特許第6403622号(P6403622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403622
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】ジェット燃料組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10L 1/04 20060101AFI20181001BHJP
【FI】
   C10L1/04
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-72028(P2015-72028)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-190961(P2016-190961A)
(43)【公開日】2016年11月10日
【審査請求日】2017年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004444
【氏名又は名称】JXTGエネルギー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103285
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 順之
(74)【代理人】
【識別番号】100191330
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 寛幸
(72)【発明者】
【氏名】小畠 健
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 貴将
(72)【発明者】
【氏名】土師 勝彦
【審査官】 森 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−065070(JP,A)
【文献】 特表2012−506481(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10L 1/00− 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族炭化水素分が11〜25容量%であり、50容量%留出温度が175〜215℃であり、90容量%留出温度が210〜300℃であり、15℃における密度が0.78〜0.82g/cmであり、硫黄分が3000質量ppm以下であり、セーボルト色が12〜30であり、かつ以下の式を満たすジェット燃料基材を含むことを特徴とするジェット燃料組成物。
−0.04×T50(℃)+0.04×T90(℃)+0.001×硫黄分(質量ppm)−0.15×芳香族分(容量%)−0.26×セーボルト色+10<1
(式中、T50はJIS K 2254で測定した50容量%留出温度、T90はJIK K 2254で測定した90容量%留出温度、硫黄分はJIS K 2541−6で測定した硫黄分、芳香族分はJIS K 2536−1で測定した芳香族炭化水素分、セーボルト色はJIS K 2580で測定したセーボルト色である。)
【請求項2】
前記ジェット燃料基材が、接触分解装置から留出する接触分解灯油留分を含む原料油を水素化精製することにより得られることを特徴とする請求項1に記載のジェット燃料組成物。
【請求項3】
前記ジェット燃料基材が、接触分解装置から留出する接触分解灯油留分に常圧蒸留装置、直接脱硫装置、間接脱硫装置から留出する1種以上の他の灯油留分をさらに含む原料油を水素化精製することにより得られることを特徴とする請求項1または2に記載のジェット燃料組成物。
【請求項4】
前記接触分解灯油留分が、原料油全量に対して1〜16容量%含まれることを特徴とする請求項2または3に記載のジェット燃料組成物。
【請求項5】
接触分解装置から留出する接触分解灯油留分を含む原料油を水素化精製することにより得られる、芳香族炭化水素分が11〜25容量%であり、50容量%留出温度が175〜215℃であり、90容量%留出温度が210〜300℃であり、15℃における密度が0.78〜0.82g/cm3であり、硫黄分が3000質量ppm以下であり、セーボルト色が12〜30であり、かつ以下の式を満たすジェット燃料基材を含むことを特徴とするジェット燃料組成物の製造方法。
−0.04×T50(℃)+0.04×T90(℃)+0.001×硫黄分(質量ppm)−0.15×芳香族分(容量%)−0.26×セーボルト色+10<1
