特許第6403693号(P6403693)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6403693誘導炉および格納される金属廃棄物の処理方法
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  • 特許6403693-誘導炉および格納される金属廃棄物の処理方法 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403693
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】誘導炉および格納される金属廃棄物の処理方法
(51)【国際特許分類】
   F27B 14/06 20060101AFI20181001BHJP
   F27B 14/10 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   F27B14/06
   F27B14/10
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-557455(P2015-557455)
(86)(22)【出願日】2014年2月17日
(65)【公表番号】特表2016-515186(P2016-515186A)
(43)【公表日】2016年5月26日
(86)【国際出願番号】EP2014053027
(87)【国際公開番号】WO2014125107
(87)【国際公開日】20140821
【審査請求日】2017年1月13日
(31)【優先権主張番号】1351358
(32)【優先日】2013年2月18日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】502124444
【氏名又は名称】コミッサリア ア レネルジー アトミーク エ オ ゼネルジ ザルタナテイヴ
(73)【特許権者】
【識別番号】508313895
【氏名又は名称】オラノ サイクル
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】特許業務法人 信栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ボアン,ロジャー
(72)【発明者】
【氏名】ボネティエ,アルマン
【審査官】 静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−517148(JP,A)
【文献】 特公昭52−004242(JP,B2)
【文献】 米国特許第05416795(US,A)
【文献】 実開平02−104172(JP,U)
【文献】 特開平09−303969(JP,A)
【文献】 特開2007−155141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 14/00−14/20
F27D 11/06
F27D 1/00−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属廃棄物を溶融するための誘導炉であって、フィールドコイル(10)と、電気絶縁層により隔離された複数のセクタ(8)に分割された円形状の金属筐体(7)であって、前記フィールドコイルがその周囲に配置されるとともに冷却媒体ダクト(21)が設けられた金属筐体と、前記筐体の下に延在した敷板(11)とを備えた誘導炉であって、前記誘導炉は、前記筐体(7)の内部に配置され円形壁部と底部とを有する、るつぼ(1)を備え、前記るつぼは、
−前記敷板(11)上に配置され、
−前記筐体(7)によりその周囲を覆われ、
−隙間によって前記筐体から離隔され、
−その外周が連続的かつ均一であって、
−内部耐熱層(4)、圧縮性材料からなる中間層(5)、および外部金属層(6)を含む3つの同心円層から構成されていることを特徴とする、誘導炉。
【請求項2】
前記内部耐熱層は、セラミック、例えば炭化ケイ素系セラミックにより形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の誘導炉。
【請求項3】
前記中間層は、熱絶縁層から形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の誘導炉。
【請求項4】
前記中間層は、繊維構造を備えていることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の誘導炉。
【請求項5】
