(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
骨材粉末と結合材によって構成され、第1端面から第2端面までそれぞれ連なる複数の濾過セルと、前記第1端面から前記第2端面までそれぞれ連なり、両端部が封止された複数の集水セルとを備えるモノリス型基材の成形体を形成する工程と、
前記成形体を焼成することによってモノリス型基材を形成する工程と、
前記モノリス型基材の前記第1端面に切削加工を施すことによって、前記複数の集水セルを貫く排出流路用のスリットを形成する工程と、
を備え、
前記複数の濾過セルのうち隣接する2つの濾過セルどうしの最短部分の隔壁厚みは、0.05mm以上0.2mm未満であり、
前記骨材粉末の体積累積粒径分布における50%径であるDg50は、5μm以上40μm未満であり、
前記骨材と前記結合材の合計体積に対する前記結合材の体積割合は、15体積%以上35体積%以下である、
モノリス型基材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なっている場合がある。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0012】
以下の説明において、「モノリス」とは、長手方向に形成された複数の貫通孔を有する形状を意味し、ハニカムを含む概念である。
【0013】
(モノリス型分離膜構造体100の構成)
図1は、モノリス型分離膜構造体100の斜視図である。
図2は、第1端面11Sの平面図である。
図3は、
図2のA−A断面図である。
【0014】
(構造の概要)
図1〜3に示されるモノリス型分離膜構造体100は、セラミックス多孔質体から成り、かつ両端面11S,11T及び外周面11Uを有するモノリス型基材10を具備する。モノリス型基材10は、その外形は円柱形であり、一方の端面11Sから他方の端面11Tまで貫通し(
図1において概ね横方向に)列をなして形成された複数の濾過セル24と、一方の端面11Sから他方の端面11Tまで貫通し(
図1において概ね横方向に)列をなして形成された複数の集水セル25とを備える。
【0015】
モノリス型分離膜構造体100では、濾過セル24と集水セル25の断面形状は円形である。そして、濾過セル24は両端面に開口しているが、集水セル25は、その両端面の開口が目封止部12,13で封止され、集水セル25が外部空間と連通するように、排出流路26が設けられている。また、断面形状が円形である濾過セル24の内壁面には、中間層20と分離膜30が配設されている。
【0016】
モノリス型分離膜構造体100では、排出流路26は、複数の集水セル25の列(以下、「集水セル列」という。)25L毎に、両端面11S,11Tの近傍に、各2つ、形成されている。モノリス型分離膜構造体100において、集水セル列25Lは5列あり、排出流路26は、その列毎に、複数の集水セル25どうしを連通させ、且つ、モノリス型基材10の外周面11Uに開口している。
【0017】
図1〜3では、モノリス型分離膜構造体100内に集水セル列25Lが5列存在するため、モノリス型分離膜構造体100における排出流路26の本数は、両端合わせて10本である。
【0018】
以上のような構成とすることによって、濾過セル24内に流入する混合流体(液体混合物や気体混合物)と濾過セル24を透過した成分を効率よく分離することができる。具体的には、濾過セル24の内表面の分離膜30を透過した透過成分は、中間層20を透過した後、モノリス型基材10の隔壁内部を構成する多孔質体内を順次通過して外壁面11Uより排出されるが、より内側の濾過セル24ほど隔壁(多孔質体)内を長距離に渡って透過する必要がある。ここで、集水セル25および排出流路26を設けることにより、本来濾過セル24間の隔壁内を延々と通過するところ、圧力損失の少ない集水セル25および排出流路26を通過して容易に外部に排出することが可能である。
【0019】
