(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404233
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】電極ペースト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/20 20060101AFI20181001BHJP
H01M 4/14 20060101ALI20181001BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
H01M4/20 Z
H01M4/14 Q
H01M4/62 B
【請求項の数】20
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-554255(P2015-554255)
(86)(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公表番号】特表2016-504743(P2016-504743A)
(43)【公表日】2016年2月12日
(86)【国際出願番号】IB2013000161
(87)【国際公開番号】WO2014114969
(87)【国際公開日】20140731
【審査請求日】2016年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】505005522
【氏名又は名称】アルケマ フランス
(73)【特許権者】
【識別番号】515203114
【氏名又は名称】ヴァルカン オートモーティヴ インダストリーズ リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】コルツヘンコ, アレクサンダー
(72)【発明者】
【氏名】デルプラート, パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサンドー, クリストフ
(72)【発明者】
【氏名】カハナ, ベニ
【審査官】
宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−248056(JP,A)
【文献】
特開平03−283355(JP,A)
【文献】
特開平06−283172(JP,A)
【文献】
特開2008−098009(JP,A)
【文献】
特開平09−283147(JP,A)
【文献】
特開平06−068871(JP,A)
【文献】
特表2014−527682(JP,A)
【文献】
特表2010−521783(JP,A)
【文献】
中国特許出願公開第102496723(CN,A)
【文献】
国際公開第2013/011516(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛蓄電池用電極の作製に好適なペースト組成物を調製する方法であって、
(a)カーボンナノチューブ及び第1の粒径の酸化鉛を含む複合材料を提供する工程、並びに
(b)前記複合材料を硫酸、水、及び第2の粒径の酸化鉛と混合してペースト組成物を得る工程を含む、方法。
【請求項2】
前記(b)が、(b’)前記複合材料を硫酸、水、第2の粒径の酸化鉛、及び少なくとも1つの補強フィラーと混合してペースト組成物を得る工程である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記複合材料が、
− 粉砕工程であって、未加工又は酸化されたカーボンナノチューブを酸化鉛と共に、5:95から20:80の範囲に及ぶカーボンナノチューブの酸化鉛に対する重量比で粉砕する工程によって得られ、それによりカーボンナノチューブ及び第1の粒径の酸化鉛を含む前記複合材料が得られる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記粉砕工程がボールミル内で実施される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記粉砕工程の後に、得られた粉砕粒子を成形する工程を更に含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記第1の粒径が0.1から0.6μmの間である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
高温にて鉛を空気に接触させることによって前記複合材料の製造前に酸化鉛を調製して、酸化鉛の粉末を得る予備工程をさらに含む、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記複合材料の調製に使用されるボールミル内で高温にて鉛を空気と接触させることによって、前記複合材料の製造中に酸化鉛を調製する工程をさらに含む、請求項1から7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