(式中、T50はJIS K 2254で測定した50容量%留出温度、T90はJIK K 2254で測定した90容量%留出温度、硫黄分はJIS K 2541−6で測定した硫黄分、芳香族分はJIS K 2536−1で測定した芳香族炭化水素分、セーボルト色はJIS K 2580で測定したセーボルト色である。)
【請求項6】
前記ジェット燃料基材が、接触分解装置から留出する接触分解灯油留分に常圧蒸留装置、直接脱硫装置、間接脱硫装置から留出する1種以上の他の灯油留分をさらに含む原料油を水素化精製することにより得られることを特徴とする請求項5に記載のジェット燃料組成物の製造方法。
【請求項7】
前記接触分解灯油留分が、原料油全量に対して1〜16容量%含まれることを特徴とする請求項またはに記載のジェット燃料組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱安定性に優れたジェット燃料組成物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱安定性はジェット燃料における重要な特性の一つとして認識されている。熱安定性が悪い燃料は分解・重合を経てゴム状もしくは固形の炭化水素を生成することが知られている。これらは後段の部品に汚れとして付着するだけでなく、局所的な高熱部の発生やタービン破損の原因となるため、種々の改善方法が提案されている(特許文献1〜2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2013−535563号公報
【特許文献2】特表2009−511699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたものであり、より熱安定性に優れたジェット燃料組成物を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題について鋭意研究した結果、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、芳香族炭化水素分が11〜25容量%であり、50容量%留出温度が175〜215℃であり、90容量%留出温度が210〜300℃であり、15℃における密度が0.78〜0.82g/cmであり、硫黄分が3000質量ppm以下であり、セーボルト色が12〜30であり、かつ以下の式を満たすジェット燃料基材を含むことを特徴とするジェット燃料組成物に関する。
−0.04×T50(℃)+0.04×T90(℃)+0.001×硫黄分(質量ppm)−0.15×芳香族分(容量%)−0.26×セーボルト色+10<1
(式中、T50はJIS K 2254で測定した50容量%留出温度、T90はJIK K 2254で測定した90容量%留出温度、硫黄分はJIS K 2541−6で測定した硫黄分、芳香族分はJIS K 2536−1で測定した芳香族炭化水素分、セーボルト色はJIS K 2580で測定したセーボルト色である。)
【0007】
また、本発明は、前記ジェット燃料基材が、接触分解装置から留出する接触分解灯油留分を含む原料油を水素化精製することにより得られることを特徴とする前記記載のジェット燃料組成物に関する。
【0008】
また、本発明は、前記ジェット燃料基材が、接触分解装置から留出する接触分解灯油留分に常圧蒸留装置、直接脱硫装置、間接脱硫装置から留出する1種以上の他の灯油留分をさらに含む原料油を水素化精製することにより得られることを特徴とする前記記載のジェット燃料組成物に関する。
【0009】
また、本発明は、前記接触分解灯油留分が、原料油全量に対して1〜16容量%含まれることを特徴とする前記記載のジェット燃料組成物に関する。
【0010】
また、本発明は、芳香族炭化水素分が11〜25容量%であり、50容量%留出温度が175〜215℃であり、90容量%留出温度が210〜300℃であり、15℃における密度が0.78〜0.82g/cm3であり、硫黄分が3000質量ppm以下であり、セーボルト色が12〜30であり、かつ以下の式を満たすジェット燃料基材を含むことを特徴とするジェット燃料組成物の製造方法に関する。
−0.04×T50(℃)+0.04×T90(℃)+0.001×硫黄分(質量ppm)−0.15×芳香族分(容量%)−0.26×セーボルト色+10<1
