(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403380
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】ビールテイスト発酵飲料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12G 3/00 20060101AFI20181001BHJP
C12C 5/00 20060101ALI20181001BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
C12G3/00
C12C5/00
A23L2/00 B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-259404(P2013-259404)
(22)【出願日】2013年12月16日
(65)【公開番号】特開2015-116125(P2015-116125A)
(43)【公開日】2015年6月25日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100122297
【弁理士】
【氏名又は名称】西下 正石
(72)【発明者】
【氏名】多鹿 陽介
【審査官】
坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−149367(JP,A)
【文献】
特開平10−225287(JP,A)
【文献】
特開2001−037462(JP,A)
【文献】
特開2003−000296(JP,A)
【文献】
特開2010−246508(JP,A)
【文献】
特公昭36−014294(JP,B1)
【文献】
特開2012−000038(JP,A)
【文献】
特開平05−176748(JP,A)
【文献】
特開2006−158268(JP,A)
【文献】
醸協,1986年,Vol.81, No.4,p.244-251
【文献】
醸協,1989年,Vol.84, No.11,p.739-745
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12G 3/00
A23L 2/00
C12C 5/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/WPIDS/BIOSIS/FSTA(STN)
日経テレコン
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖分を含有し、酵母によるアルコール発酵が可能な液を、酵母を用いて発酵させて得られるビールテイスト発酵飲料の製造方法であって、発酵に供する前の該液にa群アミノ酸のみを添加する工程を包含し、発酵は12℃以上25℃以下の温度で行われ、被糖化原料中の麦芽の含有量が25重量%を超える量であるビールテイスト発酵飲料の製造方法。
【請求項2】
前記a群アミノ酸がアスパラギン、アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸及びセリンからなる群から選択される少なくとも一種である請求項1に記載のビールテイスト発酵飲料の製造方法。
【請求項3】
前記a群アミノ酸の添加量は、糖分を含有し、酵母によるアルコール発酵が可能な液1kl当り0.01kg以上になる量である請求項1又は2に記載のビールテイスト発酵飲料の製造方法。
【請求項4】
前記a群アミノ酸の添加量は、糖分を含有し、酵母によるアルコール発酵が可能な液1kl当り0.2〜2.0kgになる量である請求項1又は2に記載のビールテイスト発酵飲料の製造方法。
【請求項5】
前記酵母が下面発酵酵母を含む請求項1〜4のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵飲料の製造方法。
【請求項6】
糖分を含有し、酵母によるアルコール発酵が可能な液にa群アミノ酸を添加しない場合と比較して、高級アルコールの生成量が低減される請求項1〜5のいずれか一項に記載のビールテイスト発酵飲料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビールテイスト発酵飲料の製造方法に関し、特に、高温発酵によるビールテイスト発酵飲料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビールテイスト発酵飲料とは、発酵工程を経て製造された、ビール様の風味を持つ飲料を言う。本発明のビールテイスト発酵飲料の種類としては、例えば、日本の酒税法上の名称におけるビール、発泡酒、リキュール類が含まれ、また、低アルコールの発酵飲料(例えばアルコール分1%未満の発酵飲料)、スピリッツ類、ノンアルコールのビールテイスト飲料なども含まれる。