鉛が固体形態で空気の存在下で、300℃から400℃の範囲に及ぶ温度に加熱された前記ボールミル中に導入される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記第2の粒径が0.5から3μmの間である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記カーボンナノチューブが前記ペースト組成物の重量に対して0.2から2重量%である、請求項1から10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の粒径の酸化鉛及び第2の粒径の酸化鉛が前記ペースト組成物の重量に対して75から85重量%である、請求項1から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
未加工の又は酸化されたカーボンナノチューブ及び粒径が0.1から0.6μmの間である第1の粒径の酸化鉛を、10:90から20:80の範囲に及ぶ前記カーボンナノチューブの酸化鉛に対する重量比で含む複合材料、硫酸、水、及び第2の粒径の酸化鉛を含む、ペースト組成物。
【請求項14】
前記複合材料が、前記カーボンナノチューブ及び前記酸化鉛を粉砕することによって得られる、請求項13に記載のペースト組成物。
【請求項15】
粉砕がポリマーの非存在下で行われる、請求項14に記載のペースト組成物。
【請求項16】
少なくとも1つの補強フィラーを更に含む、請求項13に記載のペースト組成物。
【請求項17】
前記第2の粒径が0.5から3μmである、請求項13から16のいずれか一項に記載のペースト組成物。
【請求項18】
(a)グリッドを請求項13から17のいずれか一項に記載のペースト組成物に含浸させる工程、
(b)含浸されたグリッドを加圧成形して平板を得る工程、及び
(c)前記平板を乾燥させてペースト組成物を硬化させる工程
を含む、鉛蓄電池用電極を製造する方法。
【請求項19】
鉛蓄電池用電極がカソードである、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
請求項18又は19に記載の方法で得られる少なくとも1つの電極を含む鉛蓄電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノフィラー/酸化鉛複合材料を硫酸、水及びさらなる酸化鉛と混合することを含む、鉛蓄電池用電極の作製に好適なペースト組成物の製造方法に関する。本発明は、このように得られたペースト、その製造で使用される複合材料並びにこのペーストから得られた電極及び鉛蓄電池にも関する。
【背景技術】
【0002】
商業的観点より、鉛蓄電池は、より最近の電気化学システム、例えばリチウムイオン電池と比べて、その高い信頼性及び低コストのために、最も重要な充電式電気化学システムである。これらは主に内燃機関を始動させるために使用されるが、他の用途は、断続的に生成されるエネルギー、例えば太陽エネルギー又は風力エネルギーの貯蔵を含む。
【0003】
鉛蓄電池は、典型的に、例えばポリプロピレン又はガラス繊維で構成されてもよい膜によって隔離された少なくとも1個の負極(電池を充電する場合、通常、PbO
2で構成されたカソードである)及び少なくとも1個の正極(電池を充電する場合、通常、スポンジ状鉛で構成されたアノードである)を含有する電極集合体を備える。電池は、母線、電解質溶液(一般に硫酸の水溶液)及びハウジングも含む。それぞれの電極は、通常Pb/Sb合金又はPb/Ca合金などの鉛合金製の集電装置によって携行される。
【0004】
この10年間に、鉛蓄電池の正極の導電率を上昇させるために、及び充電中に鉛がPbO
2へ酸化するのを防止するPbSO
4の大きな結晶が形成するのを避けるために、電池の充電/放電特性を、それゆえ正極の活物質利用を改善することを視野に入れて研究が行われてきた。この目的のために、本電極の製造に使用するペースト中へカーボンナノチューブを包含する試みが行われている。カーボンナノチューブは、導電性であり、硫酸電解質環境において安定であることが公知であるsp
2混成炭素原子より構築されたロール状グラフェンシートより成る。
【0005】
Wangら(Effect of MWCNTs as Additives in Lead Acid Battery, Journal of Materials Science & Engineering, Vol. 25, n° 6, 2007)はこのため、黒鉛化が続いてもよい酸処理によって得られた修飾多層カーボンナノチューブがPbO
2正極の配合物中に0.16重量%で包含されている場合、電池の電極の導電率及び活物質の利用が改善されたことを示している。
