特許第6404122号(P6404122)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404122
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】高性能スルホンポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 71/10 20060101AFI20181001BHJP
   C08L 81/06 20060101ALI20181001BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20181001BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20181001BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20181001BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   C08L71/10
   C08L81/06
   C08K7/14
   C08L79/08 B
   C08L69/00
   C08L81/02
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-547940(P2014-547940)
(86)(22)【出願日】2012年12月18日
(65)【公表番号】特表2015-502441(P2015-502441A)
(43)【公表日】2015年1月22日
(86)【国際出願番号】EP2012076017
(87)【国際公開番号】WO2013092628
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年11月17日
(31)【優先権主張番号】61/578,331
(32)【優先日】2011年12月21日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】512323929
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ ユーエスエー, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(72)【発明者】
【氏名】ゴータム, ケシャブ
(72)【発明者】
【氏名】エル−ヒブリ, モハマド ジャマール
【審査官】 大木 みのり
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭61−118458(JP,A)
【文献】 特開平02−264027(JP,A)
【文献】 特開平06−256569(JP,A)
【文献】 特表2009−530461(JP,A)
【文献】 特表2010−525126(JP,A)
【文献】 特開平03−139560(JP,A)
【文献】 特開昭62−054758(JP,A)
【文献】 米国特許第04624997(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01884538(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 −101/14
C08K 3/00 − 13/08
B29C 45/00 − 45/84
B29B 15/08 − 15/14
C08J 5/00 − 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
− ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて1から30重量%の量で、少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン(PAEK);
− ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて2から35重量%の量で、少なくとも1種のポリフェニルスルホン(PPSU);
− ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて30から70重量%の量で、少なくとも1種のポリスルホン(PSU);および
− ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて20から40重量%の量で、ASTM D2343に従って測定して少なくとも76GPaの弾性率を有するガラス繊維
を含み、
ポリフェニルスルホン(PPSU)が、繰り返し単位の少なくとも50モル%が繰り返し単位(Ra):

(Ra)
である芳香族スルホンポリマーを意味し、ポリスルホン(PSU)が、繰り返し単位の少なくとも50モル%が繰り返し単位(Rb):

(Rb)
である芳香族スルホンポリマーを意味する、ポリマー組成物(C)。
【請求項2】
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の少なくとも50モル%が、繰り返し単位(J’−A):

である、請求項1に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項3】
