Int. J. Appl. Ceram. Technol., 2014, 11, 1-10
【非特許文献11】Y. B. Pithwalla, M. S. El-Shall, S. C. Deevi, V. Strom and K. V. Rao, J. Phys. Chem. B, 2001, 105, 2085-2090
【非特許文献12】K. Suresh, V. Selvarajan and I. Mohai, Vaccum, 2008, 82, 482-490
【非特許文献13】S. Chen, Y. Chen, Y. Tang, B. Luo, Z. Yi, J. Wei and W. Sun, J. Cent. South Univ., 2013, 20, 845-850
【非特許文献14】M. Kaur, J. S. McCloy, W. Jiang, Q. Yao and Y. Qiang, J. Phys. Chem. C, 2012, 116, 12875-12885
【非特許文献15】N. A. Frey, S. Peng, K. Cheng and S. Sun, Chem. Soc. Rev., 2009, 38, 2535-2542
【非特許文献16】A. Meffre, B. Mehdaoui, V. Kelsen, P. F. Fazzini, J. Carrey, S. Lachaize, M. Respaud and B. Chaudret, Nano Lett., 2012, 12, 4722-4728
【非特許文献17】G. Huang, J. Hu, H. Zhang, Z. Zhou, X. Chi and J. Gao, Nanoscale, 2014, 6, 726-730
【非特許文献18】P. Tartaj, M. del Puerto Morales, S. Veintemillas-Verdaguer, T. Gonzalez-Carreno and C. J Serna, J. Phys. D: Appl. Phys., 2003, 36, R182-R197
【非特許文献19】L. Zhang, F. Yu, A. J. Cole, B. Chertok, A. E. David, J. Wang and V. C. Yang, The APPS Journal, 2009, 11, 693-699
【非特許文献20】H. Zhang, G. Shan, H. Liu and J. Xing, Surf. Coat. Tech., 2007, 201, 6917-6921
【非特許文献21】J. Yang, W. Hu, J. Tang and X. Dai, Comp. Mater. Sci., 2013, 74, 160-164
【非特許文献22】X. Shu, W. Hu, H. Xiao, H. Deng and B. Zhang, J. Mater. Sci. Technol., 2001, 17, 601-604
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、二金属系はナノスケールにあると考えられる場合、粒子間の磁気相互作用による酸化作用、相間離隔、および凝集が予想され、このため磁気特性の変化が生じ、軟質磁性ナノ合金の実現可能性に疑問が生じている(非特許文献3)。
【0005】
そこで、本発明は安定な軟質磁性合金ナノ粒子の気相合成を目的とする。特に、1つの観点では、本開示は既存の技術の限界を超えた新たなアプローチを提供する。
【0006】
本発明の目的は、適度に安価で、十分にコントロールされた方法で、安定な軟質磁性合金ナノ粒子の気相合成を行うことである。本発明の他の目的は、従来技術の1つ以上の問題を解消する安定な軟質磁性合金ナノ粒子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
これらまたはほかの利点を達成するため、および本発明の目的にしたがい、実施形態および広く説明されるように、1つの観点では、本発明は、アルミナからなる不活性シェルの中に収納されたコアとしてDO相の鉄アルミナイド合金を有する軟質磁性ナノ粒子を提供する。
【0008】
他の観点では、本発明は、アルミナからなる不活性シェルの中に収納されたコアとしてDO相の鉄アルミナイド合金をそれぞれ有する複数の軟質磁性ナノ粒子の製造方法であって、Ar雰囲気中でFe原子およびAl原子を同時スパッタリングすることにより、凝集ゾーンにおいてAlおよびFeの金属原子の過飽和蒸気を生成する工程と、前記過飽和蒸気からより大きなナノ粒子を生成する工程と、開口部前後の圧力差により前記より大きなナノ粒子を、前記開口部から放出される前記ナノ粒子のナノクラスタービームを生成するように、前記開口部から通過させる工程と、前記ナノクラスタービームを基板に向けて、前記基板の上に前記ナノ粒子を堆積させる工程と、を有する製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、広い範囲の工業向けの応用可能性を有する、安定な軟質磁性合金ナノ粒子を提供することが可能となる。
