(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、そのオリゴヌクレオチドの5’および/または3’末端に1つから2つの付加的なモルホリノヌクレオチドをさらに含む、請求項5に記載の医薬組成物。
カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列:5’−AGCAGCAGCAGCAGCAGCAGCAGCA−3’を含む、請求項5に記載の医薬組成物。
カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドはホスホロジアミデートカチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の医薬組成物。
カチオン性ペプチドは、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの5’末端に結合したスペーサー部分によって、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドから分離される、請求項1〜9のいずれか1項に記載の医薬組成物。
カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、前脛骨筋、四頭筋および/または腓腹筋の細胞を透過する、請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬組成物。
DM1の前記少なくとも1つの症状は、筋核内のリボ核病巣におけるmusclebind−like−1(MBNL−1)タンパク質の凝集である、請求項1〜13のいずれか1項に記載の医薬組成物。
DM1の前記少なくとも1つの症状は、筋細胞における少なくとも1種のRNA転写産物の異常なスプライシングである、請求項1〜14のいずれか1項に記載の医薬組成物。
カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、少なくとも1週間にわたって個体に投与される、請求項1〜18のいずれか1項に記載の医薬組成物。
カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、医薬として許容される賦形剤と共に投与される、請求項1〜19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、特に、筋強直性ジストロフィー1型(DM1)の個体において複数の組織および/または組織型に全身的に送達され得るカチオン性ペプチド結合モルホリノ(PPMO)アンチセンスオリゴヌクレオチドを提供する。本発明者らは、DM1の動物モデルにおいて全身的に投与した場合、CAG配列モルホリノへの細胞透過性ペプチドの付加が、筋組織へのPPMOの十分な取り込みを可能にして、伸長したCUGリピートの有毒作用を中和することを発見した。多数のポリCUG mRNAを持つ個体の筋細胞へのこうしたモルホリノの送達およびそれらの透過は、幾つかのタンパク質のスプライシング異常の完全に近い解決、RNA病巣からのMBNL1の遊離および筋強直の消失と関連があった。
【0012】
I.一般的技術
本発明の実施は、別段指示がない限り、核酸化学、分子生物学、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学における当業者に周知な従来技術を用いる。そうした技術は、文献、例えばMolecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版(Sambrookら、1989)およびMolecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版(SambrookおよびRussel、2001)(一緒に「Sambrook」として本明細書で言及する);Current Protocols in Molecular Biology(F.M.Ausubelら編、1987、2001までの補遺を含める);PCR:The Polymerase Chain Reaction(Mullisら編、1994)において十分に説明されている。核酸は、例えばCarruthers(1982)Cold Spring Harbor Symp.Quant.Biol.47:411〜418;Adams(1983)J.Am.Chem.Soc.105:661;Belousov(1997)Nucleic Acids Res.5 25:3440〜3444;Frenkel(1995)Free Radic.Biol.Med.19:373〜380;Blommers(1994)Biochemistry 33:7886〜7896;Narang(1979)Meth.Enzymol.68:90;Brown(1979)Meth.Enzymol.68:109;Beaucage(1981)Tetra.Lett.22:1859;米国特許第4,458,066号に記載されているような周知の化学合成技術によって、in vitroで合成することができる。
【0013】
II.定義
用語「RNA標的」は、配列特異的様式でモルホリノが結合するRNA転写産物を指す。幾つかの実施形態では、RNA標的は、可変数のCUGトリヌクレオチドリピートエレメントを3’非翻訳領域に有する、1種またはそれ以上のDMPK mRNA分子である。
【0014】
「モルホリノ」または「モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチド」は、モルホリノサブユニット構造で構成されるオリゴヌクレオチド類似体であって、(i)構造が、1つから3つの原子長、好ましくは2つの原子長であり、好ましくは無電荷またはカチオン性であり、1つのサブユニットのモルホリノ窒素を隣接するサブユニットの5’環外炭素に結合する、リン含有結合によって結合しており、(ii)各モルホリノ環が、塩基特異的水素結合によってポリヌクレオチド中の塩基に結合するのに有効なプリンまたはピリミジン塩基対形成部分を有する、オリゴヌクレオチド類似体を指す。幾つかの実施形態では、モルホリノは、RNA標的のタンパク質への翻訳を遮断するRNA標的に結合する。他の実施形態では、モルホリノは、RNA標的自体との、または他の細胞性RNA、タンパク質もしくはリボタンパク質、例えばこれらに限定されないが、細胞のmRNAスプライシング装置に関連するRNA、タンパク質およびリボタンパク質との、RNA標的の凝集を防止する。
【0015】
「個体」は、哺乳動物、例えば、任意の一般的な実験用モデル生物または哺乳動物であってもよい。哺乳動物としては、これらに限定されないが、ヒトおよび非ヒト霊長類、家畜、競技動物、愛玩動物、マウス、ラットおよび他のげっ歯類が挙げられる。
【0016】
本明細書で使用する場合、「治療」(および「治療する」または「治療すること」などのその文法的変形)は、臨床病理の過程において治療を受ける個体または細胞の自然経過を変化させることを目的とする、臨床的介入を指す。治療の望ましい効果としては、これらに限定されないが、疾患進行速度の低下、病態の回復または寛解、および緩解または改善した予後が挙げられる。
【0017】
本明細書で使用する場合、「予防」は、個体において、疾患または疾患に関連する症状の出現または再発に対して予防法を提供することを含む。個体は、疾患を発生する素因があっても、疾患を発生しやすくても、疾患を発生する危険性があってもよいが、まだ疾患と診断されていない。
【0018】
「有効量」または「治療有効量」は、単回用量としてまたは一連の用量の一部としてのいずれかで哺乳類対象に投与されるアンチセンスオリゴマーなどの治療用化合物の量であって、所望の治療効果をもたらすのに有効である量を指す。アンチセンスオリゴマーについては、この効果は、一般的には、選択された標的配列の翻訳または天然のスプライスプロセシングを阻害することによってもたらされる。
【0019】
本明細書で使用する場合、別段指示がない限り、単数形「1つ(a)」、「1つ(an)」および「その(the)」は、複数の意味を含む。
【0020】
本明細書に記載される本発明の態様および実施形態は、態様および実施形態を「含むこと」、態様および実施形態「からなること」ならびに態様および実施形態「から本質的になること」を含むことが理解されよう。
【0021】
本明細書全体を通して与えられるすべての最大数値限定は、それより小さいすべての数値限定を、そのようなより小さい数値限定が本明細書に明確に記載されているかのように含むものとする。本明細書全体を通して与えられるすべての最小数値限定は、それより高いすべての数値限定を、そのようなより高い数値限定が本明細書に明確に記載されているかのように含む。本明細書全体を通して与えられるすべての数値範囲は、そのようなより広い数値範囲内に入るそれより狭いすべての数値範囲を、そのようなより狭い数値範囲がすべての本明細書に明確に記載されているかのように含む。
【0022】
III.組成物
A.モルホリノ
モルホリノは、天然に存在する核酸と酷似している構造を有する合成分子である。こうした核酸は、標準的な核酸塩基対形成によって相補的なRNA配列に結合する。構造的に、モルホリノは、こうした分子はデオキシリボース環またはリボース環の代わりにモルホリン環に結合した核酸塩基を有するという点において、DNAまたはRNAとは異なる。さらに、モルホリノの骨格構造は、リン酸塩の代わりに非イオン性またはカチオン性の結合基からなる。例えば、無電荷のホスホロジアミデート基とのアニオン性のリン酸塩の置き換えによって、通常の生理的pH範囲においてイオン化が除かれ、生物または細胞においてモルホリノは無電荷の分子になる。モルホリノは一本鎖オリゴとして最も一般に使用されるが、モルホリノ鎖と相補DNA鎖のヘテロ二本鎖をカチオン性のサイトゾル送達試薬と組み合わせて使用することもできる。