前記ポリアリールエーテルケトン(PAEK)が、前記ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、少なくとも2重量%の量で存在する、請求項1または2に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項4】
前記ポリフェニルスルホン(PPSU)の繰り返し単位の少なくとも90モル%が、繰り返し単位(Ra)である、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項5】
前記ポリフェニルスルホン(PPSU)が、前記ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、少なくとも5重量%の量で存在する、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項6】
ポリスルホン(PSU)の繰り返し単位の少なくとも90モル%が、繰り返し単位(Rb)である、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項7】
前記ポリスルホン(PSU)が、前記ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、最大で60重量%の量で存在する、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項8】
ポリエーテルイミド、ポリフェニルスルフィドおよび/またはポリカーボネートをさらに含む、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー組成物(C)。
【請求項9】
請求項1〜のいずれか一項に記載のポリマー組成物を含む物品。
【請求項10】
管、管継手、多岐管、弁、医療機器または機器の部品、医療用ケースまたはトレイ、航空機内部パネルまたはコンポーネント、調理器具、実験動物ケージ、実験装置、および電子装置の構造部品からなる群から選択される、請求項に記載の物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2011年12月11日に出願された米国仮出願第61/578331号明細書に対する優先権を主張し、これらの出願のそれぞれの全内容は、すべての目的のために参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、高性能スルホンポリマー組成物およびそれから製造された物品に関する。特に、本発明は、少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン(PAEK)、少なくとも1種のポリフェニルスルホン(PPSU)、少なくとも1種のポリスルホン(PSU)、およびある種の強化フィラーを含む組成物に関する。
【背景技術】
【0003】
芳香族スルホンポリマー[例えば、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリエーテルスルホン(PESU)およびビスフェノールAポリスルホン(PSU)]は、それらの卓越した特性が高く評価されている用途で広範に使用されてきた。これらの特性としては、寸法安定性、低い熱膨張係数、高温での弾性率の保持率、放射線耐性、加水分解安定性および強靭な機械的特性が挙げられる。このような用途としては、配管、民間航空機内装、調理器具、電線絶縁および食品サービスの物品のように様々な物品が挙げられる。例えば、ポリフェニルスルホン(PPSU)は、配管、医療および航空宇宙用途などの用途で一般に用いられるポリマーである。
【0004】
他方で、PEEKなどのポリアリールエーテレケトンは、とりわけ、耐薬品性、卓越した強度および優れた耐疲労性を特色とする、今日入手可能な最も高い性能の半結晶性熱可塑プラスチックの一つである。
【0005】
ある種のPEEK−ポリフェニルスルホンブレンドは、特性の良好かつ独特の組合せを提供し、特定の最終用途、特に管継手、管、多岐管などの配管最終使用用途で何年もの間高く評価されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、それらのブレンドの全体的な特性が特別に優れているとしても、それらのブレンドから作られた管継手および管を組み立てる場合、不良が検出されることがあり;それらは、厳しい応力条件下に置かれる場合、破損することもある。したがって、上述の課題を回避するために、これらの材料の破断時伸びおよび耐衝撃性を改善する必要性が依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
したがって、本発明は、
− 少なくとも1種のポリアリールエーテルケトン(PAEK);
− 少なくとも1種のポリフェニルスルホン(PPSU);
− 少なくとも1種のポリスルホン(PSU);および
− ASTM D2343に従って測定して少なくとも76GPaの弾性率を有するガラス繊維
を含む、ポリマー組成物(C)に関する。
【0008】
本出願人は、意外なことに、上述のポリマー組成物(C)が、ポリマー組成物(C)から作られた物品の据付け、組立ておよび使用を非常に容易にする、良好な破断時伸びを特色とすることを見出した。さらに、ポリマー組成物(C)は、高い衝撃強さ、高い剛性および非常に良好な耐薬品性も特色とする。上述の理由のすべてによって、ポリマー組成物(C)は、配管、医療および宇宙航空用途で用いられる物品の製造のための完璧な候補である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
