特許第6404288号(P6404288)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6404288-エンジン試験装置 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404288
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】エンジン試験装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 15/02 20060101AFI20181001BHJP
【FI】
   G01M15/02
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-181569(P2016-181569)
(22)【出願日】2016年9月16日
(65)【公開番号】特開2018-44918(P2018-44918A)
(43)【公開日】2018年3月22日
【審査請求日】2017年3月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000108890
【氏名又は名称】株式会社ダイキンアプライドシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】永田 淳
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2012/0125564(US,A1)
【文献】 特開2007−009752(JP,A)
【文献】 特開2006−226236(JP,A)
【文献】 実開平04−057624(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(10)に接続されたエンジン試験用機器(11)と、上記エンジン(10)に接続されて冷却水が流れる冷却水回路(20)と、該冷却水回路(20)を流れる冷却水の温度を調整する温度調整部(30)とを備え、
上記冷却水回路(20)の最上部の冷却水配管(21)に、膨張タンク(40)が、該冷却水回路(20)から該膨張タンク(40)へ向かって冷却水が流入可能な膨張配管(41)で接続されたエンジン試験装置であって、
上記膨張タンク(40)と上記冷却水回路(20)とが、さらに、該膨張タンク(40)から冷却水回路(20)へ向かって冷却水が流通可能な循環配管(22)で接続されていることを特徴とするエンジン試験装置。
【請求項2】
請求項1において、
上記冷却水回路(20)に、上記冷却水の流れを、該冷却水が冷却水配管(21)を通らずに上記循環配管(22)のみを通る第1流れと、上記冷却水が上記冷却水配管(21)を通る第2流れとに切り換える切り換え機構(50)が設けられていることを特徴とするエンジン試験装置。
【請求項3】
請求項2において、
上記切り換え機構(50)は、上記冷却水配管(21)に接続された第1開閉弁(51)を備え、
上記第1開閉弁(51)は、上記膨張配管(41)と上記冷却水配管(21)との接続部と、上記循環配管(22)と上記冷却水配管(21)との接続部との間に配置されていることを特徴とするエンジン試験装置。
【請求項4】
請求項3において、
上記切り換え機構(50)は、さらに、上記循環配管(22)に接続された第2開閉弁(52)を備えていることを特徴とするエンジン試験装置。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1つにおいて、
上記膨張タンク(40)内での上記膨張配管(41)の開口端(41a)が、該膨張タンク(40)と上記循環配管(22)との接続端(22a)よりも、高い位置に配置されていることを特徴とするエンジン試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン試験装置に関し、特に、エンジンの冷却水回路のエア抜き構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンを台上で試験するエンジン試験装置(エンジンベンチ)では、エンジンにダイナモメータやトルクメータが接続され、エンジンの回転数やトルクその他の特性について、種々の試験が行われている(例えば、特許文献1,2参照)。この種のエンジン試験装置では、試験中にエンジンを冷却するために、冷却水回路の配管がエンジン(冷却用ジャケット)に接続される。
