(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404327
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】調整可能な冷却閾値を有するバッテリの冷却管理方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/633 20140101AFI20181001BHJP
B60L 11/18 20060101ALI20181001BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20181001BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20181001BHJP
H01M 10/651 20140101ALI20181001BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
H01M10/633
B60L11/18 Z
H01M10/625
H01M10/613
H01M10/651
H01M10/48 301
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-511116(P2016-511116)
(86)(22)【出願日】2014年4月28日
(65)【公表番号】特表2016-524272(P2016-524272A)
(43)【公表日】2016年8月12日
(86)【国際出願番号】FR2014051015
(87)【国際公開番号】WO2014177800
(87)【国際公開日】20141106
【審査請求日】2017年4月25日
(31)【優先権主張番号】1354056
(32)【優先日】2013年5月2日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】マルシャル, カロリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ルクルヴール, フィリップ
【審査官】
小池 堂夫
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/079983(WO,A2)
【文献】
特開2008−282699(JP,A)
【文献】
特開2002−236154(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/52−10/667
H01M 10/48
B60L 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリ(1)、とりわけ自動車両に設置されたバッテリ(1)の管理方法であって、
− 前記バッテリ(1)の温度を表すデータが第1の閾値を超えたときの前記バッテリ(1)の冷却ステップ(E1)と、
− 前記バッテリ(1)の温度を表すデータが第2の閾値を下回り、とりわけ前記第1の閾値未満となったときの前記バッテリ(1)の冷却停止ステップ(E2)と
を含む管理方法において、
前記第1の閾値と前記第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップ(E3)と、
前記バッテリ(1)の実容量損失の特定ステップ(E4)を含み、前記第1の閾値と前記第2の閾値の少なくともいずれか一方の前記調整ステップ(E3、E3−3)が前記バッテリの前記実容量損失の関数であることを特徴とする管理方法。
【請求項2】
前記第1の閾値と前記第2の閾値の少なくともいずれか一方の前記調整ステップ(E3)が、第1の運転タイプと、前記第1の運転タイプよりも前記バッテリ(1)に対する要求度合の高い第2の運転タイプとの間で選択する運転行動の特定ステップ(E3−1)であって、とりわけ、少なくとも1つの所定の運転閾値と少なくとも1つの運転情報とを比較することによる特定ステップ(E3−1)を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
特定された前記運転行動が前記第2の運転タイプであるとき、前記第1の閾値および/または前記第2の閾値が前記調整ステップ(E3)によって引き下げられることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
