特許第6404356号(P6404356)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404356
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】軟質高珪素鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20181001BHJP
   C22C 38/34 20060101ALI20181001BHJP
   C22C 38/54 20060101ALI20181001BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20181001BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20181001BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   C22C38/00 303U
   C22C38/34
   C22C38/54
   C21D8/12 A
   C21D9/46 501A
   H01F1/147 175
【請求項の数】10
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-542773(P2016-542773)
(86)(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公表番号】特表2017-508878(P2017-508878A)
(43)【公表日】2017年3月30日
(86)【国際出願番号】KR2013012147
(87)【国際公開番号】WO2015099217
(87)【国際公開日】20150702
【審査請求日】2016年8月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】キム、 ドン−ギュン
(72)【発明者】
【氏名】ホン、 ビョン−デク
(72)【発明者】
【氏名】チェ、 ソク−ファン
【審査官】 鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第103276174(CN,A)
【文献】 特開2002−194513(JP,A)
【文献】 特開平06−172940(JP,A)
【文献】 特開2006−219692(JP,A)
【文献】 特開2001−032054(JP,A)
【文献】 特開昭62−133042(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103060701(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 8/12, 9/46
H01F 1/12− 1/38, 1/44
B21B 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Si:4%超〜7%以下、Cr:1〜20%、B:0.011〜0.048%、C:0.05%以下、N:0.05%以下、Total Al:0.1〜3重量%、残部Fe及び不可避不純物からなる組成を有し、立方体集合組織を面積基準で13〜25%含む、軟質高珪素鋼板。
【請求項2】
Si+Total Al:4.1%超〜7%以下の範囲を満たす、請求項1に記載の軟質高珪素鋼板。
【請求項3】
Mo:0.1%以下、Ni:0.01%以下、P:0.05%以下及びCu:0.01%以下のうちから選択された1種又は2種以上をさらに含む、請求項1又は2に記載の軟質高珪素鋼板。
【請求項4】
重量%で、Si:4%超〜7%以下、Cr:1〜20%、B:0.011〜0.048%、C:0.05%以下、N:0.05%以下、Total Al:0.1〜3重量%、残部Fe及び不可避不純物からなる組成を有する鋼材を準備する段階と、
前記鋼材を800℃以上の温度で熱間圧延して熱延板を得る段階と、
前記熱延板を150〜300℃の温度で冷間圧延する段階と、を含み、
立方体集合組織を面積基準で13〜25%含む軟質高珪素鋼板を製造する、軟質高珪素鋼板の製造方法。
【請求項5】
Si+Total Al:4.1%超〜7%以下の範囲を満たす、請求項4に記載の軟質高珪素鋼板の製造方法。
【請求項6】
前記鋼材は、Mo:0.1%以下、Ni:0.01%以下、P:0.05%以下及びCu:0.01%以下のうちから選択された1種又は2種以上をさらに含む、請求項4又は5に記載の軟質高珪素鋼板の製造方法。
【請求項7】
前記鋼材は、連続鋳造又はストリップキャスティングによって製造される、請求項4又は5に記載の軟質高珪素鋼板の製造方法。
