特許第6403952号(P6403952)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6403952粉体焼結成形体の製造方法、流体素子の製造方法、粉体焼結成形体及び粉体焼結成形体製造用中子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403952
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】粉体焼結成形体の製造方法、流体素子の製造方法、粉体焼結成形体及び粉体焼結成形体製造用中子
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/02 20060101AFI20181001BHJP
【FI】
   B22F3/02 T
   B22F3/02 S
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-272552(P2013-272552)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-127433(P2015-127433A)
(43)【公開日】2015年7月9日
【審査請求日】2016年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】390010593
【氏名又は名称】太盛工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101605
【弁理士】
【氏名又は名称】盛田 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】田中 茂雄
(72)【発明者】
【氏名】横田 智行
【審査官】 國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−041802(JP,A)
【文献】 特開2009−019275(JP,A)
【文献】 特開2001−271942(JP,A)
【文献】 特開昭58−025942(JP,A)
【文献】 特開昭60−002343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00− 8/00
B29C 45/00−45/84
F16K 1/00− 1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空部と、この中空部に遊動可能に保持される遊動部材とを備える粉体焼結成形体の製造方法であって、
上記遊動部材を形成する遊動部材形成工程と、
上記中空部に対応した形態を備えるとともに上記遊動部材を上記中空部の所定位置に保持する中子を形成する中子形成工程と、
焼結材料成形体を形成する焼結材料成形金型内に上記中子を設置する中子設置工程と、
熱溶融性のバインダと焼結粉体とを含む焼結材料を、上記バインダを溶融させて上記焼結材料成形金型内に充填する焼結材料成形工程と、
上記バインダを加熱除去する脱脂工程と、
上記中子を除去する中子除去工程と、
上記焼結粉体を焼結して焼結成形体を形成する焼結工程とを含み、
上記遊動部材形成工程において、上記遊動部材を上記各工程において変化しない材料から形成し、
上記中子形成工程は、中子成形空間を有する中子成形金型内の所定位置に、上記中子とともに消失させることができる材料から形成された成形支持部材を介して、上記遊動部材を上記中子内部に埋め込み状に保持した状態で、中子形成材料を上記中子成形空間に充填して行われるとともに、
上記焼結工程において、上記遊動部材を遊動可能な状態で上記焼結粉体を焼結する、粉体焼結成形体の製造方法。
【請求項2】
上記遊動部材の周囲に、融点が上記焼結材料の融点より高く、上記焼結工程において、上記焼結材料と消失しない粉体がコーティングされる、請求項1に記載の粉体焼結成形体の製造方法。
【請求項3】
記中子除去工程の終了時に、上記遊動部材を上記中空部の所定位置に保持させるとともに、
上記遊動部材を上記所定位置に保持した状態で、上記焼結工程が行われる、請求項1又は請求項2に記載の粉体焼結成形体の製造方法。
【請求項4】
上記焼結工程において、上記遊動部材の外面形態の少なくとも一部が、焼結過程にある上記焼結材料成形体の上記中空部の内面に転写される、請求項3に記載の粉体焼結成形体の製造方法。
