特許第6403359号(P6403359)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6403359ペロブスカイトベースのデバイス用ドーピング操作正孔輸送層
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403359
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】ペロブスカイトベースのデバイス用ドーピング操作正孔輸送層
(51)【国際特許分類】
   H01L 51/44 20060101AFI20181001BHJP
   H01L 51/46 20060101ALI20181001BHJP
   H01L 51/48 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   H01L31/04 112Z
   H01L31/04 168
   H01L31/04 184
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-523004(P2017-523004)
(86)(22)【出願日】2015年11月5日
(65)【公表番号】特表2017-534179(P2017-534179A)
(43)【公表日】2017年11月16日
(86)【国際出願番号】JP2015005541
(87)【国際公開番号】WO2016072092
(87)【国際公開日】20160512
【審査請求日】2017年7月20日
(31)【優先権主張番号】62/075,807
(32)【優先日】2014年11月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512155478
【氏名又は名称】学校法人沖縄科学技術大学院大学学園
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】ヤビン チー
(72)【発明者】
【氏名】ミンチョル チョン
(72)【発明者】
【氏名】ソニア ルイス ラガ
【審査官】 嵯峨根 多美
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/045021(WO,A1)
【文献】 特開2014−140000(JP,A)
【文献】 Hairong Li et al.,"A Simple 3,4-Ethylenedioxythiophene Based Hole-Transporting Material for Perovskite Solar Cells",Angewandte Chemie International Edition,2014年 4月14日,Vol.53,pp.4085-4088
【文献】 Philip Schulz et al.,"Interface energetics in organo-metal halide perovskite-based photovoltaics cells",Energy & Environmental Science,2014年 4月 1日,Vol.7,pp.1377-1381
【文献】 Lauren E. Polander et al.,"Hole-transport material variation in fully vacuum deposited perovskite solar cells",APL Materials,2014年 8月,Vol.2,pp.081503-1 - 081503-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L31/02−31/078
H01L31/18−31/20
H01L51/42−51/48
H02S10/00−10/40
H02S30/00−99/00
Google Scholar
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機金属ハライドペロブスカイトからなる活性層と、
真空蒸着により形成され、正孔キャリアを輸送する正孔輸送層(HTL)と、を備え、
前記HTLは、
nドーパントをドープした正孔輸送材料(HTM)からなり、前記活性層に隣接する第1副層と、
アンドープのHTMからなり、前記第1副層に隣接する第2副層と、
pドーパントをドープしたHTMからなり、前記第2副層に隣接する第3副層と、を備え
前記活性層は価電子帯最大エネルギー準位を有し、
前記第1副層は、前記価電子帯最大エネルギー準位と一致する第1最高被占分子軌道(HOMO)エネルギー準位を有し、
前記第2副層は前記第1HOMOエネルギー準位よりも高い第2HOMOエネルギー準位を有し、
前記第3副層は、前記第2HOMOエネルギー準位よりも高い第3HOMOエネルギー準位を有する、
オプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項2】
前記第1副層の前記nドーパントのドーピング濃度は、前記第1HOMOエネルギー準位を前記価電子帯最大エネルギー準位に一致させるように決定される、
請求項記載のオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項3】
前記オプトエレクトロニクスデバイスは太陽電池であり、
前記活性層は、光子を前記太陽電池の電荷キャリアに変換する
請求項1記載のオプトエレクトロニクスデバイス。
【請求項4】
有機金属ハライドペロブスカイトからなる活性層を形成する工程と、
真空蒸着によって、正孔キャリアの輸送に使用する正孔輸送層(HTL)を形成する工程と、
を含み、
前記HTLを形成する工程は、
前記活性層に隣接し、nドーパントをドープした正孔輸送材料(HTM)からなる第1副層を、前記HTM及び前記nドーパントを共蒸着することにより形成する工程と、
前記第1副層に隣接し、アンドープのHTMからなる第2副層を、前記HTMを蒸着させることにより形成する工程と、
前記第2副層に隣接し、pドーパントをドープしたHTMからなる第3副層を、前記HTM及び前記pドーパントを共蒸着することにより形成する工程と、を含み、
前記第1副層を形成する工程は、前記活性層の価電子帯最大エネルギー準位と一致する第1最高被占分子軌道(HOMO)エネルギー準位を有する前記第1副層を形成する工程を含み、
前記第2副層を形成する工程は、前記第1HOMOエネルギー準位よりも高い第2HOMOエネルギー準位を有する前記第2副層を形成する工程を含み、
前記第3副層を形成する工程は、前記第2HOMOエネルギー準位よりも高い第3HOMOエネルギー準位を有する前記第3副層を形成する工程を含む、
オプトエレクトロニクスデバイスの製造方法。
【請求項5】
前記第1HOMOエネルギー準位を前記価電子帯最大エネルギー準位に一致させる前記第1副層の前記nドーパントのドーピング濃度を決定する工程、
を含む請求項記載の方法。
【請求項6】
前記nドーパントのドーピング濃度を決定する工程は、前記共蒸着の間の前記nドーパントの蒸気圧を変化させて、前記ドーピング濃度に対応する蒸気圧値を見つける工程、又は、前記共蒸着の間の前記HTMの堆積速度と前記nドーパントの堆積速度との比を変化させて、前記ドーピング濃度に対応する比の値を見つける工程を含む、
請求項記載の方法。
【請求項7】
前記nドーパントは揮発性材料であり、前記pドーパントは不揮発性材料であり、
前記第1副層を形成する工程は、前記nドーパントの蒸気及び前記HTMの蒸気をそれぞれ発生させる、チャンバの側面部に接続された第1蒸発ユニット及び前記チャンバの底部に接続された第2蒸発ユニットを備える第1真空蒸着システムを使用する工程を含み、
前記第3副層を形成する工程は、前記pドーパントの蒸気及び前記HTMの蒸気をそれぞれ発生させる、チャンバの底部に接続された2つの蒸発ユニットを備える第2真空蒸着システムを使用する工程を含み、
前記方法は、
前記第1真空蒸着システムを用いて前記第2副層を形成する工程の後、前記活性層、前記第1副層、及び前記第2副層を備えるサンプルを前記第1真空蒸着システムから前記第2真空蒸着システムへ移動する工程、又は、前記第1真空蒸着システムを用いて前記第1副層を形成する工程の後、前記活性層及び前記第1副層を備えるサンプルを前記第1真空蒸着システムから前記第2真空蒸着システムへ移動する工程を含み、
前記第2副層を形成する工程は、前記第2真空蒸着システムを使用する工程を含む、