モノリス型分離膜構造体100は、混合流体がモノリス型基材10の両端面11S,11Tの多孔質体部分から直接流入し、所定の濾過セル24の内壁面に形成された分離膜30で分離されることなく流出することを防止するために、混合流体が流入するモノリス型基材10の両端面11S,11Tの多孔質体を覆うようにシール部14,15を備える。なお、分離膜30を配設された濾過セル24の両端面はシール部14,15に連なって開口している。各濾過セル24の内表面には、中間層20と分離膜30が順次形成されている。
【0020】
(各構造の構成)
モノリス型基材10は、円柱状に形成される。長手方向におけるモノリス型基材10の長さは100〜2000mmとすることができる。モノリス型基材10の直径は30〜220mmとすることができる。モノリス型基材10は、楕円柱や多角柱であってもよい。
【0021】
隣接する2本の濾過セル24間の最短部分の、中間層20及び分離膜30を含まない隔壁厚みD1は、0.05mm以上0.2mm未満である。2本の濾過セル24間の隔壁厚みD1を0.2mm未満とすることによって、濾過セル24を高密度化して分離膜30の総表面積を大きくすることができる。2本の濾過セル24間の隔壁厚みD1を0.05mm以上とすることによって、モノリス型基材10の強度不足によって製造時又は/及び使用時に隔壁構造が崩れることを抑制できる。2本の濾過セル24間の隔壁厚みD1は、0.10mm以上0.18mm以下であることがより好ましい。
【0022】
なお、本実施形態では、隣接する2本の濾過セル24間の全箇所において隔壁厚みD1が統一されているが、複数種の隔壁厚みD1が存在していてもよい。
【0023】
図2に示すように、第1端面11Sを平面視した場合、複数の濾過セル24は、複数の濾過セル列24Lを形成している。各濾過セル列24Lは、長手方向に直交する短手方向(所定方向の一例)に沿って並べられた2本以上の濾過セル24を含む。本実施形態では、28列の濾過セル列24Lが形成されており、各列に7本〜29本の濾過セル24が並んでいるが、濾過セル列24Lの列数や各列に含まれる濾過セル24の本数は適宜変更可能である。
【0024】
隣接する濾過セル24と集水セル25の最短部分における中間層20及び分離膜30を含まない隔壁厚みD3は特に制限されず、0.05mm以上0.2mm未満とすることができる。隔壁厚みD3を0.2mm未満とすることによって、分離膜30の総表面積を大きくすることができる。分離膜30の総表面積を大きくするといった観点からは、隔壁厚みD3が小さいほど濾過セル24を高密度化できるため良いが、小さすぎると強度が不足して、製造時又は/及び使用時にモノリス型基材10の隔壁構造が崩れることがあるため、実質的に0.05mm以上とすることができる。モノリス型基材10の隔壁構造が崩れ難く、かつ総表面積を大きくできるといった観点から、隔壁厚みD3は、0.1mm以上0.18mm以下であることがより好ましい。また、図示しないが、隣接する集水セル25どうしの間隔も0.05mm以上0.2mm未満とすることができ、0.1mm以上0.18mm以下であることがより好ましい。
【0025】
なお、本実施形態では、隣接する濾過セル24と集水セル25の間の全箇所において隔壁厚みD3が統一されているが、複数種の隔壁厚みD3が存在していてもよい。
【0026】
図2に示すように、第1端面11Sを平面視した場合、複数の集水セル25は、複数の集水セル列25Lを形成している。各集水セル列25Lには、短手方向(所定方向の一例)に沿って並べられた2本以上の集水セル25を含む。本実施形態では、5列の集水セル列25Lが互いに離れた位置に配置されており、各列に22本〜29本の集水セル25が並んでいるが、集水セル列25Lの位置及び列数や各列に含まれる集水セル25の本数は適宜変更可能である。
【0027】
図1に示すように、排出流路26は、外周面11Uに開口する開口部26aを有する。開口部26aは、モノリス型基材10の両端部のうち一方のみに配置されていてもよく、モノリス型基材10の両端部に加えて長手方向の途中に穿設されていてもよい。開口部26aは、透過成分が均等に排出されるといった観点から、少なくともモノリス型基材10の両端部に配置されていることが好ましい。排出流路26の本数、形状及び位置は、全集水セル列25Lにおいて同じでもよく、異なっていてもよい。
【0028】
