(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジン回転数と前記燃料噴射量とに応じた前記第1過剰率の暫定値である定常過剰率を規定した定常過剰率マップを参照して前記定常過剰率を演算する定常過剰率演算部と、
前記エンジン回転数と前記燃料噴射量とに応じた前記第2過剰率の暫定値である過渡過剰率を規定した過渡過剰率マップを参照して前記過渡過剰率を演算する過渡過剰率演算部と、
前記エンジン回転数とEGR率とに応じた煙限界の空気過剰率である煙限界過剰率を規定した煙限界過剰率マップを参照して前記煙限界過剰率を演算する煙限界過剰率演算部とを備え、
前記第1過剰率演算部は、前記定常過剰率と前記煙限界過剰率とのうちの大きい方を前記第1過剰率として演算し、
前記第2過剰率演算部は、前記過渡過剰率と前記煙限界過剰率とのうちの大きい方を前記第2過剰率として演算する
請求項1に記載のEGR弁の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、吸気通路に過剰なEGRガスが導入されると混合気の燃焼時に空気が不足してしまい大量の煙が発生する。こうした煙の発生は、エンジンの運転状態が過渡状態、すなわち燃料噴射量が連続的に増加するときに生じやすい。
【0005】
本発明は、エンジンの運転状態が過渡状態にあるときに煙の発生を抑えることが可能なEGR弁の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するEGR弁の制御装置は、目標EGR量に基づきEGR弁の開度を制御するEGR弁の制御装置であって、エンジンが定常状態にあると仮定した場合の空気過剰率の目標値である第1過剰率を演算する第1過剰率演算部と、前記エンジンが過渡状態にあると仮定した場合の空気過剰率の目標値である第2過剰率を演算する第2過剰率演算部と、前記第1過剰率、前記第2過剰率、および、燃料噴射量の変化量に基づき目標過剰率を設定する目標過剰率設定部と、次回の燃料噴射時における最大噴射量の予測値を演算する噴射量予測部と、前記目標過剰率に前記予測値と量論混合比とを乗算することで目標空気量を演算する目標空気量演算部と、前記エンジンが吸入する作動ガス量から前記目標空気量を減算することで前記目標EGR量を演算する目標EGR量演算部とを備え、前記目標過剰率設定部は、前記変化量が第1の閾値以下の場合に、前記第1過剰率を前記目標過剰率に設定し、前記変化量が前記第1の閾値よりも大きく、かつ、第2の閾値以下の場合に、前記変化量が大きいほど、前記第1過剰率の割合が少なく、かつ、前記第2過剰率の割合が大きい値を前記目標過剰率に設定し、前記変化量が前記第2の閾値よりも大きい場合に、前記第2過剰率を前記目標過剰率に設定する。
【0007】
上記構成によれば、エンジンの運転状態が定常状態から過渡状態に変化し、燃料噴射量の変化量が第1の閾値よりも小さい値から第2の閾値よりも大きい値へと変化する場合、目標過剰率は、第1過剰率から徐々に第2過剰率に近い値へと変化し、やがて第2過剰率に設定される。すなわち、目標過剰率は、定常状態に適した目標値から過渡状態に適した目標値へと徐々に変化する。これにより、EGR弁の開度が定常状態に適した開度から過渡状態に適した開度へと連続的に制御され、吸気通路に対して過剰なEGRガスが導入されにくくなる。その結果、過渡状態における煙の発生が抑えられる。
【0008】
上記EGR弁の制御装置は、エンジン回転数と前記燃料噴射量とに応じた前記第1過剰率の暫定値である定常過剰率を規定した定常過剰率マップを参照して前記定常過剰率を演算する定常過剰率演算部と、前記エンジン回転数と前記燃料噴射量とに応じた前記第2過剰率の暫定値である過渡過剰率を規定した過渡過剰率マップを参照して前記過渡過剰率を演算する過渡過剰率演算部と、前記エンジン回転数とEGR率とに応じた煙限界の空気過剰率である煙限界過剰率を規定した煙限界過剰率マップを参照して前記煙限界過剰率を演算する煙限界過剰率演算部とを備え、前記第1過剰率演算部は、前記定常過剰率と前記煙限界過剰率とのうちの大きい方を前記第1過剰率として演算し、前記第2過剰率演算部は、前記過渡過剰率と前記煙限界過剰率とのうちの大きい方を前記第2過剰率として演算することが好ましい。
