(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記多孔質上部電極と前記多孔質下部電極との間に電圧を印加することにより被測定ガス内における所定のガス濃度を限界電流式で検出する検出回路を備えることを特徴とする請求項1に記載の限界電流式ガスセンサ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して、実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0017】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0018】
[第1の実施の形態]
(限界電流式ガスセンサ)
比較例に係る限界電流式ガスセンサ12Aのセンサ部分の模式的断面構造は、
図1(a)に示すように表され、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12のセンサ部分の模式的断面構造は、
図1(b)に示すように表される。
【0019】
比較例に係る限界電流式ガスセンサは、
図1(a)に示すように、基板1Aと、基板1A上に配置された絶縁膜3Aと、絶縁膜3A上に配置された多孔質下部電極5Dと、多孔質下部電極5D上に配置された固体電解質層4Aと、固体電解質層4A上に配置された多孔質上部電極5Uとを備える。
【0020】
比較例に係る限界電流式ガスセンサ12Aにおいては、
図1(a)に示すように、固体電解質層端面から酸素(O)イオンの取り込みにより、多孔質上部電極5Uと多孔質下部電極5Dとの間の表面伝導電流I
S成分の発生によって、検出感度を低下させている。
【0021】
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12は、
図1(b)に示すように、基板1と、基板1上に配置された多孔質下部電極5Dと、多孔質下部電極5D上に配置された絶縁膜8と、絶縁膜8にパターニングされた開口部7の多孔質下部電極5D上および開口部7を取り囲む絶縁膜8上に配置された固体電解質層4と、固体電解質層4上に、多孔質下部電極5Dに対向し、基板1に対して実質的に縦方向に配置された多孔質上部電極5Uとを備える。
【0022】
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12においては、
図1(b)に示すように、絶縁膜8は、固体電解質層4の端面と多孔質下部電極5Dとの間を非接触化し、酸素(O)イオンの固体電解質層4端面からの取り込みを抑制し、多孔質上部電極5Uと多孔質下部電極5Dとの間の表面伝導電流成分を低減化可能である。
【0023】
また、基板1上に配置されたガス取り込み膜3を備え、多孔質下部電極5Dは、ガス取り込み膜3上に配置されていても良い。
【0024】
第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12の模式的平面パターン構成は、
図2に示すように表され、センサ部分の拡大された模式的平面パターン構成は、
図3に示すように表され、
図3のI−I線に沿う模式的断面構造は、
図4に示すように表される。
【0025】
第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12は、
図2〜
図4に示すように、基板1と、基板1上に配置された多孔質下部電極5Dと、多孔質下部電極5D上に配置された絶縁膜8と、絶縁膜8にパターニングされた開口部7の多孔質下部電極5D上および開口部7を取り囲む絶縁膜8上に配置された固体電解質層4と、固体電解質層4上に、多孔質下部電極5Dに対向し、基板1に対して実質的に縦方向に配置された多孔質上部電極5Uとを備える。
【0026】
ここで、絶縁膜8は、固体電解質層4の端面と多孔質下部電極5Dとの間を非接触化し、酸素(O)イオンの固体電解質層4端面からの取り込みを抑制し、多孔質上部電極5U・多孔質下部電極5D間の表面伝導電流成分を低減化可能である。
【0027】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12は、
図2に示すように、多孔質上部電極5Uと多孔質下部電極5Dとの間に電圧を印加することにより被測定ガス内における所定のガス濃度を限界電流式で検出する検出回路18を備える。ここで、検出回路18は、限界電流に基づいて酸素濃度を検出することができる。また、検出回路18は、限界電流に基づいて水蒸気濃度を検出することができる。
【0028】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12は、
図2〜
図4に示すように、多孔質上部電極5U上に配置された第1応力緩和用低熱膨張膜6(5U)と、多孔質下部電極5D上に配置された第2応力緩和用低熱膨張膜6(5D)と、固体電解質層4上に配置された第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)とを備えていても良い。
【0029】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12は、
図2〜
図4に示すように、平面視において、第1応力緩和用低熱膨張膜6(5U)と第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)との間に跨って、多孔質上部電極5U上に配置された第1反り抑制用多孔質絶縁膜10(5U)と、平面視において、第2応力緩和用低熱膨張膜6(5D)と第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)との間に跨って、多孔質下部電極5D上に配置された第2反り抑制用多孔質絶縁膜10(5D)とを備えていても良い。
【0030】
第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12は、
図2〜
図4に示すように、両持梁構造のメムス(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)素子構造を基本構造として備える。詳細構造は後述するが、中央部にはセンサ部分が配置され、両持梁構造の梁部分には、センサ部分に接続された多孔質下部電極5Dと、多孔質上部電極5Uが配置され、多孔質下部電極5D・多孔質上部電極5U間には、検出回路18が接続されている。
