(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(1a)所与の運転曲線に含まれる各ブレーキ曲線部分のブレーキ力の組み合わせ(以下「ノード」という)のうち、所定の代表条件を満たす代表ノードをブレーキ力の漸増又は漸減の順にエッジで結ぶように表した探索ツリーであって、前記所与の運転曲線に定められているブレーキ力を示すノードを探索始点とする第1の探索ツリーを設定し、(1b)当該第1の探索ツリーに沿って代表ノード毎に、当該代表ノードに係るブレーキ力を前記所与の運転曲線に適用した場合の運転曲線候補の生成と、当該運転曲線候補の消費電力量の算出とを繰り返し行って当該第1の探索ツリーにおいて消費電力量が最小となる代表ノードを探索する第1の探索処理手段と、
(2a)前記ノードをブレーキ力の漸増又は漸減の順にエッジで結ぶように表した探索ツリーであって、前記第1の探索処理手段により探索された代表ノードを探索始点とする第2の探索ツリーを設定し、(2b)当該第2の探索ツリーに沿ってノード毎に、当該ノードに係るブレーキ力を前記所与の運転曲線に適用した場合の運転曲線候補の生成と、当該運転曲線候補の消費電力量の算出とを繰り返し行って当該第2の探索ツリーにおいて消費電力量が最小となるノードを探索する第2の探索処理手段と、
前記第2の探索処理手段により探索されたノードに係る前記運転曲線候補を、消費電力量を改善した運転曲線として選択する選択手段と、
を備え、更に、
前記第1の探索処理手段又は前記第2の探索処理手段の探索処理において、親ノードより子ノードの方が消費電力量が大きい子ノードの識別情報を記憶する記憶手段を備え、
前記第1の探索処理手段及び前記第2の探索処理手段は、前記記憶手段に記憶されたノードの子孫ノードを探索対象から除外して探索処理を行う、
運転曲線作成装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1の技術は、運転曲線の修正として惰行の追加を用いることで、消費電力の改善を実現している。しかしながら、消費電力を改善するような運転曲線の修正には他の方法も考えられる。例えば、通常、運転曲線は、走行時分が最短となるよう、力行及びブレーキともに通常の使用範囲のうちの最大ノッチを使用して走行するように作成されるが、ブレーキノッチを小さくする変更によって回生ブレーキ時間が長くなる結果、回生電力量を増加させ、消費電力量の改善を実現させることができ得る。また、最大ノッチを使用しないことにより乗客の乗り心地を向上させることができ得る。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、消費電力量を改善した運転曲線の新たな作成方法を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、
コンピュータに、運転曲線を作成させるためのプログラムであって、
(1a)所与の運転曲線に含まれる各ブレーキ曲線部分のブレーキ力の組み合わせ(以下「ノード」という)のうち、所定の代表条件を満たす代表ノードをブレーキ力の漸増又は漸減の順にエッジで結ぶように表した探索ツリーであって、前記所与の運転曲線に定められているブレーキ力を示すノードを探索始点とする第1の探索ツリーを設定し、(1b)当該第1の探索ツリーに沿って代表ノード毎に、当該代表ノードに係るブレーキ力を前記所与の運転曲線に適用した場合の運転曲線候補の生成と、当該運転曲線候補の消費電力量の算出とを繰り返し行って当該第1の探索ツリーにおいて消費電力量が最小となる代表ノードを探索する第1の探索処理手段、
(2a)前記ノードをブレーキ力の漸増又は漸減の順にエッジで結ぶように表した探索ツリーであって、前記第1の探索処理手段により探索された代表ノードを探索始点とする第2の探索ツリーを設定し、(2b)当該第2の探索ツリーに沿ってノード毎に、当該ノードに係るブレーキ力を前記所与の運転曲線に適用した場合の運転曲線候補の生成と、当該運転曲線候補の消費電力量の算出とを繰り返し行って当該第2の探索ツリーにおいて消費電力量が最小となるノードを探索する第2の探索処理手段、
前記第2の探索処理手段により探索されたノードに係る前記運転曲線候補を、消費電力量を改善した運転曲線として選択する選択手段、
として前記コンピュータを機能させ、更に、
前記第1の探索処理手段又は前記第2の探索処理手段の探索処理において、親ノードより子ノードの方が消費電力量が大きい子ノードの識別情報を記憶する記憶手段として前記コンピュータを更に機能させ、
前記第1の探索処理手段及び前記第2の探索処理手段は、前記記憶手段に記憶されたノードの子孫ノードを探索対象から除外して探索処理を行う、
プログラムである。
【0007】
また、他の発明として、
(1a)所与の運転曲線に含まれる各ブレーキ曲線部分のブレーキ力の組み合わせ(以下「ノード」という)のうち、所定の代表条件を満たす代表ノードをブレーキ力の漸増又は漸減の順にエッジで結ぶように表した探索ツリーであって、前記所与の運転曲線に定められているブレーキ力を示すノードを探索始点とする第1の探索ツリーを設定し、(1b)当該第1の探索ツリーに沿って代表ノード毎に、当該代表ノードに係るブレーキ力を前記所与の運転曲線に適用した場合の運転曲線候補の生成と、当該運転曲線候補の消費電力量の算出とを繰り返し行って当該第1の探索ツリーにおいて消費電力量が最小となる代表ノードを探索する第1の探索処理手段と、