【0003】
一般にビールテイスト発酵飲料は、被糖化原料として、麦芽、麦芽以外の副原料(即ち、米、大麦、小麦、コーン、スターチ等の澱粉質)又はこれらの混合物を用いて製造される。つまり、麦芽の活性酵素を利用して(又は、発泡酒等では酵素そのものを添加する場合がある)、被糖化原料の澱粉質を糖化させ、得られた糖化液に酵母を添加してアルコール発酵させるのである。被糖化原料に麦芽が含まれる場合、糖化液を麦汁ということがある。一般に、糖化液にはホップ、香料等が添加され、要すれば更に煮沸が行われることで、ビールテイストが付与される。
【0004】
また、麦芽を使用しないビールテイスト発酵飲料では、炭素源を含有するシロップ、麦類等の穀類、スターチ等、およびアミノ酸含有材料などの窒素源、水、ホップの原材料を使用し、更に、必要に応じて色素、起泡・泡持ち向上物質と必要に応じて香料等を添加して原料液を造り、当該原料液に通常のビール製造工程と同様にビール酵母を添加し、アルコール発酵させる。
【0005】
従来、ビールテイスト発酵飲料の香味を調節する方法として、発酵工程で酵母が資化するアミノ酸量を増大させたり、発酵時に一定時間通気を行うことにより、発酵を増進させる方法が知られている。アミノ酸は酵母が増殖するために欠かせない栄養素であり、不足すると酵母の代謝機能に異常が生じ、発酵不順臭と呼ばれる不快臭が発生しやすくなる。他方、アミノ酸は酵母によって代謝されることにより高級アルコール、エステル等の香気成分に変化し、ビールテイスト発酵飲料に発酵香を付与する成分である。
【0006】
特許文献1には、ビールや雑酒のような発酵アルコール飲料の製造方法において、原料の一部に該小麦グルテンや大豆タンパクのようなビール酵母高資化性アミノ酸高含有蛋白原料の分解物又はその調製物を用いることにより、ビール酵母による発酵を促進して、発酵アルコール飲料の味覚・風味を増進させることが記載されている。
【0007】
特許文献2には、とうもろこしタンパク分解物が分枝アミノ酸の1つであるロイシンを麦芽などに比べ豊富に含むこと、および、これを発酵液のアミノ酸源として添加し酵母発酵した場合、飲料中の酢酸イソアミル含量は非常に高くなり、麦芽を全くまたは少量しか原料に使用しなくても発酵飲料にビール様の風味を与えうることが記載されている。
【0008】
特許文献3には、麦汁に酵母を添加して発酵させる発酵麦芽飲料の製造において、発酵タンクへ酵母を添加した後の発酵時に、一定時間通気を行うことにより、発酵を促進し、尚且つ香味バランスのとれた優れた香味の発酵麦芽飲料を製造することが記載されている。
【0009】
ビールテイスト発酵飲料の製造期間を短縮する手段の1つに高温発酵が挙げられる。酵母による糖のアルコールへの変換が速まるため、発酵期間を短縮する事が出来る。一方で高級アルコール等の香気成分の生成量も増加するため、高温発酵技術の使用は香気の豊かなビールテイスト発酵飲料(例えばエールビール)に限られ、強い香気を必要としないビールテイスト発酵飲料(例えばピルスナータイプのビール類)で採用する事は困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−158268号公報
【特許文献2】特開2012−105673号公報
【特許文献3】特開2003−102458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来の問題を解決するものであり、ビールテイスト発酵飲料を高温で発酵させた場合に問題となる、香気成分の生成量の増大を抑制する製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討する中で、ビールテイスト発酵飲料を高温発酵させる場合に、特定のアミノ酸を添加することで、主たる香気成分である高級アルコールの生成を抑制することが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち具体的に本発明は、糖分を含有し、酵母によるアルコール発酵が可能な被発酵液を、酵母を用いて発酵させて得られるビールテイスト発酵飲料の製造方法であって、発酵が完了する前の被発酵液にa群アミノ酸を添加する工程を包含し、発酵は12℃以上の温度で行われるビールテイスト発酵飲料の製造方法を提供する。
【0014】
ある一形態においては、前記a群アミノ酸がアスパラギン、アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸及びセリンからなる群から選択される少なくとも一種である。
【0015】