【0023】
多くのアンチセンス構造型(例えばホスホロチオエート)と異なり、モルホリノは、その標的RNA分子を分解しない。その代わりに、モルホリノは、「立体的遮断」によって、すなわちRNA内の標的配列に結合し、さもないとRNAと相互作用し得る分子を立体的に妨害することによって働く。伝令RNA(mRNA)の5’非翻訳領域に結合すると、モルホリノは、5’キャップから開始コドンへのリボゾーム開始複合体の進行を妨げることができる。これは、標的転写産物のコード領域の翻訳を防止する(「ノックダウン」遺伝子発現と呼ばれる)。ある種のモルホリノは発現を非常に効率的にノックダウンするので、既存のタンパク質が分解された後に、標的タンパク質はウェスタンブロットによって検出不可能になる。
【0024】
モルホリノは、通常、スプライス指向snRNP複合体がRNA前駆体鎖のイントロンの境界でその標的へ結合するのを防止することによって、mRNA前駆体のプロセシング工程を妨げることもできる。U1(ドナー部位で)またはU2/U5(ポリピリミジン部分およびアクセプター部位で)が結合するのを防止することによって、修飾されたスプライシングが引き起こされ得、これによって、一般に、成熟mRNA転写産物からエキソンが排除され得る。スプライス修飾は、好都合には、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によってアッセイすることができ、RT−PCR産物のゲル電気泳動後にバンドシフトとして観察される。
【0025】
モルホリノは、イントロンスプライスサイレンサーおよびスプライスエンハンサーを遮断するのにも使用されている。モルホリノによって、U2およびU12 snRNPの機能が阻害された。タンパク質コード領域内の「不安定な」mRNA配列を標的にしたモルホリノは、翻訳フレームシフトを誘導することができる。こうした様々な標的に対するモルホリノの活性によって、モルホリノを、タンパク質または核酸とmRNAとの相互作用を遮断するための汎用ツールとして使用できることが示唆される。
【0026】
本発明の組成物は、1つから3つの原子長であって、1つのサブユニットのモルホリノ窒素を隣接するサブユニットの5’環外炭素に結合する無電荷のリン含有結合によって結合しているモルホリノサブユニットで構成され、モルホリノ基に結合している塩基は、塩基特異的水素結合によってポリヌクレオチド中の塩基に結合するのに有効な、プリンまたはピリミジン塩基対形成部分である。プリンまたはピリミジン塩基対形成部分は、一般的には、アデニン、シトシン、グアニン、ウラシルまたはチミンである。そのようなオリゴマーの製造は、米国特許第5,185,444号に詳細に記載されており、その内容全体を参照によって本明細書に組み入れる。結合または活性を妨げない限り、この結合に対して変更を行うことができる。例えば、リンに結合している酸素を硫黄(チオホスホロジアミデート)で置換することができる。5’酸素を、アミノ基または低級アルキル置換アミノ基で置換することができる。リンに結合しているペンダント窒素は、無置換でもよく、(場合により置換された)低級アルキルで一置換または二置換されていてもよい。プリンまたはピリミジン塩基対形成部分は、一般的にはアデニン、シトシン、グアニン、ウラシル、チミンまたはイノシンである。モルホリノの合成、構造および結合特性は、米国特許第5,698,685号、第5,217,866号、第5,142,047号、第5,034,506号、第5,166,315、第5,521,063号、第5,506,337号および国際特許出願公開第WO2008/036127号に詳述されており、それらすべてを参照によって本明細書に組み入れる。
【0027】
幾つかの態様では、本発明のモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、筋強直性ジストロフィープロテインキナーゼ(DMPK)RNA標的の3’非翻訳領域(UTR)のポリCUGリピート配列と相補的でもよい。幾つかの実施形態では、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、筋強直性ジストロフィープロテインキナーゼ(DMPK)RNA標的の3’非翻訳領域と、少なくとも約90%、95%または100%のいずれか(これらの値の間にある任意のパーセンテージを中に入れ、含める)の同一性である。幾つかの実施形態では、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、DMPK RNA標的の3’非翻訳領域(UTR)の少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24もしくは25またはそれ以上のいずれかのポリCUGリピート配列と相補的である。幾つかの実施形態では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、nが約5〜25のいずれかである配列5’−(AGC)
n−3’、5’−(GCA)
n−3’または5’−(CAG)
n−3’を含む。別の実施形態では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの5’および/または3’末端に1つから2つの付加的なモルホリノヌクレオチドをさらに含むことができる。幾つかの実施形態では、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列5’−AGCAGCAGCAGCAGCAGCAGCAGCA−3を含む。別の実施形態では、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、配列特異的な様式でDMPK RNA転写産物に結合する。幾つかの実施形態では、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、5’アミン修飾を含む。別の実施形態では、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドはホスホロジアミデートカチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドでもよい。
【0028】
B.カチオン性細胞透過性ペプチドおよびカチオン性ペプチド結合モルホリノ
本明細書に記載のモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、筋細胞へのモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの全身的送達を容易にするカチオン性ペプチドに結合している。一般に、本明細書に記載のカチオン性ペプチドは8から30個のアミノ酸残基の長さであり得、RXR、RX、RBおよびRBRからなる群から選択されるサブ配列からなり;Rはアルギニン(D−アルギニンを含むことができる)であり、Bはβ−アラニンであり、各Xは独立に−NH−(CHR
1)
n−C(O)−であり、nは4〜6であり、各R
1は独立にHまたはメチルであり、ただし最大で2つのR
1’がメチルである。幾つかの実施形態では、各R
1は水素である。他の実施形態では、カチオン性ペプチドは、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29または30アミノ酸残基の長さのいずれかでもよい。別の実施形態では、例えば6−アミノヘキサン酸のように、変数nは5である。一実施形態では、カチオン性ペプチドは、アミノ酸配列Ac(RXRRBR)
2XB−を含み、Acはアセチル基である。別の実施形態では、カチオン性ペプチドは、アミノ酸配列Ac(RXR)
4XB−を含み、Acはアセチル基である。カチオン性細胞透過性ペプチドの合成および構造に関するさらなる情報は、米国特許出願公開第2009/0099066号に見出すことができ、その開示を、参照によって完全に本明細書に組み入れる。
【0029】
一態様では、カチオン性ペプチドは、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドに直接結合している。他の実施形態では、カチオン性ペプチドは、モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの5’末端に結合しているスペーサー部分を介してモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドに結合している。スペーサー部分は、カチオン性ペプチドを合成する間にペプチド中に組み入れられてもよい。例えば、スペーサーが遊離アミノ基および別の分子部分への結合を可能にする第二の官能基(例えばカルボキシル基またはアミノ基)を含む場合は、スペーサーは、ペプチド合成に使用される固体支持体にコンジュゲートしていてもよい。その後カチオン性ペプチドを、標準的な固相技術によってスペーサーの遊離アミノ基上に直接合成することができる。別の実施形態では、スペーサー部分は、ペプチド合成の後にカチオン性ペプチドにコンジュゲートすることができる。そうしたコンジュゲーションは、当技術分野で十分に確立された方法によって達成することができる。一実施形態では、リンカーは、合成されたカチオン性ペプチドの標的官能基への結合に適した少なくとも1つの官能基を含む。例えば、遊離アミン基を有するスペーサーをカチオン性ペプチドのC末端カルボキシル基と反応させることができる。幾つかの実施形態では、スペーサー部分は:
