【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記課題を達成するために検討した結果、本発明に到達した。
【0006】
本発明は、片面が長繊維不織布、他面が短繊維ウェブにより構成される2層構造不織布であり、
該長繊維不織布を構成する長繊維の横断面形状が、略Y字の下端で上下左右に連結した
形状(以下、「略Y4形状」という。)であり、その単糸繊度が10デシテックス以上であり、
該長繊維不織布は、穿孔による孔を多数有するものであり、
短繊維ウェブは、交絡処理が施されることにより、短繊維ウェブ内の構成繊維同士が交絡一体化しているとともに、長繊維不織布を構成する長繊維に絡み付くことにより短繊維ウェブと長繊維不織布とが一体化するとともに、長繊維に絡み付いた短繊維が長繊維不織布表面側にも存在していることを特徴とする2層構造不織布を要旨とするものである。
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
長繊維不織布と短繊維ウェブとは、交絡処理が施されることにより一体化しているものであるが、交絡処理は水流交絡処理であることが好ましい。水流交絡処理は、高圧の液体流を施すものであり、交絡処理において被処理物である繊維を切断したり等のダメージを与えることなく交絡させることができるためである。
【0009】
本発明における短繊維ウェブを構成する短繊維としては、水流交絡処理における水流の作用によって、繊維が動き、交絡することができるものであればよく、その素材としては、コットン、レーヨンやリヨセル等のセルロース系繊維、ポリエステルやポリオレフィン等の熱可塑性繊維等が挙げられる。本発明の2層構造不織布を拭き布に適用することを考慮すると吸水性を有することが好ましいため、短繊維は、コットン、レーヨンやリヨセル等のセルロース系繊維を用いることが好ましい。また、短繊維ウェブ中に熱バインダー繊維を適宜混合してもよい。熱バインダー繊維を混合した場合、後述する長繊維不織布と短繊維ウェブとを交絡一体化した後に、熱処理を施して熱バインダー繊維を溶融軟化させて、短繊維同士や短繊維と長繊維とを熱接着することにより、より一層形態安定性に優れた2層構造不織布が得られる。短繊維の繊維長は、交絡性を考慮して、10〜70mm程度がよい。短繊維ウェブの目付は特に限定されず、所望により適宜選択すればよいが、15〜100g/m
2程度がよい。
【0010】
本発明における長繊維不織布は、その構成繊維の横断面形状に特徴を有するものである。この横断面形状は、
図1に示すような略Y字を四個持つものである。そして、略Y字の下端1で上下左右に連結して、
図2に示すような略Y4形状となっている。また、中央の略+字部5と、略+字部5の各先端に連結された四個の略V字部6により、高剛性となっている。すなわち、六角形やY字等の単なる異形ではなく、剛性の高い略+字部5と略V字部6の組み合わせによって、より高剛性となるのである。また、長繊維の異型度が大きいことや、繊度も10デシテックス以上と大きいことから、一定面積中の繊維が存在しない箇所の比率、すなわち二次元的に見たときに繊維が存在しない面積比率が大きく、また、繊維が存在しない箇所(長繊維不織布の開孔)の個々の面積が大きくなる。繊維が存在しない面積比率が大きく、かつ繊維が存在しない箇所(長繊維不織布の開孔)の個々の面積が大きいことにより、短繊維ウェブと積層して水流交絡処理を施した際、短繊維はより動きやすくなり、長繊維不織布を構成する単繊維に絡み付きやすくなる。そして、絡み付いた短繊維の一部は、長繊維不織布表側へも露出して存在することとなる。
【0011】
一般的なスパンボンド不織布(単糸繊度が10デシテックス未満のもの)においても、目付が小さい(20g/m
2未満程度)場合は多少の開孔も存在するが、20g/m
2を超えると、繊維が存在しない箇所の比率やその箇所の面積は極端に小さくなるため、このような現象が生じにくい。本発明においては、開孔が形成されることを考慮して、長繊維不織布の目付は20〜60g/m
2の範囲が好ましく、単繊維繊度にもよるが、より好ましくは20〜40g/m
2である。
【0012】
また、さらには、長繊維不織布には、穿孔による孔が多数設けられている。したがって、長繊維不織布に積層した短繊維ウェブを構成する短繊維は、穿孔による孔にも入り込んで長繊維不織布を構成する長繊維と絡み、また、穿孔による孔に入り込んで長繊維不織布表側へ露出して存在する。
【0013】