【0010】
本発明のさらなる又は分けられた特徴と利点は、以下の記載において説明され、一部はその記載から明らかであり、あるいは、本発明の実施により習得することができる。本発明の目的と他の利点は添付図面だけでなくその明細書及び特許請求の範囲において特に指摘される構成によって実現され、達成されるだろう。
【0011】
上述の一般的な説明と、以下に述べる詳細な説明は具体例であって、例示を目的としており、特許請求されている本発明の範囲の詳しい説明を提供することが意図されていることを理解するべきである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明の実施形態に係る、製造されたナノ粒子のモルフォロジーおよび化学組成を示す。図1(a)は堆積直後のナノ粒子のSEM画像である。図1(b)は10.8nm±2.5nmの平均直径を示しているナノ粒子のサイズ分布を表す。図1(c)は独特のコア−シェル構造を明らかにするTEM顕微鏡画像である。図1(d)は代表的なナノ粒子のADF−STEM画像である。図1(e)はFeL2,3(707eV),AlL2,3(76eV)OK(532eV)におけるナノ粒子によるEELSラインプロファイルであり、コアが高濃度のFeおよびAlを含む一方、シェルが主にAlおよびOからなることを示している。
図2図2は本発明の実施形態に係るナノ粒子の観察された結晶構造を示す。図2(a)はアモルファスシェルに格納された2.03オングストロームの面間距離の単結晶コアを示すHRTEM顕微鏡画像である。図2(b)は対応するFFTであり、図2(c)はクリスタルメーカー(登録商標)ソフトウェアにより計算された[00−1]晶帯軸方向の電子回折パターンである。この構造はDO相に対応する。
図3図3は、空気にさらした後における、XPSにより測定された本発明の実施形態に係るナノ粒子の組成および酸化の状態を示しており、Al 2p領域(a)、Fe 2p領域(b)、Fe 3p領域(c)およびO 1s領域(d)に対する光電子分光スペクトルおよびフィッティングする曲線を示す。
図4図4は磁場の関数として、測定され規格化された磁化である。外側の線は5Kにおける磁化を示し、内線は300Kにおける磁化を示す。
図5図5は、本発明の実施形態に係る、水中においてGAで覆われた鉄アルミナイドナノ粒子の、動的光散乱法(DLS)を用いて測定されたサイズの分布(a)、およびゼータ電位測定を用いて測定されたサイズの分布(b)を示す。
図6図6は本発明の実施形態の軟質磁性合金ナノ粒子を製造するために用いられる、改良された不活性ガス凝集マグネトロン同時スパッタリング装置の模式図である。
図7図7は本発明の実施形態に係る代表的なナノ粒子の異なる領域から得られたEELSスペクトルである。図7(a)は測定された領域1−3(右側の図に示される)における内殻電子励起スペクトルを示し、図7(b)は領域1−3における価電子励起スペクトルを示す。
図8図8は、DO構造(b)の計算されたX線粉末回折パターン(a)、および対応する[00−1]晶帯軸における電子線回折パターン(c)を示す。
図9図9はアラビアゴム(GA)で覆われた磁性ナノ粒子に採用される回収手順を模式的に示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本開示は、既存の技術の限界を超えた新たなアプローチを提供する。1つの観点では、本開示は安定な軟質磁性合金ナノ粒子の気相合成への一般的なアプローチを提供する。アルミナシェルに収納されたDO相の鉄アルミナイドナノ合金は、同時スパッタ不活性ガス凝集技術を使って製造された。不活性シェルの役割は、粒子間の磁気相互作用および結晶性コアのさらなる酸化を抑制することである。ナノ粒子は、室温において、高い飽和磁化(170emu/g)および低い保磁力(>20Oe)を示す。水性の環境において良好なコロイド分散を確保するために、アラビアゴム(GA)のようなポリマーによってこれらのナノ粒子の表面を変化させることができる。
【0014】
高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)、走査型電子顕微鏡(SEM)、走査透過型電子顕微鏡(STEM)、および電子エネルギー損失分光法(EELS)は、得られた軟質磁性合金ナノ粒子のナノ粒子モルフォロジー、構造、および組成を検証するために用いられた。
【0015】
