【実施例】
【0019】
まず、本実施例に係る紙幣処理装置10による紙幣の汚損度合いの判定処理の概要を、
図1を用いて説明する。
【0020】
まず、紙幣処理装置10に投入された紙幣に対して赤色光を照射時の画像と、緑色光を照射時の画像と、紫色光を照射時の画像と、赤外光を照射時の画像とを取得する。次に、取得した画像から、投入された紙幣の発行国、紙幣の金種及び投入された紙幣の方向を判別する。紙幣処理装置10は、紙幣の発行国、紙幣の金種及び投入された紙幣の方向ごとに、汚損判定に使用する画像の種類と、画像の種類ごとの汚損判定に使用する判定エリアと、画像の種類ごとの汚損判定に使用する中間評価値を算出するための係数を有している。これらの情報に基づいて、金種・方向判別処理で判別した紙幣の発行国、紙幣の金種及び投入された紙幣の方向によって、投入された紙幣に対応する汚損判定に使用する画像の種類と、画像の種類ごとの汚損判定に使用する判定エリアと、画像の種類ごとの汚損判定に使用する中間評価値を算出するための係数を特定する。
【0021】
次に、画像取得処理で取得した画像と、金種・方向判別処理で特定した汚損判定に使用する画像の種類と、画像の種類ごとの汚損判定に使用する判定エリアと、画像の種類ごとの汚損判定に使用する中間評価値を算出するための係数とを用いて、赤色光照射時画像に対する中間評価値と、緑色光照射時画像に対する中間評価値と、紫色光照射時画像に対する中間評価値とを算出する。
【0022】
赤色光照射時画像に対する中間評価値の算出方法を説明する。赤色光照射時画像に対する判定エリアの画素の画素値を、赤外光照射時の画像の同じ位置の画素の画素値に対する割合を、判定エリアに含まれる全ての画素に対して算出することによって、判定エリアに対応する赤色光照射時画像のIR比画像を作成する。赤色光照射時画像に対する中間評価値は、赤色光照射時画像のIR比画像に含まれる全ての画素の画素値の合計に赤色光照射時画像に対する係数を乗ずることによって算出することができる。同様にして、緑色光照射時画像に対する中間評価値及び紫色光照射時画像に対する中間評価値も算出する。
【0023】
赤外光照射時の画像は紙幣の汚損の度合いの影響が少ないことから、IR比画像を使用することによって、紙幣と光源とセンサの位置関係によって発生しうる画素値のバラツキの影響を軽減することができる。また、画像ごとに決められた係数は、判定対象の紙幣の光学的な特性に応じて可視光の種類によって発生する画素値のレベル差を補正するためのものである。つまり、IR比画像を使用することによって、同一紙幣の汚損度の判定において、紙幣と光源とセンサの位置関係によって発生していた判定のバラツキが低減されることに効果がある。また、画像ごとに決められた係数は、判定対象の紙幣の光学的な特性に応じて可視光の種類によって発生する画素値のレベル差を補正することによって、人の目による判断との整合を取ることに効果がある。
【0024】
紙幣処理装置10は、事前に紙幣の種類及び方向ごとに十分な枚数の紙幣による赤色光照射時画像に対する中間評価値、緑色光照射時画像に対する中間評価値及び紫色光照射時画像に対する中間評価値を算出して、それらのデータから算出したそれぞれの中間評価値の平均値や分散共分散行列を保持している。これらのそれぞれの中間評価値の平均値及び分散共分散行列と、判定対象の紙幣に対する中間評価値とから、最終評価値である判定対象の紙幣に対する中間評価値のマハラノビス距離を算出する。紙幣処理装置10は、紙幣の種類及び方向ごとにあらかじめ決められた判定閾値と比較することによって、判定対象の紙幣の汚損の度合いを判定する。
【0025】
このように、紙幣に赤色光、緑色光、紫色光及び赤外光を照射し、紙幣によって反射した反射光を受光し、照射した光の波長ごとの画像を取得し、取得した画像に基づいて紙幣の発行国、金種及び
向きを識別する。さらに、可視光の照射によって受光した受光データの画素値の、赤外光の照射によって受光した受光データの画素値に対する比率を画素値とする比率の画像を生成する。さらに、紙幣の発行国、金種及び
向きの情報と、照射した可視光の波長に応じた係数と、生成した比率の画像とを用いて照射した光の波長ごとの中間評価値を算出する。このようにして算出した中間評価値と、当該中間評価値の平均値、分散共分散行列に基づいて、判定対象の紙幣の中間評価値のマハラノビス距離を算出して、当該マハラノビス距離を用いて汚損度合いの判定を行うようにしたので、紙幣の汚損度合いの判定に係る信頼性を向上させるとともに、多種多様な紙幣を判定対象にすることができる。
【0026】
次に、本実施例に係る紙幣処理装置10の外観構成を説明する。
図2は、本実施例に係る紙幣処理装置10の外観構成を示す図である。
【0027】
図2に示すように、紙幣処理装置10は装置内部の機構を筐体12で覆っている。また、紙幣処理装置10の前面には、計数を行う複数の紙幣を積層状態で載置することのできる載置部14と、紙幣処理装置10の処理状況の表示や紙幣に係る処理の指示操作を行うことのできる操作表示部62と、真正な紙幣ではない若しくは損券であると判定された紙幣が搬送されるリジェク卜部40と、真正な紙幣であると判定された紙幣が搬送される集積部30とが配置される。
【0028】
図2の載置部14の底部に見えるローラ端は、載置部14に載置した紙幣を筐体12の内部に1枚ずつ繰り出すためのキッカローラ16aである。操作表示部62は、紙幣処理装置10の処理状況の表示を行うLCD等からなる表示部62aと、紙幣に係る処理の指示操作を行うことのできる操作キー62bとを有している。
【0029】
リジェク卜部40の前面には左右一対の紙幣整列部材42が設けられており、それぞれの紙幣整列部材42は
図2に示す位置から操作者が手動で筐体12の前方に(すなわち、
図2における左方手前に)倒すことができるようになっている。このため、リジェク卜部40に搬送された紙幣は紙幣整列部材42により整列された状態でリジェク卜部40に集積され、紙幣整列部材42を筐体12の前方に倒すことにより、操作者はリジェク卜部40から紙幣を取り出すことができる。
【0030】
集積部30の前面には、集積部30の開口を閉止するためのシャッター34が設けられており、このシャッター34により集積部30の前面の開口が選択的に閉止されるようになっている。
【0031】
次に、
図2に示した紙幣処理装置10の内部の概略的な物理構成を説明する。
図3は、紙幣処理装置10の内部の概略的な物理構成を示す内部物理構成図である。
【0032】