(2a)前記ノードをブレーキ力の漸増又は漸減の順にエッジで結ぶように表した探索ツリーであって、前記第1の探索処理手段により探索された代表ノードを探索始点とする第2の探索ツリーを設定し、(2b)当該第2の探索ツリーに沿ってノード毎に、当該ノードに係るブレーキ力を前記所与の運転曲線に適用した場合の運転曲線候補の生成と、当該運転曲線候補の消費電力量の算出とを繰り返し行って当該第2の探索ツリーにおいて消費電力量が最小となるノードを探索する第2の探索処理手段と、
前記第2の探索処理手段により探索されたノードに係る前記運転曲線候補を、消費電力量を改善した運転曲線として選択する選択手段と、
を備え、更に、
前記第1の探索処理手段又は前記第2の探索処理手段の探索処理において、親ノードより子ノードの方が消費電力量が大きい子ノードの識別情報を記憶する記憶手段を備え、
前記第1の探索処理手段及び前記第2の探索処理手段は、前記記憶手段に記憶されたノードの子孫ノードを探索対象から除外して探索処理を行う、
運転曲線作成装置を構成しても良い。
【0008】
この第1の発明等によれば、従来のような最大ノッチを使用して運転曲線を作成する手法とは異なり、所与の運転曲線に含まれる各ブレーキ曲線部分のブレーキ力を変更するという新たな作成手法によって、消費電力量を改善した運転曲線を作成することができる。より具体的には、代表的なブレーキ力の組み合わせを対象とした大まかな探索である第1の探索を行い、その後、この第1の探索によって消費電力量が最小となったブレーキ力の組み合わせを探索始点とした第2の探索を行うといった二段階の探索を行い、第2の探索によって消費電力量が最小となったブレーキ力の組み合わせを適用した運転曲線候補を、消費電力量を改善した運転曲線とする。
【0009】
探索は、各ブレーキ曲線部分のブレーキ力の組み合わせであるノードをエッジで結んだ探索ツリーに沿って、各ブレーキ力の組み合わせを適用した運転曲線候補の消費電力量を比較してゆくが、探索ツリーは、エッジで結ばれたノード間のブレーキ力が漸増/漸減するように設定されているため、この探索ツリーに沿った探索は、ブレーキ力を徐々に増加/減少させながら消費電力量の変化を判断してゆくことに相当する。これにより、探索において、親ノードより消費電力量が大きい子ノードの子孫ノードを、これ以上のブレーキ力の増加/減少によって消費電力量の改善が見込めないと判断して以降の探索対象から除外することができるため、運転曲線の作成に要する演算量を低減することができる。
【0010】
第2の発明として、第1の発明のプログラムであって、
前記ブレーキ曲線部分には、停止ブレーキ曲線部分と、予め定められた速度制約条件に含まれる速度制限箇所の直前ブレーキ曲線部分とが含まれ、
前記第1の探索処理手段は、前記停止ブレーキ曲線部分のブレーキ力が、前記所与の運転曲線に定められているブレーキ力であるノードを前記代表ノードとすることを前記代表条件に含めて前記代表ノードを定め、前記第1の探索ツリーを設定する、
プログラムを構成しても良い。
【0011】
この第2の発明によれば、停止ブレーキ曲線部分のブレーキ力が所与の運転曲線に定められているブレーキ力であるノードを代表ノードに含めて、第1の探索ツリーが設定される。これにより、第1の探索を、停止直前のブレーキ力については最大のブレーキ力を適用することを良しとし、それ以外の走行途中のブレーキ力を変化させる探索とすることができる。
【0012】
第3の発明として、第1又は第2の発明のプログラムであって、
前記第2の探索処理手段は、親子ノードにおいて異ならせるブレーキ力をブレーキノッチの1段分として前記第2の探索ツリーを設定する、
プログラムを構成しても良い。
【0013】
この第3の発明によれば、親子ノードにおいて、各ブレーキ曲線部分のブレーキ力がブレーキノッチの1段分づつ異なるように、第2の探索ツリーが設定される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[概要]
本実施形態の運転曲線作成装置は、所与の運転曲線を修正してより消費電力量が少ない運転曲線(省エネ運転曲線)を作成するものである。運転曲線の消費電力量とは、その運転曲線に従って走行した際の力行電力量から回生電力量を引いた差として算出される。
【0016】
(A)運転曲線
運転曲線は、例えば
図1に示すように、駅間を単位として生成され、横軸を走行位置(キロ程で表現される距離)、縦軸を走行速度とした座標系上に、列車の位置に対する速度変化を示すグラフとして表現される。また、運転曲線は、定められた制限速度を守りつつ、列車性能を最大に発揮して(すなわち、力行及びブレーキともに通常の使用範囲のうちの最大ノッチを使用して)、駅間を最短で走行するように作成されるのが一般的である。
【0017】
図1に示す例では、力行及びブレーキは、ともに最大ノッチである“5ノッチ”が用いられている。このような「定められた制限速度を守りつつ、列車性能を最大に発揮して走行するような運転曲線の作成方法」を、本実施形態においては、特に基本の作成方法という。なお、ブレーキノッチは、ノッチ数が大きいほどブレーキ力が大きい。
【0018】
(B)消費電力量の低減
本実施形態では、所与の運転曲線を、消費電力量を低減させるような運転曲線に修正することで新たな運転曲線を作成するが、その修正には、ブレーキ力であるブレーキノッチの変更を用いる。
図2は、ブレーキノッチの変更の概要図である。
図2に示すように、修正対象の運転曲線(対象運転曲線)におけるブレーキ曲線部分10aについて、その終了点を固定としたまま、ブレーキノッチを変更して運転曲線を変更する。
