特許第6404203号(P6404203)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404203
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】印刷用紙および印刷物製造方法
(51)【国際特許分類】
   D21H 19/72 20060101AFI20181001BHJP
   D21H 19/64 20060101ALI20181001BHJP
   D21H 27/00 20060101ALI20181001BHJP
   B41M 5/50 20060101ALI20181001BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   D21H19/72
   D21H19/64
   D21H27/00 Z
   B41M5/50 100
   B41J2/01 305
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-225870(P2015-225870)
(22)【出願日】2015年11月18日
(65)【公開番号】特開2016-176170(P2016-176170A)
(43)【公開日】2016年10月6日
【審査請求日】2017年12月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-54091(P2015-54091)
(32)【優先日】2015年3月18日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005980
【氏名又は名称】三菱製紙株式会社
(72)【発明者】
【氏名】西 哲哉
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第08709555(US,B1)
【文献】 特開2010−100975(JP,A)
【文献】 特開2002−326453(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/093277(WO,A1)
【文献】 特開2008−150748(JP,A)
【文献】 特開2007−090606(JP,A)
【文献】 特開2013−104147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B−D21J
B41J2/01−2/215
B41M5/00−5/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原紙と、原紙の少なくとも一方の面に顔料およびバインダーを含有する塗工層とを有する印刷用紙であって、前記原紙の灰分量が20質量%以上30質量%以下であり、前記印刷用紙のJIS P 8113:2006に準拠して求められるCD方向の比引張強度が9.0N・m/g以下且つ(MD方向の比引張強度)/(CD方向の比引張強度)の比が1.9以上2.3以下である印刷用紙。
【請求項2】
前記原紙が少なくともパルプとしてLBKPとNBKPとを含み、LBKPおよびNBKPのJIS P 8121−2:2012「カナダ標準濾水度法」に準拠して求められる濾水度が、(LBKPの濾水度)<(NBKPの濾水度)の関係である請求項1記載の印刷用紙。
【請求項3】
前記塗工層が水溶性多価陽イオン塩を含有する請求項1または2記載の印刷用紙。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の印刷用紙を得る工程と、輪転方式の産業用インクジェット印刷機で前記印刷用紙に印刷して印刷物を得る工程とを含む印刷物製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、輪転方式のインクジェット印刷機に用いる印刷用紙、およびその印刷用紙を使用する印刷物製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無版印刷やオンデマンド印刷に対応することができる輪転方式のインクジェット印刷機が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
高速輪転インクジェット記録方式を用いたプリンティングシステムに使用可能であり、水性インクの吸収乾燥性に優れた普通紙タイプのインクジェット記録用紙として、木材又は非木材パルプを主成分とし、内添サイズ剤をパルプ全量に対して0.15〜0.20重量%加えたパルプスラリーを抄紙して得た原紙の少なくとも片面にカチオン性高分子化合物と水溶性バインダーとの混合液を塗工する普通紙タイプのインクジェット記録紙が公知である(例えば、特許文献2参照)。
また、オフセット印刷適性を維持したまま、輪転型インクジェットプリンティングシステムにおいて、良好なインクセット性を備えた印刷用塗工紙として、カチオン性樹脂を含有する原紙の少なくとも一方の面に、JIS K 5101−13−2:2004に従い求められる吸油度が100ml/100g以下の顔料およびラテックスを主成分とする塗工層を設け、該塗工層中に界面活性剤を片面あたり0.05〜2g/m含有する印刷用塗工紙が公知である(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−157168号公報