紙幣処理装置10は、載置部14に載置された複数の紙幣のうち最下層にある紙幣を筐体12の内部に1枚ずつ繰り出すための繰出部16と、筐体12の内部に設けられ、繰出部16により筐体12の内部に繰り出された紙幣を1枚ずつ搬送する搬送通路18とを備えている。また、搬送通路18には、繰出部16により筐体12の内部に繰り出された紙幣の識別および計数を行うための識別計数部20が設けられている。
【0033】
繰出部16は、載置部14に積層状態で載置された複数の紙幣のうち最下層にある紙幣の表面に当接するキッカローラ16aと、紙幣の繰出方向においてキッカローラ16aの下流側に配置され当該キッカローラ16aにより蹴り出された紙幣について筐体12の内部への繰り出しを行うフィードローラ16bとを有している。また、フィードローラ16bに対向して逆転ローラ16cが設けられており、フィードローラ16bと逆転ローラ16cとの間にゲー卜部16dが形成されている。キッカローラ16aにより蹴り出された紙幣はゲー卜部16dを通過して1枚ずつ筐体12内の搬送通路18に繰り出されるようになっている。また、筐体12の内部には、繰出部16の駆動を行う繰出部駆動機構17(
図6参照)が設けられている。この繰出部駆動機構17は、キッカローラ16aやフィードローラ16bを回転させる繰出モータと、キッカローラ16aやフィードローラ16bの回転速度を検出する回転速度センサと、回転速度センサにより検出された回転速度に基づいて繰出モータの回転速度を制御する速度制御手段とを有している。
【0034】
また、
図3に示すように、載置部14には紙幣有無センサ15が設けられている。この紙幣有無センサ15は、載置部14における紙幣の有無を検出するようになっている。具体的には、紙幣有無センサ15は発光部と受光部が一体構成された反射型の光センサであり、載置部14に紙幣が存在する場合には、発光部から発せられた光が紙幣に反射して受光部に光が届き、紙幣が存在しない場合には反射することなく光が受光部に届かない。このことにより紙幣有無センサ15は載置部14に紙幣が存在するか否かを検出する。
【0035】
搬送通路18は、紙幣を搬送する通路を示すもので、ローラと図示しない紙幣ガイド、及びローラとローラの間に紙幣が挟まれた状態で搬送されるようになっている。また、筐体12の内部には、搬送通路18の紙幣搬送に係る搬送部の駆動を行う搬送部駆動機構19(
図6参照)が設けられている。この搬送部駆動機構19は、駆動ローラを回転させる搬送モータと、搬送モータの速度を制御する速度制御手段とを有している。ここで、繰出部駆動機構17および搬送部駆動機構19がそれぞれ設けられていることにより、繰出部16および搬送通路18の紙幣搬送に係る搬送部は異なる駆動系により駆動される。
【0036】
また、搬送通路18には、繰出部16により筐体12の内部に繰り出された紙幣の識別および計数を行うための識別計数部20が設けられている。
図3に示すように、識別計数部20は、ラインセンサ21、厚み検出センサ20bおよび磁気センサ20cを有している。ラインセンサ21は、紙幣の搬送路を挟むように設けられており、光を発する光源および入ってきた光の強度を測定する受光センサを有している。ラインセンサ21では、発光部から複数種類の波長の光を紙幣に照射して、紙幣によって反射された光の強度と紙幣を透過した光の強度とを測定することができるようになっている。詳細な構造は後述する。厚み検出センサ20bは、この厚み検出センサ20bを通過する紙幣の厚みを検出するようになっており、検出された紙幣の厚みに基づいて、紙幣に札折れ部分があるか、2枚以上の紙幣の重送が行われたか、あるいは紙幣のある部分にテーフ等が貼られているか等を検出することができるようになっている。磁気センサ20cは、この磁気センサ20cを通過する紙幣のインク等に含まれる磁気成分を検出するようになっており、このことにより磁気センサ20cにおいて紙幣の磁性に関する検出値が算出されるようになっている。識別計数部20は、ラインセンサ21、厚み検出センサ20bおよび磁気センサ20cによるそれぞれの検出結果に基づいて、紙幣の真偽、正損、金種等の識別や、紙幣の搬送異常が発生しているか否か等の識別を行うとともに、紙幣の計数を行うようになっている。
【0037】
図3に示すように、識別計数部20よりも下流側の箇所において搬送通路18は2つの搬送路に分岐しており、一方の搬送路の下流側端部には集積部30が接続されており、他方の搬送路の下流側端部にはリジェク卜部40が接続されている。識別計数部20により識別および計数が行われた紙幣は、集積部30またはリジェク卜部40に選択的に送られるようになっている。集積部30の前面(
図3における左側の面)には開口が設けられており、操作者はこの開口を介して集積部30に集積された紙幣を取り出すことができるようになっている。また、リジェク卜部40の前面にも開口が設けられており、操作者はこの開口を介してリジェク卜部40に集積された紙幣を取り出すことができるようになっている。
【0038】
図3に示すように、搬送通路18における2つの搬送路に分岐する箇所には、分岐部材と図示しない駆動部とを有する分岐部22が設けられており、この分岐部22により、当該分岐部22の上流側から送られた紙幣が、分岐した2つの搬送路のうちいずれか一方の搬送路に選択的に送られるようになっている。
【0039】
集積部30において、
図3の集積部30における右側の位置には羽根車式集積機構32が設けられている。羽根車式集積機構32の羽根車32aは、紙幣処理装置10の動作中、駆動部により常に
図3における矢印の方向に回転させられるようになっており、この羽根車32aには、搬送通路18から紙幣が1枚ずつ送られるようになっている。そして、羽根車32aは、搬送通路18から送られた紙幣を2枚の羽根32bの間に受け止めてこの羽根32b間に受け止められた紙幣を集積部30に送るようになっている。このようにして、集積部30には羽根車32aから紙幣が1枚ずつ送られ、この集積部30において複数の紙幣が整列された状態で集積される。
【0040】
図3に示すように、紙幣処理装置10には、集積部30の前面に設けられた開口を閉止するためのシャッター34が設けられている。筐体12の内部には、シャッター34の駆動を行うシャッター駆動機構35(
図6参照)が設けられている。シャッター34は、シャッター駆動機構35により、集積部30の下方に退避して当該集積部30の開口を開く開口位置(
図3における点線位置)と、集積部30の前面の開口を閉止する閉止位置(
図3における実線位置)との間を移動させられるようになっている。すなわち、シャッター34が
図3の点線に示すような開口位置にあるときには、操作者は集積部30に集積された紙幣にアクセスすることができるようになる。一方、シャッター34が