したがって、本発明によるポリマー組成物(C)は、以下に詳述される、少なくとも3種のポリマー成分[ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、ポリフェニルスルホン(PPSU)、ポリスルホン(PSU)]および強化フィラー(ASTM D2343に従って測定して少なくとも76GPaの弾性率を有するガラス繊維)を含む。
【0010】
ポリアリールエーテルケトン
最初に、「ポリアリールエーテルケトン(PAEK)」という用語は、本発明の目的において、繰り返し単位を含むあらゆるポリマーを意味し、前記繰り返し単位の50モル%超は、Ar−C(=O)−Ar’基(ArおよびAr’は、互いに等しいかまたは異なり、芳香族基である)を含む繰り返し単位(RPAEK)である。繰り返し単位(RPAEK)は、一般に以下の式(J−A)〜(式(J−O):
(式中:
− R’のそれぞれは、互いに等しいかまたは異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリまたはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミンおよび第四級アンモニウムからなる群から選択され;
− J’は、ゼロであるか、または0〜4の整数である)
からなる群から選択される。
【0011】
繰り返し単位(RPAEK)において、それぞれのフェニレン部分は、独立して、繰り返し単位においてR’と異なる他の部分への1,2−、1,4−または1,3−結合を有していてもよい。好ましくは、前記フェニレン部分は、1,3−または1,4−結合を有し、より好ましくは、それらは、1,4−結合を有する。
【0012】
さらに、繰り返し単位(RPAEK)において、J’は、それぞれの出現するごとにゼロであり、すなわち、フェニレン部分は、ポリマーの主鎖に結合を可能にするもの以外の置換基をまったく有しない。
【0013】
したがって、好ましい繰り返し単位(RPAEK)は、以下の式(J’−A)〜(J’−O):
のものから選択される。
【0014】
ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、一般に、様々な商業的供給元から容易に入手可能な、結晶性芳香族ポリマーである。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、好ましくは粘度を、濃硫酸中25℃および大気圧で測定して約0.8〜約1.8dl/gの範囲に減少させている。
【0015】
本発明の好ましい実施形態において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の少なくとも50モル%は、繰り返し単位(J’−A)である。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらにより好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%は、繰り返し単位(J’−A)である。卓越した結果は、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)が繰り返し単位(J’−A)以外の繰り返し単位を含まない場合に得られた。
【0016】
本発明の別の好ましい実施形態において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の少なくとも50モル%は、繰り返し単位(J’−B)である。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらにより好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%は、繰り返し単位(J’−B)である。卓越した結果は、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)が繰り返し単位(J’−B)以外の繰り返し単位を含まない場合に得られた。
【0017】
本発明のさらに別の好ましい実施形態において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の少なくとも50モル%は、繰り返し単位(J’−C)である。ポリアリールエーテルケトン(PAEK)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらにより好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%は、繰り返し単位(J’−C)である。卓越した結果は、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)が繰り返し単位(J’−C)以外の繰り返し単位を含まない場合に得られた。
【0018】
最も好ましくは、ポリマー組成物(C)のポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、すなわち、繰り返し単位(J’−A)のホモポリマーである。卓越した結果は、Solvay Speciality Polymers USA, LLC.から市販されているKETASPIRE(登録商標)を用いる場合に得られた。