図2では、“ブレーキ5ノッチ”のブレーキ曲線部分10aを、“ブレーキ4ノッチ”のブレーキ曲線部分10bや、“ブレーキ3ノッチ”のブレーキ曲線部分10cに変更した例を示している。ブレーキノッチの変更により、ブレーキ力及びブレーキ距離(ブレーキ時間)が変化するため、消費電力量の低減の可能性が生じる。
【0019】
図3は、ブレーキノッチの変更による消費電力量の低減の概要を示す図である。
図3の上段の運転曲線が基本の作成方法によって作成した運転曲線(基本運転曲線)である。基本運転曲線から、停止ブレーキ曲線、及び、速度制限ブレーキ曲線を、変更対象のブレーキ曲線部分として選択する。停止ブレーキ曲線とは、着駅に到着するためのブレーキ曲線であり、速度制限ブレーキ曲線とは、速度制限区間の直前で制限速度まで減速するためのブレーキ曲線である。
図3に示す例では、変更対象として2つのブレーキ曲線部分11a,11bが選択されている。ブレーキ曲線部分11aは、速度制限ブレーキ曲線であり、ブレーキ曲線部分11bは、停止ブレーキ曲線である。
【0020】
そして、これらの変更対象のブレーキ曲線部分それぞれのブレーキノッチを、変更候補のブレーキノッチそれぞれに変更した複数の運転曲線候補を生成する。変更候補のブレーキノッチには、変更前のブレーキノッチを含めた複数のブレーキノッチがある。基本運転曲線は最大ノッチを使用するように作成されるため、変更候補のブレーキノッチは、これ以下のノッチとなる。
【0021】
図3に示す例では、基本運転曲線から、変更対象として2つのブレーキ曲線部分11a,11bが選択され、基本運転曲線であるためにブレーキノッチはともに「5ノッチ」である。また、変更候補のブレーキノッチは、変更前のブレーキノッチである5ノッチを含む「5ノッチ、4ノッチ、3ノッチ」の3種類とする。この場合、2つのブレーキ曲線部分11a,11bそれぞれを、3種類のブレーキノッチそれぞれに変更した組み合わせが考えられるため、合計9つの運転曲線候補が生成される。そして、これらの運転曲線候補のうち、消費電力量が最小のものを省エネ運転曲線として選択する。なお、ブレーキノッチを幾つとすれば消費電力量が最小となるかは、列車の諸元(列車条件)や、線路条件によって異なる。例えば、回生電力を高効率に発生する回転域は電動機によって異なり、また回生ブレーキを使用する長さ(距離・時間)によって回生電力量が異なる。また、列車編成(電動機の種類や数、車両質量等)や、線路条件(平坦路か、勾配路か等)によっても回生電力量は異なる。そのため、運転曲線(この場合、運転曲線候補)を作成し、消費電力量を算出する必要がある。
【0022】
(C)逆引き運転指定
ブレーキノッチの変更による運転曲線の修正は、逆引き運転指定と呼ぶ新たな機能を用いて行われる。この逆引き運転指定では、位置、速度、運転操作(力行、だ行及びブレーキ)、ノッチを指定すると、これに基づき、指定位置を指定速度且つ指定運転操作で通過するように、運転曲線が更新される。
【0023】
図4は、逆引き運転指定による運転曲線の更新の一例である。
図4(a)は、運転曲線に対する逆引き運転指定の一例を示し、
図4(b)は、この逆引き運転指定に対する変更後の運転曲線を示している。
図4(a)に示すように、運転曲線に対する逆引き運転指定として、位置“L1”、速度“V1”、運転操作“3ノッチのブレーキ”を指定する。すると、
図4(b)に示すように、この逆引き運転指定に基づいて、指定位置L1を、指定速度V1で指定運転操作である3ノッチのブレーキで通過するように、運転曲線が変更される。
【0024】
逆引き運転指定に基づく運転曲線の変更は、具体的には次のように行われる。先ず、指定位置“L1”、指定速度“V1”に対応する指定座標点12を、指定運転操作である“3ノッチのブレーキ”で通過するように、指定座標点12から進行方向の逆方向(発駅に向かう方向)に延長した逆引き曲線13が生成される。次いで、運転曲線と逆引き曲線13との交点14から、指定位置“L1”までの区間について、逆引き曲線に沿って走行するように、運転曲線が更新される。指定位置“L1”以降の区間については、基本の作成方法によって運転曲線が更新される。
【0025】
また、1つの運転曲線に対して複数の逆引き運転指定の適用が可能である。この場合、
図5に示すように、これらの複数の逆引き運転指定それぞれに対応する逆引き曲線を生成し、走行開始位置(発駅)から運転曲線に沿って走行したときの交差する順に、その交差した逆引き曲線に従って運転曲線を更新する。すなわち、先ずは運転曲線と最初に交差した逆引き曲線を適用して運転曲線を更新し、続いて、適用した逆引き曲線の指定位置以降の運転曲線について、同様に、最初に交差した逆引き曲線を適用して更新するといったことを、走行終了位置(着駅)に到着するまで繰り返す。
【0026】
図5に示す例では、位置“L2”、速度“V2”、運転操作“3ノッチのブレーキ”と、位置“L3”、速度“V3”、運転操作“惰行”と、の2つの逆引き運転指定(A),(B)がなされている。そして、2つの逆引き運転指定(A),(B)それぞれに対応する2つの逆引き曲線16a,16bが生成される。この場合、先ず、運転曲線と最初に交差した逆引き曲線16bを適用して指定位置L3まで運転曲線が更新され、指定位置L3以降の区間については、基本の作成方法によって更新される。続いて、更新後の運転曲線のうち、指定位置L3以降の運転曲線については、逆引き曲線16aとは交差しないために更新されない。つまり、
図5の例では、逆引き運転指定(A)は無効となり、運転曲線は、逆引き曲線指定(B)のみを適用して更新されることになる。