【0003】
ここで、試験対象のエンジンを交換する場合には、エンジンを載せ替えた後に、冷却水回路の配管を新たなエンジンに接続して、冷却水回路に冷却水を流しながら試験の準備運転がおこなわれる。
【0004】
ところで、冷却水回路の配管を新たに試験対象になったエンジンに接続するときには、どうしても配管中にエアが入ってしまう。このため、従来のエンジン試験装置では、エア抜きをするために、冷却水回路の最上部の配管に、一般に膨張タンクが接続されており、試験前の準備運転中に冷却水回路を流れる冷却水の中のエアを膨張タンクに逃がして、冷却水回路のエア抜きを行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第2603911号公報
【特許文献2】特開2014−153058号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の構成では、膨張タンクとして、該タンクの内部での水の沸騰を防止するために加圧式の膨張タンクを用いていることも相まって、準備運転中に冷却水回路に冷却水を循環させながらエアを膨張タンクに逃がしてエア抜きをするのに、長時間を要することになっていた。
【0007】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、膨張タンクが接続された冷却水回路を備えたエンジン試験装置において、冷却水のエア抜きを迅速に行えるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、エンジン(10)に接続されたエンジン試験用機器(11)と、上記エンジン(10)に接続されて冷却水が流れる冷却水回路(20)と、該冷却水回路(20)を流れる冷却水の温度を調整する温度調整部(30)とを備え、上記冷却水回路(20)の最上部の冷却水配管(21)と膨張タンク(40)とが、該冷却水回路(20)から膨張タンク(40)へ向かって冷却水が流入可能な膨張配管(41)で接続されたエンジン試験装置を前提としている。
【0009】
そして、このエンジン試験装置は、上記膨張タンク(40)と上記冷却水回路(20)とが、上記膨張配管(41)に加えてさらに、該膨張タンク(40)から冷却水回路(20)へ向かって冷却水が流通可能な循環配管(22)で接続されていることを特徴としている。
【0010】
この第1の発明では、冷却水回路(20)内で循環する冷却水は、その途中で膨張配管(41)を通って膨張タンク(40)へ流入する。このとき、冷却水に含まれた空気(気泡)は、膨張タンク(40)内で水から分離され、膨張タンク(40)内に溜まる。一方、膨張タンク(40)から循環配管(22)を通じて冷却水回路(20)へ流出するのは、気泡を実質的に含まない冷却水である。したがって、冷却水が冷却水回路(20)を循環すればするほど、冷却水に含まれる空気が少なくなる。つまり、冷却水のエア抜きが効率よく行われる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、上記冷却水回路(20)に、上記冷却水の流れを、該冷却水が冷却水配管(21)を通らずに上記循環配管(22)のみを通る第1流れと、上記冷却水が上記冷却水配管(21)を通る第2流れとに切り換える切り換え機構(50)が設けられていることを特徴としている。
【0012】
この第2の発明では、準備運転中は、切り換え機構(50)を、冷却水が循環配管(22)を通る第1流れに切り換えることにより、冷却回路内を循環する冷却水が必ず膨張タンク(40)を通るので、膨張タンク(40)において効率よく冷却水のエア抜きが行われる。一方、準備運転後に行う試験運転中は、切り換え機構(50)を、冷却水が上記冷却水配管(21)を通る第2流れに切り換えることにより、冷却水は、熱(冷熱)を膨張タンク(40)へほぼ逃がさずに冷却水回路(20)内を循環する。
【0013】
第3の発明は、第2の発明において、上記切り換え機構(50)が、上記冷却水配管(21)に接続された第1開閉弁(51)を備え、上記第1開閉弁(51)が、上記膨張配管(41)と上記冷却水配管(21)との接続部と、上記循環配管(22)と上記冷却水配管(21)との接続部との間に配置されていることを特徴としている。