請求項記載の方法。
【請求項8】
前記nドーパントは揮発性材料であり、前記pドーパントは不揮発性材料であり、
前記第1、第2、及び第3副層を形成する工程は、前記nドーパントの蒸気を発生させる、チャンバの側面部に接続された第1蒸発ユニットと、前記pドーパントの蒸気を発生させる、前記チャンバの底部に接続された第2蒸発ユニットと、前記HTMの蒸気を発生させる、前記チャンバの底部に接続された第3蒸発ユニットと、を備える真空蒸着システムを用いる工程を含む、
請求項記載の方法。
【請求項9】
前記nドーパントは不揮発性材料であり、前記pドーパントは不揮発性材料であり、
前記第1、第2、及び第3副層を形成する工程は、前記nドーパントの蒸気、前記pドーパントの蒸気、及び前記HTMの蒸気をそれぞれ発生させる、チャンバの底部に接続された3つの蒸発ユニットと、前記nドーパントの堆積速度、前記pドーパントの堆積速度、及び前記HTMの堆積速度をそれぞれ測定する3つのモニタと、を備える真空蒸着システムを用いる工程を含む、
請求項記載の方法。
【請求項10】
前記nドーパントは揮発性材料であり、前記pドーパントは揮発性材料であり、
前記第1、第2、及び第3副層を形成する工程は、前記nドーパントの蒸気を発生させる、チャンバの側面部に接続された第1蒸発ユニットと、前記pドーパントの蒸気を発生させる、前記チャンバの側面部に接続された第2蒸発ユニットと、前記HTMの蒸気を発生させる、前記チャンバの底部に接続された第3蒸発ユニットと、を備える真空蒸着システムを使用する工程を含む、
請求項記載の方法。
【請求項11】
前記nドーパントは不揮発性材料であり、前記pドーパントは揮発性材料であり、
前記第1、第2、及び第3副層を形成する工程は、前記pドーパントの蒸気を発生させる、チャンバの側面部に接続された第1蒸発ユニットと、前記nドーパントの蒸気を発生させる、前記チャンバの底部に接続された第2蒸発ユニットと、前記HTMの蒸気を発生させる、前記チャンバの底部に接続された第3蒸発ユニットと、を備える真空蒸着システムを使用する工程を含む、
請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オプトエレクトロニクス用途のペロブスカイトベースのデバイス用ドーピング操作正孔輸送層に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池(光電池とも呼ばれる)は、光起電力効果を示す半導体を用いて太陽エネルギーを電気に変換する電気デバイスである。太陽光発電は、地球規模の導入量という点では、今や、水力及び風力に次ぐ、第3の最も重要な再生可能エネルギー源となっている。これらの太陽電池の構造は、pn接合のコンセプトをベースとしており、太陽放射からの光子を電子正孔対に変換する。商用の太陽電池に使用されている半導体の例としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、テルル化カドミウム、及び二セレン化銅インジウムガリウムがあげられる。市販の電池における太陽電池エネルギー変換効率は、現在、約14〜22%と報告されている。
【0003】
高い変換効率、長期間にわたる安定性、及び低コストでの製造が太陽電池の商業化には欠かせない。そのため、太陽電池における従来の半導体を置換する目的で、多種多様な材料が研究されている。例えば、有機半導体を用いる太陽電池技術は比較的新しく、これらの電池は、溶液を加工して製造することができるため、安価な大量生産につながる可能性がある。有機材料に加えて、有機金属ハライドペロブスカイトCHNHPbX及びCHNHSnX(例えば、X=Cl、Br、I、又はその組み合わせ)は、最近、次世代の高効率、低コストの太陽光技術における有望な材料として頭角を現している。これらの合成ペロブスカイトは、そのエネルギーをセル内で熱として失うかわりに、光生成の電子及び正孔が電流として抽出されるのに十分遠くまで移動できる高い電荷担体移動度及び寿命を示すことが報告されている。これらの合成ペロブスカイトは、溶解処理及び真空蒸着技術等、有機太陽電池に使用される技術と同一の薄膜製造技術を用いて製造できる。
【0004】
最近の報告書では、この種の材料、すなわち、有機金属ハライドペロブスカイトが、他のオプトエレクトロニクスデバイスにおいても高性能半導体媒質になる可能性を有することが示されている。特に、ペロブスカイトの中には、強いフォトルミネセンス特性を示すものがあることが知られており、発光ダイオード(LED)用の魅力的な候補となっている。さらに、ペロブスカイトは、コヒーレント光放出特性、つまり、光増幅特性も示し、電動レーザー用に適していることが報告されている。これらのデバイスでは、電子及び正孔キャリアがフォトルミネセンス媒質に注入されるのに対して、太陽電池デバイスでは、キャリア抽出が必要である。
【0005】
しかしながら、今のところ、既存の製造技術を使用して安定したペロブスカイトベースのデバイスを得るのは困難である。さらに、これら既存の技術は、ドーピング操作層、多接合又は多層セル構造、ヘテロ構造構成、または他の高度なオプトエレクトロニクス構造を有するペロブスカイトベースのデバイスを製造するのに十分なほどには安定していない。高性能デバイスの低コスト製造技術に対して高まる要求の観点から、太陽電池並びにLEDおよびレーザー等の他のオプトエレクトロニクス用途に適した安定した高効率のペロブスカイトベースのデバイスを製造するための新たな製造技術が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】Forrest et al.、米国特許第7,683,536号
【特許文献2】Adamovich et al.、米国特許第8,778,511号
【特許文献3】Qi et al., 国際出願番号PCT/JP2015/002041
【特許文献4】Qi et al, 国際出願番号PCT/JP2015/003450
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Guichuan Xing et al., Low-temperature solution-processed wavelength-tunable perovskites for lasing. Nature Materials Vol. 13, 476-480 (March, 2014)
【非特許文献2】Zhi-Kuan Tan et al., Bright light-emitting diodes based on organometal halide perovskite. Nature Nanotechnology Vol. 9, 687 - 692 (September, 2014)
【非特許文献3】Giles E. Eperon et al., Formamidinium lead trihalide: a broadly tunable perovskite for efficient planar heterojunction solar cells. Energy Environ. Sci. 7, 982 - 988 (2014)
【非特許文献4】Mingzhen Liu et al., Efficient planar heterojunction perovskite solar cells by vapour deposition. Nature Vol. 501, 395-398 (2013)
【非特許文献5】Julian Burschka et al., Sequential deposition as a route to high-performance perovskite-sensitized solar cells. Nature Vol. 499, 316 - 320 (July, 2013)
【非特許文献6】Zafer Hawash et al., Air-exposure induced dopant redistribution and energy level shifts in spin-coated spiro-MeOTAD films. Chem. Mater. 27, 562-569 (2015)
【非特許文献7】Luis K. Ono et al., Air-exposure-induced gas-molecule incorporation into spiro-MeOTAD films. J. Phys. Chem. Lett. 5, 1374-1379 (2014)