前記セクタ(8)は、当該セクタを構成する材料に誘導される電流の侵入長Pの半分よりも小さい相当直径(D)を有していることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の誘導炉。
【請求項6】
格納される金属廃棄物の処理方法であって、請求項1から5のいずれか一項に記載の誘導炉が用いられ、前記廃棄物が前記るつぼ(1)に流入され、前記フィールドコイル(10)が前記廃棄物の溶融を開始する処理方法であって、前記廃棄物は前記るつぼ内で固化されるまで維持され、前記るつぼ(1)は前記廃棄物とともに取り除かれて格納容器に収容されることを特徴とする、処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属廃棄物を溶融する誘導炉および当該金属廃棄物の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属廃棄物やその他の廃棄物は、危険な、汚染されたあるいは毒性を有する物質が含まれるため、適切な容器内で長期間格納される必要がある。廃棄物の予備溶融は当該廃棄物の容積を削減するのに有利である。最終的に得られるインゴットの容積全体にわたって金属よりも削減可能な汚染物質も分布されており、仮に酸化物系スラグが可能であれば、金属よりも酸化しやすい汚染物質は適切な構造のスラグ内に移動される。これにより、腐食(環境)にさらされる金属の自由表面や、そのために生じる危険物の将来的な酸化のリスクを低減することで良好な密閉性を得ることができる。
【0003】
多くの種類の溶融炉が存在する。誘導加熱は、最も頻繁に使用され、ここで、フィールドコイル(界磁コイル)は、その内部に廃棄物が流し込まれるるつぼ(crucible)の周囲に配置される。フィールドコイルは、廃棄物内に高電流を生成し、溶融を引き起こすのに十分な加熱を行う。るつぼは、当該るつぼに隣接されるあるいは当該るつぼ内に形成されるダクトに収容される冷却媒体(通常は水である)の永続的な循環によって冷却することが必要である。このようなタイプの誘導炉は、特許文献1に記載されている。
【0004】
発明者は、様々な困難に直面し以下のことを見出した。第一に、溶湯(molten bath)からの熱や溶湯と冷却路との間の距離が短いことにより生じる腐食や膨張差によって生じる、厳しい熱的、科学的および機械的な力が、るつぼに加えられる。溶湯に浸されており最もダメージにさらされやすい、るつぼの内面は、セラミック製の耐熱被覆物で構成されることが多く、るつぼの残りの部分は金属から構成されるが、金属とセラミックとの界面における膨張差が特に大きいため、金属とセラミックとが分離する、あるいはセラミックが崩壊するリスクが残る。溶湯と冷却水とが混在することによって生じ得るるつぼの破損に対する防護が必要である。溶湯と冷却水との危険な混在によって、るつぼに加えられる力は、早期摩耗や破損さえも引き起こす可能性がある。
【0005】
るつぼの壁内に生成される寄生電流による誘導エネルギーの過度の消費に対する防護も必要である。これは、るつぼをいくつかのセクタ(部分)に分割する、すなわち絶縁継手(隔離ジョイント)により離隔された角度部分に分割することにより解決される場合があるが、これらの継手が溶湯にさらされるるつぼの内面において更なる課題が発生し、異なる材料の界面の数の増加によって、膨張差により生じる問題を悪化させる。これらの構成は、セクタがセラミックにより被覆されているものとして、特許文献2に開示されているが、対処すべきすべての課題を解決できてはいない。
【0006】
そのプロセスにおいても、その他の問題が生じる。溶融金属は、溶融の最後にインゴット鋳型内に注入される、あるいは、このプロセス中にインゴットの形に引き抜かれてもよい。これらのうち第1のプロセスは、注入中に金属とそのスラグの不要な混在を生じ、一方、冷却るつぼの使用が基本となる第2のプロセスは、開口部(オリフィス)を取り除いているインゴットに近接した金属の固化を引き起こし、これにより溶融金属と冷却水とを互いに非常に近接させる必要が生じ、そのために、るつぼの破損による事故の危険性が高まる結果となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2835620号公報
【特許文献2】国際特許出願公開2003/067166号公報
【特許文献3】米国特許7197061号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第2243769号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の課題を少なくとも部分的に解決することを目的とする。それらは、安全な溶融プロセスの必要性に基づくものであり、溶融段階や最終流入段階におけるるつぼの破損による、溶湯の流入あるいは流出事故のリスクを削減することである。本発明の設計においては、電気損失が最小限で、頑丈かつ長持ちな、るつぼを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
