【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された発明では、焼結前に複数の部品を組み立て、組立品を一体的に焼結することにより、内部に遊動可能な部材を保持するように構成している。上記特許文献1に記載された発明では、特に、内部に弁体を組み込むために、ケーシングを複数の部材から形成する必要がある。
【0007】
上記手法では、射出成形によって複数ケーシング部品を形成しなければならない。このため、焼結工程以外の工程が、上記部品の数だけ必要になり、これら部品を焼結前に組み立てる工程も必要になる。したがって、製造工程が増加するとともに、製造費用が増加するといった問題がある。
【0008】
また、焼結前の粉体成形部品は壊れやすく、組み立てる際に角部等が破損しやすい。また、形状によっては、複数の部品を精度高く組み立てるのが困難な場合がある。
【0009】
さらに、焼結前の部品が別々に形成されるため、脱脂工程や焼結工程において各部品は独自に収縮する。このため、各部品におけるバインダや焼結粉体等の配合成分が少しでも異なると各部品間で収縮率が異なることになる。この結果、一体焼結する際に、接合部に段差や空孔等の欠陥が生じやすい。
【0010】
また、遊動部材を内部に保持した状態で焼結工程を行うと、上記遊動部材が、焼結過程にあるケーシング等に当接して、焼結成形体を変形させたり、遊動部材が焼結成形体と焼結してしまう恐れがある。
【0011】
本願発明は、上記従来の問題を解決し、中空部に遊動可能に保持される遊動部材を備える粉体焼結成形体を、一体的に成形できるとともに、一体的に脱脂・焼結することができる、粉体焼結成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、中空部と、この中空部に遊動可能に保持される遊動部材とを備える粉体焼結成形体の製造方法であって、上記遊動部材を形成する遊動部材形成工程と、上記中空部に対応した形態を備えるとともに上記遊動部材を上記中空部の所定位置に保持する中子を形成する中子形成工程と、焼結材料成形体を形成する焼結材料成形金型内に上記中子を設置する中子設置工程と、熱溶融性のバインダと焼結粉体とを含む焼結材料を、上記バインダを溶融させて上記焼結材料成形金型内に充填する焼結材料成形工程と、上記バインダを加熱除去する脱脂工程と、上記中子を除去する中子除去工程と、上記焼結粉体を焼結して焼結成形体を形成する焼結工程とを含み、上記遊動部材形成工程において、上記遊動部材を上記各工程において変化しない材料から形成するとともに、上記焼結工程において、上記遊動部材を遊動可能な状態で上記焼結粉体を焼結する、粉体焼結成形体の製造方法に係るものである。
上記中子形成工程は、中子成形空間を有する中子成形金型内の所定位置に、上記中子とともに消失させることができる材料から形成された成形支持部材を介して、上記遊動部材を上記中子内部に埋め込み状に保持した状態で、中子形成材料を上記中子成形空間に充填して行われる。
【0013】
本願発明では、中空状の粉体焼結成形体を、内部に遊動部材を保持した状態で一体的に成形し、脱脂し、また焼結する。このため、従来の手法に比べて、製造工程を大幅に削減することができる。
【0014】
上記遊動部材は、上記各工程において変化しない材料で形成される。遊動部材における上記変化しない材料とは、少なくとも上記各工程において、溶融したり劣化したりしないことを意味する。たとえば、上記焼結粉体が金属である場合、上記遊動部材を、上記金属より融点が高いセラミックから形成することができる。また、上記焼結粉体に低融点の金属材料を採用する一方、上記遊動部材に上記焼結粉体より融点が高く、上記焼結金属とは焼結しない他の金属やセラミック材料を採用することもできる。また、上記焼結粉体に樹脂粉体を採用する一方、上記遊動部材として、金属やセラミックを採用することもできる。
【0015】
本願発明では、上記中空部を形成するために、後の工程において消失する中子が用いられる。上記中子は、上記中空部に対応した形態を備えるとともに、上記遊動部材を上記中空部の所定位置に保持できるように構成される。すなわち、上記中子は、少なくとも上記中空部の内面形態に対応する外面形態を備えて構成される。なお、上記焼結材料成形金型内に設置するための位置決め凸部等を設けることもできる。上記中子は、上記脱脂工程又は上記焼結工程において除去される