【0031】
中央部のセンサ部分には、センサ部分の加熱用のマイクロヒータ2が埋め込まれており、両持梁構造のMEMS素子構造を基本構造とすることによって、中央部のセンサ部分の熱容量を低減化し、センサ感度の向上を図っている。
【0032】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12においては、基板1は、
図4に示すように、マイクロヒータ2を備える。マイクロヒータ2は、基板1上部もしくは基板1下部に配置されていても良い。また、マイクロヒータ2は、
図4に示すように、基板1内部に埋め込まれていても良い。マイクロヒータ2は、例えば、印刷により形成されたPtヒータ、またはポリシリコンヒータで形成可能である。また、基板1の表面には、ポリシリコンで形成されたマイクロヒータ2を含むシリコン酸化膜/シリコン窒化膜の積層膜100が形成されていても良い(
図21)。
【0033】
多孔質下部電極5D・多孔質上部電極5Uは、多孔質のPt電極で形成可能である。多孔質のPt電極は、印刷、蒸着もしくはスパッタにより形成可能である。多孔質下部電極5D・多孔質上部電極5Uの厚さは、例えば、約0.5μm〜10μm程度である。
【0034】
絶縁膜8は、Al
2O
3、Al
2O
3−SiO
2、YSZ−SiO
2、もしくはYSZ−Al
2O
3のいずれかで形成可能である。絶縁膜8は、印刷工程若しくはスパッタリング工程により形成可能である。絶縁膜8の厚さは、例えば、約1.0μm〜10μm程度である。ここで、YSZは、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ:Yttria-Stabilized Zirconia)膜である。
【0035】
絶縁膜8を形成することによって、安定化ジルコニア(4)/Ptポーラス下部電極(5D)間の接触面積の安定化し、安定化ジルコニア(4)端面とPtポーラス下部電極(5D)の接触を無くし、また、Ptポーラス下部電極(5D)とPtポーラス上部電極(5U)間の表面伝導成分の除去することができる。
【0036】
固体電解質層4は、YSZ、YSZ−SiO
2、もしくはYSZ−Al
2O
3の少なくとも一つが含まれる安定化ジルコニア膜で形成可能である。固体電解質層4は、印刷工程若しくはスパッタリング工程により形成可能である。固体電解質層4の厚さは、例えば、約1.0μm〜10μm程度である。
【0037】
応力緩和用低熱膨張膜6は、検出するガス量によって、膜密度を調整可能である。
【0038】
また、応力緩和用低熱膨張膜6は、緻密膜、多孔質膜、もしくは緻密膜と多孔質膜の複合膜のいずれかで形成可能である。
【0039】
また、応力緩和用低熱膨張膜6は、SiO
2、Al
2O
3、YSZもしくはムライトの少なくとも一種類を含む材料で形成されていても良い。また、応力緩和用低熱膨張膜6は、印刷工程若しくはスパッタリング工程により形成可能である。応力緩和用低熱膨張膜6の厚さは、例えば、約1.0μm〜5.0μm程度である。
【0040】
反り抑制用多孔質絶縁膜10は、SiO
2、Al
2O
3、YSZもしくはムライトの少なくとも一種類を含む材料で形成されていても良い。また、反り抑制用多孔質絶縁膜10は、印刷工程若しくはスパッタリング工程により形成可能である。反り抑制用多孔質絶縁膜10の厚さは、例えば、約1.0μm〜5.0μm程度である。
【0041】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12においては、基板1は、MEMS梁構造を備えていても良い。基板1は、厚さ10μm以下、望ましくは2μm以下のSi基板で形成可能である。MEMSを応用すれば、Si基板1の厚さを2μm以下にすることができるため、熱容量が小さくなり、マイクロヒータ2での消費電力を低減することが可能である。
【0042】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12は、
図2〜
図4に示すように、基板1に形成されたキャビティC(Cavity:空洞)上に両持ちの梁構造体として形成されている。梁構造体は、MEMSにより形成された厚さ10μm以下、望ましくは2μm以下の梁構造体である。
【0043】
また、基板1上に配置されたガス取り込み膜3を備え、多孔質下部電極5Dは、ガス取り込み膜3上に配置されていても良い。
【0044】
ガス取り込み膜3は、Al
2O
3、Al
2O
3−SiO
2、YSZ−SiO
2、もしくはYSZ−Al
2O
3のいずれかが含まれる多孔質膜で形成可能である。ガス取り込み膜3は、印刷工程若しくはスパッタリング工程により形成可能である。ここで、ガス取り込み膜3の厚さは、例えば、約0〜10μm程度である。すなわち、ガス取り込み膜3は必ずしも備えていなくても良い。その場合には、多孔質のPt電極で形成可能な多孔質下部電極5D・多孔質上部電極5Uをガス取り込み膜として利用することができる。
このような限界電流式ガスセンサは、MEMS以外の方法により製造されても良い。Si基板1の厚さは、例えば600μm程度である。その他の構成については、
図1と同様である。
【0045】
(製造方法)
第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、
図5〜
図9に示すように、基板1上に多孔質下部電極5Dを形成する工程と、多孔質下部電極5D上に絶縁膜8を形成する工程と、絶縁膜8をパターニングして開口部7を形成する工程と、開口部7の多孔質下部電極5D上および開口部7を取り囲む絶縁膜8上に固体電解質層4を形成する工程と、固体電解質層4上に、多孔質下部電極5Dに対向し、基板1に対して実質的に縦方向に多孔質上部電極5Uを形成する工程とを有する。ここで、絶縁膜8は、固体電解質層4の端面と多孔質下部電極5Dとの間を非接触化し、酸素(O)イオンの固体電解質層4端面からの取り込みを抑制し、多孔質上部電極5Uと多孔質下部電極5Dとの間の表面伝導電流成分を低減化可能である。
【0046】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、
図10に示すように、多孔質上部電極5U上に第1応力緩和用低熱膨張膜6(5U)を形成し、多孔質下部電極5D上に第2応力緩和用低熱膨張膜6(5D)を形成し、固体電解質層4上に第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)を形成する工程を有する。
