特許第6404112号(P6404112)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6404112熱変色性筆記具インキ組成物及びそれを内蔵した筆記具
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404112
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】熱変色性筆記具インキ組成物及びそれを内蔵した筆記具
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/17 20140101AFI20181001BHJP
   B43K 29/02 20060101ALI20181001BHJP
   B43K 8/02 20060101ALN20181001BHJP
   B43K 7/02 20060101ALN20181001BHJP
【FI】
   C09D11/17
   B43K29/02 F
   !B43K8/02 100
   !B43K7/02
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-259647(P2014-259647)
(22)【出願日】2014年12月24日
(65)【公開番号】特開2016-117863(P2016-117863A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年10月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】森 いつ香
(72)【発明者】
【氏名】尾関 遊之
【審査官】 南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−074276(JP,A)
【文献】 特開2004−244489(JP,A)
【文献】 特開2014−129440(JP,A)
【文献】 特開2008−291049(JP,A)
【文献】 特開2004−346257(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/148758(WO,A1)
【文献】 特開2011−195803(JP,A)
【文献】 特開2006−070236(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B43K 29/00
B43K 7/00
B43K 8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
摩擦熱により変色する着色剤と、水と、葉状二次粒子又は三次凝集粒子のいずれかである鱗片状シリカを含んでなる熱変色性筆記具インキ組成物。
【請求項2】
前記鱗片状シリカがインキ組成物全量中0.1〜10重量%の範囲で添加される請求項1に記載の熱変色性筆記具インキ組成物。
【請求項3】
前記着色剤が、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする反応媒体とからなる可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させたマイクロカプセル顔料である請求項1又は2に記載の熱変色性筆記具インキ組成物。
【請求項4】
前記請求項1乃至3のいずれかに記載の熱変色性筆記具インキ組成物を内蔵した筆記具。
【請求項5】
前記筆記具による筆跡を摩擦熱で変色する摩擦部材を備えてなる請求項4記載の筆記具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は熱変色性筆記具インキ組成物に関する。更には、筆跡を摩擦熱により変色させる熱変色性筆記具インキ組成物とそれを内蔵した筆記具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、加温により変色する着色剤を用いることで、筆跡が擦過による摩擦熱で色相変化や消色等の変色を生じる筆記具が広く普及しており、技術的には、低温状態で復色することが可能な可逆タイプや、極低温状態であっても復色しない不可逆タイプの熱変色性インキが提案されている(例えば、特許文献1乃至3参照)。
【0003】
また、浸透性の高い汎用の紙面においては、筆記時にインキが浸透することで筆跡が定着されているため、前記熱変色性インキや染顔料を用いた通常のインキでは、筆跡が長期間保持される。更に、浸透性の低い筆記面に対応させる際には、水溶性樹脂や樹脂エマルジョンを添加することによって、不用意な擦過時に筆跡が剥離することがないように筆跡定着性を向上させている(例えば、特許文献4、5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−229332号公報
