特許第6403943号(P6403943)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6403943リチウムイオン二次電池、及び、その製造方法、並びに、その使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403943
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池、及び、その製造方法、並びに、その使用方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0567 20100101AFI20181001BHJP
【FI】
   H01M10/0567
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-150091(P2013-150091)
(22)【出願日】2013年7月19日
(65)【公開番号】特開2015-22901(P2015-22901A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2015年11月9日
【審判番号】不服2017-12908(P2017-12908/J1)
【審判請求日】2017年8月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(72)【発明者】
【氏名】岸本 顕
【合議体】
【審判長】 中澤 登
【審判官】 長谷山 健
【審判官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−139232(JP,A)
【文献】 特開平11−191417(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/053644(WO,A1)
【文献】 特開2013−137875(JP,A)
【文献】 特開2013−93242(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、PFアニオン、ホウ酸、及び下記一般式(2)で表される環状スルホン酸化合物が添加された非水電解質と、を備えたリチウムイオン二次電池の製造方法であって
非水溶媒に、LiPF、2質量%以下のホウ酸、及び、5質量%未満の下記一般式(2)で表される環状スルホン酸化合物を添加して前記非水電解質を調製することを特徴とするリチウムイオン二次電池の製造方法
【化1】


〔一般式(2)において、Rは一般式(4)又は、式(5)で表される基(*の部分がRに結合)である。Rは、ハロゲンを含んでも良い炭素数1〜3のアルキル基である。〕
【請求項2】
正極と、負極と、PFアニオン、ホウ酸及び下記一般式(2)で表される環状スルホン酸化合物を含有している非水電解質と、を備え、
ホウ酸の含有量が0.15質量%以下であり、下記一般式(2)で表される環状スルホン酸化合物の含有量が5質量%未満であるリチウムイオン二次電池
【化2】

〔一般式(2)において、Rは一般式(4)又は、式(5)で表される基(*の部分がRに結合)である。Rは、ハロゲンを含んでも良い炭素数1〜3のアルキル基である。〕
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法で製造されたリチウムイオン二次電池または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池を4.4V(vs.Li/Li)以上の正極電位に至って充電を行う、リチウムイオン二次電池の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質を備えるリチウムイオン二次電池、及び、その製造方法、並びに、その使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質電池は、エネルギー密度が高いことから、携帯電話に代表されるモバイル機器用の電源として広く普及している。非水電解質電池は、今後、電力貯蔵用、電気自動車用及びハイブリッド自動車用等の用途への展開が見込まれている。
【0003】
近年、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車といった自動車分野に非水電解質電池を適用することが検討されており、一部、実用化している。これらの自動車用電池には、高いエネルギー密度が求められると共に、優れた充放電サイクル性能が求められている。即ち、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッドといった自動車に対して充電を行った場合、一定の走行可能距離が確保されることが期待される。一般に、非水電解質二次電池は、充放電を繰り返すと放電容量が徐々に低下するが、自動車に対して充電を繰り返した場合、放電容量の低下の程度が大きいと、走行可能距離が短くなる程度が大きいことを意味するから、次に充電が必要となる時期を予測することが困難となり、充電時期を逸して走行中に自動車が停止してしまう虞がある。
【0004】