【請求項8】
前記熱延板の内部組織の結晶粒サイズが150〜250μmである、請求項4又は5に記載の軟質高珪素鋼板の製造方法。
【請求項9】
前記熱延板を得る段階は、熱間圧延後、800〜100℃の温度区間を30℃/秒以上の冷却速度で冷却する過程をさらに含む、請求項4又は5に記載の軟質高珪素鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記熱延板を得る段階の後、熱延板を800〜1200℃の温度で熱処理した後、800〜100℃の温度区間を30℃/秒以上の冷却速度で冷却する過程をさらに含む、請求項4又は5に記載の軟質高珪素鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軟質高珪素鋼板に関し、より詳細には、シリコン含量が4%を超える高珪素鋼板であるにもかかわらず延性の性質を保有し、追加の浸珪過程を経ることなく圧延のみによって高いシリコン含量を有する鋼板に製造されることができる軟質高珪素鋼板に関する。
【背景技術】
【0002】
高珪素鋼板は、変圧器、電動機、発電機及びその他の電子機器などの鉄心材料として用いられる鋼板であり、通常、電磁鋼板とも呼ばれている。上記高珪素鋼板に求められる代表的な性質として高い磁束密度と低い鉄損が挙げられる。
【0003】
磁束密度は単位面積当たりの磁束の数を示すものであり、同一の使用条件で磁束密度が高いほど鉄心の量が少ないため、電気機器の小型化が可能である。また、鉄損は、鉄心が時間的に変化する磁場内に置かれたときに発生するエネルギー損失を意味するものであり、渦電流損失とヒステリシス損失からなる。このうち、渦電流損失は、鉄心に磁場が誘導されるときに発生する渦電流(eddy current)によって発生する。
【0004】
シリコンは、このような渦電流損失を減少させるのに効果的な元素であり、電磁鋼板には核心的な元素として添加される。特に、シリコンが6.5%まで添加されると、騒音の原因となる磁歪がほぼ0に減り、透磁率が最大に高まることができる。また、高いシリコン含量は、高周波(例えば、50Hz以上、好ましくは、400Hz又は1000Hzなど)で用いられるとき、鉄損を減少させ、使用効率を極大化させることができるという長所がある。したがって、高珪素鋼板は、その性質を考慮すると、インバータとリアクタ、ガスタービン用発電機誘導加熱装置、無停電電源装置のリアクタなどの高付加価値電気機器用として有利に用いられることができる。
【0005】
このような理由で、鋼板の特性からみると、シリコンはできるだけ多く添加するのがよい。しかし、シリコンが多量に添加されると、加工性が劣化するため、通常、シリコンが3.5重量%以上添加される場合には、通常の方法では冷間圧延が非常に困難になる。
【0006】
日本特開昭56−3625号公報では、このような問題を克服するために、回転体に溶融体を噴出させて急冷凝固させる方法を提案している。他の方法として、日本特開平5−171281号公報には、内部に高珪素鋼を入れ、周囲を低珪素鋼でクラッドした鋼材を圧延して製造する方法がある。しかし、このような技術は未だ工業的に実用化されていない。
【0007】
さらに他の方法として、韓国登録特許公告10−0374292号公報などでは、粉末冶金法を利用して高珪素鋼板の代わりに粉末からなる高珪素鋼ブロックを作り、高珪素鋼板の代替材として用いている。上記文献では、純鉄粉末コア、高珪素鋼粉末コア、センダスト粉末コアを複合して用いているが、粉末が有する限界により軟磁性特性は高珪素鋼板より劣る。
【0008】
鋼板の量産技術として現在用いられる技術としては、日本特公昭38−26263号公報、日本特公昭45−21181号公報、日本特開昭62−227078号公報に記載されたような化学気相蒸着法(CVD)が挙げられるが、これは、約3%のシリコンを含む鋼板を製造した後、その鋼板にSiClを利用してシリコンを浸透及び拡散焼鈍させる方法である。上記方法は、鋼板のシリコン含量を低くして加工性を維持したまま加工した後、拡散によってシリコン含量を所望のレベルまで高める技術である。しかし、このような方法は、毒性のあるSiClを利用しなければならず、拡散焼鈍に多くの時間がかかり、生産性が落ちるという問題がある。
【0009】