【非特許文献8】Calvin K. Chan et al., Incorporation of cobaltocene as an n-dopant in organic molecular films. J. Appl. Phys. 102, 014906 (2007)
【非特許文献9】Calvin K. Chan et al., Molecular n-type doping of 1,4,5,8-naphthalene tetracarboxylic dianhydride by pyronin B studied using direct and inverse photoelectron spectroscopies. Adv. Funct. Mater. 16, 831-837 (2006)
【非特許文献10】Jens Meyer et al., Transition metal oxides for organic electronics: Energetics, Device Physics and Applications. Adv. Mater. 24, 5408-5427 (2012)
【非特許文献11】Yabing Qi et al., Solution doping of organic semiconductors using air-stable n-dopants. Appl. Phys. Lett. 100, 083305 (2012)
【非特許文献12】Yabing Qi et al., Use of a high electron-affinity molybdenum dithiolene complex to p-dope hole-transport layers. J. Am. Chem. Soc. 131, 12530-12531 (2009)
【非特許文献13】Calvin K. Chan et al., Decamethylcobaltocene as an efficient n-dopant in organic electronic materials and devices. Organic Electronics 9, 575-581 (2008)
【非特許文献14】Weiyng Gao et al., Controlled p doping of the hole-transport molecular material N,N′-diphenyl-N,N′-bis.1-naphthyl.-1,1′-biphenyl-4,4′-diamine with tetrafluorotetracyanoquinodimethane. J. Appl. Phys. 94, 359 - 366 (2003)
【非特許文献15】Yixin Zhao et al., Effective hole extraction using MoOx-Al contact in perovskite CH3NH3PbI3 solar cells. Appl. Phys. Lett. 104, 213906 (2014)
【発明の概要】
【0008】
有機金属ハライドペロブスカイトからなる活性層と、真空蒸着により形成され、正孔キャリアを輸送する正孔輸送層(HTL)と、を備えるオプトエレクトロニクスデバイスが提供される。HTLは、nドーパントをドープした正孔輸送材料(HTM)からなり、活性層に隣接する第1副層と、アンドープのHTMからなり、第1副層に隣接する第2副層と、pドーパントをドープしたHTMからなり、第2副層に隣接する第3副層と、を含む。nドープ副層のnドーパントのドーピング濃度は、nドープ副層の最高被占分子軌道エネルギー準位をペロブスカイト活性層の価電子帯最大エネルギー準位に一致させるように決定される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1Aおよび図1Bは、それぞれ、tBP及びLi塩を用いた溶液ベースのスピンコートspiro−OMeTADおよび真空蒸着により作製したpドープspiro−OMeTADのタッピングモード原子間力顕微鏡(AFM)画像の写真を示している。
図2図2は、ペロブスカイト並びにnドープHTL、真性HTL、及び、pドープHTLの3つの副層からなるHTLを備える活性層を有するペロブスカイトベースのデバイスのエネルギー図である。
図3図3は、4つの異なるHTLを用いて作製したペロブスカイト太陽電池の電流密度jと電圧Vとの関係をそれぞれ示す図である。
図4図4は、n−i−p構造性HTLを備えるペロブスカイトベースのデバイスの製造工程を示すフローチャートである。
図5図5は、2以上のソース原料を共蒸着するための真空蒸着システム(正確な縮尺ではない)の一例を概略的に示す図である。
図6図6は、2以上のソース原料を共蒸着するための真空蒸着システム(正確な縮尺ではない)の別例を概略的に示す図である。
図7図7は、揮発性nドーパント及び不揮発性pドーパントを使用する場合の、ペロブスカイト活性層上にn−i−p構造性HTLを作製する工程例を示すフローチャートである。
図8図8は、揮発性nドーパント及び不揮発性pドーパントを使用する場合の、1つのシステムを用いてペロブスカイト活性層上にn−i−p構造性HTLを作製する工程例を示すフローチャートである。
図9図9は、不揮発性nドーパント及び不揮発性pドーパントを使用する場合の、1つのシステムを用いてペロブスカイト活性層上にn−i−p構造性HTLを作製する工程例を示すフローチャートである。
図10図10は、様々なDMC蒸気圧を用いたUPSスペクトラムを示す図である。
図11図11は、ペロブスカイト(MAPbI3−XCl)層、ペロブスカイト層の上面に設けられたn型(DMC)ドープspiro−OMeTAD、n型ドープspiro−OMeTADの上面に設けられた真性spiro−OMeTAD、及び真性spiro−OMeTADの上面に設けられたp型ドープ(F4−TCNQ)spiro−OMeTADのUPSスペクトラムを示す図である。
図12図12A図12Dは、Voc、jsc、FF、及びPCEと日単位での時間発展との関係をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
有機金属ハライドペロブスカイト膜を作製するためのソース原料としては、PbCl、PbBr、PbI、SnCl、SnBr、SnI等のハライド材料、及びCHNHCl、CHNHBr、及びCHNHI等のメチルアンモニウム(MA=CHNH)化合物があげられる。MA化合物に代えて、またはMA化合物と組み合わせて、ホルムアミジニウム(FA=HC(NH)化合物を使用することもできる。有機金属ハライドペロブスカイトは、有機元素MA又はFAが各サイトAを占め、金属元素Pb2+又はSn2+が各サイトBを占め、ハロゲン元素Cl、I又はBrが各サイトXを占めるABXとして一般的に表される斜方晶構造を有する。本文書では、AXは、Xアニオンとしてのハロゲン元素Cl、I、又はBrと結合したAカチオンとしての有機元素MA又はFAを有する有機ハライド化合物を表し、BXは、Xアニオンとしてのハロゲン元素Cl、I又はBrと結合したBカチオンとしての金属元素Pb又はSnを有する金属ハライド化合物を表す。ここで、AX中の実際の元素XとBX中の実際の元素Xとは、それぞれがハロゲン族から選ばれている限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。例えば、AX中のXはClであり、一方、BX中のXは、Cl、I又はBrであってもよい。したがって、混合ペロブスカイト、例えばMAPbI3−XClの形成が可能である。
【0011】