特定された前記運転行動が前記第1の運転タイプであるとき、前記第1の閾値および/または前記第2の閾値が、前記車両のエネルギー消耗を減らすように前記調整ステップ(E3)によって上方に調整されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の閾値と前記第2の閾値の少なくともいずれか一方の前記調整ステップ(E3)が、前記バッテリ(1)の状態、とりわけその経年数またはその健全度の特定ステップ(E3−2)を含むことを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記調整ステップ(E3)が、特定された前記バッテリ(1)の前記状態をその入力の1つとするテーブルのクエリを含んでおり、前記テーブルが、前記冷却ステップ(E1)で使用する新たな第1の閾値、および/または前記冷却停止ステップ(E2)で使用する新たな第2の閾値を出力として供給することを特徴とする、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記バッテリ(1)の理論的容量損失の特定ステップ(E5)を含み、前記第1の閾値と前記第2の閾値の少なくともいずれか一方の前記調整ステップが前記理論的容量損失を考慮に入れることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記バッテリが前記バッテリ(1)の理論的使用条件によって特定される保証寿命を有しており、前記調整ステップ(E3−3)が、特定された前記実容量損失と特定された前記理論的容量損失との比較ステップを含むことにより、前記第1の閾値と前記第2の閾値の少なくともいずれか一方の前記調整によって前記保証寿命が確保されるようにすることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
1つのサイクルであって、その間に、
− 前記サイクルと関連づけられた時間レンジの間に、前記バッテリの充電状態および前記バッテリの温度に応じた前記バッテリの挙動の学習ステップ(E6)が行われ、
− 前記時間レンジの最後に、前記学習ステップ(E6)の結果に基づいて前記バッテリの実容量損失が特定(E4)され、
− 前記第1の閾値と前記第2の閾値の少なくともいずれか一方の前記調整ステップ(E3−3)が、特定された前記バッテリ(1)の前記実容量損失を少なくとも考慮に入れて前記第1の閾値と前記第2の閾値の少なくともいずれか一方に適用されるべき補正要素の確定を含む、サイクルを有することを特徴とする、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
適用されるべき前記補正要素が、特定された前記理論的容量損失と特定された前記実容量損失の比較に依存することを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記サイクルは前記バッテリ(1)の寿命を通して反復型であり、それによって、前記サイクルの終了のたびに前記第1の閾値と前記第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整が次のサイクルのためにもたらされることを特徴とする、請求項9または10に記載の方法。
【請求項12】
前記学習ステップ(E6)がパラメータのセットの構築を含み、それぞれのパラメータが、1つまたは複数の充電状態、特に充電状態レンジに関する第1の情報と、1つまたは複数の温度、特に温度レンジに関する第2の情報と、前記バッテリが前記時間レンジの中で前記第1の情報および前記第2の情報に基づいて動作した時間を表す第3の時間情報、特にパーセンテージとを含んでいること、および、前記時間レンジの最後に前記第3の情報のそれぞれに対して、前記バッテリの前記実容量損失が特定されるように、対応する劣化係数を適用することを特徴とする、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
バッテリ(1)と、前記バッテリの温度を表す値を測定するように構成された少なくとも1つの温度センサまたは温度監視装置(6)と、前記バッテリ(1)の冷却システム(2)と、前記温度センサ(6)、前記冷却システム(2)に接続された演算システム(7)であって、請求項1から12のいずれか一項に記載の管理方法の実行ソフトウェアおよび/またはハードウェア手段を有する演算システム(7)とを備える自動車両(3)。
【請求項14】
コンピュータが読み取ることのできるデータ記録媒体であって、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法の実行コンピュータプログラムのコード手段を含むコンピュータプログラムが記録された媒体。
【請求項15】