他に、日本特開平−299702号公報などには、高珪素鋼板を熱間圧延した後に、冷間圧延せず、例えば、350℃以上の温度で温間圧延することにより薄鋼板を製造しようとする実験室的な試みがある。しかし、冷間圧延だけでなく熱間圧延工程にも加工性の問題があり得るため、圧延温度を上げるだけでは鋼板の加工性を確保するのに十分でない。即ち、通常の方法で連続鋳造してスラブを製造すると、熱間圧延温度を確保するためにスラブを再加熱する必要があるが、このような場合には、スラブと表面部と中心部の温度差によってクラックが発生し、再加熱炉から抽出した後熱間圧延するときにも破断が発生しやすい。図1は、シリコンを6.5%含有した高珪素鋼板を1100℃のアルゴンガス雰囲気で1時間30分間加熱した後熱間圧延したとき、板が破断する形状を示した写真である。図示のように、高珪素鋼板は、冷間圧延だけでなく熱間圧延時にも板破断の恐れが大きい。したがって、ただ圧延温度を調節するだけでは、鋼板の加工性を制御することが困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述の従来技術の問題点を解決するためのものであり、本発明の一目的としては、4%以下、好ましくは、3.5%以下の比較的低いシリコン含量を有する電磁鋼板の製造方法から大きく外れない製造方法で製造することができる軟質高珪素鋼板を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的としては、磁束密度が高く、鉄損が低い軟質高珪素鋼板を提供することである。
【0012】
なお、本発明の課題は上述の内容に限定されない。本発明の属する技術分野における通常の技術者であれば、明細書の全般的な内容から、ここに記載されていない本発明の追加の課題を十分に理解することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一側面による軟質高珪素鋼板は、重量%で、Si:4%超〜7%以下、Cr:1〜20%及びB:0.01〜0.05%を含む組成を有することができる。
【0014】
また、上記高珪素鋼板は、Total Al:0.1〜3重量%をさらに含むことができ、SiとTotal Alの組成の和であるSi+Total Alが4.1%超〜7%以下の範囲を有することができる。
【0015】
本発明の他の側面による軟質高珪素鋼板は、重量%で、Si+Total Al:5〜7%、Cr:1〜20%及びB:0.01〜0.05%を含む組成を有することができる。
【0016】
このとき、これらの鋼板は、Mo:0.1%以下、Ni:0.01%以下、P:0.05%以下及びCu:0.01%以下のうちから選択された1種又は2種以上をさらに含むことができ、不純物として、CとNの含量をそれぞれC:0.05%以下及びN:0.05%以下に制限して含むことができる。
【0017】
本発明のさらに他の側面による軟質高強度鋼の製造方法は、重量%で、Si:4%超〜7%以下、Cr:1〜20%を含む組成を有する鋼材を準備する段階と、上記鋼材を800℃以上の温度で熱間圧延して熱延板を得る段階と、上記熱延板を150〜300℃の温度で冷間圧延する段階と、を含む過程であり得る。
【0018】
このとき、上記鋼材は、Total Al:0.1〜3重量%をさらに含む組成を有することができる。
【0019】
このとき、上記鋼材は、不純物として、CとNの含量をそれぞれC:0.05%以下及びN:0.05%以下に制限して含むことができる。
【0020】
また、上記鋼材は、Mo:0.1%以下、Ni:0.01%以下、P:0.05%以下及びCu:0.01%以下のうちから選択された1種又は2種以上をさらに含むことができる。
【0021】
このとき、上記鋼材は、連続鋳造又はストリップキャスティングによって製造されることができる。
【0022】
また、上記熱延板は、内部組織の結晶粒サイズが150〜250μmであり、加工性に非常に優れる。
【0023】
鋼板の内部に存在する規則相を減少させて加工性をさらに向上させるために、上記熱延板を得る段階は、熱間圧延後、800〜100℃の温度区間を30℃/秒以上の冷却速度で冷却する過程をさらに含むことが好ましい。
【0024】
また、その代案として、上記熱延板を得る段階の後、熱延板を800〜1200℃の温度で熱処理した後、800〜100℃の温度区間を30℃/秒以上の冷却速度で冷却する過程をさらに含むこともできる。
【発明の効果】
【0025】
上述のように、本発明は、その組成を適切に制御することにより、通常の電磁鋼板の製造過程によっても製造可能なシリコン(Si)4%超の軟質高珪素鋼板を提供することができる。
【0026】
また、本発明は、鋼板の内部に存在する規則相の比率を制御することにより、鋼板の製造時、加工性の劣化を防止することができ、浸珪処理のような方法を用いなくても高珪素鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】高珪素鋼を熱間圧延したときに板が破断する現象を観察した写真である。
図2】高珪素鋼において鋼の脆性を引き起こす規則相が生成されることを説明するためのFe−Si2元系状態図である。
