(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、水素ステーションに用いられる圧縮機の圧縮部を駆動する電動モータには、定トルク制御により駆動される、所謂定トルクモータの利用が検討されている。定トルクモータの出力特性は、
図6(a)に示されるように、所定の回転速度(以下、「基準速度」)以下となる標準回転領域において定格トルクが維持される。
【0007】
このように、水素ステーションの圧縮機の電動モータとして上記出力特性を有する定トルクモータを用いる場合、定トルクモータが基準速度を維持して圧縮部を駆動する方法がある。例えば低圧段側の圧縮機がこの駆動方法を採用する場合、この駆動方法では、中間蓄圧器内の圧力が高くなるにつれて圧縮部から吐出する水素の圧力(吐出圧力)が高くなり、吐出圧力が高くなるにつれて定トルクモータが必要とするトルクが大きくなる。このため、
図6(b)に示されるように、中間蓄圧器内の圧力が高くなるにつれて定トルクモータの動力が大きくなる。なお、
図6(b)では、中間蓄圧器に水素が十分に貯留されたときの圧力(設定圧力)に達するときに定トルクモータの動力が上限値に達する。
【0008】
しかし、
図6(b)の網掛け部分により示されるように、上述の駆動方法では、中間蓄圧器内の圧力が低い場合、すなわち圧縮部の吐出圧力が低い場合、定トルクモータの動力に余裕があり、定トルクモータの性能を十分に発揮していない。すなわち、圧縮部の吐出圧力に基づいて定トルクモータが必要とするトルクが定格トルクよりも小さい場合、定トルクモータの回転速度が基準速度であっても定トルクモータの動力はその上限値よりも小さい。また、定トルクモータが定格トルクで駆動していても定トルクモータの回転速度が基準速度未満の場合、定トルクモータの動力はその上限値よりも小さい。このように定トルクモータの利用方法において、なお改善の余地がある。
【0009】
本発明は、電動モータの動力を効率よく利用することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この課題を解決する圧縮機ユニットは、ガスを圧縮するとともに、圧縮されたガスを蓄圧器に貯留する圧縮部と、電動モータを駆動源とし、前記圧縮部を駆動する駆動部と、前記電動モータを制御する制御部と、を備え、前記電動モータは、定格トルクで回転可能な最高速度である基準速度以下の回転領域である標準回転領域において回転速度の変化に対して前記定格トルクを維持可能であり、前記標準回転領域と連続し、かつ前記基準速度よりも高い回転領域である過速度領域においては、前記電動モータの回転速度が高くなるにつれて出力トルクが前記定格トルクから減少する出力特性を有し、前記制御部は、前記圧縮部が前記蓄圧器内の圧力が所定圧となるまでガスを貯留する貯留過程の少なくとも一部において、前記過速度領域で前記電動モータを駆動させる過速度運転制御を実行することを特徴とする。
【0011】
本圧縮機ユニットによれば、電動モータを過速度領域で駆動させるため、電動モータが駆動可能な動力の範囲内において、電動モータを基準速度で駆動させる場合よりも使用する動力範囲を広げることができる。例えば、蓄圧器内の圧力が低い状態において、電動モータを基準速度で駆動させる場合の動力と比較して、電動モータを過速度領域内の回転速度で駆動させる場合の動力が大きくなる。このように、電動モータを基準速度で駆動させる場合には使用されない大きさの動力で電動モータが駆動するため、電動モータの動力を効率よく利用することができる。
【0012】
また、圧縮機ユニットにおいては、前記制御部は、前記過速度運転制御が実行される少なくとも一部の期間において、前記蓄圧器内の圧力が増大するに従って前記電動モータの回転速度を低下させる速度変更制御を実行することが好ましい。
【0013】
蓄圧器内の圧力が増大するに従って電動モータが必要とするトルクが大きくなる。この点、本圧縮機ユニットによれば、過速度運転制御が実行される少なくとも一部の期間において、蓄圧器内の圧力が増大するに従って電動モータの回転速度を低くするため、蓄圧器内の圧力が増大しても、電動モータが駆動可能な動力の範囲内において電動モータを過速度領域で駆動させることができる。したがって、電動モータを過速度領域で駆動させる頻度が高くなる。
【0014】
また、圧縮機ユニットにおいては、前記制御部は、前記速度変更制御を実行する前に、前記過速度領域における最高速度で前記電動モータを駆動する制御を実行することが好ましい。
