【実施例】
【0092】
実施例1:ヘテロ二量体性二重特異性抗体の設計、構築、および産生
DNA発現ベクターを構築して、
図1(2〜6)に示される4つの異なるサブタイプのヘテロ二量体性二重特異性抗体、および2つの単鎖二重特異性分子(1つが抗HER2/CD3ε、1つが抗FOLR1/CD3εである)を産生した。単鎖二重特異性分子は、リンカーによって隔てられた2つのVH領域および2つのVL領域を含有した。各ヘテロ二量体性二重特異性抗体は、2つのポリペプチド鎖を含有した。各構築物の第1のポリペプチド鎖は、2つの免疫グロブリン可変領域に続いてCH1領域、およびアルブミンと結合するように作られたFn3ドメインを含み、第2のポリペプチド鎖は、2つの免疫グロブリン可変領域に続いてCL領域を含んでいた。
図1(1)。
【0093】
フォワードおよびリバースプライマーを使用するポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によってDNAテンプレートから、免疫グロブリン可変領域および定常ドメインのコード配列を増幅し、続いて共通のオーバーハング配列を使用して一緒にスプライシングした。例えば、一致するオーバーハングを含有する断片を合体させるようにPCRを行う方法を説明している部分が参照により本明細書に組み入れられるHorton et al. (1989), Gene 77: 61-68を参照されたい。アルブミン結合性フィブロネクチン3(Fn3)ドメイン(SEQ ID NO:1)およびFLAG(登録商標)-ポリヒスチジンタグ(FLAG-hisタグ)タグをコードする配列をすでに含有していた哺乳類発現ベクターにPCR産物をサブクローニングした。安定な血清タンパク質であるアルブミンに結合するので、Fn3ドメインは、これらの構築物における半減期延長部分である。FLAG-hisタグは、検出および精製を容易にする。
【0094】
単鎖二重特異性分子をコードするDNAを類似の方法によって作製した。抗HER2/CD3ε単鎖二重特異性分子(P136629.3)および抗FOLR1/CD3ε単鎖二重特異性分子(P136637.3)のアミノ酸配列を、それぞれSEQ ID NO:75および76に示す。
【0095】
ヘテロ二量体性二重特異性抗体および単鎖二重特異性分子をコードするDNAベクターをHEK293-6E細胞中に同時トランスフェクションし、6日後に培地を採集し、濃縮し、IMACローディング緩衝液に緩衝液交換した。単鎖抗HER2/CD3ε分子および単鎖抗FOLR1/CD3ε分子をニッケルHISTRAP(登録商標)(GE Healthcare Bio-Sciences, L.L.C., Uppsala, Sweden)カラムクロマトグラフィーによって精製し、25〜300mMイミジゾール(imidizole)勾配をかけて溶出させた。分取SUPERDEX(登録商標)200(GE Healthcare Bio-Sciences, L.L.C., Uppsala, Sweden)カラムを使用して溶出プールをサイズ交換クロマトグラフィー(SEC)によってさらに精製し、>1mg/mLに濃縮し、-70℃で保存した。ヘテロ二量体性二重特異性抗体をニッケルHISTRAP(登録商標)(GE Healthcare Bio-Sciences, L.L.C., Uppsala, Sweden)カラムクロマトグラフィーに供し、25〜300mMイミジゾール勾配をかけて溶出させた。分取SUPERDEX(登録商標)200(GE Healthcare Bio-Sciences, L.L.C., Uppsala, Sweden)カラムを使用して溶出プールをサイズ交換クロマトグラフィー(SEC)によってさらに精製し、>1mg/mLに濃縮し、-70℃で保存した。
【0096】
図1(2)に示されるような一態様(P57216.9と称する)では、第1のポリペプチド鎖(SEQ ID NO:6)は、ヒトMSLNに特異的なVH領域(SEQ ID NO:46)から始まり、これにリンカー、ヒトCD3εに特異的なVH領域(SEQ ID NO:42)、CH1領域(SEQ ID NO:70)、ヒトアルブミンに結合するように作られたFn3ドメイン(SEQ ID NO:1)、およびFLAG-hisタグが続く。第2のポリペプチド鎖(SEQ ID NO:7)は、ヒトMSLNに特異的なVL領域(SEQ ID NO:48)から始まり、それにリンカー、ヒトCD3εに特異的なVL領域(SEQ ID NO:43)、およびCL領域(SEQ ID NO:71)が続く。同様に、SEQ ID NO:8および9は、
図1(3)に示されるような別の態様(P56019.5と称する)の、第1および第2のポリペプチド鎖のアミノ酸配列を提供する。P56019.5は、P57216.9に使用されたものと異なる可変領域を有する。
【0097】
図1(3)に示されるような一態様(H71362.2と称する)は、それが異なる抗CD3ε可変領域および異なるFN3ドメインを有することを除いて、P56019.5と同様である。H71362.2における抗CD3ε VH領域およびVL領域は、それぞれアミノ酸配列SEQ ID NO:42およびSEQ ID NO:47を有し、H71362.2の第1および第2のポリペプチド鎖は、それぞれSEQ ID NO:10およびSEQ ID NO:11のアミノ酸配列を有する。
【0098】
図1(4)に示されるような一態様(P69058.3と称する)では、第1のポリペプチド鎖(SEQ ID NO:12)は、ヒトMSLNに特異的なVH領域(SEQ ID NO:46)から始まり、これにリンカー、ヒトCD3εに特異的なVL領域(SEQ ID NO:43)、CH1領域、Fn3ドメイン(SEQ ID NO:1)、およびFLAG-hisタグが続く。第2のポリペプチド鎖(SEQ ID NO:13)は、ヒトCD3εに特異的なVH領域(SEQ ID NO:42)から始まり、それにリンカー、ヒトMSLNに特異的なVL領域(SEQ ID NO:48)、およびCL領域(SEQ ID NO:73)が続く。
【0099】
図1(5)に示されるような一態様(P69059.3と称する)では、第1のポリペプチド鎖(SEQ ID NO:14)は、ヒトCD3εに特異的なVL領域(SEQ ID NO:43)から始まり、これにリンカー、ヒトMSLNに特異的なVH領域(SEQ ID NO:49)、CH1領域(SEQ ID NO:70)、Fn3ドメイン(SEQ ID NO:1)、およびFLAG-hisタグが続く。第2のポリペプチド鎖(SEQ ID NO:15)は、ヒトMSLNに特異的なVL領域(SEQ ID NO:48)から始まり、それにリンカー、ヒトCD3εに特異的なVH領域(SEQ ID NO:42)、およびCL領域(SEQ ID NO:73)が続く。
【0100】
2種の抗原のそれぞれに対する完全なVH/VL抗原結合対を生み出すために免疫グロブリン可変領域間の鎖間相互作用が必要とされるように、上記の全ての構築物を設計した。各ポリペプチド鎖上の2つの免疫グロブリン可変領域間のリンカーは、同じポリペプチド鎖上の可変領域の相互作用が高度に不利益を被るのに十分なほど短く、すなわちアミノ酸5〜10個であった。場合により、各ポリペプチド鎖上の第1の免疫グロブリン可変領域は、完全なVH/VL抗原結合対を形成することができ、各ポリペプチド鎖上の第2の免疫グロブリン可変領域は、別のVH/VL抗原結合対を形成することができた。