【請求項5】
上記中子は、上記各工程において変化しない中子粉体成分と、この中子粉体成分を所定形状に保持する中子バインダ成分とを含んで形成されており、
上記中子除去工程は、
上記中子バインダ成分が上記脱脂工程又は上記焼結工程において除去されるとともに、
上記中子粉体成分が、上記脱脂工程終了後又は焼結工程終了後に除去されることにより行われる、請求項1又は請求項2に記載の粉体焼結成形体の製造方法。
【請求項6】
上記遊動部材を、上記中子粉体成分によって所定位置に保持した状態で、上記焼結工程が行われる、請求項5に記載の粉体焼結成形体の製造方法。
【請求項7】
上記焼結粉体が金属粉体であり、上記遊動部材がセラミックから形成されている、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の粉体焼結成形体の製造方法。
【請求項8】
上記中子設置工程は、成形された中子から上記中子成形金型を離間させる工程と、
上記中子成形金型を離間させた中子の周囲に、上記焼結材料成形金型を設置する工程とを含み、
上記中子成形金型を離間させる工程と、上記焼結材料を形成する焼結材料成形金型を設置する工程とが連続して行われる、請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のの粉体焼結成形体の製造方法。
【請求項9】
請求項1から請求項8に記載された粉体焼結成形体の製造方法によって形成され、内部に遊動可能に保持された遊動部材を備える流体素子の製造方法。
【請求項10】
上記遊動部材が弁体である、請求項9に記載の逆止弁の製造方法。
【請求項11】
中空部を有する粉体焼結成形体の製造に用いられる中子であって、
遊動部材は、上記中子とともに消失させることができる材料から形成された成形支持部材を介して、上記中子内部の所定位置に埋め込み状に保持されているとともに、
上記中子は、上記粉体焼結成形体の製造工程における脱脂工程又は焼結工程において消失する樹脂成分を含む、粉体焼結成形体製造用中子。
【請求項12】
中空部を有する粉体焼結成形体の製造に用いられる中子であって、
上記粉体焼結成形体の各製造工程において変化しない中子粉体成分と、
上記中子粉体成分を結合するとともに、焼結工程が終了するまでに消失するバインダ成分とを含み、
各製造工程において変化しない材料から形成された遊動部材が所定位置に保持されている、粉体焼結成形体製造用中子。
【請求項13】
上記遊動部材は、後の工程において消失する成形支持部材を介して、上記中子の所定位置に埋め込み保持されている、請求項11又は請求項12に記載の粉体焼結成形体製造用中子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、粉体焼結成形体の製造方法に関する。詳しくは、内部に遊動部材を備える粉体焼結成形体を一体的に製造する方法に関し、逆止弁等の種々の流体素子の製造方法に好適な粉体焼結成形体の製造方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば、逆止弁は、流体を一方向へ流す一方、逆方向への流れを阻止するように構成されている。通常、逆止弁は、ケーシング内に、上記流体の流れによって変位あるいは揺動させられる弁体と、この弁体が密着させられる弁座を設けて構成されている。
【0003】
従来の逆止弁は、2分割できるとともに内部に弁座を設けた中空状のケーシングを形成し、このケーシング内に上記弁体を設置した後に上記ケーシングを組み付けることにより、上記弁体をケーシング内に変位あるいは揺動可能に保持させていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−9064号公報
【0005】
上記特許文献1には、金属粉体を射出成形することにより複数の部品を形成しこれら部品を焼結前に組み立て、その後、焼結することにより一体化する金属成形組立部品及びその製造方法が記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1に記載された発明では、焼結前に複数の部品を組み立て、組立品を一体的に焼結することにより、内部に遊動可能な部材を保持するように構成している。上記特許文献1に記載された発明では、特に、内部に弁体を組み込むために、ケーシングを複数の部材から形成する必要がある。
