【文献】
Nat. Immunol.,2008年,9(8),p.880-886
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記抗体が、Myl9、Myl12a、またはMyl12bの部分アミノ酸配列であって、配列表の配列番号24に記載のアミノ酸配列からなる部分アミノ酸配列を特異的に認識する抗体である、請求項1に記載の炎症疾患の治療用組成物。
被検化合物の存在下で、MylとCD69とを共存させ、次いで、MylとCD69との共存下での作用を測定し、該作用の低下または消失が検出されたとき、被検化合物がMylとCD69との結合を阻害すると決定することを含み、Mylが、Myl9、Myl12a、およびMyl12bからなる群より選ばれるいずれか1である、MylとCD69との結合を阻害する化合物の同定方法。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、Mylを特異的に認識する抗体であって、MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する抗体の、炎症疾患の治療用の薬剤または医薬組成物の製造、あるいは、炎症疾患の治療における使用に関する。
【0031】
すなわち、本発明は、炎症疾患を治療するために使用される薬剤または医薬組成物に関する。本発明に係る炎症疾患の治療用の薬剤または医薬組成物は、Mylを特異的に認識する抗体であって、MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する抗体を、炎症疾患を治療するまたは低減するのに有効な量で含む。
【0032】
また本発明は、炎症疾患を治療する方法に関する。本発明に係る炎症疾患を治療する方法は、Mylを特異的に認識する抗体であって、MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する抗体を、炎症疾患を有すると診断されている対象に、炎症疾患を治療するのに有効な量で投与することを含む。
【0033】
本発明はまた、MylとCD69と共存下での作用の効果を阻害する化合物の同定方法に関し、本方法は、被検化合物の存在下で、MylとCD69とを共存させ、次いで、MylとCD69との共存下での作用を測定し、該作用の低下または消失が検出されたとき、被検化合物がMylとCD69との共存下での作用の効果を阻害すると決定することを含む。
【0034】
本発明はさらに、MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する化合物を選別することを特徴とする、炎症疾患の治療用組成物の有効成分となる候補化合物の同定方法に関する。
【0035】
「Myl」は本発明において、好ましくはMyl9、Myl12a、またはMyl12bであり、より好ましくはMyl9である。また、Mylは、ヒト由来のタンパク質であることが好ましいが、該ヒト由来のタンパク質と同質の機能を有し、かつ構造的相同性を有する哺乳動物由来のタンパク質、例えばマウス、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、サル、ネコ、クマ、ラットまたはウサギなどのタンパク質であることができる。
【0036】
Myl9、Myl12a、およびMyl12bのアミノ酸配列、およびそれらをコードする核酸のヌクレオチド配列は、当業者に良く知られている。ヒト由来のMyl9をコードする核酸として、配列番号1に記載のヌクレオチド配列(NM_006097.4)で表されるMyl9 アイソフォームaをコードするDNA、および配列番号3に記載のヌクレオチド配列(NM_181526.2)で表されるMyl9 アイソフォームbをコードするDNAを例示できる。また、ヒト由来のMyl9 アイソフォームaおよびアイソフォームbとして、それぞれ配列番号2および4に記載のアミノ酸配列(NP_006088.2およびNP_852667.1)で表されるポリペプチドを例示できる。Myl9 アイソフォームbは、アイソフォームaのアミノ酸配列の第63−116番目のアミノ酸残基が欠失しているもので、平滑筋細胞や一部の細胞で発現している。ヒト由来のMyl12aをコードする核酸として、配列番号5に記載のヌクレオチド配列(NM_006471.2)で表されるDNAを例示できる。また、ヒト由来のMyl12aとして、配列番号6に記載のアミノ酸配列(NP_006462.1)で表されるポリペプチドを例示できる。ヒト由来のMyl12bをコードする核酸として、配列番号7、9、および11に記載のヌクレオチド配列(NM_001144944.1、NM_033546.3、およびNM_001144945.1)で表される転写変異体1、2、および3を例示できる。これら転写変異がコードするアミノ酸配列を、配列番号8、10、および12(NP_001138416.1、NP_291024.1、およびNP_001138417.1)に示す。マウス由来のMyl9をコードする核酸として、配列番号13に記載のヌクレオチド配列(NM_172118.1)で表されるDNAを例示できる。また、マウス由来のMyl9として、配列番号14に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを例示できる。マウス由来のMyl12aコードする核酸として、配列番号15に記載のヌクレオチド配列(NM_026064.2)で表されるDNAを例示できる。また、マウス由来のMyl12aとして、配列番号16に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを例示できる。マウス由来のMyl12bコードする核酸として、配列番号17に記載のヌクレオチド配列(NM_023402.2)で表されるDNAを例示できる。また、マウス由来のMyl12bとして、配列番号18に記載のアミノ酸配列で表されるポリペプチドを例示できる。なお、NM_XXXXXX.X、NM_XXXXXXXXX.X、NP_XXXXXX.X、NP_XXXXXXXXX.X(ここでXは数字である)などで表されている番号は、米国立医学図書館(National Library of Medicine)の生物工学情報センター(National Center for Biotechnology Information:NCBI)のGenBankに登録された遺伝子およびタンパク質のアクセッション番号である。
【0037】
「Mylを特異的に認識する抗体」とは、Myl以外のタンパク質であってMylとはアミノ酸配列相同性の低いタンパク質に比べて、より選択的にMylを認知する抗体を意味する。例えば、Myl以外のタンパク質であってMylとはアミノ酸配列相同性の低いタンパク質に比べて、より選択的にMylに作用する抗体や、より選択的にMylに結合する抗体を意味する。認識の有無は、公知の抗原抗体反応により決定できる。Myl9とMyl12a、またはMyl9とMyl12bは、アミノ酸配列の相同性がそれぞれ94.2%または93.6%の相同性を有し、Myl12aとMyl12bは97.7%の相同性を有する。そのため、Myl9を特異的に認識する抗体が、Myl12a、およびMyl12bを特異的に認識することがある。また逆に、Myl12aやMyl12bを特異的に認識する抗体が、Myl9を特異的に認識することがある。
【0038】
本発明に係る抗体として、好ましくはMyl9を特異的に認識する抗体、Myl12aを特異的に認識する抗体、Myl12bを特異的に認識する抗体、より好ましくはMyl9、Myl12a、およびMyl12bのいずれをも認識する抗体を挙げることができる。例えば、Myl9、Myl12a、およびMyl12bのアミノ酸配列のうち相同性の高い部分アミノ酸配列を特異的に認識する抗体を挙げることができる。このような部分アミノ酸配列として、配列表の配列番号24に記載のアミノ酸配列を例示できる。配列表の配列番号24に記載のアミノ酸配列は、Myl9のアミノ酸配列のN末領域に存在する部分アミノ酸配列であり、、Myl12aおよびMyl12bの対応する領域のアミノ酸配列と相同性がきわめて高い。また、配列番号24に記載のアミノ酸配列からなる領域を特異的に認識する抗体が、MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害したことから、この領域はMylとCD69との作用部位を含む領域であると推定される。