【0006】
Endoら(Applications of Carbon Nanotubes in the Twenty-First century, Phil. Trans. R. Soc. Lond. A, Vol. 362, pp. 2223-2238, 2004)も、1.5重量%のカーボンナノチューブを鉛蓄電池の正極に添加してその導電率を改善し、負極にも添加してポリマーに埋め込まれた場合にサイクル特性を改善することを報告している。
【0007】
しかし、化学気相蒸着(CVD)によって得られたカーボンナノチューブは、通常、カーボンナノチューブを大規模生産するために普通使用され、それぞれのカーボンナノチューブ間のファンデルワールス相互作用から生じるもつれた構造を有し、この構造によって電極ペーストの製造で使用する溶媒などの水性溶媒中への均質な分散が妨げられる。このような不十分な分散によって次に、電極と電解質との間の電荷移動の有効性、従って鉛蓄電池の性能及び寿命に影響が及び得る。
【0008】
この欠陥を克服するために、ペースト媒体とのカーボンナノチューブの適合性を改善する界面活性剤及び/又はポリマーで、カーボンナノチューブを包むことがすでに提案されている。
【0009】
合成繊維、水及び硫酸を添加する前に、酸化鉛を酸化したカーボンナノチューブと遊星遠心ミキサー内でブレンドすることによって電極ペーストを調製することも提案されている。この方法も、粉砕されるべき大量の酸化鉛のために、複雑すぎて工業化できない。
【0010】
したがって、中に均質に分散されたカーボンナノチューブを含有し、良好な性能(高い電流密度及びPbSO
4の大きな結晶の形成ができる限り少ない)及び長寿命(良好な機械特性及び高い充電/放電サイクル数)を有する鉛蓄電池を製造可能にする電極ペーストを製造するための簡単で経済的な方法を提供する必要性が残存する。
【0011】
発明者らは、ここで、この必要性が、酸化鉛/ナノフィラー複合材料をペースト配合物の残りと混合することによって電極ペーストが調製される方法を提供することによって満たされ得ることを示している。とりわけ良好な結果は、この複合材料がボール粉砕によって得られる場合に達成され得る。
参考文献
[1]Journal of Materials Science & Engineering, Vol. 25, n° 6, pp. 932-934, 2007
[2]Phil. Trans. R. Soc. Lond. A, Vol. 362, pp. 2223- 2238, 2004
[3]欧州特許第1980530号
[4]Carbon, Vol. 44, pp. 1572-1580, 2006
【発明の概要】
【0012】
一態様において、本発明は、従って、鉛蓄電池用電極の作製に好適なペースト組成物を調製する方法であって、
(a)炭素系ナノフィラー及び第1の粒径の酸化鉛を含む複合材料を提供する工程、並びに
(b)前記複合材料を硫酸、水、第2の粒径の酸化鉛、及び任意選択的に少なくとも1つの補強フィラー、例えばガラス繊維を混合して、ペースト組成物を得る工程
を含む、方法に関する。
【0013】
いくつかの実施態様において、複合材料の前記第1の粒径は、0.1から0.6μm、好ましくは0.2から0.4μmの間である。
【0014】
他の実施態様において、前記第2の粒径は0.5から3μmの間である。
【0015】
別の態様において、本発明は、本方法によって入手可能なペーストに関する。
【0016】
なお別の態様において、本発明は、未加工の又は酸化された炭素系ナノフィラー及び第1の粒径の酸化鉛を、5:95から20:80の範囲に及ぶ炭素系ナノフィラーの酸化鉛に対する重量比で含む複合材料に関する。この複合材料は、上の方法の工程(a)で使用されてもよい。複合材料はボールミル粉砕によって得られてもよい。
【0017】
さらなる態様において、本発明は、上記のような複合材料、硫酸、水、第2の粒径の酸化鉛を含み、少なくとも1つの補強フィラーを含んでもよいペースト組成物を提供する。
【0018】
いくつかの実施態様において、前記第2の粒径は0.5から3μmの間である。
【0019】
別の態様において、鉛蓄電池用電極を製造する方法であって、
(a)グリッドを本明細書で定義されるようなペースト組成物に含浸させる工程、
(b)含浸されたグリッドを加圧成形して平板を得る工程、及び
(c)前記平板を乾燥させてペースト組成物を硬化する工程
を含む方法が提供される。
【0020】
なお別の態様において、本発明は、本明細書で定義されるような方法によって入手可能な鉛蓄電池用電極、とりわけ正極に関する。
【0021】
本発明は、本明細書で定義されるような少なくとも1つの電極を含む鉛蓄電池にも関する。
【0022】