【化2】
を含む。
【0030】
一実施形態では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、以下の構造:
【化3】
を有し、
式中、R
2は、カチオン性ペプチド(本明細書に開示されるカチオン性ペプチドのいずれかなど)であり、R
3は、H、CH
3またはCH
2CONH
2であり、R
4は、nが約5〜25のいずれかである配列5’−(AGC)
n−3’、5’−(GCA)
n−3’または5’−(CAG)
n−3’を含むモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドである。別の実施形態では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの5’および/または3’末端に1つから2つの付加的なモルホリノヌクレオチドをさらに含むことができる。
【0031】
別の態様では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、
【化4】
を含み、
式中、Acはアセチルであり、Rはアルギニン(D−アルギニンを含むことができる)であり、Bはβ−アラニンであり、各Xは独立に、−NH−(CHR
1)
n−C(O)−であり、nは4〜6であり、各R
1はHであり、R
4は、配列5’−AG(CAG)
7CA−3’を含むモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0032】
別の態様では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、
【化5】
を含み、
式中、Acはアセチルであり、Rはアルギニン(D−アルギニンを含むことができる)であり、Bはβ−アラニンであり、各Xは独立に−NH−(CHR
1)
n−C(O)−であり、nは4〜6であり、各R
1はHであり、R
4は、配列5’−AG(CAG)
7CA−3’を含むモルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドである。
【0033】
C.医薬製剤
医薬品として用いられる場合は、本明細書に開示されるカチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、医薬組成物中に配合される医薬として許容される賦形剤または担体と共に配合することができる。
【0034】
医薬品として用いられる場合は、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、医薬組成物の形で投与することができる。これらの化合物は、経口、直腸、経皮、皮下、静脈内、筋肉内および鼻腔内を含めた様々な経路で投与することができる。これらの化合物は、注射用組成物および経口組成物の両方として有効である。そうした組成物は、医薬分野で周知の方法で製造され、少なくとも1種の活性化合物を含む。
【0035】
本発明は、1種またはそれ以上の医薬として許容される賦形剤または担体に関連するカチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの1種またはそれ以上を活性成分として含有する医薬組成物も含む。本発明の組成物の製造では、活性成分は、通常、賦形剤もしくは担体と混合され、賦形剤もしくは担体で希釈され、またはカプセル、サッシェ、紙もしくは他の容器の形であり得る賦形剤もしくは担体内に封入される。賦形剤または担体が希釈剤として働く場合は、それらは、固体材料でも半固体材料でも液体の材料でもよく、活性成分に対するビヒクル、担体または媒体として働く。したがって、組成物は、錠剤、丸剤、散剤、ロゼンジ剤、サッシェ剤、カシェ剤、エリキシル剤、懸濁剤、乳濁液、液剤、シロップ剤、エアロゾル剤(固体としてのまたは液体媒質中の)、例えば10重量%までの活性化合物を含む軟膏剤、軟質または硬質のゼラチンカプセル剤、坐剤、滅菌した注射用液剤および滅菌した包装散剤の形であってもよい。
【0036】
製剤の製造では、他の成分と組み合わせるより前に、活性化合物を製粉して適切な粒径にすることが必要な場合がある。活性化合物が実質的に不溶性である場合は、活性化合物は、通常200メッシュ未満の粒径に製粉される。活性化合物が実質的に水溶性である場合は、粒径は通常は、製粉することによって、製剤中に実質的に均一な分布をもたらすように、例えば約40メッシュに調整される。
【0037】
適切な賦形剤または担体の幾つかの例としては、ラクトース、デキストロース、ショ糖、ソルビトール、マンニトール、デンプン、アラビアゴム、リン酸カルシウム、アルギネート、トラガント、ゼラチン、ケイ酸カルシウム、微結晶セルロース、ポリビニルピロリドン、セルロース、滅菌水、シロップおよびメチルセルロースが挙げられる。製剤は、さらに以下を含むことができる:平滑剤、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウムおよびミネラルオイル;湿潤剤;乳化剤および懸濁化剤;保存剤、例えばメチル−およびプロピルヒドロキシ−ベンゾエート;甘味剤;および着香剤。本発明の組成物は、当技術分野で既知の方法によって、患者に投与した後に、活性成分の急速放出、持続性放出または遅延放出をもたらすように配合することができる。
【0038】
組成物は好ましくは単位剤形で配合され、各投薬は、約5mgから約100mgまたはそれ以上、例えば、約5mgから約10mg、約5mgから約20mg、約5mgから約30mg、約5mgから約40mg、約5mgから約50mg、約5mgから約60mg、約5mgから約70mg、約5mgから約80mg、または約5mgから約90mgのいずれか(これらの値の間にある任意の範囲を中に入れ、含める)の活性成分を含む。用語「単位剤形」は、個体に対する単位投与量として適切な、物理的に分離した単位を指し、各単位は、適切な医薬品賦形剤または担体と共に、所望の治療効果をもたらすように計算された、あらかじめ決定された量の活性材料を含む。
【0039】
カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは広い投与量範囲にわたって有効であり、一般に治療有効量で投与される。しかし、実際に投与されるカチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの量は、治療すべき状態、選択された投与経路、投与される実際の化合物、個々の患者の年齢、体重および応答、患者の症状の重症度などを含めた関連する状況を考慮して医師によって決定されることを理解されたい。
【0040】
錠剤などの固体組成物を製造するために、主要な活性成分/カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、本発明の化合物の均一な混合物を含む固体の前製剤組成物を形成するために、医薬品賦形剤または担体と混合される。これらの前製剤組成物を均一と言及する場合は、これは、組成物を有効な単位剤形、例えば錠剤、丸剤およびカプセル剤に容易に等しく細分することができるように、活性成分が組成物全体にわたって均等に分散していることを意味する。
【0041】
本発明の錠剤または丸剤は、持続性作用という利点を与える剤形を提供するために、コーティングまたは調合することができる。例えば、錠剤または丸剤は、内部投与成分および外部投与成分を含むことができ、後者が前者を覆う外被の形である。2つの成分は、胃での崩壊に抵抗性を示し、内部成分をインタクトな状態で十二指腸へ通過させるかまたは放出を遅延させるように働く腸溶層によって分離することができる。様々な材料をそのような腸溶層またはコーティングに使用することができ、そのような材料としては、幾つかのポリマー酸およびシェラック、セチルアルコールおよび酢酸セルロースのような材料とのポリマー酸との混合物が挙げられる。
【0042】
経口的または注射による投与のために本発明の新規な組成物を組み入れることができる液体形態としては、水性液剤、適切に香気が付けられたシロップ剤、水性または油性懸濁剤、および食用油、例えばトウモロコシ油、綿実油、ゴマ油、ココナッツ油またはピーナッツ油で香気が付けられた乳濁液、ならびにエリキシル剤および類似の医薬品ビヒクルが挙げられる。
【0043】
吸入または吹送のための組成物としては、医薬として許容される水性溶媒もしくは有機溶媒またはそれらの混合物中の液剤および懸濁剤、ならびに散剤が挙げられる。液体または固体組成物は、上記のような適切な医薬として許容される賦形剤を含むことができる。組成物は、局部的または全身的作用のために、口または鼻呼吸経路によって投与することができる。医薬として許容される溶媒中の組成物は、不活性ガスを使用して噴霧することができる。噴霧液剤は、噴霧装置から直接的に吸入してもよく、または噴霧装置は、フェイスマスクテントもしくは間欠性陽圧呼吸模擬装置に取り付けられていてもよい。液剤、懸濁剤または散剤組成物は、適切な様式で製剤を送達する装置から、経口的または経鼻的に投与することができる。
【0044】
IV.本発明の方法