【0039】
「MylとCD69との共存下での作用」とは、MylとCD69とが共存したときに生じるMylとCD69との相互作用を意味する。「相互作用」とは、例えば2つの同種あるいは別種のタンパク質が特異的に作用し合い、その結果、一方のあるいは両方のタンパク質の機能が変化する、例えば亢進する、または低減することを意味する。特異的に作用するとは、その作用に関わるタンパク質以外のタンパク質に比べて、より選択的に作用することを意味する。すなわち、「MylとCD69との共存下での作用」は、CD69の機能を起こさせるMylの作用であるということができる。また、「MylとCD69との共存下での作用」として、MylとCD69との結合を挙げることができる。
【0040】
「MylとCD69との共存下での作用の効果」とは、MylとCD69とが共存下で作用した結果生じるCD69の機能の変化、例えば、CD69の機能の発現または亢進、あるいはMylの作用によるCD69の機能変化によって生じる生理機能の変化を意味する。MylとCD69との共存下での作用の効果として、CD69を発現したCD4 T細胞の骨髄への移行を挙げることができる。
【0041】
「MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する」とは、MylとCD69との共存下での作用の効果を低減させることをいう。
【0042】
本発明に係る抗体は、MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する抗体であり、好ましくはMyl9、Myl12a、またはMyl12bとCD69との共存下での作用の効果を阻害する抗体、より好ましくはMyl9、Myl12a、およびMyl12bとCD69との共存下での作用の効果を阻害する抗体である。
【0043】
本発明に係る抗体は、Myl9、Myl12a、またはMyl12bを抗原として用いて作製することができる。抗原は、これらいずれかの全長タンパク質でもよく、該タンパク質の部分ペプチドであってもよい。抗原は、少なくとも8個、好ましくは少なくとも10個、より好ましくは少なくとも12個、さらに好ましくは15個以上のアミノ酸で構成される。特異的な抗体を作成するためには、抗原に固有なアミノ酸配列からなる領域、すなわち、免疫学的に特異的なそのエピトープを含有するペプチドを用いることが好ましい。抗原として好ましく使用できるペプチドとして、配列表の配列番号24に記載のアミノ酸配列からなるペプチドを挙げることができる。
【0044】
かかる全長タンパク質および該タンパク質の部分ペプチドは、該タンパク質またはペプチドをコードする核酸を一般的遺伝子工学的手法(Sambrook J. et al. ed., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (2d ed.) Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York (1989)、Ulmer, K.M., Science, 219: 666-671, 1983、Ehrlich H.A. ed., PCR Technology. Principles and Applications for DNA Amplification. Stockton Press, New York (1989)など)で発現させた細胞、無細胞系合成産物、化学合成産物として作製できる。または、該細胞や生体生物由来の試料から調製したものであることができ、これらからさらに精製されたものであってもよい。
【0045】
抗体の産生には、自体公知の抗体作製法を利用できる。例えば、抗原をアジュバントの存在下または非存在下で、単独でまたは担体に結合して動物に投与し、液性免疫応答および/または細胞性免疫応答等の免疫誘導を行うことにより抗体が得られる。担体はそれ自体が宿主に対して有害作用を示さずかつ抗原性を増強せしめる担体であれば特に限定されず、例えばセルロース、重合アミノ酸、アルブミンおよびキーホールリンペットヘモシアニン等が例示できる。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、Ribi(MPL)、Ribi(TDM)、Ribi(MPL+TDM)、百日咳ワクチン(Bordetella pertussis vaccine)、ムラミルジペプチド(MDP)、アルミニウムアジュバント(ALUM)、およびこれらの組み合わせを例示できる。免疫される動物は、マウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ等が好適に用いられる。
【0046】
本発明に係る抗体は、モノクローナル抗体またはポリクローナル抗体であり得る。ポリクローナル抗体は、免疫手段を施された動物の血清から自体公知の抗体回収法によって取得できる。好ましい抗体回収手段として免疫アフィニティクロマトグラフィー法が挙げられる。モノクロ−ナル抗体は、公知方法、例えばハイブリドーマ法を用いて作製することができる(Kohler and Milstein, Nature, 256:495, 1975)。ハイブリドーマ法では、マウス、ハムスターまたは他の適切な宿主動物を、典型的には抗原を用いて免疫して、特異的に抗原に結合する抗体を産生するかまたは産生することが可能なリンパ球を誘導する。代替的には、抗体を産生するかまたは産生することが可能なリンパ球を用いて、自体公知の永久増殖性細胞への形質転換手段を導入することによりハイブリドーマを作製する。例えば、かかるリンパ球と永久増殖性細胞とを自体公知の方法で融合させて、ハイブリドーマを作成してこれをクローン化し、目的の抗体を産生するハイブリドーマを選別する。該ハイブリドーマを培養することにより、培養液から抗体を回収することができる。ハイブリドーマの選別は、例えば公知方法によりスクリーニングすることにより実施できる(Harlow & Lane, Antibodies, A Laboratory Manual, Cold Spring Harbor Press, New York (1988)、Goding, Monoclonal Antibodies, Principles and Practice (2d ed.) Academic Press, New York (1986))。すなわち、ハイブリドーマの産生するモノクローナル抗体とMylとの特異的な免疫反応性や、MylとCD69との共存下での作用の効果の阻害を試験することにより、所望のものを選択することができる。
【0047】
天然の抗体構造単位は、典型的には四量体を含有する。かかる四量体は各々、ポリペプチド鎖の2つの相同対(各々の対は1つの全長軽鎖(例えば、約25kDa)および1つの全長重鎖(例えば、約50kDa〜70kDa)を有する)から構成される。典型的には、各々の鎖のアミノ末端部は、典型的に抗原認識に関与する約100個〜110個以上のアミノ酸の可変領域を含む。各々の鎖のカルボキシ末端部は、典型的にはエフェクター機能に関与し得る定常領域を規定する。ヒト軽鎖は典型的にはκ軽鎖およびλ軽鎖として分類される。重鎖は典型的にはμ、δ、γ、αまたはεとして分類され、抗体アイソタイプは、それぞれIgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEとして規定される。IgGはIgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含むが、これらに限定されない幾つかのサブクラスを有する。IgMはIgM1およびIgM2を含むが、これらに限定されないサブクラスを有する。IgAも同様に、IgA1およびIgA2を含むが、これらに限定されないサブクラスに細分される。軽鎖および重鎖においては、可変領域および定常領域は約12アミノ酸以上のJ領域によって連結され、重鎖はまた、約10アミノ酸以上のD領域を含み得る(Paul, W., ed., Fundamental Immunology Ch. 7 (2nd ed.) Raven Press, N. Y. (1989)など)。各々の軽/重鎖対の可変領域は、典型的には抗原結合部位を形成する。