【0047】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、
図11に示すように、平面視において、第1応力緩和用低熱膨張膜6(5U)と第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)との間に跨って、多孔質上部電極5U上に第1反り抑制用多孔質絶縁膜10(5U)を形成する工程と、平面視において、第2応力緩和用低熱膨張膜6(5D)と第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)との間に跨って、多孔質下部電極5D上に第2反り抑制用多孔質絶縁膜10(5D)を形成する工程とを有する。
【0048】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、
図12に示すように、基板1をエッチングして、基板1に形成されたキャビティ上に両持ちの梁構造体を形成する工程を有する。
【0049】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、基板1上部もしくは基板1下部にマイクロヒータ2を形成する工程を有していても良い。
【0050】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、基板1内部に埋め込まれたマイクロヒータ2を形成する工程を有していても良い。
【0051】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、基板1上にガス取り込み膜3を形成する工程を有し、ガス取り込み膜3上に多孔質下部電極5Dを形成しても良い。
【0052】
また、第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法において、マイクロヒータ2、ガス取り込み膜、多孔質下部電極および多孔質上部電極、絶縁膜、固体電解質層、応力緩和用低熱膨張膜、および反り抑制用多孔質絶縁膜は、印刷工程により形成可能である。
【0053】
第1の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法について、
図5〜
図12を参照して説明する。
(a)まず、
図5(a)・
図5(b)に示すように、マイクロヒータ2を埋め込んだ基板1上にガス取り込み膜3を形成する。ここで、ガス取り込み膜3は、多孔質膜であることから、ガスの通り道となる。なお、ガス取り込み膜3の形成を省略しても良い。
(b)次に、
図6(a)・
図6(b)に示すように、ガス取り込み膜3および基板1上に多孔質下部電極5Dを形成する。多孔質下部電極5Dは、例えば、ポーラスPt電極によって形成されるため、このポーラスPt電極中をガスが通るようにしても良い。
(c)次に、
図7(a)・
図7(b)に示すように、多孔質下部電極5D上に絶縁膜8を形成した後、絶縁膜8をパターニングして開口部7を形成する。ここで、絶縁膜8を形成することによって、安定化ジルコニア(4)/Ptポーラス下部電極(5D)間の接触面積の安定化し、安定化ジルコニア(4)端面とPtポーラス下部電極(5D)の接触を無くし、また、Ptポーラス下部電極(5D)とPtポーラス上部電極(5U)間の表面伝導成分の除去することができる。
(d)次に、
図8(a)・
図8(b)に示すように、開口部7の多孔質下部電極5U上および開口部7を取り囲む絶縁膜8上に固体電解質層4を形成する。固体電解質層4は、例えば、ここではYSZ(安定化ジルコニア)で形成される。
(e)次に、
図9(a)・
図9(b)に示すように、固体電解質層4上に、多孔質下部電極5Dに対向し、基板1に対して実質的に縦方向に多孔質上部電極5Uを形成する。多孔質上部電極5Uは、
図9(a)に示すように、絶縁膜8・ガス取り込み膜3・基板1上にも延伸して形成される。多孔質上部電極5Uは、例えば、ポーラスPt電極によって形成される。
(f)次に、
図10(a)・
図10(b)に示すように、多孔質上部電極5U上に第1応力緩和用低熱膨張膜6(5U)を形成し、多孔質下部電極5D上に第2応力緩和用低熱膨張膜6(5D)を形成し、固体電解質層4上に第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)を形成する。応力緩和用低熱膨張膜6は、検出するガス量によって、膜密度を調整可能である。また、応力緩和用低熱膨張膜6は、緻密膜、多孔質膜、もしくは緻密膜と多孔質膜の複合膜のいずれかで形成可能である。また、応力緩和用低熱膨張膜6は、SiO
2、Al
2O
3、YSZもしくはムライトの少なくとも一種類を含む材料で形成される。また、応力緩和用低熱膨張膜6は、印刷工程若しくはスパッタリング工程により形成可能である。応力緩和用低熱膨張膜6は、低熱膨張係数の絶縁膜であり、応力緩和用低熱膨張膜6を形成することによって、加熱時の応力を緩和することができる。
(g)次に、
図11(a)・
図11(b)に示すように、第1応力緩和用低熱膨張膜6(5U)と第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)との間に跨って、多孔質上部電極5U上に第1反り抑制用多孔質絶縁膜10(5U)を形成すると共に、第2応力緩和用低熱膨張膜6(5D)と第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)との間に跨って、多孔質下部電極5D上に第2反り抑制用多孔質絶縁膜10(5D)を形成する。反り抑制用多孔質絶縁膜10は、SiO
2、Al
2O
3、YSZもしくはムライトの少なくとも一種類を含む材料で形成される。また、反り抑制用多孔質絶縁膜10は、印刷工程若しくはスパッタリング工程により形成可能である。反り抑制用多孔質絶縁膜10を形成することによって、加熱時の梁構造の反りを小さくし、耐久性を向上することができる。
(h)次に、
図12に示すように、基板1を矢印方向に裏面からエッチングする。結果として、
図2〜
図4に示すように、基板1に形成されたキャビティC上に両持ちの梁構造体が形成される。このよぅに、梁構造を形成することによって、センサ部分の熱容量を低減し、かつ熱伝導を低減することができる。結果として、加熱時の低消費電力化が可能である。
【0054】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの模式的平面パターン構成は、