【0007】
上記手法では、射出成形によって複数ケーシング部品を形成しなければならない。このため、焼結工程以外の工程が、上記部品の数だけ必要になり、これら部品を焼結前に組み立てる工程も必要になる。したがって、製造工程が増加するとともに、製造費用が増加するといった問題がある。
【0008】
また、焼結前の粉体成形部品は壊れやすく、組み立てる際に角部等が破損しやすい。また、形状によっては、複数の部品を精度高く組み立てるのが困難な場合がある。
【0009】
さらに、焼結前の部品が別々に形成されるため、脱脂工程や焼結工程において各部品は独自に収縮する。このため、各部品におけるバインダや焼結粉体等の配合成分が少しでも異なると各部品間で収縮率が異なることになる。この結果、一体焼結する際に、接合部に段差や空孔等の欠陥が生じやすい。
【0010】
また、遊動部材を内部に保持した状態で焼結工程を行うと、上記遊動部材が、焼結過程にあるケーシング等に当接して、焼結成形体を変形させたり、遊動部材が焼結成形体と焼結してしまう恐れがある。
【0011】
本願発明は、上記従来の問題を解決し、中空部に遊動可能に保持される遊動部材を備える粉体焼結成形体を、一体的に成形できるとともに、一体的に脱脂・焼結することができる、粉体焼結成形体の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明は、中空部と、この中空部に遊動可能に保持される遊動部材とを備える粉体焼結成形体の製造方法であって、上記遊動部材を形成する遊動部材形成工程と、上記中空部に対応した形態を備えるとともに上記遊動部材を上記中空部の所定位置に保持する中子を形成する中子形成工程と、焼結材料成形体を形成する焼結材料成形金型内に上記中子を設置する中子設置工程と、熱溶融性のバインダと焼結粉体とを含む焼結材料を、上記バインダを溶融させて上記焼結材料成形金型内に充填する焼結材料成形工程と、上記バインダを加熱除去する脱脂工程と、上記中子を除去する中子除去工程と、上記焼結粉体を焼結して焼結成形体を形成する焼結工程とを含み、上記遊動部材形成工程において、上記遊動部材を上記各工程において変化しない材料から形成するとともに、上記焼結工程において、上記遊動部材を遊動可能な状態で上記焼結粉体を焼結する、粉体焼結成形体の製造方法に係るものである。上記中子形成工程は、中子成形空間を有する中子成形金型内の所定位置に、上記中子とともに消失させることができる材料から形成された成形支持部材を介して、上記遊動部材を上記中子内部に埋め込み状に保持した状態で、中子形成材料を上記中子成形空間に充填して行われる。
【0013】
本願発明では、中空状の粉体焼結成形体を、内部に遊動部材を保持した状態で一体的に成形し、脱脂し、また焼結する。このため、従来の手法に比べて、製造工程を大幅に削減することができる。
【0014】
上記遊動部材は、上記各工程において変化しない材料で形成される。遊動部材における上記変化しない材料とは、少なくとも上記各工程において、溶融したり劣化したりしないことを意味する。たとえば、上記焼結粉体が金属である場合、上記遊動部材を、上記金属より融点が高いセラミックから形成することができる。また、上記焼結粉体に低融点の金属材料を採用する一方、上記遊動部材に上記焼結粉体より融点が高く、上記焼結金属とは焼結しない他の金属やセラミック材料を採用することもできる。また、上記焼結粉体に樹脂粉体を採用する一方、上記遊動部材として、金属やセラミックを採用することもできる。
【0015】
本願発明では、上記中空部を形成するために、後の工程において消失する中子が用いられる。上記中子は、上記中空部に対応した形態を備えるとともに、上記遊動部材を上記中空部の所定位置に保持できるように構成される。すなわち、上記中子は、少なくとも上記中空部の内面形態に対応する外面形態を備えて構成される。なお、上記焼結材料成形金型内に設置するための位置決め凸部等を設けることもできる。上記中子は、上記脱脂工程又は上記焼結工程において除去される中子バインダ成分を含んで形成することができる。上記中子バインダ成分は、上記脱脂工程又は上記焼結工程において加熱されることにより除去される。
【0016】
