(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳しく説明する。尚、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味し、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。また、「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基及びメタクリロイル基を意味する。
【0011】
<有機ケイ素化合物>
本発明の熱硬化性組成物は、下記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物と、10時間半減期温度が80〜130℃の範囲にある重合開始剤とを含む。
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ、独立して、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数7〜10のアラルキル基、炭素原子数1〜10のシクロアルキル基、炭素原子数9〜12のシクロアラルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基又はエチレン性不飽和基を有する基であり、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5のうちの少なくとも1つはエチレン性不飽和基を有する基であり、R
6は、水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基であり、v、w、x、y及びzは、モル数を示し、各々、0又は正の数であり、w及びxのうちの少なくとも1つは正の数であり、0≦w/(v+x+y+z)≦10である。)
【0012】
上記有機ケイ素化合物は、以下に示されるモノマーユニット(1−1)〜(1−5)がシロキサン結合で結合した化合物である。
【化4】
【0013】
本発明に係る有機ケイ素化合物を表す一般式(1)において、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は、それぞれ、独立して、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基、炭素原子数7〜10のアラルキル基、炭素原子数1〜10のシクロアルキル基、炭素原子数9〜12のシクロアラルキル基、炭素原子数6〜10のアリール基又はエチレン性不飽和基を有する基である。尚、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5のうちの少なくとも1つはエチレン性不飽和基を有する基である。R
1は、好ましくはエチレン性不飽和基を有する基である。
R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5のうちの少なくとも1つはエチレン性不飽和基を有する基であるが、それ以外の場合の好ましいR
1、R
2、R
3、R
4及びR
5は、水素原子、メチル基及びフェニル基であり、硬化物が変色しにくい点で水素原子及びメチル基がより好ましい。尚、2つのR
5は、互いに、同一であってよいし、異なってもよい。また、R
5がエチレン性不飽和基を有する基である場合、少なくとも1つのR
5がエチレン性不飽和基を有する基であればよい。
また、R
6は、水素原子又は炭素原子数1〜6のアルキル基であり、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基である。
【0014】
上記エチレン性不飽和基を有する基は、好ましくは下記一般式(2)で表される基である。
【化5】
(式中、R
7は水素原子又はメチル基であり、R
8は炭素原子数1〜6のアルキレン基である。)
【0015】
上記一般式(1)において、w及びxのうちの少なくとも1つは正の数であり、v、y及びzは、特に限定されない。
wは、硬化物の耐熱性の観点から、0≦w/(v+x+y+z)≦10を満たし、好ましくは0.01≦w/(v+x+y+z)≦5を満たし、より好ましくは0.1≦w/(v+x+y+z)≦2を満たす。
また、vは、硬化物の耐熱性の観点から、好ましくは0≦v/(v+w+x+y+z)<1を満たし、より好ましくは0≦v/(v+w+x+y+z)<0.4を満たす。
本発明において、w及びxは、両方とも正の数であることが好ましい。
【0016】
上記有機ケイ素化合物の数平均分子量は、耐熱性の観点から、500以上であることが好ましく、有機ケイ素化合物の粘度及び取扱いの観点から、20000以下であることが好ましい。この数平均分子量は、より好ましくは700〜10000、更に好ましくは1000〜6000である。尚、この数平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により得られた標準ポリスチレン換算値である。
【0017】
本発明に係る有機ケイ素化合物は、上記一般式(1)を構成する各モノマーユニットを与える加水分解性のモノマーを共加水分解縮合して製造することができる。加水分解性基としては、ハロゲノ基、アルコキシ基等があるが、加水分解性が良好であり、酸を副生しないことからアルコキシ基が好ましく、炭素原子数1〜3のアルコキシ基がより好ましい。
ここで、上記加水分解性基は、縮合によりシロキサン結合を生成するため、シロキサン結合生成基ともいう。
上記モノマーユニット(1−1)を与えるモノマーは、好ましくは、1分子中に4つのシロキサン結合生成基を有するモノマー(以下、「Qモノマー」という)である。上記モノマーユニット(1−2)を与えるモノマーは、好ましくは、1分子中に3つのシロキサン結合生成基を有するモノマー(以下、「Tモノマー」という)である。上記モノマーユニット(1−3)を与えるモノマーは、好ましくは、1分子中に2つのシロキサン結合生成基を有するモノマー(以下、「Dモノマー」という)である。また、上記モノマーユニット(1−4)を与えるモノマーは、好ましくは、1分子中に1つのシロキサン結合生成基を有するモノマー(以下、「Mモノマー」という)、及び、後述する一般式(3)で表される化合物である。
【0018】
Qモノマーは縮合により3次元的な架橋構造を形成するため、該Qモノマーの使用により得られる有機ケイ素化合物を含有する組成物を硬化した場合、得られる硬化物の耐熱性が向上する傾向がある。尚、Qモノマーの使用量が多すぎると、得られる硬化物の柔軟性が不十分となる場合がある。このため、Qモノマーに由来するモノマーユニットの割合vは、上記のように、0≦v/(v+w+x+y+z)<1を満たすことが好ましく、0≦v/(v+w+x+y+z)<0.4であることが更に好ましい。
【0019】