【0048】
可変領域は、典型的には3つの超可変領域(相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる)によって連結される比較的保存されたフレームワーク領域(FR)という同じ全体構造を呈する。各々の対の2つの鎖からのCDRは、典型的にはフレームワーク領域によって整列し、これにより特異的なエピトープへの結合が可能となる。軽鎖可変領域および重鎖可変領域の両方は、N末端からC末端へ、典型的にはドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含有する。
【0049】
本発明に係る抗体は、無傷抗体(intact antibody)または抗体断片のいずれであってもよい。「無傷抗体」とは、天然の抗体と同様の四量体の構造単位からなる抗体を意味する。「抗体断片」とは、無傷抗体の一部、例えば無傷抗体の抗原結合領域または可変領域等を含む断片を意味する。抗体断片の例としては、Fab断片、Fab1断片、F(ab’)2断片、Fv断片、ダイアボディ、線状抗体(Zapata et al., Protein Eng. 8(10):1057-1062, 1995)、一本鎖抗体分子、並びに抗体断片から形成される多重特異性抗体が挙げられる。「Fab断片」は単一の抗原結合部位を有する抗原結合断片であり、抗体をパパイン分解することにより、1つの抗体から各々が単一の抗原結合部位を有する2つの同一のFab断片を作製することができる。「F(ab’)2断片」は、抗体をペプシン処理することにより作製することができる抗体断片であり、依然として抗原を架橋することが可能である。「Fv断片」は、完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含有する抗体断片であり、密接に非共有結合した1つの重鎖可変ドメインおよび1つの軽鎖可変ドメインの二量体から成る。単一の可変ドメイン、または抗原に特異的な3つのCDRのみを含有するFvの半分は、抗原を認識し、結合することができる。一本鎖抗体分子である「一本鎖Fv」または「sFv」抗体断片は、抗体のVHドメインおよびVLドメインを含み、かつこれらのドメインが単一のポリペプチド鎖中に存在することを特徴とするものである。FvポリペプチドはVHドメインとVLドメインとの間に、sFvが抗原結合のための所望の構造を形成するのを可能にするポリペプチドリンカーをさらに含有することができる(Rosenburg and Moore eds., Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, vol.113, Springer-Verlag, New York, pp. 269-315 (1994)など)。「ダイアボディ」という用語は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を指し、この断片は同じポリペプチド鎖(V
H−VL)で軽鎖可変ドメイン(VL)に連結した重鎖可変ドメイン(VH)を含む(欧州特許第404,097号、国際公開第93/11161号、およびHollinger et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 90:6444-6448, 1993など)。同じ鎖上の2つのドメイン間での対合を可能にするには短かいリンカーを用いることで、ドメインを別の鎖の相補的ドメインと対合させ、2つの抗原結合部位を生じさせることができる。
【0050】
本発明に係る抗体は、キメラ抗体、あるいは、部分ヒト化または完全ヒト化されたヒト化抗体として作製することができる。非ヒト抗体は当該技術分野で既知の任意の適用可能な方法を用いてヒト化することができる。ヒト化抗体は、免疫系が部分的または完全にヒト化されたトランスジェニック動物を用いて作製できる。本発明に係る抗体またはその断片は、部分的または完全にヒト化できる。キメラ抗体は当該技術分野で既知の任意の技法を用いて作製することができる(米国特許第5,169,939号、同第5,750,078号、同第6,020,153号、同第6,420,113号、同第6,423,511号、同第6,632,927号および同第6,800,738号など)。
【0051】
本発明に係る抗体は、MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害するため、CD69の機能的異常や量的異常、例えばMylによるCD69の活性化、に起因する各種疾患の解明、防止、改善および/または治療のために有用である。
【0052】
「CD69」は、Cタイプレクチンファミリーに属するII型の膜貫通型タンパク質である。CD69のアミノ酸配列、およびCD69をコードする核酸のヌクレオチド配列は、当業者に良く知られている。ヒト由来のCD69をコードする核酸として、配列番号19に記載のヌクレオチド配列(NM_001781.2)で表されるDNAを例示できる。また、ヒト由来のCD69として、配列番号20に記載のアミノ酸配列(NP_001772.1)で表されるポリペプチドを例示できる。
【0053】
CD69の機能的異常や量的異常に起因する各種疾患として、炎症疾患を好ましく挙げることができる。CD69は、血小板に恒常的に発現しており、また、活性化した好中球や好酸球などにも発現がみられることから、血小板の機能発現や局所の炎症反応における役割が推測されている。また、関節炎の発症において好中球上のCD69が重要な役割を果たしていることが明らかになっている(非特許文献5)。さらに、CD4 T細胞上のCD69がアレルギー性気道炎症を制御しており、CD69に対する抗体はアレルギー性気道炎症を抑制することが報告されている(非特許文献6)。
【0054】
「炎症疾患」とは、炎症状態を伴う疾患を意味する。炎症状態とは、生体に作用する各種の傷害因子に対する全体的または部分的な一連の生体防御反応、例えば、免疫系の細胞の数の変化、該細胞の移動速度の変化、および該細胞の活性の変化により生じる、組織的障害や循環障害などの病理学的状態を意味する。免疫系の細胞としては、例えば、T細胞、B細胞、単球若しくはマクロファージ、抗原提示細胞(APC)、樹状細胞、小膠細胞、NK細胞、NKT細胞、好中球、好酸球、肥満細胞、または免疫に特異的に関連する他のあらゆる細胞、例えば、サイトカイン産生内皮細胞若しくはサイトカイン産生上皮細胞を挙げることができる。
【0055】
炎症疾患は、炎症状態を伴う疾患であれば特に限定されないが、好ましくはアレルギー性気道炎症などの気道炎症や自己免疫疾患を挙げることができる。より具体的には、喘息、アトピー性皮膚炎、炎症性腸疾患、関節炎などを上げることができる。
【0056】
「治療」とは、ある処置をすることにより、疾患やその症状を消失させるか、低減させるか、あるいはその進行を止めることを意味する。「治療」には、疾患の発症を防止することも含まれ得る。
【0057】
本発明に係る抗体は、必要に応じて、医薬用に許容される担体(医薬用担体)を含む医薬組成物として製造できる。
【0058】