【特許文献2】特開2012−219160号公報
【特許文献3】特開2014−5422号公報
【特許文献4】特開2004−292552号公報
【特許文献5】特開平11−193362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記熱変色性インキを用いて紙面に描かれた筆跡は、摩擦体等で強く擦過することにより摩擦熱が加わって変色するものであるため、様々な筆記面での前記変色に対応するには、より強固な筆跡定着性が必要となる。その際、前記水溶性樹脂や樹脂エマルジョンを用いることが検討されるが、十分な効果を得るためには多量の添加が必要となる。その場合、ペン先が著しく乾燥し易くなるため、筆跡に途切れやカスレを生じる等、筆記性能を阻害してしまうものであった。
【0006】
本発明は、筆跡が摩擦体等で擦過される熱変色性着色剤を用いたインキであっても、筆記性能を阻害することなく、強い擦過摩擦に耐え得る筆跡が様々な筆記面に形成できる筆跡定着性に優れた熱変色性インキ組成物とそれを内蔵した筆記具を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の熱変色性筆記具インキ組成物は、摩擦熱により変色する着色剤と、水と、葉状二次粒子又は三次凝集粒子のいずれかである鱗片状シリカを含んでなることを要件とする。
更に、前記鱗片状シリカがインキ組成物全量中0.1〜10重量%の範囲で添加されることを要件とする。
更に、前記着色剤が、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記(イ)、(ロ)の呈色反応をコントロールする反応媒体とからなる可逆熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させたマイクロカプセル顔料であることを要件とする。
更には、前記いずれかに記載の熱変色性筆記具インキ組成物を内蔵した筆記具を要件とし、前記筆記具による筆跡を摩擦熱で変色する摩擦部材を備えてなることを要件とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の熱変色性筆記具インキ組成物は、熱変色性着色剤とともに鱗片状シリカを用いることで、筆記性能を阻害することなく優れた筆跡定着性が付与できる。そのため、様々な筆記面に形成した筆跡が摩擦体等で擦過されたとしても、前記筆跡を剥がすことなく摩擦熱による変色性能を発現できる利便性に優れたものである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
前記筆記具インキ組成物は、摩擦熱により変色する着色剤と鱗片状シリカを含む水性インキである。
前記鱗片状シリカは、自己造膜性を有する薄板状のシリカ(SiO)の微粒子であり、インキ状態では水媒体中に固体として分散状態で存在し、筆記時には筆記面に沿って緩やかに配向するとともに、水分の蒸発に伴ってシリカ表面のシラノール基同士が密着して強固な被膜を形成する。そのため、筆跡に強い定着性を付与することができる。
【0010】
前記鱗片状シリカとしては、粉体や水でスラリー状に分散されたものが適用でき、具体的には、薄片状の一次粒子、該薄片一次粒子が互いに面間が平行的に配向して複数枚重なって形成される実質的に葉状二次粒子(積層構造の粒子形態を有する鱗片状シリカ)、前記薄片一次粒子が葉状二次粒子形態で三次凝集した三次凝集粒子、更にこれらの混合物が例示できる。
【0011】
前記薄片一次粒子は、その厚さが0.001〜0.1μmのものである。このような薄片一次粒子は、互いに面間が平行的に配向して1枚または複数枚重なった葉状シリカ二次粒子を形成する。前記二次粒子の厚さは、0.001〜3μm、好ましくは0.005〜2μmであり、厚さに対する葉状二次粒子の最長長さの比(アスペクト比)は、少なくとも10、好ましくは30以上、更に好ましくは50以上を有するような鱗片状のシリカである。
葉状二次粒子の厚さが0.001μm未満の場合には、葉状二次粒子の強度が不十分となるため好ましくない。尚、二次粒子の厚さは、微粉末状のものを走査型電子顕微鏡観察することで測定ができる。また、厚さと平面方向の粒径は、透過型電子顕微鏡により撮影した粒子像サイズのスケール計測等により区別できる。
前記三次凝集粒子は、例えば特開平11−29317号や特開2000−72432号に開示される方法で製造される薄片一次粒子の凝集体であり、複数の葉状二次粒子が略放射状に不規則に間隙を有するように集合した三次凝集体構造である。尚、前記葉状二次粒子はこの三次凝集粒子を解砕して得ることができる。
【0012】