第1目封止12と第2目封止13は、全ての集水セル25に配置される。各集水セル25の両端部には第1目封止12と第2目封止13が対向して配置される。第1目封止12と第2目封止13は、多孔質材料によって構成することができる。第1目封止12と第2目封止13の充填深さは、5〜20mm程度とすることができる。
【0029】
第1シール部14は、第1端面11Sの全面と外周面11Uの一部を覆う。第1シール部14は、混合流体が第1端面11Sに浸潤することを抑制する。第1シール部14は、濾過セル24の流入口を塞がないように形成される。第1シール部14は、第1目封止12を覆う。第1シール部14を構成する材料としては、ガラスや金属、ゴム、樹脂などを用いることができ、モノリス型基材10の熱膨張係数との整合性を考慮するとガラスが好適である。
【0030】
第2シール部15は、第2端面11Tの全面と外周面11Uの一部を覆う。第2シール部15は、混合流体が第2端面11Tに浸潤することを抑制する。第2シール部15は、濾過セル24の流出口を塞がないように形成される。第2シール部15は、第2目封止13を覆う。第2シール部15は、第1シール部14と同様の材料によって構成することができる。
【0031】
(モノリス型基材10)
モノリス型基材10は、骨材と結合材を含有する。
【0032】
骨材としては、例えば、アルミナ、シリカ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化ケイ素、炭化ケイ素などが挙げられる。特に、アルミナは、粒径が制御された原料(骨材粒子)を入手し易く、安定な坏土を形成できるとともに耐食性が高いため骨材として好適である。
【0033】
結合材は、骨材粒子が焼結しない温度で焼結固化する無機成分である。結合材としては、チタニア、ムライト、易焼結性アルミナ、シリカ、ガラスフリット、粘土鉱物、易焼結性コージェライトのうち少なくとも一つの無機結合材を用いることができる。
【0034】
骨材を構成する粒子(以下、「骨材粒子」という。)の体積累積粒径分布における50%径(以下、「D
g50」という。)は、5μm以上40μm未満である。D
g50は、いわゆるメディアン径である。D
g50は、10μm以上25μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましい。骨材粒子のD
g50は、後述する骨材の原料粉末のD
g50によって調整可能である。骨材粒子のD
g50の値は、骨材原料のD
g50の値と同じである。
【0035】
骨材粒子の体積累積粒径分布における10%径(以下、「D
g10」という。)は、D
g50を10
xμmとした場合、10
(x−0.7)μm以上であることが好ましい。また、骨材粒子の体積累積粒径分布における90%径(以下、「D
g90」という。)は、D
g50を10
xμmとした場合、10
(x+0.3)μm以下であることが好ましい。従って、モノリス型基材10の骨材粒子について、D
g10≧10
(x−0.7)μm、かつ、D
g90≦10
(x+0.3)μmが成立することが好ましい。このことは、骨材粒子の80%の粒度範囲が10
((x−0.2)±0.5)μmの範囲に入る粒度分布、すなわちシャープな粒径分布であることを意味している。骨材粒子のD
g90及びD
g10は、後述する骨材の原料粉末のD
g90及びD
g10によって調整可能である。骨材粒子のD
g90及びD
g10の値は、骨材の原料粉末のD
g90及びD
g10の値と同じである。
【0036】
骨材粒子のD
g10は、10
(x−0.2)μm以上がより好ましい。骨材粒子のD
g90は、10
(x+0.2)μm以下がより好ましい。
【0037】
骨材粒子の体積累積粒径分布は、モノリス型基材10の断面SEM画像において、任意の面積を有する断面SEM画像に含まれる全ての骨材粒子を円形と仮定して、その面積から直径を算出することによって測定することができる。より具体的には、200μm×200μmの範囲の断面SEM画像(SEM画像はより高解像度であるほど好ましく、例えば、加速電圧を10kV以下、倍率を1000倍以上で撮影された反射電子像とすることができる。)を画像解析で三値化処理することにより、細孔、骨材、及び結合材に区別し、区別された骨材粒子毎にその面積を計測し、円形近似から骨材粒子毎の直径を算出することができる。画像解析には、例えばMEDIA CYBERNETICS社製の画像解析用のアプリケーションソフト「Image−Pro Plus(商品名)」を使用することができる。