図1(2)および1(3)ならびに上記構築物P56019.5、P57216.9、およびH71362.2の説明を参照されたい。この種の相互作用を、本明細書において「平行」の相互作用と呼ぶ。他の場合では、第1のポリペプチド鎖上の第1の免疫グロブリン可変領域は、第2のポリペプチド鎖上の第2の免疫グロブリン可変領域と相互作用してVH/VL抗原結合対を形成することができ、第1のポリペプチド鎖上の第2の免疫グロブリン可変領域は、第2のポリペプチド鎖上の第1の免疫グロブリン可変領域と相互作用してVH/VL抗原結合対を形成することができた。
図1(4)、1(5)、1(6)ならびに上記の構築物P69058.3およびP69059.3の説明を参照されたい。この種の相互作用は、本明細書において「斜め」の相互作用と呼ばれる。
【0101】
実施例2:MSLNおよびCD3εに結合するヘテロ二量体性二重特異性抗体によるがん細胞のT細胞依存性殺滅
実施例1に記載されたヘテロ二量体性二重特異性抗体をHEK293細胞において産生させ、CD3εを発現するT細胞およびメソテリンを発現するヒト卵巣がん細胞系Ovcar-8に対する結合性について蛍光標示式細胞分取(FACS)によってアッセイした。簡潔には、ヘテロ二量体性二重特異性抗体を、Ovcar-8細胞または単離されたヒトもしくはカニクイザルT細胞約50,000個と共に4℃で1時間インキュベーションした。次に、細胞を洗浄し、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲーション型抗ヒト軽鎖二次抗体で染色し、フローサイトメトリーによって分析した。蛍光強度の幾何平均によって相対的な結合性を表した。下の表3から明らかなように、試験された全ての構築物は、ヒトT細胞上のCD3εおよびOvcar-8細胞上のMSLNと結合することができた。
【0102】
実施例1に記載された抗MSLN、抗CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体をアッセイして、ヒトT細胞の存在下でMSLNを発現しているがん細胞に対するそれらの細胞溶解活性を決定した。このアッセイを、本明細書においてヒトT細胞依存性細胞媒介性細胞溶解アッセイ(ヒトTDCC)と呼ぶ。免疫エフェクター細胞としてNK細胞を使用する類似のアッセイを上に記載する。簡潔には、MSLNを発現しているヒト卵巣がん系(Ovcar-8)をカルボキシフルオセイン二酢酸スクシンイミジルエステル(CFSE)で標識し、96ウェルV底マイクロタイタープレートのウェル1個あたり細胞約20,000個を蒔いた。単離されたヒトT細胞を予備凍結したものを解凍し、洗浄し、ウェル1個あたり細胞約200,000個でマイクロタイタープレートに添加した。抗体を系列希釈して10μg/mLから0.01pg/mLの範囲の最終ウェル濃度を調製し、マイクロタイタープレートに添加した。抗体を有さない、T細胞単独、または腫瘍細胞単独の対照ウェルを含めた。プレートを37℃の加湿環境中で40時間インキュベーションした。アッセイの終わりに、各ウェルから全ての細胞を収集し(トリプシン-EDTAを使用して接着している腫瘍細胞を剥がした)、0.01μM TO-PRO(登録商標)-3(Molecular Probes, Inc., Eugene, OR)を使用して染色して生存率を評価した。フローサイトメトリーを用いて腫瘍細胞の生存率を読み出した。次式に従って特異的溶解率を計算した:
特異的溶解%=[二重特異性の存在下での腫瘍細胞溶解%−二重特異性の非存在下での腫瘍細胞溶解%/総細胞溶解%−二重特異性の非存在下での腫瘍細胞溶解%]×100
総細胞溶解率を決定するために(この計算をするために必要)、二重特異性の非存在下でエフェクター細胞および標識された標的細胞を含有する試料を80%冷メタノールで溶解させた。これらのアッセイの結果を下の表3にまとめる。
【0103】
(表3)異なるサブタイプの結合性および細胞溶解活性
【0104】
表3に示されるように、試験された全てのヘテロ二量体性二重特異性抗体は、ヒトT細胞およびOvcar-8細胞に結合することができた。それらは、また、T細胞の存在下で腫瘍細胞に対して細胞溶解活性を示した。表3および
図2。しかし、斜めの鎖間可変領域相互作用により完全な抗原結合部位が生成された2つ、すなわちP69058.3およびP69059.3は、他の3つの構築物で観測されなかった低いEC
50と高い最大殺滅率との両方の組み合わせを有した。これらの他の3つの構築物は、可変領域間の平行の鎖間相互作用によって抗原結合部位を形成できるように設計された。これらのデータから、可変領域の「斜め」の相互作用を必要とする構築物が、平行の相互作用を必要とする構築物よりも良好な生物学的活性を有し得ることが示唆される。
【0105】
上記の大部分の構築物に使用されたものと同じ対の抗MSLN VH領域およびVL領域、すなわちSEQ ID NO:46および48、ならびに上記の大部分の構築物に使用されたものと異なる対の抗CD3ε VH領域およびVL領域を使用して、上記で使用された方法に類似の方法によって、別の構築物セットを作製した。使用された抗CD3ε VH領域およびVL領域は、ヒトおよびカニクイザルCD3εの両方に結合することができた。P56019.5は、カニクイザルではなくヒトCD3εに結合する特定の抗CD3ε VH/VL対を使用している、本明細書記載の唯一の構築物である。H69070.4は、P56019.5と同じ配置の可変領域(すなわち
図1(3)に示される構成)および同じ抗MSLN VH/VL対を有するが、異なる抗CD3ε VH/VL対を有し、これは、H69071.4、H69072.4、およびH71365.2にも存在する。H69070.4の第1および第2のポリペプチド鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:24およびSEQ ID NO:25に提供される。H69071.4、H69072.4、およびH71365.2は、全て同じ抗CD3ε VH/VL対および同じ抗MSLN VH/VL対を含有するが、これらの構築物中の可変領域は、異なる方法で配置される。表4を参照されたい。これらの構築物の第1および第2のポリペプチド鎖のアミノ酸配列は、それぞれ以下の通りである:H69071.4、SEQ ID NO:26およびSEQ ID NO:27;H69072.4、SEQ ID NO:28およびSEQ ID NO:29 ;ならびにH71364.2、SEQ ID NO:30およびSEQ ID NO:31。上記のアッセイ、および下記のカニクイザルT細胞依存性細胞性細胞溶解(「cyno TDCC」と呼ばれる)アッセイを用いてこれらの構築物を試験した。
【0106】