特許文献1には、フッ素化合物を含有する電解液中にホウ素化合物を含有するリチウム電池が記載され、ホウ素化合物として「例えばB、HBO、(CHO)B、(CO)B、(CHO)B−B等が使用できる。それらの中でも特にBが望ましい。」(段落0037)と記載されている。また、「実施例1」には、正極にLiCoOを用いた非水電解液リチウム二次電池の非水電解液として、EC/PC/DME(2/2/1)−1MLiPFに0.8wt%のBを添加したものを用いたことが具体的に記載されている。また、「上記ホウ素化合物を電解液に含有させることにより、電界液中の含有水分により生成する酸性物質を大巾に減少することができ、これは電解液の劣化、電池容器の腐蝕による容器構成金属イオンに起因する負極の活性低下を防止する結果をもたらす。」(段落0039)、「これらの脱水剤を含ませることにより、電解質の水による分解を防止し、ひいては電解液の劣化、酸性物質の生成を抑えることが出来る。」(段落0041)との記載がある。
【0005】
特許文献2には、非水電解質二次電池の内部に、温度上昇により水を生成する物質を含むこと(請求項1)、温度上昇により水を生成する物質が非水電解質に含まれること(請求項3)、温度上昇により水を生成する物質がホウ酸であること(請求項7)が記載されている。また、「実施例1」には、LiNiOとHBOを含む正極ペーストをチタンの芯材に塗布し、95℃で乾燥、圧延して正極とした非水電解質二次電池が記載され、「実施例2」には、炭素材料とHBOを含む負極ペーストを銅の芯材に塗布し、95℃で乾燥、圧延して負極とした非水電解質二次電池が記載されている。なお、「非水電解質には、1モル/lの過塩素酸リチウムを溶解したエチレンカーボネートとジメトキシエタンの等比体積混合溶液を用いた。」(段落0013)との記載がある。
【0006】
特許文献3には、「正極にリチウム含有マンガン酸化物を用いたリチウム二次電池において、前記正極は、電解液に溶解可能なホウ素化合物を含むことを特徴とするリチウム二次電池。」(請求項1)、「前記ホウ素化合物が、B、HBO、HBO、Hから選ばれる少なくとも1つ以上を含むホウ素化合物であることを特徴とする請求項1記載のリチウム二次電池。」(請求項2)、「しかしながら、正極にLiMnを用い、電解液にLiPF等のハロゲン含有リチウム塩を用いた場合、前記リチウム塩が微量水分と反応し、フッ素化水素酸などのハロゲン化水素酸を発生する。このハロゲン化水素酸は、正極のLiMnを溶解し、負極の炭素表面にMnF等の抵抗の高い被膜を形成し、サイクル性能を低下させる原因となっていた。」(段落0003)、「ホウ素化合物を正極に添加する方法としては、正極活物質であるリチウム含有マンガン酸化物にHBOを混合してから電極を作成する方法が挙げられる。しかしながらHBOは、リチウムと反応する水素原子を多く含み、電池内において不可逆な副反応を起こす虞れがあるため、正極を100℃〜140℃、あるいはそれ以上の温度で熱処理を施すことが好ましい。前記熱処理によって、HBOはHBOやH等に変化するものと考えられる。」(段落0009)との記載がある。また、「実施例」には、スピネルマンガンとHBOを含むポリテトラフルオロエチレンシート電極を減圧下90〜300℃で40時間熱処理して得た正極を用い、EC/DEC(1/1)−1MLiPF電解液と組み合わせた電池を4.4Vで定電流定電圧充電した結果、ホウ素化合物無添加品と比べてサイクル寿命が優れたことが記載されている。また、減圧下90℃40時間熱処理により、正極中のHBOはHBOに変化していると推定されること(段落0033〜0034)が記載されている。
【0007】
特許文献4の要約書及び請求項1には、「電極の界面抵抗の増大を抑制し、電池にすぐれた負荷特性および低温特性を与え、さらに優れた寿命特性を与える非水電解液と、それを用いた寿命特性にすぐれた二次電池を提供すること」を目的として「式(1)で表わされるホウ酸エステルと、非水溶媒と電解質を含む非水電解液、及びそれを用いた二次電池」からなる発明が記載され、式(1)としてB(OR)(OR)(OR)が記載され、「R〜Rは、同一であっても異なっていてもよく、水素、金属または有機基を示し、互いに結合していてもよい。」と記載されている。しかしながら、ホウ酸を用いることについては記載がない。また、特許文献4の実施例の欄には、LiCoOを正極に用いた非水電解液二次電池の特性を評価するにあたって、充電条件を4.2V定電圧又は4.1V定電圧としたことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−139232号公報
【特許文献2】特開平11−191417号公報
【特許文献3】特開2001−257003号公報
【特許文献4】特開2003−132946号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らは、予備試験として後述するように、非水電解質に添加する添加剤として各種ホウ酸化合物を検討したところ、ホウ酸を選択することにより、これを用いた非水電解質電池の充放電サイクル性能を顕著に向上できるとの知見を得た。本発明は、この知見に基づき、さらに電池性能を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の構成及び作用効果について、技術思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。なお、本発明は、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、後述の実施の形態若しくは実験例は、あらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、すべて本発明の範囲内のものである。
【0011】
本発明は、正極と、負極と、ホウ酸及び環状スルホン酸化合物が添加された非水電解質を備える非水電解質二次電池である。
【0012】