コンピュータによって実行されるときに、請求項1から12のいずれか一項に記載の方法を行うように適合されたコンピュータプログラムのコード手段を含むコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷却を必要とするバッテリの管理の分野に関する。
【0002】
本発明は、より詳細には、自動車両に設置されたものであることが好ましいバッテリの管理方法を対象とする。
【0003】
本発明のもう1つの対象は、その管理方法が実行される車両である。
【背景技術】
【0004】
全面的な電気車両、または電動機と内燃機関とによる推進モードを組み合わせたハイブリッド車両では、車両の推進機能を果たすためにバッテリが使用される。こうしたバッテリの技術においては、バッテリの劣化を抑えるためにバッテリが一定の温度レンジの中で動作することが要求される。
【0005】
文献WO2012/003209は、早すぎる劣化を防ぐために動作時のバッテリを18℃から45℃に維持するための特別な手段を開発して、そうした動作について記している。
【0006】
その上で、この種の動作に従って使用されるバッテリの様々な劣化について施設内で観察が行われた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】WO2012/003209
【発明の概要】
【0008】
本発明の目的は、バッテリの寿命中の劣化を制限することができる解決策を提案することである。
【0009】
特に、バッテリ、とりわけ自動車両に設置されたバッテリの管理方法であって、
− バッテリの温度を表すデータが第1の閾値を超えたときのバッテリの冷却ステップと、
− バッテリの温度を表すデータが第2の閾値を下回り、とりわけ第1の閾値未満となったときのバッテリの冷却停止ステップと、
− 第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップ(E3)と
を含む方法によって、この目的の達成を目指す。
【0010】
有利には、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップは、第1の運転タイプと、第1の運転タイプよりもバッテリに対する要求度合の高い第2の運転タイプとの間で選択する運転行動の特定ステップであって、とりわけ、少なくとも1つのあらかじめ定められた運転閾値と少なくとも1つの運転情報とを比較することによる特定ステップを含む。好ましくは、特定された運転行動が第2のタイプの運転であるとき、第1の閾値および/または第2の閾値は調整ステップによって引き下げられる。また、好ましくは、特定された運転行動が第1のタイプの運転であるとき、第1および/または第2の閾値は、車両のエネルギー消耗を減らすように調整ステップによって上方に調整される。
【0011】
好ましくは、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップは、バッテリの状態、特にその経年数またはその健全度の特定ステップを含む。
【0012】
たとえば、調整ステップは、特定されたバッテリの状態をその入力の1つとするテーブルのクエリを含んでおり、当該テーブルは、冷却ステップで使用する新たな第1の閾値および/または冷却停止ステップで使用する新たな第2の閾値を出力として与える。
【0013】
一実行例によれば、本方法は、バッテリの実容量損失の特定ステップを含み、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップはバッテリの当該実容量損失の関数である。本出願において、バッテリの実容量とバッテリの充電状態とは明確に別個の2つの事柄であり、容量とは、最大の充電状態から放電サイクルを完了した時点でバッテリに供給することのできる電荷であることに留意する必要がある。
【0014】
たとえば、本方法は、バッテリの理論的容量損失の特定ステップを含み、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップは当該理論的容量損失を考慮に入れる。
【0015】
一実施例によれば、バッテリはバッテリの理論的使用条件によって特定される保証寿命を有しており、調整ステップは、特定された実容量損失と特定された理論的容量損失との比較ステップを含むことにより、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整によって保証寿命が確保されるようにする。
【0016】
有利には、本方法は、1つのサイクルであって、その間に、
− そのサイクルと関連づけられた時間レンジの間に、バッテリの充電状態およびバッテリの温度に応じたバッテリの挙動の学習ステップが行われ、
− その時間レンジの最後に、学習ステップの結果に基づいてバッテリの実容量損失が特定され、
