特許第6403940号(P6403940)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403940
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】圧粉磁心とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/24 20060101AFI20181001BHJP
   H01F 1/153 20060101ALI20181001BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20181001BHJP
   H01F 27/255 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   H01F1/24
   H01F1/153 158
   H01F41/02 D
   H01F27/255
【請求項の数】12
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-110376(P2013-110376)
(22)【出願日】2013年5月24日
(65)【公開番号】特開2014-229839(P2014-229839A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2016年5月13日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100081961
【弁理士】
【氏名又は名称】木内 光春
(72)【発明者】
【氏名】綱川 昌明
(72)【発明者】
【氏名】大島 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】赤岩 功太
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−177271(JP,A)
【文献】 特開平10−212503(JP,A)
【文献】 特開2006−176817(JP,A)
【文献】 特開2010−141183(JP,A)
【文献】 特開2011−038133(JP,A)
【文献】 特開2000−211946(JP,A)
【文献】 特開2010−018482(JP,A)
【文献】 特開2011−040473(JP,A)
【文献】 特開2009−032739(JP,A)
【文献】 特開2009−212385(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/014886(WO,A1)
【文献】 特表2013−516378(JP,A)
【文献】 特開2010−114222(JP,A)
【文献】 特開2011−054924(JP,A)
【文献】 特開2013−079412(JP,A)
【文献】 特開2002−170707(JP,A)
【文献】 特開2006−005173(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/22 − 1/24
H01F 1/153
H01F 27/255
H01F 41/02
B22F 3/00
B22F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非晶質軟磁性粉末と、転移点が前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度より低く、結晶化温度が前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度より高いガラス粉末とが混合されてなる圧粉磁心において、
前記ガラス粉末の転移点が、前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度と50℃以上差を有し、
前記ガラス粉末の結晶化温度が482℃以上495℃以下であり、前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度と50℃以下の差を有していることを特徴とする圧粉磁心。
【請求項2】
前記ガラス粉末の混合量が、前記非晶質軟磁性粉末の0.5wt%〜5wt%の範囲で
あることを特徴とする請求項1に記載の圧粉磁心。
【請求項3】
前記ガラス粉末の粒径が、0.5μm〜5μmであることを特徴とする請求項1又は請
求項2に記載の圧粉磁心。
【請求項4】
前記非晶質軟磁性粉末と前記ガラス粉末に加え、結着性樹脂が混合されていることを特
徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の圧粉磁心。
