特許第6404238号(P6404238)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6404238生体適合性コーティングを有する医用デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404238
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】生体適合性コーティングを有する医用デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61L 31/02 20060101AFI20181001BHJP
   A61L 31/08 20060101ALI20181001BHJP
   A61L 31/16 20060101ALI20181001BHJP
   A61L 27/04 20060101ALI20181001BHJP
   A61L 27/54 20060101ALI20181001BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20181001BHJP
   A61L 33/04 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   A61L31/02
   A61L31/08
   A61L31/16
   A61L27/04
   A61L27/54
   A61L27/40
   A61L33/04
【請求項の数】10
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-558473(P2015-558473)
(86)(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公表番号】特表2016-508794(P2016-508794A)
(43)【公表日】2016年3月24日
(86)【国際出願番号】EP2014053481
(87)【国際公開番号】WO2014128280
(87)【国際公開日】20140828
【審査請求日】2017年2月1日
(31)【優先権主張番号】13156274.6
(32)【優先日】2013年2月22日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515345023
【氏名又は名称】カーディアティス ソシエテ アノニム
(73)【特許権者】
【識別番号】515228690
【氏名又は名称】リリク,ペドロ
(74)【代理人】
【識別番号】100091096
【弁理士】
【氏名又は名称】平木 祐輔
(74)【代理人】
【識別番号】100118773
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 節
(74)【代理人】
【識別番号】100122389
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 栄一
(74)【代理人】
【識別番号】100111741
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 夏夫
(74)【代理人】
【識別番号】100169971
【弁理士】
【氏名又は名称】菊田 尚子
(74)【代理人】
【識別番号】100187481
【弁理士】
【氏名又は名称】小原 淳史
(72)【発明者】
【氏名】リリク,ペドロ
(72)【発明者】
【氏名】フリッド,ヌールッディーン
(72)【発明者】
【氏名】ゲブハルト,ローレンス
(72)【発明者】
【氏名】ケントゲス,ニルス
【審査官】 澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−521476(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0044408(US,A1)
【文献】 国際公開第2008/017721(WO,A1)
【文献】 特表2007−533408(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0011613(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0049693(US,A1)
【文献】 特表2007−533345(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)金属基材及び
(b)一般式(I)
【化1】
を有するビスホスホネートを含む血管内補綴物であって、
は(i)非置換−C1〜5アルキル、又は(ii)−Clを表し、
は−H、−OH、又は−Clを表し、