本明細書に開示される(組成物中などの)カチオン性ペプチド結合モルホリノ(PPMO)アンチセンスオリゴヌクレオチドは、個体における筋強直性ジストロフィーI型(DM1)の症状の治療および/または予防に使用することができる。幾つかの態様では、個体は、DM1を発生する危険性がある。幾つかの態様では、方法は、有効量のカチオン性ペプチド結合モルホリノ(PPMO)アンチセンスオリゴヌクレオチドまたは本明細書に開示される該オリゴヌクレオチドを含む組成物を全身的に個体に投与することによって、個体のDM1に関連する症状(本明細書に記載の症状のいずれかなど)を治療および/または予防することを含むことができる。幾つかの実施形態では、個体は、DM1を有していると診断されるか、疑われる。
【0045】
本発明は、以下に詳細に記載されているように、DM1に関連する症状または状態(身体障害、機能障害)を阻害するための方法に関する。したがって、状態のすべての影響が完全に予防されまたは回復することは必要とされないが、本明細書中に開示された方法の効果は、患者にとって著しい治療的利益にまで及ぶと思われる。したがって、治療的利益は、必ずしもDM1に起因する特定の状態の完全な予防または治癒ではなく、むしろ、DM1に起因する症状を低減させるもしくは防止すること、そのような症状の出現を(量的もしくは質的のいずれかで)低減させるもしくは防止すること、そのような症状の重症度もしくはそれらの生理的影響を低減させること、および/またはDM1の症状を経験した後の個体の回復を高めることを含む結果を包含し得る。
【0046】
別の態様では、細胞内の1種またはそれ以上のDMPK mRNA転写産物の凝集を低減させる方法が提供される。幾つかの実施形態では、方法は、細胞核中の1種またはそれ以上のDMPK mRNA転写産物の凝集を防止する。
【0047】
別の態様では、1種またはそれ以上のDMPK mRNA転写産物の凝集および細胞内の1種またはそれ以上の核タンパク質またはRNAを低減させる方法が、本明細書で提供される。幾つかの実施形態では、1種またはそれ以上の核タンパク質は、スプライシングを受けた成熟mRNAへのmRNA前駆体(ヘテロ核RNA(hnRNA)としても知られている)のスプライシングに関与するタンパク質である。一実施形態では、核タンパク質は低分子コアタンパク質(Smタンパク質としても知られている)であり、SmB、SmB’、SmD1、SmD2、SmD3、SmE、SmF、SmGまたはSmNの1種またはそれ以上であり得る。幾つかの実施形態では、1種またはそれ以上の核RNAは、スプライシングを受けた成熟mRNAへのhnRNAのスプライシングに関与するRNAである。別の実施形態では、核RNAは核内低分子RNA(snRNA)であり、U1、U2、U3、U4、U5、U6、U11、U12、U4atacまたはU6atacの1種またはそれ以上であり得る。幾つかの実施形態では、1種またはそれ以上の核タンパク質またはRNAは、核のリボタンパク質複合体を含む。別の実施形態では、RNAは、細胞性スプライシング装置の一部ではないRNA、例えばSerca−1、m−Titin、ZaspおよびCIC−1であり得る。一実施形態では、細胞は、骨格筋細胞、平滑筋細胞または心筋細胞などの筋細胞である。
【0048】
特に本発明の組成物は、個体に投与される場合、DM1に関連する症状もしくは状態の1つもしくはそれ以上を治療もしくは予防する、および/またはこの障害の症状もしくはこの障害に関連する状態を低減もしくは緩和することができる。したがって、DM1に起因する影響または症状から個体を保護することは、障害の影響の出現および/または重症度を予防するまたは低減させることと、障害の影響が既に生じているまたは生じ始めている患者を治療することの両方を含む。有益効果は、当業者および/または患者を治療している熟練した臨床医によって、容易に評価することができる。好ましくは、本発明の方法を用いて治療を受けた患者を評価するのに使用される少なくとも1つの臨床的または生物学的なスコア、値または尺度の重大度または出現において、治療を受けていない患者と比較して、ポジティブなまたは有益な差が存在する。
【0049】
A.筋強直性ジストロフィー
筋強直性ジストロフィー(筋緊張性ジストロフィーまたは萎縮性筋緊張症としても知られている)は、筋消耗(筋ジストロフィー)、白内障、心臓の伝導異常、内分泌変化および筋強直を含む主症状を伴う、慢性の、緩徐進行性の、非常に可変性の、遺伝性の多臓器性(multisystemic)疾患である。筋強直性ジストロフィー1型(DM1)は、別名「シュタイネルト病」として知られ、重度の先天型および軽度の小児期発症型の両方があり、主として骨格筋で発現するタンパク質であって、第19染色体の長腕に位置する、筋強直性ジストロフィープロテインキナーゼ(DMPK)と呼ばれる遺伝子の突然変異に起因する。筋強直性ジストロフィー2型(DM2)は、近位型筋緊張性ミオパシー(PROMM)とも呼ばれ、DM1よりまれであり、一般に、軽度の症候および症状を伴って現れる。DM2は、第3染色体のZNF9遺伝子の異常によって近接的に引き起こされる。筋強直性ジストロフィーはいかなる年齢の患者でも生じ得、疾患形態は常染色体優性の遺伝パターンを示す。DM1は、成人で診断される筋ジストロフィーの最も一般的な形態であり、有病率は、日本での100,000人に1人からヨーロッパでの100,000人に3〜15人に及ぶ(Turner&Hilton−Jones、2010、J Neurol Neurosurg Psychiatry 81:358〜367)。
【0050】
DM1に苦しんでいる個体の発症年齢および症状の重症度は、遺伝的に関連する個体間でさえも著しく変動し得る。ある個体では、症状は出生時に現れ得るか、かなりの高齢まで明らかにならない。DM1は進行性の障害であり、症状は一般に時間と共に緩徐に悪化する。したがって、症状が若年期に現れる個体は、障害に特有な症状を高齢期まで呈さない個体のものと比べると、一般的には、多くの数の合併症および重度の症状の両方を経験する。それにもかかわらず、個体の予後は変動し、疾患がいずれか1個体にどのように影響を及ぼすかについて、正確に予測することはできない。
【0051】
1.心血管系の症状
DM1を有するある個体は、中度から重度の心肺異常を経験し得る。例えば、心筋症によって引き起こされる完全な心伝導遮断および心室細動/頻脈による突然死は、場合によってはDM1が原因であった。DM1に関連する他の心血管系の症状としては、これらに限定されないが、心臓性失神および失神性めまい、心伝導異常、不整脈、低血圧ならびにうっ血性心不全が挙げられる。しばしば、DM1と診断された個体は、他の神経筋の症状を発症した後心血管系の症状を発生する。しかし、無症候性の小児が突然の心臓死に対する観察可能な危険性を有することを示すデータもある。
【0052】
2.中枢神経系の症状
過剰な日中の眠気(睡眠過剰)は、発症年齢に関係なくDM1の個体に観察されることが多い。全身性疲労もDM1で一般に観察されるが、睡眠過剰は、夜間睡眠が正常または正常より多いにもかかわらず、日中に、頻繁にかつしばしば予測不可能に睡眠する必要があることを特徴とする。
【0053】
DM1と診断された個体に著しい末梢神経異常が確認されなかったものの、神経伝導検査によって、末梢神経機能におけるある種の軽微な異常が確認された。DM1誘導性末梢神経機能不全の主因は現在知られていない。
【0054】
3.胃腸管の症状
胃腸症状はDM1で一般に観察され、消化管の骨格筋および/または平滑筋の機能不全に起因する。これらの症状には、口、舌または咽頭の脱力/筋強直による嚥下困難、食道括約筋弛緩による胃食道逆流、腸管および胃の無効な蠕動性平滑筋収縮による腹痛、悪心、嘔吐、腹部膨満または腸偽閉塞、脱力性/筋緊張性の胆管/胆嚢筋系に起因する胆石、腸の運動不全によって引き起こされる便秘、下痢または吸収不良、ならびに肛門括約筋および骨盤底筋の脱力による大便失禁が含まれる。
【0055】
4.生殖器系および内分泌系の症状
DM1は、著しい生殖器系および内分泌系の異常に関連する。男性では、これらの症状は、思春期に関連するホルモンおよび内分泌の変化が生じないか遅延する場合、成人期まで認められない可能性がある。男性では、DM1は、精子生産の低下または精子無生産および男性不妊、二次性徴の発達不良(エネルギー、性欲、性毛、筋肉量および骨塩量の低下を含める)をもたらし得る精巣萎縮に関連する。さらに、DM1の男性は、血清黄体形成ホルモンおよび卵胞刺激ホルモンレベルの上昇を伴う低血清テストステロンレベルを頻繁に経験する。FSHレベルの上昇は、異常に高いエストラジオール:テストステロン比に関連し、これは男性における乳房腫大につながる可能性がある。最終的に、DM1の男性は、高い発生率の前頭部男性型脱毛症および脱毛を経験することが多い。
【0056】
5.呼吸症状
横隔膜、腹部および肋間筋の筋脱力ならびに呼吸筋の筋強直のため、DM1は呼吸不全に関連する可能性があり、最も重度の場合では、個体が呼吸するのを補助するために機械的呼吸を必要とする場合がある。また、筋脱力のため、DM1の個体は、飲食物、唾液、鼻汁および胃液の肺への意図されない吸引の後に咳をするための力を欠くことが多く、これは、本疾患に特有の嚥下困難をしばしば伴う。このことは、感染をもたらす、肺および気管支チューブの傷害および炎症につながり得る。
【0057】