− 第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップが、特定されたバッテリの実容量損失を少なくとも考慮に入れて当該の第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方に適用されるべき補正要素の確定を含む、サイクルを有する。
【0017】
好ましくは、適用されるべき補正要素は、特定された理論的容量損失と特定された実容量損失の比較に依存する。
【0018】
また、プロセスはバッテリの寿命を通して反復型であり、それによって、サイクル終了のたびに前述の第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整が次のサイクルのためにもたらされる。
【0019】
ある具体的な実行例によれば、学習ステップはパラメータのセットの構築を含み、それぞれのパラメータは、1つまたは複数の充電状態、特に充電状態レンジに関する第1の情報と、1つまたは複数の温度、特に温度レンジに関する第2の情報と、バッテリが時間レンジの中で第1の情報および第2の情報に基づいて動作した時間を表す第3の時間情報、特にパーセンテージとを含んでおり、その時間レンジの最後に第3の情報のそれぞれに対して、バッテリの実容量損失が特定されるように、対応する劣化係数を適用する。
【0020】
本発明はまた、バッテリと、バッテリの温度を表す値を測定するように構成された少なくとも1つの温度センサまたは温度監視装置と、バッテリの冷却システムと、温度センサ、冷却システムに接続された演算システムであって、上記のような管理方法の実行ソフトウェアおよび/またはハードウェア手段を有する演算システムとを備える自動車両にも関する。
【0021】
本発明はまた、演算装置が読み取ることのできるデータ記録媒体であって、上記のような方法の実行コンピュータプログラムのコード手段を含むコンピュータプログラムが記録された媒体にも関する。
【0022】
本発明はまた、プログラムが演算装置によって実行されるときに上記のような方法の実施に適したコンピュータプログラムのコード手段を含むコンピュータプログラムにも関する。
【0023】
その他の利点および特徴は、限定的でない例として取り上げ、添付の図面に示す本発明の具体的な実施形態に関する以下の説明を通してより明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】バッテリの管理方法の様々な実施ステップを示した図である。
【
図2】本管理方法を実行するのに適した手段を装備した車両の概略図である。
【
図3】それぞれのマスがパーセント表示の充電状態SOCレンジと温度レンジの交点に相当するマトリックスであって、それぞれのマスが時間情報を表すパーセンテージと関連づけられているマトリックスである。
【
図4】それぞれのマスがパーセント表示の充電状態SOCレンジと温度レンジの交点に相当する劣化マトリックスであって、それぞれのマスがバッテリの劣化係数と関連づけられている劣化マトリックスである。
【
図5】バッテリの容量と時間の関係(特にその寿命の間にわたって)を表すグラフである。
【
図6】本管理方法のサイクルの具体的な一実施形態の図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に説明する方法は、バッテリの冷却論理と関連づけられる温度閾値が当該バッテリの寿命の間に適合される点がとりわけ従来技術と異なる。実際、本発明の枠内で行われた研究では、バッテリの劣化を抑えようとするのであれば、バッテリの利用が進むにつれて、したがってその経年劣化につれて、冷却論理の適合が図られなければならないことが示された。
【0026】
図1は、自動車両3に設置されたものであること、特に
図2に示すように冷却システム2と組み合わせたものであることが好ましいバッテリ1の管理方法のステップを示したものである。バッテリ1は自動車両3にエネルギーを供給することができる。実際、バッテリ1は車両3の推進用バッテリであることができる。推進とは車両を動かすという意味であり、したがって、バッテリは自動車両3の前車軸4および/または後車軸5にトルクを伝達することができる。
【0027】
本発明は、完全電気式またはハイブリッド式の自動車両3のバッテリ1として特に適合されているが、使用/動作時のある与えられた瞬間に冷却されることを必要とするあらゆる種類のバッテリに適合させることが可能である。
【0028】