【請求項5】
前記結着性樹脂がメチルフェニル系シリコーン樹脂であることを特徴とする請求項4に
記載の圧粉磁心。
【請求項6】
非晶質軟磁性粉末と、転移点が前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度より低く、結晶化温度が前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度より高いガラス粉末とを混合し、加圧成形した後、前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度より低い温度で熱処理を行う圧粉磁心の製造方法において、
前記ガラス粉末の転移点が、前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度と50℃以上差を有し、かつ、前記ガラス粉末の結晶化温度が482℃以上495℃以下であり、前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度と50℃以下の差を有していることを特徴とする圧粉磁心の製造方法。
【請求項7】
前記熱処理は、熱処理温度が400℃以上440℃以下であることを特徴とする請求項6に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項8】
前記熱処理は、非還元雰囲気中で行うことを特徴とする請求項6又は請求項7に記載の
圧粉磁心の製造方法。
【請求項9】
前記ガラス粉末の混合量が、前記非晶質軟磁性粉末の0.5wt%〜5wt%の範囲で
あって、製造する圧粉磁心の透磁率に合わせてガラス粉末の混合量を決定することを特徴
とする請求項6から請求項8のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項10】
前記ガラス粉末の粒径が、0.5μm〜5μmであることを特徴とする請求項6から請
求項9のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項11】
前記非晶質軟磁性粉末と前記ガラス粉末を混合するに当たり、結着性樹脂を添加するこ
とを特徴とする請求項6から請求項10のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【請求項12】
前記非晶質軟磁性粉末とガラス粉末を混合するに当たり、潤滑性樹脂を添加することを
特徴とする請求項6から請求項11のいずれか1項に記載の圧粉磁心の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平滑用チョークコイル等に使用される圧粉磁心及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
スイッチング電源等の出力波形を平滑するために、チョークコイルが使用されている。各種電子機器の高性能化・多機能化に伴い、それに使用されるチョークコイルの磁心においても、大電流でも特性変化の小さいものが要求されている。具体的には、優れた直流重畳特性と低損失特性を有する磁心が求められている。この種の磁心としては、従来から、フェライト磁心や圧粉磁心が使用されている。中でも、非晶質軟磁性粉末(アモルファス軟磁性粉末)から作製された圧粉磁心は、直流重畳特性に優れ、損失が少ない特性を有している。
【0003】
これらの非晶質軟磁性粉末(以下、軟磁性粉末という)を用いて圧粉磁心とするためには、軟磁性粉末を低融点ガラスと結着性樹脂などと混合し、その混合物を常温あるいは高温下で圧縮成形した後、得られた成形体に対して熱処理を行う。特許文献1の方法は、成形時に、金型と軟磁性粉末を高温にして成形体を製造する。特許文献2の方法は、軟磁性粉末を低融点ガラスと結着性樹脂などと混合して、室温で成形体を製造する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−212503号公報
【特許文献2】特開2001−73062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2においては、ガラスの物性値や、それに基づく効果については詳細に書かれていない。製造された圧粉磁心の磁気特性も、透磁率のみしか評価しておらず、鉄損については全く述べていない。これらの従来技術においては、低損失・高強度な圧粉磁心を得ることはできなかった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、非晶質軟磁性粉末と、転移点が前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度より低く、結晶化温度が前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度より高いガラス粉末とが混合されてなる圧粉磁心において、前記ガラス粉末の転移点が、前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度と50℃以上差を有し、前記ガラス粉末の結晶化温度が482℃以上495℃以下であり、前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度と50℃以下の差を有していることを特徴とする。