【0014】
この第3の発明では、第1開閉弁(51)を閉じると、冷却水は、冷却水回路(20)を流れるときに上記冷却水配管(21)を通らずに循環配管(22)を流れることになる(第1流れ)。したがって、冷却水の全量が膨張タンク(40)を経由して冷却水回路(20)を循環するので、準備運転中のエア抜きが効率よく行われる。また、第1開閉弁(51)を開くと、冷却水は、冷却水回路(20)を循環するときに、上記冷却水配管(21)を通るとともに循環配管(22)も流れる(第2流れ)。このときは冷却水が循環配管(22)も流れるが、上記膨張タンク(40)は冷却水回路(20)の最上部の冷却水配管(21)の上方に接続されるため、膨張タンク(40)を経由する冷却水の量は冷却水回路(20)内を循環する冷却水の全体量の一部となり、試験運転中に膨張タンク(40)へ伝達される冷却水の熱量は、冷却水の全体の熱量のごく一部となる。
【0015】
第4の発明は、第3の発明において、上記切り換え機構(50)が、上記第1開閉弁(51)に加えてさらに、上記循環配管(22)に接続された第2開閉弁(52)を備えていることを特徴としている。
【0016】
この第4の発明では、第1開閉弁(51)を閉じるとともに第2開閉弁(52)を開くと、冷却水は、冷却水回路(20)を流れるときに上記冷却水配管(21)を通らずに循環配管(22)を流れることになる(第1流れ)。したがって、冷却水の全量が膨張タンク(40)を経由して冷却水回路(20)を循環するので、準備運転中のエア抜きが効率よく行われる。また、第1開閉弁(51)を開くとともに第2開閉弁(52)を閉じると、冷却水は、冷却水回路(20)を循環するときに上記冷却水配管(21)のみを通過する(第2流れ)。したがって、冷却水が膨張タンク(40)へは実質的に流れていかなくなるので、試験運転中に膨張タンク(40)へ熱が伝達するのを効果的に抑えられる。
【0017】
第5の発明は、第1から第4の発明において、上記膨張タンク(40)内での上記膨張配管(41)の開口端(41a)が、該膨張タンク(40)と上記循環配管(22)との接続端(22a)よりも、高い位置に配置されていることを特徴としている。
【0018】
この第5の発明では、上記膨張タンク(40)内での上記膨張配管(41)の開口端(41a)を、該膨張タンク(40)と上記循環配管(22)との接続端(22a)よりも高い位置に配置したことにより、試験運転中に膨張タンク(40)に流入した冷却水の気泡が、膨張タンク(40)と循環配管(22)との接続端(22a)よりも高い位置で冷却水から分離される。したがって、循環配管(22)へは気泡が実質的に流入しないので、エア抜きの効率を高められる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、冷却水回路(20)と膨張タンク(40)とを、膨張配管(41)に加えて、膨張タンク(40)から冷却水回路(20)へ向かって冷却水が流通可能な循環配管(22)も使って接続し、冷却水が冷却水回路(20)を循環するときにエア抜きが効率的に行われるようにしているので、循環配管(22)を設けない場合に比べて、準備運転中に冷却水回路(20)で冷却水を循環させながらエアを膨張タンク(40)に逃がすエア抜きを迅速に行うことが可能になる。
【0020】
上記第2の発明によれば、上記冷却水回路(20)に、上記冷却水が冷却水配管(21)を通らずに上記循環配管(22)のみを通る第1流れと、上記冷却水が上記冷却水配管(22)を通る第2流れとに切り換える切り換え機構(50)を設け、準備運転中は、上記切り換え機構(50)を第1流れに切り換えてエア抜きを効率よく迅速に行うことができ、試験運転中は第2流れに切り換えることにより、冷却水の熱(冷熱)を膨張タンク(40)に逃がさずにエンジン(10)を効率よく冷却できる。
【0021】
上記第3の発明によれば、上記切り換え機構(50)として、上記冷却水配管(21)に接続された第1開閉弁(51)を設け、この第1開閉弁(51)を、上記膨張配管(41)と上記冷却水回路(20)との接続部と、上記循環配管(22)と上記冷却水回路(20)との接続部との間に配置したことにより、第1開閉弁(51)を閉じると第1流れに切り換わって準備運転中のエア抜きを効率よく迅速に行うことができ、第1開閉弁(51)を開くと第2流れに切り換わってエンジン(10)の冷却効率をほとんど落とさずに試験運転を行うことができる。また、この第3の発明では、上記切り換え機構(50)として第1開閉弁(51)を設けるだけでよいので、回路構成が複雑になるのを抑えられる。