【0015】
本圧縮機ユニットによれば、電動モータの過速度領域における最高速度が維持できる環境では電動モータをその最高速度で駆動させるため、電動モータを過速度領域における最高速度未満で駆動させる場合よりも電動モータの動力が大きくなるとともに、貯留過程の時間を短縮することができる。
【0016】
また、圧縮機ユニットにおいては、前記制御部は、前記蓄圧器内の圧力が閾値以上となると、前記過速度運転制御から前記基準速度よりも低速にて前記電動モータを駆動させる低速運転制御に切り替えることが好ましい。
【0017】
本圧縮機ユニットによれば、電動モータとして動力の小さいモータを使用した場合であっても、動力の大きいモータと同等の処理量を確保することができる。また、動力の小さいモータを使用することにより、圧縮機ユニットの小型化および低コスト化を図ることができる。なお、圧縮部を駆動する電動モータの駆動に必要なトルクは蓄圧器内の圧力の増大にともない増大する。ここでの閾値は、電動モータの駆動に必要なトルクが電動モータの定格トルクに達するときの蓄圧器内の圧力をいう。
【0018】
また、圧縮機ユニットにおいては、前記制御部は、前記貯留過程の全期間において前記過速度運転制御を実行することが好ましい。
【0019】
本圧縮機ユニットによれば、電動モータを基準速度で駆動させる場合と比較して、電動モータの回転速度が高くなるため、蓄圧器内の圧力が同じであれば、電動モータを基準速度で駆動させる場合よりも動力が大きくなるとともに、貯留過程の時間を短縮することができる。
【0020】
この課題を解決するガス供給装置は、タンク搭載装置へガスを充填する充填設備に前記ガスの供給を行い、上記圧縮機ユニットと、前記圧縮機ユニットから吐出されたガスを貯留する前記蓄圧器と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本ガス供給装置によれば、上記圧縮機ユニットの効果と同様の効果を得ることができる。
【0022】
また、ガス供給装置においては、前記蓄圧器から前記充填設備に流入する直前、または、流入した後のガスを冷却するプレクールシステムを備えることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
上記発明によれば、電動モータの動力を効率よく利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
圧縮機ユニットを備えるガス供給装置の第1実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、ガス供給装置10を備える水素ステーション1の構成を示している。なお、以下の
図2〜
図4を用いた説明において、符号が付された水素ステーション1の各構成要素は、
図1の水素ステーション1の各構成要素を示す。
【0026】
図1に示すように、水素ステーション1は、タンク搭載装置として例えば燃料電池自動車である車両100に水素ガスを充填する設備である。水素ステーション1は、車両100に水素ガスを充填するための充填設備の一例であるディスペンサ2と、ディスペンサ2に水素ガスを供給するためのガス供給装置10とを備える。
【0027】
ガス供給装置10は、圧縮機ユニット30、ガス冷却部11、および蓄圧器ユニット40がガス流路20により接続されて、各機器に水素ガスが流通可能なように構成されている。また、ガス供給装置10は、ディスペンサ2に流入した水素ガスを冷却するプレクールシステム50を備える。ガス流路20は、圧縮機ユニット30が蓄圧器ユニット40に水素ガスを供給する第1流路21と、蓄圧器ユニット40からディスペンサ2に水素ガスを供給する第2流路22とを有する。
【0028】
圧縮機ユニット30には、図示しない水素タンクから低圧(例えば、0.6MPa)の水素ガスが供給される。圧縮機ユニット30は、シリンダおよびピストン(ともに図示略)を有する圧縮部31と、圧縮部31のピストンの駆動源となる電動モータ33および電動モータ33の回転を減速させてピストンに伝達する減速機であるプーリ機構を有する駆動部32とを備える。圧縮機ユニット30は、電動モータ33の回転によりピストンがシリンダ内を往復駆動することにより、シリンダ内の水素ガスを圧縮し、第1流路21を通じてガス冷却部11に吐出する。なお、本実施形態では、圧縮部31は5段圧縮作用を行う。
