特許第6404394号(P6404394)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6404394
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】直線運動用の可変トルク式回転ダンパー
(51)【国際特許分類】
   F16F 7/06 20060101AFI20181001BHJP
   E05F 5/00 20170101ALI20181001BHJP
   E05F 5/02 20060101ALI20181001BHJP
【FI】
   F16F7/06
   E05F5/00 A
   E05F5/02 A
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-67589(P2017-67589)
(22)【出願日】2017年3月30日
【審査請求日】2017年10月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000103976
【氏名又は名称】オリジン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075177
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 尚純
(74)【代理人】
【識別番号】100102417
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【弁理士】
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100194629
【弁理士】
【氏名又は名称】小嶋 俊之
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋裕
(72)【発明者】
【氏名】飯山 俊男
【審査官】 内山 隆史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−225054(JP,A)
【文献】 特開2006−188949(JP,A)
【文献】 特開2002−339648(JP,A)
【文献】 特開2008−298131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 7/00 − 7/14
E05F 5/00、5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直線状のレールに案内されて直線運動を行う移動体に制動力を付与するため、抵抗トルクを発生させる回転ダンパーであって、
前記回転ダンパーは、内輪体と、前記内輪体に摩擦結合され、前記内輪体と相対的に回転可能となった複数の外輪体とを備え、各々の前記外輪体は、その回転軸の軸方向に並列して前記内輪体に装着され、さらに、
前記回転ダンパーが、前記レール及び前記移動体の一方に装着されるとともに、前記レール及び前記移動体の他方には、長さの異なる複数の直線状の回転駆動部材が、各々の前記外輪体と対応する位置に並列して設置されており、
前記回転ダンパーは、前記移動体の運動により、各々の前記外輪体が対応する前記回転駆動部材と一致したとき、その外輪体が前記内輪体に対して相対的に回転し、摩擦力による抵抗トルクを発生させることを特徴とする回転ダンパー。
【請求項2】
前記回転ダンパーが、互いに当接する円錐面の形成されたインナーリングとアウターリングとを備え、前記インナーリングと前記アウターリングは、一方が前記内輪体に、他方が前記外輪体に結合されており、
前記外輪体が前記内輪体に対して相対的に回転するときは、前記インナーリングと前記アウターリングとが当接する円錐面で摩擦力が生じる請求項1に記載の回転ダンパー。
【請求項3】
前記回転駆動部材が直線状の歯を有するラックであり、前記外輪体の外周には前記ラックの歯と噛み合う外歯が形成されている請求項1又は請求項2に記載の回転ダンパー。
【請求項4】