Qモノマーの具体的化合物としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、トリエトキシメトキシシラン、トリプロポキシメトキシシラン、トリメトキシエトキシシラン、トリメトキシプロポキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン、ジメトキシジプロポキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、ジプロポキシシラン、モノメトキシシラン、モノエトキシシラン及びモノプロポキシシラン等が挙げられる。このQモノマーは、尚、有機ケイ素化合物を合成する際には、これらの化合物のうちの少なくとも1つ(テトラプロポキシシラン、トリプロポキシシラン及びジプロポキシシランを除く)を1−プロパノール等のアルコール中でアルコール交換反応させた化合物を用いることができる。
【0020】
Tモノマーも縮合により3次元的な架橋構造を形成するため、硬化物の耐熱性向上に寄与する。Tモノマーに由来するモノマーユニットの割合wは、上記のように、0≦w/(v+x+y+z)≦10の範囲を満たし、好ましくは0.01≦w/(v+x+y+z)≦5の範囲であり、より好ましくは0.1≦w/(v+x+y+z)≦2の範囲である。
【0021】
Tモノマーの具体的化合物としては、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ベンジルメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、(p−スチリル)トリメトキシシラン、(p−スチリル)トリエトキシシラン、(3−メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−メタクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン及び(3−アクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン等が挙げられる。これらのうち、入手が容易であることから、(3−メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、(3−メタクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン、(3−アクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン及び(3−アクリロイルオキシプロピル)トリエトキシシラン等が好ましい。Tモノマーとしては、これらのうちの1種、又は2種以上を使用することができる。
【0022】
Dモノマーは、共縮合により得られる有機ケイ素化合物にシリコーン単位を導入するため、有機ケイ素化合物の粘度を抑制し、得られる硬化物に柔軟性を付与する作用を有する。
【0023】
Dモノマーの具体的化合物としては、ジメトキシジメチルシラン、ジメトキシジエチルシラン、ジエトキシジメチルシラン、ジエトキシジエチルシラン、ジメトキシメチルフェニルシラン、ジエトキシメチルフェニルシラン、ジメトキシベンジルメチルシラン、ジメトキシ(3−メタクリロイルオキシプロピル)メチルシラン、ジエトキシ(3−メタクリロイルオキシプロピル)メチルシラン、ジメトキシ(3−アクリロイルオキシプロピル)メチルシラン及びジエトキシ(3−アクリロイルオキシプロピル)メチルシラン等が挙げられる。これらのうち、入手が容易であることから、ジメトキシジメチルシラン、ジエトキシジメチルシラン及びジメトキシメチルフェニルシラン等が好ましい。Dモノマーとしては、これらのうちの1種、又は2種以上を使用することができる。
【0024】
Mモノマーは、シロキサン結合生成基を1個有する化合物であり、ポリシロキサンの結合鎖の末端を封鎖する作用がある。このため、一般式(1)で表される有機ケイ素化合物の分子量を制御する場合に用いることができる。
【0025】
Mモノマーの具体的化合物としては、メトキシトリメチルシラン、メトキシトリエチルシラン、エトキシトリメチルシラン、エトキシトリエチルシラン、メトキシジメチルフェニルシラン、エトキシジメチルフェニルシラン、トリメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、トリメチルブロモシラン及びトリエチルブロモシラン等が挙げられる。これらのうち、トリメチルクロロシラン及びトリメチルブロモシランが好ましく、安価であることからトリメチルクロロシランが特に好ましい。Mモノマーとしては、これらのうちの1種、又は2種以上を使用することができる。
【0026】
尚、上記のように、下記一般式(3)で表される加水分解性有機ケイ素化合物を使用してもよい。該化合物は、Mモノマーと同じ作用を有するので、共縮合により、1分子の化合物からMモノマーに由来するモノマーユニットを2個与えることができる。
【化6】
(式中、R
9は、水素原子、炭素原子数1〜10のアルキル基又はエチレン性不飽和基を有する基である。6つのR
9は、互いに、同一であってよいし、異なってもよい。)
【0027】
上記一般式(3)で表される加水分解性有機ケイ素化合物の具体的な化合物としては、1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン、1,1,3,3−テトラエチルジシロキサン、ヘキサメチルジシロキサン、ヘキサエチルジシロキサン、ヘキサプロピルジシロキサン、ジビニルテトラメチルジシロキサン、ビスアクリル酸2,2,4,4−テトラメチル−3−オキサ−2,4−ジシラペンタン−1,5−ジイル及びビスメタクリル酸オキシビス[ジメチルシリレン(3,1−プロパンジイル)]等が挙げられる。これらのうち、入手が容易であることから、ヘキサメチルジシロキサンが好ましい。
【0028】
本発明において、上記一般式(1)で表されるケイ素化合物は、Tモノマー、Dモノマー及びMモノマーの中の少なくとも1つがエチレン性不飽和基を有する化合物であって、Qモノマー、Tモノマー、Dモノマー、Mモノマー、及び、上記一般式(3)で表される化合物から選ばれた化合物を共加水分解縮合反応させることにより得られる。尚、エチレン性不飽和基を有する化合物は、入手又は合成が容易であることから、上記一般式(2)におけるR
8がプロピレン基である化合物であることが好ましい。この反応は無触媒で行ってもよいが、触媒存在下で行うことが好ましい。触媒としては、酸性触媒、アルカリ性触媒又は金属化合物等が挙げられる。
【0029】
酸性触媒としては、無機酸及び有機酸が挙げられる。無機酸及び有機酸を、単独であるいは組み合わせて用いることができる。無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、燐酸、硝酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、セバシン酸、没食子酸、酪酸、メリット酸、アラキドン酸、シキミ酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0030】