【0007】
本発明において、ガラスの混合量が、非晶質軟磁性粉末の0.5wt%〜5wt%の範囲であって、製造する圧粉磁心の透磁率に合わせてガラスの混合量を決定することができる。非晶質軟磁性粉末とともに混合するガラス粉末の粒径は、0.5μm〜5μmとすることができる。また、非晶質軟磁性粉末とガラス粉末とともに結着性樹脂も混合することができ、その結着性樹脂をメチルフェニル系シリコーン樹脂とすることができる。非晶質軟磁性粉末とガラス粉末を混合するに当たり、潤滑性樹脂を添加しても良い。
【0008】
本発明は、非晶質軟磁性粉末と、転移点が前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度より低く、結晶化温度が前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度より高いガラス粉末とを混合し、加圧成形した後、前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度より低い温度で熱処理を行う圧粉磁心の製造方法において、前記ガラス粉末の転移点が、前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度と50℃以上差を有し、かつ、前記ガラス粉末の結晶化温度が482℃以上495℃以下であり、前記非晶質軟磁性粉末の結晶化温度と50℃以下の差を有していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
圧粉磁心の損失(コアロス)を低減するには、主に渦電流損失を低減すればよい。本発明によれば、磁性体粉末に低融点ガラスと結着性樹脂を混合し、磁性体粉末の周囲をガラスでコーティングすることにより、渦電流損失を低減し、低損失、高透磁率、直流重畳特性に優れ、かつ高強度な圧粉磁心を提供できる。特に、本発明では、磁性体粉末の結晶化温度を、ガラス粉末の転移点から50℃以上乖離し、かつ、ガラス粉末の結晶化温度から50℃以下の差に収めることで、ガラスの粘性低下及びガラスの流動性を利用して、熱処理後の成形体の強度向上を可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例における軟磁性粉末の結晶化温度と、ガラスの転移点および結晶化温度との乖離を示すグラフ。
図2】実施例における熱処理温度と透磁率との関係を示すグラフ。
図3】実施例における熱処理温度とコアロスとの関係を示すグラフ。
図4】実施例における直流重畳特性を示すグラフ。
図5】実施例における熱処理前のガラス粉末の状態の写真。
図6】実施例における熱処理後のガラス粉末の状態の写真。
図7】実施例における熱処理後の圧環強度の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(1)磁性体粉末
磁性体粉末としては、純鉄粉や非晶質軟磁性粉末(以下、単に「軟磁性粉末」という。
)が使用できる。軟磁性粉末としては、Fe系(Fe−Si−B―Cr系)の合金アトマイズ粉、粉砕粉が挙げられる。例えば、Fe系の合金粉末として、Si成分が6.7%、B成分が2.5%、Cr成分が2.5%、C成分が0.75%、残り成分がFeのものを使用できる。
【0012】
他に、軟磁性粉末としては、FeBPN(NはCu,Ag,Au,Pt,Pdから選ばれる1種以上の元素)が使用できる。軟磁性粉末は、水アトマイズ法、ガスアトマイズ法、水・ガスアトマイズ法により製造されるものを使用できるが、特に、水アトマイズ法によるものが好ましい。理由は、水アトマイズ法はアトマイズ時に急冷するため、結晶化しにくいからである。
【0013】
磁性体粉末の平均粒径は30〜100μmが好ましい。磁性体粉末の結晶化開始温度は、通常、約450℃前後である。磁性体粉末としては、ガラス転移温度Tgが結晶化温度Txより低く、過冷却液体領域を示す金属ガラスであることが望ましい。これは、金属ガラスとすることにより、結晶磁気異方性が抑制されるため、コア損失を抑制できるからである。磁歪が大きく、透磁率は外部応力の影響を受けやすい。
