(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るチルト・トリム装置1が適用される船外機5の概略構成図である。
船舶推進機の一例である船外機5は、船舶の船体2に対して推進力を発生する船外機本体5aと、船体2に対する船外機本体5aの傾斜角度θを調整するチルト・トリム装置1とを備えている。
【0009】
<船外機本体5aの概略構成>
船舶推進機本体の一例である船外機本体5aは、クランク軸(不図示)の軸方向が水面に対して垂直方向(
図1では上下方向)に向くように置かれたエンジン(不図示)と、そのクランク軸の下端に回転一体に連結されて鉛直下方に延びるドライブ軸(不図示)とを有する。また、船外機本体5aは、このドライブ軸とべべルギヤ機構を介して連結されたプロペラ軸11と、このプロペラ軸11の後端に装着されたプロペラ12とを有する。
【0010】
また、船外機本体5aは、水面に対して垂直方向(
図1では上下方向)に設けられたスイベルシャフト(不図示)と、水面に対して水平方向に設けられた水平軸14と、スイベルシャフトが回動自在に収容されるスイベルケース15とを有している。スイベルケース15は、チルト・トリム装置1の後述するシリンダ装置50のピストンロッド53のピン孔53aとピン(不図示)により連結される。
【0011】
<チルト・トリム装置1の概略構成>
図2は、チルト・トリム装置1の外観図である。
図3は、チルト・トリム装置1の部分断面図である。
チルト・トリム装置1は、
図2、
図3に示すように、オイルの供給、排出によって伸縮するシリンダ装置50と、オイルを吐出するポンプ装置10と、ポンプ装置10を駆動するモータ70とを備えている。
【0012】
また、チルト・トリム装置1は、船外機本体5aのスイベルケース15を船体2に接続するスターンブラケット16(
図1参照)を備えている。スターンブラケット16は、後述するシリンダ51のピン孔51bとピン(不図示)により連結される。
【0013】
<シリンダ装置50>
シリンダ装置50は、
図3に示すように、軸心CL方向に延びたシリンダ51と、シリンダ51の内部に配置されて、シリンダ51の内部空間を第1室Y1と第2室Y2とに区画するピストン52とを備えている。また、シリンダ装置50は、ピストン52を軸心CL方向の一端部に保持して、ピストン52とともに、シリンダ51に対して軸心CL方向に移動するピストンロッド53を備えている。
以下では、シリンダ51の軸心CL方向における方向を示す場合には、
図3中下方を「下方」と称し、
図3中上方を「上方」と称する場合もある。
【0014】
シリンダ装置50は、第1室Y1にオイルが供給されると縮み、第2室Y2にオイルが供給されると伸びる。シリンダ装置50は、伸びる場合には第1室Y1からオイルを排出し、縮む場合には第2室Y2からオイルを排出する。
【0015】
シリンダ装置50は、シリンダ51の下方に突出部51aを有しており、突出部51aには、船外機本体5aのスターンブラケット16(
図1参照)に接続するためのピン(不図示)が挿入されるピン孔51bが形成されている。また、ピストンロッド53の上端には、船外機本体5aのスイベルケース15(
図1参照)に接続するためのピン(不図示)が挿入されるピン孔53aが形成されている。
【0016】
シリンダ51の下方に形成されたピン孔51bを介してシリンダ装置50がスターンブラケット16に連結され、ピストンロッド53に形成されたピン孔53aを介してシリンダ装置50がスイベルケース15に連結された状態で、シリンダ装置50が伸縮することで、スターンブラケット16とスイベルケース15との間の距離が変化する。そして、スターンブラケット16とスイベルケース15との間の距離が変化することで、船体2に対する船外機本体5aの傾斜角度θが変化する。
【0017】
<ポンプ装置10>
ポンプ装置10は、オイルを貯留するタンク180と、タンク180に配置されるとともにタンク180に貯留されたオイルを吐出するポンプ200とを備えている。
【0018】
<タンク180>
タンク180は、
図3に示すように、ハウジング181と、ハウジング181とモータ70とによって囲まれた空間であるタンク室182とを有している。
図示の例におけるハウジング181は、上方が開口した有底円筒状であり、シリンダ装置50のシリンダ51と一体的に形成されている。そして、シリンダ51とハウジング181との間には、後述する第1流路111および第2流路112を構成する孔(不図示)が形成されている。