図3の実線に示すような閉止位置にあるときには、集積部30の前面の開口はシャッター34により閉止され、操作者は集積部30に集積された紙幣にアクセスすることができない。
【0041】
また、集積部30には透過光を用いた紙幣有無センサ36が設けられている。この紙幣有無センサ36は、集積部30における紙幣の有無を検出するようになっている。
【0042】
一方、リジェク卜部40には、このリジェク卜部40の前面の開口を閉止するシャッターは設けられていない。紙幣整列部材42を筐体12の前方に倒すことにより、操作者はリジェク卜部40から紙幣を取り出すことができるようになる。また、リジェク卜部40には紙幣有無センサ44が設けられている。この紙幣有無センサ44は、リジェク卜部40における紙幣の有無を検出するようになっている。具体的には、紙幣有無センサ44は発光部と受光部とを有しており、リジェク卜部40に紙幣が集積されていない場合には発光部から発せられた光が受光部により受けられるようになっている。一方、リジェク卜部40に紙幣が存在する場合には、発光部から発せられた光がこの紙幣により遮られて受光部に光が届かないようになる。このことにより紙幣有無センサ44は、リジェク卜部40に紙幣が集積されていることを検出する。
【0043】
また、
図3に示すように、搬送通路18には複数の通過センサ50、52、54、56が設けられている。具体的には、繰出部16と搬送通路18との間の位置には第1の通過センサ50が設けられており、この第1の通過センサ50は、繰出部16により繰り出された紙幣を検出するようになっている。なお、第1の通過センサ50は、繰り出された直後の搬送通路18における紙幣の状態を検出するようになっている。
【0044】
また、搬送通路18における識別計数部20の上流側および下流型の位置にはそれぞれ第2の通過センサ52、第3の通過センサ54が設けられている。第2の通過センサ52は、識別計数部20に送られる前の紙幣を検出するようになっており、第3の通過センサ54は、識別計数部20により識別および計数が行われた後の紙幣を検出するようになっている。また、搬送通路18における分岐部22の上流側の位置には第4の通過センサ56が設けられており、この第4の通過センサ56は、分岐部22により分岐させられる前の紙幣を検出するようになっている。
【0045】
これらの通過センサ50、52、54、56は、それぞれ、搬送通路18において搬送される紙幣を挟むよう設置された発光部と受光部とを有している。そして、各通過センサ50、52、54、56において、これらの発光部と受光部との間に紙幣が存在しない場合には発光部から発せられた光が受光部により受けられる。一方、各通過センサ50、52、54、56を紙幣が通過する際には発光部から発せられた光がこの紙幣により遮られて受光部に光が届かないようになり、このことにより各通過センサ50、52、54、56は紙幣を検出することができる。
【0046】
また、筐体12の内部には、紙幣処理装置10の各構成要素を制御するための制御部60が設けられている。制御部60の構成の詳細について
図6で説明する。また、操作表示部62は、紙幣処理装置10の処理状況の表示や紙幣に係る処理の指示操作を受け付けることができる入出力部である。
【0047】
次に、
図2に示した紙幣処理装置10のクリアウィンドウを有する紙幣の搬送処理を
図4を用いて説明する。
図4(a)は、クリアウィンドウを有する紙幣の短手方向が搬送方向であるX軸方向と一致していて、紙幣が斜行していない場合の例である。また、
図4(b)は、クリアウィンドウを有する紙幣の短手方向が搬送方向であるX軸方向に対してθで示す角度傾いている、紙幣が斜行している場合の例である。
【0048】
紙幣処理装置10は、透光するクリアウィンドウがない紙幣の場合には、通過センサ50、52、54、56は、紙幣の存在を光が遮光されることによって検知し、一旦遮光された後で再び透光した場合には紙幣が通過したことを検知する。しかしながら
図4に示すような光を通すクリアウィンドウを有する紙幣の場合には、一旦通過センサ50、52、54、56が遮光を検知して次に透光を検知したとしても、通過センサの位置にクリアウィンドウが到来している場合には紙幣が通過したと判定することはできない。
【0049】
図4(a)に示した紙幣は、クリアウィンドウを有する紙幣の例であり、当該紙幣が
図4(a)に示したように斜行なくX軸の正方向に搬送された場合には、通過センサ50a、50b、50c上を通ることとなる。紙幣上のクリアウィンドウは通過センサ50a上を通ることから、
図4(a)のセンサ信号は図に示した通り一旦遮光状態となるが、クリアウィンドウが通過センサ50a上を通過している時は透光状態となり、クリアウィンドウが通過すると再度遮光状態となって、紙幣全体が通過した時点でまた透光状態となる。その他の通過センサ50b、50cの走査線上にはクリウィンドウはないので、一旦遮光状態になって紙幣全体が通過することによって透光状態になる。
【0050】
このように所定の位置にクリアウィンドウが存在する紙幣を取り扱う場合には、クリアウィンドウを誤って紙幣の通過と判定しないためにクリアウィンドウの搬送方向の幅(W1)に対応する時間以内の透光の検知は紙幣の通過とは判定しないようなフィルタ処理を行うことによってクリアウィンドウによる紙幣通過の誤検知を回避することができる。ただし、
図4(a)の場合には、クリアウィンドウはそれを検知する通過センサ50aにしか影響しないので、通過センサ50b、50cの透光状態の検知に対してのフィルタ処理は行わない。紙幣処理装置10は、当該紙幣処理装置10で処理対象となる紙幣のクリアウィンドウの位置と大きさに応じて通過センサ50、52、54、56ごとのフィルタ処理で透光を無視する時間間隔の情報を保有することによって、当該フィルタ処理を行う。
【0051】
図4(a)では搬送される紙幣が斜行していないことを前提としたが、
図4(b)では搬送される紙幣が斜行した場合の例である。
図4(b)に示すようにクリアウィンドウの位置、形状によっては搬送される紙幣が斜行することによって通過センサ50、52、54、56のクリアウィンドウ上の走査線の長さが
図4(a)とは異なってしまう。
図4の例では、
図4(a)に示したクリアウィンドウ上の通過センサ50aの走査線の長さ(W1)よりも、
図4(b)に示したクリアウィンドウ上の通過センサ50aの走査線の長さ(W2)の方が長いことから、
図4(b)のケースでは、W1に対応する時間のフィルタリング処理ではクリアウィンドウを紙幣間の間隙と誤検知してしまうことになる。
【0052】