塩基性触媒としては、無機塩基及び有機塩基が挙げられる。無機塩基及び有機塩基を、単独であるいは組み合わせて用いることができる。無機塩基としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。有機塩基としては、例えば、ピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、モノメチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、モノプロピルアミン、ジプロピルアミン、トリプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクラン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
金属化合物としては、例えば、チタンキレート化合物、ジルコニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
共加水分解縮合反応は、上記触媒と水との両方を存在させて進めることが好ましい。また、反応に用いるモノマーが有するシロキサン結合生成基の一部又は全部が加水分解性基であるときは、少なくともその加水分解性基の当量の合計量以上の水を用いることが好ましい。尚、反応系における好ましい水量の上限は、上記加水分解性基の当量の合計量の100倍である。
【0032】
縮合反応の際の反応温度は、設定温度一定とするのが簡便な方法であるが、徐々に温度を上げる方法も好ましい。反応温度が高すぎると、反応の制御が難しくなり、エネルギー的にもコストがかかる。また、原料にエチレン性不飽和結合が含まれる場合には、その分解のおそれもある。一方、反応温度が低すぎると、反応に時間がかかるうえ、加水分解重縮合が不十分となる。したがって、好ましい上限は100℃、更に好ましくは80℃、より好ましくは60℃である。好ましい下限は0℃、更に好ましくは15℃であり、より好ましくは25℃である。
【0033】
縮合反応においては、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を形成するモノマー、触媒及びその他の成分を溶解する反応溶媒を用いることができる。反応溶媒としては、アルキルアルコールやプロピレングリコールモノアルキルエーテル等の、分子内にアルコール性水酸基を1つ有する化合物が好ましい。具体的な反応溶媒としては、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、t−ブチルアルコール、2−メチル−1−ブタノール、3−メチル−1−ブタノール、2,2−メチル−1−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、1−オクタノール、3−メチル−2−ブタノール、3−ペンタノール、2−メチル−2−ブタノール、シクロペンタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル及びプロピレングリコールモノブチルエーテル等が挙げられ、これらのうちの1種、又は2種以上を使用することができる。
本発明では、反応溶媒として、沸点が100℃未満の化合物を用いる場合には、縮合反応後に揮発除去が容易であるので好ましい。この性質を有する反応溶媒は、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、2−ブタノール及びt−ブチルアルコールであり、これらの中から選択されるアルコールを用いることが特に好ましい。
【0034】
上記一般式(1)で表されるケイ素化合物は、分子内にエチレン性不飽和結合基を有するため、例えば、基材等に塗布して、重合開始剤とともに含む塗膜を形成した後に熱硬化させると、耐熱性に優れる硬化物(硬化膜)とすることが可能である。
【0035】
<重合開始剤>
本発明の熱硬化性組成物は、10時間半減期温度が80〜130℃の範囲にある重合開始剤を含む。この重合開始剤は、10時間半減期温度が80〜130℃の範囲であれば、特に限定されるものではなく、有機過酸化物、アゾ化合物等の公知の重合開始剤を用いることができる。10時間半減期温度が80℃未満の重合開始剤のみを用いた場合、得られる硬化物の耐熱性が十分でなく、耐熱性試験において硬化物にクラックが発生する場合がある。10時間半減期温度が130℃を超える重合開始剤のみを用いた場合は、硬化速度が遅く、硬化が十分進行しない傾向がある。また、耐熱性の点でも不十分となりやすい。本発明に係る重合開始剤における10時間半減期温度の好ましい範囲は、90〜120℃であり、より好ましくは95〜110℃である。
【0036】
10時間半減期温度が80〜130℃の範囲にある有機過酸化物としては、例えば、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)−2−メチルシクロヘキサン(10時間半減期温度:83.2℃)、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン(10時間半減期温度:86.7℃)、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン(10時間半減期温度:87.1℃)、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン(10時間半減期温度:90.7℃)、2,2−ジ(4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキシル)プロパン(10時間半減期温度:94.7℃)、t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(10時間半減期温度:95.0℃)、t−ブチルパーオキシマレイックアシッド(10時間半減期温度:96.1℃)、t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルヘキサノエート(10時間半減期温度:97.1℃)、t−ブチルパーオキシラウレート(10時間半減期温度:98.3℃)、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート(10時間半減期温度:98.7℃)、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート(10時間半減期温度:99.0℃)、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート(10時間半減期温度:99.4℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン(10時間半減