特許第6404041号(P6404041)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6404041-ブレーキ装置システム 図000002
  • 特許6404041-ブレーキ装置システム 図000003
  • 特許6404041-ブレーキ装置システム 図000004
  • 特許6404041-ブレーキ装置システム 図000005
  • 特許6404041-ブレーキ装置システム 図000006
  • 特許6404041-ブレーキ装置システム 図000007
  • 特許6404041-ブレーキ装置システム 図000008
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404041
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】ブレーキ装置システム
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20181001BHJP
   B60T 7/12 20060101ALI20181001BHJP
   F16D 66/00 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   B60T8/00 Z
   B60T7/12 A
   F16D66/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-180963(P2014-180963)
(22)【出願日】2014年9月5日
(65)【公開番号】特開2016-55657(P2016-55657A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2017年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−080495(JP,A)
【文献】 特開2003−254364(JP,A)
【文献】 特開平08−105472(JP,A)
【文献】 特許第3380315(JP,B2)
【文献】 特開昭58−057526(JP,A)
【文献】 実開昭62−146027(JP,U)
【文献】 特開2006−194356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12 − 8/96
F16D 49/00 − 71/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドと、この摩擦パッドを前記ブレーキロータに接触させる摩擦パッド駆動手段とを備えた複数のブレーキ装置、および前記複数のブレーキ装置の前記摩擦パッド駆動手段によりブレーキ力を制御する制御装置を車両に設けたブレーキ装置システムにおいて
前記各ブレーキ装置を構成するいずれかの部材の温度を推定する温度推定手段をそれぞれ設け、
記制御装置に、
各ブレーキ装置の前記ブレーキロータに前記摩擦パッドを接触させ前記車両が制動または停止維持中か否かを判定する制動時等判定手段と、
この制動時等判定手段により前記車両が制動時または停止維持中であると判定され、かつ、いずれかの前記温度推定手段で推定される温度が閾値以上のとき、前記複数のブレーキ装置における一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させ、前記摩擦パッド駆動手段へのブレーキ摩擦熱の熱伝導率を低下させる熱伝導抑制手段と、
を設けたことを特徴とするブレーキ装置システム。
【請求項2】
請求項1記載のブレーキ装置システムにおいて、前記熱伝導抑制手段は、前記一部のブレーキ装置によりブレーキ力を低下させている間に、このブレーキ力の低下分を、その他のブレーキ装置により補完し、全てのブレーキ装置によるブレーキ力の総和を、前記一部のブレーキ装置のブレーキ力を低下させない場合と同じ値に保つ機能を有するブレーキ装置システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載のブレーキ装置システムにおいて、前記熱伝導抑制手段は、前記車両の速度が閾値以下の場合に前記一部のブレーキ装置によるブレーキ力の低下を行わせるブレーキ装置システム。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のブレーキ装置システムにおいて、前記車両が、この車両に作用する重力と直交する平面上における重心点周りの4象限のそれぞれに1つ以上のブレーキ装置を備え、前記制御装置は、前記熱伝導抑制手段を実行するとき、ブレーキ装置の動作に起因して発生する前記車両の旋回モーメントが定められた値以下となるよう各ブレーキ装置のブレーキ力を設定するブレーキ装置システム。
【請求項5】
ブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドと、この摩擦パッドを前記ブレーキロータに接触させる摩擦パッド駆動手段とを備えた複数のブレーキ装置、および前記複数のブレーキ装置の前記摩擦パッド駆動手段によりブレーキ力を制御する制御装置を車両に設けたブレーキ装置システムにおいて、前記各ブレーキ装置の前記ブレーキロータまたは前記摩擦パッドの温度を推定する温度推定手段をそれぞれ設け
前記制御装置に、
各ブレーキ装置の前記ブレーキロータに前記摩擦パッドを接触させ前記車両が制動または停止維持中か否かを判定する制動時等判定手段と、