紙幣処理装置10は、紙幣の搬送速度と通過センサ50a、50b及び50cの遮光される時間差とから算出される図に示すL1又はL2と、センサ間の距離L3又はL4とから斜行角度θを算出する。さらに、算出した斜行角度θと、クリアウィンドウの幅(W1)とから、
図4(b)に示したクリアウィンドウ上の通過センサ50aの走査線の長さ(W2)を算出することができる。
図4(b)のように斜行が検知された場合には、このようにして算出されたW2に対応する時間でフィルタリング処理を行うことによって、紙幣が斜行している場合においてもクリアウィンドウを紙幣通過と誤検知してしまうことを回避することが可能となる。ただし、同じ斜行角度θで搬送される場合においても、搬送路上Y軸方向に対するバリエーションがあることから、搬送路上Y軸方向に対するバリエーションの範囲内で最大となるケースにおいてW2を算出するものとする。ここで、説明のために、通過センサ50a、50b及び50cを用いて説明をしたが、事前に搬送されてくる紙幣のクリアウィンドウの位置及び大きさを制御部が知っておく必要がある。このためには、事前に搬送される金種と方向が指定されているか、画像認識方式の紙幣識別ユニットよりも下流の通過センサでこの処理が行われることが一般的である。
【0053】
次に、
図3に示した紙幣処理装置10のラインセンサ21の詳細な構成を説明する。
図5は、紙幣処理装置10のラインセンサ21の詳細な構成を示す詳細構成図である。
【0054】
本実施例に係る紙幣処理装置10は、紙幣を搬送する搬送路を有する。ここで、紙幣の搬送方向をY軸負方向とし、紙幣の面に垂直な軸をX軸とし、Z軸はX軸及びY軸に直交するものとする。また、紙幣は略垂直に搬送されるものとし、X軸正側を上方、X軸負側を下方という。さらに、説明の便宜上、紙幣のX軸正側の面を表面といい、紙幣のX軸負側の面を裏面という。
【0055】
紙幣処理装置10のラインセンサ21は、第1受発光ユニット21a、発光ユニット21b及び第2受発光ユニット21cを有する。
図5には、第1受発光ユニット21a、発光ユニット21b及び第2受発光ユニット21cをZ軸方向から見た断面模式図を示している。
図5に示すように、第1受発光ユニット21aと発光ユニット21bは、搬送路を挟んだ位置に設置されている。また、第2受発光ユニット21cは、第1受発光ユニット21aと搬送路を挟んで反対側に設置され、第1受発光ユニット21a及び発光ユニット21bに対して紙幣搬送される方向に隣接する位置に設置されている。
【0056】
第1受発光ユニット21aは、その筐体の下面(紙幣に対向する面)にはガラス又は樹脂から成る透明部材21iが嵌め込まれている。この第1受発光ユニット21aは、紙幣の表面に光を照射する第1光源21dを有する。また、第1受発光ユニット21aは、第1集光レンズ21f及び第1基板21hを有する。第1基板21hには、第1受光センサ21gが設けられている。この第1受光センサ21gは、Z軸方向に複数配列されてイメージラインセンサを形成する。
【0057】
第1集光レンズ21fは、第1光源21dから照射された光が紙幣の表面により反射した反射光を集光して、第1受光センサ21gに受光させるよう配置される。このため第1受光センサ21gの出力を用い、紙幣の表面反射画像データを生成することができる。
【0058】
さらに、第1受発光ユニット21aは、紙幣の表面に反射光を照射する第2光源21eを有する。第2光源21eから照射された光は、紙幣の表面により反射され、第1集光レンズ21fにより集光され、第1受光センサ21gに受光される。この第2光源21eは、紙幣の表面反射画像データを生成する際に第1光源21dの光量を補うために用いられるものである。
【0059】
発光ユニット21bは、搬送路を挟んで第1受発光ユニット21aと対向する位置に設置され、その筐体の上面(紙幣に対向する面)にはガラス又は樹脂から成る透明部材21kが嵌め込まれている。発光ユニット21bは、紙幣の裏面に光を照射する第3光源21jを有する。第3光源21jから紙幣の裏面に対して光を照射すると、紙幣を透過した透過光は、第1集光レンズ21fによって集光され、第1受光センサ21gに受光させることができる。このようにして第3光源21jを発光させた場合の第1受光センサ21gの出力を用い、紙幣の裏面から光を照射した透過画像データを生成することができる。
【0060】
第2受発光ユニット21cは、搬送路に対して第1受発光ユニット21aと反対側に設けられており、その筐体の上面(紙幣に対向する面)にはガラス又は樹脂から成る透明部材21sが嵌め込まれている。この第2受発光ユニット21cは、紙幣の裏面に光を照射する第4光源21m及び第5光源21nを有する。また、第2受発光ユニット21cは、第2集光レンズ21p及び第2基板21rを有する。第2基板21rには、第2受光センサ21qが設けられている。この第2受光センサ21qは、Z軸方向に複数配列されてイメージラインセンサを形成する。
【0061】
第2集光レンズ21pは、第4光源21m及び第5光源21nから照射された光が紙幣の裏面により反射した反射光を集光して、第2受光センサ21qに受光させるよう配置される。このため第2受光センサ21qの出力を用い、紙幣の裏面反射画像データを生成することができる。
【0062】
第1光源21d、第2光源21e、第3光源21j、第4光源21m及び第5光源21nのそれぞれは、赤色光、緑色光、紫色光及び赤外光を切り替えて発光することが可能である。また、第1集光レンズ21f及び第2集光レンズ21pは、セルフォック(登録商標)レンズを使用してもよい。
【0063】
次に、
図2に示した紙幣処理装置10の本実施例に係る内部構成を説明する。
図6は、紙幣処理装置10の本実施例に係る内部構成を示すブロック図である。
【0064】
図6に示すように、紙幣処理装置10は、繰出部16の駆動を行う繰出部駆動機構17、搬送通路18の紙幣搬送に係る搬送部の駆動を行う搬送部駆動機構19、識別計数部20、分岐部22、羽根車式集積機構32、シャッター34の駆動を行うシャッター駆動機構35、紙幣有無センサ15、36、44、通過センサ50、52、54、56、操作表示部62、記憶部64及び制御部60を有する。
【0065】
制御部60には、繰出部16の駆動を行う繰出部駆動機構17、搬送通路18の紙幣搬送に係る搬送部の駆動を行う搬送部駆動機構19,識別計数部20、分岐部22、羽根車式集積機構32、シャッター34の駆動を行うシャッター駆動機構35、紙幣有無センサ15、36、44、通過センサ50、52、54、56、操作表示部62及び記憶部64が接続されている。
【0066】