図3】5%Si−1%Al鋼板のCr添加量による400℃と200℃における均一伸び率を観察した結果を示したグラフであって、左側は400℃、右側は200℃における結果を示したグラフである。
図4】クロムを添加していない高珪素鋼板の熱間圧延後の結晶粒サイズと集合組織を観察した結果である。
図5】クロムを添加した高珪素鋼板の熱間圧延後の結晶粒サイズと集合組織を観察した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0029】
本発明は、シリコン(Si)重量基準(以下、添加元素の含量は、特に定めない限り、重量を基準とする)で、4%超の高珪素鋼板を対象とする。上述のように、シリコンが4%を上回る場合には、鋼板の磁束密度と鉄損が飛躍的に向上するだけでなく、高周波鉄心材のような用途で用いるのに非常に適する。但し、シリコン含量が高すぎる場合には加工性が顕著に劣化するため、その含量の上限は7%とする。したがって、本発明の高珪素鋼板は、シリコンを4%超〜7%以下含有する鋼板を意味する。
【0030】
本発明の発明者らは、上述の本発明の課題を解決するために多様な面から検討した結果、鋼板の添加元素とその組成を適切な範囲に制御する場合には高珪素鋼板を軟質化し、加工性を大きく向上させることができることが確認できた。
【0031】
鋼板に添加可能な第3の元素としてニッケル(Ni)、マンガン(Mn)などを用いる結果に対する報告が一部ある。
【0032】
例えば、C.A.Clarkなどは、「Effect of nickel on the properties of grain−oriented silicon−iron alloys」、Proceedings of the Institution of Electrical Engineers、Volume 113、Issue 2、February 1966、345−351頁で、ニッケルの添加によって得られる効果を報告し、K.Naritaなどは、「Effect of ordering on magnetic properties of 6.5−percent silicon−iron alloy」、IEEE Transactions、1979で、マンガンの添加によって得られる効果を報告している。しかし、これらの文献に記載された追加元素は、冷間圧延によって鋼板を製造することができるほど鋼板の加工性を改善していないため、依然として冷間圧延によって鋼板を製造することは困難であるという問題点がある。
【0033】
本発明の発明者らは、鋼板の添加元素としてクロム(Cr)を1〜20重量%添加することが効果的であることを見出し、本発明に至った。クロムが1重量%以上添加される場合には、次のような理由で、本発明の課題を解決するのに非常に有用である。これは、クロムが鋼板の内部に規則相が形成されることを抑制することができるだけでなく、他にも鋼板のクラック発生の起点の生成を防止することができるためである。
【0034】
即ち、図2のFe−Si2元状態図を参照すると、本発明で対象とするようにシリコンが4%を超えて添加される場合、鋼板の内部には規則相と呼ばれるB2、DO相が形成されるが、規則相は鋼板に脆性を引き起こすため、加工性に非常に不利である。不規則相(図2に示されたようにA2相)に比べて、次の二つの理由のうち一つ以上の理由で鋼板の脆性を増加させるものと予想される。
【0035】
規則相内で移動する規則格子転位は交差すべりすることが困難であり、その結果、結晶粒界に応力集中、粒界破壊が起こりやすかったり、2規則合金の粒界構造が特異であり、粒内に比べて粒界に沿って伝播するクラックのエネルギーが低いため、粒界破壊が起こりやすい可能性がある。したがって、高珪素鋼板の脆性を緩和させるためには規則相が生成されないように抑制するのがよく、このためにはクロムを1重量%以上添加するのがよい。1重量%以上のクロムを添加する場合には、常温で不規則相であるA2相の比率が増加し、鋼板の脆性を減少させることができる。規則相は転位だけでなく磁区の移動も妨害するため、クロムを添加すると、磁気的特性の向上にも有利である。
【0036】
しかし、クロムを添加したときには均一伸び率が大きく増加することが分かる。即ち、図3は、シリコン5%、アルミニウム1%を含有する鋼板のクロム含量の変化による均一伸び率の変化を示しており、図示のように、クロム含量が0%の場合には均一伸び率(U−El)が、400℃では10〜15%、200℃では10%内外に過ぎないが、いずれの場合でもクロム含量が増加しながら均一伸び率が増加する。
【0037】
