特許第6403526号(P6403526)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403526
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
   B62J 9/02 20060101AFI20181001BHJP
   B62J 9/00 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   B62J9/02
   B62J9/00 H
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-203800(P2014-203800)
(22)【出願日】2014年10月2日
(65)【公開番号】特開2016-68919(P2016-68919A)
(43)【公開日】2016年5月9日
【審査請求日】2017年4月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川井 秀明
(72)【発明者】
【氏名】岩田 茂行
【審査官】 米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭62−26286(JP,U)
【文献】 特開平11−263255(JP,A)
【文献】 米国特許第6347804(US,B1)
【文献】 特開2010−149793(JP,A)
【文献】 特開平11−139373(JP,A)
【文献】 特開2011−136673(JP,A)
【文献】 特開2008−81052(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第2030879(EP,A1)
【文献】 登録実用新案第3100917(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 9/00 − 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームと、
前記車体フレームに固定され、下方に形成されたシート下空間を開放可能とする着座シートと、
前記着座シートを前記車体フレームに締結する締結部材と、
前記締結部材を締結及び弛緩するためのシート用工具を収容し、前記シート下空間とは異なる位置に形成される施錠空間を開閉可能なカバーと、
前記施錠空間を閉じた状態で前記カバーを施錠する施錠機構と、を備え
前記シート下空間には、前記シート用工具とは異なる車載工具が収容される鞍乗型車両。
【請求項2】
前記施錠空間は、前記シート下空間よりも小さく形成されている、請求項1に記載の鞍乗型車両。
【請求項3】
前記シート下空間とは異なる位置に配置されている車両制御装置を更に備える、請求項1又は2に記載の鞍乗型車両。
【請求項4】
前記カバーは、車体の車幅方向外側どちらか一方の側面から露出し、
前記施錠空間は、車幅方向に直交する方向に扁平形状に形成されている、請求項1乃至のいずれか1項に記載の鞍乗型車両。
【請求項5】
前記施錠空間に収納されているメンテナンス部品を更に備える、請求項1乃至のいずれか1項に記載の鞍乗型車両。
【請求項6】
前記車体フレームは、左右一対のリヤステー部を有し、
前記着座シートは、前記左右一対のリヤステー部の上部に支持され、
前記左右一対のリヤステー部で囲まれた空間には、後輪の上端部が、部分的に収容可能である、請求項1乃至のいずれか1項に記載の鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車等の鞍乗型車両では、運転者が着座する着座シートの下方に荷物や車載部品等を収納するための収納空間が設けられている。一般的に着座シートは、運転者が収納空間にアクセスできるように、車体フレームに対して着脱可能に固定される。例えば、着座シートの前端部をヒンジ機構により車体フレームに回動可能に支持し、着座シートの後端部は、キーロック装置によって、車体フレームに固定する構成が考えられる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−011257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のとおり、着座シートを車体フレームに対して着脱可能に固定する際、着座シート近傍にはキーロック装置を配置する必要があるため、着座シート近傍における設計の自由度が低くなるという課題があった。例えば、着座シートの高さが高くなり、又は着座シート下方の収納空間も狭くなってしまう。
【0005】