識別計数部20は、ラインセンサ21、厚み検出センサ20b、磁気センサ20cを有しており、制御部60からの指示に従ってこれらのセンサを用いて紙幣の各種画像データ、厚み検知結果、磁気データなどを取得して、制御部60に通知する。
【0067】
制御部60は、繰出部駆動機構17、搬送部駆動機構19、分岐部22、羽根車式集積機構32、シャッター駆動機構35及び操作表示部62に指示することによってこれらの構成要素の制御を行っている。繰出部駆動機構17には、キッカローラ16aやフィードローラ16bの回転速度の目標値に係る指示が制御部60から送られ、繰出部駆動機構17は、キッカローラ16aやフィードローラ16bの実際の回転速度が目標値に一致するよう、繰出モータの制御を行っている。搬送部駆動機構19には、搬送通路18を搬送される紙幣の速度の目標値に係る指示が制御部60から送られ、搬送部駆動機構19は、この速度の目標値に基づいて搬送モータの制御を行っている。
【0068】
紙幣有無センサ15、36、44は、紙幣有無の状態を検知して制御部60に通知する。通過センサ50、52、54、56は、紙幣の通過状況を検知して制御部60に通知する。
【0069】
記憶部64は、ハードディスク装置や不揮発性メモリ等からなる記憶デバイスである。記憶部64は、画像データ64a、紙幣種類別基準データ64b及び評価値データ64cを有する。
【0070】
画像データ64aは、1枚の紙幣に対して4種類の波長の光に対応する4種類の表面反射画像データと、4種類の波長の光に対応する4種類の透過画像データと、4種類の波長の光に対応する4種類の裏面反射画像データとの、合計12種類の画像のデータである。
【0071】
紙幣種類別基準データ64bは、紙幣の種類及び紙幣がセットされた方向ごとに、汚損度合いの判定に係る情報を有している。汚損度合いの判定に係る情報としては、汚損度合いの評価値を算出するために必要な情報と、汚損度合いを判定するための閾値とを有している。詳細な構造は後述する。
【0072】
評価値データ64cは、紙幣の汚損度合いを判定する過程で出力される情報であり、紙幣の種類及び方向の判別結果や、画像データ64aと紙幣種類別基準データ64bとによって算出した紙幣の汚損度合いを示す評価値や、評価値と紙幣種類別基準データ64bの閾値との比較による判定結果などを含むデータである。
【0073】
制御部60は、紙幣処理装置10の全体を制御する制御部であり、画像データ取得部60a、金種・方向判別部60b、中間評価値算出部60c、最終評価値算出部60d及び汚損判定部60eを有する。実際には、この機能部に対応するプログラムを図示しないROMや不揮発性メモリに記憶しておき、このプログラムをCPU(Central Processing Unit)にロードして実行することにより、対応するプロセスを実行させることになる。
【0074】
画像データ取得部60aは、ラインセンサ21を制御することによって搬送通路18を通って搬送される紙幣の12種類の画像を取得して画像データ64aに記憶する。12種類の画像のうち4種類の表面反射画像データは第1受発光ユニット21aによって取得したラインデータを蓄積して生成する。また、4種類の透過画像データは、発光ユニット21bと第1受発光ユニット21aを用いて取得したラインデータを蓄積して生成する。また、4種類の裏面反射画像データは第2受発光ユニット21cによって取得したラインデータを蓄積して生成する。この12種類の画像の取得処理を詳しく説明する。
【0075】
画像データ取得部60aは、紙幣の搬送方向に対する位置ごとに、第1光源21d及び第2光源21eによって4種類の波長の光を順番に紙幣の表面に照射し、第1受光センサ21gの出力を受け付けて、受け付けた4種類の波長の光に対応する4種類の表面反射ラインデータを画像データ64aに蓄積する。紙幣の搬送方向に対する全ての位置に対する表面反射ラインデータを画像データ64aに蓄積することによって、画像データ64aの中に4種類の波長の光に対応する4種類の表面反射画像データを生成する。
【0076】
また、画像データ取得部60aは、紙幣の搬送方向に対する位置ごとに、第3光源21jによって4種類の波長の光を順番に紙幣の裏面に照射し、第1受光センサ21gの出力を受け付けて、受け付けた4種類の波長の光に対応する4種類の透過ラインデータを画像データ64aに蓄積する。紙幣の搬送方向に対する全ての位置に対する透過ラインデータを画像データ64aに蓄積することによって、画像データ64aの中に4種類の波長の光に対応する4種類の透過画像データを生成する。
【0077】
また、画像データ取得部60aは、紙幣の搬送方向に対する位置ごとに、第4光源21m及び第5光源21nによって4種類の波長の光を順番に紙幣の裏面に照射し、第2受光センサ21qの出力を受け付けて、受け付けた4種類の波長の光に対応する4種類の裏面反射ラインデータを画像データ64aに蓄積する。紙幣の搬送方向に対する全ての位置に対する裏面反射ラインデータを画像データ64aに蓄積することによって、画像データ64aの中に4種類の波長の光に対応する4種類の裏面反射画像データを生成する。
【0078】
金種・方向判別部60bは、画像データ64aを入力として、紙幣の種類及び紙幣の方向を判別する処理部である。
【0079】
中間評価値算出部60cは、画像データ64aと紙幣種類別基準データ64bとに基づいて、紙幣の汚損度合いを示す最終の評価値の算出に必要な中間評価値を算出する処理部である。中間評価値算出部60cは、紙幣種類別基準データ64bに基づいて、画像データ64aに含まれる12種類の画像のうち1つまたは複数を使用して、1つまたは複数の中間評価値を算出する。
【0080】
最終評価値算出部60dは、中間評価値算出部60cによって算出された1つまたは複数の中間評価値と、紙幣種類別基準データ64bとに基づいて、紙幣の汚損度合いを示す最終評価値を算出する処理部である。
【0081】
汚損判定部60eは、最終評価値算出部60dによって算出された最終評価値と、紙幣種類別基準データ64bに含まれる判定閾値との比較によって、損券で有るか否かの判定を行う処理部である。
【0082】
次に、
図2に示した紙幣処理装置10の本実施例に係るデータ構成について説明する。
図7及び
図8は、紙幣処理装置10の本実施例に係るデータ構成について説明するための説明図である。
【0083】
