特許第6403802号(P6403802)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6403802-義歯床半製品の製造方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403802
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】義歯床半製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 13/01 20060101AFI20181001BHJP
   A61C 13/10 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   A61C13/01
   A61C13/10
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-569758(P2016-569758)
(86)(22)【出願日】2015年5月22日
(65)【公表番号】特表2017-516557(P2017-516557A)
(43)【公表日】2017年6月22日
(86)【国際出願番号】EP2015061443
(87)【国際公開番号】WO2015181093
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2016年11月25日
(31)【優先権主張番号】102014107418.1
(32)【優先日】2014年5月27日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】399011900
【氏名又は名称】ヘレーウス クルツァー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】Heraeus Kulzer GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【弁理士】
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【弁理士】
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウーヴェ ベーム
(72)【発明者】
【氏名】マルコ シュパッツ
【審査官】 家辺 信太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/068124(WO,A2)
【文献】 特表2013−512695(JP,A)
【文献】 特表2011−524755(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0326878(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0008826(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 13/01
A61C 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
義歯床半製品(6)の製造方法において、
1)患者(1)の口腔状態を記録しデジタル化して、前記患者(1)のデジタル三次元口腔モデルを作製するステップ、または、患者(1)の口腔状態のデジタル三次元口腔モデルを提供するステップと、
2)義歯床のデジタル三次元第一モデル(A)の計算である第一計算を実施するステップであって、前記第一計算の際に、前記口腔状態の口腔モデルが基礎とされるステップと、
3)前記義歯床のデジタル三次元第一モデル(A)に基づく義歯床半製品のデジタル三次元第二モデル(B)の計算である第二計算を実するステップであって、前記義歯床のデジタル三次元第一モデル(A)少なくとも部に体積を追加するステップと、
4)前記義歯床半製品のデジタル三次元第二モデル(B)に基づいて、高速プロトタイピング法を用いて前記義歯床半製品(6)を製造するステップと
を含む方法。
【請求項2】
前記義歯床のデジタル三次元第一モデル(A)の第一計算を実施する場合、さらなるデータが計算の際に基礎とされ前記さらなるデータは、挿入される人工歯の咬合、位置およびアラインメントに関係するデータ、製造対象の前記義歯床を整列させるためのマーキングの位置、咬合ガイドを含む顎テンプレートを用いて入手されるデータ、および/または、咬合器を設定するために前記患者(1)に関して通常記録されているデータを含む