有機金属ハライドペロブスカイトは、太陽電池、LED、及びレーザー等のオプトエレクトロニクスデバイスにおける活性層に使用することができる。ここで、「活性層」とは、光起電力装置において、光子の電荷キャリア(電子及び正孔)への変換が起こる層を言い、フォトルミネッセンスデバイスでは、電荷キャリアが結合されて光子を生成する層を言う。正孔輸送層(HTL)は、光起電力装置において正孔キャリアを活性層から電極へ輸送するための媒質として使用できる。フォトルミネッセンスデバイスでは、HTLは、正孔キャリアを電極から活性層に輸送するための媒質を言う。一般的に、ペロブスカイトベースのデバイス用のHTLを形成するのに溶液法が採用されている。例えば、4−tert−ブチルピリジン(tBP)及びリチウムビス−(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩(Li塩)を含む2,2′,7,7′−テトラキス(N,N′−ジ−p−メトキシフェニルアミン)−9,9′−スピロビフルオレン(spiro−OMeTAD、spiro−MeOTADとも呼ばれる)の溶液をスピンコートして、ペロブスカイト膜上にHTLが形成される場合がある。しかしながら、非特許文献6(Hawash etal.、参照により援用)に記載された最近の研究により、spiro−OMeTADからなるこれらの溶液加工膜は、通常、高密度のピンホールを含むことが明らかになっている。ここで、ピンホールは、膜をほぼ垂直に貫通する直径の小さい穴の形を有する欠陥として定義される。これらのピンホールは、膜の全層を貫通していることもあれば、膜表面から始まり、膜の奥深くまで貫入していることもある。HTLにおけるこれらのピンホールは、層間の短縮又は混合によって、ペロブスカイトベースのデバイスを不安定にする。これは、HTLに溶液加工spiro−OMeTAD膜を用いている典型的なペロブスカイト太陽電池が大気にさらされると急速な効率の低下を示す理由である可能性が高い。これらのピンホールは、HTLに溶液加工spiro−OMeTADを用いている典型的なペロブスカイト太陽電池の寿命が非常に短い理由である可能性も高い。影響は2つあると考えられる。(i)HTLを介した水分移動がペロブスカイトに到達しペロブスカイトを劣化させることをピンホールが促進する。(ii)ペロブスカイトの構成元素(例えば、ヨウ素)が表面に移動し、ペロブスカイトを劣化させる又は分解することをピンホールが促進する。このような観察に基づいて、HTLとして使用するspiro−OMeTADの作成工程はピンホールの形成を回避し、それにより、ペロブスカイト太陽電池の寿命を延ばすように最適化される。
【0012】
非特許文献7(Ono etal.、参照により援用)に記載された他の研究は、真空蒸着により作成されたspiro−OMeTAD膜においては、溶液加工spiro−OMeTAD膜よりも、ピンホールの数が著しく少ないことを明らかにしている。図1A図1Bは、それぞれ、tBP及びLi塩を用いた溶液ベースのスピンコートspiro−OMeTAD及び真空蒸着により作製されたpドープspiro−OMeTADのタッピングモード原子間力顕微鏡(AFM)画像の写真を示している。テトラフルオロテトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)が、図1Bではpドーパントに使用されており、走査範囲は両写真において10x10μmである。ピンホールの直径は、平均約135nmであり、ピンホール密度は図1Aの写真において約3.72/μmである。図1Bの写真中にみられる白斑は、pドーパントにより誘発された凝集体であると考えられる。これらの凝集体のサイズ及び密度は、ドーピング濃度に依存する。真空蒸着により作製された図1BにおけるHTLでは全体にスムースな膜形態が得られることが観察されている。したがって、真空蒸着は、ピンホールのないspiro−OMeTAD膜を得るのに適していると考えられる。ここで、「ピンホールのない」とは、溶液加工spiro−OMeTAD膜に通常存在するピンホールの数よりも、著しく数が少ないことを表すのに使用される。しかしながら、真性(すなわち、アンドープの又は意図してドープしていない)spiro−OMeTAD層及び/又はpドープspiro−OMeTAD層を真空蒸着によりペロブスカイト膜上で成長させて太陽電池デバイスのHTLとして使用する場合、たぶん不十分な正孔抽出に起因して電力変換効率(PCE)は低くなり、低い導電性をもたらすことも指摘されている。
【0013】
一般的に、電気的又は化学的ドーピングは、光起電力及び他のオプトエレクトロニクスデバイスにおいて電荷注入/抽出及びキャリア輸送を向上させ制御するのに有効な方法である。ドーピング操作を、キャリア密度を増加させ、界面において空間電荷層を生成するのに利用して、実効電荷移動度、つまり、導電性を増加させることができる。
【0014】
本文書では、ペロブスカイト太陽電池は、n型ドープ、真性、及びp型ドープ正孔輸送材料(HTM)の3層からなるHTLを導入することにより作製される。通常使用されるnドーパント及びpドーパントは、それぞれ、デカメチルコバルトセン(DMC)及びテトラフルオロテトラシアノキノジメタン(F4−TCNQ)である。他の種類のnドーパント、pドーパント、及びHTMが、太陽電池、LED、レーザー、及び他のペロブスカイトベースのオプトエレクトロニクスデバイスにおける電荷移動度、すなわち、膜の導電性を高めるためのドーピング操作用に考えられる。nドーパントの例としてはこれらに限定されないが、DMC、ピロニンB、コバルトセン(CoCp)、ロドセン([RhCp)、及びルテニウム(ペンタメチルシクロペンタジエニル)(1,3,5−トリエチルベンゼン)([Cp*Ru(TEB)])が挙げられる。pドーパントの例としてはこれらに限定されないが、F4−TCNQ、三酸化モリブデン(MoO)、五酸化バナジウム(V)、又は三酸化タングステン(WO)等の遷移金属酸化物、及びモリブデントリス[1,2−ビス(トリフルオロメチル−)エタン−1,2−ジチオレン](Mo(tfd))が挙げられる。HTMの例としてはこれらに限定されないが、spiro−OMeTAD、ポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)(P3HT)、ポリ(トリアリールアミン)(PTAA)、酸化グラフェン、酸化ニッケル、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホン酸(PEDOT:PSS)、チオシアン酸銅(CuSCN)、CuI、CsSnI、α−NPD、CuO、CuO、サブフタロシアニン、6,13−ビス(トリイソプロピルシリルエチニル)ペンタセン(TIPS−ペンタセン)、PCPDTBT、PCDTBT、OMeTPA−FA、OMeTPA−TPA、及びキノリジノアクリジンが挙げられる。
【0015】
図2は、ペロブスカイト並びにnドープHTL、真性HTL、及びpドープHTLの3副層からなるHTLを備える活性層を有するペロブスカイトベースのデバイスのエネルギー図である。図2に示す構造において、nドープHTLは、ペロブスカイト活性層に隣接して配置されたn型ドープHTMからなる第1副層であり、真性HTLは、第1副層に隣接して配置された真性(つまり、アンドープの又は意図的にドープされていない)HTMからなる第2副層であり、pドープHTLは、第2副層に隣接して配置されたp型ドープHTMからなる第3副層である。金属電極がpドープHTL上に形成され、フェルミエネルギーレベルを規定する。各層の最高被占分子軌道(HOMO)のエネルギー準位は、紫外光電子分光法(UPS)を用いて計測でき、図2において、nドープHTLに対してHOMO1を付し、真性HTLに対してHOMO2を付し、pドープHTLに対してHOMO3を付している。エネルギー論の研究に基づいて、HOMO1準位をペロブスカイト層の価電子帯のトップ、すなわち、図2においてVMが付されている価電子帯最大エネルギー準位に一致させるのに最適なn型ドーピング濃度を決定することができる。具体的には、適切なレベルのドーピング濃度を有するnドープHTLは、nドープHTLのHOMO1準位がnドープHTLに隣接するペロブスカイト層の価電子帯最大値に一致するように、nドープHTLにおけるフェルミエネルギーレベルを、nドープHTLの最低空分子軌道(LUMO)の方へシフトさせることができる。ここで、HOMO1及びVMは、VMに対するHOMO1が、−0.1eV〜0.3eVの範囲にある場合に、一致するとし、この範囲において0eVであるということは、エネルギー準位が全く同一であるということである。HOMO1がVMよりも高い場合、正孔がペロブスカイト層の価電子帯からnドープHTLのHOMO1に流れるエネルギー障壁はない。しかしながら、太陽電池の開回路電圧(Voc)は、HOMO1とVMとの間のエネルギー差が増加するにつれて、一般的に減少することが観察されている。したがって、0.3eVの上限は、Vocを最適な範囲にキープするよう経験的に設定される。一方、HOMO1がVMよりも低い場合、正孔に対するエネルギー障壁が存在する。−0.1eVの下限、すなわち、VMよりも0.1eV低いHOMO1が、UPS等の実験に基づいて設定される。これらの実験は、HOMO1から離れた、例えば、0.1eV離れた小さなエネルギーギャップ内、かつHOMO1とLUMOとの間のギャップの中へ、正孔がペロブスカイト層の価電子帯からnドープHTLのHOMO1準位に流れることを可能にする状態の密度が低下している(しかし、ゼロではない)という情報を提供する。