【0014】
(2)ガラス
ガラスは、ビスマス系、リン酸系、アルカリ系、バナジウム系の低融点ガラスを使用する。その他に、軟化点が磁性体粉末の結晶化温度以下のガラスを使用することができる。軟化点が磁性体粉末の結晶化温度以下のガラスを使用することで、ガラスが軟化する温度まで加熱した場合でも、磁性体粉末の結晶化による磁気特性の低減を防止することができる。
【0015】
特に、本発明では、ガラスとして、転移点が磁性体粉末の結晶化開始温度よりも約50℃程度低く、かつ、磁性体粉末の結晶化温度とガラスの結晶化温度と差が50℃以下であるものを使用する。これは、ガラス転移点と熱処理温度との乖離が大きいことにより、ガラスの軟化が進んでガラスの粘度が低くなり、かつ、ガラスの結晶化温度が磁性体粉末の結晶化温度に近いことから、流動性が増加し、磁性体粉末間で流動しやすくなり、磁性体粉末のコーティング性が増すためである。磁性体粉末間の空隙にガラスが充填されることにより、機械的強度をアップさせることもできる。また、磁性体粉末に圧縮応力がかからないよう、熱膨張係数の低いものが良い。さらに、一般的に、ガラスは高温にすることで、高強度になる性質を持つが、本発明においては、磁性体粉末を使用するため、温度に制約が生じる。本発明に適するガラスとしては、ビスマス系のガラス(Bi・B)などが挙げられる。
【0016】
ガラスの混合量は、所望の透磁率に合わせて設定する。ただし、磁性体粉末に対するガラスの混合量が少ないと、磁性体粉末間のコーティングが充分でなくなるため、渦電流損失が大きくなってしまう。ガラスの混合量が多いと、磁性体粉末の透磁率の低下につながるとともに、磁性体粉末同士が凝集してしまい、十分な磁気特性が確保できない。例えば、磁性体粉末の0.5wt%〜5wt%程度の範囲から、要望の透磁率に合わせてガラスの混合量を決定する。
【0017】
ガラスは、粉末として磁性体粉末に混合される。ガラス粉末の粒径(D50/平均粒径)は、5μm以下、特に、0.5〜1.5μmが好ましい。ガラス粉末の粒径が5μmを超えると、転移点が高くなり、粘度が低下しない。
【0018】
(3)結着性樹脂
結着性樹脂は、磁性体粉末とガラス粉末の混合粉に添加する。結着性樹脂としては、常温で磁性体粉末とガラス粉末の混合物を加圧した場合に、ある程度緻密化された状態の成形体が得られ、しかも、その成形体に過大な力が加わらない限り、所定の形状を維持することのできる程度の粘性のある樹脂を用いる。
【0019】
例として、シリコーン系樹脂、ワックスなどが挙げられる。シリコーン系の樹脂としては、メチルフェニル系シリコーン樹脂が好ましい。メチルフェニル系シリコーン樹脂の添加量は、磁性体粉末に対して0.75〜2.0wt%が適量である。これよりも少なければ成形体の強度が不足して、割れが発生する。これより多いと、密度低下による最大磁束密度の低下、ヒステリシス損失の増加による磁気特性が低下する問題が発生する。
【0020】
その他の結着性樹脂として、アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンを使用することができる。混合するアクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの添加量は合金粉末に対して0.5〜2.0wt%であり、その場合の乾燥温度と乾燥時間は、80℃〜150℃で2時間である。アクリル酸共重合樹脂(EAA)エマルジョンの代りに、PVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)を使用しても良い。PVA(ポリビニルアルコール)水溶液(12%水溶液)の添加量は、磁性体粉末に対して0.5〜3.0wt%が適量である。
【0021】
(4)潤滑性樹脂
潤滑性樹脂として、ステアリン酸及びその金属塩ならびにエチレンビスステアラマイドなどのワックスが使用できる。これらを混合することにより、粉末同士の滑りを良くすることができるので、混合時の密度を向上させ成形密度を高くすることができる。さらに、成形時の上パンチの抜き圧低減、金型と粉末の接触によるコア壁面の縦筋の発生を防止することが可能である。潤滑性樹脂の添加量は、磁性体粉末に対して、0.1wt%〜1.0wt%程度が好ましく、一般的には、0.5wt%程度である。
【0022】
(5)製造方法
本実施形態の圧粉磁心の製造方法は、次のような各工程を有する。
(a)磁性体粉末と、低融点ガラスを混合する工程。
(b)混合工程で得られた混合物に対して、結着性樹脂を添加する工程。
(c)結着性樹脂添加工程を経た混合物を、加圧して成形体を作製する成形工程。
(d)成形工程によって得られた成形体を加熱する熱処理工程。
【0023】