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記義歯床半製品(6)の製造の際、高速プロトタイピング法が使用され、前記義歯床半製品(6)は、100μmから8mmの精度、または、100μmから1mmの精度、または、500μmから1mmの精度で製造される、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記義歯床半製品(6)の製造中、アディティブ高速プロトタイピング法、または、3Dプリンティング法が使用される、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記義歯床半製品(6)の製造中、以下に掲げる方法の1つ、
すなわちプラスチックまたはワックスの熱溶解層モデリング/マニュファクチャリング法(FLM)、プラスチックまたはワックスまたはアクリロニトリル・ブタジエン・スチロール共重合体またはポリラクチドの熱溶解積層法(FDM)、プラスチックフィルムの薄板堆積法(LOM)、プラスチックフィルムの積層マニュファクチャリング法(LLM)、プラスチックまたはワックスの電子ビーム溶融法(EBM)、ワックスまたはプラスチックまたは熱可塑性樹脂または紫外線感応フォトポリマーのマルチジェット・モデリング法(MJM)、ポリアミドのポリアミド注型法、プラスチックの選択的レーザー溶解法(SLM)、プラスチックまたはワックスまたは熱可塑性樹脂または、ポリカーボネート、ポリアミドまたはポリ塩化ビニルの選択的レーザー焼結法(SLS)、プラスチック造粒体またはプラスチック粉末の3Dプリンティング法(3DP)、プラスチックまたはワックスのスペース・パズル・モールディング法(SPM)、プラスチックまたはワックスまたは流動樹脂、デュロマーまたはエラストマーのステレオリソグラフィー法(STLまたはSLA)、光重合可能なプラスチックのデジタル光プロセッシング法(DLP)が使用される、
求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記義歯床半製品(6)はプラスチックまたはワックス製であり、または、ピンクまたは歯茎色のプラスチック製であり、プラスチックとして、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が使される
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記義歯床半製品のデジタル三次元第二モデル(B)を計算するための前記第二計算の際に、少なくとも部分的に、前記義歯床のデジタル三次元第一モデル(A)に距離ベクトルが追加され、前デジタル三次元第一モデル(A)の全側面または各表面において前記義歯床のデジタル三次元第一モデル(A)に前記距離ベクトルが追加され、前記距離ベクトルは前記デジタル三次元第一モデル(A)の表面に垂直に向かっており、前記距離ベクトルの値は、使用される高速プロトタイピング法の精度同じ程度になるように、100%から200%の間で選択される、または、使用される高速プロトタイピング法の精度同じ程度になるように、100%から150%の間で選択される、
請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記義歯床半製品のデジタル三次元第二モデル(B)を計算する際に、完成した義歯床半製品(6)の位置付けおよび整列化に使用できる、または使用される前記モデル表面上の印を、前記計算に含める、
請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記義歯床半製品のデジタル三次元第二モデル(B)を計算する際に、少なくとも口蓋プレートおよび/または前記義歯床のデジタル三次元第一モデル(A)の歯列弓の接触表面上に、体積を加する、
請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
義歯床(10)の製造方法において、
請求項1〜9のいずれか一項に記載の義歯床半製品(6)を製造する方法を含み、
前記義歯床半製品(6)の製造後、前記義歯床(10)が、サブトラクティブCAM法を用いて、前記義歯床のデジタル三次元第一モデル(A)に基づき、前記義歯床半製品(6)から製造される、または、前記義歯床(10)が、サブトラクティブCAM法を用いて、前記義歯床のデジタル三次元第一モデル(A)に基づき、前記義歯床半製品(6)からミリング加工される、
方法。
【請求項11】
サブトラクティブCAM法としてサブトラクティブミリング法が使用され、前記サブトラクティブミリング法を用いることにより、前記高速プロトタイピング法の精度よりも高い精度が達成され、または、少なくとも50μmの精度が達成され、または、少なくとも10μmの精度が達成される、
請求項10に記載の方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法を実施するためのコンピュータ制御装置において、