(式中、T50はJIS K 2254で測定した50容量%留出温度、T90はJIK K 2254で測定した90容量%留出温度、硫黄分はJIS K 2541−6で測定した硫黄分、芳香族分はJIS K 2536−1で測定した芳香族炭化水素分、セーボルト色はJIS K 2580で測定したセーボルト色である。)
【0011】
また、本発明は、前記ジェット燃料基材が、接触分解装置から留出する接触分解灯油留分を含む原料油を水素化精製することにより得られることを特徴とする前記記載のジェット燃料組成物の製造方法に関する。
【0012】
また、本発明は、前記ジェット燃料基材が、接触分解装置から留出する接触分解灯油留分に常圧蒸留装置、直接脱硫装置、間接脱硫装置から留出する1種以上の他の灯油留分をさらに含む原料油を水素化精製することにより得られることを特徴とする前記記載のジェット燃料組成物の製造方法に関する。
【0013】
また、本発明は、前記接触分解灯油留分が、原料油全量に対して1〜16容量%含まれることを特徴とする前記記載のジェット燃料組成物の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、実際にジェット燃料組成物を製造しなければ測定できなかった熱安定性を事前に予測でき、従来技術に比べて優れた熱安定性を有するジェット燃料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明する。
【0016】
本発明のジェット燃料組成物は下記性状のジェット燃料基材を含有する。
【0017】
本発明に係るジェット燃料基材の芳香族炭化水素分は11〜25容量%であることが必要であり、19〜25容量%であることが好ましい。芳香族炭化水素分が11容量%未満だと分解・重合生成物を溶解することができないため好ましくなく、25容量%を超えると燃焼特性を悪化させるため好ましくない。
なお、本発明において特段の断りがない限り、芳香族炭化水素分は、JIS K 2536−1「石油製品−成分試験方法 第1部:蛍光指示薬吸着法」で求める。
【0018】
本発明に係るジェット燃料基材の10容量%留出温度(T10)は160〜200℃であることが好ましく、160〜180℃がより好ましい。10容量%留出温度が160℃未満だと引火点が低下しすぎてしまうため好ましくなく、200℃を超えるとエンジンでの燃焼性に悪影響を及ぼすため好ましくない。
【0019】
本発明に係るジェット燃料基材の50容量%留出温度(T50)は175〜215℃であることが必要であり、180〜210℃が好ましい。50容量%留出温度が175℃未満だと軽質分の揮発量が大きくなることで重質分が濃縮され分解・重合生成物が濃縮するため好ましくなく、215℃を超えると重質分が増加し分解・重合が起きやすくなるため好ましくない。
【0020】
本発明に係るジェット燃料基材の90容量%留出温度(T90)は210〜300℃であることが必要であり、220〜275℃が好ましい。90容量%留出温度が210℃未満だと十分な発熱量を保つことができないため好ましくなく、300℃を超えると重質分が増加し分解・重合が起きやすくなるため好ましくない。
【0021】
なお、本発明において特段の断りがない限り、これらの蒸留性状(T10、T50およびT90)は、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」で求める。
【0022】
本発明に係るジェット燃料基材の15℃における密度は0.78〜0.82g/cmであることが必要であり、0.79〜0.81g/cmが好ましい。15℃における密度が0.78g/cm未満だと容量に対する発熱量が低下するため好ましくなく、0.82g/cmを超えると重質分が増加し分解・重合が起きやすくなるため好ましくない。
なお、本発明において特段の断りがない限り、15℃における密度は、JIS K 2249−1「原油及び石油製品−密度の求め方−第1部:振動法」で求める。
【0023】
本発明に係るジェット燃料基材の硫黄分は3000質量ppm以下であることが必要であり、700質量ppm以下が好ましく、10質量ppm以下がより好ましい。硫黄分が3000質量ppmを超えると、分解・重合反応が促進されるため好ましくない。
なお、本発明において特段の断りがない限り、硫黄分は、JIS K 2541−6「原油及び石油製品−硫黄分試験方法 第6部:紫外蛍光法」で求める。
【0024】