前記鱗片状シリカは、その大きさを特に限定されるものではなく、平均粒子径が0.002〜20μm、好ましくは0.01〜10μm、更に好ましくは0.01〜8μmのものが適用できる。平均粒径が0.002μm未満の場合は、表面積が小さくなり十分な筆跡定着性が得られ難く多量の添加を必要としてしまい、20μmを越えると、筆記時のインキ吐出性が悪くなる虞がある。尚、三次凝集粒子を用いる場合、平均粒子径が4〜6μm程度のものが最も有用である。
【0013】
前記平均粒子径の測定方法としては、レーザー回折/散乱式粒度測定装置(例えば、堀場製作所社製、LA−920型)、動的光散乱式粒度分布測定装置(例えば、堀場製作所社製、LB−500型)、コールターカウンター(例えば、コールターエレクトロニクス社製、MA−II型)等を粒子径の範囲に応じて適宜使用して測定される。
【0014】
前記鱗片状シリカとしては、前述の文献に記載された方法で作成できるが、市販品を用いてもよく、例えばAGCエスアイテック社製のサンラブリー、C、TZ−824、LFS、LFS−C等が例示できる。
【0015】
前記鱗片状シリカはインキ組成物全量に対し0.1〜10重量%、好ましくは0.5〜5重量%の範囲で用いられる。添加量が0.1重量%未満では所望の性能を発現し難く、また、10重量%を超えて配合しても更なる効果は得られないので、これ以上の添加を要しない。
【0016】
前記摩擦熱により変色する着色剤としては、筆跡を摩擦体等で擦過して加温することによって、筆跡が変色(色相変化や透明化や消色)するものが、可逆、不可逆を問わず選択的に適用できる。尚、着色剤自身が色相変化するものの他、透明化(消色)するものと、汎用の着色剤を併用することで、色相が変化する構成とすることもできる。
前記加熱変色する着色剤としては、例えば、引用文献として例示した、特開2012−219160号公報、特開2014−5422号公報等に開示される可逆タイプや、特開2010−229332号公報等に開示される不可逆タイプのものが適用可能である。
特に、前記筆跡の変化は、熱変色性組成物をマイクロカプセルに内包させることで、組成変化を生じることなく長期間安定して発現できるものとなるため好適である。前記マイクロカプセル顔料に内包される熱変色性組成物としては、繰り返しの使用性、温度変化の正確性等の点から、(イ)電子供与性呈色性有機化合物、(ロ)電子受容性化合物、(ハ)前記両者の呈色反応の生起温度を決める反応媒体からなる可逆熱変色性組成物が好適である。
【0017】
前記可逆熱変色性組成物としては、特公昭51−44706号公報、特公昭51−44707号公報、特公平1−29398号公報等に記載された、所定の温度(変色点)を境としてその前後で変色し、高温側変色点以上の温度域で消色状態、低温側変色点以下の温度域で発色状態を呈し、前記両状態のうち常温域では特定の一方の状態しか存在せず、もう一方の状態は、その状態が発現するのに要した熱又は冷熱が適用されている間は維持されるが、前記熱又は冷熱の適用がなくなれば常温域で呈する状態に戻る、ヒステリシス幅が比較的小さい特性(ΔH=1〜7℃)を有する可逆熱変色性組成物をマイクロカプセル中に内包させた加熱消色型のマイクロカプセル顔料が適用できる。
更に、特公平4−17154号公報、特開平7−179777号公報、特開平7−33997号公報、特開平8−39936号公報等に記載されている比較的大きなヒステリシス特性(ΔH=8〜50℃)を示すものや、特開2006−137886号公報、特開2006−188660号公報、特開2008−45062号公報、特開2008−280523号公報等に記載されている大きなヒステリシス特性を示す、即ち、温度変化による着色濃度の変化をプロットした曲線の形状が、温度を変色温度域より低温側から上昇させていく場合と逆に変色温度域より高温側から下降させていく場合とで大きく異なる経路を辿って変色し、完全発色温度以下の低温域での発色状態、又は完全消色温度以上の高温域での消色状態が、特定温度域で色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包させ加熱消色型のマイクロカプセル顔料も適用できる。
尚、筆記具インキに適用される、前記色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物として具体的には、完全発色温度を冷凍室、寒冷地等でしか得られない温度、即ち−50〜0℃、好ましくは−40〜−5℃、より好ましくは−30〜−10℃、且つ、完全消色温度を摩擦体による摩擦熱、ヘアドライヤー等身近な加熱体から得られる温度、即ち50〜95℃、好ましくは50〜90℃、より好ましくは60〜80℃の範囲に特定し、ΔH値を40〜100℃に特定することにより、常態(日常の生活温度域)で呈する色彩の保持に有効に機能させることができる。
【0018】
前記加熱消色する着色剤と併用可能である汎用の着色剤としては、水性系媒体に溶解もしくは分散可能な染料及び顔料がすべて使用可能であり、その具体例を以下に例示する。