高速プロトタイピング法を用いて前記義歯床半製品(6)を製造するための設備(8)、または、前記義歯床半製品(6)製造するための3Dプリンタ(8)を含み、
前記方法の計算を実施するためのモジュールと、前記義歯床半製品(6)を製造するための設備(8)を制御するためのモジュールと、を含むコンピュータシステム(4)を含む、
コンピュータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、義歯床半製品の製造方法および義歯床の製造方法に関する。
【0002】
さらに、本発明は、義歯床半製品の製造方法または義歯床の製造方法を実施するためのコンピュータ制御装置、並びに斯かる方法を用いて製造される義歯床半製品および義歯床に関する。
【0003】
従って、本発明は個々の義歯床を製造するための半製品の製造に関しており、該個々の義歯床は、CAM(コンピュータ支援製造)法を用いて部分プラスチック義歯(部分義歯)およびプラスチック総義歯(総義歯)をさらに機械加工するのに使用される。個々の義歯床はワックス製の実用モデルとしても使用でき、該実用モデルは患者に試着され、部分プラスチック義歯(部分義歯)またはプラスチック総義歯(総義歯)を製造するための義歯床として用いられる。この場合、義歯床半製品、義歯床および義歯は、CAD(コンピュータ支援設計)法を用いてコンピュータ支援により構築される。
【背景技術】
【0004】
義歯の標準的な製造方法はアナログ方式である。義歯床を製造するには現在アナログ方式が通常用いられており、まず患者の歯の無い顎の印象が得られる。この印象から型が作られ、そこに歯茎の色をしたプラスチック材料が注ぎ込まれる。プラスチックが硬くなってから、望ましい形態を得るための加工が行われる。次に別個に製造された人工歯が挿入される。
【0005】
義歯を製造する際、歯がワックス床上に手動で個別に設定される。次のステップにおいて、このワックス義歯はキュベット内の石膏に埋め込まれ、次にワックス床は石膏の硬化後温水で洗い流され、その結果、義歯プラスチック用の空洞空間ができる。このステップ中、該人工歯は石膏内に留まっている。対応するプラスチックが空洞空間内に射出され、その結果、プラスチックが硬化した後、義歯が得られる。
【0006】
プレハブ式の歯の設定中、斯かるプレハブ式の歯は、歯科技師または必要ならば歯科医によって患者の各口腔状態に合わせて調整され、研磨される。
【0007】
斯かる方法は(特許文献1)によって知られており、その場合、義歯床は該方法を用い、斯かる印象に基づいてプラスチックブロックから切削加工される。(特許文献2または3)により知られているように、この第一の方法は既に利用可能であり、その場合、部分義歯または総義歯がデジタル的に設計されCAD−CAM法を用いて製造される。CAD−CAM法を用いた義歯製造の最適化された方法が、(特許文献4)により知られている。予め形成れた人工歯を用いたミリングブロックが、(特許文献5)により知られている。斯かる方法の欠点は人工歯が義歯床と同じ材料で作られていることであり、損傷が生じた場合は顎全体を入れ替えなければならず、完成した義歯を患者の必要(例えば、歯の色、咬合、歯の位置等)に合わせるには労力がかかり過ぎることである。さらなる欠点は、義歯床または人工歯(または人工歯冠)が異なる必要条件を有しているにも拘らず、同じ材料で作られていることである。歯は物を噛むのが主な目的であり、噛むことにより損傷が生じてはならない。対照的に、義歯床は粘膜上に生じる力を分散する必要がある。1つの材料しか使用していない場合は問題が生じ得る。ミリングブロックは、出来るだけ多くの種々の義歯形態に使用可能であるためには大型でなければならず、多くの場合に、大量の材料をミリングブロックから除去しなければならなくなる。除去される材料の無駄だけでなく、時間のかかる切削加工およびミリング工具の摩耗も欠点である。
【0008】
義歯製造用の丸形半製品が(特許文献6)により知られている。斯かる半製品(いわゆる丸形半製品)は、CAMミリングマシンを用いてCADモデルに基づき自動的に切削加工される。現在の方法では、厚さ僅か2〜3mmの義歯床が、斯かる全プロック(丸形半製品)から切削加工されている。この方法の欠点も材料を使い過ぎることであり、各患者の解剖学的状態にもよるが、簡単に90%を超過する場合もある。もう1つの欠点は、大量の材料を除去しなければならないので、CAM装置による処理時間が長くかかることである。さらに、各ミリング工具の摩耗が比較的激しく、その結果、切削加工の費用が増大する。
【0009】
