(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記赤外線吸収性材料微粒子の表面が、Si、Ti、AlおよびZrから成る群から選択される1種以上を含有する酸化物で被覆されている、請求項1又は2に記載の赤外線吸収性インキ。
前記赤外線吸収性材料微粒子の含有量が、前記赤外線吸収性インキの質量に対して1.0質量%以上45質量%以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の赤外線吸収性インキ。
請求項1〜11のいずれか1項に記載の赤外線吸収性インキを使用して、フレキソ印刷、活版印刷、オフセット印刷、凹版印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷またはインクジェット印刷で印刷物を得る方法。
【発明を実施するための形態】
【0019】
<赤外線吸収性インキ>
本発明の赤外線吸収性インキは、複合タングステン酸化物又はマグネリ相を有するタングステン酸化物から選択される赤外線吸収性材料微粒子、及びビヒクルを含む。
【0020】
本発明のインキは、赤外線吸収性材料微粒子の赤外線吸収性を利用して印刷物の偽造を防止するために、使用されることができる。
【0021】
本発明に係る赤外線吸収性インキは、赤外線吸収性材料微粒子及びビヒクルを含み、ビヒクルは、植物油または植物油由来の化合物から選択される1種以上の第一の溶剤と、アルコール類、エーテル類、エステル類、ケトン類、芳香族炭化水素類、脂肪族炭化水素類及びグリコールエーテル類から成る群から選択され、かつ180℃以下の沸点を有する第二の溶剤と、樹脂とを含み、かつ第二の溶剤の含有量は、赤外線吸収性インキの質量に対して2質量%以下である。
【0022】
本発明のインキは、ビヒクルに赤外線吸収性材料微粒子が分散しており、好ましくは混合せずに1時間経過しても、赤外線吸収性材料微粒子のうちの10質量%以上、5質量%以上、3質量%以上、又は1質量%以上の沈降が発生しない。さらに好ましくは、本発明のインキは、赤外線吸収性材料微粒子をまず第二の溶剤に分散してから、第一の溶剤をその分散液に加えて、その後第二の溶剤を2質量%以下まで除去することによって得られる。
【0023】
所望により、赤外線吸収性インキは、補助剤として、前記第一の溶剤に可溶な脂肪酸を構造中に有する分散剤をさらに含んでよく、かつ/又は分散剤以外の補助剤、着色剤等もさらに含んでよい。
【0024】
本発明のインキは、ビヒクル成分の種類に応じて、油性インキ、又は油性・紫外線硬化型併用インキとして使用されることができる。
【0025】
油性インキは、ビヒクル成分の酸化重合により硬化可能なインキである。一般に、油性インキは、ビヒクル成分として、溶剤、樹脂等を含む。
【0026】
紫外線硬化型インキ(以下、「UVインキ」と略記する)は、ビヒクル成分の光重合により硬化可能なインキである。一般に、UVインキは、ビヒクル成分として、樹脂、光重合性モノマー又はオリゴマー、光重合開始剤等を含むが、溶剤等の揮発成分を含まない。
【0027】
油性・紫外線硬化型併用インキ(以下、「油性・UV併用インキ」と略記する)は、油性インキとUVインキの両方の硬化特性を備えたインキである。
【0028】
本発明のインキに含まれる赤外線吸収性材料微粒子、ビヒクル、補助剤及び着色剤について以下に説明する。
【0029】
[赤外線吸収性材料微粒子]
赤外線吸収材料微粒子は、下記一般式(1)で表される複合タングステン酸化物、又は下記一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物から選択される1種以上である:
M
xW
yO
z (1)
{式中、Mは、H、He、アルカリ金属元素、アルカリ土類金属元素、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、およびIから成る群から選択される1種類以上の元素であり、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、x、y及びzは、それぞれ正数であり、0<x/y≦1であり、かつ2.2≦z/y≦3.0である}
W
yO
z (2)
{式中、Wはタングステンであり、Oは酸素であり、y及びzは、それぞれ正数であり、かつ2.45≦z/y≦2.999である}
なお、アルカリ金属元素は、水素を除く周期表第1族元素であり、アルカリ土類金属元素は、Be及びMgを除く周期表第2族元素であり、かつ希土類元素は、Sc、Y及びランタノイド元素である。
【0030】
赤外線吸収性材料微粒子の製法として、特開2005−187323号公報に説明されている複合タングステン酸化物又はマグネリ相を有するタングステン酸化物の製法を使用することができる。
【0031】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物には、元素Mが添加されている。この為、一般式(1)におけるz/y=3.0の場合も含めて、自由電子が生成され、近赤外光波長領域に自由電子由来の吸収特性が発現し、波長1000nm付近の近赤外線を吸収する材料として有効である。
【0032】
特に、近赤外線吸収性材料としての光学特性及び耐候性を向上させる観点から、M元素は、Cs、Rb、K、Tl、In、Ba、Li、Ca、Sr、Fe及びSnのうちの1種類以上であることが好ましく、特にCsであることが好ましい。
【0033】
また、Cs
xW
yO
z(0.25≦x/y≦0.35、2.2≦z/y≦3.0)の場合、格子定数が、a軸は7.4060Å以上7.4082Å以下で、c軸は7.6106Å以上7.6149Å以下であることが好ましい。格子定数が前記の範囲内にあると、特に光学特性や耐候性に優れた近赤外線吸収微粒子が得られる。
【0034】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物が、シランカップリング剤で処理されていると、分散性、近赤外線吸収性及び可視光波長領域における透明性に優れるので好ましい。
【0035】
元素Mの添加量を示すx/yの値が0超であれば、十分な量の自由電子が生成され近赤外線吸収効果を十分に得ることができる。元素Mの添加量が多いほど、自由電子の供給量が増加し、近赤外線吸収効果も上昇するが、x/yの値が1程度で飽和する。x/yの値が1以下であれば、微粒子含有層中における不純物相の生成を回避できるので好ましい。x/yの値は、0.001以上、0.2以上又は0.30以上であることが好ましく、この値は、0.85以下、0.5以下又は0.35以下であることが好ましい。x/yの値は、理想的には0.33である。
【0036】
一般式(1)及び(2)において、z/yの値は、酸素量の制御の水準を示す。一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、z/yの値が2.2≦z/y≦3.0の関係を満たすので、一般式(2)で表されるタングステン酸化物と同じ酸素制御機構が働くことに加えて、z/y=3.0の場合でさえも元素Mの添加による自由電子の供給がある。一般式(1)において、z/yの値が2.45≦z/y≦3.0の関係を満たすことがより好ましい。
【0037】
尚、本発明に係る複合タングステン酸化物やタングステン酸化物の製造時に使用する原料化合物に由来して、当該複合タングステン酸化物やタングステン酸化物を構成する酸素原子の一部がハロゲン原子に置換している場合があるが、本発明の実施において問題はない。そこで、本発明に係る複合タングステン酸化物やタングステン酸化物には、酸素原子の一部がハロゲン原子に置換している場合も含むものである。
【0038】
一般式(1)で表される複合タングステン酸化物は、六方晶の結晶構造を有するか、又は六方晶の結晶構造から成るとき、赤外線吸収性材料微粒子の可視光波長領域の透過が向上し、かつ近赤外光波長領域の吸収が向上するので好ましい。六方晶の空隙に元素Mの陽イオンが添加されて存在するとき、可視光波長領域の透過が向上し、近赤外光波長領域の吸収が向上する。ここで、一般には、イオン半径の大きな元素Mを添加したときに、六方晶が形成される。具体的には、Cs、K、Rb、Tl、In、Ba、Sn、Li、Ca、Sr、Fe等のイオン半径の大きい元素を添加したときに、六方晶が形成され易い。しかしながら、これらの元素に限定されるものではなく、これらの元素以外の元素でも、WO