【特許文献2】特開2008−126559号公報
【特許文献3】特開2013−104147号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような輪転方式のインクジェット印刷機では、印刷するために印刷用紙に対して、紙の巻き出しから巻き取りまでの間で張力がかけられている。印刷用紙は、巻き出しから巻き取りまでの間で、インクジェット印刷工程および乾燥工程を経る。張力がかかっている状態でインクジェット印刷されると、印刷用紙は、紙の搬送方向と並行する形で波打ち現象やシワを発生する場合がある。通常、CD方向に比べてMD方向が紙の比引張強度において強いことから、紙の巻き取りはMD方向に沿って巻き取られる。従って、紙の搬送方向と並行する形で波打ち現象(コックリング)やシワを発生し易い。これは、インクジェット印刷機に用いられるインクは、水などの溶媒やグリセリンなどの乾燥防止剤が、インクジェットの特徴であるインクの液滴を吐出する原理から、オフセット印刷機などのインクに比べて比較的多く含有するからである。また印刷後、巻き取り状態から解放され平判に断裁したときに、印刷用紙はカールを発生する場合がある。
【0006】
本発明の目的は、輪転方式のインクジェット印刷機において、印刷中のコックリングやシワの発生を抑制し、印刷後に平判へ裁断してもカールの発生を抑制できる印刷用紙を提供することである。
本発明の目的はまた、コックリング、シワおよびカールの発生が抑制された印刷物を製造することができる、輪転方式の産業用インクジェット印刷機を使用する印刷物製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、以下により達成される。
(1)原紙と、原紙の少なくとも一方の面に顔料およびバインダーを含有する塗工層とを有する印刷用紙であって、前記原紙の灰分量が20質量%以上30質量%以下であり、前記印刷用紙のJIS P 8113:2006に準拠して求められるCD方向の比引張強度が9.0N・m/g以下且つ(MD方向の比引張強度)/(CD方向の比引張強度)の比が1.9以上2.3以下である印刷用紙によって達成される。
【0008】
(2)前記原紙が少なくともパルプとしてLBKPとNBKPとを含み、LBKPおよびNBKPのJIS P 8121−2:2012「カナダ標準濾水度法」に準拠して求められる濾水度が、(LBKPの濾水度)<(NBKPの濾水度)の関係である前記(1)に記載の印刷用紙。
【0009】
(3)前記塗工層が水溶性多価陽イオン塩を含有する前記(1)または(2)に記載の印刷用紙。
【0010】
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の印刷用紙を得る工程と、輪転方式の産業用インクジェット印刷機で前記印刷用紙に印刷して印刷物を得る工程とを含む印刷物製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、輪転方式のインクジェット印刷機において、印刷中のコックリングやシワの発生を抑制し、印刷後に平判へ裁断してもカールの発生を抑制できる印刷用紙を提供することができる。また、本発明により、コックリング、シワおよびカールの発生が抑制された印刷物を製造することができる、輪転方式の産業用インクジェット印刷機を使用する印刷物製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0013】
輪転方式のインクジェット印刷機は、ヒューレットパッカード社の輪転機能を備えた大型インクジェット印刷機「HP T300 Color Inkjet Web Press」、ミヤコシ社のインクジェット印刷機「MPJ20シリーズ」、コダック社の高速カラーインクジェットデジタル輪転印刷機「Kodak Prosper 5000XL Press」などとして、既に市販されている。
【0014】
印刷用紙は、坪量が70g/m以下であることが好ましく、さらに60g/m以下であることが好ましい。この範囲であると、本発明の効果が顕著に現れるからである。なお、坪量の下限は特に限定しないが、通常、印刷用紙で使用でき得る範囲の坪量である。坪量は、35g/m以上が好ましい。
【0015】
印刷用紙は、厚さが70μm以下であることが好ましい。厚さがこの範囲であると、本発明の効果が顕著に現れるからである。厚さの下限は特に限定しないが、通常、印刷用紙で使用でき得る範囲の厚さである。厚さは、45μm以上が好ましい。
【0016】
本発明の比引張強度は、JIS P 8113:2006に準拠して求められる比引張強度の値である。本発明の印刷用紙は、CD方向の比引張強度が9.0N・m/g以下である。好ましくは、印刷用紙のCD方向の比引張強度が7.0N・m/g以上9.0N・m/g以下である。CD方向の比引張強度が前記範囲を外れると、コックリング、シワおよびカールの少なくともいずれかにおいて抑制が不十分となる。
【0017】
本発明の印刷用紙は、(MD方向の比引張強度)/(CD方向の比引張強度)の比が1.9以上2.3以下である。この範囲から外れると、コックリング、シワおよびカールの少なくともいずれかにおいて抑制が不十分となる。
【0018】