期温度:99.7℃)、t−ブチルパーオキシアセテート(10時間半減期温度:101.9℃)、2,2−ジ(t−ブチルパーオキシ)ブタン(10時間半減期温度:103.1℃)、t−ブチルパーオキシベンゾエート(10時間半減期温度:104.3℃)、n−ブチル4,4−ジ(t−ブチルパーオキシ)バレレート(10時間半減期温度:104.5℃)、ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(10時間半減期温度:119.2℃)、ジクミルパーオキシド(10時間半減期温度:116.4℃)、ジ−t−ヘキシルパーオキシド(10時間半減期温度:116.4℃)、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン(10時間半減期温度:117.9℃)、t−ブチルクミルパーオキシド(10時間半減期温度:119.5℃)、ジ−t−ブチルパーオキシド(10時間半減期温度:123.7℃)、p−メンタンハイドロパーオキシド(10時間半減期温度:128.0℃)及び2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシヘキシン−3)(10時間半減期温度:128.4℃)等が挙げられ、これらのうちの1種、又は2種以上を使用することができる。
【0037】
10時間半減期温度が80〜130℃の範囲にあるアゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド](10時間半減期温度:86℃)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)(10時間半減期温度:88℃)、2,2’−アゾビス[N−(プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド](10時間半減期温度:96℃)、1−[(1−シアノ−1−メチルエチル)アゾ]ホルムアミド(10時間半減期温度:104℃)及び2,2’−アゾビス(N−ブチル−2−メチルプロピオンアミド)(10時間半減期温度:110℃)等が挙げられ、これらのうちの1種、又は2種以上を使用することができる。
【0038】
重合開始剤としては、10時間半減期温度が80〜130℃の範囲にあるものを単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、本発明に係る重合開始剤と、10時間半減期温度が80℃未満の重合開始剤又は10時間半減期温度が130℃を超える重合開始剤とを併用してもよい。特に、本発明に係る重合開始剤と10時間半減期温度が80℃未満の重合開始剤とを併用した場合には、本発明の熱硬化性組成物を効果的に熱硬化することができる場合がある。
10時間半減期温度が80℃未満の重合開始剤として、有機過酸化物としては、t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(10時間半減期温度:72.1℃)、t−ヘキシルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(10時間半減期温度:69.9℃)、1,1,3,3,−テトラメチルブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート(10時間半減期温度:65.3℃)、ジラウロイルパーオキシド(10時間半減期温度:61.6℃)、t−ブチルパーオキシピバレート(10時間半減期温度:54.6℃)、t−ヘキシルパーピバレート(10時間半減期温度:53.2℃)及びt−ブチルパーオキシネオヘプタノエート(10時間半減期温度:50.6℃)が挙げられる。
また、アゾ化合物としては、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)(10時間半減期温度:67℃)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(10時間半減期温度:66℃)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(10時間半減期温度:65℃)及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(10時間半減期温度:51℃)等が挙げられる。
【0039】
本発明の熱硬化性組成物において、重合開始剤の含有量は、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物100質量部に対し0.01〜10質量部であり、好ましくは0.1〜8質量部、より好ましくは0.3〜5質量部である。重合開始剤の含有量が0.01質量部未満の場合は、硬化反応が十分に進行しない場合があり、10質量部を超えて使用しても、硬化反応には有効に働かないときがある。
10時間半減期が80〜130℃の範囲にある重合開始剤と、10時間半減期が80〜130℃の範囲にない重合開始剤とを併用する場合、本発明による効果を有効に得る点から、10時間半減期が80〜130℃の範囲にある重合開始剤は、重合開始剤の全量に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上である。
【0040】
<熱硬化性組成物>
本発明の熱硬化性組成物は、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物と、10時間半減期温度が80〜130℃の範囲にある重合開始剤とからなる組成物であってよいし、有機ケイ素化合物の種類に応じて、これらの成分が有機溶剤に溶解している組成物であってもよい。有機溶剤は、特に限定されないが、上記有機ケイ素化合物の合成時に用いた反応溶媒を用いることができる。そして、この反応溶媒と同じ化合物を用いることが経済的であり、より好ましい。
【0041】
好ましい有機溶剤の具体例としては、反応溶媒として例示したアルコール化合物の他、トルエン及びキシレン等の芳香族化合物;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル化合物;アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等のケトン類;ジブチルエーテル等のエーテル類;N−メチルピロリドン等が挙げられる。
【0042】
有機溶剤の使用量は、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を含む不揮発性分を100質量部としたときに、好ましくは10〜1000質量部であり、より好ましくは50〜500質量部、更に好ましくは50〜300質量部である。
有機溶剤の使用量を10〜1000質量部とすることにより、熱硬化性組成物の粘度を、後述する公知の塗布方法等に好適な粘度とすることができる。また、その塗布方法に対応した塗料組成物を調製し易い。