前記回転駆動部材が直線状の連続的な突起であり、前記突起の先端が前記外輪体の外周に当接するよう設けられている請求項1又は請求項2に記載の回転ダンパー。
【請求項5】
前記内輪体が一方向クラッチを介して回転不能な軸体に嵌め合わされており、前記回転ダンパーが特定の方向に回転するときは、前記内輪体が前記外輪体と一体で回転する請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の回転ダンパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の出入り口や窓に設置される引き戸など、直線的な運動を行う移動体が停止する際の衝撃緩和あるいは移動体の速度調整のために用いられる可変トルク式の回転ダンパーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
建物の出入り口等に設置される引き戸は、出入り口の上部又は下部に設けられたレールや溝に沿って直線的に移動する。このような引き戸の開閉機構では、全開位置など、引き戸等が停止する終端位置において生じる衝撃を吸収するよう、ダンパーを設置して終端位置の近傍で引き戸に制動力を付与することが常套的に行われている。ダンパーには直動式のものや回転式のものがあり、回転式のダンパーは、比較的コンパクトであって設置スペースが狭い場所でも使用可能という利点を備えている。
【0003】
回転式のダンパーを用いる引き戸の開閉機構の一例として、特許文献1に開示された開閉装置を図5(a)(b)に示す。
図5(a)の引き戸DRは、出入り口の上部に取り付けられた直線状のガイドレールGR内を走行するランナーRNに吊り下げられており、開閉時には直線的に移動する。引き戸DRの上端部には制動装置BKが埋め込んで装着され、制動装置BKには、駆動歯車DGにより回転する回転ダンパーRDが取り付けられる。ガイドレールGRの端部の近傍においては、直線状の歯であるラックRKがガイドレールGRの下部に形成してあり、制動装置BKには、ラックRKと噛み合って駆動歯車DGに回転を伝達する伝動歯車TGが設置されている。
引き戸DRが全開位置の近傍に達したときは、図示のように、駆動歯車DGがラックRKと噛み合い、引き戸DRの移動に伴って駆動歯車DGが回転する。これにより、回転ダンパーRDが回転して引き戸DRには制動力が作用し、引き戸DRの停止する終端位置で生じる衝撃が緩和されることとなる。
【0004】
なお、特許文献1には、図5(b)に示すとおり、ラックRKを設ける代わりに、ガイドレールGRの下部に長手方向に延びる突起PJを形成し、突起PJの先端に当接しながら回転する摩擦車FWを、伝動歯車TGの背後に取付ける装置も開示されている。この場合には、摩擦車FWが突起PJと当接する位置においては、摩擦伝動により伝動歯車TGが回転し、さらに回転ダンパーRDが回転して引き戸DRに制動力が作用する。
【0005】
回転式のダンパーとしては、特許文献2に開示されるような、粘性流体を封入した密閉室内で羽根車を回転させる、粘性抵抗式のダンパーを使用することが多い。特許文献2のダンパーでは、図6に示すとおり、2重となった本体ケーシングCSに囲まれる断面円形の密閉室CR内に粘性流体が封入され、密閉室CR内には、回転する一対の羽根VNが設置される。2個の羽根VNは、回転軸のボス部BMに径方向にスライド可能に取り付けられるとともに、その根元部には、ボス部BMの中心に置かれたピニオンPNと噛み合うラックRKがそれぞれ形成されている。
ボス部BMが回転すると、羽根VNが粘性流体内を移動することにより、ボス部BMには粘性抵抗が作用する。この回転式のダンパーでは、ピニオンPNを回動して羽根VNをスライドし、羽根VNの先端と本体ケーシングCSの内周壁との間隙を調整することが可能であり、これによって粘性抵抗の大きさを増減し、ボス部BM及び回転軸に作用する抵抗トルクを調整することができる。
【0006】
回転式のダンパーは、建物の出入り口の引き戸に限らず、ストッパを備えたロボット等の位置決め機構において、直線的に移動する移動体を終端位置で停止させる際の衝撃緩和などのためにも用いられる。また、建物の開口部に設置される巻き上げ式のシャッターなど、垂直方向に置かれたガイドレールに沿って移動体が運動する場合の衝撃緩和装置にも適用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−124524号公報