【0016】
図3は、4つの異なるHTLを用いて作製したペロブスカイト太陽電池の電流密度jと電圧Vとの関係をそれぞれ示している。プロットAは、tBP及びLi塩を用いた溶液加工spiro−OMeTADからなるHTLを有する場合のVに対するjを示し、プロットBは、DMCドープspiro−OMeTAD、真性spiro−OMeTAD、及びF4−TCNQドープspiro−OMeTADの3副層を備えるHTLを有する場合を示し、プロットCは、F4−TCNQドープspiro−OMeTADの層のみからなるHTLを有する場合を示し、プロットDは、真性spiro−OMeTADの層のみからなるHTLを有する場合を示す。AにおけるHTLは溶液法に基づいて形成され、一方、B、C、及びDにおけるHTLは真空蒸着により成長させられている。表1は、4つのプロットA、B,C,及びDと関連する開回路電圧Voc、短絡電流密度jsc、曲線因子FF、及び電力変換効率PCEを示している。プロットCからも明らかなように、pドーピングだけでは導電性及び効率の顕著な向上につながらない。一方、プロットBからも明らかなように、n−i−p構造性副層からなるHTLを有する場合において、導電性及び効率は著しく向上し、約9%のPCEに到達している。(pドープHTLのみを備える)サンプルCにおけるVocは、(n−i−p構造性HTLを備える)サンプルBよりも著しく低いことにも注目すべきである。
【表1】
【0017】
図4は、n−i−p構造性HTLを含むペロブスカイトベースのデバイスの製造工程を示すフローチャートである。まず、ステップ404において、基板上に活性層としてペロブスカイト層を形成する。基板材料の例としては、表面に電子トランスポート層(ETL)が形成された、又は形成されていないフッ素ドープ酸化スズ(FTO)ガラスが挙げられる。ETL材料の例としては、TiO、ZnO及びフェニル−C61−酪酸メチル(PCBM)が挙げられる。ガラスに代えて、ポリエチレンテレフタレート等の可撓性ポリマーをベース材料として用いてもよい。さらに、引き続いて成長させるペロブスカイト膜の品質を高めるために、例えばPbCl又はPbIからなる薄い湿潤層を上記基板のいずれにも追加することができる。前述したように、多種多様の有機ソース原料AX及びハライドソース原料BXがペロブスカイト膜ABXを形成するのに利用できる。ペロブスカイト膜は、溶液法、真空蒸着法、化学気相成長(CVD)法、及び他の製造方法のいずれかを用いて基板上に成長させることができる。
【0018】
ステップ408において、真空蒸着システムを用いてHTM及びnドーパントを共蒸着させることにより、n型ドープHTMからなるnドープHTLをペロブスカイト層上に形成する。nドープHTLが所定の厚さに到達した後、ステップ412において、真空蒸着により真性HTLをnドープHTL上に形成する。例えば、本ステップを実行するために、HTMの蒸着を同一のチャンバで続ける一方、nドーパント材料の蒸着を中断する。真性HTLは、結果として得られる膜において、それぞれの副層からのn型ドーパントとp型ドーパントとの間の相互拡散を最小化する役割を果たす。ステップ416において、真空蒸着によりHTM及びpドーパントを共蒸着することによって、p型ドープHTMからなるpドープHTLを真性HTL上に形成する。後述するように、pドープHTLを形成するこのステップは、nドープHTLを形成するステップ408で使用したものと同一の又は異なる真空蒸着システムを用いて実行することができる。pドープHTLが所定の厚さに到達した後、ステップ420において、熱蒸着により、電極をpドープHTL上に形成する。当該電極は例えばAu、Ag又はAlからなる金属接触とすることができる。例えば、ベルジャー蒸発器を厚い金属層を堆積させるのに使用してもよいが、一般的に堆積中に大量のソース金属と高出力を必要とする。
【0019】
ペロブスカイト活性層上のn−i−p構造性HTLの作製は、その開示を引用して援用する特許文献3(PCT/JP2015/002041)及び特許文献4(PCT/JP2015/003450)に記載されているシステムと類似の、又は、当該システムの変形である1又は複数の真空蒸着システムを用いて行ってもよい。
【0020】
図5は、2以上のソース原料を共蒸着するための真空蒸着システム(正確な縮尺ではない)の一例を概略的に示す図である。このシステムは、必要部品と接続されたチャンバ500を備える。堆積工程のためにチャンバ500内をほぼ真空にするため、ポンプユニット(不図示)がチャンバ500と接続されている。基板ステージ504は、チャンバ500の上部に接続され、基板又は基膜を下向きに載置するための下向きのステージ表面を備える。基板ステージ504の温度は、基板又は基膜を均一に冷却又は加熱するために制御することができる。図5のシステムにおいて、第1蒸発ユニット508は、チャンバ500の側面部に接続され、チャンバ500内にドーパント材料の蒸気を発生させる。さらに、第2蒸発ユニット512は、チャンバ500の底部に接続され、チャンバ500内にHTMの蒸気を発生させる。第2蒸発ユニット512は、HTMを収容し、加熱されてHTM蒸気を発生させるるつぼを備えていてもよい。図5のシステムにおいて、モニタ516、例えば、水晶振動子マイクロバランスが、HTMの堆積速度を測定するために設けられている。図5では、ドーパントに対し1つの第1蒸発ユニット508が図示されているが、ドーパントの種類及び数に応じて、2以上の第1蒸発ユニットがチャンバ500の側面部に接続されていてもよい。
【0021】
一例として、図5の第1蒸発ユニット508は、ドーパント材料の粉末528を収容するアンプル524を含むように図示され、アンプル524、すなわち、粉末528を加熱して蒸気を発生させるために、加熱素子532が設けられている。加熱素子532の温度は、ドーパント材料528の蒸発速度を調節するために制御される。図5に示される第1蒸発ユニット508は、さらに、蒸気フラックスをチャンバ500内に案内するためのダクト536を備え、チャンバ500の内側面に対して斜めに配置することができ、その角度は、蒸気が効率的にチャンバ500内に出ていくように予め決定しておくことができる。それに代えて、又は、それに加えて、ダクト536は、チャンバ500において所望の方向に蒸気を出すために、延伸部538を備えていてもよい。ダクト536は、蒸気流を簡易だがタイミングよく調節するためのバルブ540、例えば、精密リーク弁に接続される。したがって、バルブ540を、チャンバ500内のドーパントの蒸気圧、すなわち、得られた膜におけるドーピング濃度を効果的に制御するのに使用することができる。
【0022】
図5に示すように、チャンバ500の側面部に接続された第1蒸発ユニット508を有するシステム構成により、ドーパント材料の蒸気流が循環し、効果的にチャンバ500を満たすことができ、それにより効率的かつ均一なドーピングが促進される。第1蒸発ユニット508のバルブと接続されたアンプルの使用は、当該構成がチャンバ500を満たすために均一かつ効率的に揮発性ドーパント蒸気を循環させることができるというだけでなく、バルブ540によりチャンバ500内のドーパントの蒸気圧を簡易かつ迅速に制御できるという理由からも、揮発性ドーパント材料に特に向いている。
【0023】