【0019】
また、ハウジング181の上方には、
図3に示すように、上部の開口を液密に塞ぐようにモータ70が固定されている。モータ70は、駆動軸71がタンク室182に配置されたポンプ200に連結されており、回転駆動することによりポンプ200を回転駆動する。
【0020】
図4は、ポンプ装置10の油圧回路である。
<ポンプ200>
ポンプ200は、
図4に示すように、タンク180に貯留されたオイルを各々吐出する第1吐出部201aおよび第2吐出部201bを有する第1ポンプ201と、オイルを各々吐出する第3吐出部203aおよび第4吐出部203bを有する第2ポンプ203とを備えている。
【0021】
ポンプ200は、モータ70が正転すると、第1ポンプ201の第1吐出部201aおよび第2ポンプ203の第3吐出部203aからオイルを吐出する。他方、ポンプ200は、モータ70が逆転すると、第1ポンプ201の第2吐出部201bおよび第2ポンプ203の第4吐出部203bからオイルを吐出する。
【0022】
<ポンプ装置10の流路、弁の配置>
図4に示すように、ポンプ装置10は、シリンダ装置50の第1室Y1と第1ポンプ201の第1吐出部201aとを接続する第1流路111と、シリンダ装置50の第2室Y2と第1ポンプ201の第2吐出部201bとを接続する第2流路112とを備えている。
【0023】
また、ポンプ装置10は、シリンダ装置50の第1室Y1と第2ポンプ203の第3吐出部203aとを接続する第3流路113と、シリンダ装置50の第2室Y2と第2ポンプ203の第4吐出部203bとを接続する第4流路114とを備えている。
図示の例においては、第3流路113は、第1流路111を介してシリンダ装置50の第1室Y1に接続され、第4流路114は、第2流路112を介してシリンダ装置50の第2室Y2に接続されている。
【0024】
また、ポンプ装置10は、第3流路113に設けられ、第2ポンプ203の第3吐出部203aから第1流路111へのオイルの流れを許容するとともに第1流路111から第3吐出部203aへの流れを妨げる第1チェックバルブ131を備えている。
また、ポンプ装置10は、第4流路114に設けられ、第2ポンプ203の第4吐出部203bから第2流路112へのオイルの流れを許容するとともに第2流路112から第4吐出部203bへの流れを妨げる第2チェックバルブ132を備えている。
【0025】
また、ポンプ装置10は、第3流路113とタンク180とを接続し、タンク180に貯められたオイルを第3吐出部203aまで流通させる第1吸入路121を備えている。
また、ポンプ装置10は、第4流路114とタンク180とを接続し、タンク180に貯められたオイルを第4吐出部203bまで流通させる第2吸入路122とを備えている。
【0026】
また、ポンプ装置10は、第1吸入路121に設けられ、タンク180から第2ポンプ203の第3吐出部203aへのオイルの流れを許容するとともに第3吐出部203aからタンク180への流れを妨げる第3チェックバルブ133を備えている。
また、ポンプ装置10は、第2吸入路122に設けられ、タンク180から第2ポンプ203の第4吐出部203bへのオイルの流れを許容するとともに第4吐出部203bからタンク180への流れを妨げる第4チェックバルブ134を備えている。
【0027】
また、ポンプ装置10は、第1流路111から分岐してタンク180に接続される第5流路115と、第5流路115に設けられ、後述する第6流路116の圧力を受けて第5流路115を開放する第5流路開閉弁141とを備えている。
また、ポンプ装置10は、第2流路112から分岐してタンク180に接続される第6流路116と、第6流路116に設けられ、第5流路115の圧力を受けて第6流路116を開放する第6流路開閉弁142とを備えている。
【0028】
また、ポンプ装置10は、第1流路111から分岐してタンク180に接続される第7流路117と、第2流路112から分岐してタンク180に接続される第8流路118とを備えている。
【0029】
また、ポンプ装置10は、第7流路117に設けられ、第7流路117のオイルの圧力が予め設定された第7所定圧力よりも高い場合に開き、第1流路111のオイルを、第7流路117を介してタンクに逃がす第7流路開閉弁143を備えている。