このような構成によれば、充放電サイクル性能及び保存性能に優れた非水電解質二次電池を提供することができる。
【0013】
ホウ酸は極めて安価な材料であるため、ホウ酸を選択することにより、他のホウ素化合物よりも優れた効果を奏するだけでなく、非水電解質電池を安価に提供できる。
【0014】
また、本発明は、正極と、負極と、ホウ酸及び環状スルホン酸化合物を含有している非水電解質と、を備える非水電解質二次電池である。
【0015】
即ち、後述するように、本発明者らは、ホウ酸が添加された非水電解質が含有するホウ酸の量は、該非水電解質を調整する際に添加したホウ酸の量に比べて減少することがあるとしても、少なくとも0.5質量%以上のホウ酸が添加された非水電解質は、ホウ酸を含有していることを見出した。また、環状スルホン酸化合物及び0.5質量%以上のホウ酸が添加された非水電解質を用いた非水電解質電池は、優れた電池性能を示すことを見出した。また、環状スルホン酸化合物及び0.5質量%以上のホウ酸が添加された非水電解質を用いて非水電解質電池を作製し、充放電を伴う使用がなされた状態であっても、非水電解質電池が備える非水電解質は、環状スルホン酸化合物及びホウ酸を含有していることを見出した。
【0016】
また、本発明は、上記した本発明に係る非水電解質二次電池を4.4V(vs.Li/Li)以上の正極電位に至って充電を行う、非水電解質二次電池の使用方法である。本発明に係る非水電解質を適用した非水電解質二次電池に対してこのような使用方法を採用することにより、多数回にわたる充放電サイクルを繰り返しても高い放電容量を維持できる非水電解質二次電池の使用方法を提供できる。本発明は、1個又は複数個の本発明に係る非水電解質二次電池を備え、4.4V(vs.Li/Li)以上の正極電位に至って充電が制御される電池システムとして実現できる。また、本発明は、1個又は複数個の本発明に係る非水電解質電池と、4.4V(vs.Li/Li)以上の正極電位に至って充電が制御される電池システムを搭載した電気自動車、ハイブリッド自動車又はプラグインハイブリッド自動車として実現できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、充放電サイクル性能に優れた非水電解質電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】予備試験に係る非水電解質二次電池の充放電サイクル性能を示す図である。
図2】予備試験に係る非水電解質二次電池の充放電サイクル性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明に係る非水電解質を調整する方法については、何ら限定されるものではない。例えば、電解質塩としてLiPFを用いた一般的な電解液にホウ酸及び環状スルホン酸化合物を添加することによって得ることができる。前記ホウ酸は、化学式HBO又はB(OH)と表記され、試薬等として入手できる。なお、上記化学式のHの部分が炭化水素基であるホウ酸エステルは、ホウ酸に比べて効果が劣る。
【0020】
ホウ酸の添加量は、本発明の効果を十分に発揮させるため、0.2質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、放電容量が低下する虞を低減するため、2質量%以下が好ましく、1.5質量%以下がより好ましい。
【0021】
環状スルホン酸化合物としては、下記一般式で表されるものが挙げられる。


〔一般式(2)において、Rは一般式(4)又は、式(5)で表される基(*の部分がRに結合)である。Rは、ハロゲンを含んでも良い炭素数1〜3のアルキル基である。〕
【0022】
一般式()で表される環状スルホン酸化合物の中には、2個以上の不斉炭素を有し、立体異性体(ジアステレオマー)が存在するものがある。本願明細書において、一般式()で表される環状スルホン酸化合物は、そのようなジアステレオマーの混合物であるものを含む。
【0023】
一般式()において、式()で表される基である環状スルホン酸化合物は、ジグリコールサルフェート(DGLST)に相当する。
【0025】
一般式()で表される基である環状スルホン酸化合物は、3級アルコールを原料とし、環は1個であるが、2個のスルホン酸と化合した化合物であり、DGLSTと同様の効果を奏するものである。Rがメチル基の場合は、4−メチルスルホニルオキシメチル−2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオランであり、R3がエチル基の場合は、4−エチルスルホニルオキシメチル−2,2−ジオキソ−1,3,2−ジオキサチオランである。
【0026】
これらの中でも、非水電解質への含有量が少なくて済むことから、分子量の小さいDGLSTが好ましい。
【0027】
上記環状スルホン酸化合物の作用機構はかならずしも明確ではない。以下に、ジグリコールサルフェート(DGLST)を含有する非水電解質を用いた場合の充放電サイクル性能改善の推定メカニズムを記載する。
【0028】
一般に、非水電解質電池は、負極上において、電解液中の有機溶媒の継続的な還元分解がサイクル特性等の電池の寿命を低下させる原因になっていると考えられる。ここで、DGLSTの還元分解電位は約1.1V(vs.Li/Li)であり、他の一般的な溶媒よりも比較的高いため、非水電解質二次電池の初回充電時に他の溶媒に先駆けて、負極上にDGLST由来の被膜が形成される。この被膜によって、有機溶媒の継続的な還元分解が抑制されると推測される。よって、DGLSTを非水電解質に含有させることにより、サイクル特性等の非水電解質二次電池の寿命が改善するものと考えられる。