、M、M、Mは互いに独立に水素原子又は任意の金属原子を表し、
ビスホスホネートは金属基材の外表面を単層としてかつ最外層として連続的にコートしており、ビスホスホネートの少なくとも1つのホスホネート部分はコーティング中の金属基材の外表面に共有結合で直接結合していることを特徴とする、血管内補綴物。
【請求項2】
が−CHを表し、Rが−OHを表す、請求項1に記載の血管内補綴物。
【請求項3】
ビスホスホネートのコーティングの表面リン原子濃度が少なくとも70%P、好ましくは少なくとも80%Pである、請求項1又は2に記載の血管内補綴物。
【請求項4】
ステント、ステントグラフト、フィルター、心臓弁、冠動脈ステント及び末梢ステントからなる群から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の血管内補綴物。
【請求項5】
血管内補綴物の金属表面の抗炎症性コーティングとしての使用のための、一般式(I)
【化2】
を有するビスホスホネートを含む組成物であって、
は(i)非置換−C1〜5アルキル、又は(ii)−Clを表し、
は−H、−OH、又は−Clを表し、
、M、M、Mは互いに独立に水素原子又は任意の金属原子を表し、
ビスホスホネートは金属基材の外表面を単層としてかつ最外層として連続的にコートしており、ビスホスホネートの少なくとも1つのホスホネート部分はコーティング中の金属基材の外表面に共有結合で直接結合している、組成物。
【請求項6】
が−CHを表し、Rが−OHを表す、請求項5に記載の使用のための組成物。
【請求項7】
血管内補綴物の金属表面の抗血栓性コーティングとしての使用のための一般式(I)
【化3】
を有するビスホスホネートを含む組成物であって、
は(i)非置換−C1〜5アルキル、又は(ii)−Clを表し、
は−H、−OH、又は−Clを表し、
、M、M、Mは互いに独立に水素原子又は任意の金属原子を表し、
ビスホスホネートは金属基材の外表面を単層としてかつ最外層として連続的にコートしており、ビスホスホネートの少なくとも1つのホスホネート部分はコーティング中の金属基材の外表面に共有結合で直接結合している、組成物。
【請求項8】
が−CHを表し、Rが−OHを表す、請求項7に記載の使用のための組成物。
【請求項9】
血管内補綴物の金属表面の抗炎症性コーティングとしての一般式(I)
【化4】
を有するビスホスホネートの使用であって、
は(i)非置換−C1〜5アルキル、又は(ii)−Cl、好ましくは−CHを表し、
は−H、−OH、又は−Cl、好ましくは−OHを表し、
、M、M、Mは互いに独立に水素原子又は任意の金属原子を表し、
ビスホスホネートは金属基材の外表面を単層としてかつ最外層として連続的にコートしており、ビスホスホネートの少なくとも1つのホスホネート部分はコーティング中の金属基材の外表面に共有結合で直接結合している、使用。
【請求項10】
血管内補綴物の金属表面の抗血小板コーティングとしての一般式(I)
【化5】
を有するビスホスホネートの使用であって、
は(i)非置換−C1〜5アルキル、又は(ii)−Cl、好ましくは−CHを表し、
は−H、−OH、又は−Cl、好ましくは−OHを表し、
、M、M、Mは互いに独立に水素原子又は任意の金属原子を表し、
ビスホスホネートは金属基材の外表面を単層としてかつ最外層として連続的にコートしており、ビスホスホネートの少なくとも1つのホスホネート部分はコーティング中の金属基材の外表面に共有結合で直接結合している、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属部分を有する埋込み型医用デバイスのための生体適合性コーティングに関し、より詳細には金属部分の表面に共有結合で直接結合したビスホスホネート系コーティングに関する。本発明はまた、ビスホスホン酸化合物が外部コーティングとして共有結合で直接結合した金属部分を有する埋込み型デバイスを製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工心臓弁、血管補綴物、ステント、整形外科用スクリュー及び関節補綴物等の埋込み型医用デバイスは、適切な機械的性質を得るために、金属基材を含み、又は金属基材から本質的に構成されることが多い。しかし、埋込み型医用デバイスに用いられる金属基材には、特に長期使用においてその生体適合性又は機能性に関する欠点がある。
【0003】
インプラントは、化学的及び/又は物理的刺激によって、炎症性組織反応及び免疫反応の引き金となることが多く、そのため防御的な拒絶反応を伴う慢性炎症反応、組織の劣化による過剰の瘢痕組織生成という意味での過敏反応をもたらす。したがって、埋め込みによって引き起こされる炎症反応を低減するインプラントコーティングへの要求がある。
【0004】