図6は、2以上のソース原料を共蒸着するための真空蒸着システム(正確な縮尺ではない)の別例を概略的に示す図である。このシステムは、必要部品に接続されたチャンバ600を備える。堆積工程のためにチャンバ600内をほぼ真空状態にするため、ポンプユニット(不図示)がチャンバ600に接続されている。基板ステージ604は、チャンバ600の上部に接続され、基板又は基膜を下向きに載置するために下向きのステージ表面を有する。基板ステージ604の温度は、基板又は基膜を均一に冷却又は加熱するように制御することができる。さらに、基板ステージ604は回転可能とされていてもよい。共蒸着中に基板ステージ604を回転させることにより、堆積膜の均一性を高めることができる。図6のシステムにおいて、第1蒸発ユニット608及び第2蒸発ユニット612が、チャンバ600の底部に接続されており、それぞれ、ドーパント材料の蒸気及びHTMの蒸気を発生させる。第1蒸発ユニット608及び第2蒸発ユニット612のそれぞれは、粉末状のソース原料を収容し、加熱によりその蒸気を発生させるるつぼを備えていてもよい。基板ステージ604と蒸発ユニット608及び612とが垂直距離に沿って、2つのソース原料の蒸気の均一な堆積を確保するのに十分な程度に長く離れているのであれば、基板ステージ604を共蒸着中に回転させなくてもよい。ソース付近の2種類の蒸気の間の熱干渉を低減するように、第1蒸発ユニット608と第2蒸発ユニット612との間にシールドを設けてもよい。本システムは、基板ステージ604の下に設けられ、基板ステージ604を露出させる又は覆うように移動できるシャッター616を備える。まず、基板ステージ604をシャッター616によって覆い、第1蒸発ユニット608及び第2蒸発ユニット612内のソース原料をそれぞれ、蒸発速度が所定の値に達するまで加熱する。その後、シャッター616を動かし、基板ステージ604を堆積にさらすことができる。図6のシステムにおいて、第1モニタ620及び第2モニタ624、例えば、水晶振動子マイクロバランスが、ドーパント及びHTMの堆積速度をそれぞれ測定するために設けられている。図6では、ドーパントに対し1つの第1蒸発ユニット608及びHTMに対して1つの第2蒸発ユニット612が図示されているが、ドーパントの種類及び数に応じて2以上の第1蒸発ユニットがチャンバ600の底部に接続されていてもよい。それに応じて、3以上のモニタが3種類以上のソース原料の各堆積速度を測定するために設けられてもよい。
【0024】
F4−TCNQ及び多くの他のpドーパントが粉末の形で利用できる。高分子HTM、例えば、P3HT及びPTAAを除き、spiro−OMeTAD及び多くの他の小分子HTMが粉末の形で利用できる。DMC及び多くの他のnドーパントは、粉末の形で利用できる。図5に示す第1蒸発ユニット508のような、バルブと接続されたアンプルを含むシステム構成は、液状又は気体状のドーパントに対応できることに注目すべきである。
【0025】
前述したように、チャンバ500を満たすために均一かつ効率的に揮発性ドーパント蒸気を循環させることができるというだけでなく、第1蒸発ユニット508のバルブ540によりチャンバ500内のドーパントの蒸気圧を簡易にかつ迅速に制御できるという理由からも、第1蒸発ユニット508のバルブに接続されたアンプルの使用は、揮発性ドーパント材料に特に向いている。揮発性nドーパントの蒸気圧を本構成を使用して変化させ、図2に示されるように、nドープHTLのHOMO準位HOMO1を、ペロブスカイトの価電子帯最大値VMに一致させることができるドーピング濃度を見つけることができる。ここで、エネルギー準位差が光励起正孔キャリアをペロブスカイト活性層からnドープHTLに抽出できるほど小さい場合に、HOMO1及びVMは一致しているとする。前述したように、このようなVMに対するHOMO1のマッチング許容範囲を−0.1eV〜0.3eVの範囲内に設定してもよく、この範囲内で0eVであるということは、エネルギー準位が完全に一致するということである。nドーパントの蒸気圧の最適値は、製造に先立って、UPS測定のような実験に基づいて予め決定されてもよい。例えば、ペロブスカイト層の形成後、1ロット分のサンプルを実験に用いて、適切なHOMO1エネルギー準位を有するnドープHTLを形成するための揮発性nドーパントの最適な蒸気圧、すなわち、ドーピング濃度を見つけてもよい。
【0026】
一方、nドーパントが不揮発性である場合、チャンバ600の底部に接続されたるつぼ等の蒸発ユニットを不揮発性nドーパントの蒸気を発生させるのに使用してもよい。この場合には、HOMO1エネルギー準位及びVMエネルギー準位を一致させるドーピング濃度を、HTM堆積速度とnドーパント堆積速度との比を変化させることにより見つけてもよい。各堆積速度の測定は、HTM、nドーパント及びpドーパントのそれぞれに対応する3つのモニタを備える図6の例のような第2真空蒸着システムを用いることにより可能となる。
【0027】
図5に示す、真空蒸着システムの第1例である第1真空蒸着システムは、ドーパント材料が揮発性、例えば、n型ドーパントDMCである場合の使用に適している。図6に示す、真空蒸着システムの第2例である第2真空蒸着システムは、ドーパント材料が不揮発性、例えば、p型ドーパントF4−TCNQである場合の使用に適している。図7は、揮発性nドーパント及び不揮発性pドーパントを使用する場合の、ペロブスカイト活性層上にn−i−p構造性HTLを作製する工程例を示すフローチャートである。ステップ704において、1ロット分のサンプルに対して実験を行い、第1真空蒸着システムを用いてHTM及びnドーパントを共蒸着する間のnドーパントの蒸気圧を変化させることによって、HOMO1準位及びVM準位を一致させるnドーパントのドーピング濃度を見つける。図5に示すようなこの第1システムでは、チャンバ500の側面部に接続された第1蒸発ユニット508が、nドーパントの蒸気を発生させるのに使用され、チャンバ500の底部に接続された第2蒸発ユニット512が、HTMの蒸気を発生させるのに使用される。ステップ708では、第1真空蒸着システムを使用して予め決定した蒸気圧を用いてペロブスカイト層上にnドープHTLを形成する。その後、ステップ712において、HTMの蒸着を継続させる一方で、nドーパント材料の蒸着を中断させることによって、同一の第1真空蒸着システム内においてnドープHTL上に真性HTLを形成する。その後、ステップ716において、nドープHTL及び真性HTLを含むサンプルを図6に示すような第2真空蒸着システムに移動し、基板ステージ604上に載置する。その後、ステップ720において、それぞれチャンバ600の底部に接続され、不揮発性pドーパントの蒸気及びHTMの蒸気を発生させる第1蒸発ユニット608及び第2蒸発ユニット612を用いて、第2真空蒸着システムにおいて真性HTL上にpドープHTLを形成する。
【0028】
上記の工程では、712において真性HTLを形成した後、サンプルを第1システムから第2システムに移動させている。これに代えて、708においてnドープHTLを形成した後、712において真性HTLを形成する前にサンプルを移動してもよい。この場合には、HTMのみを蒸着させることによって真性HTLは第2システム内で形成される。その後、HTM及びpドーパントの共蒸着を行い、第2システムにおいて真性HTL上にpドープHTLを形成することができる。
【0029】
揮発性nドーパント及び不揮発性pドーパントを使用する場合、上記の2システムプロセスに代えて、第1及び第2システムの組み合わせである1つのシステムをn−i−p層の連続した堆積に使用することができる。例えば、この真空蒸着システムは、揮発性nドーパント材料の蒸気を発生させるための、図5の508のような、チャンバの側面部に接続された蒸発ユニットと、pドーパント材料の蒸気及びHTMの蒸気をそれぞれ発生させるための、図6の608及び612のような、チャンバの底部に接続された2つの蒸発ユニットと、を備えていてもよい。図8は、揮発性nドーパント及び不揮発性pドーパントを使用する場合の、1つのシステムを用いてペロブスカイト活性層上にn−i−p構造性HTLを作製する工程例を示すフローチャートである。ステップ804において、1ロット分のサンプルに対して実験を行い、真空蒸着システムを使用してHTM及びnドーパントを共蒸着する間のnドーパントの蒸気圧を変化させることによって、HOMO1準位及びVM準位を一致させるnドーパントのドーピング濃度を見つける。ステップ808において、真空蒸着システムを使用し予め決定した蒸気圧を用いてペロブスカイト層上にnドープHTLを形成する。その後、ステップ812において、HTMの蒸着を継続させる一方、nドーパント材料の蒸着を中断させることによって、同一の真空蒸着システムにおいてnドープHTL上に真性HTLを形成する。ステップ808においてnドープHTLを形成している間、揮発性nドーパントの蒸気は循環しチャンバを満たすので、nドーパント分子が同一のチャンバの底部に位置している蒸発ユニット内のHTM及びpドーパント材料を汚染した可能性があり、pドーパントと反応する可能性さえある。n型ドーピングを行っている間のソース原料の劣化を回避する又は最小化するために、ステップ816において、pドープHTLを形成するためのHTM及びpドーパントの堆積を始める前に、完全脱ガスを行い、真空蒸着システムの蒸発ユニット内の汚染されたHTM及びpドーパント材料を除去する。また、この脱ガス手順は、ステップ812において真性HTLを形成するためのHTMの堆積を始める前に行ってもよい。その後、ステップ820において、真空蒸着システムを用いて真性HTL上にpドープHTLを形成する。
