特許第6403361号(P6403361)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6403361地熱交換システムおよび地熱発電システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6403361
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】地熱交換システムおよび地熱発電システム
(51)【国際特許分類】
   F03G 4/00 20060101AFI20181001BHJP
【FI】
   F03G4/00 501
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-27589(P2018-27589)
(22)【出願日】2018年2月20日
【審査請求日】2018年3月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】515126592
【氏名又は名称】株式会社エスト
(73)【特許権者】
【識別番号】516212278
【氏名又は名称】株式会社くじゅうビバレッジ
(74)【代理人】
【識別番号】100116296
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幹生
(72)【発明者】
【氏名】田原 千年生
【審査官】 西中村 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5839531(JP,B1)
【文献】 特許第5999827(JP,B1)
【文献】 特開2014−173345(JP,A)
【文献】 特表2013−543948(JP,A)
【文献】 特許第6067173(JP,B1)
【文献】 特開昭49−103122(JP,A)
【文献】 特許第4927136(JP,B2)
【文献】 特許第6176890(JP,B1)
【文献】 特許第5839528(JP,B1)
【文献】 特許第5731051(JP,B1)
【文献】 特開2013−164062(JP,A)
【文献】 国際公開第2016/035770(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03G 4/00
F24T 10/00
E21B 43/00
DWPI(Derwent Innovation)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に設けられた管の下部領域が地熱帯に接触するように配置されて形成される地熱交換器と、地熱交換器の内部の圧力を監視して制御する圧力調整装置と、圧力調整装置に接続されて地熱交換器の上部に設置された圧力調整弁とを備え、
運転準備段階において、地熱交換器内の圧力が地熱帯の温度によって決まる作動流体の飽和圧力となるまで、地熱交換器内が加圧され、地熱交換器内に作動流体が注入されて、地熱交換器内で作動流体が沸騰することなく高温高圧の作動流体が生成されて一定量貯留された後、地上に設置された熱交換器、またはタービンが必要とする蒸気圧力まで地熱交換器内部を減圧することによって、高温高圧の作動流体の一部を沸騰させて、蒸気を生産する地熱交換システムであって、
前記地熱交換器内部に作動流体を下降させる内管が、予め形成されている外管に対して、後付けで挿入されて地熱交換器が構成され、内管が外管に挿入されたときの断面において、内管は外管とは非同心円状であり、
前記地熱交換器は、地熱帯から熱が供給される集熱・蓄熱ゾーンとして機能する下部領域と、下部領域で得られた熱が上方に移動するための熱移動ゾーンとなる中間領域と、地上に設置される熱交換器に接続される上部領域とによって構成され、前記中間領域は可とう管によって形成されていることを特徴とする地熱交換システム。
【請求項2】
運転準備段階における地熱交換器内の加圧は、圧力調整弁を経由して、圧縮された空気を地熱交換器内に圧入することによりなされることを特徴とする請求項1記載の地熱交換システム。
【請求項3】