ステントは一般に、狭窄を治療するために動脈内で用いられる血管内補綴物又はインプラントである。(再)狭窄は血管が狭くなることであり、血流を制限し、血液をブロックし、心臓組織の酸素化を不充分にし、それにより心筋の虚血、梗塞、心不整脈、又は心停止をもたらす。基本的には、ステントは血管を拡張するために適した方法で血管壁を支持するのに適したキャリア構造を有する。再狭窄は、狭窄を治療するための最初の手術が実施された(例えばバルーン又は古典的なステントによる血管の拡張)後に起こることが多い。
【0005】
(特許文献1)には、自己拡張性の未コート金属ステント、即ち血管壁を支えるように機能する小さな金属の足場が開示されている。これは、再狭窄を効果的に低減し、心臓の主要な有害事象、心筋梗塞、及び死の割合を著しく減少させる。
【0006】
上述のように、ステントの埋め込みには、ステント内部の50%を超える管腔の直径の晩期の減少として定義されるステント内の再狭窄が伴うことが多い。ステント内再狭窄には、血管形成術のもとに生じる深い血管の損傷及び内皮細胞の露出によって、またさらに異物である金属製デバイスの存在によって開始されると考えられる血管の平滑筋細胞(SMC)の過剰な増殖、細胞外マトリックスの合成及び慢性炎症反応が伴う。この合併症は、この処置の約15〜30%で起こる。
【0007】
薬剤溶出ステント(DES)、即ち薬剤を含むステントは、理論的にはSMCの増殖を阻害することによってステント内再狭窄現象を防止するために市場に投入された。一般に、DESには3種の成分、即ちステントプラットフォーム、ポリマーマトリックス等の薬剤送達ビヒクル、並びにシロリムス及びパクリタキセル等の薬剤がある。そのようなDESは、未コート金属ステントに比べて、再狭窄の割合を顕著に低減させると推量される。しかし、そのようなDESを埋め込んだ後で心筋梗塞及び心血管系死亡率の増加が報告された。これらの事象は、血小板凝集及び血液栓塞によって引き起こされる急性期の動脈血栓の後に起こることの多い晩期ステント血栓によることが見出された。
【0008】
血栓及びステント内再狭窄を軽減するため、血栓性及び炎症性が少ない材料でステントの表面を改質することによってステントの生体適合性を改善するための最新技術における種々の試みがある。例えば(特許文献2)には、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン及び金属ステントの生体適合性を増大させるヘパリン及び成長因子等の生物学的材料でコートされた金属ステントが開示されている。
【0009】
(特許文献3)及び(特許文献4)には、インプラントの表面に共有結合されていないアミノ−ビスホスホネートでコートされたインプラントが開示されている。したがって、インプラントはビスホスホネートを薬学的活性成分としてインプラントのごく周囲の環境に放出する。
【0010】
(特許文献5)には、骨の再吸収を阻害し、単球及びマクロファージの炎症活性を減少させ、それにより長期にわたってインプラントデバイスの固定化及び一体化を改善する、ビスホスホネートコートインプラントデバイスが開示されている。デバイスの表面に固定化され、それから放出することが可能なタンパク質層を通して、区別される2層のビスホスホネート層がデバイスに結合し、局所的に「薬剤」(活性成分)として作用する。
【0011】
一方、(特許文献6)には、ポリマー及びその他の高密度のコーティングを使用せず、それにより炎症反応を最小にする生物学的活性分子を送達するための組成物を含む金属のフレームが開示されている。金属基材の表面は、リンケージ化合物として誘導体化可能な機能性を有するアミノ−ビスホスホネートを用いることによって、タンパク質、ペプチド、及び薬剤の結合のために化学修飾されている。
【0012】
(特許文献7)には、媒体中で基材の表面にビスホスホネートを堆積させ、その後、媒体を除去した後に熱で脱水することによって金属基材をビスホスホネートでコートする方法が開示されている。この文献にはまた、腕時計及び置時計の製造における、自動車産業もしくは航空機産業における、又は電子機械マイクロシステムもしくはナノシステムにおける、粘着力を制限するため、2つの機械部品の間の滑動を促進するため、撥油効果を支持することによってこれらの設備の上における液体の拡散を制限するため、又は結晶の形成を制限するための、ビスホスホネートでコートされた金属基材並びにコートされた基材の使用が開示されている。
【0013】
先行技術のいずれも、血管補綴物の金属基材の上に恒久的かつ直接に堆積されたコーティングとしてのビスホスホネートが、コーティングの機械的性質と同様に抗血小板性及び抗炎症性を提供することは開示していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,741,333号明細書