本発明によるペースト組成物を調製する方法は、ポリマーによる官能化の必要がない、未加工の(即ち純粋な又は未処理のカーボンナノチューブ)又は酸化されたカーボンナノチューブを使用することによって容易に実施され得る。さらに、本方法で使用される複合材料がボールミル粉砕によって得られる場合、ペーストを製造するために使用される酸化鉛の全バッチと共にカーボンナノチューブをミル粉砕する必要は除去される。従って、複合材料は、カーボンナノチューブ及び第1の粒径の酸化鉛の均質な混合物を得るために酸化鉛中で、例えばボールミルでミル粉砕された所与の濃度のカーボンナノチューブを含むマスターバッチと見なされ得る。
【0023】
カーボンナノチューブの濃度は、次に、マスターバッチ又はその一部をペースト組成物の残りの構成成分、即ち硫酸、水、第2の粒径の酸化鉛及び任意選択的に少なくとも1つの補強フィラー、例えばガラス繊維の中へ混合することによって低下される。
【0024】
この方法は、より小型で、このように安価なボールミルの使用を可能とする。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は、今、さらに詳細に説明されるであろう。以下の説明では、「間に含まれる」という表現は、下限及び上限を含み、明示された範囲の値を示すと理解されるべきである。
【0026】
さらに、「酸化鉛」は、本明細書で使用される場合、式PbO
xを有し、1≦x≦2である酸化鉛の混合物を示す。
【0027】
上述したように、本発明の方法は、炭素系ナノフィラー及び酸化鉛を含む複合材料を提供する第1の工程を含む。
【0028】
炭素系ナノフィラーは、好ましくは、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びその混合物から選択される。
【0029】
カーボンナノチューブは、一又は複数の同心状に巻かれたグラフェンリーフレット(graphene leaflets)で構成される。このため、単層ナノチューブ(即ちSWNT)と多層ナノチューブ(MWNT)との間で区別がなされる。本発明により、欧州特許第1980530号に記載されているように、化学気相蒸着(即ちCVD)法によって、炭素源(好ましくは再生可能源による)の触媒分解によって調製される多層CNTを使用することが好ましい。
【0030】
本発明で使用するカーボンナノチューブは、典型的に、0.1から100nm、好ましくは0.4から50nm、より好ましくは1から30nm、さらにより好ましくは10から15nmの平均粒径及び好都合には0.1から10μmの長さを有する。その長さ/直径比、即ち縦横比は、好都合には10を超え、通常は100を超える。その比表面積は、例えば100から300m
2/g、好ましくは200から300m
2/gの間であり、その見かけの密度は、特に0.05から0.5g/cm
3、より好ましくは0.1から0.2g/cm
3の間であってもよい。多層カーボンナノチューブは、例えば5から15枚のリーフレット、より好ましくは7から10枚のリーフレットを含有してもよい。
【0031】
粗(未加工)カーボンナノチューブの一例は、特にアルケマから商品名グラフィストレングス(登録商標)C100として商業的に入手できる。
【0032】
ナノチューブは、本発明による方法で用いられる前に、精製及び/又は処理(とりわけ酸化)されてもよい。
【0033】
ナノチューブは、その作製方法から生じる鉄などのいかなる残留金属及び鉱物不純物もナノチューブから除去するために、硫酸又は別の酸の溶液を使用して洗浄することによって精製してもよい。ナノチューブの硫酸に対する重量比は、特に、1:2から1:3の間であってもよい。精製操作は、さらに90から120℃の温度にて、例えば5から10時間の時間にわたって実施されてもよい。この操作の後には、好都合には、水ですすぐ工程及び精製ナノチューブを乾燥する工程が続いてもよい。ナノチューブが含有する鉄及び/又はマグネシウム及び/又はアルミナを除去することを目的とするナノチューブを精製する別の経路は、ナノチューブに1000℃を超える熱処理に供することを含む。
【0034】
ナノチューブは、好都合には、0.5%から15重量%のNaOCl、好ましくは1%から10重量%のNaOClを含有する次亜塩素酸ナトリウムの溶液に、例えば1:0.1から1:1のナノチューブの次亜塩素酸ナトリウムに対する重量比で接触させることによって酸化される。酸化は、好都合には、60℃未満の温度、好ましくは室温にて、2、3分から24時間の時間にわたって実施される。この酸化操作の後には、好都合には酸化されたナノチューブの濾過工程及び/又は遠心分離の工程、洗浄工程及び乾燥工程が続いてもよい。
【0035】
酸化されたナノチューブは、また、以下で詳細に論じるように、ミル粉砕方法の間又はペースト組成物調製方法の間に高温にて空気を導入することによって得られてもよい。
【0036】
しかし、ナノチューブを粗製の状態で本発明による方法で使用されることが好ましい。
【0037】