斯かる場合のさらなる欠点は、義歯床が製造されるまでに比較的長い時間がかかることである。加えて、半製品の処理中ミリングヘッドが摩耗するので、定期的に新しいのと入れ替えなければならないことである。切削加工後の材料(ミリングチップ)は処分するか再生利用しなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】WO 91/07141 A1
【特許文献2】DE 10 2009 056 752 A1
【特許文献3】WO 2013 124 452 A1
【特許文献4】EP 1 444 965 A2
【特許文献5】WO 2013 068 124 A2
【特許文献6】DE 20 2006 006 286 U1
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本発明の目的は従来技術の欠点を乗り越えることである。特に、最も簡単で最も完成度が高く最も費用効果の高い義歯床、従って義歯の製造を可能とする方法、原材料(構成部品)および/または製品が提供される。サブトラクティブCAM法を実施するためのミリングヘッドおよび/または工具の摩耗は可能な限り僅かであるべきである。加えて、義歯床の製造も可能な限り迅速であるべきである。しかし、それと同時に、製造対象の義歯床はCAD−CAM法を用いて患者の個々のニーズに適合できるべきであり、しかもそれは自動的に製造できるべきである。
【0012】
本発明の目的は、以下のステップにより義歯床半製品を製造する方法により達成される。
1)患者の口腔状態を記録しデジタル化して、該患者のデジタル三次元口腔モデルを作製するステップ、あるいは患者の口腔状態のデジタル三次元口腔モデルを提供するステップ。
2)義歯床のデジタル三次元第一モデル(A)の計算である第一計算を実施するステップであって、第一計算の基礎として口腔状態の口腔モデルが使用されるステップ。
3)義歯床の第一モデル(A)に基づくデジタル三次元第二モデル(B)の計算である第二計算を実行するステップであって、義歯床のデジタル三次元モデル(A)の少なくともある部分に体積を追加するステップ。および、
4)高速プロトタイピング法を用いて義歯床半製品を製造するステップであって、高速プロトタイピング法と共にCAM法が使用され、CAM法の基礎として、義歯床半製品のデジタル三次元第二モデル(B)が使用されるステップ。
【0013】
混乱を避けるため記しておかなければならない事であるが、本発明の方法によれば、義歯床には1つのモデルすなわち第一モデル(A)しかなく、義歯床半製品には1つのモデルすなわち第二モデル(B)しかない。従って、義歯床のモデル(A)を形成するデータセットは1つしかなく、義歯床半製品のモデル(B)を形成するデータセットも1つである。従って、義歯床半製品の第一モデルも義歯床の第二モデルも存在しない。この方法が選択されたのは、区別がいつも簡単であり、問題となっているモデルも2つのモデル(A、B)の計算順番も明確だからである。
【0014】
義歯床半製品の第二モデル(B)を計算するには、義歯床の第一モデル(A)のいくつかの主要パラメータを決定すれば十分である。義歯床の第二モデルは、その後さらに精確にすることができる。従って、義歯床半製品の第二モデル(B)を計算するのに、義歯床の第一モデル(A)は完全である必要はない。
【0015】
患者の口腔状態のデジタル三次元モデルは例えばステレオカメラにより記録できる、あるいは記録されており、その場合、ステレオカメラは患者の口腔内に挿入される。あるいはまたは加えて、口腔のプラスチック印象を作製することができ、それは次に測定される、および/または外的に記録される。記録後、データはデジタル化される。この場合、データの質を高めるのに別の補正方法を使用してもよい。
【0016】
義歯床のデジタル三次元第一モデル(A)の第一計算の際、1つのまたはいくつかの適切な義歯床を決定するのに口腔の解剖学的条件が斟酌されるが、その場合、患者の顎の咀嚼機能が人工歯をはめ込んだ義歯によって保証される、あるいは好ましくは最適化される。斯かるCAD法は、例えば特許文献4により周知である。斯かるモデルの場合、取り付けられる人工歯の位置およびアラインメントが分かっていれば有利である。義歯床のモデル(A)の場合、人工歯を配置および固定するための凹部および/または表面が提供される。斯かる凹部および/または表面は、モデル(A)に基づいて作製される義歯床上/内に人工歯(めす型としてインデックス化されている)が明瞭なアラインメントで固定できるようなやり方で、インデックス化されているのが好ましい。
【0017】
本明細書に記載される場合、本発明の枠組み内において、既知の「高速プロトタイピング」と言う用語は1つの製造方法として用いられており、その場合、義歯床半製品は、高速プロトタイピング用の通常の製造方法を用いて製造される。義歯床半製品は試作品ではなく、むしろ半製品の構成部品なので、「高速プロトタイピング」と言う用語の代わりに、「高速製造」、「生成的な生産方法」、「高速製品開発」、「高度デジタル製造」または「E−製造業」等の文脈で時々使用される用語も使用できる。