上記中子バインダ成分は、後の工程において消失させることができれば、種々の樹脂材料から形成することができる。たとえば、上記焼結粉体を結合するバインダの樹脂成分から上記中子を形成し、脱脂工程において、上記バインダとともに消失させることができる。なお、形成された中子を、焼結材料成形金型内に設置した後に、上記バインダを含む焼結粉体が充填されるため、上記中子バインダ成分は、上記焼結材料に含まれる上記バインダより融点の高い樹脂材料から形成するのが好ましい。
【0017】
上記中子は、上記中子除去工程の終了時に、上記遊動部材を上記中空部の所定位置に保持させるように構成することができる。上記脱脂工程又は上記焼結工程において、上記中子が完全に消失する場合、上記遊動部材が、中空状の焼結材料成形体内に独立して取り残されることになる。一方、上記焼結材料成形体は未だ焼結が完了しておらず、上記遊動部材が中空内壁に当接した状態で脱脂工程が終了し、あるいは焼結工程が行われることになる。
【0018】
上記遊動部材には重力による力が作用するため、焼結中に上記焼結材料成形体の内壁を変形させたり、上記内壁に焼結してしまうことも考えられる。上記不都合を回避するため、焼結材料成形工程において、上記中子が消失したとき、上記遊動部材を所定位置に保持する保持部を形成して、上記保持部に上記中子を安定的に保持した状態で焼結工程を行うように構成するのが好ましい。また、上記中子の周囲を上記焼結材料と焼結しない材料でコーティング等しておくこともできる。たとえば、上記遊動部材の周囲に上記焼結材料の融点より高く、上記焼結材料と焼結しない粉体をコーティングすることにより、上記遊動部材を上記焼結材料成形体の中空内面から離間させた状態で、焼結材料成形体の内部に保持して、上記焼結工程を行うことができる。
【0019】
遊動部材に作用する上記重力を利用して、上記焼結工程において、上記遊動部材の外面形態の少なくとも一部が、焼結過程にある上記中空部の内面に転写されるように構成することができる。
【0020】
たとえば、逆止弁等における弁座は、弁体となる上記遊動部材の外面と密着するように形成する必要がある。ところが、上記焼結工程において、上記焼結成形体が収縮するため、焼結成形体の内部に上記弁体に密着できる弁座を形成することは困難であった。このため、従来の製造手法では、ケーシングを焼結材料で形成する場合でも、上記弁座部は、切削加工等によって仕上げられることが多かった。上記遊動部材の外面形態を転写するようにして上記弁座を形成することにより、上記弁体の形態に対して精度の高い弁座を中空部の内面に形成することが可能となる。
【0021】
上記中子を、上記各工程において変化しない中子粉体成分と、この中子粉体成分を所定形状に保持する中子バインダ成分とを含んで形成することができる。中子粉体成分について上記各工程において変化しない材料とは、少なくとも、上記中子除去工程において粉体として除去できるものであればよく、収縮や、一部粉体同士の焼結が生じるものであってもよい。たとえば、上記焼結工程において焼結する粉体材料を一部に含ませることにより、焼結成形体の収縮率に対応する所要の収縮率を備えるように構成することができる。
【0022】
上記中子除去工程は、上記中子バインダ成分が上記脱脂工程又は上記焼結工程において除去されるとともに、上記中子粉体成分が、上記脱脂工程終了後又は焼結工程終了後に除去されることにより行われる。すなわち、上記中子除去工程は、上記中子バインダ成分と上記中子粉体成分とが分離して除去されることにより行われる。
【0023】
上記中子を、上記中子粉体成分と上記中子バインダ成分とを含んで構成することにより、上記遊動部材を、上記中子バインダ成分が消失した後でも、上記中子粉体成分によって、焼結材料成形体の中空部の所定位置に保持した状態で、上記脱脂工程及び上記焼結工程を行うことができる。上記中子粉体成分は、上記各工程において変化しない粉体材料から形成されているため、上記中子バインダ成分が消失した後は、上記中子は粉体状態、あるいは粉体成分の各粒子が容易に分離できるように連結された状態となり、上記遊動部材を所定位置に保持できるとともに、上記脱脂工程終了後あるいは上記焼結工程終了後に開口部等から、粉状流動体として容易に除去することが可能となる。
【0024】
上記中子粉体成分は、上記焼結材料より融点の高い材料から形成するのが好ましい。たとえば、上記焼結粉体として金属を採用する場合、上記中子粉体成分としてセラミック粉体を採用することができる。