この制動時等判定手段により前記車両が制動時または停止維持中であると判定され、かつ、いずれかの前記温度推定手段で推定される温度が閾値以上のとき、前記複数のブレーキ装置における一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させ、前記摩擦パッド駆動手段へのブレーキ摩擦熱の熱伝導率を低下させる熱伝導抑制手段と、
を設けたブレーキ装置システム。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のブレーキ装置システムにおいて、前記摩擦パッド駆動手段は、電動モータと、この電動モータの回転運動を前記摩擦パッドの直進運動に変換する直動機構とを有するブレーキ装置システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のブレーキ装置を車両に設けたブレーキ装置システムに関し、ブレーキ装置の温度上昇を抑制し得る技術に関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキの断熱手法として、以下の技術が提案されている。
(1).摩擦パッド裏に断熱材を配置するディスクブレーキ(特許文献1)。
(2).ピストンと摩擦パッドとの間に断熱材を挟むブレーキ(特許文献2)。
(3).電動モータの駆動力により回転するボールねじナットと、このボールねじナット内に複数のボールを介して進退可能に螺合するボールねじ軸とを備えた電動ブレーキ装置において、前記ボールに熱伝導率の低い部材を使用した電動ブレーキ装置(特許文献3)。
(4).遊星ローラねじを使用した電動ブレーキ装置(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−057526号公報
【特許文献2】実開昭62−146027号公報
【特許文献3】特開2003−254364号公報
【特許文献4】特開2006−194356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1〜4のような、車両の運動エネルギーを摩擦熱に変換する摩擦ブレーキ装置において、発生する摩擦熱に対するブレーキ装置の耐久性の確保が重要な課題となる。
特許文献1,2のような油圧ブレーキ装置において、ブレーキロータの発熱がブレーキフルードに伝達し温度上昇し過ぎると、ブレーキオイル中の水分の沸点に達し、ベーパロックが発生する可能性がある。
【0005】
そのため、特許文献1,2においては、摩擦パッド裏に断熱材を配置する技術が提案されているが、断熱性を向上させる場合、断熱材の搭載スペース、耐久性、コスト等が課題となる場合がある。
【0006】
特許文献3,4のような電動ブレーキ装置において、この電動ブレーキ装置に搭載するモータやセンサ等の電装部品の耐熱性が課題となる場合がある。また、例えばモータについては、ブレーキロータからの熱伝達により温度上昇する場合、モータトルクに対するモータコイルの銅損を低減するよう設計しなければならず、モータのサイズが大きくなることによる搭載スペースの増加、コスト増加等が問題となる場合がある。
【0007】
そのため、特許文献3においては、電動アクチュエータのボールねじのボールを、熱伝達率の低い部材にて構成する技術が提案されているが、低い熱伝導率、耐久性の確保、およびコスト低減を全て成立させることは困難である。
【0008】
この発明の目的は、複数のブレーキ装置を車両に搭載したブレーキ装置システムにおいて、ブレーキロータからブレーキキャリパへの熱伝導率を低下させ、ブレーキ装置の耐久性を確保し、またコスト低減を図ることができるブレーキ装置システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明における第1の発明のブレーキ装置システムは、ブレーキロータ5と、このブレーキロータ5と接触して制動力を発生させる摩擦パッド6と、この摩擦パッド6を前記ブレーキロータ5に接触させる摩擦パッド駆動手段Mkとを備えた複数のブレーキ装置、および前記複数のブレーキ装置の前記摩擦パッド駆動手段Mkによりブレーキ力を制御する制御装置7を車両に設けたブレーキ装置システムにおいて
前記各ブレーキ装置を構成するいずれかの部材の温度を推定する温度推定手段37をそれぞれ設け、
記制御装置7に、
各ブレーキ装置の前記ブレーキロータ5に前記摩擦パッド6を接触させ前記車両が制動時または停止維持中か否かを判定する制動時等判定手段30と、
この制動時等判定手段30により前記車両が制動または停止維持中であると判定され、かつ、いずれかの前記温度推定手段で推定される温度が閾値以上のとき、前記複数のブレーキ装置における一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させ、前記摩擦パッド駆動手段Mkへのブレーキ摩擦熱の熱伝導率を低下させる熱伝導抑制手段35とを設けたことを特徴とする。
【0010】
この構成によると、ブレーキ操作手段29の操作により、制御装置7は、摩擦パッド駆動手段Mkによりブレーキ力を制御する。摩擦パッド駆動手段Mkは、摩擦パッド6をブレーキロータ5に接触させることで制動力を発生させる。この摩擦パッド駆動手段MkはブレーキキャリパBkに設けられる。車両の走行時において、摩擦パッド駆動手段Mkにより制動開始時から通常のブレーキ動作を行い、その後、例えば、車速が零または零近傍の低速のとき、制動時等判定手段30は、各ブレーキロータ5に摩擦パッド6を接触させ車両が制動または停止維持中か否かを判定する。
【0011】