【0038】
骨材粒子のうち粒径10μm以上の骨材粒子の平均アスペクト比は、1.5以上100以下とすることができる。粒径10μm以上の骨材粒子の平均アスペクト比は、2以上であることが好ましい。
【0039】
本実施形態において、骨材粒子の粒径とは、骨材粒子と同じ面積を有する円の直径のことである。また、アスペクト比とは、最大フェレー径を最小フェレー径で除した値(最大フェレー径/最小フェレー径)である。最大フェレー径とは、モノリス型基材10の断面SEM画像において骨材粒子を挟む2本の平行な直線の最大距離である。最小フェレー径とは、断面SEM画像上において骨材粒子を挟む2本の平行な直線の最小距離である。骨材粒子の平均アスペクト比とは、SEM画像上において任意に選択した10個の骨材粒子のアスペクト比の算術平均値である。平均アスペクト比を求める際、1枚の断面SEM画像に10個の骨材粒子が存在しない場合には、複数枚の断面SEM画像から任意に10個の骨材粒子を選択すればよい。
【0040】
モノリス型基材10における骨材と結合材の合計体積に対する骨材の体積割合は、65体積%以上85体積%以下とすることができる。骨材の体積割合は、70体積%以上80体積%以下であることが好ましく、75体積%以上であることがより好ましい。
【0041】
モノリス型基材10における骨材と結合材の合計体積に対する結合材の体積割合は、15体積%以上35体積%以下である。結合材の体積割合は、20体積%以上30体積%以下であることが好ましく、25体積%以下であることがより好ましい。結合材の体積割合は、モノリス型基材10の断面SEM画像における結合材の面積占有率に基づいて算出することができる。
【0042】
モノリス型基材10における細孔(気孔)の体積割合(気孔率)は特に制限されないが、20%以上60%以下であることが好ましい。気孔率は、30%以上45%以下であることがより好ましい。気孔率は、水銀圧入法によって測定するか、もしくは、モノリス型基材10の断面SEM画像における細孔の面積占有率に基づいて算出することもできる。
【0043】
モノリス型基材10における体積累積細孔径分布における50%径(以下、「D
p50」という。)は特に制限されないが、1μm以上10μm以下であることが好ましい。細孔径のD
p50は、2μm以上5μm以下であることがより好ましい。細孔径のD
p50は、いわゆるメディアン径である。
【0044】
モノリス型基材10における体積累積細孔径分布における10%径(以下、「D
p10」という。)は特に制限されないが、細孔径のD
p50を10
yμmとした場合、10
(y+0.2)μm以下であることが好ましい。モノリス型基材10における体積累積細孔径分布における90%径(以下、「D
p90」という。)は特に制限されないが、細孔径のD
p50を10
yμmとした場合、10
(y−0.2)μm以上であることが好ましい。従って、本実施形態では、モノリス型基材10の細孔径について、D
p10≦10
(y+0.2)μm、かつ、D
p90≧10
(y−0.2)μmが成立することが好ましい。このことは、全細孔の80%の細孔径が10
(y±0.2)μmの範囲に入る細孔径分布、すなわちシャープな細孔径分布であることを意味している。細孔径分布がシャープであると、D
p50に対して小さな微細孔、もしくは大きな粗大気孔が少ないことを意味する。小さな微細孔は流体の圧力損失を有効に低減でいないために、少ないほうが好ましい。一方で、大きな粗大気孔は、モノリス型基材に中間層を成膜する際に、中間層用スラリーが基材内部に侵入して基材気孔を閉塞させるため、少ない方が好ましい。
【0045】
モノリス型基材10における体積累積細孔径分布は、水銀圧入法によって測定することができる。
【0046】
(モノリス型分離膜構造体100の製造方法)
まず、骨材と結合材とを秤量する。この際、隔壁厚さを0.2mm未満とするために、押出成形で使用する口金に合わせて、骨材の原料粉末のD