ある一形態においては、前記a群アミノ酸の添加量は、被発酵液1kl当り0.01kg以上になる量である。
【0016】
ある一形態においては、前記a群アミノ酸の添加量は、被発酵液1kl当り0.5〜2.0kgになる量である。
【0017】
ある一形態においては、前記発酵が完了する前の被発酵液は発酵に供する前の被発酵液である。
【0018】
また、本発明は、上記いずれかに記載の方法によって製造されたビールテイスト発酵飲料を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、香気の生成が抑制されたビールテイスト発酵飲料を、短時間で製造することができるビールテイスト発酵飲料の製造方法が提供される。本発明の方法で得られるビールテイスト発酵飲料は、麦芽や大麦、または他の植物性原料のたんぱく質等に由来する旨味、コク感を維持しながら香気が低減されており、嗜好性が高い。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明におけるビールテイスト発酵飲料の製造方法は、発酵工程において高温発酵を行うこと、及び発酵工程が完了する前に、特定のアミノ酸を添加すること以外は、通常のビールテイスト発酵飲料(ビール等)の製造手順に従って実施することができる。
【0021】
ここで高温発酵とは、「ビール」の一般的な発酵温度である7〜11℃(平成14年3月15日発行「ビールの基本技術」;編集ビール酒造組合 に記載)より高い12℃以上の温度で発酵させることをいう。
【0022】
例えば一例として、麦芽を原料として使用するビールテイスト発酵飲料の場合、まず麦芽の破砕物、大麦等の副原料、及び温水を仕込槽に加えて混合してマイシェを調製する。マイシェの調製は、常法により行うことができ、例えば、35〜50℃で20〜90分間保持することにより行うことができる。また、必要に応じて、主原料と副原料以外にも、後述する糖化酵素やプロテアーゼ等の酵素剤や、スパイスやハーブ類等の香味成分等を添加してもよい。
【0023】
その後、該マイシェを徐々に昇温して所定の温度で一定期間保持することにより、麦芽由来の酵素やマイシェに添加した酵素を利用して、澱粉質を糖化させる。糖化処理時の温度や時間は、用いる酵素の種類やマイシェの量、目的とする麦芽アルコール飲料の品質等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、60〜72℃にて30〜90分間保持することにより行うことができる。糖化処理後、76〜78℃で10分間程度保持した後、マイシェを濾過槽にて濾過することにより、透明な糖化液を得る。
【0024】
上記副原料とは、麦芽とホップ以外の原料を意味する。該副原料として、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃん等の澱粉原料や、液糖や砂糖等の糖質原料がある。ここで、液糖とは、澱粉質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されたものであり、主にグルコース、マルトース、マルトトリオース等が含まれている。その他、香味を付与又は改善することを目的として用いられるスパイス類、ハーブ類、及び果物等も、副原料に含まれる。
【0025】
上記糖化酵素とは、澱粉質を分解して糖を生成する酵素を意味する。該糖化酵素として、例えば、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ、プルナラーゼ等がある。
【0026】
被糖化原料中の麦芽の含有量は、特に限定されない。被糖化原料中の麦芽の含有量が多いほど、得られるビールテイスト発酵飲料の麦芽由来の旨味やコク感が強くなる。また、被糖化原料中の麦芽の含有量が多いほど得られる被発酵液中の窒素化合物の含有量が多くなり、窒素化合物の代謝産物に由来する香気は一般的に強くなる。被糖化原料は副原料のみから成るものであってよい。被糖化原料中の麦芽の含有量は、例えば、10重量%以上、25重量%を超える量、30重量%以上、50重量%以上である。被糖化原料は麦芽100%であってもよい。
【0027】
上記被発酵液とは、糖分を含有し、酵母によるアルコール発酵が可能な液をいう。被発酵液は、被糖化原料を糖化して得られる糖化液又は麦汁であっても、酵母が資化可能な栄養を水に溶解して得られる原料液であってもよい。
【0028】
被発酵液の煮沸を行う場合は、ビールを製造する際に通常行われる方法及び条件に従って行えばよい。例えば、糖化液を煮沸釜に移し、ホップを加えて煮沸する。ホップは、煮沸開始から煮沸終了前であればどの段階で混合してもよい。煮沸した糖化液を、ワールプールと呼ばれる沈殿槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固した蛋白質等を除去した後、プレートクーラーにより適切な発酵温度まで冷却する。