そこで本発明は、着座シート近傍における構造の設計自由度を向上することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係る鞍乗型車両は、車体フレームと、下方に位置するシート下空間を開放可能に、前記車体フレームに固定される着座シートと、前記着座シートを前記車体フレームに固定する締結部材と、前記締結部材を締結及び弛緩するためのシート用工具を収容し、前記シート下空間とは異なる位置に形成される施錠空間を開閉可能なカバーと、前記施錠空間を閉じた状態で前記カバーを施錠する施錠機構と、を備える。
【0007】
前記構成によれば、カバーを開錠する施錠者により、シート用工具が取り外しされ、当該シート用工具によりシート下空間が開放される。施錠者以外の者は施錠空間を開錠することができず、施錠空間からシート用工具を取り出すことができず、シート下空間も開放することは困難となり、車両における防犯性を確保することができる。さらに、施錠空間をシート下空間とは別の位置に配置することによって、着座シート近傍における構造の設計自由度を向上することができる。
【0008】
前記形態において、前記施錠空間は、前記シート下空間よりも小さく形成されていてもよい。
【0009】
前記構成によれば、施錠空間のレイアウトを行いやすく、設計自由度を向上することができる。
【0010】
前記形態において、前記シート下空間には、前記シート用工具とは異なる車載工具が収容されていてもよい。
【0011】
前記構成によれば、シート用工具とは異なる車載工具が着座シートの下方に収容されることで、施錠空間の小型化を図ることができ、施錠空間の設計自由度を向上することができる。
【0012】
前記形態において、前記シート下空間とは異なる位置に配置されている車両制御装置を更に備えていてもよい。
【0013】
前記構成によれば、車両制御装置が、着座シートの下方にあるシート下空間とは異なる位置に配置されているので、悪意の第三者によって、着座シートが開放されたとしても、車両制御装置にはアクセスされにくい。これにより、車両制御装置が取り外されることを防ぐことができ、車両制御装置の盗難防止性が低下するのを抑制することができる。
【0014】
前記形態において、前記カバーは、車体の車幅方向外側の一方の側面から露出し、前記施錠空間は、車幅方向に直交する方向に扁平形状に形成されていてもよい。
【0015】
前記構成によれば、施錠空間を開閉可能なカバーが車体の車幅方向外側の側面から露出していることで、シート用工具を施錠空間に配置しやすく、また、施錠空間において、車幅方向寸法が、前後方向寸法及び上下方向寸法に比べて小さい扁平形状であることから、施錠空間の小型化を図ることができる。
【0016】
前記形態において、前記施錠空間に収納されているメンテナンス部品を更に備えていてもよい。
【0017】
前記構成によれば、施錠者は施錠機構を解除することによって、施錠空間に収納されているメンテナンス部品に容易にアクセスすることができるため、メンテナンス部品のメンテナンス時の作業性を向上することができる。また、メンテナンス部品が施錠空間に収納されるため、第三者によって、メンテナンス部品が取り外しされる等の行為を防止することができる。
【0018】
前記形態において、前記車体フレームは、左右一対のリヤステー部を有し、前記着座シートは、前記左右一対のリヤステー部の上部に支持され、前記左右一対のリヤステー部で囲まれた空間に、後輪の上端部が部分的に収容可能であってもよい。
【0019】
前記構成によれば、着座シートを支持する一対のリヤステー部で囲まれた空間に後輪が部分的に収容される車両においては、着座シートと後輪との上下方向のクリアランスを小さく、着座シートと車体フレームとの間に施錠機構を配置しにくいが、着座シートを締結部材により車体フレームに固定し、施錠空間をシート下空間とは異なる位置に形成することによって、着座シートを車体フレームのリヤステー部に近づけることができ、足着き性を確保することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、鞍乗型車両において、着座シート近傍における構造の設計自由度を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態に係る鞍乗型車両の一例である自動二輪車の左側面図である。
図2図2は、図1の車体フレームの斜視図である。
図3図3は、図2の後側フレームの一部の拡大斜視図である。
図4図4は、図1の運転者シートの後側フレームへの固定を示す斜視図である。
図5図5は、図1のタンデムシートの後側フレームへの固定を示す斜視図である。