【0019】
ポリマー組成物(C)において、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、ポリマー組成物の(C)の全重量に基づいて、有利には少なくとも1重量%、少なくとも2重量%、少なくとも3重量%、少なくとも4重量%、少なくとも5重量%、少なくとも6重量%、少なくとも7重量%、少なくとも8重量%、少なくとも9重量%、少なくとも10重量%、少なくとも11重量%、少なくとも12重量%、少なくとも13重量%、少なくとも14重量%、少なくとも15重量%、少なくとも16重量%、少なくとも17重量%、少なくとも18重量%、少なくとも19重量%、少なくとも20重量%、少なくとも21重量%、少なくとも22重量%、少なくとも23重量%、少なくとも24重量%の量で存在する。
【0020】
ポリアリールテーテルケトン(PAEK)はまた、ポリマー組成物の(C)の全重量に基づいて、有利には最大で80重量%、最大で75重量%、最大で70重量%、最大で65重量%、最大で60重量%、最大で55重量%、最大で50重量%、最大で45重量%、最大で44重量%、最大で43重量%、最大で42重量%、最大で41重量%、最大で40重量%、最大で39重量%、最大で38重量%、最大で37重量%、最大で36重量%、最大で35重量%、最大で34重量%、最大で33重量%、最大で32重量%、最大で31重量%、最大で30重量%、最大で29重量%、最大で28重量%、最大で27重量%、最大で26重量%の量で存在する。
【0021】
好ましくは、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)は、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、2〜50重量%、より好ましくは3〜45重量%、さらにより好ましくは4〜40重量%、最も好ましくは5〜35重量%の範囲の量で存在する。
【0022】
本発明によるポリマー組成物(C)は、少なくとも2つの異なる種類の芳香族スルホンポリマー(SP)、すなわち、その繰り返し単位の少なくとも50モル%が、式(SP):
−Ar−SO−Ar’ 式(SP)
(ArおよびAr’は、互いに等しいかまたは異なり、芳香族基である)
の少なくとも1種の基[繰り返し単位(Rsp)]を構成する任意のポリマーも含む。
【0023】
ポリフェニルスルホン(PPSU)
ポリマー組成物(C)は、以下に本明細書でポリフェニルスルホン(PPSU)と呼ばれる、少なくとも1種の第1のタイプの芳香族スルホンポリマー(SP)を含む。
【0024】
「ポリフェニルスルホン(PPSU)」によって、その繰り返し単位の少なくとも50モル%が、繰り返し単位(Ra):
である、芳香族スルホンポリマーが意味される。
【0025】
ポリフェニルスルホン(PPSU)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらにより好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%は、繰り返し単位(Ra)である。卓越した結果は、ポリフェニルスルホン(PPSU)が繰り返し単位(Ra)以外の繰り返し単位を含まない場合に得られたが、このようなポリマーは、とりわけ、Solvay Specialty Polymers USA,L.L.C.から市販されているRADEL(登録商標)PPSUとして入手可能である。
【0026】
ポリマー組成物(C)において、ポリフェニルスルホン(PPSU)は、ポリマー組成物の全重量に基づいて、有利には少なくとも2重量%の量で、有利には少なくとも5重量%の量で、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、さらにより好ましくは少なくとも20重量%、なおさらにより好ましくは少なくとも25重量%、最も好ましくは少なくとも30重量%の量で存在する。
【0027】
ポリフェニルスルホン(PPSU)はまた、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、有利には最大で80重量%、好ましくは最大で70重量%、より好ましくは最大で60重量%、さらにより好ましくは最大で50重量%、なおさらにより好ましくは最大で40重量%、その上より好ましくは最大で38重量%、最も好ましくは最大で35重量%の量で存在する。
【0028】
好ましくは、ポリフェニルスルホン(PPSU)は、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、5〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、さらにより好ましくは15〜38重量%、最も好ましくは20〜35重量%の範囲の量で存在する。
【0029】
ポリマー組成物(C)は、以下に本明細書でポリスルホン(PSU)と呼ばれる、少なくとも1種の第2のタイプの芳香族スルホンポリマー(SP)も含む。
【0030】
「ポリスルホン(PSU)]によって、芳香族スルホンポリマー(SP)の繰り返し単位の少なくとも50モル%が、繰り返し単位(Rb):
である芳香族スルホンポリマーが意味される。
【0031】