カーボンナノファイバーは、カーボンナノチューブと同様に、水素の存在下で500から1200℃の温度にて、遷移金属(Fe、Ni、Co、Cu)を含む触媒上で分解される炭素源から、化学気相蒸着(即ちCVD)によって作製されたナノフィラメントである。しかし、これらの2種類のナノフィラーは、その構造が相互に異なる(I. MARTIN-GULLONら, Carbon 44 (2006) 1572-1580)。特に、カーボンナノチューブは、10から100nmの直径を有する円筒を形成するために繊維の縦軸を中心として同心状に巻かれた1枚又は複数枚のグラフェンシートで構成される。比較すると、カーボンナノファイバーは、多かれ少なかれ組織化された黒鉛領域(乱層スタッキングとも呼ばれる)に存し、黒鉛領域の面は繊維の縦軸に対して可変角度にて傾斜している。これらのスタッキングは、積み重ねられて、一般に100nmから500nmの間又はなおそれ以上を含む直径を有する構造体を形成するプレートレット、フィッシュボーン又はカップの形態をとってもよい。
【0038】
本発明の複合材料は、好都合には、
−好ましくはボールミル内で未加工又は酸化した炭素系ナノフィラーを酸化鉛と共に、5:95から20:80の範囲に及ぶ炭素系ナノフィラーの酸化鉛に対する重量比で粉砕(即ちミル粉砕)し、
−得られた粉砕(ミル粉砕)粒子を任意選択的に
成形することによって得られてよく、
炭素系ナノフィラー及び第1の粒径の酸化鉛を含む前記複合材料が得られる。
【0039】
この粉砕工程は、遊星遠心ミキサーなどのいかなるボールミルにおいても、例えば150rpm未満、好ましくは60から120rpm又はなお60rpm未満の速度にて、4時間から16時間、好ましくは6から8時間の期間にわたって実施されてもよい。さらに粉砕は、好ましくはポリマーの非存在下で実施される。粉砕手段は、例えば1cmから5cmの直径を有するセラミックボールなどの100から150個のボールを含んでもよい。この粉砕工程の結果として、マルバーン粒径分析器を使用してレーザ回折により測定したように、カーボンナノチューブの中央径(D50)は、D50が約400μmのカーボンナノチューブから始まり、通常100μm未満である。
【0040】
本発明の実施態様によると、この方法は、高温にて鉛を空気に接触させることによって複合材料の製造前に酸化鉛を調製して、酸化鉛の粉末を得る予備工程をさらに含んでもよい。
【0041】
代わりに及び好ましい実施態様によると、本発明の方法は、複合材料の調製に使用されるボールミル内で高温にて鉛を空気と接触させることによって、複合材料の製造中に酸化鉛を調製する工程をさらに含む。本実施態様において、鉛は、一般に、固体形態で空気の存在下で、300℃から400℃、好ましくは330℃から370℃の範囲に及ぶ温度に加熱されたボールミル中に導入される。本実施態様で使用されてもよい代表的なボールミルは、円筒型ボールミル及び円錐型ボールミルである。得られた酸化鉛の粒子は、走査型電子顕微鏡(SEM)粒径分析によって測定されるように、0.1から0.6μm、好ましくは0.2から0.4μmの範囲の第1の粒径を有する。ボールミル中に導入された鉛の一部は、粉砕後に酸化されなくてもよい。この酸化されていない鉛は、例えば1:4から1:3の範囲に及ぶ遊離鉛の酸化鉛に対する重量比で存在してもよい。酸化された鉛と酸化されていない鉛の混合物は、以下「酸化鉛」と呼ばれるであろう。
【0042】
本発明による方法の第2の工程において、前記複合材料は、硫酸、水及び第2の粒径の酸化鉛、並びに任意選択的に少なくとも1つの補強フィラーと混合されてもよい。この第2の粒径は、典型的に、SEM粒径分析によって測定されるように、0.5から3μmの範囲にある。(複合材料に含有される)第1の粒径の酸化鉛の複合材料が添加される第2の粒径の酸化鉛に対する重量比は、0.5:10から1.5:10、例えば約1:10であってもよい。
【0043】
ペースト組成物中の炭素系ナノフィラーの最終的な量は、0.2から2重量%、例えば0.5から1.5重量%、好ましくは0.8から1.2重量%の範囲に及んでもよい。さらに第1の粒径の酸化鉛及び第2の粒径の酸化鉛は、ペースト組成物の重量に対して共に75から85重量%であってもよい。硫酸は、1から20mol/l、好ましくは3から5mol/lの濃度であってもよい。硫酸は、ペースト組成物の総重量の1から10重量%、好ましくは2から7重量%であってもよい。さらに、希硫酸によって供給される水を含めたペースト組成物中の水の総量は、一般に、7重量%から20重量%、例えば10から15重量%の範囲に及ぶ。
【0044】
ペースト配合物は、補強材、例えばポリエステル(例えばポリエチレンテレフタレート、PET)、ポリアクリロニトリル、ガラス繊維又は炭素繊維を含んでもよい。補強材は、1から30μmの厚さ及び0.05から4.0mmの長さを有してもよい。ペーストの構成要素の総含有率が100%に達するという条件で、これらの繊維、好ましくはガラス繊維は、ペースト組成物の総重量の0.1から1重量%、好ましくは0.1から1重量%であってもよい。