熱伝導抑制手段35は、前記車両が制動または停止維持中であるとの判定で、複数のブレーキ装置における一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させ、前記摩擦パッド駆動手段MkつまりブレーキキャリパBkへのブレーキ摩擦熱の熱伝導率を低下させる。最適なブレーキ力のバランスや、各ブレーキ装置のブレーキ力を低下させるローテーションは、例えば、四輪自動車の場合、車速および減速度、前後のブレーキバランス、ブレーキロータ5の体積、ブレーキ装置の体積等からブレーキロータ5の温度上昇の度合を推定し、決定しても良い。
【0012】
ブレーキ装置として油圧ブレーキ装置を適用した場合、ブレーキキャリパBkへのブレーキ摩擦熱の熱伝導率を低下させ得ることで、ブレーキロータ5と摩擦パッド6との摩擦による発熱(ブレーキ摩擦熱)がブレーキフルードへ伝達することを抑制することができる。したがって、ブレーキフルードが温度上昇し過ぎることを防止し、ベーパロックを防止することができる。また従来技術のように摩擦パッド裏に断熱材を配置する必要がないため、断熱材の搭載スペースを確保する必要がなく、またコスト低減を図れる。
ブレーキ装置として電動ブレーキ装置Dbを適用した場合、ブレーキロータ5と摩擦パッド6との摩擦による発熱(ブレーキ摩擦熱)が電動ブレーキ装置Dbの電動アクチュエータに伝達することを抑制できるため、この電動アクチュエータの熱負荷を軽減することができる。
【0013】
前記熱伝導抑制手段35は、前記一部のブレーキ装置によりブレーキ力を低下させている間に、このブレーキ力の低下分を、その他のブレーキ装置により補完し、全てのブレーキ装置によるブレーキ力の総和を、前記一部のブレーキ装置のブレーキ力を低下させない場合と同じ値に保つ機能を有するものとしても良い。このように一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させた場合であっても、全てのブレーキ装置によるブレーキ力の総和を一定に保つことで、制動距離が不所望に長くなることを防止することができる。
【0014】
前記熱伝導抑制手段35は、前記車両の速度が閾値以下の場合に前記一部のブレーキ装置によるブレーキ力の低下を行わせるものとしても良い。
前記閾値は、実験やシミュレーション等の結果により、任意に、例えば零または零近傍に定めることができる。車速が零または零近傍の低速とすると、車両の挙動や運動特性への影響を小さくすることができる。熱伝導抑制手段35は、車両の挙動や運動特性への影響が小さい条件下で一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させ得る。
【0015】
前記車両が、この車両に作用する重力と直交する平面上における重心点周りの4象限のそれぞれに1つ以上のブレーキ装置を備え、前記制御装置7は、前記熱伝導抑制手段35を実行するとき、ブレーキ装置の動作に起因して発生する前記車両の旋回モーメントが定められた値以下となるよう各ブレーキ装置のブレーキ力を設定しても良い。
前記定められた値は、例えば、試験やシミュレーション等の結果により定められる。
【0016】
車両走行中において、前記4象限にそれぞれ配置されるブレーキ装置のうちいずれか1象限に配置されるブレーキ装置のみを動作させると、車両に不所望な旋回モーメントが発生する。そこで、車両の旋回モーメントが定められた値以下となるよう各ブレーキ装置のブレーキ力を設定することで、ブレーキ装置の動作に起因する車両の旋回モーメントを極力抑えて車両挙動の安定化を図ることができる。
【0017】
この発明における第2の発明のブレーキ装置システムは、ブレーキロータ5と、このブレーキロータ5と接触して制動力を発生させる摩擦パッド6と、この摩擦パッド6を前記ブレーキロータ5に接触させる摩擦パッド駆動手段Mkとを備えた複数のブレーキ装置、および前記複数のブレーキ装置の前記摩擦パッド駆動手段Mkによりブレーキ力を制御する制御装置7を車両に設けたブレーキ装置システムにおいて、前記各ブレーキ装置の前記ブレーキロータ5または前記摩擦パッド6の温度を推定する温度推定手段37をそれぞれ設け
前記制御装置に、
各ブレーキ装置の前記ブレーキロータに前記摩擦パッドを接触させ前記車両が制動または停止維持中か否かを判定する制動時等判定手段と、
この制動時等判定手段により前記車両が制動時または停止維持中であると判定され、かつ、いずれかの前記温度推定手段で推定される温度が閾値以上のとき、前記複数のブレーキ装置における一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させ、前記摩擦パッド駆動手段へのブレーキ摩擦熱の熱伝導率を低下させる熱伝導抑制手段と、を設けたものである。制動時の各ブレーキ装置の温度上昇を試験やシミュレーション等により把握しておき、この把握した結果から前記閾値を設定し得る。
【0018】