【0043】
また、本発明の熱硬化性組成物は、その保存安定性及び硬化物の耐熱性を損なわない範囲で他の成分を含有してもよい。他の成分としては、重合性不飽和化合物、ラジカル重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、表面調整剤、有機ポリマー、フィラー、金属粒子、顔料等が挙げられる。
【0044】
上記重合性不飽和化合物としては、エチレン性不飽和結合を有する化合物が好ましく、更に好ましくは(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物であり、より好ましくは、単官能(メタ)アクリレート、多官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、単独で用いてよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、多官能の(メタ)アクリレート化合物を用いる場合には、得られる硬化物に架橋構造を生じさせることもできる。
【0045】
単官能(メタ)アクリレートの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、フェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート、アルキルフェノールのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0046】
多官能(メタ)アクリレートは、基材等に対する硬化物の密着性や硬度、耐擦傷性を改善させる目的等で配合することができる。多官能(メタ)アクリレートにおけるエチレン性不飽和基の数は、硬度及び耐擦傷性を低下させない観点から、1分子中に3〜20個であることが好ましい。
【0047】
多官能(メタ)アクリレートの具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールZのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、チオビスフェノールのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールZのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSのジ(メタ)アクリレート、チオビスフェノールのジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリンのアルキレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ダイマー酸ジオールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメチロールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのアルキレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールのトリ及びテトラアクリレート、ペンタエリスリトールのアルキレンオキサイド付加物のトリ及びテトラアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ及びペンタアクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、末端に(メタ)アクリロイル基を有するシリコーン樹脂等が挙げられる。
【0048】
ポリエステル(メタ)アクリレートとしては、ポリエステルポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。ポリエステルポリオールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、シクロヘキサンジメチロール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、及びトリメチロールプロパン等の低分子量ポリオール、並びにこれらのアルキレンオキシド付加物等のポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びテレフタル酸等の二塩基酸又はその無水物等の酸成分とからの反応物等が挙げられる。又、各種デンドリマー型ポリオールと(メタ)アクリル酸との脱水縮合物が挙げられる。
【0049】
エポキシ(メタ)アクリレートとしては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、水素添加ビスフェノールA型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、フェノール又はクレゾールノボラック型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、ビフェニル型エポキシ樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ポリブタジエンのジグリシジルエーテルの(メタ)アクリル酸付加物、ポリブタジエン内部エポキシ化物の(メタ)アクリル酸付加物、エポキシ基を有するシリコーン樹脂の(メタ)アクリル酸付加物、リモネンジオキサイドの(メタ)アクリル酸付加物、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートの(メタ)アクリル酸付加物等が挙げられる。
【0050】
ウレタン(メタ)アクリレートとしては、有機ポリイソシアネートとヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを付加反応させた化合物や、有機ポリイソシアネートとポリオールとヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートを付加反応させた化合物が挙げられる。
ここで、ポリオールとしては、低分子量ポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール等が挙げられる。
低分子量ポリオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメチロール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、及びグリセリン等が挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、ポリプロピレングリコールやポリテトラメチレングリコール等が挙げられる。
ポリエステルポリオールとしては、これら低分子量ポリオール及び/又はポリエーテルポリオールと、アジピン酸、コハク酸、フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸及びテレフタル酸等の二塩基酸又はその無水物等の酸成分との反応物が挙げられる。