長繊維不織布に穿孔による孔を設ける方法としては、金属製等の針を用いて行うことが挙げられる。針径は0.5mm〜3mm程度がよい。また、針の横断面形状は、円形に限らず、楕円形や三角形、四角形等の異型でもよい。長繊維不織布は後述するように熱可塑性重合体により構成されることから、熱可塑性重合体の融点よりも約30℃低い温度に加熱した針により穿孔すると、穿孔された孔の形状保持性が良好であるとともに、効率的に穿孔作業を行うことができる。また、熱可塑性重合体の融点以上の温度に加熱した針を用いて穿孔すると、加熱した針と接触する繊維の一部が溶融密着して固化するため孔形状がより安定して形状保持される。なお、この場合、溶融により穿孔箇所付近の繊維形状が変形することがある。
【0014】
さらには、穿孔による孔を設ける方法として、いわゆるニードルパンチ不織布を製造する際に用いるニードルパンチ針を用いてもよく、また、いわゆるタフトカーペットを製造する際にパイルを植え込むために用いるタフト針を用いてもよい。
【0015】
穿孔によって形成させる孔径は0.4〜3mm程度、面積は0.1〜7mm
2程度、孔の配設密度は0.2〜30個/cm
2程度がよい。なお、後述する交絡処理による作用によって穿孔による孔の形状は変形することがある。
【0016】
また、ニードルパンチ不織布を製造する際に用いるニードル針により穿孔された孔は、ニードルパンチ針の径が大きくないために、長繊維不織布の目付や開孔部の存在状態にもよるが、穿孔部の形状や孔径が明瞭なものにはなりにくい。ニードルパンチ針の穿孔加工において、不織布に貫通させた後に、針を抜くと、針径が小さく、また、針が加熱されていない場合は、設けられた孔の周辺の繊維が元に戻ろうとする作用が働きやすく、設けた孔が小さいために分かりにくいが、穿孔加工によりニードルパンチ針のバーブによって繊維の一部が切断されているため、後述する交絡処理においては、上述したようにニードルパンチ針を用いた穿孔による孔にも短繊維が入り込んで長繊維不織布を構成する長繊維と絡むのである。
【0017】
長繊維不織布は、剛性および形態安定性の観点から、構成繊維同士が熱接着により一体化してなるものが好ましいことから、熱可塑性重合体によって構成される。なかでも、機械的強度に優れ、剛性が付与できることから、ポリエステル系重合体であることが好ましい。ポリエステル系重合体により構成される長繊維(ポリエステル長繊維)は、一種類のポリエステルからなるものでもよいが、低融点ポリエステルと高融点ポリエステルとを組み合わせるのが好ましい。すなわち、ポリエステル長繊維の横断面形状の略V字部6が低融点ポリエステルで形成され、略+字部5が高融点ポリエステルで形成された複合型するのが好ましい。複合型ポリエステル長繊維を集積した後、低融点ポリエステルを軟化又は溶融させて固化させることにより、ポリエステル長繊維相互間が低融点ポリエステルによって融着された不織布が得られるからである。
【0018】
長繊維不織布は、溶融紡糸する際に用いるノズル孔を変更する以外は、従来公知の方法で得られる。すなわち、熱可塑性重合体を溶融紡糸して得られた長繊維を集積して長繊維不織布を製造する方法において、溶融紡糸する際に用いるノズル孔の形状が、Y字の下端で上下左右に連結し、かつ、隣り合うY字の/同士及び\同士が平行である形状(以下、「Y4形」という。)のものを用いるというものである。
【0019】
このノズル孔は、
図3に示すY字を四個持つものである。そして、Y字の下端7で上下左右に連結して、
図4に示すY4形となっている。このY4形は、隣り合うY字の/8,8同士が平行であり、また\9,9同士が平行となっている。かかるY4形のノズル孔に熱可塑性重合体を供給して溶融紡糸することにより、横断面が略Y4形状の長繊維を得ることができるのである。特に、隣り合うY字の/8,8同士及び\9,9同士が平行となっていることにより、四個の凹部2を持つ長繊維を得ることができる。また、略+字部5と、その各々の先端に設けられた略V字部6とを持つ長繊維を得ることができる。このように凹部と略V字部を有することから、V字部によって汚れの優れたかきとり性を有し、凹部によって汚れの優れた捕集性も有する。
【0020】
Y4形のノズル孔に供給する熱可塑性重合体は、一種類であってもよいし、二種類であってもよい。特に、低融点ポリエステル樹脂と高融点ポリエステル樹脂の二種類を用いるのが好ましい。すなわち、低融点ポリエステル樹脂をY4形のV字部10に供給し、高融点ポリエステル樹脂をY4形の+字部11に供給するのが好ましい。かかる供給態様で溶融紡糸することにより、略V字部6が低融点ポリエステルで形成され、略+字部5が高融点ポリエステルで形成された複合型ポリエステル長繊維が得られる。
【0021】