6単位で形成される六角形の空隙に添加元素Mが存在すればよい。
【0039】
六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、添加元素Mの添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、より好ましくは0.30以上0.35以下であり、理想的には0.33である。x/yの値が0.33となることで、添加元素Mが、六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0040】
また、六方晶以外では、正方晶又は立方晶のタングステンブロンズも近赤外線吸収効果がある。これらの結晶構造によって、近赤外光波長領域の吸収位置が変化する傾向があり、立方晶<正方晶<六方晶の順に、吸収位置が長波長側に移動する傾向がある。また、それに付随して可視光波長領域の吸収が少ないのは、六方晶<正方晶<立方晶の順である。このため、可視光波長領域の光をより透過して、近赤外光波長領域の光をより吸収する用途には、六方晶のタングステンブロンズを用いることが好ましい。
【0041】
一般式(2)で表されるマグネリ相を有するタングステン酸化物において、z/yの値が2.45≦z/y≦2.999の関係を満たす組成比を有する所謂「マグネリ相」は、化学的に安定であり、近赤外光波長領域の吸収特性も良いので、近赤外線吸収材料として好ましい。
【0042】
本発明に係る赤外線吸収性材料微粒子は、近赤外光波長領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調が青色系から緑色系となる物が多い。また、赤外線吸収性材料微粒子の分散粒子径は、その使用目的によって、各々選定することができる。まず、透明性を保持して応用する場合には、2000nm以下の分散粒子径を有していることが好ましい。これは、分散粒子径が2000nm以下であれば、可視光波長領域での透過率(反射率)のピークと近赤外光波長領域の吸収とのボトムの差が大きくなり、可視光波長領域の透明性を有する近赤外線吸収材料としての効果を発揮できるからである。さらに分散粒子径が2000nmよりも小さい粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光波長領域の視認性を保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。
【0043】
さらに可視光波長領域の透明性を重視する場合には、粒子による散乱を考慮することが好ましい。具体的には、赤外線吸収性材料微粒子の分散粒子径は、200nm以下であることが好ましく、好ましくは100nm以下であることがより好ましい。分散粒子径が小さければ、幾何学散乱又はミー散乱が低減するので、波長400nm〜780nmの可視光波長領域の光の散乱が低減される結果、近赤外線吸収膜が曇りガラスのようになり鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。即ち、赤外線吸収性材料微粒子の分散粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱又はミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は分散粒子径の6乗に反比例して低減するため、分散粒子径の減少に伴い、散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに分散粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、分散粒子径が小さい方が好ましい。一方、分散粒子径が1nm以上あれば工業的な製造は容易である。
【0044】
本発明の赤外線吸収性材料を構成する微粒子の表面が、Si、Ti、Al及びZrから成る群から選択される一種以上を含有する酸化物で被覆されていることも、当該赤外線吸収性材料の耐候性を向上させる観点から好ましい。
【0045】
[ビヒクル]
ビヒクルは、赤外線吸収性材料微粒子及び/又は着色剤を被印刷物に転移させ、かつ印刷後には赤外線吸収性材料微粒子及び/又は着色剤を被印刷物に固着させる媒体である。本発明に用いられるビヒクルは、溶剤及び樹脂を含む。ビヒクルには、印刷に使用されている既知のビヒクル成分、例えば光重合成分等をさらに含有させてよい。溶剤、樹脂及び光重合成分について以下に説明する。
【0046】
〔溶剤〕
溶剤としては、第一の溶剤、第二の溶剤が挙げられ、さらに任意に鉱物油等を含んでもよい。
【0047】
(第一の溶剤)
本発明に用いられる第一の溶剤は、非水溶性であり、かつ、オフセット印刷において用いられるゴム製のブランケットを溶解しないことが求められる。具体的には、植物油、植物油由来の化合物から選択される1種類以上から成る溶剤が用いられる。植物油としては、アマニ油、ヒマワリ油、桐油等の乾性油、ゴマ油、綿実油、菜種油、大豆油、米糠油等の半乾性油、オリーブ油、ヤシ油、パーム油、脱水ヒマシ油等の不乾性油が用いられる。植物油由来の化合物としては、植物油の脂肪酸とモノアルコールを直接エステル反応させた脂肪酸モノエステル、エーテル類などが用いられる。
【0048】
上述した、植物油及び植物油由来の化合物は、構成成分である油脂の脂肪酸中に二重結合を有している。この二重結合が空気中の酸素と反応することで、二重結合間の重合反応が進行する。油の分子同士の重合反応や、油の分子とオフセット印刷用のインキ成分との重合反応によって結合することで、オフセット印刷後の塗膜が固化する。
【0049】
当該固化は、脂肪酸中の二重結合が多い程速くなるが、当該脂肪酸中の二重結合はヨウ素価により評価される。即ち、植物油又は植物油由来の化合物の固化は、ヨウ素価が高い程早くなる。具体的には、乾性油ではヨウ素価が130以上、半乾性油では130〜100、不乾性油では100以下である。そして、印刷に用いる場合には、植物油が好ましく、ヨウ素価が130以上であるアマニ油、ヒマワリ油、桐油等の乾性油がより好ましい。
【0050】
本発明に用いられる第一の溶剤の粘度としては、1mPa・s以上、5mPa・s以上、10mPa・s以上、20mPa・s以上、30mPa・s以上、50mPa・s以上、80mPa・s以上、又は100mPa・s以上であってもよく、この粘度は、500mPa・s以下、300mPa・s以下、200mPa・s以下、150mPa・s以下、又は100mPa・s以下であってもよい。
【0051】
ここで、本明細書において、「粘度」とは、振動式粘度計VM100A−L(CBCマテリアルズ(株)製)を用いて測定される粘度をいう。
【0052】
(第二の溶剤)
本発明に用いられる第二の溶剤は、本発明に係る赤外線吸収性材料を微粒子に粉砕し、溶剤中に分散させる工程に適した溶剤である。具体的には、第二の溶剤は、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ジアセトンアルコールなどのアルコール類、メチルエーテル、エチルエーテル、プロピルエーテルなどのエーテル類、エステル類、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、シクロヘキサノン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、トルエン、キシレン、ベンゼンなどの芳香族炭化水素類、ノルマルヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどのグリコールエーテル類といった各種の有機溶媒であり、かつ180℃以下の沸点を有する。第二の溶剤は、第一の溶剤と相溶する溶剤であることが好ましい。
【0053】
なかでも、アルコール類、脂肪族炭化水素類、及びグリコールエーテル類は、人体への健康有害性が低く、工程での安全性又は操作性の観点から好ましい第二の溶剤である。また、メチルイソブチルケトン又はトルエンは、作業性に優れ、生産性向上の観点から好ましい第二の溶剤である。