図7に示すように、画像データ64aは、画像番号と、画像取得センサ区分と、光源種類と、画像番号、画像取得センサ区分及び光源種類に対応する取得画像データとを有する。画像取得センサ区分は第1受光センサ21gで取得した画像なのか、第2受光センサ21qで取得した画像なのかを示す情報であって、「表」は第1受光センサ21gで取得した画像で有ることを示し、「裏」は第2受光センサ21qで取得した画像であることを示している。また、光源種類は画像取得時に点灯した光源の種類であって、表面側を照射する赤色光源を意味する「反射赤色光」と、表面側を照射する緑色光源を意味する「反射緑色光」と、表面側を照射する紫色光源を意味する「反射紫色光」と、表面側を照射する赤外光源を意味する「反射赤外光」と、裏面側を照射する赤色光源を意味する「透過赤色光」と、裏面側を照射する緑色光源を意味する「透過緑色光」と、裏面側を照射する紫色光源を意味する「透過紫色光」と、裏面側を照射する赤外光源を意味する「透過赤外光」と、裏面側を照射する赤色光源を意味する「反射赤色光」と、裏面側を照射する緑色光源を意味する「反射緑色光」と、裏面側を照射する紫色光源を意味する「反射紫色光」と、裏面側を照射する赤外光源を意味する「反射赤外光」とがある。
【0084】
図7に示すように、画像番号が「1」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「表」で光源種類が「反射赤色光」に対応する画像のデータである。画像番号が「2」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「表」で光源種類が「反射緑色光」に対応する画像のデータである。画像番号が「3」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「表」で光源種類が「反射紫色光」に対応する画像のデータである。画像番号が「4」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「表」で光源種類が「反射赤外光」に対応する画像のデータである。画像番号が「5」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「表」で光源種類が「透過赤色光」に対応する画像のデータである。画像番号が「6」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「表」で光源種類が「透過緑色光」に対応する画像のデータである。画像番号が「7」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「表」で光源種類が「透過紫色光」に対応する画像のデータである。画像番号が「8」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「表」で光源種類が「透過赤外光」に対応する画像のデータである。画像番号が「9」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「裏」で光源種類が「反射赤色光」に対応する画像のデータである。画像番号が「10」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「裏」で光源種類が「反射緑色光」に対応する画像のデータである。画像番号が「11」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「裏」で光源種類が「反射紫色光」に対応する画像のデータである。画像番号が「12」に対応する取得画像データは、画像取得センサ区分が「裏」で光源種類が「反射赤外光」に対応する画像のデータである。
【0085】
図7に示すように、評価値データ64cは、紙幣判別結果、汚損判定結果、最終評価値、中間評価値の数及び中間評価値の数分の中間評価値を有する。紙幣判別結果には、金種・方向判別部60bが、画像データ64aに基づいて判別した紙幣の発行国名、金種及び搬送された紙幣の方向の情報を有する。また汚損判定結果は、最終評価値と紙幣種類別基準データ64bに含まれる閾値との比較による判定結果であり、「損券」なのか「損券ではない」のかの情報である。
【0086】
図7の評価値データ64cの例は、紙幣処理装置10に投入された紙幣が「日本」で発行された「万円券」であって、紙幣がセットされた方向が「A」の方向で、汚損判定結果は「損券ではない」と判定され、最終評価値が「Y」で、中間評価値数が「6」個で、それぞれの中間評価値が「31.5」、「28.7」、「25.5」、「14.7」、「11.2」、「14.0」であることを示している。
【0087】
図8に示すように、紙幣種類別基準データ64bは、紙幣の発行国名、金種及び紙幣がセットされた方向ごとに、中間評価値算出パラメータと、最終評価値算出パラメータと、判定閾値とを有する。中間評価値算出パラメータは、紙幣の発行国名、金種及び紙幣がセットされた方向ごとに中間評価値の個数分あり、それぞれの中間評価値を算出するのに必要な情報を有している。中間評価値算出パラメータは、中間評価値ごとに、使用画像番号、判定エリア、演算方法、IR比使用有無及び係数を有する。中間評価値は、複数の判定エリアごとの画素値を合算して係数を乗ずることによって算出する。
【0088】
使用画像番号は、中間値算出に使用する画像データ64aの画像番号である。使用画像番号は1つまたは2つの画像番号を指定することができる。判定エリアは、画像番号で指定された画像のどの領域のデータを使用するのかを示した情報である。使用画像番号に2つの画像番号が指定されている場合の判定エリアは2つの画像に共通の判定エリアが指定されることとなる。演算方法は、使用画像番号に2つの画像番号が指定されている場合に設定され、指定された画像番号の2つの画像の画素値から判定エリアごとの値の算出方法を規定する。この判定エリアは、金種・方向毎に設定され、好適な例としては、白紙部、透かし部等、絵柄模様の無い部分が設定される。
【0089】
IR比使用有無は、判定エリアごとの画素値を、使用画像番号によって指定された画像の画素値とするのか、使用画像番号によって指定された画像の画素値の赤外光の照射により取得された画像の同一判定エリアの画素値に対する割合とするのかを規定する。IR比使用有無が「使用しない」の場合には、判定エリアごとの値を、使用画像番号によって指定された画像の画素値とする。また、IR比使用有無が「使用」の場合には、判定エリアごとの値を、使用画像番号によって指定された画像の画素値の赤外光の照射により取得された画像の同一判定エリアの画素値に対する比率とする。赤外光の照射により取得される画像は他の可視光の照射によって取得される画像と比較すると汚損の影響が少ないことから、中間評価値の算出の際に画像番号で指定された画像の画素値をそのまま使用するのではなく、赤外光の照射により取得された画像の同一判定エリアの画素値に対する割合を使用することによって、紙幣と光源とセンサとの位置関係の影響による画素値のばらつきが出たとしても、その影響を低減することができる。ただし、紙幣種類別基準データ64bの構造上、IR比使用有無を指定できるようになっているのは、国によっては紙幣の品質に差異があり、赤外光を照射して取得することのできる画像のばらつきが大きい紙幣についてはIR比を使用するとむしろ判定品質が確保できないケースがあるためである。