【0022】
上記第4の発明によれば、上記第1開閉弁(51)に加えて、循環配管(22)に接続された第2開閉弁(52)を上記切り換え機構(50)として設けたことにより、第1開閉弁(51)を閉じるとともに第2開閉弁(52)を開くと第1流れに切り換わって準備運転中のエア抜きを効率よく迅速に行い、第1開閉弁(51)を開くとともに第2開閉弁(52)を閉じると第2流れに切り換わってエンジン(10)の冷却効率を実質的に落とさずに試験運転を行うことが可能になる。
【0023】
上記第5の発明によれば、上記膨張タンク(40)内での上記膨張配管(41)の開口端(41a)を、該膨張タンク(40)と上記循環配管(22)との接続端(22a)よりも高い位置に配置したことにより、試験運転中に膨張タンク(40)に流入した冷却水の気泡が、膨張タンク(40)と循環配管(22)との接続端(22a)よりも高い位置で冷却水から分離されて、循環配管(22)へは気泡が実質的に流入せずにエア抜きの効率を高められるから、エア抜きをより迅速に行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、本発明の実施形態に係るエンジン試験装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0026】
図1は、本実施形態に係るエンジン試験装置(エンジンベンチ)(1)の概略構成図である。
【0027】
このエンジン試験装置(1)は、エンジン(10)に接続されたダイナモメータ(エンジン試験用機器)(11)と、上記エンジン(10)に接続されるとともに該エンジン(10)のポンプ(12)の動作により冷却水が流れる冷却水回路(20)と、該冷却水回路(20)を流れる冷却水の温度を調整する温度調整部(30)とを備えている。温度調整部(30)は、上記冷却水を冷却するようにブラインや水が流れる冷却用回路(31)と、冷却水の温度が低いときに冷却水を加熱するヒータ(32)とを備えている。上記冷却用回路(31)は、プレート熱交換器などの冷却用熱交換器(33)を介して冷却水回路(20)に接続されている。また、上記冷却用回路(31)は、図示していないが、冷却水の温度を低温にするときに用いるブライン(例えば温度が−20℃程度)が流れるブライン回路と、冷却水の温度を常温にするときに用いる水(例えば温度が30℃程度)が流れる水回路とを別々に設けておき、これらをエンジンの冷却温度に応じて切り換えて用いるようにしてもよい。
【0028】
上記冷却水回路(20)の最上部の冷却水配管(21)には膨張タンク(40)が接続されている。この膨張タンク(40)は、上記冷却水回路(20)に、該冷却水回路(20)から膨張タンク(40)へ向かって冷却水が流入可能な膨張配管(41)で接続されている。膨張タンク(40)には、内部での水の沸騰を抑えるため、加圧式の膨張タンクが用いられる。
【0029】
また、上記膨張タンク(40)と上記冷却水回路(20)とは、上記膨張配管(41)に加えて、さらに、該膨張タンク(40)から冷却水回路(20)へ向かって冷却水が流通可能な循環配管(22)で接続されている。
【0030】
上記冷却水回路(20)には、上記冷却水の流れを、該冷却水が冷却水配管(21)を通らずに上記循環配管(22)のみを通る第1流れと、上記冷却水が上記冷却水配管(21)を通る第2流れとに切り換える切り換え機構(50)が設けられている。この切り換え機構(50)は、具体的には、上記冷却水配管(21)に接続された第1開閉弁(51)と、上記循環配管(22)に接続された第2開閉弁(52)とを備えている。上記第1開閉弁(51)は、上記膨張配管(41)と上記冷却水配管(21)との接続部と、上記循環配管(22)と上記冷却水配管(21)との接続部との間に配置されている。
【0031】
また、上記膨張タンク(40)内での上記膨張配管(41)の開口端(41a)は、該膨張タンク(40)と上記循環配管(22)との接続端(22a)よりも高い位置に配置されている。
【0032】
−運転動作−
次に、このエンジン試験装置(1)の運転動作を説明する。
