【課題を解決するための手段】
【0018】
すなわち、第1発明は、下記の化学式[化1]で示される末端にチオフェンを有する屈曲型のチエノチオフェン骨格を特徴とする化合物を有機半導体層に使用する有機トランジスタである。
[化1]
【0019】
化学式〔化1〕中の置換基R
1からR
8は、水素原子及びハロゲン原子、炭素数が3から60のアリール基、炭素数が3から60の複素環基、炭素数が1から30のアルキル基、炭素数が2から30のアルケニル基、炭素数が2から30のアルキニル基、炭素数が1から30のアルコキシル基、炭素数が1から60のアミノ基、炭素数が1から30のアミド基、炭素数が1から30のイミノ基、炭素数が1から30のカルボキシル基、ヒドロキシル基、炭素数が1から30のエステル基、ニトロ基、ニトリル基、炭素数が1から30のスルフィド基、メルカプト基、炭素数が1から30のスルホニル基、炭素数が1から60のシリル基のうち、少なくとも一つを含み、これらの各基は置換基を有していてもよい。なお、置換基R
1からR
8の好ましい例は、水素原子、フッ素原子、アリール基、複素環基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アミノ基である。
【0020】
置換基R
1からR
8における、ハロゲン原子はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素であり、好ましい例はフッ素原子である。
【0021】
置換基R
1からR
8における、アリール基は炭素数が3から60の芳香環基で、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、アントリル基、フェナントリル基、クリセンなどが挙げられ、これらの各基は置換基を有していてもよい。
【0022】
置換基R
1からR
8における、複素環基は炭素数が3から60の複素環基で、ピリジン、ピラジン、トリアジン、ピロール、キノリン、チオフェン、ベンゾチオフェン、ジベンゾチオフェン、チエノチオフェン、フラン、ベンゾフラン、ジベンゾフラン、チアゾール、ベンゾチアゾールなどが挙げられ、これらの各基は置換基を有していてもよい。
【0023】
置換基R
1からR
8における、アルキル基は炭素数が1から30の直鎖型、分岐型、環状型のアルキル基であり、例えば、メチル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、イソプロピル基、t-ブチル基、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、n−トリフルオロメチル基などが挙げられ、これらの各基は置換基を有していてもよい。
【0024】
置換基R
1からR
8における、アルケニル基は炭素数が2から30のアルケニル基で、例えば、エテニル基、メチルエテニル基、(n−オクチル)エテニル基、フェニルエテニル基、ナフチルエテニル基、ビフェニルエテニル基、ターフェニルエテニル基、パーフルオロフェニルエテニル基などが挙げられ、これらの各基は置換基を有していてもよい。
【0025】
置換基R
1からR
8における、アルキニル基は炭素数が2から30のアルキニル基で、例えば、エチニル基、メチルエチニル基、(n−オクチル)エチニル基、フェニルエチニル基、ナフチルエチニル基、ビフェニルエチニル基、ターフェニルエチニル基、パーフルオロフェニルエチニル基などが挙げられ、これらの各基は置換基を有していてもよい。
【0026】
置換基R
1からR
8における、アミノ基は炭素数が1から60のアミノ基で、例えば、ジフェニルアミノ基、ジナフチルアミノ基、ジチエニルアミノ基、ジピリジルアミノ基などが挙げられ、これらの各基は置換基を有していてもよい。
【0027】
前記置換基とは、水素原子及びハロゲン原子、アリール基、複素環基、アルキル基、フルオロアルキル基、アルケニル基、フルオロアルケニル基、アルキニル基、フルオロアルキニル基、アルコキシル基、フルオロアルコキシル基、アミノ基、アミド基、イミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、エステル基、ニトロ基、ニトリル基、スルフィド基、メルカプト基、スルホニル基、シリル基が挙げられる。
【0028】
[化1]の正式名はジ(ベンゾ[b]チエノ)[6,7―b:6’,7’―f]チエノ[3,2―b]チオフェンであり、以下、略して67DBT
3とする。
【0029】
第1発明に記載の化学式[化1]の67DBT
3の有機半導体材料の合成過程を反応式[化4]に示すが、下記の合成法に限定されるものではなく、公知の反応を組み合わせて合成することが可能である。
[化4]
【0030】