【特許文献2】米国特許第5,891,507号明細書
【特許文献3】米国特許出願公開第2008/0286328号明細書
【特許文献4】米国特許出願公開第2005/0049693号明細書
【特許文献5】欧州特許出願公開第1058343号明細書
【特許文献6】米国特許出願公開第2003/0044408号明細書
【特許文献7】国際公開第2008/017721号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、その金属表面の上に新しいタイプのコーティングを有する埋込み型医用デバイスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によるコーティングは、埋込み型医用デバイスの金属表面に共有結合で直接結合し、コーティングの外層として単層を形成するビスホスホン酸を含む。ビスホスホン酸のいくつかの分子は、コーティング中のビスホスホン酸の別の分子と共有結合していてもよい。コーティングは金属表面に生体適合性をもたらし、それにより埋め込みに起因する炎症反応を低減する。コーティングはまた、金属表面における血小板抗付着性を改善する一方、乏血小板血漿(PPP)との、及びコーティング上における迅速な内皮形成のために必要な内皮細胞との良好な適合性を保つ。結果として、晩期血栓及びステント内再狭窄のリスクをコーティングによって低減させることができる。
【0017】
本発明の目的は、その表面の生体適合性を増大させた補綴物を市場に投入し、それにより、埋め込みによって引き起こされる慢性炎症反応、血栓、及びステント内再狭窄のリスクを低減させることである。
【0018】
本発明の別の目的は、血管内補綴物の金属基材の表面上に恒久的に堆積して血小板凝集を低減させる一方、その上における内皮細胞増殖の迅速な促進を維持するコーティング、即ち抗血小板かつ生体適合性コーティングを提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、血管内補綴物の金属基材の表面上に恒久的に堆積して細胞炎症反応を低減させる一方、その上における内皮細胞増殖の迅速な促進を維持するコーティング、即ち抗炎症かつ生体適合性コーティングを提供することである。
【0020】
本発明の主題は、添付した独立請求項に定義されている。好ましい実施形態は、従属請求項に定義されている。
【0021】
本発明の主題は、金属基材及びビスホスホネートを含む埋込み型医用デバイスである。ビスホスホネートに含まれる両方のリン原子は、同一の炭素原子に共有結合している。ビスホスホネートは金属基材の外表面を単層としてかつ最外層として連続的にコートしており、ビスホスホネートの分子の少なくとも1つのホスホネート部分は金属基材の外表面に共有結合で直接結合しており、及び/又はコーティング中のビスホスホネートの別の分子に共有結合している。
【0022】
本発明の別の主題は、金属基材及びビスホスホネートを含む埋込み型医用デバイスである。ビスホスホネートは一般式(I)
【0023】
【化1】
からなる。

(i)非置換の又は−NH、ピリジル、ピロリジルもしくはNRで置換された−C1〜5アルキル、
(ii)−NHR
(iii)−SR、又は
(iv)−Cl
を表し、
は−H、−OH、又は−Clを表し、
は−H又は−C1〜5アルキルを表し、
は−C1〜5アルキルを表し、
は−C1〜10アルキル又は−C3〜10シクロアルキルを表し、
はフェニルを表す。
【0024】
別の実施形態においては、ビスホスホネート基材のコーティングの表面リン原子濃度は、少なくとも70%P、好ましくは少なくとも80%Pである。
【0025】
別の実施形態においては、埋込み型医用デバイスは、血管内補綴物、管腔内補綴物、ステント、冠動脈ステント及び末梢ステントからなる群から選択することができる。
【0026】
別の態様においては、本発明は金属基材をビスホスホネート基材でコートする方法であって、
(a)金属基材を用意するステップ、
(b)ビスホスホン酸を含む液体キャリアを調製するステップ、
(c)金属基材を液体キャリアに浸漬するステップ、及び
(d)液体キャリア中で金属基材の表面にビスホスホン酸化合物を共有結合で固定化するステップを含み、
ビスホスホン酸に含まれる両方のリン原子が同一の炭素原子に共有結合する方法を提供する。
【0027】
本発明の1つの実施形態においては、式(I)
【0028】
【化2】
を有するビスホスホン酸又はその塩であって、

(i)非置換の又は−NH、ピリジル、ピロリジル、もしくはNRで置換された−C1〜5アルキル、
(ii)−NHR
(iii)−SR、又は
(iv)−Cl
を表し、
は−H、−OH、又は−Clを表し、
は−H又は−C1〜5アルキルを表し、
は−C1〜5アルキルを表し、
は−C1〜10アルキル又は−C3〜10シクロアルキルを表し、
はフェニルを表す。