図6図6は、図1のカバーを取り外した状態のシート用工具の周辺を表す拡大斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら実施形態について説明する。なお、同一の又は対応する要素には全ての図を通じて同一の符号を付して重複する詳細説明を省略する。以下の説明における方向の概念は、鞍乗型車両に騎乗した運転者が見る方向を基準としている。なお、車幅方向は左右方向に相当する。
【0023】
[自動二輪車の構成]
図1は、実施形態に係る鞍乗型車両の一例である自動二輪車1の左側面図である。図2は、図1の車体フレーム4の斜視図である。図3は、図2の後側フレーム11の一部の拡大斜視図である。図4は、図1の運転者シート22の後側フレーム11への固定を示す斜視図である。図5は、図1のタンデムシート23の後側フレーム11への固定を示す斜視図である。
【0024】
図1に示すように、自動二輪車1は、前輪2と、駆動輪である後輪3と、前輪2と後輪3との間に配置された車体フレーム4とを備える。前輪2は、略上下方向に延びるフロントフォーク5の下端部にて回転可能に支持される。フロントフォーク5の上端部には左右方向に延びるハンドル6がブラケット及びステアリングシャフト(図示せず)を介して回転可能に取り付けられている。ハンドル6は、車体フレーム4に取り付けられた燃料タンク20の上面よりも上方に位置している。後輪3は、スイングアーム8を介して車体フレーム4に支持されている。スイングアーム8は、その前端部において車体フレーム4に揺動可能に支持され、その後端部において後輪3の車軸3aを回動可能に支持する。後輪3の上方には、後輪3と側面視で重なるリヤフェンダー24が配置されている。
【0025】
上述の構成において、例えば、ハンドル6が燃料タンク20の上面よりも上方に位置している構成及びリヤフェンダー24が後輪3と側面視で重なっている構成から、本実施形態の自動二輪車1は、アメリカンタイプ(クルーザータイプ)の自動二輪車と特定される。アメリカンタイプの自動二輪車では、その設計開発において、一般的に運転者等の快適性が重要視される。例えば、アメリカンタイプの自動二輪車1においては、足着き性を良くするために車体フレーム4に固定された着座シート21(運転者シート22)のシート高を低くすることが外観上の1つの特徴である。
【0026】
[車体フレーム]
図2に示すように、車体フレーム4は、ヘッドパイプ9と、ヘッドパイプ9から後方に延びる前側フレーム10と、前側フレーム10の後端から後方に延びる後側フレーム11とを備えている。前側フレーム10の下方にはエンジン(原動機)7が搭載されており、後側フレーム11は、着座シート21を支持している(図1参照)。前側フレーム10は、ヘッドパイプ9の下部から左右に分かれて後方に向かって延びる一対のフレーム部材10a,10bを有する。一対のフレーム部材10a,10bは、それぞれ上下に並んだ2本の丸パイプ等からなる。また、一対のフレーム部材10a,10bのそれぞれの前端は、ヘッドパイプ9の下部に溶接されている。一対のフレーム部材10a,10bの後端は、クロスメンバ12によって、互いに連結されるとともに、クロスメンバ12を介して後側フレーム11に連結されている。
【0027】
図2に示すように、後側フレーム11は、第1リヤステー部13と、ピボットフレーム部14と、一対の第2リヤステー部15と、第1ブリッジ部16と、第1突出部17と、第2ブリッジ部18と、第2突出部19とを備えている。第1リヤステー部13は、前後方向に延びる1本のフレーム部材からなる。第1リヤステー部13の前側部分は、クロスメンバ12に溶接されている。第1リヤステー部13の前側部分から下方にはピボットフレーム部14が延びている。
【0028】
また、第1リヤステー部13の前後方向における略中央には、運転者シート22の下方を支持するシートサポート50が配置されている。また、第1リヤステー部13の車幅方向外側には、車載部品を配置するスペースがあり、本実施形態では、後述するバッテリー25を収納するためのバッテリーボックス28が第1リヤステー部13の左側に配置されている。なお、バッテリーボックス28の他に、ABSユニット又はキャニスター等も第1リヤステー部13の左側に配置されてもよい。
【0029】