【0054】
しかしながら、第二の溶剤は、オフセット印刷の際にインキが転写されるゴム製のブランケットを溶解する可能性があるので、オフセット印刷用インキ中では、所定量以下の含有量であることが求められる。具体的には5.0質量%以下、2.0質量%以下、1.5質量%以下、又は1.0質量%以下の含有量であることが好ましい。ただし、第二の溶剤は、0.1質量%以上、0.3質量%以上、0.5質量%以上、又は1.0質量%以上の含有量でインク中に含有されていてもよい。
【0055】
従って、本発明に係る赤外線吸収材料を微粒子に粉砕し、溶剤中に分散させる工程が終了した後は、これら第二の溶剤の含有量は十分に削減されることが好ましい。
【0056】
具体的には、これら第二の溶剤として低沸点の溶剤を用い、第一の溶剤との間に沸点の差を設け、加熱蒸留等によって第二の溶剤の含有量を削減することが考えられる。加熱蒸留による溶媒置換を行うのであれば、第二の溶剤の沸点は180℃以下、又は150℃以下であってもよい。また、前記第一の溶剤の沸点は、第二の溶剤の沸点よりも高いものであり、150℃超又は180℃超であってもよい。
【0057】
本発明に用いられる第二の溶剤の粘度としては、0.1mPa・s以上、0.2mPa・s以上、0.3mPa・s以上、0.5mPa・s以上、0.8mPa・s以上、又は1.0mPa・s以上であってもよく、この粘度は、10mPa・s以下、5.0mPa・s以下、3.0mPa・s以下、2.0mPa・s以下、1.5mPa・s以下、又は1.0mPa・s以下であってもよい。
【0058】
(鉱物油)
本発明のインキでは、インキの乾燥性、被印刷物への浸透性などを考慮して、溶剤として鉱物油を含んでもよい。鉱物油としては、スピンドル油、マシン油、白灯油、非芳香族系石油溶剤などが挙げられる。特に、鉱物油は、水と相溶せず、かつ180℃以上の沸点を有する非芳香族系石油溶剤であることが好ましい。非芳香族系石油溶剤の沸点は、200℃以上であることが好ましい。非芳香族系石油溶剤としては、例えば、n−ドデカン鉱油などが挙げられる。非芳香族系石油溶剤の具体例としては、0号ソルベント、AFソルベント5号、AFソルベント6号、AFソルベント7号(いずれも新日本石油株式会社製)などが挙げられる。
【0059】
〔樹脂〕
本発明に使用される樹脂としては、印刷に使用されている既知の樹脂を使用してよい。例えば、油性インキに含まれる樹脂、又はUVインキに含まれる樹脂を使用してよい。
【0060】
樹脂は、天然樹脂又は合成樹脂でよい。樹脂は、ホモポリマー又はコポリマーでよい。油性インキの粘性を確保するためには、樹脂が固形であることが好ましい。樹脂をUVインキ用バインダーとして使用するときには、樹脂の重量平均分子量は、約1000〜約3,000,000であることが好ましい。
【0061】
天然樹脂としては、例えば、松脂、琥珀、シェラック、ギルソナイトなどが挙げられる。一般に、天然樹脂は、不揮発性成分として、樹脂酸を含む。樹脂酸としては、例えば、アビエチン酸、ネオアビエチン酸、バラストリン酸、ピマール酸、イソピマール酸、デヒドロアビエチン酸、シェロール酸、アロイリチン酸などが挙げられる。
【0062】
合成樹脂としては、例えば、ロジン、フェノール樹脂、変性アルキド樹脂、ポリエステル樹脂、石油樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂等のマレイン酸樹脂、環化ゴム、及びその他の合成樹脂が挙げられる。
【0063】
ロジンは、松脂の精製により得られ、ガムロジン、ウッドロジン及びトール油ロジンの3種類に大別される。一般に、ロジンは、70〜80℃の軟化点及び170〜180の酸価を有する。ロジンは改質されていてもよい。
【0064】
フェノール樹脂は、フェノールとアルデヒドとの縮合により得られる樹脂であり、ノボラック型樹脂、レゾール型樹脂、100%フェノール樹脂及び変性フェノール樹脂の4種類に大別される。ビヒクルの耐性を考慮すると、100%フェノール樹脂又は変性フェノール樹脂が好ましい。
【0065】
100%フェノール樹脂は、アルキルフェノールとホルムアルデヒドを酸又はアルカリ触媒の存在下で縮合させることにより得られる樹脂である。
【0066】
変性フェノール樹脂は、フェノールとホルマリンの縮合物を、ロジン、ロジンエステル、乾性油などの変性成分と反応させることにより得られる樹脂である。特に、変性成分としてロジンを使用した変性フェノール樹脂は、ロジン変性フェノール樹脂と呼ばれ、一般にオフセット印刷インキに使用される。
【0067】
インキの耐水性、セット性、タック性又は顔料分散性を調整するために、ロジン変性フェノール樹脂は、5〜40の酸価及び/又は130〜190℃の軟化点を有することが好ましい。
【0068】
変性アルキド樹脂は、多塩基酸と多価アルコールとの縮合物を、脂肪酸、ロジン、乾性油、半乾性油などの変性成分と反応させることにより得られる樹脂である。
【0069】
多塩基酸としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。脂肪酸としては、アマニ油、脱水ヒマシ油、大豆油などが挙げられる。
【0070】
変性アルキド樹脂の具体例としては、フェノール変性アルキド樹脂、エポキシ変性アルキド樹脂、ウレタン変性アルキド樹脂、シリコーン変性アルキド樹脂、アクリル変性アルキド樹脂、ビニル変性アルキド樹脂、中和酸アルキド樹脂などが挙げられる。
【0071】
ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸とポリアルコールとの重縮合体である。ポリエステル樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどが挙げられる。
【0072】
石油樹脂は、炭素数が5以上である不飽和オレフィンを重合することにより得られる樹脂である。一般に、石油樹脂は、80〜130℃の軟化点を有する。
【0073】
ロジン変性マレイン酸樹脂は、ロジンと無水マレイン酸と多価アルコールを反応させることにより得られる樹脂である。多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。ロジン変性マレイン酸樹脂は、80〜140℃の軟化点及び/又は15〜200の酸価を有することが好ましい。
【0074】
環化ゴムは、天然ゴムを塩化スズで処理することにより得られる樹脂である。環化ゴムは、120〜140℃の軟化点を有し、乾性油又は溶剤との溶解性に優れる。
【0075】
その他の合成樹脂としては、例えば、ジアリルフタレートポリマー、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリエステル−メラミンポリマー、スチレン−(メタ)アクリル酸コポリマー、スチレン−(メタ)アクリル酸−アルキル(メタ)アクリレートコポリマー、スチレン−マレイン酸コポリマー、スチレン−マレイン酸−アルキル(メタ)アクリレートコポリマー、スチレン−マレイン酸半エステルコポリマー、ビニルナフタレン−(メタ)アクリル酸コポリマー、ビニルナフタレン−マレイン酸コポリマー、及びそれらの塩などが挙げられる。
【0076】
上記で列挙した樹脂は、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて使用されることができる。
【0077】
〔光重合成分〕
本発明に使用される光重合成分は、モノマー、オリゴマー、光重合開始剤等を含む。
【0078】
(モノマー・オリゴマー)
モノマーは、従来から光重合に使用されていたエチレン性不飽和結合を有する化合物でよい。また、オリゴマーは、エチレン性不飽和結合を有する化合物を、オリゴマー化することにより得られる。
【0079】
オリゴマーは、UVインキの基本物性を支配する樹脂である。一方で、モノマーは、主に希釈剤として作用し、インキの粘度、硬化性、接着性などの性質を調整するために使用されることができる。
【0080】
エチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、(メタ)アクリル酸系化合物;マレイン酸系化合物;ウレタン系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリオール系、植物油系化合物等で変性したエチレン性不飽和二重結合を有する化合物などが挙げられる。