【0025】
上記中子粉体成分を採用する場合、上記中子の上記脱脂工程及び上記焼結工程における収縮率を、上記焼結材料の収縮率に合わせて設定するのが好ましい。これにより、上記中子を上記焼結成形体の収縮率に合わせて収縮させることが可能となり、寸法精度の高い焼結成形体を形成することが可能となる。
【0026】
たとえば、上記中子粉体成分の粒度と、上記中子バインダ成分の配合量を調節することにより、脱脂工程及び焼結工程において、上記焼結成形体の収縮に合わせて、中子を収縮させることが可能となる。また、上記中子粉体成分は、上記中子バインダ成分が消失した後は粉体状、あるいは粉体成分の各粒子が容易に分離できるように連結された状態となるため、上記焼結工程において粉体焼結成形体の形状等に悪影響を及ぼすことはない。また、上記中子粉体成分は中空部の形態に対応した状態で中子バインダ成分が除去されるため、上記粉体焼結成形体の中空部の成形精度を高めることもできる。
【0027】
上記中子は、上記焼結材料成形金型内の所定位置に、上記遊動部材を保持できれば種々の手法で形成することができる。たとえば、上記遊動部材と別途形成し上記中子設置工程において、これらを組み付けて設置することができる。また、上記遊動部材を内部に一体的に埋め込み保持した中子を形成することもできる。
【0028】
たとえば、上記中子形成工程を、中子成形空間を有する中子成形金型内の所定位置に上記遊動部材を保持した状態で、中子形成材料を上記中子成形空間に充填して行うことができる。上記遊動部材を上記中子の所定位置に位置決めして保持するため、上記中子とともに消失させることができる材料から形成された成形支持部材を介して上記遊動部材を保持した状態で、中子形成材料を上記中子成形空間に充填して行うことができる。
【0029】
さらに、上記中子形成工程と、中子設置工程とを別途行うこともできるし、連続して行うこともできる。たとえば、上記中子設置工程を、成形された中子から上記中子成形金型を離間させる工程と、上記中子成形金型を離間させた中子の周囲に、上記焼結材料成形金型を設置する工程とを含み、上記中子成形金型を離間させる工程と、上記焼結材料成形金型を設置する工程とを連続して行うことにより構成することもできる。
【0030】
本願発明に係る粉体焼結成形体の製造方法を用いて、内部に遊動部材を遊動可能に保持した種々の粉体焼結成形体を形成できる。特に、逆止弁等の流体素子の製造方法に好適である。
【0031】
また、本願発明に係る中子は、遊動部材を遊動可能に保持する中空部を有する粉体焼結成形体の製造に用いられる。本願発明に係る中子は、遊動部材が所定位置に保持されているとともに、上記粉体焼結成形体の製造工程における脱脂工程又は焼結工程において消失する樹脂成分を含むため、焼結材料成形工程、脱脂工程及び焼結工程を、上記遊動部材を保持した状態で行うことが可能になり、製造工程を効率化することが可能になる。
【0032】
特に、上記中子を、上記粉体焼結成形体の各製造工程において変化しない中子粉体成分と、上記中子粉体成分を結合するとともに、焼結工程が終了するまでに消失するバインダ成分とを含んで形成することができる。これにより、複雑な形態の遊動部材を、中空部内に設置した状態で、ケーシング等を一体焼結することも可能になり、これまでにない機能を有する流体素子等を形成することが可能となる。さらに、上記遊動部材は、後の工程において消失する成形支持部材を介して、上記中子の所定位置に埋め込み保持することにより、遊動部材がケーシングの内面を変形等させることもなくなり、精度の高い粉体焼結成形体を形成することができる。
【発明の効果】
【0033】
製造工程を効率化できるとともに、精度の高い粉体焼結成形体を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本願発明に係る逆止弁の外観構造を示す斜視図である。
図2図1に示す逆止弁の軸に沿う断面図である。
図3図2示す逆止弁の製造に用いる中子の全体斜視図である。
図4】弁体を中子の内部に保持する成形支持部材の外観斜視図である。
図5】中子成形金型内に弁体を保持した状態の断面図である。
図6】中子成形金型内に中子成形材料を充填した状態を示す断面図である。
図7】焼結材料成形金型内に図3に示す中子を設置した状態を示す断面図である。
図8図7に示す焼結材料成形金型内に焼結材料を充填した状態を示す断面図である。