cyno TDCCアッセイを行うために、カニクイザルの血液から以下のようにT細胞を精製した。最初に、塩化アンモニウムで赤血球を溶解させた。その後、大部分の培養細胞がT細胞となるまで、残りの細胞を培養した。マウス抗ヒトCD3でコーティングされたマイクロタイタープレート中で、これらの精製カニクイザルT細胞をマウス抗ヒトCD28の存在下で48時間インキュベーションすることによって、これらの細胞を刺激した。その後、10ng/mLヒトIL-2を含有する培地中で細胞を7日間培養した。アッセイのために、MSLNを発現しているヒト卵巣がん系(Ovcar-8)をCFSEで標識し、96ウェルV底マイクロタイタープレート中にウェル1個あたり細胞10,000個を蒔いた。刺激されたカニクイザルT細胞を洗浄し、ウェル1個あたり細胞100,000個でマイクロタイタープレートに添加した。抗体を1:10系列で希釈して、10μg/mLから0.01pg/mLまでの範囲の最終ウェル濃度を調製し、マイクロタイタープレートに添加した。抗体なし、T細胞単独、または腫瘍細胞単独のいずれかの対照ウェルを含めた。マイクロタイタープレートを37℃の加湿環境中で20時間インキュベーションした。アッセイの終わりに、各ウェルから全ての細胞を収集し(トリプシン-EDTAを使用して接着している腫瘍細胞を剥がした)、0.01μM TO-PRO(登録商標)-3(Molecular Probes, Inc., Eugene, OR)を使用し染色して生存率を評価した。フローサイトメトリーを用いて腫瘍細胞の生存率を読み出し、特異的細胞溶解率は、上記のように決定した。このアッセイおよび上記の結果を下の表4にまとめる。
【0107】
(表4)異なるサブタイプの結合性および細胞溶解活性
*「NA」は、アッセイにおける活性が最小であったことから、「適用せず」を示す。
【0108】
表4中のデータは、H69070.4、H69071.2、H69072.4、およびH71364.2と称される抗MSLN/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体中に使用されたCD3ε結合性VH/VL対が、カニクイザルCD3εだけでなく、ヒトCD3εにも幾分程度が低く結合することを示している。興味深いことに、構築物H69072.4は、ヒトTDCCアッセイにおいてH69071.4およびH71365.2(それらの全ては同じVH/VL対を含有する)よりもずっと強力であったが、ヘテロ二量体性二重特異性抗体は全て、cyno TDCCアッセイにおいて、ほぼ匹敵する活性を示した。表4ならびに
図3および4。これらのデータは、ヘテロ二量体性二重特異性抗体における特定の配置の可変領域が、おそらく特に可変領域の結合がとりたてて強固でない状況で、その生物学的活性に影響できることを示唆している。例えば、表4中のデータは、試験された大部分の構築物がカニクイザルT細胞に対するものと同じ大きさの結合活性をヒトT細胞に対して示さなかったことを示している。構築物H69072.4およびH69071.4において、抗原結合性VH/VL対を生じる鎖間相互作用が斜めの相互作用であるように可変領域を配置した。H71365.2における適正なVH/VL対形成のためには平行の相互作用が必要であった。したがって、これらのデータは、可変領域の斜めの相互作用が平行の相互作用よりも好都合であるという考えと一致する。
【0109】
実施例3:Fc領域を含有するヘテロ二量体性二重特異性抗体の構築および特徴づけ
構築物P69058.3(
図1(4)に示されたような抗MSLN/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体)を、その第2のポリペプチド鎖(CL領域を含有する)にFcポリペプチド鎖を付加し、第1のポリペプチド鎖(CH1領域を含有する)中のFn3ドメインをFcポリペプチド鎖で置換することによって改変した。この構築物(P73356.3と称される)の第1および第2のポリペプチドのアミノ酸配列を、それぞれSEQ ID NO:16およびSEQ ID NO:17に提供する。これらの構築物中のFc領域は、ヘテロ二量体化改変を含有するヒトIgG1 Fc領域である。具体的には、第1のポリペプチド鎖は、正に荷電した2つの突然変異(D356K/D399K、表2に示されるEUナンバリング使用)を含有し、第2のポリペプチド鎖は、負に荷電した2つの突然変異(K409D/K392D)を含有する。これらの変化は、2つのポリペプチド鎖が同じ細胞において一緒に発現されたとき、ホモ二量体に比べて、ヘテロ二量体の優先的形成を生じる。国際公開公報第2009/089004号を参照されたい。別の構築物(P73352.3)では、P73356.3の第1および第2のポリペプチド鎖中にそれぞれ存在するCH1およびCL領域を除去した。P73352.3の第1および第2のポリペプチド鎖のアミノ酸配列を、それぞれSEQ ID NO:18およびSEQ ID NO:19に提供する。
【0110】
P73352.3およびP73356.3構築物をHEK293細胞において産生させ、上記のヒトTDCCアッセイにおいてP69058.3と一緒に試験した。
図5に示されるように、P73352.3およびP73356.3の両方は、Fc領域を含有しないP69058.3と同じ範囲であるピコモル濃度以下の範囲の半値有効濃度(EC
50)で、Ovcar-8細胞の殺滅の媒介に強力な活性を示した。これらのデータから、CHおよびCL領域を有してまたは有さずに、Fc領域を含有し、かつ強力なT細胞媒介性細胞溶解活性を保持する、生物学的に強力なヘテロ二量体性二重特異性抗体を作製する実現可能性が実証された。
【0111】
実施例4:ヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε二重特異性抗体はHER2発現腫瘍細胞系の溶解を誘導する
抗MSLN/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体73356.3(
図1(4)の構成であり、第1および第2のポリペプチド鎖の両方のC末端にFcポリペプチド鎖を有する)と類似の構成を使用して、抗HER2抗体由来のVH/VL対および別の抗CD3ε抗体由来のVH/VL対を使用して、P136797.3を構築した。P136797.3の構成を
図1(6)に示す。P136797.3のFc領域は、FcγRの結合を防止するための追加的な突然変異(L234A/L235A、表2に示されるEUナンバリングスキームによる)を含有する。P136797.3の第1および第2のポリペプチド鎖のアミノ酸配列をそれぞれSEQ ID NO:20およびSEQ ID NO:21に提供する。抗HER2/CD3ε単鎖二重特異性分子(SEQ ID NO:75のアミノ酸配列を有するP136629.3)も以下のアッセイに使用した。
【0112】
精製されたヒト汎T細胞およびHER2発現腫瘍細胞(JIMT-1)細胞に対する抗HER2/CD3ε二重特異性ヘテロ二量体性抗体P136797.3および単鎖二重特異性分子P136629.3の結合性を評価した。各細胞型を、これらの二重特異性のそれぞれの存在下および非存在下(陰性対照として)で、4℃で16時間インキュベーションした。二重特異性ヘテロ二量体性抗体の結合を、アロフィコシアニン(APC)標識二次抗体で検出した。マウス抗FLAG抗体に続いて、APC標識マウス特異抗体を使用して、FLAGタグを有する単鎖二重特異性の結合を検出した。蛍光シグナルのレベルを蛍光標示式細胞分取(FACS)によって評価した。両方の二重特異性抗体を用いて検出された、ヒト汎T細胞およびJIMT-1腫瘍細胞の両方に対する結合レベルは、陰性対照で検出されたレベルと明らかに識別可能であった。データは示さず。したがって、両方の二重特異性は、T細胞およびJIMT-1細胞の両方に結合する。
【0113】