医薬用担体は、製剤の使用形態に応じて通常使用される、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤および賦形剤を例示できる。これらは得られる製剤の投与形態に応じて適宜選択して使用される。より具体的には、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、ラクトースを例示できる。これらは、目的とする薬剤の剤形に応じて適宜1種類または2種類以上を組み合わせて使用される。そのほか、安定化剤、殺菌剤、緩衝剤、等張化剤、キレート剤、界面活性剤、およびpH調整剤などを適宜使用することもできる。安定化剤は、例えばヒト血清アルブミンや通常のL−アミノ酸、糖類、セルロース誘導体を例示できる。L−アミノ酸は、特に限定はなく、例えばグリシン、システイン、グルタミン酸などのいずれでもよい。糖類も特に限定はなく、例えばグルコース、マンノース、ガラクトース、果糖などの単糖類、マンニトール、イノシトール、キシリトールなどの糖アルコール、ショ糖、マルトース、乳糖などの二糖類、デキストラン、ヒドロキシプロピルスターチ、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などの多糖類などおよびそれらの誘導体などのいずれでもよい。セルロース誘導体も特に限定はなく、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどのいずれでもよい。界面活性剤も特に限定はなく、イオン性界面活性剤および非イオン性界面活性剤のいずれも使用できる。界面活性剤には、例えばポリオキシエチレングリコールソルビタンアルキルエステル系、ポリオキシエチレンアルキルエーテル系、ソルビタンモノアシルエステル系、脂肪酸グリセリド系などが包含される。緩衝剤は、ホウ酸、リン酸、酢酸、クエン酸、ε−アミノカプロン酸、グルタミン酸および/またはそれらに対応する塩(例えばそれらのナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などのアルカリ金属塩やアルカリ土類金属塩)を例示できる。等張化剤は、塩化ナトリウム、塩化カリウム、糖類、グリセリンを例示できる。キレート剤は、例えばエデト酸ナトリウム、クエン酸を例示できる。
【0059】
本発明に係る抗体は、炎症疾患を治療するための1つまたは複数の公知の抗炎症疾患治療薬と組み合わせて利用することができる。
【0060】
本発明に係る抗体を含む医薬組成物は、該抗体に加え、炎症疾患の治療に有効な付加的な活性成分を組み合わせて含むことができる。
【0061】
医薬組成物の用量範囲は特に限定されず、含有される成分の有効性、投与形態、投与経路、疾病の種類、対象の性質(体重、年齢、病状および他の医薬の使用の有無等)、および担当医師の判断等応じて適宜選択される。一般的には適当な用量は、例えば対象の体重1kgあたり約0.01μg〜100mg程度、好ましくは約0.1μg〜1mg程度の範囲であることが好ましい。しかしながら、当該分野においてよく知られた最適化のための一般的な常套的実験を用いてこれらの用量の変更を行うことができる。上記投与量は1日1〜数回に分けて投与することができ、数日または数週間に1回の割合で間欠的に投与してもよい。
【0062】
本発明に係る医薬組成物を投与するときには、本医薬組成物を単独で使用してもよく、あるいは治療に必要な他の化合物または医薬と共に使用してもよい。
【0063】
投与経路は、全身投与または局所投与のいずれも選択することができる。この場合、疾患、症状などに応じた適当な投与経路を選択する。本発明に係る薬剤は、経口経路および非経口経路のいずれによっても投与できるが、経口投与がより好ましい。非経口経路としては、通常の静脈内投与、動脈内投与のほか、皮下、皮内、筋肉内などへの投与を挙げることができる。
【0064】
剤形は、特に限定されず、種々の剤形とすることができる。例えば、溶液製剤として使用できるほかに、これを凍結乾燥化し保存し得る状態にした後、用時、水や生理的食塩水などを含む緩衝液などで溶解して適当な濃度に調製した後に使用することもできる。また持続性剤形または徐放性剤形であってもよい。
【0065】
具体的には、経口投与のためには、錠剤、カプセル剤、散剤、顆粒剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁液、溶液剤、酒精剤、シロップ剤、エキス剤、エリキシル剤とすることができる。非経口剤としては、例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤などの注射剤、経皮投与または貼付剤、軟膏またはローション、口腔内投与のための舌下剤、口腔貼付剤、ならびに経鼻投与のためのエアゾール剤、坐剤とすることができるが、これらには限定されない。これらの製剤は、製剤工程において通常用いられる公知の方法により製造することができる。
【0066】
経口用固形製剤を調製する場合は、上記有効成分に賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤などを加えた後、常法により錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤などを製造することができる。そのような添加剤としては、当該分野で一般的に使用されるものでよく、例えば、賦形剤としては、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などを、結合剤としては、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどを、崩壊剤としては乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などを、滑沢剤としては精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどを、矯味剤としては白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などを例示できる。
【0067】
経口用液体製剤を調製する場合は、上記化合物に矯味剤、緩衝剤、安定化剤、矯臭剤などを加えて常法により内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤などを製造することができる。この場合矯味剤としては上記に挙げられたもので良く、緩衝剤としてはクエン酸ナトリウムなどが、安定化剤としてはトラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどを挙げることができる。
【0068】
注射剤を調製する場合は、上記化合物にpH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などを添加し、常法により皮下、筋肉内および静脈内用注射剤を製造することができる。この場合のpH調節剤および緩衝剤としてはクエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどを挙げることができる。安定化剤としてはピロ亜硫酸ナトリウム、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、チオグリコール酸、チオ乳酸などを挙げることができる。局所麻酔剤としては塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどを挙げることができる。等張化剤としては、塩化ナトリウム、ブドウ糖などを例示できる。
【0069】
MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する化合物の同定方法は、被検化合物の存在下で、MylとCD69とを共存させ、次いで、MylとCD69との作用を測定し、該作用を阻害する化合物を選択することにより実施できる。
【0070】
MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する化合物の同定方法は、例えば、被検化合物の存在下で、MylとCD69とを共存させ、次いで、MylとCD69との結合を測定し、該結合を阻害する化合物を選択することによっても実施できる。
【0071】
また、MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する化合物の同定方法は、Mylの代わりに、Mylのアミノ酸配列においてMylがCD69と作用すると推定されるN末側領域のペプチド、例えば配列表の配列番号24に記載のアミノ酸配列で表される領域のペプチドを使用することによっても実施することができる。