【0018】
本発明の方法は、義歯床半製品の第二モデル(B)の形態を計算するのに、口蓋プレートまたは歯茎の接触表面並びに人工歯連結用の凹部または表面を形成する義歯床の表面のみに、体積を追加することによっても特徴づけられる。高速プロトタイピング法の使用が十分精密な場合、すなわち少なくとも500μmまたは500μm未満の精度で実施される場合には、これは特に有利である。
【0019】
本発明の方法では、義歯床の第一モデル(A)の第一計算を行う場合、さらなるデータ、好ましくは、挿入される人工歯の咬合、位置およびアラインメントに関係するデータ、製造対象の前記義歯床を整列させるためのマーキングの位置、咬合ガイドを含む顎テンプレートを用いて入手されるデータ、および/または咬合器を設定するために患者に関して通常記録されているデータが、計算の基礎として使用される。
【0020】
義歯床の第一モデル(A)の第一計算の実施が、ステップ2)において行われる。
【0021】
その結果、患者にさらに適合する義歯床が製造される。義歯床半製品からその後義歯床を加工する際にオフセット量が関係しない、および/またはオフセット量を利用可能としておく必要がないので、義歯床にさらに精確に適合する義歯床半製品がこの目的のために製造できる。義歯床の最終形態を精確に特定すればするほど、義歯床半製品もより精確に製造でき、その結果、義歯床半製品の製造に使用される材料も少なくて済み、義歯床半製品から義歯床を製造するための道具も保護され、義歯床半製品の製造速度および義歯床半製品から義歯床を製造する速度も増大する。
【0022】
本発明においては、義歯床半製品の少なくとも1面、好ましくは義歯床半製品の頬面に、義歯床半製品をCAM装置、特にCAM切削機械に固定するためのホルダーを配置するのが好ましい。その結果、義歯床を製造するために、CAM装置の精確な方位および精確な位置に、義歯床半製品を、張力を付して確実に固定できる。
【0023】
本発明の方法によれば、義歯床半製品の製造において高速プロトタイピング法が使用され、その場合、義歯床半製品は100μmから8mmの精度、好ましくは100μmから1mmの精度、特に好ましくは500μmから1mmの精度で製造される。
【0024】
斯かる高速プロトタイピング法は、高精度の高速プロトタイピング法またはCAM法と比べて、実施が迅速で比較的低価格である。
【0025】
本発明のさらなる改良においては、義歯床半製品の製造に、アディティブ高速プロトタイピング法、特に3Dプリンティング法が使用される。
【0026】
アディティブ高速プロトタイピング法は、原材料を大量に利用可能な状態にしておく必要はないし、製造に必要な材料だけ、あるいは製造に必要な材料の量よりも僅かに多い量だけが使われるので有利である。3Dプリンティング法は、最終顧客用の大量生産品としてますます提供されつつあるので、価格は低下する一方である。
【0027】
さらに、義歯床半製品の製造に関して、以下に掲げる方法の1つ、すなわちプラスチックまたはワックスの熱溶解層モデリング/マニュファクチャリング法(FLM)、プラスチックまたはワックス特にアクリロニトリル・ブタジエン・スチレンまたはポリラクチドの熱溶解積層法(FDM)、プラスチックフィルムの薄板堆積法(LOM)、プラスチックフィルムの積層マニュファクチャリング法(LLM)、プラスチックまたはワックスの電子ビーム溶融法(EBM)、ワックスまたはプラスチック特に熱可塑性物質または紫外線感応フォトポリマーのマルチジェット・モデリング法(MJM)、ポリアミドのポリアミド注型法、プラスチックの選択的レーザー溶解法(SLM)、プラスチックまたはワックス特に熱可塑性物質、特に好ましくはポリカーボネート、ポリアミドまたはポリ塩化ビニルの選択的レーザー焼結法(SLS)、プラスチック微粒子またはプラスチック粉末の3Dプリンティング法(3DP)、プラスチックまたはワックスのスペース・パズル・モールディング法(SPM)、プラスチックまたはワックス特に流動樹脂、デュロマーまたはエラストマーのステレオリソグラフィー法(STLまたはSLA)、光重合性流動プラスチックのデジタル光プロセッシング法(DLP)が使用され、この場合、光重合性流動プラスチックのデジタル光プロセッシング法(DLP)およびプラスチックまたはワックス特に流動樹脂、デュロマーまたはエラストマーのステレオリソグラフィー法(STLまたはSLA)が特に好ましい。
【0028】
本発明の範囲内において、デジタル光プロセッシング法(DLP)を実施するための光重合性流動プラスチックとしては、ラジカルによって重合可能および/またはラジカル的に重合可能なポリメチルメタクリレート・プラスチック(PMMAプラスチック)が好ましく使用される。