【0029】
別の実施形態においては、ステップ(d)において液体キャリアは少なくとも24時間、好ましくは48時間、少なくとも70℃、好ましくは少なくとも80℃の温度で加熱される。
【0030】
別の実施形態においては、液体キャリア中の金属基材は、ステップ(d)において誘導加熱に供される。
【0031】
本発明のさらに別の実施形態は、コートされる金属基材の表面を、その上に厚い金属酸化物の外層を形成させるために熱処理に供することができる方法に関し、熱処理は、好ましくはコートされる金属基材を少なくとも10分、好ましくは少なくとも15分、少なくとも500℃、好ましくは少なくとも550℃の温度で加熱するステップを含む。
【0032】
本発明の別の主題は、埋込み型医用デバイスの金属表面における抗炎症コーティングとしての使用のためのビスホスホネートに関し、ビスホスホネートの両方のリン原子は同一の炭素原子に共有結合している。
【0033】
本発明のさらに別の主題は、血管内補綴物の金属表面における抗血栓性コーティングとしての使用のためのビスホスホネートに関し、ビスホスホネートの両方のリン原子は同一の炭素原子に共有結合している。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】比較例(CEX)としての未コート金属表面及び本発明によるビスホスホネートコーティング(INV)への多血小板血漿(PRP)の付着を示す比較図である。
図2】比較例(CEX)としての未コート金属表面及び本発明によるビスホスホネートコーティング(INV)への乏血小板血漿(PPP)の付着を示す比較図である。
図3】比較例(CEX)としての未コート金属表面及び本発明によるビスホスホネートコーティング(INV)における相対的内皮化を示す比較図である。
図4】比較例(CEX)としての未コート金属表面及び本発明によるビスホスホネートコーティング(INV)による相対的炎症を示す比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書において「埋込み型医用デバイス」及び「インプラント」という用語は同義語として用いられ、血管内補綴物、管腔内補綴物、ステント、冠動脈ステント、末梢ステント等の医用又は治療用インプラント、手術用スクリュー、プレート、釘及びその他の連結手段等の一時使用のための手術用及び/又は整形外科用インプラント、骨補綴物もしくは関節補綴物等の恒久的な手術用又は整形外科用インプラントを含むと理解される。
【0036】
本明細書において「血管内補綴物」という用語は同義語として用いられ、ステント、ステントグラフト、フィルター、心臓弁、冠動脈ステント及び末梢ステントを含むと理解される。
【0037】
本発明による埋込み型医用デバイスは、鉄、マグネシウム、ニッケル、タングステン、チタン、ジルコニウム、ニオブ、タンタル、亜鉛又はケイ素からなる群から選択される金属基材、及び、もし必要であれば、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マンガン、鉄又はタングステンからなる群からの1種又は数種の金属の第2の成分、好ましくは亜鉛−カルシウム合金を含み、又は実質的にこれらからなる。さらに実際的な例においては、金属基材は、ニッケルチタン合金及び銅亜鉛アルミニウム合金からなる群からの1種又は数種の材料の記憶効果材料からなるが、好ましくはニチノールからなる。さらに実際的な例においては、医用デバイスの金属基材はステンレススチール、好ましくはCr−Ni−Feスチール、この場合には好ましくは合金316L、又はPhynox等のCo−Crスチールからなる。本発明の好ましい実施形態においては、埋込み型医用デバイスはステント、特に金属ステント、好ましくは自己拡張型ステントである。
【0038】
本発明はビスホスホン酸から誘導されるビスホスホネート層を含む金属基材のためのコーティングに関し、ビスホスホン酸の2つのリン原子は同一の炭素原子に共有結合している。
【0039】
米国特許第5,431,920号は、骨粗鬆症等の代謝性骨疾患を治療するための活性成分としてビスホスホン酸を含む剤形の組成物を開示している。
【0040】
欧州特許第1,508,343号は、骨固定に用いられるインプラントデバイスのための多層コーティングを開示している。コーティングは2種のビスホスホネート層を含み、1つはインプラントデバイスが挿入されると直ちに多層コーティングから放出されるように設計され、他はインプラントデバイスの長期使用のために長期にわたってゆっくりと放出されるように設計されている。後者の型のビスホスホネート層は、インプラントデバイスの表面に固定化された複数のタンパク質層に強く結合している。前者の型のビスホスホネートは、コーティングの最外層として後者の型の層に弱く結合している。
【0041】