【0029】
被発酵液は、次いで、発酵させる。発酵の操作は常法に従って行えばよい。例えば、冷却した糖化液に酵母を接種して、発酵タンクに移し、発酵を行う。被発酵液に摂取する酵母は高温発酵時の温度条件下でアルコール生成及び増殖するものであれば、その種類は特に限定されない。
【0030】
被発酵液の発酵を行う際には、被発酵液にa群アミノ酸を添加する。ここでいうアミノ酸には、アミノ酸そのもの及びアミノ酸誘導体が含まれる。アミノ酸誘導体とはアミノ酸を改変した物質であって、アミノ酸としての性質を実質的に維持している物質をいう。アミノ酸誘導体には、例えば、アミノ酸塩及びアミノ酸水和物が含まれる。
【0031】
酵母はアミノ酸をランダムに取り込む訳ではなく、a群、b群、c群の順に優先順位をつけてアミノ酸を取り込む。特にビールの香気に影響する高級アルコールには、イソブタノール、イソアミルアルコール、βフェネチルアルコールが挙げられる。これらの高級アルコールの前駆体となるアミノ酸はb群、c群に分類される。a群アミノ酸を添加する事で、酵母のb、c群アミノ酸の取込みが抑制され、高級アルコールが減少する。高級アルコール生成量が低減される結果、得られる発酵麦芽飲料の香気は低減される。
【0032】
尚、酵母により利用される被発酵液中のアミノ酸はその使用される順序によって、次のように分類されている。(Jones & Pierce, 1964)
a群:発酵が始まって直ぐに使用されるアミノ酸[アスパラギン、アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸、スレオニン、セリン、リジン]。
b群:発酵期間全体にわたって使用されるアミノ酸[イソロイシン、バリン、ヒスチジン、メチオニン、ロイシン]。
c群:グループAが大部分使用された後に使用されるアミノ酸[アラニン、アンモニア、グリシン、チロシン、トリプトファン、フェニルアラニン]。
d群:ほとんど使用されないアミノ酸[プロリン]。
【0033】
a群アミノ酸の中でも好ましいものはアスパラギン、アスパラギン酸、アルギニン、グルタミン、グルタミン酸及びセリンから成る群から選択される少なくとも一種である。スレオニン、リジンを唯一の窒素源とした培地において、酵母の増殖速度が著しく低下する事がある(Cooper, T. G. (1982) Nitrogen Metabolism in Saccharomyces cerevisiae. In The Molecular Biology of The yeast Saccharomyces; Metabolism and Gene Expression (Eds J. N. Strathern, E. W. Jones and J. R. Broach). 39-99. US. Cold Spring Horbor Laboratory)。
【0034】
より好ましいa群アミノ酸は、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン及びグルタミン酸から成る群から選択される少なくとも一種である。特に好ましいa群アミノ酸はグルタミン及びグルタミン酸である。被発酵液に添加するa群アミノ酸は1種類であっても、2種類以上であってもよい。
【0035】
a群アミノ酸の添加量は特に限定されない。発酵が完了するまでに酵母が取り込むアミノ酸の量及び得られるビールテイスト発酵飲料の香気の強弱を考慮して決定すればよい。
【0036】
好ましい一形態においては、a群アミノ酸の添加量は、被発酵液1キロリットル当りに0.01kg以上、より好ましくは0.1〜3.0kg、さらに好ましくは0.2〜2kgである。
【0037】
a群アミノ酸を添加する時期は、被発酵液の発酵が完了する前であれば特に限定されない。a群アミノ酸の酵母による取り込みが開始される時期及び得られるビールテイスト発酵飲料の香気の強弱を考慮して決定すればよい。得られるビールテイスト発酵飲料の香気はa群アミノ酸の添加時期が早いほど低減する。好ましい一形態においては、a群アミノ酸は発酵に供される前の被発酵液に添加される。つまり、この場合、a群アミノ酸の添加時期は発酵が開始される前である。
【0038】
前述のとおり、ビール類の発酵は通常7〜11℃で行なわれる。本発明における高温発酵とはそれ以上の温度、すわなち12℃以上での発酵を意味する。発酵温度は発酵条件に依存して変化するが、例えば、13℃以上、15℃以上、であってよい。発酵温度の上限は、例えば、25℃、又は20℃であってよい。得られる麦芽発酵飲料の香気は発酵温度が高いほど増加する。発酵温度が25℃を越えると、使用する酵母の種類に依存して発酵が正常に進行しない場合がある。