また、クロムを添加した高珪素鋼は、熱間圧延後の結晶粒サイズを小さく制御する効果を有することができるため、熱間圧延性と冷間圧延(又は温間圧延)性に優れる。図4は、クロムを含有せず、シリコン5.1%、アルミニウム1%を含有する高珪素鋼板の熱間圧延(1100℃で熱間圧延終了、熱延板の厚さ2.5mm)後の微細組織を示したものであり、図5は、図4の鋼板と同一のシリコン、アルミニウム含量にクロムを8%添加した鋼の熱間圧延後の微細組織を示したものである。両方の場合のスラブの厚さ、熱間圧延温度及び最終鋼板の厚さは同一である。図面から確認できるように、図4のクロムが添加されていない鋼よりも、図5のクロムが添加された鋼の結晶粒がさらに微細に制御されている。したがって、本発明において1%以上のクロムの添加は、高珪素鋼板の加工性を確保するのに非常に重要である。
【0038】
また、熱間圧延するために鋳造されたスラブを再加熱する場合には、再加熱温度でファイアライト(FeSiO)と呼ばれる低融点酸化物が形成されるが、このような酸化物はスラブの表面と側面を侵食し、クラック発生の起点を形成させやすい。しかし、クロムを本発明で制限する範囲で添加する場合には、ファイアライトの形成を抑制し、クラック発生の起点を大幅に減少させることができる。したがって、クロムを添加しない場合に比べてクラック発生や板破断が起こることなく、熱間圧延して、例えば、1〜3mmの厚さの板を製造することができ、ストリップキャスティング装置と熱間圧延装置を直結して製造する場合には、厚さ0.1mmまでの高珪素薄鋼板を高い生産性を維持しながら製造することができる。
【0039】
また、高珪素鋼板は、内部に立方体集合組織(cube texture)と呼ばれる{100}<001>が多く形成されるほど磁気的特性が向上し、クロムを添加する場合には上記立方体集合組織の分率を増加させることができる。
【0040】
但し、クロム含量が多すぎる場合には、熱間圧延時、エッジクラックが多数発生し、圧延性が悪くなる可能性があるため、上記クロムは20%以下添加されることが好ましく、16%以下添加されることがより好ましい。
【0041】
また、圧延性をさらに向上させるために、ボロンを0.01〜0.05%、好ましくは、0.01〜0.03%添加する場合には、低い温度で冷間圧延時、素材の加工性をさらに確保し、商業的な生産が可能なレベルの歩留まりを確保することができる。即ち、圧延性を確保するためにはBを添加し且つ適切なレベルで添加するのがよく、本発明のようにSi含量とCr含量を制御する場合には、上記Bの適正含量は0.01〜0.05%、好ましくは、0.01〜0.03%である。これは、下記のようにSi+Al含量を適正範囲に制御する場合にも同様である。
【0042】
したがって、本発明の一側面による軟質高珪素鋼板は、重量比で、Si:4%超〜7%以下、Cr:1〜20%及びB:0.01〜0.05%を含む組成を有することができる。
【0043】
本発明のさらに他の有利な側面によれば、上記軟質高珪素鋼板は、0.1〜3%のアルミニウム(Total Al)をさらに含むことができる。上記アルミニウム(Total.Al)が0.1%以上添加される場合には、圧延性の改善に効果的である。但し、過多に添加される場合には逆に圧延性が劣化するため、3%以下添加するのがよい。
【0044】
また、アルミニウムは、シリコンと共に添加される場合には、シリコンの添加による磁束密度の向上と鉄損の減少などの磁気的特性の改善効果を分担することができ、シリコン添加量を減少させることができる。このような理由で、本発明の一側面によれば、上記シリコンとアルミニウムの添加量の和(Si+Total Al)は4%以上であり、他の側面によれば、4.1%超であり、さらに他の側面によれば、5%以上であることがより好ましい。但し、上記Si+Total Alが7%を超える場合には圧延性が減少する可能性があるため、上記Si+Total Alの上限は7%とする。
【0045】
このような効果は、上述のように、クロムを1〜20%、好ましくは、1〜16%添加する場合にさらに発揮されることができる。したがって、本発明のさらに他の側面による軟質高珪素鋼板は、シリコンとアルミニウム含量の和(Si+Total Al)を5〜7%に制御し、Cr:1〜20%、B:0.01〜0.05%を添加する組成を有することを特徴とする。
【0046】
また、鋼板の磁性を向上させるために、Mo:0.1%以下、Ni:0.01%以下、P:0.05%以下及びCu:0.01%以下のうちから選択された1種又は2種以上をさらに含むことができる。これらの元素を追加する場合には、鋼板の磁気的特性や脆性などが改善されることができる。特に、高珪素電磁鋼板の場合、水素脆性が発生することがあり得るが、0.1%以下のMoを添加すると、水素脆性の発生を効果的に抑制することができるという長所がある。
【0047】