取り出された前記蒸気は、地上に設置された熱交換器、またはタービンに導入されて熱交換した後液化し、前記管内を下降して地熱交換器底部に貯留させて、地熱帯によって加熱されるようにして、作動流体を循環させ、地熱交換器の圧力を、熱交換器またはタービンが必要とする蒸気圧力に設定・制御することによって、生産される蒸気量を制御することを特徴とする請求項1または2記載の地熱交換システム。
【請求項4】
前記地熱交換器内への作動流体の注入は、加圧ポンプにより前記地熱交換器内に作動流体を圧入することによってなされることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の地熱交換システム。
【請求項5】
複数の地熱交換器の出力側が並列に接続されて構成され、それぞれの地熱交換器を用いて得られる蒸気が合計して採集されることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の地熱交換システム。
【請求項6】
請求項1から5のいずれかに記載の地熱交換システムを用いて発電を行うことを特徴とする地熱発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地熱エネルギーを効率よく取り出すことが可能な地熱交換システムと地熱発電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
地熱エネルギーを利用して発電する地熱発電は、高温のマグマ層を熱源とするものであり、半永久的な熱エネルギーとすることができるとともに、発電の過程において温室効果ガスを発生しないことから、化石燃料の代替手段として近年注目されている。また、原子力発電所の事故により、原子力に多くを依存していた日本のエネルギー政策は根本から見直すことを余儀なくされており、地熱エネルギーの活用への期待が高まっている。
【0003】
従来の地熱発電は、地熱帯をボーリングし、地熱帯に存在する自然の蒸気や熱水を自然の圧力を利用して取り出し発電を行っている。そのため、取り出された蒸気と熱水には、地熱帯特有の硫黄その他の不純物が多量に含まれている。この不純物はスケールとなって、熱井戸や配管類、あるいはタービン等に付着する。スケールが付着すると、経年的に発電出力が減少し長期間の使用が困難となる。
【0004】
このスケールによる問題を解決するために、地上から水を送り、エネルギーを採取する方式を採用した地熱交換器が、特許文献1、特許文献2に記載されている。また、地熱エネルギー回収に関して、地熱帯の熱伝導の遅れを補修する方法を採用した地熱交換器が、特許文献3に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特許第4927136号公報
【特許文献2】特許第6176890号公報
【特許文献3】特許第5839528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたものは、地下に設置された地熱交換器で取出した高圧熱水単相流を気水分離器で蒸気として取出すものであるが、2重管内を循環する作動水の損失水頭が大きくなるため、加圧ポンプの容量アップ分総合効率が悪くなる。また、2重管を設置するためのボーリング工事の過程において、高深度で硬い岩盤層の場合に、2重管を直線状に施工することが難しく、このことがボーリング工事費の増大の原因となるという問題点がある。
【0007】
また、特許文献2に記載されたものは、地下に設置された地熱交換器内で減圧沸騰させて、気液2相流を地上に取り出すものであるが、この場合においても、2重管を設置するためのボーリング工事の過程において、高深度で硬い岩盤層の場合に、2重管を直線状に施工することが難しく、ボーリング工事費の増大の原因となる。
【0008】
さらに、特許文献3に記載されたものは、地下に設置された地熱交換器底部に加熱器を施し、地熱帯からの熱伝導時の時間遅れによる温度低下を補償するものであるが、加熱器の電源は発電出力の一部を使うものであるため、全体の発電効率は低下するという欠点がある。
【0009】