【0029】
ガス冷却部11は、圧縮機ユニット30により圧縮されて高温となった水素ガスを冷却する。ガス冷却部11は、例えば冷却水が流通するマイクロチャンネル式熱交換器に水素ガスを流通させることにより水素ガスと冷却水との間で熱交換を行う。
【0030】
蓄圧器ユニット40には、ガス冷却部11により冷却された水素ガスが第1流路21を通じて供給される。蓄圧器ユニット40は、水素ガスを貯留する4個の蓄圧器41〜44を備える。蓄圧器41には、第1流路21が分岐して接続されている。分岐した第1流路21には、水素ガスの流通方向の上流側から下流側に向けて逆止弁45、流入側開閉弁41A、および圧力センサ41Cが設けられている。
【0031】
また蓄圧器ユニット40は、各蓄圧器41〜44に貯留された水素ガスを第2流路22を通じてディスペンサ2に供給可能である。分岐した第1流路21における圧力センサ41Cと流入側開閉弁41Aとの間には、第2流路22が分岐して接続されている。分岐した第2流路22には、水素ガスの流通方向の上流側から下流側に向けて流出側開閉弁41Bおよび逆止弁45が設けられている。なお、蓄圧器42〜44についても同様に、分岐した第1流路21のそれぞれに逆止弁45、流入側開閉弁42A,43A,44A、および圧力センサ42C,43C,44Cが設けられ、分岐した第2流路22のそれぞれに流出側開閉弁42B,43B,44B、および逆止弁45が設けられている。
【0032】
プレクールシステム50は、蓄圧器ユニット40から第2流路22を通じてディスペンサ2に供給された水素ガスを冷却する装置である。プレクールシステム50は、ディスペンサ2に供給された水素ガスとブラインとの間で熱交換を行うためのブライン回路51と、ブライン回路51を流通するブラインと冷媒との間で熱交換を行う冷凍機55とを備える。ブライン回路51は、ブライン流路52内のブラインを循環させるためのブラインポンプ53によりプレクール熱交換器54にブラインを流通させることにより、そのブラインと水素ガスとの間で熱交換を行う。そして水素ガスとの熱交換により加熱されたブラインは、冷凍機55の冷媒により冷却される。冷凍機55は、ブラインと熱交換することにより蒸発した冷媒が圧縮機により圧縮されてファンにより空冷されて凝縮された後、膨張弁により膨張されて再びブラインと熱交換される、いわゆるヒートポンプサイクルにより構成される。
【0033】
このような構成の水素ステーション1においては、まず、圧縮機ユニット30により圧縮された水素ガスがガス冷却部11により冷却された状態で蓄圧器41〜44に貯留される。
【0034】
そして、車両100が水素ステーション1に搬入されて車両100に水素ガスが充填される際には、所定の制御プログラムに基づいて蓄圧器41〜44のいずれかからディスペンサ2に水素ガスが供給されるとともに、ディスペンサ2が所定の充填プロトコルにしたがって車両100に水素ガスを充填する。
【0035】
またガス供給装置10は、水素ガスの流通を制御する制御部60を備える。制御部60は、CPU、ROM、RAMなどから構成され、ROMまたはRAMに記憶された制御プログラムに基づいて圧縮機ユニット30の電動モータ33、蓄圧器ユニット40の流入側開閉弁41A〜44A、流出側開閉弁41B〜44B、プレクールシステム50のブラインポンプ53、および冷凍機55の動作を制御する。また制御部60には、圧力センサ41C〜44Cが検出した分岐した第1流路21内の水素ガスの検出圧力が圧力信号として入力される。分岐した第1流路21内の水素ガスの圧力は、その分岐した第1流路21に接続された蓄圧器41〜44内の水素ガスの圧力と概ね等しい。このため、制御部60は、圧力センサ41C〜44Cが検出した分岐した第1流路21内の水素ガスの検出圧力を蓄圧器41〜44内の水素ガスの検出圧力として取り扱う。
【0036】
制御部60は、圧縮機ユニット30から蓄圧器ユニット40への水素ガスの供給および蓄圧器ユニット40からディスペンサ2への水素ガスの供給を制御するガス供給制御を実行する。ガス供給制御は、ディスペンサ2の充填プロトコル、および圧力センサ41C〜44Cの検出圧力に基づいて、蓄圧器ユニット40の流入側開閉弁41A〜44Aおよび流出側開閉弁41B〜44Bの動作を制御する流通制御と、圧力センサ41C〜44Cの検出圧力に基づいて電動モータ33の駆動を制御する運転制御とを含む。
【0037】