本発明によれば、ビスホスホネートは埋込み型医用デバイスの金属表面を単層としてかつ最外層としてコートする。ビスホスホネートの少なくとも1つのホスホネート部分は金属表面に共有結合で直接結合している。ビスホスホネートのいくつかの分子がコーティング中のビスホスホネートの別の分子に共有結合していてもよい。したがって、埋め込み後、ビスホスホネート又はビスホスホン酸はコーティングから活性成分として放出されず、コーティングの一部として表面上に恒久的に留まる。驚くべきことに、ビスホスホネート層が存在するだけでコーティングに生体適合性が付与され、炎症反応が低減され、及び/又はコーティング上における内皮細胞層の形成が促進される一方、血小板の活性化及び付着が顕著に低減される。結果として、再狭窄及び血栓のリスクが著しく低減される。
【0042】
「ホスフェート基」は、4つの酸素に結合したリンを含み、POとして表される正味の負電荷を有する官能基を意味する。「ホスホン酸」は、C−PO(OH)基を含む有機化合物である。「ホスホネート」はホスホン酸の塩又はエステルであり、一般式R−PO(OR基を有する(ここでRはアルキル又はアリールを表し、Rはアルキル、アリール又は塩の対カチオンを表す)。本発明の目的のため、「ビスホスホネート」は分子中に2つのホスホネート(PO)基を有する化合物を意味する。本発明によるビスホスホネートは、共通のP−C−P「主鎖」、即ち1つの炭素原子に共有結合した2つのホスホネート(PO)基を有している。
【0043】
本発明の好ましい実施形態においては、埋込み型医用デバイスの金属表面の上にビスホスホネート単層を設けるために用いられるビスホスホン酸は、一般式(I)
【0044】
【化3】
又はその塩を有する。
【0045】
式(I)においてRは−C1〜5アルキル(これは非置換である又は−NH、ピリジル、ピロリジルもしくはNRで置換されている)、−NHR、−SR又は−Clを表し、Rは−H、−OH、又は−Clを表し、Rは−H又は−C1〜5アルキルを表し、Rは−C1〜5アルキルを表し、Rは−C1〜10アルキル又は−C3〜10シクロアルキルを表し、Rはフェニルを表す。
【0046】
本明細書においては、「アルキル」は特定数の炭素原子を有する分枝鎖及び直鎖の両方の飽和脂肪族炭化水素基を含むことが意図され、「シクロアルキル」はシクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル及びシクロヘプチル等の飽和環状基を含むことが意図されている。
【0047】
本発明の好ましい実施形態においては、ビスホスホン酸は、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(エチドロン酸)、アレンドロン酸、クロドロン酸、パミドロン酸、チルドロン酸及びリセドロン酸からなる群から選択することができ、好ましくは1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(エチドロン酸)である。
【0048】
本発明によるコーティングにおけるビスホスホネートは、金属基材の外表面を単層としてかつ最外層として連続的にコートしており、ビスホスホネートのそれぞれの分子の少なくとも1つのホスホネート部分は、金属基材の外表面に共有結合で直接結合し、及び/又はコーティング中のビスホスホネートの別の分子に共有結合している。
【0049】
誘導加熱は電磁誘導によって直接にかつ非接触で金属基材を加熱するために広く用いられている方法であり、金属内部で渦電流が発生し、抵抗により金属がジュール加熱される。誘導加熱器(いかなるプロセスにおいても)はコイル等の電磁石からなっており、これを通して高周波交流電流(AC)が流れる。
【0050】
好ましい実施形態においては、非電導性材料から作製され、コートすべき金属基材及びビスホスホン酸化合物を含む液体キャリアを入れた容器が電導コイルの内部に設置される。金属基材の表面上に所望の厚みを有するビスホスホネート層を得るため、出力50〜500kW、周波数150〜250kHzのACをコイルに流すことによって発生する渦電流を金属基材に適用する。ビスホスホン酸化合物の濃度は10−2〜10−4モル/l、好ましくは10−3モル/lである。ビスホスホン酸化合物は好ましくは液体キャリアに溶解される。液体キャリアはメタノール及びエタノール及びイソプロパノール等のアルコール、THF、DMF、水又はそれらの混合物であってよい。
【0051】
さらに好ましい実施形態においては、コートすべき金属基材はビスホスホン酸を10−2〜10−4 Mの濃度で含む液体キャリアに浸漬され、液体キャリアは通常の手段によって少なくとも24時間、少なくとも70℃の温度で加熱される。
【0052】
金属基材上の厚い酸化層の形成を促進するため、金属基材を熱処理(TT)に供してもよい。
【0053】