まず、金属筐体(casing)を備えたるつぼを用いることで、原子力エネルギーにより生じた廃棄物の溶融処理の通常設計が維持された。金属筐体は、予期せぬ破損を起こすことはなく、それらに冷却回路を組み込むことが容易である。しかし、上述のように、るつぼが絶縁継手により離隔された複数のセクタから構成される限りにおいては、誘導による電気エネルギー損失は過度であるが、溶湯に近接した継手の保護は保障される。
【0010】
そのため、本発明の一つの特徴的な技術的思想は、構成される筐体と、るつぼを形成する筐体内の内部容器との間で装置を分離(離隔)することである。るつぼは、耐熱内部層、金属外部層、および(一般に)中間層とから構成される。内部層は、到達する温度に関わらず溶融材料を密閉し、外部層は、耐熱材料の破損というリスクに対して、るつぼの機械的強度および一体性を提供し、中間層は、熱膨張差を吸収するために選択され、可能であれば過熱から外部層内の金属を保護するための熱絶縁を提供する。るつぼは、その一体性や不浸透性を保証するために、筐体とは異なり、その外周(四方)が連続的である。外部層はこのとき、発明者によって見出されたいくつかの設計ルールを遵守することで生じる電気損失であって、重要ではあるが現実には許容範囲内であって低度な電気損失によっても影響を受ける。単純な構造のるつぼは、一つの装填物(charge)用として設計され、溶融後の当該装填物の最終格納容器として用いることができる。また、このるつぼは、筐体の外に持ち上げられて運び出されるとともに次の装填物のための新たなるつぼに交換可能である。溶融廃棄物の注入という困難な工程は不要となり、廃棄物の密閉や放射能漏れの防止にとって重要な、るつぼ構造の連続性は維持され得る。るつぼ全体は、このように設計された密閉保存容器内で単純に降下される。るつぼの外部層と筐体とは、一般的に、同一金属あるいは同様の膨張係数を有する金属で形成されるため、るつぼは、いかなる温度であっても、筐体に対して維持される隙間を介して筐体内に搭載される。
【0011】
当該装置を、入れ子構造である2つの部分(るつぼおよび筐体)に分割することは既に特許文献3に記載されているが、この場合、筐体とるつぼとが耐熱材料から形成され、高い安全性が要求される場合に適用することは困難である。これは、特許文献4についても同様である。
【0012】
そのため、一般的な形態において、本発明は、エネルギー消費が低く安全レベルの高い金属廃棄物の溶融用の誘導炉に関し、前記誘導炉は、フィールドコイルと、電気絶縁層によって離隔された複数のセクタに分割された円形状の金属筐体であって、前記フィールドコイルによってその周囲を取り囲まれるとともに冷却媒体ダクトが設けられた筐体と、前記筐体の下方に延在する敷板と、を備え、前記誘導炉はさらに、円形状の壁と底部とを有する前記筐体の内部に配置されるるつぼを有し、前記るつぼは、前記敷板上に配置され、前記筐体によってその周囲を取り囲まれ、内部耐熱層、圧縮材料から構成された中間層、および外部金属層を含む3つの同心円層(concentric layers)を備えていることを特徴とする。
【0013】
この炉を用いた本発明の典型的な工程は、前記廃棄物が前記るつぼ内に流入され、その後、溶融された後に固化されるまで維持され、さらにその後、前記るつぼは取り外されて前記廃棄物とともに容器内に格納されることを特徴とする。
【0014】
前記内部層は、接触している溶湯に対して耐熱性があり、前記外部層は、前記るつぼの一体性に寄与し、前記中間層は、外部に対する熱放出を制限する。前記内部層は、所定期間(数時間から数日)内は金属流体による腐食に耐えるためにセラミック(例えば炭化ケイ素系)から形成され、前記中間層は、前記るつぼに応力を与えることなく熱膨張差を吸収するために圧縮材料から形成され、前記外部層は、(前記金属筐体と同様に)誘導電流を減少させるために電気を通さないような金属から形成されることが好ましい。
【0015】
前記敷板は、降下可能であるとともに、前記るつぼが固化後に露出可能であって、容易に取り外し可能となるように、前記筐体から離隔されていてもよい。
【0016】
本発明の特徴は、以下の説明において、図面を参照しつつより詳しく記載される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】説明のための実例として一実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