【0009】
上記構成によれば、第1過剰率および第2過剰率の双方が煙限界過剰率以上の値に設定されるため、目標過剰率を煙限界過剰率よりも高い値に維持することができる。その結果、過渡状態における煙の発生がより高い確率の下で抑えられる。
【0010】
上記EGR弁の制御装置において、前記過渡過剰率マップには、同じ前記燃料噴射量に対して、前記エンジン回転数が高いほど大きい前記過渡過剰率が対応付けられていることが好ましい。
【0011】
エンジン回転数が高くなると、燃料を噴射可能な時間が短くなるばかりか混合気を生成する時間や混合気が燃焼する時間も短くなることで煙が発生しやすくなる。上記構成によれば、同じ燃料噴射量であってもエンジン回転数が高いときほどエンジンに導入される空気を多くすることができる。
【0012】
上記EGR弁の制御装置において、前記煙限界過剰率マップには、同じ前記EGR率に対して、前記エンジン回転数が高いほど大きい前記煙限界過剰率が対応付けられていることが好ましい。
上記構成によれば、同じEGR率であってもエンジン回転数が高いときほどエンジンに導入される空気を多くすることができる。
【0013】
上記EGR弁の制御装置において、前記定常過剰率マップには、同じ前記エンジン回転数に対して、前記燃料噴射量が少ないほど大きい前記定常過剰率が対応付けられていることが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、エンジンが定常状態にあるとき、同じエンジン回転数であっても燃料噴射量が少ないほどエンジンに導入される空気が多くなる。その結果、燃料噴射量が少ない定常状態においてエンジンの出力を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1〜
図7を参照して、EGR弁の制御装置を具体化した一実施形態について説明する。まず、EGR弁の制御装置が搭載されるエンジンシステムの全体構成について、
図1を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、エンジンシステムは、ディーゼルエンジン10(以下、エンジン10という。)を備える。エンジン10のシリンダーブロック11には、一列に並んだ4つのシリンダー12が形成されている。各シリンダー12には、インジェクター13から燃料が噴射される。シリンダーブロック11には、各シリンダー12に吸入空気を供給するためのインテークマニホールド14と、各シリンダー12からの排気ガスが流入するエキゾーストマニホールド15とが接続されている。
【0018】
インテークマニホールド14に接続される吸気通路16には、上流側から順に、図示されないエアクリーナー、ターボチャージャー17を構成するコンプレッサー18、インタークーラー19が設けられている。エキゾーストマニホールド15に接続される排気通路20には、コンプレッサー18に連結軸を介して連結され、ターボチャージャー17を構成するタービン22が設けられている。
【0019】
エンジンシステムは、エキゾーストマニホールド15と吸気通路16とを接続するEGR通路25を備える。EGR通路25には、EGRクーラー26が設けられ、EGRクーラー26における吸気通路16側には、EGR通路25の流路断面積を変更可能なEGR弁27が設けられている。EGR弁27が開状態にあるとき、吸気通路16には、EGR通路25を通じて排気ガスの一部がEGRガスとして導入される。シリンダー12には、排気ガスと吸入空気との混合気体である作動ガスが供給される。
【0020】
エンジンシステムは、吸入空気量センサー30、吸気圧力センサー31、吸気温度センサー32、エンジン回転数センサー34、EGR圧力センサー35、EGR温度センサー36、ならびに、冷却水温度センサー37を備える。
【0021】