中子バインダ成分を含んで形成することができる。上記
中子バインダ成分は、上記脱脂工程又は上記焼結工程において加熱されることにより除去される。
【0016】
上記
中子バインダ成分は、後の工程において消失させることができれば、種々の樹脂材料から形成することができる。たとえば、上記焼結粉体を結合するバインダの樹脂成分から上記中子を形成し、脱脂工程において、上記バインダとともに消失させることができる。なお、形成された中子を、焼結材料成形金型内に設置した後に、上記バインダを含む焼結粉体が充填されるため、上記
中子バインダ成分は、上記焼結材料に含まれる上記バインダより融点の高い樹脂材料から形成するのが好ましい。
【0017】
上記中子は、上記中子除去工程の終了時に、上記遊動部材を上記中空部の所定位置に保持させるように構成することができる。上記脱脂工程又は上記焼結工程において、上記中子が完全に消失する場合、上記遊動部材が、中空状の焼結材料成形体内に独立して取り残されることになる。一方、上記焼結材料成形体は未だ焼結が完了しておらず、上記遊動部材が中空内壁に当接した状態で脱脂工程が終了し、あるいは焼結工程が行われることになる。
【0018】
上記遊動部材には重力による力が作用するため、焼結中に上記焼結材料成形体の内壁を変形させたり、上記内壁に焼結してしまうことも考えられる。上記不都合を回避するため、焼結材料成形工程において、上記中子が消失したとき、上記遊動部材を所定位置に保持する保持部を形成して、上記保持部に上記中子を安定的に保持した状態で焼結工程を行うように構成するのが好ましい。また、上記中子の周囲を上記焼結材料と焼結しない材料でコーティング等しておくこともできる。たとえば、上記遊動部材の周囲に上記焼結材料の融点より高く、上記焼結材料と焼結しない粉体をコーティングすることにより、上記遊動部材を上記焼結材料成形体の中空内面から離間させた状態で、焼結材料成形体の内部に保持して、上記焼結工程を行うことができる。
【0019】
遊動部材に作用する上記重力を利用して、上記焼結工程において、上記遊動部材の外面形態の少なくとも一部が、焼結過程にある上記中空部の内面に転写されるように構成することができる。
【0020】
たとえば、逆止弁等における弁座は、弁体となる上記遊動部材の外面と密着するように形成する必要がある。ところが、上記焼結工程において、上記焼結成形体が収縮するため、焼結成形体の内部に上記弁体に密着できる弁座を形成することは困難であった。このため、従来の製造手法では、ケーシングを焼結材料で形成する場合でも、上記弁座部は、切削加工等によって仕上げられることが多かった。上記遊動部材の外面形態を転写するようにして上記弁座を形成することにより、上記弁体の形態に対して精度の高い弁座を中空部の内面に形成することが可能となる。
【0021】
上記中子を、上記各工程において変化しない中子粉体成分と、この中子粉体成分を所定形状に保持する中子バインダ成分とを含んで形成することができる。中子粉体成分について上記各工程において変化しない材料とは、少なくとも、上記中子除去工程において粉体として除去できるものであればよく、収縮や、一部粉体同士の焼結が生じるものであってもよい。たとえば、上記焼結工程において焼結する粉体材料を一部に含ませることにより、焼結成形体の収縮率に対応する所要の収縮率を備えるように構成することができる。
【0022】
上記中子除去工程は、上記中子バインダ成分が上記脱脂工程又は上記焼結工程において除去されるとともに、上記中子粉体成分が、上記脱脂工程終了後又は焼結工程終了後に除去されることにより行われる。すなわち、上記中子除去工程は、上記中子バインダ成分と上記中子粉体成分とが分離して除去されることにより行われる。
【0023】