また、ポンプ装置10は、第8流路118に設けられ、第8流路118のオイルの圧力が予め設定された第8所定圧力よりも高い場合に開き、第2流路112のオイルを、第8流路118を介してタンクに逃がす第8流路開閉弁144を備えている。
【0030】
また、ポンプ装置10は、第3流路113から分岐してタンク180に接続される第9流路119と、第9流路119に設けられ、第2流路112の圧力を受けて第9流路119を開放する第9流路開閉弁145とを備えている。
また、ポンプ装置10は、第4流路114から分岐してタンク180に接続される第10流路120と、第10流路120に設けられ、第10流路120のオイルの圧力が予め設定された第10所定圧力よりも高い場合に開き、第10流路120のオイルをタンク180に逃がす第10流路開閉弁146とを備えている。
【0031】
また、ポンプ装置10は、第1流路111と第2流路112とに接続されて、オイルの吐出と戻りとを切り替える切替弁150を備えている。
切替弁150は、第1流路111上に設けられた第1開閉弁160と第2流路112上に設けられた第2開閉弁170とを備えている。
また、切替弁150には、第1開閉弁160と第2開閉弁170とを連通する連通路151が形成されている。
【0032】
<ポンプ200>
図5はポンプ200の外観を示す図である。
図6はポンプ200の分解斜視図である。
ポンプ200は、
図5に示すように、ポンプケーシング210と、第1駆動ギア211および第1従動ギア213を有する第1ポンプ201と、第2駆動ギア251および第2従動ギア253を有する第2ポンプ203とを備える。
【0033】
また、ポンプ200は、第1駆動ギア211および第2駆動ギア251を駆動させる駆動シャフト207と、第1従動ギア213および第2従動ギア253を支持する支持ピン209とを備える。
さらに、ポンプ200は、駆動シャフト207に対して各々第1駆動ギア211および第2駆動ギア251を固定する第1固定片281および第2固定片283(
図6参照)と、上述の第1チェックバルブ131乃至第4チェックバルブ134(
図6参照)とを備える。
【0034】
<ポンプケーシング210>
図7は
図5のVII−VIIの断面図である。
次に、
図6および
図7を参照しながら、ポンプケーシング210について説明をする。
筺体の一例であるポンプケーシング210は、
図6に示すように、図中下側から上側に向かって第1ケーシング215、第2ケーシング217、第3ケーシング219がこの順序で重ねられ、いわゆる三体構造となっている。なお、図示のポンプケーシング210は、図示しないボルトによって、ハウジング181(
図2参照)に固定される。
【0035】
第1ケーシング215には、第1ポンプ201が収容される第1ポンプ室215aと、第1ポンプ室215aと連続する第1溝215bと、第1溝215bと対向する位置で第1ポンプ室215aと連続する第2溝215cとが形成されている。なお、
図7に示すように、第1溝215bは第1流路111の一部を構成し、第2溝215cは第2流路112の一部を構成する。
【0036】
また、第1ケーシング215には、
図7に示すように、第1流路111の一部を構成する第1貫通孔215dと、第2流路112の一部を構成する第2貫通孔215eと、第9流路119の一部を構成する第3貫通孔215fと、第10流路120の一部を構成する第4貫通孔215gとが形成されている。これらの第1貫通孔215d乃至第4貫通孔215gは、第1ケーシング215の厚さ方向に貫通して形成されている。
【0037】
さらに、第1ケーシング215には、
図6に示すように、駆動シャフト207が挿入される第1支持孔215hと、支持ピン209が挿入される第2支持孔215iとが形成されている。これらの第1支持孔215hおよび第2支持孔215iは、第1ケーシング215の厚さ方向に貫通して形成されている。
【0038】
第2ケーシング217には、第2ポンプ203が収容される第2ポンプ室217aと、第2ポンプ室217aと連続する第3溝217bと、第3溝217bと対向する位置で第2ポンプ室217aと連続する第4溝217cとが形成されている。なお、
図7に示すように、第3溝217bは第9流路119の一部を構成し、第4溝217cは第10流路120の一部を構成する。
【0039】
また、第2ケーシング217には、
