(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6403956
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】複合紡績糸
(51)【国際特許分類】
D02G 3/36 20060101AFI20181001BHJP
D02G 3/04 20060101ALI20181001BHJP
D02G 3/24 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
D02G3/36
D02G3/04
D02G3/24
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-28583(P2014-28583)
(22)【出願日】2014年2月18日
(65)【公開番号】特開2015-151651(P2015-151651A)
(43)【公開日】2015年8月24日
【審査請求日】2016年12月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】592197315
【氏名又は名称】ユニチカトレーディング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西山 武史
【審査官】
加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−213535(JP,A)
【文献】
特開2004−183191(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D02G 3/36
D02G 3/04
D02G 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成繊維を短繊維のみとする紡績糸であり、該紡績糸の横断面が、海部と島部により構成され、前記海部を構成する短繊維がセルロース系短繊維であり、前記島部を構成する短繊維がポリエステル(ポリ乳酸を除く)短繊維であり、前記複合紡績糸における一つの海部において島部の数が2個以上であることを特徴とする複合紡績糸。
【請求項2】
JIS−L−1095一般紡績糸試験方法における「毛羽」9.22.2B法に準じて測定した5mm(5mm以上のもの)の毛羽数(個/10m)が29.8以下であることを特徴とする請求項1に記載の複合紡績糸。
【請求項3】
紡績糸における島部と海部の構成比(質量比)が20:80〜50:50であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合紡績糸。
【請求項4】
JIS−L−1095一般紡績糸試験方法における「毛羽」9.22.2B法に準じて測定した3mm(3mm以上のもの)の毛羽数(個/10m)が153.2以下であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の複合紡績糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強力や抗ピリング性に優れた紡績糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芯鞘構造を有する二層構造紡績糸は、例えばその製造方法は、特許文献1〜3により知られているが、芯部を鞘部のそれぞれに配する繊維の種類を種々選択することにより、各種の機能性を付与することができ構造である。例えば、芯部には強度を担わせるために強度の高い繊維を配し、鞘部に肌触りのよい繊維を配することにより、実用的な強度を有しながら、肌触りの良好な紡績糸となる。しかしながら、異なる素材を配してなる芯鞘二層構造の紡績糸は、その構造上、芯部と鞘部との境界における繊維同士の結束力が劣る。すなわち、異なる素材同士が繊維の単位で混ざり合ってなる混紡糸と比べると、繊維同士の結束力が劣るのである。繊維同士の結束力が劣ると、毛羽が発生しやすい傾向にあり、また糸の引張強力や、該紡績糸を用いた生地の抗ピリング性等についても結束力不足によって低下する懸念がある。
【0003】
これを解決する方法として、フィラメントによるカバリングすることや、精紡時に撚数をアップすることや、双糸化すること等が挙げられる。しかしながら、これらの手法は、風合いや肌触りが硬くなる傾向にあり、風合いを維持したままで強力や抗ピリング性を向上させることは難しかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭56−11775号公報