【0072】
MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する化合物の同定方法は、好ましくは、下記(i)から(iii)の工程を含む:
(i)Mylと被検化合物とを接触させる工程、
(ii)MylとCD69とを共存させる工程、および
(iii)MylとCD69との共存下での作用を測定する工程。
【0073】
上記工程(i)において、Mylと被検化合物との接触は、CD69の非存在下および存在下のいずれでも行うことができるが、CD69の非存在下で行うことにより、Mylに作用して、MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する化合物を同定することができるため、より好ましい。
【0074】
MylとCD69との共存下での作用の測定結果を、Mylを被検化合物と接触させた場合と接触させなかった場合とで比較することにより、該被検化合物がMylとCD69との共存下での作用に及ぼす効果を判定することができる。MylとCD69との共存下での作用が、Mylを被検化合物と接触させなかったときと比較して、被検化合物と接触させたときに減少した場合、該被検化合物はMylとCD69の共存下での作用を阻害すると判定できる。
【0075】
MylとCD69との共存下での作用の測定は、一般的な医薬品スクリーニングシステムで使用されている様々な解析方法を利用して実施できる。例えば、MylとCD69との共存下での作用を可能にする条件を選択し、当該条件下で、MylとCD69とを共存させ、MylとCD69との作用を検出する。MylとCD69との共存を可能にする条件はインビトロ(in vitro)の条件でもインビボ(in vivo)の条件でもよく、インビトロの条件が好ましい。MylおよびCD69は、一般的遺伝子工学的手法で発現させた細胞、無細胞系合成産物、化学合成産物として作製できる。または、該細胞や生体生物由来の試料から調製したものであることができ、これらからさらに精製されたものであってもよい。
【0076】
例えば、MylとCD69との結合の測定を測定するときは、MylとCD69との結合により形成される複合体と、結合していない遊離のMylおよびCD69とを分離し、該複合体をイムノブロッティングなどの公知の方法によって検出することにより実施できる。または、MylとCD69との結合反応を行い、その後、CD69に結合したMylを、Mylに対する抗体を使用して測定することにより、結合の測定が実施できる。Mylに結合した抗体は、標識物質で標識した二次抗体を使用して検出できる。あらかじめ標識物質で標識化した抗体を使用して検出を実施することもできる。あるいは、CD69との結合反応に使用するMylをあらかじめ所望の標識物質で標識化して使用し、上記同定方法を行い、該標識物質を検出することにより結合の検出が可能である。標識物質として、一般的な結合解析方法で使用されている物質がいずれも利用でき、グルタチオン S−トランスフェラーゼ(GST)、His−tag、Myc−tag、HA−tag、FLAG−tagまたはXpress−tagなどのタグペプチド類、蛍光色素、ホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)やアルカリホスファターゼ(ALP)などの酵素類、あるいはビオチンなどを例示できる。簡便には、放射性同位体元素が利用できる。標識物質の検出は、自体公知の検出方法を使用して実施できる。
【0077】
あるいは、MylとCD69との結合の測定は、ビアコアシステム(BIACORE system)などの表面プラズモン共鳴センサー、シンチレーションプロキシミティアッセイ法(Scintillation proximity assay、SPA)、または蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescene resonance energy transfer、FRET)を応用した方法により実施できる。
【0078】
MylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する化合物の同定方法により同定された化合物は、炎症疾患の治療用組成物の有効成分となり得る。すなわち、本発明に係るMylとCD69との共存下での作用の効果を阻害する化合物の同定方法を利用して、そのような化合物を選別することにより、炎症疾患の治療用組成物の有効成分となる候補化合物を提供することができる。
【0079】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は下記の実施例に限定されることはない。
【実施例1】
【0080】
CD69に作用して、その機能を発現させ得る分子の探索を実施した。具体的には、CD69と結合するタンパク質の探索を行った。まず、CD69タンパク質を、遺伝子工学的手法により取得し、精製した。
【0081】
具体的にはまず、マウスCD69タンパク質(以下、mCD69と略称する)の精製を行った。PCRにてマウス脾臓cDNAより作製したmCD69細胞外領域(Extra Cellular Domain:転写開始部位から188〜600番目:以下、ECと略称することがある)配列をN末端側にグルタチオンS−トランスフェラーゼ(以下、GSTと略称する)タグが組み込まれたpET42a(TAKARA社)のマルチクローニングサイトに挿入し、大腸菌mCD69EC発現ベクターpET42a GST−mCD69ECを作成した。pET42a GST−mCD69ECを大腸菌BL21(DE3)株へ形質転換したものをイソプロピル β−D−1−チオガラクトピラノシド(以下、IPTGと略称する;Sigma社)を用いてタンパク質発現誘導を行った。発現させたGST−mCD69ECタンパク質は不溶性画分に含まれ、正しい立体構造を形成していないため、以下のようにリフォールディングを行った。変性バッファー(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、6M 塩酸グアニジン、10mM イミダゾール(pH8.0))で溶解し、ソニケーター(Microson Ultrasonic Disruptor:MISONIX社)を用いて破砕した。精製過程はすべて、AKTA プライム プラス(GEヘルスケア社)を用いてグラジエント流速で行った。さらに、リフォールディングバッファー(20mM Tris−HCl、500mM NaCl、6M 尿素、10mM イミダゾール(pH8.0))で置換を行い、洗浄バッファー(20mM Tris−HCl(pH8.0)、500mM NaCl、10mM イミダゾール)および溶出バッファー(20mM Tris−HCl(pH8.0)、 500mM NaCl、500mM イミダゾール)処理後、透析膜(GEヘルスケア)を用いて、リン酸緩衝食塩水(以下、PBSと略称する)へ置換を行い、GST−mCD69ECのタンパク質を得た。コントロールタンパク質には、同様に変性ならびにリフォールディングを行ったGSTタンパク質を用いた。
【0082】
次に、CD69に結合するタンパク質が存在すると考えられる骨髄抽出液(以下、BM lysateと略称する)を調製した。骨髄への記憶CD4 T細胞の移行にはCD69が関与することが報告されており(非特許文献4)、このことから骨髄にはCD69に作用してその機能的な働きを調節する分子が存在すると考えられる。具体的には、マウス大腿骨の骨髄をコラゲナーゼ IV(Sigma社)により処理した後に、プロテアーゼインヒビター(Roche社)含有の溶解バッファー(20mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、0.05% NaN
3、10% グリセロール、1% トリトン−X100
登録商標)で溶解することにより、骨髄抽出液を調製した。
【0083】