第1リヤステー部13の後端からは後方に第2リヤステー部15が前後方向に延びている。第2リヤステー部15は、第1リヤステー部13の後端から後方に向かって左右に分かれた一対のフレーム部材15a,15bから構成されている。左右一対の第2リヤステー部15a,15bの前後方向の略中央部は、第1ブリッジ部16により左右方向に接続されている。また、左右一対の第2リヤステー部15a,15bの後端部は、第2ブリッジ部18により左右方向に接続されている。また、左右一対の第2リヤステー部15a,15bで囲まれた空間S1には、後輪3の上端部3bが部分的に収容可能である。後輪3の上端部3bが空間S1に部分的に収容可能な構成は、アメリカンタイプの自動二輪車1における外観上の1つの特徴である。
【0030】
また、スイングアーム8が揺動により第2リヤステー部15a,15bに最近接した状態で、第2リヤステー部15a,15bの一部が、側面視において後輪3の一部に重なる。ここで、一対の第2リヤステー部15a,15bを左右方向に接続するブリッジ部16,18と後輪3との車両上下方向のクリアランスは、アメリカンタイプとは異なる車種(例えば、ロードレーサータイプ、モトクロッサータイプ等)の自動二輪車と比べて小さく、必要最小限の大きさである。よって、後側フレーム11のブリッジ部16,18と後輪3との車両上下方向のクリアランスが必要最小限の大きさであることからも、自動二輪車1は、アメリカンタイプの自動二輪車と特定される。
【0031】
図3に示すように、第1ブリッジ部16の上面16aの車幅方向略中央には、第1突出部17が上方に向かって突出している。第1突出部17は、支持部17aと円筒部17bとを有している。支持部17aは、鋼板を折り曲げて成型したものであり、第1ブリッジ部16の上面16aに溶接されている。支持部17aの上面は、第1ブリッジ部16の上面16aから離間しており、支持部17aの上面に円筒部17bの下端が接合されている。円筒部17bには、運転者シート22を締結するための第1締結部材31(図4参照)が挿通される。
【0032】
また、第2ブリッジ部18は、その上面18aから、上方に部分的に突出する凸部18bを有している。凸部18bには、第2突出部19が上方に向かって突出している。第2突出部19は、円筒形状であり、タンデムシート23を締結する第2締結部材32(図5参照)が挿通される。
【0033】
また、左右一対の第2リヤステー部15の上方にはリヤフェンダー24が配置される。リヤフェンダー24は、第1突出部17の円筒部17b及び第2突出部19が露出するように左右一対の第2リヤステー部15、第1ブリッジ部16及び第2ブリッジ部18を上から覆う(図4参照)。
【0034】
[車両制御装置]
図1に示すように、前側フレーム10の上方には、燃料タンク20が配置されている。燃料タンク20の下方にはエアクリーナ29が配置されている。エアクリーナ29の上面には、盗難防止機能を備えた車両制御装置30が取付けられている。即ち、車両制御装置30は、シート下空間S2とは異なる位置に配置されている。盗難防止機能を備えた車両制御装置30の一例として、イモビライザー対応の電子制御装置(ECU)が考えられる。イモビライザーは、専用のキーに埋め込まれた送信機からの信号に含まれる識別コードと、車体固有の識別コードとを照合し、一致すれば電子制御装置30に信号を送信する。電子制御装置30は、イモビライザーからの信号に基づいて自動二輪車1の車体を始動可能とする。
【0035】
[着座シート]
図1に示すように、燃料タンク20の後方には、運転者又は同乗者が着座する着座シート21が配置されている。具体的には、燃料タンク20の後方には、運転者が着座する運転者シート22が配置され、さらに、運転者シート22の後方には同乗者が着座するタンデムシート23が配置されている。着座シート21は、車体フレーム4に着脱可能に固定されている。なお、運転者シート22の前方には、運転者が運転者シート22に着座した際に、足の置き場となるフットレスト26が車体の両側に設けられている。また、後輪3の前方には、同乗者がタンデムシート23に着座した際に、足の置き場となる同乗者用フットレスト27が車体の両側に設けられている。なお、フットレスト26が運転者シート22の前方に設けられている構成からも、自動二輪車1はアメリカンタイプの自動二輪車と特定される。
【0036】
運転者シート22の前後方向中央部は、運転者シート22の前後方向の両端部よりも下方に位置している。この構成からも、自動二輪車1はアメリカンタイプの自動二輪車と特定される。運転者シート22の下方には、シート下空間S2が形成されている。シート下空間S2には、施錠者が使用する物品や車載部品等が収容される。ここで、施錠者とは、自動二輪車1の運転者、同乗者に加えて、自動二輪車1を整備する整備者を総称した者をいう。本実施形態では、シート下空間S2には、車載工具33を収容するためのスペースが確保されている。
【0037】