本実施形態の流通制御においては、ディスペンサ2を通じて車両100に水素ガスを供給し始めるとき、ディスペンサ2の充填プロトコルに基づいて、制御部60は、蓄圧器41〜44のうちの2つの蓄圧器41,42に対応する流出側開閉弁41B,42Bを開弁して水素ガスをディスペンサ2に供給する。このとき、蓄圧器41〜44の流入側開閉弁41A〜44Aは閉弁している。一方、制御部60は、蓄圧器41,42から水素ガスが供給されることにともない蓄圧器41,42内の圧力が低下して、その圧力が所定値以下となったときに流出側開閉弁41B,42Bを閉弁し、蓄圧器43の流出側開閉弁43Bを開弁させる。これにより、蓄圧器41,42からの水素ガスのディスペンサ2への供給が停止するとともに、蓄圧器43に貯留された水素ガスのディスペンサ2への供給が開始される。そして制御部60は、蓄圧器43から水素ガスが供給されることにともない蓄圧器43内の圧力が低下して、その圧力が所定値以下となったときに流出側開閉弁43Bを閉弁し、蓄圧器44の流出側開閉弁44Bを開弁させる。これにより、蓄圧器43からの水素ガスのディスペンサ2への供給が停止するとともに、蓄圧器44に貯留された水素ガスのディスペンサ2への供給が開始される。
【0038】
一方、流通制御において、ディスペンサ2から車両100への水素ガスの供給が終了した後、制御部60は、蓄圧器41〜44内の圧力(検出圧力)が所定値以下となった場合、流入側開閉弁41A〜44Aを開弁するとともに、圧縮機ユニット30を駆動させて圧縮した水素ガスを蓄圧器41〜44に供給する。運転制御は、この蓄圧器41〜44への水素ガスの供給の際の圧縮機ユニット30の電動モータ33の駆動を制御する。以下、運転制御の詳細について説明する。
【0039】
電動モータ33は、定トルク制御により制御される、所謂定トルクモータが用いられる。また本実施形態の電動モータ33は、
図6に示す従来の動力の大きい電動モータと比較して動力の小さいモータが用いられる。
【0040】
図2の実線のグラフに示すように、電動モータ33は、出力特性として、定格トルクで回転可能な最高速度である基準速度BN以下の回転領域である標準回転領域SRにおいて、回転速度の変化に対して定格トルクが維持可能である。また電動モータ33は、出力特性として、標準回転領域SRと連続し、基準速度BNよりも高い回転領域である過速度領域PRにおいて、回転速度が高くなるにつれて出力トルク(電動モータ33の動力が上限となるような値である第1上限値である状態において電動モータ33が出力可能な最大トルク)が低下する。
【0041】
また、電動モータ33の定格トルクは、従来の電動モータの定格トルク(
図2の二点鎖線)よりも小さい。また電動モータ33の過速度領域PRにおけるトルクは、従来の電動モータの過速度領域におけるトルク(
図2の二点鎖線)よりも小さい。一方、電動モータ33の標準回転領域SR、基準速度BN、過速度領域PRは、従来の電動モータの標準回転領域、基準速度、過速度領域と同じである。
【0042】
このような出力特性の電動モータ33において、制御部60は、運転制御において、動力を有効に用いるために電動モータ33の動力が第1上限値に維持される頻度が高くなるように電動モータ33を制御する。
【0043】
次に、上述の電動モータ33の制御について、
図3のグラフを用いて説明する。
【0044】
なお、以下の説明では、圧縮機ユニット30が蓄圧器41に水素ガスが貯留されていない状態から蓄圧器41が貯留上限となる状態まで水素ガスを供給する場合について説明する。また、蓄圧器41が貯留上限となる蓄圧器41内の圧力(所定圧)を設定圧力PCと称する。
【0045】
蓄圧器41内の圧力が低いとき、電動モータ33が必要とするトルクが小さい。このため、制御部60は、電動モータ33の動力が第1上限値未満の範囲内において、電動モータ33の回転速度を過速度領域PRで駆動する過速度運転制御を実行する。
図3のグラフでは、制御部60は、圧縮部31が蓄圧器41内の圧力が設定圧力PCとなるまでの水素ガスを貯留する貯留過程において、その貯留過程の一部である蓄圧器41内の圧力が閾値である第2圧力P2未満の範囲で過速度運転制御を実行可能である。ただし、閾値は、電動モータ33の駆動に必要なトルクが電動モータ33の定格トルクに達するときの蓄圧器41内の圧力をいう。
【0046】