本発明の高珪素鋼の残りの成分は、Feとその他の製造過程で不可避に混入される不純物である。また、本発明は、本発明の本旨から外れない限り、鉄心材の用途で用いられる鋼板に含まれる添加元素をさらに含むことを特に除外しない。
【0048】
本発明の鋼板に含まれることができる不純物の非制限的な例としては、C:0.05%以下とN:0.05%以下が挙げられる。これらの元素の含量が高まると、鋼材の脆性が悪くなり、圧延性が劣化する可能性があるため、それぞれ0.05%までの添加のみを許容することが好ましい。
【0049】
本発明の高珪素鋼板は、立方体集合組織の比率が面積を基準に13〜25%程度であり得る。これは、高いシリコン及びクロムの添加などによって達成されることができるものであり、従来の鋼板の立方体集合組織の比率が12%又はそれ以下である点に照らしてみると、本発明の高珪素鋼板は非常に優れた磁気的特性を示すことが分かる。
【0050】
上述の本発明の有利な軟質高珪素鋼板は、熱間圧延及び冷間圧延又は熱間圧延及び低温温間圧延を含む工程により製造されることができる。このような工程により製造される場合であればその詳細な条件は特に制限されず、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の高珪素鋼板の有利な条件を参考して本発明の高珪素鋼板を得ることに特に困難がない。
【0051】
但し、本発明の発明者によって導出された一つの有利な製造条件を説明すると、次の通りである。
【0052】
スラブ熱間圧延温度:800℃以上
熱間圧延は、鋼板の厚さを1次調整する役割を行うだけでなく、鋼板の組織を微細に改善する効果があり、後続の冷間圧延や温間圧延を容易にすることができる。このとき、スラブ熱間圧延温度は800℃以上に設定することが好ましい。それより低い温度では規則相が生成されやすいため、800℃未満の温度で圧延を行う場合には鋼板の脆性が強くなり、破壊が起こる恐れがある。熱間圧延温度の上限は、高珪素鋼板の通常の熱間圧延温度範囲であれば特に制限されないが、一つの非制限的な例を挙げると、均一なスラブ加熱と表面品質の制御のために熱間圧延温度を1200℃以下とすることができる。
【0053】
上述の熱間圧延は、鋳造後スラブが冷却される前に再加熱せずすぐに行うこともでき、冷却されたスラブを再加熱して行うこともできるが、再加熱によるファイアライトの生成を防止するためには、鋳造後冷却されていない熱間のスラブに対してすぐに行うのがよりよい。また、スラブを再加熱する場合には、必ずしもこれに制限されるものではないが、凝固後の鋳片の表面温度が700℃未満に減少しなかった時点で再加熱することが好ましい。また、一つの好ましい具現例では、鋳造によってスラブを製造せず、ストリップキャスティングによって薄鋼板を鋳造した後、鋳造段階の後に直結される熱間圧延工程により熱間圧延する方法を採用することもできる。ストリップキャスティングは、相互反対方向に回転する一対のロールの間(双ロール法)又は回転する一つのロールの表面(単ロール法)に溶鋼を注入し、溶鋼が薄鋼板に鋳造されるようにする技術(他にも単一ベルト法などがある)であり、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者であればその実施に特に困難がない。但し、このような場合にも、上記熱間圧延温度は800℃以上に制限することが好ましい。
【0054】
また、上記熱間圧延によって得られる鋼板(熱延板)の厚さは3mm以下であることが好ましい。熱延板の厚さが厚すぎる場合には、後続の冷間圧延又は温間圧延時、鋼板の圧下量が大きくなり、板破断などの問題が発生する可能性がある。熱延板の厚さが薄くても本発明を具現することには特に問題がないため、熱延板の厚さの下限を特に定めない。但し、熱延板の厚さを非常に薄くする場合には、圧延負荷が大きくなり、熱延板の破断やクラックなどの問題が発生する可能性があるため、必ずしもこれに限定されるものではないが、上記熱延板の厚さの下限を2mmとしてもよい。特に、ストリップキャスティングによって鋼板を製造する場合には、鋼板の厚さの下限は1.0mmまで減少し得る。但し、熱間圧延技術が改善される場合には上記熱延板の厚さの下限はさらに減少し得るため、必ずしも上述の範囲に熱延板の厚さを制限するものではない。
【0055】
上述の過程により製造された熱延鋼板は、結晶粒サイズが150〜250μmであり、通常の熱延鋼板に比べて優れた加工性を有するため、後続の冷間圧延時、良好な加工性を有して圧延されることができる。従来の高珪素熱延鋼板が500μm以上の結晶粒サイズを有することを考慮すると、本発明の熱延鋼板は非常に微細なサイズの結晶粒を有することが分かる。
【0056】
冷間圧延:150〜300℃