図13に示すように表わされる。第1の実施の形態においては、
図2に示すように、両持梁構造の4本のアームの内、片側2本のアームの一方のアームにのみ多孔質下部電極5D・多孔質下部電極 5Uを配置している。これに対して、第2の実施の形態においては、
図13に示すように、両持梁構造の4本のアームの内、片側2本のアームの両方のアームに多孔質下部電極5D
1・5D
2・多孔質上部電極 5U
1・5U
2を配置している。また、多孔質下部電極5D
1・5D
2は、互いに電気的に接続されている。同様に、多孔質上部電極 5U
1・5U
2も互いに電気的に接続されている。
【0055】
第2の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12は、
図13に示すように、基板1と、基板1上に配置された多孔質下部電極5D
1・5D
2と、多孔質下部電極5D
1・5D
2上に配置された絶縁膜8と、絶縁膜8にパターニングされた開口部7の多孔質下部電極5D
1・5D
2上および開口部7を取り囲む絶縁膜8上に配置された固体電解質層4と、固体電解質層4上に、多孔質下部電極5Dに対向し、基板1に対して実質的に縦方向に配置された多孔質上部電極5U
1・5U
2とを備える。
【0056】
ここで、絶縁膜8は、固体電解質層4の端面と多孔質下部電極5D
1・5D
2との間を非接触化し、酸素(O)イオンの固体電解質層4端面からの取り込みを抑制し、多孔質上部電極5U
1・5U
2と多孔質下部電極5D
1・5D
2間の表面伝導電流成分を低減化可能である。
【0057】
また、第2の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12は、
図13に示すように、多孔質上部電極5U
1・5U
2と多孔質下部電極5D
1・5D
2との間に電圧を印加することにより被測定ガス内における所定のガス濃度を限界電流式で検出する検出回路18を備える。ここで、検出回路18は、限界電流に基づいて酸素濃度を検出することができる。また、検出回路18は、限界電流に基づいて水蒸気濃度を検出することができる。
【0058】
また、第2の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12は、
図13に示すように、多孔質上部電極5U
1・5U
2上に配置された第1応力緩和用低熱膨張膜6(5U
1)・6(5U
2)と、多孔質下部電極5D
1・5D
2上に配置された第2応力緩和用低熱膨張膜6(5D
1)・6(5D
2)と、固体電解質層4上に配置された第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)とを備えていても良い。
【0059】
また、第2の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12は、
図13に示すように、平面視において、第1応力緩和用低熱膨張膜6(5U
1)・6(5U
2)と第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)との間に跨って、多孔質上部電極5U
1・5U
2上に配置された第1反り抑制用多孔質絶縁膜10(5U
1)・10(5U
2)と、平面視において、第2応力緩和用低熱膨張膜6(5D
1)・6(5D
2)と第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)との間に跨って、多孔質下部電極5D
1・5D
2上に配置された第2反り抑制用多孔質絶縁膜10(5D
1)・10(5D
2)とを備えていても良い。
【0060】
また、基板1上に配置されたガス取り込み膜3を備え、ガス取り込み膜3上に多孔質下部電極5D
1・5D
2を配置しても良い。その他の構成は、第1の実施の形態と同様である。
【0061】
(製造方法)
第2の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、
図14〜
図17に示すように、基板1上に多孔質下部電極5D
1・5D
2を形成する工程(
図14)と、多孔質下部電極5D
1・5D
2上に絶縁膜8を形成する工程と、絶縁膜8をパターニングして開口部7を形成する工程(
図15)と、開口部7の多孔質下部電極5D
1・5D
2上および開口部7を取り囲む絶縁膜8上に固体電解質層4を形成する工程(
図16)と、固体電解質層4上に、多孔質下部電極5D
1・5D
2に対向し、基板1に対して実質的に縦方向に多孔質上部電極5U
1・5U
2を形成する工程(
図17)とを有する。ここで、絶縁膜8は、固体電解質層4の端面と多孔質下部電極5D
1・5D
2との間を非接触化し、酸素(O)イオンの固体電解質層4端面からの取り込みを抑制し、多孔質上部電極5U
1・5U
2と多孔質下部電極5D
1・5D
2との間の表面伝導電流成分を低減化可能である。
【0062】
また、第2の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、
図18に示すように、多孔質上部電極5U
1・5U
2上に第1応力緩和用低熱膨張膜6(5U
1)・6(5U
2)を形成し、多孔質下部電極5D
1・5D
2上に第2応力緩和用低熱膨張膜6(5D
1)・6(5D
2)を形成し、固体電解質層4上に第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)を形成する工程を有する。
【0063】
また、第2の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、
図19に示すように、平面視において、第1応力緩和用低熱膨張膜6(5U
1)・6(5U
2)と第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)との間に跨って、多孔質上部電極5U
1・5U
2上に第1反り抑制用多孔質絶縁膜10(5U
1)・10(5U
2)を形成する工程と、平面視において、第2応力緩和用低熱膨張膜6(5D
1)・6(5D
2)と第3応力緩和用低熱膨張膜6(4)との間に跨って、多孔質下部電極5D
1・5D
2上に第2反り抑制用多孔質絶縁膜10(5D
1)・10(5D
2)を形成する工程とを有する。
【0064】
また、第2の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、