シート下空間S2に収容される車載工具33は、シート用工具40に比べて大きい工具である。具体的には、車載工具33の長手方向の寸法がシート用工具40の長手方向の寸法に比べて大きく形成されている。例えば、車載工具33は、その長手方向が車体の車幅方向に沿うように配置されることにより、シート下空間S2の上下方向寸法を小さくすることができる。また、車載工具33は、各車載部品のメンテナンスに利用する工具又は応急処置が必要となったエンジン7若しくは車体を整備可能な工具が好ましい。例えば、車載工具33は、カウルを車体から取り外すための工具、カウルの位置調整を行うための工具、タイヤがパンクした際の処置のための工具又はバッテリー低下時の処置のための工具であってもよい。なお、シート下空間S2には、車載工具33の他にETC車載器又はGPSユニット(盗難防止装置)等の車載部品が収容されていてもよい。
【0038】
図4に示すように、運転者シート22は、その後端から後方に向かって部分的に突出する板状の取付部22aを有する。取付部22aには、第1突出部17の円筒部17bと平面視において重なるように、挿通孔(図示せず)が設けられている。施錠者は、運転者シート22の取付部22a及び第1突出部17の円筒部17bに第1締結部材31を挿通し、後述するシート用工具40によって第1締結部材31を締結することによって、後側フレーム11に運転者シート22を固定する。第1締結部材31の先端部は、第1突出部17に固定される。また、施錠者は、シート用工具40により第1締結部材31を弛緩することによって、運転者シート22の後側フレーム11への固定を解除することができる。これにより、運転者シート22を後側フレーム11から取り外して、運転者シート22の下方へのシート下空間S2にアクセスすることができる。
【0039】
ここで、第1締結部材31は、予め定められた工業規格(JIS規格等)に従った締結部材とは異なってもよい。例えば、第1締結部材31を、JIS規格とは異なる頭部を有する特殊なボルトとすることで、市販されている工具では弛緩することが困難となり、防犯性を向上することができる。
【0040】
図5に示すように、タンデムシート23は、運転者シート22と同様に、その後端から後方に向かって部分的に突出する板状の取付部23aを有する。取付部23aには、第2突出部19と平面視において重なるように、挿通孔(図示せず)が設けられている。施錠者は、タンデムシート23の取付部23a及び第2突出部19に第2締結部材32を挿通し、シート用工具40により第2締結部材32を締結することによって、タンデムシート23を車体フレーム4の後側フレーム11に固定する。
【0041】
第2締結部材32の先端部は、第2突出部19に固定される。後側フレーム11に固定されたタンデムシート23の前端部は、第1締結部材31により固定された運転者シート22の取付部22aを覆っている。また、タンデムシート23は、第2締結部材32をシート用工具40により弛緩することによって、タンデムシート23の後側フレーム11への固定を解除することができる。ここで、第2締結部材32も第1締結部材31と同様に、六角穴が形成された頭部を有する特殊なボルトである。
【0042】
[シート用工具]
図1に示すように、自動二輪車1の車体の左側には、上述の第1締結部材31及び第2締結部材を締結及び弛緩するためのシート用工具40が取り付けられている。他方、車体の右側にはリヤサスペンション(図示せず)が設けられている。本実施形態では、第1締結部材31及び第2締結部材32のそれぞれの頭部に六角穴が形成されていることから、シート用工具40は、L字状の六角レンチである。また、第1締結部材31及び第2締結部材32のそれぞれの頭部には、JIS規格とは異なる形状又は寸法の六角穴を形成した場合には、シート用工具40も特殊レンチであり、施錠者以外の者は入手しにくい。シート用工具40は、カバー41によって車幅方向外側(本実施形態では左側)から覆われている。
【0043】
カバー41は、自動二輪車1の車体左側の側面で露出している。また、カバー41は、例えば、樹脂材料によって成型される。カバー41には、施錠機構42が挿通されており、施錠者が施錠機構42に対してキー操作を行うことによって、カバー41は、自動二輪車1の車体に施錠又は開錠される。なお、以下の説明では、施錠機構42で車体に施錠されるカバー41によって閉鎖されて、シート用工具40が収容される空間を施錠空間S3と呼ぶ。カバー41が施錠又は開錠されることによって、施錠空間S3は閉鎖又は開放される。
【0044】
図6は、図1のカバー41を取り外した状態のシート用工具40の周辺を表す拡大斜視図である。運転者シート22が支持される第1リヤステー部13の左側には、バッテリー25を収納するバッテリーボックス28が配置されている。バッテリーボックス28は、樹脂材料によって成型されている。