【0029】
環状スルホン酸化合物の含有量としては、非水電解質二次電池中の非水電解質から環状スルホン酸化合物が検出される程度含まれていることが好ましい。このように、非水電解質二次電池中の非水電解質から検出される程度に環状スルホン酸化合物が含まれている場合、充放電サイクル性能を改善することが可能となる。また、非水電解質二次電池が初期活性化後(使用前、出荷時)の状態にあるときに、非水電解質から環状スルホン酸化合物が検出される程度含まれている場合、電池の使用時において、サイクル特性を十分に改善することが可能となるため、特に好ましい。
【0030】
非水電解質二次電池中の非水電解質から検出される環状スルホン酸化合物の量は、0.01質量%以上、5質量%未満であることが好ましい。検出される環状スルホン酸化合物が0.01質量%以上であれば、サイクル特性を十分に改善することが可能となるため好ましい。また、検出される環状スルホン酸化合物を5質量%未満とすることで、本発明の効果を維持しつつ、非水電解質二次電池のコストを抑制することができるため好ましい。特に好ましくは、0.05質量%以上、4質量%以下である。
【0031】
非水電解質に含まれる環状スルホン酸化合物の検出(定性及び定量)は、GC−MS測定やLC−MS測定により行うことが可能である。
【0032】
環状スルホン酸化合物を含有する非水電解質を調製するに当たり、非水電解質を構成する電解質塩、非水溶媒及び環状スルホン酸化合物の混合順序は任意である。後述の実施例においては、非水溶媒に電解質塩を溶解させたのち、環状スルホン酸化合物を添加する手順により環状スルホン酸化合物を含有する非水電解質を調製しているが、この手順以外で調整した環状スルホン酸化合物を含有する非水電解質を用いたとしても、本発明の効果は発現する。また、環状スルホン酸化合物以外の化合物が非水電解質に含まれる場合も同様に混合順序は任意である。
【0033】
前記非水溶媒が、エチレンカーボネート等の環状カーボネートと、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートとを含有する場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの合計体積中に占める環状カーボネートの体積比率は、10体積%以上が好ましく、20体積%以上がより好ましい。また、40体積%以下が好ましく、30体積%以下がより好ましい。
【0034】
非水電解質に用いる電解質塩としては、例えば、LiClO,LiBF,LiAsF,LiPF,LiSCN,LiBr,LiI,LiSO,Li10Cl10,NaClO,NaI,NaSCN,NaBr,KClO,KSCN等のリチウム(Li)、ナトリウム(Na)またはカリウム(K)の1種を含む無機イオン塩、LiCFSO,LiN(CFSO,LiN(CSO,LiN(CFSO)(CSO),LiC(CFSO,LiC(CSO,(CHNBF,(CHNBr,(CNClO,(CNI,(CNBr,(n−C、NClO,(n−CNI,(CN−maleate,(CN−benzoate,(CN−phtalate、ステアリルスルホン酸リチウム、オクチルスルホン酸リチウム、ドデシルベンゼンスルホン酸リチウム等の有機イオン塩等が挙げられ、これらのイオン性化合物を単独、あるいは2種類以上混合して用いることが可能である。
【0035】
また、非水電解質として常温溶融塩やイオン液体を用いてもよい。
【0036】
負極材料としては、限定されるものではなく、リチウムイオンを析出あるいは吸蔵することのできる形態のものであればどれを選択してもよい。例えば、Li[Li1/3Ti5/3]Oに代表されるスピネル型結晶構造を有するチタン酸リチウム等のチタン系材料、SiやSb,Sn系などの合金系材料リチウム金属、リチウム合金(リチウム−シリコン、リチウム−アルミニウム,リチウム−鉛,リチウム−スズ,リチウム−アルミニウム−スズ,リチウム−ガリウム,及びウッド合金等のリチウム金属含有合金)、リチウム複合酸化物(リチウム−チタン)、酸化珪素の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えばグラファイト、ハードカーボン、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)等が挙げられる。
【0037】
正極活物質の粉体および負極材料の粉体は、平均粒子サイズ100μm以下であることが望ましい。特に、正極活物質の粉体は、非水電解質電池の高出力特性を向上する目的で10μm以下であることが望ましい。粉体を所定の形状で得るためには粉砕機や分級機が用いられる。例えば乳鉢、ボールミル、サンドミル、振動ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル、カウンタージェトミル、旋回気流型ジェットミルや篩等が用いられる。粉砕時には水、あるいはヘキサン等の有機溶剤を共存させた湿式粉砕を用いることもできる。分級方法としては、特に限定はなく、篩や風力分級機などが、乾式、湿式ともに必要に応じて用いられる。
【0038】
以上、正極及び負極の主要構成成分である正極活物質及び負極材料について詳述したが、前記正極及び負極には、前記主要構成成分の他に、導電剤、結着剤、増粘剤、フィラー等が、他の構成成分として含有されてもよい。
【0039】