このように、2重管を直線状に施工することが難しい場合には、斜め掘りや非直線状のボーリングを行うことが必要になる。さらに、日本国内の主要な地熱地帯は、多くの場合温泉地域であり、温泉枯渇を心配する地域の同意を得るためには、地熱流体を取出さないことに加えて、温泉生産にも適用可能な、高効率の地熱交換システムの開発が重要である。また、地熱開発においては、全国に圧倒的に多く存在する、約180℃以下の中低温地帯では、地熱帯の深度が浅いことに起因して地熱帯の温度が変化することが多い。このような中低温の地熱を対象として、高効率、地熱伝導の時間遅れに対応可能な小容量の地熱発電システムの開発が重要となる。
【0010】
本発明は、このような事情を考慮してなされたもので、約180℃以下の中低温の地熱帯を用いても、効率良く熱交換を行うことが可能な地熱交換システムを提供し、効率良く発電を行うことが可能な地熱発電システム提供して、地熱開発の対象となる場所の数を増やして、地熱エネルギー採取量を増やすことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
以上の課題を解決するために、本発明の地熱交換システムは、地中に設けられた管の下部領域が地熱帯に接触するように配置されて形成される地熱交換器と、地熱交換器の内部の圧力を監視して制御する圧力調整装置と、圧力調整装置に接続されて地熱交換器の上部に設置された圧力調整弁とを備え、運転準備段階において、地熱交換器内の圧力が地熱帯の温度によって決まる作動流体の飽和圧力となるまで、地熱交換器内が加圧され、地熱交換器内に作動流体が注入されて、地熱交換器内で作動流体が沸騰することなく高温高圧の作動流体が生成されて一定量貯留された後、地上に設置された熱交換器、またはタービンが必要とする蒸気圧力まで地熱交換器内部を減圧することによって、高温高圧の作動流体の一部を沸騰させて、蒸気を生産することを特徴とする。
【0012】
運転準備段階において、地熱交換器内の圧力が地熱帯の温度によって決まる作動流体の飽和圧力となるまで、地熱交換器内を加圧することにより、地熱交換器内に注入された作動流体を気化させずに、圧力流体の状態で地熱交換器の底部に一定量貯留させることができ、大きな熱容量を持たせることができる。そのため、温度変化の大きい約180℃以下の中低温の地熱帯を対象としても、安定して地熱を回収することができる。これに対し、運転準備段階において、このような加圧を行わないと、地熱交換器内に注入された作動流体はすぐに気化してしまい、圧力流体の状態で地熱交換器の底部に一定量貯留することができず、約180℃以下の中低温の地熱帯対象として安定的に地熱を回収することができない。
【0013】
本発明の地熱交換システムにおいては、運転準備段階における地熱交換器内の加圧は、圧力調整弁を経由して、圧縮された空気を地熱交換器内に圧入することによりなされることとすることができる。
【0014】
運転中において、地熱交換器最深部では、作動流体を水とした場合に、地熱帯から熱供給を受けた圧力水の飽和圧力と、圧力水の水圧および循環水の損失水頭の合計値から、坑井の深度に比例する水圧分を差し引いた分を加圧する。この場合、中低温地熱帯では、地熱帯の温度によって決まる飽和圧力が低いことが有利に働き、加圧ポンプの容量削減を図り、システムの効率をアップさせることができる。
【0015】
本発明の地熱交換システムにおいては、取り出された前記蒸気は、地上に設置された熱交換器、またはタービンに導入されて熱交換した後液化し、前記管内を下降して地熱交換器底部に貯留させて、地熱帯によって加熱されるようにして、作動流体を循環させ、地熱交換器の圧力を、熱交換器またはタービンが必要とする蒸気圧力に設定・制御することによって、生産される蒸気量を制御することができる。
【0016】
地熱交換器底部に貯留させる圧力水は、地熱交換器底部に十分な熱容量を持たせて貯留させることにより、坑井の温度の時間変化に対応できる熱容量を持たせることができるため、安定的に地熱を回収することができ、発電に適用した場合に、発電出力を安定化させることができる。
【0017】
本発明の地熱交換システムにおいては、前記地熱交換器内部に作動流体を下降させる内管が、地熱交換器を構成する外管に挿入された構造であり、内管が外管に挿入されたときの断面において、内管は外管とは非同心円状である構成とすることができる。
【0018】