【0045】
バッテリーボックス28は、その左側面から車幅方向外側(本実施形態では左側)に突出し、シート用工具40の一端部40aを保持する第1爪部28aと、第1爪部28aよりも後方に位置する第2爪部28bと、第2爪部28bよりも後方に位置し、シート用工具40の他端部が挿通されたケース部28cとを有している。
【0046】
第1爪部28aは、シート用工具40の一端部40aの上面を保持する。第2爪部28bは、シート用工具40の一端部40aの下面を保持する。また、第2爪部28bの車幅方向外側の端部は上側に向かって突出しており、一端部40aの側面の一部も保持している。第1爪部28a及び第2爪部28bは、シート用工具40の一端部を保持することによって、シート用工具40の抜け止め効果を発揮する。なお、シート用工具40の一端部40aを車幅方向外側に動かすことによって、第1爪部28a及び第2爪部28bによる一端部40aの保持は解除される。また、ケース部28cは、第2爪部28bよりも後方において、バッテリーボックス28の左側面から車幅方向外側に突出しており、シート用工具40の他端部が上方から挿通されている。これにより、シート用工具40が脱落するのを防止できる。また、ケース部28cの左側面には、施錠空間S3と連通する連通孔28dが形成されている。
【0047】
施錠空間S3は、シート用工具40が取り付けられた車体の左側に形成されており、具体的には、第1リヤステー部13の左側に配置されたバッテリーボックス28の左側面とカバー41によって囲まれている。即ち、施錠空間S3は、シート下空間S2とは異なる位置に形成されている。また、図1に示すように、施錠空間S3は、シート下空間S2よりも小さく形成されている。更に、施錠空間S3は、車幅方向寸法が高さ方向寸法及び前後方向寸法よりも小さい扁平形状に形成されている。
【0048】
なお、施錠空間S3には、車載部品のうち、定期的にメンテナンスが必要なメンテナンス部品45を収容するためのスペースが確保されている。このように、施錠空間S3には、シート用工具40の他にメンテナンス部品45が更に収容されている。メンテナンス部品45は、車載部品のうち、それ自身が経年劣化した場合又は走行距離が所定値以上に達した場合に交換作業又は確認作業が必要な部品を意味する。本実施形態では、施錠空間S3に配置されるメンテナンス部品45として、車体から着脱可能であって、着脱されると車体が走行状態に移行できない部品であることが好ましい。ここでは、メンテナンス部品45は、ヒューズボックスである。
【0049】
施錠機構42は、カバー41の孔に嵌合固定されたキーシリンダ43を有している。キーシリンダ43の車幅方向外側の端部には、キーを差し込む差込孔43aが設けられている。他方、キーシリンダ43の車幅方向内側の先端部には、固定部28cの連通孔28dと係合する係合部(図示せず)が設けられている。キーシリンダ43の係合部が固定部28cの連通孔28dと係合することで、カバー41が車体に施錠される。施錠者は、キーシリンダ43の差込孔43aにキーを差し込み、キーを所定方向に回動する操作を行うことにより、キーシリンダ43の係合部と固定部28cの連通孔28dとの係合は解除される。これにより、施錠機構42によるカバー41の施錠は開錠され、施錠者は、カバー41を取り外して、施錠空間S3を開放することができる。
【0050】
施錠空間S3を開放し、シート用工具40を取り外す際に、施錠者は、バッテリーボックス28の第1爪部28a及び第2爪部28bによって保持されている一端部40aに対して車幅方向左側に向かって力を加えることによって、シート用工具40の一端部40aの保持が解除される。その後、ケース部28cに挿通されているシート用工具40の他端部を抜くことによって、シート用工具40を取り出すことができる。
【0051】
施錠者が取り出したシート用工具40を用いて、着座シート21と車体フレーム4との固定を解除し、シート下空間S2に物品を収納する等の作業が完了した後、施錠者は、シート用工具40を元の位置であるバッテリーボックス28の左側面に取り付ける。その後、カバー41を車幅方向外側から覆い、施錠機構42によりカバー41を施錠することで、施錠空間S3は閉鎖される。
【0052】
[効果]
以上のように構成された鞍乗型車両の一種である自動二輪車1は、以下の効果を奏する。
【0053】