g50を5μm以上40μm以下とする。上記の通り、微細かつ比表面積の多い骨材を使用するため、骨材間の連結が不足しないように結合材の体積比を調整するが、多すぎると強度および耐磨耗性が高くなり過ぎるため、できるだけ少ない量とする。具体的には、15体積%以上35体積%以下となるように調整する。なお、骨材の原料粉末を分級することによって、D
g50を10
zμmとした場合のD
g10が10
(z−0.7)μm以上、かつ、D
g90が10
(z+0.3)μm以下のシャープな粒度分布で比表面積が比較的少ない骨材粉末を使用することによって、結合材の体積比を比較的少なく抑えることができる。
【0047】
骨材の原料粉末の分級手法としては、湿式分級や乾式分級を用いることができる。湿式分級とは、原料粉末を水中に分散させ、原料粉末の沈降速度と上向水流を調整することによって所望サイズの骨材粒子を静止させて取り出す手法である。乾式分級とは、振動篩やターボスクリーナーを用いる手法である。振動篩を用いる手法では、振動篩に振動を与えて目開きより小さな骨材粒子を落下させることによって所望サイズの骨材粒子を取り出すことができる。ターボスクリーナーを用いる手法では、円筒スクリーン網内に設けられたブレードを高速回転させつつ気流を流すことによって所望サイズの骨材粒子を取り出すことができる。
【0048】
なお、結合材として無機結合材を用いる場合、その平均粒径は、0.1μm以上、10μm以下とすることができる。10μm以下であると、焼成で溶融しやすい又は/及び骨材粒子間に高分散して高強度なモノリス型基材10を提供できる。より骨材粒子間に高分散できると言った観点から、無機結合材の平均粒径は小さいほうがよいが、原料が細かいほどコスト高となる傾向であるため、実質的に0.1μm以上とすることができる。
【0049】
次に、秤量した骨材粉末と結合材にメチルセルロース等の有機バインダ、分散材及び水を加えて混練することによって坏土を調製する。
【0050】
次に、調製した坏土を、例えば、真空押出成形機を用いて押出成形することによって、複数の濾過セル24と複数の集水セル25を有するモノリス型の成形体を得る。
【0051】
次に、モノリス型の成形体を、例えば900〜1600℃で焼成してモノリス型基材10を形成する。上述のとおり、比較的結合材の割合が少なく抑えられているため、モノリス型基材の強度及び/又は耐磨耗性を比較的低く抑えることができる。
【0052】
次に、
図4及び
図5に示すように、モノリス型基材10の第1端面11S及び第2端面11Tそれぞれにおいて、ダイヤモンド砥粒を施したバンドソーやディスクカッター、ワイヤーソー等のダイヤモンド切削具を用いて、排出流路用のスリットを各集水セル列25Lに沿って形成する。上述の通り、モノリス型基材10の強度及び/又は耐磨耗性が低下されて骨材粒子が剥離しやすくなっているため、ダイヤモンド切削具の消耗を抑えるとともに加工時間を短縮することができる。なお、モノリス型基材10と切削具の摩擦による発熱やダイヤモンド砥粒の脱粒によって切削具の寿命が短くなることを抑えるために、水等の溶媒を使って摩擦をさらに軽減させることが好ましい。
【0053】
次いで、得られたモノリス型基材において、排出流路用のスリットが形成された集水セルの両端面から、排出流路26に達するまでの空間内に、スラリー状態の目封止部材を充填して、目封止部材充填モノリス型基材を得る。具体的には、モノリス型基材の両端面にポリエステル等のフィルム(マスキング)を添付し、排出流路26に対応する部分にレーザー照射等によりフィルムに穴を穿設する。
【0054】
次に、モノリス型基材のフィルムを添付した端面を、目封止部材(スラリー)が満たされた容器内に押し付け、更に、エアシリンダ等で、例えば、200kgで加圧して充填することによって目封止部材充填モノリス型基材を得ることが出来る。そして、得られた目封止部材充填未焼成モノリス型基材を、例えば、900〜1400℃で焼成して目封止部材充填モノリス型基材を得る。
【0055】