内管は外管とは非同心円状であることにより、予め形成されている外管に対して、後付けで容易に内管を挿入して地熱交換器を構成することができる。
【0019】
本発明の地熱交換システムにおいては、前記地熱交換器は、地熱帯から熱が供給される集熱・蓄熱ゾーンとして機能する下部領域と、下部領域で得られた熱が上方に移動するための熱移動ゾーンとなる中間領域と、地上に設置される熱交換器に接続される上部領域とによって構成され、前記中間領域は可とう管によって形成されている構成とすることができる。
【0020】
可とう管を用いることによって、斜めボーリングの場合であっても、地熱交換器を地中に容易に形成することができるため、ボーリングの難易度を低減することができ、特に、既存の熱坑井に挿入する難易度が減少し、坑井のリサイクルに貢献することができる。
【0021】
本発明の地熱交換システムにおいては、前記地熱交換器内への作動流体の注入は、加圧ポンプにより前記地熱交換器内に作動流体を圧入することによってなされることとすることができる。
【0022】
本発明の地熱交換システムにおいては、複数の地熱交換器の出力側が並列に接続されて構成され、それぞれの地熱交換器を用いて得られる蒸気が合計して採集される構成とすることができる。
【0023】
地熱交換器で得られる蒸気を合計して採集することにより、タービン・復水器・発電機・変圧器等の容量を大きく設計することができる。
【0024】
本発明の地熱発電システムは、本発明の地熱交換システムを用いて発電を行うことを特徴とする。
【0025】
全国的に圧倒的に数多く分布する中低温の地熱帯を利用して、蒸気を生産することができるため、利用対象となる地熱帯が増え、多数の地熱発電を実現することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明によると、全国的に圧倒的に数多く分布する約180℃以下の中低温の地熱帯を利用して、蒸気を安定的に生産することができるため、利用対象となる地熱帯を増やすことが可能となる。そのため、多数の地点において地熱発電を実現することができる。さらに、休止中の発電坑井の再生や、温泉坑井を使った温泉の再生を図ることができるとともに、斜めボーリング等の坑井にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施形態に係る地熱交換システムの構成を示す図である。
図2図1におけるA―A断面図である。
図3】斜めボーリングをした場合の地熱交換器の形状を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る地熱発電システムの構成を示す図である。
図5】加圧ポンプの揚程の削減の例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下に、本発明の地熱交換システムおよび地熱発電システムについて、その実施形態に基づいて説明する。
図1に、本発明の実施形態に係る地熱交換システムの構成を示す。
地熱交換システム1は、地中に設けられたケーシング2内に設置された管3の下部領域が地熱帯4に接触するように配置されて形成される地熱交換器5を備えている。地熱交換器5には、地上において温度・圧力・流量計6が接続され、さらに、圧力調整弁7を介して圧力調整装置8が接続されている。圧力調整装置8は、地熱交換器5の内部の圧力を監視して制御する機能を有している。また、地熱交換器5には、蒸気弁9を介して熱交換器10が接続されている。熱交換器10には加圧ポンプ11が接続され、加圧ポンプ11には作動流体補給槽12が接続されている。
【0029】
運転準備段階においては、地熱交換器5内の圧力が地熱帯4の温度によって決まる作動流体の飽和圧力となるまで、地熱交換器5内が加圧される。この運転準備段階における地熱交換器5内の加圧は、圧力調整弁7を経由して、圧縮された空気を地熱交換器5内に圧入することによって実施することができる。具体的には、温度・圧力・流量計6を用いて、地熱帯4の温度によって決まる作動流体の飽和圧力となるまで、圧力調整弁7から圧縮された空気を地熱交換器5内に圧入する。
【0030】