原紙は、LBKP、NBKPなどの化学パルプ、GP、PGW、RMP、TMP、CTMP、CMP、CGPなどの機械パルプ、およびDIPなどの古紙パルプに、炭酸カルシウムなどの填料を加え、サイズ剤、歩留まり剤、カチオン性化合物、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤など必要に応じて各種添加剤を配合した紙料から、酸性、中性、アルカリ性の条件で抄造した紙である。前記紙は、抄造後に、後述のカレンダー装置を用いてカレンダー処理を施してもよい。
【0019】
原紙は、少なくともパルプとしてLBKPとNBKPとを含むことが好ましい。また、LBKPおよびNBKPのJIS P 8121−2:2012「カナダ標準濾水度法」に準拠して求められる濾水度が、(LBKPの濾水度)<(NBKPの濾水度)の関係であることが好ましい。この理由は、印刷用紙がより低坪量であるとき又はより薄いとき、コックリング、シワおよびカールの発生を抑制することができるからである。ここで、LBKP:NBKPは90:10〜60:40の範囲が好ましく、LBKPおよびNBKPの濾水度は400ml以上540ml以下の範囲が好ましい。
【0020】
本発明において、原紙のサイズ度は、本発明の所望の効果を損なわない限りいずれのサイズ度でもよい。サイズ度は、紙料に配合する内添サイズ剤の量、原紙に塗布する表面サイズ剤の塗工量によって調整することができる。内添サイズ剤は、例えば、ロジン系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、中性ロジン系サイズ剤およびカチオン性スチレン−アクリル系サイズ剤などを挙げることができる。表面サイズ剤は、例えば、スチレン−アクリル系サイズ剤、オレフィン系サイズ剤、スチレン−マレイン酸系サイズ剤などを挙げることができる。
【0021】
灰分量は、原紙を500℃で1時間燃焼処理を行った後の不燃物の質量と、燃焼処理前の原紙の絶乾質量との比率(質量%)である。原紙の灰分量は、20質量%以上30質量%以下である。灰分は填料の含有量の増減により調整することができる。
【0022】
塗工層は、顔料およびバインダーを含有する。
顔料は、製紙分野で従来公知の顔料から選ばれる少なくとも1種である。顔料の例としては、カオリン、炭酸カルシウム、クレー、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、炭酸亜鉛、サチンホワイト、珪酸アルミニウム、ケイソウ土、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、合成非晶質シリカ、コロイダルシリカ、水酸化アルミニウム、アルミナ、リトポン、ゼオライト、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムなどの無機顔料、スチレン系プラスチックピグメント、アクリル系プラスチックピグメント、スチレン−アクリル系プラスチックピグメント、ポリエチレン、マイクロカプセル、尿素樹脂、メラミン樹脂などの有機顔料を挙げることができる。
【0023】
バインダーは、製紙分野で従来公知の水分散性バインダーおよび水溶性バインダーから選ばれる少なくとも1種である。水分散性バインダーの例としては、スチレン−ブタジエン共重合体またはアクリロニトリル−ブタジエン共重合体などの共役ジエン系共重合体ラテックス、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの重合体あるいはメチルメタクリレート−ブタジエン共重合体などのアクリル系共重合体ラテックス、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体などのビニル系共重合体ラテックス、ポリウレタン樹脂ラテックス、アルキド樹脂ラテックス、不飽和ポリエステル樹脂ラテックス、またはこれらの各種共重合体のカルボキシル基などの官能基含有単量体による官能基変性共重合体ラテックス、あるいはメラミン樹脂、尿素樹脂などの熱硬化合成樹脂を挙げることができる。水溶性バインダーの例としては、酸化澱粉、エーテル化澱粉、リン酸エステル化澱粉などの澱粉誘導体、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロースなどのセルロース誘導体、ポリビニルアルコールまたはシラノール変性ポリビニルアルコールなどのポリビニルアルコール誘導体、カゼインやゼラチンまたはそれらの変性物、大豆蛋白、プルラン、アラビアゴム、カラヤゴム、アルブミンなどの天然高分子樹脂またはこれらの誘導体、ポリアクリル酸ソーダなどのビニルポリマー、アルギン酸ソーダ、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、無水マレイン酸またはその共重合体などを挙げることができる。
【0024】
本発明の塗工層は、水溶性多価陽イオン塩を含有することが好ましい。水溶性多価陽イオン塩を含有することによって、コックリング、シワおよびカールについて、さらに抑制することができる。
【0025】