本方法は、バッテリ1の温度を表すデータが第1の閾値、特に温度閾値を超えたときのバッテリ1の冷却ステップE1と、バッテリ1の温度を表すデータが第2の閾値、特に温度閾値を下回ったときのバッテリ1の冷却停止ステップE2とを含む。この第2の閾値は第1の閾値未満であることが好ましい。冷却ステップE1は冷却システム2の作動によって実行することができ、冷却停止ステップは冷却システム2の停止によって実行することができる。
【0029】
バッテリ1の温度を表すデータは、たとえばバッテリ1のレベルに適当な方法で配設された温度センサ6によるバッテリ1の温度測定ステップからもたらされるものであることができる。
【0030】
また、本方法は、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップE3を含む。調整という概念は、バッテリ1の管理方法を適合させるようにそのときの第1の閾値および/またはそのときの第2の閾値に対して加えられる変更のことをいう。たとえば、バッテリの管理方法は、第1の閾値および第2の閾値が、とりわけ、たとえばバッテリ1の製造者によって特定された値に初期化される初期化ステップEiを含むことができる。初期化されたこれらの値は、調整ステップE3が実施される前にステップE1およびE2の実行時に1回または数回使用されることができる。換言すれば、一般に、調整ステップE3を実施する前に、少なくとも1回の冷却ステップE1および少なくとも1回の冷却停止ステップE2を実行することができる。これらのステップE1およびE2は、たとえば車両の走行期中に実施することが可能であり、その場合、同一の走行期の中で、または、たとえば車両の駐車期によって隔てられるなど、時間的に隔てられた異なる2つの走行期の間で、冷却挙動が異なるように第1の閾値および第2の閾値を調整することができる。走行期中、バッテリ1は、たとえば車両の推進装置8に対して電流を供給するように要求され、または、たとえば制動システムのような車両のアクチュエータを使用することによって、当業者には周知の方法で充電される。
【0031】
実際、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップE3は、バッテリ1の経年劣化の動特性(換言すれば、より端的にはバッテリ1の使用)、すなわち、たとえば要求される度合、健全度、容量損失などのバッテリの使用条件を考慮に入れることができる。換言すれば、修正ステップE3は、バッテリ1の経年劣化の評価または予測を可能にする少なくとも1つのデータを考慮に入れることができる。換言すれば、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップE3は、バッテリ1の経年劣化に関するデータに依存したものであることができる。
【0032】
第1の実施形態によれば、調整ステップE3は、第1の運転タイプと、第1の運転タイプよりもバッテリ1に対する要求度合の高い第2の運転タイプとの間で選択する運転行動の特定ステップE3−1であって、とりわけ、少なくとも1つのあらかじめ定められた運転閾値と、たとえば所与の時間レンジにおける車両の平均速度など、少なくとも1つの運転情報とを比較することによる特定ステップを含む。そのため、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップE3では、特定された運転行動が考慮されるものと理解される。たとえば、特定された運転行動が第2の運転タイプであるときは、第1の閾値および/または第2の閾値は、冷却が早めにトリガされ、その停止は遅めになるように調整ステップE3によって引き下げられる。別の例によれば、特定された運転行動が第1の運転タイプであるときは、第1の閾値および/または第2の閾値は、車両のエネルギー消耗が少なくなるように調整ステップE3によって上方に調整されるか、または(車両の航続距離に不利となることは承知で)変更されない。この第1の実施形態は、運転タイプによって車両3のバッテリ1の経年劣化が加速する可能性があるということは、閾値を調整してバッテリ1の経年劣化ができるだけ抑制されるようにできるはずであるということをその根拠としている。典型的には、第1の運転タイプは、あらかじめ定められた経年劣化が定義される標準運転を表す第3の運転タイプと比較して緩やかなバッテリ1の経年劣化と関連づけられるものであり、第2の運転タイプは第3の運転タイプと比較して早めのバッテリ1の経年劣化と関連づけられるものである。サイクルのシビアリティは、たとえば、バッテリ温度、走行時の出力RMS(RMS=平均)、走行時の経過時間などの関数となり得るものであり、調整した閾値の評価は、制御ループ、マッピング、さらには基準状況(調整なしの閾値)に戻るまでの閾値温度の漸増(または漸減)によって行うことができる。
【0033】