ポリスルホン(PSU)の繰り返し単位の好ましくは少なくとも60モル%、より好ましくは少なくとも70モル%、さらにより好ましくは少なくとも80モル%、最も好ましくは少なくとも90モル%は、繰り返し単位(Rb)である。卓越した結果は、ポリスルホン(PSU)が繰り返し単位(Rb)以外の繰り返し単位を含まない場合に得られたが、このようなポリマーは、とりわけ、Solvay Speciality Polymers USA,L.L.C.から市販されているUDEL(登録商標)PSUとして入手可能である。
【0032】
ポリマー組成物(C)において、ポリスルホン(PSU)は、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、有利には少なくとも10重量%、好ましくは少なくとも15重量%、より好ましくは少なくとも20重量%、さらにより好ましくは少なくとも25重量%、なおさらにより好ましくは少なくとも30重量%、最も好ましくは少なくとも35重量%の量で存在する。
【0033】
ポリスルホン(PSU)はまた、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、有利には最大で80重量%、好ましくは最大で70重量%、より好ましくは最大で65重量%、さらにより好ましくは最大で60重量%、なおさらにより好ましくは最大で55重量%、その上より好ましくは最大で50重量%、最も好ましくは最大で45重量%の量で存在する。
【0034】
好ましくは、ポリスルホン(PSU)は、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、10〜60重量%、より好ましくは15〜55重量%、さらにより好ましくは20〜50重量%、最も好ましくは25〜45重量%の量で存在する。
【0035】
上で説明されたとおりに、ポリスルホン(PSU)とポリフェニルスルホン(PPSU)の両方は、それぞれ、繰り返し単位(Ra)および(Rb)と異なる繰り返し単位を最大で50モル%含み得る。
【0036】
特に、それらは、式:
−Ar−(T−Ar−O−Ar−SO−[Ar−(T−Ar−SO−Ar−O−
(式中:
− Ar、Ar、Ar、Ar、およびArは、互いに等しいかまたは異なっていて、出現するごとに、独立して、芳香族単核−または多核基であり;
− TおよびT’は、互いに等しいかまたは異なっていて、出現するごとに、独立して、結合、または1個もしくは2個以上のヘテロ原子を任意選択的に含む二価の基であり;好ましくは、T’は、結合、−CH−、−C(O)−、−C(CH−、−C(CF−、−C(=CCl)−、−SO−、−C(CH)(CHCHCOOH)−、および式:
の基からなる群から選択され、好ましくは、Tは、結合、−CH−、−C(O)−、−C(CH−、C(CF−、−C(=CCl)−、−C(CH)(CHCHCOOH)−、および式:
の基からなる群から選択され;
nおよびmは、互いに等しいかまたは異なり、独立して、ゼロまたは1〜5の整数である)
に従う、上述の繰り返し単位(Ra)および(Rb)と異なる繰り返し単位(Rc)を含み得る。
【0037】
繰り返し単位(Rc)は、とりわけ、以下の式(S−A)〜式(S−D):
(式中:
− R’のそれぞれは、互いに等しいかまたは異なり、ハロゲン、アルキル、アルケニル、アルキニル、アリール、エーテル、チオエーテル、カルボン酸、エステル、アミド、イミド、アルカリまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルキルスルホネート、アルカリまたはアルカリ土類金属ホスホネート、アルキルホスホネート、アミンおよび第四級アンモニウムからなる群から選択され;
−j’は、ゼロであるか、または0〜4の整数であり;
−TおよびT’は、互いに等しいかまたは異なり、結合、または1個もしくは2個以上のヘテロ原子を任意選択的に含む二価の基である)
のものからなる群から選択することができ;好ましくは、T’は、結合、−CH−、−C(O)−、−C(CH−、−C(CF−、−C(=CCl)−、−C(CH)(CHCHCOOH)−、−SO−、および式:
の基からなる群から選択され;好ましくは、Tは、結合、−CH−、−C(O)−、−C(CH−、−C(CF−、−C(=CCl)−、−C(CH)(CHCHCOOH)−、および式:
の基からなる群から選択され;繰り返し単位(R)は、以下に詳述される式(i)〜式(iv)、および式(j)〜式(jv):
の繰り返し単位およびそれらの混合物からなる群から選択されてもよい。
【0038】
高モジュラスガラス繊維
ポリマー組成物(C)は、ASTM D2343に従って測定して少なくとも76、好ましくは少なくとも78、より好ましくは少なくとも80、最も好ましくは少なくとも82GPaの弾性率(引張弾性率とも呼ばれる)を有する、高モジュラスガラス繊維も含む。
【0039】
ガラス繊維は、異なる種類のガラスを生成させるために特注され得るいくつかの金属酸化物を含有する、シリカ系ガラス化合物である。主たる酸化物は、ケイ砂の形態のシリカであり;カルシウム、ナトリウムおよびアルミニウムなどの他の酸化物は、溶融温度を低下させ、結晶化を妨げるために取り込まれる。ガラス繊維は、長円形、楕円形または長方形を含めて、円形断面または非円形断面(いわゆる「扁平ガラス繊維」と呼ばれる)を有していてもよい。ガラス繊維は、エンドレス繊維またはチョップドガラス繊維として添加されてもよいが、チョップドガラス繊維が好ましい。ガラス繊維は、一般に5〜20μm、好ましくは5〜15μm、より好ましくは5〜10μmの等価直径を有する。