特に、制御部60は、蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2未満の範囲内のうちのさらに低圧の領域において、電動モータ33の動力が第1上限値以下の範囲内において、最も高い回転速度で電動モータ33を駆動させることができる。すなわち制御部60は、過速度領域PRのうちの最高速度Nmaxで電動モータ33を駆動させる最高速度維持制御を実行する。
図3のグラフでは、制御部60は、蓄圧器41内の圧力が第1圧力P1(P1<P2)以下の範囲において最高速度維持制御を実行可能である。
【0047】
また、
図3のグラフに示すとおり、蓄圧器41内の圧力が第1圧力P1よりも大きくかつ第2圧力P2未満の範囲において、制御部60は、蓄圧器41内の圧力の上昇にともない電動モータ33の回転速度を低下させて、動力を第1上限値に維持させる速度変更制御を実行する。このように、過速度運転制御は、最高速度維持制御および速度変更制御を含む。
【0048】
また、
図3のグラフに示すように、蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2のとき、制御部60は、
図6に示す動力の大きい従来の電動モータと同様の制御である、電動モータ33の回転速度が基準速度BNとなるように電動モータ33を制御する通常運転制御を実行する。
【0049】
そして、
図3のグラフに示すように、蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2よりも大きくなるとき、制御部60は、電動モータ33を基準速度BNよりも低い回転速度で駆動させる低速運転制御を実行する。本実施形態の低速運転制御は、電動モータ33の動力を第1上限値に維持しつつ、蓄圧器41内の圧力が増大するに従って電動モータ33の回転速度を低下させる。この低速運転制御は、蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2から設定圧力PCまでの範囲において実行される。なお、上述のような電動モータ33の制御は、蓄圧器42〜44に水素ガスを供給する際も同様である。
【0050】
そして、制御部60は、上述のような運転制御の切り替えを
図4に示す運転制御のフローチャートに従って実行する。なお、運転制御は、蓄圧器41〜44に水素ガスを供給する期間にわたり繰り返し実行される。以下の説明において、蓄圧器41に水素ガスを供給する態様について説明するが、蓄圧器42〜44についても同様の処理手順により運転制御が実行される。
【0051】
まず制御部60は、ステップS11において電動モータ33が過速度領域PRで駆動可能か否かを判定する。すなわちステップS11は、制御部60が過速度運転制御を実行可能か否かを判定する。この判定は、例えば蓄圧器41内の圧力(検出圧力)が第2圧力P2未満か否かに基づいて行われる。詳細には、制御部60は、検出圧力が第2圧力P2以上のとき、電動モータ33が過速度領域PRで駆動不能と判定し、検出圧力が第2圧力P2未満のとき、電動モータ33が過速度領域PRで駆動可能と判定する。
【0052】
ここで、制御部60は、電動モータ33が過速度領域PRで駆動可能と判定したとき(ステップS11:YES)、すなわち過速度運転制御が実行可能と判定したとき、ステップS12において電動モータ33が過速度領域PRのうちの最高速度Nmaxで駆動可能か否かを判定する。この判定は、例えば蓄圧器41内の圧力(検出圧力)が第1圧力P1以下か否かに基づいて行われる。詳細には、制御部60は、検出圧力が第1圧力P1よりも大きいとき、電動モータ33が最高速度Nmaxで駆動不能と判定し、検出圧力が第1圧力P1以下のとき、電動モータ33が最高速度Nmaxで駆動可能と判定する。
【0053】
そして制御部60は、電動モータ33が最高速度Nmaxで駆動可能と判定したとき(ステップS12:YES)、ステップS22において最高速度維持制御を実行する。一方、制御部60は、電動モータ33が最高速度Nmaxで駆動不能と判定したとき(ステップS12:NO)、ステップS21において速度変更制御を実行する。
【0054】
また、制御部60は、ステップS11において電動モータ33が過速度領域PRで駆動不能と判定したとき(ステップS11:NO)、すなわち過速度運転制御が実行不能と判定したとき、ステップS13において電動モータ33が基準速度BNを維持可能か否かを判定する。
【0055】