X線光電子分光(XPS)は、FeおよびAlの酸化状態を判断するために用いられた。振動試料型磁力計(VSM)を用いた異なる温度における磁化測定は、ナノ粒子の磁気的挙動を評価するために行われた。
【0016】
本発明の実施形態では、高真空チャンバ内のシリコン基板上において隣接する2つの独立したターゲットからFeおよびAlのガス凝集同時スパッタリング(非特許文献4および5)を行うことにより、ナノ粒子は製造された。製造の準備および条件の詳細は、この開示において以下に述べられるであろう。この方法の主な利点は、(1)低いレートの酸化(以下の図6を参照して説明される、メインチャンバ内の高真空および室温条件下)により純粋なアルミナシェルの凝集が生じること(非特許文献6)、(2)各元素の体積分率を制御することでナノ粒子の所望の化学組成を得ることが可能なこと、である。本発明で製造される構成では、同時スパッタリングの際にそれぞれのターゲット(FeおよびAl)に印加するマグネトロンパワーを独立に調整することで、このことは達成される。
【0017】
図1は製造されたナノ粒子のモルフォロジーおよび化学組成を示す。図1(a)は堆積直後のナノ粒子のSEM画像である。図1(b)は10.8nm±2.5nmの平均直径を示しているナノ粒子のサイズ分布を表す。図1(c)は1つのナノ粒子のTEM顕微鏡画像である。図1(d)は代表的なナノ粒子のADF−STEM画像である。図1(e)は(d)における線に沿ったEELSラインプロファイルである。図1(a)および図1(b)に示すように、ナノ粒子は単分散であり、10.8nm±2.5nmの平均直径を有する凝集の兆候は示していない。TEMおよびSTEM画像(それぞれ図1(c)および図1(d))は独特のコア−シェル構造の均一な球形を有するナノ粒子を示す。図1(d)に示した線に沿ったEELSラインプロファイル(図1(e))は、コア中のFe(707eVのFeL2,3)およびAl(76eVのAlL2,3)の高い濃度である一方で、シェルは主にAlおよびO(532eVのO−K)で構成されていることを明らかにする。
【0018】
高分解能TEM(HRTEM)画像(図2(a))はコアが結晶性でありシェルがアモルファスであることを示す。格子縞から見積もられる面間距離は2.03オングストロームであり、これらはFeリッチA2、B2またはDO相に帰することができる。しかし、この場合、不活性ガス凝縮技術に関する比較的低温の気相であるため、高温の配向したB2相は予想されない(非特許文献7)。図2(b)に示すコアのHRTME格子の高速フーリエ変換(FFT)は、クリスタルメーカーソフトウェアにより計算された[00−1]晶帯軸方向における電子線回折パターン(図2(c))とともに、DO相の存在を裏付ける。
【0019】
XPSコアレベルスペクトルAl2p、Fe2p、Fe3pおよびO1sのそれぞれは、図3(a)−(d)において測定され、またプロットされる。スペクトルはFeおよびAlが金属(73.5eVおよび706.8eV)および酸化物(74.4eVおよび710.4eV)の両方の状態にあることを示す。金属のAl2p(73.5eV)およびFe2p(706.8eV)のピーク領域の比は約27%であり、鉄アルミナイドの二元状態図のDO相(Fe73Al27)に対応する。
【0020】
さらに、金属Alに対応するピーク(図3(a))は、高い結合エネルギー(72eVではなく73.4eV)の側にシフトしていることが見られ、Al原子のFe原子への結合を示す。これは、FeAl相の報告された値(非特許文献6および8)と正確に一致する。結合エネルギー75.3eVにおけるピーク(図3(a))は表面上のAlの形成を示すものである。同様の結果は、Alについての報告された値(非特許文献8)に対応する、532.97eVにおけるO1sピーク(図3(d))からも得ることができる。Fe3pピークの原子比率1:2のFe2+およびFe3+ピークへのデコンヴォルーションは、74.4eVにおけるAl2pピークおよび531.57eVにおけるO1sピークとともに、不活性シェル内のスピネル酸化物FeAlの存在を示す(非特許文献9および10)。
【0021】