吸入空気量センサー30は、吸気通路16におけるコンプレッサー18の上流にて、吸気通路16を流れる吸入空気の質量重量である吸入空気量Gaを検出する。吸気圧力センサー31は、吸気通路16とEGR通路25との接続部分よりも下流側にて、作動ガスの圧力である作動ガス圧力Pwgを検出する。吸気温度センサー32は、インテークマニホールド14における作動ガスの温度である作動ガス温度Twgを検出する。エンジン回転数センサー34は、クランクシャフト10aの回転数であるエンジン回転数Neを検出する。EGR圧力センサー35およびEGR温度センサー36は、EGR通路25におけるEGRクーラー26とEGR弁27との間に位置する。EGR圧力センサー35は、EGR弁27に流入するEGRガスの圧力であるEGR圧力Pegrを検出する。EGR温度センサー36は、EGR弁27に流入するEGRガスの温度であるEGR温度Tegrを検出する。冷却水温度センサー37は、エンジン10を冷却する冷却水の温度である冷却水温度Twを検出する。上記各センサー30〜37は、検出した検出値を示す信号を、EGR弁27の開度を制御する制御装置50に出力する。
【0022】
また、制御装置50には、燃料噴射を制御する燃料噴射制御部38から燃料噴射量Gfを示す信号が入力される。燃料噴射制御部38は、今回の噴射タイミングにおける燃料噴射量Gfを示す信号を噴射タイミングごとに制御装置50に出力する。
【0023】
燃料噴射制御部38は、例えばエンジン回転数Neやアクセル開度ACCに基づくドライバーリクエストに応じて燃料噴射量Gfを制御する。燃料噴射制御部38は、エンジン回転数Neと今回の燃料噴射量Gfとに基づいて次回の燃料噴射量Gfの制限値である最大噴射量を設定し、その最大噴射量以下の範囲で燃料噴射量Gfを制御する。これは、アクセル開度ACCが急激に大きくなったときにそのアクセル開度ACCに合わせて燃料噴射量Gfを増量させると空気量の不足により大量の煙が発生してしまうことに基づく。燃料噴射制御部38は、エンジン10が過渡状態にあったとしても、燃料噴射量Gfを最大噴射量以下に抑えた状態で徐々に燃料噴射量Gfを増量する。
【0024】
制御装置50は、CPU、各種制御プログラムや各種データが格納されたROM、各種演算における演算結果や各種データが一時的に格納されるRAMを有するマイクロコンピューターを中心に構成される。制御装置50は、各種センサー等からの信号に基づき、吸入空気量Ga、作動ガス圧力Pwg、作動ガス温度Twg、エンジン回転数Ne、EGR圧力Pegr、EGR温度Tegr、冷却水温度Tw、および、燃料噴射量Gfをエンジン10の運転状態に関する情報として取得する。制御装置50は、その取得した各種情報と、ROMに格納された各種制御プログラムや各種データとに基づいて指示開度VTcomを演算し、その指示開度VTcomを示す信号をEGR弁27に出力する。
【0025】
図2に示すように、制御装置50は、シリンダー12に供給される作動ガスの質量流量である作動ガス量Gwgを演算する作動ガス量演算部55を備える。作動ガス量演算部55は、状態方程式P×V=Gwg×R×Tに対し、「P」に作動ガス圧力Pwg、「V」にエンジン回転数Neとエンジン10の排気量Dとの乗算値に基づく値、「R」に気体定数、「T」に作動ガス温度Twgを代入することで作動ガス量Gwgを演算する。
【0026】
制御装置50は、シリンダー12に供給される作動ガスのEGR率ηを演算するEGR率演算部56を備える。EGR率演算部56は、作動ガス量演算部55が演算した作動ガス量Gwgから吸入空気量センサー30が検出した吸入空気量Gaを減算することによりEGRガス量Gegrを演算する。そして、作動ガス量Gwgに対するEGRガス量Gegrの比率であるEGR率η(=Gegr/Gwg)を演算する。
【0027】
制御装置50は、エンジン10が定常状態にあると仮定した場合の空気過剰率の目標値である第1過剰率λ1の暫定値として定常過剰率λaを演算する定常過剰率演算部57を備える。定常過剰率演算部57は、エンジン回転数Neおよび燃料噴射量Gfを定常過剰率マップ58に適用して得られる値を冷却水温度Twに基づいて補間することにより定常過剰率λaを演算する。
【0028】