金属基材上のビスホスホネート単層の表面組成(全原子濃度%)を、X線光電子分光法(XPS)によって測定した。ビスホスフェート基材のコーティングの表面リン原子濃度は、少なくとも70%P、好ましくは少なくとも90%Pである。
【実施例】
【0054】
[実施例1]
(コーティングの形成)
コートすべき医用デバイスとして、長さ2cmの5mmPhynoxステントを用意した。オーブン中、15分、550℃の熱処理(TT)によってPhynoxの表面を改質し、次いで化学処理(CT、ステントを0.1%HF及び20%HNOの溶液に15分浸漬し、次いでステントを2.5%HNOの溶液に30分浸漬する)を行なった。表面処理の前に、ステントをエチレンオキシド滅菌プロセスに供した。母液(60%v/v)を1000倍に希釈することによってエチドロン酸(EA)水溶液を得た。この溶液にステントを浸漬し、80℃で48時間加熱した。
【0055】
[実施例2]
(誘導加熱)
コートすべき医用デバイスとして、長さ2cmの5mmPhynoxステントを用意した。オーブン中、15分、550℃の熱処理(TT)によってPhynoxの表面を改質し、次いで化学処理(CT、ステントを0.1%HF及び20%HNOの溶液に15分浸漬し、次いでステントを2.5%HNOの溶液に30分浸漬する)を行なった。濃度10−3Mのエチドロン酸水溶液を調製した。この溶液にステントを浸漬し、出力110kW、周波数198kHzのAmbrell EasyHeat誘導加熱システムを用いる誘導加熱に供した。用いたソレノイドは、内径9cmの7個のスパイアからなっていた。
【0056】
[実施例3]
(血小板付着)
凝集を防止するため、3.6mlの3.5%クエン酸ナトリウムを含むバイアルに血液を収集した。2種の異なった血漿を得るため、2種の異なった回転速度で全血を遠心分離した。第1の種類(多血小板血漿(PRP))は900rpmの遠心によって得た。第2の種類(乏血小板血漿(PPP))は1500rpmの遠心によって得た。試験のために十分な量を得るため、血漿をHBSS(Hankの緩衝塩溶液)で希釈した。血小板付着は分光光度法によって測定した。全タンパク質量は280nmにおける吸光度の測定によって評価した。実施例1に記載したように未コートの金属ステント及びEAコーティングを行なったステントを調製し、2種の血漿溶液の1つに37℃で24時間、一定の撹拌(STAT−FAX2200 恒温撹拌機)下に浸漬した。完了後、ステントをHBSS緩衝液で洗浄し、次いで125μlの溶解液で処理する。次いで280nmにおける全吸光度を測定する。それぞれの試料の値をそれぞれの実験(PRP及びPPP)の対照の平均値で除することによって、生データを正規化した。
【0057】
図1及び図2に、未コート金属表面(CEX)及び本発明によるEAコーティング(INV)へのPRP及びPPPの付着をそれぞれ示す。
【0058】
結論:未コート金属表面と比較して、本発明によるEAコーティングには血小板凝集の重要な減少(40%!)が見られた。
【0059】
[実施例4]
(内皮細胞の増殖:内皮化)
未コート金属ステント及びEAコーティングを有するステントを実施例1に記載したように調製し、ウェルあたり細胞70,000個(EA.hY926)で7日間培養した(37℃、CO5%)。細胞がこのように大量にあることにより、ステントのメッシュの中に細胞がトラップされる確率が高まると考えられた。培養期間中2回(1日後及び4日後)、培地の80%(5ml中4ml)を交換した。完了後、ステントをHBSS緩衝液で洗浄し、次いで125μlの溶解液で処理する。次いで280nmにおける全吸光度を測定する。
【0060】
図3に、未コート金属表面(CEX)上及び本発明によるEAコーティング(INV)上の相対的な内皮化を示す。
【0061】
結論:未コート金属表面と比較して、EAコーティング上で同一レベルの内皮細胞の増殖が見られた。したがって、血小板凝集は低減する一方、血管壁細胞再生の望ましい能力は低減していない。
【0062】
[実施例5]
(炎症の誘導)
未コート金属ステント及び実施例1に記載したように調製したEAコーティングステントについて得られるIL−8の値を、培地中で通常のELISAセットを用いて、提供された説明書に従って測定した。
【0063】
図4に、未コート金属表面(CEX)及び本発明によるEAコーティング(INV)についての相対的な炎症を示す。
【0064】
結論:未コート金属表面と比較して、EAコーティングによって誘導される炎症反応は顕著に改善され、即ち23%低くなった。
【0065】
したがって、本発明によるビスホスホネートコーティングにより、未コート金属表面と比較して、その上における迅速な内皮細胞増殖の促進は維持される一方、血小板付着及び細胞炎症反応は顕著に低減することが示された。
図1
図2
図3
図4