導電剤としては、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば限定されないが、通常、天然黒鉛(鱗状黒鉛,鱗片状黒鉛,土状黒鉛等)、人造黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウイスカー、炭素繊維、金属(銅,ニッケル,アルミニウム,銀,金等)粉、金属繊維、導電性セラミックス材料等の導電性材料を1種またはそれらの混合物として含ませることができる。
【0040】
これらの中で、導電剤としては、電子伝導性及び塗工性の観点よりアセチレンブラックが望ましい。導電剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して0.1重量%〜50重量%が好ましく、特に0.5重量%〜30重量%が好ましい。特にアセチレンブラックを0.1〜0.5μmの超微粒子に粉砕して用いると必要炭素量を削減できるため望ましい。これらの混合方法は、物理的な混合であり、その理想とするところは均一混合である。そのため、V型混合機、S型混合機、擂かい機、ボールミル、遊星ボールミルといったような粉体混合機を乾式、あるいは湿式で混合することが可能である。
【0041】
前記結着剤としては、通常、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE),ポリフッ化ビニリデン(PVdF),ポリエチレン,ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンターポリマー(EPDM),スルホン化EPDM,スチレンブタジエンゴム(SBR)、フッ素ゴム等のゴム弾性を有するポリマーを1種または2種以上の混合物として用いることができる。結着剤の添加量は、正極または負極の総重量に対して1〜50重量%が好ましく、特に2〜30重量%が好ましい。
【0042】
フィラーとしては、電池性能に悪影響を及ぼさない材料であれば何でも良い。通常、ポリプロピレン,ポリエチレン等のオレフィン系ポリマー、無定形シリカ、アルミナ、ゼオライト、ガラス、炭素等が用いられる。フィラーの添加量は、正極または負極の総重量に対して添加量は30重量%以下が好ましい。
【0043】
正極及び負極は、前記主要構成成分(正極においては正極活物質、負極においては負極材料)、およびその他の材料を混練し合剤とし、N−メチルピロリドン,トルエン等の有機溶媒又は水に混合させた後、得られた混合液を下記に詳述する集電体の上に塗布し、または圧着して50℃〜250℃程度の温度で、2時間程度加熱処理することにより好適に作製される。前記塗布方法については、例えば、アプリケーターロールなどのローラーコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレード方式、スピンコーティング、バーコータ等の手段を用いて任意の厚さ及び任意の形状に塗布することが望ましいが、これらに限定されるものではない。
【0044】
セパレータとしては、優れた高率放電性能を示す多孔膜や不織布等を、単独あるいは併用することが好ましい。非水電解質電池用セパレータを構成する材料としては、例えばポリエチレン,ポリプロピレン等に代表されるポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート等に代表されるポリエステル系樹脂、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−フルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロアセトン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン共重合体、フッ化ビニリデン−プロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−トリフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体等を挙げることができる。
【0045】
セパレータの空孔率は強度の観点から98体積%以下が好ましい。また、充放電特性の観点から空孔率は20体積%以上が好ましい。
【0046】
また、セパレータは、例えばアクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタアクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、ポリフッ化ビニリデン等のポリマーと電解質とで構成されるポリマーゲルを用いてもよい。非水電解質を上記のようにゲル状態で用いると、漏液を防止する効果がある点で好ましい。
【0047】
さらに、セパレータは、上述したような多孔膜や不織布等とポリマーゲルを併用して用いると、電解質の保液性が向上するため望ましい。即ち、ポリエチレン微孔膜の表面及び微孔壁面に厚さ数μm以下の親溶媒性ポリマーを被覆したフィルムを形成し、前記フィルムの微孔内に電解質を保持させることで、前記親溶媒性ポリマーがゲル化する。
【0048】
前記親溶媒性ポリマーとしては、ポリフッ化ビニリデンの他、エチレンオキシド基やエステル基等を有するアクリレートモノマー、エポキシモノマー、イソシアナート基を有するモノマー等が架橋したポリマー等が挙げられる。該モノマーは、ラジカル開始剤を併用して加熱や紫外線(UV)を用いたり、電子線(EB)等の活性光線等を用いて架橋反応を行わせることが可能である。
【0049】
非水電解質二次電池の構成については特に限定されるものではなく、正極、負極及びロール状のセパレータを有する円筒型電池、角型電池、扁平型電池等が一例として挙げられる。