図7に示すように、第9流路119の一部を構成する第5貫通孔217dと、第10流路120の一部を構成する第6貫通孔217eと、第3流路113の一部を構成し第1チェックバルブ131を収容する第1チェックバルブ室217fと、第4流路114の一部を構成し第2チェックバルブ132を収容する第2チェックバルブ室217gとが形成されている。これらの第5貫通孔217d、第6貫通孔217e、第1チェックバルブ室217fおよび第2チェックバルブ室217gは、第2ケーシング217の厚さ方向に貫通して形成されている。
【0040】
さらに、第2ケーシング217には、
図6に示すように、駆動シャフト207が挿入される第3支持孔217hと、支持ピン209が挿入される第4支持孔217iとが形成されている。これらの第3支持孔217hおよび第4支持孔217iは、第2ケーシング217の厚さ方向に貫通して形成されている。
【0041】
第3ケーシング219には、
図7に示すように、第1吸入路121の一部を構成し第3チェックバルブ133を収容する第3チェックバルブ室219aと、第2吸入路122の一部を構成し第4チェックバルブ134を収容する第4チェックバルブ室219bとが形成されている。これらの第3チェックバルブ室219aおよび第4チェックバルブ室219bは、第3ケーシング219の厚さ方向に貫通して形成されている。
【0042】
また、第3ケーシング219には、
図6に示すように、駆動シャフト207が挿入される第5支持孔219cと、支持ピン209が挿入される第6支持孔219dとが形成されている。これらの第5支持孔219cおよび第6支持孔219dは、第3ケーシング219の厚さ方向に貫通して形成されている。
【0043】
<第1ポンプ201および第2ポンプ203>
次に、
図6を参照しながら、第1ポンプ201および第2ポンプ203について説明をする。
上述のように、第1ポンプ201は、第1駆動ギア211および第1従動ギア213を備える。また、第2ポンプ203は、第2駆動ギア251および第2従動ギア253を備える。なお、第1ポンプ201は第1ギア対の一例であり、第2ポンプ204は第2ギア対の一例である。
【0044】
これらの第1駆動ギア211、第1従動ギア213、第2駆動ギア251および第2従動ギア253は、互いに対応する(同一)形状である。すなわち、第1駆動ギア211、第1従動ギア213、第2駆動ギア251および第2従動ギア253は、単一構造のギアとして共通化し得る。
【0045】
各々に説明をすると、まず第1駆動ギア211および第2駆動ギア251は、駆動シャフト207が挿入される貫通孔211a、251aと、第1駆動ギア211および第2駆動ギア251各々の片側面に形成され径方向に延びる固定溝211b、251bとを備える。図示の例においては、固定溝211b、251bは、貫通孔211a、251aを径方向に跨いで延びる。
また、第1従動ギア213および第2従動ギア253は、支持ピン209が挿入される貫通孔213a、253aと、第1従動ギア213および第2従動ギア253各々の片側面に形成され径方向に延びる固定溝213b、253bとを備える。図示の例においては、溝の一例である固定溝213b、253bは、貫通孔213a、253aを径方向に跨いで延びる。
【0046】
ここで、第1駆動ギア211、第1従動ギア213、第2駆動ギア251および第2従動ギア253は、同一の歯数であり、歯の形状も互いに一致する。これらの第1駆動ギア211、第1従動ギア213、第2駆動ギア251および第2従動ギア253は、耐摩耗性が高い金属や樹脂などにより形成され、例えば焼結金属により形成される。
【0047】
<駆動シャフト207>
次に、
図6を参照しながら、駆動シャフト207について説明をする。
シャフトの一例である駆動シャフト207は、略円柱状の部材である。この駆動シャフト207は、軸方向端部の外周面に形成されモータ70(
図2参照)と連結される平坦面207aと、駆動シャフト207の径方向に貫通するシャフト孔207b,207cとが形成されている。
【0048】
この駆動シャフト207の長さは、ポンプケーシング210を貫通して配置された際に、第1ケーシング215、第2ケーシング217、第3ケーシング219に跨って延び、かつ平坦面207aがポンプケーシング210から突出する長さである。また、駆動シャフト207の外径は、第1駆動ギア211の貫通孔211aおよび第2駆動ギア251の貫通孔251aに挿入可能な寸法である。
【0049】