得られた骨髄抽出液を、精製したGST−mCD69ECタンパク質と混合し、抗GST抗体(WAKO社)およびプロテイン−G(GEヘルスケア社)を用いて免疫沈降した。ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で分離処理後、Bio−Safe CBB G−250ステイン(BioRad社)を用いてクマシー ブリリアント ブルー(以下、CBBと略称する)染色を行った。
【0084】
図1Aに示すように、GST−mCD69ECタンパク質に結合するタンパク質を示す特異的なバンドが検出された。このバンドを切り出し、LC−MS/MS解析により、GST−mCD69ECタンパク質に結合するタンパク質の同定を行った。その結果、GST−mCD69ECタンパク質に結合するタンパク質は、
図1Bの太線で示すアミノ酸配列を持つMyl9またはMyl9と相同性の高いMyl12aおよびMyl12bであることが明らかになった。
【0085】
次に、Myl9、Myl12a、およびMyl12bが実際にCD69と結合するのかを検討した。まず、mCD69EC配列をN末端にFlagタグが組み込まれたp3xFLAG CMV−9(Sigma社)に挿入し、N末端にFlag−Tagを付加したmCD69EC配列の発現ベクターを作製した。当該発現ベクターを293T細胞へ形質転換して3xFlag mCD69ECを過剰発現させた後、細胞抽出液を調製した。コントロールとして、3xFlagペプチドを過剰発現させた293T細胞から細胞抽出液を調製した。これら細胞抽出液から、抗DYKDDDDK(配列番号21)タグ抗体ビーズ(WAKO社)を用いて、3xFlag mCD69ECタンパク質または3xFlagペプチドを精製した。ここで、DYKDDDDKは、アミノ酸一文字標記で表したペプチドである。これら精製タンパク質をそれぞれ、骨髄抽出液(BM lysate)と上記同様に反応させ、抗Flag M2抗体(Sigma社)およびプロテイン−G(GEヘルスケア社)を用いて免疫沈降を行った。免疫沈降を実施後、SDS−PAGEで分離し、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜(BioRad社)へ転写した。次いで、Myl9、Myl12a、およびMyl12bを認識する抗体(以下、抗Myl9/12抗体と称する)を用いてイムノブロッティングを行った。すなわち、一次抗体にウサギ抗Myl9抗体(Abcam社)、二次抗体にホースラディッシュパーオキシダーゼ(HRP)標識抗ウサギIgG抗体(CST社)を用い、ECL検出試薬(GEヘルスケア社)を用いてChemiDocXRS+(BioRad社)により各タンパク質を検出した。なお、mCD69ECタンパク質の糖鎖切断処理は、1μgの3xFLAG mCD69ECに対し、500UのN−グリコシダーゼ PNGase F(NEB社)を添加して行った。
【0086】
その結果、抗Flag M2抗体で免疫沈降された3xFlag mCD69ECタンパク質と抗Myl9/12抗体との結合を示すバンドが認められた(
図1C)。一方、抗Flag M2抗体で免疫沈降された3xFlagペプチドでは、抗Myl9/12抗体との結合を示すバンドは認められなかった。この結果は、mCD69ECタンパク質と抗Flag M2抗体で認識されるMyl9、Myl12a、およびMyl12bとの結合を示す。また、この結合はCD69ECを予め糖鎖修飾切断酵素であるPNGase Fで処理した場合に増強した(
図1C)。
【0087】
これら結果から、骨髄抽出液中に存在するタンパク質、Myl9、Myl12a、およびMyl12bが、CD69と結合することが明らかになった。また、Myl9、Myl12a、およびMyl12bとCD69との結合は、CD69を糖鎖修飾切断酵素で処理することにより増強することが判明した。
【実施例2】
【0088】
記憶CD4 T細胞はCD69を介して骨髄へ移行することが報告されていることから、生体内におけるCD69の機能の解析を行った。また、CD4 T細胞上のCD69の糖鎖修飾状態が、該細胞の活性化に伴いどのように変化するのか解析した。
【0089】
まず、糖鎖修飾阻害剤ツニカマイシンで処理したCD69タンパク質の分子量を測定した。マウスCD69遺伝子の全長配列(以下、mCD69FLと略称することがある)をFLAGベクターに組み込んで得られたpFLAG−CMV mCD69FLをFuGENE HD Transfection(Promega社)を用いて293T細胞に過剰発現させ、細胞を回収する最後の24時間、ツニカマイシン 10mg/mlで処理した。回収した細胞をプロテアーゼインヒビター(Roche社)含有の溶解バッファー(20mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、0.05% NaN
3、10% グリセロール、1% トリトン−X100
登録商標)を用いて溶解し、得られた細胞抽出液をSDS−PAGEにより分離処理し、PVDF膜(BioRad社)へ転写した。一次抗体にはウサギ抗Flag M2抗体(SIGMA社)、二次抗体にはHRP標識抗ウサギIgG抗体(CST社)を用いてイムノブロッティングを行った。ECL検出試薬(GEヘルスケア社)を用いてChemiDocXRS+(BioRad社)によりタンパク質を検出した。
【0090】
図2Aに示すように、293T細胞に過剰発現させたCD69FLは約35kDa前後にバンドが認められたのに対し、ツニカマイシンで処理した場合、分子量の小さいCD69FLが検出された。
【0091】
次に、CD4 T細胞に発現するCD69タンパク質の分子量を調べるため、イムノブロッティングでCD69の検出を行った。まず、CD4 T細胞からTh2細胞を分化誘導し、FLAG−tagを付加したCD69FLをレトロウイスルベクターを用いて導入し、抗FLAG抗体を用いた免疫沈降および抗FLAG抗体を用いたイムノブロッティングを行い、Th2細胞の活性化に伴うCD69の糖鎖修飾状態の変化を調べた。レトロウィルスは、PlatE細胞にpMXs−IRES GFP(IG)−Mock(空)ベクターまたはpMXs−IG−FLAG CMV2 mCD69FLベクターを導入することにより作製した。CD4 T細胞は、C57BL/6マウス脾臓細胞から、フルオレセイン イソチオシアネート(FITC)標識抗CD4抗体(BD Pharmingen社)および抗FITCマイクロビーズ(Miltenyi社)を用いて単離した。Th2細胞分化条件下(25U/ml インターロイキン−2(IL−2)、100U/ml IL−4および抗インターフェロンγ(IFNγ)中和抗体存在下)において、固相化抗T細胞受容体(TCR)β抗体(H57)および抗CD28抗体(BioLegend社)を用いてCD4 T細胞を刺激し、Th2細胞に分化誘導した。Day2に、固相化レトロネクチンを用いて作製したレトロウィルスを細胞に感染させた。Day5に細胞を回収し、1日間培養液で培養したものをレスティング(Resting)細胞として用いた。また、Day5に回収した細胞を2日間培養液で培養し、固相化抗TCRβ抗体を用いて24時間刺激したものを実験に用いた。細胞抽出液を上記方法と同様の処理により調製し、ウサギ抗Flag M2抗体およびプロテイン−G(GEヘルスケア社)を用いて免疫沈降を行い、SDS−PAGEで分離後、PVDF膜(BioRad社)へ転写した。上記と同様の抗体を用いてイムノブロッティングを行い、タンパク質を検出した。
【0092】
図2Bに示すように、刺激を行っていないTh2細胞(
図2B、左から2番目のレーン)に比べて、抗TCRβ抗体により刺激した活性化Th2細胞(
図2B、右のレーン)では糖鎖修飾を受けていないと推測される分子量の小さいCD69の発現が認められた。
【0093】
CD4 T細胞上のCD69の糖鎖修飾状態の変化と機能の関連を調べるため、刺激後24時間および48時間のCD4 T細胞の骨髄への移行を観察した。CD4 T細胞を、ビオチン標識抗CD4 Fab化抗体およびストレプトアビジン マイクロビーズ(Miltenyi社)を用いて、T細胞表面マーカー分子であるThy1.1を発現しているマウスの脾臓から単離し、固相化した抗CD3ε抗体(eBioscience社)および抗CD28抗体を用いて刺激した。刺激して24時間後または48時間後に細胞を回収し、汎白血球表面分子であるLy5.1を発現するマウスへ、尾静脈注射により移入し、1時間後に骨髄および脾臓におけるThy1.1