DM1の個体に影響を及ぼす別の呼吸症状は睡眠時無呼吸であり、これは、呼吸筋脱力によってDM1においてもたらされる、睡眠中の呼吸の異常な休止または異常に小さな呼吸の事象を特徴とする睡眠障害である。無呼吸と呼ばれる呼吸中の各休止は、数秒から数分続く可能性があり、1時間に5から30回またはそれ以上生じ得る。睡眠時無呼吸(狭い気道および呼吸の中断による空気の流れがない期間)による不十分な空気の流れは、危険なほど低いレベルの酸素および高いレベルの二酸化炭素を血液中にもたらし得る。軽度の場合では、無呼吸は、睡眠の乱れ、過剰な疲労および朝の頭痛を引き起こし得る。重度の場合では、無呼吸は、高血圧、不整脈および心臓発作を引き起こし得る。
【0058】
6.骨格筋の症状
DM1の個体は一般に筋強直を経験し、これは、随意収縮または電気刺激後のゆっくりとした筋弛緩を特徴とする。一般に、筋肉を弛緩させるには反復した努力が必要とされ、筋肉が温まった後に状態は改善する。しかし、長引く厳しい運動はその状態を誘発する可能性もある。この障害の個体は、物を握った手を離すのに苦労する可能性があり、または坐っている場所から立ち上がるのが困難であり、硬くぎこちなく歩行する可能性がある。いかなる骨格筋も筋強直を経験する可能性があるが、DM1は、他のもの以上の頻度で体の特定の筋肉を苦しめる傾向がある。これらは、前腕および指の筋肉ならびに発声または食物の咀嚼を困難にし得る舌および顎の筋肉を含む。さらに急速な動作は、DM1の筋強直に特有の筋硬直を誘発することもあり得る。
【0059】
筋肉の脱力および萎縮もDM1を罹患する多くの個体で観察される。DM1の筋脱力は、ある筋肉に特徴的に影響を及ぼすが、他の筋肉はほとんどまたはまったく脱力を経験しない場合もあり、または正常な力を維持する場合もある。筋脱力は、DM1の個体における身体障害の主因であり、一般的には、移動性、手の器用さおよび適度に重いものから重いものまでを持ち上げる能力に影響を及ぼす。より重度の場合では、個体は、咽頭および胸部の筋肉(例えば横隔膜筋)の脱力によって引き起こされる呼吸困難または嚥下困難を経験する。
【0060】
さらに、DM1は筋肉痛を伴うことが多い。この痛みは、筋肉それ自体に影響を及ぼす可能性があり、または関節、靱帯もしくは脊椎にその原因がある可能性がある。さらに筋脱力は、DM1の個体をこの部分において関節性挫傷に罹りやすくする。
【0061】
女性では、妊娠および出産ならびに受精能の低下に関連する中度から重度の合併症に関連する。これらは、早発性閉経、高率の自然流産および流産、筋脱力または筋強直によって引き起こされる子宮機能不全に関係している遷延した分娩および出産、早期分娩を引き起こし得る羊水過多に関係している子宮の過膨張、不適切な子宮収縮(弛緩子宮)または膜の早発自然破裂、ならびに不適切な子宮収縮(弛緩子宮)または胎盤遺残による分娩後の出血を含むことができる。
【0062】
新生児では、DM1の症状は、有害な妊娠結果の危険性増大、臍帯脱出または胎盤早期剥離、胎児移動性が大きいことによる胎児の位置異常、早期分娩、胎児の浮腫および胎動の低減に関連する羊水過多(胎児の嚥下の低下による羊水の過剰な蓄積)などの症状を含むことができる。
【0063】
7.視覚症状
DM1患者での視力障害は、白内障の発生に関連することが多い。後嚢下の虹色のレンズの混濁は、筋強直性ジストロフィーにおける白内障形成の初期段階を表し、細隙灯顕微鏡検査によってのみ検出可能である。こうした混濁は、通常、いかなる視力症状も発生していない患者において見つかる。このタイプのレンズ混濁の存在およびより成熟した白内障が、この疾患唯一の症候であり得る。視覚の眩しさおよび不鮮明は、レンズ混濁が進行するにつれて星状白内障に発達し、最終的に成熟した白内障に発達し、これは通常の白内障と識別不能である。DM1における白内障は通常の白内障より速く進行する可能性があり、それにより、DM1患者は早発性の白内障を呈し得る。
【0064】
DM1に関連する付加的な視力症状は、網膜症、両側性の眼瞼下垂(上眼瞼または下眼瞼の下垂または下降)、低眼圧および眼の筋強直を含むことができる。
【0065】
8.細胞的および分子的症状
DM1の遺伝的病変は、突然変異型DMPK転写産物を発現する細胞および組織において機能獲得型の特質を獲得し、RNA媒介毒性を促進する多数の3’−非翻訳領域CUGリピートを含むDMPK RNA転写産物をもたらす。DM1の疾患過程の現在のモデルは、mRNA前駆体の選択された群に関する選択的スプライシングの異常な制御に最終的につながる、CUG
exp RNAと核結合タンパク質との相互作用に関する。DM1で同定された最も顕著な分子的異常は、選択的スプライシングの誤制御である。幾つかのヒト遺伝性障害はRNAスプライシングに対する突然変異の影響に起因し得るが、これらのほとんどすべては、単一のmRNA前駆体のスプライシングに影響を及ぼし、非機能性の突然変異型タンパク質をコードする異常にスプライシングを受けた転写産物につながるシス作用性効果である(Osborne&Thornton、2006、Hum Mol Genet.、15;15 Spec No2:R162〜9;Faustino&Cooper、2003、Genes Dev.、17:419〜437)。DM1は、スプライセオパシー(spliceopathy)、すなわち突然変異型タンパク質の産生をもたらさないが、特定の組織に発生的に不適切であるスプライス産物の発現につながる、多くのRNAの選択的スプライシングに対するトランス効果に起因するヒト遺伝性疾患の最初の例である(Osborne&Thornton、2006、Hum Mol Genet.、15;15 Spec No2:R162〜9)。
【0066】
Muscleblind(MBNL)タンパク質は、in vitroにおいて、(CUG)
11に優先して(CUG)
90の結合について最初に同定された(Millerら、2000、EMBO J.、19:4439〜4448)。こうしたタンパク質は、DM1における核の病巣に大量に動員される(Mankodiら、2003、Ann.Neurol.、54:760〜768)。3つの哺乳類MBNL遺伝子の内、MBNL1およびMBNL2は骨格筋、心臓および脳で発現しており、MBNL3は主に胎盤で発現している(Osborne&Thornton、2006、Hum Mol Genet.、15;15 Spec No2:R162〜9)。DM1で発現するCUG
expのレベルは、MBNL1の細胞分布を著しく変化させるのに十分である。脳、骨格筋および心臓では、MBNL1は、核質の他の個所で著しく枯渇するほどまでに、リボ核病巣に動員される(Jiangら、2004、Hum.Mol.Genet.13:3079〜3088;Osborne&Thornton、2006、Hum Mol Genet.、15;15 Spec No2:R162〜9)。マウスにおけるMBNL1遺伝子の破壊は、DM1と類似している筋緊張性ミオパシーだけでなく、DM1様白内障および心臓疾患も再現する(Osborne&Thornton、2006、Hum Mol Genet.、15;15 Spec No2:R162〜9)。理論に拘束されるものではないが、これらの発見は、リピート伸張RNAでのMBNL1タンパク質の隔離は、DM1に関連する表現型および症状において重要な役割を果たすことを示唆する。
【0067】
DM1において役割を果たすと思われる別のタンパク質はCUG−BP1であり、これも筋肉における選択的スプライシングについてDM1様作用を誘導することができ(Philipsら、1998、Science、280:737〜741)、in vitroでの(CUG)
8オリゴヌクレオチドへの結合に関して最初に同定された(Timchenkoら、1996、Nucleic Acids Res.、24:4407〜4414)。クロリドチャネルClC−1 mRNAの異常スプライシングも注目すべきであり、これは、筋強直を直接的に引き起こすことが示された(Mankodiら、2002、Mol.Cell、10:35〜44)。DM1の個体の骨格筋において選択的スプライシングを誤制御することが示された他のタンパク質としては、これらに限定されないが、ALP、CAPN3、CLCN1、FHOS、GFAT1、IR、MTMR1、NRAP、RYR1、SERCA1、z−Titin、m−Titin、TNNT3またはZASP遺伝子によってコードされるタンパク質が挙げられる。DM1の個体の心筋において選択的スプライシングを誤制御することが示されたタンパク質としては、これらに限定されないが、TNNT2、ZASP、m−Titin、KCNAB1またはALP遺伝子によってコードされるタンパク質が挙げられる。DM1の個体の神経組織において選択的スプライシングを誤制御することが示されたタンパク質としては、これらに限定されないが、TAU、APPまたはNMDAR1遺伝子によってコードされるタンパク質が挙げられる(Osborne&Thornton、2006、Hum Mol Genet.、15;15 Spec No2:R162〜9)。
【0068】
B.筋強直性ジストロフィーI型の治療方法