ここで、シャフト孔207b,207cは、駆動シャフト207の軸方向において互いに異なる位置に形成される。また、シャフト孔207b,207cは、互いの向きが異なる。具体的には、シャフト孔207b,207cは、駆動シャフト207の中心軸と直交する面において、この中心軸に対する角度が互いに異なり、図示の例においては45度異なる。
【0050】
<支持ピン209>
次に、
図6を参照しながら、支持ピン209について説明をする。
支持ピン209は、略円柱状の部材である。
この支持ピン209の長さは、ポンプケーシング210を貫通して配置された際に、第1ケーシング215、第2ケーシング217、第3ケーシング219に跨って延びる長さである。さらに説明をすると、図示の例においては、支持ピン209は、ポンプケーシング210を貫通して配置された際に、ポンプケーシング210内に収まる長さである。
【0051】
また、支持ピン209の外径は、第1従動ギア213の貫通孔213a、および第2従動ギア253の貫通孔253aに挿入可能な寸法である。図示の例においては、支持ピン209の外径は、駆動シャフト207の外径よりも小径である。
なお、駆動シャフト207と異なり、図示の支持ピン209には、シャフト孔207b,207cが形成されていない。
【0052】
<第1固定片281および第2固定片283>
次に、
図6を参照しながら、第1固定片281および第2固定片283について説明をする。
第1固定片281および第2固定片283は、長尺状の部材であり、図示の例では略円柱状である。この第1固定片281および第2固定片283は、駆動シャフト207のシャフト孔207b,207cに挿入可能な寸法である。また、第1固定片281および第2固定片283は、シャフト孔207b,207cに挿入された状態で、駆動シャフト207を貫通して両端が突出するとともに、固定溝211b、251bに収容される長さである。
【0053】
<各構成部材の配置および動作>
図8は
図5のVIII−VIIIの断面図である。
次に、
図6乃至
図8を参照しながら、組み上げられたポンプ200における各構成部材の配置及び動作について説明をする。
まず、駆動シャフト207に関する配置および動作を説明する。
駆動シャフト207は、ポンプケーシング210を貫通して設けられる。この駆動シャフト207は、第1ケーシング215、第2ケーシング217、および第3ケーシング219によって回転可能に支持される。そして、駆動シャフト207の平坦面207aは、第1ケーシング215から突出し、かつモータ70(
図2参照)に連結される。
【0054】
また、駆動シャフト207は、第1駆動ギア211および第2駆動ギア251を貫通する。言い替えると、これらの第1駆動ギア211および第2駆動ギア251は、同軸に配置される。
また、駆動シャフト207のシャフト孔207b,207cには、第1固定片281および第2固定片283が貫通して設けられる。そして、このシャフト孔207b,207cに挿入された第1固定片281および第2固定片283は、駆動シャフト207の外周面から突出するとともに、第1駆動ギア211の固定溝211b、および第2駆動ギア251の固定溝251b内に配置される。これらの第1固定片281および第2固定片283は、第1駆動ギア211および第2駆動ギア251と、駆動シャフト207との相対位置がずれることを抑制する。
上記の配置により、モータ70の駆動を受けた駆動シャフト207が回転すると、第1駆動ギア211および第2駆動ギア251が駆動シャフト207とともに回転する。
【0055】
次に、支持ピン209に関する配置および動作を説明する。
支持ピン209は、ポンプケーシング210を貫通して設けられる。この支持ピン209は、第1ケーシング215、第2ケーシング217、および第3ケーシング219によって固定される。すなわち、支持ピン209は、ポンプケーシング210によって支持され、かつ支持ピン209が周方向および軸方向における移動が制限された状態である。さらに説明をすると、支持ピン209は、第1ケーシング215、第2ケーシング217、および第3ケーシング219の各々に嵌め合わせられた状態、より具体的には圧入された状態である。
【0056】
また、支持ピン209は、第1従動ギア213および第2従動ギア253を貫通する。言い替えると、これらの第1従動ギア213および第2従動ギア253は、同軸に配置される。この第1従動ギア213および第2従動ギア253は、支持ピン209の外周を回転可能な状態である。さらに、第1従動ギア213および第2従動ギア253は、第1駆動ギア211および第2駆動ギア251と噛み合わせて配置される。