前記染料としては、酸性染料、塩基性染料、直接染料等を使用することができる。
酸性染料としては、ニューコクシン(C.I.16255)、タートラジン(C.I.19140)、アシッドブルーブラック10B(C.I.20470)、ギニアグリーン(C.I.42085)、ブリリアントブルーFCF(C.I.42090)、アシッドバイオレット6B(C.I.42640)、ソルブルブルー(C.I.42755)、ナフタレングリーン(C.I.44025)、エオシン(C.I.45380)、フロキシン(C.I.45410)、エリスロシン(C.I.45430)、ニグロシン(C.I.50420)、アシッドフラビン(C.I.56205)等が用いられる。
塩基性染料としては、クリソイジン(C.I.11270)、メチルバイオレットFN(C.I.42535)、クリスタルバイオレット(C.I.42555)、マラカイトグリーン(C.I.42000)、ビクトリアブルーFB(C.I.44045)、ローダミンB(C.I.45170)、アクリジンオレンジNS(C.I.46005)、メチレンブルーB(C.I.52015)等が用いられる。
直接染料としては、コンゴーレッド(C.I.22120)、ダイレクトスカイブルー5B(C.I.24400)、バイオレットBB(C.I.27905)、ダイレクトディープブラックEX(C.I.30235)、カヤラスブラックGコンク(C.I.35225)、ダイレクトファストブラックG(C.I.35255)、フタロシアニンブルー(C.I.74180)等が用いられる。
【0019】
前記顔料としては、カーボンブラック、群青などの無機顔料や銅フタロシアニンブルー、ベンジジンイエロー等の有機顔料の他、予め界面活性剤や樹脂を用いて微細に安定的に水媒体中に分散された水分散顔料製品等が用いられ、例えば、C.I.Pigment Blue 15:3B〔品名:Sandye Super Blue GLL、顔料分24%、山陽色素株式会社製〕、C.I. Pigment Red 146〔品名:Sandye Super Pink FBL、顔料分21.5%、山陽色素株式会社製〕、C.I.Pigment Yellow 81〔品名:TC Yellow FG、顔料分約30%、大日精化工業株式会社製〕、C.I.Pigment Red 220/166〔品名:TC Red FG、顔料分約35%、大日精化工業株式会社製〕等を挙げることができる。
尚、前記顔料を分散する樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、アクリル酸樹脂、マレイン酸樹脂、アラビアゴム、セルロース、デキストラン、カゼイン等、およびそれらの誘導体、前記した樹脂の共重合体等が挙げられる。
蛍光顔料としては、各種蛍光性染料を樹脂マトリックス中に固溶体化した合成樹脂微細粒子状の蛍光顔料が使用できる。
また、酸化チタン等の白色顔料、アルミニウム等の金属粉顔料、天然雲母、合成雲母、アルミナ、ガラス片から選ばれる芯物質の表面を二酸化チタン等の金属酸化物で被覆したパール顔料、コレステリック液晶型光輝性顔料等を使用することもできる。
【0020】
前記着色剤は一種又は二種以上を適宜混合して使用することができ、インキ組成物中1〜35重量%、好ましくは2〜30重量%の範囲で用いられる。
【0021】
また、水に相溶性のある従来汎用の水溶性有機溶剤を用いることもでき、例えば、エタノール、プロパノール、ブタノール、グリセリン、ソルビトール、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、チオジエチレングリコール、ヘキシレングリコール、1,3−ブタンジオール、ネオプレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、2−ピロリドン、N−メチル−2−ピロリドン等が挙げられる。
尚、前記水溶性有機溶剤は一種又は二種以上を併用することもでき、インキ組成物中2〜60重量%、好ましくは5〜35重量%の範囲で用いられる。
【0022】
その他、必要に応じて、炭酸ナトリウム、リン酸ナトリウム、酢酸ソーダ等の無機塩類、水溶性のアミン化合物等の有機塩基性化合物等のpH調整剤、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、サポニン等の防錆剤、石炭酸、1、2−ベンズチアゾリン3−オンのナトリウム塩、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、パラオキシ安息香酸プロピル、2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルフォニル)ピリジン等の防腐剤或いは防黴剤、尿素、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤、消泡剤、インキの浸透性を向上させるフッ素系界面活性剤やノニオン系界面活性剤を使用してもよい。