図9】中子を内部に備える焼結材料成形体の断面図である。
図10図9に示す焼結材料成形体を脱脂し、焼結した後に中子粉体成分を除去する状態を示す断面図である。
図11】本願発明の第2の実施形態を示す図であり、図7に相当する断面図である。
図12図11に示す焼結材料成形金型内に焼結材料を充填した状態を示す断面図である。
図13】焼結材料成形体を脱脂している状態を示す断面図である。
図14】焼結工程を終えた焼結成形体の断面図である。
図15図14の要部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、本願発明に係る実施形態を図に基づいて説明する。なお、本実施形態は内部に球状の弁体8を備える逆止弁1に本願発明を適用しているが、内部に遊動部材を備える他の製品に本願発明を適用することもできる。
【0036】
図1は、本願発明に係る粉体焼結成形体の製造方法によって形成された逆止弁1の外観斜視図であり、図2は、内部構造を示す断面図である。
【0037】
これらの図に示すように、逆止弁1は、軸対象の外観形態を備えるとともに、内側に流入路4を設けたホース接続部3と、内部に逆止構造を設けた本体2と、上記ホース接続部3と反対側に開口された流出路6とを備えて構成される。
【0038】
図2に示すように、上記本体2の内部には中空部5が形成されており、この中空部5内に、球状の弁体8が収容されている。上記中空部5の上記ホース接続部側は、上記弁体8が当接して、上記流入路4を封止できる環状の弁座部5aが形成されている。一方、上記流入路4と反対側には、隙間9を開けて上記弁体8を保持できる弁体保持部7が、上記中空部5の壁面から突出するように形成されている。
【0039】
上記弁体8は、流体の流動方向によって、上記弁座部5aに当接させられる閉位置(破線で示す位置)と、上記弁体保持部7に保持されて、上記隙間9を介して流体を流動させる開位置(実線で示す位置)に遊動できるように構成されている。また、本実施形態では、上記中空部5を、上記流入路4に向かって直径が縮小する椀状に形成し、上記流入路4に向かって流体が逆流しようとしたき、上記弁体8が上記弁座部5aに誘導されて、流路を閉止できるように構成されている一方、上記流出路6側には、上記弁体8を、隙間9を開けて保持できる4つの弁体保持部7が、上記流出路6を囲むように、上記中空部5の内面から突出形成されおり、上記流出路6の方向に流体が流動するのを妨げないように構成している
【0040】
本実施形態に係る上記逆止弁1は、弁体8と上記本体2の2つの部材から構成されており、上記中空部5に上記弁体8を遊動可能に保持した状態で、上記本体2が、金属粉体焼結成形体から一体形成されている。
【0041】
以下、上記逆止弁1の製造手法を説明する。
【0042】
上記逆止弁1は、上記中空部5を形成する中子31を用いて形成される。図3に示すように、上記中子31は、上記中空部5の内面形態に対応した外面形態を備えるとともに、内部に上記弁体8を保持して形成される。上記中子31の軸方向両端部には、図7に示す焼結材料成形金型32の所定位置に上記中子31を位置決め設置するための位置決め凸部31a,31bが一体形成されている。また本実施形態では、中子31の中央部に上記弁体8を埋め込み状に保持して形成されている。なお、本実施形態では、上記弁体8を、中子31の中央部に埋め込み状に設けたが、これに限定されることはなく、上記中子31内に保持するように構成すればよい。
【0043】
中央部に上記弁体8を埋め込んだ状態で上記中子31を形成するため、図4に示す成形支持部材10が用いられる。上記成形支持部材10は、球状の弁体8の周囲に、図5に示す中子成形金型20の成形空間23の内面に当接して位置決めできる支持部11を、上記弁体8を囲むように設けて形成されている。上記支持部11間には、中子成形材料30を流動させる隙間11aが形成されている。
【0044】
成形支持部材10は、後の工程において、上記中子31と同様に消失させることができる樹脂材料等から形成される。本実施形態では、後に説明するように、上記成形支持部材10を、上記中子31を構成する材料と同一の材料から形成している。
【0045】