図4は、印加された磁場の関数として、測定され規格化された磁化M(H)である。外側の線は5Kにおける磁化を示し、内線は300Kにおける磁化を示す。ナノ粒子は、さらなる酸化に対して優れた安定性を示す(挿入図に示すように、空気への暴露後の時間の関数として規格化された磁化M/Msを測定することで評価される)。一か月後において磁化の値は当初のMsの約90%である。典型的な強磁性的挙動は低温(5K)で観測された。温度が5Kから300Kに上昇すると保磁場(Hc)は280Oeから20Oe以下に低下し、このことはソフトな磁気的挙動を示す。飽和磁化(Ms)は5Kにおいて204emu/g、300Kにおいて170emu/gであることがわかる。これらの値は、これまで報告されている鉄アルミナイド合金におけるMsの値(非特許文献11−13)に比べて高く、同程度のサイズの鉄酸化物ナノ粒子の値(典型的には70−110emu g−1の範囲)よりも高い(非特許文献14および15)。興味深いことに、図4の挿入図に示すように、我々の鉄アルミナイドナノ粒子は、報告されている他の鉄ベースのナノ粒子と比較して、酸化に対して文字通り優れた安定性を示す(非特許文献16−17)。図4における、(相互作用しない粒子の)残留の比Mr/Msの0.5以下の低い値は、スピン緩和プロセス(非特許文献18)における粒子間および粒子内の相互作用の競合の影響、および弱い粒子間相互作用を生じさせるアルミナシェルへの収納の結果として、簡単に説明され得る。これらのすべての値を以下の表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
表1は、製造されたナノ粒子の5Kおよび300Kにおける、測定されたヒステリシスループパラメータを示す。飽和磁化(Ms)および残留磁化(Mr)は、SEM分布およびXPS平均組成を用いて計算される(計算される誤差は約±10%)。測定データに示すように、本発明の実施形態のFeAlナノ粒子は優れた磁化特性を示す。
【0024】
水中においてナノ粒子を安定化するため、生体臨床医学での潜在的な応用に向いたアラビアゴム(GA)(非特許文献19)などのバイオポリマーで、こうした磁性ナノ粒子の表面を覆ってもよい。コーティングプロセスの詳細は図9を参照して以下に説明される。
【0025】
本発明の実施形態に係る、GAに覆われた鉄アルミナイドナノ粒子の水中におけるサイズ分布およびコロイド安定性は、動的光散乱法(DLS)およびゼータ電位測定を用いて評価された。結果を図5(a)および図5(b)に示す。得られたサイズ分布は図1(b)に一致し、21mVというゼータ電位の値は安定したコロイド分散体を表す(非特許文献20)。
【0026】
上記のように、本発明の1つの観点では、軟質磁性合金ナノ粒子の合成のための新たなアプローチがここで開示されている。このアプローチは一般的で、広い範囲の材料に適用することができる。アルミナシェルに収納された鉄アルミナイドナノ結晶は実証されている。これらのナノ粒子の高い飽和磁化と低い保磁力は、製造されたナノ粒子を、磁気記憶装置の書き込みヘッドおよびがん治療における局所的な温熱療法など将来のナノテクノロジーおよび生体臨床医学を目的とした、軟質磁性材料の有力な候補とする。
【0027】
(FeAlナノ粒子の製造への準備および条件)
上記のように、FeAlナノ粒子は、図6に示した改良された不活性ガス凝集マグネトロンスパッタリング装置を用いて得られた。図6は改良された不活性ガス凝集マグネトロン同時スパッタリング装置の模式図である。図6は2つのFeターゲットおよび1つのAlターゲットを示す。図は、FeおよびAlクラスターの核生成が行われ、その後により大型のナノ粒子を生成する結合が続く凝集ゾーン、核生成直後の合金ナノ粒子が通過してナノクラスタービームを生成する開口部、および基板上にナノ粒子を堆積するようにナノ粒子のナノクラスタービームが向かうメインチャンバの、3つの部分に分けられる。金属原子の過飽和蒸気はアルゴン(Ar)雰囲気中の同時スパッタリングにより生成される。凝集チャンバは水冷式であり、スパッタリングに先立ち約10−6mbarまで排気される。高純度のFe(99.9%)およびAl(99.9995%)ターゲットがDC同時スパッタリングプロセスに使用された。一定圧力プロセスは、凝集ゾーン内で3×10−1mbar、メインチャンバ内で8.4×10−4mbarに保たれ、Arのフローレートは80sccmとされた。この差圧は、凝集ゾーンにおける存在時間を定め、このためナノ粒子の結晶性、サイズおよび形状に影響するキーファクターである。1インチのFeおよびAlターゲットに印加されるDCパワーはそれぞれ11Wおよび16Wに固定された。原子質量の違い(Al:1.426オングストロームおよびFe:1.124オングストローム)(非特許文献21)およびスパッタ収率の違い(Al:0.42およびFe:0.47)に起因して、AlへのパワーはFeへのパワーより高い。DO相およびA2相が低温(<摂氏500℃)で成長し安定する、Fe−Alの二元状態図のFeリッチな部分において作用するように、パワーの比は固定された。特性評価のため、シリコン基板および窒化シリコンのTEMウィンドウグリッドにナノ粒子を堆積させた。凝集ゾーンの長さは90mmに設定され、堆積の間は基板を回転させる。こうした金属間化合物のナノ粒子のサイズ、モルフォロジー、および結晶構造は、走査型電子顕微鏡(SEM)FEI Quanta FEG 250、および300kVで作動させた画像相関走査型/透過型電子顕微鏡(S/TEM)FEI Titan 80−300kVを使用して評価された。電子エネルギー損失分光法(EELS)は、Gatan GIF 量子画像フィルタを使用して個々のNPsの組成を検証するために行われた。これらの試料の化学的組成および酸化膜は、300Wにおいて作動させた単一AlK−アルファソースを備えるX線光電子分光(XPS)Kratos Axis UltraDLD 39−306を用いて評価された。磁場および温度の関数としての磁化測定は、カンタムデザインの寒剤フリーの物理特性測定システム(PPMS)ダイナクールの振動試料型磁力計モード(VSM)を用いて行われた。