【特許文献2】特公昭59−20774号公報
【特許文献3】特公平5−85655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述した状況に鑑みて、風合いや肌触りを損ねることなく糸の毛羽を抑え、引張強力を向上させ、結果として該紡績糸を用いた生地の抗ピリング性を向上させることが可能な紡績糸を提供することを技術的な課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意研究の結果、本発明に到達した。
【0007】
すなわち、本発明は、構成繊維を短繊維のみとする紡績糸であり、該紡績糸の横断面が、海部と島部により構成され、海部と島部はそれぞれ異なる素材の短繊維によって構成され、島部の数が2個以上であることを特徴とする複合紡績糸を要旨とする。
【0008】
次に、本発明について詳細に説明する。
【0009】
本発明の複合紡績糸は、構成繊維を短繊維のみとし、その横断面が海部と島部により構成されている。すなわち、海部の中に個々に独立した島部が存在している複合形態である。個々の島部が、海部を形成する短繊維によって覆われてなる形態を採用することにより、島部を形成する短繊維群、特に島部と海部との境界部分に存在する島部の短繊維群と、その島部の境界部分に存在する海部の短繊維群とが結束力を強め、また、海部を構成する短繊維群においても結束力があり、その結果として風合いや肌触りを損ねることなく、糸の毛羽を抑え、糸の引張強力や該紡績糸を用いた生地の抗ピリング性を高いレベルに保つことができるものである。なお、本発明において、長繊維を用いることなく、短繊維のみを用いて紡績糸とする理由は、短繊維は、長繊維と比べて集合体としたときに繊維同士が絡みやすく結束力を強めることができるからである。
【0010】
本発明において、島部および海部を構成する短繊維は、それぞれ異なる素材を配する。例えば、綿、ウール、麻、竹、絹等の天然繊維、またはポリエステル、ポリアミド、アクリル、レーヨン、リヨセル、ビニロン等の化学繊維・合成繊維からなる短繊維、あるいはこれらを混紡したもの等を用いることができる。島部および海部には、繊維の性能や機能を考慮して、適宜選択してそれぞれに配することにより、得られる複合紡績糸に特有の機能を付与することができる。特に、島部に熱可塑性合成繊維を配し、海部にセルロース繊維のように親水性を有する繊維を配した場合、強力や形態安定性、吸水速乾性といった機能性と、優しい肌触りとを兼ね備えることができ好ましい。
【0011】
本発明の複合紡績糸は、島部が2個以上で、複数有しており、かつ各々の島部の短繊維束が密着することなく、個々の島部が海部の短繊維群により被覆されていることが必要である。例えば、ひとつの芯部を鞘部が覆ってなる、いわゆる芯鞘複合形態では、芯部を形成する短繊維群と鞘部を形成する短繊維群との境界での結束が弱く、引っ張りや摩耗によって鞘部の短繊維群の一部が脱落したり、強力が落ちたりする懸念がある。これに対して本発明の複合紡績糸は、複数の島部同士の間に存在する海部の短繊維群がアンカーを成して島部の短繊維束と海部の短繊維群の結束力を高め、結果として引っ張りや摩耗への耐久性が上がり、強力・抗ピリング性が向上する。
【0012】
島部の個数は限定しないが、海島型構造を効果的に奏することや、個々の島部を海部によって良好に覆う形態とすることを考慮すると2〜4個が好ましい。さらには、精紡する際の安定性を考えると、より好ましくは2個である。島部が5個以上になると、各々の島部を密着させることなく海部を構成する短繊維で被覆することが難しくなり、また島部を構成する短繊維束が細くなりすぎる傾向となり、紡績時のスライバー切れ等の操業不良の原因になる懸念がある。
【0013】
複合紡績糸における島部(島部の合計)と海部の質量比は、20:80〜50:50であることが好適であり、望ましくは20:80〜45:55である。これは、海部の質量比を50質量%以上とすることにより、2個以上存在する各々の島部が密着することなく、海部の短繊維によって被覆しやすく安定した複合断面形態を得ることができる。また、島部の比率を20質量%以上とすることにより、島部に配する繊維の特性や機能も十分に発揮させることができる。
【0014】
本発明の複合紡績糸の撚り数は特に限定されるものではないが、風合い・肌触りを損なうことなく強力や抗ピリング性を向上させることを考慮すると、撚係数Kが3.0〜6.0の範囲内にあることが好ましく、さらに望ましくは3.4〜4.2の範囲内にあることが好ましい。撚係数Kが3.0に満たない場合、撚数が低いことによる引張強力や抗ピリング性の低下が懸念され、逆に撚係数Kが6.0を超える場合は、撚数が高いことによって紡績糸が硬く絞まったものとなり、風合いの低下が顕著となりやすい。