前記摩擦パッド駆動手段Mkは、電動モータ2と、この電動モータ2の回転運動を前記摩擦パッド6の直進運動に変換する直動機構4とを有するものとしても良い。この場合、熱伝導抑制手段35が摩擦パッド駆動手段Mkへのブレーキ摩擦熱の熱伝導率を低下させることで、電動モータ2のモータコイルの銅損を低減する設計を見直して、モータサイズの小型化を図ることができる。これにより電動モータ2の搭載スペースを低減することができる。また、直動機構4の構成部品を耐熱性の高い部品にする必要がなくなるため、その分、コスト低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明における第1の発明のブレーキ装置システムは、ブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドと、この摩擦パッドを前記ブレーキロータに接触させる摩擦パッド駆動手段とを備えた複数のブレーキ装置、および前記複数のブレーキ装置の前記摩擦パッド駆動手段によりブレーキ力を制御する制御装置を車両に設けたブレーキ装置システムにおいて、前記各ブレーキ装置を構成するいずれかの部材の温度を推定する温度推定手段をそれぞれ設け、前記制御装置に、各ブレーキ装置の前記ブレーキロータに前記摩擦パッドを接触させ前記車両が制動または停止維持中か否かを判定する制動時等判定手段と、この制動時等判定手段により前記車両が制動時または停止維持中であると判定され、かつ、いずれかの前記温度推定手段で推定される温度が閾値以上のとき、前記複数のブレーキ装置における一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させ、前記摩擦パッド駆動手段へのブレーキ摩擦熱の熱伝導率を低下させる熱伝導抑制手段とを設けた。このため、ブレーキロータと摩擦パッドとの摩擦による発熱であるブレーキ摩擦熱のブレーキキャリパへの熱伝導率を低下させ、ブレーキ装置の耐久性を確保し、またコスト低減を図ることができる
この発明における第2の発明のブレーキ装置システムは、ブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドと、この摩擦パッドを前記ブレーキロータに接触させる摩擦パッド駆動手段とを備えた複数のブレーキ装置、および前記複数のブレーキ装置の前記摩擦パッド駆動手段によりブレーキ力を制御する制御装置を車両に設けたブレーキ装置システムにおいて、前記各ブレーキ装置の前記ブレーキロータまたは前記摩擦パッドの温度を推定する温度推定手段をそれぞれ設け、前記制御装置に、各ブレーキ装置の前記ブレーキロータに前記摩擦パッドを接触させ前記車両が制動または停止維持中か否かを判定する制動時等判定手段と、この制動時等判定手段により前記車両が制動時または停止維持中であると判定され、かつ、いずれかの前記温度推定手段で推定される温度が閾値以上のとき、前記複数のブレーキ装置における一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させ、前記摩擦パッド駆動手段へのブレーキ摩擦熱の熱伝導率を低下させる熱伝導抑制手段と、を設けた。このため、ブレーキロータと摩擦パッドとの摩擦による発熱であるブレーキ摩擦熱のブレーキキャリパへの熱伝導率を低下させ、ブレーキ装置の耐久性を確保し、またコスト低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】この発明の実施形態に係るブレーキ装置システムの構成を概略示す図である。
図2】同ブレーキ装置システムにおける各ブレーキ装置の要部の断面図である。
図3】同ブレーキ装置システムの制御系のブロック図である。
図4】同ブレーキ装置システムにおける摩擦パッドの押圧力と熱伝導率等との相関を示す図である。
図5】同ブレーキ装置システムにおける熱伝導抑制手段の制動時の動作概念図である。
図6】(A)は四輪それぞれにブレーキ装置を搭載した例を示す図、(B)は、図6(A)の四輪自動車の制動時における、車速およびブレーキ力の動作を示す図である。
図7】同ブレーキ装置システムのブレーキ力の動作を段階的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明の実施形態に係るブレーキ装置システムを図1ないし図7と共に説明する。
図1は、車両である四輪自動車の各車輪Ha,Hb,Hc,Hdにブレーキ装置をそれぞれ搭載したブレーキ装置システムの構成を概略示す図である。この例では、各ブレーキ装置として電動ブレーキ装置Dbを適用している。この電動ブレーキ装置Dbは、ブレーキロータ5と、ブレーキキャリパBkと、制御装置7とを備えている。
【0022】
図2に示すように、ブレーキキャリパBkは、ブレーキロータ5と接触して制動力を発生させる摩擦パッド6と、この摩擦パッド6をブレーキロータ5に接触させる摩擦パッド駆動手段Mkとを有する。制御装置7は、摩擦パッド駆動手段Mkによりブレーキ力を制御する。図1に示すように、この車両は、この車両に作用する重力と直交する平面上における重心点P1周りの4象限(第I象限、第II象限、第III象限、第IV象限)のそれぞれにブレーキ装置DbのブレーキキャリパBk等を配置している。
【0023】
先ずブレーキキャリパBkについて説明する。
図2に示すように、このブレーキキャリパBkは、ハウジング1と、前記摩擦パッド駆動手段Mkと、前記摩擦パッド6と、図示外のパーキングブレーキ用のロック機構とを有する。摩擦パッド駆動手段Mkは、電動モータ2と、この電動モータ2の回転を減速する減速機構3と、電動モータ2の回転を減速機構3を介して摩擦パッド6の直線運動に変換する直動機構4とを有する。ハウジング1に電動モータ2が支持される。ハウジング1内には、電動モータ2の出力によりブレーキロータ5に対して制動力を負荷する直動機構4が組み込まれている。ハウジング1の開口端はカバー8によって覆われている。
【0024】
直動機構4について説明する。
直動機構4は、電動モータ2により回転駆動される回転軸9と、この回転軸9の回転運動を直線運動に変換する変換機構部10と、拘束部11,12とを有する。変換機構部10は、直動部14と、軸受部材15と、環状のスラスト板16と、スラスト軸受17と、転がり軸受18と、キャリア19と、すべり軸受20,21と、複数の遊星ローラ22とを有する。
【0025】