第2の実施形態では、調整ステップE3は、バッテリ1の状態、特にその経年数またはその健全度の特定ステップE3−2を含む。換言すれば、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップE3は、特定された当該の状態を考慮する。たとえば、調整ステップE3は、特定されたバッテリ1の状態をその入力の1つとするテーブルのクエリを含んでおり、当該テーブルは、冷却ステップE1で使用する新たな第1の閾値および/または冷却停止ステップE2で使用する新たな第2の閾値を出力として与える。
【0034】
SOH(英語の「State Of Health」による)とも称されるバッテリ1の健全度は、たとえばCAN(英語の「Controller Area Network」の略)などのバッテリ1のコントローラによって提供されるのが一般的である。バッテリ1の健全度の使用は、あらかじめ定められたマッピングが利用されるため、実行が容易である。当業者は、そのようなマッピングを、健全度のそれぞれの値または健全度の値域について、使用する第1の閾値および/または使用する第2の閾値の関連づけがなされるように決定することができる。バッテリの健全度はバッテリの経年劣化の指標であるが、それはまた、間接的にはバッテリの内部抵抗の増大、したがってその発熱の指標でもある。SOHの低下に合わせて、バッテリが高温になるのを防ぐために閾値を下げることが必要となろう。
【0035】
バッテリ1の経年数に関して、バッテリ1の寿命は複数の期間に分けることが可能であり、バッテリ1の経年数と関連づけられたそれぞれの期間には、使用する第1の閾値の値および/または使用する第2の閾値の値が含まれる。たとえば、それぞれの期間をバッテリ1の動作年と関係づける。その場合、閾値は以下のように定めることができる。
− 1年目:第1の閾値=30℃、第2の閾値=17℃
− 2年目:第1の閾値=29℃、第2の閾値=16℃
− 3年目:第1の閾値=28℃、第2の閾値=15℃
【0036】
このようにして経年数または健全度を考慮することは容易に実行できる解決策である。しかし、経年数を使用するだけでは、クライアント、特に自動車両3の運転者の実際の行動が考慮されないという不都合を生じる。
【0037】
そこで、第3の実施形態によれば、本方法は、バッテリ1の実容量損失の特定ステップE4を含み、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップは特定されたバッテリ1の当該実容量損失の関数である。換言すれば、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップE3−3は、それによって当該実容量損失を考慮することができる。そうすることで、第1の閾値および/または第2の閾値に手を加える際にバッテリの使用を考慮することが可能となり、それによってたとえばバッテリ1の十分な寿命が得られるようにすることができる。この同じプロセスは、バッテリのSOHを使用すること(実SOHの推移と基準となる理論的「通常」SOHとを比較)によっても行うことができる。
【0038】
また、この第3の実施形態によれば、本方法は、バッテリ1の理論的容量損失の特定ステップE5をさらに含むことができ、調整ステップE3−3は特定された当該理論的容量損失を考慮に入れる。実際、理論的容量損失とは、バッテリ1に関して、製造者によって特定されたバッテリの通常使用に対していうものである。そのため、たとえば、特定された実容量損失を特定された理論的容量損失と比較して、たとえばバッテリを装備した車両の「通常」とされる使用と、たとえばバッテリを装備した車両の実際の使用との「ずれ」を特定し、それによって第1の閾値および/または第2の閾値を適合させることができる。それが特に当てはまるのは、バッテリ1がバッテリ1の理論的使用条件によって定まる保証寿命と関連づけられているときであり、その場合、調整ステップE3−3は、特定された理論的容量損失と特定された実容量損失の比較ステップを含むことができ、それにより、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整によって保証寿命が確保されるようにする。
【0039】
第3の実施形態の具体的な一実行例によれば、本方法は、バッテリの充電状態およびバッテリの温度に応じたバッテリ1の挙動の学習ステップE6が行われるサイクル(
図1)(このサイクルは時間的なレンジまたは期間などであることができる)を含む。
【0040】
ある具体的な例によれば、この学習ステップE6はパラメータのセットの構築を含み、それぞれのパラメータは、1つまたは複数の充電状態、特に充電状態レンジに関する第1の情報と、1つまたは複数の温度、特に温度レンジに関する第2の情報と、バッテリ1が時間的なレンジまたは期間の中で第1の情報および第2の情報に基づいて動作した時間を表す第3の時間情報、特にパーセンテージとを含む。