図3に示すように、定常過剰率マップ58は、例えば3つの冷却水温度Tw1,Tw2,Tw3ごとに規定されている。定常過剰率マップ58の各々は、エンジン回転数Neと燃料噴射量Gfとに応じた定常過剰率λaを規定したデータであり、制御装置50のROMに格納されている。定常過剰率λaは、予め行った実験やシミュレーションの結果に基づいて設定され、同じエンジン回転数Neであっても燃料噴射量Gfが少ないほど値が大きくなる傾向を有する。これは、NOxの生成度合いに基づく。すなわち、燃料噴射量Gfが少ない定常状態においては、燃焼温度および燃焼圧力が低いことでNOxが生成されにくいため、より多くの空気をシリンダー12に導入することで燃料を効率よく燃焼させる。これにより、エンジン10の出力が効率よく得られるようになり、燃費の向上を図ることができる。一方、燃料噴射量Gfが多い定常状態においては、燃焼温度および燃焼圧力が高くNOxが生成されやすいため、シリンダー12により多くのEGRガスを導入する。これにより、NOxの生成を抑えることができる。
【0029】
また、定常過剰率λaは、同じ燃料噴射量Gfであってもエンジン回転数Neが高くなるほど値が小さくなる傾向を有する。これは、エンジン回転数Neが高いほど、インジェクター13の燃料噴射時間が短くなるとともに、シリンダー12において作動ガスと燃料との混合時間、および、混合気の燃焼時間が短くなることに基づく。すなわち、エンジン回転数Neが高い場合には、混合気が着火する前後において燃料と空気との混合時間が短いため、燃料が濃い領域がシリンダー12内に形成されやすい。そのため、エンジン回転数Neが高いほど大きな値が定常過剰率λaに設定されることで、エンジン回転数Neが高いほどシリンダー12に導入される空気が多くなる。これにより、燃料の濃い領域がシリンダー12内に形成されにくくなる。
【0030】
また、定常過剰率演算部57は、冷却水温度Twに基づいて補間した値を定常過剰率λaとして演算する。例えば、定常過剰率演算部57は、冷却水温度TwがTw1<Tw<Tw2である場合には、冷却水温度TwがTw1である定常過剰率マップ58から得られる定常過剰率λa1と、冷却水温度TwがTw2である場合の定常過剰率マップ58から得られる定常過剰率λa2とを演算する。そして、定常過剰率演算部57は、冷却水温度Tw,Tw1,Tw2に基づいて定常過剰率λa1,λa2を補間することで定常過剰率λaを演算する。なお、冷却水温度Tw1に対応する定常過剰率λa1は、冷却水温度Tw2に対応する定常過剰率λa2よりも高い値である。これは、燃焼温度を高めることでシリンダーブロック11やピストンを適正温度まですばやく上昇させるためである。
【0031】
制御装置50は、エンジン回転数センサー34が検出したエンジン回転数NeとEGR率演算部56が演算したEGR率ηとに基づいて煙限界過剰率λminを演算する煙限界過剰率演算部59を備える。煙限界過剰率演算部59は、EGR率ηとエンジン回転数Neとを煙限界過剰率マップ60に適用することで煙限界過剰率λminを演算する。煙限界過剰率λminは、エンジン回転数Neの下でEGR率ηの作動ガスがシリンダー12に導入された場合に煙の発生が抑えられる、あるいは、煙の発生量が許容範囲に収まる煙限界を示す空気過剰率である。
【0032】
図4に示すように、煙限界過剰率マップ60は、EGR率ηとエンジン回転数Neとに応じた煙限界過剰率λminを規定したデータであり、制御装置50のROMに格納されている。煙限界過剰率λminは、予め行った実験やシミュレーションの結果に基づき設定され、同じEGR率ηであってもエンジン回転数Neが高いほど大きくなる傾向を有する。これは、定常過剰率λaと同様、エンジン回転数Neが高いほど、インジェクター13での燃料噴射時間、シリンダー12での混合時間および燃焼時間が短いことに基づく。
【0033】
制御装置50は、エンジン10が過渡状態であると仮定した場合の空気過剰率の目標値である第2過剰率λ2の暫定値として過渡過剰率λbを演算する過渡過剰率演算部61を備える。過渡過剰率演算部61は、エンジン回転数Neと燃料噴射量Gfとを過渡過剰率マップ62に適用することで過渡過剰率λbを演算する。
【0034】
図5に示すように、過渡過剰率マップ62は、エンジン回転数Neと燃料噴射量Gfとに応じた過渡過剰率λbを規定したデータであり、制御装置50のROMに格納されている。過渡過剰率λbは、予め行った実験やシミュレーションの結果に基づいて設定され、同じ燃料噴射量Gfであってもエンジン回転数Neが高くなるほど値が大きくなる傾向を有する。これは、定常過剰率λaと同様に、エンジン回転数Neが高いほど、インジェクター13における燃料噴射時間、シリンダー12における混合時間および燃焼時間が短くなることに基づく。