本明細書中で提供されるのは、それを必要とする個体において筋強直性ジストロフィー1型(DM1)を治療するための方法であって:筋強直性ジストロフィープロテインキナーゼ(DMPK)RNA転写産物の3’非翻訳領域(UTR)の少なくとも3つのポリCUGリピート配列に対して相補的な配列を含むカチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチド(本明細書に開示されるカチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドのいずれかなど)の治療有効量を個体に全身投与することを含み、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与が、少なくとも2つの筋肉においてDM1の少なくとも1つの症状を軽減する、方法である。一実施形態では、筋肉は、骨格筋、平滑筋および/または心筋であり得る。別の実施形態では、筋肉は、骨格筋であり、限定はされないが、前脛骨筋、四頭筋および/または腓腹筋を含み得る。幾つかの実施形態では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与は、静脈内、腹腔内または皮下に行うことができる。他の実施形態では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、毎日、2日ごと、3日ごと、4日ごと、5日ごと、6日ごと、または7日ごとのいずれかで個体に投与することができる。幾つかの実施形態では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、1週間、2週間、3週間、4週間、5週間、6週間、7週間、8週間、9週間、10週間、11週間、12週間、4か月間、5か月間、6か月間、7か月間、8か月間、9か月間、10か月間、11か月間、1年間、2年間、3年間、4年間、5年間もしくはそれ以上の年または生涯(これらの値の間にある期間を中に入れ、含める)まで、個体に投与することができる。さらに他の実施形態では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、約2mg/kg、4mg/kg、6mg/kg、8mg/kg、10mg/kg、12mg/kg、14mg/kg、16mg/kg、18mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、40mg/kg、45mg/kg、50mg/kg、55mg/kg、60mg/kg、65mg/kg、70mg/kg、75mg/kg、80mg/kg、85mg/kg、90mg/kg、95mg/kgもしくは100mg/kgまたはそれ以上(これらの値の間にある濃度を中に入れ、含める)のいずれかの濃度で個体に投与される。一実施形態では、前記DM1の少なくとも1つの症状は筋強直である。一実施形態では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、筋核内のリボ核病巣におけるmusclebind−like−1(MBNL−1)タンパク質の凝集である。別の実施形態では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、筋細胞における少なくとも1種のRNA転写産物の異常なスプライシングである。幾つかの実施形態では、RNA転写産物は以下からなる群から選択される:Serca−1、m−Titin、ZaspおよびCIC−1。一実施形態では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、医薬として許容される賦形剤または担体、例えば本明細書に記載の医薬として許容される賦形剤または担体のいずれかと共に投与される。別の実施形態では、個体はヒトである。
【0069】
本明細書に開示される方法のいずれかの幾つかの態様では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、1つまたはそれ以上の骨格筋に影響を及ぼす症状である。一実施形態では、症状は以下からなる群から選択される:筋強直、筋脱力、筋萎縮および筋肉痛。
【0070】
本明細書に開示される方法のいずれかの別の態様では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、心血管系に影響を及ぼす症状である。一実施形態では、症状は以下からなる群から選択される:心臓性失神および失神性めまい、心伝導異常、不整脈、低血圧ならびにうっ血性心不全。
【0071】
本明細書に開示される方法のいずれかの幾つかの態様では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、呼吸器系に影響を及ぼす症状である。一実施形態では、症状は以下からなる群から選択される:呼吸筋脱力、誤嚥および睡眠時無呼吸。
【0072】
本明細書に開示される方法のいずれかの別の態様では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、胃腸系に影響を及ぼす症状である。一実施形態では、症状は以下からなる群から選択される:咀嚼および嚥下困難、胃食道逆流、腹部または胸部の痛み(消化不良)、悪心、嘔吐、腹部膨満、腸偽閉塞、胆汁うっ滞、便秘、下痢、腸吸収不良、糞塊埋伏、巨大結腸、腸穿孔、排便障害および大便失禁。
【0073】
本明細書に開示される方法のいずれかの幾つかの態様では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、神経系に影響を及ぼす症状である。一実施形態では、症状は以下からなる群から選択される:認知機能障害、日中の過剰な眠気(睡眠過剰)、行動的困難、情動的困難、社会化的困難および末梢神経障害。
【0074】
本明細書に開示される方法のいずれかの別の態様では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、生殖器系および/または内分泌系に影響を及ぼす症状である。一実施形態では、症状は以下からなる群から選択される:精巣萎縮、女性不妊症、二次性徴の不十分な発達、エネルギー低下、性欲低下、陰毛の減少または非存在、筋肉量低下、骨塩量低下、低血清テストステロン、血清黄体形成ホルモンの上昇、血清卵胞刺激ホルモンの上昇、男性の女性化乳房、早発閉経、インスリン抵抗性、早発男性型脱毛症および男性におけるテストステロンに対するエストラジオール比レベルの上昇。
【0075】
本明細書に開示される方法のいずれかの幾つかの態様では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、妊娠に影響を及ぼす症状である。一実施形態では、症状は以下からなる群から選択される:自然流産、死産、遷延した分娩および出産、子宮の過膨張、早期分娩、脱分極性薬剤投与後の筋緊張性痙攣、バルビツレート投与後の呼吸抑制および分娩後の出血。
【0076】
本明細書に開示される方法のいずれかの別の態様では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、新生児の合併症である。一実施形態では、症状は以下からなる群から選択される:羊水過多、臍帯脱出、胎盤早期剥離、胎児位置異常、胎児水腫および胎児の運動不能。
【0077】
本明細書に開示される方法のいずれかの幾つかの態様では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、免疫系に影響を及ぼす症状である。一実施形態では、症状は以下からなる群から選択される:低ガンマグロブリン血症および頻度が増大した石灰化上皮腫。
【0078】
本明細書に開示される方法のいずれかの別の態様では、前記DM1の少なくとも1つの症状は、眼または視覚に影響を及ぼす症状である。一実施形態では、症状は以下からなる群から選択される:霧視、網膜症、両側性の眼瞼下垂(下垂)、低眼圧および眼の筋強直。
【0079】
C.カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドの投与
幾つかの実施形態では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、注射の形で投与される。注射は、水性の注射可能な賦形剤または担体と組み合わせて、化合物を含むことができる。適切な水性の注射可能な賦形剤または担体の非限定例は、当業者に周知であり、それらおよび製剤を配合する方法は、Alfonso AR:Remington’s Pharmaceutical Sciences、第17版、Mack Publishing Company、Easton Pa.、1985のような標準的な参考文献に見出すことができる。適切な水性の注射可能な賦形剤または担体としては、溶解増強剤、例えば10%マンニトールまたは他の糖、10%グリシンまたは他のアミノ酸を場合により含む、水、生理食塩水溶液、デキストロース水溶液などが挙げられる。組成物は、皮下、腹腔内または静脈内に注射することができる。
【0080】
幾つかの実施形態では、静脈内投与が使用され、これは、数分から1時間またはそれ以上、例えば約15分にわたる連続的静脈内注入でもよい。投与される量は、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドのタイプ、単位投与量のサイズ、賦形剤または担体の種類、および当業者に周知の他の因子に応じて、広く変動し得る。カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば約0.001%から約10%(w/w)、約0.01%から約1%、約0.1%から約0.8%またはその中の任意の範囲を占めることができ、残りは賦形剤(複数可)または担体(複数可)を含む。
【0081】