【0030】
nドーパント及びpドーパントのいずれもが不揮発性である場合、例えば図6の第2システムを用いることにより、1システムプロセスを、連続してn−i−pを堆積させるために実行することができる。この場合には、チャンバの底部に接続された3つの蒸発ユニットがそれぞれHTM、nドーパント材料、及びpドーパント材料の蒸気を発生させてもよい。各堆積速度の測定は、HTM、nドーパント、及びpドーパント用の3つのモニタを備えるシステムを用いることによって可能となる。n型及びp型ドーパントの両方が不揮発性であるため、いずれも、チャンバの底部に位置する蒸発ユニットに収容された他の材料を著しく汚染したりしないし、他の材料と反応したりもしない。したがって、nドーパントの蒸着後、脱ガスの必要がない。図9は、不揮発性nドーパント及び不揮発性pドーパントを使用する場合の、1つのシステムを用いてペロブスカイト活性層上にn−i−p構造性HTLを作製する工程例を示すフローチャートである。ステップ904において、1ロット分のサンプルに対して実験を行い、真空蒸着システムを用いてHTM及びnドーパントを共蒸着する間のHTM堆積速度とnドーパント堆積速度との間の比を変化させることによって、HOMO1準位及びVM準位を一致させるnドーパントのドーピング濃度を見つける。各堆積速度の測定は、それぞれの堆積速度を測定するために設置されたモニタを使用して行われる。ステップ908において、真空蒸着システムを使用し、堆積速度の予め決定した比を用いてペロブスカイト層上にnドープHTLを形成する。その後、ステップ912において、HTMの蒸着を継続させる一方、nドーパント材料の蒸着を中断させることによって、同一の真空蒸着システムにおいてnドープHTL上に真性HTLを形成する。その後、ステップ916において、真空蒸着システムを用いて真性HTL上にpドープHTLを形成する。
【0031】
nドーパント及びpドーパントのいずれもが揮発性の場合、例えば図5の第1真空蒸着システムを用いて、1システムプロセスを、連続してn−i−pを堆積させるために実行することができる。この場合には、チャンバ500の側面部に接続された2つの蒸発ユニットがそれぞれnドーパント材料及びpドーパント材料の蒸気を発生させ、チャンバ500の底部に接続された1つの蒸発ユニットがHTMの蒸気を発生させる。図5に示す508のような、バルブに接続されたアンプルを、側面部に接続された蒸発ユニットのそれぞれに使用し、それにより、2つのドーパントが直接接触するのを回避してもよい。したがって、nドーパント蒸着後に脱ガスする必要がない。したがって、ステップ816における脱ガスステップを省略することを除いては、図8を参照して前述した1システムプロセスを実行できる。
【0032】
nドーパントが不揮発性でありpドーパントが揮発性の場合、第1及び第2システムの組み合わせである1つのシステムをn−i−p層の連続した堆積に使用することができる。例えば、この真空蒸着システムは、揮発性pドーパント材料の蒸気を発生させるための、図5の508のような、チャンバの側面部に接続された蒸発ユニットと、不揮発性nドーパント材料の蒸気及びHTMの蒸気を発生させるための、図6の608及び612のような、チャンバの底部に接続された2つの蒸発ユニットと、を備えていてもよい。nドーパントが不揮発性であるので、蒸発ユニットに収容された他の材料を著しく汚染したり、他の材料と反応したりしない。したがって、nドーパント蒸着の後に脱ガスする必要がない。したがって、図9を参照して前述した1システムプロセスを実行することができる。
【0033】
本研究の詳細及びペロブスカイト活性層上にn−i−p構造性HTLを作製するための詳細を、以下に説明する。
【0034】
まず、パターン化FTOガラスをHCl及びZn粉末により準備し、洗浄した。この基材上に、厚さ100nmのTiOの緻密層を、アセチルアセトンの前駆体溶液、Ti(IV)イソプロポキシド、及び無水エタノール(3:3:2)を用いた噴霧熱分解により堆積させた。その後、基板を、ホットプレート上で480℃でアニールした。本研究では、ペロブスカイトMAPbI3−XCl層を作製するのに溶液法が採用され、MAI及びPbClを、2.2のMAI0.88MのPbClとを用い2.5:1のモル比で、N,N−ジメチルホルムアミドに溶解させた。ペロブスカイト溶液は基板上に2000rpmで45秒間スピンコートされ、その後、グローブ・ボックス(<0.1ppmO及びHO)において45分間ホットプレート上で熱アニールした。
【0035】
真空蒸着によりn型ドープspiro−OMeTADを堆積させるために、5mgのDMC粉末を全金属リーク弁と接続されたガラスアンプル内に入れた。大気暴露を回避するために、Nグローブ・ボックス内で、DMCをアンプルへ充填した。その後、図5に示すように、DMC粉末を収容するアンプルを含む蒸発ユニットを真空チャンバの側面部に設置した。DMC粉末を蒸発させるため、加熱テープを使用して、アンプルを〜100℃まで加熱した。真空チャンバの底面圧は1.0x10−8Torrであった。DMC蒸気圧を1.0x10−6から5.0x10−5Torrまで変化させ、n型ドープspiro−OMeTADのHOMO準位HOMO1をペロブスカイトの価電子帯最大値VMに一致させることができる最適DMCドーピング濃度を見つけた。1.0x10−5Torrの最適DMC蒸気圧下において、水晶振動子マイクロバランスによって計測されるように、0.5オングストローム/秒の堆積速度で、n型ドープspiro−OMeTADの堆積を行った。n型ドープspiro−OMeTAD層を形成した後、同一のチャンバ内で、真性spiro−OMeTADの堆積を行った。p型ドープspiro−OMeTADHTLを形成するために、サンプルを第2チャンバに移動し、F4−TCNQ(2重量%に対応する堆積速度=0.1オングストローム/秒)及びspiro−OMeTAD(堆積速度=0.5オングストローム/秒)の共蒸着を行った。
【0036】
原子間力顕微鏡(AFM)の測定結果に基づき、n型ドープspiro−OMeTAD層、真性spiro−OMeTAD層、及びp型ドープspiro−OMeTAD層の厚さを、それぞれ、約30nm、約20nm、及び約30nmとした。最後に、〜60nmの厚さの金接触を熱蒸着により堆積させた。X線回折計を使用して、ペロブスカイト層の結晶構造を確認した。He I(21.2eV)放電ランプ及び単一チャネルトロンを有するエネルギー分析器を用いて、n−i−p構造性HTLの3層のそれぞれについてUPS測定をin situで行った。高nドープSi基板(0.011〜0.015Ω*cm)上に堆積した金膜のフェルミ端を使用して、EF位置及び機器分解能を決定した。
【0037】
ペロブスカイト薄膜MAPbI3−XClに対するXRD測定は、14.2°及び28.5°に、それぞれ典型的なペロブスカイト(110)及び(220)のピークを示した。
【0038】
前述したように、n型ドープspiro−OMeTAD層のHOMO準位HOMO1をペロブスカイトの価電子帯最大値VMに一致させることができる最適DMCドーピング濃度を見つけるために、DMC蒸気圧を変化させた。図10は、1.0x10−6から5.0x10−5Torrまでの様々なDMC蒸気圧を用いたUPSスペクトラムの図である。DMC蒸気圧が増加すると、HOMO準位は、フェルミエネルギーレベル(EF)を基準として1.5eVから4.6eVへとシフトすることが観察される。UPS測定に基づいて、1.0x10−6Torr、5.0x10−6Torr、1.0x10−5Torr、及び5.0x10−5Torrの蒸気圧下での仕事関数は、それぞれ、約3.5eV、約3.4eV、約3.0eV、及び約1.8eVであると決定された。また、各蒸気圧に対するHOMOの先のエッジは、それぞれ、EFより低い約1.5eV、約1.9eV、約2.5eV、及び約4.6eVであると測定された。これらの計測により、ドーパントとしてDMSを用いたn型ドーピング挙動及びDMC蒸気圧を変化させることによりフェルミエネルギーレベルに対するDMCドープspiro−OMeTADのHOMO準位を調整する実現性が確認される。
【0039】