水溶性多価陽イオン塩は、金属の多価陽イオンを含む水溶性塩である。すなわち、水溶性多価陽イオン塩は、金属の多価陽イオンを含み、20℃の水に1質量%以上溶解することができる塩である。金属の多価陽イオンの例としては、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、ニッケル、亜鉛、銅、鉄、コバルト、スズ、マンガンなどの二価陽イオン;アルミニウム、鉄、クロムなどの三価陽イオン;またはチタン、ジルコニウムなどの四価陽イオン;並びにそれらの錯イオンである。金属の多価陽イオンと塩を形成する陰イオンとしては、無機酸および有機酸のいずれでもよく、特に限定されない。無機酸の例としては、塩酸、硝酸、リン酸、硫酸、ホウ酸、フッ化水素酸などを挙げることができる。有機酸の例としては、ギ酸、酢酸、乳酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、有機スルホン酸などを挙げることができる。但し、従来からサイズ剤の定着剤として用いられる硫酸バンドは除く。これらの中で水溶性カルシウム塩が好ましい。さらに、塩化カルシウムおよび硝酸カルシウムが好ましい。
【0026】
塗工層は、前記顔料、前記バインダーおよび前記水溶性多価陽イオン塩以外に、染料定着剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、粘度安定剤、pH調整剤、界面活性剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、着色染料、着色顔料、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、レベリング剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤等の製紙分野で従来公知の添加剤を適宜含有することができる。
【0027】
原紙上に塗工層を設ける方法は、塗工層塗工液を塗工し、次に乾燥する方法が好ましい。塗工層塗工液の塗工は、従来公知の塗工装置を用いる方法であって特に限定されない。塗工装置の例としては、エアーナイフコーター、カーテンコーター、スライドリップコーター、ダイコーター、ブレードコーター、ビルブレードコーター、ショートドエルブレードコーター、ゲートロールコーター、フィルムトランスファーコーター、バーコーター、ロッドコーター、ロールコーター、サイズプレス等を挙げることができる。塗工装置は、高速生産性の点から、ブレードコーター、ビルブレードコーター、ショートドエルブレードコーター、またはフィルムトランスファーコーターが好ましい。塗工装置は、フィルムトランスファーコーターがさらに好ましい。
【0028】
塗工層塗工液を塗工後に乾燥する方法は、従来公知の乾燥装置を用いる方法であって特に限定されない。乾燥装置の例としては、直線トンネル乾燥機、アーチドライヤー、エアーループドライヤー、サインカーブエアーフロートドライヤー等の熱風乾燥機、赤外線加熱ドライヤー、マイクロ波等を利用した乾燥機等を挙げることができる。
【0029】
塗工層を設けた後には、必要に応じてマシンカレンダー、ソフトニップカレンダー、スーパーカレンダー、多段カレンダー、マルチニップカレンダー等を用いてカレンダー処理を施すことができる。
【0030】
本発明のCD方向の比引張強度あるいは(MD方向の比引張強度)/(CD方向の比引張強度)の比を得る方法は、製紙分野で従来公知であって、例えば、原紙の灰分量、パルプの濾水度、および抄造におけるパルプ噴出速度/長網ワイヤー速度(J/W比)などを調整する方法を挙げることができる。
【0031】
印刷物製造方法
本発明の印刷物製造方法は、上記の印刷用紙を得る工程と、輪転方式の産業用インクジェット印刷機でこの印刷用紙に印刷して印刷物を得る工程とを含む。本発明の印刷物製造方法により、コックリング、シワおよびカールの発生が抑制された印刷物を製造することができる。印刷用紙および輪転方式の産業用インクジェット印刷機は、上記の印刷用紙および輪転方式の産業用インクジェット印刷機と同じであり、重複する説明は記載を割愛する。
【0032】
上記印刷用紙を得る工程は、印刷用紙を製造すること、または製造された印刷用紙を入手することを含む。
【0033】
輪転方式の産業用インクジェット印刷機で印刷用紙に印刷して印刷物を得る工程において、得られる印刷物の耐候性の点から、輪転方式の産業用インクジェット印刷機は、水性顔料インクを使用することが好ましい。
【0034】
輪転方式の産業用インクジェット印刷機で印刷用紙に印刷して印刷物を得る工程において、印刷速度は好ましくは100m/分超である。
【0035】
本発明の印刷物製造方法では、輪転方式の産業用インクジェット印刷機で印刷する工程の前および/または後に、グラビア印刷機、オフセット印刷機、活版印刷機、およびフレキソ印刷機などから選択される印刷機で前記印刷用紙に印刷する工程をさらに含んでいてもよい。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。また、実施例において示す質量部および質量%は、乾燥固形分あるいは実質成分の値を示す。また、塗工量は乾燥固形分の値を示す。
【0037】
(原紙の作製)