【0029】
さらに、義歯床半製品はポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)またはポリウレタン(PU)から製造される。斯かる材料は、CAM法を用いて義歯床半製品をその後加工するのに特に適している。加えて、美的に適切な義歯床も斯かる材料から製造できる。
【0030】
斯かる方法は周知であり、義歯床半製品の好ましい製造方法として効果的に適用できる。
【0031】
本発明の好ましい実施形態では、義歯床半製品はプラスチックまたはワックス製、特にピンクまたは歯茎色のプラスチック製であり、その場合、プラスチックとして、ポリメチルメタクリレート(PMMA)が好ましく使用できる。
【0032】
プラスチック(特にPMMA)は、義歯床または義歯床半製品用の材料として、上記方法を実施するのに特に適している。配色は患者の状態に合わせてもよい。
【0033】
義歯床または義歯床半製品を製造するための材料としてワックスが使用される場合、ワックスから得られる義歯床、および/またはワックスから得られる義歯床半製品は、患者が試着するためのみに用いられる、すなわち実用モデルとしてだけであり、最終的な義歯床として用いられるものではない。ワックスから製造される義歯床および/またはワックスから製造される義歯床半製品は、患者に試着させた後それをモデルとして最終義歯床を製造するのに使用される。
【0034】
本発明の有利な実施形態を特徴付けている事実であるが、義歯床半製品のデジタル三次元第二モデル(B)を計算するための第二計算を用いて、少なくとも部分的に、義歯床の第一モデル(A)に距離ベクトルが追加される、好ましくは第一モデル(A)の各表面の全側面において義歯床の第一モデル(A)に距離ベクトルが追加され、その場合、距離ベクトルは第一モデル(A)の表面に垂直に向かっており、距離ベクトルの値は、使用される高速プロトタイピング法の精度と同じ程度になるように、100%から200%の間で選択される、好ましくは使用される高速プロトタイピング法の精度と同じ程度になるように、100%から150%の間で選択される。
【0035】
斯かる手段により、義歯床半製品は望ましい箇所でのみ製造対象の義歯床よりも厚くなっており、追加の厚さは使用される高速プロトタイピング法の精度に合わせてあるので、義歯床半製品から義歯床を製造する間、可能な限り僅かな材料しか使用されない。
【0036】
さらに、義歯床半製品の第二モデル(B)を計算する際に、完成した義歯床半製品の位置付けおよび整列化に適用できる、または使用されるモデル表面上の印が、計算に含まれる。
【0037】
斯かる印を用いることにより、その後の処理が簡略化される。それは、望ましい(正しい)方向づけで、容易にまたは完全自動で、義歯床半製品が下流処理用の設備に挿入される、および/または張力を付して置かれる、または固定されるからであり、あるいは後処理において、下流処理用の設備に既に挿入されている、および/または張力を付して置かれている義歯床半製品が、該設備内で正しく方向づけられるからである。
【0038】
本発明の好ましい実施形態では、義歯床半製品の第二モデル(B)を計算する際に、少なくとも口蓋プレートおよび/または義歯床のモデル(A)の歯列弓の接触表面上に、体積が付加される。
【0039】
多くのアプリケーションでは、口蓋プレートは4軸加工機または5軸加工機等のさらに精確な方法で加工されるのが望ましい。咬合適合も人工歯の加工中に達成できる。
【0040】
本発明の方法では、高速プロトタイピング法が十分精確(最低500μmの精度が与えられるべきである)であるならば、口蓋プレートおよび/または歯茎の接触表面および人工歯連結用の凹部または表面は別として、義歯床半製品の表面が滑らかにされているならば既に十分である。
【0041】
本発明の基礎を形成する目的は、義歯床半製品を製造する本発明の方法を含む義歯床製造方法によっても達成でき、その場合、義歯床半製品の製造後、サブトラクティブCAM法を用いて、義歯床半製品の製造の基礎となる義歯床の第一モデル(A)に基づき、義歯床が製造される、特に切削加工される。
【0042】
この場合、サブトラクティブCAM法としてサブトラクティブミリング法が使用され、該サブトラクティブミリング法を用いることにより、高速プロトタイピング法の精度よりも高い精度が達成されるのが好ましく、少なくとも50μmの精度が達成されるのが特に好ましく、少なくとも10μmの精度が達成されるのがさらに特に好ましい。
【0043】
コンピュータ制御4軸加工機または5軸加工機が、本発明の方法には特に適している。
【0044】