図13に示すように、基板1をエッチングして、基板1に形成されたキャビティ上に両持ちの梁構造体を形成する工程を有する。
【0065】
また、第2の実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法は、
図13に示すように、基板1上にガス取り込み膜3を形成する工程を有し、ガス取り込み膜3上に多孔質下部電極5D
1・5D
2を形成しても良い。
【0066】
第2の実施の形態においては、
図13に示すように、両持梁構造の4本のアームの内、片側2本のアームの両方のアームに多孔質下部電極5D
1・5D
2・多孔質上部電極 5U
1・5U
2を配置している構造のみが第1の実施の形態と異なるため、各部の詳細な製造工程は、第1の実施の形態と同様である。
【0067】
以下、第1の実施の形態、第2の実施の形態に共通する説明は、単に実施の形態と記載する。
【0068】
(梁構造)
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法の一工程(梁構造形成工程)を示す模式的断面構造は、
図20(a)に示すように表わされ、実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの製造方法の一工程(別の梁構造形成工程)は、
図20(b)に示すように表わされる。
【0069】
MEMS構造を有する梁構造には、
図20(a)に示すように、空洞Cを基板1の底部に開放構造に形成する開放型構造と、
図20(b)に示すように、空洞Cを基板1の内部に形成する船型構造が可能である。いずれも例えばシリコン基板の異方性エッチングなどを適用可能である。
図20(a)・
図20(b)においては、いずれも薄層化された基板1部分には、マイクロヒータ2が形成されているが図示は省略する。また、実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの縦型センサ構造は、デバイス加熱部200によって表わされている。
【0070】
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの梁構造のレイアウト図(上面図)は、
図21(a)に示すように表わされ、
図21(a)のIX−IX線に沿う模式的断面構造は、
図21(b)に示すように表わされる。
【0071】
図21においては、基板1として(100)面を有するシリコン基板を使用し、異方性エッチングにより、デバイス加熱部200の底部には、底面が(100)面、側面が(111)面のキャビティCが形成されている。
【0072】
このシリコン基板1の表面には、ポリシリコンで形成されたマイクロヒータを含むシリコン酸化膜/シリコン窒化膜の積層膜100が形成されている。デバイス加熱部200の面積は、例えば、約0.1mm
2である。
【0073】
図21(a)・
図21(b)に示す構造例では、縦型センサ構造のデバイス加熱部200の底部には、マイクロヒータを含む積層膜100が形成されており、基板1は除去されている。すなわち、第1の実施の形態および第2実施の形態において、薄層化された基板1を除去し、マイクロヒータを含む積層膜100のみが形成されていても良い。
【0074】
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサのマイクロヒータ2は、以下のプロセスフローにより形成することができる。
【0075】
まず、Si基板1上に3um−PSG(Phosphorus Silicon Glass)膜を形成し、SiNを形成し、SiNパターニングを行う(高濃度にドープする部分はSiN除去)。次に、ポリシリコンを形成し、例えば約1000℃程度の熱処理により、ポリシリコンへ燐Pを拡散して高濃度ドープポリシリコンにする。SiNがある部分は低濃度ドープポリシリコンにする。更に、縦型センサ構造を形成し、BHF(5:1)でPSGエッチチングして梁構造を形成する。
【0076】
以上のように、実施の形態によれば、キャビティC上に梁構造のマイクロヒータ2を容易に形成することができる。
【0077】
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサにおいて、マイクロヒータ2は、
図21(a)・
図21(b)の積層膜100部分に配置されている。以下のプロセスフローによりマイクロヒータ2を形成するようにしても良い。
【0078】
まず、Si(100)基板1上にSiO
2/SiN/SiO
2の多層絶縁膜である積層膜100を形成し、その上にPtヒータ(マイクロヒータ2)を形成する。次に、マイクロヒータ2の上にデバイス加熱部200を形成する。更に、TMAH溶液を用いてSi基板1を異方性エッチングすることによりキャビティCを形成する。
【0079】
以上のように、実施の形態によれば、キャビティC上に梁構造のマイクロヒータ2を容易に形成することができる。
【0080】
(動作原理)
―ガス濃度を検出する動作―
限界電流式ガスセンサの原理は次の通りである。まず、ジルコニア固体電解質を数百度に加熱し、ジルコニア固体電解質に電圧を印加すると、触媒電極でイオン化した酸素イオンが、固体電解質の一方の側から他の側へ伝導する。このとき、小孔や多孔質などを利用して電解質に吸入する酸素ガス量を制限すると、電圧を増加しても電流が一定値になる飽和現象が現れる。この電流は限界電流と呼ばれ、周囲の酸素濃度に比例する。そのため、一定の電圧を印加すれば、流れる電流値から酸素濃度を検出することができる。印加する電圧を切り替えれば、同様の原理で水蒸気の濃度を検出することも可能である。
【0081】
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12を用いてガス濃度を検出する動作を示すフローチャートは、
図22に示すように表される。また、実施の形態に係る限界電流式ガスセンサにおいて、ガス濃度検出動作におけるYSZ温度と時間との関係は、模式的に
図23に示すように表され、動作原理を説明する模式的断面構造は、
図24に示すように表される。
【0082】
固体電解質層4を、マイクロヒータ2によって、数百℃、例えば500℃程度に加熟し、多孔質上部電極(陰極)5U・多孔質下部電極(陽極)5D間に電圧を印加して電流Iを流すと、
図24に示すように、多孔質上部電極(陰極)5Uでは、O
2+4e
-⇔2O