溶融装置(誘導炉)は、円筒状の側壁部2と、側壁部2に隣接する底部3とを備えた、多層るつぼ1を有している。側壁部2および底部3はそれぞれ、内側から外側に向かって3つの層から構成されている。まず、金属溶湯20による腐食に耐えうる材料から形成された内部層4がるつぼ1内に存在し、全体の動作中、特に数時間は、この材料がるつぼの内容物を加熱するための誘導電磁場を過度に縮小することを避けるために、導電性の低いものである必要がある。るつぼ1はまた、熱絶縁材料から構成されて外部に対する熱流束を制限するための中間層5を含んでいる。この絶縁体は、その熱絶縁性を失うことなく、かなり圧縮可能であり、内部層4と外部層6との間に挿入されてこれらの間の膨張差に適合する。中間層5は、耐熱繊維から構成されたフェルトであっても良い。最後に、外部層6は、るつぼ1を画成(画定)して操作するために用いられるものであり、溶融金属20とは接触しないことから内部層4よりも温度が低いために、これもまた導電性の非常に低い金属から形成され、内部層が破損した場合の密閉バリアとして機能する。
【0019】
るつぼ1は、当該るつぼ1の周囲を取り囲んで、その外表面を数百度程度のできるだけ低い温度に保つための円形状の筐体7から構成された炉の中に配置される。筐体7もまた、導電性の低い金属から構成される。磁場損失をさらに減らすために、筐体7は、従来から公知の絶縁継手9によって離隔された円形セクタの周囲に延びる複数のセクタ8に分割されていることが有利である。この絶縁継手9は、誘導電流をほぼ完全に排除する。各セクタ8の相当直径(セクタ8の断面の領域Sから計算される相当直径(equivalent diameter)D、ここでD=(4.S/Π)0.5)が、当該セクタを形成する材料内に誘導される電流の侵入長(侵入深さ)P(ここで、P=593(セクタの材料の抵抗率/誘導電流の周波数)0.5)の半分よりも短い(小さい)場合には、セクタ8内での電力損失は無視できる程度である。筐体7は、るつぼ1が破損した場合でも、溶融金属を密閉する。筐体7は、るつぼ1の内容物が溶融されることによって生じるガスに対して気密性を維持し、筐体上に配置される不図示の蓋によってこの目的は補完され得る。ここで、強調されるべきは、るつぼ1は複数のセクタに分割されることなく、その外周が連続的であるために、溶湯に対して良好な耐性を有することができることである。
【0020】
誘導ソレノイド10が、筐体7の周囲を取り囲んでいる。この誘導ソレノイド10は、交流電流を動力源とし、内容物が液化するまで加熱するための電磁場を発生させる。
【0021】
以下、装置が最適化され、特に筐体7の外部層6内における電気損失を緩和させる方法について説明する。抵抗測定は、筐体7内での電力損失が無視できる程度になり始める段階の周波数の値を求めるために、セクタ化(分割化)された筐体7に異なる周波数を付与することで行われた。
【0022】
筐体は、その相当直径が2.4cmでその高さが40cmのセクタであって、内径33.2cmの円筒を形成する32個のセクタから構成される。セクタ8は、70×10−8オーム・メートル(Ω・m)のステンレス鋼から形成される。
【0023】
筐体7は、17巻きで、その内径が38cmでその高さが30cmのフィールドコイル10によって囲まれている。その断面は、50mmに等しい。
【0024】
フィールドコイル10から影響を受けるときの筐体7の抵抗、ひいては筐体7内での電力損失が、異なる周波数で測定され、フィールドコイル10の抵抗値、ひいてはフィールドコイル10での電力損失と比較された(表1)。
【0025】
【表1】
【0026】
セクタ化された筐体7内での電力損失は、誘導電流の侵入長がセクタの相当直径の2倍以上であると、無視できる(最適化されていないフィールドコイルにおける電力損失の0.3%以下である)ことが確認できる。
【0027】
誘導の専門家は、損失を最小化するためには誘導電流の侵入長がセクタ8の相当直径に等しければ十分であると考えるかもしれないが、(セクタ8の相当直径が2.4cmであるのに比べて誘導電流の侵入長が2.98cmである)200Hz(の周波数帯域)において、筐体7内での電力損失は、依然として、フィールドコイル10内での電力損失の4.54%に等しく、80Hz帯域の15倍以上である。
【0028】
炉は、さらに、その上部にるつぼ1が搭載される敷板11を備えている。敷板11もまた、電磁エネルギーの損失を防ぐために複数のセクタ12に分割されていてもよい。流体還流路22がセクタを冷却するためにセクタ12内に形成されている。るつぼ1は、冷えた状態のときに、すなわち、るつぼ1の加熱前あるいは冷却後に、筐体7と隙間を空けて筐体7内に収容される。敷板11もまた、何らかの装置によって自在に昇降可能となるように、また、るつぼ1が筐体7の上部あるいは下部を介して取り外すことができるように、筐体7と隙間を空けて筐体7内に配置されている。この隙間は、溶融中の加熱時に、るつぼ1の冷却性を高めて過熱を防止可能な筐体7に、るつぼ1が膨張することで接触してしまうことを相殺する。