上記成形支持部材10の形態は、特に限定されることはない。上記弁体8を中子成形金型20の所定位置に位置決めして保持できれば、種々の形態の成形支持部材を採用できる。また、形成手法も特に限定されることはない。たとえば、射出成形法等を利用して形成することができる。上記弁体8との連結手法も特に限定されることはなく、たとえば、上記弁体8をインサートした射出成形法を採用できる。また、上記成形支持部材を別途形成しておき、樹脂の弾性等を利用して上記弁体8を嵌め込んで連結することもできる。
【0046】
図5に、上記中子31を形成する中子成形金型20の断面図を示す。
【0047】
上記中子成形金型20は、上記中子31の外面形態に対応した中子成形空間23と、上記中子成形空間23の軸方向両端部から突出する支持軸部成形空間2425と、成形材料充填口26とを備えて構成される。上記中子成形金型20は、上記一対の金型部材20a,20bを備えて構成されるとともに、これら金型部材20a,20b間に、上記中子成形空間23及び上記支持軸部成形空間24,25が構成されるように形成されている。
【0048】
図6に示すように、上記中子成形空間23内に、上記中子31を形成する中子成形材料が、充填口26から充填される。本実施形態に係る上記中子成形材料30は、上記各工程において変化しない中子粉体成分と、この中子粉体成分を連結して所定形状に保持する中子バインダ成分とを含んで形成されている。
【0049】
上記中子粉体成分は、後に示す脱脂工程及び焼結工程において変化しない粉体材料から形成されている。上記粉体材料として、セラミックから形成された粉体材料を採用することができる。例えば、酸化珪素を主成分とする鋳物砂等を採用することができる。また、上記粉体成分は、射出成形により成形型内に充填できる粒度のものを採用するのが好ましい。一方、上記中子バインダ成分は、焼結成形体を形成する焼結材料に含まれるバインダと同じ樹脂材料から形成することができる。
【0050】
本実施形態では、上記成形支持部材10によって、弁体8が、中子31の中央部に位置決めされた状態で、上記中子成形材料30を充填することができる。また、上記成形支持部材10の隙間11aを介して、上記中子成形材料30を、上記中子成形空間23の全体に円滑に充填することができる。上記手法によって、図3に示す中子31が形成される。
【0051】
次に、上記中子31を用いて、焼結材料成形体が形成される。本実施形態に係る焼結材料成形体は、熱溶融性のバインダと金属焼結粉体とを含む焼結材料を、射出成形法によって成形することにより形成される。なお、上記バインダと上記金属焼結粉体は、特に限定されることはなく、種々の材料から形成されたものを採用することができる。
【0052】
図7に示すように、上記焼結材料成形体を成形する上記焼結材料成形金型32は、一対の金型部材32a,32bから形成されており、これら金型部材32a32b間に形成される成形空間33内に、充填口34を介して上記焼結材料を充填して、上記焼結材料成形体が形成される。
【0053】
上記焼結材料成形金型32には、上記中子31が設置される。上記中子31は軸方向端部に設けた位置決め凸部31a,31bが、上記焼結材料成形金型32に形成された係合凹部35a,35bに係合されて、上記成形空間33内に位置決め保持される。
【0054】
図8に示すように、上記充填口34から上記焼結材料40を充填した後、上記焼結材料成形金型32を離間させることにより、図9に示す焼結材料成形体41が形成される。上記焼結材料成形体41は、中子31を介して弁体8が内部に保持されている。
【0055】
次に、上記焼結材料成形体のバインダ成分を除去する脱脂工程が行われる。上記脱脂工程は、加熱することにより、上記焼結材料40を構成するバインダ成分及び及び上記中子31を構成する中子バインダ成分を気化させて除去することにより行われる。本実施形態では、上記中子31は、中子粉体成分と中子バインダ成分とから形成されているため、上記脱脂工程中、上記弁体8は、上記中子粉体成分によって所定位置に保持される。
【0056】
その後、上記焼結材料が焼結する温度で所定時間加熱することにより、焼結工程が行われる。上記焼結工程は、上記弁体8が、上記中子31の粉体成分中に保持された状態で行われる。このため、上記焼結工程において、上記弁体8が中空部5の内部で移動して、上記中空部5の内部を傷める恐れはない。また、上記中子成形材料30は、上記脱脂工程及び上記焼結工程において、上記焼結材料と同じ収縮率で収縮するように設定されている。たとえば、上記中子バインダ成分と中子粉体成分の配合量、及び中子粉体成分の粒度を設定することにより、上記中子成形材料の収縮率を調整することができる。