2−ブロモチオフェノールを塩基性条件下で、2−ブロモアセトアルデヒドジエチルアセタールを作用させ、次にポリリン酸を作用させると、化合物Aを合成することができる。上記以外の化合物Aの合成法として、公知のベンゾ[b]チオフェンの合成法を用いることができる。例えば、o−ジブロモベンゼンや1−ブロモー2−ヨードベンゼンなどo−ジハロベンゼンに、n−BuLiなどの公知の有機リチウム試薬やMgなどを用いて有機金属化合物とし、硫黄を作用させ、2−ブロモアセトアルデヒドジエチルアセタールなど、2−ハロゲン化アセトアルデヒドジアルキルアセタールを用い、さらにポリリン酸や二リン酸等の酸触媒を用いることで化合物Aを合成することができる。
【0031】
化合物Aにn−BuLiなどの公知の有機リチウム試薬やMgなどを用いて、有機金属化合物とし、DMFやN−メチルホルムアニリドなど公知のホルミル化剤を作用させると、化合物Bを合成することができる。
化合物Bに臭素などのハロゲンや塩化チオニル等の公知のハロゲン化剤と硫黄を作用させることで、67DBT
3を合成することができる。
【0032】
続いて、第2発明は、化学式[化2]で示される末端にチオフェンを有する屈曲型のチエノチオフェン骨格を特徴とする化合物を有機半導体層に使用する有機トランジスタである。
[化2]
ただし、化学式[化2]中のR
1からR
8は、第1発明の[化1]のR
1からR
8と同じである。
【0033】
化学式[化2]の正式名はジ(ベンゾ[b]チエノ)[5,4―b:5’,4’―f]チエノ[3,2―b]チオフェンであり、54DBT
3とする。
【0034】
化学式[化2]の化合物は、第1発明の化合物[化1]と同様にアルデヒドに臭素などのハロゲンや塩化チオニル等の公知のハロゲン化剤と硫黄を作用させることで、54DBT
3を合成することができる。反応式を[化5]に示す。
[化5]
【0035】
続いて、第3発明は、化学式[化3]で示される末端にチオフェンを有する屈曲型のチエノチオフェン骨格を特徴とする化合物を有機半導体層に使用する有機トランジスタである。
[化3]
ただし、化学式[化3]中のR
1からR
8は、第1発明の[化1]のR
1からR
8と同じである。
【0036】
化学式[化3]の正式名はジ(ベンゾ[c]チエノ)[5,4―b:5’,4’―f]チエノ[3,2―b]チオフェンであり、54DBT
3−cとする。
【0037】
化合物[化3]は[化1]と同様にアルデヒドに臭素などのハロゲンや塩化チオニル等の公知のハロゲン化剤と硫黄を作用させることで、54DBT
3−cを合成することができる。反応式を[化6]に示す。
[化6]
【0038】
続いて、第4発明は、第1発明から第3発明に記載の化学式[化1]、[化2]、[化3]のいずれかの有機半導体材料の複数を組み合わせて有機半導体層に使用する有機トランジスタである。
【0039】
化学式[化1]、[化2]、[化3]のいずれかの有機半導体材料の中から2種類の有機半導体材料を選択し組み合わせる、又は3種類のすべてを選択し組み合わせてなる有機トランジスタである。
【0040】
本発明の有機トランジスタを製作する際、有機半導体材料は、高純度化のために不純物の除去等の精製が必要になるが、本発明の化合物は、液体クロマトグラフィー法、昇華法、ゾーンメルティング法、ゲルパーミェーションクロマトグラフィー法、再結晶法などによって精製できる。
【0041】
また、本発明の有機トランジスタを製作する際、有機半導体材料は、主として薄膜の形態で用いられるが、その薄膜作製法として、ウェットプロセスとドライプロセスどちらを使用してもよい。本発明の化合物は、有機溶媒等への溶解させることにより、産業上メリットの大きいウェットプロセスに適応できる。
【0042】
ここで、有機溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、クロロベンゼン、シクロヘキサノール、トルエン、キシレン、ニトロベンゼン、メチルエチルケトン、ジグライム、テトラヒドロフランなど、これまで公知のものが使用できる。これらの溶媒は、一種類もしくは二種類以上の混合物を用いても良い。また、本発明の化合物を有機溶媒等へ溶解させる場合、温度や圧力に特に制限は無いが、溶解させる温度に関しては、0〜200℃の範囲が好ましく、さらに好ましくは、10〜150℃の範囲である。また、溶解させる圧力に関しては、0.1〜100MPaの範囲が好ましく、さらに好ましくは、0.1〜10MPaの範囲である。また、有機溶媒の代わりに、超臨界二酸化炭素のようなものを用いることも可能である。
【0043】