経口投与については、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、例えば、医薬として許容される賦形剤または担体、例えば結合剤;フィラー;潤滑剤;崩壊剤;または湿潤剤を用いて、従来の手段によって製造される、錠剤またはカプセル剤の形態をとることができる。経口投与用の液体製剤は、例えば液剤、シロップ剤または懸濁剤の形態をとることができ、またはこれは、使用前に水または他の適切なビヒクルと構成するための乾燥生成物として提供することができる。そのような液体製剤は、医薬として許容される添加剤、例えば懸濁化剤(例えばソルビトールシロップ、セルロース誘導体または水素化食用脂);乳化剤(例えばレシチンまたはアラビアゴム);非水性ビヒクル(例えばアチオンドオイル(ationd oil)、油性エステル、エチルアルコールまたは分留した植物油);および防腐剤(例えばメチルもしくはプロピル−p−ヒドロキシベンゾエートまたはソルビン酸)を用いて、従来の手法によって製造され得る。これらの製剤は、必要に応じて緩衝塩、着香料および着色剤を含むこともできる。
【0082】
幾つかの実施形態では、カチオン性ペプチド結合モルホリノアンチセンスオリゴヌクレオチドは、適切な噴射剤、例えばジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタン、二酸化炭素またはそれらの組合せを含み得る、エアゾールスプレーまたはネブライザーを介して、吸入によって投与することができる。一非限定例では、加圧エアゾールの投与単位は、定量バルブを介して送達することができる。別の実施形態では、例えば、ゼラチンのカプセルおよびカートリッジを吸入器で使用することができ、例えばデンプンまたはラクトースなどの適切な粉末基剤との化合物の粉末化混合物を含むように配合することができる。
【実施例】
【0083】
〔実施例1〕
2つの異なるPPMOコンジュゲートの前脛骨筋への筋肉内注射は、異常なRNAスプライシングを補正する
CUGトリヌクレオチド配列の大きな伸張によって、RNA代謝における有害な変化につながる、有毒なRNAの機能獲得がもたらされる。そのようなCUGリピートエレメントは、通常はプロテインキナーゼDMPKの3’非翻訳領域にあるが、伸張した場合は、そのエレメントは、遺伝性神経筋疾患である筋強直性ジストロフィーI型(DM1)の遺伝的病変である。CUG伸張を含む病原性DMPK転写産物はMuscleblind−like1(MBNL1)などのRNA結合タンパク質との複合体の一部としてリボ核病巣に保持され、これによって、多数のRNA転写産物の異常スプライシングおよび筋強直を含めた生理的異常がもたらされる。
【0084】
本実施例では、縮合合成反応を行って、25塩基長CAG配列ベースのモルホリノ(Wheelerら、2009、Science 325:336〜339)、CAG25およびモルホリノの5’末端に位置するスペーサー部分に共有結合的に付加された細胞透過性ペプチドを含む、PPMOコンジュゲートを生成した(
図1a)。さらに、PPMO−BおよびPPMO−Kの生理活性へのスペーサーおよびペプチド修飾の影響を判定するために、HSA
LRトランスジェニックマウスの前脛骨(TA)筋への一連のIM注射を行い、Serca−1のRNAスプライシングを評価した。
【0085】
材料および方法
モルホリノオリゴヌクレオチドへの細胞透過性ペプチドのコンジュゲーション
PPMOコンジュゲートを、この後記載するように改変してAbesらによって記載されているように合成した(2006、J Control Release 116:304〜313)。ペプチドB(Ac(RXRRBR)
2XB−COOH)またはペプチドK(Ac(RXR)
4XB−COOH)(Anaspec、Fremont、CA)を、O−(6−クロロベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロリン酸(HCTU)/ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)を含むジメチルホルムアミド中で、ペプチドのモルあたり1:2のモル比で室温(RT)において活性化した。5’第一級アミン修飾を有するモルホリノCAG25(5’−AGCAGCAGCAGCAGCAGCAGCAGCA−3’)(Gene Tools、Philomath、OR)をジメチルスルホキシドに溶解し、活性化したペプチドBまたはペプチドKにペプチド:ASOの1:2〜1.5モル過剰で加え、反応を2時間室温で進めた。反応を水でクエンチし;PPMOコンジュゲートをカルボキシメチルセファロース(GE Healthcare、Piscataway、NJ)によって精製し、2Mグアニジン−HCl、1M NaCl、pH7.5、20%アセトニトリル中に溶出した。溶出物を、分子量カットオフが3,000Daである透析カセット中で、0.1mM NaHCO
3の何回かの緩衝液交換に対して透析した。透析したPPMOを、0.1N HCl中において265nmで分光光度的吸光度によって定量化し、凍結し、凍結乾燥した。
【0086】
HSA
LR再誘導およびジェノタイピング
再誘導化ヘミ接合性HSA
LRマウスを、ホモ接合性HSA
LRライン20bオスから採取した精子でFVB/n野生型メスマウスを受精させることによって作製した。オスおよびメスのヘミ接合性マウスを交配して、ホモ接合性の子孫を生成した。定量的マルチプレックスリアルタイムPCRアッセイを使用して、マウスの接合状態を決定し;このアッセイは、ヒト骨格アクチン(ACTA1)および内部コントロールとしてのGapdhを同じウェルで検出した。以下のプライマー−プローブセット(Life Technologies、Grand Island、NY)を使用して、ACTA1ゲノムDNAを検出した:フォワード:5’−CCACCGCAAATGCTTCTAGAC、リバース:5’−CCCCCCCATTGAGAAGATTC、プローブ:5’−CTCCACCTCCAGCACGCGACTTCT。専用配列プライマー−プローブセット(Life Technologies、Grand Island、NY)を使用して、GapdhゲノムDNAを検出した。続いてホモ接合性マウスを、野生型FVB/nと戻し交配して、ホモ接合状態を確認した。次いで、確認したオスおよびメスのホモ接合性マウスを交配して、FVB/nバックグラウンド系統においてホモ接合コロニーを維持した。
【0087】
HSA
LR導入遺伝子mRNAのリアルタイムPCR
RNeasy Lipid Tissueミニキット(Qiagen、Valencia、CA)を製造者の指示書に従って使用して、TA、腓腹筋および四頭筋から全RNAを精製した。定量的リアルタイムPCRを使用して、HSA
LR導入遺伝子のmRNAレベルを測定し;18S RNAレベルを標準化因子として使用した。18S RNAレベルは、専用配列のプライマー−プローブセット(Life Technologies、Grand Island、NY)を使用して測定した。ACTA1ゲノムDNAを検出するのに使用したのと同じプライマー−プローブセットを用いて、ACTA1 mRNAを検出した。
【0088】
筋肉内TA注射
Genzyme動物実験委員会によってすべての動物研究が承認された。Wheelerら、2007、J Clin Invest 117:3952〜3957に記載のように、イソフルラン麻酔したマウスのTAを注射し、エレクトロポレーションにかけた。一方のTAに20μg(1μg/μL)のCAG25、GAC25(5’−ACGACGACGACGACGACGACGACGA−3’)(Gene Tools、Philomath、OR)またはPPMO(PPMO−BおよびPPMO−K注射中、ペプチドの質量を考慮して20μgASO等価質量を注射した)を注射し、反対側のTAに20μLのリン酸緩衝食塩水(生理食塩水)を注射した。
【0089】
結果
ペプチドBまたはペプチドKのいずれかを含む2つのPPMOコンジュゲートを合成し、それぞれPPMO−BおよびPPMO−Kと称することにした。
【0090】
TAへのCAG25のIM注射はSerca−1のスプライシングを補正したが、生理食塩水の注射を受けた反対側のTAは、Serca−1のスプライシングの異常なパターンを保持した(
図1b)。GAC配列のコントロールモルホリノであるGAC25は、予測したように、Serca−1のスプライシングを補正しなかった。
【0091】
重要なことに、これらの結果はPPMO−BとPPMO−Kの両方のIM注射がSerca−1のスプライシングを補正したことを示し、これは、ペプチドおよびモルホリノの5’末端におけるスペーサー共有結合修飾は、その標的と相互作用するおよびCUG RNAの有毒作用を中和するCAG25の能力を損なわないことを示す(
図1b)。
【0092】
〔実施例2〕
PPMO−BおよびPPMO−Kの反復IV注射はin vivoにおいてスプライセオパシーを効率的に改善する
ペプチドBまたはKを用いたCAG25の修飾がその生理活性を妨げなかったことを確認したので、本実施例は、HSA
LRマウスにおいて、IV投薬レジメンを使用して、PPMO−BおよびPPMO−Kが有毒なRNAの作用をモジュレートすることができるかどうかを評価した。
【0093】
材料および方法
HSA
LRにおける全身的送達研究
CAG25、PPMO−BおよびPPMO−Kを生理食塩水に溶解し、オスおよびメスのHSA
LRホモ接合性マウスに、30mg/kg体重の用量で尾静脈IV注射によって6週にわたって1週1回投与した。最終投与から24時間後に、後眼窩の出血によって採血した。最終的な投与から約1週間後に、筋電図検査方法に記載されているように、筋強直の存在についてマウスを評価した。次いで、マウスを殺し;筋切片をRNA解析用に液体N
2中に凍結するか、または免疫蛍光およびFISH解析用にOCT媒体に包埋し、冷却イソペンタン中に凍結した。
【0094】