【0033】
このエンジン試験装置(1)において、例えばエンジン(10)を交換した場合は、試験運転の前に準備運転を行って冷却水回路(20)内で冷却水を循環させる。これは、冷却水回路(20)の配管をエンジン(10)に繋ぎなおす際に、冷却水回路(20)の配管の中にどうしても空気が入ってしまう問題が生じるのに対して、この冷却水回路(20)中の空気を膨張タンク(40)で抜く、いわゆるエア抜きのために行う。
【0034】
この準備運転のときは、第1開閉弁(51)を閉じた状態にし、第2開閉弁(52)を開いた状態にする。この状態でエンジン(10)を動作させるとポンプ(12)が回転し、冷却水回路(20)内を冷却水が循環する。冷却水は、冷却水回路(20)に接続されている冷却用回路(31)とヒータ(32)とで所定の温度に調整される。このときは、ダイナモメータ(11)等の試験用機器は用いない。
【0035】
準備運転中には、冷却水回路(20)を図1の矢印の方向へ流れる冷却水は、膨張配管(41)を通って膨張タンク(40)へ流入し、さらに膨張タンク(40)から循環配管(22)を通って冷却水回路(20)の冷却水配管(21)を流れる。このように、準備運転中は冷却水が膨張タンク(40)を経由して冷却水回路(20)を循環するので、冷却水の中に含まれる空気(気泡)は、膨張タンク(40)において水と分離されて膨張タンク(40)内に溜まる。
【0036】
一方、膨張タンク(40)内での膨張配管(41)の開口端(41a)が、膨張タンク(40)と循環配管(22)との接続端(22a)よりも高い位置に配置されているので、膨張タンク(40)から循環配管(22)へ空気は流出せず、冷却水だけが流出する。したがって、冷却水が冷却水回路(20)を循環する際に膨張タンク(40)を通るたびに、冷却水の中の気泡が減少する。その結果、エア抜きが効率よく迅速に行われる。
【0037】
準備運転が終了すると、エンジン(10)の試験運転を行う。このとき、第1開閉弁(51)を開いた状態にし、第2開閉弁(52)を閉じた状態にする。この状態でエンジン(10)を動作させてポンプ(12)が回転すると、冷却水回路(20)内を循環する冷却水は、循環配管(22)を通らずに冷却水配管(21)だけを流れる。つまり、冷却水は、温度調整部(30)である冷却用回路(31)とヒータ(32)とで所望の温度に調整された状態を保って、膨張タンク(40)に熱を逃がすことなく冷却水回路(20)内を循環してエンジン(10)の冷却を行う。この試験運転中は、ダイナモメータ(11)などの試験用機器が用いられ、エンジン(10)の特性が測定される。
【0038】
−実施形態の効果−
本実施形態によれば、冷却水回路(20)と膨張タンク(40)とを、膨張配管(41)に加えて、膨張タンク(40)から冷却水回路(20)へ向かって冷却水が流通可能な循環配管(22)も使って接続し、準備運転中に冷却水が冷却水回路(20)を循環するときにエア抜きが効率的に行われるようにしているので、循環配管(22)を設けない場合に比べて、エアを膨張タンク(40)に逃がすエア抜きを迅速に行うことが可能になる。
【0039】
具体的には、上記冷却水回路(20)に、上記冷却水が冷却水配管(21)を通らずに上記循環配管(22)のみを通る第1流れと、上記冷却水が上記冷却水配管(21)を通る第2流れとに切り換える切り換え機構(50)を設け、準備運転中は切り換え機構(50)を第1流れに切り換えてエア抜きを効率よく迅速に行うことができ、試験運転中は切り換え機構(50)を第2流れに切り換えることにより冷却水の熱(冷熱)を膨張タンク(40)に逃がさずにエンジン(10)を効率よく冷却できる。
【0040】
特に、上記実施形態によれば、上記切り換え機構(50)として、上記冷却水配管(21)に接続された第1開閉弁(51)を設けて、この第1開閉弁(51)を、上記膨張配管(41)と上記冷却水配管(21)との接続部と、上記循環配管(22)と上記冷却水配管(21)との接続部との間に配置し、さらに、循環配管(22)に接続された第2開閉弁(52)を設けている。そして、このことにより、第1開閉弁(51)を閉じるとともに第2開閉弁(52)を開くと第1流れに切り換わって準備運転中のエア抜きを効率よく迅速に行うことができ、第1開閉弁(51)を開くとともに第2開閉弁(52)を閉じると第2流れに切り換わってエンジン(10)の冷却効率を実質的に落とさずに試験運転を行うことが、簡単な切り換え操作で可能になる。