【0040】
R、SおよびTガラス繊維は、高モジュラスガラス繊維のよく知られた例である。それらは、とりわけ、Fiberglass and Glass Technology, Wallenberger,Frederick T.;Bingham, Paul A.(Eds.),2010,XIVに記載されている。R、SおよびTガラス繊維は、ケイ素、アルミニウムおよびマグネシウムの酸化物から本質的に構成される。特に、それらのガラス繊維は、典型的には62〜75重量%のSiO、16〜28重量%のAl、および5〜14重量%のMgOを含む。したがって、本発明の組成物(C)において用いられる高モジュラスガラス繊維は、ポリマー組成物中で広範に使用されている従来のE−ガラス繊維と区別できる。実際に、前記E−ガラス繊維とは対照的に、R、SおよびTガラス繊維は、10重量%未満のCaOを含む。
【0041】
ポリマー組成物(C)において、少なくとも76GPaの弾性率を有するガラス繊維は、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、有利には少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、さらにより好ましくは少なくとも20重量%、なおさらにより好ましくは少なくとも25重量%、その上なおさらにより好ましくは少なくとも26重量%、最も好ましくは少なくとも28重量%の量で存在する。
【0042】
少なくとも76GPaの弾性率を有するガラス繊維はまた、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、有利には最大で50重量%、好ましくは最大で45重量%、より好ましくは最大で40重量%、さらにより好ましくは最大で35重量%、なおさらにより好ましくは最大で34重量%、最も好ましくは最大で32重量%の量で存在する。
【0043】
好ましくは、少なくとも76GPaの弾性率を有するガラス繊維は、ポリマー組成物(C)の全重量に基づいて、20〜40重量%、より好ましくは25から35重量%、さらにより好ましくは26〜34重量%、最も好ましくは28〜32重量%の範囲の量で存在する。
【0044】
卓越した結果は、少なくとも76GPaの弾性率を有するガラス繊維がチョップドS−ガラス繊維である場合に得られた。このようなガラス繊維は、とりわけ、AGYから401S−2GLASS(登録商標)CHOPPED STRANDSとして市販されている。
【0045】
任意選択成分
ポリマー組成物(C)は、紫外線安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、顔料、加工助剤、潤滑剤、難燃剤、および/または導電性添加剤(例えば、カーボンブラックおよびカーボンナノフィブリル)などの追加の添加剤をさらに任意選択的に含んでもよい。
【0046】
ポリマー組成物(C)はまた、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)および芳香族スルホンポリマー(SP)以外のポリマーをさらに含んでもよい。特に、ポリマー組成物(C)は、ポリエーテルイミド、ポリフェニルスルフィドおよび/またはポリカーボネートなどのポリマーをさらに含んでもよい。
【0047】
ポリマー組成物(C)は、難燃剤、例えば、ハロゲンおよびハロゲン不含難燃剤をさらに含んでもよい。
【0048】
本発明の好ましい実施形態において、本発明の組成物(C)は、
− 5〜35重量%の少なくとも1種の(PEEK)ポリマー、
− 5〜35重量%の少なくとも1種の(PPSU)ポリマー、
− 25〜65重量%の少なくとも1種の(PSU)ポリマー、
− 25〜35重量%のガラス繊維
を含み、それらから本質的になり、ここで、%はすべて、組成物(C)の全重量に基づく。
【0049】
ポリマー組成物(C)の調製は、熱可塑性成形組成物の調製に適切である任意の公知の溶融−混合方法によって行うことができる。このような方法は、典型的には熱可塑性ポリマーをその熱可塑性ポリマーの溶融温度を超えて加熱し、それにより、熱可塑性ポリマーの溶融物を形成することによって行われる。組成物(C)の調製のための方法は、溶融混合装置で行うことができ、そのために、溶融混合によってポリマー組成物を調製する、当業者に知られた任意の溶融混合装置が使用できる。適切な溶融混合装置は、例えば、ニーダー、バンバリーミキサー、単軸押出機、および二軸押出機である。好ましくは、所望の成分のすべてを押出機に(押出機のスロート、または溶融物のいずれかに)投与するための手段を備えた押出機が使用される。ポリマー組成物(C)の調製のための方法において、組成物を形成するための構成成分が、溶融混合装置に供給され、その装置内で溶融混合される。構成成分は、乾燥ブレンドとしても知られる、粉末混合物または細粒混合器として同時に供給されてもよいか、または別個に供給されてもよい。
【0050】
本発明の別の態様は、上記のポリマー組成物(C)を含む物品に関する。
【0051】
本発明による物品は、任意の適切な溶融加工方法を用いてポリマー組成物(C)から製造される。特に、それらは、射出成形または押出成形によって製造される。射出成形が、好ましい方法である。