【特許文献2】特開平7−12166号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
回転ダンパーとして一般的に用いられる粘性抵抗式のダンパーは、粘性流体中で運動を行う羽根車等に作用する粘性抵抗を利用するものであるため、粘性流体の温度が変化すると抵抗トルクも変動する。図6の回転ダンパーでは、ピニオンPNを回動して羽根VNの先端と本体ケーシングCSの内周壁との間隙を変え、抵抗トルクを調整することが可能であるものの、温度等に応じて抵抗トルクを適正な値に調整する作業は、熟練を要する困難な作業であり、さらに、ピニオンPNを回動するための軸の周りにシール部材が必要となるなど、回転ダンパーの構造が複雑化する。
【0009】
また、例えば、上下方向に移動する巻き上げ式のシャッターにおいては、巻き上げ量が増大してシャッターの下端部分が上方に移動するにつれ、シャッターにかかる重量が軽減されて巻き上げ速度が増大し、巻き上げの終了時にシャッターの下端部分に大きな衝撃が生じる。このような場合には、巻き上げの位置に対応してシャッターに作用する抵抗トルク(制動力)を可変とし、巻き上げ終了の以前の時点から抵抗トルクを段階的に増大させるのが望ましい。
本発明の課題は、直線的な運動を行う移動体に用いられる回転ダンパーにおいて、発生する抵抗トルクが、移動体の位置に応じて可変であるとともに温度等の影響を受けることのないようにして、上記の問題を解決することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題に鑑み、本発明は、いわゆる摩擦式トルクリミッタとして知られる、内輪体と外輪体との間を摩擦力により結合した装置を複数個設置し、内輪体に対して相対的に回転する外輪体の数を変更して、抵抗トルクを可変とした回転ダンパーを構成するものである。すなわち、本発明は、
「直線状のレールに案内されて直線運動を行う移動体に制動力を付与するため、抵抗トルクを発生させる回転ダンパーであって、
前記回転ダンパーは、内輪体と、前記内輪体に摩擦結合され、前記内輪体と相対的に回転可能となった複数の外輪体とを備え、各々の前記外輪体は、その回転軸の軸方向に並列して前記内輪体に装着され、さらに、
前記回転ダンパーが、前記レール及び前記移動体の一方に装着されるとともに、前記レール及び前記移動体の他方には、長さの異なる複数の直線状の回転駆動部材が、各々の前記外輪体と対応する位置に並列して設置されており、
前記回転ダンパーは、前記移動体の運動により、各々の前記外輪体が対応する前記回転駆動部材と一致したとき、その外輪体が前記内輪体に対して相対的に回転し、摩擦力による抵抗トルクを発生させる」
ことを特徴とする回転ダンパーとなっている。
【0011】
本発明の回転ダンパーにおいて、摩擦力を発生するためには、「互いに当接する円錐面の形成されたインナーリングとアウターリングとを設けて、前記インナーリングと前記アウターリングは、一方を前記内輪体に、他方を前記外輪体に結合」して、前記外輪体が前記内輪体に対して相対的に回転するときは、前記インナーリングと前記アウターリングとが当接する円錐面で摩擦力が生じるようにすることが好ましい。
【0012】
前記外輪体を回転させる前記回転駆動部材として、直線状の歯を有するラックを設けるとともに、前記外輪体の外周には前記ラックの歯と噛み合う外歯を形成することができる。あるいは、直線状の連続的な突起を設け、前記外輪体の外周と前記突起の先端とが当接して、摩擦力によって前記外輪体が回転するように構成することができる。
【0013】