更に、潤滑剤を添加することができ、金属石鹸、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加型カチオン活性剤、リン酸エステル系活性剤、N−アシルアミノ酸系界面活性剤、ジカルボン酸型界面活性剤、β−アラニン型界面活性剤、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾールやその塩やオリゴマー、3−アミノ−5−メルカプト−1,2,4−トリアゾール、チオカルバミン酸塩、ジメチルジチオカルバミン酸塩、α−リポ酸、N−アシル−L−グルタミン酸とL−リジンとの縮合物やその塩等が用いられる。
また、N−ビニル−2−ピロリドンのオリゴマー、N−ビニル−2−ピペリドンのオリゴマー、N−ビニル−2−ピロリドン、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、ε−カプロラクタム、N−ビニル−ε−カプロラクタムのオリゴマー等の増粘抑制剤を添加することで、出没式形態での機能を高めることもできる。
【0023】
また、耐乾燥性を妨げない範疇でアルキッド樹脂、アクリル樹脂、スチレンマレイン酸共重合物、セルロース誘導体、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、デキストリン等の水溶性樹脂を一種又は二種以上添加したり、尿素、ノニオン系界面活性剤、ソルビット、マンニット、ショ糖、ぶどう糖、還元デンプン加水分解物、ピロリン酸ナトリウム等の湿潤剤を一種又は二種以上添加することもできる。
【0024】
前記水性インキには、剪断減粘性付与剤を添加することもできる。
前記剪断減粘性付与剤としては、水に可溶乃至分散性の物質が効果的であり、キサンタンガム、ウェランガム、ゼータシーガム、ダイユータンガム、マクロホモプシスガム、構成単糖がグルコースとガラクトースの有機酸修飾ヘテロ多糖体であるサクシノグリカン(平均分子量約100乃至800万)、グアーガム、ローカストビーンガム及びその誘導体、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸アルキルエステル類、メタクリル酸のアルキルエステルを主成分とする分子量10万〜15万の重合体、グルコマンナン、寒天やカラゲニン等の海藻より抽出されるゲル化能を有する炭水化物、ポリN−ビニル−カルボン酸アミド架橋物、ベンジリデンソルビトール及びベンジリデンキシリトール又はこれらの誘導体、架橋性アクリル酸重合体、無機質微粒子、HLB値が8〜12のノニオン系界面活性剤、ジアルキルスルホコハク酸の金属塩やアミン塩等を例示できる。更には、インキ組成物中にN−アルキル−2−ピロリドンとアニオン系界面活性剤を併用して添加してもよい。
前記剪断減粘性付与剤は、インキ組成物中0.1〜20重量%の範囲で用いることができる。
【0025】
本発明の熱変色性筆記具インキ組成物は、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ、ボールペンチップを筆記先端部に装着したマーキングペンやボールペンに充填される。尚、前記マーキングペンやボールペンは、ペン先を覆うキャップを備えたキャップ式の他、ノック式、回転式、スライド式等の出没機構を有し、軸筒内にペン先を収容可能な出没式であってもよい。
【0026】
マーキングペンに充填する場合、マーキングペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、繊維チップ、フェルトチップ、プラスチックチップ等のマーキングペン用ペン先(砲弾型、チゼル型、筆ペン型等)を筆記先端部に装着し、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、筆記先端部にインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させて筆記先端部に所定量のインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容して、弁機構により筆記先端部に所定量のインキを供給する構造のマーキングペンが挙げられる。
また、ペン先を1本備えるものの他、太さや形状の異なるペン先を軸筒の両端に備えた両頭式形態であってもよい。尚、前記両頭式形態においては、一端をボールペンとしたものであってもよい。
【0027】