そして、目封止部材充填モノリス型基材の濾過セル24の内壁面に、分離膜30の下地となる中間層20を形成する。中間層20を形成する(成膜する)ためには、先ず中間層用スラリーを調製する。中間層用スラリーは、所望の粒径(例えば、平均粒径1〜5μm)のセラミックス原料100質量部に400質量部の水を加えて調製することが出来る。また、この中間層用スラリーには、焼結後の膜強度を上げるために膜用無機結合材を添加してもよい。膜用無機結合材は、粘土、カオリン、チタニアゾル、シリカゾル、ガラスフリット等を用いることが出来る。膜用無機結合材の添加量は、膜強度の点から5〜42質量部であることが好ましい。
【0056】
次に、中間層用スラリーを濾過セル24の内壁面に付着させ、乾燥した後、例えば、900〜1050℃で焼結させることで中間層20を成膜する。中間層20は、平均粒径を変えた複数の種類のスラリーを用いて中間層21と中間層22のように複数層に分けて成膜することができる。複数層の中間層20を成膜する場合は、成膜工程と焼成工程を中間層毎に実施してもよいし、複数の成膜工程を繰り返した後に、一体として焼成してもよい。
【0057】
次に、得られた中間層付モノリス型基材の端面に、ガラス原料スラリーをスプレー噴霧や刷毛で塗布した後、例えば、800〜1000℃で焼成することで、第1及び第2シール部14,15の成形体を形成する。ガラス原料スラリーは、例えば、ガラスフリットに水と有機バインダを混合することによって調製する。以上、第1及び第2シール部14,15の材料がガラスである場合を述べたが、第1及び第2シール部14,15は、分離対象である混合流体と分離後に排出流路26から排出される分離流体を通さないものであればよく、例えばシリコン樹脂やテフロン(登録商標)樹脂等を用いてもよい。なお、中間層20を複層構造とする場合には、中間層20の形成途中に第1及び第2シール部14,15の成形体を形成してもよい。
【0058】
次に、中間層20の内表面に分離膜30を形成する。ここで、分離膜30の平均細孔径が1nmよりも小さく、圧力損失低減のためにより薄膜化が必要な場合は、中間層20と分離膜30の間にさらに下地層を配設することが好ましい。例えば、中間層20の上に、チタンイソプロポキシドを硝酸の存在下で加水分解してチタニアゾル液を得、水で希釈して下地層用ゾルを調製し、調製した下地層用ゾルを、中間層付モノリス型基材の所定のセルの内壁面に流通した後、例えば、400〜500℃で熱処理することによって、下地層を成膜しておくことが望ましい。
【0059】
分離膜30としては、公知のMF(精密濾過)膜、UF(限外濾過)膜、ガス分離膜、浸透気化膜、或いは蒸気透過膜などを用いることができる。具体的に、分離膜30としては、セラミック膜(例えば、特開平3−267129号公報、特開2008−246304号公報参照)、一酸化炭素分離膜(例えば、特許第4006107号公報参照)、ヘリウム分離膜(例えば、特許第3953833号公報参照)、水素分離膜(例えば、特許第3933907号公報参照)、炭素膜(例えば、特開2003−286018号公報参照)、ゼオライト膜(例えば、特開2004−66188号公報参照)、シリカ膜(例えば、国際公開第2008/050812号パンフレット参照)、有機無機ハイブリッドシリカ膜(特開2013−203618号公報)、p−トリル基含有シリカ膜(特開2013−226541号公報)などが挙げられる。分離膜30の形成方法は、分離膜30の種類に応じた適切な方法を用いればよい。
【0060】
(その他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0061】
モノリス型分離膜構造体100は、濾過セル24と集水セル25を備えることとしたが、集水セル25を備えていなくてもよい。この場合、モノリス型分離膜構造体100は、排出流路26を備えていなくてもよい。
【0062】
第1及び第2シール部14,15それぞれは、外周面11Uの一部を覆っていることとしたが、外周面11Uを覆っていなくてもよい。
【実施例】
【0063】
以下において本発明に係るモノリス型分離膜構造体の実施例について説明する。ただし、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0064】
(実施例1〜5と比較例1〜4の作製)