以下、各工程について、詳細に説明する。
(a)ガラスの混合工程
混合工程では、例えば、平均粒径が30〜100μmの磁性体粉末に対して、その0.5wt%〜5wt%ガラス粉末を添加して混合する。例えば、前記の混合物を、V型混合機を使用して2時間程度混合する。
【0024】
(b)結着性樹脂の添加工程
磁性体粉末とガラス粉末の混合物に対して、磁性体粉末に対して0.75〜2.0wt%の結着性樹脂と、0.1〜1.0wt%の潤滑性樹脂を添加して、更に混合する。前記(a)のガラス粉末の混合と、(b)の結着性樹脂及び潤滑性樹脂の混合を同時に行うことも可能である。
【0025】
結着性樹脂の添加工程において、シランカップリング剤を加えることもできる。シランカップリング剤を使用した場合は、結着性樹脂の分量を少なくすることができる。相性の良いシランカップリング剤の種類としては、アミノ系のシランカップリング剤を使用することができ、特に、γ-アミノプロピルトリエトキシシランが良い。結着性樹脂に対するシランカップリング剤の添加量は、0.25wt%〜1.0wt%が好ましい。結着性樹脂にこの範囲のシランカップリング剤を添加することで、成形された圧粉磁心の密度の標準偏差、磁気特性、強度特性を向上させることができる。
【0026】
(c)成形工程
成形工程では、結着性樹脂を添加した混合物を金型内に充填して、加圧成形する。その場合、金型温度は常温が好ましいが、80℃までの範囲であっても構わない。すなわち、ここでの常温とは、5℃〜35℃までの範囲をいうが、5℃〜80℃の範囲であっても構わない。成形圧力は、例えば、1300〜1700MPaである。
【0027】
(d)熱処理工程
成形体に対する熱処理は、大気雰囲気などの非還元雰囲気で行う。非還元雰囲気としては大気中以外に、100%窒素ガスなどの不活性ガス雰囲気中でも良い。例えば、成形体を、大気中で、350℃の温度で、2時間加熱し、その後、窒素雰囲気に切り換えて、470℃で、2時間加熱することもできる。非還元雰囲気での熱処理により、水素によるガラスの還元を防止し、コーティング膜の絶縁性の劣化を防ぐことができると共に、ガラス中の酸素を失うことなく、本来のガラスの性質を保ち、磁性体粉末の周囲をコーティングする機能を果たす。
【0028】
熱処理温度は、400℃〜440℃が好ましく、加熱時間は2〜4時間程度である。このような温度と加熱時間を保持する理由は、磁性体粉末の結晶化温度以下の状態で、しかも、圧粉磁心を環状に成形した場合に必要とする圧環強度を確保するためである。一方、熱処理温度を上げ過ぎると、磁性体粉末の結晶化が進み、透磁率が低下し、鉄損(ヒステリシス損)が増加する。そのため、400℃〜440℃の温度を保持することは、鉄損の増加を抑制するために効果的である。
【実施例】
【0029】
本発明の実施例を、表1〜表3、図1図7を参照して、以下に説明する。
【0030】
(1)測定項目
測定項目として、透磁率と鉄損を次のような手法により測定した。透磁率は、作成された各圧粉磁心に1次巻線(10ターン)を施し、インピーダンスアナライザーを使用することで、100kHz、0.5Vにおけるインダクタンスから算出した。
【0031】
鉄損については、各圧粉磁心に1次巻線(15ターン)及び2次巻線(3ターン)を施し、磁気計測機器であるBHアナライザ(岩通計測株式会社:SY−8232)を用いて、周波数100kHz、最大磁束密度Bm=0.05Tの条件下で鉄損を算出した。この算出は、鉄損の周波数曲線を次の(1)〜(3)式で最小2乗法により、ヒステリシス損係数、渦電流損失係数を算出することで行った。
【0032】
Pc=Kh×f+Ke×f…(1)
Ph=Kh×f…(2)
Pe=Ke×f…(3)
Pc:鉄損
Kh:ヒステリシス損係数
Ke:渦電流損係数
f:周波数
Ph:ヒステリシス損失
Pe:渦電流損失
【0033】
強度については、圧環強度をJIS2507に従って測定を行った。
【0034】
(2)サンプルの作製方法
特性比較で使用する試料は、下記のように作製した。
平均粒経45μm、結晶化温度450℃のFe−Si−BのFe系非晶質軟磁性粉末に、各種、転移点、粒径が異なるビスマス系ガラスを1.5wt%、ステアリン酸リチウム(潤滑剤)を0.3wt%混合し、有機バインダー(シリコーン樹脂)2.0wt%混合して、150℃で乾燥し、目開き850μmの篩を通したものに、さらにステアリン酸リチウム(潤滑剤)を0.3wt%混合して、造粒粉末を作製した。
【0035】
これを常温にて1700MPaの圧力で成形体を作成し、大気雰囲気中400℃、420℃、440℃、460℃、480℃の温度で2時間の熱処理を行った。
【0036】