+CD4
+細胞を検出した。検出には、FITC標識Ly5.1抗体、フィコエリスリン−シアニン7(以下、PE−Cy7と略称する)標識CD4抗体、アロフィコシアニン−シアニン7(以下、APC−Cy7と略称する)標識B220抗体、およびPB標識Thy1.1抗体を用いた。CD4 T細胞の骨髄への移行能は、骨髄における移入細胞数を脾臓における移入細胞数で割った割合で示した。
【0094】
図2Cに示すように、刺激後48時間からThy1.1
+CD4
+細胞の骨髄への移行が認められた。
【0095】
これら結果および実施例1の結果から、刺激されたCD4 T細胞は糖鎖修飾の少ないCD69を発現し、Myl9、Myl12a、またはMyl12bとの結合を介して骨髄へ移行すると考えることができる。
【0096】
Myl9、Myl12a、およびMyl12bとCD69との結合が、刺激したCD4 T細胞の骨髄への移行に関与するか否かを検討した。具体的には、上記方法と同様の方法で、マウス脾臓から単離したThy1.1
+CD4 T細胞を固相化抗CD3ε抗体で刺激し、8時間後に細胞を回収し、T細胞表面分子であるThy1.2を発現しているC57BL/6マウスへ移入した。移入1時間前に抗Myl9/12抗体(MBL社)またはコントロールであるウサギIgG抗体(Jackson社)をマウスに腹腔内投与し、細胞の移入の1時間後に骨髄および末梢血におけるThy1.1
+CD4
+細胞を上記方法と同様の方法で検出し、Thy1.1およびCD4ダブルポジティブの細胞の割合を算出した。また、CD4 T細胞の骨髄への移行能は、骨髄における移入細胞数を末梢血における移入細胞数で割った割合で示した。
【0097】
図2Dの右パネルに示すように、骨髄へ移行したThy1.1
+CD4
+細胞と血液中のThy1.1
+CD4
+細胞(骨髄へ移行していない細胞)の割合は、コントロール群に比べて抗Myl9/12抗体投与群で低下していた。すなわち、Myl9またはMyl12とCD69との共存下における作用を阻害することにより、CD4 T細胞の骨髄への移行が阻害されることが判明した。この結果から、Myl9、Myl12a、またはMyl12bとCD69との相互作用によりCD4 T細胞が効率的に骨髄へ移行していることが示唆された。
【0098】
これらの結果および実施例1の結果から、抗原刺激後24時間〜48時間のCD4 T細胞は糖鎖修飾を受けないCD69を発現することで、Myl9、Myl12a、またはMyl12bと結合し、骨髄へ移行することが示唆された。
【実施例3】
【0099】
骨髄中のMyl9、Myl12a、またはMyl12bがCD69と結合することにより、CD4 T細胞が骨髄へ移行することが示唆されたため、Myl9、Myl12a、またはMyl12bを発現する細胞の同定を行った。
【0100】
まず、マウスの各臓器の組織切片について、抗Myl9/12抗体を用いた免疫染色法により、Myl9、Myl12a、またはMyl12bを発現する細胞の同定を実施した。具体的には、マウス大腿骨、脾臓、胸腺、および腸管膜リンパ節を4%パラホルムアルデヒドで固定後、30%スクロースに置換した。作製した各臓器の凍結切片を抗Myl9/12抗体およびAlexa488標識抗ウサギIgG抗体を用いて染色した。染色手順は説明書に従い、組織学的解析はコンフォーカルレーザー顕微鏡(LSM710、Carl Zeiss社)で行った。
【0101】
図3Aに示すように、抗Myl9/12抗体で認識されるタンパク質、すなわちMyl9、Myl12a、またはMyl12bを発現する細胞は骨髄に存在することが判明した。また、脾臓でも当該タンパク質がわずかながら認められた。
【0102】
次に、マウスの各臓器、すなわちマウス大腿骨の骨髄、脾臓、胸腺、および腸管膜リンパ節それぞれから組織抽出液を調製し、抗Myl9/12抗体を用いたイムノブロッティングにより、Myl9、Myl12a、またはMyl12bの発現レベルを検討した。具体的には、マウス大腿骨の骨髄、脾臓、胸腺、および腸管膜リンパ節をプロテアーゼインヒビター(Roche社)含有の溶解バッファー(20mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、0.05% NaN
3、10% グリセロール、1% トリトン−X100
登録商標)を用いて溶解した。骨髄は溶解前にコラゲナーゼ IV(Sigma社)で処理したものを用いた。得られた各組織抽出液をSDS−PAGEで分離処理後、PVDF膜(BioRad社)へ転写した。一次抗体には、ウサギ抗Myl9抗体(Abcam社)およびマウス抗α−チューブリン抗体(NeoMarckers社)を用いた。二次抗体にはそれぞれHRP標識された抗ウサギIgG抗体(CST社)および抗マウスIgG抗体(GEヘルスケア社)を用いた。ECL−Detection Reagents(GEヘルスケア社)を用いてChemiDocXRS+(BioRad社)により各タンパク質を検出した。
【0103】
図3Bに示すように、骨髄細胞抽出液に抗Myl9/12抗体で認識されるタンパク質、すなわちMyl9、Myl12a、またはMyl12bの高い発現が認められた。
【0104】
さらに、骨髄中に存在するMyl9、Myl12a、またはMyl12b発現細胞を免疫染色法により解析した。具体的には、骨髄組織切片を上記同様に処理し、蛍光色素を用いて免疫染色を行った。
【0105】
図3Cに示すように、巨核球(Megakaryocytes)および類洞血管内皮細胞が、Myl9、Myl12a、またはMyl12bを発現していることがわかった。
【0106】
また、巨核球および類洞血管内皮細胞におけるMyl9、Myl12a、およびMyl12bのmRNA発現量を測定した。比較対象としてB細胞および全細胞についても、これらmRNAの測定を行った。具体的には、マウス大腿骨の骨髄をコラゲナーゼ IV処理後、抗血管内皮カドヘリン(VE−cadherin)抗体、抗CD45抗体、抗血小板内皮細胞接着分子(PECAM)抗体、抗TER119抗体、抗CD41抗体、抗CD61抗体、抗CD19抗体、抗Gr1抗体、抗TCRβ抗体、および抗B220抗体を用いて、VE−Cadherin
+PECAM
+CD45
−TER119
−細胞、CD41
+CD61
+CD19
−Gr1
−TCRβ
−細胞、およびB220
+細胞をFACSAria
TM セルソーター(BD Bioscience)により単離し、それぞれ類洞血管内皮細胞、巨核球、およびB細胞として用いた。
【0107】
これら各細胞と骨髄細胞(Whole)をTRIzol
登録商標(Invitrogen Life Technologies社)で処理して全RNAを調整し、オリゴ(dT)プライマーおよびSuperscrip
登録商標 II RT(Invitrogen Life Technologies社)を用いてcDNA合成を行った。定量的RT−PCRによる解析を、Applied Biosystems
登録商標 7500 FastリアルタイムPCRシステムにより行った。解析に用いたMyl9、Myl12a、およびMyl12bの各TaqManプローブはApplied Biosystems社から購入した。また、β−アクチンの検出にはRoche Applied Science社のプローブとプライマー(β−Actin forward:CTAAGGCCAACCGTGAAAAG−3´(配列番号22)およびβ−Actin reverse:5´−ACCAGAGGCATACAGGGACA(配列番号23))を用いた。
【0108】
図3Dに示すように、Myl9、Myl12a、およびMyl12bの発現は、いずれも類洞血管内皮細胞で高いことが判明した。また、Myl12bは巨核球でも高い発現が認められた。
【0109】