【0029】
廃棄物の処理工程は以下の通りである。まず、廃棄物がるつぼ1内に流入され、その後、ソレノイド10が作動されて装填物内に誘導電流を順に誘導する電磁場を発生させ、廃棄物が液化するまで温度を上げる。溶湯20は必要な限り維持され、その後冷却されて固化インゴットとなる。本発明の特徴的な方法においては、るつぼ1はその後、炉から取り出され、インゴットとともに適切な容器に格納される。これにより、溶湯20の注入あるいは固化インゴットの進行性の排出や、その他の問題として、ガスの密閉を維持するための困難性を回避する。るつぼの多層化および外部層の低温化により、溶湯20と冷却ダクト21内の水との間の不測の接触の可能性は極めて低く、内部層4が破損した後でさえも腐食や事故のリスクを低減し得る。溶湯20の上部でのスラグの処理は、それを妨害する動作がないため、容易である。るつぼ1は、一度きりの使用であり、その機能寿命が(数時間から数日間と)短いため、より厳しい腐食環境下であっても、内部層4はかなりの高温化が可能である。そのため、内部層4は寿命が短くても良い。中間層5は、筐体7および冷却された敷板11への熱損失を制限し、加熱電力を低くすることを可能にする。るつぼ1と筐体7との間の隙間、および圧縮性中間層5が存在するために、膨張差による応力は非常に低くなる。
【0030】
一つの特定実施形態において、内部層4は、炭化ケイ素系のセラミックから形成され、その内径が330mm、その高さが1050mm、その厚さが25mmであった。中間層5は、鉱物繊維から形成され、その厚さが10mm、その高さが1050mmであった。外部層6は、厚さ5mmのステンレス鋼から形成され、その高さが1050mmであった。筐体7は、その内径が412mm、その厚さが20mmであって、継手9である3mmの電気絶縁体によって分割された30個のセクタ8を含み、筐体7の高さは1300mmであった。温度が約300℃相当である場合の外部層6の膨張差は、るつぼ1と筐体7との間の2mmの隙間により相殺されることが可能であった。
【0031】
ソレノイド10は、その内径が500mm、その高さが500mmであって、50Hz程度の周波数で作動された。ソレノイド10は、5巻きであり、その高さは溶湯20のレベルを監視するために調節可能である。このような周波数での誘導電流の侵入長は、ステンレス鋼において7cmであった。溶湯20の半径が少なくとも10cm(本例では16.5cm)であると、溶湯20の中心部を超えて拮抗誘導電流が発生することなく、電磁加熱の効率を上げることが可能であった。
【0032】
敷板11は、その外径が412mmであって、ソレノイド10の底部よりも20mmほど低い位置に配置された。敷板11は、ステンレス鋼から形成された。
【0033】
約1450℃で1時間当たりほぼ60kg程度の溶融能力のために必要な誘導電力は約230kW程度であった。これはソレノイド10の両端部に約45ボルトの電圧を印加することで得られる。このとき、誘導コイルにおいて排出され得る熱出力は約68kWであった。るつぼ1の外部層6においてジュール効果により失われる熱出力は、許容範囲内であるほぼ48kW程度であった。溶融工程の持続時間はこのとき、約12時間であり、これは、用いられるセラミックの腐食への耐性と両立可能な時間である。
【0034】
以下の効果が達成される。冷却された外部の金属筐体からるつぼ自体を隔離することで、るつぼと筐体との熱膨張差が低減される。るつぼ自体は、各溶融処理後に交換可能な消耗部品であり、金属筐体はもはや溶湯と接触することがないため、腐食を防止できる。溶融金属からの熱が事故を発生させたとしても、破損はるつぼにのみ影響し、冷却ダクトを含む金属筐体は安全なままである。るつぼの(外周)領域は連続的なままであるため、筐体は何らの不利益なく複数のセクタに分割可能である。廃棄物は固化されるまでるつぼ内に保持されていることから、るつぼを筐体から取り外して固化された廃棄物を廃棄する前に気化ガスを排気することが可能となり、これにより炉の気密性を容易に保つことができる。最後に、必要なのは、るつぼを操作することだけであるため、インゴットを取り出して格納することが非常に容易であることは明らかである。
【符号の説明】
【0035】
1 るつぼ
4 内部層
5 中間層
6 外部層
7 金属筐体
8 セクタ
9 絶縁継手
10 フィールドコイル(ソレノイド)
11 敷板
20 金属溶湯
21 冷却ダクト
22 流体還流路
図1