【0050】
(予備試験)
本発明者らが行った予備試験の内容を次に示す。
【0051】
(正極活物質の作製)
硝酸コバルト、硝酸ニッケル及び硝酸マンガンを、Co:Ni:Mnの原子比が1:1:1の割合で含む水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加えて共沈させ、大気中110℃で加熱、乾燥して、Co、Ni及びMnを含む共沈前駆体を作製した。前記共沈前駆体に水酸化リチウムを加え、瑪瑙製自動乳鉢を用いてよく混合し、Li:(Co,Ni,Mn)のモル比が102:100である混合粉体を調製した。これをアルミナ製匣鉢に充填し、電気炉を用いて100℃/hで1000℃まで昇温し、1000℃にて、5時間、大気雰囲気下で焼成することにより、組成式LiCo1/3Ni1/3Mn1/3で表されるリチウム遷移金属複合酸化物を作製し、これを正極活物質として用いた。窒素吸着法により測定したBET比表面積は1.0m/gであり、レーザ回折散乱法粒子径分布測定装置を用いたD50の値は12.1μmであった。このようにして、正極活物質を作製した。
【0052】
(正極板の作製)
前記正極活物質、アセチレンブラック(AB)及びポリフッ化ビニリデン(PVdF)を質量比93:3:4の割合(固形分換算)で含有し、N−メチルピロリドン(NMP)を溶剤とする正極ペーストを作製し、厚さ15μmの帯状のアルミニウム箔集電体の両面に塗布した。該正極をローラープレス機により加圧成型して正極活物質層を成型した後、150℃で14時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。このようにして正極板を作製した。
【0053】
(負極板の作製)
黒鉛、スチレン−ブタジエン・ゴム(SBR)及びカルボキシメチルセルロース(CMC)を質量比97:2:1の割合(固形分換算)で含有し、水を溶剤とする負極ペーストを作製し、厚さ10μmの帯状の銅箔集電体の両面に塗布した。該負極をローラープレス機により加圧成型して負極活物質層を成型した後、25℃(室温)で14時間減圧乾燥して、極板中の水分を除去した。このようにして負極板を作製した。
【0054】
(非水電解質1)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を非水電解質1とする。
【0055】
(非水電解質2)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のホウ酸を添加して溶解させた。これを非水電解質2とする。
【0056】
(非水電解質3)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のリチウムビスオキサレートボラート(LiBOB)を添加して溶解させた。これを非水電解質3とする。
【0057】
(非水電解質4)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%の(化2)で示されるボロキシン環化合物(TiPBx)を添加して溶解させた。これを非水電解質4とする。
【化2】
【0058】
(非水電解質5)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のホウ酸トリブチル(TBB)を添加して溶解させた。これを非水電解質5とする。
【0059】
(非水電解質6)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のホウ酸トリプロピル(TPB)を添加して溶解させた。これを非水電解質6とする。
【0060】
(非水電解質7)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のホウ酸トリス(トリメチルシリル)(TMSB)を添加して溶解させた。これを非水電解質7とする。
【0061】
上記非水電解質1〜7をそれぞれ用いて、次の手順にて非水電解質二次電池を作製した。
【0062】
(非水電解質二次電池の作製)
<組立工程>
ポリエチレン製微多孔膜からなるセパレータを介して前記正極板と前記負極板を積層し、扁平形状に巻回して発電要素を作製し、アルミニウム製の角型電槽缶に収納し、正負極端子を取り付けた。この容器内部に非水電解質を注入したのちに封口した。電槽缶の外形寸法は、49.3mm(高さ)×33.7mm(幅)×5.17mm(厚さ)である。このようにして非水電解質電池を組み立てた。
【0063】
<初期充放電工程>
次に、25℃にて、2サイクルの初期充放電工程に供した。電圧制御は、全て、正負極端子間電圧に対して行った。1サイクル目の充電は、電流0.2CmA、電圧4.35V、8時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流0.2CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。2サイクル目の充電は、電流1.0CmA、電圧4.35V、3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分の休止時間を設定した。このようにして、非水電解質電池を作製した。
【0064】
<充放電サイクル試験(条件1)>
作製した非水電解質二次電池について、充放電サイクル試験を行い、放電容量の推移を調べた。電圧制御は、全て、正負極端子間電圧に対して行った。充電は、電流1.0CmA、電圧4.20V、3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分の休止時間を設定した。ここで、正負極端子間電圧が4.20Vであるとき、正極電位は4.30V(vs.Li/Li)であることがわかっている。この結果を図1に示