運転者シート22が車体フレーム4に第1締結部材31により固定され、第1締結部材31を締結又は弛緩するためのシート用工具40は、シート下空間S2とは異なる位置に形成された施錠空間S3に収容されている。施錠空間S3はカバー41によって開閉可能であり、カバー41は、施錠機構42によって施錠されている。これにより、カバー41を施錠する施錠者のみがシート用工具40が取り外し、当該シート用工具40により運転者シート22と後側フレーム11との固定が解除されるので、シート下空間S2が開放される。即ち、施錠者以外の者はカバー41を開錠することができず、施錠空間S3も開放されないので、シート下空間S2も開放することは困難であり、自動二輪車1における防犯性を確保することができる。
【0054】
また、運転者シート22が車体フレーム4に第1締結部材31で固定され、施錠空間S3はシート下空間S2とは異なる位置に形成されることによって、施錠空間S3を運転者シート22とは独立して配置することができ、運転者シート22の近傍における設計自由度を向上することができる。例えば、運転者シート22の近傍に施錠空間S3を設ける必要がないので、施錠機構42を配置するスペースが不要となり、シート高を低くして、足着き性を良くすることができる。したがって、シート高を低くし、足着き性を良くしつつ、防犯性も確保することができる。
【0055】
また、施錠空間S3がシート下空間S2よりも小さく形成されている。これにより、施錠空間S3のレイアウトを行いやすく、設計自由度を向上することができる。
【0056】
シート下空間S2には、シート用工具40とは異なる車載工具33が収容されている。これにより、施錠空間S3の小型化を図ることができ、設計自由度を向上することができる。
【0057】
また、第1締結部材31及び第2締結部材32は、それぞれの頭部に多角形状が形成されているボルトである。これにより、第1締結部材31及び第2締結部材32は、特殊な締結部材であり、施錠者以外の者が入手しにくいシート用工具40によって、着座シート21が着脱されるので、防犯性をより高めることができる。
【0058】
また、車両制御装置30がシート下空間S2とは異なる位置であるエアクリーナ29の上面に取り付けられている。これにより、施錠者以外の悪意の第三者によって、運転者シート22が着脱されたとしても、車両制御装置30はシート下空間S2には収納されていないので、車両制御装置30にはアクセスされにくく、第三者が自動二輪車1の車体を走行可能な状態へ移行しにくくすることができる。さらに、車両制御装置30が取り外しされにくいので、車両制御装置30の盗難防止性が低下することを防ぐことができる。
【0059】
また、施錠空間S3を開閉可能なカバー41が自動二輪車1の車体の左側面から露出していることで、シート用工具40を施錠空間S3に配置しやすく、また、施錠空間S3が車幅方向に直交する方向に扁平な形状であることから、施錠空間S3の小型化を図ることができる。
【0060】
また、施錠空間S3にはメンテナンス部品の一種であるヒューズボックス45も収納されている。これにより、施錠者は、施錠機構42を開錠することによって、施錠空間S3に収納されているメンテナンス部品に容易にアクセスすることができるため、メンテナンス時の作業性を向上することができる。更に、ヒューズボックス45を施錠空間S3に収納することによって、第三者にヒューズボックス45が取り外しされるのを防止することができる。
【0061】
また、車体フレーム4の右側にはリヤサスペンションが配置されているのに対して、シート用工具40は、車体フレーム4の左側に取り付けられており、カバー41が車幅方向左側からシート用工具40を覆っている。これにより、リヤサスペンションが配置されている車体フレーム4の右側よりも配置スペースがある車体フレーム4の左側にシート用工具40を取り付けることによって、施錠者がシート用工具40に対してアクセスしやすくなり、かつ、車載部品のレイアウトを効率よく行うことができる。
【0062】
後側フレーム11は、第1ブリッジ部16の上面から上方に突出し、運転者シート22の後端が固定される第1突出部17を有している。第1突出部17の上面が、第1ブリッジ部16の上面から離間しており、第1締結部材31による運転者シート22の後端と車体フレーム4の固定が第1ブリッジ部16の上面から離間している突出部において行われている。これにより、第1締結部材31が後輪3と干渉しないように、第1ブリッジ部16全体を上方に形成する必要がなく、第1ブリッジ部16と後輪3とのクリアランスを適切に確保することができる。
【0063】