選択的スプライシングのRT−PCR解析
cDNA合成およびPCR増幅に使用した遺伝子特異的プライマーを使用して、Platinum Taq DNAポリメラーゼを用いるSuperScript III One−Step RT−PCRシステム(Life Technologies、Grand Island、NY)を使用して、RT−PCRを行った。Serca−1、ZASP、m−TitinおよびClC−1に対するプライマー配列は、以前に記載されている(Wheelerら、2007、J Clin Invest 117:3952〜3957;Linら、2006、Hum Mol Genet 15:2087〜2097)。PCR産物をアガロースゲルで電気泳動し、SybrGreen I Nucleic Acid Gel Stain(Life Technologies、Grand Island、NY)で染色し、FujifilmのLAS−3000インテリジェントダークボックスを使用して画像化した。
【0095】
結果
30mg/kgの用量で、CAG25、PPMO−BおよびPPMO−Kの、週1回で6回のIV注射をHSA
LRマウスに与えた。HSA
LRマウスはこの用量に十分耐容性
を示し、CAG25およびPPMOの投与の間または研究期間全体を通して、明白な毒性症候を示さなかった。さらに、これらの処理は肝臓トランスアミナーゼ(ALT、AST)または腎臓機能マーカー(クレアチニン、BUN)に影響を及ぼさなかった(データ非表示)。
【0096】
TA、四頭筋および腓腹筋を含めた幾つかの筋肉群についてスプライシング解析を行った。
図2で示すように、PPMO−BおよびPPMO−Kの両方は、Serca−1のスプライシングを劇的に補正し、スプライシングパターンを野生型マウスで観察されるものに修復した。Serca−1のスプライシング補正は、TA、四頭筋および腓腹筋を含めた検討したすべての筋肉で生じた。PPMO−Bで処理した1匹のマウスは、四頭筋および腓腹筋において部分的なスプライシング補正を示した。PPMO−BおよびPPMO−Kと対照的に、未修飾のCAG25の静脈内注射は、検討したいかなる筋肉群においても、Serca−1のスプライシングを改善しなかった(
図2)。これは、筋肉へのそのままのモルホリノの低質な体内分布を示す他の研究(Sazaniら、2002、Nat Biotechnol 20:1228〜1233)と矛盾がない。
【0097】
適切なスプライシングに関してMBNL1に依存しているさらなる転写産物としては、m−Titin、ZaspおよびClC−1.8,24が挙げられる。
図3で示すように、PPMO−Kの全身的送達は、TA、四頭筋および腓腹筋におけるm−Titin、ZaspおよびClC−1のRNAスプライシングの確固たる補正につながった。PPMO−BのIV注射で処理したHSALRマウスも同様に、こうした転写産物の選択的スプライシングの補正を示した(データ非表示)。
【0098】
これらの結果は、全身的に送達されるPPMO−BおよびPPMO−Kは、骨格筋を透過し、筋肉の筋核に入り、ポリ(CUG)RNAとハイブリダイズし、正しいMBNL1制御性RNAスプライシングを修復するのに十分である量の隔離されたMBNL1タンパク質を遊離することができることを示唆する。
【0099】
〔実施例3〕
PPMO−Kは、骨格筋のCUG核封入複合体を破壊し、その結果、MBNL1タンパク質を再分布させる
PPMO−Kで処理したマウスのリボ核病巣の最終結果を確かめるために、本実施例は、筋肉内のCUGリボ核封入を検出するための蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)を示す。
【0100】
材料および方法
以下の改変をして記載の(Linら、2006、Hum Mol Genet 15:2087〜2097)ように、6μm厚の凍結した四頭筋の切片を処理して、免疫蛍光によってMBNL1タンパク質の局在を検出した:ポリクローナル抗体A2764を1:5000の濃度で使用し、続いて、1:500の濃度で、Alex−568標識ヤギ−抗ウサギポリクローナル二次抗体と共にインキュベーションした。サンプルを、DAPIおよびAlexa Fluor−568を順次イメージングするために構成されたLSM510METAレーザー走査型共焦点顕微鏡を使用して画像化した。100×/NA1.45Plan−Fluar油浸対物レンズを4倍ズームで使用して試験した。
【0101】
結果
PPMO−K処理したHSA
LRマウスでは、CUG病巣の数および強度の低減が観察された(
図4)。しかし、PPMO−KおよびFISH法に利用したプローブのオリゴヌクレオチド配列が同じ(CAG)n配列からなるので、RNA病巣への影響がPPMO−Kによる病巣の破壊によるのか、またはPPMO−KとFISHプローブの間の結合競合によるのかを判定するのは不可能であった。より直接的な、病巣へのPPMO−Kの影響を突き止める明解な手段として、MBNL1の免疫蛍光標識を行い、MBNL1はCUG RNA病巣に隔離されており、HSA
LRマウスの核中に点状の染色を示した(
図5a〜c)。
図5d〜fで示すように、PPMO−Kは、MBNL1タンパク質を再分布させ、野生型マウスで観察されるような、核質内におけるより拡散した局在をもたらした(
図5g〜i)。
【0102】
まとめると、本実施例の免疫染色およびFISHのデータは、PPMO−Kは競合的様式でCUG RNAと相互作用し、それによって、筋核内のMBNL1タンパク質の再分布がもたらされる。骨格筋病巣のMBNL1の遊離は、PPMO−K処理マウスにおいて観察されたRNAスプライシングの補正と矛盾がない。
【0103】
〔実施例4〕
PPMO−KのIV注射を与えたHSA
LRマウスにおいて筋強直が補正される
PPMO−BおよびPPMO−KによるClC−1 RNAのスプライシングの補正は、クロリドチャネル機能の修復が、一般的にHSA
LRマウスで観察される筋強直の重症度を変化させ得ることを示唆する。この可能性を試験するために、本実施例において、生理食塩水処理したおよびPPMO−K処理したHSA
LRマウスでの筋強直を、EMGによって評価した。
【0104】
材料および方法
2つの29ゲージ針電極を使用して、TA、腓腹筋および四頭筋の中に取り入れられたEMGサンプリングを用いて、イソフルラン麻酔したマウスについてEMGを行った。両方の針を挿入した後、針侵入部位において鉗子を用いて優しく筋肉を操作した。筋強直を以下の判断基準によって類別した:0はミオトニックディスチャージが検出されなかったことを示す;1は筋操作の50%未満がミオトニックディスチャージをもたらしたことを示す;2は筋操作の50%から80%がミオトニックディスチャージをもたらしたことを示す;3は筋操作の90%から100%がミオトニックディスチャージをもたらしたことを示す。
【0105】
結果
筋強直を、野生型FVB/n、ヘミ接合性およびホモ接合性HSA
LRマウスで最初に評価した。ヘミ接合性マウスは、ホモ接合性マウスと対比して、骨格筋において約50%レベルのHSA
LR mRNAを含む(
図6a)。予想通り、ホモ接合性マウスと比較して、ヘミ接合性マウスでの筋強直の発生の低減が観察され、野生型マウスでは非筋強直が観察されなかった(
図6c)。ホモ接合性HSA
LRマウスで検出された典型的なミオトニックディスチャージのトレーシングを
図6bに示す。
図6bに示すように、HSA
LRPPMO−Kで処理したマウスで筋強直は検出されず、これらのマウスで生じたClC−1の選択的スプライシングにおける補正(
図3)と矛盾がない。
【0106】
結論
本明細書で行われた実験は、CAG配列モルホリノへの細胞透過性ペプチドの付加は、骨格筋へのPPMOの十分な全身的取り込みを可能にし、伸長したCUGリピートの有毒作用を中和することを示す。スプライシング異常の完全に近い解決、RNA病巣からのMBNL1の遊離および筋強直の消失が観察された。
【0107】
モルホリノオリゴヌクレオチドの全身的送達がDM1様病状をin vivoでモジュレートするという発見は、多面的な重要性がある:第一に、CAGベースのモルホリノの5’共有結合的修飾は、標的CUG RNAとの相互作用を損なわない;第二に、アルギニンリッチの細胞透過性ペプチドによって達成可能になる体内分布はDM1の病状の生化学的および生理的な態様を補正するのに十分である;第三に、DM1のHSA
LRモデルにおいて、ここに提示される研究で投与される試験薬は、ヒトDM1患者での安全な使用について評価され得るのと同じ治療的候補である。
【0108】
実施例は、本発明の単なる例示であることが意図され、したがって、多少なりとも本発明を限定すると考えられるべきでなく、また、上記の本発明の態様および実施形態を説明し詳述するものである。前述の実施例および詳細な説明は、例示のために与えられ、限定のために与えられるものではない。本明細書で引用するすべての刊行物、特許出願および特許は、それぞれ個々の刊行物、特許出願または特許が、参照によって組み入れられるように具体的かつ個々に示されるかのように、参照によって本明細書に組み入れる。特に、本明細書で引用されるすべての刊行物は、本発明に関連して使用され得る組成物および方法論を説明および開示する目的で、参照によって本明細書に明確に組み入れる。理解を明瞭にする目的で例示および例として前述の発明をある程度詳細に記載したが、添付の特許請求の範囲の趣旨または範囲から逸脱することなく、それらにある種の変更および改変を行い得ることが、本発明の教示に照らせば当業者に容易に分かるであろう。