す。
【0065】
上記「条件1」を採用した充放電サイクル試験の結果からわかるように、各種ホウ素化合物を添加した非水電解質を用いた非水電解質二次電池のうち、ホウ酸を添加した「非水電解質2」を用いた場合、及び、TiPBxを添加した「非水電解質4」を用いた場合において、特に優れる結果が得られた。このうち、ホウ酸は、TiPBxに比べて極めて安価な材料であるので、ホウ酸を用いることで、充放電サイクル性能に優れる非水電解質電池を低コストで提供できることがわかる。
【0066】
<充放電サイクル試験(条件2)>
作製した非水電解質二次電池について、条件を変更して充放電サイクル試験を行い、放電容量の推移を調べた。電圧制御は、全て、正負極端子間電圧に対して行った。充電は、電流1.0CmA、電圧4.35V、3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分の休止時間を設定した。ここで、正負極端子間電圧が4.35Vであるとき、正極電位は4.45V(vs.Li/Li)であることがわかっている。この
結果を表1に示す。表中、「×」印は、充放電サイクル経過に伴う放電容量の低下が著しいため、150サイクルに達する前に試験を終了させたことを示す。
【0067】
【表1】
【0068】
上記「条件2」を採用した充放電サイクル試験の結果からわかるように、各種ホウ素化合物を添加した非水電解質を用いた非水電解質二次電池のうち、ホウ酸を添加した「非水電解質2」を用いた場合のみ、際立って優れる結果が得られた。
【0069】
次に、ホウ酸の好適な添加量について検討した。上記非水電解質2に準じ、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒にLiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液に対するホウ酸の添加量を0質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.5質量%、1.0質量%、1.5質量%とした非水電解質をそれぞれ準備し、同様の手順で非水電解質電池を作製し、上記「条件2」を採用した充放電サイクル試験を最大250サイクルまで行った。この結果、初期充放電効率はホウ酸の添加量が0質量%では88.9%、0.1質量%では90.8%、0.2質量%では92.4%、0.5質量%では91.5%、1.0質量%では88.8%、1.5質量%では82.7%であった。充放電サイクル性能は、図2に示すように、ホウ酸の添加量が0質量%、0.1質量%、0.2質量%、0.5質量%と増えるにしたがって向上し、0.5〜1.0質量%のとき最も良好であり、1.5質量%では再び低下した。以上の結果から、ホウ酸の添加量は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.5質量%以上が最も好ましい。また、1.5質量%以下が好ましく、1.0質量%以下がより好ましい。
【0070】
(非水電解質の分析)
上記の、エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒にLiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液に対してホウ酸を0.2質量%添加した非水電解質(試料1)、同じく0.5質量%添加した非水電解質(試料2)及びこれを用いて作製し上記初期充放電を終了した段階の非水電解質電池を解体して発電要素から遠心分離により取り出した非水電解質(試料3)、並びに、同じく1.5質量%添加した非水電解質(試料4)及びこれを用いて作製し上記初期充放電を終了した段階の非水電解質電池を解体して発電要素から遠心分離により取り出した非水電解質(試料5)について、イオンクロマトグラフィー分析を行った。その結果、PFの濃度は、試料2及び試料3では0.9mol/l、試料4及び試料5では0.6mol/lであった。また、ホウ酸の濃度は、試料2及び試料3では0.01mol/l(0.05質量%)、試料4では0.05mol/l(0.25質量%)、試料5では0.03mol/l(0.15質量%)であった。試料1からはホウ酸は検出されなかった。
【0071】
上記イオンクロマトグラフィー分析において、PFの定量に用いたカラム及び検出器は次の通りである。
日本ダイオネクス社製IonPac AS16(4×250mm)+プレカラムAG16
溶離液:35mmol/lKOH水溶液
液量:1.0ml/ml
検出器:電気伝導度
【0072】
上記イオンクロマトグラフィー分析において、ホウ酸の定量に用いたカラム及び検出器は次の通りであり、検出限界値は0.001mol/lである。なお、分析にあたっては、試料を水で希釈して測定に供しているから、カラムが検出するイオン種はBO3−である。
日本ダイオネクス社製IonPac ICE−AS1(9×250mm)
溶離液:1.0mol/lオクタンスルホン酸+2%2−プロパノール水溶液
液量:0.8ml/ml
検出器:電気伝導度
【0073】
以上の結果から、電解液に添加したホウ酸は一部が他の化合物に変化していることが示唆される。また、非水溶媒に1.0mol/lのLiPFを溶解させた電解液に対してホウ酸を0.5質量%以上添加された非水電解質は、0.01mol/l以上のホウ酸と、0.9mol/l以下のLiPFを含有していることがわかる。また、これを用いて作製した非水電解質電池が備える非水電解質についても同様に含有していることがわかる。