【0035】
また、過渡過剰率λbは、同じエンジン回転数Neであっても燃料噴射量Gfが多くなるほど値が大きくなる傾向を有する。これにより、同じエンジン回転数Neであっても燃料噴射量Gfが多くなるほどシリンダー12に導入される空気が多くなる。
【0036】
制御装置50は、エンジン10の運転状態が定常状態であると仮定した場合の空気過剰率の目標値である第1過剰率λ1を演算する第1過剰率演算部63を備える。第1過剰率演算部63は、定常過剰率演算部57が演算した定常過剰率λaと煙限界過剰率演算部59が演算した煙限界過剰率λminとのうちの高い方を第1過剰率λ1として演算する。
【0037】
制御装置50は、エンジン10の運転状態が過渡状態であると仮定した場合の空気過剰率の目標値である第2過剰率λ2を演算する第2過剰率演算部64を備える。第2過剰率演算部64は、過渡過剰率演算部61が演算した過渡過剰率λbと煙限界過剰率演算部59が演算した煙限界過剰率λminとのうちの高い方を第2過剰率λ2として演算する。
【0038】
制御装置50は、最終的な空気過剰率の目標値である目標過剰率tλを演算する際に用いる係数kを演算する係数演算部65を備える。この係数kは、目標過剰率tλに占める第1過剰率λ1の割合と第2過剰率λ2の割合とを示す値に設定される。係数演算部65は、今回の燃料噴射量Gfから前回の燃料噴射量Gfを減算することにより燃料噴射量Gfの変化量ΔGfを演算し、その変化量ΔGfを係数テーブル66に適用することで係数kを演算する。燃料噴射量Gfが増加しているとき、変化量ΔGfは正の値をとる。
【0039】
図6に示すように、係数テーブル66は、変化量ΔGfに対して一義的に係数kを規定したデータであり、制御装置50のROMに格納されている。係数kは、予め行った実験やシミュレーションの結果に基づいて設定される。係数テーブル66には、第1の閾値ΔGf1(>0)以下の変化量ΔGfに係数k=0が対応付けられている。係数テーブル66には、第1の閾値ΔGf1よりも大きく、かつ、第2の閾値ΔGf2(>ΔGf1)以下の変化量ΔGf(ΔGf1<ΔGf≦ΔGf2)に、変化量ΔGfが大きいほど1に近づく係数kが対応付けられている。係数テーブル66には、第2の閾値ΔGf2よりも大きい変化量ΔGfに係数k=1が規定されている。
【0040】
制御装置50は、目標過剰率tλを設定する目標過剰率設定部67を備える。目標過剰率設定部67は、下記の関係式(1)に第1過剰率λ1、第2過剰率λ2、および、係数kを代入することにより得られる演算値を目標過剰率tλに設定する。
tλ=(1−k)×λ1+k×λ2 … (1)
【0041】
制御装置50は、次回の噴射タイミングにおける最大噴射量の予測値Gfmaxを演算する噴射量予測部68を備える。噴射量予測部68は、エンジン回転数Neと燃料噴射量Gfとに基づいて予測値Gfmaxを演算する。
【0042】
図7に示すように、噴射量予測部68は、今回の燃料噴射量Gfに対する燃料の単位増加量を示す角度θを規定するパラメーターとしてエンジン回転数Neを扱う。これは、エンジン回転数Neが高いほどシリンダー12が吸入可能な空気量が多くなることから、燃料噴射量Gfが同じであってもエンジン回転数Neによって次回の噴射タイミングにおける最大噴射量が異なることに基づく。噴射量予測部68は、エンジン回転数Neに基づく単位増加量で今回の燃料噴射量Gfを増量することにより予測値Gfmaxを演算する。
【0043】
制御装置50は、次回の噴射タイミングにおける目標空気量tGaを演算する目標空気量演算部69を備える。目標空気量演算部69は、目標過剰率設定部67が設定した目標過剰率tλ、噴射量予測部68が演算した予測値Gfmax、および、量論混合比λthを下記に示す関係式(2)に代入することにより目標空気量tGaを演算する。
tGa=tλ×Gfmax×λth … (2)
【0044】
制御装置50は、次回の噴射タイミングにおけるEGRガス量の目標値である目標EGR量tGegrを演算する目標EGR量演算部70を備える。目標EGR量演算部70は、作動ガス量演算部55が演算した作動ガス量Gwgから目標空気量演算部69が演算した目標空気量tGaを減算することで目標EGR量tGegrを演算する。