【0045】
本発明は、上記のペースト組成物に基づく鉛蓄電池用電極を製造する方法にも関する。前記方法は、
(a)グリッドをペースト組成物に含浸させる工程、
(b)含浸させたグリッドを加圧成形して平板を得る工程、及び
(c)前記平板を乾燥させてペースト組成物を硬化させる工程
を含む。
【0046】
グリッドは可撓性でも剛性でもよい。グリッドは平坦若しくは二次元であるか、又は湾曲してそれゆえ三次元であってもよい。グリッドは、一般に、鉛又はその合金で構成されている。電極ペーストをグリッドに塗布した後に、硬化は、一般に、例えば30から65℃にて、少なくとも80%、好ましくは90から95%の相対湿度の下で18時間より長く、例えば24時間実施される。次に、熟成は、好ましくは例えば55から80℃にて、周囲相対湿度の下で1から3日間実施される。
【0047】
電極は、鉛蓄電池の正極であってもよい。この場合には、負極は、カドミウム、金属水素化物、鉛及び亜鉛並びに好ましくはスポンジ状鉛から成る群より選択されるいかなる電気活性材料も含んでもよい。
【0048】
この鉛蓄電池は、一般に、正極及び負極の各対の間にセパレーターを含む。このセパレーターは、いかなる多孔性非導電性材料、例えばポリプロピレン又はポリエチレンのシートであってもよい。セパレーターの厚さは、0.01から0.1mmの範囲に及んでもよい。一対の電極は、セパレーターと共にセルを形成する。本発明の鉛電池は、1から12個のセルを含んでもよく、セルはそれぞれ1.5から2.5ボルトの電圧を供給してもよい。鉛電池は、正極を直接接続するための第1の導体及び負極を直接接続するための第2の導体も含む。
【0049】
本発明の方法によって得られた鉛蓄電池は、放電深度(DOD)が電池の初期容量の25±0.3%、14Vでの充電と10.5Vでの放電の間、少なくとも170回の動作サイクル、好ましくは少なくとも180回の動作サイクル、より好ましくは少なくとも200回の動作サイクルにわたって動作可能である。
【0050】
本発明は、例証目的で与えるに過ぎない以下の非限定的な実施例に照らしてさらに理解される。
【実施例】
【0051】
実施例1:本発明によるペーストの調製
6kgのセラミックボールは、10l広口瓶に導入されて、505gのカーボンナノチューブ(アルケマ製のグラフィストレングス(登録商標)C100)及び4545gの酸化鉛が添加された。次に、広口瓶は、ボールミル内に設置され、60rpmで8時間回転された。5001.5g黒色粉末が回収された。この生成物は、10%のカーボンナノチューブ及び90%の酸化鉛を含有した。SEM分析から、粉砕されたLOが0.2−0.4μmの平均径を有することが生じる。
【0052】
1.6gのこの生成物は、1.84gの水及び14.4gの酸化鉛を含むビーカー内に導入された。ペースト状混合物が得られ、これに2.66gの43% H
2SO
4を滴加した。カーボンナノチューブ及び酸化鉛を1:10の重量比で含有するペーストは、このように得られた。
【0053】
実施例2:比較例のペーストの調製
実施例1で記載したように得られた12gの共粉砕された生成物は、ペースト状混合物を得るために、1.38gの水を含むビーカー内に導入され、2gの43%H
2SO
4が滴加された。カーボンナノチューブ及び酸化鉛を1:10の重量比で含有するペーストは、このように得られた。
【0054】
実施例3:電池の性能
鉛蓄電池の性能に対する実施例1及び2のペーストの影響は、およそ200gの負極及び100gの正極、ガラスセパレーター及びH
2SO
4電解質溶液(SG=1.205)を含有する2Vポリプロピレンセルを使用して研究された。
【0055】
正極は、実施例1又は2のペーストから作製された。
実施例1及び2からの500グラムの酸化鉛粉末は、0.5グラムのガラス繊維と3分間混合され、次に、さらに7分間混合する間に水45mlが添加され、49mlの硫酸1.325S.gを添加が続き、さらに15分間酸が徐々に添加された。次に、該ペーストは、鉛アンチモン(1.5)グリッド(1.3mm厚)上に塗布された。次にこれらの平板は、40℃、90%RHにて少なくとも24時間硬化され、続いて8%RH、60℃にて乾燥された。
【0056】
標準負極は、上のセルで使用された。
【0057】
すべての電気化学的手順は、DTIチャネル電位に対して行われ、C/20の速度での完全放電を含み、有効容量が決定された。
【0058】
実施例1及び2のペースト組成物は、同じサイクル数、即ち234回実施することができた。この実験は、本発明に従って調製されたペーストが、その調製方法がより安価であるにもかかわらず、比較例のペーストと同じ性能を有したことを示す。