【0027】
つまり、基本運転曲線におけるブレーキ曲線部分それぞれについて、そのブレーキ終了点に対する逆引き運転指定を行って運転曲線を修正することで、運転曲線候補が生成される。詳細には、ブレーキ曲線部分のブレーキ終了点について、そのブレーキ終了点の位置及び速度を指定位置及び指定速度とし、“変更候補のブレーキノッチのブレーキ”を指定運転操作とした逆引き運転指定がなされ、ブレーキ終了点から進行方向の逆方向(発駅に向かう方向)に延長した逆引き曲線が生成される。この逆引き曲線に基づいて、基本運転曲線が更新されて運転曲線候補が生成される。
【0028】
(D)省エネ運転曲線の選択
さて、ブレーキ曲線部分それぞれを変更候補のブレーキノッチそれぞれに変更した複数の運転曲線候補のうちから、消費電力量が最小である省エネ運転曲線を探索するが、全ての組み合わせについて演算するとなると演算量が膨大となり得る。すなわち、複数の運転曲線候補一つ一つについて、当該運転曲線候補を生成し、当該運転曲線候補に沿って走行した際の消費電力量を算出することとすると、運転曲線候補の数の増加に伴って探索に要する処理時間(探索時間)が飛躍的に増加する。運転曲線候補の数Sは、ブレーキ曲線部分の数M、及び、変更候補のブレーキノッチの数Nによって決まり、S=N
M(NのM乗)となる。つまり、ブレーキ曲線部分の数Mの増加に伴って、運転曲線候補の数Sがべき乗で増加し、例えば特急列車や快速列車、貨物列車などの駅間が長い区間の運転曲線の作成にあたっては、ブレーキ曲線部分の数Mが多く、省エネ運転曲線の探索に要する処理時間が非常に長くなってしまう。そこで、本実施形態では、全ての運転曲線候補のうちから、消費電力量が低減しないと思われる運転曲線候補を合理的に選択して探索対象から外し、省エネ運転曲線の作成時間の短縮を図っている。
【0029】
具体的には、先ず、基本運転曲線に含まれるブレーキ曲線部分それぞれに適用する変更候補のブレーキノッチの全ての組み合わせを生成する。
図6は、ブレーキノッチの組み合わせの生成を説明する図である。
図6に示すように、基本運転曲線におけるブレーキ曲線部分それぞれに、変更候補のブレーキノッチの何れかを適用するとして、ブレーキ曲線部分それぞれに適用するブレーキノッチの取り得る全ての組み合わせを生成する。
【0030】
図6では、基本運転曲線から、変更対象として2つのブレーキ曲線部分が選択されている。ブレーキ曲線部分それぞれの変更候補のブレーキノッチは、ともに「5ノッチ、4ノッチ、3ノッチ」である。従って、2つのブレーキ曲線部分それぞれに3種類のブレーキノッチそれぞれを適用するため、合計9つのブレーキノッチの組み合わせが生成される。
【0031】
次いで、これらのブレーキノッチの組み合わせそれぞれをノードとした探索木(探索ツリー)を生成し、この探索木を用いた省エネ運転曲線の探索を行う。なお、ここでいう「探索」には、運転曲線候補の生成と消費電力量の算出の演算処理が含まれるため、単なる比較演算のみではない。
図7は、省エネ運転曲線の探索を説明するための図であり、事前探索を行った状態の、全体探索を行う前の状態を示す図である。
図7における探索木を構成する各ノードにおけるカギ括弧内の数字は、対応するブレーキノッチの組み合わせを表しており、走行方向に沿った順にブレーキ曲線部分それぞれに適用するブレーキノッチの値を表記している。例えば、[4,5]は、1つ目のブレーキ曲線部分のブレーキノッチを「4」とし、2つ目のブレーキ曲線部分のブレーキノッチを「5」とする運転曲線候補のノードを示している。
【0032】
省エネ運転曲線の探索は、先ずは第1の探索ツリーである事前探索木を用いた第1の探索処理である事前探索を行い、次いで第2の探索ツリーである全体探索木を用いた第2の探索処理である全体探索を行うといった二段階探索となっている。
図7では、基本運転曲線に含まれるブレーキ曲線は2つであり、ブレーキ曲線部分それぞれに「5ノッチ、4ノッチ、及び、3ノッチ」の3種類の変更候補のブレーキノッチを適用する例を示している。つまり、ブレーキノッチの組み合わせは9(=3
2)つである。
【0033】
探索木は、ブレーキノッチの組み合わせを表すノードと、2つのノード間を一方向に結ぶエッジ(リンク)と、によって構成される。探索木を用いた探索は、始点ノード(ルート)から順にエッジで結ばれたノードを辿り、各ノードに対応するブレーキノッチの組み合わせを適用した運転曲線候補における消費電力量を比較することで行う。
【0034】
事前探索に用いる事前探索木は、全てのブレーキノッチの組み合わせのうち、所定の代表条件を満たす代表ノードで構成される。代表条件は、基本運転曲線の構造などから定められ、本実施形態では、「全てのブレーキ曲線部分のブレーキノッチが同じである組み合わせ」とする。また、事前探索木の探索始点となる始点ノードは、基本運転曲線に定められたブレーキノッチの組み合わせである。基本運転曲線では最大のブレーキノッチが用いられることから、始点ノードのブレーキノッチは全て最大のブレーキノッチである。事前探索木は、始点ノードから、ブレーキノッチが1段ずつ減少するような順序で各ノードが結ばれて構成される。
【0035】
図7では、ブレーキ曲線部分に適用される変更候補のブレーキノッチが「5ノッチ、4ノッチ、3ノッチ」の3種類であるため、事前探索木20は、3つの代表ノード(ノード21,22,23)で構成されるとともに、基準運転曲線のブレーキノッチである「5ノッチ」から、「4ノッチ」、「3ノッチ」と1ノッチずつ減少するような順序で各代表ノードが結ばれて構成される。