【0057】
上記焼結工程を行うことにより金属粉体からなる焼結材料が焼結され、焼結生成体が形成される。一方、中子粉体材料は、上記焼結工程において変化せず、粉体の状態で、あるいは粉体粒子が弱い力で連結された状態で焼結工程が行われるこのため、図10に示すように、焼結工程終了後に、上記中子粉体成分を、流出路6等から流動させて容易に排出することができる。
【0058】
上記手法を採用することにより、弁体8を中空部5内に保持した状態で、逆止弁を一体成形することが可能となる。このため、工程を大幅に削減できる。また全体を一体的に焼結成形できるため、精度の高い形態を備える逆止弁を形成できる。
【0059】
図11から図13に、本願発明の第2の実施形態を示す。
【0060】
本実施形態に係る中子231は、脱脂工程において消失する樹脂材料から構成される中子成形材料を用いて形成される。上記樹脂材料として、たとえば、焼結材料を構成するバインダ成分と同じ成分から形成したものを採用できる。なお、中子231の内部に球状の弁体が保持されている構造は、第1の実施形態と同様である。また、中子231は、上記中子成形材料から形成された成形支持部材中に弁体8を保持した状態で、中子成形金型内に上記中子成形材料が充填されて成形される点は、第1の実施形態と同様である。
【0061】
図11及び図12に示すように、本実施形態においても、上記焼結材料成形金型内に、第1の実施形態と同様に中子231を位置決め設置して、焼結材料240が充填される。
【0062】
本実施形態では、上記中子231は、中子粉体成分が含まれないため脱脂工程あるいは焼結工程の途中において、中子が完全に除去される。図13に示すように、本実施形態ではホース接続部3を下方に向けて、上記脱脂工程及び上記焼結工程が行われる。すなわち、本実施形態においては、弁座部205aを、弁体8より下方に位置させた姿勢で、焼結材料成形体の脱脂工程及び焼結工程が行われる。
【0063】
上記姿勢で脱脂工程を行い上記中子を除去していくと、図13に示すように、中子の消失とともに、重力によって弁体8が下方へ移動させられる。上記ホース接続部203側の成形空間は椀状に形成されているため、上記中子231が消失しとき、上記中子231内に埋め込み保持された球状の弁体8は、上記椀状の成形空間205の底部中央に位置決めされた状態となる。
【0064】
図14に示すように、上記弁体8を上記位置に位置決めして焼結すると、上記焼結材料240の焼結に伴う収縮によって、上記弁体8の当接部位近傍に、上記弁体8の外面形態が転写される。本実施形態では、図15に示すように、弁体8の球面の一部が、流入路204の縁部近傍に転写され、上記弁体8と共働して流路を閉止できる弁座部205aが形成されるのである。
【0065】
上記弁体8が、上記焼結工程において、焼結しつつある焼結成形体に焼結されないように構成するのが望ましい。たとえば、上記弁体8を焼結成形体に対して離型性のあるセラミック材料で形成することができる。また、上記弁体8の外周面に、離型性のあるセラミック粉体等をコーティングしておくこともできる。
【0066】
上記手法を採用することにより、上記弁体8の外面に対応するとともに、流路を確実に閉止できる弁座部205aを形成できる。これにより、後加工等を要することなく、封止精度の高い逆止弁を形成することが可能となる。なお、本実施形態では、球状の弁体を用いたが、円錐状等の他の形態を備える弁体を採用することもできる。
【0067】
本願発明は、上述の実施形態に限定されることはない。本実施形態は、本願発明を逆止弁に適用したが、内部に遊動部材を備える他の機器に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
中空部に遊動可能に保持される遊動部材とを備える粉体焼結成形体を、一体的に焼結して形成することが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1 逆止弁(粉体焼結成形体)
5 中空部
8 弁体(遊動部材)
31 中子
32 焼結材料成形金型
41 焼結材料成形体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15