【0081】
具体的には、エチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、アクリル化されたアミン、アクリル飽和樹脂及びアクリルアクリレート、ビスフェノールA型エポキシ(メタ)アクリレートの酸無水物付加アクリレート、フェノールノボラックエポキシ(メタ)アクリレートの酸無水物付加アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート又はジペンタエリスリトールヘキサアクリレートの酸無水物付加アクリレート等の水酸基を有するアクリレートに酸無水物を付加させたカルボキシル基を有するアクリレート、水酸基を有するウレタンアクリレートに酸無水物を付加させたカルボキシル基を有するアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、ポリグリセリンエポキシアクリレート、ポリグリセリンポリアクリレート等の水溶性アクリレート、アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。
【0082】
これらの中でも、樹脂と相溶し、かつ親油性の高いエチレン性不飽和結合を有する化合物が好ましく、例えば、炭素数が6〜24の長鎖アルキル基を有するエチレン性不飽和結合を有する化合物、ポリブチレングリコール変性されたエチレン性不飽和結合を有する化合物、植物油変性されたエチレン性不飽和結合を有する化合物などが好ましい。
【0083】
(光重合開始剤)
光重合開始剤は、紫外線照射によって活性酸素等のラジカルを発生する化合物である。本発明のインキには、印刷に使用されている既知の光重合開始剤を含有させてよい。
【0084】
光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン、α−アミノアセトフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、p−ジメチルアミノアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル)ケトン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノンなどのアセトフェノン類;ベイゾイン、ベイゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾイン−n−プロピルエーテル、ベイゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインジメチルケタール、ベンゾインパーオキサイドなどのベンゾイン類;2,4,6−トリメトキシベンゾインジフェニルホスフィンオキサイドなどのアシルホフィンオキサイド類;ベンジル及びメチルフェニル−グリオキシエステル;ベンゾフェノン、メチル−4−フェニルベンゾフェノン、o−ベンゾイルベンゾエート、2−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4’−メチル−ジフェニルスルフィド、アクリル−ベンゾフェノン、3,3’4,4’−テトラ(t−ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’−ジメチル−4−メトキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントンなどのチオキサントン類;ミヒラーケトン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノンなどのアミノベンゾフェノン類;テトラメチルチウラムモノスルフィド;アゾビスイソブチロニトリル;ジ−tert−ブチルパーオキサイド;10−ブチル−2−クロロアクリドン;2−エチルアントラキノン;9,10−フェナントレンキノン;カンファキノンなどが挙げられる。
【0085】
また、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルなどの光重合開始助剤を上記光重合開始剤と併用してもよい。
【0086】
[補助剤]
本発明のインキには、印刷に使用されている既知の補助剤、例えば、分散剤、架橋剤、乾燥促進剤、ワックス、体質顔料、及びその他の添加剤を含有させてよい。本発明のインキには、補助剤として、第一の溶剤に可溶な脂肪酸を構造中に有する分散剤を含有させることが好ましい。
【0087】
〔分散剤〕
赤外線吸収性材料微粒子をビヒクルに分散させるための分散剤は、第一の溶剤に可溶であり、かつ赤外線吸収性材料微粒子を分散可能であれば限定されない。特に、第一の溶剤に可溶な脂肪酸の構造を有する分散剤を用いると、第一の溶剤において赤外線吸収性材料微粒子の分散安定性に優れるため好ましい。
【0088】
赤外線吸収性材料微粒子以外の着色剤をビヒクルに分散させるために、第一の溶剤に可溶な脂肪酸を構造中に有する分散剤以外の分散剤、例えば、着色剤の顔料骨格から誘導される化合物等を使用してよい。
【0089】
尚、本発明に係る分散剤の添加量は、赤外線吸収性材料微粒子100重量部に対して、30重量部以上であることが好ましい。市販の分散剤を用いる場合には、当該分散剤がオフセット印刷用のゴム製のブランケットを溶解する可能性のある溶剤を含有していないことが好ましい。従って、分散剤中の不揮発分の含有量(180℃、20分間加熱後)は高いことが好ましく、例えば95%以上であることが好ましい。
【0090】
〔架橋剤〕
架橋剤又はゲル化剤は、上記樹脂を架橋又はゲル化させるために、ビヒクルに加えられることができる。
【0091】
架橋剤としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネートなどのイソシアネート化合物;トリメチロールプロパン−トリス−β−N−アジリジニルプロピオネート、ペンタエリスリトールプロパン−トリス−β−N−アジリジニルプロピオネートなどのアジリジン化合物;グリセロールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテルなどのエポキシ化合物;アルミニウムトリイソプロポキシド、モノ−sec−ブトキシアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリ−sec−ブトキシド、エチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド、アルミニウムトリスエチルアセトアセテートなどのアルミニウムアルコラート類;アルミニウムキレート化合物などのアルミニウムキレートなどが挙げられる。
【0092】
〔乾燥促進剤〕
乾燥促進剤としては、例えば、第一の溶剤に含まれる脂肪酸の金属塩、有機カルボン酸の金属塩、無機酸の金属塩などが挙げられる。
【0093】
乾燥促進剤を形成するための有機カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、イソペンタン酸、ヘキサン酸、2−エチル酪酸、ナフテン酸、オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、2−エチルヘキサン酸、イソオクタン酸、イソノナン酸、ラウリル酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、ネオデカン酸、バーサチック酸、セカノイック酸、トール油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ジメチルヘキサノイック酸、3,5,5−トリメチルヘキサノイック酸、ジメチルオクタノイック酸などが挙げられる。
【0094】
有機カルボン酸は、乾性油又は半乾性油に含まれる脂肪酸であることが好ましい。また、乾燥促進剤を液体ドライヤーとして使用するときには、有機カルボン酸は、ナフテン酸であることが好ましい。一方で、乾燥促進剤をペーストドライヤーとして使用するときには、有機カルボン酸は、酢酸であることが好ましい。
【0095】