ここで言うウェットプロセスとは、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、スプレーコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、平板印刷法、凹版印刷法、凸版印刷法などを示しており、これら公知の方法が利用できる。
また、ここで言うドライプロセスとは、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法、レーザー蒸着法、分子線エピタキシャル成長法、気相輸送成長法などを示しており、これら公知の方法が利用できる。
【0044】
本発明の有機トランジスタには、電極が使用されるが、その導電性材料としては特に限定はなく、例えば、金、銅、銀、ニッケル、クロム、鉄、スズ、アルミニウム、インジウム、パラジウム、ゲルマニウム、カルシウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、マンガン、チタン、リチウム、亜鉛、タングステン、モリブデン、酸化スズ、酸化インジウム、銀ペースト、カーボンペースト、ITO、PEDOT/PSSなどが挙げられる。これらの電極は、一種類もしくは二種類以上の混合物を用いても良い。
【0045】
本発明の有機トランジスタには、ゲート絶縁膜が使用されるが、その絶縁膜としては特に限定はなく、ポリメチルメタクリレート、パリレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、シアノエチルプルラン、CYTOP
のような有機絶縁膜や、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどの無機絶縁膜を用いることができる。なお、CYTOPとは、アモルファス(非晶質)構造を有するフッ素樹脂で、透明性があり、コーティング剤、絶縁膜等に使用される。
【0046】
本発明のトランジスタにおいて、有機半導体層は、ドーピング処理を施されていてもよい。ドーパントとしては、ドナー性のドーパントとアクセプター性のドーパントを用いることができる。ドナー性のドーパントとしては、有機半導体に、電子を供与できる化合物であれば、好適に用いる事ができる。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属や、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属。イットリウム、ランタン、ユーロピウム、などの希土類金属。テトラアルキルアンモニウム、テトラアルキルホスホニウムなどのカチオンが挙げられる。
【0047】
アクセプター性のドーパントとしては、有機半導体から、電子を取り去ることができる化合物であれば好適に用いる事ができる。例えば、塩素、臭素、ヨウ素、塩化ヨウ素、臭化ヨウ素などのハロゲン化合物。五フッ化リン、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素などのルイス酸、フッ化水素、硫酸、硝酸などのプロトン酸、酢酸、ギ酸、アミノ酸などの有機酸。三塩化鉄、四塩化チタン、四塩化ジルコニウム、五フッ化タングステン、六塩化タングステンなどの遷移金属化合物塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、スルホン酸アニオンなどの電解質アニオンなどが挙げられる。
【0048】
また、本発明の有機トランジスタは、物理的損傷から保護するために、有機トランジスタの全面あるいは一部に保護層を設けることもできる。保護層を形成する材料としては、特に限定はなく、ポリメチルメタクリレート、パリレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルフェノール、ポリビニルアルコール、ポリフッ化ビニリデン、シアノエチルプルラン、CYTOPのような有機化合物や、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化タンタル、酸化チタン、酸化スズ、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウムなどの無機化合物を用いることができる。
【0049】
本発明の有機トランジスタの使用例を、
図1及び
図2に示す。
図1、
図2では、電界効果型トランジスタ(以下FETとする)での使用例を挙げている。FETはその特徴から、スイッチング素子や増幅素子として利用される。ゲート電流が低いことに加え、構造が平面的であるため、ウェットプロセスによる作製や集積化が容易であり大面積化を可能とする。ここでは、本発明に使用する化合物は、主にp型半導体として利用されているが、置換基、溶剤によってn型半導体として機能する場合もある。