また、本発明の回転ダンパーにおいては、前記内輪体を、一方向クラッチを介して回転不能な軸体に嵌め合わせて取り付けることにより、前記回転ダンパーが特定の方向に回転するときには、前記内輪体が前記外輪体と一体で回転して抵抗トルクが発生しないようにすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の回転ダンパーは、直線状のレールに案内されて直線運動を行う、例えば、引き戸等の移動体に制動力を付与するために使用されるものであって、内輪体と、この内輪体に摩擦結合されて相対的に回転可能となった複数の外輪体とを備えている。各々の外輪体は、その回転軸の軸方向に並列して内輪体に装着されており、外輪体が回転するときには、内輪体との間の摩擦結合に伴う抵抗トルクが作用する。そして、この回転ダンパーを、レール及び移動体の一方に装着するとともに、他方には、長さの異なる複数の直線状の回転駆動部材を、各々の外輪体と対応する軸方向位置に並列に設置する。
【0015】
直線状の回転駆動部材は、例えば、図5(a)と同様な、多数の歯を形成したラックとして設置されており、外輪体の外周部分に形成された外歯と噛み合い、移動体の運動に伴って外輪体を回転させる作用を行う。回転ダンパーを移動体に装着したときは、レールに設置された回転駆動部材の位置に移動体が達すると、外輪体が回転して抵抗トルクを発生させ、移動体は制動力を受けるようになる。
本発明では、回転ダンパーに並列して設けた複数の外輪体に対応して、複数の直線状の回転駆動部材が設置され、各々の回転駆動部材は、その長さが異なるように設定されている。そのため、移動体の位置によって回転する外輪体の数が変わり、回転ダンパーの発生する抵抗トルクは、移動体の位置に応じて段階的に変化する。本発明の回転ダンパーを引き戸の衝撃緩和装置に適用したときは、段階的に増加する抵抗トルクを終端位置に至る手前から引き戸に付与して、停止する際の衝撃特性を適正化することが可能であり、巻き上げ式シャッターに適用したときは、巻き上げ速度の変化を打ち消すようにシャッターに付与する制動力を調整することが可能である。
【0016】
また、本発明の回転ダンパーの発生する抵抗トルクは、外輪体と内輪体との間の摩擦力によるものである。図6の回転ダンパーのように粘性流体を利用するものではないため、本発明の回転ダンパーは、抵抗トルクが温度変化の影響を受けることはなく、粘性流体の漏洩を防止するシール部材も不要であって、長期間、安定した性能を発揮できる。
ここで、複数の外輪体の各々は、同一の構成としてもよく、異なる構成とすることもできる。同一の構成とした場合は、部品の共通化によって製造コストが低減し、異なる構成として内輪体との間の摩擦力を変化させた場合は、回転ダンパーの抵抗トルクの特性を多様に変更することができる。
【0017】
本発明の回転ダンパーにおいて、摩擦結合を行わせるためには、互いに当接する円錐面の形成された環状体であるインナーリングとアウターリングとを用意し、その一方を内輪体に他方を外輪体に結合して、外輪体が内輪体に対して回転するときは、両方のリングが当接する円錐面で摩擦力が生じるようにして回転ダンパーを構成することができる。インナーリングとアウターリングは、いわゆる「輪ばね」として知られるばね装置に類似の構造をなしていて、軸方向の荷重によりインナーリングの円錐面が押し込まれて弾性変形し、アウターリングが拡径すると同時にインナーリングは縮径する。この弾性変形に伴い両方のリングの円錐面の間には大きな面圧が作用し、これに基づいて生じる摩擦力は、両方のリングの軸方向変位が僅かであっても非常に大きな値となる。
このように構成した回転ダンパーは、小型のものであったとしても、外輪体が回転する際に内輪体との間で大きな抵抗トルクが生じる。そのため、例えば、コイルばね式の摩擦トルクリミッタのように、コイルばねを用いて内輪体と外輪体との間に抵抗トルクを発生させるものと比べると、回転ダンパーをコンパクトに構成することが可能となり、特に、外輪体が複数個並列する回転軸方向の寸法を小さく抑えることができる。
【0018】
本発明の回転ダンパーにおける回転駆動部材の実施形態として、外輪体を回転させる回転駆動部材として直線状の歯を有するラックを設置するとともに、外輪体の外周にはラックの歯と噛み合う外歯を形成することができる。こうすると、移動体の運動により回転ダンパーの外輪体が回転駆動部材と当接したときには、歯車の噛み合いが生じて回転ダンパーの外輪体が確実に回転駆動される。なお、ラック等の回転駆動部材は、移動体を案内する直線状のレールに設置されるが、引き戸のように運動方向に一定の長さを有する場合には、移動体に設置して固定された回転ダンパーを回転駆動することもできる。