本発明に係るジェット燃料基材のセーボルト色は12〜30であることが必要であり、19〜30が好ましく、28〜30がより好ましい。セーボルト色が12未満だと多環芳香族が多くなり分解・重合反応を起こして熱安定性を悪化させるため好ましくなく、30を超える値は測定不能のため好ましくない。
なお、本発明において特段の断りがない限り、セーボルト色は、「JIS K 2580 石油製品−色試験方法」で求める。
【0025】
本発明に係るジェット燃料基材は、熱安定性向上のために次式を満たすこと、すなわち、次式の左辺で定義される「熱安定性パラメータ」が1未満であることが必要である。
−0.04×T50[℃]+0.04×T90[℃]+0.001×硫黄分[質量ppm]−0.15×芳香族分[容量%]−0.26×セーボルト色+10<1
(式中、T50はJIS K 2254で測定した50容量%留出温度、T90はJIK K 2254で測定した90容量%留出温度、硫黄分はJIS K 2541−6で測定した硫黄分、芳香族分はJIS K 2536−1で測定した芳香族炭化水素分、セーボルト色はJIS K 2580で測定したセーボルト色である。)
【0026】
以下に式の導出方法について説明する。
ジェット燃料の熱安定性は他の性状と相関があることが想定されるが、他の性状同士も相関があるため、共線性の観点から通常の重回帰分析で相関式を求めることは適当ではない。そこで本発明では統計解析手法の一つであるGA−PLS(遺伝的アルゴリズム−部分最小二乗法)を用いた。
【0027】
まずPLSについて説明する。PLSは最小二乗法とも呼ばれ、説明変数と目的変数の間にスコアと呼ばれる変数群を設定する。スコアはそれぞれが互いに直交するように順次計算されるため、共線性を避けて回帰分析を行うことが可能である。例えば、その詳細は、尾崎幸洋ら著の「化学者のための多変量解析−ケモメトリックス入門−」p.42〜70等に記載されている。
【0028】
GAは遺伝的アルゴリズムとも呼ばれる。PLSは説明変数より多い数のデータセットを用いることができるが、不要な説明変数を含んでいると相関性を示すRは高くなったとしても、leave−one−out法で計算され、予測性を示す指標であるQは低下する傾向がある。GAを用いることで、Qを高くするような説明変数群を選択することができる。より具体的には、各説明変数の使用・不使用をそれぞれ1、0と割り振り、説明変数群全体の使用・不使用を10111010・・・というような形で表現する。使用する変数群それぞれでPLSを行い、Qを計算する。これらの変数群の組み合わせの中から二つを選んで親とし、10111010・・・といった使用・不使用の組み合わせを遺伝子配列と見立てて交差や突然変異によって子となる変数群の組み合わせを生成する。それらのQを再度計算し、高いQを持つものを次代の親として再度子を生成する。これを繰り返すことで、予測性の高い変数の組み合わせ候補を出力するのがGAという方法である。本手法はケムインフォナビ社の統計解析ソフト「Chemish」に搭載されている。
【0029】
ケムインフォナビ社の統計解析ソフト「Chemish」に搭載されているGA−PLSを用い、説明変数をジェット燃料の一般的な性状やガスクロマトグラフィー等による組成データの34種、目的変数を試験温度290℃におけるJFTOT管堆積度とし、67個のデータセットを元に統計解析を行った。
なお、JFTOT管堆積度はJIS K 2276 石油製品−航空燃料油試験方法に基づき測定を行っているが、試験法上の最低温度である260℃ではなく、より厳しく評価するために290℃における管堆積度を測定した。また、JFTOT管堆積度は0、1、2、3、4といった整数値のほか、1未満などの数字も含むが、1未満は0.5、2未満は1.5等に変換して統計解析を行った。
【0030】
GAにより、目的変数である試験温度290℃におけるJFTOT管堆積度の説明変数は、50容量%留出温度、90容量%留出温度、硫黄分、芳香族炭化水素分、セーボルト色の5種に絞ることができた。これら5種の説明変数及び目的変数である290℃におけるJFTOT管堆積度について、67個全てのデータを表1に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
この解析の結果、前記の「熱安定性パラメータ」を示す式が得られ、290℃におけるJFTOT管堆積度との相関係数の二乗値Rは0.810、leave−one−out法により計算した予測性Qは0.769であり、良い相関を示した。
【0033】