ハウジング1の内周面に、円筒状の直動部14が、回り止めされ且つ軸方向に移動自在に支持されている。直動部14の内周面には、径方向内方に所定距離突出し螺旋状に形成された螺旋突起が設けられている。この螺旋突起に複数の遊星ローラ22が噛合している。
【0026】
ハウジング1内における直動部14の軸方向一端側に、軸受部材15が設けられている。この軸受部材15は、径方向外方に延びるフランジ部と、ボス部とを有する。このボス部内に複数の転がり軸受18が嵌合され、これら転がり軸受18の内輪内径面に回転軸9が嵌合されている。回転軸9は、軸受部材15に複数の転がり軸受18を介して回転自在に支持される。
【0027】
直動部14の内周には、回転軸9を中心に回転可能なキャリア19が設けられている。キャリア19は、軸方向に互いに対向して配置されるディスクを有する。軸受部材15に近いディスクをインナ側ディスクといい、他方のディスクをアウタ側ディスクという場合がある。アウタ側ディスクのうち、インナ側ディスクに臨む側面には、この側面における外周縁部から軸方向に突出する間隔調整部材が設けられる。この間隔調整部材は、複数の遊星ローラ22の間隔を調整するため、円周方向に等間隔を空けて複数配設されている。これら間隔調整部材により、両ディスクが一体に設けられる。
【0028】
インナ側ディスクは、回転軸9との間に嵌合されたすべり軸受20により、回転自在に支持されている。アウタ側ディスクには、中心部に軸挿入孔が形成され、この軸挿入孔にすべり軸受21が嵌合されている。アウタ側ディスクは、すべり軸受21により回転軸9に回転自在に支持される。回転軸9の両端部には、スラスト荷重を受けて回転軸9の軸方向位置を拘束する拘束部11,12が設けられる。各拘束部11,12は、例えば、ワッシャ等からなるストッパ片から成る。回転軸9の両端部には、これら拘束部11,12の抜け止め用の止め輪が設けられる。
【0029】
キャリア19には、複数のローラ軸23が周方向に間隔を空けて設けられている。各ローラ軸23の両端部が、インナ側ディスク,アウタ側ディスクにわたって支持されている。すなわち両ディスクには、それぞれ長孔から成る軸挿入孔が複数形成され、各軸挿入孔に各ローラ軸23の両端部が挿入されてこれらローラ軸23が各軸挿入孔の範囲で径方向に移動自在に支持される。複数のローラ軸23における軸方向両端部には、それぞれ、これらローラ軸23を径方向内方に付勢する弾性リング24が掛け渡されている。
【0030】
各ローラ軸23に、遊星ローラ22が回転自在に支持され、各遊星ローラ22は、回転軸9の外周面と、直動部14の内周面との間に介在される。複数のローラ軸23に渡って掛け渡された弾性リング24の付勢力により、各遊星ローラ22が回転軸9の外周面に押し付けられる。回転軸9が回転することで、この回転軸9の外周面に接触する各遊星ローラ22が接触摩擦により回転する。遊星ローラ22の外周面には、直動部14の螺旋突起に噛合する螺旋溝が形成されている。
【0031】
減速機構3は、電動モータ2の回転を、回転軸9に固定された出力ギヤ25に減速して伝える機構であり、複数のギヤ列(図示せず)を含む。この例では、減速機構3は、電動モータ2の図示外のロータ軸に取り付けられた入力ギヤ(図示せず)の回転を前記ギヤ列により順次減速して、出力ギヤ25に伝達可能としている。
前記パーキング用のロック機構は、直動機構4の制動力弛み動作を阻止するロック状態と許容するアンロック状態とにわたって切換え可能に構成されている。このロック機構がロック状態になると電動モータ2の出力を止めてパーキングブレーキ状態になる。
【0032】
図3は、このブレーキ装置システムの制御系のブロック図である。このブレーキ装置システムの制御装置7は、ECU26と、インバータ装置27と、車速検出手段28とを有する。インバータ装置27の上位制御手段であるECU26として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニットが適用される。ECU26は、ブレーキ力指令手段26aと、制動時等判定手段30とを有する。
【0033】
ブレーキ力指令手段26aは、ブレーキ操作手段29であるブレーキペダルの操作量に応じて変化するセンサ29aの出力に応じて、目標とするブレーキ力の指令値を生成し出力する。制動時等判定手段30は、各ブレーキ装置のブレーキロータ5(図2)に摩擦パッド6(図2)を接触させこの車両の車速が零または零近傍の低速のときの制動または制動維持中か否かを判定する。つまり制動時等判定手段30は、例えば、センサ29aの出力と、電流検出手段34で検出されるモータ電流とから、相応のブレーキ力推定値を演算により求める。前記センサ29aの出力、モータ電流、およびブレーキ力推定値の関係は、予め、実験やシミュレーション等の結果により定められる。
【0034】
制動時等判定手段30は、前記ブレーキ力推定値を求めると共に、車速検出手段28で検出される車速が閾値以下(車速零を含む)であるか否かを判定する。
【0035】
インバータ装置27は、各電動モータ2に対して設けられたパワー回路部31と、このパワー回路部31を制御するモータコントロール部32と、前記電流検出手段34とを有する。なお複数のインバータ装置27はそれぞれ同一構成であるため、図3では、複数のインバータ装置27における1つのインバータ装置27のみを図示し、他のインバータ装置27については省略する。モータコントロール部32は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成される。モータコントロール部32は、ブレーキ力指令手段26aから与えられるブレーキ力の指令値および後述の熱伝導抑制手段35から出力される値に基づいて、電圧値による電流指令に変換して、この電流指令をパワー回路部31に与える。モータコントロール部32は、電動モータ2に関する各検出値や制御値等の各情報をECU26に出力する機能を有する。