本発明の鋼板の組成は従来技術に比べて鋼板の加工性を向上させることができるため、熱間圧延後の圧延温度を300℃以下、好ましくは、250℃以下として鋼板を製造することができる。但し、圧延温度が低すぎる場合には鋼板の破断が起こる可能性があるため、その温度の下限は150℃とする。
【0057】
上記冷間圧延によって製造される鋼板は、求められる最終製品の特性によって0.1〜0.5mmの厚さを有することができる。
【0058】
したがって、本発明の軟質高珪素鋼板の製造方法は、上述の組成のスラブを準備する段階と、上記スラブを800℃以上の温度で熱間圧延して熱延板を得る段階と、上記熱延板を冷間圧延して最終厚さの鋼板を得る段階と、を含む。
【0059】
このとき、上記冷間圧延は、熱間圧延後すぐに行われることもできるが、磁気的特性に有利な集合組織を発達させ、結晶粒サイズを制御し、規則相の比率を減少させて加工性をさらに向上させるためには、熱処理後に行われるのがよりよい。したがって、本発明の一つの有利な側面によれば、上記熱間圧延と冷間圧延の間には熱処理過程がさらに含まれることができる。
【0060】
熱処理温度:800〜1200℃
熱間圧延された鋼板は、内部に規則相が多量に形成されており、そのまま冷間圧延又は低温温間圧延する場合には板割れなどが発生し、圧延性が非常に悪くなる可能性がある。したがって、本発明の一つの好ましい具現例では、冷間圧延又は温間圧延前に800℃以上の温度で熱処理する過程が含まれることができる。800℃以上の熱処理温度は、相変態によって鋼板の内部に存在する規則相を除去するためのものである。但し、熱処理温度が高すぎる場合にはエネルギーコストが増加し、鋼板の表面にスケールが増加するなどの問題があり得るため、その温度の上限を1200℃とする。より好ましい熱処理温度は900〜1200℃である。
【0061】
熱処理時の雰囲気
上記熱処理時、鋼板の表面にスケールが発生すると、圧延性が劣化する可能性があるため、できるだけスケールが発生しない非酸化性雰囲気で熱処理を行うことが好ましい。したがって、上記熱処理時の雰囲気ガスとしては、窒素、アルゴン又は窒素とアルゴンの混合ガスからなる不活性ガス又は上記ガスに35体積分率(%)未満の水素ガスを含む還元性ガスを用いることができる。
【0062】
熱処理後冷却:800℃から100℃までの区間を含む温度区間を30℃/秒以上の冷却速度で冷却
上述の温度に加熱された高温の鋼板の内部には規則相が除去されているが、熱処理後徐冷する場合には再び規則相が形成される可能性があるため、規則相の形成を抑制するために30℃/秒以上の冷却速度で冷却する必要がある。冷却速度が高ければ高いほどよいため、冷却速度の上限は特に定めず、例えば、鋼板をクエンチング(quenching)して冷却することもできる。但し、冷却が800℃未満の温度で開始されたり100℃超の温度で中止される場合には規則相が多量に形成される恐れがあるため、上記冷却区間は800℃から100℃までの区間を含むことが好ましい。但し、本冷却条件は、鋼板の加工性(圧延性)をより改善するためのものであり、本発明の組成範囲に該当する鋼板のすべての組成範囲において必ずしも必須のものではない。本発明の組成を有する鋼板の大部分は、Crの添加によって加工性を相当に改善した結果、空冷などの比較的低い冷却速度で冷却されても後続の冷間圧延工程で圧延が可能である。
【0063】
上述のように、上記熱処理及び冷却過程は、冷間圧延又は温間圧延前に規則相の生成を抑制するために含まれる過程である。上述の熱処理過程を行わない場合には、熱間圧延を終了し、800℃以上の温度から100℃以下の温度まで30℃/秒以上の冷却速度で急冷する過程を代わりに行うこともできる。冷却速度の上限は、熱処理後冷却と同様に特に制限しない。但し、鋼板の組織を効果的に制御するためには熱処理するのがよりよい。
【0064】
鋼板を冷間圧延又は温間圧延した後には通常の方法で最終焼鈍することができる。最終焼鈍は900〜1200℃の温度範囲で行うことが好ましい。即ち、立方体集合組織の比率を増加させるためには、上記最終焼鈍を900℃以上の温度で行うのがよい。但し、温度が1200℃を超えると、その効果が飽和し、エネルギーコストも増加するため、上記最終焼鈍温度の上限は1200℃とする。
【0065】
なお、本明細書に特に記載されていない製造条件は通常の製造条件に準じて適用されることができ、通常利用される過程が新たに追加されることもできる。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。但し、後述の実施例は、本発明を例示して具体化するためのものであり、本発明の権利範囲を制限するためのものではない。本発明の権利範囲は、特許請求の範囲に記載された事項とここから合理的に類推される事項によって決定される。