【0039】
発酵期間は発酵条件に依存して変化するが、1〜15日、好ましくは2〜8日、より好ましくは3〜6日の範囲から選択される。
【0040】
麦汁に接種する酵母の量は発酵条件に依存して変化するが、麦汁1ml当たり5×10
6〜50×10
6個、好ましくは10×10
6〜30×10
6個、より好ましくは15×10
6〜25×10
6個の範囲から選択される。
【実施例】
【0041】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0042】
実施例1
試験に供した麦汁は、原料に麦芽、スターチ、コーン、米を使用し、麦芽の割合が70重量%になるよう原料の配合を調整した。まず常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却した。試験サンプルには、グルタミンを冷麦汁に対して0.2、0.5、1.0、2.0kg/klになるように添加した。対照サンプルには何も添加しなかった。2L容の発酵槽に麦汁を添加し、20×10
6cells/mlになるよう下面発酵酵母を接種し、15℃で5日間発酵させた。得られた発酵液の高級アルコール(イソブタノール、イソアミルアルコール、βフェネチルアルコール)濃度を測定した。また、ビール専門パネリストにより香気強度、発酵不順臭の有無を評価した。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
この結果、グルタミンを添加した試験サンプルでは、全ての添加条件において高級アルコールが低減されていた。また、ビール専門パネリストによる評価において、香気強度が低下していた。また、試験、対照ともに発酵不順臭は感じられなかった。
【0045】
実施例2
試験に供した麦汁は、原料に麦芽、スターチ、コーン、米を使用し、麦芽の割合が70重量%になるよう原料の配合を調整した。まず常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却した。試験サンプルには、a群アミノ酸、またはその塩類、またはその水和物であるグルタミン、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン一水和物、アスパラギン酸ナトリウム、セリンを冷麦汁に対してそれぞれ1.0kg/klになるように添加した。対照サンプルには何も添加しなかった。2L容の発酵槽に麦汁を添加し、20×10
6cells/mlになるよう下面発酵酵母を接種し、15℃で5日間発酵させた。得られた発酵液の高級アルコール(イソブタノール、イソアミルアルコール、βフェネチルアルコール)濃度を測定した。また、ビール専門パネリストにより香気強度、発酵不順臭の有無を評価した。結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
この結果、グルタミン、グルタミン酸ナトリウム、アスパラギン一水和物、アスパラギン酸ナトリウム、セリンを添加した試験サンプルでは、何も添加しなかった対照サンプルと比べて高級アルコールが低減されていた。また、ビール専門パネリストによる評価において、香気強度が低下していた。また、試験、対照ともに発酵不順臭は感じられなかった。
【0048】
実施例3
試験に供した麦汁は、原料に麦芽、大麦、スターチ、コーンを使用し、麦芽の割合が48重量%になるよう原料の配合を調整した。まず常法に従って糖化液を製造した。得られた糖化液を麦汁ろ過槽を用いて濾過し、得られた麦汁にホップを添加した後、煮沸した。次いで、麦汁を沈降槽に移して沈殿物を分離、除去した後、約7℃に冷却した。発酵には5,000L容の発酵槽を用い、20×10
6cells/mlになるよう下面発酵酵母を接種した。試験1は10℃で7日間発酵させた。試験2では15℃で5日間発酵させた。試験3ではグルタミンを冷麦汁に対して0.8kg/klになるように添加し、15℃で5日間発酵させた。得られた発酵液の高級アルコール(イソブタノール、イソアミルアルコール、βフェネチルアルコール)濃度を測定した。また、ビール専門パネリストにより香気強度、発酵不順臭の有無を評価した。結果を表3に示す。
【0049】
【表3】
【0050】
その結果、発酵温度10℃の試験1と比較して、発酵温度15℃の試験2では高級アルコール生成量が増加した。またグルタミンを添加した試験3では、15℃で発酵させたにもかかわらず、高級アルコール生成量は抑制され、発酵温度10℃の試験1と高級アルコール生成量は同程度であった。また、ビール専門パネリストによる評価において、試験3は試験1と同程度の香気強度であった。また、試験1、試験2、試験3のどの試験区においても発酵不順臭は感じられなかった。