無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸などが挙げられる。乾燥促進剤をペーストドライヤーとして使用するときには、無機酸は、ホウ酸であることが好ましい。
【0096】
上記酸の金属塩を形成するための金属としては、例えば、カルシウム、コバルト、鉛、鉄、マンガン、亜鉛、バナジウム、セリウム、ジルコニウム、ナトリウムなどが挙げられる。
【0097】
〔ワックス〕
ワックスは、印刷面の擦傷を防ぐための補助剤である。具体的には、ワックスは、インキ被膜の表面に耐摩擦性、ブロッキング防止性、スベリ性、スリキズ防止性などの性質を付与することができる。本発明のインキには、印刷に使用されている既知のワックスを含有させてよい。
【0098】
ワックスとしては、例えば、カルナバワックス、木ろう、ラノリン、モンタンワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの天然ワックス;フィッシャートロプスワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、ポリテトラフルオロエチレンワックス、ポリアミドワックス、シリコーン化合物などの合成ワックス;合成ワックスのフッ素化物などが挙げられる。
【0099】
〔体質顔料〕
体質顔料は、インキの粘度を調整するために使用される顔料であり、屈折率が小さく、かつ着色力が低い。したがって、体質顔料は、インキの粘度が高く、拭きが困難な場合に使用されることが好ましい。本発明のインキには、印刷に使用されている既知の体質顔料を含有させてよい。
【0100】
体質顔料としては、例えば、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、カオリン、タルク、シリカ、コーン澱粉、二酸化チタン、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0101】
〔その他の添加剤〕
本発明のインキには、所望により、フェノチアジン、t−ブチルヒドロキシトルエンなどの重合禁止剤;乾燥抑制剤;酸化防止剤;整面助剤;裏移り防止剤;又は非イオン系界面活性剤などの界面活性剤を含有させてよい。
【0102】
[着色剤]
着色剤は、インキに色を付ける成分である。本発明のインキには、上記で説明した複合タングステン酸化物又はマグネリ層を有するタングステン酸化物に加えて、印刷に使用されている既知の着色剤を含有させてよい。着色剤としては、例えば、無機顔料、有機顔料、染料、トナー用有機色素などが挙げられる。
【0103】
無機顔料としては、例えば、黄鉛、亜鉛黄、紺青、硫酸バリウム、カドミウムレッド、酸化チタン、亜鉛華、アルミナホワイト、炭酸カルシウム、群青、グラファイト、アルミニウム粉、ベンガラ、バリウムフェライト、銅と亜鉛の合金粉、ガラス粉、カーボンブラックなどが挙げられる。
【0104】
有機顔料としては、例えば、β−ナフトール系顔料、β−オキシナフトエ酸系顔料、β−オキシナフトエ酸系アニリド系顔料、アセト酢酸アニリド系顔料、ピラゾロン系顔料などの溶性アゾ顔料;β−ナフトール系顔料、β−オキシナフトエ酸アニリド系顔料、アセト酢酸アニリド系モノアゾ、アセト酢酸アニリド系ジスアゾ、ピラゾロン系顔料などの不溶性アゾ顔料;銅フタロシアニンブルー、ハロゲン化(例えば、塩素又は臭素化)銅フタロシアニンブルー、スルホン化銅フタロシアニンブルー、金属フリーフタロシアニンなどのフタロシアニン系顔料;キナクリドン系顔料、ジオキサジン系顔料、スレン系顔料(ピラントロン、アントアントロン、インダントロン、アントラピリミジン、フラバントロン、チオインジゴ、アントラキノン、ペリノン、ペリレンなど)、イソインドリノン系顔料、金属錯体系顔料、キノフタロン系顔料などの多環式又は複素環式顔料等が挙げられる。
【0105】
ここで、有機顔料は、レーキ顔料を含むものとする。一般に、レーキ顔料は、染料を無機顔料又は体質顔料に染め付けることにより得られるものであり、無機顔料又は体質顔料の水不溶性に応じて、レーキ顔料も水不溶性を有する。レーキ顔料としては、例えば、BASF社から入手可能なファナル(FANAL、登録商標)カラーシリーズなどが挙げられる。
【0106】
染料としては、例えば、アゾ染料、アゾ染料とクロムの錯塩、アントラキノン染料、インジゴ染料、フタロシアニン染料、キサンテン系染料、チアジン系染料等が挙げられる。
【0107】
トナー用有機色素は、トナーに含有させることができる有機色素であり、着色剤の一般的な特性に加えて帯電性を有する。トナー用有機色素としては、染料又は有機顔料を使用してよいが、透明性及び着色力の観点から染料が好ましい。
【0108】
さらに、上記で説明した着色剤以外に、機能性顔料、機能性染料などの他の機能性材料を、本発明に使用されるインキに配合してもよい。ここで、機能性材料は、無機でも有機でもよく、またインキに機能性を付与する添加剤でもよい。
【0109】
機能性材料としては、例えば、クロミック材料、磁性顔料、紫外線吸収剤、光学可変材料、パール顔料などが挙げられる。一般に、クロミック材料は、光・熱・電気などのエネルギーに反応して呈色し、かつ該エネルギーが遮られるか、又は失われると、退色する材料である。クロミック材料としては、例えば、蛍光顔料、励起発光顔料、感温変色材料、フォトクロミック材料、応力発光体などが挙げられる。
【0110】
上記で列挙した着色剤は、それぞれ単独で、又は2種類以上を併用して、使用されることができる。
【0111】
<赤外線吸収性インキの組成及び粘度>
赤外線吸収性インキ中の赤外線吸収性材料微粒子の含有量は、1.0質量%以上、1.8質量%以上、2.5質量%以上、又は3.0質量%以上であることが好ましく、この含有量は、45質量%以下、37.5質量%以下、25質量%以下、20質量%以下、15質量%以下、9.0質量%以下、又は8.0質量%以下であることが好ましい。
【0112】
赤外線吸収性インキ中の分散剤の含有量は、0.25質量%以上、0.5質量%以上又は1.0質量%以上であることが好ましく、この含有量は、13質量%以下、10質量%以下、又は8質量%以下であることが好ましい。
【0113】
赤外線吸収性インキの粘度は、0.002Pa・s以上、0.02Pa・s以上、0.2Pa・s以上、2Pa・s以上、又は5Pa・s以上であってもよく、この粘度は、200Pa・s以下、150Pa・s以下、又は100Pa・s以下であってもよい。
【0114】
ビヒクルとしての溶剤、樹脂及び光重合成分は、赤外線吸収性インキの粘度が0.002Pa・s〜200Pa・sになる量で、それぞれ赤外線吸収性インキに含まれてよい。しかしながら、赤外線吸収性インキが第一の溶剤及び第二の溶剤を含む場合には、赤外線吸収性インキ中の第二の溶剤の含有量は、分散剤の有無によらず、2質量%以下である。
【0115】
赤外線吸収性インキが油性インキである場合には、油性インキに含まれる各成分の配合比率は、油性インキの粘度を約5〜100Pa・sに調整したときに、赤外線吸収性材料微粒子が1.0〜45質量%であり、ビヒクルが20〜85質量%であり、着色剤が0〜20質量%であり、補助剤が0.25〜25質量%である。
【0116】
赤外線吸収性インキが油性・UV併用インキである場合には、油性・UV併用インキに含まれる各成分の配合比率は、油性・UV併用インキの粘度を数百Pa・sに調整したときに、溶剤及び樹脂を含む油性インキ用ビヒクルが25〜50質量%であり、樹脂及び光重合成分を含むUVインキ用ビヒクルが25〜50質量%であり、赤外線吸収性材料微粒子が1.0〜45質量%であり、着色剤が0〜20質量%であり、かつ補助剤が0.25〜20質量%である。
【0117】
<赤外線吸収性インキの製造方法>
本発明のインキを製造する方法の態様は、以下のステップを含む:
(a)赤外線吸収性材料微粒子を溶剤に分散して、分散体を得るステップ;及び
(b)上記分散体をビヒクルと混合してインキを得るステップ。
【0118】
ステップ(a)を行う方法は、赤外線吸収性材料微粒子を溶剤に均一に分散する方法であればよく、任意の分散方法から選択できる。具体的には、ステップ(a)は、ビーズミル、ボールミル等の湿式媒体ミルにより行なわれることが好ましい。
【0119】