このように、地熱交換器5内を加圧して高圧の状態として、作動流体補給槽12から地熱交換器5内に作動流体が注入される。このとき、加圧ポンプ11を用いて作動流体補給槽12から地熱交換器5内に作動流体が圧入されるようにすることができる。また、運転準備段階における地熱交換器5内の加圧は、圧力調整弁7および蒸気弁9を閉にして地熱交換器5内を密閉し、作動流体補給槽12から地熱交換器5内に作動流体を注入することによっても達成することができる。
【0031】
熱交換器5内の圧力は、地熱帯4の温度によって決まる作動流体の飽和圧力となっているため、地熱交換器5内では、作動流体は沸騰することなく、高温高圧の作動流体が生成されて、地熱交換器5の下部領域に一定量滞留させる。
【0032】
この次の運転開始段階で、圧力調整弁7を閉じて、蒸気弁9を徐々に開くことによって、地熱交換器5内が徐々に減圧される。地熱交換器5内の圧力は、熱交換器10が必要とする蒸気圧力となるまで減圧されて、地熱帯4によって加熱された作動流体が蒸気となって上昇して熱交換器10に導入される。熱交換器10によって熱交換された蒸気は、冷却水によって液化され、加圧ポンプ11により地熱交換器5内へ注入されて下降し、管3の最深部で過熱されて、再び高温高圧の作動流体が生成される。このサイクルでは、熱供給される地熱の熱容量と、消費側の負荷側の熱量が同量になる蒸気量で平衡する。これを繰り返すことによって、連続して地熱エネルギーを取り出すことができる。
【0033】
運転中において地熱交換器5最深部に循環させる作動流体は、地熱帯4から熱供給を受けた圧力水の飽和圧力と、圧力水の水圧、および循環水の損失水頭の合計値から坑井の深度に比例する水圧を差し引いた分を加圧する。この場合中低温地熱帯では、地熱帯4の温度によって決まる飽和圧力が低いことも効果的に働いて、本発明における加圧ポンプ11の容量削減を図ることでシステムの効率をアップさせることができる。
【0034】
上述した運転中においては、圧力調整装置8によって、地熱交換器5内の圧力は、負荷である熱交換器10が必要とする蒸気圧力に常時監視されており、地熱交換システム1内に作動流体を循環させ、蒸気の温度、圧力、流量を監視し、必要なタイミングで蒸気弁9の開度を制御することで、その作動流体の飽和温度と比例関係にある、圧力を制御することで、生産できる蒸気量を安定的に制御し、地熱帯4からの熱伝導の時間遅れを補償するシステムを構築することができる。
【0035】
このように、運転開始段階で、圧力調整弁7によって徐々に減圧すると、地熱交換器5内部も減圧されていくので、加圧された高温の作動流体は気化し蒸気となって上昇し、地上の熱交換器10に導入される。熱交換された蒸気は、液化した後、加圧ポンプ11によって圧入され、地熱帯4によって再び熱せられ、連続して蒸気を生産することができる。
【0036】
作動流体として高度処理された純水を使うことにより、地熱交換システム1の内部はスケールが付着することなく、長期間の運転が可能となる。作動流体は、熱を供給する地熱地帯の温度と、取り出す蒸気温度に見合った、水又は水以外の最適な材料とすることを基本とする。
【0037】
地熱交換器5の上部には、緊急放散弁13が取り付けられている。本システムにおいて、負荷の急変、坑井の温度の急変等によって、地熱交換器5内の圧力が急上昇することが起こり得るが、このような事態が生じた場合には、緊急放散弁13によって、地熱交換器5内の圧力の調整を行うことができる。
【0038】
熱交換器10をタービンに置き換えると、発電システムとして機能することができる。さらに、熱交換器10内でバイナリー発電システムの作動流体と熱交換すれば、バイナリー発電として機能することができる。
【0039】
地熱交換器5の内部に、作動流体を下降させる内管14が、地熱交換器5を構成する外管15として機能する管3に挿入された構造とすることができ、内管14が外管15に挿入されたときの断面において、図2に示すように、内管14は外管15とは非同心円状であるようにすることができる。非同心円状であれば、既存の管3に対して後付けで内管14を設置する際に、設置の自由度が増して、設置を容易に行うことができる。なお、状況によっては、内管14は外管15とは、内管14が外管15に挿入されたときの断面において、同心円状の構造であってもよく、2重管とせずに単管構成としてもよい。なお、図2において、ケーシング2は省略している。