【0036】
事前探索木を用いた事前探索では、探索始点である始点ノードから順にエッジを辿って探索対象ノードとし、この探索対象ノードに対応するブレーキノッチの組み合わせを適用した運転曲線候補の生成及び消費電力量の算出が行われる。次いで、エッジの元に位置する親ノードの運転曲線候補の消費電力量と、エッジの先に位置する子ノードの運転曲線候補の消費電力量と、を比較する。そして、親ノードより子ノードのほうが消費電力量が大きいならば、この子ノードから辿れる全ての子孫ノードを探索対象外とし、この探索対象外のノードについては消費電力量の算出(探索)を行わない。このように事前探索を行っていくことで、探索を行ったノードのうちから、消費電力量が最小となるノード(ブレーキノッチの組み合わせ)を判定する。
【0037】
図7の例では、始点ノードであるノード21より、その子ノードであるノード22のほうが消費電力量が大きい。このため、ノード22の子孫ノードであるノード23は探索対象外となる。従って、探索を行った(消費電力量を算出した)ノード21,22のうちから、消費電力量が最小となるノード(ノード21となるはずである)が判定される。なお、
図7において、破線で示したノードは、消費電力量の算出を行っていないことを表している。
【0038】
全体探索に用いる全体探索木は、原則、全てのブレーキノッチの組み合わせで構成される。また、全体探索木の始点ノードは、事前探索で消費電力量が最小と判定されたノード(ブレーキノッチの組み合わせ)とし、この始点ノードから、何れか1つのブレーキ曲線のブレーキノッチが1ノッチだけ増加/減少するような順序で各ノードを結ぶことで、全体探索木が構成される。各ノードは、最大でブレーキ曲線部分の数に等しい子ノードを持つように構成される。
【0039】
図7では、全体探索木30は、全ての組み合わせそれぞれに相当する9つのノード21〜29で構成されている。また、ブレーキ曲線部分は2つであるため、各ノードはそれぞれ最大2つの子ノードを有している。また、全体探索木30の始点ノード21は、事前探索木で消費電力量が最小とされたノードであるが、全てのブレーキノッチが最大ノッチである「5ノッチ」のノードであるため、この始点ノード21から、何れかのブレーキ曲線部分のブレーキノッチが1ノッチづつ減少するように各ノードが結ばれて全体探索木30が構成されている。
【0040】
図8は、全体探索を説明するための図であり、
図4に続き全体探索を行った状態を示す図である。全体探索木を用いた全体探索では、先ず、事前探索によって探索対象外とされたノードを、全体探索木においても探索対象外とする。また、事前探索において親ノードよりも消費電力量が大きいと探索されたノードを、全体探索木において探索対象外とする。更に、これらの探索対象外のノードそれぞれについて、これから辿れる全ての子孫ノードについても探索対象外とする。
【0041】
次いで、全体探索木において、探索対象外のノード以外のノードについて、事前探索と同様に、始点ノードから順に探索対象ノードとし、探索対象ノードに対応するブレーキノッチの組み合わせを適用した運転曲線候補の生成及び消費電力量の算出が行われる。そして、エッジの元に位置する親ノードの運転曲線候補の消費電力量と、エッジの先に位置する子ノードの運転曲線候補の消費電力量と、を比較する。なお、親ノードから複数の子ノードが結ばれている場合があるが、その探索順序は任意である。そして、親ノードより子ノードのほうが消費電力量が大きいならば、この子ノードにから辿れる全ての子孫ノードを探索対象外とし、この探索対象外のノードについては消費電力量の算出を行わない。
【0042】
このように、探索対象外となっていないノードについて順に探索対象ノードとして運転曲線候補の生成及び消費電力量の算出を行い、親ノードとその子ノードの運転曲線候補の消費電力量を比較するといった全体探索を行う。そして、全体探索を終了すると、探索を行った(すなわち、消費電力量を算出した)ノードのうちから、消費電力量が最小となるノード(ブレーキノッチの組み合わせ)を選択する。
【0043】
図8では、全体探索木30の始点ノード21は、全て「5ノッチ」のブレーキノッチの組み合わせとされている。また、全体探索木30は、事前探索において探索対象外とされたノード23と、親ノードであるノード21より消費電力量が大きいと判定されたノード22と、が探索対象外とされているとともに、これらの探索対象外のノード22,23の子孫ノードであるノード28,29も、探索対象外とされる。従って、この全体探索木30では、当初、探索対象外でないノード21,24〜27について、始点ノード21から順に探索対象として全体探索が行われる。しかし、全体探索を行っていく過程で、ノード21よりもノード25のほうが消費電力量が大きいと判明したため、ノード25の子孫ノードであるノード27が、新たな探索対象外のノードに追加されている。そして、探索を行った(消費電力量の算出を行った)ノードのうちから、消費電力量が最小となるノードが選択され、このノードに対応する運転曲線候補が、基本運転曲線に対する省エネ運転曲線とされる。
【0044】
[機能構成]
図9は、運転曲線作成装置1の構成図である。
図9によれば、運転曲線作成装置1は、操作入力部102と、表示部104と、通信部106と、処理部200と、記憶部300と、を備えて構成される。
【0045】