有機ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、及びイソホロンジイソシアネート等が挙げられる。
ヒドロキシル基含有(メタ)アクリレートとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0051】
エチレン性不飽和結合を安定化するためのラジカル重合禁止剤としては、ハイドロキノンやハイドロキノンモノメチルエーテル等のフェノール系化合物、及び、N−ニトロソフェニルヒドロキシルアミン塩等が挙げられる。
上記酸化防止剤としては、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノールや、ペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等のヒンダードフェノール系酸化防止剤、4,6−ビス(オクチルチオメチル)−o−クレゾール等のイオウ系二次酸化防止剤、リン系二次酸化防止剤等が挙げられる。これらは、1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。ラジカル重合禁止剤及び酸化防止剤を併用すると、熱硬化性組成物の保存安定性、硬化物の熱安定性等を向上させることができる。
【0052】
本発明の熱硬化性組成物が、ラジカル重合禁止剤を含有する場合、このラジカル重合禁止剤の含有量は、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物1,000,000質量部に対して、好ましくは1〜10,000質量部、より好ましくは10〜2,000質量部、更に好ましくは100〜500質量部である。
【0053】
本発明の熱硬化性組成物が、酸化防止剤を含有する場合、この酸化防止剤の含有量は、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物1,000,000質量部に対して、好ましくは1〜10,000質量部、より好ましくは10〜2,000質量部、更に好ましくは100〜500質量部である。
【0054】
上記紫外線吸収剤としては、2−[4−[(2−ヒドロキシ−3−ドデシロキシプロピル)オキシ]−2−ヒドロキシフェニル]−4,6−ビス(2,4−ジメチルフェニル)−1,3,5−トリアジン等のヒドロキシフェニルトリアジン系紫外線吸収剤や、2−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4,6−ビス(1−メチル−1−フェニルエチル)フェノール等のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、酸化チタン微粒子や酸化亜鉛微粒子等の紫外線を吸収する無機微粒子等が挙げられる。これらは1種のみ用いてもよく、2種以上を併用することもできる。また、光安定剤としては、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジニル)セバケート等のヒンダードアミン系光安定剤等が挙げられる。紫外線吸収剤及び光安定剤は、UV耐性や耐候性を高めることができる。
【0055】
上記表面調整剤としては、シリコーン系表面調整剤、フッ素系表面調整剤等が挙げられる。シリコーン系表面調整剤の具体例としては、シリコーン鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するシリコーン系ポリマー等が挙げられる。フッ素系表面調整剤としては、パーフルオロアルキル基とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するフッ素系ポリマー、及びパーフルオロアルキルエーテル鎖とポリアルキレンオキサイド鎖とを有するフッ素系ポリマーが挙げられる。表面調整剤を用いることにより、塗布時の気泡の発生を抑制しレベリング性を高めたり、硬化膜の表面平滑性、防汚性又は滑り性を高めたりすることができる。
【0056】
本発明の熱硬化性組成物が、表面調整剤を含有する場合、この表面調整剤の含有量は、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物100質量部に対して、好ましくは0.01〜3質量部であり、より好ましくは0.02〜0.5質量部である。
【0057】
上記有機ポリマーとしては、(メタ)アクリル系ポリマーが挙げられ、好適な構成モノマーとしては、メチルメタクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、N−(2−(メタ)アクリロキシエチル)テトラヒドロフタルイミド等が挙げられる。
上記フィラーとしては、シリカやアルミナ等が挙げられる。
【0058】
本発明の熱硬化性組成物において、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物の含有割合は、特に限定されないが、熱硬化性組成物全体の中で、好ましくは1〜99.5質量%、より好ましくは10〜99質量%、更に好ましくは30〜90質量%である。
【0059】
本発明の硬化物は、本発明の熱硬化性組成物を基材等に塗布した後、又は、熱硬化性組成物を成形等した後に、加熱処理をすることにより得られる。
本発明の熱硬化性組成物の塗布方法としては、具体的には、バーコート、ロールコート、スピンコート、ディップコート、グラビアコート、ダイコート、フローコート及びスプレーコート等が挙げられる。組成物を基材に塗布した後に、乾燥機又は乾燥炉等を用いて塗膜を加熱処理することにより、硬化膜を形成することができる。
基材に対する組成物の塗布条件及び硬化後の膜厚は、目的に応じて、適宜、設定すればよいが、硬化膜の厚さは、1〜300μm程度である。
本発明の熱硬化性組成物を成形する場合も、公知の成形方法を採用することができる。具体的な例としては、押出成形、射出成形、鋳込み成形及び圧縮成形等が挙げられる。
【0060】
また、加熱処理の際の加熱温度は、用いる基材の種類及び目的とする用途等により選択されるが、通常、60〜200℃程度である。好ましい加熱温度は80〜170℃の範囲であり、100〜150℃の範囲がより好ましい。また、加熱時間は1分〜数時間程度である。