【0040】
地熱交換器5は、地熱帯4から熱が供給される集熱・蓄熱ゾーンとして機能する下部領域16と、下部領域16で得られた熱が上方に移動するための熱移動ゾーンとなる中間領域17と、地上に設置される熱交換器10に接続される上部領域18とによって構成されており、中間領域17は可とう管によって形成されている。上部領域18にはセメンティング19が施されている。
【0041】
図3に、斜めボーリングをした場合の地熱交換器の形状を示す。
図3において、地熱交換器5の中間領域17は可とう管によって形成されている。斜めボーリングでは、直管型の地熱交換器5を地中に挿入することができないが、可とう管を用いることによって、斜めボーリングの場合であっても、地熱交換器5を地中に容易に形成することができる。このようにして、ボーリングの難易度を低減することができ、特に、既存の熱坑井に挿入する難易度が減少し、坑井のリサイクルに貢献することができる。また、地熱交換器5の地震等の災害時における破断リスクを低減することができる。
【0042】
ボーリング時に設置したケーシング2の下部を閉鎖することによって、地熱交換器5の外管15とすることができ、これにより、ケーシングをそのまま地熱交換器5とすることができる。これにより、工事費の削減に大きく寄与する。
【0043】
複数の地熱交換器5の出力側が並列に接続されて構成され、それぞれの地熱交換器5を用いて得られる蒸気が合計して採集される構成とすることができる。
【0044】
地熱交換器5で得られる蒸気を合計して採集することにより、タービン・復水器・発電機・変圧器等の容量を大きく設計することができる。また、複数の地熱井の個別な温度変化等に起因する出力変化を平均化することにより、効率的なエネルギー採取が可能となる。
【0045】
本発明の地熱システム1では、加圧ポンプ11の容量を非常に小さく設計することができる。原理上、地熱交換システム1内を循環する作動流体は、負荷である、タービン20または熱交換器10が必要とする量だけを循環させればよく、損失水頭を小さく設計することができる。
【0046】
P=9.8QH/η(H=ポンプの全揚程、Q=循環水量、η=効率)で表されるポンプ容量は、作動流体の循環量に比例し、ポンプの全揚程の大部分を水圧で賄うことができるため、本システムのポンプ容量は劇的に小容量となり、システムの効率を高く設計することができる。
【0047】
以上説明したように、地熱交換システム1は、地熱帯4の高温部に達する地熱交換器5内で、地熱供給源の温度に相当する高温加圧の作動流体を作って貯留させ、高温加圧の作動流体の一部を、高温高圧の作動流体と、熱交換器5またはタービン20が必要とする蒸気圧力との差で、沸騰させ蒸気として取り出すものであり、気化して蒸気になった作動流体は熱交換して液化させ、加圧ポンプ11で貯留槽に戻して循環させる。
【0048】
一方、貯留している高温加圧の作動流体から気化させて蒸気として取り出した分に相当する熱量分は、地熱供給源から補給されるため、システム全体の熱バランスを平衡させる。約180℃以下の中低温地熱地帯では、坑井の温度変化が大きいため、システム全体の熱バランスは、高温加圧の作動流体の温度が高く、貯留量が多いほど高い温度で安定するため、運転開始前に高温の貯留流体を一定量作るシステムとしている。
【0049】
さらに、地熱交換器5の最深部の貯留流体内における熱移動のメカニズムは、地熱交換器5の上部での気化による熱損失を、貯留流体内における作動流体の「対流」で熱供給していくため、高温加圧の作動流体は、貯留槽にあたる地熱交換器5内の下部を大きくかき回していることが望ましい。そのため、作動流体を加圧ポンプ11で貯留槽に戻す位置は、坑井最深部とした。また、地熱供給源から熱供給を受ける外管15の下部領域16は、熱伝導に優れた材質とすることによって、熱供給の時間差をなくすことも重要である。
【0050】
また、地熱交換器5最深部においては、坑井の深度に比例する水圧は、地熱帯4から熱供給を受けた圧力水の飽和圧力と圧力水の水圧および循環水の損失水頭の合計値より大きい場合が多く、加圧ポンプ11の容量削減を図ることによって、システム全体の効率をアップさせることができる。また、地熱交換器5の底部に貯留する圧力水の量を大きくすることによって、地熱伝導の時間遅れを保証したシステムを構築することができる。