【0036】
パワー回路部31は、図示外のバッテリー等の電源の直流電力を電動モータ2の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ31bと、このインバータ31bを制御するPWM制御部31aとを有する。電動モータ2は、3相の同期モータ等からなる。インバータ31bは、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWM制御部31aは、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0037】
モータコントロール部32は、その基本となる制御部としてモータ駆動制御部36を有する。このモータ駆動制御部36は、ブレーキ力の指令値および熱伝導抑制手段35から出力される値に従い、電圧値に基づく電流指令に変換して、パワー回路部31のPWM制御部31aに電流指令からなるモータ動作指令値を与える。モータ駆動制御部36は、ブレーキ力の指令値に対し、インバータ31bから電動モータ2に流すモータ電流を電流検出手段34から得て、電流フィードバック制御を行う。またモータ駆動制御部36は、電動モータ2のロータ(図示せず)の回転角をモータ回転角検出手段33から得て、ロータ回転角に応じた効率的なモータ駆動が行えるように、PWM制御部31aに電流指令を与える。
【0038】
モータコントロール部32には、熱伝導抑制手段35が設けられる。この熱伝導抑制手段35は、制動時等判定手段30によりブレーキ力推定値を求めると共に、車速検出手段28で検出される車速が定められた車速以下であると判定したとき、複数のブレーキ装置における一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させ、ブレーキロータ5(図2)と摩擦パット6(図2)との摩擦による発熱であるブレーキ摩擦熱の摩擦パッド駆動手段Mk(図2)への熱伝導率を低下させる。
【0039】
ここで図4(a)は、このブレーキ装置システムにおける摩擦パッド6(図2)の押圧力と、ブレーキロータ5(図2)と摩擦パット6(図2)との摩擦による発熱であるブレーキ摩擦熱の摩擦パッド駆動手段Mk(図2)への熱伝導率との相関を示す図であり、図4(b)は、同摩擦パッドの押圧力とブレーキ力との相関を示す図である。なお、タイヤと路面の摩擦係数をμとすると、この摩擦係数μに摩擦パッド6(図2)の押圧力を乗じた値がブレーキ力である。
【0040】
図4(a)に示すように、摩擦パッド6(図2)の押圧力が零の状態である初期状態においては、摩擦パッド6(図2)のクリアランス中の空気を介しての熱伝導および輻射熱のみとなるため、熱伝導率が低い状態にある。ブレーキ操作手段29(図2)の操作により摩擦パッド6(図2)が押圧されると、各部材間の接触面積が増加して熱伝導率が上昇する。
【0041】
その際、摩擦パッド6(図2)の押圧力(接触面の面圧)が低い状態では線形性が強く、押圧力が高くなるにつれ非線形性が強くなることが一般的に知れられている。この特性は主に前記各部材の材質や面粗度に依存する。
すなわち、複数の接触面が存在する熱伝導経路において、複数のブレーキ装置の押圧力の総和あるいは平均値が一定である場合、前記複数の接触面の押圧力が均一である程平均的な熱伝導率は高く、不均一である程熱伝導率は低下する傾向を示す。
【0042】
図4(b)に示す摩擦パッドの押圧力とブレーキ力との相関において、摩擦パッド摩擦係数が一定とすると、基本的には、摩擦係数μに面圧を乗じた値がブレーキ力である故、前記相関は線形な関係を示す。
例として、ある摩擦パッド押圧力Fに対して所定のバイアスを持ち、かつ平均値がFに一致する摩擦パッド押圧力F,Fにおいて、図4(a)に示すように、押圧力Fの際の熱伝導率Hに対し、F,Fの際の熱伝導率の平均値は低下する。一方、ブレーキ力については、図4(b)に示すように、押圧力Fの際のブレーキ力Dと、F,Fの際の平均ブレーキ力は概ね一致する。
【0043】
図5は、このブレーキ装置システムにおける熱伝導抑制手段の制動時の動作概念図である。この例は、ある車速から制動する際のブレーキ動作の一例を示す。以下、図3も参照しつつ説明する。同図5のブレーキ装置A,Bは、例えば、四輪自動車における前輪ブレーキ装置,後輪ブレーキ装置のような、押圧力の異なる作動を要求されるブレーキ装置の例を示す。
【0044】
図5(a)に示すように、制動開始時から前記閾値となる車速までは、通常のブレーキ動作を行う。この場合、制動時等判定手段30は、車速検出手段28で検出される車速が閾値より大きいと判定するため、熱伝導抑制手段35による制御を実行しない。この場合、モータ駆動制御部36は、ブレーキ力の指令値に従い電圧値による電流指令に変換して、PWM制御部31aに電流指令からなるモータ動作指令値を与える。
【0045】
車速が閾値以下になると、制動時等判定手段30がその旨車速検出手段28により判定することで、熱伝導抑制手段35は、図5(b),(c)に示すように、一部のブレーキ装置Aのブレーキ力を低下させて熱伝導率を低下させる。これと共に、制御装置7は、全てのブレーキ装置A,Bの総ブレーキ力(図5(b)の点線にて表記)を一定に保つように、その他のブレーキ装置Bのブレーキ力を上昇させる。
【0046】