【0057】
上記の配置により、モータ70の駆動を受けた第1駆動ギア211および第2駆動ギア251が回転すると、第1従動ギア213および第2従動ギア253が支持ピン209の外周を回転する。付言すると、駆動シャフト207と異なり、第1従動ギア213および第2従動ギア253は、支持ピン209とともに回転せず、固定された支持ピン209の外周を回転する。
【0058】
さて、上記のように、第1従動ギア213および第2従動ギア253には、固定溝213b、253bが形成されている。この固定溝213b、253bは、各々の内部にオイルが進入することにより、油溜まりとして機能する。
具体的には、第1従動ギア213においては、固定溝213b内にオイルが進入する。このオイルが、第1従動ギア213の貫通孔213aの内周面と、支持ピン209の外周面との間に進入する。一方、第2従動ギア253においては、固定溝253b内のオイルが、第2従動ギア253の貫通孔253aの内周面と、支持ピン209の外周面との間に進入する。このことにより、支持ピン209の外周を回転する第1従動ギア213および第2従動ギア253の摺動性が向上する。
【0059】
また、上記のように、支持ピン209は、第1ケーシング215、第2ケーシング217、および第3ケーシング219の各々に嵌め合わせられた状態である。すなわち、支持ピン209によって、第1ケーシング215、第2ケーシング217、および第3ケーシング219の各々との相対位置が定められる。
【0060】
したがって、ポンプ200の組み上げ作業において、支持ピン209を位置決め部材として利用することが可能である。例えば、支持ピン209を第1ケーシング215に嵌め合わせた後に、この支持ピン209に対して、第2ケーシング217や第3ケーシング219などを組み付けることで、例えば第1ケーシング215、第2ケーシング217や第3ケーシング219同士の相対位置がずれることが抑制される。
【0061】
なお、図示の例における締結部材311、313、315、317(
図6参照)は、第1ケーシング215、第2ケーシング217および第3ケーシング219を締結する機能を果たすものである。
【0062】
ここで、上記本実施の形態と、本実施の形態とは異なる構成を採用した場合と比較について説明をする。
すなわち、上記本実施の形態とは異なり、支持ピン209が第1従動ギア213および第2従動ギアとともに回転する構成を採用した場合には、支持ピン209は、第1ケーシング215、第2ケーシング217、および第3ケーシング219によって回転可能に支持されることとなる。
【0063】
この場合、支持ピン209の焼き付きを防止するべく、支持ピン209に加えられる面圧を低減させることが必要となる。そして、この面圧を低減させるには、支持ピン209が第1ケーシング215などによって支持されている部分における支持ピン209の軸方向長さを長くすることや、支持ピン209を受ける軸受を追加するなど、ポンプ200の寸法が大きくなる構成を採用することが必要となる。
【0064】
一方で、本実施の形態においては、支持ピン209が第1ケーシング215などに固定される構成であることから、上記のようにポンプ200の寸法を大きくする構成の必要性が低減される。付言すると、本実施の形態においては、例えば第1従動ギア213および第2従動ギア253に固定溝213b、253bが形成されていることから、軸受を用いることなく、支持ピン209における潤滑性が確保され得る。
【0065】
<オイルの流れ>
図9(a)および(b)は、ポンプ200におけるオイルの流れを説明する図である。具体的には、
図9(a)は第2ポンプ203におけるオイルの流れを示し、
図9(b)は第1ポンプ201におけるオイルの流れを示す。
【0066】
次に、
図9(a)および(b)を参照しながら、ポンプ200におけるオイルの流れを説明する。ここで、
図9(a)および(b)においては、駆動シャフト207が図中反時計周り回転する場合を説明する。さらに説明をすると、
図9(a)においては、第2駆動ギア251が反時計回り、第2従動ギア253が時計周りに回転する。また、
図9(b)においては、第1駆動ギア211が反時計回り、第1従動ギア213が時計周りに回転する。
【0067】
まず、