また、着座シート21は、車体フレーム4の左右一対の第2リヤステー部15a,15bの上部に支持され、一対の第2リヤステー部15a,15bで囲まれた空間に、後輪3の上端部3bが部分的に収容可能に形成されている。この構成により、本実施形態の自動二輪車1は、アメリカンタイプ(クルーザータイプ)の自動二輪車1と特定される。アメリカンタイプの自動二輪車では、着座シート21と後輪3との上下方向のクリアランスを小さく、着座シート21と車体フレーム4との間に施錠機構42を配置しにくいが、着座シート21を第1締結部材31及び第2締結部材32により車体フレーム4に固定し、施錠空間S3をシート下空間S2とは異なる位置に形成することによって、着座シート21を車体フレーム4の第2リヤステー部15に近づけることができ、足着き性も向上することができる。
【0064】
また、例えば、リヤフェンダー24が後輪3と側面視で重なっていることからも、本実施形態の自動二輪車1は、アメリカンタイプ(クルーザータイプ)の自動二輪車と特定される。よって、アメリカンタイプの自動二輪車1において、着座シート21を第1締結部材31及び第2締結部材32により車体フレーム4に固定することで、アメリカンタイプの自動二輪車の特徴であるシート高が低い外観を維持することができる。更に、第1締結部材31及び第2締結部材32を締結及び弛緩するためのシート用工具40を施錠機構42で固定されるカバー41で覆うことにより、防犯性も確保することができる。
【0065】
なお、本発明は前述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲でその構成を変更、追加又は削除することができる。前述の実施形態では、シート下空間S2は、運転者シート22の下方に形成されていたが、タンデムシート23の下方に形成されていてもよい。即ち、タンデムシート23の下方に形成されたシート下空間S2に車載工具33や他の車載部品が収納されていてもよい。また、前述の実施形態では、第1締結部材31及び第2締結部材32は、それぞれの頭部に六角穴が形成された特殊なボルトであったが、六角穴に限らず、多角形状であればよい。また、第1締結部材31及び第2締結部材32は、それぞれボルトには限らず、ネジ又はナット等の他の締結部材であってもよい。また、第1締結部材31及び第2締結部材32は、それぞれ工業規格とは異なる特殊なナットとボルトの組み合わせであってもよい。
【0066】
また、前述の実施形態では、後側フレーム11の第1リヤステー部13は、前後方向に延びる1本のフレーム部材から構成されていたが、第1リヤステー部13は、前側フレーム10の後端から左右に分かれて、後方に延びる一対のフレーム部材であってもよい。また、前述の実施形態では、シート用工具40は車体フレーム4の左側に取付けられ、カバー41が車幅方向左側からシート用工具40を覆っていたが、これに限られず、例えば、シート下空間S2とは異なる位置に形成された施錠空間S3に収容されていれば、シート用工具40の取り付け位置は任意である。
【0067】
また、前述の実施形態では、着座シート21は、車体フレーム4から取り外しされていたが、その形態には限られない。例えば、運転者シート22の前端部は、ヒンジ機構により車体フレーム4に固定されていてもよい。また、第1締結部材31を弛緩することにより、運転者シート22の固定を解除する構造であってもよい。また、前述の実施形態では、アメリカンタイプ(クルーザータイプ)の自動二輪車に特定して説明したが、他のカテゴリー(例えば、ロードスポーツタイプ等)の自動二輪車であってもよいし、車両は自動二輪車1に限らず、例えば、ATV(All Terrain Vehicle:不整地走行車両)、小型運搬車等であってもよい。アメリカンタイプの自動二輪車とは異なる車両において、着座シートと車輪(後輪)との上下方向のクリアランスが比較的大きい場合には、タンデムシートの下方に、シート下空間が形成されてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る鞍乗型車両は、着座シート近傍における構造の設計自由度を向上することができる優れた効果を有し、この効果の意義を発揮できる鞍乗型車両に広く適用すると有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 自動二輪車(鞍乗型車両)
3 後輪
3b 上端部
4 車体フレーム
15a,15b 第2リヤステー部(リヤステー部)
21 着座シート
24 リヤフェンダー
30 車両制御装置
31 第1締結部材(締結部材)
32 第2締結部材(締結部材)
33 車載工具
40 シート用工具
41 カバー
42 施錠機構
45 ヒューズボックス(メンテナンス部品)
S2 シート下空間
S3 施錠空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6