【0015】
次に、本発明の紡績糸の製造方法について説明する。
まず、複合紡績糸において「島部」に配することになる繊維を芯部に配し、複合紡績糸において「海部」に配することになる繊維を鞘部に配してなる芯鞘二層構造の粗糸を作成する。得られた芯鞘二層構造の粗糸について、少なくとも2本の粗糸を、それぞれ密着させずに間隔をあけて、同時にリング精紡機のバックローラーに通す。そして、バックローラー−エプロン−フロントローラーに通して引き延ばしてドラフトした後、木管に巻き取られる前の段階で、このドラフトした芯鞘構造の粗糸同士を撚り合せて、複合紡績糸を安定的に得る。この時、リング精紡機のバックローラーに通す粗糸の本数によって、得られる紡績糸の島部の個数が決定される。すなわち、撚り合わせて複合紡績糸とした際に、芯部は紡績糸の島部となり、鞘部は撚り合わされて、鞘部同士が絡み一体化して海部を形成する。ドラフトされた複数の繊維束(粗糸)を合わせて撚ることにより、互いの繊維束における表面の毛羽が撚り込まれ、絡み一体化し、さらに、得られる紡績糸の毛羽が少なくなるという効果も奏する。
【0016】
ここで、具体的に本発明の製造方法について、図面を用いて説明する。
図1は本発明の紡績糸を得るのに必要な粗糸を作成する粗紡機の一例の概略側面図であり、
図2は本発明の紡績糸を得るのに必要な粗糸を作成する粗紡機の一例の概略平面図である。詳しくは、芯部を形成する短繊維束(S1)および鞘部を形成する短繊維束(S2)をバックローラー(A)−ミドルローラー(B)−エプロン(C)−フロントローラー(D)に通してドラフトさせた後、短繊維束(S1)に短繊維束(S2)を巻きつける様に被覆しながらフライヤーヘッドへと導き、芯鞘構造を成した粗糸として巻き取るまでの概要を図示したものである。
【0017】
図3は本発明の紡績糸を得る精紡機の概略図である。詳しくは、芯鞘構造を形成した粗糸(1、1’)をバックローラー(2)に間隔を置いて導入し、バックローラー(2)−エプロン(3)−フロントローラー(4)の間、粗糸(短繊維束)同士で一定の間隔(W)を設けた状態でドラフトした後、フロントローラー(4)とスネールガイド(5)の間でドラフトされた粗糸同士を撚り合せ、複合紡績糸(6)を巻き取り得るまでの概要を図示したものである。なお、バックローラーに導入する粗糸の本数によって、複合紡績糸における島部の個数が決定される。
【0018】
ここで、バックローラーに導入される粗糸各々が密着せずに間隔を置いて導入され、フロントローラーまでドラフトされた後に合わさって撚り合わされることが重要である。ドラフト工程を密着した状態で行った場合、ドラフトされた粗糸同士がその繊維束を越えて行き来してしまい、均一な芯鞘構造を保つことが難しくなってしまう。粗糸の間隔は使用する繊維の素材や粗糸質量、ドラフト率等によって適宜調整すればよいが、2.5mm〜20mmであることが好ましく、さらに望ましくは3.5mm〜14mmである。間隔が2.5mmに満たない場合にはドラフトされた粗糸同士が密着する懸念があり逆に間隔が20mmを超える場合には、バックローラーへの導入時やフロントローラーから出て加撚される段階において粗糸あるいは撚り合わせてなる繊維束が切れる等の紡績不良が発生する懸念があり、また精紡機におけるローラーの巾次第ではローラーの両端で短繊維束を把持することになり、ニップ不十分による糸質不良や紡績操業不良等に繋がる懸念がある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】粗糸を作成する粗紡機の一例を示す概略側面図である。
【
図2】粗糸を作成する粗紡機の一例を示す概略平面図である。
【
図3】本発明の複合紡績糸を得る精紡機の概略斜視図である。
【実施例】
【0020】
以下、本発明について実施例により具体的に説明する。なお、物性については、以下の方法により測定した。
(1)引張強さ:対象の紡績糸について、JIS−L−1095一般紡績糸試験方法における9.5.1単糸引張強さに準じて測定を行い、結果を単糸引張強さ(単位:N)で示した。
(2)糸毛羽:紡績糸について、JIS−L−1095一般紡績糸試験方法における「毛羽」9.22.2B法に準じて試験を行い、結果を3mm(3mm以上のもの)および5mm(5mm以上のもの)の毛羽数(個/10m)を計測した。
(3)ピリング:紡績糸を用いて製編した編地について、JIS−L−1076織物及び編物のピリング試験方法におけるA法(ICI形試験機を用いる方法)に準じて測定を行い、結果を級判定で示した。