ステップ(b)は、ステップ(a)で得られた分散体にビヒクル成分として樹脂を加え、必要に応じて、赤外線吸収性材料微粒子、溶剤等のビヒクル成分、補助剤、及び着色剤から成る群から選択される少なくとも1つを加え、さらに必要に応じて分散して、インキの最終組成、粘度、色調又は乾燥度を調整するために行われる。ステップ(b)において、混合物又は分散体に光重合成分を加え、所望により、その他の材料も加えて、本発明の油性・UV併用インキを得てもよい。赤外線吸収性インキに含まれる各成分は、ステップ(b)により、最終的に所望の配合比率に調整されることができる。ステップ(b)は、ミキサー、練肉機(ink mill)等により行なわれることができる。
【0120】
ステップ(a)により得られる分散体は、後述する赤外線吸収性微粒子分散液であることが好ましい。
【0121】
[赤外線吸収性微粒子分散液]
赤外線吸収性微粒子分散液は、赤外線吸収性材料微粒子と、第一の溶剤と、第二の溶剤と、を含み、かつ赤外線吸収性微粒子分散液中の第二の溶剤の含有量が5.0質量%以下である。
【0122】
赤外線吸収性微粒子分散液に含まれる赤外線吸収性材料微粒子、第一の溶剤、及び第二の溶剤は、本発明の赤外線吸収性インキについて上記で説明された赤外線吸収性材料微粒子、第一の溶剤及び第二の溶剤とそれぞれ対応する。
【0123】
第一の溶剤は粘度が高いため、ステップ(a)において、第一の溶剤中で赤外線吸収性材料微粒子を分散処理することが困難なことがある。第一の溶剤が、例えば桐油のように、180mPa・s以上の粘度(24℃)を有するときには、第一の溶剤のみに赤外線吸収性材料微粒子を分散することは困難である。したがって、赤外線吸収性微粒子分散液は、具体的には、後述される赤外線吸収性微粒子分散液の製造方法(A)又は(B)により製造されることが好ましい。
【0124】
〔赤外線吸収性微粒子分散液の製造方法(A)〕
赤外線吸収性微粒子分散液の製造方法(A)は、以下のステップを以下の順序で含む:
(A−1)赤外線吸収性材料微粒子を第二の溶剤へ混合し、湿式媒体ミルで分散処理して、第一の分散液を得るステップ;
(A−2)第一の分散液へ、第一の溶剤を添加し、混合して、第二の分散液を得るステップ;及び
(A−3)第二の分散液から、第二の溶剤の含有量が5.0質量%以下となるまで、第二の溶剤を除去するステップ。
【0125】
ステップ(A−1)を行う方法は、赤外線吸収性材料微粒子を第二の溶剤に均一に分散する方法である限り、任意に選択されることができる。具体的には、ビーズミル、ボールミル等の湿式媒体ミルを用いることが好ましい。なお、前記第二の溶剤の沸点は、180℃以下であり、好ましくは150℃以下である。
【0126】
前記第一の分散液中における赤外線吸収性材料微粒子の濃度が5質量%以上あれば、後述する印刷インキを製造する際の生産性に優れる。一方、赤外線吸収性材料微粒子の濃度が60質量%以下であれば、第一の分散液の粘度が高くならず、赤外線吸収性材料微粒子の粉砕及び分散操作が容易である。このような観点から、第一の分散液中の赤外線吸収性材料微粒子の含有量は、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上又は25質量%以上であることが好ましく、この含有量は、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、58質量%以下、56質量%以下、54質量%以下又は52質量%以下であることが好ましい。
【0127】
ステップ(A−2)では、第一の溶剤及び第二の溶剤として、互いに相溶するものを選択しておくことが好ましい。ステップ(A−2)では、第一の分散液に含まれる赤外線吸収性材料微粒子100重量部に対して、2.5重量部以上の第一の溶剤を使用すると、最終的に得られる赤外線吸収性微粒子分散液の流動性が保たれ、かつ回収が容易となり、生産性が保たれるので好ましい。なお、前記第一の溶剤は、その沸点が第二の溶剤の沸点よりも高いものであり、好ましくは150℃以上又は180℃以上である。
【0128】
一方、ステップ(A−2)では、第一の分散液に含まれる赤外線吸収性材料微粒子100重量部に対して、270重量部以下の第一の溶剤を使用することが、最終的に得られる赤外線吸収性微粒子分散液中の赤外線吸収性材料微粒子の濃度が担保されるので好ましい。そのため、例えばオフセット印刷インキへ、赤外線吸収性微粒子分散液を過剰に添加する事態を回避でき、インキの粘度を担保できる。この結果、インキの粘度が大きく変化することはなくなり、粘度調整が不要であり、工程が単純化し、かつ製造コストの増加を回避できる。
【0129】
以上の観点から、ステップ(A−2)における第一の分散液と第一の溶剤との混合時には、第一の分散液に含まれる赤外線吸収性材料微粒子100重量部に対して、第一の溶剤が2.5〜270重量部であることが好ましく、より好ましくは70〜270重量部であり、さらに好ましくは92〜204重量部である。
【0130】
ステップ(A−2)において第一及び第二の分散液の粘度の上昇をさらに抑制したい場合は、第一及び/又は第二の分散液へ、上述した分散剤を添加することも好ましい。その場合、分散剤は、以下の方法により第一及び/又は第二の分散液へ添加されてよい:
分散剤を予め第二の溶剤に添加しておく方法、
分散剤を予め第一の溶剤に添加して分散剤溶液を得ておき、その分散剤溶液を第一の分散液に添加する方法、又は
第一の分散液に対する第一の溶剤の添加と並行して、分散剤を第一の分散液に添加する方法。
なお、分散剤を予め第二の溶剤に添加しておく方法を用いる場合には、第二の溶剤に可溶な分散剤を選択する。
【0131】
ステップ(A−3)は、第一の溶剤と第二の溶剤の沸点の差を用いた加熱蒸留法により行なわれることができる。さらに、減圧操作も加えた減圧加熱蒸留は、安全性、エネルギーコスト、及び品質の安定化の観点から好ましい。
【0132】
〔赤外線吸収性微粒子分散液の製造方法(B)〕
赤外線吸収性微粒子分散液の製造方法(B)は、以下のステップを以下の順序で含む:
(B−1)第一の溶剤と第二の溶剤とを混合して、混合溶剤を得る工程;
(B−2)赤外線吸収性材料微粒子を、前記混合溶剤へ混合し、分散処理して、好ましくは湿式媒体ミルで分散処理して、第三の分散液を得る工程;及び
(B−3)前記第三の分散液から、前記第二の溶剤の含有量が5.0質量%以下となるまで、前記第二の溶剤を除去する工程。
【0133】
ステップ(B−1)では、第一の溶剤の一種以上と第二の溶剤の一種以上とを混合する。第一の溶剤及び第二の溶剤として、互いに相溶するものを選択することが好ましい。
【0134】
ステップ(B−2)を行う方法は、赤外線吸収性材料微粒子を混合溶剤に均一に分散する方法である限り、任意に選択されることができる。具体的には、ビーズミル、ボールミル等の湿式媒体ミルを用いることが好ましい。
【0135】
前記第三の分散液中における赤外線吸収性材料微粒子の濃度が5質量%以上あれば、後述する印刷インキを製造する際に生産性に優れる。一方、赤外線吸収性材料微粒子の濃度が60質量%以下であれば、第三の分散液の粘度が高くならず、赤外線吸収性材料微粒子の粉砕及び分散操作が容易である。このような観点から、第3の分散液中の赤外線吸収性材料微粒子の含有量は、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上又は25質量%以上であることが好ましく、この含有量は、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、58質量%以下、56質量%以下、54質量%以下又は52質量%以下であることが好ましい。
【0136】
ステップ(B−2)中又はステップ(B−2)後に、赤外線吸収性材料微粒子を含む混合溶剤の粘度の上昇をさらに抑制したい場合には、上述した分散剤を添加することも好ましい。その場合、分散操作の前に前記混合溶剤へ分散剤を加えておけばよい。
【0137】
ステップ(B−3)は、第一の溶剤と第二の溶剤の沸点の差を用いた加熱蒸留法により行なわれることができる。さらに、減圧操作も加えた減圧加熱蒸留法は、安全性、エネルギーコスト、及び品質の安定化の観点から好ましい。
【0138】