2−の電気化学反応によって固体電解質層4中へ酸素イオンの注入が起こる。一方、多孔質下部電極(陽極)5Dでは、2O
2−⇔O
2+4e
-の反応によって酸素ガスの放出が生じる。
【0083】
固体電解質層4中において、酸素イオン(O
2-)は、ホッピング伝導に基づいて伝播される。ここで、酸素イオン(O
2-)のホッピング伝導を説明するエネルギーダイアグラムは、
図25に示すように模式的に表される。固体電解質層4に電界E
Xが印加されるとその効果によって、伝導体の底は、−eE
Xだけ傾くことになる。その分だけ、酸素イオン(O
2-)の伝導障壁高さが低下するため、熱励起と共に酸素イオン(O
2-)のホッピング伝導が実施される。
【0084】
固体電解質層4に吸入する酸素ガス量を制限すると、電圧を増加しても電流が一定値になる飽和現象が現れる。実施の形態に係る限界電流式ガスセンサにおいて、電流―電圧特性における限界電流は、
図26に示すように模式的に表される。すなわち、
図26において、期間T
2で現れる電流が酸素ガスに対する限界電流を表し、期間T
3で現れる電流が水蒸気に対する限界電流I
Wを表す。この限界電流I
O・I
Wは、周囲の酸素濃度・水蒸気濃度に比例するため、限界電流I
O・I
Wの値と酸素濃度・水蒸気濃度の値とを予め対応付けて検出回路8に登録しておく。このようにすれば、限界電流I
O・I
Wの値を測定することにより、それに対応する酸素濃度・水蒸気濃度を検出することができる。また、多孔質上部電極(陰極)5U・多孔質下部電極5D間に印加する電圧を切り替えれば、酸素濃度だけでなく水蒸気濃度を検出することも可能である。
【0085】
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ12を用いてガス濃度を検出する動作を、
図22および
図23を参照して説明する。
図23において、T
onはヒータオン期間、T
offはヒータオフ期間に相当する。ヒータオン期間T
onに投入される加熱電力は、例えば、約5mWである。
(a)まず、マイクロヒータ2を用いて、室温から測定温度(例えば500℃)までセンサを加熱する(
図2:ステップS1→S2:NO→S1→・・・)。
図23に示すように、例えば、時刻t=0〜t=0.1秒の間にYSZ温度Tは、0℃〜約500℃まで上昇する。
(b)測定温度に達したら(
図2:ステップS2:YES)、安定するまで一定時間待機する。
図23に示すように、例えば、時刻t=0.1秒〜t=0.3秒の待機期間T
WにYSZ温度Tは、約500℃に保持される。
(c)次に、多孔質上部電極5U・多孔質下部電極5D間に電圧を印加する(
図2:ステップS3→S4)。
図23に示すように、例えば、時刻t=0.3秒〜t=0.5秒の測定期間T
MにYSZ温度Tは、約500℃に保持される。
(d)次に、限界電流の値を測定し、その限界電流に対応するガス濃度を検出する(ステップS5)。
(e)次に、マイクロヒータ2をオフにして、センサを冷却する。
図23に示すように、例えば、時刻t=0.5秒〜にYSZ温度Tは、約500℃から室温まで冷却される。
【0086】
以上に説明した温度サイクルは、例えば、約1分間に1回程度のサイクルで加熱・待機・測定・冷却を繰り返しても良い。
(電気化学反応)
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサにおいて、イオン伝導を説明する模式的断面構造は、
図27に示すように表される。
【0087】
図26・
図27を参照して、実施の形態に係る限界電流式ガスセンサにおける電気化学反応について説明する。
(a)YSZ4を、マイクロヒータ2によって、例えば500℃程度に加熟し、陰極5U・陽極5D間に電圧Vを印加して電流Iを流すと、
図26の期間T
1において、電流は増加し、限界電流値I
Oに到達する。
図26の期間T
1においては、O
2+4e
-⇔2O
2−の電気化学反応によって、YSZ4中において、酸素イオンO
2−が拡散する。この時、酸素ガスO
2のフロー量の方が酸素イオンO
2−が拡散する量よりも大きい。
(b)限界電流値I
Oが保持される
図26の期間T
2においては、酸素ガス分子の電気分解反応が実施され、
図27に示すように、陰極5UとYSZ4界面では、O
2+4e
-⇔2O
2−の電気化学反応によってYSZ4中へ酸素イオンO
2−の注入が起こる。一方、5DとYSZ4界面では、2O
2−⇔O
2+4e
-の反応によって酸素ガスO
2の放出が生じる。
(c)YSZ4の温度Tを、例えば500℃程度に保持し、さらに電圧Vを増加すると、電流Iは増加し、
図26の期間T
3において、限界電流I
Wに到達する。
(d)限界電流I
Wが保持される
図26の期間T
3においては、吸着酸素ガスO
adの電気分解反応と水蒸気(H
2O)の電気分解反応が実施される。ここで、
図27に示すように、陰極5UとYSZ4界面では、O
2+4e
-⇔2O
2−の電気化学反応によってYSZ4中へ酸素イオンO
2−の注入が起こる。また、H
2O+2e
-⇔H
2+O
2−の電気化学反応によって水素の放出が生じる。すなわち、水蒸気(H
2O)が電気分解されて、酸素イオンO
2−が固体電解質層4内をホッピング伝導により移動していく。
【0088】
一方、陽極5DとYSZ4界面では、吸着酸素ガスO
adの電気分解により、2O
2−⇔O
2+4e
-の反応によって酸素ガスO
2の放出が生じる。同様に、水蒸気(H
2O)の電気分解により、2O
2−⇔O
2+4e
-の反応によって酸素ガスO
2の放出が生じる。
(e)YSZ4の温度Tを、例えば500℃程度に保持し、さらに電圧Vを増加すると、電流Iは増加し、
図26の期間T
4において、吸着酸素ガスO
adの電気分解反応と水蒸気(H
2O)の電気分解反応が実施される。さらに、YSZ4の電気分解が始まる。
ここで、
図27に示すように、陰極5UとYSZ4界面では、O
2+4e
-⇔2O
2−の電気化学反応によってYSZ4中へ酸素イオンO
2−の注入が起こる。また、H
2O+2e
-⇔H
2+O
2−の電気化学反応によって水素の放出が生じる。すなわち、水蒸気(H
2O)が電気分解されて、酸素イオンO
2−がホッピング伝導により固体電解質層4内を移動していく。
【0089】
一方、陽極5DとYSZ4界面では、吸着酸素ガスO
adの電気分解により、2O
2−⇔O
2+4e
-の反応によって酸素ガスO
2の放出が生じる。同様に、水蒸気(H
2O)の電気分解により、2O
2−⇔O