表1に記載の濾水度のLBKPおよびNBKPを合わせて100質量部からなるパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウムを原紙の灰分量が所定の値になる質量部数、両性澱粉0.8質量部、硫酸バンド0.8質量部、アルキルケテンダイマー型サイズ剤(サイズパインK903、荒川化学工業社製)1.0質量部を混合した紙料を、長網抄紙機で抄造し、次にマシンカレンダー処理をして、結果として坪量が68.9g/m、53.2g/m、41.3g/mになる原紙を作製した。原紙の作製において、各実施例および各比較例の印刷用紙が、それぞれ表1に記載するCD方向およびMD方向の比引張強度になるように、原紙の灰分量、パルプの濾水度および抄造におけるパルプ噴出速度/長網ワイヤー速度(J/W比)、を適宜調整した。
【0038】
<塗工層塗工液の調製>
塗工層塗工液は、下記の内容により調製した。
重質炭酸カルシウム 50質量部
軽質炭酸カルシウム 50質量部
ポリビニルアルコール 10質量部
リン酸エステル化澱粉 10質量部
水溶性多価陽イオン塩 質量部数は表1に記載
上記の内容で配合し、水で混合分散して固形分濃度40質量%に調整した。
【0039】
原紙の灰分量は、原紙を500℃で1時間燃焼処理を行った後の不燃物の質量と、燃焼処理前の原紙の絶乾質量との比率(質量%)である。
【0040】
【表1】
【0041】
実施例1〜実施例3および実施例7〜実施例20は水溶性多価陽イオン塩に塩化カルシウムを用いた。実施例21は水溶性多価陽イオン塩に硝酸カルシウムを用いた。実施例22は水溶性多価陽イオン塩にギ酸カルシウムを用いた。実施例23は水溶性多価陽イオン塩に塩化マグネシウムを用いた。
【0042】
各実施例および各比較例の印刷用紙について以下の手順により作製した。
【0043】
<印刷用紙の作製>
原紙両面に、塗工層塗工液を、フィルムトランスファーコーターを用いて、片面あたり塗工量が5g/mになるように塗工し、続いて乾燥させて紙を作製した。次に、得られた紙にカレンダー処理を施して印刷用紙を作製した。カレンダーは、弾性ロールと金属ロールからなる装置を用いて、ニップ線圧は幅方向の厚みプロファイルが適切に得られる範囲において、線圧75〜85kN/mの範囲で行った。また金属ロールの温度は40℃とした。
【0044】
得られた印刷用紙に対して、評価は、以下の方法によって行った。評価結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
<比引張強度の測定>
JIS P 8113:2006に準拠する方法によって、印刷用紙のCD方向の比引張強度およびMD方向の比引張強度を測定した。測定装置には、オリエンテック社製のテンシロン万能材料試験機を用いた。
【0047】
<コックリングの評価>
ヒューレットパッカード社製輪転方式のインクジェット印刷機(HP T300 Color Inkjet Web Press)で、印刷速度120m/分、CMYK4色インクで印刷を行った。印刷後に巻き取られた印刷用紙から、任意に1m×1mサイズに一部切り取り、発生するコックリングを目視によって下記の4段階で評価した。本発明において、2〜4の評価であればコックリングの発生が抑制されているものとする。
4:コックリングが認められず、極めて良好。
3:コックリングが僅かに認められるが、良好。
2:コックリングが認められるが、実用上問題ない程度。
1:コックリングが認められ、実用上問題になる程度。
【0048】
<シワの評価>
ヒューレットパッカード社製輪転方式のインクジェット印刷機(HP T300 Color Inkjet Web Press)で、印刷速度120m/分、CMYK4色インクで印刷を行った。印刷中において、印刷機の乾燥工程付近で印刷用紙に発生するシワを目視によって下記の4段階で評価した。本発明において、2〜4の評価であればシワの発生が抑制されているものとする。
4:シワが認められず、極めて良好。
3:シワが僅かに認められるが、良好。
2:シワが認められるが、実用上問題ない程度。
1:シワが認められ、実用上問題になる程度。
【0049】
<カールの評価>
ヒューレットパッカード社製輪転方式のインクジェット印刷機(HP T300 Color Inkjet Web Press)で、印刷速度120m/分、CMYK4色インクで印刷を行った。印刷後に巻き取られた印刷用紙から任意に、長辺がMD方向としてA4サイズに一部断裁した。断裁したA4印刷用紙を常温常湿状態に24時間放置した後、発生するカールを目視によって下記の4段階で評価した。本発明において、2〜4の評価であればカールの発生が抑制されているものとする。
4:カールがほぼ認められず、良好。
3:カールが幾分認められるが、良好。
2:カールが認められるが、実用上問題ない程度。
1:カールが認められ、実用上問題ある程度。
【0050】
表1の結果から、本発明に相当する実施例1〜23は、輪転方式のインクジェット印刷機に対してコックリング、シワおよびカールの発生が抑制されていると分かる。本発明に相当しない比較例1〜10は本発明の効果が得られないと分かる。
また主に、実施例2、12および17と実施例9〜11、実施例13〜16および実施例18〜20との対比から、特に低坪量のときに、原紙が少なくともパルプとしてLBKPとNBKPとを含み、且つ(LBKPの濾水度)<(NBKPの濾水度)の関係を満足することがより好ましいと分かる。
また主に、実施例1〜3、7、8および実施例21〜23と実施例4〜6との対比から、塗工層が水溶性多価陽イオン塩を含有することが好ましいと分かる。
また主に、実施例2、21および22と実施例23との対比から、水溶性多価陽イオン塩がカルシウム塩であることが好ましいと分かる。