【0074】
前記正極ペーストに、正極活物質に対して1質量%のホウ酸を添加した。この正極ペーストを用い、ホウ酸を添加していない「非水電解質1」を用いたことを除いては上記予備試験と同様の処方により非水電解質電池を作製し、上記「条件1」を採用した充放電サイクル試験を実施した。その結果、ホウ酸を添加した全ての参考例に比べて、種々の温度条件下における放電容量の低下及び内部抵抗の増加がみられ、有利な効果は何ら認められなかった。また、ホウ酸を添加した正極ペーストは、混練後、ほんの数時間放置するだけで活物質が凝集してしまい、生じた凝集体により塗工時に塗りむらが生じ、生産性が大きく劣るものであった。また、評価試験実施後の電池を解体して非水電解質を取り出してイオンクロマトグラフィー分析を行ったところ、ホウ酸は検出されなかった。上記処方によって正極ペーストから電池内に取り込まれたホウ酸の量は、仮に同量が非水電解質に添加されて注液されるとすると、1.2質量%のホウ酸を添加した電解液を用いた場合に相当する。このことから、ホウ酸を正極ペーストに添加した場合は、非水電解質の製造工程中に別の化合物に変化し、非水電解質中にホウ酸として含有されることはなく、また、本発明の効果も奏さないことがわかった。
【実施例】
【0075】
(実施例1)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに0.5質量%のホウ酸(ナカライテスク社製、純度99.5%以上)及び2質量%のジグリコールサルフェート(DGLST)を添加し、撹拌混合した。これを実施例1に係る非水電解質とした。
【0076】
(比較例1)
上記「非水電解質1」を比較例1に係る非水電解質とした。
【0077】
(比較例2)
上記「非水電解質2」を比較例2に係る非水電解質とした。
【0078】
(比較例3)
エチレンカーボネート及びエチルメチルカーボネートを体積比3:7の割合で混合した混合溶媒に、LiPFを1.0mol/lの濃度で溶解させた電解液を作製し、前記電解液に対して、さらに2質量%のジグリコールサルフェート(DGLST)を添加し、撹拌混合した。これを比較例3に係る非水電解質とした。
【0079】
実施例1及び比較例1〜3に係る非水電解質をそれぞれ用いたことを除いては、上記予備試験と同様にして、非水電解質電池を組み立てた。
【0080】
<初期充放電工程>
実施例1及び比較例1〜3に係る非水電解質をそれぞれ用いて組み立てたこれらの非水電解質電池は、25℃にて、2サイクルの初期充放電工程に供した。電圧制御は、全て、正負極端子間電圧に対して行った。1サイクル目の充電は、電流0.2CmA、電圧4.35V、8時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流0.2CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。2サイクル目の充電は、電流1.0CmA、電圧4.35V、3時間の定電流定電圧充電とし、放電は、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電とした。全てのサイクルにおいて、充電後及び放電後に、10分の休止時間を設定した。なお、予備試験の場合と同様、正負極端子間電圧が4.35Vであるとき、正極電位は4.45V(vs.Li/Li)であることがわかっている。上記の初期充放電工程を経て非水電解質電池を作製した。
【0081】
このようにして作製した非水電解質電池を用いて充放電サイクル試験を行った。また、同一の処方及び手順で作製した非水電解質電池を用いて45℃反復放置試験を行った。
【0082】
<充放電サイクル試験>
充放電サイクル試験の条件は、上記「条件2」を採用した。放電容量が、上記初期充放電工程における2サイクル目の放電容量に対して60%以上を維持したサイクル数をカウントし、表2に示した。
【0083】
【表2】
表2からわかるように、ホウ酸及び環状スルホン酸化合物を添加した実施例1に係る非水電解質を用いた非水電解質電池は、ホウ酸のみを添加した比較例2に係る非水電解質を用いた非水電解質電池に比べて、充放電サイクル性能が顕著に向上した。
【0084】
<45℃反復保存試験>
45℃反復放置試験の条件及び手順は次のとおりである。電流1.0CmA、電圧4.35V、3時間の定電流定電圧充電を行った。次に、電池を開回路状態とし、45℃の恒温槽中に15日間保存した。次に、25℃にて、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電と、電流1.0CmA、電圧4.35V、3時間の定電流定電圧充電を行った後、45℃の恒温槽中にさらに15日間保存した。このようにして、45℃の恒温槽中に合計30日間放置した後、25℃にて、電流1.0CmA、終止電圧2.75Vの定電流放電を行い、放電容量を測定し、上記初期充放電工程における2サイクル目の放電容量に対する百分率を求め、それぞれの電池の「容量保持率(%)」とした。結果を表3に示す。
【0085】
【表3】
【0086】
表3からわかるように、ホウ酸のみを添加した比較例2に係る電池や、環状スルホン酸化合物のみを添加した比較例3に係る電池では、ホウ酸も環状スルホン酸化合物も添加していない比較例1に係る電池よりも保存性能が悪化した。これに対して、ホウ酸及び環状スルホン酸化合物を添加した実施例1に係る非水電解質を用いた非水電解質電池は、保存性能が向上した。
図1
図2