【0028】
(EELS測定)
図7は本発明の実施形態に係る代表的なナノ粒子の異なる領域から得られたEELSスペクトルである。ナノ粒子は、より光りにくいシェルに囲まれた明るいコアで形成されている。各元素の同定は、原子番号と関連づいたADFイメージのコントラストの違いに基づく。FeリッチのFe−Alコアの存在は明るいコントラストにより実証される。こうしたナノ粒子から空間分解された化学的な情報は、図7の左側の画像に示すように、STEMの形状における代表的なNPを横切る一連の点から、電子エネルギー損失スペクトルを得ることにより取得される。図7(a)は測定された領域1−3における内殻電子励起スペクトルを示し、図7(b)は領域1−3における価電子励起スペクトルを示す。領域1−3のSTEM−EELSスペクトルは、NP内のFe、AlおよびOの存在を表す。(a)および(b)に見ることができるように、領域1は明るいコアの位置に対応してFe−L2,3の大きなエッジを示し、コアの両側のスペクトル(領域2および領域3)はAl−L2,3およびO−Kのエッジが支配的である。
【0029】
(結晶構造)
図8は、クリスタルメーカー(登録商標)のソフトウェアを使って得られた、DO構造(b)のシミュレーションされたX線粉末回折パターン(a)、および
対応する[00−1]晶帯軸における電子線回折パターン(c)を示す。DOは、相互に侵入した4つのfcc副格子に存在し、誘導されたbcc構造である。FFT解析の反射(図2(b))は、図8のシミュレーションされた回折パターンの反射と比較することができる。FFTにおいて計算された格子間隔および角度(図2)のすべてが、クリスタルメーカー(登録商標)から得られた値(表2)と完全に一致している。表2はFFT解析から計算された値と、クリスタルメーカー(登録商標)により計算された対応する面間隔および角度の値とを示している。さらに、実験的な面間隔から計算された格子のパラメータ(5.769)は、既知の格子のパラメータ(5.792)(非特許文献22)とよく一致している。格子のパラメータのわずかな違いは、微小なサイズのナノ粒子の圧縮歪みにより説明することができると指摘しておくことは重要である。
【0030】
【表2】
【0031】
(回収手順)
図9はアラビアゴム(GA)で覆われた磁性ナノ粒子に採用される回収手順を模式的に示す。
(ステップ1)
アラビアゴム(GA)膜を形成するため、ガラススライド基板(76mm×26mm)を紫外線照射の下において10分間ドライエタノールで十分にすすぎ、Nガス下で乾燥させる。10mgのGA(シグマアルドリッチ、セントルイス、米国)が250μLの脱イオン(DI)水溶液に分散され、洗浄されたガラス基板上に静かに配置される。30秒間、3000rpmでスピンコータ(MS−A−150、ミカサ、日本)を駆動することで、GA薄膜が形成された。
(ステップ2)
DI水中にNPs/GA/ガラス試料を浸し、15分間の超音波照射を行うことでNPsが剥離され、60分間、100000rpmの遠心分離機を用いて過剰なGAポリマーを分離させる分離ステップが続く。
(ステップ3)
DI水中において50%のメタノールで沈殿したNPを洗浄した後、0.1μmフィルタを使ったMilli−Qシステム(日本ミリポア株式会社、東京、日本)から得られるDI水にNPを再分散させる。
【0032】
本開示は安定な軟質磁性合金ナノ粒子の設計および製造について説明する。これらの特性評価のために多くの検査方法を使用した。本発明の実施形態は生体臨床医学や他の技術的な幅広い応用を有する。
【0033】
本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく本発明に対して様々な修正及び変形を行えることは当業者には自明であろう。すなわち、本発明は添付の特許請求の範囲とその均等物の範囲内で生じるさまざまな修正及び変形を包含することが意図されている。特に、上述したいずれか2以上の実施形態及びその修正のいずれかの一部又は全体が結合されて本発明の範囲内でみなされることは明示的に熟慮される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9