操作入力部102は、例えばキーボードやマウス、タッチパネル、各種スイッチ等で構成される入力装置であり、ユーザの操作入力に応じた操作信号を処理部200に出力する。表示部104は、例えば液晶ディスプレイ(LCD)や有機ELディスプレイ等で構成される表示装置であり、処理部200からの表示信号に基づく各種表示を行う。通信部106は、例えば無線通信モジュール、ルータ、モデル、有線用の通信ケーブルのジャックや制御回路等で構成される通信装置であり、外部機器との間でデータ通信を行う。
【0046】
処理部200は、例えばCPU等の演算装置で構成され、記憶部300に記憶されたプログラムやデータ、操作入力部102からの入力データ等に基づいて各種演算処理を行うとともに、運転曲線作成装置1を構成する各部への指示やデータ転送を行う。また、処理部200は、基本運転曲線作成部202と、作成条件設定部204と、組み合わせ生成部206と、運転曲線候補生成部208と、消費電力量算出部212と、事前探索木生成部214と、事前探索部216と、全体探索木生成部218と、全体探索部220と、省エネ運転曲線選択部222と、を有し、運転曲線作成プログラム302に従った運転曲線作成処理(
図10参照)を行う。運転曲線作成処理では、基本運転曲線に対してブレーキノッチを変更することで複数の運転曲線候補を作成し、これらの複数の運転曲線候補のうち、消費電力量が最小のものを、基本運転曲線に対する省エネ運転曲線とする。
【0047】
基本運転曲線作成部202は、線路条件や列車条件をもとに、基本の作成方法によって、対象駅間を最短の走行時分で走行するための基本運転曲線を作成する。線路条件は、線路長や勾配、曲率、駅間最高速度、速度制限区間といった線路に関する条件であり、線路条件データ304として記憶されている。車両条件は、想定する列車の加速度や最高速度、減速度、質量といった列車の性能に関する条件(諸元ともいえる)であり、列車条件データ306として記憶されている。また、作成した基本運転曲線は、基本運転曲線データ308として記憶される。
【0048】
作成条件設定部204は、操作入力部102を介したユーザの指示操作に従って、基本運転曲線を変更して省エネ運転曲線を作成する際の作成条件を設定する。作成条件には、変更候補のブレーキノッチと、省エネ運転曲線の走行時分の上限と、が含まれる。設定した作成条件は、作成条件設定データ312として記憶される。
【0049】
組み合わせ生成部206は、基本運転曲線に含まれるブレーキ曲線部分それぞれに適用するブレーキノッチの組み合わせ(ノード)を生成する。すなわち、基本運転曲線から、停止ブレーキ曲線部分、及び、速度制限ブレーキ曲線部分を、ブレーキノッチを変更するブレーキ曲線部分として抽出する。抽出したブレーキ曲線部分は、ブレーキ曲線部分リスト310として記憶される。そして、抽出したブレーキ曲線部分それぞれに、作成条件として設定された変更候補のブレーキノッチそれぞれを適用するとして、ブレーキノッチの組み合わせを生成する(
図6参照)。
【0050】
生成した組み合わせについては、組み合わせデータ318として記憶される。組み合わせデータ318は、ブレーキノッチの組み合わせ毎に生成され、識別番号である組み合わせ番号320と、ブレーキノッチの組み合わせ322と、該当するブレーキノッチの組み合わせを基本運転曲線の各ブレーキ曲線部分に適用して修正した運転曲線候補324と、この運転曲線候補に沿って走行した際の消費電力量326、及び、走行時分328と、探索対象外フラグ330と、が格納される。運転曲線候補324、消費電力量326、及び、走行時分328は、該当するブレーキノッチの組み合わせが、事前探索或いは全体探索において探索された場合に格納されることになる。探索対象外フラグ330は、該当するブレーキノッチの組み合わせが、事前探索或いは全体探索において探索対象外とされたことを示す識別情報である。
【0051】
運転曲線候補生成部208は、逆引き曲線生成部210を有し、基本運転曲線に対して、ブレーキ曲線部分のブレーキノッチを、所与のブレーキノッチの組み合わせに変更して運転曲線候補を作成する。逆引き曲線生成部210は、ブレーキ曲線部分の終了点に、進行方向とは逆方向(走行開始点に向かう方向)に延長するように、“指定されたブレーキノッチでのブレーキ”で走行して当該終了点に至る逆引き曲線を生成する。運転曲線候補生成部208は、逆引き曲線生成部210に、基本運転曲線のブレーキ曲線部分それぞれについて所与の組み合わせのブレーキノッチを指定して逆引き曲線を生成させ、生成された逆引き曲線に基づいて基本運転曲線を変更することで、運転曲線候補を生成する。作成した運転曲線候補は、該当する組み合わせデータ318の運転曲線候補324として記憶される。
【0052】
消費電力量算出部212は、線路条件データ304及び列車条件データ306を参照して、運転曲線候補に沿って走行した際の消費電力量、及び、走行時分を算出する。算出した消費電力量、及び、走行時分は、該当する組み合わせデータ318の消費電力量326、及び、走行時分328として記憶される。
【0053】
事前探索木生成部214は、事前探索に用いる事前探索木を生成する。具体的には、全てのブレーキノッチの組み合わせのうちから、所定の代表条件を満たす組み合わせ(代表ノード)を抽出する。そして、基本運転曲線で定められたブレーキノッチの組み合わせを始点ノードとして、この始点ノードから、ブレーキノッチが1段づつ増加/減少するように、抽出した組み合わせそれぞれに対応するノード(代表ノード)を結ぶことで、事前探索木を生成する(
図7参照)。生成した事前探索木は、事前探索木構成データ332として記憶される。事前探索木構成データ332は、事前探索木を構成する各ノードとブレーキノッチとの対応関係や、ノード同士を結ぶエッジ(リンク)を定義したデータである。