ここで、制御部60は、電動モータ33が基準速度BNを維持可能と判定したとき(ステップS13:YES)、ステップS23において通常運転制御を実行する。一方、制御部60は、電動モータ33が基準速度BNを維持不能と判定したとき(ステップS13:NO)、ステップS24において低速運転制御を実行する。
【0056】
次に、本実施形態のガス供給装置10の作用効果について
図3を用いて説明する。
【0057】
圧縮機ユニット30が水素ガスを圧縮し、蓄圧器41に吐出する処理量は、電動モータ33の回転速度に比例する。すなわち電動モータ33の回転速度が高くなるにつれて圧縮機ユニット30の水素ガスの処理量が増加する。
【0058】
蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2未満において、すなわち蓄圧器41内の圧力が低い状態において、制御部60は過速度運転制御を実行するため、電動モータ33が基準速度BNよりも高い回転速度で駆動する。このため、圧縮機ユニット30の水素ガスの処理量は、電動モータ33が基準速度BNのときの処理量よりも多くなる。このため、
図3の左側の網掛け部分により示すように、蓄圧器41内の圧力が低い状態では、従来の電動モータのように基準速度で一定回転させる場合と比較して、水素ガスの処理量が多くなる。
【0059】
特に、蓄圧器41内の圧力が第1圧力P1以下においては、制御部60が最高速度維持制御を実行することにより、電動モータ33が過速度領域PRのうちの最高速度Nmaxで駆動し続けるため、圧縮機ユニット30の水素ガスの処理量がより多くなる。
【0060】
そして、蓄圧器41内の圧力が第1圧力P1よりも大きくかつ第2圧力P2未満の範囲においては、制御部60が速度変更制御を実行するため、動力が第1上限値に維持可能な範囲において電動モータ33の回転速度が最も高くなるように電動モータ33が駆動する。このため、電動モータ33の動力の範囲内において、圧縮機ユニット30の水素ガスの処理量が上限値となる。
【0061】
また、蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2の場合、制御部60は通常運転制御を実行するため、電動モータ33が基準速度BNで駆動する。
【0062】
一方、蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2よりも大きい場合、電動モータ33の動力が定格トルクを維持可能な回転速度として基準速度BNよりも低い範囲となるため、制御部60は低速運転制御を実行する。このため、蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2よりも大きい場合では、圧縮機ユニット30の水素ガスの処理量は、従来の動力の大きい電動モータを用いた場合よりも少なくなる。
【0063】
しかし、本実施形態では、蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2未満における水素ガスの処理量の増加分(
図3の左側の網掛け部分の面積)と、蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2よりも大きい範囲における水素ガスの処理量の減少分(
図3の右側の網掛け部分の面積)とが概ね等しくなるように設定される。このため、圧縮機ユニット30により蓄圧器41内の圧力が設定圧力PCとなるように水素ガスが貯留されるまでの時間は、従来の動力の大きい電動モータを用いた場合と概ね等しくなる。なお、以上では、蓄圧器41についての作用効果を説明したが、蓄圧器42〜44についても同様の作用効果を奏する。
【0064】
このように、電動モータ33の動力が従来の電動モータの動力よりも小さくても、水素ガスの処理量が少なくなることが抑制される。したがって、電動モータ33が従来の電動モータよりも小型化することができるため、ガス供給装置10の小型化を図ることができる。加えて、電動モータ33の小型化により材料費が低減するため、電動モータ33を従来の電動モータよりも安価に製造することができる。したがって、ガス供給装置10のコスト低減を図ることができる。
【0065】
本実施形態のガス供給装置10によれば、以下に示す効果が得られる。
【0066】