上記中子を、上記中子粉体成分と上記中子バインダ成分とを含んで構成することにより、上記遊動部材を、上記中子バインダ成分が消失した後でも、上記中子粉体成分によって、焼結材料成形体の中空部の所定位置に保持した状態で、上記脱脂工程及び上記焼結工程を行うことができる。上記中子粉体成分は、上記各工程において変化しない粉体材料から形成されているため、上記中子バインダ成分が消失した後は、上記中子は粉体状態、あるいは粉体成分の各粒子が容易に分離できるように連結された状態となり、上記遊動部材を所定位置に保持できるとともに、上記脱脂工程終了後あるいは上記焼結工程終了後に開口部等から、粉状流動体として容易に除去することが可能となる。
【0024】
上記中子粉体成分は、上記焼結材料より融点の高い材料から形成するのが好ましい。たとえば、上記焼結粉体として金属を採用する場合、上記中子粉体成分としてセラミック粉体を採用することができる。
【0025】
上記中子粉体成分を採用する場合、上記中子の上記脱脂工程及び上記焼結工程における収縮率を、上記焼結材料の収縮率に合わせて設定するのが好ましい。これにより、上記中子を上記焼結成形体の収縮率に合わせて収縮させることが可能となり、寸法精度の高い焼結成形体を形成することが可能となる。
【0026】
たとえば、上記中子粉体成分の粒度と、上記中子バインダ成分の配合量を調節することにより、脱脂工程及び焼結工程において、上記焼結成形体の収縮に合わせて、中子を収縮させることが可能となる。また、上記中子粉体成分は、上記中子バインダ成分が消失した後は粉体状、あるいは粉体成分の各粒子が容易に分離できるように連結された状態となるため、上記焼結工程において粉体焼結成形体の形状等に悪影響を及ぼすことはない。また、上記中子粉体成分は中空部の形態に対応した状態で
中子バインダ成分が除去されるため、上記粉体焼結成形体の中空部の成形精度を高めることもできる。
【0027】
上記中子は、上記焼結材料成形金型内の所定位置に、上記遊動部材を保持できれば種々の手法で形成することができる。たとえば、上記遊動部材と別途形成し上記中子設置工程において、これらを組み付けて設置することができる。また、上記遊動部材を内部に一体的に埋め込み保持した中子を形成することもできる。
【0028】
たとえば、上記中子形成工程を、中子成形空間を有する中子成形金型内の所定位置に上記遊動部材を保持した状態で、中子形成材料を上記中子成形空間に充填して行うことができる。上記遊動部材を上記中子の所定位置に位置決めして保持するため、上記中子とともに消失させることができる材料から形成された成形支持部材を介して上記遊動部材を保持した状態で、中子形成材料を上記中子成形空間に充填して行うことができる。
【0029】
さらに、上記中子形成工程と、中子設置工程とを別途行うこともできるし、連続して行うこともできる。たとえば、上記中子設置工程を、成形された中子から上記中子成形金型を離間させる工程と、上記中子成形金型を離間させた中子の周囲に、上記焼結材料成形金型を設置する工程とを含み、上記中子成形金型を離間させる工程と、上記焼結材料成形金型を設置する工程とを連続して行うことにより構成することもできる。
【0030】
本願発明に係る粉体焼結成形体の製造方法を用いて、内部に遊動部材を遊動可能に保持した種々の粉体焼結成形体を形成できる。特に、逆止弁等の流体素子の製造方法に好適である。
【0031】
また、本願発明に係る中子は、遊動部材を遊動可能に保持する中空部を有する粉体焼結成形体の製造に用いられる。本願発明に係る中子は、遊動部材が所定位置に保持されているとともに、上記粉体焼結成形体の製造工程における脱脂工程又は焼結工程において消失する樹脂成分を含むため、焼結材料成形工程、脱脂工程及び焼結工程を、上記遊動部材を保持した状態で行うことが可能になり、製造工程を効率化することが可能になる。
【0032】
特に、上記中子を、上記粉体焼結成形体の各製造工程において変化しない中子粉体成分と、上記中子粉体成分を結合するとともに、焼結工程が終了するまでに消失するバインダ成分とを含んで形成することができる。これにより、複雑な形態の遊動部材を、中空部内に設置した状態で、ケーシング等を一体焼結することも可能になり、これまでにない機能を有する流体素子等を形成することが可能となる。さらに、上記遊動部材は、後の工程において消失する成形支持部材を介して、上記中子の所定位置に埋め込み保持することにより、遊動部材がケーシングの内面を変形等させることもなくなり、精度の高い粉体焼結成形体を形成することができる。