Pan T Cell Isolation Kit II, human(Miltenyi Biotec, Auburn, CA)を使用して健康なヒトドナーから汎Tエフェクター細胞を単離し、様々な濃度のP136797.3の存在下または非存在下でCFSE標識標的細胞と共に10:1(T細胞:標的細胞)の比でインキュベーションした。標的細胞は、JIMT-1細胞(細胞表面に細胞1個あたり約181,000分子のHER2を発現している)、T47D細胞(細胞表面に細胞1個あたり約61,000分子のHER2を発現している)、またはSHP77細胞(細胞表面に検出可能なHER2を発現していない)のいずれかであった。39〜48時間インキュベーション後に、細胞を採集し、フローサイトメトリーを用いて7AADの取り込みにより腫瘍細胞の溶解をモニターした。上の実施例2に記載のように特異的溶解率を決定した。
【0114】
適切な濃度のP136797.3または単鎖抗HER2/CD3ε二重特異性分子の存在下で、JIMT-1およびT47D細胞の両方の特異的溶解が観測された。P136797.3についての半値溶解濃度(EC
50)は、JIMT-1およびT47D細胞において、それぞれ19.05pMおよび7.75pMであった。単鎖抗HER2/CD3ε二重特異性について、EC
50は、JIMT-1およびT47D細胞において、それぞれ1.12pMおよび0.12であった。HER2陰性細胞系SHP77の特異的溶解は観測されなかった。
図6。加えて、ヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε二重特異性抗体の存在下のJIMT-1およびT47D細胞の溶解は、T細胞の非存在下で起こらなかった。
図7参照;残りのデータは示さず。これらの観察は、ヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε二重特異性抗体および単鎖抗HER2/CD3ε二重特異性の両方が、T細胞による腫瘍細胞の溶解を誘導する能力のある、高度に特異的で強力な試薬であることを示唆している。
【0115】
以下の対照実験も行った。すぐ上に説明された方法を用いて、汎Tエフェクター細胞の存在下または非存在下および抗HER2/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体の存在下または非存在下で、JIMT-1細胞を含有する試料をアッセイして、JIMT-1細胞の特異的溶解率を決定した。結果を
図7に示す。これらのデータは、二重特異性およびT細胞の両方が存在しないと、JIMT-1細胞の溶解が本質的に起こらなかったことを示している。T細胞および二重特異性の両方の存在下で、JIMT-1細胞の溶解が起こった。
【0116】
実施例5:標的細胞が存在しないと、PBMCおよびヘテロ二量体性二重特異性抗体の存在下でCD3
+末梢血T細胞は活性化されない
末梢血由来T細胞が、HER2発現JIMT-1細胞の存在下または非存在下で、ヘテロ二量体性抗HER2/CD3ε二重特異性抗体(P136797.3)または上記の抗HER2/CD3ε単鎖二重特異性分子(P136629.3)の存在下でCD25およびCD69のエクスビボ発現を上方制御できるかどうかを判定するために、以下の実験を行った。CD25およびCD69を、T細胞活性化のためのマーカーと見なす。
【0117】
健康なドナー由来の末梢血単核細胞(PBMC)を、Biological Specialty Corporation(Colmar, Pennsylvania)から購入されたヒト白血球からFICOLL(商標)勾配をかけて精製した。これらのPBMCを、HER2発現JIMT-1腫瘍細胞系の非存在下および存在下で、様々な濃度のP136797.3または単鎖二重特異性分子と共にインキュベーションした。JIMT-1細胞を含有する各試料において、PBMC:JIMT-1細胞の比は10:1であった。48時間インキュベーション後に、非接着細胞をウェルから取り出し、2つの等しい試料に分けた。フローサイトメトリー染色を行って、CD25またはCD69を発現しているCD3
+T細胞のパーセントを検出した。フルオレセインイソチオシアネート(FITC)コンジュゲーション型抗ヒトCD3抗体を用いて全ての試料を染色した。ヒトCD25およびCD69に対する抗体は、アロフィコシアニン(APC)コンジュゲーション型であった。染色された試料をFACSによって分析した。
【0118】
図8に示されるように、CD3
+末梢T細胞におけるCD25およびCD69の上方制御が、抗HER2/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体P136797.3および単鎖二重特異性分子により観測された。これは、HER2発現JIMT-1腫瘍細胞の非存在下ではなく、存在下で起こった。
図8。これらのデータは、T細胞以外のFc受容体担持細胞がPBMC中に存在するにもかかわらず、抗HER2/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体P136797.3または単鎖二重特異性分子によるT細胞活性化が、HER2を発現している腫瘍標的細胞の存在に依存することを示している。
【0119】
実施例6:抗FOLR1×抗CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体の構築および試験
CD3εおよび葉酸受容体1(FOLR1)と結合できるヘテロ二量体性二重特異性抗体を、P136797.3に類似した設計で、本質的に実施例1に記載のように構築した。それをP136795.3と称した。P136797.3と同様に、P136795.3のFc領域は、電荷対置換とFcγRの結合を遮断する突然変異との両方を含有する。P136795.3の第1および第2のポリペプチド鎖の配列をそれぞれSEQ ID NO:22およびSEQ ID NO:23に提供する。実施例1記載の抗FOLR1/CD3ε単鎖二重特異性分子(SEQ ID NO:76のアミノ酸配列を有する)も本実験に含めた。
【0120】
上記の健康なドナーから単離されたヒトT細胞を、CFSE標識腫瘍標的細胞と共に10:1の比で、抗FOLR1/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体P136795.3の存在下および非存在下でインキュベーションした。標的細胞は、Cal-51細胞(細胞1個あたりFOLR1部位約148,000個を発現している)、T47D細胞(細胞1個あたりFOLR1部位約101,000個を発現している)、または検出可能な量のFOLR1を発現しないBT474細胞のいずれかであった。39〜48時間後に細胞を採集し、フローサイトメトリーを用いて、生存細胞ではなく、死細胞または瀕死細胞を染色する7AADの取り込みにより、腫瘍細胞の溶解をモニターした。特異的溶解率を上記のように決定した。
【0121】
抗FOLR1/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体P136795.3および抗FOLR1/CD3ε単鎖二重特異性分子の両方でCal-51細胞およびT47D細胞の特異的溶解が観測された。
図9。P136795.3についてのEC
50は、Cal-61細胞およびT47D細胞において、それぞれ1.208pMおよび1.26pMであった。抗FOLR1/CD3ε単鎖二重特異性分子についてのEC