図3は、たとえば充電状態レンジ(パーセンテージによるSOC)ごとおよび温度レンジ(T℃ Bat)ごとの経過時間(パーセンテージによる)を含むマトリックスの形で構築されたそうしたセットを示したものである。
図3に示したマトリックスのそれぞれのマスは1つのパラメータを表している。それぞれのパラメータは好ましくは一意であり、その一意性は互いに関連づけられた第1の情報と第2の情報の関連づけによって与えられる。これらの情報は、バッテリの実容量損失を計算できるようにするものであり、その上で、望ましい容量変化を得るために適合させるべき温度閾値を再計算できるようにするものである。そのため、より複雑なこの方法は、上に提案した方法と比べてより精度が高く、適合した閾値を計算することを可能にする。
【0041】
時間的レンジという概念は他のレンジとかかわりなく時間の長さに関する情報を与えるものであり、時間的期間という概念は時間における反復的なレンジに当たるものである。
【0042】
第3の実施形態に適用可能な一般的な事柄として、時間的なレンジまたは期間の最後に、学習ステップE6の結果に基づいてバッテリの実容量損失が特定される(ステップE4)。
【0043】
学習ステップ(E6)に関する具体的な例として、時間的なレンジまたは期間の最後で、第3の情報のそれぞれに対して対応する劣化係数を適用して、バッテリの実容量損失が評価されるようにする。より具体的には、特にサイクルと関連づけられた時間的なレンジまたは期間について、パラメータのセットのパラメータにそれぞれ対応する劣化係数のセットが関連づけられる。
図4は、それぞれのケースについて充電状態レンジおよび温度レンジと関連づけられた劣化係数を含むマトリックスの形で具体的な実施例を示したものである。この場合、バッテリの実容量損失は、2つのマトリックスの乗算を行い、関連づけられた劣化係数に乗じたそれぞれの第3の情報の総和を取ることで評価することができる。得られた情報(
図3および
図4ならびにバッテリの経年数および/または内部抵抗およびサイクルkWh)から、暦日容量損失およびサイクル容量損失が計算され、それによってバッテリの実容量を計算することができる。
【0044】
第3の実施形態に一般的に適用可能なものとして、第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整ステップE3−3は、特定されたバッテリ1の実容量損失を少なくとも考慮に入れて当該の第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方に適用されるべき補正要素を確定することを含む。
【0045】
上述したところからわかるように、適用されるべき補正要素は、特定された理論的容量損失と特定された実容量損失の比較に依存するものであることもできる。実際には、得られたマトリックスをもとに、所与の経年数の容量基準曲線と合わせるために必要なマトリックスを改めて作成し、両方のマトリックスの差が冷却のトリガおよび/または停止の温度閾値のデルタとなるようにすることができる。
【0046】
実際には、理論的容量損失の特定ステップE5は、あらかじめ定められた曲線から対応する当該の損失を確定することに相当し得るものである。そのような曲線は、年単位の時間の経過につれてAh単位のバッテリ容量が変化する
図5に示す曲線であり得る(ここでは、サイクルは1年を表す反復的な時間レンジと関連づけられている)。あらかじめ作成されたこの曲線は、たとえば、所与の車両について、製造者によって規定された通常の使用条件のもとで、たとえばテストベンチから作成したものであることができる。
【0047】
好ましくは、プロセスはバッテリ1の寿命全体を通して反復型であり、それによって、サイクル終了のたびに前述の第1の閾値と第2の閾値の少なくともいずれか一方の調整が次のサイクルのためにもたらされる。それにより、時間的に間隔の開いたバッテリの寿命の様々なステップで再調整が行われるようにすることができる。
【0048】
図6は、バッテリ1の動作開始日以降1年ごとにそのサイクルが繰り返される本管理方法の好ましい継続を示したものである。第1期E100には、第1の閾値28℃、第2の閾値15℃の2つの値を自動車製造者によって想定されているとおり定めて、バッテリ1の動作1年目のための初期化が行われる。
【0049】
第2期E101には、クライアントがその車両を1年目を通して使用し、その間に前述の学習ステップE6が実行される。
【0050】