総義歯あるいは少なくとも部分義歯を製造するための、本発明の義歯床製造方法においては、義歯床半製品を製造するための本発明の方法を適用するにあたり、以下の方法ステップが提供できる。
1)CAM法を用いて義歯床半製品から材料を除去するため、CAM装置内に該義歯床半製品を固定するステップ、および
2)義歯床について計算済みの第一モデル(A)に基づき、CAM装置を用いて義歯床半製品の材料を除去するステップ。
【0045】
本発明の目的は、本発明の方法を実施するためのコンピュータ制御装置によって達成され、その場合、該装置には、高速プロトタイピング法を用いて義歯床半製品を製造するための設備、特に義歯床半製品製造用の3Dプリンタが含まれ、さらに上記方法の計算を実施するためのモジュールと、義歯床半製品を製造するための設備を制御するモジュールとから成るコンピュータシステムが含まれる。
【0046】
上記コンピュータシステムにおいてモジュールは単一のコンピュータに含めることはできず、2つの異なるコンピュータステーションで操作されるが、その場合、該コンピュータステーションは、この目的のためにデータを転送できなければならない。その場合、上記方法の計算を実施するためのモジュールのデータ(あるいは義歯床半製品の第二モデル(B)に関するデータ)が、義歯床半製品製造用の設備を制御するモジュールに転送できれば十分である。コンピュータシステムは、両方のモジュールを含む単一のコンピュータで設計されるのが好ましい。
【0047】
さらに、本発明の基礎を形成する目的は、義歯床半製品を製造するための本発明の方法を用いて製造される義歯床半製品によっても達成される。
【0048】
最後に、本発明の基礎を形成する目的は、義歯床を製造するための本発明の方法を用いて製造される義歯床によっても達成される。
【0049】
本発明は、義歯床半製品が予め製造可能であり、その義歯床半製品から義歯床の製造が簡単かつ迅速に実施でき、義歯床半製品から僅かな量の材料を除去すれば済み、高速プロトタイピング法を用いれば可能な限りさらに僅かな除去で済む、という驚くべき発見に基づいている。斯かる目的のため、驚くべきことに、いずれかの方法で計算されるデータあるいは義歯床の計算中に出て来るデータが利用可能であり、義歯床の第一モデル(A)の望ましい箇所に単純に体積を追加することにより、および/または計算に体積を追加することにより、必要な許容誤差が義歯床半製品の第二モデル(B)に含まれることになる、理想的には、必要な許容誤差を超えないまたは必要な許容誤差を僅かしか超えない許容誤差が含まれることになる。義歯床半製品の第二モデル(B)の計算中に、各患者に関する測定データは義歯床の第一モデル(A)により既に導入されてあるので、義歯床半製品は、該患者および/またはその口腔状態に既に合わされている。義歯床の第一モデル(A)に関する精確なデータは計算がかなり複雑であるが、それはいずれにせよ計算する必要がありしかも入手可能であるので、しかもその結果、義歯床半製品の第二モデル(B)の計算は極めて簡単に達成できるので、この方法は単純である。最も単純な方法では、義歯床半製品の第二モデル(B)は、義歯床の第一モデル(A)内にある該第一モデル(A)の全寸法を拡大することにより簡単に作成できる。例えば、義歯床の第一モデル(A)は完全または部分的な鞘に囲まれており、該鞘は、高速プロトタイピング法の適用中に生じるあらゆる不確実さおよび/または不正確さ並びに他のあらゆる潜在的な追加の不正確さをオフセットするのに十分な厚さを有している。本発明によれば、該鞘および追加の体積により、現実的に予期可能なあらゆる不測の事態が考慮されているので、義歯床半製品の体積および形状は、望ましい義歯床を切削加工する、または削り取るのに十分である。
【0050】
従って、本発明の方法によれば、義歯床製造のためのより迅速で効果的な方法が可能であり、義歯床半製品から義歯床を製造するためのCAM装置の道具も保護されるし、サブトラクティブCAM法を用いることにより材料の損失も極小化できる。標準の切削加工半製品の使用と比較して、本発明の義歯床半製品および方法を使用する場合の利点は、例えば、切削加工時間の低減、義歯床素材の必要量の減少、切削加工具の保護すなわち切削加工具の摩耗の低下である。
【0051】
本発明の方法によれば、義歯床半製品並びに義歯床および義歯は、CAD(コンピュータ支援設計)法を用いるコンピュータ支援方法により構築される。その場合、義歯床の義歯床半製品がまず製造され、該半製品から義歯床が製造され、それが後に患者の顎アーチの全く歯の無いまたは部分的にしか歯の無い歯茎に置かれる。実用モデルがまずワックスで製造される場合、最終的な義歯床はそれを基にプラスチックで製造されるが、斯かる義歯床もCAM法を用いて製造できる。次に、人工歯が個々に製造され、あるいは予め製造された人工歯が個々に短くされ、義歯床に挿入され、それから固定される。プラスチック製で人工歯を有する義歯床が、最終的な義歯を形成する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】本発明による方法ステップの概観を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