このとき図4(a)に示す熱伝導率の関係により、ブレーキ力が不均一である程平均的な熱伝導率は低下する。このため、図5(b)に示すように、複数のブレーキ装置A,Bにおいて、一部のブレーキ装置Aのブレーキ力を低下させると共に、その他のブレーキ装置Bのブレーキ力を上昇させる動作を交互に行えば、図5(c)に示すように、最終的にブレーキロータ5(図2)と摩擦パット6(図2)との摩擦による発熱であるブレーキ摩擦熱を伝達する熱量(図5(c)の点線参照)は、本実施形態の動作により低下する。
【0047】
車速の閾値については任意に定めることができるが、例えば、車速が零または零近傍の低速(例えば数km/h)とすると、車両の挙動や運動特性への影響を小さくすることができる。この際、一般にブレーキロータ5(図2)と摩擦パット6(図2)との摩擦により発生した熱エネルギによるブレーキ装置全体の温度変化が平行点に達するまでに少なくとも数分以上を要するのに対し、制動時間は数秒程度と極めて短い。このため、ブレーキ装置への熱伝導率を低下させる目的に対する効果は十分得られると考えられる。
【0048】
最適なブレーキ力のバランスや、各ブレーキ装置の熱伝導抑制手段35による制御を行うローテーションは、例えば、四輪自動車の場合、車速及び減速度、前後のブレーキバランス、ブレーキロータ5(図2)の体積、ブレーキ装置の体積、等からブレーキロータ5(図2)の温度上昇の度合を推定し、決定しても良い。
【0049】
図6(A)は四輪それぞれにブレーキ装置Dbを搭載した例を示す図であり、図6(B)は、図6(A)の四輪自動車の制動時における、車速およびブレーキ力A〜Dの動作を示す図である。なお、この四輪自動車の操縦者によって要求されるブレーキ力が時間経過に沿って一定である場合を示している。
【0050】
制動時の各ブレーキロータ5の温度Tは、ブレーキロータの初期温度T、各ブレーキロータ5によるブレーキ力Fx、全ブレーキ力F、車両の運動エネルギ変化量ΔE、ブレーキロータ5の熱容量Cxから
T=T+(ΔE・(Fx/F)/Cx)
により決定される。
【0051】
また、ブレーキロータ5からブレーキアクチュエータ(またはブレーキフルード)等の温度、ブレーキロータの温度、図4(a)に示す熱伝導率の関係、ブレーキアクチュエータの熱容量から、伝わる熱量が決定される。実際には、全ての熱流のモデル化は困難であること、および厳密な温度制御までは必要としないことから、予め制動時の各ブレーキ装置Dbの温度上昇を試験等により把握しておき、熱伝導抑制手段35におけるブレーキ力を弱める順番等を予め決定しておいても良い。
【0052】
図6(B)に示すように、一般にブレーキ力の強いフロント用ブレーキ装置Dbの温度上昇は、リア用ブレーキ装置Dbと比較して大きい傾向にあるため、左右のフロント用ブレーキ装置Dbから一輪ずつ熱伝導抑制手段35を実行している。
車速が概ね零となった時点から、A→B→C→Dの順に交互に熱伝導抑制手段35によりブレーキ力を弱めて熱伝導率を低下させる。このとき、全てのブレーキ装置Dbのブレーキ力の総和が等しくなるように、ブレーキ力を弱めるブレーキ装置Dbの他のブレーキ装置Dbにおけるブレーキ力を上昇させている。
【0053】
図7は、このブレーキ装置システムのブレーキ力の動作を段階的に示すフローチャートである。図3及び図6(A)と共に説明する。例えば、車両の電源を投入する条件で本処理を開始し、制動時等判定手段30は、全ブレーキ力Fが零より大か否かを判定する(ステップS1)。否との判定で(ステップS1:no)、各ブレーキ装置のブレーキ力の減圧時間を初期化(cnt=0)する(ステップS4)。次に、制動時等判定手段30は、後述のステップS3における選択枝としてid_aを図示外の記録手段に記録しておく(ステップS5)。その後本処理を終了する。
【0054】
全ブレーキ力Fが零より大との判定で(ステップS1:yes)、制動時等判定手段30は、車速が零または零近傍の低速か否かを判定する(ステップS2)。否との判定で(ステップS2:no)、ステップS4に移行する。車速が零または零近傍の低速であるとの判定で(ステップS2:yes)、制御装置7は、前記記録手段に記録されている選択枝を照合する(ステップS3)。
【0055】
選択枝としてid_aが記録されているとき、熱伝導抑制手段35は、ブレーキ装置Aのブレーキ力Fを零に減圧させ(ステップS6)、ブレーキ装置B,C,Dのブレーキ力F,F,Fにそれぞれ減圧前のブレーキ力Fの1/3を加算する(ステップS7)。次に、熱伝導抑制手段35は、ブレーキ力Fを減圧させる設定時間tを超えたか否かを判定する(ステップS8)。否との判定で(ステップS8:no)、ブレーキ力Fを減圧させる時間のカウンタを加算して(ステップS10)本処理を終了する。
【0056】
設定時間tを超えたとの判定で(ステップS8:yes)、制動時等判定手段30は、ステップS3における選択枝としてid_bを前記記録手段に記録しておく(ステップS9)。次に、制動時等判定手段30は、各ブレーキ装置のブレーキ力の減圧時間を初期化(cnt=0)し(ステップS11)、その後本処理を終了する。
【0057】
ステップS3の選択枝としてid_bが前記記録手段に記録されているとき、熱伝導抑制手段35は、ブレーキ装置Bのブレーキ力Fを零に減圧させ(ステップS12)、ブレーキ装置A,C,Dのブレーキ力F,F,Fをそれぞれ減圧前のブレーキ力Fの1/3にする(ステップS13)。次に、熱伝導抑制手段35は、ブレーキ力Fを減圧させる設定時間tを超えたか否かを判定する(ステップS14)。
【0058】