具体的には、減圧加熱蒸留法では、前記第二の分散液又は前記第三の分散液を撹拌しながら減圧して蒸留し、当該第三の分散液から前記第二の溶剤を分離する。減圧加熱蒸留法に用いる装置としては、真空撹拌型の乾燥機が挙げられるが、上記機能を有する装置であればよく、特に限定されない。
【0139】
加熱蒸留の際の温度は、35℃以上、40℃以上、又は60℃以上が好ましく、この温度は、200℃以下、150℃以下、又は120℃以下であることが好ましい。加熱蒸留の際の温度が35℃以上あれば、溶剤の除去速度を担保できる。加熱蒸留の際の温度が200℃以下であれば、分散剤の変質を回避できる。
【0140】
加熱蒸留操作と減圧操作を併用する場合には、真空度は、好ましくはゲージ圧で−0.05MPa以下、より好ましくは−0.06MPa以下である。ゲージ圧が−0.05MPa以下であると、溶剤の除去速度が速く、生産性が良い。
【0141】
上記の減圧加熱蒸留法を用いることによって、第二の溶剤の除去効率が向上すると共に、赤外線吸収性微粒子分散液が長時間に亘って高温に曝されることがないので、分散している赤外線吸収性材料微粒子の凝集又は第一の溶剤の劣化が起こらず、好ましい。さらに、上記の減圧加熱蒸留法を用いることによって、赤外線吸収性微粒子分散液の生産性も上がり、蒸発した有機溶剤を回収することも容易であるため、環境的配慮からも好ましい。
【0142】
〔赤外線吸収性微粒子分散液の組成及び粘度〕
上記で説明した製造方法(A)又は(B)により赤外線吸収性微粒子分散液が得られる。赤外線吸収性微粒子分散液中の赤外線吸収性材料微粒子の最終的な濃度が高いほどインキの調製が容易であり好ましい。一方、この濃度が高くなりすぎると、赤外線吸収性微粒子分散液の流動性が低下する。したがって、製造方法(A)又は(B)において、製造された赤外線吸収性微粒子分散液は、回収できる程度の流動性があればよい。このような観点から、赤外線吸収性微粒子分散液中の赤外線吸収性材料微粒子の最終的な含有量は、5質量%以上、10質量%以上、15質量%以上、20質量%以上、又は25質量%以上であることが好ましく、この含有量は、75質量%以下、70質量%以下、65質量%以下、60質量%以下、58質量%以下、56質量%以下、54質量%以下、又は52質量%以下であることが好ましい。
【0143】
赤外線吸収性微粒子分散液中の赤外線吸収性材料微粒子の分散粒子径は、湿式媒体ミルの処理時間により、任意に制御されることができる。この処理時間を長くすることにより、赤外線吸収性材料微粒子の分散粒子径を小さくすることができる。
【0144】
赤外線吸収性微粒子分散液の粘度の下限値は、使用される第一の溶剤の粘度、すなわち植物油又は植物油由来の化合物の粘度に依存する。例えば、ヒマワリ油の粘度(24℃)は、50mPa・sであり、そしてアマニ油の粘度(24℃)は40mPa・sである。
【0145】
赤外線吸収性微粒子分散液の粘度の上限値は、赤外線吸収性材料微粒子の含有量に応じて任意に決定されてよいが、後述される印刷インキを製造するために適した粘度の上限値として、100Pa・s以下であることが好ましい。
【0146】
赤外線吸収性微粒子分散液には、さらにバインダーを添加してもよい。バインダーとしては、特に限定されないが、ビヒクルとして使用される樹脂、例えばポリアミド、ポリウレタン、ニトロセルロース、アクリル樹脂、マレイン酸樹脂、ロジン、改質ロジン等が挙げられる。
【0147】
<印刷インキ>
本発明の赤外線吸収性インキは、一般的な印刷インキとして使用されることができる。例えば、本発明の赤外線吸収性インキは、フレキソ印刷インキ、活版印刷インキ、オフセット印刷インキ、凹版印刷インキ、グラビア印刷インキ、スクリーン印刷インキ、インクジェット印刷インク等として使用されることができる。
【0148】
これらの中でも、印刷物の偽造を防止するために、本発明の赤外線吸収性インキは、オフセット印刷インキ、凹版印刷インキ又はスクリーン印刷インキとして使用されることが好ましい。なお、凹版印刷インキは、直刻版面又は食刻版面を用いる押圧印刷に使用されることができる。
【0149】
本発明の赤外線吸収性インキは、基材に印刷されることにより、印刷部を備える印刷物を提供することができる。基材としては、紙基材、例えば、上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、フォイル紙、再生紙、含浸紙、可変情報用紙等;フィルム基材、例えば、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、塩化ビニルフィルム、ポリイミドフィルム、可変情報用フィルム等;又は布基材、例えば、織布、不織布等を使用してよい。印刷物は、紙幣、有価証券、カード等でよい。
【0150】
本発明の印刷インキは、上記で説明した赤外線吸収性微粒子分散液を2〜50質量%含むことが好ましい。本発明の印刷インキは、上記で説明した第二の溶剤を2.0質量%以下含んでもよい。
【0151】
本発明のインキは赤外線吸収性を有するので、本発明の印刷インキを任意のパターンで印刷し、近赤外線判定機等で読み取ることにより、各種情報管理等に使用可能となる。
【0152】
例えば、本発明のインキを基材に印刷することにより得られた印刷物を、赤外線カメラなどの赤外光検知器で観察すると、本発明のインキが印刷された部分は、赤外線を吸収し、その他の部分よりも黒く表示されるので、赤外線吸収のコントラストを検知することができる。したがって、所定の赤外線吸収のコントラストと観察対象の赤外線吸収のコントラストとを比較することにより、印刷物の真贋を判定することができる。
【実施例】
【0153】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるわけではない。
本実施例に係る膜および印刷物の光学特性(透過率、反射率)は、特に言及する場合を除いて、分光光度計U−4000(株式会社日立製作所製)を用いて測定された。分光透過率の測定は、JIS R 3106に準拠して行われた。
【0154】
<赤外線吸収性微粒子分散液の作製>
(比較例1)
近赤外線吸収材料微粒子として、複合タングステン酸化物である六方晶Cs
0.33WO
3(a軸7.4075Å、c軸7.6127Å)を15.0質量%、アクリル系分散剤12.0質量%、トルエン(第二の溶剤)73.0質量%を混合し、0.3mmφのZrO
2ビーズを入れたペイントシェーカーで10時間粉砕・分散処理することによって複合タングステン酸化物微粒子分散液(以下、分散液C−1と略称する。)を調製した。
【0155】
分散液C−1内におけるタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を粒度分布計ELS−8000(大塚電子製)で測定したところ77nmであった。
【0156】
分散液C−1に含まれるトルエンはオフセット印刷機のゴムローラー(ニトリルブタジエンゴム)を溶解するため、分散液C−1をそのままオフセット印刷へ適用することは困難であると予想される。
【0157】
(実施例1)
赤外線吸性収材料微粒子として、比較例1と同様の複合タングステン酸化物である六方晶Cs
0.33WO
3を23質量%、構造中に脂肪酸を有する分散剤(不揮発分100%、以下、分散剤aと略称する。)11.5質量%、溶剤としてメチルイソブチルケトン(以下、MIBKと略称する。)65.5質量%を秤量した。
【0158】
これらの成分を、0.3mmφのZrO
2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、10時間粉砕・分散処理し、実施例1に係る近赤外線微粒子分散液(以下、分散液Aと略称する)を得た。
【0159】
さらに、分散液A100重量部へ桐油42.2重量部を混合添加し、それを撹拌型真空乾燥機(月島機械株式会社製ユニバーサルミキサー)を使用して、減圧操作も加えた加熱蒸留を80℃で1時間行い、MIBKを除去し、複合タングステン酸化物微粒子分散液(以下、分散液Bと略称する)を得た。
【0160】
ここで、分散液Bの残留MIBK量を乾式水分計で測定したところ、1.15質量%であった。分散液B中のタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を粒度分布計(大塚電子製)で測定したところ81nmであった。