本発明の例示的実施形態を以下に1つの概略図を参照して説明するが、本発明が斯かる実施形態により制限されることはない。図1は、義歯床10を製造するための本発明による方法ステップの概観を示しており、義歯床半製品を製造するための本発明による方法がその目的に使用される。
【0054】
最初のステップにおいて、患者1の口腔の三次元像が口腔内スキャナ2で記録される。口腔は少なくとも部分的に歯の無い状態にある。口腔内スキャナ2は、例えば適切なステレオカメラであってもよい。口腔内スキャナ2の画像データはコンピュータ4へ転送され、そこで、画像情報に基づいて、口腔関連部分の三次元デジタル口腔モデルが義歯製造用に計算される。
【0055】
口腔モデルに基づき、並びに必要に応じてさらなるデータ、例えば、挿入される人工歯の咬合、位置およびアラインメントに関するデータ、製造対象の前記義歯床を整列させるためのマーキングの位置、咬合ガイドを含む顎テンプレートを用いて入手されるデータ、および/または咬合器を設定するために患者に関して通常記録されているデータに基づき、コンピュータ4は、口腔状態に適合する義歯床の三次元デジタル第一モデルAおよび必要に応じてさらなるパラメータ(咬合等)を計算する。モデルAは、義歯床の仮想モデルAであることを明確にするため図1では破線で示してあり、コンピュータ4にはデータ量としてのみ存在し記憶されている。義歯床のモデルAには人工歯は含まれておらず後に追加されるが、その位置、アラインメントおよび形状は義歯床の第一モデルAの計算時に既に考慮されている。従って、義歯床のモデルAは、例えば、人工歯を保持および/または連結するための凹部、窪みおよび/または接触表面を既に含んでいる。
【0056】
次のステップで、義歯床半製品のデジタル三次元第二モデルBが、義歯床のデジタル三次元第一モデルAに基づきコンピュータ4を用いて計算される。この目的のため、義歯床の第一モデルAの全表面に体積が付加されている。モデルBも義歯床半製品の仮想モデルBであることを明確にするため図1では破線で示してあり、コンピュータ4にはデータ量としてのみ存在し記憶されている。従って、義歯床の第一モデルAは、義歯床半製品の第二モデルBに十分に組み込むことができる。特に、歯の無い顎および/または歯茎の接触表面を形成する義歯床の第一モデルAの下側(以下の図1に図示されている)に、体積が追加される。
【0057】
義歯床半製品の第二モデルBに基づき、コンピュータ4を用いておよび/またはコンピュータ4により制御されて、さらに3Dプリンタ8または高速プロトタイピング法を実施するための別の設備8を用いて、実際の義歯床半製品6がプラスチックまたはワックスから製造される。プラスチックは歯茎のピンク色を有している。このようにして製造される義歯床半製品6は、5軸または4軸加工機12あるいは極めて精確なサブトラクティブCAM法を実施するための別の装置に張力を付して固定され、実際の義歯床10が、義歯床の第一モデルAに基づき義歯床半製品6から切削加工される。5軸または4軸加工機12は3Dプリンタ8よりもかなり精確に機能するが、速度は遅い。従って、迅速だが精度に劣る3Dプリンタを用いて大雑把な形状が義歯床半製品6として製造され、それ以後の精密作業が5軸または4軸加工機12を用いて行われる。5軸または4軸加工機12も、義歯床の第一モデルAに基づき、コンピュータ4または別の制御装置(図示しない)によって制御される。
【0058】
義歯床半製品の第二モデルBは、義歯床の第一モデルAまたは義歯床の第一モデルAを製造するのに決定的に重要なデータに基づいて製造されるので、5軸または4軸加工機12を用いて義歯床を製造するのに必要な時間同様、材料の使用も最低限に抑えられる。その結果、プラスチックまたはワックスの消費並びに5軸または4軸加工機のミリングヘッドの摩耗が減少し、上述の方法が加速される。
【0059】
上述の説明、特許請求項の範囲、図面および例示的実施形態で開示した本発明の特徴は、異なる実施形態で本発明を実現するにあたり、個別的にまたはそれらのあらゆる組み合わせにおいて非常に重要であり得る。
【符号の説明】
【0060】
1 患者
2 3D口腔内スキャナ
4 コンピュータ
6 義歯床半製品
8 高速プロトタイピング法を実施するための3Dプリンタ/設備
10 義歯床
12 CAM制御の5軸または4軸加工機
A 義歯床のモデル
B 義歯床半製品のモデル
図1