2+4e
-の反応によって酸素ガスO
2の放出が生じる。
【0090】
さらにYSZ4の電気分解によって、酸素空孔濃度は次式O
OX⇔1/2・O
2(g)+V
O..+2e
’に基づき、雰囲気酸素分圧との平衡にも依存する。この式は、電子的伝導率は、固体と平衡する酸素分圧に依存し、高温では、生成系のエントロピーがより大きいことから高温では、反応が右に偏るので、温度にも依存することを示している。
【0091】
(反り量:シミュレーション結果)
固体電解質層(YSZ)4上にムライトを形成しない比較例に係る限界電流式ガスセンサのデバイス加熱部200Aにおいて、500℃加熱時の反り量WA
1を示す模式的鳥瞰図は、
図28(a)に示すように表され、
図28(a)に対応した模式的断面図は、
図28(b)に示すように表される。
図28(a)・
図28(b)は、比較例に係る限界電流式ガスセンサのデバイス加熱部200Aを表しており、梁構造のシリコン基板1の厚さは10μm、固体電解質層(YSZ)4の厚さは2μmである。デバイス加熱部200Aのサイズは、幅Wは200μm、長さLは500μmである。
【0092】
固体電解質層(YSZ)4上にムライト(6,10)を形成しない比較例に係る限界電流式ガスセンサのデバイス加熱部200Aにおいて、500℃加熱時の反り量WA
1のシミュレーション結果は、3.9μmであった。
【0093】
固体電解質層(YSZ)4上にムライトを3μm形成した実施の形態に係る限界電流式ガスセンサのデバイス加熱部200において、500℃加熱時の反り量WA
2を示す模式的鳥瞰図は、
図29(a)に示すように表され、
図29(a)に対応した模式的断面図は、
図29(b)に示すように表される。ここで、ムライトは、応力緩和用低熱膨張膜6・6(5U)・6(5D)や反り抑制用多孔質絶縁膜10・10(5U)・10(5D)に対応した層である。
図29(a)・
図29(b)は、実施の形態に係る限界電流式ガスセンサのデバイス加熱部200を表しており、梁構造のシリコン基板1の厚さは10μm、固体電解質層(YSZ)4の厚さは2μmである。デバイス加熱部200のサイズは、幅Wは200μm、長さLは500μmである。
【0094】
固体電解質層(YSZ)4上にムライトを3μm形成した実施の形態に係る限界電流式ガスセンサのデバイス加熱部200において、500℃加熱時の反り量WA
2のシミュレーション結果は、1.2μmであった。すなわち、反り量は、約70%低減されている。
【0095】
固体電解質層(YSZ)4上にムライトを5μm形成した実施の形態に係る限界電流式ガスセンサのデバイス加熱部200において、500℃加熱時の反り量WA
2を示す模式的鳥瞰図は、
図30(a)に示すように表され、
図30(a)に対応した模式的断面図は、
図30(b)に示すように表される。
図30(a)・
図30(b)は、実施の形態に係る限界電流式ガスセンサのデバイス加熱部200を表しており、梁構造のシリコン基板1の厚さは10μm、固体電解質層(YSZ)4の厚さは2μmである。デバイス加熱部200のサイズは、幅Wは200μm、長さLは500μmである。
【0096】
固体電解質層(YSZ)4上にムライトを5μm形成した実施の形態に係る限界電流式ガスセンサのデバイス加熱部200において、500℃加熱時の反り量WA
3のシミュレーション結果は、0.2μmであった。すなわち、反り量は、約95%低減されている。
【0097】
なお、上記のシミュレーションにおいては、固体電解質層(YSZ)4のヤング率は210GPa、線熱膨張係数は10×10
-6/Kとしている。また、梁構造のシリコン基板1のヤング率は185GPa、線熱膨張係数は3.35×10
-6/Kとしている。ムライトのヤング率は170GPa、線熱膨張係数は2.2×10
-6/Kとしている。また、ムライトの成分は、Al
2O
3−66mol%SiO
2である。
【0098】
以上のシミュレーション結果より、応力緩和用低熱膨張膜6・6(5U)・6(5D)や反り抑制用多孔質絶縁膜10・10(5U)・10(5D)に対応した層であるムライトを形成することによって、反り量を低減可能であることがわかる。
【0099】
(YSZ焼成温度)
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサの固体電解質層(YSZ)4の形成において、YSZ−10wt%SiO
2を1200℃焼成した状態の断面SEM写真例は、
図31に示すように表され、YSZ−10wt%SiO
2を1300℃焼成した状態の断面SEM写真例は、
図32に示すように表される。ここで、固体電解質層(YSZ)4は、実験上シリコン基板上に形成されたシリコン酸化膜上に、厚さ約1μmで形成されている。
【0100】
焼成温度1200℃の写真(
図31)に比べ、焼成温度1300℃の写真(
図32)では、固体電解質層(YSZ)4が緻密化されている。このような固体電解質層(YSZ)4の緻密化によって、電流の表面伝導成分は、1桁以上低減化可能である。ここで、表面伝導電流とは、酸化物表面の水の吸着層で陽子を1個の水分子から次に水分子に転送し、これによって、表面吸着したオキソニウムイオン(H
3O)
+をチェイン反応の方向に沿って移送するという、グロットウスのチェイン反応によって生じる電気伝導である。
【0101】
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサにおいては、梁構造上への素子作製により、デバイス加熱部を小面積かつ薄層化して低消費電力化を図ることができる。
【0102】
また、実施の形態に係る限界電流式ガスセンサにおいては、センサ部分を電極/安定化ジルコニア膜/電極の縦型構造化して、イオン伝導の向上・表面伝導成分の低減化を図ると共に、最表面に低熱膨張絶縁膜形成することで、加熱・冷却時の梁構造の反りを小さくし、耐久性を向上可能である。
【0103】
また、実施の形態に係る限界電流式ガスセンサにおいては、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)をスパッタや印刷で形成可能である。特に印刷を用いると、安価に量産することができる。また、イットリウム安定化ジルコニア(YSZ)は、分散処理および焼結助剤の添加により、シリコン基板上にYSZ緻密膜を形成可能である。この緻密化により、表面伝導成分を低減し、良好な限界電流特性が発現させてセンサ感度を向上することができる。
【0104】
(パッケージ)