50は、Cal-51細胞およびT47D細胞において、それぞれ0.087pMおよび0.19pMであった。検出不能なレベルのFOLR1を有する細胞系であるBT474の溶解は最小であり(
図9)、この溶解は、試験されたP136795.3の最高濃度でのみ観測された。P136795.3は存在するがT細胞は存在しないときの腫瘍標的細胞は、7AADの取り込みを生じなかった(データは示さず)。これらの観測は、抗FOLR1/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体P136795.3および抗FOLR1/CD3ε単鎖二重特異性分子の両方が、T細胞による腫瘍細胞溶解を誘導する能力のある、高度に特異的で強力な試薬であることを示唆している。
【0122】
FOLR1を発現している腫瘍細胞系(T47D)の存在下、または検出可能なFOLR1を発現しない細胞系(BT474)の存在下で、抗FOLR1/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体P136795.3が、T細胞による多様なサイトカインの放出を刺激できるかどうかを判定するために該抗体を試験した。このアッセイでは、陽性対照として単鎖抗FOLR1/CD3ε二重特異性分子も試験した。上記のように単離されたT細胞を、T47D細胞またはBT474細胞のいずれかの存在下および様々な濃度のP136795.3または単鎖二重特異性分子の存在下で約24時間培地中でインキュベーションした。結果を
図10Aおよび10Bに示す。T47D細胞の存在下で、最高のサイトカイン濃度が、IFN-γ、TNF-α、IL-10およびIL-2(1000pg/mLを超える)で見られた。中等度のレベルのIL-13も観測された。FOLR1陰性細胞系BT474の存在下でもサイトカインが観測されたが、それは、ヘテロ二量体性二重特異性抗FOLR1/CD3ε抗体P136795.3が、試験された最高濃度(1000pM)の場合のみであった。T47D細胞存在下のサイトカイン放出についてのEC
50を下の表5に示す。
【0123】
(表5)サイトカイン放出についてのEC
50
【0124】
これらの結果は、T細胞が、FOLR1を発現している標的細胞の存在下でのみ、抗FOLR1/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体または単鎖二重特異性分子の存在に対してサイトカインを分泌することによって応答することを示唆している。
【0125】
実施例7:T細胞によるHER2発現がん細胞誘導型サイトカイン分泌
24時間インキュベーション後に採取された、実施例4記載のTDCCアッセイからの細胞培養上清を、細胞表面上にHER2を発現している腫瘍細胞(JIMT-1細胞)または標的細胞タンパク質を発現しない対照細胞(SHP77細胞)の存在下での、様々なサイトカインの産生についてアッセイした。T細胞によるサイトカイン産生を、抗HER2/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体(P136797.3)または単鎖二重特異性分子(SEQ ID NO:75のアミノ酸配列を有する)に加えてJIMT-1細胞またはSHP77細胞の存在下で測定した。インターフェロンγ(IFN-γ)、腫瘍壊死因子α(TNF-α)、インターロイキン-10(IL-10)、インターロイキン-2(IL-2)、およびインターロイキン-13(IL-13)の産生を、Human TH1/TH2 (7-Plex) Ultra-Sensitive Kit(カタログ番号K15011C-4, Meso Scale Diagnostics, LLC., Rockville, MD)およびHuman Proinflammatory I (4-Plex) Ultra-Sensitive Kit(カタログ番号K15009C-4, Meso Scale Diagnostics, LLC., Rockville, MD)を使用して、製造業者の指示に従って測定した。HER2発現JIMT-1細胞の存在下で、P136797.3または単鎖二重特異性分子で処理されたT細胞はサイトカインを放出した。下の表6に、アッセイされた5つのサイトカインについてのEC
50を示す。
【0126】
(表6)JIMT-1細胞および抗HER2/CD3ε二重特異性抗体の存在下でのT細胞によるサイトカイン放出
【0127】
図11Aおよび11Bに、HER2発現JIMT-1細胞またはSHP77細胞(これは、HER2を発現しない)のいずれか、および様々な濃度のP136797.3または単鎖二重特異性分子の存在下でのT細胞によるサイトカイン産生についての滴定曲線を示す。これらのデータは、抗HER2/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体および抗HER2/CD3ε単鎖二重特異性分子の両方が、SHP77細胞の存在下ではなく、JIMT-1細胞の存在下でサイトカイン産生を誘導できることを示している。
【0128】
観測されたサイトカイン分泌が、両方の細胞型に加えて二重特異性の存在に依存したことを立証するために、追加的な実験を行った。試料が、抗HER2/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体の存在下または非存在下で、(1)T細胞単独、(2)JIMT-1細胞単独、または(3)T細胞およびJIMT-1細胞の両方のいずれかを含有したことを除き、方法は上記と同様であった。
図12に示されるように、両方の細胞型および二重特異性抗体の存在下でのみ、サイトカインが分泌された。
【0129】
実施例8:ヘテロ二量体性二重特異性抗体のインビボ活性
下記実験は、がんのインビボモデル系においてヘテロ二量体性二重特異性抗体の活性を実証するものである。ヒト化マウスを以下のように作製した。gamma cell照射器を使用して、生後1〜4日のNOD.Cg-Prkdc
scidIl2rg
tm1Wjl/SzJマウス(NSGマウスと呼ぶ)に線量113センチグレイ(cGY)を照射し、予備凍結したヒトCD34
+臍帯細胞約50,000個を肝臓に注射した。5週齢から開始して、動物に組み換えヒトIL-7 9μgおよびマウス抗ヒトIL-7(非中和性半減期延長抗体)15μgの腹腔内注射を3週間受けさせた。11週齢時にフローサイトメトリーを使用して各マウスについてヒトT細胞の血液レベルを分析した。下記試験に使用された動物は、0.1%〜40%(生存白血球の総数に対して)の範囲のヒトT細胞レベルを有した。齢が一致する非ヒト化動物(「対照マウス」と呼ぶ)の追加的な群を対照群として試験に含めた。これらの動物(「NSG対照マウス」)に、下記のようにP56019.5(抗MSLN/抗CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体)を投与した。
【0130】
腫瘍試験のために、メソセリアン(mesothelian)発現ヒト膵臓腫瘍細胞系Capan-2からの細胞約1000万個を各マウスに皮下移植した。処置を腫瘍細胞の移植の9日後から開始して、静脈内に施した。動物は、(1)100μg/マウスのP56019.5(抗MSLN/抗CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体)、対照二重特異性抗体(抗ヒトEGFRviii/抗ヒトCD3ε)、もしくはダルベッコリン酸緩衝食塩水(DPBS)を9日目から開始して毎日の注射を5回、または(2)P56019.5中に存在するのと同じVHおよびVL領域を有する抗ヒトMSLN IgG1抗体を100μg/マウスで9日目に開始して4日間隔で注射を2回、受けた。腫瘍体積を測定し、腫瘍が2000mm