図9(a)を参照しながら、第2ポンプ203について説明をする。駆動シャフト207の駆動を受けた第2駆動ギア251および第2従動ギア253が回転すると、オイルが、第2吸入路122(
図4参照)から、第2ポンプ203を経て、第3流路113へと向かう向き(図中白矢印参照)にオイルが流れる。
【0068】
具体的には、第2駆動ギア251においては、第2吸入路122(
図4参照)から流入してきたオイルは、第2駆動ギア251と第2従動ギア253とが噛み合いオイルが閉じ込められる閉じ込み領域R1から、閉じ込み領域R1とは駆動シャフト207を挟んで反対側の外側領域R2を経て、第3溝217b(第3流路113)に吐出される吐出領域R3を通過する。付言すると、吐出領域R3は、第2駆動ギア251が回転することにともない、第2駆動ギア251と第2ポンプ室217aの内周面217jとの間で密閉されたオイルが開放される位置である。
【0069】
同様に、第2従動ギア253においては、第4流路114(
図4参照)から流入してきたオイルは、閉じ込み領域R1から、閉じ込み領域R1とは支持ピン209を挟んで反対側の外側領域R4を経て、第3溝217b(第3流路113)に吐出される吐出領域R5を通過する。付言すると、吐出領域R5は、第2従動ギア253が回転することにともない、第2従動ギア253と第2ポンプ室217aの内周面217jとの間で密閉されたオイルが開放される位置である。
付言すると、第2駆動ギア251および第2従動ギア253によって搬送されたオイルは、吐出領域R3、R5にて流路の一例である第3溝217b(第3流路113)と合流する。
【0070】
次に、
図9(b)を参照しながら、第1ポンプ201について説明をする。駆動シャフト207の駆動を受け、第1駆動ギア211および第1従動ギア213が回転すると、オイルが、第4流路114(
図4参照)から、第1ポンプ201を経て、第1流路111へと向かう向き(図中白矢印参照)にオイルが流れる。
【0071】
上述の第2ポンプ203と同様であるので詳細な説明は省略するが、第1駆動ギア211の周辺においては、オイルは、閉じ込み領域R6から、外側領域R7を経て、吐出領域R8を通過する。また、第1従動ギア213の周辺においては、オイルは、閉じ込み領域R6から、外側領域R9を経て、吐出領域R10を通過する。
【0072】
なお、吐出領域R8は、第1駆動ギア211の回転にともない、第1駆動ギア211と第1ポンプ室215aの内周面215jとの間で密閉されたオイルが開放される位置である。また、吐出領域R10は、第1従動ギア213の回転にともない、第1従動ギア213と第1ポンプ室215aの内周面215jとの間で密閉されたオイルが開放される位置である。
【0073】
付言すると、第1駆動ギア211および第1従動ギア213によって搬送されたオイルは、吐出領域R8、R10にて第1溝215b(第1流路111)と合流する。また、第1駆動ギア211および第1従動ギア213と、第2駆動ギア251および第2従動ギア253とによって各々搬送されたオイルは、第1溝215b(第1流路111)にて合流する。
【0074】
<第1ポンプ201および第2ポンプ203の音>
図10は、第1ポンプ201および第2ポンプ203の位相を説明する表である。
図11は、第1ポンプ201および第2ポンプ203の回転にともない発生する音を説明する図である。さらに説明をすると、
図11における横軸は第1ポンプ201および第2ポンプ203におけるギアの回転量を示し、縦軸は発生する音量を示す。
次に、
図10および
図11を参照しながら、第1ポンプ201および第2ポンプ203を駆動することにともない生じる音について説明をする。
【0075】
まず、第1ポンプ201および第2ポンプ203を駆動させると、オイルの吐出脈動、ギアの噛み合わせによるオイルの閉じ込み、あるいはギアの摺動など種々の要因により、音が生じる。特に、図示の例のように、同一の駆動源としてモータ70を用いて、複数のポンプ(第1ポンプ201および第2ポンプ203)を用いる場合、オイルの吐出脈動およびオイルの閉じ込みのタイミングが一致し得るため、音が同調し大きくなることがある。
【0076】
そこで、本実施の形態においては、第1ポンプ201および第2ポンプ203の位相を互いにずらして構成されている。図示の例においては、第1駆動ギア211および第2駆動ギア251が、駆動シャフト207に対して固定される角度が、互いに異なる。このことにより、第1ポンプ201および第2ポンプ203を駆動させることにより生じる音が抑制される。