さらに、フローサイトメーターにより細胞表面上に発現するMyl9、Myl12a、およびMyl12bを調べた。具体的には、マウス大腿骨を抗VE−カドヘリン抗体および抗Myl9/12抗体を用いて染色を行った。ヨウ化プロビジウム(PI、Sigma社)を用いてPI
−の生細胞を検出し、骨髄細胞(Whole)およびVE−カドヘリン
+類洞血管内皮細胞におけるMyl9およびMyl12の発現をFACSCanto2(BD Bioscience社)を用いて解析した。
【0110】
図3Eに示すように、骨髄細胞ではMyl9、Myl12a、およびMyl12bの発現はほとんど認められない(左パネル)のに対し、類洞血管内皮細胞(VE−カドヘリン
+細胞)ではMyl9、Myl12a、またはMyl12bの発現発現が認められた(右パネル)。
【0111】
また、マウス個体内で細胞表面上にMyl9またはMyl12が発現しているか検討した。具体的には、Cy5標識した抗Myl9/12抗体10μgをマウス尾静脈から投与し、30分後の骨髄組織切片を抗VE−カドヘリン抗体およびCellMask
登録商標(Invitrogen社)により免疫染色を行った。
【0112】
図3Fに示すように、類洞血管内皮細胞(VE−カドヘリン
+細胞)がMyl9、Myl12a、またはMyl12bを発現しており、またその発現はCellMask
+で示す細胞脂質二重膜の外側、つまり細胞表面であることが判明した。
【実施例4】
【0113】
CD69はアレルギー性気道炎症に重要であることが報告されている(非特許文献6)。そこで、CD69と結合することが判明したMyl9、Myl12a、およびMyl12bのアレルギー性気道炎症への関与の検討、および抗Myl9/12抗体の投与による気道炎症への抑制効果の検討を行った。
【0114】
実施例の一部で使用した抗Myl9/12抗体(MBL社)は、MBL社に依頼して、Myl9のN末側の1〜27番目個のアミノ酸残基にキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)を結合させたペプチドを抗原として用い、ウサギに免疫することにより製造したポリクローナル抗体である。当該ペプチドのアミノ酸配列はEF−ハンドドメインのN末側のアミノ酸配列であり、ヒトおよびマウスで保存されており、また、Myl12aおよびMyl12bのN末側にも存在する。したがって本抗体は、ヒトおよびマウスのMyl9、Myl12a、およびMyl12bのN末側のアミノ酸配列からなるドメインを特異的に認識すると考えられる(
図4)。
【0115】
まず、マウスに気道炎症を誘発させ、肺組織切片におけるMyl9、Myl12a、またはMyl12bの発現を調べた。具体的には、Day0およびDay7に卵白アルブミン(OVA)100μg/マウス(Sigma社)をアラム4mg/マウス(Thermo社)と共にC57BL/6マウスに腹腔内投与して免疫した。その後、Day14、15、および16にPBSまたは1% OVA(Sigma社)を吸入させて感作し、気道炎症を誘導した。OVAの吸入には超音波式ネブライザーを用いた(Omron社)。PBSを吸入させた(Control)マウスをコントロールとして、OVAを吸入させた(Inhalation)マウスを炎症誘導サンプルとして用いた。吸入暴露48時間後のDay18にマウス肺を4%パラホルムアルデヒドで固定後、30%スクロースで置換した。一次抗体には、ウサギ抗Myl9抗体(Abcam社;Myl12aおよびMyl12bも認識する)を用い、二次抗体にはAlexa488標識抗ウサギIgG抗体を用いた。核染色(Nucleus)および脂質染色(細胞質(Cytosol)付近も染まる)の検出には、それぞれTOPRO3(Invitrogen社)およびCell Mask(CellMask
登録商標 オレンジ プラズマ メンブレン ステイン)(Invitrogen社)を用いた。染色手順は説明書に従い、組織学的解析はコンフォーカルレーザー顕微鏡LSM710(Carl Zeiss社)で行った。
【0116】
図5Aに示すように、炎症誘導されたマウスの肺組織切片では血管内皮細胞表面上にMyl9、Myl12a、またはMyl12bの発現が認められた(中央パネルおよび右パネル)。一方、気道炎症を誘導していないマウスの肺組織切片では発現は認められなかった(
図5Aの左パネル)。
【0117】
次に、気道炎症を誘発させたマウスの肺におけるMyl9、Myl12a、またはMyl12bの発現をイムノブロッティングにより検討した。具体的には、上記方法と同様の方法で免疫および感作を行ったC57BL/6マウスの肺をコラゲナーゼ IV(Sigma社)により処理した後、プロテアーゼインヒビター(Roche社)含有の溶解バッファー(20mM Tris−HCl(pH8.0)、150mM NaCl、0.05% NaN
3、10% グリセロール、1% トリトン−X100
登録商標)を用いて溶解した。得られた肺抽出液をSDS−PAGEで分離後、PVDF膜(BioRad社)へ転写した。一次抗体には、ウサギ抗Myl9抗体(Abcam社)およびマウス抗α−チューブリン抗体(NeoMarckers社)を用いた。二次抗体にはそれぞれHRP標識された抗ウサギIgG抗体(CST社)および抗マウスIgG抗体(GEヘルスケア社)を用いた。ECL−Detection Reagents(GEヘルスケア社)を用いてChemiDocXRS+(BioRad社)により各タンパク質を検出した。
【0118】
図5Bに示すように、炎症非誘導肺抽出液と比較して、炎症誘導肺抽出液においてMyl9/12a/12bの発現の増加が認められた。
【0119】
上記結果から、Myl9、Myl12a、およびMyl12bは、CD69が関与するアレルギー性気道炎症に寄与すると考えることができる。
【0120】
そこで、抗Myl9/12抗体の投与により気道炎症が抑制されるのか検討を行った。まず、Day0およびDay7にBALB/cマウスにOVA 100μg/マウス(Sigma社)をアラム4mg/マウス(Thermo社)と共にを腹腔内投与して免疫し、Day14およびDay16に1% OVA溶液(Sigma社)を吸入させ感作させた。OVAの吸入には超音波式ネブライザーを用いた(Omron社)。感作1日前のDay13およびDay15にウサギ抗Myl9/12抗体(MBL社)またはアルメニアン ハムスター抗CD69抗体(eBioscience社)をそれぞれ100μg/マウスを腹腔内投与した。コントロール抗体としてウサギIgG(Jackson社)を用い、同様に100μg/マウスを腹腔内投与した。Day17に肺胞洗浄を行い、肺胞洗浄液中の浸潤細胞を抗Myl9/12抗体投与群、抗CD69抗体投与群、コントロール抗体投与群の間で比較した。肺胞洗浄は、マウスにペントバルビタールNa(70−90mg/kg)を腹腔内投与して麻酔した後、気道を切開してカニューレ(Becton Dickinson社)を挿管し、生理食塩水(大塚製薬)を肺に注入して細胞を回収することにより行った。回収した細胞はウシ胎仔血清(FCS)で懸濁し、サイトスピン3(Thermo Fisher Scientific社)を用いてスライドガラスに貼り付けた。メイ グリュンワルド ギムザ(May−Gruenwald Giemsa)(MERCK社)試薬を用いてギムザ染色を行い、スライドガラス1枚につき5×10
2個の細胞を数え、細胞を形態学的基準によって好酸球(Eo)、好中球(Neu)、リンパ球(Lym)、マクロファージ(MΦ)に識別した。
【0121】
図5Cに示すように、抗Myl9/12抗体投与群では、抗CD69抗体投与群と同程度に、浸潤細胞の中の好酸球、好中球、リンパ球、マクロファージが有意に減少していた。また、Day17にメサコリン誘導性の気道抵抗の上昇を測定した結果、コントロール抗体投与群ではメサコリンの濃度依存的に気道抵抗値が上昇したのに対し、抗Myl9/12抗体投与群では有意差は認められないものの、気道抵抗値が低下していた(データ非開示)。
【0122】
以上の結果から、Myl9、Myl12a、およびMyl12bは、炎症誘導された血管内皮細胞に特異的に発現し、また、抗Myl9/12抗体投与により気道炎症が減弱することが示唆された。