3に到達したとき、または試験の終了時(33日目)に動物を安楽死させた。試験の完了後のデータ解析から、腫瘍退縮とヒトT細胞数との間の直接相関関係が示され、みかけの最小値3%の血中ヒトT細胞が活性に必要であった。したがって、全てのヒト化マウス群についての最終解析から、3%未満を有する動物を排除し、処置群あたりマウス4匹という最終動物数にした。
【0131】
図13に示されるように、移植されたCapan-2細胞は、「NSG対照マウス」(これらは、ヒト化されていない)において、P56019.5で処置されたにもかかわらず、腫瘍を形成した。同様に、抗ヒトMSLN IgG1抗体で処置されたマウスにおいて腫瘍が形成した。対照である抗EGFRvIII/CD3ε二重特異性抗体も腫瘍成長を阻害することができなかった。対照的に、P56019.5(抗MSLN/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体)で処置されたヒト化マウスでは腫瘍成長が有意に抑制された。したがって、これらのデータは、腫瘍成長の阻害が、ヒトT細胞の存在、ならびに腫瘍細胞およびT細胞の両方と二重特異性分子との結合に依存したことを示唆している。さらに、これらのデータは、腫瘍成長のT細胞依存性抑制が、Capan-2細胞上のメソテリンの結合によって媒介されることを示唆している。この試験から、二重特異性ヘテロ二量体性抗体は標的細胞のT細胞媒介殺滅をインビボで誘導できることが実証された。
【0132】
実施例9:ヘテロ二量体性二重特異性抗体の薬物動態特性
下記実験において、ヘテロ二量体性二重特異性抗体の単回投与薬物動態特性を単鎖二重特異性分子と比較した。抗HER2/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体(これは、P136797.3と称する)の第1および第2のポリペプチド鎖は、それぞれSEQ ID NO:20およびSEQ ID NO:21のアミノ酸配列を有した。抗HER2/CD3ε単鎖二重特異性抗体は、リンカーによって連結された2つのVH/VL対を含有し、その抗体は、SEQ ID NO:75のアミノ酸配列を有した。
【0133】
2つの被験抗体を、一部のNOD.SCIDマウス(Harlan Laboratories, Livermore, CAから入手)では外側尾静脈を介して静脈内に、または他のマウスでは肩甲を覆う皮膚の下に皮下に、濃度1mg/kgで注射した。各時点で後眼窩静脈叢穿刺により全血約0.1mLを採血した。全血が凝固したら、試料を処理して血清を得た(1試料あたり約0.040mL)。Gyros AB(Warren, NJ)の技術を用いたイムノアッセイによって血清試料を分析し、単鎖二重特異性抗体およびヘテロ二量体性二重特異性抗体の血清中濃度を決定した。このアッセイは、ヘテロ二量体性二重特異性抗体(これは、Fc領域を含有した)を捕捉および検出するために抗ヒトFc抗体を、単鎖ヘテロ二量体性分子を捕捉するためにCD3模倣ペプチドを採用し、該分子を、抗HIS抗体を用いて検出した。注射の0、0.5、2、8、24、72、120、168、240、312、384、および480時間後に血清試料を収集し、分析の前に-70℃(±10℃)に維持した。Phoenix(登録商標)6.3ソフトウェア(Pharsight, Sunnyvale, CA)を使用するノンコンパートメント解析によって、血清中濃度から薬物動態パラメーターを推定した。
【0134】
ヘテロ二量体性二重特異性抗体は、皮下または静脈内のいずれかに注射された場合、単鎖二重特異性抗体の血清半減期(5時間)に比べて延長した血清半減期(223時間)を示した。
図14および15。単鎖二重特異性分子への暴露は、19hr*μg/mLという曲線下面積(AUC)によって特徴付けられ、一方で、ヘテロ二量体性二重特異性抗体のAUCは、2541hr*μg/mLであった。したがって、ヘテロ二量体性二重特異性抗体は、好都合な薬物動態特性を有した。
【0135】
実施例10:抗FOLR1/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体による腫瘍成長のインビボ阻害
下記実験は、FOLR1発現NCI-N87ヒト胃癌細胞を使用するがんのインビボモデル系においてヘテロ二量体性二重特異性抗体の活性を実証するものである。この実験に使用される抗FOLR1/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体(PL-30056)は、
図1(4)に示される一般設計を有し、かつSEQ ID NO:84および86のアミノ酸配列を有する2つのポリペプチド鎖を含む。これらのポリペプチド鎖をコードするDNA構築物を、本質的に実施例1に記載されるように作製したが、これを合成的に作製することもできる。本実験に使用された単鎖抗FOLR1/CD3ε単鎖二重特異性(PL-30055)のアミノ酸配列をSEQ ID NO:88に提供する。
【0136】
この実験に使用するために、Miltenyi T cell activation/expansion kitを製造業者の指示に従って使用して、18日の培養期間の0日目および14日目に抗CD3/CD28/CD2抗体を添加することによってヒト汎T細胞を予備活性化し、培養して増大させた。ヒト腫瘍をマウスに移植するために、50%MATRIGEL(商標)(BD Biosciences、カタログ番号356237)中の、FOLR1を発現する胃癌細胞系(NCI-N87)からの細胞約3×10
6個を、8週齢雌性NSGマウス(0日目)に皮下移植した。10日目に、活性化ヒト汎T細胞20×10
6個を各マウスに腹腔内(IP)注射により投与した。11および18日目に、10mg/匹のGAMMAGARD[免疫グロブリン輸液(ヒト)]10%(Baxter)に加えて0.2mg/匹の抗mu FcγRII/III(クローン2.4G2)からなるFcγRブロックをIP投与した。11日目のFcγRブロックの1時間後に、動物(N=10/群)に、(1)0.05mg/kgの単鎖抗FOLR1/抗CD3ε二重特異性分子(SEQ ID NO:88のアミノ酸配列を有する)のIP注射を毎日、または(2)1mg/kgの抗FOLR1/抗CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体(SEQ ID NO:84および86のアミノ酸配列を有する)もしくは0.9%NaCl中の25mMリシン塩酸塩、0.002%Tween 80、pH7.0(ビヒクル対照)のIP注射を5日間隔で2回、受けさせた。腫瘍体積を測定し、腫瘍が2000mm
3に達したとき、または試験の終了時(27日目)に動物を安楽死させた。
【0137】