【0045】
制御装置50は、EGR弁27の基本開度VTstを演算する基本開度演算部71を備える。基本開度演算部71は、目標EGR量演算部70が演算した目標EGR量tGegr、EGR圧力センサー35が検出したEGR圧力Pegr、EGR温度センサー36が検出したEGR温度Tegr、吸気圧力センサー31が検出した作動ガス圧力Pwgを下記の関係式(3)に代入することで、EGR弁27の基本開口面積Aを演算する。関係式(3)において、「R」は気体定数であり、「κ」は排気ガスの比熱比である。基本開度演算部71は、例えば開口面積に対する開度が一義的に規定された開度テーブルに基本開口面積Aを適用することによって得られる開度を基本開度VTstとして演算する。
【0047】
制御装置50は、EGR弁27の開度をフィードバック制御するために基本開度VTstに加味するF/B開度VTfbを演算するF/B開度演算部72を備える。F/B開度演算部72は、目標空気量演算部69が演算した目標空気量tGaと吸入空気量センサー30の検出値である吸入空気量Gaとの偏差ΔGaを演算する。F/B開度演算部72は、偏差ΔGaに比例ゲインを乗算した値と偏差ΔGaの積算値に積分ゲインを乗算した値とを加算することによりF/B開度VTfbを演算する。
【0048】
制御装置50は、EGR弁27に出力する指示開度VTcomを演算する指示開度演算部73を備える。指示開度演算部73は、基本開度演算部71が演算した基本開度VTstに対してF/B開度演算部72が演算したF/B開度VTfbを加味することにより指示開度VTcomを演算する。
【0049】
次に、上述した制御装置50の動作の一例について、エンジン10の運転状態が定常状態から急加速状態へと変化した場合を例にとって説明する。この際、変化量ΔGfは、第1の閾値ΔGf1以下の値から第2の閾値ΔGf2よりも大きい値へと変化する。
【0050】
制御装置50が取得した各種情報に基づいて、作動ガス量演算部55は、作動ガス量Gwgを演算し、EGR率演算部56は、EGR率ηを演算する。また、定常過剰率演算部57は、定常状態における空気過剰率の目標値である第1過剰率λ1の暫定値として定常過剰率λaを演算する。煙限界過剰率演算部59は、煙限界の空気過剰率である煙限界過剰率λminを演算する。過渡過剰率演算部61は、過渡状態における空気過剰率の目標値である第2過剰率λ2の暫定値として過渡過剰率λbを演算する。そして、第1過剰率演算部63は、定常過剰率λaと煙限界過剰率λminとのうちの高い方を第1過剰率λ1として演算する。また、第2過剰率演算部64は、過渡過剰率λbと煙限界過剰率λminとのうちの高い方を第2過剰率λ2として演算する。
【0051】
エンジン10が定常状態にあるとき、係数演算部65は、係数k=0を演算し、目標過剰率設定部67は、第1過剰率λ1を目標過剰率tλに設定する。エンジン10の運転状態が定常状態から急加速状態に移行すると、変化量ΔGfが第1の閾値ΔGf1を超えることで、係数演算部65は、0よりも大きい係数kを演算する。これにより、目標過剰率設定部67は、第1過剰率λ1の割合が少なく、かつ、第2過剰率λ2の割合が増加した演算値を目標過剰率tλに設定する。そして、変化量ΔGfが大きくなるにつれて、係数演算部65は、1に近い係数kを演算し、目標過剰率設定部67は、第2過剰率λ2の割合がさらに増加した演算値を目標過剰率tλに設定する。やがて変化量ΔGfが第2の閾値ΔGf2を超えると、係数演算部65は、係数k=1を演算し、目標過剰率設定部67は、第2過剰率λ2を目標過剰率tλに設定する。
【0052】
目標空気量演算部69は、目標過剰率tλと最大噴射量の予測値Gfmaxとに基づき目標空気量tGaを演算する。この目標空気量tGaは、次回の噴射タイミングにおいて最大噴射量の燃料が噴射されたとしても煙の発生が抑えられる空気量である。目標EGR量演算部70は、目標空気量tGaを作動ガス量Gwgから減算することで目標EGR量tGegrを演算する。そして、指示開度演算部73は、目標EGR量tGegrに基づく基本開度VTstと、目標空気量tGaと吸入空気量Gaとの偏差ΔGaに基づくF/B開度VTfbとに基づいてEGR弁27の指示開度VTcomを演算する。