加熱処理により、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物中のエチレン性不飽和結合の少なくとも一部が重合反応し、有機ケイ素化合物を架橋させて硬化物を得ることができる。本発明の硬化物は、エチレン性不飽和結合の重合による架橋構造を含んでいるので、縮合反応のみによって硬化させた硬化物よりも柔軟性に富んで、基材等に対する密着性にも優れる。また、本発明の硬化物は、縮合反応による架橋構造も含んでいることから、エチレン性不飽和結合の重合のみによる従来の硬化物よりも耐熱性に富む架橋構造を備える。この耐熱性は、加熱条件下に長時間曝された場合に、クラックの発生や、黄変等の変色が抑制されるというものである。特に、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物における[SiOx]部分の質量%で表される無機分率が高いほど、変色を抑制することができる。この無機分率は、好ましくは40質量%以上、より好ましくは43質量%以上、更に好ましくは47質量%以上である。尚、上記無機分率は、有機ケイ素化合物の合成時に、原料として仕込んだ、QモノマーのアルコキシシランがすべてSiO
4/2に加水分解され、TモノマーのアルコキシシランがすべてSiO
3/2に加水分解され、DモノマーのアルコキシシランがすべてSiO
2/2に加水分解され、MモノマーのアルコキシシランがすべてSiO
1/2に加水分解されたと仮定したときの理論収量に含まれる、ケイ酸分(SiO
2、SiO
3/2、SiO
2/2、SiO
1/2)の割合を示した数値であり、下記式で算出される。
無機分率(%)=(理論収量中のケイ酸分/理論収量)×100
【0061】
上記のように、組成物を加熱処理することにより、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物に含まれるエチレン性不飽和結合の重合反応が進行する。
得られた硬化物のIRスペクトルにより、エチレン性不飽和結合の反応率を確認すると、80%以上の高い反応率を示す。本発明者らは、上記一般式(1)で表される有機ケイ素化合物に含まれるエチレン性不飽和結合に由来する架橋反応が十分進行するために、得られる硬化物が良好な耐熱性を示すものと推察している。エチレン性不飽和結合の反応率は、85%以上であることがより好ましく、90%以上であることが更に好ましい。
以上より、本発明の硬化物は、耐熱性の他、硬度、機械的強度、耐薬品性、及び、金属、ガラス、樹脂等からなる基材に対する密着性等の物性にも優れるものとなる。
【実施例】
【0062】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例により限定されるものではない。尚、以下において「部」及び「%」は、特に断らない限り質量部及び質量%を意味する。また、「AC−」はアクリロイルオキシプロピル基、「MAC−」はメタクリロイルオキシプロピル基を示す。
【0063】
初めに、実施例及び比較例で用いた有機ケイ素化合物、即ち、一般式(1)で表される有機ケイ素化合物を示す。
有機ケイ素化合物の数平均分子量を、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定し、標準ポリスチレン換算で算出した。
また、有機ケイ素化合物の無機分率を、上記に記載の方法により算出した。
【0064】
合成例1(有機ケイ素化合物S1の合成)
攪拌機、滴下ロート、還流冷却管及び温度計を備えた反応器に、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン725.96g(2500mmol)、ジメトキシジメチルシラン725.96g(6039mmol)、及び2−プロパノール432.72gを仕込んだ。そして、湯浴を用いて昇温し、反応系内温が40℃を超えたところで、反応系を撹拌しながら、滴下ロートから0.79%塩酸水溶液355.59gを滴下した。約50℃にて滴下終了後、反応系を室温(約25℃)で、8時間放置した。ここにp−メトキシフェノール0.18gを添加して溶解した後、空気を吹き込みながら溶媒を減圧留去し、無色透明液体の有機ケイ素化合物S1を883g得た。得られた有機ケイ素化合物S1の粘度は151mPa・s(25℃)であり、数平均分子量は1700であった。また、原料の使用量から、無機分率を算出したところ、44.3%であった。
1H−NMR分析の結果、メタクリロイル基を有するユニット(MAC−SiO
3/2)とジメチル基を有するユニット(Me
2−SiO
2/2)の組成比は、それらのユニットを形成する原料の仕込み時のモル比に近く、v=0、w=1.00、x=2.36、y=0、z=0.07と算出された。
【0065】
合成例2(有機ケイ素化合物S2の合成)
攪拌機、滴下ロート、還流冷却管及び温度計を備えた反応器に、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン55.88g(225mmol)、ジメトキシジメチルシラン162.30g(1350mmol)、及び2−プロパノール81.14gを仕込んだ。そして、湯浴を用いて昇温し、反応系内温が40℃を超えたところで、反応系を撹拌しながら、滴下ロートから0.94%塩酸水溶液61.39gを滴下した。約50℃にて滴下終了後、反応系を室温(約25℃)で、23時間放置した。ここにp−メトキシフェノール0.028gを添加して溶解した後、空気を吹き込みながら溶媒を減圧留去し、無色透明液体の有機ケイ素化合物S2を128g得た。得られた有機ケイ素化合物S2の粘度は56mPa・s(25℃)であり、数平均分子量は1500であった。また、原料の使用量から、無機分率を算出したところ、50.3%であった。
1H−NMR分析の結果、メタクリロイル基を有するユニット(MAC−SiO
3/2)とジメチル基を有するユニット(Me
2−SiO
2/2)の組成比は、それらのユニットを形成する原料の仕込み時のモル比におおむね近く、v=0、w=1.00、x=5.13、y=0、z=0.11と算出された。
【0066】
合成例3(有機ケイ素化合物S3の合成)
攪拌機、滴下ロート、還流冷却管及び温度計を備えた反応器に、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン37.25g(150mmol)、テトラメトキシシラン45.67g(300mmol)、ジメトキシジメチルシラン108.20g(900mmol)、及び2−プロパノール108.18gを仕込んだ。そして、湯浴を用いて昇温し、反応系内温が40℃を超えたところで、反応系を撹拌しながら、滴下ロートから0.79%塩酸水溶液62.66gを滴下した。約50℃にて滴下終了後、反応系を室温(約25℃)で、23時間放置した。ここにp−メトキシフェノール0.022gを添加して溶解した後、空気を吹き込みながら溶媒を減圧留去し、無色透明液体の有機ケイ素化合物S3を110g得た。得られた有機ケイ素化合物S3の粘度は3180mPa・s(25℃)であり、数平均分子量は3200であった。また、原料の使用量から、無機分率を算出したところ、58.7%であった。
1H−NMR分析の結果、メタクリロイル基を有するユニット(MAC−SiO
3/2)とジメチル基を有するユニット(Me
2−SiO
2/2)の組成比は、それらのユニットを形成する原料の仕込み時のモル比に近く、
v=2.00、w=1.00、x=6.06、y=0、z=0.34と算出された。