回転駆動部材の他の実施形態として、図5(b)に示すような直線状の連続的な突起を設け、回転ダンパーの外輪体が突起と当接したときには、両者の間の摩擦によって外輪体を回転駆動することもできる。この実施形態によれば、回転駆動部材として歯を形成するものと比べ、構造が簡素となる。突起と外輪体との当接面にウレタンゴム等の高摩擦材のライニングを施し、確実な摩擦伝動を行わせるようにしてもよい。
【0019】
また、本発明の回転ダンパーにおいては、回転ダンパーの内輪体を、一方向クラッチを介して回転不能な軸体に嵌め合わせて取り付けることにより、回転ダンパーが特定の方向に回転するときには、内輪体の自由な回転を許容して外輪体と一体で回転させることが可能である。これにより、例えば、終端位置の近傍に回転駆動部材を設置し、引き戸が停止するときに制動力を働かせる開閉装置において、引き戸を引き出すときには、回転ダンパーの抵抗トルクが生じないようにして操作力の軽減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の回転ダンパーの実施例の全体的な構造を示す図である。
図2図1の回転ダンパーと組み合わせて使用される回転駆動部材(ラック)の構造を示す図である。
図3図1の回転ダンパーの内輪体の構成部品を示す図である。
図4-1】図1の回転ダンパーの外輪体の構成部品を示す図である(その1)。
図4-2】図1の回転ダンパーの外輪体の構成部品を示す図である(その2)。
図5】引き戸に装着された従来の回転ダンパーの使用態様を示す図である。
図6】粘性流体を利用する従来の回転ダンパーの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面に基づいて、本発明の回転ダンパーについて説明する。図1には、本発明の回転ダンパーの実施例の全体的な構造を示し、図2には、図1の回転ダンパーと組み合わせて用いられる回転駆動部材の構造を示す。図3は、図1の回転ダンパーの内輪体を構成する部品を示すものであり、図3(a)には内輪本体を、図3(b)にはアウターリングを単品図で示す。また、図4は、図1の回転ダンパーの外輪体を構成する部品を示すものであり、図4(a)には外輪ハウジングを、図4(b)にはインナーリングを、図4(c)にはシールドを、それぞれ単品図で示す。
【0022】
図1に示すように、この実施例の回転ダンパーRDは、回転不能な軸体NSに嵌め合わされる内輪本体1(図3(a)も参照)を備えている。内輪本体1は、その中心に軸体NSが貫通する中央孔11が形成されているとともに、軸方向の両側に円形空間部が形成されており、この円形空間部には、ローラー型の一方向クラッチOW及び軸受JBがそれぞれ圧入され、内輪本体1と一体的に固着される。また、内輪本体1の外周には、軸方向の全長に亘ってインボリュート歯形のスプライン外歯1Sが形成されている。
【0023】
内輪本体1には、3個のアウターリング2(図3(b)も参照)が軸方向に間隔をあけて取り付けられ、内輪本体1とアウターリング2とは、スプライン嵌合により相対回転不能に結合される。アウターリング2は、薄板金属をプレス加工等により成形した部品であって、内輪本体1のスプライン外歯1Sに嵌り合うスプライン内歯2Sを形成した平面部と、内面が円錐面2Cとなった周壁部とからなる。内輪本体1及び3個のアウターリング2は、本発明の内輪体を構成するものであり、アウターリング2は、後述の外輪体におけるインナーリング4に圧接されていて、内輪体と外輪体とが相対的に回転すると、両方のリングの円錐面の間で摩擦力が発生する。
なお、内輪本体1とアウターリング2とは、スプライン嵌合に代えて、キー結合などにより相対回転不能に結合してもよい。
【0024】