【0090】
最終評価値算出パラメータは、中間評価値算出パラメータの規定に従って算出される中間評価値の平均値と、中間評価値の分散共分散行列とを含む。最終評価値とは、中間評価値算出パラメータの規定に従って算出される中間評価値と、最終評価値算出パラメータに含まれる中間評価値の平均値と、中間評価値の分散共分散行列とに基づいて算出することのできる中間評価値のマハラノビス距離である。
【0091】
中間評価値及び最終評価値算出パラメータに基づいて算出した最終評価値を用いて、紙幣が損券で有るのか否かを判定する閾値が判定閾値である。最終評価値が判定閾値以上となった場合には損券と判定し、最終評価値が判定閾値未満であった場合には損券ではないと判定する。
【0092】
図8の紙幣種類別基準データ64bは、「日本」で発行された「万円券」、「五千円券」、「千円券」に対応するデータの例である。「万円券」の方向が「A」の場合については、中間評価値が6つ規定され、それぞれの中間評価値の平均値がそれぞれ「μ1」、「μ2」、「μ3」、「μ4」、「μ5」、「μ6」で、中間評価値の分散共分散行列が「S」で、判定閾値が「X」であることを示している。また、1つ目の中間評価値は、画像番号「1」の画像と、画像番号「9」の画像を使用して、判定エリアは「(2,3)、(2,4)、(2,5)・・・」であることを示している。また、前述の通り、使用画像番号が「1」と「9」の複数が指定されていて、演算方法が「g1+g2」と指定されていて、IR比使用有無が「使用」となっていることから、判定エリア毎の値は、画像番号「1」の画素値の赤外光の照射により取得された画像(=画像番号4の画像)の同一判定エリアの画素値に対する比率と、画像番号「9」の画素値の赤外光の照射により取得された画像(=画像番号12の画像)の同一判定エリアの画素値に対する比率とを加算した値であることを示している。このようにして算出した判定エリア毎の値を全て合算した値に対して、係数に指定される「a」を乗じることによって1つ目の中間評価値を算出することができる。
【0093】
次に、
図8に示した紙幣種類別基準データ64bの係数の決定方式を
図9を用いて説明する。
図9に示す画像は、同じ紙幣に対して、赤外光を照射した反射光による画像と、赤色光を照射した反射光による画像と、緑色光を照射した反射光による画像と、紫色光を照射した反射光による画像の例である。また、各画像の右隣のグラフは、画像の走査位置と画素値の関係を示したものである。走査位置は、紙幣の画像のなかのコントラストが低く画素値の大きなエリアである判定エリアを通るように設定されている。グラフ上には、判定エリアに対応する領域の画素値の平均値を示す線が引かれており、赤外光を照射した反射光による画像の平均画素値E(IR)は180、赤色光を照射した反射光による画像の平均画素値E(R)は180、緑色光を照射した反射光による画像の平均画素値E(G)は140、紫色光を照射した反射光による画像の平均画素値E(V)は100となっている。
【0094】
これは、同じ紙幣を使用しても照射する光の種類によって画素値に差異があることを示している。つまり、異なる種類の光を照射して得られた画像の当該判定エリアの画像の画素値を比較する場合には、いずれかの画像のレベルに補正する必要があり、その補正を行うための値が係数である。
図9に示すように、赤外光を照射した反射光による画像と同じレベルに補正を行おうとすると、図に示した紙幣の判定エリアに対する係数は、赤色光を照射した反射光による画像の場合は、E(IR)÷E(R)で算出し1.0である。緑色光を照射した反射光による画像の場合の係数は、E(IR)÷E(G)で算出しおよそ1.3である。紫色光を照射した反射光による画像の場合の係数は、E(IR)÷E(V)で算出しおよそ1.8である。このように、紙幣の種類、方向及び判定エリアごとに事前に採取した画像を基に係数を算出して、紙幣種類別基準データ64bに設定する。このように算出した係数で取得した画像を補正したうえで汚損度合いの判定を行うようにすることは、人の目による汚損度合いの判断との整合性の向上に効果がある。
【0095】
次に、
図8に示した紙幣種類別基準データ64bの判定エリアの定義方式を
図10を用いて説明する。
図8に示した紙幣種類別基準データ64bの中間評価値算出パラメータの判定エリアの定義は、所定のX軸方向の幅及びY軸方向の幅でメッシュ状に紙幣の全体を分割して、メッシュ状に存在するセルを指定することによって行う。
【0096】
図10に示す例では、Y軸方向にm個、X軸方向にn個の領域に分割され、最も左上のセルを基準セルとして(1,1)と表現し、基準セルからY軸の負の方向にa個分、X軸の正の方向にb個分ずれた位置にあるセルを(1+a,1+b)と表現する。このように表現すると、
図10に示す判定エリアは(2,3)、(2,4)、(2,5)、(2,6)、(2,7)、(3,3)、(3,4)、(3,5)、(3,6)、(3,7)、(4,3)、(4,4)、(4,5)、(4,6)、(4,7)と定義することができる。また、裏面の画像に対するエリアの定義についても、表面を基準にして行うものとし、表面の(1,1)のエリアの裏面のエリアも(1,1)と同じ表現にて表すものとする。
【0097】
次に、
図8に示した紙幣種類別基準データ64bの設定値に応じた、中間評価値の算出方法を
図11に示した紙幣種類別基準データ64bの中間評価値算出パラメータの設定例を用いて説明する。説明の便宜上、画像番号がjのi番目の判定エリアの画素値をfj(i)と表現するものとする。f1(i)は、
図7の画像データ64aに示した画像番号が「1」に対応する、表面へ赤色光の照射による反射光を受け付けて生成される取得画像データに含まれるi番目の判定エリアの画素値を示す。f3(i)は、
図7の画像データ64aに示した画像番号が「3」に対応する、表面へ紫色光の照射による反射光を受け付けて生成される取得画像データに含まれるi番目の判定エリアの画素値を示す。f4(i)は、
図7の画像データ64aに示した画像番号が「4」に対応する、表面へ赤外光の照射による反射光を受け付けて生成される取得画像データに含まれるi番目の判定エリアの画素値を示す。f7(i)は、