【0161】
実施例1に係る分散液Bにオフセット印刷用ビヒクルを混合した後、三本ロールミルで常法により分散し、オフセット印刷インキを作製して、そのインキを用いて印刷物を作製した。その印刷物は、可視光波長領域では高い透過率を示し、近赤外光波長領域では透過率が顕著に低くなっている。この結果、実施例1で得られた分散液を用いたインキで作製した印刷物は、近赤外線判定機で判別可能であると考えられる。即ち、本発明に係る近赤外線微粒子分散液を用いることで、近赤外光波長領域の吸収能力を有し、かつコントラストが明確なオフセット印刷用インキを、容易に製造出来ることが判明した。
【0162】
(比較例2)
赤外線吸収性材料微粒子として、比較例1と同様の複合タングステン酸化物である六方晶Cs
0.33WO
3を23質量%、分散剤a11.5質量%、溶剤として沸点197℃のエチレングリコール(以下、E.G.と略称する。)65.5質量%を秤量した。
【0163】
これらの成分を、0.3mmφのZrO
2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、10時間粉砕・分散処理し比較例2に係る赤外線吸収性微粒子分散液(以下、分散液Cと略称する)を得た以外は、実施例1と同様にして、比較例2に係る複合タングステン酸化物微粒子分散液(以下、分散液Dと略称する)を得た。
【0164】
分散液Dの残留E.G.量を乾式水分計で測定したところ、34.21質量%であった。分散液D中におけるタングステン酸化物微粒子の分散粒子径を大塚電子製粒度分布計で測定したところ71nmであった。分散液DにはE.G.が多く含まれているので、一般的なインキ化処方に従って分散液Dからインキを得ても、そのインキを硬化することができないと予想される。
【0165】
(比較例3)
赤外線吸収性材料微粒子として、比較例1と同様の複合タングステン酸化物である六方晶Cs
0.33WO
3を23質量%、分散剤a11.5質量%、溶剤として桐油(第一の溶剤)65.5質量%を秤量した。
【0166】
これらの成分を、0.3mmφのZrO
2ビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、40時間粉砕・分散処理したが、第二の溶剤に分散させることなく、最初から第一の溶剤に赤外線吸収性材料微粒子を添加したので、粘度が高かったため粉砕性が悪く近赤外線微粒子分散液は得られなかった。
【0167】
<赤外線吸収性インキの作製>
[実施例2〜9]
(赤外線吸収性微粒子分散液の作製)
赤外線吸収性微粒子分散液が下記組成を有すること以外は、実施例1と同様にして、赤外線吸収性微粒子分散液を得た:
六方晶Cs
0.33WO
3:50質量%
ヒマワリ油:22質量%
分散剤a:25質量%
プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA):3質量%
【0168】
(油性オフセット印刷インキの作製)
表1に示される組成に従って、ベストワンGIGAメジウム(T&KTOKA)に上記赤外線吸収性微粒子分散液を混合した後、三本ロールミルで常法により分散して、実施例2〜5の油性オフセット印刷インキを作製した。
【0169】
(油性・UV併用オフセット印刷インキの作製)
表1に示される組成に従って、ベストワンGIGAメジウム(T&KTOKA)及びUV BF 無変色 メジウム(T&KTOKA)に上記赤外線吸収性微粒子分散液を混合した後、三本ロールミルで常法により分散して、実施例6〜9の油性・UV併用オフセット印刷インキを作製した。
【0170】
【表1】
【0171】
[比較例4〜7]
市販のATO(ELCOM(登録商標) P−特殊品、日揮触媒化成株式会社)をベストワンGIGAメジウム(T&KTOKA)に分散して、比較例4〜7について、それぞれインキ中のATO含有量が5質量%、7.5質量%、10質量%及び15質量%であるATO含有油性オフセット印刷インキを得た。
【0172】
(オフセット印刷インキの赤外線吸収効果)
実施例2〜9及び比較例4〜7のオフセット印刷インキをそれぞれ使用して、枚葉オフセット印刷機(RYOBI製)で上質紙(しらおい上質紙、日本製紙)に印刷し、乾燥させて12種類の印刷物を得た。実施例2〜9のオフセット印刷インキを用いてオフセット印刷を行なった結果、印刷機のゴム製ブランケットが溶解していなかったことを確認した。
【0173】
実施例2〜9のオフセット印刷インキを使用して得られた8種類の印刷物を赤外線カメラ(ANMO社製Dino−Lite Pro)を用いて観察したところ、オフセット印刷インキの印刷面は、赤外光を吸収するために黒く見えたのに対して、オフセット印刷インキを印刷していない面(例えば、原紙部分、一般プロセスインキの印刷部分など)は、赤外線を透過又は反射するために、白く見えた。
【0174】
実施例2及び3のオフセット印刷インキと比較例4〜7のオフセット印刷インキを使用して得られた印刷物について、反射率測定の結果を
図1に示す。
【0175】
図1に示される352nm〜1600nmの波長において反射率を対比すると、複合タングステン酸化物を含む実施例2及び3のインキ印刷物は、市販のATOを含む比較例4〜7のインキ印刷物よりも、可視光波長域と赤外線波長域のコントラスト、特に、可視光波長域と近赤外線波長域のコントラストが明確であることが分かる。
【0176】
〔オフセット印刷インキの色調と赤外線吸収性の関係〕
以下に示される基材及びインキを用意した:
基材:一般紙(王子製紙株式会社製 OKプリンス上質 斤量90kg)
プロセスインキ(3色):
藍色(C):スーパーテックGTシリーズ 藍(株式会社T&K TOKA製)
紅色(M):スーパーテックGTシリーズ 紅(株式会社T&K TOKA製)
黄色(Y):スーパーテックGTシリーズ 黄(株式会社T&K TOKA製)
【0177】
以下の印刷サンプル作製条件に従って、基材に上記3色のプロセスインキをそれぞれ印刷して、それぞれの色に対応した3種類の印刷サンプルを得た:
(印刷サンプル作製条件)
印刷機:オフセット印刷機 RIテスター(株式会社IHI機械システム製)
インキ盛量:0.125cc
インキ膜厚:約1μm
【0178】
以下の測定条件に従って、3種類の印刷サンプルの光反射率を測定した:
(測定条件)
測定装置:紫外可視分光光度計 U−4000 (株式会社日立製作所製)
測定項目:反射率(%)
測定波長:350〜2500nm
【0179】
藍(C)、紅(M)及び黄(Y)プロセスインキについて、350〜1500nmの波長域における反射率を
図2に示す。
【0180】
図2に示されるCMYプロセスインキの反射率グラフと、
図1に示される実施例2及び3の反射率グラフとを組み合わせることにより、本発明の赤外線吸収性インキを一般的な色インキとして使用したときの色調と赤外線吸収性の関係を予想できる。
【0181】
例えば、
図2では、紅及び黄プロセスインキが、赤外線波長域(780〜1100nm)の光を吸収していない。一方で、
図1に示される実施例2及び3の反射率グラフでは、可視光波長域(380nm〜780nm)の平均反射率よりも赤外線波長域の平均反射率が低いので、可視光よりも赤外光が吸収されていると考えられる。したがって、本発明の赤外線吸収性インキを紅又は黄インキとして使用すると、紅色又は黄色の色調に影響を与えることなく、インキに赤外線吸収性を付与できることが分かる。
【0182】
また、
図2から、藍プロセスインキが、赤外線波長域(780〜1100nm)の光を僅かに吸収していると考えることもできる。しかしながら、
図1において実施例2及び3の赤外線吸収インキが赤外光を吸収する割合と比べれば、藍プロセスインキが赤外光を吸収する割合は、考慮しなくてよいほど低い。したがって、本発明の赤外線吸収性インキを藍インキとして使用しても、藍色の色調に影響を与えることなく、インキに赤外線吸収性を付与できることが分かる。
【0183】
さらに、実施例2及び3の赤外線吸収インキは、着色剤を含まないので、オフセット印刷、凹版印刷等に適した特色インキ又は機能性インキと把握されることもできる。その場合、
図1に示される実施例2及び3の反射率グラフを、本発明の特色インキの光反射特性を表すグラフとして見なすことができる。