熱安定度は、通常、JFTOT管堆積度で判断され、規格では260℃におけるJFTOT管堆積度<3と定められているが、290℃におけるJFTOT管堆積度<1であれば、より熱安定性に優れたジェット燃料であるといえる。上記熱安定性パラメータはJFTOT管堆積度と良い相関を有していることから、熱安定性パラメータが1未満であること、すなわち下記式を満足することにより熱安定度に優れたジェット燃料と判断できる。
−0.04×T50(℃)+0.04×T90(℃)+0.001×硫黄分(質量ppm)−0.15×芳香族分(容量%)−0.26×セーボルト色+10<1
この結果、従来は、2種以上の基材を調合してジェット燃料を製造する場合、調合してみないと熱安定度がわからなかったところ、上記式を用いることで調合前にシミュレーションすることで熱安定度を推算することが可能となった。
【0034】
ここで、50容量%留出温度は軽質分が多すぎると揮発により重質分が濃縮され、分解・重合生成物の濃度が高くなることを表すパラメータであり、90容量%留出温度は重質分が多すぎると分解・重合生成物が発生しやすくなることを表すパラメータである。また、硫黄分は分解・重合反応の原因となる物質である。芳香族炭化水素分は精製した分解・重合生成物を溶解することで熱安定性を向上させる。セーボルト色は微量な多環芳香族分の量と相関があり、多環芳香族が分解・重合反応を起こして熱安定性を悪化させることを表すパラメータである。
【0035】
本発明に係るジェット燃料基材は、接触分解装置から留出する接触分解灯油留分を含む原料油を水素化精製することにより得られる。接触分解灯油留分以外の原料油としては特に制限されず、通常ジェット燃料基材の原料油として通常に使用されるものが使用できる。
【0036】
本発明において、接触分解装置とは、原料油としての重質油を流動状態に保持されている触媒と特定運転条件下で連続的に接触させ、重質油を軽質な炭化水素に分解し、得られた炭化水素をさらに所望する留分ごとに分留する装置である。
【0037】
上記接触分解装置における接触分解条件は、所定の性状を有する接触分解灯油留分を得られれば特に限定されるものではないが、接触分解触媒存在下で反応温度450〜630℃、触媒/油比は3〜20(質量/質量)とすることが好ましい。
【0038】
上記接触分解触媒は、特に限定されるものではないが、通常、活性成分であるゼオライトとその支持母体からなるマトリックスで構成された触媒が用いられる。マトリックスは、活性マトリックス、バインダー(シリカ等)、フィラー(粘土鉱物等)、その他成分(希土類金属酸化物、メタルトラップ成分等)で構成される。ここで、活性マトリックスとは、分解活性を持つもので、アルミナやシリカアルミナなどが挙げられる。
【0039】
上記接触分解装置の原料油は、特に限定されるものではないが、主として重質油である。重質油としては、例えば直留軽油、減圧軽油、常圧残油、減圧残油、熱分解軽油、およびこれらを水素化精製した重質油などが挙げられる。これらの重質油を単独で用いてもよいし、これら重質油の混合物あるいはこれら重質油に一部軽質油を混合したものも用いることができる。
【0040】
本発明において、接触分解灯油留分は、接触分解装置から留出する灯油留分であり、10容量%留出温度が130〜200℃であることが好ましく、140〜195℃であることがより好ましい。また、接触分解灯油留分は軽質であるほど不飽和脂肪族炭化水素を多く含むため、水素化精製する際に水素化に伴う発熱量の増大を引き起こす。そのため、接触分解灯油留分の10容量%留出温度が130℃未満だと、水素化精製装置の運転管理上暴走の危険性が大きくなる。また、10容量%留出温度が200℃を超えるとエンジンでの燃焼性に悪影響を及ぼすため好ましくない。
また、90容量%留出温度が160〜300℃であることが好ましく、170〜250℃であることがより好ましい。90容量%留出温度が160℃未満だと軽質化により不飽和脂肪族炭化水素の含有量が増加し、脱硫時の発熱量が大きくなり暴走の危険性が高まるため好ましくなく、300℃を超えると重質分が増加し分解・重合が起きやすくなるため好ましくない。
【0041】
本発明において、接触分解灯油留分と共に水素化精製される灯油留分は、特に限定されるものではないが、常圧蒸留装置にて原油等を蒸留することで得られる直留灯油、直接脱硫装置にて常圧残油を処理することで得られる直脱灯油、間接脱硫装置にて減圧軽油を処理することで得られる間脱灯油などが挙げられる。
【0042】