1年目の終了時に、すなわち新たなサイクルが開始されようとする時点で、第3の収支期E102が実行される。この収支には以下のものが含まれる。
− 過ぎた年におけるバッテリの実容量損失の評価
− 過ぎた年と同様の年についてあらかじめ作成された理論的容量損失と実容量損失との比較
− 適用すべき補正要素の評価ならびに現在の第1の閾値および第2の閾値からの2つの新たな第1の閾値および第2の閾値の特定
【0051】
収支期E102に続いて、新しい年の枠組みのもとで新たな第1の閾値および第2の閾値E103が適用された後、本方法は第2期E101に再びループされて、そこから展開される新たな年について新たな学習が行われるようにする。
【0052】
上記の本管理方法の好ましい継続においては、それぞれの年の最後に閾値の再調整を一度行うのみの単純化されたプロセスとなっているが、これは定期的な(またはその他の)間隔で行うこともできよう。定期的な計算を行う場合は、季節に応じた基準マトリックス(または最後の間隔変更以来の平均外気温、学習のリセット、すなわちステップE6はたとえば1年ごとにしか行わないこと)を考慮に入れることで、閾値の不適切な再調整が行われないようにすることが可能である。実際、それによって時間マトリックスのデータ収集期間と基準期間とが矛盾することのないようにすることができる。
【0053】
一般に、第1の閾値および/または第2の閾値の増減を行うことは可能であるが、当然のことながら、場合によっては、特に下限に関しては、低温時のバッテリの性能次第で限度がある。
【0054】
温度補正、すなわち第1の閾値および/または第2の閾値の調整の計算法については、数値解法、二分法、PID(比例、積分、微分の補償または制御の意)など、いくつかの方法を使用することが可能である。
【0055】
本管理方法では、クライアントにおけるサイクル劣化はバッテリ1の保証基準劣化に準ずるものと考えた。しかし、前述のマトリックスの乗算の総和(暦日劣化)によって得られる計算を直ちに保証基準劣化としてとらえるのではなく、サイクル劣化と暦日劣化とを別個に考慮に入れた保証全基準劣化としてとらえるようにすることで、ターゲット温度の計算を洗練されたものとすることができる。
【0056】
「サイクル劣化」とはサイクルを重ねることによる損失をいうが、これはそれが「暦日」損失とは異なる計算の仕方で得られるものであるためである。暦日損失は、クライアントがバッテリを使用しなくても起こるもので、所与の劣化モードとなるものである。クライアントがバッテリを使う場合は、暦日損失にサイクルによる劣化を加えなければならない。
【0057】
ここに説明した方法は、クライアントの行動に応じて冷却閾値が調整されるようにしながらも、バッテリ容量に関する保証目標を満たすという意味で非常に有利なものである。また、それによって冷却コストの最適化、したがって航続距離の最適化を図ることができる。
【0058】
当然のことながら、本発明はまた、バッテリ1と、バッテリ1の温度を表す値を測定するように構成された少なくとも1つのセンサまたは温度監視装置6と、バッテリ1の冷却システム2と、温度センサ6、冷却システム2に接続された演算システム7であって、上記のような管理方法の実行ソフトウェアおよび/またはハードウェア手段を有する演算システム7とを備える自動車両3(
図2)にも関する。とりわけ、ソフトウェアおよび/またはハードウェア手段は本管理方法のそれぞれのステップのための要素を有することができ、それぞれの要素はそれぞれが関連づけられたステップを実施するように構成される。
【0059】
また、演算装置が読み取ることのできるデータ記録媒体であって、コンピュータプログラムが記録された媒体は、上述のようなバッテリの管理方法(またはそのステップ)の実行コンピュータプログラムのコード手段を含むことができる。
【0060】
また、コンピュータプログラムは、特にそのプログラムが演算装置によって実行されるときに、上述のようなバッテリの管理方法(またはそのステップ)の実施に適したコンピュータプログラムのコード手段を含むことができる。
【0061】
記録媒体および/またはコンピュータプログラムは、上記の車両の一部をなすことができる。
【0062】
様々な実施形態、とりわけ第1、第2および第3の実施形態は、単独でも、組み合わせた形でも採り入れることができる。
【0063】
一変形例では、バッテリの寿命の所与の瞬間に関するバッテリの実健全度を特にCANから知ることができ、それと同じ所与の瞬間に関する製造者データから得られる理論的健全度をあらかじめ定められたマッピングから知ることができる。これらの健全度を実容量損失および理論的容量損失に変換して上記の調整の枠内で使用することが可能であり、反対に容量損失をSOHに換算することもできる。