(1)制御部60は、蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2未満の範囲において、過速度運転制御を実行する。これにより、電動モータ33を基準速度BNで一定駆動させる場合と比較して、電動モータ33を過速度領域PRで駆動させるため、電動モータ33の動力が大きくなる。すなわち、電動モータ33を基準速度BNで一定駆動させて蓄圧器41内の圧力が設定圧力PCになるまで水素ガスを供給する場合と比較して、電動モータ33が駆動可能な動力の範囲内において、電動モータ33が使用する動力範囲を広げることができる。このため、電動モータ33の動力を効率よく利用することができる。なお、圧縮機ユニット30が蓄圧器42〜44に水素ガスを供給するときも同様の効果が得られる。
【0067】
(2)蓄圧器41の圧力が増大するに従って電動モータ33が必要とするトルクが大きくなる。そこで、制御部60は、蓄圧器41内の圧力が第1圧力P1よりも大きくかつ第2圧力P2未満の範囲において、速度変更制御を実行する。これにより、過速度運転制御が実行可能な期間において、蓄圧器41内の圧力が増大するに従って電動モータ33の回転速度を低くするため、蓄圧器41内の圧力が増大しても、電動モータ33が駆動可能な動力の範囲内において電動モータ33を過速度領域PRで駆動させることができる。したがって、電動モータ33を過速度領域PRで駆動させる頻度が高くなる。なお、圧縮機ユニット30が蓄圧器42〜44に水素ガスを供給するときも同様の効果が得られる。
【0068】
(3)制御部60は、蓄圧器41内の圧力が第1圧力P1以下の範囲において、最高速度維持制御を実行する。これにより、電動モータ33の過速度領域PRにおける最高速度Nmaxが維持できる環境では電動モータ33をその最高速度Nmaxで駆動させるため、電動モータ33を過速度領域PRにおける最高速度Nmax未満で駆動させる場合よりも蓄圧器41内に水素ガスを速やかに供給することができる。したがって、貯留過程の時間を短縮することができる。なお、圧縮機ユニット30が蓄圧器42〜44に水素ガスを供給するときも同様の効果が得られる。
【0069】
(4)制御部60は、蓄圧器41内の圧力が第2圧力P2よりも大きい場合、低速運転制御を実行する。これにより、電動モータ33として動力の小さいモータを使用した場合であっても、動力の大きいモータと同等の処理量を確保することができる。また、動力の小さいモータを使用することにより、圧縮機ユニット30の小型化および低コスト化を図ることができる。なお、圧縮機ユニット30が蓄圧器42〜44に水素ガスを供給するときも同様の効果が得られる。
【0070】
(第2実施形態)
図5を参照して、第2実施形態のガス供給装置10の構成について説明する。本実施形態のガス供給装置10は、従来の同様の動力の大きい電動モータを使用する場合であって、この電動モータを過速度領域PRで駆動させることにより、蓄圧器41〜44内に水素ガスを貯留させる貯留過程の時間を短縮するようにしたものである。
【0071】
なお、第2実施形態のガス供給装置10において第1実施形態のガス供給装置10の構成と共通する構成要素には、共通の符号を用い、その説明の一部または全部を省略する。また、
図5を用いた説明において、符号が付されたガス供給装置10の各構成要素は、
図1のガス供給装置10の各構成要素を示す。
【0072】
本実施形態のガス供給装置10の電動モータ33の動力の上限値である第2上限値は、第1実施形態の電動モータ33の動力の上限値である第1上限値よりも大きく、従来の電動モータの動力の上限値と等しい。このため、本実施形態の電動モータ33の過速度領域PRにおけるトルクは、第1実施形態の電動モータ33の過速度領域PRにおけるトルクよりも大きい。一方、本実施形態の電動モータ33の標準回転領域SR、基準速度BN、過速度領域PRは、第1実施形態の電動モータ33の標準回転領域SR、基準速度BN、過速度領域PRと同じである。
【0073】
図5に示すように、本実施形態の電動モータ33の動力の第2上限値が従来の電動モータの動力の上限値と等しいため、制御部60は、圧縮部31が蓄圧器41内の圧力が設定圧力PCとなるまで水素ガスを貯留する貯留過程の全期間において、過速度運転制御を実行する。なお、制御部60は、蓄圧器41内の圧力が設定圧力PCに到達したとき、電動モータ33の駆動を停止する。
【0074】
電動モータ33は、蓄圧器41内の圧力が第1圧力P1よりも大きく、かつ第2圧力P2未満である第3圧力P3において動力が第2上限値となる。このため、制御部60は、蓄圧器41内の圧力が第3圧力P3以下の範囲において最高速度維持制御を実行する。