本発明において、ジェット燃料基材の製造における水素化精製条件は、所定の性状を有するジェット燃料基材を得られれば特に限定されるものではないが、水素化精製触媒存在下で反応温度220〜330℃、反応圧力1.5〜5.0MPa、LHSV0.5〜5.0h−1、水素/油比50〜300Nm/KLであることが好ましい。
【0043】
上記水素化精製触媒は、特に限定されるものではないが、アルミナを含有する多孔質無機酸化物を支持体とし、活性成分としてコバルト、ニッケル、モリブデン、タングステンのうち少なくとも1種を使用するのが好ましい。
【0044】
本発明において、接触分解装置から留出する接触分解灯油の原料油全量に対する比率は1〜16容量%であることが好ましく、3〜16容量%がより好ましい。
接触分解灯油留分は、直留灯油等と比較して芳香族炭化水素分が多いことが知られている。従って、接触分解灯油留分の混合量が1容量%未満であると、十分な芳香族炭化水素分を得ることができない。芳香族炭化水素分が低い場合、分解・重合生成物の溶解性が劣るためゴム状もしくは固形の炭化水素を生成しやすくなる。また、接触分解灯油留分は不飽和脂肪族炭化水素を多く含むため、水素化精製する際に水素化に伴う発熱量の増大を引き起こす。そのため、接触分解灯油留分の混合量が16容量%を超えると、水素化精製装置の運転管理上暴走の危険性が大きくなる。
【0045】
本発明のジェット燃料組成物は、JIS 航空タービン燃料油規格を満たす必要がある。ここでJIS 航空タービン燃料油規格とはJIS K 2209の規定を満足する規格である。JIS 航空タービン燃料油規格としては、全酸価0.1mgKOH/g以下、引火点38℃以上、−20℃における動粘度8mm/s以下、真発熱量42.8MJ/kg以上、実在ガム7mg/100ml以下などが挙げられる。
【0046】
本発明のジェット燃料組成物は、必要に応じてジェット燃料基材の他に各種添加剤を含有してもよい。添加剤としては酸化防止剤、電導度調整剤、金属不活性化剤、氷結防止剤などが挙げられる。これら添加剤の添加量は任意であるが、その合計添加量は、ジェット燃料組成物に対して0.5容量%以下であり、0.2容量%以下が好ましい。
【0047】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲の記載に応じて種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
なお、実施例における各性状は、上述の試験法、測定法に準拠して行った。
【0049】
原油を石油精製プロセスで処理することによって、常圧蒸留装置から留出する直留灯油を得た。その性状を表2に示す。
【0050】
また、前述の接触分解装置から留出する接触分解灯油留分を得た。分解装置は反応温度530℃、触媒/油比は5.0(質量/質量)にて運転した。接触分解灯油留分の性状を表2に示す。
【0051】
【表2】
【0052】
(実施例1〜4、比較例1〜4)
上述の直留灯油に対して接触分解灯油留分を表3に示す比率で混合し、水素化精製装置を用いて反応温度300〜320℃、反応圧力3.5MPa、LHSV3.0h−1、水素油比150Nm/kLの条件下で処理することでジェット燃料基材を得た。得られたジェット燃料基材について、性状を測定し、その結果を表3に示す。
【0053】
【表3】
【0054】
表3の結果から、各実施例で得られたジェット燃料基材については、290℃で測定したJFTOT管堆積度に優れていることが分かった。一方、比較例1〜4で得られたジェット燃料基材は接触分解装置から留出する接触分解灯油留分を混合しておらず、290℃で測定したJFTOT管堆積度が1を超えており熱安定性に劣ることがわかった。
【0055】
(実施例5)
実施例1に酸化防止剤、電導度調整剤、氷結防止剤を合計0.1容量%混合し、ジェット燃料組成物を得た。得られた組成物は、全酸価0.01mgKOH/g、引火点43℃、−20℃における動粘度3.507mm/s、真発熱量43.0MJ/kg、実在ガム2mg/100mlであり、ジェット燃料としての規格を満たしていた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、常圧蒸留装置から留出する直留灯油等に対し接触分解装置から留出する接触分解灯油留分を混合したものを原料とし、これを水素化精製することで、品質に優れたジェット燃料組成物が得られるため産業上きわめて有用である。