【0051】
図4に、本発明の実施形態に係る地熱発電システムの構成を示す。
地熱交換器5の構成は、図1に示すものと同様であり、運転準備段階においては、地熱交換器5内の圧力が地熱帯4の温度によって決まる作動流体の飽和圧力となるまで、地熱交換器5内が加圧される。この運転準備段階における地熱交換器5内の加圧は、圧力調整弁7を経由して、圧縮された空気を地熱交換器5内に圧入することによって実施することができる。また、運転準備段階における地熱交換器5内の加圧は、圧力調整弁7および蒸気弁9を閉にして地熱交換器内を密閉し、次の工程の、作動流体補給槽12から地熱交換器5内に作動流体を注入することで実施することができる。
【0052】
このように、地熱交換器5内を加圧して高圧の状態として、作動流体補給槽12から地熱交換器5内に作動流体が注入される。このとき、加圧ポンプ11を用いて作動流体補給槽12から地熱交換器5内に作動流体が圧入されるようにすることができる。
【0053】
熱交換器5内の圧力は、地熱帯4の温度によって決まる作動流体の飽和圧力となっているため、地熱交換器5内では、作動流体は沸騰することなく、高温高圧の作動流体が生成されて、地熱交換器5の下部領域に滞留する。
【0054】
この次の運転開始段階で、圧力調整弁7を閉じて、蒸気弁9を徐々に開くことによって、地熱交換器5内が徐々に減圧される。地熱交換器5内の圧力は、タービン20が必要とする蒸気圧力となるまで減圧されて、地熱帯4によって加熱された作動流体が蒸気となって上昇してタービン20に導入される。
【0055】
このように、高温高圧の作動流体の圧力と、タービン20が必要とする蒸気圧力で、熱供給と、タービン20の圧力とを平衡させて、連続して蒸気を生産する。蒸気はタービン20を動かした後、復水器21に導入され、復水器21によって液化された後、加圧ポンプ11によって地熱交換器5内に圧入され、地熱帯4によって再び熱せられ、連続して蒸気が生産される。
【0056】
表1に、作動流体を水とした場合における蒸気表を示す。
【0057】
【表1】
【0058】
この蒸気表が示す通り、地熱交換器5内の圧力が、大気圧(0.101Mpa)では、100℃、圧力が0.270MPaでは130℃の蒸気を取り出すことができる。水より質量が軽い作動流体とした場合は、さらに低温域まで蒸気として熱エネルギーを取り出すことができるため、この場合は、バイナリー発電、温泉生産等に利用することができる。
【0059】
地熱交換器5の内部の圧力は、タービン20が必要とする蒸気圧力に合わせて、圧力調整弁7に接続された圧力調整装置8によって常時監視、制御されており、原理的には、地熱帯4から熱の供給を受けて、高温の圧力水(例として温度約180℃、圧力1.002MPa)となっており、この圧力水の圧力より低い領域では、作動水は気化して蒸気になることを利用して、この高温圧力水より低い温度(例として、温度130℃に相当する飽和圧力0.27Mpa)をタービン20の圧力に設定される。
【0060】
タービンを駆動できる蒸気の温度を130℃とした場合、その沸騰圧は0.27Mpaである。熱源である坑井最下部で180℃の熱水(1.002Mpa)が得られた場合、管3内の圧力を0.27Mpaに設定しておけば、封入された水(作動液)は、瞬時に気化して蒸気となる。気化して蒸気となった作動液は、管3内を急速に上昇し、上部に設けられた、熱交換器10で冷却されて水にもどり、管3内を下降して再び熱せられて、蒸気となる。
【0061】
表2に、本発明と、特許第4927136号、特許第6176890号、特許第5839528号との比較を示す。
【0062】
【表2】
【0063】
図5と、表3に基づいて、加圧ポンプの揚程の削減の例について説明する。
表3は、本出願の共同出願人が所有する、大分県九重町くじゅう地区における温泉坑井のデータである。
【0064】
【表3】
【0065】
図5に示す(1)〜(5)の地点における圧力は、以下のものである。
(1)加圧ポンプが必要とする圧力
(2)循環水圧入口における、坑井の深さに比例する水圧