外輪体は、図1の実施例では、内輪本体1の軸方向に3個並列に配置されており、各々の外輪体は、外周に外歯が形成された外輪ハウジング3(図4(a)も参照、また、並列した3個をそれぞれ3A、3B、3Cで表す)を有するとともに、インナーリング4及びシールド5を有している。外輪ハウジング3の中央には、内輪本体1の貫通する中央孔3Hが形成され、そして、中央孔3Hと隣接する断面円形の空間部には、内輪体の一部であるアウターリング2が収容される。
【0025】
インナーリング4(図4(b)も参照)は、その外面に、アウターリング2の内面2Cに対向する円錐面4Cが形成されており、先端がアウターリング2の内側に入り込むよう配置される。インナーリング4及びシールド5(図4(c)も参照)は、締結ねじ6を用いて外輪ハウジング3に共締めされて固着されるが、このとき、インナーリング4の外面の円錐面4Cがアウターリング2の内面の円錐面2Cに対して強く圧接される。これにより、アウターリング2が弾性的に拡径されるとともにインナーリング4が縮径され、両リングが相対回転すると、当接する円錐面の間には大きな摩擦力が生じる。
3個の外輪体を内輪体に組み付けるときは、実際には、内輪体の一部であるアウターリング2を予め外輪ハウジング3の空間部に配置した状態で、インナーリング4とシールド5とを締結ねじ6により固定したユニットを製作し、このユニットを順次内輪本体1にスプライン嵌合するのが好ましい。
【0026】
この実施例の回転ダンパーRDでは、抵抗トルクを発生させるため外輪体を回転させる回転駆動部材は、外輪ハウジング3の外周に形成された外歯と噛み合う、多数の歯を形成した直線状のラック7となっている。ラック7は、図2に示すように、長さの異なる3本のラック7A、7B、7Cが外輪体のそれぞれに対応する軸方向(幅方向)の位置に設置してあり、外輪ハウジング3A、3B、3Cの外歯が噛み合う位置においては、移動体の運動により外輪ハウジング3が回転し、互いに当接するインナーリング4とアウターリング2の円錐面との間に、摩擦力に基づく抵抗トルクが生じる。
【0027】
次いで、この実施例の回転ダンパーの作動について、図1、2等により説明する。
回転ダンパーRDを、図5の従来例のダンパーのように、引き戸等の移動体が停止する際の衝撃緩和装置に適用するときは、回転ダンパーRDを移動体に装着するとともに、回転駆動部材である3本の直線状のラック7を、移動体を案内する固定のレールGRに並列して設置する。ただし、移動方向の長さが十分に長い移動体、例えば、幅方向の寸法の大きい引き戸であれば、直線状のラック7を移動体に設置し、回転ダンパーRDをレールGRに固定してもよい。
【0028】
移動体に装着される回転ダンパーRDは、一方向クラッチOW及び軸受JLを備えた内輪本体1が、移動体に固着された図1の軸体NSに嵌め合わされる。回転ダンパーRDが一方向クラッチOWを介して軸体NSに接続されるため、内輪本体1は、一方方向でのみ回転が拘束され、逆方向では外輪体と一体に回転することとなる。
移動体を案内するレールGRに設置される3本のラック7A〜7Cは、図2に示すように、それぞれ異なる長さに設定され、ここでは、ラック7AがレールGRの全長と等しい長さ、ラック7BがレールGRのほぼ2/3の長さ、ラック7CがレールGRのほぼ1/3の長さとなっている。そして、これらのラックは、移動体が停止する終端位置の近傍においては、回転ダンパーRDがラック7A〜7Cの全てと噛み合うよう設置される。
【0029】
移動体が終端位置に向けて移動しているときは、その始めの時点では、回転ダンパーRDが図2のレールGRの右方に置かれ、その位置にはラック7Aのみが存在するため、これと噛み合う外輪ハウジング3Aを有する1個の外輪体が回転駆動され、内輪体に対して相対回転する(このとき、内輪本体1は軸体NSに接続されて回転不能)。その結果、外輪ハウジング3Aの中に収容された一対のインナーリング4とアウターリング2の円錐面の間で摩擦力が発生し、回転ダンパーRDにはその摩擦力に対応する抵抗トルクが、移動体にはそれに対応する制動力が作用する。