【0053】
すなわち、定常状態から過渡状態へとエンジン10の運転状態が移行した場合、目標過剰率tλは、定常状態に適した空気過剰率から過渡状態に適した空気過剰率へと徐々に変化していく。これにより、EGR弁27の開度は、定常状態に適した開度から過渡状態に適した開度へと連続的に制御される。
【0054】
上記実施形態の制御装置50によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)エンジン10の運転状態が定常状態から過渡状態へ変化すると、EGR弁27の開度は、定常状態に適した開度から過渡状態に適した開度へと連続的に制御される。そのため、吸気通路16に対して過剰なEGRガスが導入されにくくなり、過渡状態における煙の発生が抑えられる。
【0055】
特に、ターボチャージャー17を備えたエンジン10では、運転状態が低速の定常状態から過渡状態に変化すると、エンジン回転数Neの上昇と過給圧の上昇との間に時間差が生じる場合がある。こうした場合、ターボチャージャー17による過給が不十分な状態のままで、EGR弁27の開度が過渡状態に応じた開度に制御されると、吸気通路16に過剰なEGRガスが導入されてしまう。この点、上記制御装置50は、EGR弁27の開度を過渡状態に適した開度へと徐々に制御することで、ターボチャージャー17を備えたエンジン10であっても過渡状態における煙の発生が抑えられる。
【0056】
(2)次回の噴射タイミングにおける最大噴射量の予測値Gfmaxに基づいて目標空気量tGaが演算され、作動ガス量Gwgと目標空気量tGaとの差分が目標EGR量tGegrとして演算される。そのため、次回の噴射タイミングに最大噴射量の燃料が噴射されたとしても、燃焼時における空気の不足が抑えられる。
【0057】
(3)第1過剰率演算部63は、定常過剰率λaと煙限界過剰率λminとの高い方を第1過剰率λ1として演算する。同様に、第2過剰率演算部64は、過渡過剰率λbと煙限界過剰率λminとの高い方を第2過剰率λ2として演算する。そのため、第1過剰率λ1および第2過剰率λ2の双方が煙限界過剰率λmin以上の値に設定される。その結果、目標過剰率tλを煙限界過剰率λmin以上の値に維持することができる。
【0058】
(4)定常過剰率λaは、同じエンジン回転数Neであっても燃料噴射量Gfが少ないほど値が大きくなる傾向を有する。これにより、同じエンジン回転数Neであっても燃料噴射量Gfが少ないほど、シリンダー12に導入される空気が多くなる。その結果、燃料を効率よく燃焼させることができ、エンジン10を効率よく運転させることができる。
【0059】
(5)定常過剰率λaは、同じ燃料噴射量Gfに対してエンジン回転数Neが高くなるほど値が小さくなる傾向を有する。これにより、混合気の混合時間および混合気の燃焼時間が短いほどシリンダー12に導入される空気が多くなる。その結果、燃料の濃い領域がシリンダー12内に形成されにくくなる。
【0060】
(6)過渡過剰率λbは、同じ燃料噴射量Gfに対してエンジン回転数Neが高いほど値が大きくなる傾向を有する。これにより、上記(5)と同様に、燃料の濃い領域がシリンダー12内に形成されにくくなる。
【0061】
(7)煙限界過剰率λminは、同じEGR率ηに対してエンジン回転数Neが高いほど大きくなる傾向を有する。その結果、上記(5)と同様に、燃料が濃い領域がシリンダー12内に形成されにくくなる。
【0062】
(8)第1の閾値ΔGf1よりも変化量ΔGfが大きい場合、エンジン10の運転状態は、単位時間あたりのアクセル開度ACCの増加量が所定値よりも大きい急加速状態であることが好ましい。こうした構成によれば、係数k=0の状態と係数k>0の状態との間で係数kが切り替わる頻度が抑えられる。その結果、ドライバーへ違和感を与えるほどの空気量の変化が抑えられる。
【0063】
(9)制御装置50は、基本開度VTstにF/B開度VTfbを加味した開度を指示開度VTcomとして演算する。これにより、現在の吸入空気量Gaと目標空気量tGaとの偏差ΔGaを加味した開度へとEGR弁27が制御され、目標EGR量tGegrと実際に吸気通路16に導入されるEGR量との差を小さくすることができる。