否との判定で(ステップS14:no)、ブレーキ力Fを減圧させる時間のカウンタを加算して(ステップS16)本処理を終了する。設定時間tを超えたとの判定で(ステップS14:yes)、制動時等判定手段30は、ステップS3における選択枝としてid_cを前記記録手段に記録しておく(ステップS15)。次に、制動時等判定手段30は、各ブレーキ装置のブレーキ力の減圧時間を初期化(cnt=0)し(ステップS17)、その後本処理を終了する。
【0059】
ステップS3の選択枝として前記id_cが前記記録手段に記録されているとき、熱伝導抑制手段35は、ブレーキ装置Cのブレーキ力Fを零に減圧させ(ステップS18)、ブレーキ装置A,B,Dのブレーキ力F,F,Fにそれぞれ減圧前のブレーキ力Fの1/3を加算する(ステップS19)。次に、熱伝導抑制手段35は、ブレーキ力Fを減圧させる設定時間tを超えたか否かを判定する(ステップS20)。
【0060】
否との判定で(ステップS20:no)、ブレーキ力Fを減圧させる時間のカウンタを加算して(ステップS22)本処理を終了する。設定時間tを超えたとの判定で(ステップS20:yes)、制動時等判定手段30は、ステップS3における選択枝としてid_dを前記記録手段に記録しておく(ステップS21)。その後、ブレーキ力の減圧時間を初期化(cnt=0)し(ステップS23)、その後本処理を終了する。
【0061】
ステップS3の選択枝として前記id_dが前記記録手段に記録されているとき、ブレーキ装置Dのブレーキ力Fを零に減圧させ(ステップS24)、ブレーキ装置A,B,Cのブレーキ力F,F,Fにそれぞれ減圧前のブレーキ力Fの1/3を加算する(ステップS25)。次に、ブレーキ力Fを減圧させる設定時間tを超えていないとの判定で(ステップS26:no)、ブレーキ力Fを減圧させる時間のカウンタを加算して(ステップS28)本処理を終了する。設定時間tを超えたとの判定で(ステップS26:yes)、ステップS3における選択枝としてid_aを前記記録手段に記録し(ステップS27)、ブレーキ力の減圧時間を初期化(cnt=0)し(ステップS29)、その後本処理を終了する。
【0062】
以上説明したブレーキ装置システムによれば、熱伝導抑制手段35は、前記車両が制動または停止維持中であるとの判定で、複数のブレーキ装置における一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させ、前記摩擦パッド駆動手段MkつまりブレーキキャリパBkへのブレーキ摩擦熱の熱伝導率を低下させる。これにより、ブレーキロータ5(図2)と摩擦パット6(図2)との摩擦による発熱がブレーキ装置Dbの電動モータ2等に伝達することを抑制できるため、電動モータ2等の熱負荷を軽減することができる。
【0063】
熱伝導抑制手段35は、一部のブレーキ装置によるブレーキ力の低下を、その他のブレーキ装置により補完し、全てのブレーキ装置によるブレーキ力の総和を一定に保つ機能を有する。このように一部のブレーキ装置によるブレーキ力を低下させた場合であっても、全てのブレーキ装置によるブレーキ力の総和を一定に保つことで、制動距離が不所望に長くなることを防止することができる。
【0064】
他の実施形態について説明する。
図3の点線に示すように、各ブレーキ装置のブレーキロータまたは摩擦パッドの温度を推定する温度推定手段37をそれぞれ設け、制御装置7は、制動時等判定手段30による判定結果が車両が零または零近傍との判定と共にいずれかの温度推定手段37で推定される温度が閾値以上のとき、熱伝導抑制手段35を実行させても良い。温度測定手段37として例えばサーミスタ等を適用可能である。制動時の各ブレーキ装置の温度上昇を試験やシミュレーション等により把握しておき、この把握した結果から前記閾値を設定し得る。この場合、各ブレーキ装置のブレーキロータ5または摩擦パッド6の温度に基づいて、ブレーキ力の抑制制御を木目細かく行うことができる。サーミスタ等はブレーキキャリパBkに設けている
【0065】
車両が、この車両に作用する重力と直交する平面上における重心点周りの4象限のそれぞれに1つ以上のブレーキ装置を備える構成において、制御装置7は、熱伝導抑制手段35を実行するとき、ブレーキ装置の動作に起因して発生する前記車両の旋回モーメントが定められた値以下となるよう各ブレーキ装置のブレーキ力を設定しても良い。この場合、車両走行中において、ブレーキ装置の動作に起因する車両の旋回モーメントを極力抑えて車両挙動の安定化を図ることができる。
【0066】
ブレーキ装置システムは、電動式に限定されるものではなく、例えば、マスタシリンダの油圧を各輪に配管を通じて印加する油圧ブレーキシステム等において、ABSアクチュエータのようなバルブやポンプからなる液圧制御アクチュエータであっても良い。
【0067】
前述の実施形態では、ブレーキ力を零近傍まで弱める例を示しているが、例えば、ベースのブレーキ装置のブレーキ力が大きく他のブレーキ装置の最大ブレーキ力を超過する可能性のある場合等においては、状況に応じてブレーキ力を弱める量を変動させても良い。
また、弱めたブレーキ力の分を3等分して他のブレーキ力を上昇させる例を示しているが、例えば、一般に最大ブレーキ力の大きいフロントブレーキ装置を優先して使用する、あるいは逆に、一般に温度上昇が小さいであろうリアブレーキ装置を優先して使用する等、他のブレーキ装置におけるブレーキ力増加量が異なる仕様としても良い。
【符号の説明】
【0068】
2…電動モータ
4…直動機構
5…ブレーキロータ
6…摩擦パッド
7…制御装置
30…制動時等判定手段
35…熱伝導抑制手段
37…温度推定手段
Mk…摩擦パッド駆動手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7