【0077】
さらに説明をすると、
図10に示すように、閉じ込み領域R1、R6において、第1駆動ギア211および第1従動ギア213が噛み合うタイミングと、第2駆動ギア251および第2従動ギア253が噛み合うタイミングとがずれる。例えば、第1ポンプ201において第1駆動ギア211および第1従動ギア213が噛み合っていない、すなわち「開」の状態であるタイミングでは、第2ポンプ203において第2駆動ギア251および第2従動ギア253が噛み合う、すなわち「閉」の状態である。
また、図示は省略するが、第1ポンプ201の閉じ込み領域R6が「閉」の状態であるタイミングでは、第2ポンプ203の閉じ込み領域R1が「開」の状態である。
【0078】
一方、吐出領域R5、R10において、第1従動ギア213および内周面215jによる密閉状態が開くタイミングと、第2従動ギア253および内周面217jによる密閉状態が開くタイミングとがずれる。言い替えると、第1ポンプ201から送り出されるオイルが第1溝215b(第1流路111)に合流するタイミングと、第2ポンプ203から送り出されるオイルが第3溝217b(第9流路119)に合流するタイミングとがずれる。
【0079】
例えば、
図10に示すように、第1ポンプ201において、第1従動ギア213および内周面215jが閉じている、すなわち「閉」の状態であるタイミングでは、第2ポンプ203において第2従動ギア253および内周面217jが開いている、すなわち「開」の状態であるタイミングである。
また、図示は省略するが、第1ポンプ201の吐出領域R10が「開」の状態であるタイミングでは、第2ポンプ203の吐出領域R5が「閉」の状態である。
【0080】
ここで、
図11を参照しながら、第1ポンプ201および第2ポンプ203の位相をずらすことによって発生する音について説明をする。なお、図示の例は、第1ポンプ201および第2ポンプ203のギア回転量の位相を、発生する音の半周期分ずらした態様である。
図11に示すように、第1ポンプ201および第2ポンプ203の位相をずらした構成において、第1ポンプ201および第2ポンプ203の各々から生じる音と、第1ポンプ201および第2ポンプ203の音の合成(図中「合成」参照)とを比較すると、合成された音の方が、最大音量が小さくなっている。すなわち、第1ポンプ201および第2ポンプ203の位相をずらすことにより、各々から発生する音が打ち消し合い、結果として合成された音が抑制されることが示されている。
【0081】
<変形例>
上記の説明においては、第1固定片281および第2固定片283を用いて、駆動シャフト207に対する第1駆動ギア211および第2駆動ギア251の固定位置を互いにずらすことを説明したが、これに限定されない。駆動シャフト207に第1駆動ギア211および第2駆動ギア251を装着することで、一義的に第1駆動ギア211および第2駆動ギア251の角度が定まる構成であれば、例えば駆動シャフト207の外周面の複数の位置に互いの角度が異なる平坦面を設ける構成であってもよい。
【0082】
また、上記の説明においては、第1ケーシング215、第2ケーシング217や第3ケーシング219の3層構造において、支持ピン209を位置決め部材として利用することを説明したが、これに限定されない。2層や4層以上の構造において支持ピン209を位置決め部材として利用してももちろんよい。
また、支持ピン209のみを位置決め部材として用いても、あるいは他の位置決め部材とともに支持ピン209を位置決め部材として用いてもよい。
【0083】
また、上記の説明においては、閉じ込み領域R1、R6の開閉タイミングと、吐出領域R5、R10の開閉タイミングとについて説明をした。この閉じ込み領域R1、R6の開閉タイミングと、吐出領域R5、R10の開閉タイミングとは、少なくともいずれか一方のタイミングがずれていればよい。また、閉じ込み領域R1、R6の開閉タイミングと、吐出領域R5、R10の開閉タイミングとは、一致してもよいし、互いにずれていてもよい。
【0084】
上記では種々の実施の形態および変形例を説明したが、これらの実施の形態および変形例同士を組み合わせて構成してももちろんよい。
また、本開示は上記の実施形態に何ら限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施することができる。