【0064】
なお、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・制御装置50は、予測値Gfmaxに基づいて目標空気量tGaを演算している。一方、定常状態においては、次回の噴射タイミングにおいて燃料噴射制御部38がインジェクター13に指示する燃料噴射量Gfは、予測値Gfmaxよりも小さい値である。そのため、過渡過剰率λbは、同じエンジン回転数Neおよび同じ燃料噴射量Gfに対応付けられている定常過剰率λa以下の値に設定されていることが好ましい。こうした構成によれば、定常状態において、過渡状態よりも多くの空気がシリンダー12に導入されることから、煙の発生を抑えつつ、エンジン10を効率よく運転させることができる。
【0065】
・制御装置50において、F/B開度演算部72は、目標空気量tGaと吸入空気量Gaの偏差ΔGaに基づくF/B開度VTfbに限らず、例えば、目標EGR量tGegrと現在のEGR量との偏差に基づきF/B開度VTfbを演算してもよい。現在のEGR量は、例えば、EGR通路25にEGRガスの流量を検出するセンサーを設け、そのセンサーの検出値でもよい。また例えば、排気通路20に排気ガスの流量を検出するセンサーを設け、作動ガス量Gwgからそのセンサーの検出値を減算した値でもよい。
【0066】
・制御装置50において、F/B開度演算部72は割愛されてもよい。すなわち、制御装置50は、基本開度VTstを指示開度としてEGR弁27の開度を制御してもよい。
・第1の閾値ΔGf1は、エンジン10の運転状態が急加速状態よりも燃料噴射量Gfの変化量ΔGfが緩やかな加速状態のときに変化量ΔGfが超える値であってもよい。
【0067】
・定常過剰率λaは、同じエンジン回転数Neであっても燃料噴射量Gfが少ないほど大きい傾向を有するものに限られない。定常過剰率λaは、定常状態における空気過剰率の目標値になり得る値であればよく、例えば、特定のエンジン回転数Neにおいては燃料噴射量Gfに関わらず一定の値でもよい。また、定常過剰率λaの求め方は、定常過剰率マップ58を用いた方法に限らず、制御装置50に入力される各種情報を所定の関係式に対して選択的に代入する方法であってもよい。
【0068】
・煙限界過剰率λminは、同じEGR率であってもエンジン回転数Neが高いほど大きい傾向を有するものに限られない。煙限界過剰率λminは、煙限界を満足する空気過剰率であればよく、例えば、エンジン回転数Neに関わらず、EGR率ごとに一定の値であってもよい。また、煙限界過剰率λminの求め方は、煙限界過剰率マップ60を用いた方法に限らず、制御装置50に入力される各種情報を所定の関係式に対して選択的に代入する方法であってもよい。
【0069】
・過渡過剰率λbは、同じ燃料噴射量であってもエンジン回転数Neが高いほど大きい傾向を有するものに限られない。過渡過剰率λbは、過渡状態における空気過剰率の目標値になり得る値であればよく、例えば、特定のエンジン回転数Neにおいては燃料噴射量Gfに関わらず一定の値でもよい。また、過渡過剰率λbの求め方は、過渡過剰率マップ62を用いた方法に限らず、制御装置50に入力される各種情報を所定の関係式に対して選択的に代入する方法であってもよい。
【0070】
・制御装置50は、煙限界過剰率演算部59を備えていなくともよい。この場合、定常過剰率演算部57が第1過剰率演算部に設定され、過渡過剰率演算部61が第2過剰率演算部に設定される。
【0071】
・制御装置50は、過渡過剰率演算部61を備えていなくともよい。この場合、定常過剰率演算部57が第1過剰率演算部に設定され、煙限界過剰率演算部59が第2過剰率演算部に設定される。
【0072】
・噴射量予測部68は、アクセル開度ACCとエンジン回転数Neとに基づいて最終的な目標燃料噴射量を演算し、その目標燃料噴射量と今回の燃料噴射量Gfとの偏差に基づいて最大噴射量の予測値Gfmaxを演算してもよい。
【0073】
・定常過剰率演算部57は、例えば、外気温Tatmに基づいて補間した値を定常過剰率λaとして演算してもよいし、冷却水温度Twと外気温Tatmとに基づいて補間した値を定常過剰率λaとして演算してもよい。