移動体がレールGRの長さの1/3を移動した時点では、ラック7Bも噛み合って外輪ハウジング3Bの外輪体も内輪体に対して相対回転し、2対のインナーリング4とアウターリング2の円錐面の間で摩擦力が生じ、回転ダンパーRDには2倍の抵抗トルクが作用する。図2に示すように、移動体がレールの長さの2/3以上を移動して回転ダンパーRDが終端位置の近傍に至った時点では、外輪ハウジング3A〜3Cの全ての外輪体が相対回転して、回転ダンパーDRには3倍の大きな抵抗トルクが生じ、移動体が停止する際の衝撃を吸収する。
【0030】
これに対し、終端位置にある移動体が動き始めるとき、例えば、停止状態の引き戸を引き出すときは、外輪ハウジング7の回転方向が逆方向となって一方向クラッチOWが切断され、内輪本体1が外輪体ハウジング7と一体で回転する。そのため、回転ダンパーRDに抵抗トルクが生じることはなく、移動体を動かす操作力が軽減される。
この実施例の回転ダンパーでは、移動体が一方向に動くときにのみ抵抗トルクを発生するが、移動体の両方向の動きに対し抵抗トルクを生じる特性を得るには、一方向クラッチOWを使用する代わりに、キー結合等により内輪本体1と軸体NSとを連結すればよい。あるいは、内輪本体1を嵌め込む軸体NSを設けることなく、内輪本体1を、直接移動体又はレールGRに回転不能に固定して取り付けてもよい。
【0031】
このように、本発明の回転ダンパーでは、発生する抵抗トルクが、案内レールに沿って移動する移動体の位置に応じて段階的に変化する。発生する抵抗トルクの特性は、内輪体に対し相対回転する外輪体(外輪ハウジング等)の個数や、回転駆動部材(ラック等)の長さを変更することにより、多様なパターンに設定が可能であり、例えば、移動体が停止する位置の近傍のみで段階的に変化する抵抗トルクを生じさせることもできる。
また、移動体の位置に応じて変化する抵抗トルクの特性を利用して、移動体の速度変動を抑えることもできる。例えば、本発明の回転ダンパーを、上下方向に移動する巻き上げ式のシャッターに設置し、巻き上げるにつれ軽減する重力に対抗するよう抵抗トルクを増加させると、シャッターの巻き上げ速度の変動が抑制される。
【0032】
以上詳述したように、本発明は、内輪体と外輪体との間を摩擦力により結合した装置を複数個設置し、内輪体に対して相対的に回転する外輪体の数を変更して、抵抗トルクを可変とした回転ダンパーを構成するものである。
上記の実施例においては、内輪体と外輪体との間を摩擦力により結合した装置として、互いに圧接される円錐面を形成したインナーリングとアウターリングを用いているが、これに代えて、いわゆるコイルばね式の摩擦トルクリミッタ(一例として、特許第3315603号参照)のように、内輪体の外周に巻き付けたコイルばねの端部を外輪体に係合することにより、摩擦力による結合装置を構成してもよい。また、上記の実施例では、単一の内輪本体に対し複数の外輪体を並列に装着しているが、外輪体のそれぞれに対応する複数の内輪体を設け、これらの内輪体を軸体に嵌め合わせることもできる。その他、内輪体と外輪体との間の摩擦力を、複数の外輪体について異なるように設定するなど、上記の実施例に対して各種の変形が可能であるのは明らかである。
【符号の説明】
【0033】
1:内輪本体
2:アウターリング
3:外輪ハウジング
4:インナーリング
7:ラック(回転駆動部材)
RD:回転ダンパー
GR:レール
【要約】
【課題】移動体の衝撃緩和等に用いる回転ダンパーにおいて、その抵抗トルクの特性が周囲温度の影響を受けることなく、かつ、移動体の位置に応じて可変なものとする。
【解決手段】回転ダンパーは、回転不能の軸体NSに嵌められた内輪本体1を備え、内輪本体1には、円錐面を有する複数のアウターリング2がスプライン嵌合される。各々のアウターリング2には、外輪ハウジング3A〜3Cに固着したインナーリング4をそれぞれ圧接し、外輪ハウジングの外周に外歯を形成する。また、移動体が案内される直線状のレールには、それぞれの外輪ハウジングと対応する位置に、長さの異なるラック7が設けてある。外輪ハウジングの各々がラックと一致する位置では、その外輪ハウジングが回転してアウターリング2とインナーリング4との間の摩擦によって抵抗トルクが生じ、この抵抗トルクは、温度による変動がなく、移動体の位置に応じて段階的に変化する。
【選択図】 図1
図1
図2
図3
図4-1】
図4-2】
図5
図6