以下のようにして、実施例1〜5と比較例1〜4に係るモノリス型分離膜構造体を作製した。
【0065】
まず、骨材の原料粉末(以下、「骨材粉末」という。)を分級することによって、表1に示すように、骨材粉末の粒度分布を実施例ごとに変更した。骨材粉末の粒度分布は、マイクロトラック・ベル社製のレーザー回折・拡散式粒子径分布測定装置(MT3300 EXII)を用いて測定した。測定した結果を
図9に示す。
図9から、分級によって粒度分布が著しく変化していることが分かる。
【0066】
次に、分級して得られた骨材粉末又は/及び分級していない骨材粉末と結合材を秤量した。なお、実施例4では、分級して得られた骨材粉末と分級していない骨材粉末を50:50の割合で混合した。この際、骨材粉末と結合材の質量比を調整することによって、表1に示すように、骨材と結合材それぞれの体積割合を実施例ごとに変更した。
【0067】
次に、骨材粉末と結合材にメチルセルロース、分散材及び水を加えて混練することによって坏土を調製した。
【0068】
次に、坏土を押出成形して、複数の濾過セルと複数の集水セルを有するモノリス型基材の成形体を作成した。この際、各濾過セルと各集水セルのサイズと位置を調整することによって、表1に示すように、濾過セルの内径と濾過セル同士の隔壁厚みを実施例ごとに変更した。
【0069】
次に、モノリス型基材の成形体を焼成(1250℃、2時間)した。焼成されたモノリス型基材のサイズは、直径63mmφ×長さ300mmであった。
【0070】
次に、モノリス型基材の両端面において、集水セル列に沿ってダイヤモンドディスクでスリットを入れた。この際、実施例ごとに多数のモノリス型基材を準備して、ダイヤモンドディスクの交換が必要になるまでのスリット加工回数と1回のスリット加工にかかった平均加工時間とを測定した。交換までのスリット加工回数と平均加工時間の測定結果は表1に示す通りであった。
【0071】
次に、モノリス型基材の両端面にポリエステルフィルムを貼付し、ポリエステルフィルムのうち集水セル及びスリットに対応する部分に孔を穿設した。
【0072】
次に、本体部の両端部をスラリー状態の目封止部材に押し付けて目封止の成形体を形成した。そして、目封止の成形体を焼成(1250℃、1時間)することで、第1及び第2目封止と排出流路を形成した。
【0073】
次に、平均粒径2.3μmのアルミナ粒子(骨材)100質量部に対して無機結合材14質量部を添加し、更に水、分散材、及び増粘剤を加えて混合することにより第1中間層用スラリーを調製した。そのスラリーを用い、特公昭63−66566号公報に記載の濾過成膜法により、濾過セル用貫通孔の内周面に第1中間層用スラリーを付着させた。その後、大気雰囲気下、電気炉にて焼成(950℃、1時間)することによって、第1中間層を形成した。なお、無機結合材としては、SiO
2(77モル%)、ZrO
2(10モル%)、LiO
2(3.5モル%)、Na
2O(4モル%)、K
2O(4モル%)、CaO(0.7モル%)及びMgO(0.8モル%)を含有するガラス原料を、1600℃で溶融して均一化し、これを冷却した後に平均粒径1μmとなるように粉砕したものを用いた。
【0074】
次に、平均粒径0.3μmのチタニア粒子(骨材)100質量部に対して無機結合材20質量部を添加し、有機バインダとpH調整剤と界面活性剤などを混合して第2中間層用スラリーを調製した。
【0075】
次に、第2中間層用スラリーを第1中間層の内表面に濾過法で堆積させることによって、第2中間層の成形体を形成した。
【0076】
次に、第2中間層の成形体を焼成(950℃、1時間)することによって第2中間層を形成した。
【0077】
次に、中間層付モノリス型基材の端面に、ガラス原料スラリーをスプレー噴霧によって塗布した後、焼成(950℃、1時間)することによって、端面にシール部を形成した。
【0078】
次に、チタンイソプロポキシドを硝酸の存在下で加水分解してチタニアゾル液を得、水で希釈して分離(限外濾過)膜用スラリーを調製した。
【0079】
次に、分離膜用スラリーを第2中間層の内表面に流通した後、熱処理(500℃、1時間)することによって、分離膜を形成した。
【0080】
(モノリス型基材の断面SEM観察)