【0054】
事前探索部216は、事前探索木に対する事前探索を行う。すなわち、始点ノードから順に探索対象ノードとし、この探索対象ノードに対応するブレーキノッチの組み合わせを適用した運転曲線候補の生成及び消費電力量の算出を行い、親ノードの運転曲線候補の消費電力量と、その子ノードの運転曲線候補の消費電力量と、を比較する。そして、親ノードより子ノードのほうが消費電力量が大きいならば、この子ノードから辿れる全ての子孫ノードを探索対象外とし、この探索対象外のノードについては消費電力量の算出(探索)を行わない。このとき、探索対象外としたノードに対応する組み合わせデータ318の探索対象外フラグ330を「1」に設定しておく。このように事前探索を行うと、探索を行ったノードのうちから、消費電力量が最小となるノード(ブレーキノッチの組み合わせ)を判定する(
図7参照)。
【0055】
全体探索木生成部218は、全体探索に用いる全体探索木を生成する。具体的には、事前探索によって消費電力量が最小と判定されたノード(ブレーキノッチの組み合わせ)を始点ノードとし、この始点ノードから、何れかのブレーキ部分曲線のブレーキノッチが1段づつ増加/減少するように、生成された全ての組み合わせに対応するノードを結ぶことで、全体探索木を生成する(
図7参照)。生成した全体探索木は、全体探索木構成データ334として記憶される。全体探索木構成データ334は、全体探索木を構成する各ノードとブレーキノッチとの対応関係や、ノード同士を結ぶエッジ(リンク)を定義したデータである。
【0056】
全体探索部220は、全体探索木に対する全体探索を行う。すなわち、先ず、全体探索木において、事前探索で探索対象外とされたノード、及び、親ノードより消費電力量が大きいと判定された子ノードそれぞれについて、当該ノードから辿れる全ての子孫ノードを探索対象外とする。次いで、探索対象外のノード以外について、事前探索と同様に、始点ノードから順に探索対象ノードとし、この探索対象ノードに対応するブレーキノッチの組み合わせを適用した運転曲線候補の生成及び消費電力量の算出を行い、親ノードの運転曲線候補の消費電力量と、その子ノードの運転曲線候補の消費電力量と、を比較する。そして、親ノードより子ノードのほうが消費電力量が大きいならば、この子ノードから辿れる全ての子孫ノードを探索対象外とし、この探索対象外のノードについては運転曲線候補の生成及び消費電力量の算出(探索)を行わない(
図8参照)。
【0057】
省エネ運転曲線選択部222は、全体探索によって探索されたノード(ブレーキノッチの組み合わせ)のうち、消費電力量が最小となるノードを選択し、このノードに対応するブレーキノッチの組み合わせを適用した運転曲線候補を、基本運転曲線に対する省エネ運転曲線として選択する。選択した省エネ運転曲線は、省エネ運転曲線データ336として記憶される。
【0058】
記憶部300は、処理部200が運転曲線作成装置1を統合的に制御するための諸機能を実現するためのシステムプログラムや、本実施形態を実現するためのプログラムやデータ等を記憶するとともに、処理部200の作業領域として用いられ、処理部200が各種プログラムに従って実行した演算結果や、操作入力部102からの入力データ等が一時的に格納される。本実施形態では、記憶部300には、運転曲線作成プログラム302と、線路条件データ304と、列車条件データ306と、基本運転曲線データ308と、ブレーキ曲線部分リスト310と、作成条件設定データ312と、組み合わせデータ318と、事前探索木構成データ332と、全体探索木構成データ334と、省エネ運転曲線データ336と、が記憶される。
【0059】
[処理の流れ]
図10は、運転曲線作成処理の流れを説明するフローチャートである。この処理は、処理部200が運転曲線作成プログラム302に従って実行する処理である。
【0060】
先ず、基本運転曲線作成部202が、基本運転曲線を作成する(ステップS1)。次いで、作成条件設定部204が、例えば操作入力部102を介したユーザの入力操作に従って、基本運転曲線を変更して省エネ運転曲線を作成する際の作成条件(例えば、変更候補のブレーキノッチ)を設定する(ステップS3)。続いて、組み合わせ生成部206が、基本運転曲線から、停止ブレーキ曲線、及び、速度制限ブレーキ曲線を、変更対象のブレーキ曲線部分として抽出する(ステップS5)。そして、これらのブレーキ曲線部分に適用する変更対象のブレーキノッチの組み合わせを生成する(ステップS7)。
【0061】
次いで、事前探索木生成部214が、生成された組み合わせのうちから所定の代表条件を満たす組み合わせを抽出し、基本運転曲線に対応するブレーキノッチの組み合わせを始点とし、抽出した組み合わせで構成される事前探索木を生成する(ステップS9)。続いて、事前探索部216が、生成された事前探索木に対する事前探索を行う(ステップS11)。そして、事前探索において探索された(消費電力量が算出された)ブレーキノッチの組み合わせのうちから、消費電力量が最小となる組み合わせを選択する(ステップS13)。
【0062】
続いて、全体探索木生成部218が、事前探索によって消費電力量が最小と選択されたブレーキノッチの組み合わせ(ノード)を始点とし、全ての組み合わせで構成される全体探索木を生成する(ステップS15)。次いで、全体探索部220が、全体探索木に対する全体探索処理を行う(ステップS17)。そして、省エネ運転曲線選択部222が、全体探索において探索された(消費電力量が算出された)ブレーキノッチの組み合わせのうちから、消費電力量が最小となる組み合わせを選択し、この組み合わせに対応する運転曲線候補を、基本運転曲線に対する省エネ運転曲線として選択する(ステップS19)。選択した省エネ運転曲線を、例えば表示出力した後、運転曲線作成処理を終了する。