(4)肌触り:紡績糸を用いて製編した編地について、触感にて評価を行い、下記通り三段階で示した。
評価 ○ : 綿のソフトな肌触りで良好な触感である。
評価 △ : 硬さなど、やや触感で気になるところがある。
評価 × : 硬さなど、触感で非常に気になるところがある。
【0021】
実施例1
図1および
図2に示す構造の粗紡機を用いて、芯部をなすスライバーS1としてポリエステル短繊維1.7dtex×38mmで構成されたスライバーを供給し、鞘部となる巻き付けスライバーS2としてコットンのカードスライバーを供給し、ドラフト後の各スライバーの比率をS1:S2=40:60とし、
図2におけるドラフト方向に対する芯部をなすスライバーS1のフライヤーヘッドへの進行角度θを60度として、粗糸質量180gr/30yd(1gr=0.65g、1yd=0.9144m)、撚り数1.0T/吋の粗糸を得た。この粗糸2本を
図3に示す構造の精紡機のバックローラーに間隔を7mm開けて通し、バックローラー−エプロン−フロントローラーの間でドラフト率43.2倍にドラフトした後、フロントローラー−スネールガイド間でドラフトされた2本の繊維束を撚り合わせ、撚り数20.8T/吋(撚係数K=3.8)で精紡して、30番手(英式綿番手)の本発明の複合紡績糸を得た。
【0022】
得られた紡績糸を用いて、釜径30インチ、28ゲージのシングル丸編機で天竺編にて編み立て、過酸化水素を用いて晒加工を行った後、170℃×30秒の仕上セットを行って、目付143g/m
2の本発明の複合紡績糸からなる生地を得た。
【0023】
実施例2
粗糸質量を130gr/30ydとしたこと以外は、実施例1と同様にして粗紡を行い、得られた粗糸3本を
図3に示す構造の精紡機のバックローラーに間隔を4mmづつ開けて通し、バックローラー−エプロン−フロントローラーの間でドラフト率49.6倍にドラフトした後、フロントローラー−スネールガイド間でドラフトされた3本の繊維束を撚り合わせ、撚り数20.8T/吋(撚係数K=3.8)で精紡して、30番手(英式綿番手)の本発明の複合紡績糸を得た。
【0024】
得られた紡績糸を用いて、実施例1と同様にして製編し、目付147g/m
2の本発明の複合紡績糸からなる生地を得た。
【0025】
実施例3
粗紡段階におけるドラフト後の各スライバーの比率をS1:S2=30:70とし、精紡における撚り数を31.2T/吋(撚係数K=5.7)としたこと以外は実施例1と同様にして紡績を行い、30番手の本発明の複合紡績糸を得た。
【0026】
得られた紡績糸を用いて、実施例1と同様にして製編し、目付135g/m
2の本発明の複合績糸からなる生地を得た。
【0027】
比較例1
実施例1と同様の手法にて、芯部:鞘部の比率が40:60、粗糸質量320gr/30yd,撚り数1.0T/吋の粗糸を得た。この粗糸1本のみを
図3に示す構造の精紡機のバックローラーに通し、バックローラー−エプロン−フロントローラーの間でドラフト率40.7倍にドラフトした後、撚り数20.8T/吋(撚係数K=3.8)で精紡して、30番手(英式綿番手)の芯鞘型の紡績糸を得た。
【0028】
得られた紡績糸を用いて、実施例1と同様にして製編し、目付135g/m
2の芯鞘型の紡績糸からなる生地を得た。
【0029】
比較例2
ポリエステル短繊維1.7dtex×38mmとコットンを質量比でポリエステル:綿=40:60となる様に均一に混紡された粗糸質量180gr/30yd,撚り数1.0T/吋の粗糸を用いたこと以外は実施例1と同様に紡績を行い、30番手(英式綿番手)の混紡糸を得た。
【0030】
得られた紡績糸を用いて、実施例1と同様にして製編し、目付137g/m
2の混紡糸からなる生地を得た。
【0031】
実施例1〜3、比較例1,2で得られた紡績糸および生地物性を評価し、その結果を表1に示す。
【0032】
【表1】
表1に示す通り、実施例1〜3は、紡績糸の強力に優れ、生地とした際にもクリアな表面感と抗ピリング性・肌触り共に良好な素材を得られることが示された。
【0033】
これに対し、比較例1は、芯鞘二層構造の紡績糸であり、実施例に比べて、紡績糸の引張強力や抗ピリング性が劣り、また毛羽が多く、結果として得られた生地についても毛羽の目立つものであった。
【0034】
比較例2は、2種の繊維が混じり合った混紡状態の混紡糸であり、ポリエステル短繊維が糸の表層にも露出しており、生地にした際に肌触りが劣り、さらにはこの表面に出たポリエステル短繊維の毛羽を核にしてピリングが悪化するものであった。