(3)圧力水の飽和圧力
(4)圧力水圧入口における圧力水の水位による水圧
(5)循環水の損失水頭
【0066】
加圧ポンプが必要とする圧力Pは、
(1)=(3)+(4)+(5)-(2) (単位MPa)であり、
加圧ポンプの容量(kW)
=9.8×循環水量(t/s)×ポンプ揚程(m)×100÷効率
であるから、180℃の圧力水帯に圧入するポンプの必用揚程のうち、大半を水圧で賄うことができる。
【0067】
坑井深度が深く、坑井温度が低い表4のような場合において、下記の計算が成り立つ場合には、加圧ポンプは不要とすることができる。
0>(3)+(4)+(5)-(2)=−6.1595
【0068】
【表4】
【0069】
ここでの計算条件は、循環水の損失水頭は無視し、圧力水の最深部からの高さを200mとしている。一般的な坑井では、圧力水を得られる深度で得られる水圧は、飽和蒸気圧より1桁大きい数値となるため、加圧ポンプは不要となる場合が多い。
【0070】
なお、すでに実用化されている「ヒートパイプ」の技術と、本発明との比較について、以下に説明する。
ヒートパイプ方式として実用化されているものは、熱交換器内を大気圧の状態または減圧した後、作動流体を封入するものであり、作動流体の沸点を下げることによって、作動流体を気化させ蒸気として取り出す。熱交換した後、作動流体は液体に戻って管内を循環する。下降する作動流体と上昇する液体との作動流体間で熱交換するため、効率が悪くなる。
【0071】
これに対し、本発明は、運転準備段階において、管内を加圧した後、作動流体を加圧ポンプで圧入、または、地熱交換器内を密閉することで、高温の作動流体を生成するものであり、この点においてヒートパイプ方式と大きく相違する。管の底部に高圧・高温の作動流体を滞留させ、運転初期に蒸気弁を開いて負荷をかけると、高圧・高温の作動流体は、地熱の容量と負荷の間で平衡する。圧入する作動流体の管路を作ってやることによって、上昇する蒸気と下降する液体状の作動流体間の熱交換を防止し、効率を向上させている。さらに、作動流体を管の最下部に圧入することで、作動流体を熱交換器内底部の貯留層内を対流させ、熱交換をスムーズに行わせる。平衡する温度と圧力は地熱帯の容量、負荷の圧力で決まるが、一定に保持すると長期間安定した蒸気の生産ができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、全国的に圧倒的に数多く分布する約180℃以下の中低温の地熱帯を利用して、蒸気を生産することができるため、利用対象となる地熱帯を増やすことができる地熱交換システムとして広く利用することができる。また、多数の地点において地熱発電を実現することができる。特に、発電出力50kW以下の低圧での発電が数多く適用できることにより、電力会社への連携接続申請、手続きが不要となり、地熱発電の開発に寄与することができる。また、送電線、配電線の通っていない地区へのコンパクトな地熱発電システムとして利用することができる。
【符号の説明】
【0073】
1 地熱交換システム
2 ケーシング
3 管
4 地熱帯
5 地熱交換器
6 温度・圧力・流量計
7 圧力調整弁
8 圧力調整装置
9 蒸気弁
10 熱交換器
11 加圧ポンプ
12 作動流体補給槽
13 緊急放散弁
14 内管
15 外管
16 下部領域
17 中間領域
18 上部領域
19 セメンティング
20 タービン
21 復水器
【要約】
【課題】約180℃以下の中低温の地熱帯を用いても、効率良く熱交換を行うことが可能な地熱交換システムを提供する。
【解決手段】地中に設けられた管3の下部領域が地熱帯4に接触するように配置された地熱交換器5と、地熱交換器5の内部の圧力を監視して制御する圧力調整装置8と、圧力調整装置8に接続された圧力調整弁7とを備え、運転準備段階において、地熱帯4の温度によって決まる作動流体の飽和圧力まで、地熱交換器5内が加圧され、地熱交換器5内に作動流体が注入されて、作動流体が沸騰することなく高温高圧の作動流体が生成されて一定量貯留された後、タービンが必要とする蒸気圧力となるまで、地熱交換器5内部が減圧されて蒸気が生産される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5