【0075】
そして蓄圧器41内の圧力が第3圧力P3よりも大きくなったとき、制御部60は速度変更制御を実行する。このため、電動モータ33の動力が第2上限値に維持可能な範囲において電動モータ33の回転速度が最も高くなるように電動モータ33が駆動する。このため、電動モータ33の動力の許容範囲内において、圧縮機ユニット30の水素ガスの処理量が上限値となる。
【0076】
このように、圧縮機ユニット30が駆動する全期間において、電動モータ33の回転速度が基準速度BNよりも高い状態が維持されるため、圧縮機ユニット30による水素ガスの処理量が従来と同一の動力の電動モータを用いた場合よりも多くなる。したがって、蓄圧器41内の圧力が設定圧力PCに到達するまでの時間を短縮することができる。
【0077】
本実施形態のガス供給装置10によれば、第1実施形態の(1)〜(4)の効果に加え、以下の効果が得られる。
【0078】
(5)制御部60は、圧縮機ユニット30が駆動する全期間において、過速度運転制御を実行する。これにより、圧縮機ユニット30が駆動する全期間において電動モータ33を基準速度BNで駆動させると仮定した場合と比較して、電動モータ33の回転速度が高くなるため、蓄圧器41内の圧力が同じであれば、電動モータ33を基準速度BNで駆動させる場合よりも動力が大きくなるとともに、貯留過程の時間を短縮することができる。なお、圧縮機ユニット30が蓄圧器42〜44に水素ガスを供給するときも同様の効果が得られる。
【0079】
上記各実施形態は、以下に示す別の実施形態に変更することもできる。
【0080】
・上記各実施形態において、制御部60は最高速度維持制御を実行しなくてもよい。すなわち制御部60が最高速度維持制御を実行可能な蓄圧器41〜44内の圧力の範囲内において、電動モータ33は過速度領域PRにおける最高速度Nmax未満の回転速度で駆動してもよい。なお、この場合、電動モータ33の回転速度は、基準速度BN以上であることが好ましい。
【0081】
・上記各実施形態の速度変更制御において、電動モータ33を上限値(第1上限値または第2上限値)未満の動力で駆動してもよい。この場合、電動モータ33の回転速度は、電動モータ33の動力が上限値のときの回転速度よりも低くなる。なお、この場合、電動モータ33の回転速度は、基準速度BN以上であることが好ましい。
【0082】
・上記第1実施形態において、通常運転制御を省略し、蓄圧器41〜44内の圧力が第2圧力P2以上となるときに低速運転制御を実行してもよい。
【0083】
・上記第1実施形態の低速運転制御において、電動モータ33を第1上限値未満の動力で駆動してもよい。この場合、電動モータ33の回転速度は、電動モータ33の動力が第1上限値のときの回転速度よりも低くなる。なお、電動モータ33の回転速度は、蓄圧器41〜44内の圧力が第2圧力P2未満における水素ガスの処理量の増加分(
図3の左側の網掛け部分)に対して、蓄圧器41〜44内の圧力が第2圧力P2よりも大きい範囲における水素ガスの処理量の減少分(
図3の右側の網掛け部分)が過度に大きくならないような回転速度であることが好ましい。
【0084】
・上記第2実施形態において、制御部60は、蓄圧器41〜44内の圧力が高い範囲においてのみ、または蓄圧器41〜44内の圧力が低い範囲においてのみ、過速度運転制御を実行してもよい。要するに、制御部60は、蓄圧器41〜44内の圧力範囲における一部の範囲のみで過速度運転制御を実行してもよい。
【0085】
・上記各実施形態の圧縮機ユニット30において、圧縮部31は2〜4段圧縮または6段圧縮以上であってもよい。
【0086】
・上記各実施形態のガス供給装置10において、蓄圧器の個数は1個〜3個または5個以上であってもよい。
【0087】
・上記各実施形態のガス供給装置10において、制御部60に代えて、圧縮機ユニット30の電動モータ33を制御する専用の制御部を圧縮機ユニット30が備えた構成としてもよい。
【0088】
・上記各実施形態のガス供給装置10において、プレクールシステム50がディスペンサ2に流入する直前の水素ガスを冷却する構成としてもよい。
【0089】
・上記各実施形態のガス供給装置10は、車両100以外のタンク搭載装置への水素ガスの充填に利用されてもよい。またガス供給装置10は、水素ガス以外のガスの供給に用いられてもよい。