ボールペンに充填する場合、ボールペン自体の構造、形状は特に限定されるものではなく、例えば、軸筒内部に収容した繊維束からなるインキ吸蔵体にインキを含浸させ、筆記先端部にインキを供給する構造、軸筒内部に直接インキを収容し、櫛溝状のインキ流量調節部材や繊維束からなるインキ流量調節部材を介在させる構造、軸筒内にインキ組成物を充填したインキ収容管を有し、該インキ収容管はボールを先端部に装着したチップに連通しており、更にインキの端面には逆流防止用の液栓が密接している構造のボールペン等が挙げられる。尚、前記液栓とともに固体栓を併用することもできる。
【0028】
前記ボールペンチップについて更に詳しく説明すると、金属製のパイプの先端近傍を外面より内方に押圧変形させたボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属材料をドリル等による切削加工により形成したボール抱持部にボールを抱持してなるチップ、或いは、金属製のパイプや金属材料の切削加工により形成したチップに抱持するボールをバネ体により前方に付勢させたもの等を適用できる。
また、前記ボールは、超硬合金、ステンレス鋼、ルビー、セラミック等が適用できる。
【0029】
前記熱変色性インキを収容するインキ収容管は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性樹脂からなる成形体が、インキの低蒸発性、生産性の面で好適に用いられる。また、前記インキ収容管として透明、着色透明、或いは半透明の成形体を用いることにより、インキ色やインキ残量等を確認できる。
前記インキ収容管にはチップを直接連結する他、接続部材を介して前記インキ収容管とチップを連結してもよい。
尚、前記インキ収容管はレフィルの形態として、前記レフィルを軸筒内に収容するものでもよいし、先端部にチップを装着した軸筒自体をインキ収容体として、前記軸筒内に直接インキを充填してもよい。
【0030】
前記インキ収容管に収容したインキ組成物の後端には、インキ逆流防止体が充填される。
前記インキ逆流防止体としては、液状または固体のいずれを用いることもでき、前記液状のインキ逆流防止体としては、ポリブテン、シリコーン油等の不揮発性媒体が挙げられ、所望により前記媒体中にシリカ、珪酸アルミニウム等を添加することもできる。
また、固体のインキ逆流防止体としては樹脂成形物が挙げられる。
尚、前記液状及び固体のインキ逆流防止体は併用することもできる。
【0031】
更に、前記筆記具とともに、摩擦熱によって筆跡を消色又は変色させるための摩擦部材を用いることができる。
前記摩擦部材としては、弾性感に富み、摩擦時に適度な摩擦を生じて摩擦熱を発生させることのできるエラストマー、プラスチック発泡体等の弾性体が好適である。尚、消しゴムを使用して筆跡を摩擦することもできるが、摩擦時に消しカスが発生するため、前述の摩擦部材が好適に用いられる。
前記摩擦部材の材質としては、シリコーン樹脂やSEBS樹脂(スチレンエチレンブタジエンスチレンブロック共重合体)、SBS樹脂(スチレンブチレンスチレン共重合体)、ポリエステル系樹脂等が用いられる。
前記摩擦部材は筆記具と別体の任意形状の部材(摩擦体)とを組み合わせて筆記具セットを得ることもできるが、筆記具外装に摩擦部材を固着させることにより、携帯性に優れた形態となる。
キャップ式筆記具の場合、摩擦部材を設ける箇所は特に限定されるものではないが、例えば、キャップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合はクリップ自体を摩擦部材により形成したり、キャップ先端部(頂部)或いは軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)に摩擦部材を設けることができる。
出没式筆記具の場合、摩擦部材を設ける箇所は特に限定されるものではないが、例えば、軸筒自体を摩擦部材により形成したり、クリップを設ける場合はクリップ自体を摩擦部材により形成したり、軸筒開口部近傍、軸筒後端部(筆記先端部を設けていない部分)或いはノック部に摩擦部材を設けることができる。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に実施例及び比較例の筆記具用水性インキの組成を示す。尚、表中の組成の数値は重量部を示す。
【0033】
【表1】
【0034】
表中の原料の内容について注番号に沿って説明する。
(1)(イ)成分として2−(2−クロロアニリノ)−6−ジ−n−ブチルアミノフルオラン4.5部、(ロ)成分として1,1−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)n−デカン4.5部、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン7.5部、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(T:−20℃、T:−9℃、T:40℃、T:57℃、ΔH:63℃、平均粒子径:2.5μm、黒色から無色に色変化する)