長繊維を得た後、これを集積して一般的に繊維ウェブを形成する。そして、繊維ウェブを少なくとも加熱することにより、長繊維を構成する熱可塑性重合体(二種の重合体によって構成されるときは、低融点の重合体)を軟化又は溶融させ、冷却して固化させることにより、長繊維相互間を熱接着し、次いで、前述した穿孔加工により多数の孔を設けて長繊維不織布を得る。熱接着処理は、熱エンボス加工によって形成される部分的に熱圧着することにより熱接着しているものであっても、また、熱カレンダー加工による熱処理により熱接着しているもの、熱風処理により熱接着しているものでもよい。また、これらの方法を併用したものでもよい。熱エンボス加工を施す場合、用いるエンボスロールの圧着面積率(エンボスロールの凸部の面積率)は、15〜45%がよい。なお、本発明に用いられる長繊維不織布における熱接着は、水流交絡の処理によっては解除されるものではない。
【0022】
本発明において長繊維不織布の構成繊維の単繊維繊度は、剛性を考慮して10デシテックス以上とする。また、不織布の目付にもよるが、長繊維不織布において二次元的にみたときに繊維が存在しない箇所(開孔)の面積比率がより大きくなり、短繊維が絡み付きやすくなることから、単繊維繊度は15デシテックス以上であることが好ましい。単繊維繊度は大きいほど、剛性に優れる傾向にあるが、長繊維不織布を得る際に、延伸可紡性を考慮すれば上限は30デシテックスとする。また、長繊維の単繊維繊度が大きくなりすぎて、長繊維と短繊維の繊度差が大きくなりすぎると、水流の作用によって短繊維が長繊維に絡みにくくなるため、上限は30デシテックスがよい。
【0023】
本発明の2層構造不織布は、上記した略Y4形状断面の長繊維からなる不織布の片面に短繊維ウェブが積層され、短繊維ウェブの構成繊維同士は水流交絡処理により交絡一体化しているとともに、長繊維に絡み付くことにより複合化されている。
【0024】
水流交絡処理は、公知の方法により行えばよい。まず、長繊維不織布の上に短繊維ウェブを積層し、この積層物をメッシュ状支持体に担持する。次いで、積層物の短繊維ウェブ側から高圧水流を施し、短繊維ウェブ内の構成繊維同士を交絡させるとともに、短繊維が長繊維に絡み付くことにより一体化させる。この高圧水流は、孔径0.05〜2.0mmの噴射孔が、噴射孔間隔0.05〜10mmで一列又は複数列配置されている噴射装置を用い、水を噴射孔から1.5〜30MPaの圧力で噴射して得られるものである。そうすると、高圧水流はウェブに衝突して、短繊維に運動エネルギーを与える。この運動エネルギーにより、短繊維ウェブ内の短繊維同士が交絡し、また、短繊維は、長繊維不織布を構成する長繊維に絡む。なお、この交絡処理によって、長繊維不織布の熱融着は解除されることはない。
【0025】
本発明の2層構造不織布は、片面の長繊維不織布を構成している長繊維の異型度が大きいことや、繊度も10デシテックス以上と大きいことから、一定面積中の繊維が存在しない箇所の比率、すなわち二次元的に見たときに繊維が存在しない面積比率が大きく、また、繊維が存在しない箇所(長繊維不織布の開孔)の個々の面積が大きいこと、さらには、穿孔加工による多数の孔が設けられていることから、短繊維ウェブと積層して交絡処理を施した際、短繊維はより動きやすくなり、長繊維不織布を構成する長繊維に絡み付きやすく、良好に一体化し、絡み付いた短繊維の一部は、長繊維不織布表側へも露出して存在する。したがって、例えば、本発明の2層構造不織布を拭き布として使用した場合、長繊維不織布側の面は剛性を有するため、こびりついた汚れのかきとり除去性に優れ、また、開孔部に比較的大きめの塵埃や汚れを捕集性することに優れる。したがって、頑固な汚れを拭い取ることが可能となり、拭き取りの際に力を入れても布帛が丸まったりせず、形態を保持するため使用しやすい。また一方、短繊維ウェブ側の面は、短繊維同士が緻密に絡合しているため、長繊維不織布側で拭いきれなかった細かい汚れや小さい塵埃の除去性および捕集性に優れる。また、短繊維が吸水性を有する場合は、水分や液体洗浄剤等の含浸性に優れるため、これらの液体成分を染み込ませて、拭き布として使用することができる。拭き取り面として長繊維不織布側をまず使用し、長繊維に絡み付いた短繊維を通じて、あるいは、長繊維不織布表面に露出した短繊維を通じて、短繊維ウェブ中に保液した液体成分を拭き取り面側(長繊維不織布面側)へ移動させて、長繊維不織布側の面で効率良くかき取り、その後、拭き取れなかった細かな汚れは短繊維ウェブ側の面で拭い取ることにより、2面性を活かした効果的な拭き取り作業が可能となる。
【0026】
なお、本発明の2層構造不織布は、それぞれの面が異なる特性を有することから、その2面性を活かして、上記した拭き布の他、生活資材、工業資材、フィルター、農業資材、土木資材、インテリア資材等に使用することが期待できる。