なお、(SiO4/2)の組成比を表すvは、仕込み量に基づく組成比である。【0067】
合成例4(有機ケイ素化合物S4の合成)
攪拌機、滴下ロート、還流冷却管及び温度計を備えた反応器に、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン29.80g(120mmol)、テトラメトキシシラン36.53g(240mmol)、ジメトキシジメチルシラン86.56g(720mmol)、ヘキサメチルジシロキサン4.87g(30mmol)、及び2−プロパノール54.09gを仕込んだ。そして、湯浴を用いて昇温し、反応系内温が40℃を超えたところで、反応系を撹拌しながら、滴下ロートから0.83%塩酸水溶液50.15gを滴下した。約50℃にて滴下終了後、反応系を室温(約25℃)で、20時間放置した。ここにp−メトキシフェノール0.018gを添加して溶解した後、空気を吹き込みながら溶媒を減圧留去し、無色透明液体の有機ケイ素化合物S4を93g得た。得られた有機ケイ素化合物S4の粘度は1290mPa・s(25℃)であり、数平均分子量は2200であった。また、原料の使用量から、無機分率を算出したところ、58.3%であった。
1H−NMR分析の結果、メタクリロイル基を有するユニット(MAC−SiO
3/2)とジメチル基を有するユニット(Me
2−SiO
2/2)の組成比は、それらのユニットを形成する原料の仕込み時のモル比に近く、
v=2.00、w=1.00、x=6.02、y=0.97、z=0.24と算出された。
なお、(SiO4/2)の組成比を表すvは、仕込み量に基づく組成比である。【0068】
合成例5(有機ケイ素化合物S5の合成)
攪拌機、滴下ロート、還流冷却管及び温度計を備えた反応器に、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン372.53g(1500mmol)、ジメトキシジメチルシラン109.05g(907.1mmol)、及び2−プロパノール166.18gを仕込んだ。そして、湯浴を用いて昇温し、反応系内温が40℃を超えたところで、反応系を撹拌しながら、滴下ロートから0.77%塩酸水溶液114.66gを滴下した。約50℃にて滴下終了後、反応系を室温(約25℃)で、18時間放置した。ここにp−メトキシフェノール0.067gを添加して溶解した後、空気を吹き込みながら溶媒を減圧留去し、無色透明液体の有機ケイ素化合物S5を330g得た。得られた有機ケイ素化合物S5の粘度は1170mPa・s(25℃)であり、数平均分子量は1300であった。また、原料の使用量から、無機分率を算出したところ、35.1%であった。
1H−NMR分析の結果、メタクリロイル基を有するユニット(MAC−SiO
3/2)とジメチル基を有するユニット(Me
2−SiO
2/2)の組成比は、それらのユニットを形成する原料の仕込み時のモル比に近く、v=0、w=1.00、x=0.59、y=0、z=0.11と算出された。
【0069】
1.熱硬化性組成物の製造及び評価(1)
実施例1〜3、並びに、比較例1及び2
有機ケイ素化合物と、重合開始剤とを、表1に示す割合で攪拌混合し、熱硬化性組成物を調製した。
下記の方法により、得られた熱硬化性組成物から硬化物試料を作製し、この硬化物試料に対して、反応率、外観、押込み弾性率及び耐熱試験の評価を行った。結果を表1に記載する。
【0070】
[1]硬化物試料の作製
PETフィルムの上に、四角形(6cm×1.5cm)の型抜きをした2mm厚のシリコンゴムを設置し、該型抜き部分に熱硬化性組成物を注いだ後、上部にPETフィルムを被せた。これを2枚のガラス板に挟持し、120℃で1時間加熱後、更に150℃で1時間加熱することにより、2mm厚の硬化物試料を得た。
【0071】
[2]反応率
硬化物試料について、IR測定を行い、反応率を、(メタ)アクリロイル基由来のC=C特性吸収を観測することにより求めた。
【0072】
[3]押込み弾性率
硬化物試料について、フィッシャー・インストルメンツ社製の超微小硬さ試験システム「フィッシャースコープ H−100」を用い、荷重速度20mN/10秒、保持時間5秒の条件で3点測定して、押込み弾性率の平均値を求めた。一般的に弾性率が大きくなるほど、硬さが増す。
【0073】
[4]耐熱試験(a)
硬化物試料を150℃に設定した乾燥機内に200時間静置した。その後、硬化物試料の外観を観察し、クラックの有無により耐熱性を判定した。
【0074】
【表1】
【0075】
表1における重合開始剤の詳細を以下に示す。
PBO:t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート
(日油社製、商品名「パーブチルO」、10時間半減期温度:72.1℃)
PHI:t−ヘキシルパーオキシイソプロピルモノカーボネート
(日油社製、商品名「パーヘキシルI」、10時間半減期温度:95.0℃)
PBE:t−ブチルパーオキシ2−エチルヘキシルモノカーボネート
(日油社製、商品名「パーブチルE」、10時間半減期温度:99.0℃)
【0076】
実施例1〜3は、本発明で規定する範囲の10時間半減期温度を有する重合開始剤を用いた実験例であり、有機ケイ素化合物に含まれるエチレン性不飽和結合の反応率が87〜96%と高く、硬化物の耐熱試験(a)後もクラック等は発生せず、良好な耐熱性を示した。
一方、比較例1及び2は、得られた硬化物におけるエチレン性不飽和結合の反応率が低く、耐熱試験(a)後の硬化物にはクラックの発生が認められた。
【0077】
2.熱硬化性組成物の製造及び評価(2)
実施例4〜
7、比較例3 有機ケイ素化合物と、重合開始剤とを、表2に示す割合で攪拌混合し、熱硬化性組成物を調製した。実施例4の組成物は、実施例3のものと同じである。その後、下記[5]項における方法により硬化物試料を作製し、この硬化物試料に対して、外観の評価と、下記[6]項の方法による耐熱試験(b)の評価とを行った。結果を表2に記載する。
【0078】
[5]硬化物試料の作製
PETフィルムの上に、四角形(6cm×1.5cm)の型抜きをした1mm厚のシリコンゴムを設置し、該型抜き部分に熱硬化性組成物を注いだ後、上部にPETフィルムを被せた。これを2枚のガラス板に挟持し、110℃で1時間加熱後、更に150℃で1時間加熱することにより、1mm厚の硬化物試料を得た。
【0079】
[6]耐熱試験(b)
硬化物試料を150℃に設定した乾燥機内に500時間静置した。その後、硬化物試料の黄色度(Y.I.:イエローインデックス)を、村上色彩技術研究所社製色差計「DOT−3C」を用いて、D65光源、視野角10°の条件で測定した。測定は、硬化物試料の表面で2点について行い、平均値を求めた。
【0080】
【表2】
【0081】
表2から明らかなように、本発明の熱硬化性組成物によれば、高い温度で使用された後において、表面の黄変が抑制された硬化物を得ることができ、長期に渡って、良好な外観を維持することができる。