【0067】
(実施例)
「実施例1」
下記表1に示す組成で電磁鋼板鋳片を鋳造した。表に示されていない不純物のうち主要成分はC、Nであり、それぞれ0.005%、0.0033%に制御された。その後、上記鋳片を1100℃で1時間加熱した後、1050℃の温度で熱間圧延を開始し、850℃で終了した。熱間圧延によって厚さ30mmの鋳片が2.5mmの熱延板に圧延された。熱間圧延された珪素鋼板を1000℃で5分間、水素20体積%、窒素80体積%の雰囲気で熱処理した後、常温まで空冷し、熱処理された熱延板を得た。その後、上記熱延板を酸洗し、表面酸化層を除去した。上記熱延板に対して400℃と150℃の温度でそれぞれ0.2mmの最終厚さで冷間(温間)圧延を行った。
【0068】
それぞれの場合に対して圧延時の圧延性を評価し、表1に共に示した。表において、i)最終厚さに到達しておらず、板が破断した場合を「破断」、ii)最終厚さに到達したが、長さ1cm以上のクラックが圧延板に発生した場合を「不良」、iii)1cm未満の微細クラックが発生した場合を「普通」、iv)最終圧延板にクラックが発生しない場合を「優秀」に区分して表記した。
【0069】
【表1】
【0070】
上記表1から確認できるように、比較例2のようにSi含量が多すぎる場合には、CrとBを一定のレベル以上添加したにもかかわらず、400℃と150℃の圧延ですべて板破断が起こった。また、比較例3は、Cr含量が本発明で規定する範囲に達していないものであり、規則相の生成を十分に防止していないため、圧延性が良好でない。比較例4は、Cr含量が多すぎるものであり、圧延性が不良である。比較例5は、Alを、本発明で規定する範囲を超えて添加したものであり、これも板破断の原因として作用した。比較例6は、B含量が足りないものであり、400℃における圧延性は普通であるが、150℃では不良である。したがって、Bも圧延性を確保するのに必要な元素であることが確認できた。但し、Bが多すぎる場合(比較例7)には、逆に圧延性が悪化し、400℃でも不良であると判定された。
【0071】
しかし、本発明の条件を満たす発明例は、400℃ではすべて優れた圧延性を示しており、本発明の一つの具現例による冷間圧延温度である150℃の低温でも普通以上の圧延性を示している(クラックサイズは約0.2cm以下である)。特に、発明例1及び2は、Alを実質的に添加していないものである。
【0072】
「実施例2」
実施例1と同一の方式で0.2mmの厚さまで圧延に成功した場合の鋼板に対して、最終磁性を具現するために、1000℃で10分間、水素20体積%、窒素80体積%、露点−10℃の乾燥雰囲気で焼鈍した後、磁性を測定し、その結果を下記表2に示した。また、走査電子顕微鏡(SEM)のEBSD装備を利用して熱間圧延板の<100>{001}集合組織(いわゆる立方体組織)の分率を表2で比較分析した。熱間圧延板(熱延板)の立方体組織の比率は、最終板の磁気的性質に大きな影響を及ぼす。上記<100>{001}集合組織の分率が高くなるにつれて磁気的特性が向上することができる。
【0073】
【表2】
【0074】
上述のように、Si含量が低い比較例8は、発明例に比べて鉄損が非常に高いことが分かる。鉄損が高いほどエネルギー損失が大きいため、電磁鋼板に適さない。これに比べて、本発明の組成条件を満たす発明例はすべて優れた鉄損値を示している。特に、本発明の条件による発明例は、1000Hzの高周波でも低い鉄損値を示しているため、高周波鉄心材として用いるのに適することが確認できた。
【0075】
「実施例3」
重量%で、Si:5%、Al:1%、Cr:12%、C:0.002%、N:0.003%を含有した珪素鋼合金を、垂直型双ロールストリップキャスタ(strip caster)を利用して厚さ2.0mmに鋳造した。ストリップキャストに連結された熱間圧延機を利用して、厚さ2.0mmに鋳造された板を1.0mmに熱間圧延した。熱間圧延時の熱間圧延開始温度は1000℃であり、終了温度は850℃であった。熱間圧延された高珪素鋼板を1000℃で5分間、水素20体積%、窒素80体積%の雰囲気で加熱した後、冷却した。冷却時、800〜100℃の区間の冷却速度を100℃/秒と10℃/秒の二つにし、冷却された鋼板を塩酸液で酸洗して表面の酸化層を除去した後、150℃の温度で温間圧延した。冷却速度に関係なく、両方の場合とも0.1mmの厚さまで圧延が可能であったが、冷却速度が100℃/秒の場合は圧延性がより良好である。これは、Crの添加によって規則相を抑制することにより、圧延性を根本的に改善し、冷却過程で規則相の発生を最大限に抑制したためである。
図1
図2
図3
図4
図5