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサを収容するパッケージの蓋131を示す模式的鳥瞰構成は、
図33に示すように表される。
図33に示すように、パッケージの蓋131には、ガスは通過可能であるが異物は通さない多数の貫通穴132が形成されている。パッケージの蓋131には、メタルメッシュ、小孔開きメタル、ポーラスセラミックなどを適用可能である。
【0105】
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサを収容するパッケージの本体141を示す模式的鳥瞰構成は、
図34に示すように表される。
図34に示すように、パッケージの本体141には、複数の端子を備えた限界電流式ガスセンサのチップ142が収容され、複数のボンディングワイヤ143により電気的に接続されている。パッケージの本体141の上部に蓋131を被せ、半田によりプリント基板101などに実装する。
【0106】
(エナジーハーベスタ電源を用いたセンサノードの構成例)
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ(センサノード)は、
図35に示すように、センサ類151と、無線モジュール152と、マイコン153と、エナジーハーベスタ電源154と、蓄電素子155とを備える。センサ類151の構成は、実施の形態で説明した通りである。無線モジュール152は、無線信号を送受信するRF回路などを備えたモジュールである。マイコン153は、エナジーハーベスタ電源154のマネジメント機能を備え、エナジーハーベスタ電源154からの電力をセンサ類151に投入する。このとき、マイコン153は、センサ類151における消費電力を省電力化するヒータ電力プロファイルに基づいて電力を投入しても良い。例えば、相対的に大きな電力である第1の電力を第1の期間T1だけ投入した後、相対的に小さな電力である第2の電力を第2の期間T2だけ投入しても良い。また、第2の期間T2にデータを読み取り、第2の期間T2が経過した後、第3の期間T3だけ電力の投入を停止しても良い。エナジーハーベスタ電源154は、太陽光や照明光、機械の発する振動、熱などのエネルギーを採取し、電力を得る。蓄電素子155は、電力を蓄電することが可能なリチウムイオン蓄電素子などである。
【0107】
以下、このようなセンサノードの動作について説明する。まず、
図35中の(1)に示すように、エナジーハーベスタ電源154からの電力がマイコン153に供給される。これにより、マイコン153は、
図35中の(2)に示すように、エナジーハーベスタ電源154からの電圧を昇圧する。次に、
図35中の(3)に示すように、蓄電素子155の電圧を読み取った後、
図35中の(4)・(5)に示すように、蓄電素子155への電力供給や、蓄電素子155からの電力引き出しを行う。次に、
図35中の(6)に示すように、ヒータ電力プロファイルに基づいてセンサ類151に電力を投入し、
図35中の(7)に示すように、センサ抵抗値およびPt抵抗値などのデータを読み取る。次に、
図35中の(8)に示すように、無線モジュール152に電力を供給し、
図35中の(9)に示すように、センサ抵抗値およびPt抵抗値などのデータを無線モジュール152に送る。最後に、
図35中の(10)に示すように、無線モジュール152によってセンサ抵抗値およびPt抵抗値などのデータが無線送信される。
【0108】
(センサパッケージ)
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサを搭載するセンサパッケージ96の模式的ブロック構成は、
図36に示すように表される。
【0109】
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサを搭載するセンサパッケージ96は、
図36に示すように、温度センサ用のサーミスタ部90と、湿度・酸素センサ用のYSZセンサ部92と、サーミスタ部90・YSZセンサ部92からのアナログ情報SA
2・SA
1を受信し、またサーミスタ部90・YSZセンサ部92への制御信号S
2・S
1を供給するAD/DA変換部94と、外部からのディジタル入出力信号DI・DOとを備える。
【0110】
サーミスタ部90は、例えば、NTCサーミスタ、PTCサーミスタ、セラミックPTC、ポリマーPTC、CTRサーミスタなどを適用可能である。YSZセンサ部92には、実施の形態に係る限界電流式ガスセンサを適用可能である。YSZセンサ部92においては、絶対湿度(Absolute Humidity)や相対湿度(RH:Relative Humidity)も測定可能であるが、特に相対湿度(RH)の検出では、温度が基準になるため、サーミスタ部90で検出した温度情報が必要となる。
【0111】
(センサネットワーク)
実施の形態に係る限界電流式ガスセンサを適用したセンサネットワークシステムの模式的ブロック構成は、
図37に示すように表される。
図37に示すように、センサネットワークとは、多数のセンサを相互に接続したネットワークである。すでに、工場、医療/ヘルスケア、交通、建設、農業、環境管理など、様々な分野でセンサネットワークを利用した新しい取り組みが始まっている。これらの分野では、耐久性の高いセンサを使用することが望まれるため、実施の形態に係る限界電流式ガスセンサ(例えば、湿度センサ)を適用するのが望ましい。このような湿度センサは、ジルコニアを使用しているため、耐久性に優れている。そのため、信頼性の高いセンサネットワークを提供することが可能である。
【0112】
以上説明したように、本発明によれば、表面伝導電流成分を低減化し、かつ低電力消費の限界電流式ガスセンサおよびその製造方法、およびセンサネットワークシステムを提供することができる。
【0113】
[その他の実施の形態]
上記のように、実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面は例示的なものであり、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0114】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。例えば、ジルコニアに代えてNASICON(Na Super Ionic Conductor)を固体電解質層4に用いれば、二酸化炭素の濃度を検出することが可能である。