【0063】
[作用効果]
このように、本実施形態の運転曲線作成装置1によれば、所与の運転曲線に含まれる各ブレーキ曲線部分のブレーキノッチを変更して、消費電力量を改善した省エネ運転曲線を作成することができる。具体的には、各ブレーキ曲線部分に適用するブレーキノッチの組み合わせのうち、代表的な組み合わせを対象とした大まかな探索である事前探索(第1の探索)を行い、その後、この事前探索によって消費電力量が最小となったブレーキノッチの組み合わせを探索始点とした全体探索(第2の探索)を行うといった二段階の探索を行い、全体探索によって消費電力量が最小となったブレーキノッチの組み合わせを適用した運転曲線候補を、消費電力量を改善した運転曲線とする。
【0064】
探索は、各ブレーキ曲線部分のブレーキノッチの組み合わせであるノードをエッジで結んだ探索木に沿って、各ブレーキノッチの組み合わせを適用した運転曲線候補の消費電力量を判断してゆくが、探索木は、エッジで結ばれたノード間のブレーキノッチが1段ずつ増加/減少するように設定されているため、この探索木に沿った探索は、ブレーキノッチを1段ずつ増加/減少させながら消費電力量の変化を判断してゆくことに相当する。これにより、探索において、親ノードより消費電力量が大きい子ノードの子孫ノードを、これ以上のブレーキノッチの増加/減少によって消費電力量の改善が見込めないと判断して以降の探索対象から除外することができるため、運転曲線の作成に要する演算量を低減することができる。
【0065】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0066】
(A)事前探索を更に複数段階に分けること
例えば、事前探索を更に複数段階に分けて行うこととしても良い。
図11は、二段階の事前探索を行う省エネ運転曲線の探索の一例である。
図11に示すように、二段階の事前探索木が生成される。これら二段階の事前探索木は、それぞれ異なる代表条件を満たすノード(代表ノード)によって構成される。なお、
図11に示す例では、基本運転曲線に含まれるブレーキ曲線部分が3箇所であるため、各ノード(カギ括弧)は、3つのブレーキノッチの組み合わせとなっている。
【0067】
1つ目の事前探索木40aは、基本運転曲線に定められたブレーキノッチの組み合わせを始点ノードとし、全てのブレーキ曲線部分のブレーキノッチが同一であることを代表条件としたノード(代表ノード41,42,43)で構成されている。そして、この1つ目の事前探索木40を用いた事前探索によって、消費電力量が最小であると探索されたノードが、その次の事前探索木における始点ノードとなる。
【0068】
2つ目の事前探索木40bは、最後のブレーキ曲線部分、すなわち停止ブレーキ曲線部分のブレーキノッチを固定とし、その他のブレーキ曲線部分のブレーキノッチが同一であることを代表条件としたノード(代表ノード41,44,45)で構成されている。また、1つ目の事前探索木40aを用いた探索によって消費電力量が最小であると探索されたノード41が、2つ目の事前探索木40bの始点ノードとなっている。この始点ノードは、停止ブレーキ曲線部分のブレーキノッチが最大ノッチであるため、2つ目の事前探索木40bを構成する何れのノードも、停止ブレーキ曲線部分のブレーキノッチが最大ノッチとなっている。
【0069】
そして、2つ目の事前探索木40bを用いた探索によって消費電力が最小であると探索されたノード45が、全体探索木50の始点ノードとなっている。全体探索木50では、事前探索において探索対象外とされたノード43、及び、子ノードより消費電力量が多いノード42,45と、これらのノード43,42,45それぞれの子孫ノードと、が初期の探索対象外のノードとされて全体探索が行われる。
【0070】
また、全体探索木50の始点ノードは[4,4,5]であるため、全てのブレーキ曲線部分が最大ノッチではない。そのため、親子ノードは、ブレーキノッチが減少する方向のみならず、ブレーキノッチを「4」から「5」へ増加する方向へもエッジが結ばれることとなる。全体探索の処理は、上述した実施形態の内容と同様である。
【0071】
(B)ブレーキ力の変更単位
上述の実施形態では、ブレーキ力の変更単位を分かり易く「ノッチ」としたが、別の単位(例えば所定の力[kN]を単位とする)を用いることとしてもよい。また、ノッチは1以上の整数として、1段ずつ変更することとして説明したが、0.5刻み等の小数のノッチを導入することとしてもよい。また、最大ノッチを「5」として説明したが、「6」以上のノッチを最大ノッチとして用いることとしてもよい。
【0072】
(C)元となる運転曲線
上述の実施形態では、基本運転曲線をベースに消費電力量を低減した運転曲線を作成することとして説明したが、ベースとする運転曲線は、必ずしも、基本の作成方法で作成された運転曲線でなくともよい。
【0073】
(D)車両
また、上述の実施形態では、鉄道車両として消費電力量を走行に係る各種の消費エネルギー量に置き換えることで、これ以外の車両、例えばエンジンを有するディーゼルカーに適用することが可能である。ディーゼルカーに適用する場合、回生電力量はゼロであり、消費燃料量を消費電力量とすることができる。