(2)(イ)成分として3−(4−ジエチルアミノ−2−ヘキシルオキシフェニル)−3−(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)−4−アザフタリド2.0部、(ロ)成分として2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン8.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル50.0部からなる可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(T:−14℃、T:−6℃、T:48℃、T:60℃、ΔH:64℃、平均粒子径:2.3μm、青色から無色に色変化する)
(3)(イ)成分として4−[2,6−ビス(2−エトキシフェニル)−4−ピリジニル]−N,N−ジメチルベンゼンアミン2.0部、(ロ)成分として、2,2−ビス(4′−ヒドロキシフェニル)−ヘキサフルオロプロパン6.0部、(ハ)成分としてカプリン酸4−ベンジルオキシフェニルエチル5.0部からなる色彩記憶性を有する可逆熱変色性組成物を内包したマイクロカプセル顔料(予め−20℃以下に冷却してマイクロカプセル顔料を黄色に発色させたもの)。平均粒子径:2.5μm、完全消色温度:61℃、完全発色温度:−20℃、温度変化により黄色から無色に変色する。
(4)AGCエスアイテック(株)製、商品名:サンラブリー
(5)AGCエスアイテック(株)製、商品名:サンラブリーC
(6)AGCエスアイテック(株)製、商品名:サンラブリーTZ−824
(7)BASF社製、商品名:ジョンクリル7001
(8)日本合成化学工業(株)製、商品名:モビニールDM772
(9)三晶(株)製、商品名:レオザン
(10)三晶(株)製、商品名:ケルザン
(11)リン酸エステル系界面活性剤、第一工業製薬(株)製、商品名:プライサーフAL
(12)北興化学工業(株)製、商品名:ホクサイドR−150
(13)東レダウコーニング(株)製、商品名:FSアンチフォーム013A
【0035】
ボールペンインキの調製
前記実施例1乃至3及び比較例1乃至3の配合量で剪断減粘性付与剤を除く各原料を混合し、20℃でディスパーにて400rpm、1時間攪拌した後、剪断減粘性付与剤を加えて更に1時間攪拌することでボールペンインキ組成物を得た。
【0036】
インキ逆流防止体の調製
基油としてポリブテン98.5部中に、増粘剤として脂肪酸アマイド1.5部を添加した後、3本ロールにて混練してインキ逆流防止体を得た。
【0037】
ボールペンの作製
直径0.5mmの超硬合金製ボールを抱持するステンレススチール製切削チップが透明ポリプロピレン製パイプの一端に嵌着されたボールペンレフィル内に、前記各ボールペンインキ組成物を充填し、その後端に前記インキ逆流防止体を配設した後、前記ボールペンレフィルを軸筒(後端にSEBS樹脂製の摩擦体を備える)に組み込み、キャップを装着することで試料ボールペンを作製した。
【0038】
マーキングペンインキの調製
前記実施例4乃至6及び比較例4乃至5の配合量で各原料を混合し、20℃で3時間撹拌溶解した後、濾過することによりマーキングペンインキ組成物を得た。
【0039】
マーキングペンの作製
ポリエステルスライバーを合成樹脂フィルムで被覆したインキ吸蔵体内に前記マーキングペンインキ組成物を含浸させ、ポリプロピレン樹脂からなる軸筒内に収容し、ホルダーを介して軸筒先端部にポリエステル繊維の樹脂加工チップ(砲弾型)を接続状態に組み立て、先端にSEBS樹脂製の摩擦を備えてなるキャップを装着することで試料マーキングペンを作製した。
【0040】
筆記試験
前記各試料ボールペン、及び試料マーキングペンを用いて、旧JIS P3201筆記用紙A及びコート紙に手書きでAからJまでのアルファベットを筆記し、各筆記具に装着された摩擦体で擦過することにより摩擦熱で変色(消色)させた。その後、変色した筆跡を−20℃まで冷却した後、室温にて消色箇所の筆跡の状態を目視により確認した。
ドライアップ試験
筆記可能であることを確認した各試料筆記具をペン先が空気中に晒された状態とし、横置き状態で20℃の環境下で7日間(ボールペン)又は5時間(マーキングペン)放置した後、室温にてJIS P3201筆記用紙Aに手書きで1行に12個の螺旋状の丸を連続筆記した。その際の筆跡状態を目視により確認した。
各試験の結果を以下に示す。
【0041】
【表2】
【0042】
尚、前記表中の記号に関する評価は以下の通りである。
筆記試験
○:いずれの用紙においても筆跡が定着しており、元の状態が視認された。
×:筆跡が剥離しており、元の状態に戻らない。
ドライアップ試験
○:良好な筆跡が得られる。
×:筆跡にカスレや線飛びが見られる、又は筆記不能。