【0041】
また、上記実施形態によれば、上記膨張タンク(40)内での上記膨張配管(41)の開口端(41a)を、該膨張タンク(40)と上記循環配管(22)との接続端(22a)よりも高い位置に配置したことにより、試験運転中に膨張タンク(40)に流入した冷却水の気泡が、膨張タンク(40)と循環配管(22)との接続端(22a)よりも高い位置で冷却水から分離され、循環配管(22)へは気泡が実質的に流入せずにエア抜きの効率を高められるから、このこともエア抜きをより迅速に行うことを可能にするのに寄与する。
【0042】
−実施形態の変形例−
上記実施形態では、切り換え機構(50)として第1開閉弁(51)と第2開閉弁(52)を設けるようにしているが、上記切り換え機構(50)としては、上記冷却水配管(21)に接続された第1開閉弁(51)だけを設け、第2開閉弁(52)を設けないようにしてもよい。
【0043】
このように構成した場合、第1開閉弁(51)を閉じると、冷却水は、上記実施形態と同様に冷却水回路(20)を流れるときに上記冷却水配管(21)を通らずに循環配管(22)を流れることになる(第1流れ)。したがって、冷却水の全量が膨張タンク(40)を経由して冷却水回路(20)を循環するので、準備運転中のエア抜きを効率よく迅速に行うことができる。
【0044】
また、第1開閉弁(51)を開くと、冷却水は、冷却水回路(20)を循環するときに上記冷却水配管(21)を通るとともに循環配管(22)も流れる(第2流れ)。しかしながら、膨張タンク(40)は冷却水回路(20)の最上部の冷却水配管(21)の上方に接続され、冷却水回路(20)から膨張タンク(40)へ流入する水の量は冷却水回路(20)内を循環する冷却水の量の一部であるから、試験運転中に膨張タンク(40)へ伝達される冷却水の熱量は、冷却水の全体の熱量のごく一部となる。したがって、この変形例においては、第1開閉弁(51)を開いたときに、エンジン(10)の冷却効率をほとんど落とさずに試験運転を行うことができる。
【0045】
この変形例では、上記切り換え機構(50)として第1開閉弁(51)を設けるだけでよいので、上記実施形態と比べて構成を簡素化することができる。
【0046】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0047】
例えば、上記実施形態では、上記切り換え機構(50)として第1開閉弁(51)と第2開閉弁(52)を用いているが、この2つの開閉弁に代えて、循環配管(22)と冷却水配管(21)の接続部に三方弁を設けて、冷却水の流れを第1流れと第2流れに切り換えるようにしてもよい。
【0048】
また、上記実施形態の変形例は、上記切り換え機構(50)のうちの第2開閉弁(52)を設けずに第1開閉弁(51)だけを設けた例であるが、さらにこの第1開閉弁(51)も設けない(切り換え機構(50)を設けない)ようにしてもよい。この場合、準備運転のときに膨張タンク(40)に流入する冷却水の量は第1開閉弁(51)を設けて該第1開閉弁(51)を閉じたときよりも少なくなるが、循環配管(22)を設けない従来の回路よりは多くなる。したがって、従来と比較すれば、膨張タンク(40)内でのエア抜きが促進され、エア抜きに要する時間が短縮される。
【0049】
また、上記実施形態では、冷却水回路(20)内で冷却水を循環させるのにエンジン(10)のポンプ(12)を利用しているが、専用の循環ポンプ(12)を冷却水回路(20)に設けてもよい。
【0050】
さらに、膨張タンク(40)の構成も、上記実施形態で説明したものに限らず、適宜変更してもよい。
【0051】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0052】
以上説明したように、本発明は、エンジン試験装置におけるエンジンの冷却水回路のエア抜き構造について有用である。
【符号の説明】
【0053】
1 エンジン試験装置
10 エンジン
11 ダイナモメータ(エンジン試験用機器)
20 冷却水回路
21 冷却水配管
22 循環配管
22a 接続端
30 温度調整部
40 膨張タンク
41 膨張配管
41a 開口端
50 切り換え機構
51 第1開閉弁
52 第2開閉弁
図1