さらに、n型ドープ、真性、及びp型ドープspiro−OMeTADに対し、TiO緻密層で予め被覆したFTO基板上に形成されたペロブスカイト層上に連続してこれらの層を堆積した状態で、UPS測定をin situで行った。図11は、ペロブスカイト(MAPbI3−XCl)層、ペロブスカイト層の上面のn型(DMC)ドープspiro−OMeTAD、n型ドープspiro−OMeTADの上面の真性spiro−OMeTAD、及び真性spiro−OMeTADの上面のp型ドープ(F4−TCNQ)spiro−OMeTADのUPSスペクトラムを示している。ペロブスカイトの価電子帯最大値を計測したところ、EFより低い〜2.6eVであった。ペロブスカイトの価電子帯最大値VMとDMC(1%)ドープspiro−OMeTADのHOMO準位HOMO1とを一致させることができる1.0x10−5Torrの最適DMC蒸気圧が特定された。この場合に、HOMO1を計測したところ、EFより低い〜2.5eVであり、VMとHOMO1との差は、たった約0.1eVであり、良好な一致を示した。真性層については、HOMO準位はEFよりも低い〜1.5eVであることが確認された。F4−TCNQドープspiro−OMeTADのHOMO準位はEFより低い〜0.3eVであることが確認された。これらのUPS結果に基づいて、エネルギー図が太陽電池に対して決定され、太陽電池性能測定に関連付けられることができる。再び図2を参照し、上記の場合に対するエネルギー図は、ΔE(VM)=2.6eV、ΔE(HOMO1)=2.5eV、ΔE(HOMO2)=1.5eV、及びΔE(HOMO3)=0.3eVで表される。
【0040】
図3のA及び表1に対応する)基準サンプルを作成するため、スピンコーティングを伴う典型的な溶液加工を行い、ペロブスカイト層上にHTLを形成した。クロロベンゼン中に59mMのspiro−OMeTAD、172mMのtBP、及び32mMのLi塩を含む溶液を用いてスピンコーティングを2000rpmで60秒間行った。
【0041】
太陽電池デバイスの安定性を、大気中及び圧力10−6Torrの高真空中において最大528時間(22日)の時間発展を伴う太陽電池性能測定に基づいて調べた。図12A図12Dは、時間発展に対するVoc、jsc、FF、及びPCEをそれぞれ日単位で示している。これらの測定は、HTLとして溶液加工spiro−OMeTADを備える2つの基準サンプル(総計12デバイス)とHTLとしてn−i−pドープspiro−OMeTADを備える2つのサンプル(総計12デバイス)に対して行われた。表2は、新しいデバイスと、大気中又は真空中に6日、20日、及び22日保管した後のデバイスについて、1sunの照射条件(100mW/cm)で計測されたサンプルのj−V曲線から抽出された太陽電池性能パラメータを示す。各値は、計測が行われた日のロット中最高効率を示すサンプルのものであり、各括弧内の値はロット内の全てのデバイスの平均値及び標準偏差である。
【表2】
【0042】
大気及び真空中の基準サンプルはいずれも20日間にわたって著しく劣化した。一方、n−i−p構造性HTLを有するサンプルは、両条件下で安定していた。大気中又は真空中に6日間保管したのち、全てのサンプルのVocは、図12A及び表2に示すように、約0.9Vの飽和値に到達した。しかしながら、大気中及び真空中に保管した基準サンプルのjscはいずれも、図12Bに示すように、23.1mA/cmから14.0mA/cmまで急激に減少した。一方、大気中及び真空中に保管したn−i−p構造性HTLを有するサンプルは、表2に示すように、18.0mA/cmで安定していた。図12Cに示すように、基準サンプルのFF値は1日後に劣化し始め、n−i−pドープサンプルは安定していた。図12Dに示すように、PCE値も同様の傾向を示した。大気中に保管された基準サンプルのPCE値は、2日後に13.5%から6.3%にすぐに減少した。真空中に保管された基準サンプルでさえ、効率が11.1%から6.5%に減少した。一方、大気中及び真空中に保管されたn−i−p構造性HTLを有するサンプルの効率は、7%から9.3%に上昇し、6日後でさえ良好な安定性を示した。22日経過後、ドープサンプルのPCEは、いずれの条件においても、表2に示すように、まだ、平均で、7.8(±0.3)及び7.9(±0.6)%であった。
【0043】
図12Dにおいて、n−i−p構造性HTLを備える太陽電池の効率は、時間の関数として増加する傾向があり、2〜3日後にほぼ2倍となることが観察される。この挙動を明らかにするためドーパント拡散実験を行った。nドーパントの真性層への相互拡散が起こっていることがわかり、これが、キャリア輸送特性を高め、それにより効率を向上させている主な原因であると考えらえる。
【0044】
上記例において、DMCをnドーパントに選び、F4−TCNQをpドーパントに選び、spiro−OMeTADをHTMに選んだ。しかし、前述したように、ペロブスカイトベースのデバイスの製造に適したn型ドーパント材料、p型ドーパント材料、及びHTMは数多く存在する。本研究の他の例では、pドーパントにMoOを用いた。本例では、厚さ〜20nmのDMCドープspiro−OMeTAD層、厚さ10〜20nmの真性spiro−OMeTAD層、及び、厚さ5〜10nmのMoOドープspiro−OMeTAD層からなるHTLを、前述の例と同様に、2チャンバプロセスに基づき真空蒸着を用いて作製した。pドーパント(MoO)の堆積速度は0.1オングストローム/秒であった。本例において、pドープ層を、その後に形成される金属電極の仕事関数を大きくする目的で薄くし、より高い開回路電圧Vocを得た。Au、Ag、Al又は他の適切な金属を電極に使用することができる。一般的には、金属電極にAlを使用すると、製造コストの低減に役立つ。
【0045】
今まで説明したように、真空蒸着により作製したn型ドープHTL、真性HTL、及びp型ドープHTLの3層を使用する有機金属ハライドペロブスカイトベースの太陽電池は、溶液加工HTLを備える太陽電池と比較して、大気安定性が大幅に向上している。大気安定性の向上は、真空蒸着により作製されたHTLにおけるピンホールの数が、溶液加工HTLに通常存在するピンホールの数よりも大幅に少ないことに起因すると考えられる。HTLのn型ドープ副層のドーピング濃度は、高い開回路電圧を保ちながら効率的に正孔抽出を行うために、HOMO準位をペロブスカイトの価電子帯最大値と一致させるよう最適化され、アンドープの及び/又はp型ドープHTLを備える太陽電池よりも高い導電性につながる。太陽電池用途に加えて、本n−i−pドープHTL構造及び本作製技術に基づくその変形例は、LED及びレーザー等の他のペロブスカイトベースのオプトエレクトロニクスデバイスにも同様に使用できる。
【0046】
ドーピング操作は、半導体の電子特性を調節するのに使用される広く知られた技術である。有機発光デバイスにおけるHTL又はETLのドーピング操作構造は、先行技術文献のいくつかにおいて報告されている。しかしながら、当業者がn型ドーパントを備える正孔輸送材料をドープすることは直観に反している、すなわち、慣例に従わないので、これらの典型的な正孔輸送層は、アンドープのHTL及び/又はp型ドープHTLのみを備えることに注目すべきである。正反対に、本研究に基づく実施例は、nドープHTLのHOMO準位がnドープHTLに隣接するペロブスカイト層の価電子帯最大値に一致するように、nドープHTLにおけるフェルミエネルギーレベルをnドープHTLのLUMOの方へシフトさせる所定レベルのドーピング濃度を持ったnドープHTLを考慮している。
【0047】
本文書は、多くの詳細を含んでいるが、これらを、発明の範囲又は特許請求の範囲の限定と解釈すべきではなく、むしろ、発明の特定の実施態様に特有の特徴についての説明であるとみなすべきである。別々の実施例に照らして本文書において説明した一定の特徴は、組み合わせて単一の実施例に組み入れることができる。反対に、単一の実施例との関連で説明した様々な特徴は、別々に、又は、適切に部分的に組み合わせて複数の実施例に組み入れることができる。さらに、特徴は一定の組み合わせで作動するように説明され、初めに、そのよう主張されたかもしれないが、主張された組み合わせの1以上の特徴は、ある場合には、その組み合わせから行われてもよいし、主張された組み合わせは、部分的な組み合わせ、又は、部分的な組み合わせの変形を対象にしてもよい。
図1
図2
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図4
図5
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図10
図11
図12