【0052】
ポリマー組成物(C)は、とりわけ多種多様な最終用途に有用な物品の製造に極めてよく適している。
【0053】
本発明による物品の非限定的な例は、
− 管継手、リング、給水栓、弁および多岐管などの、圧力下での水または他の流体の輸送に使用される配管物品。その一般的な用途としては、家庭用温冷水、ラジエータ加熱システム、床および壁冷暖房システム、圧縮空気システムおよび天然ガス用配管システムが挙げられる;
− 医療/歯科/ヘルスケア物品、例えば、医療機器または機器の部品(とりわけ、ハンドルおよび観察ガラス)、医療処置(麻酔など)で用いられる化学薬品を取り扱い、または分配する医療装置のコンポーネント、このような機器を保持するために使用されるケースおよびトレイ;
− 航空機内装物品、例えば、航空機上のパネルおよびコンポーネント(ダクト、ワイヤーコーティングなど);
− 食品サービス物品、例えば、加温トレイ、スチームテーブルトレイ、プラスチック製調理器具;
− 酪農設備物品、例えば、ミルクおよび他の乳製品の収集または輸送に使用される配管システム;
− 実験動物ケージ;
− 実験装置物品、例えば、漏斗、フィルタ装置および他の実験室設備;
− 電子式物品、例えば、電子装置の構造部品
である。
【0054】
本出願人は、意外なことに、熱可塑性ブレンドの技術分野で一般に用いられる通常のE−ガラス繊維よりもより剛性の強化材料の取込みが、上述のPAEK、PPSUおよびPSUのブレンドの伸び特性を改善することを見出した。通常、ポリマー組成物中の剛性材料の導入は、靭性、引張強さおよびモジュラスなどの一部の機械的特性を改善するが、これは、他方で伸びおよび耐衝撃の特性を儀性にすることによって行われる。
【0055】
したがって、ポリマー組成物(C)は、それを多くの最終用途にとって非常に魅力的にする特に優れた組合せの特性を特色とする。
【0056】
参照により本明細書に組み込まれるいずれかの特許、特許出願、および刊行物の開示が、それが用語を不明瞭にさせ得る程度に本出願の記載と矛盾する場合、本記載が優先するものとする。
【実施例】
【0057】
本発明はこれから、以下の実施例を参照してより詳細に説明されるが、その目的は単に例証的なものであり、本発明の範囲を限定することは意図されない。
【0058】
原料
− KETASPIRE(登録商標)KT−880[MV(400℃、1000s−1)は、0.12〜0.18kPa.sの範囲であり;IVは、0.75dl/g〜0.77dl/g]は、Solvay Specialty Polymers USA,LLCから市販されている芳香族ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)ポリマーである。
− RADEL(登録商標)R5600 PPSU(Solvay Specialty Polymers USA,LLCからの)、
− UDEL(登録商標)P3703NT PSU(Solvay Specialty Polymers USA,LLCからの)、
− OCV910A(Owens−Corning Vetrotexからのチョップド繊維ガラス)、
− Hostanox PEPQ(Clariantから入手可能な芳香族有機ホスホナイト溶融熱安定剤)、
− Sachtolith−L(Sachtleben Chemie GmbHから入手可能な硫化亜鉛グレード)、
− 酸化亜鉛(Lanxess Corp.から入手可能なAktiv(登録商標)グレード)。
【0059】
PEEK/PPSU/PSU/ガラス繊維ポリマー組成物の配合工程(compounding process)の一般説明
最初にブレンドされる樹脂のペレットを所望の組成比で約20分間タンブルブレンドし、続いて、溶融配合し、それには、Berstorff製の25mm二軸共回転部分噛み合い押出機を用いることによって、表2に示すとおりの、PEEK/PPSU/PSU/ガラス繊維ポリマー組成物を調製した。真空ベントを配合の間にバレル区域7で適用して、水分およびコンパウンドからすべての可能な残留揮発物をストリッピングして除いた。PEEKポリマーおよびPSUポリマーをバレル区域1(押出機の供給スロート)中に正確な比率にて重力的に(gravimetrically)供給した。繊維ガラスをバレル区域5中に正確な比率にて重力的に供給した。PPSUが処方中に存在する場合、それは、PSUポリマーペレットとペレット形態で予備ブレンドし、次いで、その混合物を、重力式フィーダを用いて所望の供給量で供給した。配合条件を、PEEK/PPSU/PSU/ガラス繊維ポリマー組成物について表1に要約する。
【0060】
【0061】
調製したポリマー組成物の機械的特性は、ASTM標準に従って試験した。試験片の調製に関しては、特に1)タイプI引張バー、2)5インチ×0.5インチ×0.125インチ曲げバー、および3)機器を備えた衝撃(Dynatup)試験用4インチ×4インチ×0.125インチプラーク(plaque)。
【0062】
ポリマー組成物は、表3に示したとおりの条件に従って150トンToshiba射出成形機で成形した。
【0063】
【0064】
用いた様々なASTM試験方法は、以下のとおりであった。
− 曲げ特性:D790
− 引張特性:D638
− ノッチ付きアイゾット衝撃:D256
− 非ノッチ付きアイゾット衝撃:D4812
【0065】
機械的および熱的特性は、表2に要約する。
【0066】