まず、実施例1〜5と比較例1〜4のモノリス型基材について、断面SEM画像を取得した。
図6は比較例1の断面SEM画像であり、
図7は比較例3の断面SEM画像であり、
図8は実施例1の断面SEM画像である。
【0081】
次に、断面SEM画像において骨材、結合材及び気孔それぞれの体積割合と骨材粒子の平均アスペクト比を測定した。平均アスペクト比は、断面SEM画像において任意に選択した10個の骨材粒子のアスペクト比(最大フェレー径/最小フェレー径)を算術平均した値である。
【0082】
(モノリス型基材の気孔率及び細孔径分布)
実施例1〜5と比較例3,4のモノリス型基材について、水銀圧入法によって、気孔率及び細孔径分布(D
p50、D
p10、D
p90)を測定した。測定結果は表1に示す通りであった。また、代表として実施例1、4、5、比較例3の細孔径分布を
図10に示す。
【0083】
(モノリス型基材の強度)
実施例1〜5と比較例1〜4のモノリス型基材について、JIS R 1601に基づいて4点曲げ強度を測定した。測定結果は表1に示す通りであった。
【0084】
【表1】
【0085】
比較例1(従来例)では、
図6に示すように、粗大な骨材アルミナを使用していて成形する際に口金に詰まりやすいため、隔壁厚みを薄くすることができない。これと比較して、比較例2では平均粒径(D
g50)の小さな骨材を使用することによって、隔壁厚みが薄く、濾過セルが高密度化した高膜面積な基材を形成することができた。しかし、平均粒径の小さな骨材を使用したことによって微細な骨材粒子が増え、骨材同士を連結する結合材が不足して強度が大きく低下してしまい、分離膜の構造を維持することができなかった。
【0086】
比較例3では、比較例2と比較して結合材の割合を増加させたところ、強度が向上した。しかし、比較例3では、
図7に示すように、骨材全てが連結されることにより、強度及び/又は耐磨耗性が過大(難加工性)になり、排出流路の切り欠きを切削加工するためのダイヤモンドディスクの寿命が大幅に短命化した。
【0087】
一方、実施例1では、
図8に示すように、骨材の平均粒径を小さく、かつ、骨材の粒度分布を分級によってシャープにしたことによって、結合材が少なくても十分な強度を有するとともにダイヤモンドディスクを長寿命化できた。これは、結合材を少なくすることによって、強度及び/又は耐磨耗性を比較的低く抑えることができたためである。
【0088】
また、実施例2では、結合材をさらに減ずることによって、十分な強度を維持しつつ、ダイヤモンドディスクをより長寿命化できた。また、実施例3では、結合材を増やしても、ダイヤモンドディスクを十分長寿命化しつつ、モノリス型基材の強度をより向上させることができた。
【0089】
また、実施例4では、骨材原料全てを分級しなくても、一部を分級によってシャープにしたものとすれば、実施例1〜3と同様な効果を発揮できることを示している。
【0090】
また、実施例5では、骨材の粒度分布を分級によってシャープにしなくても、骨材と結合材の割合を十分に調整すれば実施例1〜4と同様の効果を発揮できることを示している。
【0091】
一方で、比較例4では、骨材の粒度分布を原料によってシャープにして骨材の比表面積を減じた割に結合材が多過ぎたために、焼成時の縮み(割り掛け)が大きくなって気孔率が低下して圧力損失が大きくなってしまった。さらに、強度及び/又は耐磨耗性が過大(難加工性)になり、排出流路の切り欠きを切削加工するためのダイヤモンドディスクの寿命が大幅に短命化した。
【0092】
以上の実施例1〜5において、比較的強度が高い割に切削性が良い理由は不明であるが、骨材の高いアスペクト比が良い影響を与えているものと推察される。即ち、比較的少ない結合材で連結され、かつ、扁平であるので、結合材と骨材との界面に応力が集中しやすく、切削加工時は骨材粒子が剥離するように加工されているのではないかと推察される。
【0093】
図10に示すように、分級して得られた骨材粉末を用いた実施例1および実施例4はシャープな細孔径分布であった。一方で、比較例3はブロードでかつ、粗大気孔が多かったため、中間層成膜の際に、中間層用スラリーが基材内部に侵入して基材気孔を閉塞させることがあった。