図16に示されるように、腫瘍は、試験全体にわたりビヒクル処置動物において成長した。対照的に、ビヒクル処置マウスに比べて、単鎖抗FOLR1/CD3ε二重特異性分子または抗FOLR1/CD3εヘテロ二量体性二重特異性分子で処置されたマウスにおいて、腫瘍成長は有意に阻害された(p<0.0001)。実験全体にわたり、処置されたマウスまたは未処置マウスの体重に有意な変化はなかった(データは示さず)。これらのデータは、抗FOLR1/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体がこのインビボ系において標的腫瘍細胞のT細胞性殺滅を誘導できることを示唆している。
【0138】
実施例11:抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体のインビトロおよびインビボ活性
下記実験は、CD33発現白血病細胞系Molm-13またはルシフェラーゼ遺伝子を含有するその派生株Molm-13-ルシフェラーゼ(Molm-13-luc)を使用して、インビトロで、およびがんのインビボモデル系において、ヘテロ二量体性二重特異性抗体の活性を実証するものである。この実験に使用される様々な単鎖二重特異性抗体およびヘテロ二量体性二重特異性抗体のアミノ酸配列は、以下の通りである:SEQ ID NO:90のアミノ酸配列を有する抗MEC/CD3ε単鎖二重特異性(P137424.7;陰性対照として使用);SEQ ID NO:92のアミノ酸配列を有する抗CD33/CD3ε単鎖二重特異性(P138241.3);ならびにSEQ ID NO:94および96のアミノ酸配列を含む抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体(
図1(6)に示される構成を有するPL-144537.6)。
【0139】
抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体がMolm-13細胞を特異的に溶解できたかどうかを判定するために、標的細胞としてMolm-13細胞およびエフェクター細胞として汎T細胞を使用して、実施例2記載の細胞溶解アッセイを行った。試料は、二重特異性の存在下もしくは非存在下でMolm-13細胞単独、または二重特異性の存在下もしくは非存在下でMolm-13細胞および汎T細胞の両方を含有した。
図17に示されるように、Molm-13および汎T細胞の両方に加えて二重特異性を含有する試料において特異的溶解が観測された。したがって、二重特異性は、エフェクターT細胞の非存在下でなく存在下でMolm-13細胞を特異的に溶解することができる。
【0140】
D-ルシフェリンの存在下でルミネセンスを示すMolm-13-luc細胞(1×10
6個)を、10週齢雌性NSGマウスの右側腹部に皮下注射(SC)した(0日目)。腫瘍細胞の接種から3日目に、活性化ヒト汎T細胞(実施例10に説明したように活性化)20×10
6個を各マウスにIP注射によって投与した。4および11日目に、実施例10に記載のFcγRブロックをIP注射によって投与した。4日目のFcγRブロックの1時間後に、マウス(N=8/群)に以下の処置の1つを受けさせた:(1)0.05mg/kgの抗CD33/CD3ε単鎖二重特異性、0.05mg/kgの抗MEC/CD3ε単鎖二重特異性(SEQ ID NO:90;陰性対照)、もしくは0.9%NaCl中の25mMリシン塩酸塩、0.002%Tween 80、pH7.0(ビヒクル対照)のいずれかの毎日の腹腔内注射を10日間;または(2)1mg/kgの抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体のIP注射を5日間隔で2回。
【0141】
投薬開始後、IVIS(登録商標)-200 In Vivo Imaging System(Perkin Elmer)を用いたバイオルミネセンスイメージングを2週間にわたり月曜、水曜、金曜に行った。イメージングの9分前に、マウスに150mg/kg D-ルシフェリンをIP注射により与えた。画像を集め、LIVING IMAGE(登録商標)ソフトウェア2.5(Caliper Life Sciences)を使用して解析した。ベースラインのバイオルミネセンスを測定するために、ナイーブな動物(Molm-13-lucもヒト汎T細胞も接種されていない動物)を使用した。
【0142】
図18に示されるように、ビヒクルまたは陰性対照二重特異性(抗MEC/CD3ε単鎖二重特異性)で処置され、Molm-13-luc細胞に続いて、活性化/増大させたヒト汎T細胞を接種されたマウスにおいて、腫瘍量は、試験の経過全体にわたり増加した。対照的に、ビヒクル対照の投与を受けたマウスにおける腫瘍成長に比べて、抗CD33/CD3ε単鎖二重特異性で処置されたマウス(p<0.0001)または抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体で処置されたマウス(p<0.0001)において、腫瘍細胞は有意に抑制された。実験全体にわたり、処置されたマウスまたは未処置マウスの体重に実質的な変化はなかった(データは示さず)。これらのデータは、抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体が、この系において腫瘍標的細胞のインビボ殺滅を誘導できることを示している。
【0143】
ヘテロ二量体性二重特異性抗体が、ヒトT細胞の増殖をインビボで誘導する能力があるかを判定するために、処置の最終投与の24時間後に、すなわち単鎖二重特異性抗体について11日目およびヘテロ二量体性二重特異性抗体について14日目に、フローサイトメトリーを使用してヒトT細胞の血中レベルを分析した。抗ヒトCD4および抗ヒトCD8で血液試料を染色して、生存白血球(マウスおよびヒト)に対する陽性細胞率を決定した。結果を
図19に示す。
【0144】
ヒトCD4
+T細胞のレベルは全ての処置(ビヒクル、単鎖二重特異性、およびヘテロ二量体性二重特異性抗体)にわたり一定のままであり、CD8
+T細胞は、ビヒクル処置動物および対照単鎖二重特異性処置動物で低いままであった。対照的に、抗CD33/CD3ε単鎖またはヘテロ二量体性二重特異性抗体で処置された動物においてCD8
+T細胞は増大したが、これは、CD8
+T細胞が、抗CD33/CD3ε単鎖二重特異性抗体またはヘテロ二量体性二重特異性抗体に応答してインビボ増殖することを示している。
【0145】
実施例12:CD33発現腫瘍細胞を使用するがんのインビボモデル系におけるヘテロ二量体性二重特異性抗体の用量反応
がんのインビボモデル系においてヘテロ二量体性二重特異性抗体による腫瘍阻害の程度が抗体の用量に関係するかどうかを判定するために、下記実験を計画した。CD33発現がん細胞系Molm-13-lucは、D-ルシフェリンが添加されるとルミネセンスシグナルを提供することでインビボ腫瘍成長の定量化を容易にするので、この細胞系を使用した。
【0146】
本質的に実施例11に記載のように実験を行った。実施例11におけるように、0日目にMolm-13-luc細胞を注射し、3日目に活性化ヒト汎T細胞を注射した。同じく実施例11に説明したように、4および11日目にFcγRブロックを投与した。4日目のFcγRブロックの1時間後に、マウス(N=8/群)に0.9%NaCl中の25mMリシン塩酸塩、0.002%Tween 80、pH7.0(ビヒクル対照)、または1mg/kg、0.1mg/kg、0.03mg/kg、0.01mg/kg、もしくは0.001mg/kgの抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体のいずれかのIP注射を5日間隔で2回受けさせた。抗CD33/CD3ヘテロ二量体性二重特異性抗体は、実施例11で使用されたものと同じであった。バイオルミネセンスイメージングを実施例11記載のように行った。