図7の画像データ64aに示した画像番号が「7」に対応する、裏面へ紫色光の照射による透過光を受け付けて生成される取得画像データに含まれるi番目の判定エリアの画素値を示す。f11(i)は、
図7の画像データ64aに示した画像番号が「11」に対応する、裏面へ紫色光の照射による反射光を受け付けて生成される取得画像データに含まれるi番目の判定エリアの画素値を示す。f12(i)は、
図7の画像データ64aに示した画像番号が「12」に対応する、裏面へ赤外光の照射による反射光を受け付けて生成される取得画像データに含まれるi番目の判定エリアの画素値を示す。
【0098】
図11(a)は、紙幣種類別基準データ64bの中間評価値算出パラメータの設定例であり、この例では中間評価値が6つあるケースである。第1の中間評価値は使用する画像は1つで、IR比使用有無は「使用」となっていて、係数が「a」であることを示している。当該第1の中間評価値の算出式は
図11(b)に示す通りである。画像番号「1」に対応する赤外光照射による画像の画像番号は4であることから、第1の中間評価値は、全ての判定エリアに対応するf1(i)÷f4(i)で算出される値の合計に係数aを乗ずることによって算出することができる。
【0099】
第3の中間評価値は使用する画像は2つで、演算方法は「g1+g2」と指定されていて、IR比使用有無は「使用」となっていて、係数が「c」であることを示している。当該第3の中間評価値の算出式は
図11(c)に示す通りであり、画像番号「3」に対応する赤外光照射による画像の画像番号は4であり、画像番号「11」に対応する赤外光照射による画像の画像番号は12であることから、第3の中間評価値は、全ての判定エリアに対応するf3(i)÷f4(i)+f11(i)÷f12(i)で算出される値の合計に係数cを乗ずることによって算出することができる。
【0100】
第6の中間評価値は使用する画像は1つで、IR比使用有無は「使用しない」となっていて、係数が「f」であることを示している。当該第6の中間評価値の算出式は
図11(d)に示す通りであり、第6の中間評価値は、全ての判定エリアに対応する画素値f7(i)の合計に係数fを乗ずることによって算出することができる。
【0101】
次に、
図2に示した紙幣処理装置10における本実施例に係る紙幣の汚損度合いの判定処理の処理手順を説明する。
図12は、紙幣処理装置10における本実施例に係る紙幣の汚損度合いの判定処理の処理手順を示すフローチャートである。
【0102】
まず、ラインセンサ21に紙幣が搬送されてきたならば、画像データ取得部60aは、搬送部駆動機構19とラインセンサ21を制御して、12種類の紙幣の画像を取得して画像データ64aに書き込む(ステップS101)。金種・方向判別部60bは、ステップS101で取得した画像データ64aを用いて、搬送されてきた紙幣の発行国、金種及び紙幣処理装置10にセットされた方向を判別して、その判別結果を評価値データ64cの紙幣判別結果に記憶する(ステップS102)。
【0103】
次に、中間評価値算出部60cは、ステップS102の判別結果と紙幣種類別基準データ64bにより、判別した紙幣の金種及び方向に対応する中間評価値算出パラメータを特定して、中間評価値の個数を評価値データ64cに登録する(ステップS103)。また、ステップS103で特定した中間評価値算出パラメータに規定されている未算出の中間評価値のうちの1つの中間評価値の算出を行って評価値データ64cに登録する(ステップS104)。ステップS103で特定した中間評価値算出パラメータに対して未算出の中間評価値がある場合(ステップS105;Yes)には、ステップS104に戻る。
【0104】
ステップS103で特定した中間評価値算出パラメータに規定されている未算出の中間評価値がない場合(ステップS105;No)には、最終評価値算出部60dは、ステップS104で算出されて評価値データ64cに登録された中間評価値と紙幣種類別基準データ64bの最終評価値算出パラメータとを用いて最終評価値として複数個の中間評価値に対するマハラノビス距離を算出して、評価値データ64cの最終評価値に登録する(ステップS106)。
【0105】
汚損判定部60eは、ステップS106で算出されて評価値データ64cに登録された最終評価値とステップS102の判別結果と紙幣種類別基準データ64bにより特定される判定閾値との比較を行い(ステップS107)、最終評価値が判定閾値以上の場合(ステップS107;Yes)には、当該紙幣を損券と判定し評価値データ64cの汚損判定結果に「損券」の登録を行って(ステップS108)、処理を終了する。また、最終評価値が特定した判定閾値未満の場合(ステップS107;No)には、当該紙幣を損券ではないと判定し評価値データ64cの汚損判定結果に「損券ではない」の登録を行って(ステップS109)、処理を終了する。
【0106】
上述してきたように、紙幣に赤色光、緑色光、紫色光及び赤外光を照射し、紙幣によって反射した反射光を受光し、照射した光の波長ごとの画像を取得し、取得した画像に基づいて紙幣の発行国、金種及び
向きを識別する。さらに、可視光の照射によって受光した受光データの画素値の、赤外光の照射によって受光した受光データの画素値に対する比率を画素値とする比率の画像を生成する。さらに、紙幣の発行国、金種及び
向きの情報と、照射した可視光の波長に応じた係数と、生成した比率の画像とを用いて照射した光の波長ごとの中間評価値を算出する。このようにして算出した中間評価値と、当該中間評価値の平均値、分散共分散行列に基づいて、判定対象の紙幣の中間評価値のマハラノビス距離を算出して、当該マハラノビス距離を用いて汚損度合いの判定を行うよう構成したので、紙幣の汚損度合いの判定に係る信頼性を向上させるとともに、多種多様な紙幣を判定対象にすることができる。
【0107】
なお、上述の本実施例では紙幣に照射する可視光として赤色光、緑色光、紫色光を使用することとしているが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、紫色光の代わりに青色光を使用してもよい。また、汚損度合いの判定対象の紙幣の光学的な特性によっては、他の波長の光を使用するものとしてもよい。
【0108】
また、上述の本実施例で図示した各構成は機能概略的なものであり、必ずしも物理的に図示の構成をされていることを要しない。すなわち、各装置の分散・統合の形態は図示のものに限られず、その全部又は一部を各種の負荷や使用状況などに応じて、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。