ここでのガラスの混合量は、前述の通り、軟磁性粉末へのコーティング量を規定するものであって、1.5wt%に限定するものではない。これは、前にも述べたとおり、ガラスの混合量が少ないと、軟磁性粉末へのコーティングが充分でなくなるため、渦電流損失が大きくなってしまい、また、ガラスの混合量が多いと、軟磁性粉末の透磁率の低下につながるとともに、軟磁性粉末同士が凝集してしまう虞れがあるため十分な磁気特性が確保できない。ガラスの混合量は要望の透磁率に合わせて決めれば良い。
【0037】
(3)測定結果
表1および図1に使用したガラス粉末を示す。各ガラス粉末は転移点、結晶化温度、粒径(D50)および線膨張係数が異なっているものを使用した。表1に、これらの数値、並びに、使用した軟磁性粉末の結晶化温度と、ガラスの転移点および結晶化温度との乖離を数値化して示し、図1に、その乖離をグラフ化して示す。
【0038】
【表1】
【0039】
各ガラス材を使用したときの磁気特性(透磁率とコアロス)を図2、表3および図3に示す。なお、これらに記載の比較例Xは、ガラスを混合しない圧粉磁心の例を示している。透磁率を示す図2から、比較例X(なし)、ガラスを使用した比較例1(A材)、実施例1(D材)および実施例2(E材)の4例が、400〜460℃で50以上の高透磁率を示し、かつその変化は小さいことが分かる。また、比較例3(C材)は、これら4例と変化の程度は同程度であるが、これらより低透磁率を示す。比較例2(B材)は、さらに低透磁率を示していることが分かる。
【0040】
表2は、各ガラス材における各熱処理温度に対するコアロスのデータであり、図3は、これをグラフ化したものである。なお、コアロスは、ヒステリシス損と渦電流損失の分離が難しいため、全コアロスを示している。
【表2】
【0041】
図3から、比較例1〜3に比べ、実施例1および2は、420℃〜440℃でコアロスが低下しており、ガラスのよる絶縁コーティングが充分に機能していることが分かる。比較例、実施例とも400℃〜440℃に比べ、460℃、480℃で、透磁率の低下、コアロスの増加が確認された。これは、460℃、480℃では軟磁性粉末が結晶化しているためである。
【0042】
軟磁性粉末の結晶化温度以下の熱処理により、特に透磁率の低下およびコアロスの増加が確認できないのは、実施例1と2である。
【0043】
一方、比較例2は、転移点が337℃であり、50℃以上熱処理温度との乖離はあるものの、ガラスの結晶化温度が熱処理温度から50℃を超えて乖離している。そのため、ガラスが一部しか溶解せず、それにより表3に示すように、密度が上がらず、かつ図4に示すように、直流重畳特性も低下していると考えられる。また、比較例3は、実施例1及び2と同程度に密度が上がっているが、コアロスが大きい。これは、ガラスの結晶化温度が熱処理温度と大きく乖離しているため、比較的粘度が高く、薄く均一な膜になっていないためと考えられる。すなわち、見かけ上の密度は高く、ガラスは溶解していることが推察されるが、ガラス自体のコーティング状態としてはムラがある状態であり、そのムラがコアロスに現れていると考えられる。
【0044】
【表3】
【0045】
軟磁性粉末の熱処理温度に対し、ガラス転移点が50℃以上乖離している比較例2は、ガラス転移点が熱処理温度と50℃以上乖離はしているものの、粒径が5.0μmと他に比べて大きいため、結晶化温度が高い。そのため、ガラス転移点と熱処理温度が大きく乖離していても、流動性が向上せず、コーティングの厚さが大きくなっている。これは、表3の密度および図4の直流重畳特性からも推測される。
【0046】
図5および図6に、加熱処理前後の各ガラス材単体の状態の写真を示す。図5は、熱処理前の状態を示し、図6は、熱処理後の状態を示す。各ガラス粉末の量を5ccとした。熱処理条件は、熱処理温度を450℃、熱処理時間を2時間、雰囲気を大気雰囲気とした。撮影された比較例1〜3、実施例1および2は、全てガラス転移点が熱処理温度との間で50℃以上乖離しているが、図6から、ガラス結晶化温度との乖離が大きい比較例1及び2は溶解せず、比較的乖離が小さい比較例3、実施例1及び2は溶解していることが分かる。比較例2は粒径が大きいため、結晶化温度が高いと考えられる。なお、比較例1は比較例2よりも粒径が小さいものの結晶化温度が高いのは、ガラスの組成によるものと考えられる。
【0047】
図7に、熱処理温度が440℃の時のコア強度のグラフを示す。図7から、熱処理温度とガラス結晶化温度との乖離が小さいほど、強度が大きくなる傾向が確認できる。これは、前述の通り、ガラスが十分に溶融していることで、強度が高くなったことと推測される。磁気特性を無視して考えれば、全ガラスとも同一傾向になっていることからも、容易に理解できる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7