【0147】
図20に示されるように、ビヒクル処置NSGマウスでは、試験全体にわたり腫瘍が成長した(破線で結ばれた白丸)。対照的に、抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体で処置されたマウスにおいて腫瘍成長抑制の用量反応が示された。バイオルミネセンスによって測定された腫瘍成長の阻害は、1mg/kgの抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体で99.99%(実線で結ばれた黒丸)、0.1mg/kgで99.88%(破線で結ばれた下向き白三角)、0.03mg/kgで85.5%(実線で結ばれた上向き白三角)、0.01mg/kgで69.37%(破線で結ばれた白四角)、および0.001mg/kgで約11.88%であった(実線で結ばれた上向き黒三角)。抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体についてのEC
50およびEC
90は、それぞれ0.0012mg/kgおよび0.0463mg/kgであった。ビヒクル対照とヘテロ二量体性二重特異性抗体との間の差は、用量1mg/kg、0.1mg/kg、0.03mg/kg、および0.01mg/kgについて有意であった(p<0.0001)。実験全体にわたり、処置されたマウスまたは未処置マウスの体重に有意差はなかった(データは示さず)。これらのデータは、抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体が、標的細胞のインビボ殺滅を用量依存的に強力に誘導できることを示している。
【0148】
実施例13:カニクイザルにおける抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体の薬物動態
SEQ ID NO:94および96のアミノ酸配列を含む抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体の単回投与の薬物動態パラメーターを、3つの異なる用量レベル10、100および200μg/kgで評価するために、試験を計画した。1つの用量レベルあたり動物2匹を処置した。それらの用量を静脈内ボーラス注射によって投与した。Meso Scale Discovery(Rockville, Maryland)製のイムノアッセイを製造業者の指示に従って使用して、血清中薬物動態を決定した。注射後最大168時間までの様々な時点で血液試料を採取し、試料を処理して血清を得た。これらの結果から計算された薬物動態パラメーターを下の表7に示す。
【0149】
(表7)カニクイザルにおける抗CD33/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体の薬物動態パラメーター
*単一動物から推定されたPKパラメーター
【0150】
表7に示されるように、用量10、100および200μg/kgで決定された半減期は、それぞれ47.9、89.1および99.1時間であった。したがって、半減期は用量依存性であった。一般に分布容積は、Fc含有タンパク質について予想されるように低く、58〜309mL/kgであった。すべての用量にわたって、クリアランスは、3.7〜9.2mL/hr/kgの範囲であった。
【0151】
用量10および100μg/kgは、認容性良好に見え、投薬後に臨床徴候も症状も示さなかった。6日目までに、用量100μg/kgの動物1匹が、ベースラインを上回るアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)レベル(組織損傷または疾患の指標である)を有し、追加的な異常所見を有さなかった。用量200μg/kgの投与を受けた動物1匹はその用量に耐容性を示さず、投薬の12時間後に死んだ。
【0152】
実施例14:抗HER2/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体の存在下での細胞溶解性シナプス形成
SEQ ID NO:75のアミノ酸配列を有する抗HER2/CD3ε単鎖二重特異性ならびにSEQ ID NO:20および21のアミノ酸配列を含む抗HER2/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体をアッセイして、それらがT細胞とHER2を発現するJIMT-1腫瘍細胞との間の細胞溶解性シナプス形成を誘導する能力を判定した。JIMT-1細胞を、ポリ-L-リシンがコーティングされた24ウェルガラス底培養プレートに蒔いた(1%FCSおよび2g/Lグルコースを含むRPMI培地中に細胞0.5×10
6個/ウェル)。37℃で1時間インキュベーション後に、ガラスウェルに接着しているJIMT-1細胞を温DPBSで優しく洗浄した。濃度1nMの抗HER2/CD3ε単鎖または抗HER2/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体の存在下または非存在下で、新鮮単離されたCD8
+T細胞(健康ドナーからの細胞1×10
6個)をJIMT-1細胞に添加し、37℃で追加的に20分間インキュベーションさせて細胞溶解シナプスを生成させた。
【0153】
プレート上の細胞を、予備加温されたDPBSで洗浄し、直ちに3.7%パラホルムアルデヒドで10分間固定した。次に細胞をDPBSで洗浄し、0.1%TRITON(商標)X-100を用いて室温で5分間透過処理した。一次抗体の混合物(5μg/mL抗PKCθおよび0.4μg/mL抗CD45)を細胞と共に4℃で一晩インキュベーションし、次に3回洗浄した。PCKθは免疫シナプスに局在することが公知であり、一方でCD45はT細胞表面上に発現され、典型的には免疫シナプスの中心には存在しない。8μg/mL二次抗体の混合物(抗CD45について緑色(Alexa-Fluor-488)および抗PKCθについて赤色(Alexa-Fluor-647))を室温で3時間添加し、次にDPBSで2回洗浄した。SlowFade(登録商標)Goldアンチフェード試薬をDAPI(核染料)(Life Technologies #536939)と共にガラスウェルに直接添加し、プレートを遮光して-70℃で保存した。
【0154】
免疫蛍光共焦点顕微鏡観察から、CD45はT細胞表面上に存在し(CD45の緑色染色を有する、より小さな細胞型として同定される)、一方でPKCθ(赤色染色)は、JIMT-1腫瘍細胞(より大きな細胞型として同定される)とT細胞との間のシナプス形成部位で集中的なシグナルを与えたことが示された。T細胞とJIMT-1細胞との間の細胞溶解性シナプスが、抗HER2/CD3ε単鎖二重特異性または抗HER2/CD3εヘテロ二量体性二重特異性抗体を含有する試料において観測されたが、二重特異性を含有しない試料では観測されなかった(データは示さず)。これらの観測は、観測された細胞溶解性シナプス形成が、抗HER2/CD3ε二重特異性の存在に依存すること、ならびに単鎖二重特異性およびヘテロ二量体性二重特異性抗体の両方が免疫シナプス形成を媒介できることを示唆している。